11月, 2025 | 平和フォーラム
2025年11月30日
米軍・那覇軍港の浦添沖移設「環境影響評価方法書」を読む
湯浅一郎
はじめに
2025年8月18日、沖縄防衛局は、米軍・那覇軍港の浦添沖移設に関する環境影響評価の項目や調査手法などを記した「方法書」を公告した(注1)。9月17日まで公告した書類を誰でも自由に閲覧できるようにする縦覧を行った後、10月1日を期限として市民などからの意見を受け付けた。10月23日、沖縄防衛局は、市民から245件の意見書が提出されたことを明らかにし、その意見概要を沖縄県に提出した。
那覇軍港は、1974年に移設を前提に返還することで日米両政府が合意し、2022年10月には沖縄県と那覇・浦添両市が代替施設の建設に合意した。事業は、浦添市沖の約64haの公有水面を埋立て(約49haのT字型の代替施設(図1)、約15haの作業ヤード)することに加え、2つの防波堤(東西に延びる長さ約3900m、南北に延びる長さ約500m)の設置、浚渫工事などがセットで計画されている。ここでは方法書を読むことで問題点を列挙したうえで、生物多様性に関わる法的規制につき考える。
1.生物多様性の保全に関しては当該事業も「生物多様性国家戦略」の主旨に沿ったものでなければならないことの自覚がない
410頁という膨大な方法書(要約書)の中に「生物多様性国家戦略」(注2)という言葉は1か所も登場しない。事業者である沖縄防衛局は、この問題を明確に位置付けていないことがうかがえる。
しかるに生物多様性基本法第12条第2項(生物多様性国家戦略と国の他の計画との関係)は、「環境基本計画及び生物多様性国家戦略以外の国の計画は、生物の多様性の保全及び持続可能な利用に関しては、生物多様性国家戦略を基本とするものとする」としており、すべての省庁の事業について生物多様性国家戦略の主旨に沿うものとなるよう定めている。したがって沖縄防衛局の本事業も生物多様性や生態系の保全に関しては生物多様性国家戦略に沿ったものでなければならない。その国家戦略は、ネイチャーポジテイブ(自然再興)を掲げ、昆明・モントリオール生物多様性枠組(注3)により2030年までに「陸と海の少なくとも30%を生物多様性の保護区」にする、いわゆる「30 by 30」を中期目標にしている。この点についても「方法書」には記載はない。
2.本事業の埋立て予定海域は生物多様性の保全を目的とした「海洋保護区」であることが明記されておらず、海洋保護区内での埋立て、防波堤の設置、浚渫が「生物多様性の保全」に矛盾しないことを保証する方策は何ら検討していない
2010年、名古屋で開かれた生物多様性条約第10回締約国会議で各国は、2020年までに海の10%を保護区にすることを含む「愛知目標」に合意した。これを受け、環境省は、2011年5月、「我が国における海洋保護区の設定の在り方について」(注4)を作成し、海洋保護区を「海洋生態系の健全な構造と機能を支える生物多様性の保全及び生態系サービスの持続可能な利用を目的として、利用形態を考慮し、法律又はその他の効果的な手法により管理される明確に特定された区域」と定義した。
環境省は、この定義により以下の「特定された区域」を「海洋保護区」と総称した。
・自然公園(規定法:自然公園法、管轄:環境省、以下同じ)
・自然海浜保全地区(瀬戸内海環境保全特別措置法、環境省)
・自然環境保全地域(自然環境保全法、環境省)
・鳥獣保護区(鳥獣保護管理法、環境省)
・海洋水産資源開発区域(海洋水産資源開発促進法、水産庁)
・共同漁業権区域(漁業法、水産庁)
それにより2020年には海域13.3%が保護区となり、愛知目標は達成されたと報告され、沿岸域の相当部分が海洋保護区である。沖縄島の周りにはほぼ100%共同漁業権が連なっている。その結果、沖縄島の周囲の海域は、大浦湾の一部海域を除き、すべて海洋保護区である。各国の海洋保護区は生物多様性条約に基づく国際データベース(注5)に登録されており、そこから沖縄島、及び浦添沖を取り出したのが図2.a)、b)である。沖縄島と慶良間諸島は海洋保護区でつながっており、その多くはサンゴ礁が存在しているとみられる。
図2.b)からわかるように事業計画の対象海域はすべて生物多様性の保全を目的として選んだ海洋保護区である。しかるに方法書には「海洋保護区」という単語は一度も登場しない。認識していないのか、または認識しているが無視をしているのかは定かではないが、沖縄防衛局は、「事業計画の対象海域はすべて海洋保護区である」点を明確に認識すべきである。その上で、埋立て、防波堤建設、浚渫工事、そして作業ヤードに係る工事など一連の工事が、「生物多様性の保全」に矛盾しないことを方法書の第3章3.2.9「環境の保全を目的として法令等により指定された地域その他の対象及び当該対象に係る規制の内容等」に明記すべきである。
3.当該海域のサンゴ礁は沖縄島でも最も優れたものであることを無視している
方法書においても、対象地域における重要な動物は計214種、植物は86種、重要な植物群落が9群落生育している可能性が考えられるとする。さらに「サンゴ礁は、対象事業実施区域の北東側は被度5%未満、一部に30~50%、50%以上、南西側は礁縁部に30~50%、礁池内に被度50%以上の範囲が分布する。防波堤の沖側の自謝加瀬、干ノ瀬、浅ノ瀬は、サンゴ類の被度が高く、特に干ノ瀬では、被度50%以上の範囲が分布する。」(頁3-4)と記述されている。ここで被度とは、地表面を覆っている割合を示す。また方法書の一つ手前の手続きで、2024年に作成された配慮書段階の専門家の意見として「近年、当該箇所のサンゴ被度が高くなっているのではないかと推察される」(頁4-26)、「最近は八重山地方よりも沖縄本島の方がサンゴの被度や多様性が高くなってきている。」(頁4-27)と浦添沖のサンゴ礁の価値が相対的に高まっていることも指摘されている。
