憲法審査会 | 平和フォーラム

2025年11月14日

憲法審査会レポートNo.62

自・維、改憲に向けて動き強める

自民党と日本維新の会は13日、「連立合意」に基づいて改憲条文起草協議会を開催しました。まずは両党レベルで緊急事態条項や憲法9条の改憲条文案作成をめざすとともに、衆参憲法審査会への「条文起草委員会」設置提案を行うなどするもようです。

高市首相は4日の衆院本会議の代表質問で、内閣が国会に改憲案を提出することが可能との見解を示すも、12日の参院予算委員会では「高市内閣から提出することは考えていない」と述べています。

なお、13日に行われた衆院憲法審査会幹事懇談会で、20日に審査会を開催することが合意されています。

【マスコミ報道から】

自民と維新、9条改正へ議論開始 連立合意通りの進展見通せず
https://www.47news.jp/13450303.html

衆院憲法審20日に開催へ 与野党で合意 高市政権下で初の実質討議
https://www.sankei.com/article/20251113-H6YPH2AODJO3VLLGRE3LELIVMI/

「内閣も改憲案提出可能」高市首相が断言した政治的な理由とは… 持論が口に出てしまい危うさは加速する
https://www.tokyo-np.co.jp/article/449090

2025年10月24日

憲法審査会レポートNo.61

高市政権成立、改憲発議に意欲示す

10月21日、高市早苗・衆議院議員が首相に就任しました。今回公明党が政権から離脱、そのかわりに日本維新の会から「連立」と称する閣外協力を取り付けましたが、その際交わした「連立政権合意書」には憲法9条改正と緊急事態条項創設に向けた両党による条文起草協議会設置、「国旗損壊罪」や「スパイ防止法」制定などの項目が含まれています。

同日、衆議院憲法審査会が開催され、枝野幸男会長が辞任(予算委員会委員長に就任)、このかん野党筆頭理事を務めてきた武正公一・衆議院議員があらたに会長に就任しました。

高市首相はもとより「憲法改正」「非核三原則見直し」などを主張してきた極右傾向の濃い人物です。今後の改憲をめぐる動向に対しては、強い警戒と注視が必要です。

【マスコミ報道から】

自維 連立政権合意書 要旨=2025年10月24日更新=
https://www.jiji.com/jc/v8?id=20251021jiirenritu
“▽日本維新の会の提言「21世紀の国防構想と憲法改正」を踏まえ、憲法9条改正に関する両党の条文起草協議会を設置する。設置時期は、25年臨時国会中とする。”
“▽緊急事態条項(国会機能維持および緊急政令)について憲法改正を実現すべく、25年臨時国会中に両党の条文起草協議会を設置し、26年度中に条文案の国会提出を目指す。”

2025年10月21日(火)第219回国会(臨時会)
第1回 衆議院憲法審査会

【アーカイブ動画】

https://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=55952

【会議の内容】

https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kenpou.nsf/html/kenpou/219-10-21.htm

2025年06月20日

憲法審査会レポートNo.60

6月18日の参議院憲法審査会は、国民投票法等についての意見交換が行われました。しかし、確認できる限りではいっさいニュース記事の配信がありません。国会会期末が迫り、また同日戦後初の「衆院財務金融委員長解任」があったとは言え、これは驚きです。改憲に向けた「機運」が相当後退していることの表れでしょうか。

19日には衆院憲法審査会幹事懇談会のみ開催されました。

なお、20日は衆参ともに憲法審査会が行われますが、これは閉会にあたっての手続きのためで、それぞれ数分で終了します。

【追記】20日の参議院憲法審査会開催はとりやめになりました。

2025年6月18日(水)第217回国会(常会)
第6回 参議院憲法審査会

【アーカイブ動画】

https://www.webtv.sangiin.go.jp/webtv/detail.php?sid=8629

【主な発言項目】

https://www.kenpoushinsa.sangiin.go.jp/keika/hatsugen_217.html#d6_hatsugen

2025年06月13日

憲法審査会レポート No.59

6月12日、衆院憲法審査会に先立って行われた幹事会に対し、改憲推進5会派が任期延長に関する改憲骨子案を提出しました。ただし、憲法審査会への提出ではないため、骨子案の内容は議事録に残りません。

2025年6月12日(木) 第217回国会(常会)
第9回 衆議院憲法審査会

【アーカイブ動画】

https://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=55864
※「はじめから再生」をクリックしてください

【マスコミ報道から】

自民など5党派が改憲骨子案 議員任期延長で―衆院憲法審
https://www.jiji.com/jc/article?k=2025061200889&g=pol
自民、公明、日本維新の会、国民民主各党と衆院会派「有志の会」は、12日の衆院憲法審査会に先立つ幹事会で、緊急時の国会議員任期延長に関する憲法改正骨子案を提示した。”

災害やテロなどなどの緊急時に国会議員の任期延長、改憲骨子案を初提示…自民など5党派
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250612/k10014833321000.html
“骨子案は、任期延長を認める「選挙困難事態」の認定要件などが柱となっている。自然災害や感染症の 蔓延(まんえん) 、武力攻撃、テロや内乱といった緊急事態で、広い範囲で国政選挙の実施が長期間困難と認められる場合、内閣が選挙困難事態とその期間を認定するとした。”

“選挙困難な緊急時は議員任期を延長” 自民など改憲骨子案
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250612/k10014833321000.html
“…立憲民主党の武正公一氏は「東日本大震災と同じ規模の地震が起きたとしても現行の繰り延べ投票で対応可能であり、『選挙困難事態』の立法事実はない」と述べ、任期延長のための憲法改正には慎重な立場を示しました。”

改憲5党派、議員任期延長の改憲骨子案提示 憲法審では取り上げず
https://digital.asahi.com/articles/AST6D3Q05T6DUTFK009M.html
“審査会長を立憲民主党に握られ、議論の主導権を奪われた対抗姿勢を示す狙いだが、審査会の正式なテーマとして扱うことは見送られた。”
“幹事会は議事録の残らない非公開でおこなわれた。”

5党派が「議員任期延長」の改憲骨子案提示 自民内の「溝」が懸念材料 衆院憲法審幹事会
https://www.sankei.com/article/20250612-OPK6FA7GCZIVHMCZ6T2X7AVTKQ/
“船田氏は記者団に参院自民の意見を骨子案に反映させたことで対立は解消したとの認識を示した。しかし、立民の閣僚経験者は「議論を進めるほど自民内が割れている状況が明らかになる」とほくそ笑む。”

【傍聴者の感想】

今回は各会派の代表から今国会中の審査会の討論について総括を受け、自由討論が行われました。事前の幹事会では自民、維新、公明、国民、有志の会の5会派から改憲案の骨子が提出されたものの、自民党の総務会を経ていないなど自民党内で手続きが採られていないものとのことで、審査会に出席した議員や傍聴には配布はされませんでした。

討論では、あらためて「選挙困難事態」をめぐって意見が交わされました。自由民主党などが改憲の理由として示す「選挙困難事態」に対して、立憲民主党から「立法事実にあたらない」、日本共産党から「議員の任期延長は国民の選挙権の停止につながる」といった反論がありました。

日本維新の会からは「国民主権を具現化し、主権者である国民に判断を仰ぐためにも、国民投票の実施を」、国民民主党からは「憲法審査会の具体的成果を可視化すべき」といった意見が示され、憲法改悪に向けた一歩を踏み出したいという思惑が明白に見て取れました。

物価上昇や「コメ不足」などに象徴される、人々の苦しい生活をどう改善するかはあとまわしです。彼らの政治的思考のあり方は「国家」の下に「国民」をいかに従属させるかであり、有権者である「国民」の日々の生活の向上にはないということが強く感じられました。参院選勝利に向けたとりくみを強めたいと決意しました。

