集会等の報告

2018年11月17日

憲法理念の実現をめざす第55回大会(佐賀大会)大会基調

1.はじめに

 7月22日に閉会した通常国会では、安倍首相と「お友達」による国家権力の私物化が明らかになるなか、事態は森友・加計学園問題にとどまらず、防衛省、厚生労働省、文科省による国会、そして主権者軽視の深刻な事態が浮き彫りになり、また、財務省の福田事務次官のセクハラと財務省の対応は、官僚たちと官僚機構の人権感覚の低さをさらけ出したと言えます。
 これらのことは、2012年12月の第二次安倍政権発足以降、日本の統治機構が、「法による支配」から「人による支配」に変わってきたことの象徴とも言えるでしょう。政府内部における法による規律は崩壊し、官僚は権力者に忖度(そんたく)し、つき従うということであり、権力者の私的な支配が日本社会全体を覆い、法治国家とは言い難い状態を迎えていることを意味しています。
 こうした国家権力の私物化、腐敗、隠蔽、国会軽視を許さないたたかいは、マスコミ報道をきっかけに市民や労働組合、そして野党による国会内外におけるとりくみによって大きく高揚しました。私たちも「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」(総がかり行動実行委員会)に結集し、野党との連携を強めながら、この間の改憲阻止のとりくみに加えて、森友・加計学園問題の真相究明と安倍退陣を求めとりくんだ結果、このたたかいは全国に広がり、世論調査による安倍政権への支持率も30%台まで低下しました。しかし、安倍政権を退陣まで追い込むには至りませんでした。
 これまで官邸は、一刻も早く森友・加計学園問題の追及を逃れるために会期延長を拒み続けていましたが、低下傾向にあった内閣支持率が下げ止まりの兆しを見せるなかで、逆に今度は会期を延長し、「働き方改革」一括法案や、統合型リゾート整備推進法案(カジノ法案)、参議院選挙制度改革法案などの悪法を強行採決の連発により一気に成立させました。さらに、「いつまで森友問題を続けるのか」「いつまで国会を空転させるのか」という開き直りの声も与党から聞こえてきました。
 しかし、真実から目をそらし、根拠のない強弁と隠ぺいで1年を空費させた責任は、すべて政府の側にあることは明らかであり、私たちは、安易な幕引きなど絶対に許さず、改憲阻止のたたかいと合わせて、安倍政権の総辞職を求めて全国でのとりくみを、さらにすすめていかなければなりません。
 一方、9月20日投票で行われた自民党総裁選挙では、現職の安倍晋三総裁は、改憲を争点に立候補し、「次の国会」への改憲原案提出の考えを明言してきました。また、10月2日には自民党の役員人事・内閣改造が行われましたが、党役員人事では、いずれも側近の加藤勝信・元厚労相、下村博文・元文科相をそれぞれ総務会長、憲法改正推進本部長に起用しました。難色を示す公明党との事前協議は断念するも、次期国会の衆参両院の憲法審査会で自民党の改憲案を提示し、改憲議論を推進していこうとしています。また、国民投票については、参議院選挙前の早期実施をも目論んでいることは明らかです。
 10月24日に開会した臨時国会は、災害対策関連の補正予算の審議が最優先の課題ですが、安倍首相は、総裁再選や内閣改造や新たな党役員人事をテコにして、さらに改憲の動きを加速させようとしており、私たちは、憲法をめぐって戦後最大のたたかいを迎えようとしています。
 なお、先の国会では、公職選挙法改正の内容にそろえるとして国民投票法改正に向けた動きが衆議院憲法審査会で具体化してきましたが、野党の抵抗や、「安倍9条改憲NO!全国市民アクション」(市民アクション)や改憲対策法律家6団体連絡会のとりくみによって、通常国会での改正案成立は見送られました。臨時国会における憲法審査会での改憲議論と合わせ、国民投票法の取り扱いについても警戒し注視していかなければなりません。
 さて、2019年は、統一自治体選挙や参議院選挙が予定される政治決戦の年であり、これまでにも増して強固な野党共闘を柱に、それぞれの選挙戦をたたかうことにより、改憲阻止、安倍政権打倒の展望をつくり出さなくてはなりません。
 2015年12月に「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」(市民連合)を結成し、市民連合と野党各党との政策協定締結を基本に野党共闘を推進してきました。2016年の参議院選挙での1人区32選挙区での統一候補の擁立と11人の当選、さらに、北海道知事選挙や新潟県知事選挙、2017年衆議院選挙でも短期間で野党共闘候補をつくりだしました。
 この野党共闘による安倍政権とのたたかいは、2016年の参議院選挙以降、全国から期待が寄せられ、一気に定着し、さらに広がりをみせています。私たちは、来たる参議院選挙のなかでも、さまざまな政党との信頼関係をもとに、市民連合を中心とした本格的な野党共闘を実現し勝利していく、そしてこのことによって改憲阻止、安倍退陣をかちとっていかなければなりません。
 2018年6月12日、シンガポールで、朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)とアメリカとの首脳会談が行われました。この首脳会談では、「トランプ大統領は朝鮮に安全の保証を与えると約束し、金正恩委員長は朝鮮半島の完全な非核化に向けた断固とした揺るぎない決意を確認した」とする共同声明を発表するなど、東アジアにおける非核化・平和実現に向けて大きく動き出す歴史的な首脳会談となりました。
 朝鮮は、2017年1月のトランプ大統領誕生以降、2017年2月から11月の間6回の核実験と15回もの弾道ミサイルの実験を繰り返し、11月29日には「核戦力完成」を宣言しました。アメリカだけでなく日本と韓国は、独自制裁だけでなく国連の安全保障理事会を通じて強力な経済制裁を実施させるなど、朝鮮への軍事攻撃がいつ行われてもおかしくないほど緊張は極限まで達していました。
 しかし、今年2月の平昌(ピョンチャン)オリンピックを機に、韓国と朝鮮が大きな歩み寄りを見せ、4月27日、5月26日には南北首脳会談が開催され、さらに、核・ミサイル開発によって悪化していた中朝関係も3月25日、5月7日に首脳会談が実現するなど、朝鮮と韓国、中国との関係改善がはかられるなかでの史上初の米朝首脳会談の開催となりました。
 こうした朝鮮をめぐる各国の関係改善のなかにあって、日本政府は「圧力と制裁」だけを繰り返し、主体的な国交回復に向けた努力を怠ってきたばかりか、国内的には、朝鮮の核・ミサイル開発による危機を煽り、イージス・アショアの配備や防衛費の拡大に邁進してきました。
 私たちは、東アジアの非核化と平和に向けて大きな流れがつくられるなか、国内外の平和団体との連携をすすめ、政府による日朝国交正常化に向けた努力を求めながら、東アジアの安定と平和に向けたとりくみをすすめていかなければなりません。
 沖縄の辺野古新基地建設の情勢も緊迫してきています。
 沖縄防衛局は、8月17日から護岸がつながった辺野古側に土砂を投入するとして、辺野古新基地建設をめぐり重大な局面を迎えることになりました。
 この政府の動きに対し、翁長雄志・前沖縄県知事は、仲井眞弘多・元知事の埋め立て承認を撤回することを表明し、その後は、沖縄防衛局に対する聴聞をはじめ、撤回に向けた具体的な手続きをすすめていくことが予定されていました。
 残念ながら、8月8日、翁長県知事は急逝されました。しかし、沖縄県は8月9日には予定通り聴聞を行い、続いて、8月31日には、仲井眞元知事の埋め立て承認の効力を失わせる承認撤回を実施しました。
 なお、沖縄県知事選挙が急遽前倒しで行われることにより、政府は、予定していた17日からの土砂投入を先送りすることを県に伝達し、現在においても土砂投入は行われていません。
 9月13日告示・30日投開票で行われた沖縄県知事選挙は、辺野古の米軍基地建設が最大の争点としてたたかわれましたが、翁長前知事の意思を継承し、新基地建設反対を訴えた玉城デニーさんが8万票の大差をつけて勝利し、この選挙戦を通じて、あらためて、「辺野古に新基地は作らせない」という沖縄県民の確固たる意志が示されることとなりました。
 その後、玉城新知事と安倍首相との会談も持たれました。この会談は、選挙後、安倍首相や菅官房長官が選挙結果を「真摯に受け止める」と語っていたことや、選挙後に速やかにもたれたことから、新基地問題が政府と県との間で話し合いによる解決に向けての大きな一歩と期待が膨らむものでした。
 しかし、対談からわずか5日後の10月17日、政府は、対話による解決を踏みにじり、防衛省沖縄防衛局は、辺野古沖の埋め立て承認を県が撤回したことに対し、突然、行政不服審査法に基づく不服審査請求に加え、県による撤回の効力停止を国土交通省に申し立て、10月31日、石井啓一・国土交通相は執行停止を決定し、翌11月1日には工事を再開しています。
 この行政不服審査法を濫用する手法は、2015年、翁長知事の「埋め立て承認取り消し」に対して行ったものと同様です。防衛省は無理やり行政不服審査法上の「承認取り消しの執行停止」を国土交通大臣に請求しましたが、当時も多くの法学者から、「公平性・客観性を欠いた猿芝居」「安保法といい辺野古問題といい法の支配を無視した行政権力の行使」など多くの批判と問題点が指摘されました。
 この政府の行為は、選挙のたびに示されてきた「辺野古に基地はいらない」とする沖縄県民の民意を再び踏みにじるものであり、かつ、国民(私人)の権利・利益の救済を図ることを目的する行政不服審査法を使い、防衛省が同じ内閣の国土交通相に請求し、国土交通相が審査・決定する今回の手法は、行政不服審査法の本来の趣旨を捻じ曲げ、政府によるお手盛り審査で決定するという、法治国家にはあるまじき、極めて不当・不法な行為です。
 私たちは、「普天間飛行場の一日も早い閉鎖と返還、辺野古新基地建設阻止に全身全霊でとりくむ」とする玉城新知事を全力で支持し、辺野古新基地建設をはじめ軍拡をすすめる安倍政権を許さず、辺野古新基地建設を国が断念するまでとりくみを継続・強化していかなければなりません。
 また、安倍政権にとっては、国政選挙並みの体制で挑んだ地方選挙であったにもかかわらず大差で敗れたことや、さらに、自民党総裁選において地方の首相への不満(安倍首相は55%の地方票しか獲得できず)が顕在化したことなどから、首相の求心力の低下は必至で、このことをしっかりととらえて安倍政権の崩壊の始まりとしなければなりません。
 なお、10月21日投開票で行われた那覇市長選挙でも、辺野古反対を主張してきた現職の城間幹子さんが、自民、公明、維新、希望推薦の候補に大差で勝利し、改めて「辺野古に基地はいらない」とする沖縄の民意が強く示される結果となりました。

