5月, 2025 | 平和フォーラム

2025年05月31日

核抑止政策の現状と課題:求められる核抑止依存からの脱却

渡辺洋介

1.はじめに

 ロシアによるクリミア併合(2014年)は、欧米とロシアの関係に深い亀裂を生んだ。そしてロシアによるウクライナ侵攻(2022年)がこれに続き、世界の分断は一層広がり、欧米を巻き込んだ戦争勃発への危機感が一気に高まることになった。そうした中で多くの核保有国が核抑止への依存を強め、一部の核保有国は核軍拡を進めている。また、日韓など他国の核抑止に自国の安全保障を依存する国々も、核抑止への依存をさらに強めている。核兵器の使用を前提とした核抑止政策への依存を強めることは、被爆者の思いを踏みにじる行為であるばかりでなく、誤算やミスコミュニケーションによる核兵器の使用など、様々なリスクを高める行為でもある。以下では、近年の核抑止をめぐる世界の状況を概観したうえで、本来進むべき方向性を改めて確認したい。

2.米欧分断と仏英の核兵器政策

 第2次トランプ政権発足後、米国はウクライナ防衛にコミットする意思がないことが徐々に明らかになってきた。その象徴的なできごとが2025年2月末から3月初めに起きた。2025年2月28日、トランプ大統領は、ワシントンを訪れていたウクライナのゼレンスキー大統領と会談した際、米国がウクライナの安全を保障すると明確に約束せず、激しい口論となった。その4日後、米国はウクライナへの軍事支援一時停止を発表した。トランプ政権がウクライナ防衛に本気でコミットする意思がないことが明らかになり、欧州では米国は欧州防衛にもコミットしないのではないかとの懸念が広がった。そうした中、3月5日、フランスのマクロン大統領は、ロシアの脅威に対し、フランスの「核の傘」を欧州の同盟諸国に拡大する用意があると述べた(注1)。この方針は、マクロンが2020年2月の演説(注2)で初めて明らかにし、その後も繰り返し表明してきたものだ。これは、ロシアの脅威を強調し、フランスの核兵器の役割を拡大しようとする試みといえる。それが実現すれば、誤算やミスコミュニケーションによる使用を含め、核兵器が使われるリスクを増大させることになる。にもかかわらず、残念ながら、この提案に対してポーランドやバルト3国など一部の欧州同盟国から歓迎の声が上がっている。

 欧州のもう一つの核兵器国である英国は2021 年以来、核抑止力の強化を進めている。同年公表された中長期的な安全保障政策の報告書「競争時代におけるグローバルな英国」(注3)において、英国は2010年に表明した核軍縮の方針を転換し、保有核弾頭数の上限を180発から260発に引き上げた。なお、英国が保有する核弾頭数について、ハンス・クリステンセンらは、2024年11月時点で225発と推定する(注4)
その後、英国は2025年6月2日に「戦略防衛見直し2025」(注5)を発表した。同報告書は、核抑止力の運用、維持、更新を「国防の最優先事項」と位置付けており、自国の安全保障における核抑止への依存をさらに高める方針を示している。さらに、レイクンヒース英空軍基地に再び米国の核兵器を持ち込むことも計画されている。フランスと同様、英国も核抑止への依存を強めており、今後、欧州・ロシア関係がさらに悪化しないか懸念される。

3.中国の核軍拡と米ロの核兵器政策

 英国に加え、残念ながら中国も核戦力強化を続けている。2024年12月18日に米国防総省が公表した報告書「中華人民共和国に関わる軍事及び安全保障上の展開2024」(注6)は、中国の保有核弾頭数を前年より100発多い600発と推定した。また、習近平国家主席は中華人民共和国建国100周年の2049年までに人民解放軍を「世界一流」の軍隊にすることを目指すと表明しており、目標達成に向けて、中国が2030 年までに運用可能な核弾頭を 1,000発以上保有すると米国防総省は予測する(一方で米国は、2025年1月の推定値で3,700発の運用可能な核弾頭を有している)(注7)。核弾頭数に関して中国政府は口を閉ざしているものの、衛星写真の分析などから、中国が核戦力を増強していることはほぼ間違いない。

 他方、米ロに目を転ずると、それぞれ2024年11月に新たな核兵器政策を発表した。米国のバイデン政権は、すでに同年4月に核兵器使用指針(非公開)を改訂していたが、11月7日にその要約「米国の核兵器使用戦略に関する報告書」(注8)を連邦議会に提出した。報告書は、核兵器と非核能力による統合抑止、中国による核兵器の増強と多様化への対処、中ロ朝という核保有国3か国を同時に抑止する必要性などを強調する一方で、核弾頭数を米国の目標達成に必要な最小限のレベルに抑えるために軍備管理などを行う方針を改めて確認した。なお、中ロ朝を抑止するために米国の核弾頭数を増やす必要があるか否かについて、報告書は言及を避けた。この点について、トランプ政権は2025年5月現在、まだ方針を固めていない。