2025年06月06日

憲法審査会レポート No.58

改憲会派、9条と現実の乖離を埋める改憲を主張

6月4日の参議院憲法審査会は、改憲の是非を問う国民投票時の偽情報対策で参考人聴取が行われました。新しいデジタル環境社会の中で、偽誤情報の拡散は大型選挙の結果にも影響を及ぼしています。参考人の意見を踏まえて各会派から質疑が行われ、総合的な対策の必要性が討議されました。

翌5日の衆院憲法審査会では、憲法と現実の乖離をテーマに自由討議が行われました。立憲民主党は、滝川事件と呼ばれる思想弾圧事件を例に挙げながら、大学の自治や学問の自由など人権課題の重要性を訴えたことに対し、改憲推進派は世界の安全保障環境の緊張が高まっているとし、9条と現実の乖離を埋める改憲が主張されるなど、各会派の憲法に対する立場の違いが明らかとなりました。

2025年6月4日(水)第217回国会(常会)
第5回 参議院憲法審査会

【アーカイブ動画】

https://www.webtv.sangiin.go.jp/webtv/detail.php?sid=8593

【マスコミ報道から】

参院憲法審査会 SNSの偽情報対策などで参考人質疑
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250604/k10014825781000.html
“参議院憲法審査会では、憲法改正の国民投票を実施する場合、SNS上の偽情報対策をどのように講じるかなどをめぐり、3人の有識者による参考人質疑が行われ、メディアリテラシーの向上の必要性などが指摘されました。”

偽情報対策、国民投票法改正を 参院憲法審で参考人質疑
https://www.jiji.com/jc/article?k=2025060401073&g=pol
“北九州市立大の山本健人准教授は、公職選挙法にある虚偽事項公表罪の規定が、国民投票法にないことを問題視。「国民投票の論点に関する虚偽事項の公表を規律する条項が必要になる」と訴えた。”

【傍聴者の感想】

今回は、「国民投票において、インターネット上の偽情報等への対策をどうすべきか」について、参考人3名を呼ぶ形での開催でした。

フェイクニュースは出ては消えての「いたちごっこ」で、後を絶ちません。参考人3名とも「難しい問題で…」と、口をそろえて答弁していたのが印象的でした。偽情報を発信する側がもちろん悪いのですが、被害者は速やかに情報を公開することで信頼性を獲得することが当面は必要だと述べていました。

日本は偽情報対策が諸外国に比べ遅いということです。それは参考人が指摘したように、イギリスのブレグジット(EU離脱)に関する国民投票やアメリカ大統領選挙においてネット情報が投票行動に影響を与えた2016年の事例が、2024年の東京都知事選、衆院選、兵庫県知事選に表れていることからもうかがえます。

生かすも殺すも、私たち次第です。AIなど技術が発達しうまく活用すれば生活を豊かにしてくれますが、悪意を持って用いることで社会に混乱をもたらします。ファクトチェック団体の資金不足をはじめとする総合的な対策を施すべきではありますが、「表現の自由」との兼ね合いもある一方で、十分に議論をせず拙速な判断をすることもかえって逆効果だと考えます。

直近では6月22日の東京都議選、7月の参議院選挙において何が起こるか、目が離せません。

【傍聴者の感想】

先の大戦の反省から「二度と戦争はしない」と誓った、日本国憲法が施行されてから78年が経ちました。これまで憲法改正の国民投票は一度も実施されていません。こうした中で憲法改正を国民投票にかけた際に、世論がどう動くのかはまったく読めません。

この日の参院憲法審査会では、憲法改正の是非を問う国民投票に関して、三人の参考人(北九州大学法学部・山本健人准教授、日本ファクトチェックセンター・古田大輔編集長、大阪大学社会技術共創研究センター・工藤郁子特任准教授)から意見を聴取して各会派の委員との質疑が行われました。

デジタル技術やAI機能の進歩といった新しいネット環境を介した情報流通において、私たちはかつてないほどの利便性を手に入れた一方で、偽誤情報による弊害も加速度的に悪化しています。北九州大学の山本教授からは、偽情報等の根絶や影響力の無効化はほぼ不可能としながら、①偽情報等の量・接触機会を減らす、②正確な情報やファクトチェック記事の発信により偽情報等に対抗する言論を増やす、③情報受領者(有権者)のメディア・ICTリテラシーを高める、など3つの基本的な対策の方向性が示されました。

私自身、自分のバイアスと相性が良い情報は、正しい情報と思い込みやすいことを自覚します。日本はネット社会における偽誤情報の対策が遅れていることが指摘されます。こうした対策が不十分なまま、国民投票で世論を二分するような改憲発議に踏み込むことは許されません。

この日の参院憲法審査会は、各会派の問題意識と参考人との質疑が繰り返され、これまでの改憲推進派と慎重派の対決色が薄まりました。国の最高法規である憲法の議論は、こうした落ち着いた環境の中で冷静な議論こそ必要だと感じました。

2025年6月5日(木) 第217回国会(常会)
第8回 衆議院憲法審査会

【アーカイブ動画】

https://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=55847
※「はじめから再生」をクリックしてください

【マスコミ報道から】

衆院憲法審 自民など 憲法に自衛隊の存在明記と主張
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250605/k10014826661000.html
“衆議院憲法審査会では5日、憲法と社会の実態とのかい離をテーマに議論が行われ、自民党などは、憲法に自衛隊の存在を明記すべきだと主張しました。立憲民主党は同性婚を認めない現行法は、憲法違反だとする判決が相次いでいるとして、早期の法整備を求めました。”

自民、自衛隊の憲法明記を主張 立民は性別変更要件の改正要求
https://www.47news.jp/12679786.html
“立民の山花郁夫氏は、性別を変更する際に生殖能力喪失を要件とする性同一性障害特例法の規定を違憲で無効だとした23年の最高裁決定に触れ「1年以上放置するのは極めて異例だ」とした。”

自衛隊明記の改憲主張 自維国、衆院憲法審で
https://www.jiji.com/jc/article?k=2025060500790&g=pol
“自民の船田元氏は、歴代政権が解釈で合憲としてきた自衛隊の存在を「認めない政権が誕生した場合、極めて大きな混乱を避けることはできない」と強調。「改憲で自衛隊の存在を明文で認めるべきだ」と述べた。”

【傍聴者の感想】

今回の衆院憲法審査会は「憲法と現実の乖離」について議論されました。

各議員の発言に対して他の会派から質問が出され、それに対する回答が示されるなど、これまでの言いっ放しの討論とは様相が変わってきました。

日本は先の大戦の反省から不戦を誓ったはずです。戦後80年となる節目の年に日本を再び戦争ができる国として憲法改正をしてはならないのは当然です。

時代に合ったという意味で、憲法について考えることは必要なのかもしれません。しかし、憲法改正を行うのであれば、当然、私たち市民のための改正である必要があります。議員自身が「国民のため」と称して自分たちの考えを一方的に主張して良いとはとても思えません。
国際情勢の緊張の高まりによる9条と現実の乖離を指摘して、現実に合わせた憲法改正は本末転倒にしか思えません。二度と戦争はしないと誓ったはずです。憲法の高い理想に少しでも現実を近づける、そうした外交努力こそ今の日本には必要なのではないでしょうか。私はどうしても今回の憲法審査会を傍聴して、そのように感じてしまいました。

私はまだ数えられるほどしか傍聴をしていませんが、憲法審査会という場は、国の礎となる最高法規である憲法について、私たち市民のための議論をお願いしたいと思います。日本を戦争のない、一人ひとりが平和に豊かに暮らしていくようにするのが政治家の役目だと思います。

