6月, 2025 | 平和フォーラム

2025年06月30日

辺野古新基地埋立て用の海砂採取を瀬戸内海から考えるー生物多様性の保全に逆行する海砂採取は禁止をー

湯浅一郎

 2024年1月10日、辺野古新基地建設を巡り、沖縄防衛局は軟弱地盤がある大浦湾側の埋立てに着手し、重機を登載した台船が石材の海への投下を開始した。そして2024年12月28日、海底への敷砂散布をごく一部、開始し、軟弱地盤改良工事に着手した。2025年1月29日からは砂杭の打ち込みを開始した。今、大浦湾には6隻のそびえるような高さの地盤改良用のサンドコンパクション船がひしめき、その他の工事も含めて大浦湾一帯で膨大な生物群を抹殺する工事が国家の手によって進められている。

 地盤改良工事では、砂の荷重で圧密沈下を早くさせるために厚さ1.5mの砂を敷く敷砂を行う。地盤改良工事に必須の砂杭は全体で約4万7千本に上るとされるが、2025年5月末までに2800本の砂杭が打設された。これら敷砂と砂杭の両者を合わせると合計349万m³の海砂が必要とされる。さらにケーソン護岸の中詰材として38万m³の砂が必要となるので、全体で386万m³もの海砂が必要である。こうして大浦湾の地盤改良工事で、初期において大量に必要なものは海砂であることがわかる。

 ここでは、瀬戸内海での経験から海砂採取は海底の生物相を破壊し、生物多様性の低下をもたらすものであり、海砂採取そのものを中止すべきであることを提起する。

1.21世紀に入り海砂採取は禁止に向かっている

 防衛省の計画では、当面、海砂は沖縄島の周辺から供給される。しかし、これ自体が、海砂採取に関する近年の全国的な傾向に逆行する行為である。1960年代に始まった海砂採取は、日本の高度経済成長とともに急増し1980~1990年にかけてピークとなり、21世紀に入り減少した。図1(注1) に日本における海域ごとの海砂採取量の経年的な変遷を示した。1970年代半ばから1990年代までは瀬戸内海が圧倒的に多く、1980年代は年間2000万m³が採取され、ピーク時には2500万m³にも達していた(右図)。次に多いのが九州・沖縄で、一貫して増加していたが、ピークは瀬戸内海よりも約10年遅い2000年に約2000万m³となっている。

 瀬戸内海では1998年の広島県をスタートに2006年の愛媛県を最後に海砂採取は全面禁止となった。今、残っているのは九州・沖縄で、それも減る方向にある。その中で玄界灘、響灘、五島沖などを含む北九州が多く、2000年のピーク時には約1200万m³に達するが、そのあとは減少傾向にある。沖縄県は1980年代から増え、2000年のピークに約400万m³採取しているが、そのあとは減少傾向にある(注2)。

 採取が続く各県においても、沖縄県を除き1年間に採取できる総量を制限する総量規制が導入されており、鹿児島県は県外への移出を禁止している。残念ながら沖縄県だけが総量規制がないのである。こうした海砂採取を減少させていこうとする動きは1992年の地球サミットで生物多様性条約が採択され、生物多様性の保全のために社会を変えていこうとする国際的動向とも符合している。

2.瀬戸内海における海砂採取の環境破壊

1)海底地形の変化と海岸での砂の流出

 海砂採取の作業の様子を図2に示す。真空ポンプで海底の砂を強制的に吸引する作業となるため2つの大きな問題がある。第1は、海底で生きている生物を丸ごと甲板にあげてしまうことになり、その場の生物相を破壊することになり、さらにそれを起点とした近隣生態系の変化をもたらす。第2が濁水を常時放出し続けることで、透明度の低下や泥が海藻に付着することで藻場の消失が起きたと考えられる。

 瀬戸内海で採取の中心の一つとなった広島県中東部での経験(注3)を見ていく。まず竹原市から三原に至る三原瀬戸での海砂採取により、海底地形が急激に深くなってしまった。この海域に面している竹原市忠海町の海岸付近では、海辺の民家の床下の砂が流出し、基礎の下に空洞ができ、アリ地獄のような状態で家が傾いてしまう現象はテレビなどでくり返し報道された。海岸の砂が無くなり、海岸線に沿った護岸が崩れたり、灯篭が傾いてしまうなどの現象が起きている。