 一方、ロシアも2024年11月19日に「核抑止に関するロシア連邦国家政策の基本原則(注9)を改訂した。ベラルーシにロシアの核兵器が配備されたことを受けて、必要な文言の調整を行い、ロシアのウクライナ侵攻後に起きた状況の変化をふまえ、ロシアによる「核抑止の行使」や「核兵器の使用」を招く恐れのある新たなケースを追加した。例えば、新たな軍事同盟の樹立または既存の軍事同盟の拡大による、その軍事インフラのロシア国境付近への進出や、潜在的敵対国によるロシア国境付近での大規模な軍事演習などがあれば、核抑止を行使し得るとした。これはNATOのウクライナやジョージアへの拡大やロシア国境付近へのNATO軍の展開を念頭に置き、それを核抑止によって防ぐ意図があるものと思われる。残念ながら、ロシアも核抑止への依存を強めている。

4.軍近代化を急ぐ北朝鮮

 核抑止への依存を強めているのは、核兵器国ばかりではない。北東アジアでは、中国に加え、北朝鮮が核戦力を増強し、日本と韓国は米国の核抑止への依存を強めている。

 北朝鮮は、日米韓の軍事力強化に対応すべく、核兵器増強と運搬手段の近代化を進めている。クリステンセンらによると、2024年7月時点で、北朝鮮は50発の核弾頭を保有していると推定されるが(注10)、その数を「幾何級数的に増やす」方針を同年9月に金正恩総書記がウラン濃縮施設を訪問した際に明らかにしている。

 同時に北朝鮮は、核兵器などの運搬手段の近代化を進めるため、ミサイル発射実験を繰り返している。例えば、2024年10月31日には、固体燃料式の大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星 19 号」の、2025年1月6日には新型極超音速中距離弾道ミサイルの発射実験を行った。さらに、2025年4月25日には、核ミサイル搭載可能と見られる新型多目的駆逐艦「崔賢(チェヒョン)」(5,000トン級)を進水させ、数日後には、同艦より超音速巡航ミサイル、戦略巡航ミサイル、対艦戦術誘導兵器などの発射実験を行った。

 また、北朝鮮は、ロシアと「包括的戦略パートナーシップに関する条約」(注11)と称する相互防衛条約を締結し、両国間の関係強化を図った。条約は経済・科学・文化など包括的な分野での協力を定めるとともに、第4条で「双方のうちの一方が他の一つの国家あるいは複数国家からの武力攻撃を受け、戦争状態に置かれた場合、他方は直ちに・・・利用可能なすべての手段を講じて、軍事及びその他の援助を提供する」と規定している。

5.拡大抑止を強化する日韓

 一方、韓国は米核兵器で北朝鮮を抑止する態勢を強化した。米韓は「ワシントン宣言」(2023年4月26日、注12)で創設された「米韓核協議グループ」(NCG)などを通じて、米核兵器による拡大抑止を中心とした米韓同盟のさらなる強化を図った。続いて、2024年7月に両国は「朝鮮半島における核抑止及び核作戦のための米韓ガイドライン」に署名した(注13)。またNCGの第3回会合では、朝鮮半島における核兵器使用を想定した机上演習を、軍事当局間及び政策当局間でそれぞれ毎年行うことで合意した。この合意に基づいて、前者の米韓机上演習を2024年7月30日~8月1日に在韓米軍基地(平沢)で、後者を9月5日~6日に米首都ワシントンで初めて実施した。

 日本もまた米国との同盟を強化した。2024年7月28日、日本と米国は、これまで官僚レベルで行ってきた日米拡大抑止協議を「拡大抑止に関する日米閣僚会合」(注14)として閣僚レベルで初めて開催した。日本は自国の安全保障を米国の核抑止に依存する方針をいっそう明確に示したのだ。

 その方針を反映してか、日本は核兵器禁止条約締約国会議へのオブザーバー参加にすら消極的である。岩屋毅外相は、2025年2月18日の記者会見で、同条約の第3回締約国会議への日本政府のオブザーバー参加を見送る決定をした理由を次のように説明した。

 「核兵器を包括的に禁止する核兵器禁止条約は、この核抑止とは相容れず、現状におきましては、核兵器国がこれを締結する見込みはありません。そのような中で、この条約の締約国会合にオブザーバー参加することは、我が国の核抑止政策について、誤ったメッセージを与え、自らの平和と安全の確保に支障をきたす恐れがあると考えます。」(注15)

 このコメントからは、米国の核抑止に依存しないと日本の安全を保障できないと思い込んでいる日本政府の本音が透けて見える。

 今一度確認したいが、日本は被爆国である。原爆投下による惨禍を経験した日本は、核兵器の使用を前提とし、核使用のリスクを高める核抑止政策への依存を安易に強めるべきでない。アジア版OSCE(欧州安全保障協力機構)や北東アジア非核兵器地帯の創設に向けた努力など、核抑止への依存を減らすことができるような国際関係構築のために日本は真剣な外交努力を続けるべきである。

