集会等の報告

2019年11月12日

憲法理念の実現をめざす第56回大会まとめ

 

憲法理念の実現をめざす第56回大会もいよいよ閉会の時が近づいています。この3日間、参加者の皆さんには、真摯な討論をいただいたことにまず感謝申し上げたいと思います。ありがとうございました。また、本大会成功に向けて、大変お忙しい中、ご協力いただいた助言者や運営委員の皆さん、そして、大会を支えていただきました地元北海道実行委員会の皆さんに心から感謝申し上げます。

さて、この3日間の中で多くの貴重な意見をいただき議論を進め深めることができました。1日目には「日本社会はこれでいいのか? 安倍政権の7年を問う」をテーマに清末愛砂さん、雨宮処凛さん、中野麻美さんの3名をお招きして鼎談を開催しました。

この中で、お三方からは、憲政史上最長となった安倍政権の中で打ち出されたアベノミクスによる国づくりの結果、貧困・格差問題が深刻化し格差や貧困、偏見、差別があたりまえの社会が作り出されてきたこと。一人一人の生命が序列化され選別される社会が生まれてきていること。アベノミクスや働き方改革の中で人間と労働を国家と経済の道具として、あるいは、国家と経済に貢献させるものとするなど、人間の安全保障がなおざりにされ国家の安全保障が優先される社会作りが行われてきた。と話されています。また、こうしたアベノミクスによる生命の破壊が進行する中で、これからの私たちの希望や課題、取り組みについてそれぞれの立場からお話しいただきました。

雨宮さんからは、具体的に人の生命を守るための防波堤として、あるいは「便利グッズ」として、25条生存権をはじめとした憲法を活用するとの意見が出されました。また、清末さんは、現在のような不寛容ではなく寛容な社会づくりが提起され、助け合いの精神、コミュニティの中でケアすることができる社会づくりが必要と発言されています。

さらに、中野さんからは、「貧しいことは恥ずかしいことではない、恥ずかしいことは貧しさに追いやっている社会の構造を知ろうとしないこと、知っていても挑もうとしないこと」という貴重な言葉を紹介いただくとともに、「憲法、平和、権利は私たち自身が勝ち取っていくものであり、現実から目を背けず、また、死者の声にも耳を傾け、この時代にこう生きたというものを残すとともに、どう闘ったか次の世代に誇りあるものを残していこう」と訴えられました。

2日目の分科会では、第1分科会の「非核平和・安全保障」から第7分科会の「憲法」まで7つの分野でそれぞれのテーマに沿って参加者の皆さんから多くの発言をいただき議論が深められたと聞いています。各分科会の詳細について触れ、議論のすべてにわたってまとめることは到底できませんが、それぞれの分科会での問題提起や議論をしっかりと受け止め持ち帰りいただくとともに、明日からの職場や地域での様々な運動に繋げていただければと思います。

その上で、私なりの稚拙な見解と喫緊の課題について申し上げ「まとめ」とさせていただきたいと思います。

まずは、今護憲大会の基調提案でも触れましたが、戦争放棄と武力の不保持を謳った憲法の破壊が進行している課題です。具体的には、「非核平和・安全保障」をテーマとした第1分科会の中で、東京新聞論説委員兼解説委員の半田滋さんと名古屋学院大学教授の飯島滋明さんとから問題を提起いただきました。

その中で、東京新聞の半田滋さんは、2018年12月に閣議決定された「防衛計画の大綱」と「中期防衛力整備計画」について触れ、先の防衛大綱が2013年から向こう10年を見通して作成されたにも関わらず、2016年の安保関連法の施行を受けて、軍拡を進めるために5年で前倒し・改訂されたとし、「防衛計画の大綱」は、事実上の専守防衛の放棄であるとともに、強力な日米一体化を目指すものであり、日本は自ら進んで米中対立に巻き込まれていると警鐘を鳴らしています。また、「中期防」の中では、5年間の装備品の調達規模は過去最大の27兆4700億円となり、米政府の言いなりの購入と指摘していました。

