2021年、平和軍縮時評

2021年04月30日

日本は、米韓と連携し朝鮮半島の完全な非核化と平和を目指すべきだ

ドゥブルー達郎、湯浅一郎

2021年1月20日、バイデン政権が始動した。北東アジアの非核化と平和の行方にとって、バイデン政権が朝鮮半島の問題にどのような方針で臨むのかは極めて重要である。その際、米国は朝鮮民主主義人民共和国(DPRK、以下、北朝鮮)の安全を保証し、北朝鮮は朝鮮半島の完全な非核化のために努力し、新しい米朝関係の確立と永続的な朝鮮半島の平和体制の構築を相互に約束した、2018年6月の米朝シンガポール合意を継承するか否かがポイントとなる。

  

バイデン政権が、北朝鮮問題を重視し、無視ではなく何らかの関与政策をとることは、政権発足後の発言や発表文書などからうかがえる。例えばブリンケン国務長官は、2月1日に放映されたMSNBCテレビの番組において、バイデン大統領から「朝鮮半島の非核化を前進させるために最も効果的な方策を取るために政策を見直すよう頼まれた」と語っている[注1]。そして、その作業は、ブリンケンの1月19日の承認聴聞会での「同盟国とパートナー国、特に韓国や日本などと緊密に相談し、すべてのオプションを調べてみることからはじめる」との発言のように、同盟国としての日韓と協議しながら進められた。事実、2 月 19 日、日米韓は朝鮮半島の完全な非核化 のための局長級の協議をオンラインで開き、協力していくことで合意した。

しかし、韓国と日本では対北朝鮮政策に、根本的な違いがある。2018年に訪れた非核化と平和に向かう朝鮮半島情勢は、韓国の文政権が生み出したものである。これに対して、日本政府は積極的に関与する姿勢を示したことはない。米国と韓国が紛れもなく2018年以後の変化の重要な当事者であるなかで、米新政権の方針決定に対し、日本が障害になることが懸念された。そこで、ここでは、日本、韓国と協議しつつ行われた、バイデン政権による4月末までの対北朝鮮政策レビューのプロセスを追う。

文在寅政権の米政権への期待

韓国の文在寅大統領はよく知られるように2018年以来の南北関係と米朝関係の新たな進展に大きく貢献してきた。

バイデン政権に対しても、文は米朝首脳会談で得られたシンガポール合意を今後の米朝対話の出発点にしてほしいと考えている。21年1月18日、文は大統領府春秋館で開かれた年頭記者会見で、「バイデン政権の発足により朝米対話、南北対話を新たに始める転機が設けられたと思う」とし、「その対話はトランプ政権で成し遂げた成果を継承し、発展させていくものでなければならない」と述べた[注2]。

さらに、バイデン政権が発足した1月20日、文在寅は2018年に特使として北朝鮮を訪問し、シンガポール米朝首脳会談の準備をした鄭義溶(チョンウィヨン)を新しい外相に任命した。3月18日、米韓外務・防衛閣僚会議「2プラス2」後に行われた共同記者会見において、記者からの「米国はシンガポール合意を尊重すべきだと思うか」との質問に対し、ブリンケンは明確に答えなかったが、鄭は「シンガポール合意は真剣に考慮される必要があるものであるが、韓国政府の観点からは、米朝関係を解決し、朝鮮半島に平和を確立し、非核化するための基本原則を確認するものである[注3]」と述べ、シンガポール合意の本質的重要性を強調した。

無策のままの日本政府

日本政府は米朝のシンガポール合意を方向性は正しいものとして評価した[注4]ものの、実際には、国連安保理の制裁圧力の継続を重視し、「核兵器の放棄が先で、制裁解除は後」との立場を続けている。

2020年9月に発足した菅政権においてもこの制裁一辺倒の姿勢は変わらない[注5]。1月13日の年頭記者会見で、菅首相は「日朝平壌宣言に基づいて、拉致、核・ミサイルといった諸懸案を包括的に解決して、不幸な過去を清算して、北朝鮮と国交正常化を目指す」と述べ、従来の考えを繰り返した[注6]。3月16日の日米安全保障協議委員会(「2+2」)後の記者会見において、茂木外相は「北朝鮮の完全な非核化の実現に向けて、国連安保理決議の完全な履行の重要性を確認し、日米及び日米韓三か国で引き続き協力していくことを確認した」と述べたが、この内容は相も変らぬ従来と同じ内容の繰り返しである[注7]。北朝鮮から前向きな措置を引き出すために日本から何か具体的に行動を起こすという意気込みも、米国が共同声明を継承することが不可欠であるという強い思いも見られない。

