運動方針

2007年04月25日

2007年度 主な課題

以下は2007年4月25日に開かれたフォーラム平和・人権・環境第9回総会において決定された活動方針です。

1. 全体(2007~08年)の基調について

 私たちをとりまく情勢は、矛盾を内包しながら、大きく動いています。国際情勢の特徴は、1)「新自由主義」に基づくグローバリズム・米国の「単独行動主義」に基づく軍事的戦略に対抗して、国連・国際的平和秩序の再確立への動き、EUにおける政権交代と中南米における反米政権の誕生が続いていること、2)米国では、ブッシュ・ネオコン路線が行き詰まり、中間選挙では共和党が敗北し、ブッシュ大統領の支持率も30%へ低下し、路線転換、政権交代へ動き出していること、3)中東では、アフガン、イラクの内戦激化と中東全域に軍事的緊張が高まっていること、4)東北アジアでは、米国主導の中国包囲網のなかで政治的・軍事的緊張が高まると同時に、6カ国協議の前進など事態打開の方向性も見えはじめていること、などです。
国内情勢の特徴は、1)安倍自公政権は教育基本法改悪を踏まえ、戦後責任をないがしろにしたまま、さらに「軍事大国化路線」を進め、米軍再編成の強行実施、改憲手続き法案制定、解釈改憲・憲法改悪へと動き出していること、2)市場万能主義路線が継続され、公的規制・公的サービスの解体も引き続き進められ、格差社会の進行など矛盾がさらに拡大しようとしていること、3)脱原発への流れのなかで、政府および電気事業関係者による原発推進・プルトニウム利用路線が矛盾を含みながら引き続き推進されようとしていること、4)安倍自公政権の矛盾拡大による支持率の低下と権力の流動化が始まり、平和団体、労働団体、野党など「自公政権」への対抗勢力の運動が高揚しようとしていること、などです。
運動体をめぐる状況は、1)平和・民主主義運動の分野は、自公政権の「戦争できるくにづくり」めざしての体制づくりへの歯止めをかけ切れていませんが、平和・反基地のとりくみ、脱原発のとりくみ、イラク戦争反対のとりくみ、共謀罪反対のとりくみ、9条護憲のとりくみ、改悪教育基本法の具体化を許さないのとりくみ、米軍再編成反対のとりくみなどなど多くのたたかいが続き、反撃への運動が確実に高揚しようとしていること。また、国際的な反戦・平和運動も高揚しようとしていること。2)労働運動分野は、労働団体・連合の組織率の低下、権利未確立労働者への影響力の低下の現状から、そうした事態打開に向け、連合を中心に、組織拡大、労働分配率の改善、非常勤・臨時・派遣労働者のたたかいなど大きく運動が高揚し、市民的支持も集まろうとしていること、3)政治運動の分野は、地方自治体選挙、参議院選挙に向け、民主党、社民党など野党共闘の動きと連合、民主党の「共同宣言」など与野党対決へ大きく動き出し、政策転換と政権交代の展望が見え始めていること、などです。
そうしたなかで平和フォーラム・原水禁の果たす役割はますます重要となり、私たちの頑張りにより運動を前進させる可能性が大きく拡大しています。
平和フォーラム・原水禁は、引き続き、めざすべき課題として、1)人間の安全保障の推進と憲法理念の実現、2)核兵器廃絶と脱原発、3)循環型社会作りなどを掲げ、政策転換、政権交代を意識し、最大の平和団体としての組織と運動の強化と、市民団体、平和団体、連合などの労働団体、民主党・社民党などの野党との連携強化、また国際的な連携強化をはかり、課題の前進めざして、全力でとりくみます。
また、平和フォーラム・原水禁は、時代と求められる役割に対応するため、目的意識的にセンター的役割を果たすと同時に組織と運動の改革・強化をめざします。そして①運動の重点化、2)組織の強化・拡大、3)組織・運動の改革と強化、4)事務局機能の改革・強化を実現します。

2. 憲法改悪に反対し、憲法理念を実現するとりくみ

 本年5月3日で施行60年を迎える憲法は、その意義を高く評価する声は世界に広がっていますが、重大な危機に瀕しています。米国のブッシュ政権の戦争政策に追従する小泉前政権、さらにそれを継承した安倍政権によって、「戦争のできる国づくり」がすすめられ、改憲への動きが加速されています。自民党はすでに結党50年時に、憲法9条を変えて「自衛軍」を保持し、「集団的自衛権」をも行使できるようにし、いくつもの「国民の責務」を押しつける「憲法改正」草案を明らかにしています。財界も相次いで改憲案を明らかにしていますが、日本経団連は1月1日に「希望の国─日本」(御手洗ビジョン)を発表し、自衛隊明記や集団的自衛権行使の改憲を打ち出しました。
改憲に反対する護憲の立場からは、2004年に発足した「九条の会」(大江健三郎さんら呼びかけ)や「憲法行脚の会」(佐高信さんら呼びかけ)などの活動が活発に行われています。また、ピースボートなどを中心に憲法第9条の国際的意義を強調する「9条世界会議」(2008年5月)のとりくみも開始されました。
昨年誕生した安倍首相は、{集団的自衛権の行使}の合憲化をめざすとともに、5年以内の改憲を打ち出しています。憲法施行60年にあたり「新しい時代にふさわしい憲法を、今こそ私たちの手で書き上げていくべきだ」と「憲法改正」の必要性を強調。第一歩として第166回通常国会での改憲手続き法案(いわゆる国民投票法案)成立の考えを示しています。また、7月の参議院選挙で改憲問題を争点とするとしています。
すでに国会では憲法調査会報告(2005年4月)を受ける形で、衆議院に憲法調査特別委員会が設置され、2006年の通常国会に与党から「日本国憲法の改正手続に関する法律案」、民主党から「日本国憲法の改正及び国政における重要な問題に係る案件の発議手続及び国民投票に関する法律案」がそれぞれ提出されて、継続審議中です。特別委員会のもとに「日本国憲法の改正手続きに関する法律案等審査小委員会」が設置され、特別委員会とあわせて審議が加速されてきました。
憲法をどうするかに関わる法律は、どの法にもまして、憲法の理念に立脚し、基本的人権の尊重や主権在民の原則に沿うものでなければなりません。しかし、とくに与党の法案には、憲法調査会に代わる常設の憲法審査会の国会への設置をただちに行うことはじめ数多くの不透明な問題点をかかえています。その内容についてもほとんど市民のなかで議論されていません。
平和フォーラムは、基本スタンスを前文・9条、「基本的人権の本質」を定めた第10章「最高法規」などの改悪に反対するとともに、憲法理念の実現をめざすことにおいています。自民党・与党案のように、はじめに「憲法改正ありき」「憲法改正のためのハードルを下げる」という意図による改憲手続き法の制定に反対します。また、連合との連携強化を今後もすすめるとともに、右傾化状況のなかで、「憲法を守れ」の一点でその他の平和団体との連携を強化することも重要となっていますので、歴史的経緯もふまえながら運動の広がりを追求します。

1) 憲法前文・9条改悪を許さず、平和基本法の確立をはじめ、平和・人権・民主主義の憲法理念の実現をめざすとりくみ

  1. 憲法改悪のための改憲手続き法案に反対するとりくみをすすめます。
  2. 憲法前文・9条改悪の動きに対抗する憲法理念を実現するとりくみ、立憲主義を確立するとりくみとして、自衛隊縮小・平和基本法の確立に向けたとりくみをすすめます。そのため、憲法前文・9条の果たしている役割、違憲の状況や歯止めされてきた政府公約(ア)文民統制、イ)専守防衛、ウ)海外派兵禁止、エ)集団的自衛権の不行使、オ)非核三原則、カ)大量破壊兵器の不保持、キ)武器輸出禁止、ク)宇宙の平和利用、ケ)国際貢献のあり方など)についての状況を点検・整理し、「平和基本法案要綱」作成作業をすすめます。さらに、日米安保条約については、平和友好条約に変えるとりくみをすすめます。
    また、平和基本法の制定に向けて、民主党・社民党など政党への要請をすすめます。
  3. 憲法理念にもとづく現時点での安全保障を確立するとりくみとして、日米安全保障条約の持つ問題点(とくに新ガイドライン以後、現在の米軍再編など)、国連中心の安全保障、「人間の安全保障」などに関わる課題を整理するとともに、別項の平和課題をはじめ運動方針全体と連携したとりくみをすすめます。
    また、ピースボートなどが中心になってすすめている「9条世界会議」に参加・協力します。

2) 憲法理念の実現をめざす第44回大会の開催について

  1. 本年度の「憲法理念の実現をめざす大会」は、教育基本法改悪強行に続いて改憲手続き法案の動きからきわめて重要な憲法状況局面を迎えたなかでのものとなります。これら改憲の動きが強まっていることを踏まえて政治的アピールの部分を強くし、11月2日-3日に東京を中心に首都圏開催とします。平和フォーラム、従来の中央実行委員会と関東ブロック各組織とで実行委員会をつくります。
    従来の枠組に加えて、連携できる市民団体と憲法公布61年のとりくみ部分を加えます。
    11月2日(金)夜 開会集会(教育会館ホール、1000人規模)
    11月3日(土)朝 分科会(教育会館地)
    11月3日(土)午後 市民集会(日比谷野音、5000人規模)
    11月4日(日)朝・昼 フィールドワーク

