7月, 2025 | 平和フォーラム

2025年07月31日

拡大する自衛隊の多国間演習 ―「タリスマンセイバー」(オーストラリア)と「バリカタン」(フィリピン)演習―

木元茂夫

2025年3月、自衛隊に統合作戦司令部が240人規模で編成された。この司令部は市ヶ谷に常駐して自衛隊全体の作戦指揮を執るものだと思っていた。

ところが、4月11日に統合幕僚監部が発表した「米比主催多国間共同訓練バリカタン25への参加について」(注1)という訓練広報には「実施場所」はフィリピン共和国としているが、「統合作戦司令部」が訓練参加部隊の一つとして明記されていた。同じく6月27日に発表された「米豪主催多国間共同訓練タリスマン・セイバー25への参加について」(注2)という訓練広報にも、実施場所は豪州及び同周辺海空域としつつ、「統合作戦司令部」が参加するとある。

これは一体どういうことなのか。統合作戦司令部はフィリピンやオーストラリアに出向いて、海外で自衛隊の指揮を執る訓練を実施するということなのだ。また、訓練広報には「我が国にとって望ましい安全保障を創出するため、参加各国との連携強化を図ります」と書かれている。これは、政治家が言うべきことであって自衛隊制服組の言動としては不適切である。訓練広報にはここ数年、こうした政治的な見解が散見されるようになった。制服組が防衛省の中で力を増大させていることの証明である。

統合作戦司令部の発足と歩調を合わせるように参加規模が拡大したオーストラリアとフィリピンでの演習を分析してみたい。

まずは、これまでの参加部隊の確認である。タリスマン・セイバー23では「訓練実施部隊」として、下記の部隊が列記されていた(注3)

水陸両用作戦 陸上総隊(水陸機動団、第1ヘリコプター団)、掃海隊群(護衛艦「いずも」、輸送艦「しもきた」)
対空戦闘   東部方面隊(第2高射特科群)。
対艦戦闘   西部方面隊(第5地対艦ミサイル連隊)、富士学校(特科教導隊)及び北部方面隊(第2情報隊)

それぞれの部隊について、簡単に説明をしておく。水陸機動団は長崎県佐世保市に司令部を置く約3000人の部隊。水陸両用装甲車やゴムボート、大型ヘリなどで上陸作戦を行う部隊。第1ヘリコプター団は千葉県木更津市を拠点とする大型ヘリの部隊。第2高射特科群は千葉県に配備されている地対空ミサイル部隊。地対艦ミサイル部隊を空からの攻撃から守るのが任務。第5地対艦ミサイル連隊は熊本県に配備。地上から海上の艦艇に向けてミサイルを発射する部隊。第2情報隊は北海道旭川市の第2師団の隷下組織。情報収集用の無人機スキャンイーグルを運用する部隊である。

タリスマン・セイバー25には、インド、オランダ、ノルウェー、フィリピン、シンガポール、タイの6ケ国があらたに加わり19ケ国参加(アメリカ、オーストラリア、カナダ、フィジー、フランス、ドイツ、インドネシア、ニュージーランド、パプアニューギニア、韓国、トンガ及びイギリス)となり、参加部隊4万人の大演習となった。期間は7月13日から8月4日までの約3週間で、これまでと変わらない。

自衛隊は1500人の部隊・機関という大規模な参加となった。まず、統合作戦司令部、陸上総隊、自衛艦隊、航空総隊、航空支援集団の5つの司令部組織の参加が明記された。(統合幕僚監部2025年6月27日)。旧軍用語で言えば「軍令組織」で部隊に作戦行動を命令する組織である。陸上総隊司令部は水陸機動団と第1ヘリコプター団などの陸自部隊を指揮する。自衛艦隊司令部は護衛艦隊、潜水艦隊、海自の航空集団(哨戒機と輸送機、ヘリコプター)を指揮する。航空総隊司令部は空自の戦闘機部隊を、航空支援集団司令部は空自の輸送機と空中給油機部隊を指揮する。また、統合幕僚監部、陸上、海上、航空の各幕僚監部も参加。この4組織は防衛省設置法第19条に定められている「特別の機関」で、「防衛及び警備に関する計画の立案、行動計画の立案、行動計画に必要な教育訓練、編成、装備、配置、経理、調達、補給及び保健衛生」業務をその任務としているが、演習中の「行動計画」を作成し、司令部組織を助けるということなのだろうか。バリカタン25にだけ参加した陸自需品学校は(千葉県松戸市)、「糧食、燃料、給水、入浴、洗濯、空中投下、補給管理」をその業務とする。同盟国の軍隊への糧食の空中投下などを将来的な課題と考えてのことだろうか。

