平和軍縮時評

2016年08月30日

平和軍縮時評2016年8月号 「安保法制」への対案としての「北東アジア非核兵器地帯」―変化の芽をとらえ「非核兵器地帯」の交渉を  田巻一彦

平和軍縮時評2016年8月号 「安保法制」への対案としての「北東アジア非核兵器地帯」―変化の芽をとらえ「非核兵器地帯」の交渉を  田巻一彦

2016年8月30日

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「安保法制」への対案としての「北東アジア非核兵器地帯」
新情報:北朝鮮は7月に「非核化の条件」を提案していた!
変化の芽をとらえ「非核兵器地帯」の交渉を

本稿は、<被爆71周年原水爆禁止世界大会・長崎大会 第3分科会>での講演草稿に新しい情報を加えてアップデートしたものである。(田巻一彦)

安保法につらなる既成事実

まず、「安保法制」施行(16年3月20日)に先立つ2年ほどの間に、日本の防衛政策シーンで起こったことを書き並べてみよう。

  • 14年 4月 1日 武器やその部品の輸出の制限を撤廃する「閣議決定」が発表された。従来の「武器輸出三原則」の放棄を意味するこの決定で、日本は、米国や米国が名指した国に対して、制限なく武器や部品を輸出できるようになった。この「規制緩和」の重要な動機の一つは、日本の武器メーカーが、例えば次期戦闘機F35の「サプライチェーン」(部品供給網)に自由に参加し、そこで世界を相手にしたビジネスを展開することであった。それは米国の航空機メーカーの利益にも合致する。
  • 14年12月10日 特定秘密保護法が施行された。防衛・安全保障に関する秘密指定について政府の恣意的判断の余地を大幅に拡大し、国民の「知る権利」をいちじるしく制限する法律。これは07年8月に日米で交わされた「軍事情報包括保護協定(GSOMIA)」で義務づけられた法律であった。
  • 15年 3月25日 海上自衛隊の新しい護衛艦「いずも」が就役した。基準排水量19,500トン、全長240メートルの飛行甲板をもつ、その実態は「小型空母」。最大14機の航空機を搭載可能だ。この艦の就役をきっかけに、海上自衛隊の、海外での戦闘能力は格段に高まった。
  • 15年 4月27日 日米安全保障協議委員会(2+2協議)において、沖縄・辺野古への代替基地の建設が普天間基地問題の「唯一の解決策であることが再確認」された。それ以降の政府の強硬姿勢と沖縄の自治体・住民の粘り強いたたかいは周知のとおりだ。
  • 15年 4月27日 同じ協議委員会で、新しい「日米防衛協力の指針」が合意された。新「指針」は、米国が日本に「核戦力を含むあらゆる種類の能力を通じて、日本に対して拡大抑止を提供」し、日本は「切れ目ない、強い、柔軟かつ実効的な日米共同の対応」によって応えるとしている。憲法平和主義の諸原則を修正することなしに、この公約を履行することは不可能だった。「安保法制」はこの「新指針」を実行するための国内法であった。
  • 15年10月 1日 原子力空母「ロナルド・レーガン」が、ジョージワシントンに代わって横須賀に配備された。一方、空軍特殊部隊用スプレイ・CV-22の横田基地への配備も準備されている。

このように、「安保法制」は、長い年月をかけて日米の防衛・外務当局、タカ派人脈の中で着々と温められ、築かれた既成事実の「集大成」であった。参議院選挙への影響を懸念して「先延ばし」にされていた計画も、選挙での勝利(7月10日)を受けて、実行に移されてゆくだろう。安倍首相の目はその先には本丸=憲法改正をとらえているにちがいない。

 

