憲法審査会レポート、2025年

2025年05月23日

憲法審査会レポート No.56

【参考】

“護憲”に転じた自民 vs 不満爆発の高市氏 安倍氏なき改憲論争が引き起こした自民の内乱劇
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/88429

2025年5月21日(水)第217回国会(常会)
第4回 参議院憲法審査会

【アーカイブ動画】

https://www.webtv.sangiin.go.jp/webtv/detail.php?sid=8542

【マスコミ報道から】

参院憲法審査会 憲法と現実のかい離めぐり各党が議論
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250521/k10014812261000.html

自民、参院の「合区」解消を主張 憲法審、立・公は同性婚実現訴え
https://nordot.app/1297868247770169734

【傍聴者の感想】

今回の自由討議のテーマは、「憲法と現実の乖離」でした。

「憲法では素晴らしい理念を唱えた。しかし、現実は程遠い。だから現実に即した憲法に改正してしまえばいい」という論理は、あたかも理にかなっているようですが改憲派による都合のいい主張です。憲法が権力者の思いのままに蹂躙されることは、あってはならないでしょう。

これだけのコメ価格や物価の高騰にあえいでいる中、生活保護申請件数が増え、若い世代の奨学金返済が困難となり結婚や出産、育児に影響が及ぶことで人々の生存権や幸福が脅かされています。

選択的夫婦別姓や同性婚が遅々として実現せず、個人の尊厳が否定され人格権を侵害しています。集団的自衛権が行使できるよう安保法制を整え、43兆円もの軍事費をつぎ込んで、敵基地攻撃能力を備えるなど言語道断です。

それにもかかわらず「崇高な理想と目的」が達成されていないとするなら、一体誰が「違憲的な」今の現実をつくってしまったのかをしっかりと明らかにし、反省すべきです。

結局のところ、日本国憲法に書かれている理念に立ち返って政策を実行し、それが的確に実現されているかどうかを国全体でチェックする必要があるのではないでしょうか。

「現実を、どのようにして憲法が唱える理念に近づけるか。」この問いに私たちは答えなければなりません。

【国会議員から】福島みずほさん(社会民主党・参議院議員/憲法審査会委員)

国会法第102条の6は、各議院に憲法審査会を設け、日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制について広範かつ総合的に調査することを目的の一つとしています。その意味で、本日、憲法と現実の乖離について議論がされることは憲法審査会の設置目的にまさにかなうものです。

日本国憲法98条は、憲法が最高法規であると規定しています。日本国憲法ができて、例えば民法の親族編、相続編が大改正になりました。戦前、民法は、妻は無能力者であると規定し、妻は婚姻によりて夫の家に入るとしていました。しかし、憲法24条が、家族の中の個人の尊厳と両性の本質的平等を規定し、家制度は廃止になり、また、男女平等になりました。まさに、憲法の威力です。

そして、戦争をしないと決めた憲法9条により、専守防衛、海外に武器を売らない、非核三原則、軍事研究はしないなどの原則が積み上がっていきます。まさに、憲法を生かしていくという人々の動きが法制度や政策をつくってきました。だからこそ、憲法と現実の間に乖離があるときに、現実をどう憲法に近づけていくかが重要であり、憲法を現実の方に引きずり下ろすことは本末転倒の、憲法を理解しないものです。

日本国憲法99条は、「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。」と規定をしています。まさに、憲法を守らなければならないのは権力者です。私たち国会議員も憲法尊重擁護義務を持っています。だからこそ、本当に憲法理念を生かし切れているのかということを常に問う必要があります。憲法改正など、憲法を十分に守ってから言えと言いたいです。

ところで、自民党日本国憲法改正草案は、国民に憲法を尊重する義務を課しています。つまり、憲法とは国民が国家権力を縛るものであるのに対し、自民党日本国憲法改正草案は、180度回転をさせ、国家権力が国民を縛るものにしているのです。これはもう憲法ではありません。

憲法尊重擁護義務を持つ国会議員は、憲法理念を実現するために多大なるエネルギーを注ぐべきであり、憲法理念がまだまだ生かされていない現実の中で、憲法改正を言う資格はありません。

まず、選択的夫婦別姓と同性婚について話します。

NHK日本語読み訴訟判決が述べたように、名前は人格権です。結婚するときにどちらか一方が必ず改姓しなければならないことは、憲法十三条が保障する人格権、個人の尊重と幸福追求権を侵害しています。また、夫又は妻となっているものの、女性が95%氏を変えていることは憲法14条の法の下の平等に反しています。また、一方が必ず結婚改姓を強制されることは憲法24条に反しています。