【国会議員から】山花郁夫さん(立憲民主党・衆議院議員/憲法審査会幹事)

まず、学問の自由・大学の自治に関する問題です。この問題に関しては、京大事件(滝川事件)が有名です。

1933年、文部大臣が京都大学総長に対し、法学部の滝川幸辰教授をやめさせるように、申し入れをしたことに端を発します。

京都大学法学部教授会は、学問的研究の結果として発表された、刑法学上の所説の一部が政府の方針と一致しないという理由で、教授が退職させられるようでは、「学問の真の発達は阻害せられ、大学はその存在の理由を失うに至」るとして、反対意見を提出しましたし、京大総長もまた、文部大臣の要求には応じませんでした。

そこで、文部大臣は滝川教授を休職にしました。「休職」といっても、当時の休職というのは、事実上の免官です。

この時の文部大臣の行為が合法であったかついては、議論があります。明治憲法には学問の自由の規定がなかったわけですし、休職処分について手続的には瑕疵はなかったのかもしれません。しかし、政治権力によって、大学の教授を、その学問的所説のみの理由に基づいて、事実上免官するという行為は、学問の自由に対する侵害であったというほかありません。

京大事件などの教訓から、学問の自由を十分に保障するためには、大学の人事に関して政府が介入しないことが求められます。

最高裁も、「大学における学問の自由を保障するために、伝統的に大学の自治が認められている。この自治は、とくに大学の教授その他の研究者の人事に関して認められ、大学の学長、教授その他の研究者が大学の自主的判断に基づいて選任される」としています(東大ポポロ事件・最大判昭和38.5.22)。

ところで、菅首相(当時)は2020年秋、日本学術会議が新会員候補として推薦した候補者105人のうち安保関連法に批判的といわれた6人を除外して任命する異例の決定をしました。

この問題について、委員の「任命」は内閣総理大臣が行うのだから、任命をしないことも適法である、という見解に対して、いやいや、任命という用語が用いられているが、これは形式的任命であって、拒否はできないのだ、ということが争われています。法律制定の経緯からいって、後者が正しいと私は思うのですが、この議論は、京大事件における休職処分の適法性の問題に似ていて、そこが本質的な問題ではないように思われます。

大学の自治が保障されるべきなのは、「大学」という組織だからなのではなくて、学問の自由が保障される研究者による組織だからだとすると、学術会議という団体にも、人事権などが、政府によって干渉されないことが憲法23条によって保障されていると考えられます。

ここに、「干渉」とは、自治が認められる趣旨からすると、メンバーの解任という積極的な介入だけでなく、任命拒否も消極的な介入と評価されますから、今回の任命拒否は憲法が学問の自由を保障した趣旨に反するというべきでしょう。

なお、イギリスと異なってドイツ型の大学とは「官立大学」を基本としているため、資金提供者である国、つまり政治から介入を受けやすいことから「学問の自由」を独立した条文として規定していることに鑑みると、政府が財政民主主義や憲法15条の公務員の選定罷免権などを理由に挙げていることは適切でないと考えられます。もし財政民主主義などのほうが優越する価値であるとすると、京大事件や天皇機関説事件も正当化されかねない理屈であることは指摘しなければならないと思います。

次に、性同一性障害者の性別の特例に関する法律3条1項4号が憲法13条に違反するという最高裁大法廷決定が令和5年10月25日に出されましたが、今日現在、いまだ改正がなされていません。

第三者所有物没収事件については違憲判決から半年後に「刑事事件における第三者の所有物の没収手続に関する応急措置法」が制定され、薬事法適正配置規制は違憲判決の後1か月足らずで議員提案で適正配置条項を削除する法律が制定され、森林法分割規定は違憲判決の後1か月程度で森林法186条を削除する改正法を成立させ、平成14年9月11日に出された郵便法違憲判決は同年11月27日に改正法が成立し、在外日本人選挙権制限や国籍法違憲判決の後も半年程度で法改正がなされています。

違憲判決が出されてから1年以上放置されているというのはきわめて異例であり、早急に法改正をすることが必要であると考えます。

また、同性婚を法的に保障しないことが憲法違反であるという高裁判決が続いており、最高裁の判断も時間の問題ではないかと推測されます。同性婚に対する法的整備は喫緊の課題であると考えます。

なお、本日の「憲法と現実の乖離」というテーマで取り上げるべき課題について党内で意見を求めたところ、刑事手続上の人権については憲法に詳細な規定があるにもかかわらず人質司法になっているではないかという問題、憲法25条と生活保護の問題、労働基本権と労働組合の組織率の低下の問題、ひとしく教育を受ける権利と経済格差の問題、唯一の立法機関性と政省令委任の問題や地方自治など、枚挙にいとまがないほどの課題の提起がありました。憲法審査会は、日本国憲法および日本国憲法に密接に関連する基本法制について広範かつ総合的に調査を行うことも重要な権限であります。今後、こうした課題を憲法審査会のテーマとして取り上げていただくことを各会派にお願いして発言とさせていただきます。

(憲法審査会での発言から)

【国会議員から】武正公一さん(立憲民主党・衆議院議員/憲法審査会幹事)

国会は国権の最高機関とされながら、それが現実と乖離している点が憲法第7章財政です。

昨年の補正予算案は1000億円の災害対策費修正、今年度予算は衆議院に回付され高額療養費の修正がされました。それぞれ立憲民主党は予算修正を求めましたが、その修正には政府の対応に時間を要することで、速やかな修正審議ができない事態が起きました。国会の議決がすみやかにおこなえるよう見直しが必要です。

この10年を振り返れば、予備費が過大に計上され、その使途の範囲を広げてきました。憲法83条「国の財政処理の権限は、国会議決に基づく」一方、予備費は事後承認です。憲法87条の「予見しがたい予算の不足に充てる」予備費の目的は、補正予算では軽微な事態や災害などの緊急事態に機動的に対応できないためでしたが。コロナ禍を契機として拡大した予備費を平時の状態に戻す必要があります。

さらに補正予算についても、国際機関への拠出金を当初予算に盛り込まず、補正予算ありきで予算計上され、前年度補正予算と新年度予算をセットで「15か月予算」といわれることは、単年度予算審議の憲法86条に反するものであります。そもそも、憲法には予備費の規定はあっても、補正予算の規定はありません。財政法29条には「経費の不足」「緊要となった経費」との補正予算の規定がありますが、常態化しているのではないでしょうか。

政府は1977年の統一見解において、「項」を新設する修正もありうる旨の立場を明らかにしましたが、「国会の予算修正は、内閣の予算提出権を損なわない範囲で可能」という限界説を維持しています。しかし、予算法律説をとれば、条理上の制約は別として、修正権に制限は存しないことになる。と芦部信義著「憲法」で述べています。

予算修正権に限界はないとすると、国会の予算審議権の充実のため米国議会を見習って国会予算局のような「予算審議に供する組織」を設けることが必要ではないでしょうか。

そして、国会の調査、立法機能の強化が必要であることは、30年ぶりの与党過半数割れに伴い、議員立法数の増加により、衆議院法制局の仕事量が増加しているため衆議院調査局や国会図書館調査及び立法考査局とともに、定員の増員や予算の充実が必要です。

なお、財政規律については、債務比率が250%を超える中、「国会に長期財政予測機関を設けること」も提言されています。こうした機関の創設とともに、憲法における予算、財政についてはより議論を深める必要があると考えます。

(憲法審査会での発言から)

2025年05月30日

憲法審査会レポート No.57

改憲条文案起草委員会設置は見送り

5月29日に開催された衆議院憲法審査会の幹事懇談会で、改憲条文案の起草委員会の今国会での設置を見送ることを確認しました。いっぽう、議員任期延長に関する改憲骨子案を幹事会に提出することは了承されました。

