宇宙 | 平和フォーラム

2020年10月31日

自衛隊が宇宙作戦隊を新設:各国に広がる宇宙戦争への備え

森山拓也

宇宙作戦隊の新設で米軍との協力強化

2020年5月18日、自衛隊に宇宙を担当する「宇宙作戦隊」が新設された。宇宙作戦隊は防衛大臣の直轄部隊として編制され、航空自衛隊の府中基地(東京都)に置かれた。現在の隊員は約20人で、本格的な運用が開始される2023年までに100人規模に増員される。

宇宙作戦隊が担う任務の中心は、日本の人工衛星を守るための「宇宙状況監視」(SSA:Space Situational Awareness)と呼ばれる活動である。宇宙状況監視とは、衝突によって人工衛星に被害を与えるスペース・デブリや不審な人工衛星の動き、電子機器に影響を及ぼす恐れのある太陽活動、地球に飛来する隕石などの脅威を監視する活動である。宇宙作戦隊は今後、高精度な宇宙監視レーダーを2023年までに山口県に新設し、本格的な宇宙状況監視を開始する予定だ。

宇宙作戦隊の新設は、日米の軍事的協力を拡大する動きの中に位置づけられる。宇宙状況監視の分野で、日本は以前から米国との協力を進めてきた。米軍と宇宙航空研究開発機構(JAXA)との間では、デブリなど宇宙空間を漂う物体の軌道に関する情報共有が行われてきた。宇宙作戦隊のレーダーが運用を開始する2023年以降は、JAXAのレーダー情報も宇宙作戦隊に集約し、防衛省が主体となって米軍との情報共有を強化する。さらに、2023年に打ち上げ予定の日本版GPS(全地球測位システム)と呼ばれる準天頂衛星「みちびき」にはスペース・デブリを監視する米軍のセンサーが搭載される予定だ。日米の宇宙監視における協力は、より軍事的側面を強めることになる。

宇宙作戦隊は将来的に、米国主導の宇宙システムを活用したミサイル防衛への協力も視野に入れている。宇宙作戦隊は2026年までに光学望遠鏡を搭載する人工衛星の打ち上げも計画しており、より繊細な画像で地上を監視し、敵国によるミサイル発射の兆候を探る役割が期待されている。その導入費33億円は2020年度予算に初計上された。さらに、米軍が英国、豪州、カナダなどと宇宙状況監視情報を共有する拠点である連合宇宙運用センター(米カリフォルニア州)へ自衛官を派遣することも検討している。

6月30日、日本政府は5年ぶりとなる宇宙基本計画の改定を閣議決定した。基本計画では日本の宇宙政策の目標として、多発する災害や地球規模課題の解決への貢献、科学探査による世界的な成果の達成、経済成長とイノベーションの実現と並び、宇宙での安全保障の確保が掲げられ、国内宇宙産業の規模を現在の約1.2兆円から2030年代早期に倍増させると明記された。また、米国と連携して多数の小型衛星を打ち上げ、ミサイルの探知や追尾に役立てる検討や、熱を探知する赤外線センサーの研究などに取り組むとしている。

近年、中国やロシアは音速の5倍以上の速度で飛行する極超音速兵器の開発を進めており、米国は警戒を強めている。極超音速兵器は従来のミサイル防衛システムでは探知や迎撃が難しいと指摘されており、米国は小型衛星を多数配備することで探知能力を強化しようとしている。米国のシステムと連携した小型衛星を多数配備する日本の計画は、米国の構想に組み込まれたものと見ることができる。

米国宇宙軍の創設と高まる宇宙インフラの軍事的重要性

米国では2019年12月20日、トランプ米大統領が2020年度の国防予算を定めた国防権限法に署名し、陸軍、海軍、空軍、海兵隊、沿岸警備隊に続く6つ目の軍の部門として、宇宙軍(Space Force)が創設された[1]。米国で新たな軍の部門が設置されるのは1947年の空軍以来、72年ぶりとなる。

現在、米国には陸軍、海軍、空軍、海兵隊、沿岸警備隊の5つの「軍サービス」が存在する。陸、海、空軍は、それぞれ国防総省内の陸軍省、海軍省、空軍省が管轄するが、海兵隊は海軍省に属し、沿岸警備隊は国防総省の外にある国土安全保障省に属している。新たに創設された宇宙軍は、海兵隊が海軍省に属すのと同様に、空軍省の内部に設置される。

