運動方針

2011年04月26日

2011年度 主な課題

以下は2011年4月26日に開かれたフォーラム平和・人権・環境第13回総会において決定された2010年度総括と2011年度運動方針です。

1. 運動の展開にあたって

1) 2011年の特徴的な情勢について

  • 緊迫する世界情勢
    2011年1月14日、24年にわたって政権の座にあったチュニジア共和国のベンアリ大統領は、国民の蜂起によって国外へ亡命し長期政権は崩壊しました。同様に、エジプトにおいても1981年のサダト大統領暗殺以来政権の座にあったムバラク大統領が、2月11日に退陣を余儀なくされました。反政府デモは、40年も続くシリアのカダフィ体制やバーレーンのハリファ体制、その他イエメン・ジプチなど中東や北東アフリカの諸国に広がっています。背景には、チュニジアの革命が一人の失業青年の自殺に始まったように、貧困と格差、腐敗した長期政権への批判、蜂起への武力弾圧に対する反発があります。不安定な世界情勢を変えるには、国連が提唱する「ミレニアム開発目標(MDGs)」にある貧困や飢餓の解消や人権確立など、世界の富をどのように再分配し「人間の安全保障」をいかに確保していくかにかかっています。
  • 新政権の混乱と参議院選挙大敗
    「国民の生活が第一。」を主張し歴史的な政権交代を実現した民主党は、鳩山由紀夫代表(当時)を首相として社民党・国民新党との連立内閣を組織しました(2009年9月)。しかし、「在沖縄米軍普天間基地移設問題」の迷走によって社民党が政権を離脱し、加えて「政治と金」の問題などにより支持率を大きく下げ、参議院選挙(2010年7月)を前に鳩山首相は辞任し、新しく菅直人内閣が成立しました。しかし、参議院選挙直前の菅首相の「消費税引き上げ」発言もあって、参議院選挙では民主党の大敗となり、衆参議院での与野党勢力のねじれ現象を生むこととなりました。
    菅首相は、普天間問題は「日米合意を基本」と発言、また輸出主導の「新成長戦略」やTPP参加を表明するなど、鳩山政権のアジア重視から日米関係重視へ回帰する姿勢を明確にしてきています。
  • M9.0、未曾有の大震災起こる
    3月11日午後14時46分頃、三陸沖を震源とする日本観測史上最大の地震が、東日本を襲いました。地震の被害に加えて、場所によっては30メートルにも達した津波は、岩手県、宮城県、福島県、茨城県、千葉県までの海岸線の住居・施設をのみこみ、死者・行方不明者2万人以上、さらには数十万にも及ぶ人々が避難生活を余儀なくされるという未曾有の大災害となっています。日本経済に与える打撃は、想像を絶するものとなっています。
    福島県第一原子力発電所では、地震と津波によって全電源が喪失するという事態から原子炉が制御不能になり、炉心溶融、水素爆発、放射性物質の外部拡散など深刻な事故を引き起こしています。20キロ圏内には避難勧告が出され30キロ圏内も屋内待避・自主避難という状況です。東京都下においても一時水道水に基準値を超える放射性ヨウ素が含有し、乳幼児の飲料が禁止となる事態が起こり、何があっても避けるべき放射能被害を全国民が実感することとなりました。政府も、原子力政策の見直しに言及するなど、これまでの原子力エネルギー推進の政策が問われる状況となっています。
  • 求められるセーフティネット
    国際為替市場は未曾有の円高状況にあり、輸出中心の国内産業は、米経済の不況、BRICsやASEANの台頭などの中にあって、きびしい状況にあります。政府は、国内産業の空洞化を押さえへ外国資本の参入などを目途に、法人税の実効税率の5%引き下げを打ち出しました。しかし、国際競争力確保を理由として内部留保を増大させてきた大手企業は、経常収益を伸ばしているにもかかわらず労働者への適切な利潤の再分配を行わず賃金は下がり続けています。国内の雇用情勢も依然きびしく、派遣労働者に象徴される非正規労働の割合は33.6%(農林業を除く、総務省2010労働力調査より)、賃金も正規労働者の51.0%(厚労省2009賃金構造基本統計調査より)となっています。社会的セーフティネットの重要性が叫ばれていますが、労働環境は改善の兆しを見せていません。
    派遣労働の改善をめざした「労働者派遣法改正案」の成立も見送られています。年間の自殺者は、13年連続で3万人を超え、生きづらい日本の姿が浮かびます。生活保護受給世帯数も、厚生労働省の発表によると過去最高の141万7820世帯(2010年10月統計)になりました。新自由主義改革による矛盾は、ますます深まる様相を示しています。
  • 具体化する国民投票法
    参議院で18項目の付帯決議が付くなど問題の多い「日本国憲法の改正手続きに関する法律」は、2010年5月18日に施行されました。衆議院では、2009年6月に麻生太郎内閣により憲法審査会規程が強行成立していますが、参議院ではいまだ制定されていません。しかし、2010年7月の参議院選挙による情勢の変化から民主党と自民党が規程制定に向け合意するなど、憲法審査会の始動に向けた動きが具体化しています。
  • 裏切られる沖縄県民
    民主・社民・国民新党の三党連立政権の課題であった「在日米軍普天間基地移設問題」は、鳩山首相の「国外、最低でも県外」の言葉もむなしく、社民党が政権離脱する中、辺野古への代替施設建設を基本とする「日米共同声明」(2010年5月28日)が発表されました。この間沖縄では、名護市長選挙で初めて辺野古基地建設に反対する稲嶺進市長が誕生しました。その後の市議会選挙においても基地移設容認派12議席に対し反対派が19議席を占めることとなり、基地の負担の軽減と基地依存経済から抜け出そうとする名護市民の意志を明確にしました。沖縄県知事選挙は、一貫して辺野古新基地建設に反対してきた宜野湾市長の伊波洋一さんが立候補しましたが、惜敗しました。しかし、ここでも基地移設容認派であった保守系の現職仲井真弘多候補でさえ基地負担の軽減と普天間の県外移設を主張せざるを得ないことになっています。
  • 変わりつつある米国の安全保障政策
    米国連邦議会のバーニー・フランク下院議員(民主党)、ロン・ポール下院議員(共和党)、ロン・ワイデン上院議員(民主党)など57人の上下院議員が、米国連邦議会「財政と改革のための国民委員会」へ、大幅な軍事費の削減を要求する書簡を送りました(2010年10月13日)。書簡は、連邦政府任意支出の56%と突出する国防予算を批判し、米国軍隊の前方展開の規模を縮小することで予算の大幅削減につなげる意図を持っています。この背景には、米国経済のきびしい現実があります。ゲーツ国防長官は、最大で4万7000人規模の兵士削減や武器の調達見直しなどによって今後5年間に国防費約1780億ドル(約14兆8000億円)を節減する計画を発表しています(2011年1月6日)。米政府は、兵員の削減は欧州への対応の変化によるもので、アジアでの米軍のプレゼンスに変更はないとしています。日本政府は、2011年度以降の在日米軍駐留経費負担(思いやり予算)について、現行水準(2010年度1881億円)を、この先5年間維持する方針で米国政府と合意したことを明らかにしました。思いやり予算を含め、日本は在日米軍の駐留経費の約7割を負担しています。グアム移転費用負担も含め、消費税率引き上げの論議もあるきびしい財政状況にありながら米国の言いなりとも言える予算措置は問題です。
  • アジアの反発を煽る外交
    中国の漁船が、尖閣諸島付近で警戒にあたっていた日本の海上保安庁の巡視船と衝突する事件が起き、中国人船長は日本側に逮捕されました(2010年9月)。前原誠司前外務大臣は「国内法に基づいて粛々と対応する」と表明しましたが、中国側の反発はきびしく、日本国内産業に欠かせないレアアースの輸出制限や中国人旅行客の渡航の自粛、民間交流の停止などの事態を招き、中国人船長を釈放せざるを得ない事態に発展しました。中国国内での反日運動が報道されると、日本国内においても石原慎太郎都知事の「やくざな国」発言や枝野幸男前民主党幹事長(現官房長官)の「悪しき隣人」発言など、国内のナショナリズムを煽る差別発言が起きました。尖閣諸島の次は沖縄本島などという予断と偏見に満ちた中国脅威の主張が展開されています。
    その後、ロシアのメドベージェフ大統領が、歴代大統領として初めて国後・択捉島の視察に訪れるという事態が起こりました。中ロ国境紛争の火種であったアムール川の大ウスリー島などは、今や中ロ貿易の拠点となりつつあります。北方四島の帰属問題や韓国が実効支配している竹島(独島)問題など、現実的解決にむけた外交交渉が望まれます。
  • 不安感増す南北朝鮮
    朝鮮半島沖黄海上の北方限界線(NLL)付近のヨンピョンド(延坪島)における韓国軍の軍事演習に反発した朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)軍は、ヨンピョンドへの実弾攻撃を行いました(2010年11月23日)。韓国軍も実弾射撃で応じ、1953年の朝鮮戦争停戦以来の大規模な武力衝突となりました。各国の自制のもとで全面対決は回避されましたが、韓国哨戒艦沈没事件や北朝鮮ウラン濃縮工場の公開なども含め、南北朝鮮は緊張感を高めています。武力衝突の一因である黄海上での米韓共同軍事演習は、北朝鮮そして中国を牽制する狙いをもって行われ、武力衝突の直後も強力にすすめられています。日米統合軍事演習などの共同訓練も、12年ぶりに宮崎県えびの市の自衛隊霧島演習場で実施される(2010年12月7日~15日)など、米軍と自衛隊の一体的運用への準備は全国的に展開されています。
  • 専守防衛から動的防衛へ
    鳩山政権下で組織された「新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会(新安防懇)」は、①基盤的防衛力構想を否定し、グローバルコモンズにおけるシームレスな動的抑止力を整備する、②武器輸出三原則及びPKO参加五原則の見直しなどを中心とする報告を行いました(2010年8月)。これを受けて、菅直人内閣は「平成23年度以降に関わる防衛計画の大綱」および「中期防衛力整備計画」を閣議決定しました(2010年12月17日)。中国を「地域・国際社会の懸念事項」と位置づけ、南西諸島における防衛力強化を打ち出すとともに、テロや北朝鮮などの多様な事態に速やかな対応をめざした動的防衛力を構想しています。これまでの「専守防衛」の考えから大きく踏み出すものとなっています。

新防衛大綱の骨子

  • 中国は地域と国際社会の懸案事項、北朝鮮は喫緊かつ重大な不安定要因。
  • 基盤的防衛力構想を否定し、自衛隊の活動力の増加を主眼として、即応性、機動性、柔軟性、持続性および実効性を備えた動的防衛力を構築する。
  • 日米同盟は、日米関係の基盤。自衛隊と米軍の一層緊密な連携を実現し、同盟を深化・発展させる。
  • 自衛隊の保有する能力を活かし、国際平和協力活動に主体的・積極的に対応する。国連平和維持活動の実態を踏まえ、PKO参加五原則などわが国の参加のあり方を検討する。
  • 防衛装備品について、生産・技術基盤に関する戦略の策定と国際共同開発・生産への対応を検討する。

