12月, 2022 | 平和フォーラム

2022年12月31日

「力による抑止」の論理に貫かれた安保3文書と23年度防衛予算

木元茂夫

2022年12月16日、安保3文書-「国家安全保障戦略」、「国家防衛戦略」、「防衛力整備計画」-の閣議決定が行われた。(注1)12月23日には6兆8,219億円という2023年度防衛予算案が決定された。物件費の契約ベースでは8兆9,525億円(「我が国の防衛と予算(案)~防衛力抜本的強化「元年」予算~令和5年度予算の概要」、以下「予算案」と略す。)(注2)であるという。つまり、2023年度中にできるだけ契約して、後年度負担に回すということだ。岸田首相は1月13日に訪米し、バイデン大統領に報告した。

この順序はどう考えてもおかしい。国会での審議を経て承認されてからアメリカ政府に報告というのが、まっとうな手順というべきだろう。順序を逆転させたのは、アメリカ政府の支持を背景に、国会審議に掣肘を加えようとしているとしか思われない。「沖縄タイムス」は12月17日の社説で「結論ありき、総額ありき、国会論議は深まらず国民に知らせる努力もせず」と批判した。「国家安全保障戦略」は、「国家としての力の発揮は国民の決意から始まる」としているが、こんなやり方で決意する国民がどこにいると思っているのだろうか。

最初に安保3文書の概略を示しておく。「国家安全保障戦略」がA4で31ページ、「国家防衛戦略」が29ページ、「防衛力整備計画」が31ページ(別表が3点)で、ほぼ同じ長さである。「国家安全保障戦略」は、「我が国を取り巻く安全保障環境と我が国の安全保障上の課題」をメインとするアジア太平洋地域の情勢分析、情勢認識で、「反撃能力」についても触れている。「国家防衛戦略」は従来の「防衛計画の大綱」を名称変更したもので、「我が国の防衛の基本方針」、「防衛力の抜本的強化に当たって重視する能力」をメインに5年先、10年先の防衛力整備の方向性を示している。「重視する能力」とは、①スタンド・オフ防衛能力(長距離攻撃兵器の保有)、②統合防空ミサイル防衛能力、③無人アセット防衛能力、④領域横断作戦能力、⑤指揮統制・情報関連機能、⑥機動展開能力・国民保護、⑦持続性・強靭性の7つである。「反撃能力」についても触れているが、その内容は「国家安全保障戦略」のそれとほぼ同一である。「防衛力整備計画」は従来の「中期防衛力整備計画」で、「自衛隊の能力等に関する主要事業」で「重視する能力」の整備の具体的な進め方を明示し、「自衛隊の体制等」で統合運用体制、統合司令部の創設について述べている。

矛盾に満ちた「国家安全保障戦略」

「国際社会は時代を画する変化に直面している。グローバリゼーションと相互依存のみによって国際社会の平和と発展は保証されないことが、改めて明らかになった」で始まる。

そして、ウクライナ戦争の分析よりも、中国に対する批判がまず出てくる。「普遍的価値を共有しない一部の国家は、経済と科学技術を独自の手法で急速に発展させ、一部の分野では、学問の自由や市場経済原理を擁護してきた国家よりも優位に立つようになってきている。これらは、既存の国際秩序に挑戦する動きであり、国際関係において地政学的競争が激化している」と主張する。

中国の経済と科学技術の発展が「国際秩序に対する挑戦」とするこの論理は、身勝手なものである。さらに、「安全保障政策の遂行を通じて、我が国の経済が成長できる国際環境を主体的に確保する。それにより、我が国の経済成長が我が国をとり巻く安全保障と経済成長の好循環を実現する」「国際社会の主要なアクターとして、同盟国・同志国と連携し、国際関係における新たな均衡を、特にインド太平洋地域において実現する」との主張は、岸田内閣の本音であり、願望なのであろう。しかし、この主張は日本企業が国際競争力を低下させ、貿易黒字が減少している現実から目を背けるものでしかない。中国の経済成長はさまざまな問題を抱えているが、それを安全保障問題として対抗しようする姿勢は、根本的に誤っている。日本の経済力の低下には、それ独自の処方箋が必要であるが、岸田内閣の経済政策に力強さは感じられない。

「平和国家として、専守防衛に徹し、他国に脅威を与えるような軍事大国とはならず、非核三原則を堅持する」としているが、防衛予算をGNP2%に増大させる日本は、5年後にはアメリカ、中国に続く世界第3位の軍事大国になる。しかも、米国がもっぱら相手国の領土を攻撃するために使用して来た巡航ミサイル・トマホークの購入費に2,113億円、射程3000kmと報道されている極超音速誘導弾(「毎日新聞」2023年1月3日)の開発費に585億円を計上したことは、「専守防衛」を放棄したと受け止められ、軍拡競争を激化させていく可能性が大である。

安保3文書に掲載された主な長距離攻撃兵器の性能と配備予定は下記の通りである。

防衛省政策評価書、「毎日新聞」(2023年1月3日)、能勢伸之『極超音速ミサイル入門』等により作成

2023年度予算計上額

① 地上発射型量産費 939億円、開発費 338億円
② 取得費 2,113億円、イージス艦に搭載する関連機材の取得費1,104億円
③ 開発費 2,003億円
④ 研究費 585億円