2)イカナゴの減少と食物連鎖構造の変化
ー特にイカナゴの産卵・夏眠の場を奪う海砂採取ー

 海砂採取で最も被害を受けたのは低次生態系の中心を担うイカナゴである。海には図3のような生態系ピラミッドと言われる食物連鎖構造がある。もっとも基礎にあるのが植物プランクトンで、その上に植物プランクトンを食べる動物プランクトンがいる。この動物プランクトンを食べるのがイカナゴ、カタクチイワシなどの小魚類である。その上に小魚を餌とするタイ、サワラ、イカなど、さらにスナメリクジラなどがいる。あらゆる生物が、こうした食物連鎖構造のどこかに位置し、相互に関わっている。階層が一つ高くなるほど存在量は1桁ずつ小さくなっていく。

 ここでは、海砂採取で最も大きな被害を受け、海砂と生活史が深く関わっているイカナゴをとりあげる。イカナゴの生活史を見ると、3月頃は小魚として動き回っているが、6月終わりになると、体の後ろ半分を砂地に潜らせ、夏眠をはじめる。水温上昇とともに長期の休息に入るのである。12月末になって夏眠をやめ、水中に出てきて、1月頃、砂地に産卵する。そして2月に孵化し、3月には泳ぎだすというわけである。つまり生活史において産卵場所や夏眠の場所が海砂のある海域であり、海砂とともに生きているといってもいい。海砂採取が、イカナゴの生活の場を直接侵害するものである限りにおいて、当然にもイカナゴ資源は激減した。

 図4は、岡山県での海砂採取量とイカナゴ漁獲量の変遷を一つの図にしたものである。岡山県では1970年代に海砂採取量が急激に増え、その後は横ばいになるが、それにつれて1975年ころから1980年代半ばにかけてイカナゴ漁獲量が急激に減少し、1980年代半ばにはほとんど採れなくなった。

 しかし、より本質的で、重大な問題は、さらにもう一つ先にある。図3の生態系ピラミッドを見てみると、イカナゴは下から3つ目のところに位置しており、動物プランクトンを食べている。海砂採取によりイカナゴが極端に減ったことに連れて、食物連鎖構造に一つの穴ができたことになる。その穴を埋めたのがクラゲなのではないかという仮説が成り立つ。クラゲがいつ頃から異常増殖するようになっていったのかは、海域ごとに違うし、明確にはわからない。しかし1,980年代頃から増えていったことは経験的に間違いない。動物プランクトンを食べる階層にいる。イカナゴが減少したことで、それまでイカナゴに食されていた動物プランクトンをクラゲが食べられるようになり、クラゲの異常増殖につながったのではないか。クラゲは増えても、それを食す魚が少ないので、食物連鎖構造のバランスが崩れてしまったのである。<自然は縫い目のない織物(シームレス)>であることの必然的な結果である。

 海砂採取がイカナゴの生息地を壊すことによって、イカナゴを減少させ、その結果、クラゲの増殖をもたらし、瀬戸内全体の食物連鎖構造を変えてしまい、生態系バランスを崩してしまったことが考えられるのである。

3.21世紀に入り瀬戸内海では海砂採取を全面禁止

 2.で見たようなことが瀬戸内住民に共有されていくにつれ、1990年に広島県は、1999年からの海砂採取禁止を打ち出した。この方針は、1990年代後半に起きた社会経済的要因により加速され、瀬戸内海全域の問題へと広がった。禁止の期限である1999年が近づくにつれ、海砂採取による利権が奪われることに危機感を抱いた漁業関係者の採取延長をめざした工作が刑事事件となったのである。1997年10月、延長工作のために行った広島海区漁業調整委員への贈収賄容疑で漁協組合長が逮捕された。さらに1997年12月に入り、海上保安部が海砂採取業者21社を区域外操業、操業日数、採取量などで虚偽報告し、許認可量の2~3倍を採取としているとして、採取法違反容疑で書類送検した。こうした動きの中で、広島県知事は、1998年2月、海砂採取の全面禁止に踏み切る(注4)。2000年には、再生資源利用促進実施要領の改正をおこない、海砂の代替骨材の検討を始めた。