注1 フランス大統領府HP
https://www.elysee.fr/en/emmanuel-macron/2025/03/05/address-to-the-french-people
注2 フランス大統領府HP
https://www.elysee.fr/en/emmanuel-macron/2020/02/07/speech-of-the-president-of-the-republic-on-the-defense-and-deterrence-strategy
注3 英国政府HP
https://assets.publishing.service.gov.uk/media/60644e4bd3bf7f0c91eababd/Global_Britain_in_a_Competitive_Age-_the_Integrated_Review_of_Security__Defence__Development_and_Foreign_Policy.pdf
注4 原子力科学者会報HP
https://thebulletin.org/premium/2024-11/united-kingdom-nuclear-weapons-2024/
注5 英国政府HP
https://www.gov.uk/government/publications/the-strategic-defence-review-2025-making-britain-safer-secure-at-home-strong-abroad
注6 米国防総省HP
https://media.defense.gov/2024/Dec/18/2003615520/-1/-1/0/MILITARY-AND-SECURITY-DEVELOPMENTS-INVOLVING-THE-PEOPLES-REPUBLIC-OF-CHINA-2024.PDF
注7 原子力科学者会報HP
https://thebulletin.org/premium/2025-01/united-states-nuclear-weapons-2025/
注8 米国防総省HP
https://media.defense.gov/2024/Nov/15/2003584623/-1/-1/1/REPORT-ON-THE-NUCLEAR-EMPLOYMENT-STRATEGY-OF-THE-UNITED-STATES.PDF
注9 ロシア外務省HP
https://mid.ru/en/foreign_policy/international_safety/regprla/1434131/
注10 原子力科学者会報HP
https://www.tandfonline.com/doi/epdf/10.1080/00963402.2024.2365013?needAccess=true
注11 スプートニクHP
https://sputnikglobe.com/20240620/full-text-of-russia-north-korea-strategic-agreement–1119035258.html
注12 米ホワイトハウスHP
https://bidenwhitehouse.archives.gov/briefing-room/statements-releases/2023/04/26/washington-declaration-2/
注13 米ホワイトハウスHP
https://bidenwhitehouse.archives.gov/briefing-room/statements-releases/2024/07/11/joint-statement-by-president-joseph-r-biden-of-the-united-states-of-america-and-president-yoon-suk-yeol-of-the-republic-of-korea-on-u-s-rok-guidelines-for-nuclear-deterrence-and-nuclear-operations-o/
注14 日本外務省HP
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100704441.pdf
注15 日本外務省HP
https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/kaiken/kaikenit_000001_00062.html

2025年05月30日

憲法審査会レポート No.57

改憲条文案起草委員会設置は見送り

5月29日に開催された衆議院憲法審査会の幹事懇談会で、改憲条文案の起草委員会の今国会での設置を見送ることを確認しました。いっぽう、議員任期延長に関する改憲骨子案を幹事会に提出することは了承されました。

【マスコミ報道から】

起草委設置見送りへ
https://digital.asahi.com/articles/DA3S16224674.html

衆院憲法審、議員任期の延長で改憲骨子提示へ 5党派が幹事会に
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA29BC20Z20C25A5000000/

【参考】

【憲法審査会幹事懇談会】国民投票法に関する意見交換。
https://yamahanaikuo.com/2025-05-29/
“…船田幹事からは、5会派でまとめた議員任期延長の骨子案について、審査会で配布の上、議論をしてほしい旨の申し出がありましたが、武正幹事から、ペーパーについて審査会で配布するのではなく、幹事会での配布にとどめるべし、ということで折り合いました。”

2025年05月23日

憲法審査会レポート No.56

【参考】

“護憲”に転じた自民 vs 不満爆発の高市氏 安倍氏なき改憲論争が引き起こした自民の内乱劇
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/88429

2025年5月21日(水)第217回国会(常会)
第4回 参議院憲法審査会

【アーカイブ動画】

https://www.webtv.sangiin.go.jp/webtv/detail.php?sid=8542

【マスコミ報道から】

参院憲法審査会 憲法と現実のかい離めぐり各党が議論
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250521/k10014812261000.html

自民、参院の「合区」解消を主張 憲法審、立・公は同性婚実現訴え
https://nordot.app/1297868247770169734

【傍聴者の感想】

今回の自由討議のテーマは、「憲法と現実の乖離」でした。

「憲法では素晴らしい理念を唱えた。しかし、現実は程遠い。だから現実に即した憲法に改正してしまえばいい」という論理は、あたかも理にかなっているようですが改憲派による都合のいい主張です。憲法が権力者の思いのままに蹂躙されることは、あってはならないでしょう。

これだけのコメ価格や物価の高騰にあえいでいる中、生活保護申請件数が増え、若い世代の奨学金返済が困難となり結婚や出産、育児に影響が及ぶことで人々の生存権や幸福が脅かされています。

選択的夫婦別姓や同性婚が遅々として実現せず、個人の尊厳が否定され人格権を侵害しています。集団的自衛権が行使できるよう安保法制を整え、43兆円もの軍事費をつぎ込んで、敵基地攻撃能力を備えるなど言語道断です。