宇宙軍の創設に先立ち、米国は2019年8月、宇宙空間での軍事活動を統括する統合戦闘軍として、「宇宙統合戦闘軍」(Space Command)を正式に発足させている[2]。統合戦闘軍とは、米軍戦闘組織の最も大きい単位で、太平洋軍(Pacific Command)などの地域担当軍と、特殊作戦軍(Special Operations Command)や戦略軍(Strategic Command)といった機能別軍がある。宇宙統合戦闘軍は新たな機能別軍として、11番目の統合戦闘軍に加えられた。

新たに創設された宇宙軍には、これまで空軍で宇宙関連の任務についていた部隊から、およそ1万6000人の人員が割り当てられる。また、一部の空軍基地が宇宙軍基地に改名される。トランプ政権は宇宙軍の創設により、宇宙空間を新たな「戦闘領域」として活動強化を図っている。

米国が宇宙軍の設立に動いた背景には、現代の戦争において人工衛星などの宇宙インフラの重要性が増していることと、中露などが米国の宇宙利用を妨害する能力を高めていることへの警戒感がある。

衛星を使った偵察や通信といった宇宙の軍事利用は冷戦期から行われてきた。しかし現在、軍の活動にとって衛星などの宇宙インフラの重要性は格段に増し、それなしには任務遂行が困難なほどになっている。性能をさらに向上させた偵察や通信に加え、GPS衛星による巡航ミサイルの誘導、通信衛星を介したドローンの操縦、敵ミサイルの発射探知や迎撃ミサイルの誘導などは、宇宙インフラなくしては成り立たない。宇宙インフラへの依存が強まるほど、それが攻撃されれば大きな弱点ともなる。

米軍はこれまで、宇宙インフラの脆弱性を残したまま、宇宙インフラへの依存を強めてきた。米軍が軍事活動において宇宙を初めて本格的に活用したとされる1991年の湾岸戦争では、60機以上の衛星が偵察、通信、測位、ミサイル警戒、気象予測などで作戦を支援した[3]。それ以降に米軍が戦った相手はユーゴスラビア、タリバン、アルカイダ、イラクなどであり、米軍の宇宙インフラへの攻撃力をほとんど持たないアクターであった。そのため米軍は宇宙空間を利用して地上での戦闘をいかに効果的に支援するかに力を注ぎ、宇宙インフラの防衛には十分な関心が向けられてこなかった。

こうした米軍の弱点に目を付けた中国やロシアは、衛星攻撃兵器(ASAT)やサイバー攻撃能力を開発して、米軍の宇宙利用を妨害する能力を向上させているとされる。ASATには衛星を物理的に破壊する地上からのミサイルのほか、センサーや通信のジャミング(電波妨害)、他の衛星をアームで捕獲したりレーザーで攻撃したりする「キラー衛星」などがあり、様々な方法で敵の衛星の機能を妨害することを目的として研究・開発が行われている。中国は2007年に地上からのミサイルで衛星を破壊する実験に成功したほか、2015年にサイバー空間や衛星防衛を担う戦略支援部隊を人民解放軍に新設しており、ロシアも2015年に空軍を再編して航空宇宙軍を創設した。中露は米国のGPSに頼らない独自の衛星測位システムも実用化している。米国防総省は2018年8月に議会へ提出した報告書の中で、ロシアと中国が米軍の有効性を減じるための手段として様々なASATの開発を追求しており、その他の潜在的敵国も米軍の宇宙インフラに対するジャミング、ダズリング(目くらまし)、サイバー攻撃などの能力を高めているとして警戒を示している[4]。米国が宇宙軍を創設したのは、宇宙インフラを敵の攻撃から守り、場合によっては敵の宇宙インフラを攻撃することで宇宙空間における優位性を確立・維持するためである。

広がる宇宙の軍事利用と求められる国際ルール作り

米国の宇宙軍創設に対し、ロシアなどは宇宙空間の本格的な軍事化を招くとして懸念を表明した。米国の「憂慮する科学者同盟」は2019年12月、米国宇宙軍について、「制約なき兵器開発は、宇宙をより危険にする競争をもたらす。官僚的な組織改編ではなく、外交こそが求められている」とする声明を発表した[5]