【マスコミ報道から】

起草委設置見送りへ
https://digital.asahi.com/articles/DA3S16224674.html
“衆院憲法審査会は29日の幹事懇談会で、憲法改正の条文案を作る起草委員会について、今国会での設置を見送る方針を確認した。自民党側が設置を求めていたが、立憲民主党などが反対した。”

衆院憲法審、議員任期の延長で改憲骨子提示へ 5党派が幹事会に
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA29BC20Z20C25A5000000/
“…自民党と日本維新の会、国民民主党、公明党、衆院会派「有志の会」の5党派が緊急時の国会議員任期延長に関する憲法改正骨子案を6月12日の幹事会に提出することを了承した。”
“枝野幸男会長(立憲民主党)は…「議事録に残らない幹事会に示すことで折り合った」と記者団に述べた。”

【参考】

【憲法審査会幹事懇談会】国民投票法に関する意見交換。
https://yamahanaikuo.com/2025-05-29/
“…船田幹事からは、5会派でまとめた議員任期延長の骨子案について、審査会で配布の上、議論をしてほしい旨の申し出がありましたが、武正幹事から、ペーパーについて審査会で配布するのではなく、幹事会での配布にとどめるべし、ということで折り合いました。”

2025年05月23日

憲法審査会レポート No.56

【参考】

“護憲”に転じた自民 vs 不満爆発の高市氏 安倍氏なき改憲論争が引き起こした自民の内乱劇
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/88429
“ここまでの審議で分かったのは、自民党の改憲とは「自民党にとって都合の良い改憲は進めるが、都合の悪い改憲には『護憲派』として阻止を目指す」ということだ。緊急事態条項など「権力をほしいままにする」改憲には熱心だが、解散権制限のように「権力行使に制約をかける」改憲には、露骨に拒否反応を示す。”

2025年5月21日(水)第217回国会(常会)
第4回 参議院憲法審査会

【アーカイブ動画】

https://www.webtv.sangiin.go.jp/webtv/detail.php?sid=8542

【マスコミ報道から】

参院憲法審査会 憲法と現実のかい離めぐり各党が議論
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250521/k10014812261000.html
“参議院憲法審査会では憲法と現実のかい離をめぐって議論が行われ、自民党は参議院の「合区」の解消に取り組むべきだと主張しました。また、立憲民主党は選択的夫婦別姓制度を導入する法改正を今の国会で実現させるべきだと訴えました。”

自民、参院の「合区」解消を主張 憲法審、立・公は同性婚実現訴え
https://nordot.app/1297868247770169734
“参院憲法審査会は21日、「憲法と現実の乖離」をテーマに自由討議を実施。自民党は、参院選で隣接県を一つの選挙区にする「合区」解消を主張した。立憲民主党や公明党などは、同性婚を認めない民法などの規定を違憲とした複数の高裁判決を受け、同性婚の実現を訴えた。”

【傍聴者の感想】

今回の自由討議のテーマは、「憲法と現実の乖離」でした。

「憲法では素晴らしい理念を唱えた。しかし、現実は程遠い。だから現実に即した憲法に改正してしまえばいい」という論理は、あたかも理にかなっているようですが改憲派による都合のいい主張です。憲法が権力者の思いのままに蹂躙されることは、あってはならないでしょう。

これだけのコメ価格や物価の高騰にあえいでいる中、生活保護申請件数が増え、若い世代の奨学金返済が困難となり結婚や出産、育児に影響が及ぶことで人々の生存権や幸福が脅かされています。

選択的夫婦別姓や同性婚が遅々として実現せず、個人の尊厳が否定され人格権を侵害しています。集団的自衛権が行使できるよう安保法制を整え、43兆円もの軍事費をつぎ込んで、敵基地攻撃能力を備えるなど言語道断です。

それにもかかわらず「崇高な理想と目的」が達成されていないとするなら、一体誰が「違憲的な」今の現実をつくってしまったのかをしっかりと明らかにし、反省すべきです。

結局のところ、日本国憲法に書かれている理念に立ち返って政策を実行し、それが的確に実現されているかどうかを国全体でチェックする必要があるのではないでしょうか。

「現実を、どのようにして憲法が唱える理念に近づけるか。」この問いに私たちは答えなければなりません。

【国会議員から】福島みずほさん(社会民主党・参議院議員/憲法審査会委員)

国会法第102条の6は、各議院に憲法審査会を設け、日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制について広範かつ総合的に調査することを目的の一つとしています。その意味で、本日、憲法と現実の乖離について議論がされることは憲法審査会の設置目的にまさにかなうものです。

日本国憲法98条は、憲法が最高法規であると規定しています。日本国憲法ができて、例えば民法の親族編、相続編が大改正になりました。戦前、民法は、妻は無能力者であると規定し、妻は婚姻によりて夫の家に入るとしていました。しかし、憲法24条が、家族の中の個人の尊厳と両性の本質的平等を規定し、家制度は廃止になり、また、男女平等になりました。まさに、憲法の威力です。

そして、戦争をしないと決めた憲法9条により、専守防衛、海外に武器を売らない、非核三原則、軍事研究はしないなどの原則が積み上がっていきます。まさに、憲法を生かしていくという人々の動きが法制度や政策をつくってきました。だからこそ、憲法と現実の間に乖離があるときに、現実をどう憲法に近づけていくかが重要であり、憲法を現実の方に引きずり下ろすことは本末転倒の、憲法を理解しないものです。

日本国憲法99条は、「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。」と規定をしています。まさに、憲法を守らなければならないのは権力者です。私たち国会議員も憲法尊重擁護義務を持っています。だからこそ、本当に憲法理念を生かし切れているのかということを常に問う必要があります。憲法改正など、憲法を十分に守ってから言えと言いたいです。

ところで、自民党日本国憲法改正草案は、国民に憲法を尊重する義務を課しています。つまり、憲法とは国民が国家権力を縛るものであるのに対し、自民党日本国憲法改正草案は、180度回転をさせ、国家権力が国民を縛るものにしているのです。これはもう憲法ではありません。

憲法尊重擁護義務を持つ国会議員は、憲法理念を実現するために多大なるエネルギーを注ぐべきであり、憲法理念がまだまだ生かされていない現実の中で、憲法改正を言う資格はありません。

まず、選択的夫婦別姓と同性婚について話します。

NHK日本語読み訴訟判決が述べたように、名前は人格権です。結婚するときにどちらか一方が必ず改姓しなければならないことは、憲法十三条が保障する人格権、個人の尊重と幸福追求権を侵害しています。また、夫又は妻となっているものの、女性が95%氏を変えていることは憲法14条の法の下の平等に反しています。また、一方が必ず結婚改姓を強制されることは憲法24条に反しています。

ところで、5月20日、自民党は公明党に、選択的夫婦別姓について、今国会では困難であり、650以上の法律や2700以上の政省令の見直しが必要であると説明しました。しかし、打越さく良議員の質問主意書の回答では、四つの法律しか改正の必要はありません。間違った認識で違憲状態を放置することは許されません。

同性婚を認めないことは明確な憲法違反であると五つの高等裁判所が断じました。憲法14条、13条、24条に反していることが理由です。好きになった相手によって、そもそも結婚届を一切出せないのですから、その不利益も極めて甚大です。五つの高等裁判所が違憲と言ったにもかかわらず、国会でまだ同性婚が成立していません。

選択的夫婦別姓と同性婚が認められていないことは、まさに憲法と現実の乖離です。憲法に合致するように法律を変えることで、幸せになる人を増やすことができます。実現できていないことは国会の怠慢です。家族が崩壊するなどといって多くの人が幸せになることを妨害することは、憲法理念を理解せず、憲法尊重擁護義務を踏みにじるものです。憲法と現実の乖離を埋める努力をすることこそ、国会議員はやるべきです。