それにもかかわらず「崇高な理想と目的」が達成されていないとするなら、一体誰が「違憲的な」今の現実をつくってしまったのかをしっかりと明らかにし、反省すべきです。

結局のところ、日本国憲法に書かれている理念に立ち返って政策を実行し、それが的確に実現されているかどうかを国全体でチェックする必要があるのではないでしょうか。

「現実を、どのようにして憲法が唱える理念に近づけるか。」この問いに私たちは答えなければなりません。

【国会議員から】福島みずほさん(社会民主党・参議院議員/憲法審査会委員)

国会法第102条の6は、各議院に憲法審査会を設け、日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制について広範かつ総合的に調査することを目的の一つとしています。その意味で、本日、憲法と現実の乖離について議論がされることは憲法審査会の設置目的にまさにかなうものです。

日本国憲法98条は、憲法が最高法規であると規定しています。日本国憲法ができて、例えば民法の親族編、相続編が大改正になりました。戦前、民法は、妻は無能力者であると規定し、妻は婚姻によりて夫の家に入るとしていました。しかし、憲法24条が、家族の中の個人の尊厳と両性の本質的平等を規定し、家制度は廃止になり、また、男女平等になりました。まさに、憲法の威力です。

そして、戦争をしないと決めた憲法9条により、専守防衛、海外に武器を売らない、非核三原則、軍事研究はしないなどの原則が積み上がっていきます。まさに、憲法を生かしていくという人々の動きが法制度や政策をつくってきました。だからこそ、憲法と現実の間に乖離があるときに、現実をどう憲法に近づけていくかが重要であり、憲法を現実の方に引きずり下ろすことは本末転倒の、憲法を理解しないものです。

日本国憲法99条は、「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。」と規定をしています。まさに、憲法を守らなければならないのは権力者です。私たち国会議員も憲法尊重擁護義務を持っています。だからこそ、本当に憲法理念を生かし切れているのかということを常に問う必要があります。憲法改正など、憲法を十分に守ってから言えと言いたいです。

ところで、自民党日本国憲法改正草案は、国民に憲法を尊重する義務を課しています。つまり、憲法とは国民が国家権力を縛るものであるのに対し、自民党日本国憲法改正草案は、180度回転をさせ、国家権力が国民を縛るものにしているのです。これはもう憲法ではありません。

憲法尊重擁護義務を持つ国会議員は、憲法理念を実現するために多大なるエネルギーを注ぐべきであり、憲法理念がまだまだ生かされていない現実の中で、憲法改正を言う資格はありません。

まず、選択的夫婦別姓と同性婚について話します。

NHK日本語読み訴訟判決が述べたように、名前は人格権です。結婚するときにどちらか一方が必ず改姓しなければならないことは、憲法十三条が保障する人格権、個人の尊重と幸福追求権を侵害しています。また、夫又は妻となっているものの、女性が95%氏を変えていることは憲法14条の法の下の平等に反しています。また、一方が必ず結婚改姓を強制されることは憲法24条に反しています。

ところで、5月20日、自民党は公明党に、選択的夫婦別姓について、今国会では困難であり、650以上の法律や2700以上の政省令の見直しが必要であると説明しました。しかし、打越さく良議員の質問主意書の回答では、四つの法律しか改正の必要はありません。間違った認識で違憲状態を放置することは許されません。

同性婚を認めないことは明確な憲法違反であると五つの高等裁判所が断じました。憲法14条、13条、24条に反していることが理由です。好きになった相手によって、そもそも結婚届を一切出せないのですから、その不利益も極めて甚大です。五つの高等裁判所が違憲と言ったにもかかわらず、国会でまだ同性婚が成立していません。

選択的夫婦別姓と同性婚が認められていないことは、まさに憲法と現実の乖離です。憲法に合致するように法律を変えることで、幸せになる人を増やすことができます。実現できていないことは国会の怠慢です。家族が崩壊するなどといって多くの人が幸せになることを妨害することは、憲法理念を理解せず、憲法尊重擁護義務を踏みにじるものです。憲法と現実の乖離を埋める努力をすることこそ、国会議員はやるべきです。

憲法と現実の乖離というのであれば、生存権の規定が国民に保障されていないことは大問題です。生活保護の基準を引き下げたことに対して、いのちのとりで裁判が全国で提訴され、勝訴判決が相次いでいます。まさに生存権の侵害です。訪問介護の報酬を減額したことで、訪問介護事業所が倒産をしていっています。これこそ、介護を受ける権利の侵害であり、生存権の侵害です。高額療養費の自己負担額引上げも生存権の侵害です。

ほとんど全ての憲法学者が集団的自衛権の行使は憲法違反であると言っているにもかかわらず、2014年、安倍政権は集団的自衛権の行使を認める閣議決定をし、2015年、安保関連法、戦争法を強行成立させました。安保関連法、戦争法は憲法違反です。憲法九条を基に戦後積み上げられてきた、海外に武器を売らない、軍事研究をしないということも破壊されていっています。

2022年12月に閣議決定をした安保三文書の具体化が進められています。沖縄、南西諸島における自衛隊配備とミサイル計画、それが九州にも、そして西日本にも、全国にも広がり、全国の軍事要塞化が進められています。戦争のできる国から戦争する国へ、憲法9条破壊が進んでいます。