他方で、宇宙の軍事利用に向けた開発競争は各国に広がっている。宇宙開発は長らく、米国とロシア(ソ連)がけん引してきたが、今では欧州や日本に加え、中国やインドなども台頭し、多極化の時代を迎えている。近年は特に中国の台頭が目覚ましく、2018年には年間の人工衛星・探査機の打ち上げ回数で米国を上回り世界一となった。今年6月には中国独自のGPS「北斗」の最後の1基の打ち上げに成功し、全世界で運用できる独自のGPSを完成させた。中国の台頭を警戒する米国も、今年5月に9年ぶりとなる有人宇宙船の打ち上げを成功させ、再び月面の有人探査を目指すなど、宇宙開発を強化している。

他にも、2019年にはインドが世界4カ国目となるミサイルによる人工衛星破壊実験に成功している。フランスも2019年に空軍内に宇宙司令部を創設し、続いて今年は空軍を航空宇宙軍として改組した。これまでは米露のみが保有していた敵国の宇宙利用を妨害する技術も多数の国に広がりつつあり、宇宙の安定的な利用の確保が安全保障上の課題となっている。

人工衛星を利用した通信や放送、気象予報、GPSによる地図ナビゲートなど、宇宙インフラは現代の経済・社会活動にも欠かせない。宇宙が戦場となり、宇宙インフラの利用が妨げられれば、私たちの日常生活にも多大な影響が生じる。宇宙空間の利用は、人類共通の利益につながるものであり、共有財産として適切に管理する必要がある。

米中露が参加し1967年に発効した宇宙条約は、宇宙空間の平和利用を定め、地球周回軌道上への核兵器や大量破壊兵器の配備を禁じているが、通常兵器やASATの宇宙配備は禁止していない。人工衛星の破壊やデブリの発生、宇宙と地上の通信の妨害や宇宙関連施設へのサイバー攻撃についても規制するルールは存在しない。人類の共有財産としての宇宙空間の利用を持続可能なものにするためには、共通のルールを作る必要がある。

宇宙利用の拡大によって過密化する宇宙空間の安全確保のため、多国間の情報共有も重要となる。地表から300~1200kmの地球周回軌道上には多数の衛星が集中しており、民間企業が人工衛星運用に参入したことでさらに過密化が進んだ。同じ軌道上にはロケットの残骸や寿命を終えた衛星に加え、冷戦期の米ソや最近の中国やインドによる衛星破壊実験、2009年の米露の衛星衝突事故で発生した宇宙デブリが大量に漂っている。他の衛星やデブリとの衝突から衛星を守るためには、宇宙状況の監視や情報共有での多国間協力が重要だ。

日本は宇宙基本計画に、宇宙空間に一定の秩序をもたらすために積極的な役割を果たしていくと明記した。大国間の宇宙開発競争の一方の陣営につくのではなく、宇宙空間を人類共有の財産として各国が利用し続けられるよう、適正なかじ取りが求められる。宇宙開発においてベンチャー企業など民間部門が果たす役割も大きくなっている。宇宙開発は軍事利用と民間利用が強く結びついた分野であり、無制限な軍事利用拡大を防ぐため、市民社会も各アクターの動きに注目し続ける必要がある。

  1. 米国宇宙軍HP:Department of Defense Establishes U.S. Space Force > United States Space Force(ピースデポ刊『ピース・アルマナック2020』に抜粋訳)
  2. 米国防総省(19年8月29日)「米国防総省が宇宙司令部を設立する」Department of Defense Establishes U.S. Space Command > U.S. DEPARTMENT OF DEFENSE > Release(ピースデポ刊『ピース・アルマナック2020』に抜粋訳)
  3. 福島康仁 (2015)「宇宙の軍事利用における新たな潮流:米国の戦闘作戦における宇宙利用の活発化とその意義」『KEIO SFC JOURNAL』Vol.15, No.2 (pdf), pp.58-76.
  4. 米国防総省HP Final Report on Organizational and Management Structure for the National Security Space Components of the Department of Defense (pdf)(アクセス日:2019年12月20日)ピースデポ刊『核兵器・核実験モニター』554号に抜粋訳。
  5. 憂慮する科学者同盟HP Space Force Would Trigger Arms Race─Union of Concerned Scientists

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