12月, 2025 | 平和フォーラム
2025年12月05日
憲法審査会レポートNo.65
12月4日、衆院憲法審査会では自由討議が行われ、自民・維新は憲法審査会の下に「条文起草委員会」を設置することを主張しましたが、立憲・れいわ・共産は反対を表明、与野党で設置の合意が得られる状況にはありません。
12月17日が今臨時国会の会期末です。補正予算審議などもあることから、衆参ともに憲法審査会の実質的な開催機会も少ないものとみられ、今国会ではこれ以上の大きな動きはないものと思われます。
2025年12月4日(木)第219回国会(臨時会)
第3回 衆議院憲法審査会
【アーカイブ動画】
https://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=56022
【マスコミ報道から】
衆院憲法審 憲法改正 条文案起草の小委員会設置めぐり意見交換
https://news.web.nhk/newsweb/na/na-k10014993781000
自民、起草委設置へ理解求める 立民は否定的―衆院憲法審
https://www.jiji.com/jc/article?k=2025120400120&g=pol
遠い憲法審の「起草委」設置 自民「合意を得られる状況ではない」
https://digital.asahi.com/articles/ASTD42SLCTD4UTFK00NM.html
「安全」巡る認識の違い表面化 衆院憲法審査会 緊急事態条項新設に立民は反対姿勢堅持
https://www.sankei.com/article/20251204-E4FL6I7SVVOEJASJIWSYEZYZ4M/
【速報】同性婚容認へ改憲提起 自民党の中谷氏「不利益解消」
https://www.47news.jp/13548764.html
憲法審査会 条文案作りに着手する段階だ
https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20251205-GYT1T00052/
【傍聴者の感想】
きょうは自由討議の形で、各党の委員が発言時間いっぱい持論を展開しました。
いわゆる「お気持ち表明」なのではないかと感じるような、それぞれが一方的に話しているような印象を覚えました。
また、「いつまでも同じことを繰り返していてはだめだ」「議論は尽くされた」と改憲ありきで発言する議員もいますが、憲法は国のあり方を示し、権力を「法の支配」で縛る国の最高法規です。落ち着いた環境で冷静な議論が必要ですし、少数会派の意見を封じてはいけません。
何よりも私たち市民は憲法を変えるべきだとは思っていません。それよりも物価高対策や社会保障の充実など生活に密接に関わる課題の解決に尽力してほしいものです。
傍聴券を手配していただいた議員の秘書の方から「今日は傍聴に小学生も参加する」と聞いていましたが、きっと小学生は憲法審査会を傍聴して「ぽかーん」としたと思います。発言内容が難しいというよりも、一方的に主張し、話がかみ合わない様子は、「会議」のイメージとかけ離れているからです。
そもそも、憲法で世の中を、世界を良くしたいという発想からの改憲議論ではなく、世界情勢が危険だから憲法を変えないといけないという発想自体が、ナンセンスで本末転倒です。どうしたら世界が良くなるか、そのために努力しましょうと憲法前文にも書かれています。
改憲ありきの委員の姿勢や発言は、努力すべき方法や方向を誤っているように見受けられました。
【国会議員から】山花郁夫さん(立憲民主党・衆議院議員/憲法審査会筆頭幹事)
いうまでもなく憲法改正のためには、衆参両院の2/3以上の賛成が必要です。
近年与党だけで2/3を占めるということがありましたが、戦後80年間の歴史をみると、これは歴史的には稀有な事態といえます。一般的には野党第一党が賛成していなければ両院での2/3の合意形成は難しいといえます。法律と違って、憲法というのは、どんな考え方の内閣であっても、どの政党が政権を担っても、そのルールの下に政治を行うという、いわば与野党に共通のルールだけに、2/3要件というのは、与野党一致で共通認識が形成されることが求められているものといえます。
国民投票法を制定するに際しては、このような事情を意識しながら立案したものでした。すなわち、将来的に憲法の改正が発議されることがあるとすれば、与党・野党の垣根なく共通認識を形成して、成案を作成していくというプロセスが重要になるということを認識し、その手続法である憲法改正国民投票法も同様に、与野党で真摯な議論を行って共通認識を形成し、成案を得ていこうという努力がなされました。衆議院憲法審査特別委員会において、最終的には不本意な形での採決となりましたが、ギリギリまでその努力がなされたもので、船田会長代理はその当事者でもあられます。
