11月, 2023 | 平和フォーラム

2023年11月30日

【平和フォーラム声明】オスプレイの日本国内での飛行禁止を求める

平和フォーラムは11月30日付で、以下の声明を発表しましたので、お知らせします。

オスプレイの日本国内での飛行禁止を求める

11月29日午後2時45分、米空軍横田基地所属のCV-22オスプレイ一機が、鹿児島県屋久島沖の海上に墜落した。米軍人らしき遺体も収容されている。国内では、2016年12月に米海兵隊普天間基地所属の MV-22オスプレイが沖縄県名護市の浅瀬に墜落している。その後も、米軍所属のオスプレイは、日本各地の民間空港に緊急着陸を繰り返してきた。

平和フォーラムは、2012年の普天間基地へのオスプレイ配備から一貫して反対し、その危険性を指摘してきた。これまでも米軍機は日本上空で傍若無人に振る舞い、1959年の沖縄県石川市(現・うるま市)の宮森小学校や1964年の大和市上草柳の鉄工所、そして1977年の横浜市青葉区の住宅への墜落事故など多くの市民の命を奪ってきた。今回の事故がもしも市民の生活圏内であったならば重大な被害を及ぼしたに違いない。米国政府および日本政府は、安全確保を最優先し、オスプレイの飛行停止を決断すべきだ。

オスプレイは、その開発段階から安全性が懸念され、重大事故を繰り返してきた。一昨年はノルウェーと米国カルフォルニア州で墜落、合計9人が死亡している。今年も8月にオーストラリアで墜落し乗員3人が死亡した。今回事故を起こしたCV-22 は、昨年8月クラッチの不具合での事故が相次ぎ、一時全機を飛行停止とした。今回、事故当時の天候は晴れ時々曇り風速1.9メートルと飛行に問題はないとされている。事故を目撃した市民の情報を集めると、断定はできないが「機材トラブル」が要因と考えられる。

オスプレイ配備以来、私たちの反対の声をよそに、米軍は、普天間基地に24機、横田基地に6機を配備し、日本全国を飛び回っている。また、2014年には安倍政権の下で、オスプレイ17機の陸上自衛隊への導入が決定、現在陸自木更津駐屯地に14機が暫定配備され、今後駐屯地を建設中の佐賀県佐賀空港へ配備されることとなっている。

オスプレイは10万飛行時間を越えて「クラスA」(死亡または200万ドル以上の損害)の事故率は、17年度 4.05、18年度5.84、20年度は6.58と毎年上昇している。「クラスB」(重い後遺症または 50万ドル以上の損害)の事故率は、2位の B-1爆撃機の 18.30を大きく引き離し35.70となっている。普通、事故率が年々上昇することはあり得ない。このことは、防衛省への交渉時に度々指摘し、根本的に欠陥があるのではないかと指摘してきたが。私たちの声に耳を貸さなかった。

平和フォーラムは、オスプレイの危険性と地域住民の命、そして運用する自衛官の命の重さを、日本政府は十分に認識し、日本国内でのオスプレイの飛行を禁止することを強く要請する。

2023年11月30日
フォーラム平和・人権・環境
代表 藤本泰成

2023年11月30日

沖縄県は、「生物多様性国家戦略」違反の辺野古埋立て承認の再度の撤回を!

湯浅一郎

 2023年10月5日、国交相は、辺野古埋立て設計変更不承認に係る関与取り消し訴訟につき、沖縄県の玉城デニー知事に設計変更の承認を命じるよう求める「代執行」訴訟を福岡高裁に起こした。その第1回口頭弁論が10月30日に福岡高裁那覇支部で開かれ、双方が一方的に意見陳述を行った。国側は、9月4日の「最高裁判決で沖縄県の敗訴が決定したにもかかわらず、それに従わないのは法治国家の原理に反する」とし、「国の安全保障と普天間飛行場の固定化を回避する重要課題に関わり、著しい公益の侵害であることは明らかである」と主張した。これに対し玉城知事は、2019年の県民投票で辺野古反対票が7割を超えた結果に触れ、「沖縄県民の民意こそが公益として認められなければならない」と強調したうえで、「沖縄県の自主性や自立性を侵害する国の代執行は到底容認できない」と強調した。残念ながら双方が意見を主張しあっただけなのであるが、何と審議はその日だけで結審になった。双方の主張につき一つの質問すらしない、初めから答えありきの裁判である。

 司法の現状からは2023年中にも国の勝訴となる公算が高く、辺野古・設計変更申請をめぐる闘いは、厳しい局面を迎えている。今、沖縄県はどのような闘いを対置できるのかが問われている。この点に関して、11月17日、沖縄平和市民連絡会など15団体は、沖縄県に「辺野古・埋め立て承認の再撤回に向けて有識者による第3者委員会の設置を求める要請書」を提出した。さらに、11月24日、辺野古土砂搬出反対全国連絡協議会は、「辺野古新基地埋め立ては生物多様性国家戦略に反することを再度の埋め立て承認撤回の根拠にするよう求めます」との要請を行った。これらを踏まえ、本稿では辺野古新基地建設埋立ては、2023年3月に閣議決定されたばかりの新たな「生物多様性国家戦略」に照らして不当であり、沖縄県は埋立承認を再度の撤回することを通じて対抗できるはずだということを提起したい。

1.生物多様性の宝庫としての辺野古・大浦湾の海

 辺野古新基地の埋立て対象海域にはジュゴンやアオウミガメの生息に深く関わり、多様なサンゴが生息している。2019年には日本で初めてホープ・スポット(希望の海)に認定された貴重な生物多様性を残す場である。防衛省の環境影響評価書からでも5,334種の生物が記載され、そのうち262種が絶滅危惧種であるとされる。2016年4月、環境省が、生態学的及び生物学的観点から各種施策の推進のための基礎資料として「生物多様性の観点から重要度の高い海域」(注1)として、沿岸域270、沖合表層海域20、沖合海底海域31、合計321海域を抽出したが、その一つである「沖縄島中北部沿岸」(海域番号14802)(図1参照)の中に辺野古・大浦湾は含まれる。その調査票には、「大浦川河口域にマングローブ林。サンゴ礁海域と海草藻場が連続して続き、ボウバアマモ、琉球アマモ、ベニアマモなどの大きな群落があり、ジュゴンは、この海域で発見例が多い。沖に広がる藻場はアオウミガメの餌場となっている」と書かれている。

 ところが辺野古側の工事が始まってからジュゴン情報はほとんどなくなり、2019年3月には東シナ海側の今帰仁村の運天港にジュゴンの死骸が漂着し、沖縄島におけるジュゴンの絶滅が危惧された。それでも2022年7月、埋め立て地から南西数キロの久志でジュゴンの糞が確認されていたことが沖縄県のDNA鑑定から判明している(注2)

 いずれにしても、辺野古・大浦湾はジュゴン、アオウミガメ、サンゴなどの生息にとって不可欠な、生活史の重要な一部をなす場である。それを人間の都合だけでつぶしてしまうということは、多様な生物種の生きる場を人間の都合で奪っていく行為である。今、工事を中止して大浦湾側の海を保持すれば、豊かな生態系は、まだまだ守られる。逆に大浦湾を完全に埋めてしまえば、ジュゴン、ウミガメ、サンゴなど重要種の生活史を寸断し、生息域を壊滅させてしまうことになりかねない。

2.「昆明・モントリオール生物多様性枠組」と生物多様性国家戦略

 この課題を考えるにあたり、生物多様性の保持や回復に関わって世界規模で進んでいる最新の動向を理解しておく必要がある。それを象徴するのが、2022年12月19日、モントリオール(カナダ)で開かれた生物多様性条約第15回締約国会議(以下、COP15)において採択された「昆明(クンミン)・モントリオール世界生物多様性枠組」(注3)である。枠組みは4つのゴールと「陸と海の少なくとも30%を保護区にする(30by30)」など23のターゲットで構成される。この目標は、2010年に名古屋で開催された第10回締約国会議で合意された愛知目標と比べ、約3倍の高い目標を掲げたことになる。つまり、愛知目標は、2020年までに「海の10%を保護区にする」というものであった。その後の10年間の世界規模での努力にもかかわらず、その目標は十分、達成できなかった。そこで、COP15では、「少なくとも30%」という高い目標を掲げることになったわけである。

 これを受け、日本政府は、生物多様性基本法第11条に基き「生物多様性国家戦略」の策定作業に入った。2023年1月30日には同戦略(案)が環境省のHPにアップされ、2月末までパブコメを行なった。これに対して私が関わる環瀬戸内海会議と辺野古土砂搬出反対全国連絡協議会(以下、辺野古土砂全協)は意見書を提出した。その結果、それらの意見(注4)は、多くは無視されたものの、いくつか反映された。