資料 二つの演習への自衛隊の参加部隊と機関
●バリカタン25 150名
統合幕僚監部、陸上幕僚監部、航空幕僚監部
陸上自衛隊中央輸送隊、同武器学校、同需品学校、同輸送学校、
海上輸送群、航空システム通信隊
自衛隊中央病院、
統合作戦司令部、陸上総隊、自衛艦隊、航空総隊、航空支援集団、
護衛艦「やはぎ」
●タリスマン・セイバー25 1500名
統合幕僚監部、陸上幕僚監部、海上幕僚監部、航空幕僚監部
陸上自衛隊東部方面隊、同中部方面隊、同西部方面隊、同富士学校、同高射学校
宇宙作戦群、自衛隊入間病院、航空自衛隊補給本部
統合作戦司令部、陸上総隊、自衛艦隊、航空総隊、航空支援集団
護衛艦「いせ」、護衛艦「すずなみ」、大型揚陸艦「おおすみ」

タリスマンセーバー演習で陸自は2023年、2025年と地対艦ミサイル連隊を参加させ、海上に浮かべた退役した軍艦をめがけてミサイルを撃つ訓練を行った。使用したミサイルは12式地対艦ミサイルで射程距離約200km。石垣島、宮古島、沖縄島、奄美大島、湯布院駐屯地などに配備されているミサイルである。その「能力向上型」(射程距離は約1000km)が九州熊本の健軍駐屯地と沖縄に配備されようとしている。

その他の訓練項目としては、海上作戦訓練、水陸両用作戦訓練、実弾射撃訓練、宇宙作戦訓練、統合衛生訓練があげられていて、自衛隊はすべてに参加する。宇宙作戦訓練と統合衛生訓練は今回初めて加わった。自衛隊入間病院が参加したということは負傷兵の治療も重視している表れである。

日豪両国のトマホーク巡航ミサイル購入と「もがみ型護衛艦」の共同開発

共同訓練の効率化のためには、双方が保有する武器と兵器の性能が同一であることが望まれる。防衛省は2023年度予算にトマホーク巡航ミサイルの取得予算を2113億円(400発分)計上した。オーストラリア国防省は2023年8月、トマホーク200発を約1200億円で購入することを米国政府と合意した。これで、数年先、日米豪はトマホークの運用能力をもつことになる。さらに両国は対空・対艦ミサイルSM-6(射程距離370km)の購入予算も計上した。米国のイージス艦も搭載しているミサイルである。中国の艦艇と対峙した場合、日米豪は同等の対艦戦闘能力をもつことになる。こうした「武器の共有化」は、今後の多国間訓練に反映されることになろう。中国の艦艇もこれに対抗するミサイルをすでに装備しているが。

オーストラリアの次期フリゲート艦建造計画に、機雷戦能力(機雷の敷設と掃海)をもち、長射程ミサイルも搭載予定の「もがみ型護衛艦」を共同開発という形で輸出しようとしている。製造メーカーは三菱重工である。ライバルはドイツのティッセンクルップ・マリン・システムズ(TKMS)社。三菱重工は2025年2月に首都キャンベラに事務所を開設した。7月21日には泉澤清次会長がオーストラリアに出向いて、閣僚らに直接売り込みをかけた。建造費は防衛予算に計上された価格で比較すると、もがみ型1049億円対ドイツ850億円となる。この共同開発計画、日本が受注すると武器輸出は一気に拡大することになり、要注意である。決定は本年末とのことだ。(注4)

中国軍との緊張を激化させるバリカタン演習

一方、バリカタン25は、フィリピン、米国、オーストラリア、日本が参加する。米軍9000人、フィリピン軍5000人など約1万5000人の演習である。期間は4月4日から5月9日までの1ケ月強である。実動訓練として多国間海上機動、統合兵站訓練、水陸両用訓練、対艦戦闘をあげている。「多国間海上機動」とはあまり使われない言い方であるが、艦隊航行や洋上給油を指しているのだろうか。他の訓練は、自衛隊はオブザーバー参加である。