そして、次々と憲法違反の法律が成立していっています。現在、国会で審議中の学術会議改革法案は、学術会議の破壊法案であり、憲法23条の学問の自由を侵害するものです。小西洋之議員が、菅政権のときに、6人の任命拒否について内閣法制局の文書の黒塗りを開示するよう求める東京地裁の裁判で勝訴しました。この黒塗りが開示されることなく、法案の審議入りはありません。

憲法の規定が守られないことは枚挙にいとまがありません。憲法53条後段は、いずれかの議院の総議員の4分の1以上の要求があれば、内閣は召集の決定をしなければならないとしていますが、内閣が臨時会を召集しなかったことが今まで、2015年、17年、21年など存在しています。まさに憲法を無視し、憲法規範の空洞化を政府自身がつくっているのです。たくさん存在する憲法と現実の乖離を埋めるべく、法律制定、法改正や政策の転換をすることこそ、国会に求められています。

なすべきは、憲法改正でははく、憲法理念の実現です。憲法を踏みにじっている人たちが憲法改正を言うことなど、言語道断、ずうずうしいにも程があると言わざるを得ません。現実を憲法に合わせ、憲法が保障する基本的人権が生かされる平和な社会をつくっていくべきです。憲法審査会にもその役割が期待されています。

(憲法審査会での発言から)

【国会議員から】打越さく良さん(立憲民主党・参議院議員/憲法審査会委員)

憲法と現実が乖離する場合、憲法99条により憲法尊重擁護義務を負う私たち国会議員は、現実を憲法に近づけなければなりません。

昨年の選挙の結果衆議院の憲法審査会では枝野幸男会長の元、ようやく熟議を尽くせる構成になりました。5月1日共同通信社が公表した世論調査では、改憲の必要性については「どちらかといえば」を含めて70%が肯定したものの、「改憲を急ぐ必要はない」が50%です。さらに、改憲の進め方については、「慎重な政党も含めて幅広く合意形成を進めるべきだ」が72%と圧倒的です。改憲に前のめりな姿勢は諌められているのです。

私が本審査会でこれまで述べてきたように、日本国憲法に違反すると主張されながら改正されずに放置されている法律について調査を行うことは本審査会の第一義的な責務です。

先ほどの共同通信社の調査では、選択的夫婦別姓については実に71%が賛成であり、同性婚についても賛成が64%です。憲法の基本的価値、個人の尊重、個人の尊厳、平等に適う法制度について、私たち国会議員は世論がたとえ消極的であっても実現しなくてはいけませんが、今や世論も賛成しているのです。望まれる諸制度の実現を先送りし、憲法尊重擁護義務違反を続けるべきではありません。

憲法は、不平等、差別、理不尽に甘んじず、立ち上がるときの手がかりになります。私は第一次訴訟弁護団事務局長としてまさに憲法を手がかりに多くの女性たちと連帯して選択的夫婦別姓を認めない現行法は憲法に違反すると戦いました。今や芦部信喜先生の「憲法 第八版」において、夫婦同氏強制を憲法違反だとする学説が多数であるとされています。今会期中でぜひ実現すべきだと多くの声が上がっています。また同性婚訴訟では、5つの高裁全てで違憲判断がなされました。

選択的夫婦別姓や同性婚を認めれば、社会の幸せは確実に増えます。多様な幸せを認めなかった家制度がとうに廃止され、家族法は個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して制定されなければならないことになっているのです。選択的夫婦別姓と同性婚に反対する国会議員は、そのことを頑なに認めないもので、憲法尊重擁護義務に背を向けていると言わざるを得ません。

本委員会の使命は、こうした憲法に沿わないとされている法律について、立法府として熟議を行うことにあります。

(憲法審査会での発言から)

2025年5月22日(木) 第217回国会(常会)
第7回 衆議院憲法審査会

【アーカイブ動画】

https://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=55809
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【マスコミ報道から】

衆院憲法審 SNS偽情報が国民投票に与える影響めぐり参考人質疑
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250522/k10014813391000.html
“衆議院憲法審査会では、SNS上の偽情報の拡散が憲法改正の国民投票に与える影響などをめぐり、有識者への参考人質疑が行われ、投票期間中などは、SNS事業者への規制を設ける必要性や、情報のファクトチェックを行う重要性などが指摘されました。”

ネットの偽・誤情報対策「民間の重層的ファクトチェック重要」…衆院憲法審査会が参考人質疑
https://www.yomiuri.co.jp/politics/20250522-OYT1T50222/
“衆院憲法審査会は22日、インターネット上の偽・誤情報対策をテーマに参考人質疑を行った。民間団体やマスメディアによる重層的なファクトチェック(情報の真偽検証)の実施や、選挙中はプラットフォーム事業者に一定の対策を取るよう求めるなどの対応策が上がった。”