 2023年3月31日、政府は、「生物多様性国家戦略2023-2030-ネーチャーポジテイブ実現に向けたロードマップ」(以下、「新戦略」)(注5)を閣議決定した。本戦略は「今までどおり(as usual)から脱却」し、「社会、経済、政治、技術など横断的な社会変革」を目指すという基本理念を掲げている。その具体化のために2030年までに「陸と海の30%以上を保護区にする(30by30)」など25の行動目標が盛り込まれた。

 「第1章 生態系の健全性の回復」には6項目の行動目標があるが、とりわけ行動目標1-1「陸域及び海域の30%以上を保護地域により保全するとともに、それら地域の管理の有効性を強化する」が重要である。「30%以上」となっている箇所は、原案では「30%」であったが、辺野古土砂全協や環瀬戸内海会議の意見が取り入れられた結果、「以上」が入った。

 また2つの意見書は、「本戦略には法的拘束力がないため、国の事業についてさえ、ほとんど歯止めがない。そこで戦略は、事業官庁(国土交通省、経済産業省、防衛省など)を含め国のすべての事業に適用されることを確認する内容が盛り込まれる必要がある」と指摘した。この意見に対し環境省は、「生物多様性基本法第12条第2項において、『環境基本計画及び生物多様性国家戦略以外の国の計画は、生物の多様性の保全及び持続可能な利用に関しては、生物多様性国家戦略を基本とするものとする』と定めており、他省庁の施策についても本戦略の主旨に沿うものとなるよう、今後も関係省庁間で連携を進めてまいります」と答えた。生物多様性基本法第12条第2項があらゆる施策は新戦略に照らして検証されるべきことを規定しているというわけである。基本法とはいえ、新戦略が法的な基盤を有していることは重要であり、これは、政府のすべての事業が、新戦略に照らして妥当性が吟味されねばならないことを意味している。この点に着目すれば、司法は、例えば代執行をめぐる裁判において、審議すべき重要な論点として、生物多様性国家戦略に照らしての埋め立ての正当性を問うていたはずである。

3.日本における海洋保護区(MPA)の設定状況と辺野古・大浦湾

 2010年、COP10は、2020年を目標年とした愛知目標に合意した。その第11項は「沿岸域及び海域の10%を保護区にする」との目標を掲げているが、日本はこれを2020年までに達成したとしている。しかし、環境省HPをいくら調べても、「明確に定められた区域」として海洋保護区の全貌を地図で示したものは全く見られない。そこで、ここでは、この間の経緯をたどっておく。

 COP10の直後、環境省は、「我が国における海洋保護区の設定の在り方について」(注6)で日本の海洋保護区を次のように定義した。

 「海洋生態系の健全な構造と機能を支える生物多様性の保全及び生態系サービスの持続可能な利用を目的として、利用形態を考慮し、法律又はその他の効果的な手法により管理され明確に特定された区域」

 そして、この「定義に合致する各種規制区域が制度化」されているとした。

 ➀自然景観の保護等(自然公園。自然海域保全地区)

 ➁自然環境または生物の生息・生育場の保護等(自然環境保全地域。鳥獣保護区。生息地等保護区。天然記念物)

 ➂水産生物の保護培養等(保護水面。沿岸水産資源開発区域、指定海域。共同漁業権区域)

 環境省の試算によれば、これらの重複を除いた合計面積は36万9200平方キロとなり、「領海及び排他的経済水域」面積の約8.3%に当たる。そのうち約8割は③の漁業法や海洋水産資源開発促進法を基礎にした水産資源管理を目的とした制度によるものである。これは日本型の海洋保護区と言われている(注7)。

 2018年5月28日の第35回中央環境審議会自然環境部会における配布資料 (注8)の「重要海域と海洋保護区のギャップ分析」という図によると、沿岸域の「重要海域」の68.3%が既に保護区になっている。そのうち51.8%は共同漁業権、14.2%が沿岸水産資源開発区域、13.9%が沿岸水産資源開発の指定海域である。計79.9%が水産資源管理に関する海域である。

 その後、2019年1月, 中央環境審議会が「生物多様性保全のための沖合域における海洋保護区の設定について 」(注9)を答申し、自然環境保全法の一部改正などを経て、2020年12月3日に沖合海底自然環境保全地域として4地域(伊豆・小笠原海溝、中マリアナ海嶺・西マリアナ海嶺北部、西七島海嶺、マリアナ海溝北部)が指定された。これにより、日本の海洋保護区の割合は13.3%となり愛知目標は達成したとされた。

 こうした流れからすると。沖縄島の周囲は基本的にすべて共同漁業権があるので、それらは既に「海洋保護区」として位置づけられているはずである。辺野古・大浦湾も本来は共同漁業権第5号の海域に含まれるのであるが、当該海域は、漁業補償により既に漁業権が消滅しており、海洋保護区には含まれていないのであろう。

4.沖縄県は、大浦湾の海洋保護区化を求め、辺野古埋立て承認を再度撤回できる

 それでも先に見た「生物多様性の観点から重要度の高い海域」の視点に立てば、日本で唯一のホープ・スポットに選ばれた辺野古・大浦湾はまっさきに海洋保護区にすべき場である。愛知目標の「10%海洋保護区」からは外れていても、むしろ、新たな世界目標や新たな「生物多様性国家戦略」の思想や目標に照らすとき、大浦湾を埋め立てることは、それらの国際的取り組みに真っ向から逆行する行為であることは明白である。まずは沖縄県がこの点を認識し、例えば公開質問状などにより「新戦略」に照らして正当性を説明せよと政府に迫るべきである。そのやり取りも踏まえて、新たな生物多様性国家戦略を根拠に再度の埋め立て承認の撤回を行うことができるのではないか。

 ここで2015年に翁長知事が作った「公有水面埋め立て承認手続きに関する第3者委員会」の「検証結果報告書」(注10)をみなおすことを提起したい。同報告書は、新基地埋立てを、①埋め立ての必要性、②国土利用上の適正さ、③環境保全上の適正さ、④法律に基づく計画への違背の4つの観点から検証し、埋立て承認手続きには法律的瑕疵があると結論付けた。特に④は以下のように指摘している。

 「本件埋立て承認出願が、「法律に基づく計画に違背」するか否かについて、十分な審査を行わずに「適」と判断した可能性が高く、「生物多様性国家戦略2012-2020」及び「生物多様性おきなわ戦略」については、その内容面において法(公有水面埋立法)第4条第1項第3号に違反している可能性が高く、(略)法的に瑕疵があると考えられる。」

 残念ながら翁長知事は、訴訟において、第4の論点を採用しなかったため、この指摘が政府に突き付けられることはなかった。

 今も同じ論理が成り立つ。しかも、昨年末の昆明・モントリオール枠組みやそれを踏まえた新国家戦略の閣議決定は、すべて翁長知事の承認撤回の後のごく最近の新たな動きである。従って、この際、沖縄県は、大浦湾埋立ては生物多様性国家戦略に照らして瑕疵があるとの観点から再度の埋立て承認の撤回を打ち出すことができるはずである。生物多様性をめぐって政府の事業につき「新戦略」に照らしての正当性を自治体を挙げて問いかけたことはかつて一度もない。政府による「未来への犯罪」ともいえる行為を、県民の声をバックにして自治体が政府に問いかけていくことは、中長期的に見て歴史的な意義がある。

 1993年に生物多様性条約が発効してから30年を経たが、成果らしいものが見えてこない。その中で、生物多様性条約COP15は、生物多様性の保全・回復へ向け「少なくとも30by30を保護区にする」という高い目標を掲げた国際枠組みに合意した。日本政府は、迅速に新たな国家戦略を閣議決定し、各府県は、これに対応した地域戦略の策定に入っている。しかし、本稿で述べたように国家が先頭に立って、生物多様性国家戦略や「おきなわ戦略」に明確に反する辺野古新基地埋立てを継続しようとしているのである。これに対し、沖縄県が、生物多様性国家戦略や「おきなわ戦略」に依拠して埋め立て承認を再度撤回することは、この点を正そうとする行為に他ならない。司法が完全に国の御用機関になりさがっている今、自治体が、長期にわたる生存基盤を保持すべく努力することは極めてまっとうな行為である。