中期防衛力整備計画の骨子

  • 南西地域の島嶼部に陸上自衛隊の沿岸監視部隊を配置、早期警戒機(E-2C)の常時運用体制を確保する。
  • 国際平和協力活動のために、5個の護衛艦部隊(地域配備)のうち1個の護衛艦部隊を機動運用化する。
  • 那覇基地に1個航空団を新設する。
  • 弾道ミサイル防衛用能力向上型迎撃ミサイルの日米共同開発を引き続き推進し生産・配備段階移行への準備を行う。
  • 戦闘機F-2の後継機取得検討の時期までに、戦闘機の開発を選択肢として考慮できるよう戦略的検討を行う。
  • 韓国併合100年菅首相談話
    菅直人首相は、韓国併合から100年に際し、「植民地支配がもたらした多大の損害と苦痛に対し、ここに改めて痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明いたします。」とする談話を発表しました(2010年8月10日)。1995年8月15日の村山富市首相談話以来となる、過去の不幸な歴史に対する真摯な反省の言葉は、北朝鮮に言及しないことには懸念を覚えますが、人道的な協力と韓国文化財の返還に触れるなど、韓国国民の感情にも配慮する姿勢は重要です。
    しかしながら、排外的な議員グループなどからは、談話に対し「自虐的である」との声が上がっており、東アジアとの真の友好関係構築に向けて、まだ困難が予想されます。
  • 問題多い高校授業料無償化適用除外
    2010年4月より実施された「高校無償化」について、中井洽拉致担当大臣など与党内部から朝鮮学校への適用に反対する声が上がり、適用の是非が社会問題化しました。国連人種差別撤廃委員会は、総括所見の中で「高校無償化の法改正の提案がなされているところ、そこから北朝鮮系の学校を排除すべきとの提案をしている何人かの政治家の態度」が懸念されるとし、外国人学校への差別的取扱いをやめるよう勧告しています(2010年3月12日)。文科省内に設けられた適用の是非に関する委員会や、文部科学部門会議などでの検討を経て、文部科学大臣は、一旦適用への審査を開始する旨を発表しました(2010年11月5日)。しかし政府は、北朝鮮によるヨンピョンド(延坪島)への砲撃を理由に適用手続きを停止しました。二転三転する政府の姿勢に大きな批判が寄せられています。
    日本の大学入学資格を持つ外国人学校(朝鮮学校を除く)41校のうち28校が、条件を満たさないとして高校無償化の適用外とされています。高校無償化は、生徒個人への教育の平等が趣旨であり、基本は個人への就学支援金の支給です。学校への基準を設けての適用除外は、国際人権A規約の精神にも反し問題です。
  • 採択率あがる歴史歪曲教科書
    東京裁判を否定し侵略戦争を聖戦と美化する歴史観に基づく「新しい歴史教科書をつくる会(つくる会)」系の自由社版中学校用歴史教科書が、2009年7月に横浜市で採択され、扶桑社版をあわせて「つくる会」系教科書の採択率が1.7%に上昇することとなりました。2011年度は、新指導要領に基づく教科書検定・採択年度であり、問題の多い中学校用歴史教科書および公民教科書は「つくる会」の自由社版・扶桑社版に続いて「教科書改善の会」が育鵬社から出版される予定となっています。村山首相談話などの日本政府の公式な歴史見解を否定する歴史教科書や戦前の男尊女卑の家族制度などを正当化しようとする公民教科書などが検定に合格し、使用されることは許されません。東アジアにおいてこれまでの不幸な歴史を乗り越えて新しい友好的関係を構築するためにも、日本の子どもたちが将来にグローバルな視点にたって世界で活躍していくためにも、「つくる会」系教科書の使用は問題です。
  • 進まない人権制度確立
    国際人権規約のほか人種差別撤廃条約など、31もの国際的な人権条約が積み上げられ人権確立がすすめられてきました。しかし、日本はいまだ13の条約に加入したにすぎません。批准した条約も留保や未批准部分があり、人権侵害の被害者に対する救済制度など世界の水準から大きく遅れています。新政権の誕生で、永住外国人地方参政権、取調べ可視化、選択制夫婦別姓制度など人権関連法の推進が期待されましたが、現状は停滞したものとなっています。
    国連人種差別撤廃委員会は、差別への法的救済の必要性や人権擁護法や人権救済機関設置の必要性など30項目を超える勧告を行い(2010年3月16日)、2013年1月までに報告書の提出を義務づけています。国際規格の人権確立が求められています。
    また同様に、国際人権(自由権)規約委員会の総括所見(2008年10月29日採択)では、国内人権委員会の設置、DV対策、死刑や代用監獄の廃止など27項目もの懸念や勧告が示されています。報告書の提出期限が2011年10月29日に迫っており、人権規約へのとりくみは喫緊の課題となっています。
  • 女性差別撤廃条約と女性参画
    日本は、女性差別撤廃条約を批准していますが、同選択議定書には批准していません。また、委員会からは①民法上の女性差別撤廃、②政治やハイレベル機関への女性参画率の向上、③賃金上の差別撤廃などが指摘され、①②については2011年までに政府のとりくみの報告が求められています。世界経済フォーラムの発表した2010年の世界男女格差指数(GGGI)では、日本は134カ国中94位、国連の女性活躍度指数(GEM)109カ国中57位と低迷している状況にあり、社会の活性化の視点からも女性の社会参画が求められます。
  • 取調べ可視化法案とえん罪事件
    郵便不正事件において、大阪地方検察庁による組織的証拠の改ざんが発覚しました。大阪府警の取り調べでは暴言を吐く警察官の実態が問題とされました。国際人権委員会からは、日本の代用監獄制度や密室の取り調べや証拠の不開示など多くの問題が指摘されています。狭山差別裁判第3次再審請求では、裁判官が証拠開示を要請しましたが、東京高検は一部不見当(見当たらない)としています。えん罪事件を生まないためにも、取り調べの全面可視化と証拠の全面開示が求められます。
  • 合意文書あがる、NPT再検討会議
    2010年核拡散防止条約(NPT)再検討会議(2010年5月3日~28日)は、イスラエル、北朝鮮、イランなど核拡散の大きな動きが懸念されている中で、各国の努力により2005年には不調に終わった合意文書が全会一致で発表されました。合意内容は、①2014年の準備会議までに、核保有国は核兵器削減のとりくみを報告し次回再検討会議において検討・評価を行う、②2012年に中東非核地帯構築に向けた会議を開く、③イスラエル・インド・パキスタンのNPT加盟を促す、④脱退した北朝鮮に対しては、脱退後もNPTの制約下にあることを確認しNPT復帰を促す、としています。しかし、合意文書には、核兵器保有国の強い反対から、核兵器廃絶への行程表は盛り込めませんでした。核抑止力という幻想にとらわれる核保有国の姿勢は問題です。
    合意文書は核兵器が非人道的兵器であると指摘しました。パン・ギムン(潘基文)国連事務総長が提唱する「核兵器禁止条約」の成立に向けて大きな力となるものであり、このとりくみも核廃絶に重要です。
    NPT再検討会議に先行して、米国の主導により、核物質の安全管理体制確立をめざす初の首脳級会議「核安全保障サミット」がワシントンで行われました(2010年4月12日~13日)。米国の核態勢の見直し(NPR)で示された「核テロの深刻な脅威」を認識し、核物質の管理強化と不正取引等の国際監視強化を盛り込んだ「核安保サミット作業計画」が発表されました。核兵器が国際的テロに使用される危険性が指摘される中で、NPT条約非核保有国で唯一核燃料の再処理を行う日本の立場も問題視されることとなります。
  • 米ロ新STARTの批准
    2010年4月、米ロが調印した「戦略兵器削減条約(新START)」が、両国議会で批准承認され、同条約は2011年2月5日に発効しました。7年以内に配備戦略核弾頭数を1550発、大陸間弾道ミサイル(ICBM)や爆撃機などの運搬手段数を800にそれぞれ制限されます。米国議会では難しいと言われてきた中での批准承認は、オバマ大統領の「核なき世界」へのメッセージの大きな一歩として評価されます。
    日本・オーストラリアを中心に10カ国が「核のリスク(・核兵器・核拡散・核テロ)の低い社会」を目指す新たなグループを立ち上げました(2010年9月22日)。CTBTやカットオフ条約の早期批准や「消極的安全保障」を評価するなどの共同声明は、新しい核廃絶に向けた流れとして評価できます。その中で、共同声明には盛り込まれませんでしたが、核の抑止は核に限定されるとする、核廃絶のプロセスとして重要な「核の唯一の目的」を主張した日本の今後のリーダーシップに期待されます。
  • 揺らぐNPT体制
    米オバマ大統領は、核拡散の防止につながるとして、インドの原子力供給国グループ(NSG)やミサイル関連技術輸出規制(MTCR)への参加を支持すると表明、一方で核実験への制裁として課してきた高度技術移転禁止の撤廃も表明しました。NPT未加盟国であるインドへの原子力協力に対して、加盟国から「NPT遵守への意欲がそがれる」といった批判が出されています。日本とインドのとの原子力協定交渉は、「再核実験の際は協定を破棄する」「使用済み核燃料の再処理は認めない」などとする日本の意見とインドの主張が対立し、長期化の様相を示しています。
  • 国連事務総長・米国大使、初の広島訪問
    パン・ギムン(潘基文)国連事務総長は、歴代の事務総長として初めて広島平和記念式典に出席し、挨拶では「グラウンド・ゼロ(爆心地)からグローバル・ゼロ(大量破壊兵器のない世界)へ」と核廃絶への決意を述べました。また同じく駐日米ルース大使も、米国内での批判が予測される中、米国大使として初めて広島を訪問し、平和記念式に出席しました。「広島訪問は核兵器の破壊力を強く思い出させるものであり、共に力を合わせて、核兵器のない世界の平和と安全保障を求めることの大切さをはっきりと示してくれます」との発言は、米国の核廃絶への意思を表しています。オバマ政権のこの姿勢を単なるプロパガンダとするか・しないかは、日本の運動にもかかっています。
  • 許されない「被爆体験者」という差別
    被爆者援護法による被爆者の認定については、認定範囲が狭いとして全国各地で提訴された訴訟に国が連続して敗訴した結果、2008・2009年に要件の緩和がはかられてきましたが、「放射性起因性」の証明が困難な白内障などの4疾病に関してはほとんど却下されています。しかしながら、認定却下後に裁判で争い原爆症と認められた人の数は約60人にのぼっています。現在、原爆症認定制度の見直しに向けた厚生労働省の検討会(2010年12月9日に初会合)が動き出しています。高齢化が進む中で、被爆者の立場に立った制度改正が求められます。
    一方で、長崎県では、原爆投下時に爆心地から12km圏内で被爆したにもかかわらず、旧長崎市以外の行政区であったことを理由に、「被爆体験者」との行政用語で扱われ、被爆者援護法の対象外とされている方々が存在します。「被爆体験者」のみなさんが「差別なき認定」を求めて長崎地裁へ提訴(2007年11月15日)して以来3年が経過しています。今夏にも判断が下されると予想されますが、その内容如何に関わらず「被爆体験者」すべての「被爆者」としての速やかな認定が求められます。
    財団法人放射線影響研究所(放影研)は、約2万4000人を対象に「被爆二世健康影響調査:郵便調査」を実施しています。被爆二世・三世への放射線の影響については未だ解明されず、健康不安の中での生活を強いられています。がん検診を含む健康診断の充実が喫緊の課題となっています。
  • 現実化した原発震災、「想定外」では許されない!
    新規原発の建設が、地元住民などの反対によってすすまない中で、40年を超えて使用される老朽化原発の安全性が疑問視されてきましたが、ついに3月11日、東日本大震災とそれに伴う津波の被害によって福島第一原発の「緊急炉心冷却装置(ECCS)」が作動せず、現在炉内溶融にまで至る重大事故に発展しています。また、2007年の中越沖地震による柏崎刈羽の原発震災は、安全性に対する「未知の領域」を示しました。2009年8月には、浜岡原発の5号機だけが強震に見舞われ、放射能漏れと建屋の損傷が起こっています。活断層の研究が進むにつれ、未知の断層の存在が指摘されています。今までの耐震基準・安全基準が想定する揺れを、例えばM8と予想される東海地震は超えることはないのか、「想定外」の事故が起こる中で大きな懸念材料となっています。温暖化問題から単に発電時にCO2を出さないと言うだけで原発推進が主張されてきましたが、その安全性がいま問題となっています。
  • 破綻する核燃料サイクル計画
    高速増殖炉もんじゅは、多くの反対を押し切り14年ぶりに稼働しました(2010年4月6日)。その後も、原因を特定できない放射能漏れ警報機の作動が290回も起きるなど、多くのトラブルに見舞われました。2010年8月18日には、燃料棒の交換作業に使う「炉内中継装置」が落下し、現在も再稼働が困難な状況に陥っています。年間の維持費に200億円をかける中で、炉内中継装置の回収にも9億円の費用が見込まれています。
    一方、六ヶ所再処理工場は、ガラス固化体の製造過程 でのトラブルを解消できず、事業主体である日本原燃は、稼働予定の2年間延長と4000億円もの増資の要請を決定しました(2010年9月10日)。18回目となる今回の延期は過去最長となります。各地の原発サイトには使用済み核燃料が貯まり続ける状況になっています。全量再処理を方針とする核燃料サイクル計画の路線が早晩行き詰まるのは、明確となってきています。
  • 意味のない、危険なプルサーマル
    東電の事故隠しや輸入燃料のデータ改ざんなどで計画が頓挫していたプルサーマル計画は、玄海原発3号機(2009年11月5日)、伊方原発3号機(2010年3月2日)、福島第一原発3号機(2010年9月18日)、高浜原発3号機(2010年12月25日)で試運転が開始され、それぞれ商業運転に移行しています。今後、2015年までに16~18基で実施予定とされています。核燃料サイクル計画の破綻から、核分裂性物質である余剰プルトニウムを大量に抱え、NPT加盟の非核保有国で唯一使用済み核燃料の再処理を行う日本は、通常型原発の燃料としてプルトニウム混合のMOX燃料を使用することで、世界の批判をかわす狙いがあるものと見られます。しかし、反応速度の速いプルトニウムはその制御が極めて困難であり、危険性が高いと言えます。高レベルの放射性物質を大量に生み出すMOX燃料の使用後の処分については、その技術さえ確立されていません。核燃料サイクル計画が頓挫した中でのプルサーマル計画は全く意味のないものと言えます。
  • 新成長戦略、高リスクの原発輸出
    日本政府は、新成長戦略の中核に原子力発電所の輸出を位置づけ、官民共同出資の「国際原子力開発」を立ち上げ、ベトナムでの2基の原発建設を受注しました。今後、米国や新興国での受注に意欲を見せています。しかし、欧州の新加圧水型炉(EPR)の建設は、フィンランドのオルキルオト原発で総工費が2倍に膨らみ、受注先の仏アレバ社との間で紛争に発展しています。米国の新規計画の最初となるはずのカルバート・クリフス原発も発電コストの問題から計画が凍結されました。1基あたり数千億円とも言われる高い建設費や運用時の継続した安全性の確保など、問題は大きく継続的投資の対象とするにはリスクが高いとの指摘があります。また、期待されるインドもNPT未加盟の核保有国であり、原発輸出のリスクははかりしれません。国内において安全性への不安から新規原発建設が困難な中にあって、あらゆるリスクを放置して単に経済的理由から安易に輸出に走ることは許されません。
  • 具体化できない温暖化対策
    鳩山首相は、2009年9月の国連総会において「2020年までに温室効果ガス排出量を90年度比で25%削減」するとしました。その実現のための「地球温暖化対策基本法案」は、再生可能エネルギーの全量買い取り制度や国内排出量取引制度を導入するとしました。しかし、「キャップ・アンド・トレード方式」を基本にするも産業界の強い要請を受けて「原単位方式」も検討する、また、再生可能エネルギーは2020年に一次エネルギーの10%と低い目標とされた一方で、原子力施策の推進が盛り込まれるなど、問題が多いものとなっていました。同法案は、第174回通常国会および第176回臨時国会でも成立を見ませんでした。
    日本は、一時期世界の先頭を走っていた太陽光発電など再生可能エネルギー分野において、今や世界的な推進の流れに取り残されることとなっています。太陽光発電の余剰買い取り制度や補助金などの施策による導入推進、また地域活性化対策としての小規模水力発電のとりくみなど、一定の推進策は見られるものの、世界的な動きには遠く及ばないものです。再生可能エネルギー分野は、今後飛躍的に拡大することが予想され、環境への負荷や資源小国日本の実態から、雇用創出の意味からも期待されます。政府の総合的な推進策の導入が待たれます。
  • 不安な自由貿易圏構想への対応
    2010年11月、横浜において「アジア太平洋経済協力会議(APEC)」が開催されました。参加各国は、世界貿易機関(WTO)多角的貿易交渉(ドーハラウンド)の妥結に向けた交渉や保護主義反対などで合意しています。貿易自由化に向けてさらに加速することは必至の情勢です。
    米国は、「環太平洋経済連携協定(TPP)」交渉の早期妥結をめざし、日本の参加を強く迫っています。しかし一方で中国は、東南アジア諸国連合(ASEAN)に日中韓を加えた「ASEAN+3」の自由貿易圏構想を提案しています。米中の綱引きの中で、菅内閣はTPP参加に向けて動き出しました。前原前外務大臣も、米国で講演しTPPが自由貿易圏構想への最良の道と述べています。TPP参加に関しては輸出産業側からは歓迎のエールが送られていますが、第一次産業への影響はもちろんのこと多くの分野で問題点が指摘されています。菅内閣は6月を目途にTPPへの参加を検討するとしていましたが、先の見通しは不明確となっています。
  • 自給率低下の中、混迷する農業政策
    日本の食糧自給率は、40%程度を推移しています。肉類全体の自給率は57%ですが、飼料の自給率を考慮すると8%とという極めて低い数字となります。TPPは関税の撤廃による自由貿易構想であり、現状では農業への輸入作物による影響は大きいと言えます。民主党は、農家への戸別所得保障政策をスタートさせました。輸出産業か、農業かの対立を語るのではなく、食糧自給低下という国民の安全保障の課題をどのように克服していくのか、日本の農業の存亡がかかっています。
  • 「水基本法」「食品表示法」の制定へ
    すべての生物や環境にとって欠かすことの出来ない「水」は、その質・量の確保が全世界的課題になっています。そのためには、山から河川、生活用水までの健全な水循環を構築するとともに、水の公共性を守るために、関連する法体系を統合した「水基本法」が必要です。連合を中心とした基本法の制定に向けたとりくみが行われ、超党派での議論も進んでいます。
    食の安全を守るためには、消費者の権利を明確にして、バラバラになっている食品表示の一元化や内容を適正なものにすることが必要です。消費者団体は「食品表示法」の制定を求めてとりくみを行い、消費者庁の消費者委員会でも検討が進められています。今後、「食品安全庁」の設置も含めて、大きな課題になることが予想されます。

2) とりくみの基本スタンス

  1. 民主・社民リベラル勢力の結集と協力・連携
    平和フォーラムは、結成以来の基本理念である「憲法理念の実現」と「人間の安全保障の確立」に対して、民主党を中心にした戦後初めてとも言える政権交代の中で、その可能性が広がったとの立場から、自民党や公明党、官僚組織などの抵抗と巻き返しが予想される中にあって、①連立政権を支持すること、②政策実現型への運動の組み立てを重視し、③新政権へ政策の転換や充実を求めるとし、全力で政策実現に向けとりくんできました。
    しかしながら、普天間問題の混乱で社民党が連立を離脱、加えて政治資金問題などで鳩山首相辞任と、混迷を重ねました。替わった菅政権は、消費税問題に言及し7月の参議院選挙での民主党大敗の一因となりました。民主党の大敗は、衆参両院の勢力のねじれ現象を生み、政権はさらに混迷を重ねました。この間、外国人地方参政権や取り調べ可視化など人権課題の議論も置き去りにされ、高齢者医療制度や年金制度改革、労働者派遣法の改正など多くの課題が残されることとなっています。
    菅政権は、鳩山政権の東アジア重視の姿勢から離れ、普天間問題では日米合意基本の姿勢を崩さず、中国や北朝鮮の脅威を基本にした新防衛大綱の策定、日米韓の軍事協力を基本に安全保障体制の再構築をすすめています。アジアの経済統合へのアプローチも、米国主導のTPPを基本にすすめています。
    平和フォーラムは、民主党政権の政策の方向を、2009年8月の衆議院選挙におけるマニフェスト、三党連立合意の実現へと引き戻すことが重要と考えます。そのためには、現状を変革しようとする民主・社民リベラルの勢力の結集、協力と連携の中で粘り強いとりくみをすすめる必要があります。
  2. 連帯と運動のひろがりを求めて
    鳩山首相の「国外、最低でも県外」という普天間移設問題での発言と「東アジア共同体」の発想、そしてマニフェストに並べられた人権政策など、東アジア蔑視と日米関係重視の戦後一貫して行われてきた外交政策や世界基準から大きく遅れてきた人権状況の変革に、国民的レベルでの期待が広がりました。この間の平和フォーラムのとりくみにおいても、「原子力空母の横須賀母港化を許さない全国集会」(2008年7月)や「NO NUKES FESTA 2009」(2009年10月)、「チェンジ日米関係! 普天間基地はいらない・辺野古新基地建設を許さない全国集会」(2010年1月)など、運動の高揚感を感じる多くの参加者を得て、全国的な広がりを見せるものとなりました。平和フォーラムは、広範な市民の結集軸として運動を進めるとともに、民主・社民リベラルの勢力と連携・協力の中で、政権内へのとりくみを強化してきました。
    普天間問題や多くの問題が、期待を裏切る状況にあることは明確ですが、この間の議論において普天間移設はどの自治体も容認しないことが明らかになる中で、沖縄を中心に基地縮小・撤去と基地交付金に依存してきた地方経済のあり方にも否定的な状況が生まれてきました。基地辺野古を抱える名護市の市長選(2010年1月)および市議会選挙(2010年9月)での基地建設反対派の勝利はその状況を表出しています。沖縄県知事選(2010年11月)においても、これまで基地容認派であった仲井真弘多知事でさえ「基地の県外移転」を主張し辺野古への新基地建設に反対せざるを得ない情勢となっています。
    このことは、これまでの反基地運動、とりわけ沖縄県民の大きな意志と、挫折はしたが「沖縄県民の思いに依拠する」とした鳩山首相の主張が大きく影響してきたことは確かです。私たちはこのような運動の広がりを求めてとりくむことが重要と考えます。
    沖縄等米軍基地問題議員懇談会(会長:川内博史衆議院議員)は、平和フォーラムとの連携の下、頻繁に院内における会合や学習会を設定し普天間問題の本質を追究するとともに、衆参両院の182人の賛同を得て「普天間飛行場について、将来の国外・県外移設を実現する連立与党・政府の基本方針を策定することを求めます。」という申し入れを政府に行い、日米合意の閣議決定文書に「日米同盟を更に深化させるため、基地負担の沖縄県外又は国外への分散及び在日米軍基地の整理・縮小に引き続き取り組むものとする。」という文言を挿入させ、今後も沖縄米軍基地の負担軽減の努力をすることを認めさせています。このような国会内の動きと連携した運動ととりくみも重要です。
    原水禁・連合・核禁会議の3団体は、ニューヨークで開催されたNPT再検討会議(2010年5月)の席上へ、約70名の派遣団を送り、1年をかけ集約した672万余の核兵器廃絶を求める署名の提出・申し入れ行動にとりくみました。連合を通じたITUC(国際労働組合総連合)との国際会議や原水禁と常に行動をともにしている米国最大の平和団体ピースアクションとの交流など、核廃絶へのとりくみの広がりを求めました。
    「東北アジア非核地帯構想」を掲げる民主党政権は、核廃絶への国際会議を開催するなどこれまでにない積極的な姿勢を示しています。米ロの新START(戦略兵器削減条約)が発効するなど、核廃絶への動きは堅実に進んでいます。今後も、3団体の枠組みを基本に核廃絶と平和実現への多くの課題について議論の場を設け、運動の深化を求めていくことが重要です。
  3. 2011年の重点的なとりくみ
  1. アジアでの共通の安全保障へアジアの連帯をつくるとりくみ
    仲井真沖縄県知事の言説に象徴されるように、沖縄県民は明確に辺野古新基地建設を基本にした普天間問題での「日米合意」を否定しました。「日米合意を基本に」とする菅政権との溝は埋まりようがなく、事態の進展は望めない情勢です。
    そのような中で、国民の「安保離れ」を食い止め「安保回帰」を実現しようとする勢力は、中国や北朝鮮との脅威をことさら強調し、新防衛大綱の策定も含めて日米そして韓国も含めた軍事協力による安全保障体制を構築しようとしています。
    平和フォーラムは、この間日本の安全保障をどのように考えるかの議論を進めてきました。これまでの日米を基軸にした安全保障にかわって、EU型の「共通の安全保障」のあり方を追求していくことの重要性とそのためには東アジア諸国との和解、特に私たち自身の差別意識の克服と戦後補償問題の解決が必要であると主張し、とりくんできました。
    民主党政権は、当初の「米国との対等な関係」「東アジア重視」の政策から、旧来の「米国中心」の外交・安保政策に転換したかに見えます。平和フォーラムは、普天間問題をうやむやにせず、東アジア重視の中で「人間の安全保障」をどう担保していくのかの議論をすすめて行かなくてはなりません。その意味で、食糧問題を、ASEAN統合をどのように考えるか、TPPをどう見るのか、日本と東アジアの現状、台頭する中国とかげりの見える米国と日本の関係性は等々、総合的な議論を進める必要があります。
    平和フォーラムは、普天間基地即時返還・辺野古新基地建設を許さず、戦後補償の実現や日朝国交回復を基軸にアジア諸国との新たな友好関係を求めるとりくみを重点的にすすめます。
    この間、東アジアとの関係で言えば首相による靖国神社への参拝問題、歴史教科書問題がありました。今年は、新指導要領に基づく教科書検定・採択の年になっています。95年の村山首相談話、10年の菅首相談話に繰り返される日本政府の公式見解を基本にした教科書検定・採択が求められます。戦争を美化し、東京裁判を否定する歴史観に基づく教科書を許してはなりません。東アジアとの友好の構築にとっても重要なとりくみと言えます。
    憲法9条の中での自衛隊の存在の国民への説明として、また軍事費の膨張を押さえる働きとして、専守防衛・基盤的防衛力構想が3度にわたる「防衛大綱」に位置づけられてきました。しかし菅内閣で閣議決定された「新防衛大綱」では、十分な議論もなしに否定され、先制攻撃・敵地攻撃も視野に入れた「動的防衛力」として自衛隊が位置づけられています。自衛隊の現状をどのように捉え、その能力をどのように抑止し東アジアの脅威としないかのとりくみも重要です。
    新安防懇の報告(2010年8月)から、武器輸出三原則の見直しが議論の俎上に上りました。背景には、ミサイル防衛の共同開発を行う米国と財界からの強い要請があります。憲法の成立以来、保守政権は好むと好まざるとに関わらず、「戦争」とそのことに対する荷担については極めて抑制的に対応してきました。憲法の平和主義を守ろうとする平和団体の運動の結果として、戦後保守政権は「専守防衛」という理念を守り続けてきました。その事は、侵略国家から平和国家への道筋であり、世界の信頼を勝ち得てきた原動力でもあったのです。目先の経済的利益から憲法理念をないがしろにすることは許されません。非核三原則、武器輸出三原則、加えてPKO五原則の見直しの声をはねつけるとりくみが求められます。
  2. プルトニウム利用政策を転換し、再生可能なエネルギー中心の社会を求めるとりくみ
    日印原子力協定の交渉は、核実験等の対応や使用済み燃料の再処理などをめぐって長期化しつつありますが、基本的にNPT未加盟国との原子力協定は、核不拡散の視点から重大な危機をもたらしNPT体制そのものの崩壊につながるものです。イラン、北朝鮮への核拡散、米国が主張する核テロのへの懸念も広がる中で、核分裂性物質の国際管理は一層厳しさを増すものと思われます。菅内閣は新成長戦略の中核に原発輸出を位置づけましたが、膨大なコストや安全管理上のリスク、また、核拡散の問題などからも輸出産業との位置づけはやめるべきだと考えます。NPT加盟の非核保有国で唯一日本は、使用済み核燃料の再処理に着手し、「六ヶ所再処理工場」と「高速増殖炉もんじゅ」の開発をもって「核燃料サイクル計画」を、エネルギー政策の基本としています。平和フォーラムは、「エネルギー政策の提言」を発刊し、再生可能エネルギー中心の政策への転換を求めてきました。福島第一原発での事故、再稼働後の事故により全く予定の立たない「もんじゅ」、ガラス固化体製造過程のトラブルから18回目の完工予定の変更を余儀なくされている「六ヶ所再処理工場」、核燃料サイクル計画は頓挫しています。その意味からも、地球環境や安全保障の観点からも、エネルギー政策の転換は喫緊の課題です。平和フォーラムは、原子力を主とするエネルギー政策に反対し、政策提言の全国的な浸透を図りつつ、その実現に向けて全力でとりくみます。
    この間、脱原発、再生可能な社会を目指して意見交換と交流を行ってきた「EU緑の党」との連帯も深化させていきます。
  3. 人権の世界基準と共生社会を求めるとりくみ
    高校無償化の朝鮮学校排除は、菅内閣の姿勢を鮮明にしています。高校無償化は、生徒個人の教育権の問題であるにもかかわらず、大学入学資格を持つ外国人高校(朝鮮学校を除く)41校中28校が除外されており、問題です。外国人地方参政権の問題も、政権公約であるにも関わらず党内からの反対もあり頓挫したままとなっています。
    足利事件の再審無罪が決定しましたが、狭山事件や布川事件、袴田事件などえん罪は後を絶たず、再審請求には膨大な時間がかかっています。日本の代用監獄制度は、えん罪を生む温床であり国連人権委員会も改善勧告を出しています。民主党は取り調べの可視化を政策に掲げましたが、実現していません。大阪地検の証拠改ざんや、大阪府警の取り調べの暴言問題など、可視化は急務となっています。単に取り調べの可視化に限定することなく、検察側証拠資料などの全面的開示など、犯罪捜査・取り調べの民主化などが求められます。
    世界経済フォーラムの発表した2010年の世界男女格差指数(GGGI)では、日本は134カ国中94位、国連の女性活躍度指数(GEM)109カ国中57位と低迷しています。国連の女性差別撤廃委員会は、2011年までに民法上の差別、賃金上の差別、国政の場などの意志決定機関への低い女性参画率などに対する政府のとりくみの中間報告を義務づけています。夫婦別姓やクオータ制度の導入、女性差別撤廃条約の選択議定書の批准など解決すべき課題は多くあります。
    民主党政権は、人権問題の多くが進展するとの期待をもって迎えられましたが、現在多くの課題で停滞した状況となっています。国際人権(自由権)規約委員会、国連人種差別撤廃委員会、女性差別撤廃委員会、子どもの人権条約委員会などから、日本は多くの懸念と勧告を突きつけられています。国際的な人権標準を構築し、世界に開かれた日本社会へ向けて、平和フォーラムとして全力でとりくみます。