憲法と現実の乖離というのであれば、生存権の規定が国民に保障されていないことは大問題です。生活保護の基準を引き下げたことに対して、いのちのとりで裁判が全国で提訴され、勝訴判決が相次いでいます。まさに生存権の侵害です。訪問介護の報酬を減額したことで、訪問介護事業所が倒産をしていっています。これこそ、介護を受ける権利の侵害であり、生存権の侵害です。高額療養費の自己負担額引上げも生存権の侵害です。

ほとんど全ての憲法学者が集団的自衛権の行使は憲法違反であると言っているにもかかわらず、2014年、安倍政権は集団的自衛権の行使を認める閣議決定をし、2015年、安保関連法、戦争法を強行成立させました。安保関連法、戦争法は憲法違反です。憲法九条を基に戦後積み上げられてきた、海外に武器を売らない、軍事研究をしないということも破壊されていっています。

2022年12月に閣議決定をした安保三文書の具体化が進められています。沖縄、南西諸島における自衛隊配備とミサイル計画、それが九州にも、そして西日本にも、全国にも広がり、全国の軍事要塞化が進められています。戦争のできる国から戦争する国へ、憲法9条破壊が進んでいます。

そして、次々と憲法違反の法律が成立していっています。現在、国会で審議中の学術会議改革法案は、学術会議の破壊法案であり、憲法23条の学問の自由を侵害するものです。小西洋之議員が、菅政権のときに、6人の任命拒否について内閣法制局の文書の黒塗りを開示するよう求める東京地裁の裁判で勝訴しました。この黒塗りが開示されることなく、法案の審議入りはありません。

憲法の規定が守られないことは枚挙にいとまがありません。憲法53条後段は、いずれかの議院の総議員の4分の1以上の要求があれば、内閣は召集の決定をしなければならないとしていますが、内閣が臨時会を召集しなかったことが今まで、2015年、17年、21年など存在しています。まさに憲法を無視し、憲法規範の空洞化を政府自身がつくっているのです。たくさん存在する憲法と現実の乖離を埋めるべく、法律制定、法改正や政策の転換をすることこそ、国会に求められています。

なすべきは、憲法改正でははく、憲法理念の実現です。憲法を踏みにじっている人たちが憲法改正を言うことなど、言語道断、ずうずうしいにも程があると言わざるを得ません。現実を憲法に合わせ、憲法が保障する基本的人権が生かされる平和な社会をつくっていくべきです。憲法審査会にもその役割が期待されています。

(憲法審査会での発言から)

【国会議員から】打越さく良さん(立憲民主党・参議院議員/憲法審査会委員)

憲法と現実が乖離する場合、憲法99条により憲法尊重擁護義務を負う私たち国会議員は、現実を憲法に近づけなければなりません。

昨年の選挙の結果衆議院の憲法審査会では枝野幸男会長の元、ようやく熟議を尽くせる構成になりました。5月1日共同通信社が公表した世論調査では、改憲の必要性については「どちらかといえば」を含めて70%が肯定したものの、「改憲を急ぐ必要はない」が50%です。さらに、改憲の進め方については、「慎重な政党も含めて幅広く合意形成を進めるべきだ」が72%と圧倒的です。改憲に前のめりな姿勢は諌められているのです。

私が本審査会でこれまで述べてきたように、日本国憲法に違反すると主張されながら改正されずに放置されている法律について調査を行うことは本審査会の第一義的な責務です。

先ほどの共同通信社の調査では、選択的夫婦別姓については実に71%が賛成であり、同性婚についても賛成が64%です。憲法の基本的価値、個人の尊重、個人の尊厳、平等に適う法制度について、私たち国会議員は世論がたとえ消極的であっても実現しなくてはいけませんが、今や世論も賛成しているのです。望まれる諸制度の実現を先送りし、憲法尊重擁護義務違反を続けるべきではありません。

憲法は、不平等、差別、理不尽に甘んじず、立ち上がるときの手がかりになります。私は第一次訴訟弁護団事務局長としてまさに憲法を手がかりに多くの女性たちと連帯して選択的夫婦別姓を認めない現行法は憲法に違反すると戦いました。今や芦部信喜先生の「憲法 第八版」において、夫婦同氏強制を憲法違反だとする学説が多数であるとされています。今会期中でぜひ実現すべきだと多くの声が上がっています。また同性婚訴訟では、5つの高裁全てで違憲判断がなされました。

選択的夫婦別姓や同性婚を認めれば、社会の幸せは確実に増えます。多様な幸せを認めなかった家制度がとうに廃止され、家族法は個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して制定されなければならないことになっているのです。選択的夫婦別姓と同性婚に反対する国会議員は、そのことを頑なに認めないもので、憲法尊重擁護義務に背を向けていると言わざるを得ません。

本委員会の使命は、こうした憲法に沿わないとされている法律について、立法府として熟議を行うことにあります。

(憲法審査会での発言から)

2025年5月22日(木) 第217回国会(常会)
第7回 衆議院憲法審査会

【アーカイブ動画】

https://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=55809
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【マスコミ報道から】

衆院憲法審 SNS偽情報が国民投票に与える影響めぐり参考人質疑
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250522/k10014813391000.html
“衆議院憲法審査会では、SNS上の偽情報の拡散が憲法改正の国民投票に与える影響などをめぐり、有識者への参考人質疑が行われ、投票期間中などは、SNS事業者への規制を設ける必要性や、情報のファクトチェックを行う重要性などが指摘されました。”

ネットの偽・誤情報対策「民間の重層的ファクトチェック重要」…衆院憲法審査会が参考人質疑
https://www.yomiuri.co.jp/politics/20250522-OYT1T50222/
“衆院憲法審査会は22日、インターネット上の偽・誤情報対策をテーマに参考人質疑を行った。民間団体やマスメディアによる重層的なファクトチェック(情報の真偽検証)の実施や、選挙中はプラットフォーム事業者に一定の対策を取るよう求めるなどの対応策が上がった。”

広報協議会、偽情報対応に慎重 衆院憲法審で参考人
https://www.jiji.com/jc/article?k=2025052201003&g=pol
“平和博桜美林大教授は「公的機関がファクトチェックを掲げることは表現の自由を侵害するリスクがある」と指摘。「ファクトチェック団体は、国家からの統制を受けない独立性が基本となる」と述べた。”
“鳥海不二夫東大院教授は「広報協議会が信頼を得ることが非常に重要だ」と語った。”

【傍聴者の感想】

今回の衆議院憲法審査会は、はじめに枝野審査会会長が「国民投票広報協議会」にかかわることについて、先日、17日の幹事懇談会の後に行われた意見交換会で議論した内容を説明しました。

その後、参考人の鳥海不二夫さん(東京大学教授)からは「デジタル情報空間における偽誤情報の拡散とその訂正」について、平和博さん(桜美林大学教授)からは「国民投票におけるフェイクニュースおよびファクトチェックについて」の説明を受け、各委員が質問するというところで審査会は終了しました。

主要な論点となったSNSなどでのフェイクニュースとその影響については、参考人の方からの説明はわかりやすく、あらためてSNSのもつ危険性を認識しましたが、それ(フェイクの拡散)を防ぐ手立てとしての対策が、残念ながら理念的にとどまっているなと感じました。