 
注:
1.環境省:「生物多様性の観点から重要度の高い海域」(2016年)。
https://www.env.go.jp/nature/biodic/kaiyo-hozen/kaiiki/index.html
2.沖縄県自然保護課:「令和 4 年度 ジュゴン保護対策事業 報告書」(2023年)
https://www.pref.okinawa.lg.jp/site/kankyo/shizen/documents/r4jugon_houkokusyo.pdf
3.「昆明・モントリオール世界生物多様性枠組み」環境省仮訳。
https://www.env.go.jp/content/000107439.pdf
4. 環境省:「次期生物多様性国家戦略(案)に関する意見募集(パブリックコメント)の結果」。
https://www.env.go.jp/council/content/12nature03/000126097.pdf
5. 環境省: 「生物多様性国家戦略2023-2030」(2023年3月)
https://www.env.go.jp/content/000124381.pdf
6.環境省:「我が国における海洋保護区の設定の在り方について」(2011年5月)。
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kaiyou/dai8/siryou3.pdf
7.釣田いずみ、松田治;「日本の海洋保護区制度の特徴と課題」沿岸域学会誌、Vol26,No3(2013年)。
8.環境省:「重要海域の抽出を踏まえた海洋保護区の設定に向けた 課題と今後の取組」(2018年)
https://www.env.go.jp/council/12nature/y120-35/900433322.pdf
9.中央環境審議会;「生物多様性保全のための沖合域における海洋保護区の設定について (答申)」(2019年1月)。
https://www.env.go.jp/content/900512773.pdf
10.普天間飛行場代替施設建設事業に係る公有水面埋立承認手続に関する第3者委員会;「検証結果報告書」(2015年6月)。
https://www.pref.okinawa.jp/site/chijiko/henoko/documents/houkokusho.pdf

2023年11月24日

憲法審査会レポート No.27

今週は 衆参いずれも 不開催

今週は(定例日が水曜日の)参議院憲法審査会、(定例日が木曜日の)衆議院憲法審査会、いずれも開催されませんでした。
なお、次回日程は衆議院憲法審査会が11月30日、参議院憲法審査会は12月6日の予定です。

【マスコミ報道から】

広報協議会、衆参各10人 国民投票で規定案―衆院憲法審
https://www.jiji.com/jc/article?k=2023112100958&g=pol
“衆院憲法審査会は21日、幹事懇談会を開き、憲法改正の発議後に国会に設ける「国民投票広報協議会」の規定案を、衆院法制局が提示した。”
“同審査会の与野党筆頭幹事はこの後、同協議会について30日に討議することで合意した。”

参院憲法審は「残り1回」 慣例いまだ克服できず
https://www.sankei.com/article/20231122-QEO5LETSIJIF5CFKP5V3JTZJ2Q/
“今国会初の参院憲法審は15日に開かれた。22日は幹事懇談会が開かれ、12月6日に次回の憲法審を開くことで合意した。しかし、定例日にあたる22日の開催は見送られ、29日と12月13日の開催も危ぶまれている。山本氏は記者団に「たぶん残り1回(12月6日)だ」と説明した。”

憲法審査会 条文案もとに議論掘り下げよ
https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20231119-OYT1T50141/
“岸田首相は、来年9月までの自民党総裁の任期中に、憲法改正を実現することを表明している。所信表明演説では「条文案の具体化」に言及した。こうした首相の発信には「保守層をつなぎとめる狙いがある」との見方が出ている。
目標を掲げるのは結構だが、目先の政局運営と絡めれば、かえって憲法論議が歪みかねない。首相は慎重に言葉を選んでほしい。”

2023年11月24日

ニュースペーパーNews Paper2023.11

11月号もくじ
ニュースペーパーNews Paper2023.11
表紙 日米合同軍事演習、米空母母港化抗議活動
*未来の子どもたちへ、“奇跡の海”でまちづくり
高島美登里さん(上関の自然を守る会代表)と山戸孝さん(上関町議)にきく
*NPT準備委員会報告
*ノーモア・ミナマタ第2次近畿訴訟大阪地裁判決に続いて
熊本地裁・新潟地裁でも完全勝利を
*第60回護憲大会開催に向けて
*本の紹介『奄美の軌跡「祖国復帰」若者たちの無血革命』永田浩三・著
*静かなる「怒り」茨木のり子を読んで

2023年11月17日

第60回護憲大会・分科会報告

第1分科会「現下の改憲情勢」

講師の飯島滋明さん(名古屋学院大学教授)は、改憲5会派が主張する憲法改正は「基本的人権の尊重」「国民主権」「平和主義」の意義を失わせ、歴史の流れに逆行するものであり、市民の幸福と平和が根底から覆される危険性があるため、多くの弁護士や憲法学者が反対している。また、自衛隊明記の改憲論は、「自衛隊を憲法上の組織としてしまえば、その維持のために徴兵制へ道を開くことになる」と警鐘を鳴らしました。

国会議員の任期延長については、「改憲5会派は、自然災害などで任期内に選挙ができない場合等に国会議員の任期延長の憲法改正が必要と主張するが、そもそも野党の国会開催要求を無視してきたのは自公政権であり、憲法54条2項には参議院の緊急集会が規定されており、対応が可能だ」と解説されました。

その他の改憲論の問題点として、1)教育の無償化・充実化は、教育を受ける権利(26条)を政治が実現できていないだけであり、与野党が揃って賛成すれば、すぐにでも実現可能で憲法改正は不要。教育や子どもの貧困対策、医療や福祉にこそ予算を使うべきであり、むしろ25条の「健康で文化的な最低限度の生活」を保障するため、改憲よりも憲法に適う政治を行うことが求められる」、2)緊急事態条項は、法を無視することをあらかじめ許す法であり極めて危険。9条改正よりもたちが悪い③合区の解消は「参議院の立場を弱くする。衆議院と同じ権限が持てなくなる可能性がある」

改憲手続法の問題点として、テレビCMや広告などへの規制が現行の手続法のままでは、資金を持つ側が自由に広告宣伝できる「金で買われた憲法改正」になりかねないことやネット上で無責任な虚偽情報が拡散される危険性あり、対策を取らなければ「デマから生まれた憲法改正」となりかねないこと、民主主義を根底から覆す危険性あることなどを指摘され、また、安倍元首相と旧統一協会の関係、自民党、維新の会、国民民主党への選挙支援などを例に挙げながら「外国の影響を受けないしくみ」が必要であると訴えられました。

講演の最後に、改憲阻止に向けたとりくみとして、憲法改正や改憲手続法の問題点を周知するとりくみや集会・学習会等の開催、集会やデモなどの大衆行動、そしてSNSを活用しての若年層へのアピールなどをあげられ、「現在、憲法審査会では圧倒的に改憲5会派の発言者が多い。主権者として選挙で適切な民意を示し、憲法審査会内の構成を変えていくことが必要だ」と結ばれました。

講演後、茨城、新潟からの参加者から今後の運動のありかたや、改憲派が描く今後のスケジュール等について質疑が行われ、その後、憲法審査会の傍聴報告を小林さん(自治労)が行い、続いて東京、石川の参加者からとりくみの報告がされました。

最後に司会者が第1分科会のまとめを行い、終了となりました。

第2分科会「軍拡・基地強化」

提起者の東奥日報編集委員の斉藤光政さんから、「新冷戦時代」と呼ばれる今、日本の基地で何が行われているか?について、日本全国、世界各国に自ら足を運び取材し得た情報をもとに、日本の「軍拡・基地強化」の現状を幅広い分野で深く掘り下げられ、熱量の高い報告がされた。

続いて、琉球朝日放送の島袋夏子さんから、ご自身の取材から得られた石垣島や与那国島での自衛隊基地の配備と島民の闘いについて取材映像を交えて報告がされた。

提起者からは冒頭、アメリカ視点では昔も今も、相手がソ連から中国・ロシアに変わっただけで、太平洋の制海権を巡る争いであることに変わりはなく、そのために、かつて「不沈空母」と呼ばれた日本の存在が非常に重要であることについて説明がされた。

国内では、台湾有事をめぐる米・中の緊張関係から、日本の各地で基地機能の強化が進んでいることが報告された。その中で、沖縄の基地問題はメディアを通じて取り上げられているが、青森の基地問題はあまり知られていないことについて報告された。この背景には、これまでの基地を巡る歴史的背景や、基地が地域経済に及ぼす影響が大きい事が関係している。

基地がある三沢市では、基地がないと生活が成り立たないという市民も多い。そのため反基地運動は政治的に見ても目立たず、選挙の争点にもならないしメディアも報じない。しかし三沢基地は、専守防衛のための基地から、敵基地攻撃能力を持つステルス戦闘機の配備など、先制攻撃を行うための基地に密かに変貌している。

石垣島や与那国島では、中国の太平洋進出を警戒するために自衛隊の基地が移転し、レーダー施設が配備されており、基地で働く自衛隊員には島の出身者もいる。一方で、太平洋戦争時に過酷な生活を強いられた経験を持つ島民もおり、基地配備の賛否について島民が分断される難しい状況に陥っていることが報告された。

斉藤さんの報告の中で、「基地は経済問題である」という現実を取材の中で切実に感じたと話されていた事が印象深い。今や米・中など二国間の争いの裏には、単純な軍事力の力比べだけでなく、互いに牽制し合うことで自国の軍事産業を潤し、また近隣の経済的に貧しい国を巻き込みながら、資金援助と称した「借金」を背負わせ、その代わりに基地造りを突きつけるという、終わりの見えない覇権争いに危機感を感じる。