 岡山県では、1999年、「建設骨材委員会」を設置し、同委員会は、2000年8月、「海砂採取等のあり方について」で早期の禁止が望ましいと提言する。2000年12月には、「岡山県海砂採取環境影響調査報告書」を作成し、2003年からの採取禁止を決定し、「海砂代替骨材需給対策基本方針」を策定した(注5) 。沖縄県は、海砂採取をやめた時、代替骨材が不足するといったことを理由に、海砂採取の禁止に消極的であるが、他県では、砕砂などで十分補えるとして海砂採取をやめてきているわけである。

4.沖縄島での海砂採取の環境影響

 以上、見たような瀬戸内海での海砂採取による経験を踏まえて、辺野古地盤改良工事で必要となる沖縄島での海砂採取の是非を検討する。沖縄での海砂採取は、1970年代には始まっており、内海と外海の違いはあるにせよ、瀬戸内海と同様の現象が起きてきた可能性は高い。即ち第1に、海底地形の変化や海岸線付近での砂の流出。第2に濁水の拡散に伴い、周辺海域の透明度の低下、海草の減少などである。絶滅が懸念されているジュゴンの歴史的な変遷が、どの程度把握されているのかは定かではないが、ジュゴン生息数の減少の一要因である可能性が高い。

 海砂採取海域は、海草藻場の分布域かそれに近接しており、ジュゴンのえさ場を荒らし続けてきたのである。さらに辺野古の海面埋立て工事も15年くらいは続いており、それとの相乗的な作用も考えられる。さらに瀬戸内海の経験からすれば、生態系、食物連鎖への影響も当然起きてきたと考えるのが妥当であろう。しかるに沖縄県や環境省として海砂採取の環境への影響を包括的に評価した形成がないことは致命的である。

 さらにこの問題を考えるうえで、生物多様性の保全を目的として定めている海洋保護区で海砂採取が行われているという問題を指摘したい。環境省は、2011年5月、「海洋生物多様性保全戦略」において生物多様性の保全を目的として、海洋保護区を以下のように定義した。

 「海洋生態系の健全な構造と機能を支える生物多様性の保全及び生態系サービスの持続可能な利用を目的として、利用形態を考慮し、法律又はその他の効果的な手法により管理される明確に特定された区域」

 その結果、共同漁業権区域、自然公園法区域、鳥獣保護区などを海洋保護区としている。

図5は、沖縄島の海洋保護区と海砂採取海域を示したものである。ここで、海洋保護区は、生物多様性条約の愛知目標に対応して各国が報告している海域を世界地図に落とした国際データベース(注5)から、沖縄島における海洋保護区を抽出した。両者は相当程度、重なっており、海洋保護区において、海砂採取が行われていることになる。

 本来、<海洋保護区で生物多様性を低下させる行為は禁止>されるべきであるが、残念ながら環境省は何の法的規制もかけようとはしていない。海砂採取は、生物多様性の保全を目的とした海洋保護区を破壊する行為である。未来に、多様な生物の生きる場を残していくために、「生物多様性国家戦略2023-2030」に反する行為を止めていくための、何らかの法的措置を取らなければ、ずるずると生物多様性の低下を黙認していくことにしかならないことを自覚すべきである。

 それはさておき、1,で述べたように、全国的には海砂採取はやめる方向で動いており、現在、採取している県においても総量規制がとられていることを考慮すれば、まずは、沖縄県として総量規制を導入すべきである。

 とりあえず「沖縄県海砂利採取要綱」(H24.8.20)を以下の内容を盛り込んで改正し、かつ沖縄県議会でそれを法的拘束力のある、条例にすべきであろう。

➀年間採取量の総量規制を取り入れること。
➁採取区域(第2条)に関する現在の規定「自然公園区域、自然環境保全区域地域、及び鳥獣保護区域でない区域であること」に、「共同漁業権など 海洋保護区でない区域であること」を追記すること。

 海砂採取は、日本の高度経済成長とともに急増し1980~1990年にかけてピークとなるが、21世紀に入り減少してきた。瀬戸内海では、1998年の広島県を皮切りに2008年には全面禁止された。今、残っているのは九州・沖縄で、それも減らしていく方向にある。これは1992年地球サミットで生物多様性条約が採択された国際的動向とも符合している。そのような時に、政府が先頭に立って、海砂採取を大量に必要とする事業を推進していることは絶対に許せないことである。

