ニュースペーパー

2020年11月01日

〔本の紹介〕『元徴用工和解への道』

内田 雅敏 著 (ちくま新書)

元徴用工和解への道

アジア・太平洋戦争中に日本で強制労働をさせられた韓国人の元徴用工4人が、雇用者であった新日本製鐵に損害賠償を求めた訴訟で、2018年10月30日に韓国の大法院は、原告の主張を認め、新日本製鐵に対しひとりあたり1億ウォン(約1,000万円)の損害賠償を命じました。この判決を受け日本政府は、「1965年の日韓基本条約・請求権協定で解決済」と、裁判当事者の企業よりも声高に批判をしました。弁護士として、中国人強制連行・強制労働問題で、受難者と企業との和解交渉を成立させた著者は、その経験から、韓国人元徴用工問題解決の鍵はこのあたりにあると指摘します。日本は国交正常化時に植民地支配の責任を認めませんでしたが、法のないところでも条理に従った判断が和解を可能にし、裁判でだめだから和解交渉ということではなく、歴史の問題は和解によって解決していくことに積極的な意味を持ちうるのではないかと説きます。

花岡事件の和解が西松建設和解につながり、さらに三菱マテリアルでは、花岡・西松をはるかに超えた和解が成立しています。≪加害者は忘れても、被害者は忘れない≫、歴史問題の解決のためには、被害者の「寛容」と加害者の「節度・慎み」が不可欠で、私たちはこのことを肝に銘じて、加害の事実と向き合い続けなればならない。隣国すべてが友人になることが究極の安全保障で、歴史問題の解決こそが日本の安全保障につながると、著者は繰り返し訴えます。重いテーマの本書ですが、心が熱くなるエピソードも多数紹介されています。建設当時の発電所が現在も稼働していると知った遺族のひとりが「父たちが造ったこの発電所を末永く使ってほしい」と、案内の中国電力の担当者に話しかけ、担当者は即座に「はい、大切に使わせていただきます」と答えたという話もそのひとつです。

先日、都内大手老舗書店の新書コーナーにこのタイトルが平積みされていました。長く書店で働いてきた経験では、出版日から1箇月を過ぎても新刊として平積みになる書籍はなかなかありません。このことはこの本の関心の高さを示しているものだと思います。いま人権擁護と社会正義のために闘う弁護士は200人にひとりの割合だそうですが、弁護士としての通常業務の他に、戦後補償問題、靖国問題などに率先して取り組み、行動している、闘う内田弁護士の最新刊です。お薦めの1冊です。(市原 まち子)

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