2.3分の2の改憲勢力を背景に改憲を急ぐ安倍政権と日本会議などの右翼団体

(1)総裁選を通じて加速する改憲発議と国民投票の動き

 8月27日、総裁選を前にして麻生派が「改憲の国民投票を来年夏の参議院選挙までに実施することを求める」政策提言を行い、安倍首相も賛同しています。このように、国民投票の日程を初めて具体的に示したことからも、改憲発議とともに、国民投票の早期実施をも目論んでいることも明らかです。
 10月2日には自民党の役員人事・内閣改造が行われましたが、その陣容からも、次期国会で自民党の改憲案を提示し改憲議論を推進していこうとする強い姿勢がうかがえます。しかし、世論調査(共同通信、10月2・3日実施)では臨時国会での自民党改憲案の提出に反対が48.7%と賛成の36.4%を上回ったことや、来年は現天皇の退位(4月30日)と新天皇の即位(5月1日)が予定されることから、国論を二分する国民投票を行うにはふさわしくないとの意見もあます。また、与党である公明党が、自民党との事前協議を拒否するなど、改憲については慎重な姿勢を崩していません。
 しかし、2017年の共謀罪の成立など、与党内部に批判があっても強行し、成立させてきた安倍首相の強権的な政治手法を考えるならば、予断は許されません。
 一方、改憲をすすめる「美しい日本の憲法をつくる国民の会」の櫻井よしこ共同代表は、「政治日程を考えると憲法改正の機会は、18年しかない」と述べ、18年中の改憲を強く求めてきました。また、6月28日の読売新聞には、改憲発議が見通せないなかで「憲法改正、国会議員よ責任を果たせ」と意見広告を掲載しています。また、第四次安倍内閣は、日本会議が20人中15人、新道政治連盟が19人で新内閣も引き続き極右内閣と言わざるを得ません。
 このように、安倍首相と日本会議など右翼勢力は改憲をあきらめておらず、安倍政権の政権浮揚も狙って、さらに、なりふり構わず改憲に突き進もうとしています。
 10月24日、臨時国会が開会しましたが、安倍首相は衆参両院本会議での所信表明演説やその後の代表質問に対する答弁でも、今臨時国会から各党の改憲案が示されることに期待を表明するとともに、自民党の改憲条文案の提示に強い意欲を示しました。
 私たちは、こうした安倍政権と日本会議がすすめる改憲と戦争できる国づくりに対して、市民アクションに参加し、「安倍9条改憲NO!憲法意を生かす全国統一署名」(3000万署名)のとりくみをすすめてきましたが、安倍三選にともない、現憲法に対する改憲発議と国民投票が具体化する場合、あらためて、確固たる決意の下、3000万署名の展開を軸としながらありとあらゆるたたかいを構築することが求められています。

(2)問題だらけの国民投票法とその改正

 2007年5月14日、戦後初めて任期中の改憲を求めた第一次安倍政権のもとで、初めて憲法改正のための具体的な手続きを定めた国民投票法(「日本国憲法の改正手続きに関する法律」)が強行採決により成立しました。
 国民投票法は、国会への改憲発議について、憲法審査会での審理、改正原案は衆議院100人以上、参議院50人以上の賛成で国会に提出、原案の発議は内容に応じ関連する事項ごとに区分して行う、としています。
 また、国民投票については、18歳以上の日本国民を対象、国会発議後60~180日間に国民投票を行う、有効投票の過半数で改正原案は成立、公務員や教員の地位を利用した投票運動の禁止、コマーシャルは投票日の2週間前から禁止というものです。
 しかし、この国民投票法は、①「有効投票数の2分の1」というだけで最低投票率の定めがない、②公務員・教育者を対象に国民の運動が規制され、選挙管理関係以外の自衛官を除いた裁判官、検察官、警察官までその規制の対象となっていること、③護憲派の宣伝に規制がかかり、改憲派の宣伝が圧倒的に多くなる仕組みであることなど、多くの問題を抱えた内容であり、改憲のための「改憲手続法」と言うべきです。
 先の国会では、国民投票法改正に向けた動きが衆議院憲法審査会で具体化してきました。しかし、この憲法審査会での改正議論は、あくまでも公職選挙法の改正に準じた見直しに限定され、今ある国民投票法をこれまでの付帯決議などを踏まえ抜本的に見直すものではありませんでした。
 これに対し、市民アクションや改憲対策法律家6団体連絡会は、①改正を急ぐ理由がないこと、②改憲手続法の本質的な問題が全く議論されていないこと、③安倍政権下での改憲に反対であること、④安倍政権が目指す改憲発議を容易にするものでしかないことを理由に、野党各党に慎重な対応を求めてきました。そうしたなかで、通常国会での改正案成立は見送られています。
 安倍首相は、今臨時国会で、自身に憲法観が近い新藤義孝・元総務相を衆議院憲法審査会・与党筆頭幹事に起用して、改憲議論をすすめることを狙っています。引き続き憲法審査会での改正案の取り扱いについても注視するとともに、情勢に応じて国民投票法の抜本的な改正を求める積極的なたたかいも準備していかなければなりません。