国土交通大臣の意見8(頁5-3)でも、「高被度のサンゴ群集が見られるほか、「環境省レッドリスト2020」に絶滅危惧Ⅰ類として掲載されているホソエガサ等の海藻類、絶滅危惧ⅠB類として掲載されているタナゴモドキ等の魚類、絶滅危惧Ⅱ類として掲載されているアジサシ類、シギ、チドリ類等の鳥類、ヒロオウミヘビ等の爬虫類、リュウキュウアサリ等の水生貝類等が生育・生息している可能性がある。」と希少種の生息を強調している。
また当該海域は、海洋保護区の選定などの基礎資料として、環境省が2014年3月に「生物多様性の観点から重要度の高い海域」として「沿岸域」270海域を抽出した中で「宜野湾沿岸」(海域番号14804)に位置付けられている。絶滅危惧種としてコアジサシ(鳥類)、イイジマウミヘビ(爬虫類)、アマミカワニナ(貝類)が記載され、八放サンゴ類の分布など生物多様性の豊かな海である。この点は、国土交通大臣の意見8(頁5-3)でも指摘され、「本事業の実施による想定区域における埋立てに伴う直接改変及び水環境の変化により、動植物及び生態系への影響が懸念される。」としている。
これらの意見を踏まえれば、方法書の段階で事業計画そのものを見直すのが本来のあるべき姿である。
4.当該事業は埋立て、防波堤設置、浚渫など総合的で、それらの複合的な影響を評価すべきである
本事業は、約64haの埋立て(約49haの代替施設、約15haの作業ヤード)に加え、2つの防波堤(東西に延びる長さ約3900m、南北に延びる長さ約500m)の設置、浚渫工事などがセットとして実行される。まず埋立ては海洋保護区の一部をそのまま抹殺する行為である。埋立地および防波堤の設置は、潮流の変化だけでなく、海域全体の閉鎖性を強めることになり、ひいては海岸線と防波堤で囲まれた海域において夏の成層期に下層の貧酸素化現象に至る可能性もある。さらに浚渫工事は、海底にたまる懸濁粒子を拡散し、藻場やサンゴ礁に悪影響をもたらす可能性がある。これらが同時に進行することで、海域全体の生物多様性や生態系への複合的な影響がどう進み、どのような悪影響をもたらすのかは、極めて重要な課題であるが、方法書には複合的な影響を予測する視点が盛りこまれていない。
5.先行する他の埋め立て事業との累積的な影響も検討されねばならない
さらに大きな問題として、ごく近接して先行する事業が同時に進行している。軍港移設予定海域の南西の海岸線付近では「交流・賑わい空間公有水面埋立事業」(浦添市土地開発公社、那覇港管理組合)(注6)の約32.2haの埋立て計画が先行して動いている。2023年12月、同計画の環境影響評価方法書が公告されている。当該事業は、これに少し遅れて動いており、両者が実行された場合の累積的な影響は包括的に検討されるべき大きな課題である。しかるに、これは沖縄防衛局だけの責任ではないが、この点に責任を持って対処する枠組みは存在していない。環境省や沖縄県が調整役をすべき課題なのかもしれないが、被害を受けるのは自然の側である。ネイチャーポジテイブをめざし、2030年までに海の30%以上を保護区にしようと国を挙げて努力しているときに、このような累積的埋め立て計画が海洋保護区において進行しつつあること自体が不当である。一機関の責任ではないかもしれないが、政府、自治体などによる未来への犯罪とも言えることが責任の所在もわからないまま進行しているのである。少なくとも両計画を推進していくのであれば、沖縄防衛局と浦添市土地開発公社及び那覇港管理組合という3つの事業者が共同で累積的な悪影響を包括的に評価するべきである。
6.検討されていない2つの重要な課題
この他にも検討されていない重要な課題として少なくとも以下がある。
①供用開始後の軍港としての運用に関わる環境影響も対象として評価すべきである。例えば、那覇軍港で始まったオスプレイの離着陸、想定される出入港する船舶の危険性などが対象になると考えられる。現在ホワイトビーチに限定している米原潜の寄港が始まるといった事は想定しなくていいのかどうかも明確にすべき問題の一つである。
②埋立て用材の必要量と、供給先及び搬送方法を明確にすべきである。関連して浚渫土砂の扱いも大きな問題である。
7.結論
1~6で述べてきたことをトータルに振り返ると以下のような結論となる。
自然は縫い目のない織物(シームレス)のようにつながっている。どこか壊せば思わぬところに波及する。自然のなかに埋立地や防波堤などの人工構造物を設置することは、物質循環を分断し、微妙なバランスによって生かされている海の生き物の生活史を分断することになる。こう考えると、生物多様性の保全を目的として海洋保護区として選定した以上、海洋保護区の中で埋立て、防波堤などの人工構造物を設置し、浚渫を行う当該事業は、方法書の段階において中止すべきである。
おわりに
―環境影響評価法に生物多様性の保全を目的とした海洋保護区における埋め立てや浚渫の禁止などを盛り込むべきである―
このあと沖縄県は、環境影響評価法にのっとり、移設に関係する那覇・浦添・宜野湾の3市にも意見を照会した上で意見を取りまとめ、事業者である沖縄防衛局に意見をのべることになる。事業者は、沖縄県からの意見を踏まえて、環境アセスメントで評価する項目と手法を選定する手続きに入る(注7)。
しかし、このプロセスの中に事業計画を根本的に見直す機会は存在しない。本稿で指摘した生物多様性の保全を目的として選定した海洋保護区の中で、大規模な埋立て、長大な防波堤建設、それに伴う浚渫工事を行うことの是非は一切問われることがないのである。ここでは環境影響評価法の中に「生物多様性の保全を目的として選定した保護区においては、生物多様性を抹殺してしまう埋立てや浚渫は禁止する」との法的規制を盛り込むべきであることを強調しておきたい。