5兆円を超えた日本の軍事費

  • 「安保法制」施行後初めての予算になる、2016年度の「防衛予算」(軍事費)は5兆541億円。第2次安倍閣の発足以来3年連続の増額である。そこに盛り込まれたのは次のような「買い物リスト」である。
    1. 島嶼(とうしょ)防衛:垂直離着陸輸送機V22オスプレイ4機(447億円)、機動戦闘車36両(252億円)。鹿児島・奄美大島と沖縄・宮古島に部隊を配備(195億円)。
    2. 対中国航空優勢確保:F35戦闘機6機(1084億円)、空中給油機1機(231億円)、無人偵察機「グローバルホーク」(146億円)、新型早期警戒機1機(260億円)、新型潜水艦1隻(636円)。
    3. 弾道ミサイル防衛(MD):最新鋭イージスシステム搭載護衛艦(1734億円)。
    4. 在日米軍関係経費:普天間飛行場の辺野古移設を含む在日米軍再編事業(1766億円)、在日米軍駐留経費の日本側負担(1920億円)。
  • これらの「買い物」は、私たちが直面する(あるいは「直面している」と政府が喧伝する「脅威」に対して果たして有効なのだろうか?

 

ケースススタディ:北朝鮮の「核とミサイル」に如何に対応するか?

  • 16年2月に朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)が「ミサイル」を発射した時、日本、韓国、米国がとった行動には、以下のように大きな問題があった。
  • 日本政府はこれを「事実上のミサイル発射」と呼んだが、じっさいには北朝鮮が主張するとおり衛星打上げ」だったことは米軍当局も認めている。日本では、そのことをメディアも含めてほとんどが指摘しなかった。(北朝鮮は「ミサイルを発射した」場合は「ミサイル発射」だと公言する。8月以降に行ったSLBMを含む弾道ミサイル発射に「衛星打上げ」などという説明はしていない。誇らしげに「ミサイル発射に成功」と宣伝する)
  • 日米政府はこれらの事態に「ミサイル防衛(MD)」で対応した。すなわち、イージス艦を朝鮮半島沖に派遣し、パトリオット(PAC3)ミサイルを沖縄に配備して「迎撃態勢」をとった。しかし、イージス艦はミサイルを追尾はできても迎撃する能力は実証されていない。PAC3いたっては、弾道ミサイルを迎撃するのは無理。だからこれらの行動は、あたかもミサイル防衛システムで北朝鮮のミサイルを迎撃できるという「幻想」をふりまき、高額な兵器システムの「存在」をアピールすることを目的とした「実効性なき」行為だった。日本にはミサイルが飛んできても迎撃する手段はないのだ。
  • 3月2日、国連安保理が北朝鮮制裁決議を採択するとほぼ同時に、30万人規模の米韓合同演習が始まり、4月末までつづけられた。北朝鮮は、これを侵略・敵対行為と呼び、「報復攻撃」をほのめかしつつ、示威のためにミサイル発射等をくり返した。
  • 8月8日には。日本政府は朝鮮民主主義人民共和国(以下「北朝鮮」)の弾道ミサイルの飛来に備え「破壊措置命令」を発し、今後は同命令を3か月ごとに更新してゆくと発表した。同命令のもとで、PAC3部隊が防衛省構内に常時配備されるとともにイージス艦1隻が日本海に派遣された。このように日本では、ミサイル迎撃態勢の「日常化」と呼ぶべき事態が進行している。
  • このように、日、米、韓が軍の大部隊や高額兵器を使って北朝鮮に対して行っている行為は、事実と異なる認識を国民に広め、役に立たない兵器への幻想を拡大しながら、「制裁と挑発」の負のスパイラルを増幅している。

これでよいのか?

  • 真に事態の解決を導くための方法があるとすれば、それは「外交」以外にない。そのためには相手(北朝鮮)が何を望んでいるかを知る必要がある。
  • そのことを改めて認識させる事態が、実は7月上旬に起こっていた。詳しく振り返ろう。

朝鮮半島の新状勢(16年7月)

米「経済制裁」で外交チャンネル途絶

16年7月6日、米国は北朝鮮政府による人権抑圧を理由に、金正恩国務委員長らを経済制裁対象に加えると発表した。7月7日、北朝鮮はただちに外務省声明を発し、制裁は宣戦布告に等しいと非難、米国を「戦争法の対象として扱う」と宣言した。さらに7月10日には、公式外交チャンネルを遮断すると通告した。米朝関係は近年最悪の状況に立ち至った。