3) 憲法記念日および日常の憲法学習会などのとりくみ

  1. 憲法施行60年であるとともに、憲法改悪の動きが強まっていることを踏まえて、全国各地で多様なとりくみをすすめます。5月3日の憲法記念日を中心とし、5月を憲法月間とした全国的な共同行動をすすめます。首都圏での5月3日集会の準備などをすすめます。
  2. 自治体などに対して、憲法月間にその理念を生かした行事などの実施を求めます。
  3. 「憲法問題資料集」(コピー集)やホームページでの資料集積を引きつづき進めます。よりリアルタイムで豊富なものとして、提供します。
  4. 憲法問題の論点・問題点整理を行うため憲法問題学習会を随時、開催します。
  5. 積極的に民衆自らの憲法理念を育て築いていくとりくみをしてきた「市民版憲法調査会」などの学習会を紹介し、連繋を強めます。

3. 在日米軍再編に反対し、戦争のできる国つくりを許さないとりくみ

 在日米軍再編の内容は1)対テロ戦争・弾道ミサイル防衛・大量破壊兵器拡散防止に日米が共同でとりくむ、2)在日米軍基地を再編・強化する、3)在日米軍基地と自衛隊基地を一体化して使用する、4)米軍と自衛隊が一体となって活動する―というものです。歴代政府は憲法で許される武力行使を個別的自衛権に限定し、専守防衛を国是としてきました。日米安保条約では在日米軍基地の使用要件を、日本の防衛と極東の安全に限定してきました。しかし米軍再編合意によって日本は、米国とともに対テロ戦争や大量破壊兵器拡散防止の戦争に参加することになったのです。また米軍は、日本国内の基地から世界中へ自由に出撃できるようになります。在日米軍再編は、憲法に違反し、日米安全保障条約すら大きく踏み越えるものです。しかし、それほど重要な問題が、国務長官と国防長官、外務大臣と防衛庁長官の合意で決定されました。国会でも、米軍再編の承認に関する議論は行われていません。安倍内閣は2007年度予算案に在日米軍再編関係経費を組み込み、在日米軍再編特措法案を国会に上程しました。この2つを成立させることで、米軍再編を実行しようとしているのです。
イラクでは昨年5月、シーア派のヌーリ・マリキ首相を中心に、クルド人やスンニ派の一部も参加した正統政府が発足しました。マリキ政府は、スンニ派武装勢力への恩赦を含めた「国民和解計画」を発表しましたが、事態は改善しませんでした。フセイン元大統領の死刑執行に、バース党関係者やスンニ派勢力は反発を強めています。米国では昨年、連邦議会選挙が行われ共和党が敗北しました。イラク政策が争点となった選挙の結果を受けて、ブッシュ大統領はラムズフェルド国防長官を更迭しました。しかしイラクからの撤退を考えることはせず、逆に兵員21,000人の増派を中心とする新政策を発表しました。新政策は、民主党だけではなく共和党内部からも批判を受けています。またイラク国内のシーア派武装組織に背景にはイランが存在するとして、イランとの対決を強めています。米国内では、ブッシュ政権がイランに戦闘を拡大するのではという懸念が表れています。
安倍政権は、改憲手続き法案などによる明文改憲へ向けた動きと同時に、在日米軍再編・戦争関連法の整備による、なし崩し改憲を進めようとしています。昨年の国会で防衛庁の「省」昇格法案が成立しました。ブッシュ大統領のイラク増派決定も即座に支持しています。北大西洋条約機構(NATO)の本部を訪問した際には「国際的な平和と安定のために自衛隊の海外活動をためらわない」と演説、NATOとの連携も打ち出しました。通常国会では米軍再編特措法をはじめ、イラク特措法の改定(期限延長)、日本版NSC(国家安全保障委員会)の設置などを行なおうとしています。
平和フォーラムは、国内最大の平和運動組織です。安倍内閣の進める「戦争のできる国づくり」を止められるかどうかは、私たちの行動にかかっています。市民運動との連携、民主党や社民党との協力を強化し、安倍内閣に対抗して、平和をつくらなければなりません。

1) 在日米軍再編に反対するとりくみ
在日米軍再編は、実質的な改憲の第一歩です。在日米軍再編に反対するとりくみは、2007年度の反戦・平和運動の最重要課題です。在日米軍再編を止めるために、平和フォーラムは、以下の行動にとりくみます。

  1. 米軍基地・自衛隊基地所在地でのたたかいを強めます。現地でのたたかいにあたっては、市民団体や連合との協力を進めます。
  2. 米軍再編関係自治体の議会や首長に対して、基地強化に反対するよう働きかけます。
  3. 全国基地問題ネットワークと連携し、米軍再編に反対する全国的なたたかいを組織します。
  4. 沖縄等米軍基地問題議員懇談会を軸にし、民主党や社民党の協力を得て、国会や政府に対する働きかけを強めます。
  5. 沖縄米軍基地問題連絡会や「米軍再編と自治体」市民フォーラムなどに参加する市民団体を中心に、さらに広く呼びかけ、在日米軍再編に反対する新たな枠組みを形成します。
  6. PAC3・F22ステルス戦闘機配備、辺野古への基地新設など負担軽減どころか基地強化されている沖縄の内実を問う沖縄平和行進に、全国各地から参加します。
  7. また、進められているミサイル防衛体制の確立にも反対します。
  8. 基地に反対する様々な裁判闘争をはじめとしたとりくみに協力します。女性の人権が侵害されていることについて、国連安保理決議1325などを活かしたとりくみをすすめます。また、日米地位協定の抜本的見直しのとりくみをすすめます。
  9. 市民運動や国会議員と協力し、自衛隊員の人権を守る活動を行います。

2) 原子力空母の横須賀母港化に反対するとりくみ
2005年10月に発表された米海軍原子力空母ジョージ・ワシントンの横須賀母港化を2008年に控え、米海軍基地内では浚渫工事の準備が進められています。しかし、工事から発生する土砂の投棄など、環境へ及ぼす深刻な被害も懸念されています。工事に伴って行われる港湾法関連の手続きに対し、環境保全を最優先するよう環境省に対する働きかけが重要です。
昨年11月から「原子力空母の是非を問う住民投票を成功させる会(以下、「成功させる会」)」が横須賀市民を中心に立ち上がり、およそ一ヶ月間で必要数の6倍近く上回る41,591筆の署名が集まりました。そのうち有効署名として37,858筆が認められたことを受け、今年1月17日、「成功させる会」は住民投票条例の請求を行いましたが、2月8日、市議会臨時本会議で条例制定請求は賛成10、反対31で否決されました。
しかし原子力空母の是非を問う署名運動は、市内の有権者の約1割が署名を寄せるという大きな運動へと広がりを見せています。これはこの問題に対する市民の関心が高いと同時に、根強い不安や疑問が在ることを明確に示しています。2月には地元漁業者が浚渫工事中止を求めて民事調停を申し出ています。今後、このように生活の権利を求める声が地元や周辺で広がるなか、世界初の原子力空母の海外配備を許さない運動を全国へ広げることも重要です。
以上の状況を踏まえ、2008年に予定されている原子力空母の横須賀配備を阻止するため、2007年も「原子力空母の横須賀母港化を許さない全国連絡会」や「原子力空母の是非を問う住民投票を成功させる会」など地元の市民団体と協力・連携し、原水禁や反核平和団体などとも協力しながら以下のとりくみを行います。

  1. 日本政府や関係省庁に対して、原子力空母配備の撤回へ向け、多様なとりくみを強めます。
  2. 神奈川県や横須賀市など地元自治体や議会への働きかけへの協力、要請行動を強化します。
  3. 港湾法に関連し、環境省に対して重金属汚染などの資料を含め慎重な検討を求めると同時に、人々の生活と安全を守るとりくみに積極的に参加し、支援していきます。
  4. 集会や行動の呼びかけや、チラシやポスターを活用した市民への情報宣伝活動を拡大します。
  5. 港湾法、事故時の影響など、分析研究へ協力します。
  6. 8月11日、横須賀で空母母港化反対集会にとりくみます。また当日、「全国連絡会」の総会を開催します。

3) 米国の進めるイラク戦争・反テロ戦争に反対するとりくみ
アフガニスタンではタリバン勢力が復活し、イラクでは占領抵抗勢力による米軍とイラク政府軍への攻撃が激化しています。ブッシュ大統領は新たな兵力投入と大規模な掃討作戦によって勝利を収め、その後にこの2国から撤退しようとしています。しかし実際には戦果を上げられないままに、両国での戦争に泥沼のようにはまり込む可能性もあります。平和フォーラムはイラク戦争・反テロ戦争に反対し、以下の行動にとりくみます。

  1. WORLD PEACE NOWなどの市民団体と協力し、イラク戦争に反対するたたかいと、自衛隊のイラクからの撤退を求めるたたかいにとりくみます。
  2. 米国の進める反テロ戦争の推進に反対するたたかいにとりくみます。

4) 安倍内閣の「戦争のできる国づくり」に反対するとりくみ
安倍内閣の成立によって、「戦争のできる国づくり」が急速に進もうとしています。新たな戦争準備立法や、既に成立した有事関連法の運用に強く反対して、以下の行動にとりくみます。