2. 平和・人権・民主主義の憲法理念の実現をめざすとりくみ

  1. 憲法改悪阻止に向けたとりくみ
    平和フォーラムは、憲法の前文・第9条の平和主義、第3章「基本的人権」や第10章「最高法規」で定めた憲法の重要部分の改悪に反対するとともに、憲法理念の実現をめざすことに基本的なスタンスをおき、東北アジアの平和に向けたとりくみや、人々の「命」や生活を重視する「人間の安全保障」の具体化をめざしてきました。
    2009年9月に誕生した新政権は、政権発足に先立つ「連立政権樹立にあたっての政策合意」で、「憲法」について、「唯一の被爆国として、日本国憲法の『平和主義』をはじめ『国民主権』『基本的人権の尊重』の三原則の遵守を確認するとともに、憲法の保障する諸権利の実現を第一とし、国民の生活再建に全力を挙げる」と明記しました。
    このもとで、憲法理念の実現を促進する、とりわけ自公政権のもとですすめられてきた改憲手続法の見直しをはかること、日米安保改定50年であることも踏まえて、米軍再編などとかかわりの深い「集団的自衛権」の行使に向けたなし崩し的な解釈改憲を許さないこと、沖縄普天間基地の返還などに当面する焦点をあてて、「武力で平和はつくれない! 9条キャンペーン」を各地ですすめてきました。また、鳩山首相が打ち出した「東アジア共同体」構想の具体化に向け、韓国併合100年の節目を活かして、歴史認識や戦後補償に関わる新たな「首相談話」(政府見解)を求めてとりくみとともに「東アジアとの新しい連帯を築く」署名運動を全国で展開しました。
    5月3日を中心とした5月の憲法月間には、東京の「新政権・アジア・安保50年・沖縄をめぐって憲法を語る」をテーマにした「施行63周年憲法記念日集会」や、沖縄の「5.15平和行進」をはじめ、全国各地で沖縄問題、韓国併合100年、安保50年をテーマとした集会・行動をとりくんだほか、「9の日」などの定例や節目の日のとりくみをおこないました。
    しかし、鳩山首相は普天間基地返還問題での県内移設方針を打ち出し社民党が政権離脱するなかで退陣しました。つづいて誕生した菅政権は新政権が課題としていなかった消費税問題などに言及するなかで、2010年参議院選挙での民主党など与党が敗北し、国会は衆議院・参議院で「ねじれ」状態となりました。野党には保守・革新の対極で相反する傾向があるので、自公政権末期の「ねじれ」とは異なるものの、民主党代表選やその後の一連の動向に示されているように、政権の基盤はきわめて不安定な状態で、与党内、国会運営に多くの難題を抱える状況となりました。現在の小沢問題や、菅第2次改造内閣での与謝野経済財政担当大臣起用などは、いっそう混迷を強めています。平和フォーラムは、民主党政権の政策の方向を、2009年8月の衆議院選挙におけるマニフェスト、3党連立合意の実現へと引き戻すことが重要と考え、とりくみを続けてきました。
  2. 「集団的自衛権」「改憲手続法」をめぐって
    「集団的自衛権」の行使については、鳩山首相は「現政権で考え方を変えるつもりはない」と明言していましたが、菅内閣のもとでは、昨年9月の尖閣諸島における中国漁船拿捕事件や11月の北朝鮮によるヨンピョンド砲撃事件など緊迫する東アジア情勢を利用して、日米軍事同盟関係の強化ばかりか、「動的防衛力」との名目で専守防衛から逸脱の方向を強め、日韓軍事協力にまで動きをすすめています。これは実質改憲をいっそうすすめるものにほかなりません。
    民主党を中心とした新政権は、もともとは、米国との対等な関係の構築に加えて、東アジア重視の政策を提起してきました。なかでも経済の急成長を遂げている中国との友好な関係構築は喫緊の課題です。侵略戦争や植民地支配への反省に立った国家的歴史観の構築や戦後補償、靖国問題の解決、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)との国交正常化などが、東アジアとの関係構築にはなくてはならない課題です。米国一辺倒の安全保障から、東アジア、ひいては環太平洋全体での安全保障体制を構築していくことに、平和憲法を持つ日本がリーダーシップを発揮する必要があります。平和フォーラムは当面する課題として、東アジアでの共通の安全保障の確立を基本として、在日米軍基地の縮小・撤去、日米地位協定の改定を基軸にとりくんできました。前述の「東アジアとの新しい連帯を築く」署名とともに、秋にはシンポジウム「日米安保と東アジアの平和を問う」(2010年10月16日)、第47回護憲大会(11月6日~8日)、「東アジアの平和を築く集会」(12月14日)などをとりくみました。
    「日本国憲法の改正手続に関する法律」(改憲手続法)については、2010年5月18日に施行されたことにより、法的には国会で改憲原案の議論や改憲案の作成ができることになりました。また、2009年6月、麻生政権下で衆議院憲法審査会規程が強行採決されましたが、当時、民主党など野党多数の参院では制定しませんでした。これまでのところ、与党内の混乱や、与野党の対立のなかで実現してきませんでしたが、しかし、2010年7月の参議院選挙結果もあり、参院でも規程の制定を臨時国会中にめざすことを民主党・自民党の国対委員長が10月19日に合意するなど、憲法審査会の始動に向けた動きは、通常国会で加速すると見られます。附帯決議18項目の問題点など、法の見直しを求めるとりくみがひきつづき重要な課題です。
    「改憲手続法」は、衆議院で強行採決され、参議院で18項目もの附帯決議がついた欠陥法です。憲法をどうするかに関わる法律は、どの法にもまして憲法の理念に立脚し、基本的人権の尊重や主権在民の原則に沿う必要があるにもかかわらず、「改憲手続法」は、それに反して国民投票の成立要件を「有効投票総数の過半数」とする低い基準としたり、公務員や教育者の運動を制限するなど、まさに「憲法改悪のため」のものです。
  3. 「平和基本法」をめぐって
    大きな転換点にあるなか、平和・軍縮への道筋を切り拓くため、「平和基本法」の確立に向けたとりくみが重要です。憲法第9条を具現化するには、日米軍事同盟・自衛隊の縮小・改革とそのための基本法が不可欠です。平和フォーラムは、①国家の交戦権否定、②集団的自衛権禁止、③非核三原則、④武器輸出三原則、⑤海外派兵禁止、⑥攻撃的兵器の不保持を条文に明記し、⑦文民統制原則、⑧国連中心主義をかかげること。さらに、自衛隊を改編し、①国土警備隊、②平和待機隊、③災害救助隊に分割すること。当面存置される「国土警備隊」は、組織・任務・装備の面で、「陸海空その他の戦力」に当たらないものに限定すること。大幅に削減される予算・人員・施設を、「災害救助」と「国際協力」分野にふりむけ、憲法前文と9条にふさわしい日本の姿を世界に示すこと―などを内容とする「平和基本法」により、まず東アジアに「EU型共通の安全保障」を実現、最終的に国境を越える地球ぐるみの「人間の安全保障」へと発展させていく大きな流れを政治のなかに活かしていくことを提起しています。新安防懇報告や新防衛大綱策定にあたって、「専守防衛」や「武器輸出三原則」「非核三原則」の見直し論など平和・軍縮に逆行する動きが強まるなか、今後の国のかたちを提起するものとして、補強していく必要があります。
  4. 「憲法理念の実現をめざす大会(護憲大会)」について
    憲法理念の実現をめざす第47回大会(宮崎県宮崎市)は、「韓国併合100年・安保50年、東アジアに新たな平和と友好を」と題して開催しました。1年前の長野で開催した第46回護憲大会は、直前の総選挙によって政権交代が実現し、誕生した連立政権が憲法理念の実現をすすめていく期待を高めました。そして、迎えた2010年は、韓国強制併合から100年、60年日米安保から50年という節目の年でした。第47回護憲大会は、誕生した新政権のもとで、①日本の政治や外交が残してきた冷戦構造を過去のものとし、②日本がアジアから離れることのできない国であることを踏まえ、③市民の生命と生活を守る「国のかたち」を構想していこうとする私たちのとりくみ、を集約・討論していく場として設定しました。しかし、現実には、政権交代から1年を経て、普天間基地返還など沖縄問題をはじめ、政権交代で誕生した民主党を中心とした政権が期待に反するさまざまな動きを重ねるなかでの大会となりました。
    大会の討議の中心は、沖縄県知事選直前であり、この勝利に向けたものでした。3日間を通じて、日米関係、東アジアの平和構築のもっとも象徴的な課題として協議されました。日米関係では、これまでの密約問題、東アジアとの関係では韓国併合100年の「菅首相談話」の評価と戦後補償や歴史認識についての課題が強調されました。また、人権に関しては、自衛隊におけるいじめや自殺の問題が分科会、ひろば、関連企画など、複数の場で討議されたことも特徴でした。
    「平和がいっちゃが」「武力で平和はつくれない!」――戦争で、貧困と飢餓で、いじめで、人生の途中で生命を奪われる人の無念から、日本国憲法は平和・人権・民主主義の基本原則を作り上げてきたことを、大会を通じてあらためて確認し、「人間の安全保障」の確立こそ問われているとまとめられました。
    大会には、全国47都道府県、九州と宮崎県内を中心にあわせて2500人が参加した熱気あふれる大会となりました。とりわけ地元宮崎は、口蹄疫問題をはじめさまざまな困難をかかえていたにもかかわらず、県実行委員会を組織し初めての大会であるにもかかわらず、周到な準備のもとで大会成功に向けてとりくんでいただきました。大会の運営に向けて多数の要員を配置し、期間中にも連日、速報ニュースを発行するなど献身的なとりくみで、参加者の心に残る成果ある大会となりました。
  5. 「東日本大震災」と憲法、「人間の安全保障」
    3月11日の「東日本大震災」は、日本の観測史上最大規模の巨大地震であり、東北地方を中心に日本各地に大きな被害をもたらしました。事態は、東京電力福島原発での炉内溶融事故被害の拡大をくいとめることをはじめ、被害各地の安否不明者の捜索活動やライフラインの復旧などに、全力を尽くすべき状態が続いています。憲法理念のもと生命の尊厳を最重視し「人間の安全保障」の確立をめざすとともに、脱原発のとりくみを進めてきた平和フォーラム・原水禁は、情報の収集と問題の把握に努めるとともに、今後に向けて強力なとりくみを進めなければなりません。
    今回の未曾有の事態に対しても生命の大事さが、被災者をはじめ多くの住民の基本におかれていることも、平和・人権・民主主義の憲法理念がおおむね定着していることのあらわれともいえます。しかし、他方で、「想定外」とされる事態がつづくなか、「非常事態」「危機管理」「超法規」などの名目で憲法理念を逸脱あるいは変更する動きが強められることには十分注意しなければなりません。2009年の「連立政権樹立にあたっての政策合意」で打ち出された方向があらためて求められています。憲法理念のもと「生命の尊厳」「人間の安全保障」「国際協力」と「平和基本法」の重要性などをテーマとしたとりくみが求められています。

《2011年度運動方針》

  1. 戦争被害の悲惨な実相などを明らかにしながら「軍事力による平和」という逆行した流れを許さず、人々の「命」(平和・人権・環境)を重視する「人間の安全保障」の政策実現を広げていく「武力で平和はつくれない! 9条キャンペーン」としてすすめます。毎月の定例行動(9の日行動)や全国共同行動などのとりくみをすすめます。
  2. 新しい時代の安全保障のあり方や、米国や東アジア諸国との新たな友好関係についての国民的議論を巻きおこすとりくみを引き続きすすめます。
  3. 憲法前文・9条改悪の動きに対抗する憲法理念を実現し、立憲主義を確立するため、米軍再編、自衛隊増強などを許さないとりくみと連携して、「集団的自衛権の行使」に向けた憲法解釈変更を許さないとりくみをすすめます。また、日米軍事同盟・自衛隊縮小、「平和基本法」の確立、日米安保条約については、平和友好条約に変えるとりくみをすすめます。
  4. 「改憲手続法」について、民主党、社民党との連携をいっそう強化し、参院特別委での18項目特別決議などを生かし、法の見直しを求めてとりくみます。
  5. 5月3日の「施行64周年憲法記念日集会」(東京・日本教育会館大ホール)をはじめ、憲法記念日を中心に5月を憲法月間として、「生命の尊厳」「人間の安全保障」「国際協力」と「平和基本法」の重要性などをテーマとした多様なとりくみを全国各地ですすめます。自治体などに対して、憲法月間にその理念を活かした行事などの実施を求めます。
  6. 憲法問題の論点・問題点整理をおこなうため、適宜、課題に応じて「憲法学習会」をおこないます。中央・東京での開催とともに、ブロックでの開催を奨励し協力します。
  7. 本年度の「憲法理念の実現をめざす第48回大会」(護憲大会)は、憲法をめぐる動きが重要な局面にあることを踏まえて、下記日程で山形県山形市において2500人規模で開催します。
    11月4日(金)午後 開会総会(山形市ビッグウィング)
    11月5日(土)午前 分科会(山形市内)
    11月6日(日)午前 閉会総会(山形市民会館)