 沖縄島での海砂採取海域は生物多様性保全の海洋保護区が含まれる。海砂採取は、生物多様性の保全を目的とした海洋保護区を破壊する行為である。未来に生きる場を残していくために、「生物多様性国家戦略2023-2030」に反する行為を止めていかねばならない。

注:
1.須藤 定久:九州・沖縄周辺海域の海砂利、骨材資源調査報告書(平成16年度)、2005年。 
2.安部真理子(日本自然保護協会):日本の海砂利採取の経緯、沖縄のサンゴ礁に迫る脅威について、2003年。
3.吉田 徳成:海の砂は誰のものか、「住民が見た瀬戸内海」(環瀬戸内海会議刊)所収、2000年。
4.鳥谷部 茂:広島県における海砂利採取禁止(一)、広島法学 27巻2号、2003年。
5. 国際データベースに登録している日本の保護地域情報のurl
https://www.protectedplanet.net/country/JPN

2025年06月24日

ニュースペーパーNews Paper 2025.6

6月号もくじ
ニュースペーパーNews Paper 2025.6
表紙
*「朝鮮学校『無償化』排除に反対する連絡会」とは? 共同代表 佐野通夫さんに聞く
*「核燃料サイクルを考えるシンポジウム」報告
*F35戦闘機の高知空港利用について
*コメ危機―解決には農家の所得補償を
*原水禁 被爆80年を考えるつどい

2025年06月20日

憲法審査会レポートNo.60

6月18日の参議院憲法審査会は、国民投票法等についての意見交換が行われました。しかし、確認できる限りではいっさいニュース記事の配信がありません。国会会期末が迫り、また同日戦後初の「衆院財務金融委員長解任」があったとは言え、これは驚きです。改憲に向けた「機運」が相当後退していることの表れでしょうか。

19日には衆院憲法審査会幹事懇談会のみ開催されました。

なお、20日は衆参ともに憲法審査会が行われますが、これは閉会にあたっての手続きのためで、それぞれ数分で終了します。

【追記】20日の参議院憲法審査会開催はとりやめになりました。

2025年6月18日(水)第217回国会(常会)
第6回 参議院憲法審査会

【アーカイブ動画】

https://www.webtv.sangiin.go.jp/webtv/detail.php?sid=8629

【主な発言項目】

https://www.kenpoushinsa.sangiin.go.jp/keika/hatsugen_217.html#d6_hatsugen

2025年06月13日

憲法審査会レポート No.59

6月12日、衆院憲法審査会に先立って行われた幹事会に対し、改憲推進5会派が任期延長に関する改憲骨子案を提出しました。ただし、憲法審査会への提出ではないため、骨子案の内容は議事録に残りません。

2025年6月12日(木) 第217回国会(常会)
第9回 衆議院憲法審査会

【アーカイブ動画】

https://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=55864
※「はじめから再生」をクリックしてください

【マスコミ報道から】

自民など5党派が改憲骨子案 議員任期延長で―衆院憲法審
https://www.jiji.com/jc/article?k=2025061200889&g=pol

災害やテロなどなどの緊急時に国会議員の任期延長、改憲骨子案を初提示…自民など5党派
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250612/k10014833321000.html

“選挙困難な緊急時は議員任期を延長” 自民など改憲骨子案
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250612/k10014833321000.html

改憲5党派、議員任期延長の改憲骨子案提示 憲法審では取り上げず
https://digital.asahi.com/articles/AST6D3Q05T6DUTFK009M.html

5党派が「議員任期延長」の改憲骨子案提示 自民内の「溝」が懸念材料 衆院憲法審幹事会
https://www.sankei.com/article/20250612-OPK6FA7GCZIVHMCZ6T2X7AVTKQ/

【傍聴者の感想】

今回は各会派の代表から今国会中の審査会の討論について総括を受け、自由討論が行われました。事前の幹事会では自民、維新、公明、国民、有志の会の5会派から改憲案の骨子が提出されたものの、自民党の総務会を経ていないなど自民党内で手続きが採られていないものとのことで、審査会に出席した議員や傍聴には配布はされませんでした。

討論では、あらためて「選挙困難事態」をめぐって意見が交わされました。自由民主党などが改憲の理由として示す「選挙困難事態」に対して、立憲民主党から「立法事実にあたらない」、日本共産党から「議員の任期延長は国民の選挙権の停止につながる」といった反論がありました。