  1. イラク特措法改正・日本版NSC(国家安全保障委員会)設置・自衛隊海外派兵恒久法の制定などに反対します。
  2. 米軍・自衛隊による、港湾・空港など民間施設使用に反対するたたかいにとりくみます。
  3. 国民保護法などの戦争動員体制に反対するたたかいにとりくみます。
  4. 「非核・平和条例を考える全国集会」を、市民団体と協力してとりくみます。

5) 米軍基地と戦争に反対する国際連帯の推進
米国はアジア太平洋を、戦略的に一体の地域として捉えています。米軍再編を阻止するためには、アジア太平洋地域の反基地運動・平和運動団体との国際連帯の推進が必要です。平和フォーラムは以下の行動にとりくみます。

  1. 昨年・一昨年と2年続けて開催したアジア太平洋地域の反基地運動の連帯をさらに強化します。
  2. 在沖縄海兵隊のグアム移転に反対し、「チャモロ・ネイション」をはじめとしたグアム平和運動団体との連携を強めます。
  3. 平澤など韓国での米軍基地拡張反対運動に連帯します。
  4. 日本-オーストラリア間の軍事協力の推進に反対し、オーストラリアの平和運動との連携を強めます。
  5. 新たに立ち上がった、世界反基地ネットワークとの連携を強化します。

4. 東アジアの非核・平和の確立に向けたとりくみ

 任期最後に近づいた小泉首相は、2006年8月15日の6年連続6回目の靖国参拝を平然と強行し、東アジア・中国と日本の関係はきわめて悪化させました。日本の侵略戦争に参加し犠牲となった兵士を「英霊」「神」としてまつる戦争美化の宗教施設である靖国神社に内閣総理大臣として参拝することは、政教分離の原則を定めた憲法を明らかに否定するものです。
安倍首相は、タカ派的歴史認識の持主ですが、就任時に関係国政府、野党、関係団体、平和団体などの批判のなかで、1995年の「村山首相談話」を踏まえると表明し、ようやく中国・韓国との関係を改善しました。しかし、その後の首相の「従軍慰安婦」強制問題での発言、姿勢に見られるように、基本的な状況は変化しておらず、平和フォーラムは東アジアとの友好活動のとりくみをいっそう強化する必要があります。
朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)との関係正常化はとりわけ重要です。2006年10月9日の北朝鮮は核実験実施は、東北アジア地域の緊張を高め、国際社会の核実験に反対する圧倒的多数の声を無視する暴挙ですが、この背景には、対話を閉ざしてきた米・ブッシュ政権の敵視政策がありました。私たちは、各国も日本も北朝鮮との対話姿勢を明確にすることを求めてきましたが、ブッシュ政権は一方でイラク政策で行き詰まったこともあり、米朝間の対話路線に方針転換しました。そして、6カ国協議は2007年2月13日、朝鮮半島の非核化に向けて各国がとるべき初期段階の措置を決めた合意文書を採択しました。東北アジアにおける平和と安定のために共同で努力するとした作業が再開したことは重要であり、何としても具体化することが必要であり、日本が参加していないことは重大問題です。この間、日本政府は、制裁と圧力を強め、対話を閉ざしつづけ、北朝鮮の民間人の来日をも、相次ぎ拒否してきました。北朝鮮の瀬戸際外交も批判されなければなりませんが、日本政府の北朝鮮敵視路線も許してはなりません。
日本における基本は、2002年9月17日の「日朝ピョンヤン宣言」です。宣言は、1世紀を超える朝鮮半島との不正常な状態を変える歴史的な転換点にする可能性をもつものです。しかし、拉致問題や核開発問題をめぐる動きのなかで緊張度を高め国交正常化交渉に入れない状態が続いてきました。日朝両政府がもう一度、「宣言」で確認された原則に立ち返り、事実関係や真相解明について誠意ある姿勢をとることが必要です。拉致問題の解決は重要課題ですが、外交の前提としては外交そのものを見失います。過去の清算、日朝国交正常化、東北アジアの平和確立に向けたとりくみと世論形成とあわせてすすめていくことが必要です。
過去の清算では、韓国・朝鮮人の強制動員犠牲者などの遺骨問題は、2004年12月の日韓首脳会議で遺骨の収集と返還についての協力が約束されたものですが、日本政府の調査は遅々として誠実に行われているとはいえません。市民の側から「韓国・朝鮮の遺族とともに─遺骨問題解決へ2006年夏」がとりくまれ、その成果を生かして今後もとりくみを行う全国連絡会が発足し、関係地での調査・集会を行うことなどを確認しています。
また、戦争被害者の訴訟は、1995年に中国政府が1972年の日中条約により放棄された賠償請求には個人補償請求を含まないとした見解が出されてから、この10年、中国関係の各種の裁判に広がり、地裁・高裁段階での判決が各地で出始めています。その多くが、国家無答責や時効などで国を免責する原告側敗訴の判決がつづいていますが、広島西松訴訟で最高裁判決(4月27日)は日中共同声明で個人補償破棄との解釈による逆転判決に向けた動きにあります。これは中国側の見解と明確に異なるものであり、中国人戦後補償そのものを否定する重大な問題です。従来からの新潟訴訟などとあわせて被害者を支援するとりくみが必要です。
この他、中国残留孤児訴訟や新たに提訴された東京大空襲集団訴訟では戦争被害をもたらし、戦後も放置してきた国の責任を問うもので支援していきます。

1) 日朝国交正常化に向けたとりくみ

  1. 在日の人権確立や、北朝鮮の人道支援のとりくみをすすめます。
  2. 韓国の平和・人道支援運動との交流・協力を進めます。
  3. 各都道府県組織の関係する日朝運動組織関係者による全国交流を行います。
  4. 日本の平和・非核・朝鮮問題・在日人権団体・グループのゆるやかなネットワークとして「東北アジアに非核・平和の確立を、日朝国交正常化を求める連絡会」(略称・東北アジア連絡会)によるとりくみ、学習会・会合、外務省要請、教宣物。海員組合などとの訪朝団呼びかけ5団体による交流を行います。
    ※東北アジア非核平和地帯のとりくみは運動方針5.-1)参照

2) 「過去の清算」と戦後補償の実現に向けたとりくみ

  1. 日韓首脳会談で約束された韓国・朝鮮人強制連行被害者などの遺骨調査、遺族への早期返還実現に向けた「韓国・朝鮮の遺族とともに全国連絡会」のとりくみをすすめます。本年度は神岡鉱山の現地調査・交流などを行います。
  2. 戦後補償をとりくむ市民団体や、歴史の事実を明らかにする立法(国立国会図書館法改正、恒久平和調査局設置)を求める市民グループとの共同のとりくみを行います。
  3. 新潟訴訟をはじめ各地の中国人強制連行訴訟など戦後補償のとりくみを行います。
  4. 中国残留孤児訴訟の署名を支援・協力します。
  5. 戦争・戦後責任と戦後補償をまなぶ国際交流・視察団の派遣を検討します。
  6. 東京大空襲訴訟の支援を行います。