改正ありきの議論ではなく、個別のテーマで参考人の説明を受けたり、それぞれ議論することで、この現状で改正が必要か? という感じになればいいのですが。

2025年05月09日

憲法審査会レポート No.54

2025年5月7日(水)第217回国会(常会)
第3回 参議院憲法審査会

【アーカイブ動画】

https://www.webtv.sangiin.go.jp/webtv/detail.php?sid=8493

【マスコミ報道から】

「災害下の選挙」に備えを 参院憲法審で参考人質疑
https://www.jiji.com/jc/article?k=2025050701080&g=pol
“参院憲法審査会は7日、災害時の選挙制度をテーマに参考人質疑を行った。大規模災害後に被災自治体が選挙を実施するに当たり、十分な支援態勢と選挙実務に詳しい人材育成が必要との見解が示された。”

参院自民、投票繰り延べ評価 災害時対応、衆院と違い 憲法審
https://digital.asahi.com/articles/DA3S16209293.html
“参院憲法審査会は7日、大規模災害などで選挙の実施が困難になった際の対応について、参考人との質疑をした。自民党からは投票の繰り延べに理解を示す声が上がり、憲法改正が必要だと主張する衆院側との違いが浮き彫りになった。”

大規模震災時「投票延期で対応」 有識者説明、参院憲法審
https://nordot.app/1292787638534160635
“有識者は、2011年の東日本大震災の際には天災などが起きた場合に投票日を繰り延べできる公選法の規定に基づき、投票時期が延期されたと述べた。出席議員からは憲法改正による議員任期の延長が不可欠との意見が出た一方、自民党の佐藤正久氏は「繰り延べ投票制度の議論を深めていくことが適当だ」と語った。”

【傍聴者の感想】

今回のテーマは「災害時等の選挙制度について」ということで、3人の参考人から話を聞き、質疑応答を繰り返す形で行われました。「緊急事態条項」によって選挙実施が不可能になることを想定すると、議員任期の延長が必要になるので、「憲法改正」をしなくてはならない、と考えている政党・党派の中で、特に日本維新の会については、同じ説明を聞いてもあれだけ理解に違いが出るのかと感じざるを得ませんでした。

総務省をはじめとした3人の参考人は、現行制度の中で阪神淡路大震災、東日本大震災や熊本地震、能登半島地震などを経験し、積み重ねられてきたノウハウを国として必要なマニュアル化をすすめ、地域実態によってそれをベースに緊急事態でも選挙が実施することができるよう準備を進める重要性について、繰り返し述べていました。

自民党の佐藤議員も「公職選挙法57条による繰延投票」は柔軟な対応ができる制度だと述べ、あらかじめ想定できる災害等については、起こった時の対応を「事前に決めておく」重要性について話しました。実際に東日本大震災の時の陸前高田市に選挙支援に入った参考人からは、「あくまでも主体はその地域であること・選挙支援ができる人材を日常的に育てていくことが重要」と述べていました。

共産党・山添議員とれいわ・山本議員は、地方自治体の職員が減っている現在、いざという災害が起こった時の人が足りない状況について、根本的な人員不足の問題こそ議論すべきではないかとも述べました。

能登半島地震から1年以上が経過しましたが、地元自治体職員の中では、一日も休んでいないと話す方もいらっしゃるそうです。選挙管理委員会の運営を担う地方自治体の職員は、一度災害が発生すれば、自身が被災者になることもありながら、人命救助や生活確保に奔走する実態が明らかになっています。

その結果、オーバーワークを引き起こす事例は災害が起こるたびに繰り返し報告されている事実であり、「緊急事態」を想定するのであれば、構造的な人員不足を回避するための地方自治体行政のありかたこそ、国会の場で議論されるべきです。地域を支える国の制度をいかに構築するか、そのことをまず考えなくてはなりません。

立憲の小西議員は現行制度(公選法)では「繰延投票」しか制度がないことを確認したうえで、大規模災害等が起こった時の法整備を先に検討することについて述べられました。

沖縄の風・高良議員は「選挙権は基本的人権の問題」という観点を持って考えていくことの重要性について話されました。

参考人が最後まで繰り返し述べていたのは、「いざというときに対応できる人材育成の重要性」です。参考人から述べられた経験に基づく話に対して、「改憲ありき」になっている政党・党派の議員からは、「長期的で広範な」緊急事態が生じることを想定すると、「憲法改正」によって議員任期を延長するしかないと結論付けられます。すでにこれまで経験した大災害や感染症対策から何を学び、何を想定するのかという議論が著しく欠如しています。いわば考えることを放棄し、結論ありきの政治を進めようとする議員のみなさんの実態を知ることができた2時間でした。

私は今の自分の生活や、未来に大きく影響がおよぶ大切な政治を、せめて自身で考え行動し、自身の言葉で語ることができる議員に任せたいと心から感じました。

2025年5月8日(木) 第217回国会(常会)
第6回 衆議院憲法審査会

【アーカイブ動画】

https://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=55758
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【マスコミ報道から】

衆院憲法審 解散権制限めぐり 立民 “法律で” 自民“慎重に”
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250508/k10014799901000.html
“衆議院の憲法審査会が開かれ、解散権の制限をめぐり、立憲民主党が、法律で恣意的な解散を抑制すべきだと主張したのに対し、自民党は、政治判断の機会をあらかじめ法律で縛ることは慎重であるべきだという考えを示しました。”

衆院解散の制限、自民は慎重 立民「法的対応を」―憲法審
https://www.jiji.com/jc/article?k=2025050800889&g=pol
“衆院憲法審査会は8日、衆院解散権の制限について討議した。自民党は、民意を反映する政治的機会を奪いかねないとして制限に慎重な考えを示した。立憲民主党は「党利党略による解散」を抑制するための法的対応を訴えた。”

薄まる「対立色」…改憲を話し合う衆院憲法審査会に起きた「変化」 積極的な政党でも「意見」バラバラ
https://www.tokyo-np.co.jp/article/403567
“…立憲民主党の谷田川元氏が、解散日と理由を衆院に事前に通知するよう内閣に義務付ける法案を準備していると明らかにした。これに対し、自民の山下貴司氏は「解散によって国民の意思を問うことは国民主権の趣旨に沿う」として制約を設けることに反対した。”

衆院憲法審、7条解散でも隔たり 「緊急時の国会機能維持」議論一巡も合意見通せず
https://www.sankei.com/article/20250508-KWE6MG56WVNNPEAWV4FZBYGRMY/
“衆院憲法審の与党筆頭幹事、船田元氏(自民)は終了後、議員任期延長に関して記者団に「何とか議論の俎上に載せたい」と述べた。近く改憲条文案の起草委員会の設置を提案する考えも示したが、少数与党下で立民の影響が強まった衆院憲法審で実現するかは見通せない。”

【傍聴者の感想】

きょうの議題は衆議院の解散権の限界と制限でした。憲法7条では内閣の助言と承認にもとづく「天皇の国事行為」の一つとして解散が規定されており、さらに憲法69条では内閣不信任案が可決された場合に、10日以内に内閣総辞職か衆議院の解散をしなければならないとされています。

衆議院法制局の説明によれば、解散は国民から選挙された議員から任期満了前に他の国家機関が一方的に身分を失わせるという「非民主的」な側面がある一方、①議会と内閣という国家機関間の紛争解決、②新たな争点に対する国民の判断を聴取する国民投票の代用、③議会における多数派の形成や与党内部の造反の抑制を通じた内閣の安定化という「民主的」な機能も持つとされています。

議論は各会派の代表者からの発言ののち、自由討議へと移りました。自民党の議員は内閣の解散権の制限には慎重な立場から発言していました。「解散権は選挙という国民の権利を保障するものであり、民意を的確に議会にさせることができる」という見解を根拠に、「個人的な見解」という留保をつけつつ「解散権の行使にふさわしいかは内閣の判断による」「解散権の行使が内閣の都合によって行われたかどうかは国民が選挙を通じて判断する」との言い分でした。