本事業は国の税金により、国家が未来に託すべき海洋保護区を埋立て、もとに復すことはできない行為を行おうとしている。世界のホープスポットを埋めてしまう辺野古新基地建設と同じ構図であるが、まさに「未来への国家による犯罪」とでもいうべきことが表向き、合法的に進もうとしているのである。
注
1.沖縄防衛局;「那覇港湾施設代替施設建設事業に係る環境影響評価方法書(要約書)」2025年8月。
https://www.mod.go.jp/rdb/okinawa/effort/base/nahaport/hohosho/pdf/070818Youyakusyo.pdf
2.「第6次生物多様性国家戦略」
https://www.env.go.jp/content/000293532.pdf
3.「昆明モントリオール世界生物多様性枠組み」
https://www.env.go.jp/content/000296182.pdf
4.環境省:「我が国における海洋保護区の設定の在り方について」(2011年5月)
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kaiyou/dai8/siryou3.pdf
5.日本の保護地域情報が登録されている国際データベースのURL,
https://www.protectedplanet.net/country/JPN
6.「交流・賑わい空間公有水面埋立事業環境影響方法書」
https://www.city.urasoe.lg.jp/doc/65cc6b636e33864cca69157e/file_contents/20240607120039284.pdf
7.環境影響評価法
https://laws.e-gov.go.jp/law/409AC0000000081
2025年11月28日
憲法審査会レポートNo.64
11月26日、今臨時国会はじめての参院憲法審査会が開催されました。このなかで日本維新の会が憲法審査会の下に条文起草委員会を設置する提案をし、これに国民民主党から賛意が表明されたものの、自民党は積極的な反応を示しませんでした。
いっぽう、27日に行われた衆院憲法審査会幹事懇談会では、船田元・与党筆頭幹事が憲法審査会への条文起草委員会設置を提案、維新が同調、立憲・共産・れいわが反対しました。
これら「憲法審査会への条文起草委員会設置」の提案は自民・維新の「連立合意」に基づくものですが、自民党の衆参での対応には温度差がすでに表れています。
また、自民・維新両党による「条文起草協議会」の場においても、改憲に前のめりの維新の姿勢が際立ってきています。
【参考】
自民、条文起草委を提起 衆院憲法審査会、立民は反対
https://www.47news.jp/13514189.html
自民、条文起草委を提案 衆院憲法審、立民「時期尚早」
https://www.jiji.com/jc/article?k=2025112700573&g=pol
維新、憲法9条2項削除・国防軍を説明 自民「いきなりそこまでは」
https://digital.asahi.com/articles/ASTCW3J38TCWUTFK009M.html
2025年11月26日(水)第219回国会(臨時会)
第1回 参議院憲法審査会
【アーカイブ動画】
https://www.webtv.sangiin.go.jp/webtv/detail.php?sid=8753
【マスコミ報道から】
参議院憲法審査会 今国会で初の討議 憲法の考え方で意見交わす
https://news.web.nhk/newsweb/na/na-k10014986851000
維新、条文起草委を提案 参院憲法審、野党は反発
https://news.jp/i/1366324694204269207
条文起草委設置で足並みそろわぬ与党 今国会初の参院憲法審、「周回遅れ」挽回なるか
https://www.sankei.com/article/20251126-CECNUXJY4JIGHDPPWQPKIJWVLY/
臨時国会での改憲論議、自民なぜ抑え気味 初の参院憲法審査会から
https://digital.asahi.com/articles/ASTCV323DTCVUTFK00KM.html
【傍聴者の感想】
高市政権発足後、初の参議院憲法審査会が開催されました。今夏の参院選を経て会派の構成や委員も変わりました。初開催だからということか、各会派代表が「憲法に対する考え方」を表明し、その後委員の自由な発言を時間終了まで行いました。
各会派の発言は概ねこれまでの主張を繰り返したもので、特に新しい課題提起はなかったように思います。参議院の緊急集会を積極的に活用する方向性は各会派共通するなど、衆院との違いも従来の論調が継続していると思いました。自民と維新の連立合意に触れた発言がいくつもあったのが、今までとの違いでしょうか。
初めて参加した参政党の発言が注目されましたが、「憲法は一から作り直す創憲」「憲法は権力を縛るものではなく、国のあり方を示すもの」「今の憲法には伝統的な文化や価値が記載されていない」「日本は古来から憲法を自主的に作ってきた(聖徳太子など?)のであって自分たちで作ることが大事」など、この間にマスコミなどでも報道されていた主張でした。
委員の自由討議でも参政党の委員の発言がありましたが、「子どもの権利を守らなければならない。長時間保育は子供の情緒をゆがめている。そのために3歳までは家庭で育てることを定めるべき。憲法で、『子供は国の宝』と明記すべき」との主張を展開。批判の仕方は幾通りも思いつきますが、問題はこのような発言が現代の国会において堂々となされることを可能にしている私たちの社会のあり様でしょう。私たちの日常において、分断と対立は乗り越えつつ、批判すべきことはきちんと批判するということが、今まで以上に大切なってくるのだと感じました。
【国会議員から】吉田忠智さん(立憲民主党・参議院議員/憲法審査会筆頭幹事)
1.戦後80年と日本国憲法の真価