3) 首相の靖国参拝や国家護持に反対するとりくみ

  1. 8月15日に千鳥ヶ淵戦没者墓苑で戦争犠牲者追悼・平和を誓う集会を行います。
  2. 首相の靖国神社参拝をさせないとりくみを行います。

5. 核兵器廃絶に向けてのとりくみ

 生きとし生けるものに筆舌に尽くしがたい恐怖と被害を与えたヒロシマ・ナガサキの原爆投下からすでに60年を超し、これまで被爆体験を原点に核廃絶と世界の恒久平和を訴え続けてきましたが、いまだ人類は、3万発とも言われる核兵器の存在のなかで、核と戦争の脅威から人類は解き放たれていません。2005年のNPT再検討会議では、ブッシュ政権の単独行動主義による核軍縮義務への消極的な態度により、2000年のNPT再検討会議で合意された13項目など核軍縮の課題を前進させることができませんでした。
この間アメリカが発表した国家安全保障戦略では、先制攻撃戦略は堅持され、単独行動主義の姿勢を一層強め、国際的な法や世論を無視し、好戦的な姿勢を貫きながら、イラクやアフガニスタンへの武力侵攻を行い、各地で憎しみや暴力、報復の連鎖を生み出し続けています。ブッシュ政権の反動的な政策はこの他にも、小型核の開発研究として「信頼できる交代用核弾頭」(RRW)計画を進めようとしており、新しい型(新しい概念)の核兵器や戦場で使えるとされる核兵器の開発に結びつき、核兵器の実践使用のハードルが低くなろうとしています。さらにABM条約(対弾道ミサイル制限条約)の一方的脱退・破棄に続き、同盟国とのミサイル防衛構想(MD)の推進など新たな核軍拡の流れを創り出そうとしています。2005年3月に発表された「統合核作戦ドクトリン」では、地域紛争でも核兵器の使用も述べており、いまだ核の力を保持しようとしています。そして2006年2月に発表された「4年ごとの国防計画見直し」(QDR)報告でも、先制使用も含め核兵器と非核兵器の一体的運用の促進を掲げています。
また、米ロなど核大国はいまだ未臨界核実験を繰り返し、核警戒態勢も維持され偶発的核戦争の危険性もかかえています。さらに「削減」された核弾頭を将来に備えた「貯蔵」に回すなど核軍縮の実態も伴っていません。
2006年10月9日の朝鮮民主主義人民共和国による核実験は、東北アジア地域はもとより世界全体にも緊張を激化させる暴挙でした。しかし、2007年2月13日の6カ国協議で、朝鮮半島の非核化にむけて各国がとるべき初期段階の措置を決めた合意文書が採択され、今後の行方が注目されます。国際的な核廃絶の動きをより一層高め、核開発の中止や核兵器計画の放棄を促進する必要があります。
さらに、NPT未加盟国のインドやパキスタン、イスラエルの核保有や、イランなどは原子力の平和利用からの転用で核開発が疑われています。それらの動きは、周辺地域の安全保障を揺るがし、緊張を高めています。そのなかでアメリカは米印原子力協定を結び、インドの核を公然と認める動きがでてきました。このことはNPT体制の根幹を揺るがすものです。ここでも国際社会の動きよりも自国の利益優先の単独行動主義を押し通そうとする強引なアメリカの動きです。あらためて当事国に核開発の放棄や緊張緩和にむけた平和的な解決と国際ルールへの参加を促すことが必要です。
日本政府は、核廃絶を訴えながらも、米国の「核の傘」にあるというダブルスタンダードという矛盾した政策を取り続けています。さらに米印原子力協定を認め、自らNPT体制を骨抜きにしようとしています。被爆国の責務として積極的に世界に先駆け平和と核軍縮政策のリーダーシップを取ることを求めることが重要です。しかし現在の安倍政権は、憲法を無視し、自衛隊のイラク派兵を強行し、積極的にアメリカの世界戦略のシステムのなかに加わろうとしています。なかでもミサイル防衛(MD)の積極的な開発と導入は、アメリカの核の傘とあいまって東北アジアに新たな軍拡に道を開き、不安定要因を作り出すものとなっています。さらにアメリカとの共同運用によって、憲法で禁止されている集団的自衛権の行使にまで踏み込もうとしています。これらの政策転換がいま、求められています。
冷戦終結後、世界はアメリカだけが突出した軍事力を持つなかで、国際的な平和・核軍縮の連携を強化し、アメリカをはじめとする核保有国を包囲する陣形をつくりあげることが求められています。各国の平和勢力との連携の強化を中心に、国内においても、政府に対して核の傘からの離脱や核軍縮の強化を要請し、連合や各市民団体・NGOなどと共通の核軍縮課題へのアプローチやネットワークの強化を進めます。そのためにも「東北アジア非核地帯」構想(核兵器の不存在と核保有国による地域への消極的安全の保証の約束など)を積極的に推進し、その実現に向けた市民・政府レベルでの議論の活性化と韓国や中国などとの国際連携を強化を目指します。国内的には、非核三原則の徹底した遵守とそれを基にした「非核法」の制定を求めていきます。
それらの状況を踏まえ、以下の行動を展開していきます。

1) 国内外の核軍縮へのネットワークの強化に向けたとりくみ

  1. 国内外の核軍縮進める団体や運動体とのネットワークの強化と世論喚起にむけたさまざまなとりくみを行い、核保有国への包囲網を強化していきます。NPT再検討会議準備会合や国連軍縮会議、8月の「原水禁世界大会」、などで、国際的な連携を強化していきます。さらに東北アジアの非核地帯化を求めて、日韓での連携を強化していきます。
  2. 平和市長会議が呼びかけ2020年に核兵器廃絶を目指すとりくみの「2020ビジョン」に賛同し、具体的に協力します。
  3. 核兵器国に対して「核の先制不使用」や「消極的安全保障の制度化」などを求めます。朝鮮民主主義人民共和国に対しては2007年2月の6カ国の協議合意による核開発の放棄とNPT復帰などの実施を求めます。
  4. 日本政府による核の傘依存からの脱却を求め、東北アジア非核地帯化構想の実現をめざして国内外の運動の強化をはかります。
  5. ミサイル防衛構想に反対し、迎撃ミサイルPAC3配備と宇宙の軍拡に反対します。
  6. 未臨界核実験や核拡散に反対するとりくみを、引き続き連合・核禁会議との共同行動として積み上げます。
  7. CTBT条約、カットオフ条約を前進させるとりくみを強化していきます。
  8. 劣化ウラン弾・クラスター爆弾などの非人道的兵器の禁止に向けたとりくみを行い、沖縄にあるとされる劣化ウラン弾の撤去を求めます。
  9. 核拡散につながるウラン濃縮、再処理を止めさせる国際的な関心を喚起し、ネットワークを広げます。
  10. NPT体制を空洞化する米印原子力協定に反対します。国際的な枠組みでの核物質の管理を求めていきます。

2) 非核自治体決議の推進と非核政策の内実の充実を求めるとりくみの強化

  1. 非核自治体決議の100%達成にむけたとりくみと自治体の非核政策の充実を求めていきます。なかでも市町村合併にともなう非核宣言の再宣言をさせるとりくみは重要です。地方議会への働きかけや非核平和行進に合わせて自治体への要請などを行うなかで宣言の達成や政策(事業)の充実を求めます。
  2. 非核宣言をした自治体の非核宣言自治体協議会への加盟を推進します。
  3. 非核平和条例のとりくみを強化し、同時に非核三原則の法制化など、非核法の制定をめざします。とくに非核法については、連合・核禁会議との連携を強化し、政党への働きかけを進めます。
  4. 内外に被爆国の内実を問われる被爆国の企業の核兵器研究・開発への関与や武器輸出三原則の緩和による協力の拡大(とくにMDに関して)については、その動きを監視することと同時に協力させないとりくみを積み上げていきます。

3) 被爆62周年原水爆禁止世界大会・ビキニデーの開催に向けて

  1. 被爆62周年原水爆禁止世界大会の開催
    「ヒバクシャの権利確立のとりくみ」や「核兵器廃絶にむけたとりくみ」、「原子力政策の根本的転換と脱原子力に向けてのとりくみ」の3つの課題を中心に世界大会の議論を深め、共通認識を作りあげていきます。昨年に引き続き連合・核禁会議との共同行動を進め、今年も原水禁大会の開会式の部分の共同開催や核兵器廃絶、被爆者援護の課題の拡大をはかります。
    さらに今年は、「東北アジアの非核化と安全保障」をテーマに、内外の研究者や活動家を中心に国際会議を行い、課題の深化と共通認識をつくります。
    世界大会は実行委員会方式で、大阪(国際会議)、広島、長崎で例年通りの日程で開催します。また、「メッセージfromヒロシマ2007」や「ピースブリッジ2007」などの子どもや若者の企画をサポートし、子どもの参加や若者、親子などの参加を強化し、被爆の実相の継承をはかります。
    なお、昨年に引き続き「核廃絶の壁」木ブロックも実施します。
    8月3日(金)  国際会議(大阪)
    8月4日-6日 広島大会(8月4日連合・核禁会議共催の開会式)
    8月7日-9日 長崎大会(8月7日連合・核禁会議共催の開会式)
    8月7日-9日 「核廃絶の壁」(木ブロック)の展示
  2. 被災54周年ビキニ・デー集会の開催
    被災53周年集会の成果を引き継ぎ、被爆62周年原水禁世界大会に連動する集会とします。

6. 改悪教育基本法の実効化を許さず、偏狭なナショナリズムを許さないとりくみ

 グローバル化とアメリカの極端な単独行動主義がすすむなかで、日本や欧州諸国は企業競争力の確保策に躍起となる一方、失業者の増加などを背景に民族排外主義的な動きや国家主義、偏狭なナショナリズムを助長する傾向も増大しています。
2006年12月15日には、与党は参議院本会議で教育基本法「政府法案」の採決を強行し、審議はつくされていないという多くの市民の声を無視して、数の力で採決し成立を強行しました。強行成立された「政府法案」は、1)教育の目的を「人格完成」から「国に有益な人材育成」に転換、2)愛国心をはじめ個人の「内心の自由」を否定し、国家主義を助長する徳目が定めたもの、3)教育行政について国と地方公共団体がそれぞれ介入するもの、4)教育基本法の「教育宣言」としての歴史的意義を抹消したことなど、憲法改悪につながる重大な問題点をもつものです。にもかかわらず、十分な審議は行われませんでした。この法が実効化すれば、教育現場における競争主義は激化し人権軽視の事態はいっそうすすむ恐れがあります。安倍首相は、「教育再生会議」をテコにしながら、臨時国会で成立を強行した改悪教育基本法につづいて行おうとしている、学校教育法、教員免許法、地方教育行政法などの関連法の改悪を準備しています。当面、全国の卒業式、入学式、全国学力テストなどの場における「愛国心」強要などの動きに留意しながら、日教組と連携したとりくみをすすめます。

1) 改悪教育基本法を実効化させないとりくみ

  1. 日教組と連携・協力した教育再生会議や関連法に対するとりくみを行います。
  2. 「愛国心の強要」「日の丸」「君が代」の強制・強要に反対し「競争主義」などによる人権侵害に対するとりくみを行います。