しかし、基地がある地域の人々を始め、国民が等しく安全で安定した暮らしを送るためには「基地が経済問題である」ことを理由に基地機能強化を黙認せず、武力による脅し合いがこれ以上続くことを許さず、平和的外交を求めるため国民一人一人が自分事として考え、しっかりと「政治問題」として扱い、解決することを求めていかなければならないと感じた。

第3分科会「ジェンダー平等」

1.問題提起「女性支援法制定の意義」戒能民江さん(お茶の水女子大学名誉教授)

2022年5月に「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律(以下女性支援新法)」が制定された。この法律の経緯の説明をまず受けた。

その後、女性支援新法の目的、理念、課題についての話があった。女性支援新法は、当事者を真ん中におき、意思を尊重したり、最適な支援を包括的に提供したりして進めなければならない。当事者たちは心に大きな傷を負っており、自分の気持ちを言語化できなかったり、友人や家族から孤立してしまっていたりするだけでなく、貧困、虐待、人によっては障害があるケースも少なくない。そのため、民間団体との協働がかかせない。当事者を大切に包括的に支援していくことが今後最も求められることとなる。すでに先進的に進めている自治体もあるので、参考にしながら相談しやすい体制等、基本計画の策定をすすめてほしい。当事者一人ひとりに寄り添い、大事にし、居場所をつくり、相談から生活再建までの支援となるような制度にしていかなければならない。

2.問題提起に対する質疑

問題提起に対する質疑では、「民間団体がないような地域ではどうしていけばいいのか」というような今後の具体的なとりくみに関する質疑が行われた。これに対し戒能さんからは、DV被害者、生活困窮者等への支援をしている既存の団体と連携していくことや国への財政支援の必要性を訴えた。また、参加者でもある議員からは女性支援新法には権利要綱がなく、当事者が権利の主体に離れていないことから不当な扱いを受けた際に苦情が言えないといった課題も指摘された。

3.各地からのとりくみ

各地からの取り組み報告として、開催地である新潟の「I女性会議」からとりくみ報告があった。女性と貧困プロジェクトの活動報告として、新潟県の実態を調査し、改善につなげるため議員と連携をとっていることが報告された。当事者へのアンケートでは、「生活が苦しく、金銭的な支援が欲しい」がトップであり、ほとんどの人に複数の困りごとがあることが明らかになった。当事者の背景を把握していけば、これは社会の仕組みの問題、であり断じて自己責任論で片付く話ではない。活躍する人を増やすより困っている人を減らすがまず大事であると訴えた。

4.討論

討論の中ではこれまでの日本の社会における女性への支援の在り方について、社会が変容していく必要性等が出された。

「売春の防止ではなく、買春を罰則付きの禁止法にすべきである」であるという意見については、売春をする女性の後ろの業者や悪質なホストクラブの存在も関係しており、様々な問題が複雑に絡み合っていることが関連しており、風営法と一緒に考えていく必要性が戒能さんから指摘された。

さらに女性支援の対象について、シングル家庭だけでなく、高齢者や障害のある人等様々な人を対象にしなければならないことについても意見が出された。当事者はギリギリの状態にならないと相談に来ないことが多い。できるだけ相談しやすい環境を整え、当事者と話をしていかないと支援が届かなくなり、当事者には更なる困難が待ち受けてしまう。

福井や長野から現状の報告があったが、全国で連帯し、情報を共有することの有効性や先進的な自治体に学ぶこと議員と連携し、その地域でできることから支援の方法までをしっかり議論してほしいと戒能さんから助言を受けた。法律ができたことを評価し、今後はいかに実効性あるものにしていくかが問題について共有された時間となった。

5.まとめ

今年の第3分科会には参加者、とりわけ男性の出席者が多くなり、少しずつ社会問題として認知されてきたように感じると述べた。

本日の提起や討論を聞いていて、相談員を行政がしっかり育て、コーディネートしていく必要性を感じた。そのためには相談員の賃金や処遇だけでなく、予算の課題もクリアしなければならない。議員と連携するだけでなく、その議員を私たちは支援していかなければならないという役割分担にももっと取り組む必要がある。新法ができても、これら山積している課題をクリアしていくためにもまず大きな社会問題としてとらえ、多くの人が認知する必要があるとして第3分科会をまとめた。

第4分科会「歴史認識」

講師の吉澤文寿さん(新潟国際情報大学教授)は佐渡鉱山における朝鮮人強制連行をめぐる研究経過を説明。十分にまとまった資料がないものの、郷土史家などによって朝鮮人労働者の史実が明らかになりつつあると述べた。しかし、「佐渡金山」の世界遺産登録をめざす動きとともに、強制連行否定論も現れている。吉澤さんは研究者の立場でそれらを否定するとともに、教育行政やメディアの扱いなどの問題点を指摘し「もっと現場に朝鮮人労働者の歴史を学ぶ場を作るべきだ」と語った。

参加者からは「滋賀でも朝鮮人強制連行があった。そうした史実を知れば、今後、朝鮮や中国との向き合い方も変わるのでは」(滋賀)、「長崎の軍艦島のツアーではゼッケンをつけた人を排除している。現地の説明も虚偽のものがある」(長崎)など、各地の動きを踏まえた意見が相次いだ。

もうひとりの講師の西崎雅夫さん(一般社団法人「ほうせんか」理事)は1923年の関東大震災時の、東京を中心とした朝鮮人虐殺事件について、残されている多くの証言や、当時の公的資料、新聞記事などをもとに説明。写真なども含めてその凄惨な実態を語った。そして、自警団だけでなく、警察や軍隊による虐殺も行われてきたとし「加害の歴史は国家によって隠蔽される。公的資料ではわからない。証言が有効」と述べた。さらに虐殺事件を解明しようとしない今の政府や、ヘイトスピーチなどが続く日本の現状も厳しく批判した。

参加者からは「千葉県野田市の旧福田村で朝鮮人と間違われて多くの人が虐殺された。今年、映画化もされ、フィールドワークもやった。今後は行政も巻き込んでいきたい」(千葉)などの報告があった。また「群馬県高崎市の県立公園の朝鮮人追悼碑の強制撤去にみるように、国は強制連行を否定している。誤った情報も多い中で、若い人にどう歴史認識を伝えていくべきか」(長野)といった意見も出された。

西崎さんは「今年は虐殺事件から100年ということで、フィールドワークの参加者も増え、若い人も多くなっている。これを過去の話とせず、現在も続く人の命に関わる問題として捉え、『殺さない、殺されない、殺させない』として、地道に市民運動を続けていくしかない」と話した。

吉澤さんは「研究者として史実をしっかり研究し、目に見える形で伝えていきたい。また、死刑制度も含め、殺してもいい人間がいるのかと問いたい」と強調した。

最後に「ウソやデマを放置すれば戦争につながる。人権意識をもっと高め、ネット情報に惑わされず、歴史的事実をきちんと伝えていこう」とまとめを行った。

第5分科会「憲法を学ぶ」

講師の清水雅彦さん(日本体育大学教授)から、日本国憲法の条文に対する現在の憲法解釈問題や日本社会の現実について触れられ、特徴的には、1)天皇制の皇位については、憲法2条で世襲制とされていることに対し、国民主権や民主主義、平等の例外となっており、天皇は国民の投票で決められず、国民自らも天皇になれないことなどから憲法に反すること、2)国旗国歌法について、「君が代」は天皇制のもとでの反映を意味し、歌詞の意味を教えずに歌わせていること、また「日の丸」について侵略戦争のシンボルを戦後も使っていること、3)元号について、天皇が時間支配するために作られたものであり、また国際化で元号の西暦換算が面倒になってきている現代において、鉄道会社や銀行でさえ西暦使用になっているにもかかわらず役場が使っていること、4)祝日について、年間16日のうち9日が天皇に関する祝日であり、その意味をわからず、国民が喜んで休んでいること―に対して、本来は国民で議論して設定していくべきものと断じました。

憲法9条については、政府の解釈では戦争放棄の一方で自衛力保持を認めており、それを理由に戦争できてしまい、さらには9条改悪により戦力の保持が正当化されようとしていること、また積極的平和主義として、戦争をはじめ貧困や飢餓、抑圧、疎外、差別のない状態をめざすことが書かれている憲法前文を、自民党が削除しようとしていると訴えられました。

第13条の幸福追求権に関して、プライバシー権の保障も含まれると考えられることに対し、現実は共通番号制度などプライバシー侵害するような法律がいくつも作られていること、第14条の法の下の平等では、性差別をなくし家制度の解体をめざして作られた一方で、差別はなくなっておらず国民全体の意識がまだ低い状態であり、未亡人、主人、父兄、嫁、奥さんなど、家制度の名残の言葉遣いが根強く残っていることが紹介されました。