「安保戦略」で特に問題なのは、敵基地攻撃能力=反撃能力の行使についてである。「相手からミサイルによる攻撃がなされた場合、ミサイル防衛網により、飛来するミサイルを防ぎつつ、相手からの更なる武力攻撃を防ぐために、我が国から有効な反撃を相手に加える能力、すなわち反撃能力を保有する必要がある」とし、「武力の行使の三要件を満たして初めて行使」するとしている。しかし、「武力の行使の三要件」については、2014年7月に安倍内閣が従来の「我が国に対する急迫不正の侵害がある」から、「我が国に対する武力攻撃が発生したこと、又は我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること」と定義を大きく拡大し、2015年の安保法制によって「存立危機事態」という極めて曖昧な「事態」を法制化した既に法的には他国に対する攻撃であっても反撃能力の行使が可能になっている。

あまりにも説明不足の「国家防衛戦略」

冒頭で「中国は東シナ海、南シナ海において力による一方的な現状変更やその試みを推し進め」と批判しつつ、「中国との間では、「建設的かつ安定的な関係」の構築に向けて、日中安保対話を含む多層的な対話や交流を推進していく」としている。しかし、林外相の訪中は、2021年11月に中国から招待があったにも関わらず、いまだに実現していない。対話への熱意を疑わせる。11月17日の岸田-習近平会談の45分だけではあまりにも短い。

「持続性・強靭性」の項目で、「現在の自衛隊の継戦能力は、必ずしも十分ではない」とか、「2027年度末までに、弾薬については、必要数量が不足している状況を解消する」と述べているが、「継戦能力」について、おおよそ数週間とか何ケ月の戦闘の継続が可能であるとかの説明は何もない。弾薬の「必要数量」についても一言の説明もなく、「前年度比3.3倍となる8,283億円」(予算案7p)が計上されている。

さらに、「おおむね10年後までに、弾薬及び部品の適切な在庫の確保を維持するとともに、火薬庫の増設を完了する」とある。必要数量の不足を2027年度までに解消と言ったすぐあとに、10年後までに適切な在庫の確保を維持するという。どうやら、「必要数量」と「適切な在庫」は違うようだが、具体的な説明は何もない。まさに、「国民に知らせる努力もせず」である。

「防衛力整備計画」では、「スタンド・オフ・ミサイルを始めとした各種弾薬の取得に連動して、必要となる火薬庫を整備する。また、火薬庫の確保に当たっては、各自衛隊の効率的な協同運用、米軍の火薬庫の共同使用、弾薬の抗たん性の確保の観点から島嶼部への分散配置を追求、促進する」とあり、沖縄-琉球弧への配置を明言している。すでに沿岸警備隊が配備されている与那国島駐屯地に18ヘクタールの土地を追加取得して、火薬庫の整備も予定されている(「沖縄タイムス」12月24日)。

「弾薬」のことを先に書いたが、「国家防衛戦略」の中心は「我が国の防衛の基本方針」で、1我が国自身の防衛体制の強化、2日米同盟による共同抑止・対処、3同志国等との連携という構成になっている。

1我が国自身の防衛体制の強化では、

「5年後の2027 年度までに、我が国への侵攻が生起する場合には、我が国が主たる責任をもって対処し、同盟国等の支援を受けつつ、これを阻止・排除できるように防衛力を強化する。おおむね10年後までに、防衛力の目標をより確実にするため更なる努力を行い、より早期かつ遠方で侵攻を阻止・排除できるように防衛力を強化する」と目標が掲げられている。

つまり、5年後までが長距離攻撃兵器保有の第1段階、10年後までが第2段階である。「より早期かつ遠方で」の意味するところは、より射程距離の長いミサイルを整備するということだ。

2日米同盟による共同抑止・対処では、

「我が国の反撃能力については、情報収集を含め、日米共同でその能力をより効果的に発揮する協力態勢を構築する。さらに、今後、防空、対水上戦、対潜水艦戦、機雷戦、水陸両用作戦、空挺作戦、情報収集・警戒監視・偵察・ターゲティング(ISRT)、アセットや施設の防護、後方支援等における連携の強化を図る」とある。

情報収集・警戒監視・偵察を意味するISR( Intelligence, Surveillance and Reconnaissance)という略語は、2015年の日米ガイドラインや、防衛白書などで繰り返し使われて来たが、今回、ターゲティング(攻撃する目標の選定)が加わって、ISRTとなった。敵基地攻撃能力の行使には、この能力が不可欠である。朝鮮(DPRK)や中国の地上基地の情報を、自衛隊がどのくらい持っているのかは不明である。しかし、「敵基地」の情報収集が大きな課題になっていくことは間違いないだろう。「領域横断作戦能力」の項目には、「宇宙領域においては、衛星コンステレーションを含む新たな宇宙利用の形態を積極的に取り入れ、情報収集、通信、測位等の機能を宇宙空間から提供されることにより、陸・海・空の領域における作戦能力を向上させる」とある。「測位」という言葉には、高速で飛翔するミサイルの位置を把握する能力が含まれる。