3.戦争法成立により専守防衛を逸脱し変質する日本の安全保障政策

(1)「集団的自衛権」行使を前提とした日米軍事同盟の強化と基地機能の強化

 2014年7月1日、安倍政権は「集団的自衛権」行使容認、他国のために武力行使をすることを閣議決定しました。これまでの政権が積み重ねてきた憲法解釈との整合性や「集団的自衛権」の法解釈を国会で議論することは一切なく、自公による政治決着という形での不当な決定でした。
 安倍政権は、この「集団的自衛権の行使」は限定的なものであるとしましたが、「集団的自衛権」を含む武力行使発動のための新たな三要件では、他国に対する武力攻撃であっても「わが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由、幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」場合は、武力行使が容認されるとしています。「明白な危険」などといかようにも解釈できるあいまいな表現でありまったく歯止めにはならない点など、問題点が多く指摘されています。
 翌2015年4月には、訪米した安倍首相がオバマ大統領と会談し、日米ガイドラインの改定に合意しています。この日米ガイドラインは、自衛隊と米軍の運用面を包括的に規定する行政協定で、1978年の締結、97年の改定締結の歴史を踏んでいます。そして、行政協定であるならば、憲法、日米安全保障条約、安全保障関連法制の範囲内で内容を定めるべきですが、その内容は、これまでの地理的概念ともいえる「周辺事態」を削除して、「切れ目のない日米共同の対応」「日米同盟のグローバルな性質」を強調しています。これは、地球規模で、平時と有事の境界線もあいまいなまま、対米軍支援や米軍と一体化した世界展開の強化をめざすことになり、日米安全保障条約の極東条項の範囲を逸脱し、日米の軍事一体化を明文化した「行政協定」に他なりません。
 憲法から逸脱する閣議決定、行政協定、それも民主的な手続きをとることもなく独断で決めてしまった安倍政権は、戦争法制10法案を一括して「平和安全法制整備法案」などと称し、自衛隊の恒久的な海外派兵を制度化する「国際平和支援法案」を含めて2015年5月14日に閣議決定、5月26日から国会での審議に入りました。そして十分な審議もなく、憲法学者を含め、世論調査でも多数が反対を表明しているにもかかわらず、同年9月19日には強行採決、成立に至っています。
 戦争法が強行採決されて以降、南スーダンPKOで「駆け付け警護」などの新任務が付与され、海上自衛隊が「米艦防護」を行うなどしました。また朝鮮によるグアムへの弾道ミサイルを迎撃することが「存立危機事態」にあたる可能性が語られ、2018年6月にはモンゴルでの多国間共同訓練で、戦争法の新任務に基づく「治安維持」訓練が実施されています。さらに、「国際連携平和安全活動」を初適用し、エジプトのシナイ半島で、国際連合の統括ではない「多国籍軍・監視団(MFO)」に、陸自の派遣を検討し始めています。
 朝鮮半島で緊張が高まった時期に、自衛隊が米空軍の戦略爆撃機や米海軍の空母と日本海などで共同訓練を行い、また、この9月にも東シナ海で米空軍B52戦力爆撃機と自衛隊機の共同訓練が行われています。日米で基地の共同使用、岡山県の日本原陸自演習場では、海兵隊が単独で訓練を行うなど、日米軍事一体化の動きが活発になっています。しかも、戦略爆撃機、空母など外征型の米軍機や米艦との訓練は、「専守防衛」としてきた自衛隊の活動とはかけ離れていることを指摘しなくてはなりません。

(2)日米地位協定の抜本的な改定を

 在日米軍の活動は、日米安全保障条約に基づき日米地位協定で規定されています。しかし、米軍機などは日米地位協定に伴う航空特例法により、航空法の適用が大幅に除外されています。オスプレイなどの低空飛行訓練や市街地上空での飛行は、何ら規制がないのが実態です。
 日米合同委員会で合意事項が個別作られることもありますが、合同委員会の議事録は公開されることもなく、実態は不透明です。米軍が事故や事件を起こしても、日本の警察や消防が現場に立ち入ることもできず、第一次裁判権もない実態は、ドイツやイタリアなどと比較してもあまりにも従属的と言えます。
 こうした日本の状況に対して、全国知事会が「米軍基地負担に関する提言」をまとめ、8月14日、日米両政府に提言しました。この提言は、全国知事会として初めて日米地位協定の抜本的改定を求めたもので、米軍機の訓練ルートや訓練時期に関する事前情報の提供、航空法や環境法令の米軍への適用等を求めています。米軍基地の存在に起因する事故や事件が多発するなかで、この被害を受ける地方自治体の訴えに、国は真摯に応えなければなりません。

(3)「専守防衛」を逸脱した防衛装備と7年連続で増大する防衛予算

 政府が2018年末に策定する防衛大綱と中期防衛力整備計画(中期防)に向け、自民党は「多次元横断(クロス・ドメイン)防衛構想」なる提言をまとめました。ここでは、防衛費GDP1%枠の突破や、敵基地攻撃能力の保有など専守防衛を超える内容に踏み込んでいます。また、8月末に防衛省が示した2019年度概算要求額は、過去最大となった2018年度の概算要求額(5兆2551億円)を435億円上回る5兆2986億円となっています。安倍政権が予算を編成した2013年から7年連続の増大となっています。この増額の背景には、オスプレイやイージス・アショアなど高額なアメリカ製兵器の購入があることを忘れてはいけません。アメリカ政府との有償軍事援助契約(FMS)の契約額は伸び続け、14年度予算では1906億円でしたが、2019年度の概算要求額では6917億円にまで膨らんでいます。しかも、兵器の輸入拡大に伴い、高額兵器を購入する際の「後年度負担」の残額が増加しており、2018年度予算では初めて5兆円を突破、2019年度には5兆3372億円に達しようとしています。
 いまや、2014年7月の「集団的自衛権」行使容認の閣議決定などにより、他国への武力攻撃に対しても武力行使が可能となっています。また、戦争法制により、国連の求めによるものではない多国籍軍への派兵すら可能になっています。一方、自衛隊の装備についても、ヘリ空母ともいわれるヘリコプター搭載型護衛艦が就役しており、F35ステルス戦闘機の配備もすすめられています。航空自衛隊はすでに、空中給油機、早期警戒管制機(AWACS)を導入し、F15DJ戦闘機を改修して電子戦機が完成しています。
 このように、「専守防衛」を歴代自民党政権が旨としていたにもかかわらず、これらの実質的な攻撃型装備を充実させてきたのに続き、さらに、次年度の防衛予算には巡航ミサイルの開発が現実のものとして組み込まれています。
 自衛隊にオスプレイやイージス・アショアを配備する計画、あるいは米軍横田基地にオスプレイを配備する計画の整備などで、防衛省は決まって「わが国を取り巻く安全保障環境の悪化」を理由に掲げています。朝鮮は日本が射程に入るノドンミサイルを数百発保有しているとされ、核開発と度重なる長距離ミサイル開発・実験で朝鮮半島情勢は極めて緊張した状態が続いていましたが、南北、そして米朝の首脳会談をはじめとする外交努力によって劇的な変化を遂げていることを無視し、そればかりか危機煽動に終始していることを指摘しなくてはなりません。
 一方、中国も軍事力の近代化をすすめ、初めてとなる国産空母の試験公開も行っており、2018年の中国の国防費は日本の防衛費の3倍以上にあたる約18兆円を超えるまでに至っています。しかし、中国の海洋進出に対抗するためとして、南西諸島への自衛隊ミサイル部隊を新たに配備することは、いたずらに中国を挑発し、より一層軍拡への道を切り開く可能性すらあります。