第25条の生存権について、コロナ禍を引き合いに「自治体合理化として、保健所がかつてより約半減させられてきたなか、コロナ禍では、まずは保健所が初動対応すべきところ、対応しきれなかったから自宅待機となったが、これは医療放棄。例えば、大阪市は1か所しか保健所がない。大阪府でみても東京より人口密度が低いにも関わらずコロナ死亡者が多かった。これは大阪人の体が弱いのではなく、保健所で対応しきれなかったから。残念ながら有権者が自治体合理化を加速させた維新を選んだ結果」であると強調しました。

このほか、統治規定に関して、国会を軽視するかのように首相の独走が続いていること、また国寄りの判決を出し続ける司法において、最高裁判官を投票で決められる画期的な制度があるにも関わらず、約1%しか「×」が入っていないことに対し、国民の無関心さが、今の政治や裁判の結果に反映されている結果だと切り捨てました。

清水さんは最後に、「まずは自分たちが憲法で何が保障されているのかを知り、それを行使していくことが大事。下の世代は上の世代を見ている。現役世代が権利行使していかないと社会は変わっていかない」と締めくくりました。

その後の質疑では、自治体や教育現場の参加者から多く課題等が出され、共通して労働組合の組織率が低く、組合として憲法理念を拡げる場が少ないこと、また教育現場の仲間からは、指導要領や保護者の存在などから中立的にしか教えられない悩みが出されました。これに対して清水教授は、「職場で組合員を増やす。非組合員でも参加して意見交換できる場を増やしてほしい。地域単位で学習会や意見交換会できる場を作ってほしい。今の若い人は環境問題や性的マイノリティの問題等についても好意的に受け入れるタイプが増えてきており、そうした接点を作ってもらって学習会等をやるのが良い。そのうえで声をあげれば変えられた事例はいくつもあり、政権交代につなげていく必要がある」とまとめました。

2023年11月17日

憲法審査会レポート No.26

2023年11月15日(水)第212回国会(臨時会)
第1回 参議院憲法審査会

【アーカイブ動画】

https://www.webtv.sangiin.go.jp/webtv/detail.php?sid=7637

【会議録】

※公開され次第追加します(おおむね2週間後になります)

【マスコミ報道から】

参院憲法審査会 “一票の格差”最高裁判決受け 与野党意見交換
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231115/k10014259021000.html
“15日の参議院憲法審査会では、去年の参議院選挙のいわゆる一票の格差について最高裁判所大法廷が10月に、憲法に違反しないという判決を言い渡したことを受け、参議院法制局が判決内容などを説明しました。”

参院「合区」、自民は「解消のための改憲」を主張 野党は基本的人権の配慮やブロック制を主張 憲法審査会
https://www.tokyo-np.co.jp/article/290219
“自民党は合区解消に向けた改憲を主張。同党の松下新平氏は「抜本的な合区解消のための憲法改正を実現すべく、今後一層取り組みを活発にしていきたい」と述べた。”
“立憲民主党の石川大我氏は、改憲による合区解消に対し「投票価値の平等を『地方の声を国政に反映させる』という主張で押しつぶすことは、基本的人権の尊重との関係で問題がある」と指摘。日本維新の会の片山大介氏は「ブロック制の選挙区制度への移行を議論すべきだ」と訴えた。”

参院選「合区」の解消手法、見えぬ各党の一致点 参院憲法審始まる
https://www.asahi.com/articles/ASRCH6K52RCHUTFK00F.html
“…参院選で導入している「徳島・高知」「鳥取・島根」の「合区」の解消について与野党が意見を交わした。合区解消の方向性は各党が一致するものの、憲法改正で対応するかどうかなど、その手法をめぐっては主張の違いが目立った。”

漂う停滞感、払拭見通せず 参院憲法審 立民「ブレーキ役」要職に
https://www.sankei.com/article/20231115-5R34TXVBNZPDVHUFY2EQSTEAFI/
“先の通常国会で衆院憲法審が実質討議を15回積み重ねたのに対し、参院側は7回にとどまった。改憲派の力が比較的弱いことに加え、弾劾裁判の開催日は憲法審を開かないという慣例にも阻まれた。実際、次回の憲法審開催は弾劾裁判を横目に決まっていない。”

【傍聴者の感想】

今臨時国会はじめての参議院憲法審査会は、幹事の選任を行ったのち、参議院の合区制度をテーマに議論が行われました。

参議院法制局からこの間の「一票の格差」に関する最高裁判決の動向について説明があり、続いて各党の委員がそれぞれ法制局長に質問したり、自らの見解を述べました。

聞いていると、こと合区制度に対する立場は、改憲派のなかでも相当に相違があるようで、このまますすんでも一致ができるようには到底思えません。

自民は改憲による合区解消を主張しますが、公明・維新は選挙区制度をブロック制にすることを主張するような具合ですし、自らの選挙に直接関わることでもあるので、衆議院憲法審査会での「議論」とはまた違った雰囲気も感じます。

今回選任された辻元清美・野党筆頭幹事が岸田首相の所信表明演説に触れ、具体的条文案作成を促すのは越権行為だと厳しく非難しました。本当にその通りで、憲法遵守義務を負う首相が改憲の旗振り役をしてきたこの十数年の異常さをあらためて思いました。

【国会議員から】打越さく良さん(立憲民主党・参議院議員/憲法審査会委員)

立憲民主党の打越さく良です。第60回護憲大会では全国から私の地元である新潟にご参集いただき、誠にありがとうございます。
シンポジウムでも述べましたが、憲法はホコリをかぶった古臭いものではなく、私たちの命と暮らしを支えてくれる、そして権利を求めてたたかうための重要な手がかりであることを皆さまと共有していきたいと存じます。

11月15日の参議院憲法審査会では、参議院の合区問題が議題となり、以下の通り発言しました。

参議院の選挙制度は、1947年以来、選挙区と全国区の並立制で始まりました。都道府県を単位とした選挙区は、2015年の改正で合同選挙区が導入され、初めて四十五の選挙区となりました。このときの改正公職選挙法の附則には、2019年の参院選に向け、一票の較差の是正を考慮しつつ選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い、必ず結論を得るとされています。

これを受けて、伊達議長の下、参議院改革協議会で議論が開始され、選挙制度に関する専門委員において17回にわたって各会派による検討、協議が行われました。

この検討の過程において、自民党は、終始一貫して合区解消を目的とする憲法改正を主張してきましたが、突如として定数六増と比例区に特定枠を設ける選挙制度改革を提案しました。この案は、一年間の専門委員会で一度も提案されておらず、これまで積み上げてきた議論を全く無視するものでした。

ところが、伊達議長は、参議院各派代表者懇談会において、自民党案に賛同する会派がなかったにもかかわらず、野党の求める議長あっせんにも応じず、各会派に対案を出すよう求め、強引に協議を打ち切ったのであります。しかも、定数増を含む自民党案の提案は、我が国の人口が減少傾向にある中で、衆議院では2016年改正で定数が十減となった後に参議院だけ定数増を行ったものであり、国民から多くの批判の声が上がりました。

この法改正は2019年の参議院選挙から導入されましたが、様々な矛盾があります。まず、比例代表の特定枠が設けられ、政党が決めた順位に従って当選者が決まる拘束名簿式を一部に導入できるようになりましたが、これは合区によって候補者を出せなくなった県代表を特定枠で救済しようとする自民党の意向を反映したものです。

自民党は、鳥取、島根、徳島、高知が合区され、県代表を出せない県が二県出ることになり、地方の声が届きにくくなるから設けられたのだと説明し、実際にそのような候補者調整を行ってきました。自民党は、合区された選挙区において候補者の氏名、候補者を出せなかった県においては政党名を書かなければならないという運用を行っています。例えば、高知・徳島選挙区においては、高知県では候補者の氏名、徳島県では政党名を書かなければならないという非常に分かりにくい制度運用になっています。

このことから言えることは、合区を容認した上で、それを補完する意図で特定枠を設けたのであれば、将来的な合区が視野に入っているということであります。それゆえ、特定枠を導入したままで合区解消を主張することに論理的整合性はありません。現在の自民党の運用であれば、合区が進んでも、県代表を出せなくなった県の候補者を特定枠で救済すればよいからです。この考え方を推し進めれば、全都道府県の代表を特定枠に登載すればよいとの解釈も可能になります。

このような経緯からは、合区を解消しようとするのであれば、まずは特定枠の廃止が先決であるということになります。

この問題は、特定枠という拘束名簿式の問題では全くなく、政党における運用の問題です。しかしながら、拘束名簿式比例代表制と非拘束名簿式比例代表制が混在している現在の比例代表制は問題であり、どちらかに収れんさせるべきであると考えます。