3同志国等との連携

同志国の筆頭はオーストラリアである。2022年1月に「日本国の自衛隊とオーストラリア国防軍との間における相互のアクセス及び協力の円滑化に関する日本国とオーストラリアとの間の協定」(政府は「円滑化協定」という略称を用いているが、相互アクセス協定の英文Reciprocal Access Agreement: の略称でRAAとも呼ばれる)を結んだ。前文に「一方の締約国の領域にいる間の他方の締約国の訪問部隊および文民構成員の地位を定める」とあり、実質的には地位協定である。2023年1月、イギリスともほぼ同様の協定を結んだ。オーストラリアとはこれまでも共同訓練、日米豪の3国間共同訓練を繰り返してきた。一例をあげれば、2022年10月4日~8日の5日間、日本・米国・カナダ・オーストラリア共同訓練が南シナ海で行われている。「事態に応じて柔軟に選択される抑止措置(FDO)としての訓練・演習等」と位置付けている。これは力を見せつけて相手の譲歩を迫るという米軍の論理そのままである。2022年9月末から10月初旬にかけての原子力空母レーガンの韓国・釜山入港と日本海での日米韓合同演習は、「抑止」どころか、朝鮮(DPRK)の弾道ミサイル連続発射を引き出してしまったことを、深刻に反省すべきではないのか。

「いわば防衛力そのものとしての防衛生産・技術基盤」の項目では、「適正な利益を確保するための新たな利益率の算定方式を導入することで、事業の魅力化を図る」と、「国自身が製造施設等を保有する形態を検討していく」の2つが掲げられている。前者は調達単価の引き上げであるが、後者については別途、法律案が上程されるようである。

多数の部隊を新編する「防衛力整備計画」

「防衛力整備計画」では、まず「自衛隊の体制等」で、「統合運用体制」として、常設の統合司令部の創設、共同の部隊としてサイバー防衛隊を保持、南西地域への機動展開能力を向上させるため、共同の部隊として海上輸送部隊を新編すると明記された。海上自衛隊は掃海隊群の傘下に大型揚陸艦3隻で編成された「第1輸送隊」があるが、

「海上輸送部隊」とは油槽船、中型・小型の輸送艇から構成される部隊で、もっぱら南西諸島(琉球弧)での物資・人員輸送を担当する。米海兵隊の「遠征前進基地作戦」( Expeditionary Advanced Based Operations)-少人数の部隊を多数編成して、島嶼に分散配置し、相手国の攻撃も分散させる作戦-の一翼を担う部隊となる。

さらに、「自衛隊の機動展開や国民保護の実効性を高めるために、平素から各種アセット等の運用を適切に行えるよう、政府全体として、特に南西地域における空港・港湾等を整備・強化する施策に取り組むとともに、既存の空港・港湾等を運用基盤として使用するために必要な措置を講じる」とある。

増強あるいは新編される部隊は下記の通り。

〇陸上自衛隊
沖縄に配備されている第15旅団(約2,500人)を師団に増強
長射程誘導弾部隊を新編
対空電子戦部隊を新編
南西地域に補給支処を新編
〇海上自衛隊
情報基幹部隊を新編
対空型無人機(UAV)、無人水上航走隊(USV)、無人水中航走隊(UUV)を導入するとともに無人機部隊を新編
イージスシステム搭載艦を整備
護衛艦(DDG、DD、FFM)等に12式地対艦誘導弾能力向上型等のスタンド・オフ・ミサイルを搭載
防空中枢艦を増勢する(注3)
洋上における後方支援能力の強化のため補給艦を増勢する
〇航空自衛隊
増強された空中給油・輸送部隊を保持する。別表2に13機。発注済みの6機と合わせると19機。
増強された航空輸送部隊を保持する 別表2に6機。発注済の17機と合わせると23機。
空自作戦基幹情報部隊を新編
将官を指揮官とする宇宙領域専門部隊を新編する。

空中給油と航空輸送能力が重視され、宇宙領域での活動に本格的に取り組むことを強調。

「防衛力の中核である自衛隊員の能力を発揮するための基盤の強化」の項目では、「衛生機能の変革」が重視されている。

「第一線救護に引き続いて実施する緊急外科手術に関して、新たに統合の教育課程を新設し、計画的な要員の育成を図る。さらに、艦艇での洋上外科手術についても上記課程修了者に必要な教育訓練を実施し洋上医療の強化を図る」「戦傷医療における死亡の多くは爆傷、銃創等による失血死であり、これを防ぐためには輸血に使用する血液製剤の確保が極めて重要であることから、自衛隊において血液製剤を自律的に確保・備蓄する態勢の構築について検討する」と、自衛隊員が実際に負傷した時の対策が検討されはじめている。

有事を回避する外交戦略こそ問われている

今回の「安保三文書」で特に問題なのは、敵基地攻撃能力=反撃能力の保有と行使が一貫して追求されていることである。「安保戦略」では、「相手からミサイルによる攻撃がなされた場合、ミサイル防衛網により、飛来するミサイルを防ぎつつ、相手からの更なる武力攻撃を防ぐために、我が国から有効な反撃を相手に加える能力、すなわち反撃能力を保有する必要がある」とし、「武力の行使の三要件を満たして初めて行使」するとしている。しかし、「武力の行使の三要件」については、2014年7月に安倍内閣が従来の「我が国に対する急迫不正の侵害がある」から、「我が国に対する武力攻撃が発生したこと、又は我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること」と定義を大きく拡大し、2015年の安保法制によって「存立危機事態」という極めて曖昧な「事態」を法制化しており、既に法的には他国に対する攻撃であっても反撃能力の行使が可能になっている。