国民投票法成立当時から、国民投票の賛否の勧誘にかかわるCM規制について議論がありました。私たちとしては、民放連が制定当時と異なる答弁が後になされたことから、問題意識を持っていたところです。
制定から時がたち、テレビ・ラジオはオールドメディアとよばれるようになり、テレビ・ラジオよりもSNSのほうが社会的影響力は大きくなっており、偽・誤情報対策については当審査会でも議論してきました。さらに、諸外国において選挙の際の外国からの干渉などの問題も、当審査会でも先日、衆議院の海外調査(枝野団長)において、報告を受けたところです。
広報協議会については幹事懇談会で議論が進んでいますが、国民投票法についてはその他にも議論すべき論点があると考えています。この点については、前回改正時に附則4条に盛り込まれているテーマもあります。附則4条には、「法律の施行後3年を目途に、……」「検討を加え、必要な法制上の措置その他の措置を講ずる」ことになっているところ、すでに3年以上を経過しており、立憲民主党としては今後の審査会でも附則に規定されたことについて重点的に議論がなされるべきと考えます。
前回改正の時には、私と新藤筆頭との間で相当な時間をかけて折衝を行いました。当時も公選法並びの改正という比較的技術的な内容の改正の提案がなされていました。CM規制等の問題も同じ国民投票法の改正案であることから、採決を行うのであれば立憲民主党の問題意識を盛り込めるものは改正法に編入してほしいという当方の立場との乖離を埋めることに相当なエネルギーを費やしたことが思い出されます。最終的には附則に落とし込むことにより、双方の合意を形成することができました。対立した形での採決とならなかったことについては当時の新藤筆頭幹事にも敬意を表したいと思います。
ただ、その後に附則で規定した事項についての議論が加速化することはなかったというのは残念に思います。
国民投票法は手続について定めるものですが、どの党の案がベースになったものだという色がついてしまうと、「改憲派に有利なルールだ」とか、「護憲派に有利なルールだ」というレッテルを張られ、手続の正当性に疑義が生じるおそれがあります。その意味で、現在も立憲民主党として法案の形で党内的には整理しているところですが、これを対案的に提出しようというのではなく、論点についての考え方を提起しつつ、各党各会派にご理解をいただいてコンセンサスを作っていきたいと考えています。
将来的に多くの与野党のコンセンサスが形成されて「憲法改正が発議された」という事態を想定し、国民投票での過半数を視野に入れると、どの党の案がベースになったという色がつかないことが大事だと思います。
かつて、中山太郎憲法調査会長(当時)と、ルクセンブルクに国民投票の視察に行ったことがあります。EU憲法批准の可否に関する国民投票でした。議会では圧倒的多数が賛成していたにもかかわらず、国民投票の結果は僅差のものでした。政党色や内閣に対する審判のような色がつくと、思わぬ結果となることを中山先生と語り合ったことが思い出されます。
こうした事例などの教訓として、国民投票での過半数を視野に入れると、発議される憲法改正案はどこの党の主張であったというようなことが希釈されていることが必要で、起草委員会というアイデアはこのような文脈で語られてきたはずです。
現状はそのアイデアになじむ状態ではないというだけでなく、憲法改正の「わが党案」のようなものを主張されている党があるとすれば、これまでの憲法調査会以来の知見をふまえたものとはいえず、国民投票での過半数獲得の阻害要因となることは指摘しておきたいと思います。
なお、議員任期延長に関連して、総選挙を全面的に停止しなければならない立法事実を確認できない旨申し上げてまいりました。
少し角度を変えて説明したいと思います。
公立中学校で「男子生徒の髪型は丸刈りでなければならない」という校則があったとします。法の下の平等という観点からすると、この校則を違憲・無効なものであるとして、男子学生の髪型についての規制をなくす、というのが適切な是正策と考えられます。
これに対して、「女子生徒の髪型も丸刈りでなければならない」という校則を新たに作成して、男子学生・女子学生間の平等を解消するような方策をとるべきでないことは言うまでもありません。人権を侵害する方法で平等を実現することは「不正義を倍増」することにほかならないからです。
そこで、大規模災害の場合です。東日本大震災のようなケースでも、8割強の地域は選挙の執行が可能でした。1割強の地域で選挙の執行が困難であることを理由として衆議院選挙を全面的に不能だと論じることは、比率において上回る地域の選挙権行使の機会を停止することにより「平等」を確保しようとするもので、女子学生を丸刈りにするのと同じように投票の権利を侵害・制限する方法で平等を実現する方策といえます。繰延投票等の方法を活用することが適切な解決方法だということを改めて申し上げて発言といたします。
(憲法審査会での発言から)