日本維新の会からは「国民主権を具現化し、主権者である国民に判断を仰ぐためにも、国民投票の実施を」、国民民主党からは「憲法審査会の具体的成果を可視化すべき」といった意見が示され、憲法改悪に向けた一歩を踏み出したいという思惑が明白に見て取れました。

物価上昇や「コメ不足」などに象徴される、人々の苦しい生活をどう改善するかはあとまわしです。彼らの政治的思考のあり方は「国家」の下に「国民」をいかに従属させるかであり、有権者である「国民」の日々の生活の向上にはないということが強く感じられました。参院選勝利に向けたとりくみを強めたいと決意しました。

2025年06月09日

「原⽔禁・被爆80年を考える集い」のご紹介

平和フォーラムに参加する原水禁(原水爆禁止日本国民会議)が、6月28日、「原⽔禁・被爆80年を考える集い」を開催しますので、ご紹介します。戦後・被爆80年という節目の年にあたって、これからの運動をどうすすめていくべきか、課題などをしっかり共有していくことは重要であると考えます。ぜひご参加をお願いします。

原⽔禁・被爆80年を考える集い

2025年の今夏、1945年の原爆被爆から80年を迎えます。原爆によって多くの命が一瞬にして奪われたばかりか、その後遺症や影響に苦しむ人がいまだ数多く存在する事実は、原爆の被害は決して過去のものではないことを、私たちに突きつけています。

原水禁はこれまで、軍事(核兵器)・商業(原子力発電)を問わず、すべての核に反対してきました。そしてまた、原爆投下による被爆者だけではなく、在外被爆者、核実験によるヒバクシャ、ウラン採掘によるヒバクシャ、原発事故によるヒバクシャなど、すべてのヒバクシャの援護・救済が必要であると考えます。

私たちは「核と人類は共存できない」という揺るがない信念のもと、「被爆80年」という節目にあたり、原水禁運動のこれまでと今後についての議論を深めていきたいと考えます。

現在、核廃絶に向かっての課題やとりくみの現状をまとめたブックレットを作成していますが、その内容をひろく共有することを目的として、6月28日、東京・日本教育会館にて「原⽔禁・被爆80年を考える集い」を開催します。

ぜひ、ご参加をお願いします。

→チラシデータはこちら( PDF )

日時:6月28日(土)13時30分開会 ※13時開場
場所:日本教育会館・一ツ橋ホール
参加費:無料
主催:原⽔爆禁⽌⽇本国⺠会議(原水禁)

登壇者(予定):※五十音順
秋葉忠利さん(原⽔禁顧問)
⾦⼦哲夫さん(原⽔禁共同議⻑)
川野浩⼀さん(原⽔禁共同議⻑)
中村桂⼦さん(⻑崎⼤学核兵器廃絶研究センター(RECNA)准教授)※ビデオメッセージ
畠⼭澄⼦さん(ピースボート共同代表)
藤本泰成さん(原⽔禁顧問)

※登壇者のみなさんが執筆するブックレットを現在作成中です。

※翌29日(日)10時30分~12時、フィールドワーク「第五福竜丸展示館見学」を行います。ご参加を希望される方は事務局にご連絡ください。

2025年06月06日

憲法審査会レポート No.58

改憲会派、9条と現実の乖離を埋める改憲を主張

6月4日の参議院憲法審査会は、改憲の是非を問う国民投票時の偽情報対策で参考人聴取が行われました。新しいデジタル環境社会の中で、偽誤情報の拡散は大型選挙の結果にも影響を及ぼしています。参考人の意見を踏まえて各会派から質疑が行われ、総合的な対策の必要性が討議されました。

翌5日の衆院憲法審査会では、憲法と現実の乖離をテーマに自由討議が行われました。立憲民主党は、滝川事件と呼ばれる思想弾圧事件を例に挙げながら、大学の自治や学問の自由など人権課題の重要性を訴えたことに対し、改憲推進派は世界の安全保障環境の緊張が高まっているとし、9条と現実の乖離を埋める改憲が主張されるなど、各会派の憲法に対する立場の違いが明らかとなりました。