実際には、より踏み込んだ後ろ向きの政策を追求している可能性がある。1月22日の自民党外交部会において外務省幹部は「日本は段階的アプローチを認めていない。(バイデン政権への)働き掛けを強化する」と述べたことが報じられた[注8]。この発言は、北朝鮮が制裁に屈服して一挙に核兵器を放棄することを日本政府が目指していることをうかがわせる。さらに、一部の報道でバイデン政権はトランプ政権とは違って北朝鮮の段階的非核化の政策をとる可能性があると報じられていることに対して、そのような方針に抵抗する意向を示している。日本政府は、いわゆるリビア方式では一歩も前に進まなかった過去の非核化交渉の歴史から学ぶことなく、未だに圧力の効果という幻想を追っているようにみえる。3月30日、4月で期限が切れる北朝鮮に対する日本の独自制裁措置について、日本政府は2年間延長することを決定した[注9]。

「2+2」協議に現れた困難

このように韓国と日本の間には現在の対北朝鮮政策に大きな違いがある。韓国の文政権はシンガポール合意の履行を基礎に米朝交渉の再開を目指している。日本は圧力に重点を置いたままである。バイデン政権は北朝鮮政策を策定するにあたって、この両者との協議を重視するというのである。そこから予想されるバイデン政権が直面するであろう困難は、3月の米韓、日米の「2+2」共同文書に現れている。

バイデン政権は、対中国戦略を重視する結果として、防衛・外交トップの直接会談の最初の訪問先を日本と韓国に選んだ。その結果、日米「2+2」会談(3月16日、東京)と韓米「2+2」会談(3月18日、ソウル)が相次いて行われ、それぞれの共同声明が発表された。

それぞれに北朝鮮問題についての言及があるが、際立って異なるメッセージを含んでいる。日米共同声明においては、北朝鮮を刺激する敵対的とも言える表現が用いられた。日米共同声明には、「北朝鮮の軍備(arsenal)が国際の平和と安定に対する脅威である」と書かれ、これは、核兵器に限らず北朝鮮のあらゆる軍備を国際的な脅威だとする敵対的な表現を使っている。また、声明は「北朝鮮の完全な非核化へのコミットメントを再確認した。」[注10]としており、これは、「朝鮮半島の非核化」を目指す韓国政府の立場を無視している。

それに対して、米韓共同声明は、北朝鮮への配慮をにじませた表現に終始している。米韓は、共同声明において「北朝鮮の非核化」という文言は使わず「北朝鮮の核・弾道ミサイル問題が最大の優先課題だ」と述べて「問題を課題とする」という表現に留めたのみならず、韓国への米国の「核の傘」に直接言及することを避けた。つまり「米国側は、韓国の防衛とすべての範囲の能力を用いた拡大抑止の約束を再確認した」と、拡大抑止の内容における核兵器の要素を明記することを避けた[注11]。今回、「核」の文字を外したのはバイデン政権下の米朝関係の良好なスタートを願う韓国側の意向が働いたのであろう。北朝鮮はシンガポール合意を大きな外交的成果と捉えているので、米国の新政権がシンガポール合意を尊重しない限り、北朝鮮が交渉のテーブルにつくことはないであろう。その意味で韓国政府の姿勢は賢明である。

目指すべきはシンガポール合意に基づく朝鮮半島の非核化

2つの共同声明に現れているように、バイデン政権が北朝鮮政策を検討するために同盟国と協議する場合、日本と韓国が与える影響の方向はほとんど正反対であると言っても過言ではない。

バイデン政権がトランプのように首脳同士の話し合いで「グランドバーゲン(一括妥結)」を目指さず、実務者間の交渉から始め、北朝鮮の核・ミサイル開発の廃棄に応じて制裁を徐々に解除する方式を採用するのであれば、長期的な履行スケジュールを念頭に置く必要がある。そのような努力における実質的な内容において、北朝鮮の一方的な核放棄を志向する現在の硬直的な日本政府が果たしうる貢献はほとんどないであろう。一方で、韓国は2018年板門店宣言の実現という課題に挑戦しており、米国が解くべき問題の一部を共有しているため、米国が得られる実質的な貢献は極めて大きいはずである。