今年は戦後80年ですが、かつての全体主義と軍国主義がもたらした世界史にも例のない甚大な戦争の惨禍の反省に基づき制定され、今日までの我が国の発展の礎となった日本国憲法の真価をしっかりと正当に評価しなければならないと考えます。
日本国憲法は、世界唯一の平和主義を掲げ、世界屈指の人権法典にして優れた民主制度を定めたものであり、私ども会派はこの日本国憲法を守り活かしていくための議論、すなわち、良識の府にふさわしい、法の支配と立憲主義、そして、憲法の基本原理に基づく憲法論議をこの審査会で求めて参ります。
2.憲法審で議論すべき事項
さて、本日は、今後の本審査会において議論すべき三つの事項について指摘したいと思います。
(1)緊急集会
一つは、参議院の緊急集会に関する議論です。参院憲法審では、2023年常会で緊急集会の制度、24年常会で災害時等の緊急集会の運用について大変充実した議論を行ってきました。今後は、緊急集会のあるべき機能強化などに関する論点を更に議論し、具体的な制度改善に結びつける必要があります。
特に、本年の常会で自民党の中西筆頭幹事が指摘されたように、参議院の「都道府県選挙区の合区」が緊急集会の制度趣旨に合致するものか検討が必要と考えます。この点、昨年6月の選挙制度専門委員会の報告書において、二院制における参議院の機能・役割として、災害対応について「緊急集会の機能の充実強化」が明記され、その答申を受けた参議院改革協議会報告が本年6月に纏められております。
今後は、改革協議会と本審査会との連携が極めて重要であり、まずは、この間の経緯等を聴取し、憲法問題を担当する憲法審査会の責任を果たしていく必要があると考えます。
なお、緊急集会を巡っては、任期延長改憲の根拠として、「総選挙の実施が可能な平時の制度であり、開催期限は70日間限定であり、二院制の例外制度としてその権能は大きく制約される」といった主張が衆院憲法審で任期延長改憲を主張する方々によってなされてきました。
ところが、参院憲法審では、自民、公明、そしてご勇退された大塚耕平先生などが会派代表意見において、衆議院の任期延長改憲を主張する方々とは異なる緊急集会に関する正しい見解を述べられてきました。昨年8月の自民党の党見解のWG報告にはそうした良識の府の見識が具体的に示され、かつ、本年の常会でも佐藤筆頭幹事を先頭に任期延長改憲を主張する方々の見解に汲みしない緊急集会の正しい主張がなされたことに敬意を表する次第です。
特に、佐藤筆頭幹事の質問による川崎参院法制局長の答弁によって、予算や条約などの衆議院の優越事項も緊急集会の議案となることが明確に確認されたことは非常に重要です。
こうした、参院憲法審の論戦にもかかわらず、衆院憲法審では先の常会の会期末に緊急集会の誤った見解に基づく任期延長改憲の骨子案の議論が行われたことは誠に遺憾です。
ただ、その中で、「70日間は緊急集会の活動期間を厳格に限定するものではない」という見解が初めて示されています。この点、任期延長改憲の「選挙困難事態」の定義には70日間限定説に基づく「70日を超えて」という「長期性の要件」があり、この改憲骨子案の見解は、任期延長改憲の論拠の根幹の崩壊を意味するものと考えます。
先の自民・維新の連立合意には、任期延長の改憲条文の来年の常会提出等が記されています。緊急集会を巡る見解が衆参で深刻に分裂し、任期延長改憲を主張する方々の見解の正当性そのものが崩壊する中で、衆院での改憲条文の提出など断じて許されません。ましてや、そのための、衆参憲法審査会での条文起草委員会の設置など断じて許されようがないことを明確に指摘いたします。
(2)国会法102条の6に基づく憲法違反問題の調査審議
次に、国会法102条6が定める憲法審査会の法的な任務である憲法違反問題などの調査審議の実行も極めて重要であります。
先に、高市総理による存立危機事態条項の台湾海峡有事での適用答弁が日中の国際問題に至っていますが、そもそも、安倍政権の集団的自衛権行使は昭和47年政府見解の「外国の武力攻撃」という文言の曲解等によってなされた憲法違反であることが、2015年の安保国会では濱田邦夫元最高裁判事や宮﨑礼壹元内閣法制局長官らによって陳述されています。
また、それが故に、武力行使の新三要件が歯止めのない・無限定なものであることも国会質疑で論証されていますが、日本による米国のための集団的自衛権行使を法的に免責した日米安保条約3条など日米同盟との関係も含め、国家による戦争行為の発動である存立危機事態条項の憲法問題について、本審査会で冷静にしっかりと調査審議を行う必要があります。
なお、我が会派は自民・維新の連立合意にある、あらゆる武力行使を可能にしてしまう憲法9条そのものの改憲には明確に反対をいたします。
合わせて、多くの高裁で違憲判決が出ている同性婚禁止、あるいは、選択的夫婦別姓、さらには、臨時国会の召集義務違反など、国民の人権や民主主義の在り方に直結する重要な憲法問題もしっかりと審議する必要があります。
(3)国民投票法
更には、国民投票法について、附則4条が求めているテレビやネットのCM規制、ネット上のフェイク情報の対処などについて、引き続き議論を深めていく必要があります。
特に、インターネットについては、いわゆるフィルターバブル・システムや、再生回数稼ぎのビジネスモデルなど、「ネット社会の民主主義の在り方」という根本的な視座に立った検証が必要と考えます。
3.最後に
以上、良識の府にふさわしい、立憲主義に基づく憲法論議を求めて私の意見といたします。
(憲法審査会での発言から)
2025年11月21日
憲法審査会レポートNo.63
11月20日、今臨時国会2回目となる衆院憲法審査会が開催され、イギリス・ドイツ・EU本部の国民投票制度の調査団派遣(9月)の報告があり、偽情報対策などについて討議しました。なお、来週27日の幹事懇談会には船田元・与党筆頭幹事が、自民・維新の「連立合意」に基づき、憲法審査会への条文起草委員会設置を提案する可能性があります。