(4)崩れる自衛隊のシビリアン・コントロール

 先の通常国会では、公文書の管理体制の不備が大な問題となりましたが、とりわけ防衛省においては、2017年の南スーダンPKO部隊の日報の隠蔽に続き、昨年2月、稲田朋美防衛大臣(当時)が「残っていないと確認した」と答弁した陸上自衛隊イラク派遣部隊の日報が、翌月には存在が確認されたにもかかわらず、1年以上にわたって防衛相に報告されず隠蔽されていたことも明らかになりました。このことは防衛省内の文民統制の崩壊を示すものであり、断じて許すことはできません。
 また、防衛省の組織については、2015年10月1日付で防衛省設置法が改正され、「制服組」である「統合幕僚監部」が、部隊の運用について一元的に関与するよう組織を大幅に改められ、シビリアン・コントロールの重要な一角をなす「文官統制」が崩されました。また、これまで戦前の軍部の暴走の歴史への反省から、陸上自衛隊の組織を全国5つの方面隊に権限を分散させていたものを、2018年3月に「陸上総隊」を新たに創設することで、組織の一元化を図りました。
 自衛隊が発足して60年以上が経過しましたが、その任務が「専守防衛」から大きく逸脱してきたことやシビリアン・コントロールが崩されてきたことに警鐘を鳴らさなくてはなりません。

4.日本の武器輸出と軍事研究

 2014年4月、これまでの武器輸出三原則が見直され、防衛装備移転三原則が閣議決定されました。この閣議決定以降、最大の焦点だったオーストラリアへの日本の潜水艦技術の輸出はとん挫しましたが、フィリピンに海上自衛隊の練習機「TC90」を無償譲渡したほか、イギリスとの空対空ミサイルの共同技術開発や三菱電機がタイ空軍の防空レーダーの入札に参加、日本の半導体技術が軍事利用することとなる、イージス艦向けの新レーダー開発を日米共同で行う計画がすすめられています。
 また防衛省は2015年度に新設された「安全保障技術研究推進制度」を活用し、大学・研究機関への助成に余念がありません。この制度は、明治時代の殖産興業以降の科学技術と軍事を結び付けてきた国策の復活ともいえるものです。これまでに活用する大学は少ないものの、研究助成費の獲得に奔走する大学関係者の中には、制度を垂涎の眼差しで見ているものがいることも事実です。大学・研究機関の交付金を削減して、「軍事助成」に誘導しようとする政府の意図は明らかですが、こうした政府の動きに対して、戦後二度にわたって「戦争目的の軍事研究はしない」と声明を発してきた日本学術会議は、2017年3月、あらためて軍事研究をしない新たな声明を決議しています。
 他国の紛争を日本のビジネスチャンスにするなど許されるものではありません。翼賛体制でアジア・太平洋戦争に流れ込んでしまった時代を再び繰り返さないために、この学術会議の声明を強く支持するとともに、武器輸出を禁止した、武器輸出三原則こそ世界に輸出するべきではないでしょうか。

5.玉城デニー沖縄県新知事の誕生と沖縄のたたかい

 政府は普天間基地の代替施設として、辺野古新基地建設を強行し、これに対して沖縄県民は、米軍基地機能が強化され、貴重な自然環境が伴う新基地建設に反対するたたかいに継続してとりくんできました。沖縄県民の力は、オール沖縄会議を結成して翁長雄志前知事を生み出し、公約を翻して辺野古埋め立てを承認した仲井眞元知事を引きずり落としてきたほか、衆議院選挙、参議院選挙においてもオール沖縄会議が推す候補が勝利する状況を作り出してきました。
 8月8日、県民とともに新基地建設阻止の意志を貫いた翁長前知事が急逝しましたが、急きょ行われた9月30日の沖縄知事選挙では、翁長前県知事の遺志を継ぐとした玉城デニーさんが、自公維が推す候補に約8万票の大差で圧勝しています。
 多数の県民の反対の意志とそれに呼応する自治体の訴えを無視して強行する政府の建設工事は、そもそも民主主義、地方自治の精神に反していると言えます。さらに、この間沖縄県と政府が繰り広げてきた裁判を振り返っても、「法治国家」とはいいがたい安倍政権の反憲法的姿勢も明らかになっていました。
 仲井眞元知事が公有水面埋め立て承認を行ったことに対して、翁長前知事は、第三者委員会を設立して承認の経過を詳細に検討し、その結果、承認過程に瑕疵があるとして、承認の取り消しを行いました。これに対して安倍政権が行ったことは、行政不服審査法に基づく承認取り消しの効力の執行停止でした。この法律は私人の救済制度ですが、こともあろうに沖縄防衛局が「私人」に成りすまして救済措置を申立てたのです。これには多くの行政法学者から批判が出ました。
 次に安倍政権が行ったのが、代執行訴訟でした。そもそも代執行は、地方自治体に対する最も権力的な関与であって、根本的に問題のあるものです。公有水面埋め立て承認は、法定受託事務であって、翁長県知事が行った承認取り消しに対しては、代執行以前に「是正の指示」が必要です。しかし安倍政権は、「是正の指示」を行うことなく、突然、代執行裁判を行いました。
 以上のような、安倍政権の辺野古新基地建設をめぐる訴訟における、沖縄に対する反憲法的な仕打ち以前にも、沖縄の戦後史自体が、憲法の「適用除外」にあったことを想起しなくてはなりません。「本土」で憲法が制定されたときは、アメリカ軍の統治下にありました。そして、1952年の講和条約発効時には、本土から分離されることに反対する民意は無視され、沖縄を含む南西諸島はアメリカ軍の施政権下におかれました。
 沖縄では1952年4月28日の講和条約発効の日を、いまも「屈辱の日」と呼んでいます。そして1972年の「本土」復帰を前に、憲法95条に反して、沖縄だけに適用される「沖縄公用地法」が制定され、1995年には「代理署名」を拒否した大田県知事(当時)が、ほぼ沖縄だけに適用されている駐留軍用地特措法の違憲性を訴えたところ、裁判所はそれを合憲と判断してしましました。
 沖縄のたたかいは、民主主義、地方自治を実現するたたかいであるとともに、憲法を実現する具体的なたたかいでもあります。

6.東北アジアの平和と非核化を

(1)朝鮮半島における緊張緩和と米朝国交正常化に向けた動き

 2018年に入り東アジア情勢は非核化・平和実現に向けて大きく動きつつあります。2月の平昌オリンピックを契機に韓国と朝鮮が歩み寄りを見せ、南北間・米朝間の対話の動きが本格化しました。そして4月24日には板門店の南側施設「平和の家」において南北首脳会談が11年ぶりに開催され、さらに6月12日にはシンガポールにおいて史上初の米朝首脳会談が開催されました。
 4月27日の「板門店宣言」では朝鮮半島の平和的自主統一、朝鮮戦争の平和協定締結、そして朝鮮半島の非核化に向けた合意がなされました。また6月12日の米朝首脳会談後に署名された共同声明では、新たな米朝関係の構築、朝鮮半島の永続的かつ安定的な平和体制の構築、そして朝鮮半島の完全な非核化について両国がとりくんでいくことなどが合意されています。
 しかし、米朝関係の改善に向けて一気に両国が動き始めたわけではありません。トランプ政権内では、「朝鮮が保有するすべての核兵器施設について申告することが先決だ」との主張もあり、朝鮮戦争の終戦宣言・平和協定締結に向けた動きを一時ストップさせていました。
 一方、朝鮮と韓国は歩調を合わせ、板門店宣言やシンガポール共同声明の合意事項を実現させようとしてきました。9月18日から開催された南北首脳会談の共同声明では、「軍事的敵対関係を終息させるために脅威の除去と根本的な敵対関係を解消させること」が確認されました。とくに、朝鮮半島の非核化に関しては、実質的な進展をすすめていくことなどが確認され、関係国の専門家の立会いの下に東倉里(トンチャンリ)のエンジン試験場・ミサイル発射台を廃棄すること、アメリカの「相応の措置」に合わせ、その後、寧辺(ニョンビョン)の核施設の永久的廃棄などの追加措置を引き続き講じる用意があることを表明しました。さらに、10月7日のポンペオ国務長官との会談では、金正恩国務委員長は豊渓里(プンゲリ)核実験場の廃棄を確認する査察団を招請するなど、韓国・朝鮮は米朝関係の膠着状態を打破するために様々な努力を行ってきました。その結果、アメリカの大統領中間選挙をにらみ、2回目の米朝首脳会談開催の動きも生まれつつあり新たな展開が期待されます。
 朝鮮半島の非核化と東アジアにおける平和体制構築の第一歩は、朝鮮戦争の完全な終結と関係各国による朝鮮の体制を保証することであり、韓国・朝鮮が中心となってすすめている非核化・平和体制構築に向けた努力を、アメリカをはじめとした関係各国全体のものとしていくことが求められています。