これに対し、立憲民主党など野党の議員からは解散権が自民党の都合により恣意的に濫用されてきた経過について指摘がありました。日本国憲法の施行後に行われた26回の解散のうち、69条によるものは4回で、残り22回は7条だけにもとづいて行われたものです。7条にもとづいて与党が党利党略で衆院の解散を繰り返している状況は明らかです。これに関して、野党議員からは、与党議員が「解散権は総理の専権事項」といった憲法の条文にない認識をたびたび示していることに厳しい批判が寄せられていました。

自民党の議員が解散権の制限に慎重な意見を述べるのは、これまでの自民党が解散権を党利党略に利用してきた事実を反映しています。これからも「伝家の宝刀」をいつでも抜けるようにしておきたい、という彼らの願望も示しています。しかし、昨年の総選挙を振り返ると、与党の党利党略による解散・総選挙が有権者に与えている不信がますます大きくなっているのも事実です。解散権を通じて民意を騙る自民党が、解散・総選挙で問われた民意によって淘汰されるのは痛快な皮肉です。この夏の都議選、参院選でも自公をさらに少数に追い込むたたかいが必要です。

【国会議員から】谷田川元さん(立憲民主党・衆議院議員/憲法審査会委員)

緊急事態であっても国会の機能を維持するため、議員の任期延長が必要だとの意見が多く出されていますが、国会機能の維持がそれ程重要ならば、それを不全にする、時の内閣による衆議院解散の問題を優先して議論すべきではないでしょうか。

2014年、2017年の安倍総理による解散は、どう見ても今やれば勝てるとの判断の下、解散が強行されたと断じざるを得ません。また、2021年10月の岸田総理による解散、さらに昨年10月の石破総理による解散は自民党総裁選が終わった直後で、ご祝儀相場のうちに少しでも早い方が有利との判断でなされました。

しかし、昨年は与党の思惑通りにはなりませんでした。憲法審査会の委員でもあった石破総理は、憲法7条による恣意的解散を度々批判していました。さらに解散前に予算委員会を開いて、国民に判断材料を与えるべきと言っていたのが、党首討論でお茶を濁す始末。そういった石破総理の言行不一致に国民がお灸をすえたと言えます。

さて、これまで日本国憲法下27回の衆院選挙が実施されましたが、任期満了選挙は1976年の三木内閣の時だけです。

すべてが任期満了で実施されたとすると19回で済みます。そうすると一度も解散がなければ8回分の経費が節約できたことになり、1回の衆院選の費用は約600億円ですので、4800億円の税金が使われずに済んだことになります。果たしてこれだけの大金を使うだけの大義があったのか?時の政権が権力を維持するために、国民の血税が使われたのが大半ではないでしょうか。

さて、2024年の世界の政府純債務残高対GDP比を見てみると、日本は236.66%で、1位のスーダンに次いでワースト2位です。どうしてこれ程の借金大国になってしまったのか? 私は日本において頻繁に国政選挙が行われていることが大きな要因だと考えます。本来、総選挙で勝利した政党は次の選挙までの4年間で公約に基づく政策を実現していくべきですが、現実には2~3年で解散総選挙。加えて参院選挙まで、政権選択の意味合いを帯びると常に選挙対策優先になり、国民に負担を求める政策は後回しになりがちです。財政再建、少子化対策など長期的に取組むべき政策が実現できない状態にあると思います。

さて、与党の幹部や閣僚が「解散は総理の専権事項」という発言を度々します。私はそれに違和感を覚えます。憲法や法律にそのような表現は一切ありません。専権とうい字を広辞苑で引いてみると「権力をほしいままにすること、思うままに権力ふるうこと」とあります。すなわち専権事項というのは、口出し無用という意味です。

5年前の委員会質疑で、私が当時の高市総務大臣に解散について質問したところ、「正当な理由のない恣意的な解散は望ましくなく、時の内閣がしっかりと政治的な責任を持った上で解散を行なう」と述べられて「総理の専権事項」という表現は一切お使いにならなかった。これは立派な見識だと思います。

そこで自民党と公明党にお伺いします。衆院解散をテーマとして今日こうやって憲法審査会で議論しているのですが「解散は総理の専権事項」という表現を使うべきでないと思いますが如何でしょうか?

お配りした資料を見て下さい。保利茂元衆議院議長や水田三喜男元自民党政調会長が恣意的な解散を批判しています。アンダーラインの部分を一部だけ読み上げます。

・現行憲法下で内閣が勝手に助言と承認をすることによって“七条解散”を行うことには問題がある。それは憲法の精神を歪曲するものだからである。
・“七条解散”は憲法上容認されるべきであるが、ただその発動は内閣の恣意によるものではなく、あくまで国会が混乱し、国政に重大な支障を与えるような場合に、立法府と行政府の関係を正常化するためのものでなければならない。
・特別の理由もないのに、行政府が一方的に解散しようということであれば、それは憲法上の権利の濫用ということになる。衆議院を解散するに当たっては、三権分立、議院内閣制のもとにおいてそうせざるを得ないような十分客観的な理由が必要なはずである。
・国会議員の任期が保障されない限り、議員は常に選挙運動に追われて落ちつかず、国会の公正な審議と採決が常に選挙用のゼスチュアによって妨げられる実情も、決してゆえなしとは思われないのであります。

自民党と公明党にそれぞれこのお二人の考えをどう受け止めるか? 見解を伺います。

私ども立憲民主党は、恣意的解散を抑制するための法案を準備しています。衆院解散決定の手続き等を定めたもので、内閣は衆院解散を決定しようとするときは当該解散の予定日及び理由を10日前までに衆議院に通告し、あわせて議院運営委員会における質疑を義務付けます。これにより、衆院の解散理由が妥当なのか? 総選挙の争点が何なのか? 国民に判断材料を提供することになります。

また、過去2回の衆院選では、解散から選挙期日までが極めて短く、地方選管の準備が整わず、問題が生じました。そこで、あらかじめ中央選管が全都道府県選管の意見を聴取し、それに基づいた中央選管の意見の聴取後に内閣が選挙日程を決めることを義務付ける内容です。この法案をしかるべきタイミングで提出することを考えていますが、是非他の会派の皆さんと共同で提出したいと思いますので、ご検討の程宜しくお願い申し上げます。

(憲法審査会での発言から)

2025年04月25日

憲法審査会レポート No.53

2025年4月24日(木) 第217回国会(常会)
第5回 衆議院憲法審査会

【アーカイブ動画】

https://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=55744
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【マスコミ報道から】

野党、臨時国会「20日以内」に 衆院憲法審、召集期限を議論
https://www.jiji.com/jc/article?k=2025042400953&g=pol
“衆院憲法審査会は24日、臨時国会の召集期限について議論した。立憲民主党など野党は召集要求があった場合、政府は「20日以内」に応じるとの期限を設けるよう求めた。自民、公明両党からは期限の設定に慎重な意見が出た。”

衆議院憲法審査会 臨時国会の召集期限で議論
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250424/k10014788341000.html
24日の衆議院憲法審査会で、立憲民主党の松尾明弘氏は、2017年の安倍政権当時、野党が臨時国会の召集を要求したものの、召集されたのが98日後だったケースなどを挙げ「明白な憲法違反であり、議会制民主主義に対する重大な問題だ」と指摘しました。”

臨時国会の召集「20日以内」の明記、与党は慎重姿勢 衆院憲法審
https://digital.asahi.com/articles/AST4S2VP7T4SUTFK00TM.html
“同条は少数派の国会議員の意見を国会に反映させることを目的としている。しかし、これに基づいて野党が召集を要求しても、2017年の安倍晋三内閣は約3カ月放置し、ようやく臨時国会を開いてもすぐに衆院を解散して実質的な審議をしなかった。”
“安倍内閣のケースでは野党議員が違憲訴訟を起こした。最高裁は憲法判断をせずに訴えを退けたが、内閣が召集の「義務」を負うと判決文に記した。”