2025年6月4日(水)第217回国会(常会)
第5回 参議院憲法審査会

【アーカイブ動画】

https://www.webtv.sangiin.go.jp/webtv/detail.php?sid=8593

【マスコミ報道から】

参院憲法審査会 SNSの偽情報対策などで参考人質疑
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250604/k10014825781000.html

偽情報対策、国民投票法改正を 参院憲法審で参考人質疑
https://www.jiji.com/jc/article?k=2025060401073&g=pol

【傍聴者の感想】

今回は、「国民投票において、インターネット上の偽情報等への対策をどうすべきか」について、参考人3名を呼ぶ形での開催でした。

フェイクニュースは出ては消えての「いたちごっこ」で、後を絶ちません。参考人3名とも「難しい問題で…」と、口をそろえて答弁していたのが印象的でした。偽情報を発信する側がもちろん悪いのですが、被害者は速やかに情報を公開することで信頼性を獲得することが当面は必要だと述べていました。

日本は偽情報対策が諸外国に比べ遅いということです。それは参考人が指摘したように、イギリスのブレグジット(EU離脱)に関する国民投票やアメリカ大統領選挙においてネット情報が投票行動に影響を与えた2016年の事例が、2024年の東京都知事選、衆院選、兵庫県知事選に表れていることからもうかがえます。

生かすも殺すも、私たち次第です。AIなど技術が発達しうまく活用すれば生活を豊かにしてくれますが、悪意を持って用いることで社会に混乱をもたらします。ファクトチェック団体の資金不足をはじめとする総合的な対策を施すべきではありますが、「表現の自由」との兼ね合いもある一方で、十分に議論をせず拙速な判断をすることもかえって逆効果だと考えます。

直近では6月22日の東京都議選、7月の参議院選挙において何が起こるか、目が離せません。

【傍聴者の感想】

先の大戦の反省から「二度と戦争はしない」と誓った、日本国憲法が施行されてから78年が経ちました。これまで憲法改正の国民投票は一度も実施されていません。こうした中で憲法改正を国民投票にかけた際に、世論がどう動くのかはまったく読めません。

この日の参院憲法審査会では、憲法改正の是非を問う国民投票に関して、三人の参考人(北九州大学法学部・山本健人准教授、日本ファクトチェックセンター・古田大輔編集長、大阪大学社会技術共創研究センター・工藤郁子特任准教授)から意見を聴取して各会派の委員との質疑が行われました。

デジタル技術やAI機能の進歩といった新しいネット環境を介した情報流通において、私たちはかつてないほどの利便性を手に入れた一方で、偽誤情報による弊害も加速度的に悪化しています。北九州大学の山本教授からは、偽情報等の根絶や影響力の無効化はほぼ不可能としながら、①偽情報等の量・接触機会を減らす、②正確な情報やファクトチェック記事の発信により偽情報等に対抗する言論を増やす、③情報受領者(有権者)のメディア・ICTリテラシーを高める、など3つの基本的な対策の方向性が示されました。

私自身、自分のバイアスと相性が良い情報は、正しい情報と思い込みやすいことを自覚します。日本はネット社会における偽誤情報の対策が遅れていることが指摘されます。こうした対策が不十分なまま、国民投票で世論を二分するような改憲発議に踏み込むことは許されません。

この日の参院憲法審査会は、各会派の問題意識と参考人との質疑が繰り返され、これまでの改憲推進派と慎重派の対決色が薄まりました。国の最高法規である憲法の議論は、こうした落ち着いた環境の中で冷静な議論こそ必要だと感じました。

2025年6月5日(木) 第217回国会(常会)
第8回 衆議院憲法審査会

【アーカイブ動画】

https://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=55847
※「はじめから再生」をクリックしてください

【マスコミ報道から】

衆院憲法審 自民など 憲法に自衛隊の存在明記と主張
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250605/k10014826661000.html