(2)日朝国交正常化を推進しよう

 非核化・平和に向けた東アジア情勢に逆行するように、安倍政権は対朝鮮強硬政策に固執しています。米韓合同軍事演習「フリーダム・ガーディアン」に対しても当初は中止に反対の姿勢を取り、また、朝鮮によるミサイル発射の脅威を煽り、秋田と山口へのイージス・アショア配備をすすめています。
 この間、日本政府は、急激に変化する朝鮮半島をめぐる世界の動きからは「カヤの外」におかれてきました。しかしいま、日本政府が求められているのは朝鮮との国交正常化であり、そのためには、これまでの朝鮮を敵視する「制裁と圧力」一辺倒の政策を見直すとともに、かつての朝鮮植民地支配・侵略戦争に対する真摯な謝罪と賠償が必要です。そして、このことが、東アジアの非核化と平和へつながる道と言えます。

(3)真摯に戦後責任問題に向き合い、東アジアの友好を築こう

 東アジアの平和と安定のために欠かせないのは歴史認識の課題です。
 2015年12月28日の日韓合意は日本軍「従軍慰安婦」問題に対する日本政府の謝罪・賠償責任を抹消しようとするものに他なりません。また、大阪市が、「慰安婦」被害者記念碑が建立されているサンフランシスコ市との姉妹都市関係を破棄するなど、国内では歴史修正主義がまかり通っています。これに対して韓国をはじめ国際世論からの反発が強まっています。
 8月16日に行われた国連人種差別撤廃委員会の日本審査においては、「従軍慰安婦」問題は日韓合意で最終的に解決されたという日本政府の主張に対して、「被害者の視線が欠如している」「日本政府がなぜ慰安婦(被害者)が満足できるかたちでの謝罪と補償をできないか、理解できない」という意見が出されています。
 さらに、韓国では強制徴用工問題の解決を目指す動きが強まっています。
 日本政府は、被害者はもちろん、植民地支配・侵略戦争の歴史から目を背けることなく、歴史を直視し、真摯な謝罪と賠償を行うなかで東アジア各国との友好関係を築いていかなければなりません。

7.人権確立に向けた様々なとりくみ

(1)「朝鮮学園を支援する全国ネットワーク」のとりくみ

 現在全国5つの朝鮮高校が闘っている「高校無償化」裁判のうち、一審では広島・東京・愛知の3つの地裁で原告(朝鮮学校側)の訴えを退ける不当判決が出されています。また、一審で唯一勝利した大阪においても、9月27日に大阪高裁は一審の判決を取り消しています。こうした判決において、裁判所は、「朝鮮総連による不当な支配が行われている疑い」があるために高校無償化制度の適用から朝鮮学校を除外した国の処分は正当であるとしています。
 しかし、こうした理由はこじつけであり、無償化制度からの適用除外は「拉致問題に進展がないこと」を理由に安倍政権によって恣意的に行われたものであり、また、戦前・戦後から一貫して続く在日コリアンに対する差別もその根底にあります。6月28日には、関西国際空港の税関当局が朝鮮の修学旅行から帰ってきた神戸朝鮮高級学校の生徒たちからお土産を没収するという事件が発生しています。
 高校無償化制度からの朝鮮学校差別は、あきらかな人種差別であり、すべての子どもたちの学ぶ権利を保障しようという高校無償化法の理念からもかけ離れたものであり、今年8月に行われた国連人種差別撤廃委員会の対日審査のなかで、朝鮮学校にも制度を適用するよう勧告が出されています。裁判の結果に関わらず、朝鮮学校への制度適用や各自治体からの補助金支給を求める活動をすすめ、在日コリアンとの共生を求めていかなければなりません。

(2)外国人労働者の権利確立を

 6月15日、政府は、経済財政運営の指針「骨太の方針」に外国人労働者の受け入れ拡大を盛り込みました。方針では、人手不足が深刻な業種については、一定の日本語能力と技能を持った外国人や、既存の技能実習を終えた外国人を対象に5年を上限とする新たな在留資格を創設するとなっています。これは「移民政策とは異なる」としながらも、さらに高度な技術を身につけ別の在留資格に移行すれば、家族の帯同や長期滞在も可能となるよう検討するとのことです。
 しかし、受け入れ経路の一つとして技能実習制度が温存されていることや、また、新資格も家族の帯同は認めない点など、いまだに外国人労働者を人としてではなく労働力としてのみ受け入れようとする政府の姿勢は認められません。
 すでに日本には多くの外国人労働者が存在しており、政府は、人権侵害がまかり通る技能実習生制度の見直しと本格的な移民受け入れ政策の検討を行い、多文化共生社会の実現をすすめていかなければなりません。

(3)進行する貧困と格差社会

 バブル経済が崩壊し、新自由主義政策が進行する中、国内では貧困と格差社会の進行に歯止めがかかりません。
 日本は、米国・中国に次ぐ世界第三位の経済大国でありながら、国内の貧困問題は深刻なレベルに至っています。とりわけ、非正規労働者が増え、1997年には年間297万円だった可処分所得の中央値は2015年に245万円まで低下してきています。
 また、国税庁が2017年9月に公表した2016年度分の「民間給与実態調査」では、日本の給与所得者は4869万人で平均年収は422万円です。また、男女別では男性が平均521万円と女性の平均280万円を大きく上回り、男女間の格差が改善されていないことを物語っています。
 さらに、リーマンショック以降、企業は非正規社員の雇用を拡大してきましたが、その年収は低下するという現象が起き、年収では正規社員の平均487万円に対し、非正規社員の平均年収は平均172万円と200万円を切る衝撃的な結果が判明しています。
 とくに社会的弱者の貧困は深刻で、子どもの相対的貧困率は13.9%と実に7人に1人の子どもが貧困生活を送っているのが現状で、ひとり親世帯の貧困率は50.8%とOECD加盟35か国中ワースト1位となっています。
 また、生活保護や医療・介護費、国民年金など社会保障に関する予算は縮小する傾向にあり、高齢者の貧困も深刻さを増してきています。そして、こうした全世代にわたる貧困は、連鎖として代々続いていき、近い将来に全世代で貧困が拡大していくことにつながります。
 現代の貧困問題は、「自己責任」「本人の努力が足りない」という個人の問題ではなく、現在の新自由主義政策からの脱却はもとより、雇用形態の改善をはじめ、税制度の抜本的な改革や様々なセーフティネットの充実が求められる構造的問題です。私たちは、こうした非正規雇用をはじめ、女性、高齢者、子どもなど弱者をむしばむ貧困問題にしっかりと向き合うことが求められています。

(4)女性の権利の確立を

 第4次安倍内閣はジェンダー平等の観点だけでみても、許しがたいものです。福田淳一前財務事務次官のセクハラ行為とそれを擁護した麻生財務大臣は、過去に「女性に参政権を与えたのは最大の失敗」とも発言しています。また、菅官房長官は芸能人の結婚に「子どもを産んで国に貢献」などと発言し、文科省は高校の副読本にウソのデータを使って「22才までに子どもを産んだ方がいい」などと誘導しました。「すべての女性が輝く社会づくりを実現する」としながら、働き方改革関連法を強行し、「8時間労働制」の枠組みを破壊したことは、介護や育児の負担の大きい女性労働者を非正規労働に押し込める結果にもなりかねません。
 さらに、東京医科大学を始め複数の大学が女子受験生の合格者数を制限していたことが明らかになりましたが、女性から学問の機会を奪う日本は明らかに人権後進国と言えます。
 安倍政権の言う「女性活躍」は、「女性はセクハラぐらいで文句は言わず、学問はどうでもいいから低賃金で働き、国のために子どもを産んで輝く」という国家に都合の良い道具としての女性像を求めているにすぎません。まるで戦前の家制度に縛られていた女性の姿そのものです。
 憲法24条は、性別による差別を禁止し、両性の平等を謳い女性を家制度から一定程度解放しましたが、今なお家制度を背景とした男女役割分業という差別構造が残っているため、日本社会には問題が山積しています。あらためて構造的女性差別を解消することが求められています。
 選択的夫婦別姓を実現し、女性に差別的な税制や社会保障制度の改正、長時間労働・低賃金の労働環境を改めるとともに、少子高齢化社会の進行や共働きが当たり前になってきている日本社会にあって、保育所を整備し、子ども手当などですべての子育てを支援し、ケア労働(看護・介護・保育)を正当な待遇にしていくことが、構造的差別解消への入口です。
 女性たちは「#Me Too」あるいは「#We Too」運動でセクハラや性暴力を許さないと声を上げ始め、今年、政治分野における男女共同参画の推進に関する法律が成立しました。これを実効性あるものにするために、さまざまな女性団体や市民団体によるとりくみが求められています。