憲法改正の「誘い水」になるのか 立民重視の「臨時国会召集期限」を議論 衆院憲法審
https://www.sankei.com/article/20250424-GVFAH53XPFLCPBZQQZR3XBJUDM/
“改憲勢力の一部には、野党第一党の要求に応えれば、憲法改正で協力を得られるのではないかという希望的観測がある。しかし、党内や支持層に護憲派を抱える立民の壁は依然として高く、「誘い水」になるのかは見通せない。”

【傍聴者の感想】

衆議院憲法審査会の傍聴は昨年以来で、ひさしぶりです。まず一見して、委員の構成も、そして雰囲気もだいぶん変わったように感じました。

今回の自由討議のテーマは臨時国会の召集期限でした。

最初に衆議院法制局から憲法53条後段「いづれかの議院の総議員の四分の一以上の要求があれば、内閣は、その召集を決定しなければならない。」についての制定経緯や実例、学説・判例、各会派の主張についての説明があり、これが結構わかりやすい整理でした。

とくに違憲性が問われる例である2017年に行われた召集要求(を92日放置した挙句、開いた臨時国会を冒頭解散!)について、法制局長が「いわゆるモリカケ問題…」と説明していたのが印象的でした。

その後、各会派からそれぞれ発言していったのですが、改憲会派も(維新を除いて)これまでのような改憲一辺倒といった気色は薄れていました。

それもそのはず、上記の例も含め臨時国会召集要求を何度も踏みにじってきたのは当の自民党(や公明党)であり、そのくせ自民党が(野党時代の)2012年に作成した「憲法改正草案」には「20日以内の召集」を盛り込んでいたという矛盾をさらけ出してきたわけで、本件はどうにもやりにくいのでしょう。

自民党の上川陽子幹事は2018年に決定した「改憲4項目」が優先的テーマであって、「憲法改正草案」はもはや過去のものであるかのような口ぶりでした。

また、公明党の浜地雅一委員は憲法53条についての党としての統一見解はなく、今回の議論をフィードバックしたいと発言していました。

召集期限の問題を解消する方法が明文化の憲法改正なのか、あるいは国会法改正なのかが争点です。実際、2022年には立憲・維新・共産・有志・れ新による国会法の改正案(審議未了で廃案)が提出されており、そのいっぽう維新・国民・有志が2023年に改憲条文案として発表しています。

しかし、野党多数の現状にあって、国会法改正による問題解消がもっとも手っ取り早く実効的であり、このことから目を背けて改憲を叫び続ける一部会派にはあきれるほかありません。

きょうの発言のなかでは、立憲民主党の松尾明弘委員の、召集要求を無視するような憲法違反をふたたび起こさせないように、これまでの事例をしっかり調査することが憲法審査会の責務であるという主張が、いちばん腑に落ちました。

【国会議員から】松尾明弘さん(立憲民主党・衆議院議員/憲法審査会委員)

本日テーマとなっております憲法53条後段は、臨時会の召集要求に対して内閣はその召集を決定しなければならないと定めており、これが法的義務であることは、学説上も争いはありません。さらに、2023年の最高裁判決においても、憲法53条後段が国会と内閣との間における権限の分配という観点からの規定であり、召集決定は法的義務であると判断されています。

しかし、実際には、憲法53条後段に基づく議員の4分の1以上による臨時会の召集要求があったにもかかわらず、不当に臨時会の召集が遅らせられる事例が多発しています。

具体的な例としては、2017年6月、森友、加計学園問題の真相解明のため、野党議員が憲法53条後段に基づいて臨時会の召集を求めました。それにもかかわらず、召集されたのは98日後で、その日に衆議院が解散され、参議院も同時に閉会することになりました。この召集は、実質的には憲法53条前段に基づく臨時会で、憲法53条後段に基づく臨時会の召集要求に対する拒否と言え、明白な憲法違反です。

このほかにも、2020年、21年、22年の3回にわたって、4分の1超の国会議員が臨時会の召集要求を行ったにもかかわらず、内閣が臨時会を召集したのは、それぞれ、47日後、80日後、46日後という長期間後であって、不当に召集を遅滞する憲法違反が繰り返されています。

憲法53条には召集期限は具体的に書かれていません。しかし、これは内閣に広範な裁量を認める趣旨ではありません。このことは、権力分立と人権保障の原理に立つ立憲主義の考え方からしても明らかです。

召集期限については、社会通念上合理的な期間とする見解や、召集手続のために必要な期間、すなわち国会開会の手続及び準備のために客観的に必要と見られる相当な期間内で、できるだけ早い期間とする、そういった見解が学説上有力であり、その期間を超えて内閣の裁量はないものと解されます。この見解は、三権分立の下、内閣と国会が牽制し合うことによって濫用を防ぎ、国民の権利を守るという憲法の理念にも合致するものです。

しばしば与党が述べる、召集の必要性は感じないという発言は、53条後段の要請を全く理解していないものです。53条後段は、内閣よりも議員の意思と判断を重視するものだからです。臨時会の権能は、内閣が提出する案件の審議に限られるものではなく、議員提出法案や質疑も可能ですから、内閣がそこに案件を提出する準備ができたかどうか、その他政治的な理由で召集の必要性や時期を決定することは許されません。

現在、憲法53条後段の召集義務に違反した場合であっても、政治的責任が追及され得るのみです。しかし、自民党によるこれまでの憲法違反に対して、原因の究明及び政治的責任の追及は不十分であったと言わざるを得ません。

憲法審査会の役割には、国会法102条の6において、憲法及びこれに密接に関係する基本法制の調査が職務に含まれていると明記されていることからも明らかなとおり、憲法改正をすべきかどうかを論じるだけではなくて、憲法違反問題を含む日本国憲法の施行、遵守の状況に関する調査を行うことも含まれています。よって、過去の不当な召集遅滞について、当時の内閣が召集をしなかった原因を究明し政治的責任を追及することは、当憲法審査会の責務であると考えています。

憲法審査会においては、過去の憲法違反に対する政治的責任の追及自体をまずは行うべきであって、それが済んだ後に、憲法53条後段を無視する内閣の不当な態度を正し、同様の憲法違反が繰り返されないために、召集期限を法定すべきかどうかを議論すべきと考えます。
この議論には、合理的期間を一定に法定することができるのかという点、そして、法定するとすれば何日程度とすべきなのかという二つの論点があります。

検討に当たり注目すべきは、2023年の最高裁判決における宇賀裁判官の反対意見です。ここでは、20日あれば十分と述べられています。これは憲法54条や地方自治法など他の法制度とも整合する数字です。

また、20日の理由として、2012年の自民党憲法改正草案が、憲法53条について、20日以内に臨時会を召集しなければならないとしていることも挙げられています。
なお、立憲民主党も、2022年に、他会派と併せて、国会法において召集期限を20日と明記する法案を提出しており、この意見とも符合するものです。

2017年を始め繰り返し生じている臨時会召集の大幅な遅れは、憲法53条の趣旨に明らかに反するものであり、立憲主義や議会制民主主義に対する重大な問題です。こうした経緯を踏まえれば、やはり何らかの立法的な手当ての必要性は否定できません。その具体的な方法については、国会法改正その他様々な選択肢があり得ると考えています。

いずれにせよ、先ほど申し上げたとおり、まずは、合理的期間とは何か、その基準を明確にするためにも、過去の憲法違反事例について、憲法審査会における徹底した原因究明と政治的責任の追及が必要です。それらを踏まえた上で、結論ありきではない建設的な議論が行われるべきことを申し述べ、私からの意見陳述といたします。

(憲法審査会での発言から)

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