IPCC | 平和フォーラム

2020年10月01日

自然と人間活動の調和を─気候危機を乗り越えて

フォーラム平和・人権・環境 共同代表 藤本 泰成

温室効果ガスによる地球温暖化、そしてそれに起因する気候変動(今や「気候危機」とさえ呼ばれる)が、世界で大きな問題となってかなりの時が経過しました。1988年に、人為的起源による気候変化等に対して科学的・技術的、社会経済的な評価を行うことを目的にIPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)が設立されて32年が経過します。1992年には、温室効果ガスの排出を削減し大気中の濃度を安定化させることを究極の目標として「国連気候変動枠組条約」(UNFCCC)が採択され、1995年からは毎年「国連気候変動枠組み条約締約国会議」(COP-FCCC)が開催されてきました。2015年、パリにおける第21回会議では、中国・インドなど新興国に具体的目標が設定されず、米国の離脱を招くなど問題のあった「京都議定書」にかわって、「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保つとともに、1.5℃に抑える努力をする」「そのため、できるかぎり早く世界の温室効果ガス排出量をピークアウトし、21世紀後半には、温室効果ガス排出量と(森林などによる)吸収量のバランスをとる」として、全ての国が温室効果ガス削減に取り組むことを約束した「パリ協定」が採択されました。「京都議定書」の反省を踏まえて、各国が削減目標を作成・提出し、当該削減目標の目的を達成するための国内対策をとる義務を負うこととなっています。しかし、米国が協定から離脱するなど、世界の足並みはそろっていません。

平均気温の上昇に伴って繰り返す豪雨被害

産業革命以降、人間の経済活動は、二酸化炭素など様々な種類の温室効果ガスを排出してきました。世界の平均気温偏差(基準値は1981年~2010年の平均気温)は、2000年代に入るとプラスが当たり前となり、2019年も+0.43と上昇傾向に歯止めが立っていません。日本においても、同様に1900年代後半からプラスに転じると2019年は+0.92と過去最高を記録しました。日本の猛暑日は、1910年の統計期間最初の30年間の0.8日(平均年間日数)から、1990年から2019年までは約2.3日と約2.9倍も増加しています(都市化の影響の少ない全国の13地点の平均日数)。長期変化傾向を見ても猛暑日の増加と気温上昇は明らかです。

2018年7月3日から、西日本を中心に広範囲にわたった記録的な大雨は、死者224人、行方不明8人、全壊家屋約7,000棟を数えました。この豪雨の被害総額は約1兆1,500億円、2019年度の環境白書は「我が国の統計開始以来最大の被害総額」と記載しています。今年7月4日からの、熊本県・大分県を中心とした線状降水帯による集中豪雨の被害もきわめて甚大です。繰り返される被害に対して、政府の言う、「国土強靱化計画」では、なすすべがありません。

脱炭素社会はいまや世界的な課題

気候変動と温暖化の関係は、様々な議論がありましたが、現在その関係性を否定することはきわめて少数となり、世界中が、熱波、豪雨、熱帯低気圧などの被害を受け続ける今日、脱炭素社会の構築は世界的課題となっています。

2015年、イギリスは、2025年までに、二酸化炭素排出量の多い石炭火力の全廃を決定し、再生可能エネルギーの電源構成比率は47.0%に高めています。フランスは2023年までに、スペイン・オランダなど6カ国が2030年までに全廃を決めています。仏やベネルクス3国などなどEU加盟8カ国は、2050年までに純排出量ゼロの計画立案をEC(欧州委員会)に非公式に要求したと報道されています。石炭・褐炭発電所に電力供給の4割弱を頼るドイツでさえ、2038年までの全廃を決定しています。

温暖化対策に後ろ向きな日本

しかし、国内では石炭火力発電所の新規計画(2019年度以降16基)を持ち、国外には石炭火力への輸出支援を続けてきた日本は、COP25開催中にNGO「気候行動ネットワーク」から「化石賞」(温暖化対策に後ろ向きな国に与えられる)を2度も受賞するなど、世界の批判を浴びています。批判をかわす目的で今年7月、旧式で非効率な石炭火力発電所約100基の廃止計画を発表しました。しかし、新型で高効率と言われる石炭火力26基や新規計画16基は温存したままで、2030年の電源構成比に対する石炭火力の割合も2割を超えることとなります。

日本国内での自然災害に係わる報道の中で、政治家を含めて様々な人々の発言からは、被災の実態やその復旧については聞こえますが、災害と温暖化を結びつける話は聞こえてきません。多くの人々が、温暖化対策と脱炭素社会へのとりくみを、自らの快適な生活や生活を維持する経済活動を破壊するとするネガティブな視点から見ているのではないでしょうか。状況を打破し地球環境を守るために、産業革命以来の資本主義的思考から脱却し、自然と人間活動の調和をどう実現するかという視点で、未来を構想していこうではありませんか。 (ふじもと やすなり)

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