(5)安倍政権こそ差別煽動の根源

 2018年、国内では多くの人権にかかわる問題の発覚が続きました。
 障害者雇用促進法で義務付けられている障がい者の法定雇用率について、複数の中央省庁のうち27機関が計3460人分を不適切に参入していたことが明らかになりました。さらに、8月22・23日に行われた朝日新聞の調査でも、28県において雇用率の水増しがあったことが明らかになっています。
 また自民党の杉田水脈衆議院議員は雑誌の寄稿文のなかでLGBTは「子供を作らない、つまり『生産性』がない」などと差別的な主張を展開し批判にさらされました。しかし、こうした主張に対し、安倍晋三首相や二階俊博・自民党幹事長など政権の中枢からはむしろ擁護する発言が相次ぎ、さらには掲載紙が杉田議員への批判に反論する特集を組んだことから、さらに波紋を広げています。
 また、4月には、財務省の福田淳一事務次官が女性記者に対してセクハラを行ったことが明らかになりました。しかし、当の福田事務次官のセクハラと、麻生財務相の「被害者は名乗り出ろ」という発言など財務省の対応は、官僚たちと官僚機構の人権感覚の低さをさらけ出しました。
 さらに東京医科大学が女性受験生の点数を操作し合格者数を抑えていたことが明らかになるなど、安倍政権が声高に訴えてきた「女性が輝ける社会」とは真逆の実態が明らかになっています。
 こうしたあまりにもお粗末な人権感覚は、日本社会全体の人権問題に関するとりくみの弱さに起因していますが、一方で差別的・排他的な思想を持つ閣僚・官僚が多数を占める安倍政権特有の問題でもあります。
 ここ数年で、障害者差別解消法、部落差別解消推進法、ヘイトスピーチ規正法など、多くの人権法が成立してきました。しかし、こうした社会的少数者・弱者に対する人権確立のとりくみは緒に就いたばかりであり、公的機関による人権侵害や差別を徹底的に糾弾するとともに、全ての社会的少数者・弱者が共存できる社会を創造が求められています。

8.民主教育をすすめるとりくみ

 3月27日、文部科学省は、2019年度から中学校で使用される道徳教科書の検定結果を公表しました。中学校3学年で8社から24点・30冊が合格しました。検定における修正意見は184件(2017年小学校は244件)、「指導要領に照らして扱いが不適切」との意見は7件(同43件)であり、中学校では内容の大幅な変更は少数でした。
 今回の中学校道徳教科書検定に、「日本教科書株式会社」が参入しました。日本教科書の代表は、『マンガ嫌韓流』など差別を煽動する書籍を出版してきた「晋遊舎」の会長と同一人物であり、日本教科書と晋遊舎は事実上一体の会社です。また、日本会議系の教材が多く見られることから日本会議系教科書と言っても過言ではありません。そのためこの日本教科書の教科書を採択させないとりくみが求められてきました。
 中学校道徳教科書の内容についても、会社代表・執筆者のメンバーを見ると、日本教科書・教育出版の2社はとくに問題があり、また、日本教科書・教育出版・廣済堂あかつき・東京書籍・日本文教出版の5社は、生徒に数値で自己評価させるなど問題があります。
 また、6月29日には、市民グループ「人権を大切にする道徳教育研究会」を中心に、歴史教育課題・道徳教育課題に対応するため、問題・課題を共有し授業実践の交流を目的としたウェブサイトが立ち上がっています。
 今夏、2019年度から中学校で使用される道徳教科書の採択が行われ、全584採択地区のうち534地区の状況を把握しました(9月30日現在)。日本教科書の道徳教科書を採択した地区は、栃木県大田原市、石川県小松市・加賀市の3採択地区です。日本教科書同様、とくに問題があるとされた教育出版の道徳教科書を採択した地区は、東京都内・愛知県内など大都市圏を中心に41採択地区(160市区町村)です。
 結果として、日本教科書の採択を3地区に抑えたことは、不採択運動の成果と言えますが、その一方で、教育出版については、2017年度小学校道徳教科書採択の34採択地区(155市区町村)と同程度の採択を許したことは、大きな課題として残りました。
 今後も、政権の意図に偏った恣意的な教科書検定の実態を明確にし、バランスのとれた教科書の記述内容を求めるとともに、道徳教科書の内容の検証を行い、一方的・画一的な規範の強制をさせないとりくみが求められています。
 10月2日、安倍第4次改造内閣に初入閣した柴山昌彦・文科相は、就任会見で戦前の教育で使われた教育勅語について「アレンジした形で今の道徳等に使える分野は十分にあるという意味では、(教育勅語が)普遍性を持っている部分が見て取れるのでは」と述べました。さらに「同胞を大事にするなどの基本的な内容について現代的にアレンジして教えていこうという動きがあり、検討に値する」と話しました。
 この発言は、2017年に政府が、教育勅語を教材として使うことを否定しない内容の答弁書を閣議決定したことを受けてのものとも思われますが、教育勅語について、その一部にせよ、「道徳教育に使える」「普遍性を持つ」と評価しており、極めて不適切な発言であるといわざるを得ません。
 教育勅語には、父母への孝行や夫婦の和、博愛などの項目が記されています。しかし、教育勅語の本質は、明治天皇が「臣民」が守るべき道徳を示した規範集であり、1890年に発布されて以降、軍国主義の精神的支柱となってきたことです。
 そして、戦争がもたらした多大な犠牲は、まさに教育勅語による教育の帰結であり、教育勅語が、日本国憲法の主権在民や基本的人権の尊重といった現憲法の原則を損なうことが明白であることから、1948年に国会で「排除・失効」されることにもなりました。
 この教育勅語の本質からみても、部分的であれ利用するなど断じて許されません。稲田元防衛相の教育勅語を評価する発言や、森友学園での幼稚園児への教育勅語の唱和など、教育勅語の復活を警戒し、厳しく批判していかなければなりません。