広報協議会、偽情報対応に慎重 衆院憲法審で参考人
https://www.jiji.com/jc/article?k=2025052201003&g=pol
“平和博桜美林大教授は「公的機関がファクトチェックを掲げることは表現の自由を侵害するリスクがある」と指摘。「ファクトチェック団体は、国家からの統制を受けない独立性が基本となる」と述べた。”
“鳥海不二夫東大院教授は「広報協議会が信頼を得ることが非常に重要だ」と語った。”

【傍聴者の感想】

今回の衆議院憲法審査会は、はじめに枝野審査会会長が「国民投票広報協議会」にかかわることについて、先日、17日の幹事懇談会の後に行われた意見交換会で議論した内容を説明しました。

その後、参考人の鳥海不二夫さん(東京大学教授)からは「デジタル情報空間における偽誤情報の拡散とその訂正」について、平和博さん(桜美林大学教授)からは「国民投票におけるフェイクニュースおよびファクトチェックについて」の説明を受け、各委員が質問するというところで審査会は終了しました。

主要な論点となったSNSなどでのフェイクニュースとその影響については、参考人の方からの説明はわかりやすく、あらためてSNSのもつ危険性を認識しましたが、それ(フェイクの拡散)を防ぐ手立てとしての対策が、残念ながら理念的にとどまっているなと感じました。

改正ありきの議論ではなく、個別のテーマで参考人の説明を受けたり、それぞれ議論することで、この現状で改正が必要か? という感じになればいいのですが。

2025年05月23日

ニュースペーパーNews Paper 2025.5

5月号もくじ
ニュースペーパーNews Paper 2025.5
表紙
*TPNW第3回締約国会議について 中村桂子さん
*217回通常国会での憲法審査会の状況
*今国会での「選択的夫婦別姓」の法制化を望む!
*曽野綾子氏死亡記事に見る沖縄と本土との温度差
*戦後80年企画、日本の平和と民主主義の歩みを考える
*再審の道半ば、悔しさを乗り越えて勝利の日まで

2025年05月16日

憲法審査会レポート No.55

今週は衆院憲法審査会幹事懇のみ開催

5月15日に開催された衆議院憲法審査会の幹事懇談会では、自民党の船田元・与党筆頭幹事が憲法改正原案条文案を起草する委員会の設置を提案しましたが、立憲民主党の武正公一・野党筆頭幹事は応じませんでした。

【マスコミ報道から】

衆院憲法審 幹事懇談会 自民の起草委設置の提案に立民 応じず
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250515/k10014806701000.html

自民、起草委設置を提案 衆院憲法審、立民は反対
https://www.jiji.com/jc/article?k=2025051500975&g=pol

自民・船田氏、憲法改正の起草委提案 立憲は「あり得ない」と一蹴
https://www.asahi.com/articles/AST5H31YMT5HUTFK00GM.html

憲法改正、自民が起草委設置提案も実現見通せず 反転攻勢へ前向き5党派が再結束
https://www.sankei.com/article/20250515-IESQJOOIJ5KCLMY7VKE6BBSNI4/

2025年05月09日

憲法審査会レポート No.54

2025年5月7日(水)第217回国会(常会)
第3回 参議院憲法審査会

【アーカイブ動画】

https://www.webtv.sangiin.go.jp/webtv/detail.php?sid=8493

【マスコミ報道から】

「災害下の選挙」に備えを 参院憲法審で参考人質疑
https://www.jiji.com/jc/article?k=2025050701080&g=pol

参院自民、投票繰り延べ評価 災害時対応、衆院と違い 憲法審
https://digital.asahi.com/articles/DA3S16209293.html

大規模震災時「投票延期で対応」 有識者説明、参院憲法審
https://nordot.app/1292787638534160635

【傍聴者の感想】

今回のテーマは「災害時等の選挙制度について」ということで、3人の参考人から話を聞き、質疑応答を繰り返す形で行われました。「緊急事態条項」によって選挙実施が不可能になることを想定すると、議員任期の延長が必要になるので、「憲法改正」をしなくてはならない、と考えている政党・党派の中で、特に日本維新の会については、同じ説明を聞いてもあれだけ理解に違いが出るのかと感じざるを得ませんでした。

総務省をはじめとした3人の参考人は、現行制度の中で阪神淡路大震災、東日本大震災や熊本地震、能登半島地震などを経験し、積み重ねられてきたノウハウを国として必要なマニュアル化をすすめ、地域実態によってそれをベースに緊急事態でも選挙が実施することができるよう準備を進める重要性について、繰り返し述べていました。

自民党の佐藤議員も「公職選挙法57条による繰延投票」は柔軟な対応ができる制度だと述べ、あらかじめ想定できる災害等については、起こった時の対応を「事前に決めておく」重要性について話しました。実際に東日本大震災の時の陸前高田市に選挙支援に入った参考人からは、「あくまでも主体はその地域であること・選挙支援ができる人材を日常的に育てていくことが重要」と述べていました。

共産党・山添議員とれいわ・山本議員は、地方自治体の職員が減っている現在、いざという災害が起こった時の人が足りない状況について、根本的な人員不足の問題こそ議論すべきではないかとも述べました。