DPRKの「非核化」5項目提案

しかし。以上のような「制裁」を巡る緊迫したやりとりの直前に、DPRKが非核化協議の前進につながりうる提案を行っていたことは、ほとんど報道されていない。7月6日に発表された政府声明「『北の非核化』の詭弁を非難する」(以下「7.6声明」と呼ぶ)で、北朝鮮は朝鮮戦争「休戦協定」を終結し「平和協定」を締結することを再度提案するとともに、米国と韓国が次の5つの行動をとれば、非核化協議に応じることができると述べた:

  1. 朝鮮半島のすべての核兵器の存在を公表すること。
  2. 韓国にあるすべての核兵器及び核基地を検証可能な形で撤去すること。
  3. 朝鮮半島及びその近傍に核兵器を配備しないこと。
  4. いかなる場合もDPRKに核兵器による威嚇を行わないこと。
  5. 核兵器を使用する権限のある部隊すべての韓国からの撤退を宣言すること。

「7.6声明」は、13年以来経済建設と核開発を同時に推進する「並進路線」をとっている北朝鮮が、核・ミサイル開発から経済建設に比重を移そうとしていることの表れと読み取れた。「7.6声明」が発せられたのは、米国の「経済制裁」発表の数時間前と思われる。米国は対話再開の好機を逃す、大きなミスを犯したのだ。

 

「7.6声明」は非核化協議を前進させうる

「7.6声明」の5項目のうち、5.を除く4項目は、1992年の「朝鮮半島非核化のための南北共同宣言」、「第4回6か国協議」における「9.19共同声明」リンクなどですでに合意されている。
北朝鮮は米ミサイル防衛システム(THAAD:高高度防衛ミサイル)の韓国配備決定に反発、対抗措置を表明しているので、新たな挑発が行われる可能性は否定できない。核実験場の動きが活発化しているとの情報もある1。しかし「7.6声明」は、互いに歩み寄ることを提案して、具体的な協議に道を開きうる要素があることは間違いない。米国が「制裁」で犯したミスを早期にカバーすることが前提となるが、北東アジアの平和と安全保障の根本的解決の第一歩として、私たちは同声明を「北東アジア非核兵器地帯」実現に向けて前進する好機ととらえるべきであろう。

「北東アジア非核兵器地帯」を目指そう

私たちが、もっとも現実的で実現可能性が高いと考える「北東アジア非核兵器地帯」は次のような要素を持つ。

  1. 韓国、DPRK、日本の3か国が非核国として非核兵器地帯を構成する。前記の「南北共同声明」は韓国とDPRKの加盟の基礎となり、そして日本にとっては「非核三原則」と「原子力基本法」がこの基礎となりうる。この3か国に、すでに「非核兵器地帯地位」を確立しているモンゴルが加わればより望ましい。
  2. 地域に関わりの深い3つの核兵器国(米国・ロシア・中国)が、非核兵器地帯を形成する3か国に対する核攻撃やその威嚇を行わないと誓約する。これを「法的拘束力のある消極的安全保証」と呼ぶ。

以上の関係を図に示す。

 

この構想は、96年に梅林宏道氏が提案、04年にはピースデポが韓国NGOなどの協力を得て「モデル『北東アジア非核兵器地帯』条約案」を起草した。また、12年から15年にかけて長崎大学核兵器廃絶研究センター(RECNA)によって構想実現の「包括的プロセス」の研究が行われた。

核「先行不使用」の反対理由にするな

おりしも、オバマ米大統領は核兵器の「先行不使用」を宣言することの検討を始めた。この政策変更は「非核兵器地帯」で求められる「消極的安全保証」の基礎となる。日本政府内には抑止力が低下するとして、「先行不使用」宣言への異論が多いと伝えられる。私たちは、被爆国として、地域と世界の非核化を先導するべき責任に背を向けるこの姿勢を強く批判し、声を上げねばならない。(田巻一彦)

ピースデポは、現在「北東アジア非核兵器地帯」への支持拡大のため、2つのキャンペーンに取り組んでいる。「宗教者キャンペーン」と「自治体首長キャンペーン」である。詳細はピースデポ・ウェブサイト(www.peacedepot.org/theme/nwfz/list1.htm)をご覧ください。

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