2) 教科書や教育をめぐるその他のとりくみ

  1. 戦争の歴史を課題とした教科書について、中国・韓国・北朝鮮など東北アジアの諸国を中心に、国際交流を追求します。

7. 多文化・多民族共生社会に向けた人権確立のとりくみ

 憲法は、人権について前文では「人類普遍の原理」とし、第10章「最高法規」第97条では「この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果」と、世界史的意味を込めています。1948年の世界人権宣言以来、包括的にとり決めた国際人権規約の他、人種差別撤廃や女性、子ども、移住者、死刑廃止など28の国際人権条約が積み上げられてきました。しかし、日本はようやく12の条約に加入したにすぎません。批准した条約も、国内法整備がなかったり、留保や未批准部分があるなど人権救済についての遅れがあります。差別が社会悪であり犯罪であるという明確な認識がいまだに希薄という問題をかかえています。その象徴が柳澤厚生労働大臣の「産む機械」発言です。カイロ国際会議で宣言された「女性の性と生殖の自己決定権」に無理解な日本の政治家の資質の低さを国際的に露呈したものです。この間、教科書からも「ジェンダー」の言葉も消えるなど、バックラッシュがすすんでいます。自民党の「憲法改正」協議のなかでは、権利の制限、義務の強化とともに、第24条の「両性の平等」の見直しが打ち出されています。安保理決議1325号など安全保障に関しても女性の重要性・ジェンダーの視点を強調している人権確立の国際社会の流れに逆行しています。
こうした状況を変えるためにも、部落差別や女性差別、障害者差別、民族差別をはじめとした差別に対し、公正・平等をめざしての実態の改善のとりくみと、差別を禁止する法律を整備する必要があります。2006年1月の国連人権委員会ディエン報告書は、日本における人種主義・人種差別・外国人嫌悪/排斥の問題を、法的側面にとどまらず、社会的・歴史的文脈にまで踏み込んで指摘し、日本政府に対して、人種差別の存在を公式に認めそれを撤廃する政治的意志を表明すること、差別を禁止・処罰する法律の制定と、問題に対処するための国内機関の設置、歴史教科書の見直しなど、24項目にわたる包括的な勧告を提示しました。国連の「国内人権機関の地位に関する原則」(パリ原則)にそった独立性と実効性ある人権救済機関の制度化と「人権の法制度」確立です。また、人権救済として、1987年の国鉄分割・民営化に際しての1047名のJR採用差別問題を早期解決しなければなりません。
14歳未満の犯罪を起こす恐れがあるとされた少年に対しても警察に関与させるようにする少年法改定案は、えん罪事件を子どもにまで広げる危険性に満ちた法案です。日弁連も全国52のすべての都道府県弁護士会が法案のこの点に反対しています。反対の声を広げていく必要があります。
ここ数年、微罪逮捕や関西生コン事件に見る不当長期拘留など、警察・監視社会化による人権侵害事件が多発しています。国会上程されている「共謀罪」は、犯罪の実行の有無にかかわらず、法律違反について話し合うだけで罪とする稀代の悪法で、市民生活のすみずみにまで関わるものです。与党は修正案で成立を図ろうとしていますが、廃案にするとともに、「盗聴法」(組織犯罪対策法)などを廃止し監視社会の危険性から脱却していかなければなりません。
また、言論や表現の自由に対して、暴力やテロで封じようとする悪質な動きとして、靖国問題で小泉首相の参拝を批判した加藤紘一元自民党幹事長発言に対する私邸放火事件などが起きています。こんな事態をけっして許してはなりません。
また、排外主義、偏狭なナショナリズムの動きとも相まって閉鎖的傾向が強まっています。再提出の動きにある人権擁護法案では委員の国籍条項設定など、外国籍住民の排除と監視強化の動きがすすめられています。このなかで、外国人地方参政権の展望はきわめて厳しい状況です。他方で、外国人雇用状況報告を義務づける雇用対策法改定や2008年外国人「在留カード」制度の新設などがすすめられていますが、外国人管理強化の危険性を強くもっています。

1) 地方参政権など在日定住外国人の権利確立

  1. 定住外国人の地方参政権を実現させる日・韓・在日ネットワークや民団などと協力して院内集会、各地での集会を実施します。
  2. 朝鮮学校をはじめ在日外国人学校の中学校・高校卒業者を差別なく高校・大学受験資格を認めることをはじめ、学校教育法の1条校並としていくとりくみを行います。
  3. 大阪高級学校や京都ウトロなどの土地明け渡し問題など、在日韓国・朝鮮人に対する差別を許さず、権利拡大に向けたとりくみを行います。
  4. 「外国人人権法連絡会」「人種差別撤廃NGOネットワーク」のとりくみを行います。

2) 実効性ある人権救済法の制定に向けたとりくみ

  1. 国連の「国内人権機関の地位に関する原則」(パリ原則)にそった独立性と実効性ある人権救済機関を制度化する法律の制定、「差別禁止法」の制定に向けたとりくみを行います。
  2. 狭山差別裁判第3次再審実現など 部落解放同盟、部落解放中央共闘などのとりくみに連携、協力します。
  3. JR採用差別事件のとりくみを国鉄労働組合に協力して行います。

3) 人権教育・啓発の推進

  1. 全国の自治体でより充実した「人権教育・啓発推進に関する基本計画」を策定・実行を求めていきます。地域・職場でさまざまな差別問題など人権学習・教宣活動を行います。

4) 司法制度・地方自治などをはじめとしたとりくみ

  1. 司法改革で、裁判員制度は裁判官の恣意などに左右されない制度・人数配分になど市民に開かれたものとする原則を確立するとりくみを行います。
  2. 日常的な判決チェックなど最高裁判所裁判官国民審査にかかわるとりくみを行います。
  3. 地方分権を促進し、地方自治体の自主財源の確保とともに、条例制定権の拡大、拘束力のある住民投票の導入などのとりくみを行います。
  4. 反住基ネット連絡会のとりくみに協力します。
  5. 共謀罪の新設を許さないとりくみを行います。
  6. 警察公安による微罪逮捕や自衛隊による取り調べの事件増大の動きを警戒し、不当弾圧、人権侵害を許さないとりくみを行います。
  7. 触法・ぐ犯の年少少年に警察関与を可能にする少年法改定に反対するとりくみを行います。
  8. 憲法に反し、人権を侵害する密告制度やいわゆるテロ対策基本法に反対するとりくみを行います。

5) 男女共同参画社会の実現に向けたとりくみ

  1. 地方自治体計画作成のなかでジェンダー定義を後退をさせないとりくみを行います。
  2. 平和フォーラム組織自身の構成、諸会議をはじめ、関わる運動全般で女性が参加できる条件・環境作りを行います。
  3. I女性会議をはじめとした女性団体のとりくみに連携、協力します。
  4. 安全保障に関しても女性の重要性・ジェンダーの視点を強調している安保理決議1325号など人権確立の国際社会の流れを活かしたとりくみをすすめます。

8. ヒバクシャの権利確立のとりくみ

 被爆後、62年を迎え、被爆者の高齢化が進み、被爆体験の風化が叫ばれています。さらに広島・長崎の被爆者の残された課題を解決する時間も限られてきています。援護対策の充実と国家の責任を問うことがあらためて急務となっています。
援護施策の充実を求める課題として、この間、原爆症認定制度の機械的な運用による被爆者の切り捨てが、大阪、広島、名古屋、仙台、東京で司法の手により断罪されてきました。国の認定制度の過ちが五度指摘されたにもかかわらず、国は上告し、高齢化する被爆者を苦しめ、解決を図ろうとする意志を示していません。あらためて国の認定制度の抜本的改善を求めていくことが必要です。
また、在外被爆者に対する援護の充実は、日本の戦争責任と戦後補償の実現とあいまって重要なとりくみです。これまでの在外被爆者裁判で勝ち取った成果を、残された在外被爆者裁判へ活かし、「日本へ来なければ認定しない」などの政策的な不備の改善を政府に要求していくことが必要です。また、これまで放置されてきている在朝被爆者への援護施策の実施を求めていくことも戦後責任を果たす意味でも重要です。「被爆者はどこにいても被爆者です」、国内外の差別なき援護施策の実施をもとめるとともに、国家保障による援護を求めていくことが必要です。
さらに「援護なき差別」の状況に置かれている被爆二世・三世への援護施策の充実をはかることも必要です。そのため全国被爆二世団体連絡協議会(全国被爆二世協)と連携しながら二世・三世の組織化や行政に対する被爆者健康手帳の発行、健康診断の通年化、被爆二世調査などの独自要求を積み上げていくことが求められています。とくに、2007年3月に発表された、「被爆二世健康影響調査」の解析結果では、「遺伝的影響」の解明には、さらに調査が必要なことが明らかになりました。それらを踏まえ被爆二世としての施策の実現やさらなる被爆二世の実態調査、遺伝的研究の深化を求めていくことが必要です。二世・三世への援護施策の充実をはかることが今後の大きな課題です。
上記の課題を達成するために原水禁・連合・核禁会議の三者で行った被爆者の権利の拡大をめざした政府への要求の実現を図ることをさらに進め、課題の広がりを創り出すことが重要です。
さらにヒロシマ・ナガサキの原爆被害にとどまらず、あらゆる核開発過程で生み出される核被害者への連帯や援護のとりくみは原水禁運動の重要な課題です。昨年はチェルノブイリ原発事故から20年という節目にあたり、多くのヒバクシャをいまだ生み出しているチェルノブイリ原発事故、軍事機密のなかで行われた核実験によるヒバクシャの実態などを明らかにしていくことが必要で、国際的な運動としてヒバクシャ運動の強化が求められています。2007年3月のアルジェリアでのフランスの核実験被害者国際会議への協力など、国際的な連携強化を進めていくことが今後も必要です。
国内的にも原子力の商業利用で生み出された被曝労働者が増大するなか、被曝労働者の権利の拡大をめざすためのとりくみを進めていくことも重要です。
それらを踏まえ、核実験や原発事故、原子力開発などのあらゆる核開発の流れのなかで起きたヒバクシャとの連帯強化と具体的な援護制度確立や権利の確認を進めることが、「二度とふたたびヒバクシャをつくらない」原水禁運動の原点を堅持していくことが重要で、以下そのためのとりくみを充実させていきます。