自民、自衛隊の憲法明記を主張 立民は性別変更要件の改正要求
https://www.47news.jp/12679786.html

自衛隊明記の改憲主張 自維国、衆院憲法審で
https://www.jiji.com/jc/article?k=2025060500790&g=pol

【傍聴者の感想】

今回の衆院憲法審査会は「憲法と現実の乖離」について議論されました。

各議員の発言に対して他の会派から質問が出され、それに対する回答が示されるなど、これまでの言いっ放しの討論とは様相が変わってきました。

日本は先の大戦の反省から不戦を誓ったはずです。戦後80年となる節目の年に日本を再び戦争ができる国として憲法改正をしてはならないのは当然です。

時代に合ったという意味で、憲法について考えることは必要なのかもしれません。しかし、憲法改正を行うのであれば、当然、私たち市民のための改正である必要があります。議員自身が「国民のため」と称して自分たちの考えを一方的に主張して良いとはとても思えません。
国際情勢の緊張の高まりによる9条と現実の乖離を指摘して、現実に合わせた憲法改正は本末転倒にしか思えません。二度と戦争はしないと誓ったはずです。憲法の高い理想に少しでも現実を近づける、そうした外交努力こそ今の日本には必要なのではないでしょうか。私はどうしても今回の憲法審査会を傍聴して、そのように感じてしまいました。

私はまだ数えられるほどしか傍聴をしていませんが、憲法審査会という場は、国の礎となる最高法規である憲法について、私たち市民のための議論をお願いしたいと思います。日本を戦争のない、一人ひとりが平和に豊かに暮らしていくようにするのが政治家の役目だと思います。

【国会議員から】山花郁夫さん(立憲民主党・衆議院議員/憲法審査会幹事)

まず、学問の自由・大学の自治に関する問題です。この問題に関しては、京大事件(滝川事件)が有名です。

1933年、文部大臣が京都大学総長に対し、法学部の滝川幸辰教授をやめさせるように、申し入れをしたことに端を発します。

京都大学法学部教授会は、学問的研究の結果として発表された、刑法学上の所説の一部が政府の方針と一致しないという理由で、教授が退職させられるようでは、「学問の真の発達は阻害せられ、大学はその存在の理由を失うに至」るとして、反対意見を提出しましたし、京大総長もまた、文部大臣の要求には応じませんでした。

そこで、文部大臣は滝川教授を休職にしました。「休職」といっても、当時の休職というのは、事実上の免官です。

この時の文部大臣の行為が合法であったかついては、議論があります。明治憲法には学問の自由の規定がなかったわけですし、休職処分について手続的には瑕疵はなかったのかもしれません。しかし、政治権力によって、大学の教授を、その学問的所説のみの理由に基づいて、事実上免官するという行為は、学問の自由に対する侵害であったというほかありません。

京大事件などの教訓から、学問の自由を十分に保障するためには、大学の人事に関して政府が介入しないことが求められます。

最高裁も、「大学における学問の自由を保障するために、伝統的に大学の自治が認められている。この自治は、とくに大学の教授その他の研究者の人事に関して認められ、大学の学長、教授その他の研究者が大学の自主的判断に基づいて選任される」としています(東大ポポロ事件・最大判昭和38.5.22)。

ところで、菅首相(当時)は2020年秋、日本学術会議が新会員候補として推薦した候補者105人のうち安保関連法に批判的といわれた6人を除外して任命する異例の決定をしました。

この問題について、委員の「任命」は内閣総理大臣が行うのだから、任命をしないことも適法である、という見解に対して、いやいや、任命という用語が用いられているが、これは形式的任命であって、拒否はできないのだ、ということが争われています。法律制定の経緯からいって、後者が正しいと私は思うのですが、この議論は、京大事件における休職処分の適法性の問題に似ていて、そこが本質的な問題ではないように思われます。

大学の自治が保障されるべきなのは、「大学」という組織だからなのではなくて、学問の自由が保障される研究者による組織だからだとすると、学術会議という団体にも、人事権などが、政府によって干渉されないことが憲法23条によって保障されていると考えられます。

ここに、「干渉」とは、自治が認められる趣旨からすると、メンバーの解任という積極的な介入だけでなく、任命拒否も消極的な介入と評価されますから、今回の任命拒否は憲法が学問の自由を保障した趣旨に反するというべきでしょう。

なお、イギリスと異なってドイツ型の大学とは「官立大学」を基本としているため、資金提供者である国、つまり政治から介入を受けやすいことから「学問の自由」を独立した条文として規定していることに鑑みると、政府が財政民主主義や憲法15条の公務員の選定罷免権などを理由に挙げていることは適切でないと考えられます。もし財政民主主義などのほうが優越する価値であるとすると、京大事件や天皇機関説事件も正当化されかねない理屈であることは指摘しなければならないと思います。