3. 東アジアをはじめ世界の平和と安全保障に関するとりくみ

1) 平和実現へのとりくみ

  1. 安全保障政策に関する動き
    菅直人内閣は2010年12月17日に、「平成23年度以降に係る防衛計画の大綱」(新しい防衛計画の大綱)を閣議決定しました。新しい防衛計画の大綱は、自公政権の下で2009年度中の作成が予定されていました。しかし2009年8月の政権交代で発足した鳩山由紀夫内閣は、自民党政権時代の作業をそのまま引き継ぐことはせず、新政権としての大綱を作るために作業を1年繰り延べました。平和フォーラムは、連立政権下で作成される新しい防衛計画の大綱が、アメリカ重視の一元的なものから、東アジア諸国との友好と平和を志向する多元的なものへと転換されることを期待しました。そこで平和フォーラムは「日米安保と東アジアの平和を考えるシンポジウム」(2010年10月16日・社会文化会館、350人)を開催し、平和フォーラムの考え方を提起しました。
    しかし報道等を通して伝えられる新しい防衛計画の大綱の中身は、非核三原則や武器輸出三原則の見直しなどを含むものでした。そのため平和フォーラムは市民団体と協力して「日本製の武器が世界の子どもたちを殺すの? 新防衛大綱ってなに? 11.24市民と国会議員の院内集会」(2010年11月24日・衆議院第1議員会館)や、「同12.7集会」(2010年12月7日・衆議院第1議員会館)を開催しました。12月14日には軍事評論家の前田哲男さんを講師に招いて「東アジアの平和を築く集会」(2010年12月14日・総評会館)を開催しました。また12月9日には安住淳防衛副大臣に、17日には古川元久内閣官房副長官に申し入れを行いました
    閣議決定された新しい防衛計画の大綱は、北朝鮮や中国との限定的な戦争への対処、米国の行う対テロ戦争への支援、韓国やオーストラリアなどとの同盟関係の推進などを打ち出すものでした。また、沖縄県の先島諸島への自衛隊配備も付言しています。こうした内容は、小泉純一郎内閣下で作成された「平成17年度以降に係る防衛計画の大綱」を、さらに対米追従の方向に純化したものです。平和フォーラムは12月18日に、「声明・新防衛計画大綱の閣議決定について」を発表しました。
    平和フォーラムは、新しい防衛計画の大綱を具体化するための政策・立法・予算措置に対して反対のとりくみを進めるとともに、菅内閣に対して防衛政策の転換を要請します。
    1月10日に韓国ソウル市で、北澤俊美防衛大臣とキム・グァンジン韓国防衛長官が会談し、「物品役務相互提供協定」(ACSA)と、「軍事情報包括保護協定」(GSOMI)の締結に向けた協議を開始することで合意しました。鳩山内閣はオーストラリアと「ACSA」(2010年5月19日)を締結しました。また菅内閣はカナダと「政治・平和及び安全保障に関する日加共同宣言」(2010年11月14日)を結びました。自民党政権時代の「安全保障協力に関する日豪共同宣言」(2007年3月)、「日本とインドの間の安全保障協力に関する共同宣言」(2008年10月)と合わせて、日本政府は急速にアジア太平洋地域での軍事協力を進めています。
    平和フォーラムはアジア太平洋地域での軍事同盟の推進の動きに反対します。また軍事力によらない平和を実現するための東アジア共同体を構想し、菅内閣に外交政策の転換を要請します。
  2. 米軍再編と沖縄の動き
    鳩山内閣は普天間基地の移設先見直しについて、5月中の決着を表明していました。しかし残念ながら5月28日に、辺野古への移設を再決定してしまいました。
    平和フォーラムは鳩山内閣を支持する立場から、普天間基地の即時閉鎖と国外移設を求めて積極的に活動しました。
    沖縄現地では、4月25日に読谷村で超党派の県民大会が開催され、約9万人が参加しました。また沖縄平和運動センターを中心に「沖縄5.15平和行進」(2010年5月13日~15日、延べ参加者約5000人)や「普天間基地包囲行動」(2010年5月16日、約1万7000人)が行われました。平和フォーラム加盟組織は全国から参加し、沖縄県民とともに普天間基地の閉鎖と返還を求めました。
    東京では沖縄現地からの代表団や東京圏の市民団体と協力して、様々なとりくみを行いました。沖縄で県民大会が開かれた翌日には、県民大会実行委員会代表団の政府要請に協力するとともに、「沖縄県民大会政府要請団と連帯する東京集会」(2010年4月26日・全電通会館ホール、600人)を開催しました。鳩山内閣が辺野古移設を再決定した5月28日には、「許すな!普天間問題の日米合意 とめるぞ!辺野古新基地建設 5.28緊急集会」(2010年5月28日・全電通会館ホール、600人)を開催しました。8月2日には普天間爆音訴訟団の上京要請行動に協力するとともに、「普天間爆音訴訟支援報告集会」(全水道会館)に参加しました。
    超党派の国会議員で作る沖縄等米軍基地問題議員懇談会の活動に協力し、政府と国会に対する様々な働きかけを行いました。
    5月にはパンフレット「普天間基地問題についての考え方」を発行し、約8000部を販売しました。このパンフレットは、都道府県運動組織や中央団体での学習活動などに使用されました。また情勢を解説する各種リーフレットを作成して、清刷りを配布しました。
    5月28日の再決定以降は、「普天間基地の辺野古移設阻止闘争にむけた特別支援カンパ」(2010年6月28日提起)や、「沖縄反基地闘争への特別支援」(2010年11月11日~11月28日に現地行動)を呼びかけました。
    鳩山内閣が普天間基地の県外移転を模索する過程で、鹿児島県の徳之島が基地機能の一部移転先と報道されました。これに対して徳之島では、4月18日に1万5000人が参加して反対集会が行われました。さらに、5月22日には徳之島内の天城・伊仙・徳之島の3町で、それぞれ反対集会が開かれ合わせて約2100人が参加しました。また同日、鹿児島市内でも平和運動センターなどで作る「鹿児島に米軍はいらない県民の会」の主催で、「米軍普天間基地の国外移設を求める九州ブロック集会」が開催され、約150人が参加しました。
    平和フォーラム加盟組織は、北陸ブロックや四国ブロックでの連鎖集会をはじめとして、全国各地で沖縄の闘いに連帯する街頭宣伝・学習会・集会やデモなどにとりくみ、普天間基地の県内移設に反対する世論の醸成に努めました。
    11月の沖縄県知事選挙では、前宜野湾市長の伊波洋一さんが惜敗し、現職の仲井真弘多さんが再選されました。しかし仲井真弘多さんも基地の県外移設を訴えているために、政府は普天間基地の辺野古への移設に着手することはできません。
    平和フォーラムは今後も、沖縄県民との連携を強め、基地の県内移設に反対します。またこうした立場から、菅内閣へ政策変更を求める要請を行います。
  3. 米軍の訓練移転・民間港湾使用・日米共同訓練
    沖縄海兵隊砲兵部隊の実弾射撃訓練の移転訓練は、2010年度は4回実施されました。実施状況は下記の通りです。訓練に対しては、各地の加盟組織による反対運動が行われました。
    沖縄海兵隊砲兵部隊の本土5か所の自衛隊演習場への移転訓練は、1996年のSACO移転最終報告で合意されたものです。移転訓練を行っている第3海兵師団・第12砲兵連隊は、連隊司令部は沖縄に駐留していますが傘下の砲兵中隊は米本土からのローテーション配備です。在日米軍再編の一環として2006年に日米が合意した「再編実施のための日米のロードマップ」で、第12砲兵連隊の司令部はグアムに移転することになりました。今後は、司令部はグアムにあり、部隊は米本土に配備されているにも関わらず、訓練のためだけに沖縄に派遣され、日本本土各地で実弾射撃訓練を行うことになるのです。
    砲兵部隊の移転訓練は、司令部のグアム移転以降は、移転訓練は廃止されるべきです。沖縄県道104号線越え実弾射撃訓練の移転訓練 2010年度の実施状況

    回数 実施日時 演習場 参加部隊の規模
    第1回  5月26日~ 6月 9日 矢臼別演習場(北海道) 人員430名 車両100両 砲12門
    第2回  9月10日~ 9月23日 東富士演習場(静岡県) 人員390名 車両 90両 砲12門
    第3回 11月22日~12月 3日 王城寺原演習場(宮城県) 人員250名 車両 40両 砲 6門
    第4回  2月 7日~ 2月13日 日出生台演習場(大分県) 人員160名 車両 40両 砲 4門

    米軍再編合意に伴う戦闘機の訓練移転は、2010年度は4回実施されました。実施状況は下記の通りです。防衛省は当初、15回程度の実施を目標にしていましたが、実際に行われたのは4回でした。しかし訓練の内容は、参加機数が多く日数の長いタイプⅡが中心になりました。訓練に対しては、各地の加盟組織による反対運動が行われました。
    日米両国政府は、嘉手納基地の騒音軽減策として、嘉手納基地戦闘機部隊の訓練の一部をグアムにすること、また航空自衛隊基地への訓練移転をさらに進めることで合意しました。そのため本年度以降、戦闘機の訓練移転は一層進むと考えられます。

    米軍再編に係る戦闘機の訓練移転 2010年度の実施状況

    回数 実施日時 実施先 移転部隊 訓練の規模
    第1回  6月 5日~ 6月18日 小松基地(石川県) 岩国基地(山口県) タイプⅡ FA-18・10機
    第2回 10月15日~10月23日 三沢基地(青森県) 岩国基地(山口県) タイプⅡ FA-18・10機
    第3回 11月 8日~11月19日 千歳基地(北海道) 嘉手納基地(沖縄県) タイプⅡ F-15・12機
    第4回 12月 1日~12月11日実施日時 小松基地(石川県) 三沢基地(青森県) タイプⅡ F-16・12機

    2010年中に民間港湾に入港した米軍艦船は、18隻です。詳細は以下の通りです。2006年の28隻、2007年の28隻、2008年の24隻、2009年の22隻に比べると、入港隻数は減少しています。一方で、2007年は与那国島2隻、2009年は石垣島2隻、2010年は宮古島港1隻と、沖縄の離島への入港が定例化しつつあります。自衛隊の沖縄先島配備と合わせて、今後も警戒の必要があります。

    米軍艦船の民間港湾への入港状況

    入港日時 港湾 艦船
     2月 1日~ 2月 5日 高知県・宿毛港 巡洋艦「レイクエリー」
     2月 5日~ 2月 9日 北海道・小樽港 揚陸指揮艦「ブルーリッジ」
     2月28日~ 3月 3日 徳島県・小松島港 ミサイル駆逐艦「ピンクニー艦船」
     3月16日~ 3月21日 福岡県・博多港 揚陸艦「ラッシュモア」
     5月 1日~ 5月 4日 福岡県・博多港 揚陸指揮艦「ブルーリッジ」
     5月14日~ 5月17日 静岡県・下田港 イージス駆逐艦「カーティス・ウィルバー」
     6月12日~ 6月15日 広島県・呉港*1 <イージス駆逐艦「マスティン」/td>
     6月26日~ 6月28日 東京都・東京港 揚陸指揮艦「ブルーリッジ」
     7月 1日~ 7月 5日 京都府・舞鶴港*2 掃海艦「ガーディアン」
     7月 8日~ 7月12日 北海道・函館港 掃海艦「ガーディアン」
     7月 9日~ 7月11日 鹿児島県・谷山港 イージス駆逐艦「ジョン・S・マケイン」
     7月24日~ 7月26日 宮城県・仙台港 イージス駆逐艦「ラッセル」
     8月 2日~ 8月 7日 青森県・青森港 フリゲート艦「ヴァンディグリフト」
     9月21日~ 9月24日 沖縄県・宮古島 掃海艦「ディフェンダー」
    11月 4日~11月 7日 愛知県・名古屋港 イージス駆逐艦「シャウプ」
    11月 4日~11月 7日 山口県・下関港 イージス駆逐艦「マンセン」
    11月29日~12月 2日 京都府・舞鶴港*2 イージス巡洋艦「シャイロー」
    12月 6日 京都府・舞鶴港*2 イージス巡洋艦「シャイロー」

    *1…広島県・呉港は海上自衛隊の基地。 *2…京都府・舞鶴港は海上自衛隊の基地。

    また岩国基地の沖合拡張にともない設置された大型埠頭に、フリゲート艦「レンツ」が入港しました。

     2月28日~ 山口県・岩国基地 フリゲート艦「レンツ」

    陸上自衛隊と米陸軍ならびに米海兵隊との共同訓練・共同演習は、6回実施されました。実施状況は下記の通りです。2010年度は、日米共同統合演習(実動演習)が過去最大の規模で行われました。また、北朝鮮と韓国の間で起きた砲撃戦の直後であったこと、演習内容が中国や北朝鮮による日本の島嶼侵攻を想定したものであったことなどから、新聞やテレビのニュースで大きく取り扱われました。平和フォーラムの加盟組織も、九州・沖縄を中心に抗議行動を行いました。
    さらに1月10日、米海軍の原子力空母「カールビンソン」と随伴艦3隻、ならびに海上自衛隊の護衛艦「くらま」による共同訓練が、長崎県五島列島沖の東シナ海で行われました。この共同訓練は報道公開もされており、中国や北朝鮮に対する軍事的な圧力の一環であると思われます。

    陸上自衛隊と米軍(陸軍・海兵隊)との共同演習 2010年度の実施状況

    演習の種類 実施日時 演習場 日本側部隊 米国側部隊
    陸軍との演習  9月 7日~ 9月24日 米国・ワシントン州 13旅団350人 陸軍
    方面隊指揮所演習  7月19日~ 7月28日 米国・ハワイ州 陸幕・西部方面隊130人 太平洋陸軍・第1軍団・在日米陸軍司令部100人
    陸軍との演習 11月 2日~11月11日 上富良野演習場(北海道) 26普通科連隊450人 ミズーリ州兵280人
    海兵隊との演習 12月 6日~12月15日 霧島演習場(宮崎・鹿児島) 43普通科連隊550人 第31海兵遠征隊230人
    方面隊指揮所演習  1月20日~ 2月 3日 健軍駐屯地(熊本県) 西部方面隊4500人 太平洋陸軍・第1軍団・在日米陸軍司令部1500人
    海兵隊との演習 饗庭野演習場(滋賀県) 第15普通科連隊 第9工兵支援大隊
    海兵隊との演習  2月 8日~ 3月 3日 米国・カリフォルニア州 西部方面普通科連隊 第1海兵遠征軍

    なお、2010年7月に行われた米韓合同演習に、自衛隊員がオブザーバーとして参加しました。また12月に行われた日米共同統合演習には、韓国軍の軍人がオブザーバーとして参加しました。さらに2010年1月から3月にかけて米国で行われた航空自衛隊と米空軍との共同訓練には、オーストラリア空軍の将校がオブザーバーとして参加しました。

  4. 国際連帯
    1. 日沖韓反基地運動の連携
      「第3回・米軍基地環境調査国際シンポジウム」(2010年10月2日・大和市、200人)を開催しました。このシンポジウムは、韓国・沖縄・日本の3地域の米軍基地反対運動が、お互いの活動と経験を交換するために行っているものです。開催にあたっては、平和フォーラム・神奈川平和運動センター・厚木爆同、ならびに神奈川県の市民運動団体で実行委員会をつくりました。2011年度も開催を予定しています。
    2. 「武力で平和はつくれない」グローバルネットワーク
      今年は「9.11事件」と「米国などによるアフガニスタン攻撃」から10年目にあたります。また、この3月20日で「大量破壊兵器」「テロ組織との関係」というウソを根拠に米国ブッシュ政権が始めたイラク戦争からちょうど8年になります。
      私たちは、9.11以降世界の仲間とともに、テロにもイラク戦争に反対したとりくみをおこなってきました。この間アメリカでは「United for Peace & justice」が、イギリスでも「Stop the War coalition」が、そして日本でも平和フォーラムが参加する「WORLD PEACE NOW」という新たな反戦ネットワークが誕生し、活発な運動を展開してきました。
      しかし、残念ながら世界は平和に近付くのではなくむしろ不安定化し、「武力で平和はつくれない」ことがますますはっきりしてきています。
      「WORLD PEACE NOW」は2010年10月、アメリカ最大の反核平和団体である「ピースアクション」の米国内の行動に呼応して、「peace week 2010.10.9-17」を全国20か所以上で展開しました。沖縄の基地問題をアピールするシール投票(沖縄の基地の是非を問う)を行うとともに10月17日には芝公園で「武力で平和はつくれない―もう一つの日米関係へ」と題して、アフガニスタン戦争、普天間問題を訴える集会、パレードに600人が参加しました。
  5. 宣伝活動
    在日米軍や自衛隊、また東アジアの平和に関する平和フォーラムの見解を広げるために、以下の宣伝物を作成し配布しました。

    • パンフレット「普天間基地問題についての考え方」(有料販売)
    • パンフレット「日米安保を問う!」第1号~第3号(無料配布)
    • 情勢解説資料 1~4(Eメールで清刷りを送付)
    • 宣伝活動チラシ 1~5(Eメールで清刷りを送付)

    また、インターネット・ホームページ「STOP!! 米軍・安保・自衛隊」を通して、平和フォーラムのとりくみなどを紹介しました。11月に行った沖縄現地行動に際しては、ホームページで「沖縄ニュース」を開設し、連日の行動を伝えました。

