イラク情勢Watch vol.10 05年9月12日
         発行:フォーラム平和・人権・環境  編集:志葉 玲

       毎週更新(予定)


Topics
1)週間イラク報道Pick up
2)「悪者」にされるイスラム・スンニ派
3)イサム・ラシード氏の報告
4)イラク人医療関係者らによる米軍の無差別攻撃情報
5)バグダッドの市場大火災の原因は米軍か
6)お詫び 更新の遅れについて

1)週間イラク報道Pick up

【05.9.12】「盟友」の政権続投を歓迎 米、イラク派遣延長に期待(共同)

【05.9.12】<米ハリケーン>ブッシュ政権の関係会社、復興事業を受注(毎日)

【05.9.10】イラク軍、北部タルアファルで武装勢力掃討作戦を実施(ロイター)

【05.9.10】イラク大統領、向こう2年で段階的な米軍撤退を要望(ロイター)

【05.9.10】首相、派遣延長を示唆 イラク自衛隊活動(共同)

【05.9.8】宿営地近く迫撃弾5発=信管付きも、攻撃計画か−サマワ(時事)

【05.9.8】「9・11は喪に服す日」 複雑な思いのテロ遺族(共同)



2)「悪者」にされるイスラム・スンニ派

 先月31日、バグダッド北部イスラム・シーア派の聖地であるカズミヤ地区で、パニックを起こした巡礼者たちが将棋倒しになり、962人が死亡した。この事件に関して、日本の一部報道では、「スンニ派の犯行」「シーア派を狙うスンニ派」というステレオタイプな宗派対立の印象づけられている。だが、実際事件現場では、カズミヤ地区に隣接しスンニ派住民の多いアダミヤ地区の人々は負傷したり溺れたりしたシーア派巡礼者を救助していたという。

  
   画像はTUP速報メンバーの千早さんへイラクの市民から送られた画像。集団圧死事件の現場での
   スン二派とシーア派の助け合いを表している。

 イラクの病院や障がい者施設の支援を行っているNPO法人PEACE ON代表の相澤恭行さんにバグダッドから届いたメールにも、宗派を超えて助け合う人々の様子が報告されていた。

 以下、3日付けの相澤さんのブログより引用
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 やがて川向こうのアダミヤ地区のスンニ派住人たちが川に飛び込み、何人かはそのために命すら落としながらも、シーア派の人々を助けたという。それは本当に偉大な友情だったと友人のメールは続く。その後アダミヤの人々は、彼らに十分な水と食料を与え、また、犠牲者の子ども達を家族が迎えに来るまで保護し、応急処置なども施していたというのに、政府の一部の連中は、「連中は食物や水に何かを入れて殺した」などと言い出したということだ。
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 イラクの民主化団体、「占領に抵抗するイラクの民主主義者達」(IDAO)によれば、事件後、宗派を問わず、イラクの人々は犠牲者を救おうとしたと報告した。特に昨年4月と11月の米軍とイラク国家防衛隊による攻撃で多大な被害を出したファルージャでも数千人の人々が献血のため、モスクに集まって来たのだという。
  
 イラクにおいて、スンニ派とシーア派も互いに結婚したり、親戚関係になることは珍しいことではなく、「イラク人」としてのアイデンティティーも強い。それだけに欧米や最近の日本の報道にありがちな「宗派間対立」を嫌う傾向がある。

 スンニ派が日本のメディアの中で「悪者」として扱われるのは上記のような、イラクにおけるスン二・シーアの関係の近さが理解されていないことに加え、米軍やイラク移行政権の発表依存しているメディアの構造的問題も含まれている。イラク中部では、米軍による掃討作戦や家宅捜索が続き、スンニ派住民も非常に苦しめられているのに、米軍が現地への立ち入り規制を行っており、状況を報じるのが困難であることも大きい。スンニ派を「テロリスト」と断じることは、米軍の無差別攻撃の正当化することにも都合が良いのだろう。