今回の安保3文書と防衛予算の倍増によって、日本は中国や朝鮮半島全域に届くミサイルを大量に保有する道を歩み出そうとしている。それは相手国の軍拡をいっそう加速せずにはおかないだろう。それは、日本にとっても中国にとっても、朝鮮(DPRK)にとっても、不幸な道である。

必要なことは対話と外交で解決するための戦略を練ることであり、双方が民衆の福祉向上に力を入れる道を模索することだ。その意味から安保3文書は撤回されるべきであろう。

注1 安保3文書は防衛省HPに掲載されている。
防衛省・自衛隊:「国家安全保障戦略」・「国家防衛戦略」・「防衛力整備計画」 (mod.go.jp)
注2「我が国の防衛と予算(案)~防衛力抜本的強化「元年」予算~令和5年度予算の概要」7p
yosan_20221223.pdf (mod.go.jp)
注3 DDGは、誘導ミサイル搭載護衛艦のことで、イージス艦を指す。「防空中枢艦」も同様である。DDは汎用護衛艦、FFMは機雷戦能力-機雷敷設と掃海能力をもったフリゲート艦。現在、3隻が就役しており、22隻の建造が予定されている。護衛艦隊32隻のうち、ヘリ空母「いずも」「かが」を除く30隻とFFMが長距離攻撃兵器を搭載すると、海上自衛隊は相手国の領土を攻撃可能な艦隊に変貌する。

2022年12月21日

ニュースペーパーNews Paper 2022.12

12月号もくじ

ニュースペーパーNews Paper2022.12

*表紙 NPT再検討会議 アメリカ国連代表部前
*インタビュー・シリーズ:183
 働きやすい社会であってほしいと闘いつづけて
             松尾聖子さんに聞く
*東アジアの現状を憂う
*岸田首相の新原発方針―問題が山積み
*改憲反対、軍事拡大を許すな!本気でたたかおう!
*虚構の GX 会議

2022年12月16日

「安保3文書」の閣議決定に抗議し、憲法理念の実現をめざす平和フォーラム声明

平和フォーラムは岸田政権による「安保3文書」の閣議決定の強行に対し、以下の声明を発表しました。

「安保3文書」の閣議決定に抗議し、憲法理念の実現をめざす平和フォーラム声明

日本の安全保障政策を大きく変容させる、いわゆる「安保3文書」の改定が12月16日、閣議で決定された。国会での審議、採決もなく日本の安全保障・防衛政策の根幹を、内閣の裁量で一方的に決めたことに、まず抗議する。

日本は、自ら引き起こしたアジア・太平洋戦争において、朝鮮や中国をはじめとしたアジア・太平洋の人びとに甚大な被害を与え、自らもまた様々な戦火によって多大な被害を受けた。戦争全体の死者数は2000万人を超える。この戦争の反省を踏まえ、戦後の日本は、憲法9条にある「戦争放棄」と「戦力の不保持」を誓って再出発をした。しかし、朝鮮戦争を契機に警察予備隊・保安隊と再軍備が進められ、1954年に自衛隊が発足した。侵略戦争を経験してきた日本の市民社会は、防衛力増強に反対し、憲法9条の理念に拘泥してきた。この市民社会の基本的姿勢が、集団的自衛権行使を認めず、自衛隊を自衛のために必要最小限の武力を保持する「専守防衛」のための組織として、日本の防衛政策の基本に定着させた。

日本は経済成長と世界市場への進出の過程を歩み、それに伴って防衛力という名の軍事力を拡大してきたが、この「専守防衛」の基本政策を大きく踏み外すには至らなかった。戦後レジームからの脱却を標榜して成立した安倍晋三首相は、2014年、「集団的自衛権行使」容認の閣議決定を行い、日米同盟の深化と軍事一体化をもくろみ、2015年9月に自衛隊法をはじめとする安全保障法制を大幅に改悪した。自衛のための戦力と言う概念は瓦解し、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、他国に対する武力攻撃を阻止する戦力を認めるに至り、「専守防衛」という日本の安全保障の基本政策は危機的状況に陥った。

閣議決定による「国家安全保障戦略」、「国家防衛戦略」、「中期防衛力整備計画」の「安保3文書」改定は、スタンドオフミサイルなどの攻撃型兵器を保有し、防衛費をGDP比2%に倍増し、今後は5年で総額43兆円もの防衛費をつぎ込むとしている。ことに「敵基地攻撃能力(反撃能力)」の保有は、「専守防衛」を大きく逸脱し、これまでの政府方針の大転換であり決して許されない。攻撃型兵器の配備は、周辺諸国の脅威として東アジアの軍事的緊張を高めることに繋がる。「専守防衛」は相手国への「安全の供与」だが、「敵基地攻撃能力保有」は「脅威の供与」である。憲法9条の平和主義が何をめざし、何をもたらしてきたかを、今まさに考えなくてはならない。

米中対立を背景にし「台湾有事は日本の有事」などとして、防衛力増強を行うことは「安全保障のジレンマ」に陥り、更なる軍拡競争を呼ぶ。防衛力増強が日本の安全保障に繋がるとは言えない。作曲家の坂本龍一さんは、「戦争は外交の失敗」として「攻められないようにするのが日々の外交の力。それを怠っておいて軍備増強するのは本末転倒」と自身のブログで述べている。戦争は愚かな行為であり悲惨な結末を生む。であれば戦争をどう回避するかを考えなくてはならないが、岸田首相からはそのような議論はまったく聞こえてこない。そのことこそ日本の安全保障の脅威だと言える。