タリスマン・セイバーとバリカタンでは訓練の想定そのものに大きな差がある。前者は訓練場のあるオーストラリアで戦闘が起きることを想定しない。日本にはない広大な訓練場(3600km2)を使用して大部隊の訓練を行うことを行うことに主眼がある。対照的にフィリピンのパラワン島は中国が岩礁を埋め立てて基地を造成した南沙諸島に近く、フィリピンの沿岸警備隊と中国の海警局は何度か衝突を起こしている。また、ルソン島はバシー海峡をはさんで台湾に近い。ここは、各国の潜水艦にとっての重要海域である。つまり、バリカタン演習は「紛争地域」の直近で行う演習であり、自衛隊も慎重にならざるを得ないということなのだろう。

バリカタン24において、米海兵隊は「タイフォン・ミサイルシステム」をフィリピンのルソン島に空輸した。トマホーク巡航ミサイル(射程距離1600km)と対空対艦ミサイルのSM-6(射程距離370km)を組み合わせたシステムである。簡単に言うと相手国の領土も、自国の領土に上陸してきた部隊も攻撃できるし、接近して来る相手国の艦艇も攻撃できるシステムである。これを演習が終わったあとも、フィリピンに残置した。米軍はフィリピンに継続的な駐留はできないため、フィリピン軍に管理させている。これは、実質的にフィリピンへの長射程ミサイルの配備にほかならない。

バリカタン25では、これまで使用されてきた高機動ロケット砲システムハイマースに変って、無人地対艦ミサイル搭載車両ネメシスが持ち込まれた。小型の車両にミサイル2発を積んだ簡易なものであるが、対艦ミサイルなので海上を航行する艦船への命中率は格段にあがる。しかも、フィリピンのルソン島と台湾の中間地点にあるバタン島(フィリピンの領土)に持ち込んだのだ。

この1年の政治的な動きをフォローしておこう。2024年5月3日にハワイで開催された日米豪比防衛相会談では、「4大臣は、危険で不安定化をもたらす行為となる、中国によるフィリピン船舶の公海における航行の自由の行使に対する度重なる妨害及びセカンド・トーマス礁への補給線への妨害に対して、深刻な懸念を改めて表明した」とする共同声明をだしている。2025年5月にシンガポールで開催された第22回アジア安全保障会議では、中谷防衛相は「説明責任の著しい軽視です。南シナ海では、以前、サンゴ礁の埋立を伴う係争地形を「軍事化する意図はない」と宣言しましたが、まさに、その国が軍事化を急速に進めています。また、この地域には、透明性を欠いた核戦力を含む軍事力の急激な増強や警備艇や軍艦の哨戒・監視などの挑発的な軍事活動が増加しています。これは、防衛分野の信頼関係の維持の大きな障害となっています」と演説した。6月1日には日米豪比防衛相会談が行われ中谷防衛大臣は「同盟国・同志国のネットワークを重層的に構築して拡大し、抑止力を強化していくことは重要なことだ」と発言した。

フィリピンとは「日本国の自衛隊とフィリピンの軍隊との間における相互のアクセス及び協力の円滑化に関する日本国とフィリピン共和国との間の協定」を結んだ。2024年7月8日署名、2025年6月6日参議院で可決された。オーストラリア、イギリスに続く3ケ国目の協定である。前文には「両締約国間の安全保障関係及び防衛関係を深めることを希望し」とあり、第4条では領海・領空ではない、「水域及び上空において実施される協力活動にも適用される」とある。第14条には「接受国において協力活動を実施するため、武器、 弾薬、爆発物及び危険物を輸送し、保管し、及び取り扱うことができる」とある。運用によっては公海上で武器・弾薬を使用した「協力活動」も可能になる。

「あぶくま」型護衛艦の輸出

日本はフィリピンへ警戒監視レーダーを輸出し、巡視船12隻を供与してきた。7月になって防衛省が「あぶくま」型護衛艦の輸出を検討していることが明らかになった。最新鋭の「もがみ」型とは対照的に、1989年から1993年にかけて順次就役した6隻シリーズの護衛艦である。7月8日の記者会見で中谷防衛大臣は、「海上自衛隊では、平素からフィリピンを含む同志国海軍との交流を積極的に実施しているところ、装備品の紹介・視察を含む部隊間交流について先方と調整を行っております。また、お尋ねの国際共同開発・生産を中古の装備品に適用することにつきましては、あくまで一般論として申し上げれば、国際共同開発・生産に該当するか否かについては、個別具体的に判断をすることとしておりまして、具体的な移転に当たりましては、移転の可否を厳格に審査をしてまいります」と答えている(注5)。手っ取り早く言えば、厳格な審査はするが可能だという認識である。「あぶくま」型は、旧式の小型護衛艦とはいえ、76ミリ砲、ハープーン対艦ミサイル、アスロック対潜ミサイル、魚雷といった基本的な武器はすべて装備している。現状では長距離ミサイルをもっていないだけである。「厳格な審査」の課程で最新の兵器が付加される可能性だってある。