《2011年度運動方針》

  1. 平和フォーラムとしての「東アジア共同体構想」をまとめます。そのために学習会や集会を実施します。平和フォーラムの考え方を菅内閣や民主党に伝え、外交・安全保障政策の転換を求めます。また「東アジア共同体構想」が国会内外で多数派となるように、民主党・社民党・無所属の国会議員との連携を進めます。
  2. 米軍再編合意の見直しと白紙化を実現するとりくみを進めます。基地所在地域の運動組織や市民団体との協力をすすめます。平和フォーラムの見解をまとめ、菅内閣に対して要請します。また見直し・白紙化を実現するために、民主党・社民党・無所属の国会議員との連携を進めます。
  3. 普天間基地の閉鎖・返還と、新基地建設の中止を実現するとりくみを進めます。全国の運動組織や市民団体と協力して世論を高め、菅内閣に対して要請します。また普天間基地の閉鎖・返還と、新基地建設の中止が国会内外で多数派となるように、民主党・社民党・無所属の国会議員との連携を進めます。
  4. 在日米軍の訓練移転や、米軍艦船の民間港湾使用に反対します。実施に際しては、中止や撤回を求めるとりくみを進めます。
  5. 自衛隊の市中パレードや市街地での訓練など、自衛隊による市民生活への浸透に反対します。そのために各地の運動組織が行うとりくみに協力します。
  6. 米軍基地・自衛隊基地などの周辺住民によって進められている、爆音訴訟に協力します。
  7. 米軍犯罪の被害者によって進められている、被害者補償の制度化に協力します。日米地位協定の改正にむけて、菅内閣ならびに国会への働きかけにとりくみます。
  8. 自衛隊員の自殺や自衛隊内でのいじめ・セクシャルハラスメントなどの問題にとりくみます。これらに関連して、国と自衛隊を相手に行われている裁判を支援します。
  9. 「非核平和条例を求考える全国集会」を実施します。
  10. 全国基地問題ネットワークや、沖縄基地問題にとりくむ市民団体、またアジア太平洋地域の反基地運動団体との連携と協力を進めます。

2) 東アジアの非核・平和の確立と日朝国交正常化に向けたとりくみ

2010年は、日本が朝鮮半島を植民地化した「韓国併合」以来100年目にあたる年でした。平和フォーラムは、東アジア重視の姿勢を打ち出していた新政権に対して、友好関係を築くためには、「戦後清算」に向けたさらなる努力が必要であり、政権与党内はもとより国民全体のコンセンサスが重要であると提起してきました。そのもとに、平和フォーラムは、2010年初頭から韓国・朝鮮との戦後補償や歴史認識問題をとりくんでいる学者・文化人・市民運動メンバーとの意見交換を積み重ねた上、「過去の歴史を直視するため、内閣に日本の侵略行為や植民地支配の歴史的事実を調査する機関を設置し、政府機関が保有する記録を全面開示すること」「戦後処理に関する全情報を開示し、戦後処理の在り方を再検討し、残された戦後諸課題に立ち向かうこと」の2点を盛り込んだ「首相談話」を求めて政府に要請しました(2010年7月28日 首相宛 強い「アジア関係」を築くための要請書―この夏、「村山談話」を一歩深めた「菅談話」を)。
8月10日に明らかにされた菅首相談話は、人道的な協力と韓国文化財の返還に触れるなど、大韓民国(韓国)の国民の感情にも配慮する姿勢等の積極的側面もありますが、韓国政府向けにとどまり、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)が無視されていること、在日外国人の地方参政権否定や高校授業料無償化での朝鮮学校差別、シベリア抑留者特措法での旧植民地出身者排除など、日本が克服できていない差別の問題に踏み込んでいないなどの問題がありました。平和フォーラムは、談話に記載された事項の具体化と不十分な点を補強させるためのとりくみとして、併合100年に関わるとりくみ(8月22日集会、8~9月の在日朝鮮人歴史人権月間、9月17日日朝国交正常化連絡会集会)をはじめ、個々の課題の集会への参加・協力、「東アジアとの新しい連帯を築く」署名のとりくみのほか、公式・非公式の与党内部への働きかけをひきつづき行いました。
平和フォーラムは、日本と東北アジアの平和構築にあたって、世界で唯一、日本が国交を持たない朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)との国交正常化と核開発問題の解決は最重要課題であるとして、日朝国交正常化連絡会(東北アジアに非核・平和の確立を!日朝国交正常化を求める連絡会)のとりくみを全力ですすめてきました。年間を通じて、韓国併合100年の節目の年に「日朝基本条約案」を広げていくことを基軸に、総会・記念講演会(7月23日)のほか、ピョンヤン宣言8周年集会(9月17日)のほか、定期的な学習会(3月31日、5月10日、6月16日、10月26日、2月15日)を行いました。蓮池透さんをはじめこれら会合の講師や連絡会役員・顧問を講師とした講演会が全国各地で行われました。
在日朝鮮人歴史人権月間(4月24日奈良、8月29日横浜、9月18~19日福岡)では、日朝基本条約案を柱としてとりくまれました。また、日朝国交正常化連絡会は、初の訪朝団を派遣(9月29日~10月2日)しました。
韓国でイ・ミョンバク(李明博)大統領が誕生して以来、南北関係は悪化を続けてきました。2010年3月には韓国軍の哨戒艦「天安」沈没事件が起き、5月20日にイ(李)政権と韓国軍は「北の魚雷攻撃」と決めつける調査結果を発表。北朝鮮は即座に関与を否定し、南北関係は断絶状態となりました。米日政府も韓国の報告を鵜呑みにし、北朝鮮への制裁措置を強めました。米韓両国は、日本海や黄海で朝鮮有事を想定した大規模な合同軍事演習を実施するなど演習を重ね、ついに11月23日には、米韓演習中にあったヨンピョンド(延坪島)に北朝鮮が砲弾を撃ち込み、4名の死者を出す事態に至り、戦争間際へと緊張状態を極度に高めました。南北朝鮮は、海上では合意された境界線がないため、これまでもしばしば小競り合いが発生していました。米韓の度重なる海上での軍事演習は緊張関係を高めるものとはいえ、それに対抗して相手方の陸地に砲撃を加えることは許されません。1953年7月の停戦協定以来、相手方の陸地への砲撃は初めてで、一線を越えた行為であり、韓国をはじめ多くの人びとを不安に陥れるものです。また、ウラン濃縮作業への着手も、事実とすれば南北非核化共同宣言に反するものです。平和フォーラム(11月24日)と日朝国交正常化連絡会(12月17日)は、北朝鮮の武力行使を糾弾するとともに、米韓両国の軍事演習による威嚇と挑発の行為をも止めることを求める見解や声明を明らかにしました。また、この間、日本では、マスコミが北朝鮮批判だけを喧伝し、「制裁措置」は連立政権のもとでも延長され(2010年4月)、高校無償化という子どもの権利までもが侵害される状況でした。平和フォーラムは、日朝の話し合いを基本にした解決を求め、これらに対する一連のとりくみを行いました(別掲集会の他、平和フォーラム声明や日朝連絡会共同声明など)。
オバマ米政権の北朝鮮無視政策が事態を膠着させてきましたが、最近になってようやく州知事訪朝などを通じて対話再開に向けた動きを見せ始めましたが、対話を重ねてこそ、朝鮮戦争を平和協定へと導く道筋が積み上げられます。
何より日本政府は、「菅首相談話」の精神が北朝鮮にも適用されることを伝え、過去の歴史に真摯に向き合う立場から日朝交渉にとりくんでいく姿勢をあらためて明らかにすべきです。そのためにも、砲撃事件をもとに朝鮮高校への無償化適用審査の停止をただちに解除させなければなりません。また、日本人拉致問題はこの間、交渉ができなかったため進展のしようがありませんでした。諸課題を解決するためにこそ、交渉が必要です。前原外相(当時)が年頭記者会見で意欲を示した日朝対話をすすめることが大きな課題です。連絡会訪朝団の成果などを活かしてとりくむことが必要です。東日本大震災で、北朝鮮は赤十字を通じて見舞金を即座に日本に送りました。国内でも、阪神大震災同様、朝鮮学校が近隣の日本人被災者を支援しています。制裁や規制を解除し、ともに協力し合うため対話をすすめる重要な機会です。

《2011年度運動方針》

  1. 不十分なものとはいえ、2010年8月10日の「菅首相談話」を活かしたとりくみをすすめます。関連して、次々項「5.多文化・多民族共生社会に向けた人権確立のとりくみ」における『5)「過去の清算」と戦後補償の実現と「在日朝鮮人歴史・人権月間」のとりくみ』をすすめます。
  2. 日朝国交正常化連絡会への全国各地の運動組織の参加を求め、連携を強めるとともに、国交正常化に向けた世論を喚起するため、7月の総会、9月のピョンヤン宣言9周年集会をはじめ、継続的に全国各地での講演会・学習会・全国行動をおこないます。
  3. 連絡会の「日朝基本条約案」提案や2010年訪朝団の成果をもとに、ひきつづき政府・外務省、国会議員、各政党に対する要請や働きかけをおこないます。
  4. 東京では月1回程度の連絡会の定期的学習会や集会・行動をひきつづき行うほか、必要に応じて随時集会をおこないます。
  5. 日朝国交促進国民協会、在朝被爆者支援連絡会をはじめ、在日の人権確立や、北朝鮮の人道支援のとりくみ、韓国の平和・人道支援運動、朝鮮学校支援の市民運動との連携・交流・協力をすすめます。

4. 教育の民主化を求めるとりくみ

 2010・2011年度使用教科書に関して、新たに検定合格した「新しい歴史教科書をつくる会(つくる会)」編の自由社版中学校用歴史教科書が横浜市の18採択区のうち8区で採択され、扶桑社版が愛媛県今治市や同上島町において新たに採択されました(2009年8月)。杉並区や栃木県大田原市などを加え、採択率1.7%に伸ばしています。
平和フォーラムは、日中・日韓共同宣言や村山首相談話、韓国併合100年にあたる今年に発表された菅首相談話(2010年8月10日)に示された、日本政府が公式な見解とする歴史認識を基本として教科書検定を行うことなどを求めた「東アジアとの新しい連帯を築く」署名(39万4201筆)を集約し、政府・文部科学省などへ提出しました。また、東アジアとどう向き合うかを基本に「日米安保と東アジアの平和を問うシンポジウム」(2010年10月16日)、「東アジアの平和を築く集会」(2010年12月14日)を開催、平和フォーラム責任者会議や憲法理念の実現をめざす全国大会などにおいても、東アジアにおける日本の立ち位置を考えてきました。「建国記念日を考える集会」(2011年2月11日)には、「東アジアに平和を!―問われる日本人の歴史認識」をテーマに歴史を歪曲する教科書問題を取り上げました。東アジアとの友好的な新しい関係構築は、経済的側面からも強く要求される状況となっています。そのためにも、歴史認識および教科書問題の解決はその土台として重要です。
文科省が発した初等教育局長通知(1990年3月20日付、1997年9月11日付)や規制改革推進のための3カ年計画(2009年3月31日閣議決定)で示された教科書採択地区の小規模化の方針に反して、2009年、横浜市において18地区あった採択地区が1地区に統合されました。政令指定都市を中心に採択地区が広域化する傾向が強まり、各学校、教員や保護者の意向に反した教科書採択(例えば歴史歪曲教科書の採択など)が懸念される状況となっています。平和フォーラムは、全国の地方組織に働きかけ、「教科書採択が、各学校・地域の実情と教員・保護者の意見を反映すること」を目途に、採択地域が大きい政令指定都市などを中心に、県および政令市教育委員会に対して採択地区の小規模化・適正化を求めた要請行動にとりくみました(2010年7月22日)。
今夏は、2012・13年度使用教科書の採択が各教育委員会で行われます。4月の教科書委検定には、育鵬社(教科書改善の会)・自由社版(つくる会)の教科書が申請され、より緊迫した状況が想定されます。底流に流れる共通した歴史観や記載内容の検討と批判、国民的情宣が重要となってきます。各採択地区の保護者や教員の意向を尊重した教科書採択が実施されるよう全国的なとりくみも必要となります。「つくる会」系教科書の内容も踏まえ、6月上旬に予定する全国集会の開催を含め、とりくみの全国的広がりと強化を求めて、運動の提起を行っていきます。
2010年5月31日、北海道教育委員会は「学校教育における法令等違反に係る情報提供制度」を教育長決定しました。「道民(=保護者、地域住民、教職員)」に対し、教職員の「学習指導要領に基づかない指導」「制限・禁止されている政治的行為」などについての情報提供を求めるもので、情報提供者についてはその保護を理由に非公開とされる「密告制度」とも言えるものです。子ども達の教育に対して共同して責任を負う保護者教職員の信頼関係に大きな障害となるものです。個性をもった子どもたちの豊かな成長を促す、自主的・創造的で弾力性を持った教育実践を阻害するものです。平和フォーラムは、北海道フォーラムの要請を受けて、制度廃止を求める署名行動にとりくみました。

《2011年度運動方針》

  1. 日教組と連携し、教科書検定制度のさらなる弾力化・透明化へ向けた制度改革にとりくみます。政府・文科省等への要請にとりくみます。
  2. 採択地区の統合に反対し、地域や学校現場の声を反映した教科書採択を求めてとりくみます。
  3. 「つくる会」および「改善の会」の動向に注視しつつ、歴史を歪曲するような国家主義的教科書の不採択に向けて、日教組と連携しつつ、運動の全国展開や広範な連帯を求めてとりくみます。つくる会系教科書の問題点を全国に発信するとともに、とりくみの共有化をめざし全国集会にとりくみます。

5. 多文化・多民族共生社会に向けた人権確立のとりくみ

 未曾有の大震災で生命の尊厳、人権の重要性があらためて問われています。被災各地の現場の住民たちがともに助け合っている一方で、「想定外」とされる事態がつづくなか、「非常事態」「危機管理」「超法規」などの名目で人権を規制する動きが強められることには十分注意しなければなりません。政府・国会では、ただでさえ遅々としている人権関連法案の動きが停止していながら、他方で、「共謀罪」の焼き直し部分を数多く含むものとして日弁連が危険性を指摘している「コンピュータ監視法」案が、「ウィルス」の規制などを名目として、震災後の3月18日に閣議決定されるなどの動きも起きています。
2010年3月、国連人種差別撤廃委員会日本審査総括所見において、人権救済機関や差別禁止制度の不備や、部落民、アイヌ、沖縄、在日韓国・朝鮮人と中国人、外国人居住者、難民など、29項目にもわたる懸念と勧告が指摘されました。世界に開かれた多文化・多民族共生社会の実現のために、私たちは国際水準に見合う人権確立に向けたとりくみをいっそう強化し、運動をすすめなくてはなりません。
国連が中心となって作成した人権関係の31条約のうち日本が締結しているのは13条約。締結したものも実効化させる重要条項の多くを留保するなど、日本はこれまで国際的な人権水準から大きく遅れをとってきました。とくに自公政権下では人権確立を求める動きへの敵対が続きました。
2009年8月の政権交代による連立政権の誕生によって、人権政策の転換に大きく期待が集まりました。とりわけ、政権が積極姿勢を示した人権救済機関の設置、個人通報制度の実現、取調べの可視化などについてのとりくみへの意気込みを示したため、人権確立を求める当事者や人権団体、日弁連などによるとりくみも強まり、「国内人権機関と選択議定書の実現を求める共同行動」(人権共同行動)や「取調べの全面可視化を求める市民団体連絡会」などのネットワーク組織が発足して運動が進められるようになり、平和フォーラムも参加・協力してきました。
政治状況が混迷していることもあり、人権課題においてもとりくみはなかなか進んできませんでしたが、障害者権利条約の批准と障害者基本法の抜本改正が当面する重要な局面を迎えています。2009年には内閣府に「障がい者制度改革推進本部」(本部長・菅直人首相、全閣僚が参加)が設置され、さらにその下に設けられた「障がい者制度改革推進会議」は委員の半数以上が障害者当事者であり、あらゆる政府の審議会で史上初の画期的なメンバー構成で議論が進められました。2010年12月17日には「障害者制度改革の推進のための第二次意見」がとりまとめられ、障害者基本法改正案の方向性が提示されました。障害者の人権、差別禁止、モニタリング制度など第二次意見を踏まえた改正法案が求められますが、日弁連やJDF(日本障害者フォーラム)も抜本改正を提示し、とりくみを強化しており、平和フォーラムもとりくみの紹介などの協力をしてきました。当事者意見を反映させた法案の実現が通常国会の焦点であり、当面する人権確立の重要な要です。
また、内閣改造によって登場した江田五月法務大臣が取調べの可視化について積極的な姿勢を表明し、民主党も通常国会での成立をめざして動いています。えん罪の温床となってきた警察・検察の取調べの過程公開は、人権保障の観点から大変重要な進展と言えます。日弁連(2010年4月6日・10月19日・10月29日)や狭山事件(2010年5月12日・12月16日)をはじめとしたえん罪被害者関係訴訟の支援団体がそれぞれ、この問題をとりあげてきましたが、広く連携した「取調べの全面可視化を求める市民団体連絡会」(2010年12月2日、2011年3月9日)などが集会・行動を行いました。
第3次男女共同参画基本計画は、第2次計画で安倍政権によって後退した部分を修正し、国連の女性差別撤廃委員会の勧告をほぼ受け入れた内容で、2010年12月17日に決定しました。なかでも「選択的夫婦別姓の実現」や、「男女同一価値労働、同一賃金の法制化」、政策決定の場への女性の参画手段として「クオータ制の導入」などが明記され、その実効性をあげることが、運動課題になっています。すでに今年に入って、民法の夫婦同姓規定は、個人の尊厳を定めた憲法13条や、男女平等規定の24条に違反し、これら差別法規の改廃義務を定めた女性差別撤廃条約に反しているとして、5人の男女が国を相手どり、「国賠訴訟」に踏み切りました。I女性会議は原告を支え、全国的な「別姓訴訟」の支援にとりくんでいます。平和フォーラムは、女性の人権を国際的な水準に引き上げる運動に協力することが求められています。
新政権の誕生に対して、アジアとの協調姿勢や外国人人権確立に対して嫌悪する排外主義的なグループの動きが強まり、自民党もこれに同調するなかで、逆行する動きが目立っています。とくに在日朝鮮人に対する抑圧が高まっています。とりわけすぐにも実現されるべき朝鮮学校への高校無償化適用問題は、丸一年を経ようとしています。平和フォーラムは、声明・見解を何度も明らかにしたほか、護憲大会や2月11日の集会などでとりあげるとともに、日朝国交正常化連絡会(2010年7月23日・9月17日)や「『高校無償化』からの朝鮮学校排除に反対する連絡会」(2010年9月26日・2月26日)と連携・協力して集会を行ってきました。
また東京、大阪などの地方自治体でも朝鮮学校への助成打ち切りの動きがすすめられています。今までも各地でさまざまなかたちで朝鮮学校を支えるとりくみがすすめられてきましたが、全国的な連絡を取り持ち、情報共有などを通じて、さらに大きな運動を創り出していく必要があるため、その準備として全国の平和フォーラム組織の朝鮮学校との関わりについて調査を進め、2011年2月18日、準備会を発足させました。
外国人参政権については、政権交替直後にいまにも実現するかにいわれていた状況から後退を続けています。2010年に入って、自民党・一部マスコミが一体となったネガティブキャンペーンは、すでに実現した外国籍住民が投票可能な地方自治体の住民投票条例にまで攻撃の矛先が向けられはじめており、その動向に注視する必要があります。これら日本における、在日韓国・朝鮮人をはじめとしたアジアに対する差別の根幹には、過去の植民地支配の歴史についての未清算と無理解が存在しており、日本を開かれた社会へとつくりかえていくためには、この問題を主体的にとりくむことが必要です。
戦後補償については、すでに記載した菅談話に対するとりくみや「在日朝鮮人歴史・人権月間」を中心にとりくんできました。
軍人・軍属ではない一般人の戦争犠牲者に対する支援として、東京高裁に控訴した東京大空襲訴訟については、個人署名のほか、団体署名にもとりくみました。全国の空襲被害者が連携して保障立法を求めるとりくみも2010年8月14日の全国空襲連の発足など広がってきました。6月に成立したシベリア抑留についてはようやく補償法が実現しましたが、国籍条項により旧植民地者が排除されるという問題があり、平和フォーラムは差別なき補償を求める共同声明に参加しました。