能登半島地震から1年以上が経過しましたが、地元自治体職員の中では、一日も休んでいないと話す方もいらっしゃるそうです。選挙管理委員会の運営を担う地方自治体の職員は、一度災害が発生すれば、自身が被災者になることもありながら、人命救助や生活確保に奔走する実態が明らかになっています。

その結果、オーバーワークを引き起こす事例は災害が起こるたびに繰り返し報告されている事実であり、「緊急事態」を想定するのであれば、構造的な人員不足を回避するための地方自治体行政のありかたこそ、国会の場で議論されるべきです。地域を支える国の制度をいかに構築するか、そのことをまず考えなくてはなりません。

立憲の小西議員は現行制度(公選法)では「繰延投票」しか制度がないことを確認したうえで、大規模災害等が起こった時の法整備を先に検討することについて述べられました。

沖縄の風・高良議員は「選挙権は基本的人権の問題」という観点を持って考えていくことの重要性について話されました。

参考人が最後まで繰り返し述べていたのは、「いざというときに対応できる人材育成の重要性」です。参考人から述べられた経験に基づく話に対して、「改憲ありき」になっている政党・党派の議員からは、「長期的で広範な」緊急事態が生じることを想定すると、「憲法改正」によって議員任期を延長するしかないと結論付けられます。すでにこれまで経験した大災害や感染症対策から何を学び、何を想定するのかという議論が著しく欠如しています。いわば考えることを放棄し、結論ありきの政治を進めようとする議員のみなさんの実態を知ることができた2時間でした。

私は今の自分の生活や、未来に大きく影響がおよぶ大切な政治を、せめて自身で考え行動し、自身の言葉で語ることができる議員に任せたいと心から感じました。

2025年5月8日(木) 第217回国会(常会)
第6回 衆議院憲法審査会

【アーカイブ動画】

https://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=55758
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【マスコミ報道から】

衆院憲法審 解散権制限めぐり 立民 “法律で” 自民“慎重に”
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250508/k10014799901000.html

衆院解散の制限、自民は慎重 立民「法的対応を」―憲法審
https://www.jiji.com/jc/article?k=2025050800889&g=pol

薄まる「対立色」…改憲を話し合う衆院憲法審査会に起きた「変化」 積極的な政党でも「意見」バラバラ
https://www.tokyo-np.co.jp/article/403567

衆院憲法審、7条解散でも隔たり 「緊急時の国会機能維持」議論一巡も合意見通せず
https://www.sankei.com/article/20250508-KWE6MG56WVNNPEAWV4FZBYGRMY/

【傍聴者の感想】

きょうの議題は衆議院の解散権の限界と制限でした。憲法7条では内閣の助言と承認にもとづく「天皇の国事行為」の一つとして解散が規定されており、さらに憲法69条では内閣不信任案が可決された場合に、10日以内に内閣総辞職か衆議院の解散をしなければならないとされています。

衆議院法制局の説明によれば、解散は国民から選挙された議員から任期満了前に他の国家機関が一方的に身分を失わせるという「非民主的」な側面がある一方、①議会と内閣という国家機関間の紛争解決、②新たな争点に対する国民の判断を聴取する国民投票の代用、③議会における多数派の形成や与党内部の造反の抑制を通じた内閣の安定化という「民主的」な機能も持つとされています。

議論は各会派の代表者からの発言ののち、自由討議へと移りました。自民党の議員は内閣の解散権の制限には慎重な立場から発言していました。「解散権は選挙という国民の権利を保障するものであり、民意を的確に議会にさせることができる」という見解を根拠に、「個人的な見解」という留保をつけつつ「解散権の行使にふさわしいかは内閣の判断による」「解散権の行使が内閣の都合によって行われたかどうかは国民が選挙を通じて判断する」との言い分でした。

これに対し、立憲民主党など野党の議員からは解散権が自民党の都合により恣意的に濫用されてきた経過について指摘がありました。日本国憲法の施行後に行われた26回の解散のうち、69条によるものは4回で、残り22回は7条だけにもとづいて行われたものです。7条にもとづいて与党が党利党略で衆院の解散を繰り返している状況は明らかです。これに関して、野党議員からは、与党議員が「解散権は総理の専権事項」といった憲法の条文にない認識をたびたび示していることに厳しい批判が寄せられていました。

自民党の議員が解散権の制限に慎重な意見を述べるのは、これまでの自民党が解散権を党利党略に利用してきた事実を反映しています。これからも「伝家の宝刀」をいつでも抜けるようにしておきたい、という彼らの願望も示しています。しかし、昨年の総選挙を振り返ると、与党の党利党略による解散・総選挙が有権者に与えている不信がますます大きくなっているのも事実です。解散権を通じて民意を騙る自民党が、解散・総選挙で問われた民意によって淘汰されるのは痛快な皮肉です。この夏の都議選、参院選でも自公をさらに少数に追い込むたたかいが必要です。

【国会議員から】谷田川元さん(立憲民主党・衆議院議員/憲法審査会委員)