終わりに

オーストラリアとフィリピンで開催される多国間演習の変化を見てきた。演習への参加にとどまらず両国への武器輸出までが検討されるにいたった。今後はさらなる大規模参加と、自衛隊の役割の増大が求められていくであろう。9月、2月、6月と3度にわたる海自護衛艦の台湾海峡に対抗するかのように中国の空母遼寧、山東が硫黄島周辺にまでやって来た。日本が軍事的役割を増大させ続けていることに、中国国防部は、明確な批判を突き付けて来るようになった。7月30日にはロシア海軍太平洋艦隊が中国海軍との合同演習「海上連合2025」を行うと発表した。(注6)

年間34億円規模の国防費を投入し続けている中国に対し、こちらも同様の軍拡をもって対抗することは愚かの極みではないだろうか。対話によってお互いの軍事費を抑制し、軍事行動を制限する取組がいまほど求められている時はない。

注1 統合幕僚監部報道発表資料 令和7年4月11日
https://www.mod.go.jp/js/pdf/2025/p20250411_02.pdf
注2 統合幕僚監部報道発表資料 令和7年6月27日
https://www.mod.go.jp/js/pdf/2025/p20250627_01.pdf
注3 陸上自衛隊ニュースリリース 令和5年7月3日
https://www.mod.go.jp/msdf/operation/training/TalismanSabre2023/
注4 井上麟太郎「初の護衛艦輸出となるか?」(『世界の艦船』25年6月号所収)
注5 防衛省HP防衛大臣記者会見25年7月8日
https://www.mod.go.jp/j/press/kisha/2025/0708a.html
注6 「産経新聞電子版」25年7月30日
https://www.sankei.com/article/20250730-7Q4CFRHNZ5LJFMPNUT7QE5WGBI/

2025年07月22日

ニュースペーパーNews Paper 2025.7

7月号もくじ
ニュースペーパーNews Paper 2025.7
表紙
*東京電力柏崎刈羽原発の再稼働を巡る住民投票 佐々木かんなさんに聞く
*被爆80周年原水爆禁止世界大会 参加呼びかけ
*原水禁 脱原発への歩み その①
*日本で同性婚を実現する未来にむけて
*高まる核兵器使用の危険性、被爆国・日本の使命は

2025年07月22日

【平和フォーラム声明】第27回参議院議員選挙の結果を受けて

平和フォーラムは7月22日、以下の声明を発表しましたので、お知らせします。

第27回参議院議員選挙の結果を受けて

7月20日に投開票を迎えた第27回参議院議員選挙は、自民党が13議席の減、公明党は6議席を減らし、与党の獲得議席数は47議席にとどまり、参議院の過半数を下回る結果となりました。

一方の野党は、立憲民主党が改選前の22議席と同議席数を獲得し、非改選議席数と合わせて38議席として野党第一党を維持しました。日本維新の会は2議席増、国民民主党は13議席増の17議席を獲得して非改選議席数と合わせて22議席として野党第二党となりました。

今選挙戦で「日本人ファースト」を重点政策に掲げた参政党は、14議席を獲得して非改選議席数と合わせて15議席と躍進しました。今選挙戦の「台風の目」とまで言われた参政党は、反グローバリズムや積極財政、選択的夫婦別姓やLGBTQの権利拡大反対など保守色の強い政策を前面に打ち出し、急進的な保守政党として徐々に存在感を示しながら、短い動画のインプレッション増加により、急速に知名度を高めていきました。

私たちが日常的に利用するSNSプラットフォームでのネット工作の規模と巧妙さは、これまでの常識をはるかに超え、より大きな影響を持つようになっていることを直視せざるを得ません。そこには一方的で誤った情報も多く存在します。デジタル技術やAI機能の進歩といった新しいネット環境を介した情報流通において、私たちはかつてないほどの利便性を手に入れた一方で、偽誤情報による弊害も加速度的に悪化しています。今やSNSなどが「怒り」や「憤り」など他者への攻撃性を増幅させる機能を有することに十分な警戒を要します。