《2011年度運動方針》

  1. 実効性ある人権救済法の制定と国際人権諸条約・選択議定書の批准に向けたとりくみ
    1. 国際人権諸条約の批准促進を求めます。とりわけ、個人通報制度にかかわる条約の選択議定書の早期実現を求めます。部落解放同盟などがすすめる「『人権侵害救済法』(仮称)の早期制定を求める」署名に協力します。また、通常国会で予定される障害者基本法の改正について、障害者権利条約の批准に向けた制度改革とすることを求めているJDF(日本障害者フォーラム)など当事者のとりくみに協力します。
    2. 国連の「国内人権機関の地位に関する原則」(パリ原則)にそった独立性と実効性ある人権救済機関を制度化する法律の制定、「差別禁止法」の制定に向けてとりくみます。「国内人権機関と選択議定書の実現を求める共同行動(人権共同行動)」や日弁連と協力して政府に対して実現を求めてとりくみます。
    3. 全国の自治体でより充実した「人権教育・啓発推進に関する基本計画」を策定・実行を求めるとともに、「人権のまちづくり」や「人権の核心は生存権」との認識のもとに生活に密着した「社会的セーフティネット」などのとりくみを広げていきます。また、地域・職場でさまざまな差別問題など人権学習・教宣活動をおこないます。
  2. 男女共同参画社会の実現に向けたとりくみ
    1. 「男女共同参画第3次基本計画」に明記された「選択的夫婦別姓の実現」「男女同一価値労働、同一賃金の法制化」「クオータ制の導入」などを実効化するため、I女性会議などがとりくむ「別姓訴訟」支援をはじめ、女性の人権を国際的な水準に引き上げる運動に協力します。
    2. 女性差別撤廃条約選択議定書の批准を求めるI女性会議など「日本女性差別撤廃条約NGOネットワーク」(JNNC)のとりくみに協力します。
    3. 女性の重要性・ジェンダーの視点を強調した人権確立の国際社会の流れを活かしたとりくみをすすめます。
    4. 平和フォーラム自身の組織構成、諸会議をはじめ、かかわる運動全般で女性が参加できる条件・環境づくりをおこないます。
  3. 地方参政権など在日定住外国人の権利確立のとりくみ
    1. 韓国の「在韓外国人処遇基本法」(2007年)などに学び、在日外国人の権利確立の制度実現に向けたとりくみをすすめます。
    2. 差別なき定住外国人参政権法案の制定に向けて、参政権ネット、民団と協力して、全国各地でとりくみをすすめます。
    3. 子どもの権利に立った外国人学校の整備など多民族・多文化共生社会の実現に向けたとりくみをおこないます。全国各地でのさまざまな動きに注視・連携しつつ、朝鮮学校支援のとりくみをすすめます。高校無償化の朝鮮学校への即時適用を実現させます。
    4. 2009年入管法改定を見直させるため、外国人人権法連絡会や日弁連のとりくみに参加・協力します。
    5. 無権利状態におかれた外国人労働者などの救済に向けて外国人研修生権利ネットワークなどのとりくみや、生活と権利を守るための外国人労働者総行動「マーチ・イン・マーチ」のとりくみに協力します。
  4. 司法制度・地方主権などに関するとりくみ
    1. 裁判員制度は多くの問題点があり、抜本的に見直させるとりくみをおこないます。
    2. 最高裁判所裁判官国民審査にかかわって、日常的な判決チェックをおこなうとともに、権利の行使として「×」を増大させるとりくみをすすめます。また、期日前投票などの改善を中央選管に求めます。
    3. 山場を迎えた狭山差別裁判第3次再審実現など、えん罪をなくすとりくみに参加・協力するとともに、日弁連や「取調べの全面可視化を求める市民団体連絡会」などのとりくみに協力して「取調べ可視化法」の実現をめざします。
    4. 制定前から重大な人権侵害をもたらす恐れが指摘されていた医療観察法の廃止を求めるとりくみをすすめます。
    5. 共謀罪の新設を許さず、盗聴法の廃止に向けたとりくみをおこないます。「コンピュータ監視法」などの動きに注意し抜本的修正を求めます。
    6. 警察公安による微罪逮捕や自衛隊による取調べ事件や情報収集増大の動きを警戒し、不当弾圧、人権侵害を許さないとりくみをおこないます。
    7. 地方分権を促進し、地方自治体の自主財源の確保とともに、条例制定権の拡大、拘束力のある住民投票の導入などのとりくみをおこないます。
    8. 反住基ネット連絡会のとりくみに協力します。
    9. 言論や表現の自由を暴力やテロで封じる動きを許さないとりくみを随時、おこないます。
  5. 「過去の清算」と戦後補償の実現と「在日朝鮮人歴史・人権月間」のとりくみ
    1. アジア・太平洋の人びとの和解と共生をめざして、日本と日本人が戦争に対する反省・謝罪、補償に向けた姿勢を示し、二度と戦争による犠牲者を出さない非戦の誓いを新たにするとりくみをすすめます。不十分なものとはいえ、2010年8月10日の「菅首相談話」を活かし、別項の日朝国交正常化を含めた一連のとりくみをすすめます。
    2. ひきつづき首相・閣僚などの靖国参拝や靖国神社国家護持に反対するとともに、政府に国立の非宗教的戦争被害者(関係諸国すべてを含む)追悼施設の建設を要求し、靖国問題の決着を求めていきます。このもとに8月15日に千鳥ヶ淵戦没者墓苑をはじめ各地で戦争犠牲者追悼・平和を誓う集会をおこないます。衆参両院議長、首相・閣僚の千鳥ヶ淵墓苑での追悼・献花との連携をはかります。
    3. 「過去の歴史を直視するため、内閣に日本の侵略行為や植民地支配の歴史的事実を調査する機関を設置し、政府機関が保有する記録を全面開示する」「戦後処理に関する全情報を開示し、戦後処理の在り方を再検討し、残された戦後諸課題に立ち向かう」ことを政府に求めるとりくみをすすめ、戦後補償をとりくむ市民団体や、歴史の事実を明らかにする立法(国立国会図書館法改正、恒久平和調査局設置)を求める市民グループとの共同のとりくみをおこないます。
    4. 「菅首相談話」にも明記された遺骨問題や文化財返還問題で、「韓国・朝鮮の遺族とともに全国連絡会」や「韓国・朝鮮文化財を考える連絡会議」と連携したとりくみをすすめます。「強制連行・企業責任追及裁判全国ネットワーク」などがすすめる「朝鮮人強制労働被害者補償立法の実現を求める要請署名」に協力します。
    5. 「在日朝鮮人歴史・人権月間」のとりくみ
      • 2011年は、民族教育問題をテーマとした「月間」(8月24日~9月23日を予定)とし、全国集会(日時未定・於関西ブロック)や東日本集会、西日本集会を開催します。朝鮮学校に対する高校無償化適用を求めるとりくみをはじめ各地の朝鮮学校支援のとりくみと連携したものとします。
      • 全国集会、東日本集会、西日本集会などは実行委員会を発足させてとりくみます。また、朝鮮人強制連行真相調査団などと連携・協力して全国各地でとりくみをすすめます。5月18日に2011年の第1回全国実行委員会を開催します。
      • 「在日朝鮮人歴史・人権月間」奨励賞を通じて、日朝の友好や和解に向けた青年・若い世代のとりくみを発掘・紹介します。
    6. 司法解決の道は狭められてきたものの、国際法や道義的責任に基づき企業・国に謝罪と補償を求め立法解決への道を開こうとする戦後補償のとりくみに支援・協力します。
    7. 米下院「慰安婦問題」決議をはじめ国際的に広がる日本の首相の公式謝罪表明要求を、首相が真摯に受けとめ実行することを求めるとりくみをすすめます。
    8. 差別なき戦後補償を求めて東京大空襲訴訟・空襲被害者立法の支援のとりくみをおこないます。また、東京大空襲朝鮮人犠牲者追悼集会などに協力します。
    9. 1967年から戦前の「紀元節」を「建国記念の日」とした問題点を忘れず、2月11日に歴史認識にかかわる集会をおこないます。

    6. 核兵器廃絶に向けたとりくみ

    1. NPT再検討会議以降のとりくみ
      いまもなお、世界には2万3000発もの核兵器が存在します。これは私たちの住む世界を何度でも破壊できる量で、核兵器廃絶は人類共通の喫緊の課題となっています。ブッシュからオバマへと政権交代したことによって、これまで停滞していた核兵器廃絶にむけた動きが活性化しました。2010年5月に開催された世界のNGOや市民も大きく注目し、NPT(核不拡散条約)再検討会議に向けて運動が盛り上がりました。5月3日にはニューヨークの国連本部前に世界のNGO・市民など1万人を超える人々が結集し、核兵器廃絶を訴えました。私たち原水禁も派遣団を派遣し、連合・核禁会議との共同行動を展開し、世界に向けて訴えました。さらに、核兵器廃絶の動きを促進させることをめざして原水禁・連合・核禁会議の3団体でとりくんできた「核兵器廃絶署名」約672万筆を日本政府に提出し(2010年4月16日)、また国連事務総長にあてて提出しました。
      NPT再検討会議は、最終日には全会一致で最終文書が採択され、①2000年に合意された「核兵器廃絶の明確な約束」などの13項目確認、②中東の非核化への会議の2012年招集、③核軍縮の具体的進展を加速させ2014年にNPT再検討会議準備会議を報告すること、などが盛り込まれました。しかし、一方で核廃絶に向けたロードマップの作成や期限の設定を求める世界の市民の声は反映されませんでした。まだまだ核兵器ゼロに向けた道のりは厳しいものがあります。引き続き3団体や平和市長会議、NGOなどとの協力を深めながら、国内外で核兵器廃絶に向けたとりくみを強化していかなければなりません。
      NPT再検討会議以降の核軍縮の流れのなかで、2011年2月5日には、米ロ新START条約が発効しました。オバマ政権の一つの成果ではあります。しかし一方で2010年10月には未臨界核実験の強行や核関連予算の増額など、オバマ政権内部にも核抑止論がまだまだ根強くあることが伺われます。また、この間の中東などで起きた政変によって、2012年の中東非核化会議開催が頓挫しようとしています。今後、米ロ新START条約を具体的に実行させるとともに、CTBT(包括的核実験禁止条約)の発効や2010年NPT再検討会議で合意された事項などをはじめ、さらなる核軍縮にむけた動きを加速させることが重要です。
      一方、日本を取り巻く東北アジアの情勢も緊迫しています。2009年5月25日に北朝鮮が2度目の核実験をおこない、東北アジアに緊張がもたらされました。その後6ヵ国協議は停滞したままです。さらに2010年11月には、新たなウラン濃縮施設の存在が明らかになり、さらに同月、ヨンピョンド(延坪島)への砲撃事件が発生し、東北アジアはもとより世界の緊張状態を極度に高めました。日本国内では、この核実験やロケット発射、砲撃事件などを契機に偏狭なナショナリズムが煽られています。しかし、朝鮮半島の非核化に向けて、対話と協調を基調にしながら、平和的な解決に向けた冷静な対応が必要なことは言うまでもありません。政権の枠組みが変わったいま、日本政府には、東北アジアの非核化を展望しながら、朝鮮半島の非核化と日朝国交正常化に向けた真剣な対応が求められています。停滞している6ヵ国協議の早期再開や日朝間での直接対話の実施を政府に促す必要があります。
      このような中で、原水禁としても、原水禁大会での3団体の「ピーストーク in 広島(長崎)」、国際会議でも「NPT再検討会議に向けて―東北アジアをめぐる核状況」(2010年8月5日)、さらに各分科会で核軍縮の必要性・重要性を訴えてきました。
      これまでの日本政府は、核廃絶を訴える一方で米国の「核の傘」に依存するという矛盾した政策をとり続けてきました。さらに核兵器の先制使用を容認し、米国が先制不使用宣言をしないように働きかけていました。まさにダブルスタンダードとも言える対応です。また、自らも日印原子力協定を結んでNPT未加盟国のインドの核開発を容認しようとし、結果としてNPT体制の骨抜きに手を貸そうとしています。さらに、日米間で核密約が取り交わされていたことが明らかになり、国民を欺いてきたこれまでの政府の姿勢が問題となっています。
      そのような日本政府の核容認とも言えるこれまでの姿勢を改め、被爆国の責務として、積極的に世界に対し平和と核軍縮のリーダーシップを果たすように求めなくてはなりません。すでに民主党のマニフェストでも核不拡散体制の強化を進めるとし、NPT未加盟への働きかけやCTBTの早期発効、カットオフ条約の推進、東北アジアの非核地帯化構想の推進など、核廃絶・核軍縮・核不拡散へのとりくみを訴えています。実行に移させることが重要です。
      この間、原水禁として「核態勢の見直し」に対する見解(2010年4月8日)、新START条約に対する見解(2010年4月9日)、「未臨界核実験」に対する申し入れ(2010年10月20日)などを発してきました。さらに海外ゲストを交えての学習を開催してきました。
      そのことを支えるためには、私たちの運動の強化や非核自治体や平和市長会議との連携を深め、核廃絶に向けた動きを加速させなければなりません。さらに核密約が明らかにされた中で、核搭載艦の領海内の通過や寄港を認めようとする動きもあり、それらの動きに対し警戒しなければなりません。非核三原則の徹底した遵守と法制化を政権に求めていくことが必要となっています。《2011年度運動方針》

      1. 国際的な連携強化をはかります。特に6月のドイツ・イギリスへの訪問、8月の日韓反核フォーラムなどをとりくみます。
      2. 東北アジア非核地帯化構想を具体化にむけて推進します。
      3. 原水禁・連合・核禁会議3団体での核兵器廃絶に向けた運動の強化をはかります。
      4. 政府・政党への核軍縮に向けた働きかけを強化します。とくに民主党の核軍縮議連への働きかけを強化し、平和と核軍縮政策の促進をはかります。
      5. 東北アジア非核地帯化構想などの具体化をするために、日本政府や日本のNGOへの働きかけを強化し、具体的な行動にとりくみます。さらにアメリカや中国、韓国などのNGOとの協議を深めます。
      6. 三原則の法制化へ向けた議論と行動にとりくみます。
      7. 非核自治体決議を促進します。自治体の非核政策の充実を求めます。さらに非核宣言自治体協議会や平和市長会議への加盟・参加の拡大を促進させます。
      8. 核軍縮・不拡散議員連盟(PNND)や民主党の核軍縮促進議員連盟との連携をはかります。
    2. 被爆66周年原水爆禁止世界大会/ビキニ・デーの開催について
      被爆65周年原水爆禁止世界大会では、参加者数が国際会議・約100名、平和ヒロシマ集会(三団体主催・6800名)、平和ナガサキ集会(三団体主催・4500名)、「メッセージ from ヒロシマ 2010」・400名となりました。また、海外ゲストは5ヵ国20名(子どものゲスト含む)の参加となりました。各分科会では、初参加者が7~8割という大会の現状にあわせ、分科会を「入門編」と「交流編」に分け、参加者が選択できるように工夫しました。今後ともひきつづき参加者のレベルにあわせた内容構成について検討することが重要となっています。なお、大会への賛同団体・個人は、18団体・136個人でした。
      「メッセージ from ヒロシマ 2010」や「ピース・ブリッジ 2010」への参加は2009年よりも増え、親子での参加を含め、関係者の努力もあってとりくみとして少しずつ定着しつつあります。とくに高校生のとりくみや主張には、今年も大きな共感が寄せられました。また、原水禁大会でおこなわれた国際会議や講演などの内容を収録した記録集を発行しました(2010年10月発行)。《2011年度運動方針》

      1. 被爆66周年原水爆禁止世界大会と国際会議を広島、長崎で開催します。
        8月5日     国際会議(広島市内)
        8月4日~6日 広島大会
        8月7日~9日 長崎大会
      2. 2012年3月に被災58周年ビキニ・デー集会を、57周年集会の成果をひきつぎ、被爆66周年原水禁世界大会に連動する集会として、開催します。