ところで、5月20日、自民党は公明党に、選択的夫婦別姓について、今国会では困難であり、650以上の法律や2700以上の政省令の見直しが必要であると説明しました。しかし、打越さく良議員の質問主意書の回答では、四つの法律しか改正の必要はありません。間違った認識で違憲状態を放置することは許されません。

同性婚を認めないことは明確な憲法違反であると五つの高等裁判所が断じました。憲法14条、13条、24条に反していることが理由です。好きになった相手によって、そもそも結婚届を一切出せないのですから、その不利益も極めて甚大です。五つの高等裁判所が違憲と言ったにもかかわらず、国会でまだ同性婚が成立していません。

選択的夫婦別姓と同性婚が認められていないことは、まさに憲法と現実の乖離です。憲法に合致するように法律を変えることで、幸せになる人を増やすことができます。実現できていないことは国会の怠慢です。家族が崩壊するなどといって多くの人が幸せになることを妨害することは、憲法理念を理解せず、憲法尊重擁護義務を踏みにじるものです。憲法と現実の乖離を埋める努力をすることこそ、国会議員はやるべきです。

憲法と現実の乖離というのであれば、生存権の規定が国民に保障されていないことは大問題です。生活保護の基準を引き下げたことに対して、いのちのとりで裁判が全国で提訴され、勝訴判決が相次いでいます。まさに生存権の侵害です。訪問介護の報酬を減額したことで、訪問介護事業所が倒産をしていっています。これこそ、介護を受ける権利の侵害であり、生存権の侵害です。高額療養費の自己負担額引上げも生存権の侵害です。

ほとんど全ての憲法学者が集団的自衛権の行使は憲法違反であると言っているにもかかわらず、2014年、安倍政権は集団的自衛権の行使を認める閣議決定をし、2015年、安保関連法、戦争法を強行成立させました。安保関連法、戦争法は憲法違反です。憲法九条を基に戦後積み上げられてきた、海外に武器を売らない、軍事研究をしないということも破壊されていっています。

2022年12月に閣議決定をした安保三文書の具体化が進められています。沖縄、南西諸島における自衛隊配備とミサイル計画、それが九州にも、そして西日本にも、全国にも広がり、全国の軍事要塞化が進められています。戦争のできる国から戦争する国へ、憲法9条破壊が進んでいます。

そして、次々と憲法違反の法律が成立していっています。現在、国会で審議中の学術会議改革法案は、学術会議の破壊法案であり、憲法23条の学問の自由を侵害するものです。小西洋之議員が、菅政権のときに、6人の任命拒否について内閣法制局の文書の黒塗りを開示するよう求める東京地裁の裁判で勝訴しました。この黒塗りが開示されることなく、法案の審議入りはありません。

憲法の規定が守られないことは枚挙にいとまがありません。憲法53条後段は、いずれかの議院の総議員の4分の1以上の要求があれば、内閣は召集の決定をしなければならないとしていますが、内閣が臨時会を召集しなかったことが今まで、2015年、17年、21年など存在しています。まさに憲法を無視し、憲法規範の空洞化を政府自身がつくっているのです。たくさん存在する憲法と現実の乖離を埋めるべく、法律制定、法改正や政策の転換をすることこそ、国会に求められています。

なすべきは、憲法改正でははく、憲法理念の実現です。憲法を踏みにじっている人たちが憲法改正を言うことなど、言語道断、ずうずうしいにも程があると言わざるを得ません。現実を憲法に合わせ、憲法が保障する基本的人権が生かされる平和な社会をつくっていくべきです。憲法審査会にもその役割が期待されています。

(憲法審査会での発言から)

【国会議員から】打越さく良さん(立憲民主党・参議院議員/憲法審査会委員)

憲法と現実が乖離する場合、憲法99条により憲法尊重擁護義務を負う私たち国会議員は、現実を憲法に近づけなければなりません。

昨年の選挙の結果衆議院の憲法審査会では枝野幸男会長の元、ようやく熟議を尽くせる構成になりました。5月1日共同通信社が公表した世論調査では、改憲の必要性については「どちらかといえば」を含めて70%が肯定したものの、「改憲を急ぐ必要はない」が50%です。さらに、改憲の進め方については、「慎重な政党も含めて幅広く合意形成を進めるべきだ」が72%と圧倒的です。改憲に前のめりな姿勢は諌められているのです。