参院については幹事懇談会が19日に行われ、26日に今国会初の参院憲法審査会開催で合意しています。
【参考】
衆院憲法審、20日開催へ 偽情報対策の海外事例を報告
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA132Z30T11C25A1000000/
参院憲法審、26日に初開催
https://www.jiji.com/jc/article?k=2025111900475&g=pol
2025年11月20日(木) 第219回国会(臨時会)
第2回 衆議院憲法審査会
【アーカイブ動画】
https://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=55984
※「はじめから再生」をクリックしてください
【マスコミ報道から】
衆院憲法審 国民投票時の偽情報対策に規制の導入検討すべき
https://news.web.nhk/newsweb/na/na-k10014981811000
自・立、事業者規制の強化主張 衆院憲法審、偽情報対策巡り討議
https://www.jiji.com/jc/article?k=2025112000129&g=pol
与野党、偽情報巡り議論 衆院憲法審、高市政権で初
https://www.47news.jp/13480892.html
※タイトルには「高市政権で初」とありますが、本文にあるように「初の討議」です(開催自体は2回目)。
高市政権で初の衆院憲法審、与野党が偽情報やフェイクニュース対策めぐり議論
https://www.sankei.com/article/20251120-JVPLLFSR2BKORPQGR6HZKBJ4QY/
【傍聴者の感想】
衆議院憲法審査会が11月20日に開催され、会長は枝野幸男さん(立民)から武正公一さん(立民)になったほか、委員の顔ぶれも若干変わる新たな体制で始まりました。
さて、今回の審査会ではイギリス、EU及びドイツの憲法及び国民投票制度について、現地に赴いた調査報告にたいする各委員から質問や意見を述べ合う自由討議が行われました。
調査を行った議員団は3名で、調査団長の枝野さんが、調査の主たるテーマである「国民投票における偽情報対策及び外国勢力による介入への対応、政治広告規制」について各国の状況を報告し、会長代理の船田元さん(自民)と武正さんが補足の報告を行いました。
偽情報やSNSの拡散情報、政治広告による投票行動への影響、またそれらを規制することと表現の自由のバランスをどのように取りうるか、各委員の質問や意見が集中していましたが、一方で、行政側が一方的に新聞社をフェイク報道呼ばわりした事例や、特定野党を誹謗中傷したことで問題となったSNSアカウント「Dappi」と自民党との関係に触れたうえで、国民投票広報協議会がきちんと自浄作用を含めて機能させることができるのかと疑問を呈する意見が出ていました。それはその通りで、いくらSNS規制と表現の自由のバランスをとったすばらしい制度設計ができたとしても、肝心かなめの広報協議会が偏重したりフェイクしたりしては、お話にならないのでもっともなことでしょう。
その他一部委員からは憲法改正を前提とした議論はするなとの意見もありました。この間の永田町政治の状況を見ていると、どうも憲法の枠内で政治の運営を行うという立憲主義が十分に機能していないきらいがあるようです。「憲法について広範かつ総合的に調査を行う」ことも大切なのでしょうが、こうした政治状況の調査・分析も憲法審査会でされてはいかがかと思いました。
2025年11月21日
ニュースペーパーNews Paper 2025.11
11月号もくじ
ニュースペーパーNews Paper 2025.11
表紙
*私たちも差別者になりかねません 法政大学法学部教授 金子 匡良さんに聞く
*山花郁夫衆議院議員と憲法の話をしよう
*百里基地の機能強化に抗して(上)
*ピーススクール・世界核被害者フォーラム開催報告
*時代の転換点、労働組合の発信力強化を!
2025年11月20日
【平和フォーラム声明】高市政権発足から1か月、この間の政策を問う
平和フォーラムは11月20日、以下の声明を発表しましたので、お知らせします。
高市政権発足から1か月、この間の政策を問う
2025年10月21日、自民党の高市早苗総裁が第104代首相に就任した。発足して1か月、各種世論調査によると高い支持率が示されているものの、高市首相がこれまで訴えてきた政策は保守強硬派とも言われる内容であり、その具現化がどれだけ進むのか、多くの市民から不安の声が聞かれていることも事実である。
高市首相は国会論戦の中で、「台湾に対し武力攻撃が発生する。海上封鎖を解くために米軍が来援し、それを防ぐために武力行使が行われる」という想定を述べたうえで、「戦艦を使って武力の行使を伴うものであれば、どう考えても『存立危機事態』になり得る」と述べた。2015年安保関連法の成立によって集団的自衛権行使が容認されるとした安倍政権以降、歴代政権では具体的な「存立危機事態」に言及することはなかっただけに、高市首相の発言は具体的で大きく踏み込んだことになる。日本政府は1972年の日中共同声明において、「1つの中国政策を十分理解し尊重する」という姿勢を示し、紛争は平和的手段で解決することを確認してきた。高市首相の発言がこの姿勢を踏まえたものとは言い難い。この発言以降、外務省金井アジア太平洋局長が中国・北京を訪問し、中国外務省の劉勁松アジア局長と協議したが、事態の収束は困難な状態が続いている。中国との経済的関係の悪化も報道されるなど、政治による日中関係の悪化が今後どこまで影響するかについて、予断を許さない。日本政府には、憲法理念に基づく平和外交への努力を求めながら、日中関係は日中共同声明と日中平和友好条約に立ち返り、正常化することが望まれる。