同じく、第1分科会の飯島さんは、まず、近隣諸国の民衆2000万人が犠牲となったアジア・太平洋における「自衛権」を名目とした日本の侵略戦争について、権力者や軍上層部は国民に死を強要しながら戦時に軍隊は国民を守らないという無責任かつ悲惨な戦争であったと批判しています。そして、こうした無責任かつ悲惨な戦争を2度と権力者や軍部にさせないために憲法で徹底した平和主義をうたい、武力行使の禁止、戦力の不保持、交戦権の否認を内容とすることとなったと話されています。

そのため、戦後の「戦力」や「自衛隊」に関する政府や内閣法制局の見解は、自衛隊については「自衛のための最小限度の実力であって軍隊ではない」とし、また、「日本の自衛隊が日本の領海外に出て行動することは一切許されない、海外での武力行使の代表である集団的自衛権は憲法的に許されない」と見解であったと述べています。また、戦力についても、「憲法の精神に則った受動的な防衛戦略の姿勢」を貫き、「長距離爆撃機、航空母艦、長距離ミサイルは憲法上保有が許されない」との見解が示されてきたと話されています。

そのうえで、飯島さんは、第2次安倍自公政権以降、2014年7月の集団的自衛権行使容認の憲法解釈変更の閣議決定や、2015年の安保法制等により大きく自衛隊が変容し、現在では、人員、装備、編成などの実態から9条2項でいう、まさに「戦力」に該当すると指摘しています。そして、いずも型空母とF35Bやイージスアショア、中距離弾道ミサイルの配備、C-2輸送機など、こうした「海外派兵型兵器」「敵基地攻撃能力」の保有は、まさに「専守防衛」からも逸脱したものであることも強く指摘しておられました。

また、「自衛隊が領海外で活動することが許されない」とした政府見解から大きく逸脱し、2018年度の護衛艦3隻によるインド太平洋方面派遣訓練や、2019年度の同訓練がアメリカ、カナダ、フランス、オーストラリアとの共同訓練として行われてきたことを挙げ、安倍政権のもとで、「安保条約」をも超える日米の軍事一体化が進み、憲法学者の通説だけでなく「歴代日本政府の見解からも自衛隊は憲法違反の組織に変容した」と厳しく断じています。

今日、安倍首相は、ホルムズ海峡周辺のオマーン湾などに自衛隊を派遣することを検討するよう指示したと報じられています。しかし、今回の派遣は、自衛隊の海外派遣を日常化させたい日本政府が、アメリカからの有志連合への参加呼びかけを「渡りに船」で選択したものであり、有志連合の一員という形式をとらなくとも、実質的には、菅官房長官が記者会見で「米国とは緊密に連携していく」と述べているとおり、近隣に展開するアメリカ軍などの他国軍と事実上の共同した活動は避けられない派遣といえます。このことは、自衛隊員が紛争に巻き込まれたり、武力を行使する危険を伴ったものとして、まさしく平和主義に反する派遣といわざるを得ません。

あらためて、ホルムズ海峡周辺への自衛隊派遣を許さない緊急の取り組みと合わせ、「専守防衛」の枠すら超えて肥大化する「憲法違反の組織に変容した自衛隊」を許さない取り組みを進めていかなければなりません。

今護憲大会では、人権課題についても分科会で討論されました。第4分科会「教育と子どもの権利」では、山梨学院大学教授の荒牧重人さんより国連の子供の権利条約採択30年にあたり、その意義や内容について再確認するとともに、国際水準から見た日本の教育の課題について提起いただきました。

また、第5分科会「人権確立」では、移住者と連帯するネットワークの鳥井一平さんから、これまでの日本における移民労働者に対する受け入れ政策が国連理事会からの勧告や批判を受けてきたことに触れ、2017年からスタートした技能実習制度の中でも、時給300円、強制帰国、セクハラ、人権侵害、暴力・パワハラ、人身売買、長時間労働が横行するなど、人権侵害、奴隷労働が凝縮的に表れていると指摘しています。そして、すでに日本は移民の存在なくして存在しない社会であり、外国人労働者とその家族の労働者としての権利、生活者としての権利の確立が求められていると話されています。

こうした子どもや、外国人の権利の確立は、「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」とする、まさに、憲法前文に謳われた理念でありその実現に向けてしっかり取り組みを進めていかなければなりません。