1) 被爆者援護の運動を強化するとりくみ

  1. 厚生労働省に対し連合・核禁会議との共同で行っている、国家補償の明記や認定制度の改善など援護施策の充実・改善などの要求行動を進めます。
  2. 在外被爆者問題の解決に向けたとりくみを行います。裁判闘争の支援や交流、厚生労働省への制度・政策の強化要求などを行います。
  3. 在朝被爆者問題の解決に向けたとりくみを行います。放置された北朝鮮被爆者の援護の確立に向け政府・厚生労働省に働きかけていきます。
  4. 原爆症認定集団訴訟運動が進められています。大阪、広島、名古屋、東京、仙台の判決で国の機械的な認定制度が断罪されました。司法判断の流れは、国・厚生労働省の認定行政の抜本的な転換(認定基準の大幅緩和)を求めています。被爆者団体とともに連合・核禁会議とも連携しながら、政府の政策転換にむけて運動をすすめていきます。

2) ヒバクの実相を継承するとりくみ

  1. 各地でのヒバクシャから聞き取りや記録(映像など)すすめ、若い世代へ被爆の実相を継承していく運動を進めます。
  2. メッセージfromヒロシマ2007、ピース・ブリッジ2007、高校生1万人署名や平和大使などの運動にも協力します。

3) 被爆二世・三世の組織化と援護政策の充実を求めるとりくみ

  1. 全国被爆二世団体連絡協議会との連携を強化し、被爆二世・三世の組織化に協力します。
  2. 被爆者援護法の被爆二世に対する付帯決議を具体化するとりくみを強化していきます。二世への援護法の拡大や被爆者健康手帳の発行、被爆二世調査の対応の充実などを求めていきます。さらに三世についても調査や援護の充実を求めていきます。
  3. 被爆二世調査の結果を結果を受け、さらに調査の継続と二世問題の調査の充実を求めていきます。
  4. 日韓被爆二世シンポジウムの開催
    昨年に引き続き、被爆二世団体全国協議会と共催で、日韓の被爆二世の交流と課題の共有を深めるために、韓国・釜山で開催します。

4) あらゆるヒバクシャとの国際連帯・交流の強化のとりくみ

  1. 世界に拡がる核被害者との連帯強化をはかります。とくに昨年は、チェルノブイリ原発事故から20周年目にあたりました。事故の実相を明らかにし被害者支援の強化を目指して市民団体などと協力していきます。
  2. 事故後の実態の調査やヒバクシャとの連帯をつくりだすために、必要に応じて現地への調査・訪問団の派遣も検討します。

5) 原発・被曝労働者のヒバク実態の把握と労働者の権利拡大をめざすとりくみ

  1. JCO臨界事故によって生みだされた被曝者への援護の運動に連携していきます。
  2. 被曝労働者の健康を守る「健康管理手帳」の制度確立を、関連する労働組合と協力して、めざします。

9. 原子力政策の根本的転換と脱原子力に向けてのとりくみ

 今年の原水禁が進める脱原発運動の最重点課題は、プルトニウム利用政策転換と高レベル放射性廃棄物問題です。とくに六ヶ所再処理工場の稼動が2007年11月と設定されており、稼働阻止にむけた運動展開が求められています。それに関連して各地で進められているプルサーマル計画の阻止も引き続き重点課題です。
原子力推進派は、プルトニウム利用路線の破綻にもかかわらず六ヶ所再処理工場の建設やプルサーマル計画をいまだ放棄しようとはしていません。原子力政策大綱(旧原子力長期計画)でも、再処理・プルサーマル路線の堅持をうたい、原子力政策の破綻のツケを先送りし、国民に多大な負担を強いようとしています。その中心となる六ヶ所再処理工場は、2007年11月の操業開始に向けて、実質的な稼働に近いアクティブ試験に移り、大量の放射能をまき散らし、プルトニウムを大量に作り出しています。余剰プルトニウムは約44トンとなり、六ヶ所再処理工場の稼働でさらに余剰のプルトニウムを生み出すことは、国際的も核拡散として問題となっています。だからこそ原子力政策の転換を求めてプルトニウム利用政策の中止を求めるとりくみをとくに強化することが必要となっています。
さらに今年は、高レベル放射性廃棄物問題が浮上しています。2007年1月には、過半数を超える地元住民や議会の反対を無視して高知県東洋町長は、処分場選定のための「文献調査」に応募しました。これに連動した動きが、全国各地で起きることが懸念されます。とくに、「文献調査」にかかわる交付金が、2億1000万円から10億円(年間)に増額されるなか、自治体財政が危機に瀕している地域を候補地として金で釣りあげようとする動きが活発化することが十分予想されます。超長期にわたる管理や安全性、世代間の問題、国民的議論や合意もないままに押し進められようとしている高レベル放射性廃棄物処分場問題は、このまま進めることを許してはなりません。緊急の課題としてとりくみの強化が求められています。
さらに老朽化した原発の運転延長の問題や東海地震などによる原発震災、電力会社によるデータ改ざんなども大きな課題となっています。とくに、東京電力、北陸電力などの臨界事故隠しは、大事故につながる危険な事故で、組織ぐるみの隠蔽は悪質なものです。大事故が起きる前に、廃炉や運転停止、企業としてのモラルの根本的改善を求めていくことが必要です。
地球温暖化に関連して「原発が地球温暖化切り札」というようなキャンペーンがなされています。しかし、実際は原発を増やすことは、電気の需要に合わせて供給するために小回りのきく火力発電などを増やすことにつながります。むしろ原発に頼った温暖化対策は、本来行うべき対策を遅らせ、むしろ温暖化を進めてしまうといえるものです。そもそも放射能を生み出すことが、地球にやさいとはとてもいえません。地球温暖化による被害も、放射能災害もない社会の構築が本来望まれるはずです。地球温暖化を防止するためにも、脱原発による「小エネルギー社会」の実現へむけて政策転換が求められています。分散型エネルギーとして自然エネルギーを積極的に拡大していくことが必要です。平和フォーラムとして進めてきたエコロジー社会構築プロジェクトが作成した脱原発に向けたエネルギー政策の検討成果を活かし、大胆な省エネルギー政策の推進と合わせて地域で再生可能エネルギーの具体的展開をはかることが必要です。
上記の状況を踏まえ、以下の行動を展開していきます。

1) プルトニウム利用政策の転換を求めるとりくみ

  1. 再処理工場稼働阻止にむけて、6月に全国集会としての「反核燃の日行動」実施やアクティブ試験などに反対するとりくみを、地元青森との連携を強化しながら行います。また、第3ステップ以降に大きなトラブルなどが発生した場合、即応的運動の強化をはかります。
  2. プルサーマル計画の中止を求めて、佐賀、愛媛、島根、静岡などを中心に連携を強化します。
  3. 「もんじゅ」廃炉に向けたとりくみを強化し、全国集会を開催します。
  4. 世界的に進む核拡散を止めるためにも、再処理・プルトニウム生産の中止と政策転換を訴える国際キャンペーンをとりくみます。

2) 放射性廃棄物処分問題に対するとりくみの強化

  1. 高レベル放射性廃棄物の処分場を誘致させない運動を作り上げていきます。
  2. 青森県むつ市などの各地の中間貯蔵施設建設問題について、設置反対を地元の運動と連携していきます。
  3. 高レベル放射性廃棄物関連法の改正や放射能のスソ切り処分の問題点を知らせるために、国会議員への働きかけの強化と集会や学習会、リーフレットなどの作成で世論喚起を行い、具体的な適用を阻止します。

3) 原発の新増設と老朽化原発、原発震災に対するとりくみ

  1. 大間原発や上関原発などの新規立地や泊3号、川内3号などの増設に対する反対運動を現地とともに全国の運動として広げていきます。
  2. 老朽化した原発の廃炉を求める運動を進めます。
  3. 志賀原発の勝訴判決を活かし、浜岡原発をはじめ各地で原発震災問題の集会や学習会などを進め、各地の原子力防災のとりくみを進めます。
  4. データ改ざん、臨界事故隠蔽などの事故隠しを徹底的に追及していきます