9.トランプ政権の「核態勢の見直し」と動き出した朝鮮半島の非核化

 今年2月、トランプ政権が発表した「核態勢見直し(NPR)」の内容は、「爆発力の小さい小型核兵器の開発」など、多様な核戦力の開発を打ち出したもので、「核なき世界」を求めたオバマ前政権の政策を否定し、また、「核兵器禁止条約」が2016年に122か国の賛成で成立するなど、核廃絶へと向かう世界の流れに逆行するものでした。
 さらに、2017年12月にアメリカ西部のネバダ州で、5年ぶりに(核爆発を伴わない)臨界前核実験を行っていたことが明らかになったことや、10月20日の米国と旧ソ連が冷戦末期に結んだ中距離核戦力(INF)破棄条約からの離脱表明は、NPRの問題と合わせ、核兵器の増強につながるものとして許すことはできません。アメリカが朝鮮半島の非核化を求めるとするならば、同時に、自らが核兵器廃絶に向けた姿を示すべきです。
 日本は、唯一の戦争被爆国として、広島・長崎の被爆者の声に耳を傾け、核兵器廃絶に向けて積極的にリーダーシップを発揮すべきであるにもかかわらず、「核兵器禁止条約」の交渉会議への参加を拒否し、一方でNPRを高く評価するなど、核兵器廃絶に背を向け続けています。
一方、今年に入り、6月には日米首脳会談がシンガポールで行われ、「北朝鮮の体制保障と朝鮮半島における完全な非核化」に向けた共同声明が発表され、東アジアの緊迫した情勢は平和と非核化に向け大きく変化していくこととなりました。
 こうしたシンガポール共同声明の合意事項を実現させるべく、9月18日から開催された南北首脳会談では、朝鮮半島の非核化に関しては、実質的な進展をすすめていくことなどが確認され、アメリカの「相応の措置」に合わせ、その後、寧辺(ニョンビョン)の核施設の永久的廃棄などの追加措置を引き続き講じる用意があることが表明されました。さらに、10月7日、金委員長とポンペオ国務長官との会談で、豊渓里(プンゲリ)核実験場の廃棄を確認する査察団を招請するなど、非核化へ向け各国の努力が行われて来ています。
 このように、東アジアにおいて平和と非核化がすすむ中、日本政府には、「圧力と制裁」を振りかざし国際社会のなかで孤立を深めるのではなく、対話による外交をすすめ、東アジアの非核化に向けた積極的な役割を果たすことが求められています。

10.原発再稼働を許さず、脱原発社会の実現を

(1)再生可能エネルギーを抑制する第5次エネルギー基本計画

 福島第一原発事故以来、世界各国では、原子力発電所の新規建設費が高騰し、さらに、2017年のパリ協定の発効により、世界のエネルギー政策の流れは脱炭素・再生可能エネルギー推進へと大きく変化してきました。
 一方、安倍政権は、7月3日、第5次「エネルギー基本計画」を閣議決定しましたが、再生可能エネルギーを拡大することを課題としながらも、依然として原子力発電・石炭火力発電をベースロード電源と位置付けています。これは世界のエネルギーシフトの流れに逆行し、再生可能エネルギーを中心とした社会構築への動きを停滞させる要因となっています。とりわけ、九州電力による太陽光発電など再生可能エネルギーの出力制限や、再生可能エネルギーを対象とした固定価格制度による買い取り価格の抑制などは、新規参入を抑制するものです。
 世界では、太陽光や風力などの再生可能エネルギーが化石燃料にとって代わる「脱炭素化」や、規模が小さい発電設備を蓄電池などと組み合わせて、効率よく地産地消する「分散化」など、従来のエネルギーの供給や使い方から構造的変化を実現する技術発展がすすんでいます。
 にもかかわらず、この基本計画は「これまでの基本方針を堅持する」として、2030年には再生可能エネルギーを22~24%に、また、原発や石炭火力を「重要なベースロード電源」と位置づけ、「原発依存度を最小限に」としながらも、原子力発電を20~22%としています。しかし、この原子力による発電目標は、原発を30基程度動かす想定に基づいており、これまでに再稼働した9基を大きく上回り、老朽原発の運転延長や建て替えも必要となる非現実的な目標です。一方、再生エネルギーは上記目標達成が射程に入りつつあり、目標値のさらなる上積みを求める声が、与野党問わず出ています。
 3月9日、立憲民主党、社民党、自由党、共産党により衆議院に提出された「原発ゼロ基本法案」は経済産業委員会に付託されましたが、法案否決による世論の批判を恐れた自民党は審議に応じず、その結果、継続審議となりました。
 この法案は、全原発を停止し、施行後5年以内に全原発の廃炉を決めることが柱であり、2030年までに再生可能エネルギーによる発電割合を全電源の40%以上に拡大することを内容とするなど、安倍政権の「エネルギー基本計画」を否定し、再生可能エネルギーの推進をめざすものです。
 今臨時国会の中で、あらためて「原発ゼロ基本法案」の成立をめざすとともに、これまで安倍政権がすすめてきたなし崩し的な原発回帰や、廃棄物の処分、核燃料サイクルなどその場しのぎのエネルギー政策からの転換を実現し、再生可能エネルギー利用を大きく推進していくことが求められています。

(2)民意を無視し原発の再稼働など原発推進政策をすすめる安倍政権

 世界の脱原発の流れとともに、日本においても再稼働に反対し脱原発を求める声は過半数を超えています。しかし、安倍政権は、世界の流れや日本の世論を無視し、引き続き原発再稼働をはじめ原発政策を推進しています。
 四国電力の伊方原発3号機(愛媛県)は、昨年広島高裁で、運転差し止めが命じられましたが、同高裁の異議審で決定が覆り、10月27日に再稼働が強行されました。また、まもなく40年を迎える日本原子力発電(原電)の東海第二原発(茨城県)は60年運転延長問題を抱え、原子力規制委員会の11月の審査結果次第では廃炉となります。
 この原電は、資金不足により、最低1740億円の対策工事費を東京電力や東北電力に頼らざるを得ない状況にあるばかりか、東京電力自身、福島原発事故の廃炉費用もままならず、国からの支援を受けている状態です。そんな東電に原電への財政支援をする資格などありません。また、東京電力は「東電再生」の名目で柏崎刈羽原発6・7号機の再稼働を目論んでおり、これまた言語道断です。
 9月6日の北海道胆振東部地震においては、苫東厚真発電所の緊急停止によって北海道全域での全電源喪失(ブラックアウト)に至りました。このとき、泊原発(停止中)の外部電源も喪失しています。電力供給の一極集中によって引き起こされた、あってはならない重大事故であり、またあらためて原発の危険性が表面化した事態でした。
 福島原発事故以降、54基あった原発のうちすでに21基の原発が廃炉になり、原発はいま「廃炉の時代」を迎えようとしています。再稼働は、9基(2018年9月現在。裁判で停止しその後再稼働を予定している伊方3号機も含む)にとどまっており、今後も再稼働が順調に進むには厳しい状況にあります。
 「脱原発を実現し、自然エネルギー中心の社会を求める全国署名」など、さよなら原発1000万人アクションのとりくみを引き続きすすめるとともに、原発の新規建設はもとより再稼働を中止し、今こそ脱原発社会の実現に向けて、大きく踏み出さなくてはなりません。

(3)核燃料サイクル計画の破綻と核のごみ

 6月30日、日本原子力研究開発機構は、東海再処理施設(2014年に廃止決定)の廃止処理作業に約70年を見込み、その費用の総額を約1兆円と試算しましたが、存在が明らかになった放射線量の高い多量の廃液や約7万1000トンもの放射性廃棄物について、その処分の見通しは全く立っていません。
また、六ヶ所再処理工場の完工は23回目の延期が行われ、建設費は当初の7600億円から2017年7月時点で、2兆9000億円に膨れあがり、総事業費も13兆9000億円と予想されます。また、MOX加工工場の完工も2019年度上期に延期され、その建設費も当初想定の2倍、2兆3000億円に上っています。
 MOX燃料のコストが通常のウラン燃料の10倍高価なことからも、再生可能エネルギー企業の新たな参入が本格化するなかで、高額な燃料を使うプルサーマル発電は、その危険性と合わせさらに市場で利用する合理性はありません。
 「もんじゅ」が廃炉になり、高速増殖炉開発路線が破綻したいま、六ヶ所再処理工場とMOX加工工場の計画を断念し、「核燃料サイクル計画」そのものを廃棄しなくてはなりません。現在日本が抱える約47トンものプルトニウムは、すべて核拡散抵抗性の高い形態で密閉し厳しく管理したうえで、MOX燃料としての利用を中止すべきです。なお、日本のプルトニウムの存在は、その危険性とともに核拡散の面からも国際的に大きな批判を浴びており、これ以上プルトニウムをつくり出すことも使うことも許されません。
 なお、2017年7月28日、政府は、高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場を選定するための「科学的特性マップ」(適地マップ)を公表しましたが、発表された「適地」は日本全土の約65%におよび、そこには全国の8割を超す約1500の自治体が含まれています。
引き続き各地での誘致の動きを警戒するとともに、幌延や東濃などの深地層処分の研究や周辺での誘致に繋がる動きに注意する必要があります。