ところで、合区解消を含む自民党の改憲四項目案は2018年3月25日に出されていますが、それまでの自民党は道州制の導入を主張していました。改憲四項目と整合性を取るためか、自民党道州制推進本部は2018年10月に廃止されました。廃止を決めた当時の政調会長は岸田文雄氏です。それまで道州制構想を推進しておきながら、参議院選挙制度で合区が現実的になると都道府県代表の必要性を振りかざすのは、御都合主義が過ぎるのではないでしょうか。

なお、学界においては、合区問題を憲法改正で解消することは困難であるとの言説が通説化していることを申し添えて、発言を終わります。

2023年11月16日(木) 第212回国会(臨時会)
第3回 衆議院憲法審査会

【アーカイブ動画】

https://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=54773
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【会議録】

※公開され次第追加します(おおむね2週間後になります)

【マスコミ報道から】

衆院憲法審査会 自由討議 緊急事態条項などめぐり 各党が主張
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231116/k10014259971000.html
“衆議院憲法審査会は、今の国会では初めてとなる自由討議を行い、大規模災害など緊急事態での対応を憲法に規定するかどうかや、憲法9条を改正して自衛隊を明記するかどうかをめぐり各党が主張を展開しました。”

自民・中谷元氏「改憲待ったなし」 立民・中川正春氏「衆院解散を限定するため改憲も」 衆院憲法審査会
https://www.tokyo-np.co.jp/article/290453
“自民党は憲法9条への自衛隊明記や、緊急事態条項を新設する改憲を改めて主張。立憲民主党は自衛隊明記や緊急事態条項は不要とした上で、憲法7条に基づいた首相の恣意しい的な衆院解散を制約するために、改憲も選択肢になるとの考えを示した。”

維国、今国会中の改憲案主張 自民との違い強調―衆院憲法審
https://www.jiji.com/jc/article?k=2023111601053&g=pol
“岸田文雄首相が所信表明演説で「条文案の具体化」を求めたことを踏まえ、憲法改正に前向きな日本維新の会と国民民主党が今国会中に改憲案を作成すべきだと主張。首相の掛け声と裏腹に論議加速に慎重な自民党との違いを強調し、保守層の取り込みを図る狙いとみられる。”

また自民総裁「任期」解釈巡り論争 意見集約見通し困難 衆院憲法審
https://mainichi.jp/articles/20231116/k00/00m/010/270000c
“…「任期中」の解釈を巡り、同じ改憲勢力である自民と、日本維新の会、国民民主両党との間で認識の違いが再び浮き彫りとなった。3党などは先の通常国会で、衆院議員の任期の特例的な延長を柱とする「緊急事態条項」を憲法に追加する方針で一致したが、改憲に向けたスケジュール感には依然として「溝」があり、意見集約の見通しは不透明な状況だ。”

【傍聴者の感想】

臨時国会での第3回衆議院憲法審査会が11月16日、開催されました。

今回は、先回報告があった欧州海外視察に関連して、7人の委員から意見等の表明がありました。中谷元委員(自民)は、各国の憲法改正の状況、緊急事態条項及び国民投票について比較したうえで見解を述べ、中川正春委員(立民)は、立憲主義に基づいて憲法審査会の議論を進める立場から、国家権力のコントロール、新しい人権へ対応、平和主義の堅持の観点に立ち、緊急事態条項及び議員の任期延長、CM、インターネット規制の課題について意見を表明していました。北側一雄委員(公明)も、海外視察報告に基づき緊急事態および国民投票について持論を主張したほか、赤嶺政賢委員(共産)は、イスラエルによるガザ侵攻の状況と辺野古新基地問題に言及しながら、現憲法の意義を展開しました。

これら委員の意見表明と様相が違っていたのが、岩谷良平委員(維新)、玉木雄一郎委員(国民)、北神圭朗委員(有志)らです。この委員たちに共通するのが、維新、国民、有志の会の3会派で、緊急事態条項のうち、国会議員の任期延長に関する憲法改正条文案を発表したことです。

この3会派が主張するのは、スケジュール感、スピード感をもって対応せよ、各党合意の護送船団ではだめだ、決定できる政治が必要だと。憲法改正の具体的な議論に向けた前のめりの姿勢に終始しています。岸田首相が総裁任期中に改正したいと述べたことに関して、その任期はいつまでなのかと異常にこだわり、玉木委員に至っては、自民党と立憲民主党を「ネオ50年体制」と揶揄する発言までしていました。

かつて最も民主的な憲法と言われたワイマール憲法下で、民主的な手続きによりナチスが台頭し、そしてワイマール憲法で規定されていた緊急事態条項を濫用してナチスのヒトラー独裁が確立されていった歴史を私たちは学んでいます。ナチスの被害を受けた欧州各国も当然緊急事態条項の危険性を認識しているからこそ、権力のコントロール、規制を厳密に規定しているものでしょう。3会派のような底の浅い議論、そしてスピード感をもって議論をすべきものでは断じてありません。

【国会議員から】新垣邦男さん(社会民主党・衆議院議員/憲法審査会委員)

定例日の毎週開催が既成事実化している衆院憲法審査会。今国会でも本格的な審議が始まっております。

11月16日の審査会は、「海外調査報告を踏まえた自由討論」がテーマでしたが、蓋を開けてみれば想定通り、緊急事態条項の「議員任期延長」に焦点を絞り、結論を急ぐべきとの論陣が、自民党・公明党をはじめ、維新の会、国民民主党、会派「有志の会」が足並みをそろえる形で張られました。改憲発議に念頭を置き、多数派が少数派の唱える異論に耳を貸すことなく、議論誘導していることに強い危機感を覚えます。

とりわけ、維新の会と国民民主党が、来年9月までの岸田首相の自民党総裁任期から逆算した改憲スケジュールを提示し、「来年の通常国会終盤までの発議」のためには「この臨時国会で憲法改正原案の取りまとめ」を行わなければならないとして、自民党をせっつくような動きをしているのは看過できません。
スケジュールありきの審査会運営は、憲法を政局に絡めないことや少数政党の声を尊重することなどを柱とする与野党協調重視の議事運営、「中山方式」を形骸化するものです。断じて認められません。

議員任期の延長については、共に会派を組んでいる立憲民主党の中川野党筆頭幹事の主張に賛同します。中でも「大切なことは(困難事態にあっても)選挙をすること。(選挙が)できない言い訳の種を摘むこと」との意見には、心の中で拍手喝采いたしました。

また、中川野党筆頭幹事は、教育の無償化についても、教育の機会均等が憲法14条1項及び26条1項に既に記されているとした上で「現行憲法に基づいて教育基本法を改正し、責任を持って予算かしていくことで実現可能」と述べ、9条改憲についても自衛隊明記は不要とし、「現行憲法の解釈、個別的自衛権への限定、専守防衛と必要最小限の防衛力は日本の平和主義を貫く原則として堅持していくべき」と喝破されました。

そして、「憲法議論は党派を超えた合意形成、国民の広い理解がないままに強引に進めれば世論の分断を招く」と指摘した上で、今の憲法審査会が「国民的議論になっているかといえば、程遠い現実がある」とし、発言を結ばれました。私も、一連の中川野党筆頭幹事の発言と全く同じ思いです。

岸田総理が、10月の衆議院代表質問で「総裁任期中に憲法改正を実現したいという思いはいささかの変わりもない。党内議論を加速させるなど、責任を持って取り組む」と答弁しましたが、憲法尊重擁護義務を負う行政府の長として明らかに越権行為であること、それと軌を一にするように、11月9日の憲法審査会で森会長が「議員任期延長など速やかに議論を詰めなければならない」と呼びかけたことは、「中山方式」に徹すべき行司役として大いに問題あり! 最後に、そのことを強く指摘しておきたいと思います。

2023年11月17日

平和への誓い 憲法でまもる 私たちの未来 第60回護憲大会を新潟で開催

11月11日から13日にかけ、「平和への誓い 憲法でまもる 私たちの未来 憲法理念の実現をめざす第60回大会」(第60回護憲大会)を新潟県・新潟市にて開催し、11日の開会総会には約1400人が参加したほか、3日間の日程のなかで分科会・ひろばやフィールドワーク、閉会総会などを通じて、憲法をとりまくきびしい状況を再確認しつつも、私たち自身が憲法の理念を実現し、私たちのめざす未来へと活かしていくために奮闘していく決意を固めました。

11日の開会総会は、新潟ろうあ万代太鼓「豊龍会」の演奏と「にいがた総おどり」による演舞が行われ、幕を開けました。藤本泰成・実行委員長(平和フォーラム代表)から開会あいさつ、齋藤悦男・副実行委員長(新潟県平和運動センター議長)が開催地からの歓迎あいさつを行いました。続いて、則松佳子さん(連合副事務局長)、西村智奈美さん(立憲民主党代表代行)、福島みずほさん(社会民主党党首)から連帯あいさつがありました。そして、大会基調案を染裕之・事務局長が提案しました。