自分と同じような意見を持つ人ばかりをフォローすることで、同じ意見が反響と増幅・強化を繰り返すエコーチェンバー現象がつくられます。「日本人ファースト」を掲げ、外国人が優遇されているという参政党の主張は、閉塞感に覆われた日本社会における市民の不安や不満の受け皿として、有力な選択肢となりました。こうした参政党の主張が、情報操作の海の中で何らかの意図により誘導されたものであるとすれば、私たちは一層の警戒を要するでしょう。また、こうした世論に対する介入・工作の手法が、改憲発議に向けて転用される可能性は高まっているとみるべきです。

参政党の排外主義の主張が一定受け入れられている情勢を受けた既成政党までが、外国人による不動産所有制限や社会保障制度の受給制限を公約に掲げ、支持を拡大しようとしました。社会保障制度や奨学金制度などで外国人が優遇されているという主張は事実無根です。外国人による日本の不動産取得が進むのは、円が弱くなったからに他ならず、「失われた30年」の経済政策の失敗の帰結です。「日本人ファースト」などのヘイトスピーチは、自公政権による失政を覆い隠すばかりか、外国人や外国ルーツの人々を苦しめ、誤った差別や憎悪の連鎖は、異なる国籍・民族間の対立から戦争への地ならしにつながる極めて危険なものです。

参政党の躍進は、極右の台頭という世界的な流れが日本にも漂着した感があります。既成政党離れで自民党などに投票していた保守層に加え、一定の無党派層まで、「政治はロックだ」などのスローガンの耳あたりの良さに加え、この間煽動されてきた外国人への差別・排撃する社会的風潮を巧みに取り込むことでつくりだされたものと思われます。

参政党の主張は歴史的事実や科学的知見に基づかないものばかりです。自民党の西田昌司参院議員が5月3日に那覇市内で開かれた憲法シンポジウムで、ひめゆりの塔の説明書きを「歴史の書き換え」などと発言した問題を巡り、参政党の神谷代表は、「本質的に彼が言っていることは間違っていない」、「何で本土の人間とか、日本の人たちが全国から行って沖縄を守ろうとしたのに、それを悪く言うような表記があるんですか」と述べ、戦後の歴史観がGHQの政策によって形成されたとの持論を展開して西田議員に同調しました。

基本的人権への無理解・敵対は5月に発表された「新日本憲法(構想案)」をみれば明らかです。また、選挙のさなかに飛び出した「核武装が最も安上がり」という発言は、戦争被爆国の政治家として到底許されない見識を内在化していることを示しています。

参議院においても過半数を失った自公政権は、当面、トランプ関税をめぐる交渉などを理由に、延命を図ろうとするでしょうが、私たち市民から選挙によって事実上の不信任を突き付けられたことを真摯に受け止めるべきです。自民党内において石破総裁下ろしの動きや、国会運営を乗り切るために野党の協力を得ようと、合従連衡の駆け引きも活発になるでしょう。

私たち平和フォーラムは、排外主義の扇動が参議院選挙戦で展開されていることに危機感をもち、7つの市民団体とともに「参議院選挙にあたり排外主義の扇動に反対するNGO緊急共同声明」を発出し、7月8日には記者会見を開きました。平和フォーラムを含む8団体の呼びかけにより7月13日時点で1035団体が声明への賛同を示していただいたことに大きな勇気を得ます。

平和フォーラムは、2025年第27回参議院議員選挙の結果を受け、「誰ひとり取り残さない」、「軍拡よりも安心で平和な市民生活」、「国籍や性別、信仰などで差別されない」そうした社会の実現に向けて、引き続き加盟団体のいっそうの結集と思いを共にする市民との連携を礎に、運動の先頭で精一杯奮闘することを表明します。

2025年7月22日
フォーラム平和・人権・環境
共同代表 染 裕之
共同代表 丹野 久

2025年07月08日

参議院選挙にあたり排外主義の煽動に反対するNGO緊急共同声明

平和フォーラムは7月8日、外国人の人権問題にとりくむ諸団体とともに記者会見し、以下の声明を発表しましたので、お知らせします。

【参考】

「外国人優遇」はデマ 参院選で広がる排外主義に複数団体が反対声明
https://digital.asahi.com/articles/AST7835GCT78OXIE06FM.html