11月14日には、国家安全保障戦略など安保関連3文書の改定に向け、「非核三原則」の見直しを与党内で開始させる検討に入ったことが明らかになった。80年前の広島・長崎の被爆の実相を原点に、これまで核兵器廃絶と世界平和の実現を願い、国内はもとより、世界各国で凄惨な被爆の実相を語り、「核の非人道性」を国際的に確立させてきた被爆者からは、即座に抗議の声があがった。日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)からも「非核三原則」の堅持、法制化を強く求める声明が発表された。国際的にもICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)が、「広島と長崎の被爆者の声を聞くべきだ」としたうえで、「非核三原則」の見直しを非難する声明を発表している。被爆80年を迎えた今年、核兵器廃絶に向けた日本社会の機運をより一層高め、2026年に開催予定の核不拡散条約(NPT)と核兵器禁止条約(TPNW)両再検討会議につなげる形で、国際社会全体の核兵器廃絶への歩みを一層強固にすることにこそ、日本政府は注力すべきではないか。戦争による被爆を経験し、国連総会本会議に核兵器廃絶決議案を出しながら、一方では「非核三原則」を見直し、「核抑止」を前提とした安全保障に頼る日本政府の方針に、国際社会から信頼と納得が得られるとは到底考えられない。
他にも、「防衛費のさらなる引き上げ」、「スパイ防止法」、「武器輸出5類型」の撤廃や「選択的夫婦別姓制度」の否定など、懸念される方針は枚挙にいとまがない。グローバル化が進む今日、多文化共生社会を後退させる政策や方針に強い懸念も抱かざるを得ない。今、迅速にとりくむべき政策課題は、賃上げが追いつかず物価高に苦しむ市民の生活改善に向けた内容であり、個々人の人権を尊重した政策の実現であるはずだ。
私たちはこれまで訴えてきた、武力ではなく対話による平和外交をおし進め、生活改善と人権尊重につながる政策実現を求めるとともに、核兵器廃絶の実現に向けた歩みをより強固にするようとりくんでいく。戦後80年・被爆80年、これまで紡いできた平和を希求する市民の声を、一層高めていくことを決意し、高市政権発足1か月にあたっての平和フォーラム声明とする。
2025年11月20日
フォーラム平和・人権・環境
共同代表 染 裕之
丹野 久
2025年11月14日
院内集会「排外主義にNO! 誰もが人間として尊重され差別なく共に生きる社会を」のご案内
参議院選挙後、「秩序ある共生社会」や「外国人の適正管理」といった言葉のもとで、排外主義的な言動や政策が強まっています。
今年5月に打ち出された入管庁の「ゼロプラン」や、高市新政権による外国人への規制強化の動きは、共に生きる社会をめざしてきた私たちの歩みを後退させるものです。
社会保障費の引き下げ、スパイ防止法制定など、人権保障に逆行する政策も次々打ち出されています。
今、必要なのは「管理」や「排除」ではなく、すべての人が人間として尊重され、差別なく安心して暮らせる社会です。本集会では、現場からの報告や当事者の声を共有しながら、デマや差別に基づく排外主義を乗り越え、すべてのマイノリティの人びとの人権を尊重する共生社会の実現を共に考えます。
院内集会「排外主義にNO! 誰もが人間として尊重され差別なく共に生きる社会を」
日時:11月26日(水)12時~13時30分 ※ 11時30分開場
場所:参議院議員会館講堂(要申込)+オンライン(ZOOM)
申し込み方法:申し込みフォームから参加申し込みをお願いします(対面/オンライン参加いずれも、11月24日締め切り)
※差別主義団体関係者・妨害目的の参加はお断りします。
※情報保障・アクセシビリティなどに関するお問い合わせ・ご相談はお手数をおかけしますが、申し込みフォームの「連絡事項」欄よりご連絡をお願いいたします。
※オンライン参加の方は、ZOOMの字幕機能をご使用いただけます。
内容:
◆「秩序ある共生社会」とは何か?…鈴木江理子さん(移住者と連帯する全国ネットワーク)
◆参議院選挙後に高まるデマと排外主義…安田浩一さん(ノンフィクションライター)
◆クルドコミュニティの現状…温井立央さん(在日クルド人と共に)
◆なかまたちが強制送還に怯えている 困窮者支援現場からの報告…瀬戸大作さん(反貧困ネットワーク)
◆外国人人権基本法、差別撤廃法の実現を…師岡康子さん(外国人人権法連絡会)
◇国会議員・団体からの連帯メッセージ
◇声明発表・行動提起
主催:特定非営利活動法人 移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)/「外国人・民族的マイノリティ人権基本法」と「人種差別撤廃法」の制定を求める連絡会(外国人人権法連絡会)/外国人住民基本法の制定を求める全国キリスト教連絡協議会(外キ協)/人種差別撤廃NGOネットワーク(ERDネット)/全国難民弁護団連絡会議(全難連)/一般社団法人 つくろい東京ファンド/一般社団法人 反貧困ネットワーク/フォーラム平和・人権・環境(平和フォーラム)
2025年11月14日
憲法審査会レポートNo.62
自・維、改憲に向けて動き強める
自民党と日本維新の会は13日、「連立合意」に基づいて改憲条文起草協議会を開催しました。まずは両党レベルで緊急事態条項や憲法9条の改憲条文案作成をめざすとともに、衆参憲法審査会への「条文起草委員会」設置提案を行うなどするもようです。
高市首相は4日の衆院本会議の代表質問で、内閣が国会に改憲案を提出することが可能との見解を示すも、12日の参院予算委員会では「高市内閣から提出することは考えていない」と述べています。
なお、13日に行われた衆院憲法審査会幹事懇談会で、20日に審査会を開催することが合意されています。