本大会メイン企画は「憲法審査会の現実と今後の私たちのとりくみ」をテーマにシンポジウムを行いました。コーディネーターに飯島滋明さん(名古屋学院大学教授)、パネリストに新垣邦男さん(衆議院憲法審査会委員)、打越さく良さん(参議院憲法審査会委員)、杉尾秀哉さん(前・参議院憲法審査会幹事)、吉田晴美さん(衆議院憲法審査会委員)を迎え、衆参の憲法審査会をめぐる状況を確認し、改憲発議への危機感を共有しました。

12日午前は「現下の改憲情勢」「軍拡・基地」「ジェンダー平等」「歴史認識」「憲法を学ぶ」の5つの分科会を開催し、それぞれのテーマでの問題提起と質疑応答が行われました(→分科会報告はこちらをご覧ください)。また、新潟水俣病を学ぶフィールドワークも実施されました。午後は「脱原発型社会を構想する(シンポジウム)」「基地問題交流会」を行いました。

13日は閉会総会を行いました。さいしょにパレスチナに何度も訪れ現地情勢にも詳しい清末愛砂さん(室蘭工業大学教授)によるビデオ報告が上映され、続いて特別報告として沖縄・辺野古新基地建設強行をめぐる現状、福島原発の汚染水海洋放出問題、山口・上関への使用済み核燃料中間貯蔵施設建設の動きについてそれぞれ報告されました。染事務局長からは3日間全体の内容についてのまとめ報告を行いました。また、遠藤三郎賞の授賞が行われました。本年は新潟で活動する「新潟水俣病共闘会議」「灯の会」「シネ・ウインド」の三団体に授与されました。次回の第61回大会開催予定地が岡山県であることが発表され、岡山より決意表明がありました。大会アピール案が提案され、全体の拍手で確認しました。

以下は閉会総会で採択された大会アピールです。引き続き、改憲発議阻止・憲法理念実現に向け、平和フォーラムはとりくみをすすめていく決意です。全国の皆さん、ともにがんばりましょう!

平和への誓い 憲法でまもる 私たちの未来
憲法理念の実現をめざす第60回大会アピール

私たちは新潟県・新潟市に集い、3日間にわたって開催された本大会のなかで、私たちと憲法をとりまく状況を学び、また各地におけるさまざまな実践に触れ、あらためて日本国憲法の理念を実現し、私たちのめざす未来へと活かしていく決意を確認しました。
たしかに、私たちをとりまく現実は、たいへん困難なものがあります。本来、誰よりも憲法を遵守する義務を負う国会議員、とりわけ首相が改憲を叫び立てる異常事態が、この間ずっと続いてきました。

そのことを反映しているのが、憲法審査会の現況です。現在中心的な議題になっているのは緊急事態における国会議員の任期延長ですが、これまで野党による国会開催要求を散々無視してきた与党が、国会の重要性をここぞとばかり主張しており、言語道断というべきです。空疎な改憲談議の時間を積み重ねただけで具体的条文案作成へとなだれ込むことは、決して許されません。

私たちが求めるのは、憲法に基づき、平和といのちと人権を大切にする政治であり、社会です。しかし、いま岸田政権によってすすめられている大軍拡路線や、日米韓にとどまらないNATO諸国なども巻き込んだ軍事一体化。そして辺野古新基地の建設強行と南西諸島の軍備強化は、まったく憲法の平和主義と相容れないばかりか、沖縄県民の民意を踏みにじるものでしかありません。また、原発利用政策への回帰や放射能汚染水の海洋放出強行は、原発事故で大きな被害を被った福島県民はいうまでもなく、私たちの生存権を侵害するものです。

さらに問われなくてはならないのは、これらの重大な問題をまともに議論することなく、国会における多数をいいことに強行してきたということです。岸田政権は、安倍政権や菅政権同様に、民主主義破壊をすすめていることを厳しく非難されるべきです。

いっぽうで、憲法の理念を握りしめ、不屈にたたかう人びとがいます。バックラッシュの動きにも立ち向かいながら、ジェンダー平等の実現に向けて一歩ずつ前進をかちとっています。同性婚をはじめ性的少数者の権利拡大においても、勝利的な判決も出てきています。入管法改悪は強行されましたが、多文化共生に向けた地域におけるとりくみも広まっています。「ノーモア・ミナマタ」訴訟における大阪地裁での勝利をひとつの足がかりに、すべての水俣病被害者の救済をめざしたたかいは続いています。

私たちはこうしたがんばりに学び、力づけられながら、憲法がさし示す私たちの未来へと踏み出していかなくてはなりません。

ロシア・ウクライナ戦争の戦火は、いまなお止んではいません。さらにはイスラエルによるパレスチナ・ガザ地区に対する封鎖と攻撃が、日々たくさんの犠牲を生んでいます。しかし、絶望やあきらめこそ、もっとも避けるべき態度です。世界で立ち上がる人びとともに、現下の民衆虐殺を止めるべく声をあげましょう。

そして、日本政府がアメリカにただただ追従するのではなく、憲法に基づく平和外交に努めるよう、強く要求していかなくてはなりません。私たちが果たすべき役割は、たくさんあります。引き続き、ともにがんばりましょう。

2023年11月13日
憲法理念の実現をめざす第60回大会

アーカイブ動画

2023年11月10日

憲法審査会レポート No.25

今週は参議院憲法審査会不開催のため、衆議院憲法審査会のみのレポートです。

【参考】

自民改憲本部役員と憲法審幹事が初の合同会議
https://www.sankei.com/article/20231108-Y3H62U6E3FLUXBQKBJ3PXCRHYA/
“自民党憲法改正実現本部の役員と衆参両院の自民の憲法審査会幹事による初の合同会議が8日、党本部で開かれた。国会の憲法審が憲法改正の是非を他党と議論する場となるのに対し、同本部は改憲への理解を国民に広げる役割を担っており、連携を強化する狙いがある。”
“…与野党は同日、国会内で参院憲法審の幹事懇談会を開き、今国会初の憲法審を15日に開催することで合意した。参院選で隣接県を一つの選挙区に統合する「合区」などを議題とする予定だ。”

2023年11月9日(木) 第212回国会(臨時会)
第2回 衆議院憲法審査会

【アーカイブ動画】

https://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=54753
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【会議録】

※公開され次第追加します(おおむね2週間後になります)

【マスコミ報道から】

議員任期延長、早急議論を 衆院憲法審会長が視察報告
https://www.47news.jp/10106210.html
“団長を務めた森英介会長(自民党)は、各国が整備している緊急事態条項に触れ「緊急時の国会機能維持は重要だ。議員任期延長など速やかに議論を詰めなければならない」と強調した。”

衆院憲法審 “緊急事態条項 速やかに議論詰める必要”審査会長
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231109/k10014252271000.html
“…森氏は、視察した国の状況も踏まえ「価値観が多様化していることはわが国も同様と思われ、いかに国民を分断することなく合意形成を図るかが憲法改正のポイントだ」と指摘しました。”
“…審査会に先立って開かれた幹事会では、来週16日に審査会を開いて自由討議を行うことで与野党が合意しました”

【傍聴者の感想】

11月9日(木)、今臨時国会における第2回衆議院憲法審査会が開催されました。

今臨時国会冒頭、自民党や一部改憲野党の改憲に向けた岸田首相の決意を問う代表質問に対し、「総裁任期中に憲法改正を実現したいという思いは、いささかの変わりもありません。党内の議論を加速させるなど、憲法改正の課題に責任をもって取り組む決意です。」と答弁し、改めて改憲に対する決意を明らかにしました。

この日の衆議院憲法審査会では、衆議院欧州各国憲法および国民投票制度調査議員団の報告が行われました。視察議員団は、森英介(自民党)、新藤義孝(自民党)、中川正春(立憲民主党)、濵地雅一(公明党)、北神圭朗(有志の会)の5名の議員をもって構成され、訪問した国は、フランス、アイルランド、フィンランドの3国です。団長の森議員、中川議員、北神議員から調査のポイントとして①憲法改正の現状、②緊急事態条項、③国民投票の在り方の3点を中心に報告が行われました。

立憲民主党の中川議員からは、フランスでは緊急事態条項について、大統領がイニシアティブを持って行われる場合が多いことから、議会や国民がそのことによって分断される可能性が高いのではないかという疑念を持ったことなどが報告されました(今号では、立憲民主党の中川正春議員に視察レポートを寄稿いただきました)。

海外視察を決して否定するものではありませんが、最高法規である憲法には、その国の成り立ちや文化、辿ってきた歴史的な経緯が反映されています。日本国憲法は、アジア太平洋地域において日本がもたらした戦禍の反省から生まれた平和を指向する憲法で、決してGHQに押し付けられたものではありません。

ウクライナ戦争は収束の見通しが立たず、一か月が経過したパレスチナ・ガザ地区へのイスラエルによるジェノサイドは、既に1万人を超える罪のない人々を死に追いやり、その4割が子どもたちです。不条理としか言いようのない状況が止まる見通しがありません。

