WE INSIST!、ニュースペーパー

2020年09月01日

ポストコロナ社会は「命に寄り添う社会」─分断を許さず!

WE INSIST!

新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない。8月7日、東京都では新規感染者が462人、沖縄県でも初めて100人と三桁となった。全国での感染者は45,000人を超える。自粛期間中を超える急速な感染拡大に見える。世界の状況も同様だ。8月7日現在で、1,910万人超の感染が確認され、71万人以上が亡くなった。グテレス国連事務総長は、「大国の力の行使、人種差別、性差別そして収入差別といった不平等が我々の健康と未来を脅かしている」として、新しい社会のあり方を求めている。「深刻な不平等は、グローバルな脆弱性を生み出すことにつながった」「ウイルスは最も弱い立場に置かれた人々を最も高いリスクにさらす」とも述べている。仏の歴史家エマニュエル・トッドも、ここ30年のフランス政府の政策に言及し「人々の生活を支えるための医療システムに割く人的・経済的な資源を削り、いかに新自由主義的な経済に対応させていくかに力を注いできた」として、コロナ禍がその現実を突きつけていると述べている。SARS(サーズ)やMERS(マーズ)など様々な感染症を経験してきた人類が、新たな感染症にこれほど脆弱だったのはなぜなのか。そのことを私たちは、しっかりと捉え直し、コロナ後の社会を構想しなくてはならない。自立生活をサポートするNPO法人「もやい」には、緊急事態宣言発出以降様々な相談があるという。普通に暮らしていたのに、所持金が数百円しかなくなった人。1週間前までは住むところがあったのに、野宿をしている人。コロナ禍が、ギリギリの生活を強いられていた人々をあぶり出している。DVから逃れ住民登録ができないでいる人、路上で暮らす人に、マスクや10万円は届くのだろうか。安倍政権は、その当初から「誰でも何度でもチャレンジすることが出来る社会」をつくると主張してきた。そのことは一方で「自己責任」を求める社会のあり方でもあった。「もやい」の大西連理事長は、「(コロナ禍が)社会の安全網がいかに足りなかったかを明らかにしている」と述べている。そして、グテレス国連事務総長は、コロナ対策では人権の尊重を中心に据えることを主張している。日本国憲法は、25条で生存権を規定し、その2項で、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進が国の責務であると規定している。

コロナ禍の中で、日本においても「正義」を振りかざす心ない人々の行為によって、様々な分断と排除が進んでいる。そして、そのような不寛容な社会の中で、経済的に追い詰められていく人たちがいる。米国では黒人差別に対して#BlackLivesMatterの運動が広がった。日本人で黒人差別を容認するものは少数に違いないが、しかし、在日朝鮮人に対する差別にKoreanLivesMatterを叫ぶ人はまれだ。朝鮮高校の生徒が授業料の無償化から外されて久しいが、今度は朝鮮大学生がコロナ対策の一つ「学びの継続のための『学生支援緊急給付金』」から外された。さいたま市は、市内の幼稚園などへのマスク配布から当初朝鮮幼稚園を除いた。日本人は、マスクをつけないものには「正義」を振りかざすが、差別には振り向きもしない。

エマニュエル・トッドは、日本や韓国、台湾はコロナ対策をうまくやっているとして、「個人主義的でリベラルな文化の国と、権威主義の歴史のある国とでは、人々の振る舞いに違いが生まれるからかもしれません」と言っている。褒めているわけではないだろうが、この言葉は、コロナ禍の日本社会を見ていると「危うい」という思いに囚われる。小池百合子東京都知事は、自粛要請に応じない「パチンコ店」を、「夜の町」をコロナ感染拡大の要因として非難した。菅義偉官房長官は、風俗営業法などに基づいて警察が店舗に立ち入り、感染防止対策の徹底を呼びかける考えを示した。このような中で、「自粛警察」とか「マスク警察」とか呼ばれる行為が問題となっている。「閉店時間を守らないのなら休業しろ」、県外ナンバーの車には「出て行け」、東京からの移住者に、医療関係者へ、差別的な行為が行われる。強い同調圧力が、法的根拠のない「正義」になって暴れ回る。過日の朝日新聞の「声」の欄、81歳の女性の、名古屋での医療従事者に感謝を表す「青いハンカチ運動」に心温まるものを感じながらも、「なかには青い布を買ってでも参加しなければと感じた人はいなかっただろうか」と、戦時中を思い出しながら「周囲と同じように行動すれば心安らかでいられる一方、周囲の目を気にしなければならない閉塞感のある時代でした」と結んだ投稿が気になった。ドイツのメルケル首相は、コロナの自粛要請で「渡航や移動の自由が苦難の末に勝ち取られてきた権利であることを経験してきた私のような人間にとり、そのような諸制限(休業措置・学校閉鎖など)は絶対的に必要な場合にだけしか正当化できない。そうした様々な制限は民主主義では決して安易に決めてはならず、あくまでも一時的にとどめるべき」と発言している。安倍首相などが主張する「緊急事態条項を憲法に」というような主張は愚としか言い様がない。

分断と排除、差別を改め、個人の尊重に基づく「コロナ後の社会」を作り出そう。すべての人々の生きる権利、命の尊厳が保証される社会を、平和フォーラム・原水禁が主張してきた「一人ひとりの命に寄り添う社会」を、今こそ実現しなくてはならない。(藤本 泰成)

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