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2017年11月01日

賢く「記憶」をたどれ

今年のノーベル文学賞は、日本生まれのイギリス人作家カズオ・イシグロさんに決定した。今年こそはと期待を持っていた村上春樹ファンを失望させたが、イシグロさんも日本人の両親を持つ長崎生まれだから、喜んでもいいのかもしれない。彼の小説の通底するのは「忘れたいけど忘れてはならない記憶。イシグロの受賞には優れて現代的な意味がある」と、生物学者の福岡伸一・青山学院大学教授は述べている。

「感情的なポピュリズムの嵐が吹き荒れる世相に対して、文学が立ち向かうには『ポピュリズムとは正反対の深く沈潜する純粋な美学と、知的な言葉』だという、まさに文学の本質に戻ろうとした」とは、作家の冷泉彰彦さんの言葉だ。ノーベル賞もまた現在の政治状況とは無縁ではない。

9月20日(現地時間)、安倍晋三首相はニューヨークの国連総会で発言し、北朝鮮の核問題の解決に必要なのは「対話ではない。圧力なのです」と述べた。私たちは、現在を語るために「忘れてはならない記憶」を呼び起こさなくてはならない。1940年9月、日本は先の見えない日中戦争を打開しようと、米英を敵に回して、北部仏印(インドシナ半島)進駐と日独伊三国同盟に踏み切った。

翌年、米国の英・中・蘭と協力した対日経済封鎖(ABCD包囲網)と、11月26日の強硬な米国提案(ハル・ノートまたはTENPOINTS)によって追い詰められた日本は、12月8日、真珠湾奇襲攻撃を敢行し、山本五十六・太平洋艦隊司令長官に「是非やれといわれれば、初めの半年や1年は、ずいぶん暴れてごらんにいれます。しかし2年、3年となっては、全く確信は持てません」と言わしめた対米戦争に突入した。結果は皆さんご存じの通りだ。北朝鮮が日本と同じ道をたどることはないのだろうか。ないと誰が断言できるのだろうか。

総選挙で安倍首相は「愚直に、誠実に、まっすぐに政策を訴えていく」と強調した。愚直にとは「正直すぎて気のきかないこと」と広辞苑にはある。愚直にトランプとともに戦争への道に一直線に進むのか。近衛内閣から東条内閣、愚直な人間の集まりではなかったか。記憶をたどればそう思う。愚直な人間は愚直に戦争の道を選んだ。
(藤本泰成)

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