緊急事態であっても国会の機能を維持するため、議員の任期延長が必要だとの意見が多く出されていますが、国会機能の維持がそれ程重要ならば、それを不全にする、時の内閣による衆議院解散の問題を優先して議論すべきではないでしょうか。

2014年、2017年の安倍総理による解散は、どう見ても今やれば勝てるとの判断の下、解散が強行されたと断じざるを得ません。また、2021年10月の岸田総理による解散、さらに昨年10月の石破総理による解散は自民党総裁選が終わった直後で、ご祝儀相場のうちに少しでも早い方が有利との判断でなされました。

しかし、昨年は与党の思惑通りにはなりませんでした。憲法審査会の委員でもあった石破総理は、憲法7条による恣意的解散を度々批判していました。さらに解散前に予算委員会を開いて、国民に判断材料を与えるべきと言っていたのが、党首討論でお茶を濁す始末。そういった石破総理の言行不一致に国民がお灸をすえたと言えます。

さて、これまで日本国憲法下27回の衆院選挙が実施されましたが、任期満了選挙は1976年の三木内閣の時だけです。

すべてが任期満了で実施されたとすると19回で済みます。そうすると一度も解散がなければ8回分の経費が節約できたことになり、1回の衆院選の費用は約600億円ですので、4800億円の税金が使われずに済んだことになります。果たしてこれだけの大金を使うだけの大義があったのか?時の政権が権力を維持するために、国民の血税が使われたのが大半ではないでしょうか。

さて、2024年の世界の政府純債務残高対GDP比を見てみると、日本は236.66%で、1位のスーダンに次いでワースト2位です。どうしてこれ程の借金大国になってしまったのか? 私は日本において頻繁に国政選挙が行われていることが大きな要因だと考えます。本来、総選挙で勝利した政党は次の選挙までの4年間で公約に基づく政策を実現していくべきですが、現実には2~3年で解散総選挙。加えて参院選挙まで、政権選択の意味合いを帯びると常に選挙対策優先になり、国民に負担を求める政策は後回しになりがちです。財政再建、少子化対策など長期的に取組むべき政策が実現できない状態にあると思います。

さて、与党の幹部や閣僚が「解散は総理の専権事項」という発言を度々します。私はそれに違和感を覚えます。憲法や法律にそのような表現は一切ありません。専権とうい字を広辞苑で引いてみると「権力をほしいままにすること、思うままに権力ふるうこと」とあります。すなわち専権事項というのは、口出し無用という意味です。

5年前の委員会質疑で、私が当時の高市総務大臣に解散について質問したところ、「正当な理由のない恣意的な解散は望ましくなく、時の内閣がしっかりと政治的な責任を持った上で解散を行なう」と述べられて「総理の専権事項」という表現は一切お使いにならなかった。これは立派な見識だと思います。

そこで自民党と公明党にお伺いします。衆院解散をテーマとして今日こうやって憲法審査会で議論しているのですが「解散は総理の専権事項」という表現を使うべきでないと思いますが如何でしょうか?

お配りした資料を見て下さい。保利茂元衆議院議長や水田三喜男元自民党政調会長が恣意的な解散を批判しています。アンダーラインの部分を一部だけ読み上げます。

・現行憲法下で内閣が勝手に助言と承認をすることによって“七条解散”を行うことには問題がある。それは憲法の精神を歪曲するものだからである。
・“七条解散”は憲法上容認されるべきであるが、ただその発動は内閣の恣意によるものではなく、あくまで国会が混乱し、国政に重大な支障を与えるような場合に、立法府と行政府の関係を正常化するためのものでなければならない。
・特別の理由もないのに、行政府が一方的に解散しようということであれば、それは憲法上の権利の濫用ということになる。衆議院を解散するに当たっては、三権分立、議院内閣制のもとにおいてそうせざるを得ないような十分客観的な理由が必要なはずである。
・国会議員の任期が保障されない限り、議員は常に選挙運動に追われて落ちつかず、国会の公正な審議と採決が常に選挙用のゼスチュアによって妨げられる実情も、決してゆえなしとは思われないのであります。

自民党と公明党にそれぞれこのお二人の考えをどう受け止めるか? 見解を伺います。

私ども立憲民主党は、恣意的解散を抑制するための法案を準備しています。衆院解散決定の手続き等を定めたもので、内閣は衆院解散を決定しようとするときは当該解散の予定日及び理由を10日前までに衆議院に通告し、あわせて議院運営委員会における質疑を義務付けます。これにより、衆院の解散理由が妥当なのか? 総選挙の争点が何なのか? 国民に判断材料を提供することになります。

また、過去2回の衆院選では、解散から選挙期日までが極めて短く、地方選管の準備が整わず、問題が生じました。そこで、あらかじめ中央選管が全都道府県選管の意見を聴取し、それに基づいた中央選管の意見の聴取後に内閣が選挙日程を決めることを義務付ける内容です。この法案をしかるべきタイミングで提出することを考えていますが、是非他の会派の皆さんと共同で提出したいと思いますので、ご検討の程宜しくお願い申し上げます。

(憲法審査会での発言から)

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