次に、性同一性障害者の性別の特例に関する法律3条1項4号が憲法13条に違反するという最高裁大法廷決定が令和5年10月25日に出されましたが、今日現在、いまだ改正がなされていません。

第三者所有物没収事件については違憲判決から半年後に「刑事事件における第三者の所有物の没収手続に関する応急措置法」が制定され、薬事法適正配置規制は違憲判決の後1か月足らずで議員提案で適正配置条項を削除する法律が制定され、森林法分割規定は違憲判決の後1か月程度で森林法186条を削除する改正法を成立させ、平成14年9月11日に出された郵便法違憲判決は同年11月27日に改正法が成立し、在外日本人選挙権制限や国籍法違憲判決の後も半年程度で法改正がなされています。

違憲判決が出されてから1年以上放置されているというのはきわめて異例であり、早急に法改正をすることが必要であると考えます。

また、同性婚を法的に保障しないことが憲法違反であるという高裁判決が続いており、最高裁の判断も時間の問題ではないかと推測されます。同性婚に対する法的整備は喫緊の課題であると考えます。

なお、本日の「憲法と現実の乖離」というテーマで取り上げるべき課題について党内で意見を求めたところ、刑事手続上の人権については憲法に詳細な規定があるにもかかわらず人質司法になっているではないかという問題、憲法25条と生活保護の問題、労働基本権と労働組合の組織率の低下の問題、ひとしく教育を受ける権利と経済格差の問題、唯一の立法機関性と政省令委任の問題や地方自治など、枚挙にいとまがないほどの課題の提起がありました。憲法審査会は、日本国憲法および日本国憲法に密接に関連する基本法制について広範かつ総合的に調査を行うことも重要な権限であります。今後、こうした課題を憲法審査会のテーマとして取り上げていただくことを各会派にお願いして発言とさせていただきます。

(憲法審査会での発言から)

【国会議員から】武正公一さん(立憲民主党・衆議院議員/憲法審査会幹事)

国会は国権の最高機関とされながら、それが現実と乖離している点が憲法第7章財政です。

昨年の補正予算案は1000億円の災害対策費修正、今年度予算は衆議院に回付され高額療養費の修正がされました。それぞれ立憲民主党は予算修正を求めましたが、その修正には政府の対応に時間を要することで、速やかな修正審議ができない事態が起きました。国会の議決がすみやかにおこなえるよう見直しが必要です。

この10年を振り返れば、予備費が過大に計上され、その使途の範囲を広げてきました。憲法83条「国の財政処理の権限は、国会議決に基づく」一方、予備費は事後承認です。憲法87条の「予見しがたい予算の不足に充てる」予備費の目的は、補正予算では軽微な事態や災害などの緊急事態に機動的に対応できないためでしたが。コロナ禍を契機として拡大した予備費を平時の状態に戻す必要があります。

さらに補正予算についても、国際機関への拠出金を当初予算に盛り込まず、補正予算ありきで予算計上され、前年度補正予算と新年度予算をセットで「15か月予算」といわれることは、単年度予算審議の憲法86条に反するものであります。そもそも、憲法には予備費の規定はあっても、補正予算の規定はありません。財政法29条には「経費の不足」「緊要となった経費」との補正予算の規定がありますが、常態化しているのではないでしょうか。

政府は1977年の統一見解において、「項」を新設する修正もありうる旨の立場を明らかにしましたが、「国会の予算修正は、内閣の予算提出権を損なわない範囲で可能」という限界説を維持しています。しかし、予算法律説をとれば、条理上の制約は別として、修正権に制限は存しないことになる。と芦部信義著「憲法」で述べています。

予算修正権に限界はないとすると、国会の予算審議権の充実のため米国議会を見習って国会予算局のような「予算審議に供する組織」を設けることが必要ではないでしょうか。

そして、国会の調査、立法機能の強化が必要であることは、30年ぶりの与党過半数割れに伴い、議員立法数の増加により、衆議院法制局の仕事量が増加しているため衆議院調査局や国会図書館調査及び立法考査局とともに、定員の増員や予算の充実が必要です。

なお、財政規律については、債務比率が250%を超える中、「国会に長期財政予測機関を設けること」も提言されています。こうした機関の創設とともに、憲法における予算、財政についてはより議論を深める必要があると考えます。

(憲法審査会での発言から)

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