3)イサム・ラシード氏の報告 

 先月来日したイラク人ジャーナリストのイサム・ラシード氏が私や他の平和運動関係の日本人に宛ててメールを送ってきたので紹介したい。彼のメールの概要は以下の通りだ。 

 9月1日、3人の男性が車でバグダッドのアダミヤ地区を移動中、警察の検問所で止められ、そして逮捕されてしまった。目撃者が語るところによれば、車に特に荷物はなく、何故逮捕されたのか、全くわからないのだと言う。そして、9月7日、逮捕された男性の一人の家族らは、遺体を冷凍保存する霊安室で、身内の変わり果てた姿を見つけたのだそうだ。遺体には激しい拷問の痕があり、足にはドリルで空けたような穴があるという。

 そもそも、何故3人が逮捕されたのかは不明だが、ラシード氏が言うには、「午前0時からは夜間外出令がしかれており、誰も外を出歩くことができない」とのことである。住民がイラク警察により令状無しに不当逮捕され、サダム時代を彷彿とさせるような拷問を受けることが日常化していることは、これまでも聞いていたが、ラシード氏の「今や、誰かが警察に拘束されたら、家族達はまず遺体置き場を探す」という言葉に改めて恐るべき状況になっ
ていることを実感させられる。



4)イラク人医療関係者らによる米軍の無差別攻撃情報 

 イラクの医療関係者によるNGO「ドクターズ・フォー・イラク」は、この間、イラク北西部周辺で行われている米軍の掃討作戦について、国外のNGOに情報発信、米軍に対して攻撃を停止し、ジュネーブ条約を遵守するよう、求めている。先月末と今月7日のドクターズ・フォー・イラクの緊急報告を紹介する。

 先月末30日、ドクターズ・フォー・イラクは、シリアとの国境に近い西部の街カイム近郊Karablaa村からの医師達の連絡を受け、声明を発表した。声明によると、カイムでの米軍の掃討作戦によって、少なくとも女性や子どもを含む50人が犠牲になったという。目撃者の情報によると、少なくとも3家族が米軍のミサイル攻撃で、破壊された家の瓦礫の下に埋まってしまったという。カイムの総合病院は、電力配給が止められ、また危険な状況のため、一時的に閉鎖を余儀なくされた。そのため、カイムに隣接するKarablaa村に、臨時診療所が開設されたが、米軍はここも空爆、ドクターズ・フォー・イラクに報告してきた二人の医師も負傷した。

 今月7日にもドクターズ・フォー・イラクはイラク北西部の街タルアファルに取り残されている住民数百人の安全を懸念する声明を発表した。声明によると、数千人の住民達は、過去3〜4日、同市を包囲攻撃していた米軍により町からの退避勧告を受けていたが、20〜35歳の男性の多くが米軍に妨げられて街の外部へ出ることが出来ず、米軍基地へ連行されていったと言う。昨年11月のファルージャ総攻撃でも、18〜45歳の男性は、「戦闘可能年齢」として、包囲された街を脱出することは許されず、その多くが激しい攻撃で命を落としたが、今回のタルアファルでも同様のことが行われているようだ。目撃者の話によると、2、3日前、米軍は街に巨大な爆弾を市内の目標に投下、ミサイル攻撃も行ったという。現地の医師の話では最低20人の市民が殺害されたが、戦闘中の状況では、被害実態を確認することは不可能だという。市内には、メディアも医療関係者も入ることが極めて困難で、現地の医療状況は極めて悪化しており、特に非衛生的な環境での病気の発生やや飲料水の配給が妨げられるなどの被害が深刻化しているようだ。



5)バグダッドの市場大火災の原因は米軍か

 バグダッドの友人によると、一週間程前、バグダッド南部ドーラ地区の市場で深夜2時頃に出火し、500もの店が焼ける大火事があった。深夜は夜間外出禁止令がしかれているため、人通りはほとんどないが、店を守っていたガードマン達によると、米軍が現場を通りかかった時に、何者かと銃撃戦を行い、その後、火災が始まったのだという。



6)更新の遅れについてのお詫び
 
 先週は、本コーナー編集人の志葉が多忙だったため、更新が滞ってしまい、関係者皆さま・読者の皆さまには申し訳なく思っております。基本的には本コーナーは毎週更新することにしているのですが、志葉の予定によっては先週のようなこともございますので、ご理解いただければと思います。


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