11.フクシマの課題を前進させるとりくみ

(1)困難な廃炉作業と巨額な廃炉費用

 東日本大震災・福島原発事故から7年半が過ぎましたが、依然として事故の収束作業は難航し、廃炉作業の最も難関といわれる溶融燃料(デブリ)の取り出し作業は極端に高い放射線に阻まれています。また、現在までデブリの全容を把握するには至っておらず、取り出しの技術の確立の目処も立っていません。
 政府や東京電力は、デブリの取り出し開始を2021年内、廃炉完了の目標を2041年から2051年と時期を示し、廃炉など事故処理にかかる費用も、これまでの2倍の21兆5000億円になるとの試算結果を発表しましたが、これはあくまで「試算」であり、さらに膨らむ可能性もあります。国・東電の責任を不問にし、その費用負担を国民生活に押し付け、一方で被災者への賠償放棄を迫り、あるいは縮小しようとする動きは許されるのもではありません。

(2)避難生活と政府支援の打ち切り

 福島では、県内に1万437人、県外に3万3336人、不明13人の合計4万3786人(2018年10月5日、復興庁調査)の人びとが、いまだ長期の避難生活を余儀なくされています。
 また、6月29日に復興庁が発表した震災関連死と認定された人の数は3月末現在で3676人となり、その約9割が66才以上の高齢者で占められています。このうち福島県の震災関連死と認定された人は、2227人で、全体の60%です。福島原発事故の影響によるふるさと喪失に加え、生業を奪われ、長期にわたる避難生活や将来への不安などが原因にあげられます。
 一方、帰還困難区域を除いた、居住制限区域・避難指示解除準備区域では、除染作業によって年間被ばく量20mSvを基準にそれを下回る地域から避難指示が解除され、この避難指示解除に合わせて、帰還を強要するかのように、住宅支援など補償が打ち切られています。
 この避難指示解除の根拠となる20mSv/年という数値は、国際放射能防護委員会(ICRP)が緊急時の基準として示しているもので、通常時の基準の20倍に上ります。
 被害者は、20mSv/年というこれまでに経験の無い高放射線量までの被曝を覚悟して戻るか、補償が打ち切られても避難し続けるのかの厳しい選択を迫られています。被害者に寄り添うどころか、福島事故の早期幕引きと被害の矮小化を図る政府の態度は、被害者切り捨て以外の何物でもなく、断じて許すわけにはいきません。
 東電経営陣の福島第一原発事故への責任を問う刑事裁判は、2017年6月30日に初公判が行われ、10月16日には津波対策の実質的な責任者の武藤栄・元副社長の被告人質問が行われました。また、国賠訴訟も全国各地で起こされています。
 原発事故被害者への不誠実な国や東電の態度は、事故の原因は予想を超えた津波による自然災害にあるとして、原発の安全性に対して監督責任のある国や原発を運転する東京電力が事故の責任を免れていることにあります。これらの裁判を通じて、国や東電が加害者であることを認めさせ、その責任を全うさせなければなりません。

(3)子どもや住民の命を守れ

 福島県では、県民の被曝線量の評価や県民の健康状態の把握、疾病の予防、早期発見、早期治療のために「県民健康調査」を実施しています。本来なら、被害者全員の健康を守る立場から、国の責任で健診と健康管理・治療を行うべきですが、福島県の事業として実施されてきました。
 とくに、2011年3月11日時点で18歳以下であった人については甲状腺検査が実施されてきましたが、2018年7月8日の県の報告では、これまで209人が甲状腺がん又はがんの疑いありとされ、173人が手術を受け甲状腺がんと確定しました。今後も、長期にわたる公的なケアと医療・経済面でのサポートが重要であり、県民の健康にしっかり向き合っていくことが求められています。
 また、原子力規制委員会は、放射線量に大きな変動がないことを理由に、「継続的な測定の必要性はない」として県内のモニタリングポストの削減やトリチウムの海洋放出を行うことも検討しており、被災者の不安をさらに拡大させています。

12.貿易交渉と食料・農林水産業・水・環境をとりまく状況

(1)TPP11など通商交渉の現状と課題

 政府は、環太平洋経済連携協定(TPP)を規範とする重要な通商協定(TPPプラス)の交渉を次々とすすめています。
 これらの通商交渉は、農産物などの市場開放ばかりでなく、各国の独自の規制や基準を撤廃して均一化を図り、究極の自由化を求めるものです。とくに、食品添加物・ポストハーベスト農薬規制の緩和や、遺伝子組み換え食品の表示などの食の安全施策、簡保・共済なども含む金融・保険、サービス貿易、投資、知的財産権、国有(公有)企業や公共調達等のルール分野など、広範な分野にわたり、多国籍企業の利潤につながるものです。
 アメリカのトランプ大統領の離脱により、発効が不可能になったTPPに代わり、アメリカ抜きの11ヵ国による新たな協定(TPP11)は、今年の通常国会での最重要法案の一つとして位置付けられ、強引な国会運営で可決・成立しました。協定は6ヶ国が批准をすれば発効することから、来年はじめにも発効することが想定されています。
 一方、日本とヨーロッパ連合(EU)との経済連携協定(日欧EPA)は、7月に署名が行なわれ、政府は来年はじめの発効をめざし、臨時国会での承認をめざしています。
 さらに、日米二ヶ国間では9月に安倍首相とトランプ大統領との首脳会談で、物品貿易協定(日米TAG)の交渉開始で合意しました。牛肉などアメリカ産農産物の関税引き下げに関する要求が押し付けられる可能性を秘めています。またTAGの議論完了後には、他の貿易、投資についても交渉することとなっており、これは事実上、日米自由貿易協定(FTA)であることを示しています。
 さらに、東南アジア諸国連合(ASEAN)と日、中、韓、インド、豪州、ニュージーランドの16ヶ国による東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の交渉も、年内妥結をめざして交渉が続けられています。
 こうした一連の交渉について、政府は市民に内容の情報を明らかにせずに、大きな譲歩を重ねてきました。今後、これまでの交渉の情報公開や市民との意見交換を求めていく必要があります。

(2)食料の自給率向上を求めた法制度の確立を

 各国との通商交渉は食の安全にも関わります。これまでも、アメリカからは食品添加物の拡大や残留農薬基準の緩和、牛海綿状脳症(BSE)に関する輸入制限緩和などが求められてきました。今後も遺伝子組み換え農産物等を含む輸入拡大が迫られる恐れがあります。
 一方、安倍政権は、農林水産業を「成長戦略」の柱の一つにあげ、規制改革推進会議の提言をもとに「農業改革」をすすめていますが、企業の農業参入や規模拡大をすすめるとともに、条件不利地域や小規模農業の切り捨てにつながるものです。また、農畜産物の輸入はさらに拡大し、食料自給率(カロリーベース)は2年連続38%と、過去最低水準のままとなっています。今後の通商協定の拡大や、急進的な農業改革によって、地域社会や国土保全に貢献している農業の多面的機能を軽視し、農村地域を支えてきた多様な担い手を切り捨てることは、自給率のさらなる低下につながります。
 際限のない国際競争や規模拡大ではなく、食料自給率の向上や所得補償制度の拡充、食品の安全性向上などの法・制度確立と着実な実施を求めていく必要があります。

(3)水・化学物質問題などに関するとりくみ

 有害な化学物質や合成洗剤などによる河川や湖沼の汚染など、水の質と量が大きな問題となっています。化学物質の排出・移動量届出制度(PRTR制度)を活用した合成洗剤の規制や、化学的香料による健康被害の「香害」問題など、化学物質の総合的な管理・規制にむけた法制度や、有害物質に対する国際的な共通絵表示制度(GHS)の合成洗剤への適用などを求めて運動を展開していく必要があります。
 また、先の通常国会で継続審議となった「水道法」改正に対し、水の公共性と安全確保のため、上下水道事業の公共・公営原則を守り発展させることが重要です。

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