【マスコミ報道から】
自民と維新、9条改正へ議論開始 連立合意通りの進展見通せず
https://www.47news.jp/13450303.html
衆院憲法審20日に開催へ 与野党で合意 高市政権下で初の実質討議
https://www.sankei.com/article/20251113-H6YPH2AODJO3VLLGRE3LELIVMI/
「内閣も改憲案提出可能」高市首相が断言した政治的な理由とは… 持論が口に出てしまい危うさは加速する
https://www.tokyo-np.co.jp/article/449090
2025年11月12日
戦後80年 未来につなぐ平和憲法 第62回護憲大会を神奈川県・横浜市で開催
「戦後80年 未来につなぐ 平和憲法 憲法理念の実現をめざす第62回大会(第62回護憲大会)」を11月8・9・10日の三日間にわたり、神奈川県・横浜市で開催しました。8日の開会総会・メイン企画には約1100人が参加しました。また、9日は分科会・ひろばやフィールドワーク、そして10日には閉会総会を開催しました。これらの日程のなかで、軍事基地の実態や人権の侵害の実態に触れ、問題状況を共有し、改めて日本国憲法の平和主義の意義について学習と議論を深めました。戦後80年を迎えたいま、「国のありよう」が大きく変えられようとしています。私たちは、日本国憲法のもと、戦争をしない「平和国家」としての立場を守り、差別や排外主義によって人間の尊厳が損なわれかねない危険な状況に抗するため、全国各地でのとりくみを一層強化していくことを確認しました。
8日、オープニングとして、横浜中華学校校友会国術団による「中国獅子舞」が会場を練り歩き、川崎市で活動するトラヂの会による「韓国・朝鮮舞踊と歌謡」が披露されたのち、開会総会を開催しました。
染裕之・実行委員長(平和フォーラム共同代表)から開会あいさつ、福田護・神奈川県実行委員会・実行委員長(神奈川平和運動センター代表)が開催地からの歓迎あいさつを行いました。続いて、林鉄兵さん(日本労働組合総連合会・副事務局長)、篠原豪さん(立憲民主党神奈川県連政策調査委員長・衆議院議員)、福島みずほさん(社会民主党副党首・参議院議員)から連帯あいさつがありました。そして、谷雅志・事務局長が大会基調案を提案し、全体で確認しました。
メイン企画としてシンポジウム「戦後日本は、どう人権を育んできたのか」を行いました。金子匡良さん(法政大学法学部・教授)をコーディネーターに、シンポジストに山花郁夫さん(立憲民主党・衆議院議員)、阿久澤麻理子さん(大阪公立大学経営学研究院都市経営研究科・教授)、海渡双葉さん(秘密保護法対策弁護団・事務局長)を迎えた本企画は、SNSなどを通じた偽情報の拡散や誹謗中傷、差別意識による人権侵害が深刻化するなか、現代日本における人権感覚のあり方を考える機会となりました。シンポジストからは、政治、教育、司法それぞれの現場からの視点で提起が行われ、共通する課題でクロストークを進め、今回の議論を通じて、私たち一人ひとりが社会の中で尊厳を守る主体となることの大切さを改めて確認しました。
9日午前は5つの分科会を開催し、それぞれのテーマでの問題提起と質疑応答が行われました(→分科会報告は準備中)。また、みっつ(「基地コース1 厚木基地・キャンプ座間」「基地コース2 横須賀軍港クルーズ」「青年企画 要塞島フィールドワークと意見交換」)のフィールドワークも行われました。午後は大会実行委員会主催ではなく自主運営企画として「ひろば」がみっつ(「地元企画」「基地問題交流会(企画:全国基地問題ネットワーク)」「被爆・戦後80年 高校生の集い(企画:高校生平和大使派遣委員会・神奈川)」)行われました。
10日の閉会総会では、特別報告として「原発・高レベル放射性廃棄物問題」(北海道平和運動フォーラム)、「外国人排斥・差別問題」(埼玉県平和運動センター)、「基地による人権問題」(沖縄平和運動センター)についてそれぞれ報告されました。続いて谷事務局長から3日間全体の内容についてのまとめ報告を行いました。その後「遠藤三郎賞」の授賞式を行いました。護憲・平和運動に貢献された個人・団体を表彰する「遠藤三郎賞」は、福井県の「坂井市勤労者協議会」、高知県の「戦争への道を許さない女たちの会 高知」の2団体に贈られました。最後に、大会アピール案(本記事下部に掲載)が提案され、全体の拍手で確認したのち、次回の第63回大会開催予定地が福岡県であることが発表され、福岡県より決意表明があった後、地元からの閉会挨拶で、第62回護憲大会が締めくくられました。
2025年9月19日、政府の有識者会議は安保三文書の前倒し・改定を提言し、原子力潜水艦の保有にも言及しました。さらに、自民党と日本維新の会の連立合意により、「憲法改正」と防衛力拡大を進める方針が示されています。決して再び戦争の惨禍を招くことがないよう、日本がその道を選ばないよう、平和フォーラムとしても憲法理念に基づいた平和な未来を切り拓くために全力を尽くしていきます。そして、私たちの職場・地域でのとりくみがよりいっそう大切になっていることを認識し、ともにがんばっていくことを呼びかけます。
戦後80年 未来につなぐ平和憲法
憲法理念の実現をめざす第62回大会アピール
2025年は戦後80年、敗戦80年、被爆80年を迎えました。国内外を問わず、日本国憲法に謳われている「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないようにする(平和主義)」、「主権が国民に存する(主権在民)」、「国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない(基本的人権の尊重)」、この三原則が、今こそ最も重要であると痛感する社会情勢となっています。私たちがこの間、一貫して共有してきた理念は、決して揺らぐことのない信念として生活に根づき、もはや当たり前のようになったと錯覚を起こしてしまっていたのかもしれません。