また「安保3文書」は、防衛産業の強化と官民一体となった武器輸出、技術および研究開発の軍事活用、公共インフラの軍事利用にも言及している。すでに、特定秘密保護法、共謀罪法、重要土地調査規制法、経済安全保障推進法など、「安保3文書」がめざすものを支える法律が整備されている。今後、私たちのくらしや経済及び産業、学問の場も軍事的に利用されかねない。このような日本社会の根幹を揺るがすような方針が、拙速に決定されることは許しがたい。

自民党は、今年4月に自ら「新たな国家安全保障戦略等の策定に向けた提言」を内閣に提出し、防衛力増強と防衛費増額を要求していた。しかし、ここに来て財源問題で党内は混乱している。このような無責任な議論と数の力を背景に日本の重要課題が進んでいくことは、安倍政権以来の政治の危機を象徴している。

日本の市民社会は、相対的貧困率の高さに象徴される貧困と格差の問題、コロナ禍での失業や物価高騰に苦しんでいる。そのような市民生活の困窮に目を向けず、莫大な予算を防衛費に投入し、国の安全保障が国民の責任かのような発言を行い、所得税増、あろうことか東日本大震災の復興特別所得税にまで手をつけようとしている。これによって国民生活が圧迫されるのは火を見るより明らかだ。東アジアに軍事的緊張を高める「安保3文書」の改定を見送り、増税を方針を撤回することを、平和フォーラムは強く要求する。

「戦争をする国」へと軍拡に走り日本の安全保障政策を変容させるのではなく、粘り強い対話と交流に力を入れ、東アジア諸国との関係改善を図ることが先決だ。そして武力及び軍事同盟に依存しない姿勢を内外に示すことだ。憲法前文と第9条を実現していくことが、なによりも日本の最大の抑止力になることを、あらためて主張する

2022年12月16日
フォーラム平和・人権・環境
共同代表 勝島 一博
藤本 泰成

2022年12月09日

憲法審査会レポートNo.5

2022年12月7日(水)第210回国会(臨時会)第3回 参議院憲法審査会

【アーカイブ動画】

https://www.webtv.sangiin.go.jp/webtv/detail.php?sid=7165

【会議録】

https://kokkai.ndl.go.jp/#/detail?minId=121014183X00320221207

【マスコミ報道から】

参院憲法審査会・発言の要旨(2022年12月7日)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/218566
※このかん、東京新聞(ウェブ版)は憲法審査会の発言要旨を翌日に掲載しています。

参院選 選挙区の「合区」めぐり各党が意見 参院憲法審査会
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20221207/k10013916131000.html
“1票の格差を是正するため参議院選挙で導入されている選挙区の「合区」をめぐり、…自民党は憲法改正により解消するよう求めたのに対し、立憲民主党は法改正で対応できると主張しました。”

自民、一票の格差是正は「憲法改正で」立民は「不要」
https://www.sankei.com/article/20221207-TDYJVM33VZJMLC4N2SSOPPKP2M/
“立民の小西洋之氏は、参院が衆院とは異なる独自の機能を発揮するために、選挙制度改革や新たな委員会などを設置すれば違憲判決は出ないとの有識者の意見を紹介したうえで。「必要な論点を議論していくべきだ」と訴えた。”

自民、改憲で参院合区解消 憲法審 立民は不要と主張
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD07ANG0X01C22A2000000/
“衆院憲法審査会では、緊急事態条項を巡り参院の緊急集会の位置付けが議論されている。立民の吉田忠智氏は「参院の意見も聞かずに勝手に決めつけていることに怒りを覚える」と批判。公明の矢倉氏は参院憲法審での論議を求めた。”

【傍聴者の感想】

第3回参議院憲法審査会は合区問題の集中討議で、まず参院法制局長などから一票の格差をめぐる司法判断の概要や合区後の投票実態について説明があり、議論が開始されました。

最初の発言者である自民党の山谷委員は、安全保障や自衛隊など合区問題とは全く関係のない意見を頑なに述べ続け議場は騒然。野党席からは「これじゃ審査会ができない」「そういうやり方をするならやる意味なし」と怒号が飛び、与野党筆頭理事が暫時協議。与党理事が「不適切であった」と陳謝し審議再開となりましたが、このやり取りは何だったのでしょうか。

その後は18人の議員が意見を述べました。自民党の主張は「地方は大切→だから都道府県ごとに議員選出すべき→だから合区解消のために改憲」という稚拙な理屈の繰り返しですが、こういう理屈が有権者にとって「わかりやすい」となるなら問題です。
改憲必要なしということを、だれもがすぐに納得できる言葉でどう表現していくか、私たちの大きな課題と感じました。(T)

【憲法学者から】飯島滋明さん(名古屋学院大学教授)

11月17日、衆議院憲法審査会で北側一雄議員は「今日も、緊急事態における任期延長につきまして、多くの会派の委員の方々が、その必要性について方向性がかなり共有されているなということを実感いたしております。先の通常国会そしてこの臨時国会で、この緊急事態条項については相当議論もなされ、具体的な論点についてもほぼ出尽くしている」と発言しました。