4) その他の課題

  1. JCO臨界事故へのとりくみ地元を中心とした、8周年目にあたるJCO臨界事故の問題を風化させないとりくみとしての集会に協力します。
  2. 原発被曝労災問題へのとりくみ(方針8.-5)参照)
  3. 脱原発に向けたさまざまな具体的制度・政策を確立するためにも、「原子力政策『転換』議員懇談会」などの動きとも連携し、院内外での運動を強化していきます。
  4. 原発・原子力施設立地県全国連絡会との連携を強化していきます。
  5. 国民保護について、想定のなかの原爆・原子力施設攻撃の問題点を強く訴えていきます。(※国民保護についてのとりくみは運動方針3.-4)参照)
    ※原子力空母の出入港・母港化についてのとりくみは運動方針3.-2)参照。
    ※再生可能エネルギーの普及・拡大に向けての課題は運動方針10.-1)参照。
    ※食品照射線問題についてのとりくみは運動方針11.-2)参照。

10. 環境問題のとりくみ

 地球温暖化や森林の減少と砂漠化、水の量と質の悪化、増え続ける廃棄物や有害化学物質など、環境問題は多岐にわたっています。これらは、人口の都市集中や市場経済優先の産業活動、第一次産業の衰退などによって年々深刻化しています。グローバル化の急速な進展のなかで、過度のコスト削減と競争至上主義による経済活動が優先され、途上国などの環境破壊に歯止めがかからない状況が続いています。
環境の悪化が深刻になるなかで、これまでの「大量生産・大量消費・大量廃棄」型の経済社会から脱却し、これ以上、環境に負荷を与えないような循環型社会形成のとりくみを進めていく必要があります。

1) 地球温暖化問題のとりくみ

2月に発表された「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の報告は、温暖化の主要原因を二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスにあるとし、21世紀末には世界の平均気温は最大6.4度上昇、海面水位も上がるなどの警告を発しています。CO2などの削減を定めた「京都議定書」の着実な実行が求められていますが、世界最大の排出国であるアメリカは、自国の産業利権を守るために、議定書への参加を拒否し続けており、中国などの途上国の排出量増加ともあわせて、国際的課題となっています。
日本においても、CO2は1990年に比べ2004年では、家庭部門で31.5%の増加、業務部門では37.9%も増加しています(気候ネットワーク推計)。これは、これまで政府として強力な対策を取らずに自主的なとりくみに任せてきたことに加え、森林吸収源対策が着実に実施されない状況が続いてきたためです。企業などへの排出削減の義務づけを始め、森林の整備、温暖化対策のための税制(環境税)の導入など、削減効果のある具体的な政策を求めて運動を進めることが重要です。また、温暖化対策として原発推進が進められようとしていることに強く反対していく必要があります。
一方、欧米などで進められている自然エネルギーに対して、日本は積極的な推進政策をとろうとしていません。危険な原発や、化石燃料資源に限界があるなかで、再生産可能な身近な地域資源を活用したバイオマスエネルギーや風車や太陽光発電などの実践も各地で広がっており、公的助成の充実が今後の課題となっています。また、地域においても、自治体と市民の連携を図り、温暖化対策を進めることや、個々人のライフスタイルを見直し、エコロジー社会への転換が課題です。

  1. 温暖化防止の国内対策の推進を求めていきます。そのため、関係する市民団体と連携・協力し、企業などへの排出削減の義務づけを始め、森林の整備、温暖化対策のための税制(環境税)の導入など、削減効果のある具体的な政策を求めます。
  2. 自然(再生可能)エネルギーの普及や省エネルギーのための法・制度の改正などを求めていきます。
  3. 各地域で環境問題にとりくむNGOと連携し、身近な資源を活用したバイオマスエネルギーや風力発電などの自然エネルギーのとりくみに協力していきます。

2) 森林・水問題などのとりくみ
環境を守るうえで、森林は重要の役割を果たしています。しかし、地球規模での森林の減少と劣化が進み、砂漠化や温暖化を加速させています。日本は世界有数の森林国ですが、大量の木材輸入により、木材自給率はわずか20%に止まっています。また、木材価格の低迷などにより林業経営が厳しく、担い手不足から持続的な森林整備が十分行われていないのが現実です。
こうした事態に対し、政府は「森林・林業基本計画」を策定してきましたが、地球温暖化防止、林業労働力、国産材利用対策などの目標が達成できない状況であり、基本計画の具体的な実施が問われています。
国際的には、持続可能な森林育成を著しく阻害する違法伐採の問題や、WTO交渉での林産物の自由化・関税引き下げの動きに対処することも必要になっています。
水の問題では、世界的な水不足や、有害な化学物質や合成洗剤などによる河川や湖沼の汚染など、その質と量が大きな課題になっています。2025年には世界の3人に2人が水不足になると予想され、飢餓問題とともに国際的な緊急課題となっています。
こうしたなか、水の商品化、水道事業の民営化が進められ、貿易自由化交渉でも課題になっています。
また、水質汚染に対する規制を強化するため、企業などの有害化学物質汚染の責任の明確化、農薬や化学肥料の減量、家庭からの合成洗剤の追放などが求められます。そのため、有害化学物質の排出状況などを公表する活用や、ヨーロッパなどで導入される登録制度、表示の徹底などを求め、影響が疑わしいものは使用しない「予防原則」を行政に取り入れさせることも課題です。

  1. 森林の整備推進に向けた政策の充実を求めていきます。政府の「森林・林業基本計画」で定めた森林整備の確実な推進、地域材の利用促進、予算の拡充、再生可能な木質バイオマスエネルギーの推進や、木材自由化、違法伐採問題などについて、関係団体のとりくみを支援します。
  2. 水問題の世論形成を図り、水道から河川、森林までの一体的な政策推進のための「水基本法」の制定に向けて協力していきます。また、合成洗剤追放全国連絡会などと連携し、水中や環境中の化学物質に対する規制運動を強めていきます。
  3. 12月に開かれるアジア・太平洋水フォーラム(12月3-4日・大分別府)に対して、関係団体と連携したとりくみをすすめます。

3) 貿易自由化にともなう環境問題のとりくみ
自由貿易の推進は、膨大なエネルギーを消費し、水や環境の汚染を招いています。日本が輸入している農産物などの生産に大量の水が使われ、世界の水問題を悪化させています。また、膨大な飼料輸入によって、過剰な窒素が日本国内に堆積し、逆に輸出国では土壌や養分の流出という二重の環境汚染を招いています。さらに、輸入食料や木材の量と日本までの輸送距離を掛けた数値(フードマイレージ、ウッドマイレージ)では、他国に比べて異常に突出し、輸送にかかるエネルギーが環境に影響を与えています。
さらに、日本と東南アジア諸国との自由貿易協定では、有害廃棄物輸出での関税削減・撤廃が含まれており、これらより、リサイクルを名目に、日本の産業廃棄物の処理を途上国に押しつける危険性が出ています。
このように、自由貿易の推進は、世界的な環境悪化に拍車をかけるものとなっており、こうした面からも貿易ルールのあり方を問い直す必要があります。

  1. 自由貿易と環境問題の関連性について教宣活動などで世論形成を図っていきます。
  2. リサイクル目的を含めて、有害廃棄物の途上国への輸出を禁止するとともに、二国間自由貿易協定に廃棄物を含めないように求めていきます。また、廃棄物の発生削減を最優先とし、国内循環を基本にした政策を推進するよう求めていきます。

4) 食とみどり、水を守る全国集会の開催
「人間の安全保障」を基軸に、「循環型社会形成のとりくみ」、「食の安全のとりくみ」、「WTO・FTA交渉」、「食の安定、農林業問題のとりくみ」、「森林・水問題」など、食とみどり、水・環境を守る運動の集約の場として、「第39回食とみどり、水を守る全国集会」を滋賀県大津市で12月7日(金)-8日(土)に開催します。そのため、関係団体に呼びかけて実行委員会を作り、開催の準備を進めます。

11. 食の安全のとりくみ

 食品への残留農薬や添加物に加えて、牛海綿状脳症(BSE)や遺伝子組み換え(GM)、鳥インフルエンザ問題など、食の安全に対する不安が高まっています。農業が競争原理の渦中に置かれ、生産の効率性が追求され、安全がないがしろにされてきたことを示しています。さらに、貿易の自由化を進めるため、動植物の検疫規制緩和や、遺伝子組み換え、放射線照射食品の認可拡大などの動きも出ています。

1) BSE問題のとりくみ

米国産牛肉については、2003年のBSE発生により輸入停止が続いてきましたが、昨年7月から輸入が再開されました。しかし米国のBSE対策は、極めて少ない検査、危険部位の除去の不徹底、肉骨粉の使用継続など、不十分なままです。
こうした状況のなかで、消費者が選択する権利を行使するためには、明確な原料原産地表示が必要です。また、検疫体制の強化や輸入条件の緩和を行わないこと、国内対策の徹底についても引き続く求めていく必要があります。

  1. 牛肉およびそのすべての加工品の販売、外食、中食において、原料・原産地表示を義務化することを求めていきます。また、学校給食へ米国産などの牛肉の使用をしないように求めていきます。
  2. アメリカなどが要求している輸入条件の緩和(現在の20ヶ月齢以下の牛から30ヶ月齢以下への拡大)などを行わないように求めていきます。また、国内において引き続き全頭検査を継続するよう、各自治体への要請運動にとりくみます。