この間、バイデン政権が、2018年6月の米朝シンガポール合意を今後の米朝交渉の基礎として継承するかはどうか、一貫して分からなかった。しかし、4月30日、サキ大統領報道官は、記者会見において対北朝鮮政策見直しが完了したとした。その上で、シンガポール合意で使われた「朝鮮半島の完全な非核化」の表現を用い、「米国や同盟国の安全を高められるような調整された現実的なアプローチを追求する」と発言した [注12]。このことからシンガポール合意が継承される可能性が出てきた。バイデン大統領がかつて選挙戦で「トランプ氏は悪党を親友だと話している」と攻撃していたことを考えると、大きな軌道修正である。バイデン政権は、「2+2」の日韓協議では「朝鮮半島の非核化」、日米協議では「北朝鮮の非核化」と表現を使い分けていたが、サキ報道官の発言からは、完了した政策見直しでは、「朝鮮半島の非核化」という用語で統一されていることが推測される。日本政府が、これをどのように評価しているのかは未知数だが、日本は、米韓と連携して、シンガポール合意を基礎にした朝鮮半島の完全な非核化と平和を目指すべきであろう。

注1 「国務長官アントニー・ブリンケンとMSNBCのアンドレア・ミッチェル」、米国務省、2021年2月1日。
https://www.state.gov/secretary-antony-j-blinken-with-andrea-mitchell-of-msnbc-andrea-mitchell-reports/  
注2 「文大統領『朝米対話はシンガポール宣言から再始動すべき』、『ハンギョレ』、 2021年1月19日。 
https://news.yahoo.co.jp/articles/19bc8a9aa39f40d084494ffa189240022c705518
注3 「国防長官ロイド・オースティンと国務長官アントニー・ブリンケンが米韓の外交・防衛「2+2」協議会の後、韓国のカウンターパートと記者会見を開く」、米国防総省、2021年3月18日。
https://www.defense.gov/Newsroom/Transcripts/Transcript/Article/2541299/secretary-of-defense-lloyd-j-austin-iii-and-secretary-of-state-antony-blinken-c/  
注4 「『北朝鮮めぐる懸案解決に向けた一歩と支持』安倍首相」、『NHK』、2018年6月12日。
https://www.nhk.or.jp/politics/articles/statement/5455.html
注5 最近の安倍、菅政権の北朝鮮政策が『監視報告No.28』において論じられている。 梅林宏道、湯浅一郎「「条件を付けずに首脳会談を目指す」日本政府の北朝鮮政策には、首尾一貫した政策メッセージと平壌宣言の正しい理解が不可欠である」、2021年1月13日。
注6 『新型コロナウイルス感染症に関する菅内閣総理大臣記者会見』、首相官邸、2021年1月13日。
http://www.kantei.go.jp/jp/99_suga/statement/2021/0113kaiken.html 
注7 「日米安全保障協議委員会(「2+2」)共同記者会見」、外務省、2021年3月16日。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/na/st/page3_003036.html
注8 「日本、段階的非核化を警戒 米新政権の対北朝鮮政策」、『産経新聞』、2021年1月22日。 
https://www.sankei.com/politics/news/210122/plt2101220031-n1.html
注9  「北朝鮮に対する日本独自の制裁措置 2 年間延長へ」、『NHK』、2021 年 3 月 30 日。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210330/k10012944431000.html
注10 「日米共同記者声明」、米国務省、2021年3月16日。
https://www.state.gov/u-s-japan-joint-press-statement/
注11 「2021米韓外交・防衛「2+2」共同声明」、米国務省、2021年3月18日。 
https://www.state.gov/joint-statement-of-the-2021-republic-of-korea-united-states-foreign-and-defense-ministerial-meeting-22/
注12 ホワイトハウスHP,サキ報道官の記者会見。
https://www.whitehouse.gov/briefing-room/press-briefings/2021/04/30/press-gaggle-by-press-secretary-jen-psaki-aboard-air-force-one-en-route-philadelphia-pa/

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