日本国憲法前文には「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。」と、謳われています。こうした日本国憲法の平和理念を全世界が共有することで、地球規模での恒久平和が実現します。これこそが本当の意味での「積極的平和主義」であることは疑う余地はありません。

立憲主義に基づく政治を進める義務を負う国会議員が改憲を唱えています。改憲という結論ありきで空疎な議論が積み重ねられています。明確な国家観ももたないまま、具体的な条文案作成から改憲発議という暴挙になだれ込むことは断じて許されるものではありません。(S)

【国会議員から】中川正春さん(立憲民主党・衆議院議員/憲法審査会幹事)

フランス、アイルランド、フィンランド各国で、関係者や専門家からの聴き取りをする中で、私なりに、特に印象に残った事柄を報告したいと思います。

【フランス】

フランスでは、憲法改正や法案作成に関連する3つの機関について、その役割が有効に働いていることを感じました。具体的には、コンセイユ・デタ、内閣事務総局、そして憲法院です。

コンセイユ・デタは、行政裁判の最高裁判所としての役割と、政府が法案を作る時の諮問機関、法律顧問としての役割を併せ持つと言います。しかし、政府からは、独立した機関であり、最高行政裁判所の役割を持つところから、日本の内閣法制局とは性質が異なることになります。一方で、政府の機関である内閣事務総局が、首相に対する法律顧問の役割を任っており、日本の内閣法制局に近いかもしれないと説明がありました。

さらに、憲法院があります。憲法院は、成立後、公布前の法律の合憲性審査を行うと同時に、事後審査制であるQPCでは、法律が国民の諸権利を侵害していると見なされる場合に、当該の法律を違憲・無効とする二つの権限を併せ持つ機関です。憲法と法律、また人権擁護に関連してこれだけのチェック機能を駆使しながら憲法を運用する体制に、深く感銘を受けました。

翻って、日本の実情に強い懸念を持ちます。憲法判断を避ける裁判所や政府の方針に沿った理論武装を担うことを使命とするような内閣法制局だけで、本当に適切な憲法や法律の運用が出来ているのか、自問しなければならないところだと思います。

次に、緊急事態条項です。

フランスでは、憲法の緊急事態条項は、実際上はさほど重要視されていないというブドン パリ=サクレ―大学教授の言葉がありました。憲法上の緊急事態条項よりも、緊急状態法などの一連の法律が議会や司法のコントロールの下で運用されているということが言及されました。緊急時に発動される例外的な政府の権力であっても、それを縛ることが必要だとすれば、憲法よりも法律で規定する方が実情に合った柔軟な対応が可能になるということです。
一方で、憲法改正の提起や起案は、どこからなされるのかという問題です。

フランスでは、大統領のイニシアティブで行われる場合が多いことなどが、報告されましたが、私は、議会や国民がこれによって分断される可能性が高いのではないかという疑念を持ちました。

【アイルランド】

アイルランドでは、市民議会が話題となりました。

市民議会は、ランダムに選出された99人の市民と1人の議長からなり、国民投票が想定されるような課題について、専門家や市民運動家、また、課題の当事者などから幅広く意見聴取しながら議論を重ねる中で、マスコミ報道などを通じて、国民の理解を得ながら提言を纏めることが想定されています。

ともすると、政策がポピュリズムに流され、政争の具に使われることなども懸念される現代政治において、政治闘争とは一線を画した市民議会が、アイルランドでは、うまく機能しているように思われます。私たち日本の民主主義にとっても、工夫の余地があるように思われました。

憲法の緊急事態条項については、さらにはっきりした見解が述べられました。

ケニー トリニティ・カレッジ准教授の言を借りれば、憲法の国家緊急事態に関する条項を適用するより、「期間を限定した上でその緊急事態に応じた法律を制定すること
によって措置を行うというプロセスがとられている」とのことです。また、「仮に憲法に規定がなくとも、国家緊急権は、行政府に内在していると、アイルランドの裁判所は判断すると思う」、との見解も出てきました。

安全保障分野では、アイルランドは、中立国としての立場をとっており、NATOへの参加はしないという姿勢です。EU関連条約批准のための憲法改正が、「アイルランドがEUの共同防衛に参加する義務を負う」と誤解されたために、国民投票で否決された経緯があります。そのため、EU関連条約を批准しても、憲法29条でEU共同防衛への不参加を規定することとして、EUに加盟しても共同防衛への義務を負うものではないということを、改めて、国民に説明したことから、2回目の投票では可決されたと言います。市民議会もなかった時代。憲法改正や国民投票では、その内容について、国民的な議論が広く行われ、内容が十分に理解されなければならないということです。

【フィンランド】

フィンランドは、1995年にEUに加盟し、1999年には憲法にあたる基本法を制定しました。EU加盟では、国民の間で意見が割れたため、国民投票によって結論を得ましたが、NATO加盟では、国民の70%以上が加盟への支持を表明していたから国民投票は行われなかったとのことです。

また、フィンランドのNATO加盟で、専守防衛という基本理念がどうなったかという問いに、クーセラ国防省防衛政策局長からは、「防衛軍は国や国民を守るための組織であり、他国に対して兵力を駆使して侵略や攻撃などを計画したり実行したりはしない。それを専守防衛と言っている。NATOも同じ政策を採っているのでそれと協調したものになっている。」と説明があり、防衛費が増大していくことに、国民の理解を得ていくとしています。ロシアのウクライナ侵攻を自分ごとに捉えるフィンランドがNATOに加盟
した背景は、切羽詰まったものです。アイルランドのNATO非加盟、中立政策維持や専守防衛政策に対するこだわりと対照的な対応になっています。

フィンランドでは、ヘルシンキの街の中心部に設置されたシェルターも視察しました。集合住宅には、シェルターの設置が義務付けられ、公共の物とあわせるとヘルシンキでは、住民の数、60万人を超えて、通勤者や旅行者の数も入れた90万人を収容できるとしています。普段は子供向けのスペースや球技場として使われているシェルターも、有事の際の空調、二重扉、水、発電設備、簡易トイレやベッドが整備され、2週間を耐える前提となっています。有事の際には、まず国民の命を守る。ここから出発するフィンランドの安全保障の本気度を見た気がします。

今回の視察を通じて、それぞれの国の憲法は、各国の歴史と環境が深くかかわって明文化され、時代の変遷の中で試行錯誤を重ねながらその時々の運用がなされてきていることが実感できました。

私たちも、日本の歩んできた歴史を振り返り、未来に対してより発展した世界観を示すことのできる憲法議論を目指していくことを改めて確認し、報告にしたいと思います。

(憲法審査会での発言から)

2023年11月03日

憲法審査会レポート No.24

今国会での憲法審査会をめぐる動きについて

10月20日から、第212回臨時国会が開催中です。23日の所信表明演説で、岸田首相は「国会の発議に向けた手続を進めるためにも、条文案の具体化など、これまで以上に積極的な議論が行われることを心から期待します」などと述べ、改憲へ執着する姿勢を示しています。

この間、とりわけ衆議院での憲法審査会の定例的開催が強行されてきました。また、維新の会や国民民主党による後押しなども続いてきました。今国会においてはさらに「論点整理」などを積み上げて、具体的な条文案作成へとステップを進めていくことが狙われている状況にあると言えます。

11月2日に開催された今国会1回目の衆議院憲法審査会は、幹事の選任という事務手続きのみの議事でしたが、終了後の取材に対して維新の馬場代表が改憲に慎重な立憲民主党は退場すべきなどと強い調子で語っているように、さらに改憲を呼号しながら立憲野党への攻撃を強めることも予想されます。

本レポートは、国会開催中は週1回ペースでの発行を続けていく予定です。引き続きのご注目をお願いするとともに、いま・まさに改憲をめぐる重大な局面にあるという危機感を、地域・職場で共有していただくことを強く呼びかけます。

なお、今週の参議院憲法審査会は不開催でした。

【マスコミ報道から】

今国会で初の衆院憲法審査会 憲法改正めぐり与野党議論へ
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231102/k10014245461000.html
“衆議院憲法審査会は今の国会で初めて開かれ、幹事の選任を行いました。”
“これに先立って開かれた幹事会では、森会長らがフランスなどを訪れた海外視察の報告を来週9日の審査会で行うことを決めました。”

憲法改正「首相の本気度」問う声 衆院審査会、初日は1分
https://www.jiji.com/jc/article?k=2023110201126&g=pol
“自民内では、首相が改憲に前のめりな発言を続けるのは、総裁再選や衆院選をにらみ「保守派の支持をつなぎ留めるため」との見方もある。維新幹部は「首相は本気で改憲を進めなければ自分の首を絞める。保守派の支持離れが進む」とけん制した。”

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