参議院選挙にあたり排外主義の煽動に反対するNGO緊急共同声明

私たちは、外国人、難民、民族的マイノリティ等の人権問題に取り組むNGOです。

日本社会に外国人、外国ルーツの人々を敵視する排外主義が急速に拡大しています。NHK等が先月に実施した調査では、「日本社会では外国人が必要以上に優遇されている」という質問に「強くそう思う」か「どちらかといえばそう思う」と答えた人は64.0%にものぼります(1)。

外国人、外国ルーツの人々へのヘイトスピーチ、ヘイトクライムが止まりません。例えば2023年夏以降、埼玉県南部に居住するクルド人へのヘイトデモ、街宣が毎月のように行われ、インターネット上は連日大量のヘイトスピーチであふれる深刻な状況となっています。

6月の都議会選挙では、選挙運動として「日本人ファースト」等のヘイトスピーチが行われました。また、外国ルーツの候補者たちが「売国奴」などのヘイトスピーチによって攻撃されました。

来る参議院選挙でも「違法外国人ゼロ」「外国人優遇策の見直し」が掲げられるなど、各党が排外主義煽動を競い合っている状況です。政府も「ルールを守らない外国人により国民の安全安心が脅かされている社会情勢」として「不法滞在者ゼロ」政策を打ち出しています。

しかし、「外国人が優遇されている」というのは全く根拠のないデマです。日本には外国人に人権を保障する基本法すらなく、選挙権もなく、公務員になること、生活保護を受けること等も法的権利としては認められていません。医療、年金、国民健康保険、奨学金制度などで外国人が優遇されているという主張も事実ではありません。

「違法外国人」との用語は、「違法」と「外国人」を直結させ、外国人が「違法」との偏見を煽るものです。「不法滞在者」との用語も、1975年の国連総会決議は、全公文書において「非正規」等と表現するよう要請しています(2)。難民など様々事情があって書類がない人たちをひとくくりで「違法」「不法」として「ゼロ」すなわち問答無用で排斥する政策は排外主義そのものです。

本来政府、国会などの公的機関は、人種差別撤廃条約にもとづき、ヘイトスピーチをはじめとする人種差別を禁止し終了させ、様々なルーツの人々が共生する政策を行う義務があります。社会に外国人、外国ルーツの人々への偏見が拡大している場合には、先頭に立って差別デマを打ち消し、闘うべきなのに、偏見を煽る側に立つことは到底許されません。法務省もヘイトスピーチ解消法に則り、選挙運動にかこつけて行われるヘイトスピーチは許されないとの通知を出しています(3)。

ヘイトスピーチ、とりわけ排外主義の煽動は、外国人・外国ルーツの人々を苦しめ、異なる国籍・民族間の対立を煽り、共生社会を破壊し、さらには戦争への地ならしとなる極めて危険なものです。

私たちは、選挙にあたり、各政党・候補者に対し排外主義キャンペーンを止め、排外主義を批判すること、政府・自治体に対し選挙運動におけるヘイトスピーチが許されないことを徹底して広報することを強く求めます。また、有権者の方々には、外国人への偏見の煽動に乗せられることなく、国籍、民族に関わらず、誰もが人間としての尊厳が尊重され、差別されず、平和に生きる共生社会をつくるよう共に声をあげ、また、一票を投じられるよう訴えます。

(1)NHKウェブニュース「『外国人優遇』『こども家庭庁解体』広がる情報を検証すると…」(2025年6月28日)
(2) 「移住者と連帯する全国ネットワーク」HP「在留資格のない移民・難民を不法と呼ばず非正規や無登録と呼ぼう!」の頁参照。
(3) 法務省「事務連絡」(2019年3月12日)選挙運動,政治活動等として行われる不当な差別的言動への対応について

【呼びかけ団体】

特定非営利活動法人 移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)/「外国人・民族的マイノリティ人権基本法」と「人種差別撤廃法」の制定を求める連絡会(外国人人権法連絡会)/外国人住民基本法の制定を求める全国キリスト教連絡協議会(外キ協)/人種差別撤廃NGOネットワーク(ERDネット)/全国難民弁護団連絡会議(全難連)/一般社団法人 つくろい東京ファンド/一般社団法人 反貧困ネットワーク/フォーラム平和・人権・環境(平和フォーラム)

第2次の団体賛同募集中です

以下の賛同フォームより、賛同登録をお願いいたします。

https://forms.gle/SmBfg4cjQfh6xAJSA

なお、賛同締切は7月17日(木)です(7月18日に発表予定)。

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