    7. ヒバクシャの権利確立のとりくみ

    1. ヒロシマ・ナガサキの被爆者について
      被爆者の高齢化が進み、被爆者を取り巻く環境が一段と厳しくなっています。被爆者の残された課題を解決する時間も限られ、援護対策の充実と国家の責任を求めることが急務となっています。
      被爆者の援護施策の充実を求める課題として、原爆症認定が大きな問題として裁判闘争を中心にとりくまれてきました。その結果、被害者団体と政府との間で解決にむけた合意がなされ、「基金」の創設や被団協などとの「定期協議」などが確認され、原爆症認定の課題は前進しましたが、一方で、改定した「新しい審査委の方針」に従って展開されている審査制度の中で、多くの審査滞留や認定却下が生み出されているなど課題も山積しています。この問題については、日本原水爆被害者団体協議会(被団協)への協力を中心にとりくんできました。引き続き協力関係を深めていくことが求められています。
      在外被爆者の課題は、日本の戦争責任・戦後責任の問題と重なります。高齢化の進む在外被爆者の課題解決も重要です。特に国内との格差が存在する現状をあらため、等しく被爆者への援護を実施させることが重要です。さらに国外在住を理由に被爆者援護法に基づく健康管理手当を打ち切られるなどした在外被爆者が国に慰謝料などを求める訴訟が長崎、広島、大阪などで起こされ、その結果各地裁では被爆者と国との和解が相次いでいます。引き続き各地の裁判を支援し、新たな在外被爆者への補償を実現させなければなりません。とくにこれまで国交がないことを理由に放置され続けてきた在北朝鮮被爆者への援護施策の実施を求めることは重要です。北朝鮮には、382名の被爆者が生存していることが明らかになっています。在朝被爆者も高齢化し、残された時間は限られています。他の在外被爆者同様の援護が求められます。
      さらに健康不安も解消されていない被爆二世・三世への対策については、制度の充実を図ることが重要です。全国被爆二世団体協議会と連携して、署名のとりくみや厚生労働省交渉を積み重ねてきました。原水禁大会などでの二世・三世の分科会・ひろば(2010年8月5日・8月8日)や全国交流会(2011年2月5~6日)でこの課題を広く浸透させてきましたが、引き続いて連携してのとりくみの強化が必要です。
      行政区域の違いだけで「被爆体験者」とされる長崎の「被爆体験者」の課題では、昨年43万筆を集めた全国署名(2010年10月30日厚生労働省提出)に協力する中で、課題の全国化を図りました。また、国会への請願や政権への働きかけをサポートしてきました。現在裁判が継続中です。引き続き裁判支援とともに課題解決に向けたとりくみを強化していかなければなりません。広島・長崎の「黒い雨」地域の課題も近年明らかになってきました。それとともに被爆地拡大、被害の実態に見合った援護の強化を訴えて行く必要があります。
      これらヒロシマ・ナガサキの被爆者課題に対して、これまで連合・核禁会議を交えた3団体でのとりくみを軸にしながらとりくみを展開してきました。菅政権の被爆者対策に関して、今年2月8日に厚生労働副大臣との意見交換の機会を持つなどのとりくみを行いました。さらに3団体でのとりくみを強化していくことが重要です。
    2. 福島原発事故による被曝者の援護・救済に向けて
      福島第一原発の事故が発生して以来、現在も放射能の放出が続いています。政府は原発から半径20km圏内には退避を指示しました。20km~30km圏内については当初屋内退避としましたが、3月25日には自主避難を勧告しました。これは無責任な対応と言えるものです。今後、事故が長期にわたって続くのであれば、さらなる放射能の拡散が予想されます。すでに周辺地域の農産物にも放射性物質による汚染が拡がりつつあります。
      このような状況のなかで、原水禁は3月16日に緊急要請として、「妊産婦並びに乳幼児・児童・生徒などの避難の実施について」を政府に提出し、放射能の影響をとくに大きく受ける若い命を守るために、20km~30km圏内より遠方に、早急に避難させることを要請しました。事態が拡大するなかで、このことはさらに重要となっています。
      また、労働者の被曝の問題も深刻化しています。緊急時被曝100ミリシーベルトが250ミリシーベルトにまで引き上げられました。しかし、すでに福島原発で作業する人々の中から、この線量の上限すら超えて被曝する事態が発生しています。3月24日には2人の作業員が、局所被曝とは言え2~6シーベルトの被曝を受けました。厳しい事故の実態に現場はいまなお混乱し続けており、高線量の中での作業に従事する労働者のさらなる被曝が危惧されます。
      緊急時であっても、現場の労働者に不要な被曝をさせないこと、被曝作業を強制させないこと、被曝労働に国や企業が全責任を持って対処することなどを求めていかなければなりません。
    3. 世界の核被害者の援護と連帯
      ヒロシマ・ナガサキの原爆被害にとどまらず、あらゆる核開発の過程で生み出される核被害者への連帯や援護のとりくみは原水禁運動の重要な柱です。多くのヒバクシャをいまだ生み出している原発事故、軍事機密のなかで行なわれた核実験によるヒバクシャの実態などを明らかにしていくことが必要です。とくに現在も続いている福島原発事故による被曝の問題も大きく問われなくてはなりません。
      海外の核被害者(団体)との連携では、2010年5月のNPT再検討会議に際して開催された劣化ウラン被害の国際会議への参加・発言を行いました。原水禁世界大会では、アメリカの先住民の方をゲストに招き、ウラン採掘の被害の実態報告を行っていただきました。また、それに合わせて、ウラン採掘を進める住友商事への申し入れ、院内集会を行いました(2010年8月2日)。被爆労働者の裁判支援なども市民グループともに行い、厚生労働省との交渉も積み上げてきました。あらためてヒバクの実態を知り、「ふたたび原子力災害でヒバクシャをつくらない」ことを確認することが重要です。チェルノブイリ原発事故から今年で25周年を迎えます。福島原発事故の被曝被害の問題とともに、あらためて世界の核被害の実態を見つめ直す時です。

    《2011年度運動方針》

    1. 福島原発事故による被害の実態を明らかにするとともに、被曝者の援護・連帯をすすめます。
    2. 福島原発事故の被害の実態にあわせた避難地域の拡大を求めます。
    3. 被曝の問題に関して、政府・関係機関に対する要請のとりくみを強化します。
    4. 原爆症認定制度の抜本的改善を求めます。被爆者の実態に則した制度と審査体制の構築に向けて、運動をすすめます。
    5. 在外被爆者の裁判闘争の支援や交流、制度・政策の改善・強化にとりくみます。
    6. 在朝被爆者支援連絡会などと協力し、在朝被爆者問題の解決に向けてとりくみます。
    7. 健康不安の解消として現在実施されている健康診断にガン検診の追加など二世対策の充実をはかり、被爆二世を援護法の対象とするよう法制化に向けたとりくみを強化します。さらに健康診断などを被爆三世へ拡大するよう求めていきます。
    8. 被爆認定地域の拡大と被爆者行政の充実の拡大をめざして、現在すすめられている裁判を支援します。また、署名運動の展開を協力します。
    9. 被爆者の権利の拡大に向けたとりくみをはかります。
    10. 被爆の実相の継承するとりくみをすすめます。「メッセージ from ヒロシマ」や「高校生1万人署名」、平和大使などの若者のとりくみに協力します。
    11. 原水禁・連合・核禁会議3団体での被爆者の権利拡大に向けた運動の強化をはかります。
    12. 世界に広がる核被害者への連帯を、国際交流や原水禁世界大会などを通して強化します。特にチェルノブイリ原発事故から25年目にあたり、市民団体と協力して全国的なキャンペーンをとりくみます。

    8. 原子力政策の根本的転換と脱原子力に向けたとりくみ

    1. 福島原発事故について
      (※別紙「持続可能で平和な社会(脱原発社会)の実現に向けたとりくみの強化」参照)
    2. プルトニウム利用政策と新規原発
      脱原発・エネルギー政策転換の課題では、この間、「プルトニウム利用政策」を転換させることを原水禁運動の最大の焦点として、とりくんできました。それに沿って「核燃料サイクル政策の転換を提言する」(「破綻したプルトニウム利用」・緑風出版/2010年7月)、原水禁エネルギー・プロジェクトからの提言「持続可能で平和な社会をめざして」(2011年1月)の二つをまとめあげ、政権や関係組織などへ提出し、それをもとに交渉を重ねてきました。今後もこの提言に沿ったとりくみの強化が重要です。
      私たちがこれまでも「破綻」状態と指摘しているプルトニウム利用政策の現状は、その政策(路線)の要となる六ヶ所再処理工場(青森)が、高レベル放射性廃棄物ガラス固化施設のトラブルなどで、その完成時期(完工)が18回も延期された上で、現在は2012年10月予定と発表されていますが、これまでの経過を見るならば実際にうまく事が運ぶとは思えず、さらなる大幅な遅れの可能性が存在しています。さらに、今回の東日本大震災とそれに伴う福島原発事故によって計画そのものの存続すら不透明になりつつあります。
      2010年4月10日~11日にかけて「反核燃の日」全国集会を青森で開催し、2010年10月末の本格稼働(この当時はまだ延長発表がされていませんでした)しようとする動きに対して抗議の声を上げました。結果は、私たちの指摘する通り、延期となりました。
      1995年のナトリウム漏れ事故により停止していた高速増殖炉「もんじゅ」(福井)は、2010年4月、14年5か月振りに再稼働しましたが、8月には炉内中継装置の落下のトラブルによって、またも停止する羽目に陥りました。2012年の運転再開を宣言していますが、これも実際にうまくいくかは不透明です。炉内中継装置の回収に9億円もの巨費が投入されることに加え、長期停止になればなるほど嵩んでいく1日あたり5500万円の維持費など、経済性の問題が大きくなっています。2010年4月18日と12月3日~4日には「もんじゅ」全国集会を開催しました。4月の再開に際しては全国から打電行動や声明を発し(2010年2月28日)、また12月3日には福井県、敦賀市などへの要請を行ってきました。
      六ヶ所再処理工場と「もんじゅ」の二つの事故は、プルトニウム利用政策の破綻を象徴しています。今回の福島原発事故によってそのことはいっそう明らかになりつつあります。また、プルサーマル計画も、昨年、東電・福島原発をはじめ各地で相次いで実施されましたが、依然として使用済みMOX燃料の後始末の問題やプルサーマルそのものの安全性の問題など、問題がある中で進められています。引き続き各地でのたたかいが重要になっています。原水禁としても全国的なとりくみとして打電行動などを行ってきました。
      世界的にみても、商業用再処理を進めるイギリスでは事故により再処理政策が行き詰まり、フランスでは再処理の海外受注も減り続けています。高速増殖炉開発でも、アメリカやイギリス、ドイツなどが撤退し、フランスも「スーパーフェニックス」(実証炉)が1998年に廃炉が決定し、「もんじゅ」と同じ原型炉「フェニックス」も2009年度に運転を停止しました。日本より先に高速増殖炉開発をリードした国々は次々と撤退しています。残るロシアやインド、中国といった国々は軍事と関連するものなど高速増殖炉とはいえないような運転となっています。高速増殖炉開発は世界的には進んでいません。むしろ再処理とあわせて考えると商業的なプルトニウム利用は成り立たないことは明らかになっています。その中で、日本だけがプルトニウム利用で突出しようとすることは無謀であり、さらに核拡散の面からも大きな問題となります。プルトニウム利用政策を根本的に転換することが強く求められています。
      一方、地球温暖化防止対策の切り札として原発推進が唱えられています。そのことも背景の一つとして原発輸出の動きも活発化しています。しかし原発は、放射能を放出し、放射性廃棄物を大量に生み出すことで、地球環境に大きな影響を与えます。また出力調整が困難な原発には、大型火力発電所や揚水ダムの建設などバックアップ電源が必要になり、さらに燃料製造・原発建設・核廃棄物管理などでCO2を発生させます。決して地球環境にやさしいものではありません。このことは今回の福島原発における事故によって、図らずも証明されてしまいました。原発輸出は原発公害の輸出であり、核不拡散の観点からも問題です。とくにインドへの輸出は、NPTを骨抜きするものであり、結果的にインドの核兵器開発に手を貸すことにつながります。このことに対しては、市民団体と共に外務省等に抗議・申し入れを行ってきました。
      原発の新増設の動きに対応することも重要で、この間、川内原発3号機増設(鹿児島県)や上関原発(山口)の新設の動きに対して、現地の反対運動を中心にとりくみ強化をはかり、原水禁としても課題の全国化として連帯運動を強化してきました。特に上関原発問題では、原発予定地の公有水面の埋め立てや原発の設置許可申請など本格的建設に向けて中国電力は動き出しています。地元のねばり強いたたかいに連帯し、全国的な支援の力で推進側の動きを押し返す必要があります。現在「上関原発建設中止」を求める全国署名を100万筆まで集めるとりくみを続けています(2010年5月10日経済産業省第二次提出・23万8875筆、2011年3月まで引き続き集約中)。引き続き課題の全国化をはかることが重要です。原水禁としても地元と協力し署名に協力するとともに、原水禁大会でのひろばやフィールドワークのテーマとして上関原発問題を取り上げてきました。また、10月24日には「上関原発いらん in 上関」集会を西日本規模でとりくみました。
      その他にも新規立地では、大間原発(青森)、浜岡原発6号機増設の動きもあります。電力需要が低迷しているなかでも強引に新増設をはかろうとしている動きに対抗する、現地と全国を結ぶ活動が重要です。
      さらに、鹿児島県南大隅町での放射性廃棄物関連施設誘致の動きが起こっています。地元の運動と連携して全国の運動としてとりくみを強化し、これらの動きを封じることが必要です。
    3. エネルギー政策の転換に向けて
      原水禁は「プルトニウム利用からのエネルギー政策転換」を重点課題にかかげ、運動をすすめてきました。2009年10月3日に明治公園で全国集会「NO NUKES FESTA 2009」を開催し、全国から7000人の結集の下、エネルギー政策政策転換を訴えました。2009年10月2日には、「原子力政策転換署名」57万511筆を政府に提出し、政策転換を迫りました(2011年2月2日、2万9102筆追加提出)。
      一連の事業仕分けに対しては、各委員や議員へ政策転換を求める働きかけにとりくみました。
      政権交代をエネルギー政策の転換のチャンスとして、原水禁として政権に対する提言案をまとめる作業を行う「エネルギー・プロジェクト」(西尾漠座長)を立ち上げ、具体的に政策転換に向けた働きかけを強化することになりました。プロジェクトでまとめ上げた提言をもとに、ひきつづき政府・与党との協議を深めていくことが必要です。また、エネルギー政策の転換に向けて、提言の内容を世論に対し大きく訴えかけることが重要です。
      各地の原発・原子力施設立地県との連携を強化するために原発・原子力施設立地県連絡会のとりくみに協力しました。原水禁大会や「もんじゅ」全国集会などの全国的な集まりにあわせて立地県会議を開催し、各地の活動について共有化をめざしました。
      また、原発建設の国内展開が厳しくなるなかで、原発輸出の動きも活発化しています。ベトナムやインドネシアなどの新興国に対して、企業の働きかけが強まっています。環境問題や核拡散の問題として海外のNGOとの連携を深めることが必要となっています。
      政権交代を機に、原水禁として、この間、プルトニウム利用政策の転換と自然エネルギー利用の開発・促進を柱にした政策の提言をまとめました。この提言をもとに、政府への働きかけを強化することが重要です。さらに原子力政策大綱の見直しが進められています。そこでの議論に資するために二つの提言をすでに行っていますが、原子力委員会や大綱見直し委員に対して、その議論の内容をさらに深めるように働きかけることも必要です。とくに原子力政策大綱見直しの委員にはエネルギー・プロジェクトに関わっていただいた伴英幸・原子力資料情報室共同代表が参加されていますので、伴委員を通して提言内容をさらに具体的なものとするように働きかけていきます。同時に、各地でとりくまれている自然エネルギーの展開に協力することも重要になっています。そのためにも、ドイツなどの環境・エネルギーの先進地のとりくみから学ぶことが今後の課題となっています。

    《2011年度運動方針》

    ※福島原発事故に関しては別紙参照

    1. 再処理工場建設、高速増殖炉「もんじゅ」の運転再開に反対します。
    2. 各地のプルサーマル計画に反対します。
    3. 原発の新増設に反対します。
    4. 原発震災について問題を広め、柏崎刈羽原発の運転再開に反対します。
    5. 原発輸出に反対します。
    6. エネルギー・プロジェクトの成果を生かし、国会での議論を進展させます。そのために、関係閣僚への要請、院内集会・学習会などを行います。
    7. 原子力政策大綱見直しに際して、各委員への働きかけを強化します。
    8. 各地の自然エネルギー利用のとりくみに協力します。
    9. ドイツやイギリスなどのヨーロッパでのエコロジー政策やエネルギー政策、脱原発の実情を視察するとりくみを行い、政策提言のより具体化を考えます。
      日程(予定) 5月24日(火)~6月1日(水) 7泊9日
    10. チェルノブイリ25周年に合わせて、4月に全国キャンペーンを開催します。