さて、2つ目の課題は、改憲阻止と憲法審査会に関する課題です。10月4日臨時国会が開会しましたが、今臨時国会での最大の焦点は憲法審査会の動向です。自民・公明与党に加え、日本維新の会も 憲法改正議論に前のめりであり、すでに提出されている国民民主党の国民投票法案も含め、国民投票法の審議を行うことにより、自民党改憲案をベースとした改憲議論が進むことを警戒しなければなりません。

この国民投票法、改憲手続法は、2007年第一次安倍政権のもとで初めて憲法改正のための具体的な手続きを定め、強行採決によって成立しました。 そして、この間議論となってきたのは公職選挙法に準じた7項目の改正案でした。しかし、第7分科会の日本体育大学教授の清水雅彦のさんは、この改憲手続き法について6つの問題点を指摘するとともに、「国民投票で改憲を否決すればいい」という考え方は誤りであると断言しています。つまり、現行の改憲手続法は、①公務員・教育者を対象に国民の運動が規制され、従来護憲運動をけん引してきた人々の運動が規制されること、②メディア規制によって護憲派の宣伝に規制がかかり、改憲派の宣伝が圧倒的に多くなる仕組みであること、③広報の分野においては、多数派である改憲派優遇と解説による世論誘導の可能性が強いこと、④承認にあたっても「有効投票数の2分の1」というだけで最低投票率の定めがないことなど、多くの問題を抱えた内容であり、改憲についての国民投票が実施された場合、これを否決することは不可能であるということです。

私たちは、法律家6団体や野党との連携を図りながら、憲法審査会に対しては、審査会自体を開かせないことを基本に、改憲案の提示など実質的な審議を行わせないことを求めてきました。引き続き、私たちは、野党との連携を強めるとともに、憲法審査会が開催される場合は傍聴行動にも取り組むなど、緊迫した国会情勢の中で大衆的な行動も配置し、憲法審査会での改憲発議を許さない様々な取り組みを進めていかなければなりません。

3つ目の課題は安倍政権の退陣を求める闘いです。この間私たちは平和憲法を守る闘いと合わせ、安倍政権の退陣を求めて取り組んできました。とりわけ、2015年に結成された市民連合を基軸とした野党共闘による安倍政権との闘いは、2017年の希望の党への民進党の合流と、立憲民主党の結成が行われた2017年衆議院選挙では不十分な共闘に終わったものの、2016年の参議院選挙以降、全国からの期待も寄せられ、一気に定着し、さらに広がりをみせています。

しかし、これまでの野党共闘による闘いでは参議院での改憲勢力3分の2割れを実現したものの、安倍退陣を勝ち取ることはできませんでした。来る衆議院選挙に向けて、様々な政党との信頼関係を基に、市民連合を中心とした本格的な野党共闘を実現し勝利していく、そしてこのことによって改憲阻止、安倍政権打倒の展望をつくり出さなくてはなりません。解散による総選挙もありえる中で、今日の野党共闘の状況は、289に及ぶ選挙区数や野党共闘の進捗状況からも極めて厳しい状況であり、決して楽観は許されません。衆議院選挙における野党共闘の強化に向けて、全国で様々な困難を乗り越え、お互いが努力し合いたいと思います。

3日間の討論でも明らかになりましたが、今、安倍政権のもとで「戦争できる国づくり」に向けて日本の国の形が大きく変えられようとしています。また、公布後73年が経過した日本国憲法の破壊・空洞化が進む中で、文字通り様々な分野で憲法理念の実現を目指す取り組みが私たちに求められています。そして、日本における立憲主義、民主主義、平和主義を守り未来に引き継ぐ闘いが正念場を迎えています。まさに「平和・自由・人権、すべての命を尊重する社会を」をスローガン掲げ開催した今護憲大会での議論を、参加者一人一人がしっかり持ち帰り、引き続き私たちが憲法理念の実現と改憲阻止、安倍退陣を求めるという正念場の闘いを先頭に立って進めていかなければなりません。

そして、1日目・中野さんの提起にもありましたが、「私たち自身がこの時代をこう生きた、そして、こう闘った」という誇りあるものを次の世代に残していくこと、このことを全体で確認し3日間の大会のまとめとさせていただきます。ご苦労様でした。

 

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