しかし、12月7日の参議院憲法審査会での議論を聞けば、「相当議論もなされ、具体的な論点についてもほぼ出尽くしている」とは到底、言えないことが明らかになりました。

参議院法制局長の川崎政司氏は、「衆議院の解散等の事情により国会を召集できない場合」には、「参議院に議会の権能を代行させることがよいとして参議院の緊急集会制度の提案がなされ、これが採用された」と説明しました。

小西洋之議員、吉田忠智議員、福島みずほ議員、打越さくら議員が適切に指摘するように、緊急時の国会議員の任期延長のための憲法改正は必要ありません。衆議院憲法審査会の改憲4政党の国会議員はこの点でも勉強不足です。そのため議論も不十分極まりなく、国会議員の仕事を果たしているとは到底、言えません。

【国会議員から】古賀千景さん(立憲民主党・参議院議員/憲法審査会委員)

今回の憲法審査会のテーマは「参議院の在り方、選挙制度について」ですが、まず初めの与党議員の発言に驚きました。開会を与党が要求し、幹事懇で事前に与野党がテーマを合意したにもかかわらず、議題とは全く関係ない自衛隊の話を持ち出しました。それこそ憲法審査会を軽視していると感じました。

その後、二院制の意義、参議院の在り方、そして選挙制度については、一票の格差にかかわる合区の課題等の意見交換がありました。「国民の声がきちんと国政へ届く」そのことが一番大切なのであって、そのための選挙制度であるべきです。国民の視点ではなく「自分たちの票を減らさないため、政党に都合のいい選挙制度」という思惑は阻止しなければなりません。

憲法審査会のメンバーとして、公平公正な選挙制度、健全な民主主義、そして何よりも憲法を守るためにしっかり任にあたって参ります。

 

2022年12月10日(木) 第210回国会(臨時会)第6回 衆議院憲法審査会

【アーカイブ動画】

https://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=54240
※「はじめから再生」をクリックしてください

【会議録】

https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/025021020221208006.htm

【マスコミ報道から】

衆院憲法審査会 改憲の国民投票運動とネット広告規制など巡り討議<発言要旨あり>
https://www.tokyo-np.co.jp/article/218819
※このかん、東京新聞(ウェブ版)は憲法審査会の発言要旨を翌日に掲載しています。

国民投票にネット広告規制を 立民・階氏、衆院憲法審
https://nordot.app/973424524934119424
“…憲法改正の是非を問う国民投票時のインターネット広告規制や、ネット社会と憲法の関わりを巡り参考人から意見聴取。立憲民主党の階猛氏は、改憲手続きを定めた国民投票法を改正する際、「ネットによる国民投票運動やネット広告への規制を盛り込む必要がある」と主張した。”

憲法改正の国民投票 ネット広告扱いは 衆院憲法審で参考人質疑
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20221208/k10013917011000.html
“…憲法改正の国民投票が行われる際に、インターネット広告をどう扱うかをめぐって参考人質疑が行われました。”
“…日本インタラクティブ広告協会の橋本浩典専務理事は、「広告量のコントロールを求める意見があるが、CMとインターネット広告だけを規制することで効果があるのか。インターネットを利用した選挙運動ではガイドラインが策定されており、国民投票でも基準があればしっかり対応したい」と述べました。”

憲法改正へじわり進展? 臨時国会で静かな論議
https://www.yomiuri.co.jp/choken/kijironko/ckpolitics/20221205-OYT8T50183/
“…憲法改正による議員任期延長については、憲法学界からも否定的な声が少なくないことだ。いわゆる「護憲派」の学者に限らず、京大系など、比較的現実路線とされてきた専門家からも聞かれることである。これは、日本国憲法はドイツ基本法のように緊急事態について事細かに規定する作りとなっておらず、いざという時は、柔軟に解釈することをそもそも認めているのではないか、という憲法観に基づく。憲法改正を進めようとする立場からは、かなり不都合な意見だろう。”

【傍聴者の感想】

「インターネット広告市場の概要と業界におけるガイドライン等の取り組み」にについて、日本インタラクティブ広告協会の橋本浩典・事務理事から説明があり、今後の国民投票などにおいての課題について問題提起がありました。日本インタラクティブ広告協会そのものは、インターネット広告ビジネスに関わる電通や新聞社、テレビ局など309社が加盟する業界団体。現在、日本の広告費は2021年、インターネット広告費がマスコミ四媒体(新聞、テレビ、ラジオ、雑誌)合計の広告費を初めて上回った状況にある。今後もこの傾向は続く可能性がある。

インターネット上をはじめ、メディアからの情報経路は様々あるため、自由かつ公平・公正な投票運動を確保するためには様々な課題が残されている。業界加盟団体以外でも様々な団体・個人がインターネットをはじめとするメディアに無料広告を載せたりすることができ、有料広告を主体とする広告を規制することで効果があるのか、難しい問題がある。個別の取引に対して特定の既成に従うように強制する権限もないし、難しい。

慶応義塾大学の山本竜彦さんからは「ネット社会と憲法」として、デジタル社会が憲法改正に際して、それを選択する国民の行動にどのような影響を与えるのかの問題点が指摘された。特に、AIやビックデータによる情報の操作や偏りなど、個人の投票行動に大きな影響を与えること、フェイクニュースなどへの対応など様々な問題が指摘された。現時点で、そのような課題に対して、有効な手段が持てていない現状が明らかになったと思う。(I)