    9. 環境問題のとりくみ

    1. 水・森林・化学物質・生物多様性問題などのとりくみ
      東日本大地震による福島第1原発の事故は、放射能の拡散を招き、大気や水、土壌など環境に対して多大な影響を与えています。また、これらの問題に対する政府の対応は、多くの市民を不安に陥れています。こうした事態を招いた責任を追及するとともに、市民生活の不安を解消するための万全の措置を求めていく必要があります。
      家庭から出される有害化学物質の最大のものが合成洗剤です。平和フォーラムは、「合成洗剤追放全国連絡会」の事務局団体として、同連絡会の総会・学習会(2010年11月2日・全水道会館)の開催やニュースの発行に協力してきました。また、同連絡会の結成35周年記念事業として作成したポスターやリーフレットの普及などを進めてきました。また、各地でも水源地域の保全活動や水質検査活動などが進められてきました。今後も、合成洗剤の規制のため、化学物質の総合的な管理・規制にむけた「化学物質基本法」(仮称)の制定や、家庭用製品の危険性や水生生物に与える影響を表示する世界共通の絵表示ルール(GHS制度)の適用などを求めて運動を展開していく必要があります。 また、健全な水循環を構築するとともに、水の公共性を守るため、森林、河川、海岸等に関連する法体系を統合した、「水基本法」の制定が提起されてきましたが、食とみどり、水を守る全国集会(2010年12月10~11日・日本教育会館)などで学習・討議を行ってきました。現在、連合を中心に基本法の制定にむけたとりくみが行われており、さらに協力していきます。
      一方、森林は環境や農山漁村を守るうえで重要な役割を果たしています。その公益的機能に対する学習活動として、各地域で森林視察や林業体験などがとりくまれてきました。また、全国集会でも「森林・林業基本計画」および「森林・林業再生プラン」で定めた森林整備の確実な推進、地産地消による国産材の利用拡大、再生可能な木質バイオマスの推進などの学習・討議を行いました。今後も森林・林業・農山村の再生、木材産業の活性化などを図り、温暖化防止の目標達成を実現する必要があります。
      昨年10月に名古屋で生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)およびカルタヘナ議定書第5回締約国会議(MOP5)が開催され、遺伝資源から生じる利益の配分、生物多様性の損失を減少させる目標、遺伝子組み換え作物などがもたらす被害の補償などで一定の合意がなされました。この国際会議に向けて、消費者・市民団体を中心とした「食と農から生物多様性を考える市民ネットワーク」が作られ、同ネットワークが開いた集会やパレードなどに参加しました(2010年10月10~11日・名古屋)。今後も関係団体と協力して生物多様性を守るとりくみを進めていく必要があります。 人体や環境に影響を与える恐れがあるフッ素問題については、10月に開かれたフッ素問題全国集会(2010年11月7日・教育会館)に協力しました。今後も、学校等での集団フッ素洗口・塗布に反対する運動などを強めていく必要があります。
      また、「全ての水俣病被害者の救済を求める団体署名」(集約・新潟水俣病共闘会議)、「カネミ油症被害者の恒久救済に関する請願署名」(集約・カネミ油症被害者支援センター)運動にも協力してきました。
    2. 地球温暖化問題のとりくみ
      地球温暖化問題は、食料や水、安全な暮らしなど、人類の社会基盤を脅かすものとなっています。温暖化の主要原因である温室効果ガスの早急な削減に向けたとりくみが必要です。2010年11月~12月にメキシコ・カンクンで気候変動枠組条約締約国会議(COP16)が開かれ、京都議定書の第2約束期間の延長に向けた合意や、基金の創設など具体的な前進がありました。
      しかし、国内においては、温室効果ガスを1990年比で2020年に25%の削減をめざすとした「地球温暖化対策基本法案」を制定することができませんでした。基本法制定に向けて環境団体などによる「MAKE the RULE キャンペーン」がつくられ、平和フォーラムも活動に協力してきました。今後、事業所に排出上限枠を設けるなどの施策、環境税の導入、森林吸収源対策の着実な実施など、実効性のある内容で制定させることが必要です。また、福島第1原発の災害に見られるように、これまで温暖化対策のためとして進められてきた原発推進政策の根本的な転換を求めていくことが一層重要になっています。
      また、自然エネルギーを推進する法制度を早急に確立し、身近な地域資源を活用したバイオ燃料や風車、太陽光発電など地域分散型のエネルギーの利用を推進することが必要です。今後は「エネルギー政策プロジェクト」が提唱した自然エネルギーの推進や省エネ社会のあり方に対するとりくみを推進する運動と制度政策の要求を積み上げることが必要です。
    3. TPPなど貿易自由化に対するとりくみ
      日本は世界中から食料や木材を大量に輸入しています。これは、国内の第一次産業の衰退を招くばかりか、膨大なエネルギーを消費し、輸出国の水や土壌、環境の汚染を招いています。さらに、世界的な食料不足の時代を迎え、穀物価格の高騰が続いています。こうした状況の中で、自由貿易の一方的な推進は、日本と世界の食料や環境問題の解決を困難にしています。
      こうした問題があるにも関わらず、WTO(世界貿易機関)やFTA(二国間・多国間自由貿易協定)、EPA(経済連携協定)により、貿易自由化をめざす交渉が進められてきました。とくに、2010年10月に菅首相が環太平洋連携協定(TPP)交渉への参加を表明し、2011年6月をめどに農業をはじめ、「人の移動」や「規制制度改革」なども含めて、改革の基本方針を作り、TPPへの参加を進めようとしています。しかし、大震災の影響により、こうした方針の変更も予想されています。また、農業・農民団体をはじめとして、消費者団体、市民団体でもTPPへの参加に反対する運動が進められ、多くの自治体でも「反対」または「慎重に対応」との決議がされています。
      平和フォーラムは見解(2010年11月10日)で、国内農業への打撃、食料自給率の大幅低下、環境や地域経済への影響、農業以外の様々な分野への影響、東アジア諸国との関係への影響、世界のブロック経済化への懸念などの観点から、慎重な対応を求めてきました。農民・消費者団体とともに「貿易自由化・米国産牛肉輸入緩和反対 生産者・消費者集会」(2010年11月26日・衆院)を開催したのをはじめ、学習会(2011年2月18日)などを行ってきました。また、消費者・農民団体等の集会への参加・協力(2011年2月16日消費者集会、2月26日農民・市民集会)、パンフの発行などを進めてきました。今後も、消費者・市民団体、農民団体などと連携を強め、TPPの問題点を明らかにしながら、東アジア諸国をはじめとして、各国の農業や産業が共存できる公平な貿易ルールを求め、活動を進めていく必要があります。
      WTO交渉については、農業分野を中心にインド・中国とアメリカの対立が続くなか、大きな進展はありませんでしたが、今年中にも合意をめざす動きも出ており、引き続き注視していく必要があります。
    4. 第一次産業の転換や農林業政策のとりくみ
      東日本大震災は、東北や関東の農業生産にも甚大な被害をもたらしました。流失や冠水の被害を受けた田畑は2万6000ヘクタールにも及び、今年の作付け計画も立たない状況です。加えて、福島原発事故により、周辺地域は農産物などの生産・出荷制限や風評被害の渦中にあります。 このため、農水省は農林漁業の再生に向けた復興計画を検討しています。農業・農民団体では、農家への経済的補償に加えて、生産基盤と生産力の維持・確保対策、農村地域の振興と雇用対策、風評被害の防止等を求めています。これらは、食の安心・安定にもつながる課題でもあります。
      さらに、世界的な食料・農業危機を前に、国内の食料自給率の向上と農業の再建が求められています。これまでの規模拡大・効率化一辺倒の政策は、食の不安を引き起こす一方で、自給率の向上に結びついてきませんでした。いまこそ、食の安全や環境問題などに配慮した食料・農業・農村政策への転換を求めていくことが重要です。
      こうした状況のなか、昨年3月に、今後10年間を見通した新たな「食料・農業・農村基本計画」を策定し、食料自給率の50%への引き上げを基本に、「戸別所得補償制度の導入」「農業・農村の6次産業化」「食品の安全性の向上」などを重点政策としてきました。さらに、2010年度から「農業者戸別所得補償制度」のモデル事業として米の補償制度が始まり、今年度からは畑作作物へも生産費・所得を償う制度が導入されます。 しかしTPPと関連して、政府は農業改革を進めるとして、「食と農林漁業の再生推進本部」を設置して、農業の国際競争力強化や資本の参入も含めた大規模化推進なども提起されています。政府は6月に基本方針を出すことにしています。しかし、大震災の影響により、こうした方針の変更も予想されていますが、これと先の基本計画や施策との整合性などが今後の大きな焦点になっています。
      東日本大震災により多大な被害を受けた各地域の農林漁業の再建を含め、展望のある食料・農業・農村政策に向けた法制度確立と着実な実施を求めていく必要があります。
      また、各地では、全国的なアジア・アフリカ支援米作付け・送付運動(37都道府県からカンボジアとアフリカ・マリへ約50トン送付)などがとりくまれました。こうした活動をさらに拡大し、食の安全や農林水産業の振興に向けた条例作りや計画の着実な実施が必要です。
    5. 食とみどり、水を守る全国集会の開催
      「食の安全」、「食料・農業政策」、「森林・水を中心とした環境問題」を中心とした食とみどり、水・環境に関わる課題について、情勢と運動課題の確認、各地の活動交流のために、東京で「第42回食とみどり、水を守る全国集会」を開きました(2010年12月10日~11日・日本教育会館、700人参加)。また、いくつかの講演を収録した記録集を発行しました(2011年2月)。
      第43回全国集会については、2011年12月に名古屋で開催するよう準備します。そのため、関係団体や地域組織に呼びかけて実行委員会をつくります。

    《2011年度運動方針》

    1. 福島原発事故にともなう、環境への放射能汚染に対する万全な措置を求めて、関係団体とともにとりくみを進めます。
    2. 「きれいな水といのちを守る合成洗剤追放全国連絡会」の事務局団体として、活動を推進します。とくに、洗剤等の家庭用製品に対し、その危険性や有害性を表示する国際的な統一ルール(GHS制度)の導入を求めてとりくみます。
    3. 「水基本法」の制定に向けたとりくみをすすめます。また、水中や環境中の化学物質に対する規制運動を強めていきます。とくに、化学物質全体の規制のため、「化学物質政策基本法」の制定運動にとりくみます。
    4. 関係団体と協力して、政府の「森林・林業基本計画」および「森林・林業再生プラン」で定めた森林整備の確実な推進、地産地消による国産材の利用拡大、再生可能な木質バイオマスの推進などにとりくみます。
    5. 温暖化防止の国内対策の推進を求め、企業などへの排出削減の義務づけをはじめ、森林の整備、温暖化対策のための税制(環境税)の導入など、削減効果のある具体的な政策を求めます。
    6. 自然(再生可能)エネルギー普及や省エネルギーのための法・制度の改正などを求めていきます。また、温暖化防止を名目とする原発推進に反対します。
    7. 東日本大震災による農林漁業の被害に対する万全な対策を求めて、関係団体とともにとりくみを進めます。また、被災地域以外での増産を図るなど、食の安定確保も求めてとりくみます。
    8. TPPの参加に対しては慎重な検討を求めて、幅広い団体との連携を図りながら、学習会や集会等の開催、政府・政党への要請活動などにとりくみます。また、WTO農業交渉やFTA交渉でも、環境や農業、食料に大きな影響をもたらすことから、重要農産物を交渉から除外することなどを求めて集会、学習会、政府要請などの活動をすすめます。
    9. グローバリゼーション、新自由主義がもたらした、平和、環境、生活、労働などに対する影響などを検証し、それらをただすとりくみをすすめます。
    10. 政府の農業改革の基本方針に向けて、食料や林産物の自給向上対策、直接所得補償制度の確立、環境保全対策、農地の確保、幅広い担い手の育成、食の安全・安心を支える食料供給体制が構築されるよう求めてとりくみます。そのため、政策提言をまとめて、関係団体とともに政府や政党への要請を行います。
    11. 各地域における食料自給率や地産地消のとりくみ目標の設定を要求していきます。さらに、食の安全や有機農業の推進、農林水産業の振興に向けた条例つくりをはじめ、学校給食に地場の農産物を使用する運動、地域資源を活かしたバイオマス運動や間伐材の利用などのとりくみを広げていきます。
    12. 子どもや市民を中心としたアジア・アフリカ支援米作付け運動や森林・林業の視察・体験、農林産品フェスティバルなどを通じ、食料問題や農林水産業の多面的機能を訴える機会をつくっていきます。とくに、支援米運動では小学校の総合学習やイベントなどとの結合、地域連合との共同行動など、地域に広げてとりくみます。
    13. 「第43回食とみどり、水を守る全国集会」の開催に向けてとりくみます。

    10. 食の安全のとりくみ

    1. 食の安全行政に対するとりくみ
      福島原発事故による放射能汚染は、食の安全にも大きな影響を与えています。原発周辺で作られる農産物の出荷停止措置などが取られていますが、市民の不安は高まっています。農畜産物や水産物について、土壌や水質汚染、食物連鎖による放射性物質の蓄積なども考慮し、万全な体制をとるよう求めていきます。
      食品事故や表示偽装、誇大広告などの問題が相次ぐ中、平和フォーラムも参加する「食の安全・監視市民委員会」では、市民の中から様々な情報や通報などを収集して、問題点を整理して政府や企業に申し入れるための「食の安全・市民ホットライン」を開設しました(2010年10月23日記念シンポ・総評会館)。その後も、寄せられた情報をもとに消費者庁や業者に申し入れを行うなどの活動が進められています。今後も、とりくみの周知を図り、多くの情報を収集して申し入れなどを進める必要があります。また放射能汚染食品についての正しい情報開示と風評被害防止も重要です。
      また、食品表示の一元化および、消費者の食品選択に必要な情報を開示させ、消費者が誤認することのないようにその内容を適正なものとし、消費者の権利を確保することをめざして、「食品表示法」の制定を求め、消費者団体として法案の要綱案をとりまとめて、政府や政党への働きかけを進めてきました。今後、消費者庁の消費者委員会で検討が進められることから、さらに運動を強めていく必要があります。
      「健康食品」の表示の問題についても、討論会(2010年4月17日・総評会館)を開催し、さらに消費者庁の消費者委員会の論議に参画してきました。今後も具体的な問題点を指摘しながら、表示の改善を求めていく必要があります。
      今後、環太平洋経済連携協定(TPP)問題とも絡み、食品の安全規制も大きな課題となり、アメリカは食品添加物やポストハーベスト農薬規制の緩和などを求めてくることが予想されます。こうした問題に対して、消費者・市民の立場に立った食の安全確保を求めていく必要があります。さらに、民主党政権では「食品安全庁」の設置に向けた検討が進められることから、これらへの対応も重要になっています。
    2. 照射食品など新規食品技術に対するとりくみ
      食品に放射線を照射して殺菌や殺虫、発芽防止などを行う照射食品問題は、政府の原子力推進行政と一体となって原子力委員会が強引に進めようとしています。これに反対して、平和フォーラムなどで「照射食品反対連絡会」をつくり、政府や各党への働きかけを進めてきました。その結果、2010年5月に厚生労働省は、照射食品の安全データの不足や国民の理解が得られていないことから、当面、照射を認めない方針を出しました。運動の大きな成果と言えます。
      その後も、オーストラリアで照射された輸入ペットフードを食べた猫に異常が発生したことから、被害者を招聘しての集会開催(2010年7月17日・主婦会館)、リーフレットの作成(2011年3月発行)などのとりくみを行ってきました。現在、原子力委員会で進められている「原子力政策大綱」の見直し作業に対して、脱原発政策とともに、照射食品の推進を見直すように求めていくことが必要です。
      牛海綿状脳症(BSE)の発生を受けた米国産牛肉の輸入制限について、米国は現在行われている輸入牛肉の月齢制限の撤廃を求めて日米実務者協議が昨年から行われています。食の安全・監視市民委員会は規制緩和に反対して申し入れ(2010年11月)などを行ってきました。今後、TPP問題とも絡み、さらに米国の制限撤廃の要求が強まるものと見られます。これに反対するとともに、国内検査への助成金復活、原料原産地表示の義務化などを求めていくことが大切です。
      遺伝子組み換え(GM)食品の表示問題では、現在、表示義務がない食用油や醤油も含めて、GM食品の全面的表示を求める消費者団体の活動に協力してきました。特に、名古屋で開かれたカルタヘナ議定書第5回締約国会議(MOP5)では、GM規制が大きな焦点となったことから、シンポジウム開催(2010年10月11日・名古屋)に協力しました。引き続き、表示の改善や国内でのGM農作物の作付けに反対するとりくみを進める必要があります。また、TPP交渉に関連して、アメリカは遺伝子組み換え食品の輸入促進や表示の撤廃などを求めてくることが予想されることから、これに反対する運動が重要になってきます。
    3. 食農教育の推進のとりくみ
      自給率の低下とともに、食のグローバル化が進み、輸入農産物を多用した外食や加工食品が急増してきたことの弊害が様々に指摘されるなか、学校や地域での子どもたちを中心とした「食農教育」が推進されてきました。食とみどり、水を守る全国集会(2010年12月10~11日・日本教育会館)や、全国消費者大会(2010年11月12~13日・全電通会館)などで討議するとともに、行政との意見交換、各地域での支援米作付け運動などを通じた地域・子どもたちへの働きかけ等を進めてきました。今後も「食育推進基本計画」に基づき、学校給食での地場食材使用、栄養職員の教諭化など、各地域段階での実効性のある食育推進にむけ自治体要請などを進めていく必要があります。

    《2011年度運動方針》

    1. 福島原発事故にともなう、農畜産物・水産物の放射能汚染に対する万全な措置を求めて、関係団体とともにとりくみを進めます。
    2. 食品偽装や輸入食品の安全性などに対する対策の徹底、表示の改善を求めていきます。とくに表示制度の一元化、原料・原産地表示の徹底・拡大など、「食品表示法」(仮称)の制定を求めて政府等への要請や集会、学習会などをおこなっていきます。
    3. 「食品安全庁」の設置に向けて、既存の組織との役割分担を明確にし、消費者側に立った行政の推進を求めてとりくみます。
    4. TPP交渉にともなう、添加物・ポストハーベスト農薬規制の緩和、米国産牛肉の輸入制限の撤廃、遺伝子組み換え食品の輸入促進などの動きに反対して、消費者団体などと運動を進めます。
    5. 照射食品を認めない運動をすすめます。そのため、政府への要請とともに、食品関連業界や消費者へのアピール活動などをすすめます。
    6. 国内において引き続きBSEの全頭検査を継続するよう、政府・自治体に要請します。さらに、牛肉およびそのすべての加工品の販売、外食、中食において、原料・原産地表示を義務化することを求めていきます。
    7. 遺伝子組み換え食品については、国内における商業的作付けはしないことを求めるとともに、表示制度の改善を要求していきます。
    8. 健康食品についても、悪質な違法広告に対する規制を求めていきます。
    9. 各地域で食品安全条例や食育(食農教育)推進のための条例づくりなどの具体的施策を求める運動をすすめます。また、学校給食の自校調理方式、栄養教諭制度の推進を求め、学校給食に地場の農産物や米を使う運動や、地域の食材の見直し、地域内の安全な生産物の消費をすすめる地産地消運動などの具体的な実践をすすめます。

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