ニュースペーパー

2021年02月01日

技能実習生の除染裁判で和解

除染作業は技能実習制度の趣旨に沿わない

全統一労働組合 佐々木 史朗

2020年10月23日、福島県郡山市の建設会社(株式会社日和田)で働く技能実習生が除染作業をさせられた事件は、裁判所の和解勧告を受け、解決した。

被ばくの危険性も知らされなかった技能実習生

2015年、ベトナム人技能実習生3人は、鉄筋施工、型枠施工の技能習得を目的に来日したが、長期間にわたり、郡山市や本宮市の住宅地や山林で、本来の技能実習職種とは無関係な除染作業をさせられた。さらに、当時は避難解除準備区域で一般の立ち入りが禁止されていた福島県浪江町でも、配管作業に従事した。しかし、除染作業に従事する際に必要とされる除染電離則に定められた特別教育は行われておらず、放射線被ばくの危険性について十分な知識を与えられなかった。

全統一労働組合は、3人から相談を受け、会社と団体交渉を行ったが、会社は「謝罪も補償もしない」と開き直り、解決困難な状況が続いた。そこで、2019年9月、技能実習生3人が原告となり、福島地方裁判所郡山支部に、会社に対して謝罪と損害賠償の支払いを求めて提訴した。東京と福島で開かれた記者会見には、地元福島からも多数の新聞社・テレビ局が取材に集まり、この裁判は注目を集めた。

技能実習生は低賃金労働力ではない

そして2020年8月、裁判所は和解を勧告する文書を示した。勧告文書は「郡山市等における住宅除染作業は、除染作業自体が、一般に海外で行われる業務ではないことに加え、技能習得とは直接関係のない除染電離則に基づく特別の教育を受けること等が必要である点において、技能実習制度の趣旨目的に沿わないものであると言わざるを得ず、技能実習制度の枠組みの中で行わせることはできないと解すべきである」と明確に指摘した。

そして裁判所は、「除染作業は本来行わせることができないものであるが、仮に、除染作業を原告らに行わせようとする場合、労働契約上の観点からすると、少なくとも除染作業等を行わせるのに相応する賃金を支払うことが求められるというべきである」と述べ、「この場合の賃金は、除染作業を行った当時において、同種労働を行う労働者の賃金と同等であることが求められる」として、除染作業労働者の日給を8000円とし、原告ら技能実習生の当時の日給5752円との差額を支払うべきであるとした。

こうして、原告3人には一人あたり80万円から110万円を、さらに原告3人が技能実習習得の機会を得る利益を損なったことに対して、一人あたり20万円の慰謝料の支払いも求めた。

一方、浪江町での作業については慰謝料が認められなかった。原告側は、高線量区域における除染電離則が適用される可能性を指摘し、現地の空間放射線量の測定、結果の開示等を怠った労働安全衛生法違反を主張したが、これが認められなかったことは残念である。

本裁判の和解は、原告の証人尋問を経ずに行われた。仮に証人尋問が行われ、判決が示されたとしても、賃金差額分の請求が認容されただろう。和解に際して、裁判所は異例とも思われる和解文書を発し、事件についての判断を示した。裁判所が「技能実習制度の趣旨目的に沿わないものである」と明言したことは評価に値する点である。技能実習制度は、制度の趣旨目的に反して、もっぱら人手不足解消、低賃金労働力としての運用が横行している現状に一石を投じる判断と言えるだろう。

当初、会社は和解に難色を示し、また解決金の支払額も裁判所勧告の水準を下回る結果になったが、提訴から約1年を経て、和解により裁判が終結した。

新型コロナウイルス感染拡大の影響により、ベトナムにいる原告たちが証人尋問のために入国することが困難な事情、また判決に対しては被告会社の控訴により、さらに長期化する可能性も考えられることから、解決金の水準には不満が残るものの、早期解決を選択することとなった。

和解案が示されたときの記者会見 2020年8月

記者会見では、ベトナムから原告の一人が、「解決してよかったです。日本で働く実習生が、安心して働いてほしいです。みなさん、ありがとうございました」とのメッセージを日本語で寄せた。裁判闘争では、地元福島の平和団体、労働組合、市民団体などからもご支援をいただいた。あらためて感謝を申し上げたい。(ささきしろう)

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