【憲法学者から】飯島滋明さん(名古屋学院大学教授)

12月8日の衆議院憲法審査会では、「ネットCMと国民投票運動」・「ネット社会と憲法の関わり」についての調査がされました。

この審査会では「ケンブリッジ・アナリティカ事件」にも言及されました。ウェブの閲覧記録等の個人データをAIが分析し、個人の趣味や嗜好、政治的信条や犯罪傾向などを自動的に予測・割り出す「プロファイリング」という手法があります。「ケンブリッジ・アナリティカ事件」では、ケンブリッジ・アナリティカ社はFacebookの個人情報を違法に用いて詳細なプロファイリングをおこない、ユーザーを「神経質で自意識過剰」「衝動的に怒りに流される」等の分類をした上で「政治広告」を出しました。こうした「政治的マイクロターゲティング」が2016年のEU離脱をめぐるイギリスの国民投票やアメリカ大統領選挙でも行われ、投票に影響を与えたと言われています。

この問題は2021年6月2日、参議院の憲法審査会に参考人として出席した際に私も指摘しましたが、外国の政府や団体が日本の憲法改正国民投票に影響を与える事態は「国民主権」(憲法前文、1条)からも正当化できません。

「公選法の積み残しの三項目、これをしっかりと、直ちに公選法並びの国民投票法改正をすれば、まさにいつでも十分な憲法改正の国民投票ができる」(2022年4月14日衆憲法審査会日本維新の会足立康史議員発言)などとしてネットCMの規制もせずに国民投票できるというのが自民党、公明党、日本維新の会の立場です。ただ、ネットのデマや「政治的マイクロターゲティング」への対応にも十分な議論・対策もせずに国民投票が可能とする自民党、公明党、日本維新の会の政治家たちは「国民主権」を軽視しています。

【国会議員から】吉田晴美さん(立憲民主党・衆議院議員/憲法審査会委員)

第210臨時国会としては最終回になる衆議院憲法審査会が開かれた。この日は、「日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制に関する件」が議題となり、参考人より意見聴取した。

参考人は、一般財団法人日本インタラクティブ広告協会(JIAA)の専務理事の橋本浩典氏、事務局長の柳田桂子氏、慶應義塾大学大学院法務研究科教授の山本龍彦氏であった。

今回明らかになったのは、インターネットを介した広告や報道は個人の思考や行動に大きく影響する時代になり、これは仮に憲法改正を問う国民投票が行われる場合にも、非常に問題になる、ということだ。

国民投票法が制定された当時、国民に情報を届け、世論に影響するメディアといえば、TV・新聞・ラジオであった。しかし、今回ヒアリングしたJIAAの橋本氏、柳田氏の指摘によれば、インターネットの有料広告はホームページ、SNS、動画サイト、ブラウザ、検索エンジン、ひいては個々人の数限りない発信元がありメディアは多種多様に変化している。

現在、こうした有料広告を掲載する際、その内容は自主規制に委ねられている。例えば、政治的見解を含む意見広告に関しては、掲載するか否か、どんな内容をOKとするのか、メディアによって判断が異なるそうだ。

有料広告はある程度自主規制、あるいは立法でも対応ができるが、個人の発信に関しては、表現の自由、そして匿名性の高いサイバー空間でどこまで可能なのか。それらを包括的に網羅し、事実に基づいた情報発信を実現し、誘導広告を規制することができるのか。GAFAと言われるITジャイアント企業は海外のプラットフォーマーであり、日本の法規制に縛られない逃げ道を確保している現状に、この問題の大きさをしみじみと感じ、頭を抱える。

山本教授の指摘の中で、特に印象に残った点を2つご報告したい。

まず、1点目は、AIやビッグデータが発達した今、趣味嗜好に合わせた広告を打つ、ターゲティングが進んでおり、広告元は効率的に広告に反応する人にリーチできる。つまり、政治的思考から、直感的なアプローチに反応する人を特定し、そして扇動することも可能なのだ。いわゆる「ウケる」投稿や動画がもてはやされる、人の注意を引き話題をつくるアテンションエコノミーの真っただ中に私たちはいるのだ。

私たちは、自分で情報を選択しているようで、実は大きな商業的意図で動かされているという可能性があり、私はこれは、憲法19条で保障されている内心の自由を制御しようとする民主主義への挑戦だと厳しく受け止めている。

2点目は、権力者の定義が変わりつつある、という山本教授の指摘だ。それはつまり、権力者をしばるのが憲法、その想定される権力者は政府や政治家であった。しかし、情報技術が目まぐるしく進化する現代において、こうしたサイバー空間を支配するプラットフォーマーと呼ばれる特定の事業者、経営者が、世界をも動かす権力の座に台頭してきている。

憲法議論を拙速に進める前に、まずこうした民主主義の根幹である、情報の正確性と内心の自由をどう守っていくのか、国会は真剣に考え、国民の皆様に保障しなくてはならない。

2022年12月02日

憲法審査会レポート No.4

2022年12月1日(木) 第210回国会(臨時会)第5回 衆議院憲法審査会

【アーカイブ動画】

https://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=54226
※「はじめから再生」をクリックしてください

【会議録】

https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/025021020221201005.htm