私が本審査会でこれまで述べてきたように、日本国憲法に違反すると主張されながら改正されずに放置されている法律について調査を行うことは本審査会の第一義的な責務です。

先ほどの共同通信社の調査では、選択的夫婦別姓については実に71%が賛成であり、同性婚についても賛成が64%です。憲法の基本的価値、個人の尊重、個人の尊厳、平等に適う法制度について、私たち国会議員は世論がたとえ消極的であっても実現しなくてはいけませんが、今や世論も賛成しているのです。望まれる諸制度の実現を先送りし、憲法尊重擁護義務違反を続けるべきではありません。

憲法は、不平等、差別、理不尽に甘んじず、立ち上がるときの手がかりになります。私は第一次訴訟弁護団事務局長としてまさに憲法を手がかりに多くの女性たちと連帯して選択的夫婦別姓を認めない現行法は憲法に違反すると戦いました。今や芦部信喜先生の「憲法 第八版」において、夫婦同氏強制を憲法違反だとする学説が多数であるとされています。今会期中でぜひ実現すべきだと多くの声が上がっています。また同性婚訴訟では、5つの高裁全てで違憲判断がなされました。

選択的夫婦別姓や同性婚を認めれば、社会の幸せは確実に増えます。多様な幸せを認めなかった家制度がとうに廃止され、家族法は個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して制定されなければならないことになっているのです。選択的夫婦別姓と同性婚に反対する国会議員は、そのことを頑なに認めないもので、憲法尊重擁護義務に背を向けていると言わざるを得ません。

本委員会の使命は、こうした憲法に沿わないとされている法律について、立法府として熟議を行うことにあります。

(憲法審査会での発言から)

2025年5月22日(木) 第217回国会(常会)
第7回 衆議院憲法審査会

【アーカイブ動画】

https://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=55809
※「はじめから再生」をクリックしてください

【マスコミ報道から】

衆院憲法審 SNS偽情報が国民投票に与える影響めぐり参考人質疑
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250522/k10014813391000.html
“衆議院憲法審査会では、SNS上の偽情報の拡散が憲法改正の国民投票に与える影響などをめぐり、有識者への参考人質疑が行われ、投票期間中などは、SNS事業者への規制を設ける必要性や、情報のファクトチェックを行う重要性などが指摘されました。”

ネットの偽・誤情報対策「民間の重層的ファクトチェック重要」…衆院憲法審査会が参考人質疑
https://www.yomiuri.co.jp/politics/20250522-OYT1T50222/
“衆院憲法審査会は22日、インターネット上の偽・誤情報対策をテーマに参考人質疑を行った。民間団体やマスメディアによる重層的なファクトチェック(情報の真偽検証)の実施や、選挙中はプラットフォーム事業者に一定の対策を取るよう求めるなどの対応策が上がった。”

広報協議会、偽情報対応に慎重 衆院憲法審で参考人
https://www.jiji.com/jc/article?k=2025052201003&g=pol
“平和博桜美林大教授は「公的機関がファクトチェックを掲げることは表現の自由を侵害するリスクがある」と指摘。「ファクトチェック団体は、国家からの統制を受けない独立性が基本となる」と述べた。”
“鳥海不二夫東大院教授は「広報協議会が信頼を得ることが非常に重要だ」と語った。”

【傍聴者の感想】

今回の衆議院憲法審査会は、はじめに枝野審査会会長が「国民投票広報協議会」にかかわることについて、先日、17日の幹事懇談会の後に行われた意見交換会で議論した内容を説明しました。

その後、参考人の鳥海不二夫さん(東京大学教授)からは「デジタル情報空間における偽誤情報の拡散とその訂正」について、平和博さん(桜美林大学教授)からは「国民投票におけるフェイクニュースおよびファクトチェックについて」の説明を受け、各委員が質問するというところで審査会は終了しました。

主要な論点となったSNSなどでのフェイクニュースとその影響については、参考人の方からの説明はわかりやすく、あらためてSNSのもつ危険性を認識しましたが、それ(フェイクの拡散)を防ぐ手立てとしての対策が、残念ながら理念的にとどまっているなと感じました。

改正ありきの議論ではなく、個別のテーマで参考人の説明を受けたり、それぞれ議論することで、この現状で改正が必要か? という感じになればいいのですが。

TOPに戻る