パレスチナ・ガザへの一方的な殺戮行為、ロシア・ウクライナ戦争など、世界での戦争行為を終結させられず、核兵器使用や核実験実施が、威嚇や交渉の材料として用いられています。国内においても、軍備拡張を強硬におし進める日本政府や、非核三原則の見直し、核共有といった話が政治の場で聞こえてくるようになりました。加えて、特に外国人をターゲットとした差別・排外主義を声高に主張する政党が、選挙において一定の得票を得る事態にまで至っています。「選択的夫婦別姓」については国会で議論されたものの、保守強硬派の高市政権の誕生により法制度化は大変厳しい情勢にあります。
26年にわたった自民党・公明党の連立政権に終止符が打たれ、自民党・日本維新の会の連立へと枠組みが変わりました。先の参議院選挙で議席数を伸ばした参政党などを加えた改憲勢力が多数の議席を有する現状において、憲法「改正」が前のめりに議論されることへの引き続きの警戒感を持ち続ける必要があります。国会における憲法審査会の動向を注視するともに、生活改善に速やかにつながる政策の実現こそが重要であると、広く訴えていく必要があります。
どれだけ多くの犠牲を払ったうえで、私たちはこの日本国憲法を手に入れたのでしょうか。戦争体験者・被爆者がこの間、必死に訴えてきた「私たちと同じ思いを世界中の誰にもしてほしくない」という思いに、一人ひとりの命の尊厳に、私たちは向き合えているのでしょうか。そのことが今、問われてるのです。
憲法理念の実現をめざす第62回大会は、全国各地から多くの参加者が神奈川に集まり、憲法理念の実現をめざすとはどういうことなのかを考え、議論を深めました。その大前提として、だれもが命の心配をすることなく、平和な明日が訪れるというくらしが必要です。世界中のどこでもそれを享受できるよう、日本国憲法の理念の実現をめざす「不断の努力」こそが求められています。過去の歴史から学び、現状の認識を深め、想像力を働かせて未来を切り開く、その中心にある今をどう行動していくのか、ともに考えていきましょう。一人ひとりの意識を高めるとりくみを継続して行うことが必要です。この大会に集まった、同じおもいを共有する参加者でそのことを確認し、大会アピールとします。
2025年11月10日
憲法理念の実現をめざす第62回大会
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2025年11月06日
【平和フォーラム声明】関西生コン事件・国家賠償請求訴訟の不当判決への抗議声明
平和フォーラムは11月3日、以下の声明を発表しましたので、お知らせします。
関西生コン事件・国家賠償請求訴訟の不当判決への抗議声明
傍聴席は、虚を突かれたように静まり返った。団体交渉やストライキなどの正当な労働組合活動に加わった組合員が、恐喝や強要未遂の疑いで摘発された「関西生コン事件」を巡る国家賠償請求訴訟の一審判決が10月31日、東京地裁で出された。判決は「原告の請求を棄却する」というもので、労働組合への弾圧や組合つぶしを目的とした警察や検察、裁判所の違法捜査や⾧期拘留などの責任を不問とするこの不当判決に「関西生コン事件を支援する会」は満腔の怒りをもって抗議する。
「関西生コン事件」は、2018年7月~2019年11月にかけて、組合員延べ81人が逮捕され、延べ66人が起訴された事件である。会社や権力側が労働組合を反社会的集団とみなし、正当な組合活動を恐喝や威力業務妨害という犯罪としてでっち上げ、これを司法が追認するという驚愕すべき実態が明らかにされてきた。
組合員の刑事裁判は様々に分離併合されながら8つの裁判で審理され、2025年10月段階で既に4つの裁判が終結している。①和歌山広域協組事件は2023年3月に大阪高裁で組合員3人に逆転無罪判決が出され、検察が上告を断念して無罪が確定している。その他にも、②タイヨー事件、③コンプライアンス第2事件(ビラまき)、④加茂生コン第1事件の4件12人に対し無罪判決が確定している。日本の司法では起訴されると99.9%が有罪となる中、異例ともいえる率で無罪となっていることは、一連の摘発が労働組合の弾圧を目的とした不当なものであることが明らかである。
6月26日の最終弁論で再生された取調べの記録映像では、取り調べにあたった検事が「私は一人でやっているわけじゃない。警察と検察官は何人もいるからね。これを機会として、皆さん連帯きちっと削ってくださいよって話もあるわけですよね。当然やりますよ」という発言が明らかにされた。こうした恫喝といえる不当な取り調べの実態や、明らかに恣意的な捜査であったことがはっきりしているにもかかわらず、この日の判決では、「(検事の発言は)表現方法が適切だったかは疑問の余地がある」と指摘したものの、「組合を弾圧し、弱体化させる意図を述べたものとは解されない」とするなど、捜査過程の権力側の重大な不当性を一顧だにしないものであった。こうした国家権力と企業が一体となった労働組合への弾圧と敵視攻撃は、権力の乱用に他ならず、労働運動や草の根の市民運動を萎縮させる意図があったものと捉えざるを得ない。
戦前の軍国主義・全体主義の台頭は、労働運動の存在そのものが否定され、“産業報国”のスローガンによって1940年頃はすべての労働組合が自発的な解散に追い込まれ、日本は第二次世界大戦に参戦していくことになった。民主的で公正、公平な社会を実現するためにも労働組合が不当なことに毅然と異を唱える姿勢が問われ、その先頭にこの関西生コン事件があり、私たちの底力が試されている。「関西生コン事件を支援する会」は引き続き、今回の不当判決に屈することなく闘いを継続し、全国の仲間の皆さんとともに奮闘することを決意する。
2025 年11月3日
関西生コン事件を支援する会 事務局⾧
フォーラム平和・人権・環境 共同代表
染 裕之