【マスコミ報道から】

衆院憲法審査会 緊急事態での国会議員任期延長めぐり各党議論
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20221201/k10013909871000.html
“…与野党4党は、憲法改正の実現に向けて議論を深めるよう求めたのに対し、立憲民主党は法律の改正で対応は可能であり、憲法改正は必要ないと主張しました。”
“…冒頭、衆議院法制局が大規模災害や戦争など緊急事態で選挙の実施が難しい場合の国会議員の任期延長をめぐる各党のこれまでの主張を整理した資料を説明し、その後、議論が行われました。”

緊急事態巡り論点整理 改憲勢力、議論進展狙う―衆院憲法審
https://www.jiji.com/jc/article?k=2022120101041&g=pol
“論点整理は各会派の議員が主に今国会で表明した意見を論点ごとに記したA3判の表。冒頭に衆院法制局の橘幸信局長が「各会派の了承を得たものではない」とした上で、内容を説明した。”
“…立民の中川正春元文部科学相は「緊急事態条項以外にも議論の俎上(そじょう)に載せなければならない課題はある」と述べ、圧力を強める自民党などを批判。「次回以降は国民投票法の改正議論を提案する」と表明した。”

緊急事態条項巡り論点整理 「改憲4党」間で温度差も 衆院憲法審
https://mainichi.jp/articles/20221201/k00/00m/010/246000c
“緊急事態の対象範囲など多くで共通する4党だが、内閣の権限を強化する緊急政令・緊急財政処分では意見が分かれた。自民や維新が必要性を訴えたものの、公明が反対したため、議論の中心が議員任期延長に変更された経緯がある。自民のベテラン議員は「公明のせいで議論が矮小(わいしょう)化された」と不満をもらした。議員任期延長をめぐる裁判所の関与についても4党は一致していない。”

衆院憲法審の発言要旨(2022年12月1日)
議員任期延長は自民など5会派が「必要」 立民と共産は問題を指摘
https://www.tokyo-np.co.jp/article/217356
※このかん、東京新聞(ウェブ版)は憲法審査会の発言要旨を翌日に掲載しています。

【傍聴者の感想】

予定時間の10時になっても空席が……。衆議院事務局が「幹事打ち合わせが延びています」と場内の着席議員に足早に連絡。15分経過してもスタートせず、それから数分後ようやく開会。

今国会、初の傍聴だったが、これまでの審査会との変化を感じた。傍聴席にも、衆議院法制局作成の「『緊急事態』に関する論点~11月10・17日における各会派1巡目の発言を中心として~」と題されたA3のペーパーが配布された。衆議院法制局の担当者が、そのペーパーについて淡々と説明。改憲派の委員は、衆議院法制局のペーパーを評価。国民民主党の玉木委員にいたっては、「審査会のまとめでいいのでは」と大絶賛……。

過去に傍聴した憲法審査会の雰囲気と大きく変わったことを体感。傍聴席に空席があったこともショック。改憲勢力をけん制する意味でも傍聴席を埋めることが直面する課題のようだ。(Yn)

【憲法学者から】飯島滋明さん(名古屋学院大学教授)

まず、12月1日の衆議院憲法審査会の進め方には極めて問題があります。もともとは「日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制についての自由討議」のはずでした。

ところが新藤義孝・与党筆頭幹事は幹事会での合意もないのに私的に「議員任期延長」に関する各会派の主張を衆議院法制局に整理させ、憲法審査会で説明させました。ルールと合意を無視して憲法審査会を進めたことは、国の最高法規である憲法をめぐる議論の仕方として極めて不適切です。

こうした合意・ルール無視の運営に基づき、「議員任期延長」の憲法改正論議がされました。ただ、主権者である「国民」は国会議員の任期延長のための憲法改正を求めているのでしょうか?

緊急時に国会機能が維持されないと大変になる、だから緊急時に国会議員の任期延長を認めるための憲法改正論議と改憲5会派(自民党、公明党、日本維新の会、国民民主党、有志の会)は主張します。ただ、改憲5派の国会議員、国会機能の維持が必要と言い切れるほどの仕事をしてきたのでしょうか?

国会議員が選挙もなしにその地位に居座り続けることを可能にする「議員任期延長」の憲法改正論議、私たちは認めるのでしょうか?

【国会議員から】近藤昭一さん(立憲民主党・衆議院議員/憲法審査会委員)

12月1日も衆議院憲法審査会が開かれました。昨年2021年の総選挙以来、与党だけでなく、野党の維新の会と国民民主党も憲法審査会の毎週の定例開催を強く求めていることから、衆議院ではほぼ毎週の開催が定例化しつつあります。

立憲民主党は「論憲」を主張しており、議論をすることは大切だが、改憲ありきの期限を区切って改憲草案の中身を議論することには断固反対です。民主主義における立憲主義とは「少数の権利を守るための憲法が権力を縛る」ことです。

したがって、立憲主義に基づく憲法審査会の為すべきは「いま、憲法がいかされているかをチェックすること」であり、為すべき議論とは「権力を持つものが暴走しないように何を縛るべきか、足らざるところはどこか」という声を国民の声を受けての議論です。

今、改憲を声高に叫ぶ人たちが求める緊急事態条項などは、それとは逆に、国民の権利を縛り、権力者にさらに大きな権限を与える内容であり、断じて容認できません。人々の権利と生活を守るため、憲法の精神をさらに具現化するような憲法論議を目指します。

 

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