2)放射線照射食品のとりくみ
食品に放射線を照射して殺菌や殺虫、発芽防止などを行う照射食品の拡大に向け、内閣府原子力委員会は、スパイスなどに拡大する方針を打ち出しました。
これに対して、消費者団体などは、照射による安全性や、照射を検知する技術がないこと、コストのかかる照射よりも進んだ食品保持技術がすでにあること、原子力の技術を食品に用いることの問題から、反対運動を続けています。この技術は消費者にメリットがなく、原子力産業界の利益につながるものであることから、強く反対していくことが必要です。

  1. 「照射食品反対連絡会」や原水禁と連携し、照射食品の使用を認めない運動を進めます。
  2. 食品関連業界などに照射食品を扱わないよう働きかけるとともに、海外での実態についての調査活動などをすすめます。

3) その他の食の安全問題のとりくみ
食の安全のためには、疑わしきは使用しない「予防原則」や、総合的な食品の影響評価が求められています。そのため、形骸化している内閣府食品安全委員会などの行政の動きに対し、市民の立場から監視・提言する運動や、地域・自治体での食の安全施策への参画、さらに、農薬や添加物などの食品の安全に関する国際的な基準に合わせて国内の基準緩和を許さないとりくみ、農産物・食品に対する検査・検疫や表示の徹底を求める運動をすすめます。

  1. 「食品安全委員会」に対して意見反映を図るため、意見書の提出や委員との対話の機会を関係団体とともに設定していきます。また、「食の安全・監視市民委員会」の活動に協力して、政府や企業などへの申し入れや集会、学習会などを行っていきます。さらに、全国消費者団体連絡会などの消費者団体と連携します。
  2. 食の安全に関する国際的な基準作りに対する運動とともに、国際基準に合わせて国内基準の緩和を許さないとりくみや、食品の検査・検疫、表示制度の充実を求めていきます。
  3. 遺伝子組み換え食品については、国内における商業的作付けはしないことを求めるとともに、表示制度の改善を要求していきます。
  4. 食用油やマーガリンなどの生成過程で形成されるトランス脂肪酸が、心臓病などを引き起こすことから、含有量の制限や表示の義務付けを求めます。
  5. 各地域において、食品安全条例の制定などを求める運動を広めていきます。

4)食育の推進のとりくみ
学校や地域での子どもたちの食べ方が問題となるなか、昨年、「食育推進基本計画」が決定され、朝食の欠食改善、学校給食での地場食材使用、教育ファームの推進などの目標が掲げられ、栄養職員の教諭化などもあげられています。しかし、学校給食や栄養教諭制度などでの財政的な裏付けが不十分なままとなっています。子どもをはじめ、地域全体で食べ方を見直す運動をすすめます。

  1. 各地域において、食育推進のための条例作りなどの具体的施策を求める運動をすすめます。
  2. 学校給食の自校調理方式、栄養教諭制度の推進を求めていきます。また、学校給食に地場の農産物や米を使う運動や、地域の食材の見直し、地域内の安全な生産物の消費を進める地産地消運動などの具体的な実践をすすめます。

12. WTO・FTA交渉、食の安定、農林業問題のとりくみ

 「グローバル化」の急速な進展のなか、多国籍大企業の影響を受けた世界貿易機関(WTO)や二国間自由貿易協定(FTA)交渉により、貿易や投資の自由化が進められてきました。しかし、低開発国などの産業や市民生活はますます困窮し、先進国との格差拡大状況がつづいています。また、アメリカなど一部の国の農産物輸出が増加する反面、途上国の食料の輸入依存度はますます高まっています。
国連は2000年にミレニアム開発目標(MDGs)を打ち出し、2015年までに貧困や飢餓の半減をめざすとしましたが、現状のままではその達成は容易ではなく、逆に南北間・貧富の格差はさらに拡大しています。
国内では、効率化・コスト優先のもとで、食料や木材の輸入増加が続き、農林水産業の縮小、農山漁村の荒廃・過疎化が一段と進んでいます。さらに、構造改革・規制緩和路線により、公共サービスの機能縮小や、中小農家の切り捨て政策も強まり、地域社会の維持が困難になろうとしています。
さらに、食生活も輸入農産物、加工品を中心とした食品産業に大きく支配され、食のグローバル化も進み、これによる食の安全、健康問題も大きな課題なっています。
こうしたことから、農林業や食料、環境などに関連する各分野で、グローバリゼーション、自由貿易体制、構造改革のもたらす問題点を指摘し、国内外のNGOと提携を強めてとりくむことが重要になっています。

1) WTO・FTA交渉へのとりくみ
世界貿易機関(WTO)交渉は、農業分野を中心とした対立により、昨年7月から交渉が中断しています。これは、とくにアメリカが自国の過大な農業保護に固執しながら、他国に自由化を強要してきたことが原因となっています。また、2005年12月の香港でのWTO閣僚会議に対する世界のNGOの反対行動に表れるように、市民、消費者、生産者から自由貿易一辺倒への批判も高まっています。WTO交渉の動向を注視していく必要があります。
WTO交渉の停滞から、日本をはじめ各国では、二国間での自由貿易協定の締結をめざす動きが強まっています。日本は東南アジア諸国に続いて、昨年12月にオーストラリアとの交渉開始を決定し、4月から実質交渉が始まりました。豪州は農産物輸出大国であることから、日本の農業や食料に対する影響が大きいため、農民・消費者団体は運動を強めています。
貧富の格差をもたらしている経済のグローバル化がテロなど平和を脅かす問題とも関係していることを結びつけて、自由貿易交渉に対しては、農業をはじめ、各国の多様な産業や文化が共生・共存でき、環境や資源を保全できる交易ルールの確立をめざす必要があります。そのため、アジア各国を中心として、市民レベルでの連携も追求していきます。

  1. 自由貿易交渉では、各国の農業が共存できる貿易ルールのあり方を求めます。さらに、遺伝子組み換え食品などと関連する知的所有権問題、世界的な水の自由化・民営化などのサービス貿易、多国籍企業による投資などの問題点も関係団体とともに集会、学習会、パンフ作成などのキャンペーン活動を行います。
  2. オーストラリアとの自由化交渉は、日本農業と食料に大きな影響をもたらすことから、重要農産物を交渉から除外することなどを求めて活動します。
  3. 関係するアジアなどの各国農民、NGOを招くなど連携・交流を深めます。
  4. 2008年に日本で開かれる主要国首脳会議(G8サミット)に向け、平和・人権・環境などの課題で市民の意志を伝えようとするNGOの活動に連携します。

2) 食の安定・農林水産業問題のとりくみ
政府は、「農政改革」を進めるために、4月から新たに「品目横断的な経営所得安定対策」と「農地・水路・環境保全向上対策」を実施します。しかし、対策の対象が限定されていることや、財政的な問題から、中小農家、山間・過疎地などの切り捨てや、食料自給率の低下につながるとの懸念も出されています。
一方、農薬や化学肥料を使用しない農業を進めるため、昨年12月、超党派の国会議員が提案した「有機農業推進法」が成立しました。同法をもとに、各都道府県でも推進計画を定めていくことになっており、計画などに具体的な目標や施策がどのように盛り込まれるかを注目していく必要があります。
これまでの規模拡大・効率化一辺倒の政策は、BSEなどの食の不安を引き起こす一方で、自給率の向上に結びついてきませんでした。いまこそ、食の安全や環境問題などに配慮した政策への転換を求めていくことが重要です。
また、地域段階でも、食の安全や農林水産業の振興に向けた条例作りをはじめ、消費者と結んで安全な食を作る運動、水田での飼料用稲の作付け、遺伝子組み換えに対抗する大豆畑トラスト運動、田畑の生き物調査活動、子どもたちも参加するアジア・アフリカ支援米運動の拡大など、様々なとりくみを広げていくことが課題です。

  1. 新農政実施に際して、各地域からの問題点を洗い出して集約し、政府への要請活動を行います。また、食料や林産物の自給率向上に向け、現在行われている中山間地域への直接支払いに加えて、環境保全型農業や森林・林業への直接支払い制度の創設、農林水産業への新規就農・就労者の支援策などを求め、農民団体などの運動と共闘していきます。
  2. 有機農業の推進にむけ、推進法に基づく施策の充実を求めてとりくみます。また、関係団体と連携し、集会などの開催に協力していきます。
  3. 各地域における食料自給率や地産地消のとりくみ目標の設定を要求していきます。さらに、食の安全や農林水産業の振興に向けた条例作りをはじめ、学校給食に地場の農産物を活用する運動、バイオマスと結びつく菜の花プロジェクト運動(ナタネを栽培して作った油の廃食油をバイオディーゼル燃料に精製)や間伐材などの活用など、さまざまなとりくみを広げていきます。
  4. 子どもや市民を中心としたアジア・アフリカ支援米作付け運動や森林・林業の視察・体験、農林産品フェスティバルなどを通じ、食料問題や、農林水産業の多面的機能を訴える機会を作っていきます。とくに、支援米運動では小学校の総合学習やイベントなどとの結合、地域連合との共同行動などの地域的とりくみとします。

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