2022年、平和軍縮時評

2022年07月31日

日本は核廃絶に向けてさらなる努力を―核兵器禁止条約第1回締約国会議を終えて

渡辺洋介

1. はじめに

 2022年6月21日から23日までオーストリアのウィーンで核兵器禁止条約(TPNW: Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons)第1回締約国会議が開かれた。会議には、49の締約国のほか、34のオブザーバー参加国、国際機関、85のNGOが参加し、6回にわたる全体会合が開かれた。会議は最終日に「核兵器禁止条約第1回締約国会議ウィーン宣言『核兵器のない世界にむけてのコミットメント』」(以下、「ウィーン宣言」)[注1]および「ウィーン行動計画」を採択して閉幕した。唯一の戦争被爆国日本は、世論の約70%がTPNW署名支持であるにも関わらず[注2]、署名はおろか、第1回締約国会議へのオブザーバー参加すら見送った。一方で日本の市民社会からは、日本政府の委嘱を受けたユース非核特使を含む多くの参加があり、日本政府の不在を際立たせることになった。以下では、TPNWの主な内容について確認したうえで、ウィーン宣言および行動計画を詳細に見ていきたい。

2. 核兵器禁止条約とは

 TPNWは、核兵器を絶対悪と捉え、その保有などを禁止する条約である。条約は、第1条(a)項で、核兵器の開発、実験、生産、製造、取得、保有、貯蔵を、(b)項で核兵器の移譲を、(c)項で受領を、(d)項で使用および使用の威嚇を禁じている。さらに、(e)項で上記の活動を「援助し、奨励し、または勧誘すること」を、(f)項で「援助を求めること又は援助を受けること」を禁止し、(g)項で他国の核兵器を自国領域内に配備することを禁止している[注3]。日本がTPNWに加入した場合、日本は、米国による核兵器「使用の威嚇」を、すなわち、米国の核抑止政策を奨励できなくなるとともに、米国の核兵器の日本領域内への持ち込みや核共有も禁じられる。こうしたことが米国の核抑止に依存する日本にとって不都合と考えているためか、日本政府は今もTPNWに署名も批准もしていない[注4]。
TPNWは2017年7月に採択され、2021年1月に発効した。2022年7月現在、署名国は86か国、批准国は66か国である[注5]。

3. ウィーン宣言

 第1回締約国会議で採択されたウィーン宣言は「核兵器のない世界を実現するために直ちに行動を起こすことが必要」で、核兵器の全面廃絶が「いかなる状況下でも核兵器が再び使用されないことを保証する唯一の方法である」(第3項)と主張した。また、核兵器がもたらす壊滅的な人道上の影響は、国境を越え、生存権の尊重と相容れないものであるとするともに、核兵器は、破壊や殺戮だけでなく、環境、持続可能な開発、世界経済、食糧安保、人びとの健康に長期にわたる深刻な損害をもたらすという認識が示された(第3項)。これは、2013年にオスロで開かれた核兵器の人道上の影響に関する第1回国際会議の議長サマリーを確認するものである[注6]。

 宣言では「核兵器のいかなる使用または使用の威嚇も、国際連合憲章を含む国際法に違反することを強調」し、「明示的であろうと暗示的であろうと、またいかなる状況下であろうと、あらゆる核の威嚇を明確に非難する」(第4項)として暗にロシアによる核使用の威嚇を非難した。

 また、宣言には「核抑止論という誤りは、核兵器を実際に使用するという威嚇に依存しており、それゆえ、無数の生命、社会、国家の破壊と地球規模の壊滅的な結末をもたらす危険性に依存している」(第5項)と明記された。49の締約国が採択した国家間の公式文書が、核抑止論を誤りと明確に否定したことは特筆すべきことがらである。

 つづいて宣言は、今も13000発もの核兵器が存在し、核保有を前提とした安保政策が採用されていることに懸念を示し(第6項)、核保有国と核兵器依存国を非難した(第7項)。また、核兵器に悪の烙印を押して非合法化し、反核兵器の国際規範確立をめざし(第8項)、核廃絶に向けて国際機関、NGO、被爆者、核実験被害者、青年グループと連携するとした(第9項)。第12項と第13項は、TPNWがNPTや非核兵器地帯といった既存の不拡散体制と相互に補完関係にあることを強調した。最後に宣言は「我々は、最後の国がこの条約に参加し、最後の核弾頭が解体・破壊され、地球上から核兵器が完全に廃絶されるまで休むことはない」(第16項)と全面核廃絶に向けた強い決意を表明した[注7]。

4. ウィーン行動計画

 ウィーン行動計画は、核廃絶にむけた50の行動計画を定めている。その内容は、(1)普遍化、(2)核兵器の全面廃絶にむけて、(3)被害者支援および環境修復、(4)科学的・技術的助言の制度化、(5)TPNWと既存の核軍縮・不拡散体制との関係(補完性)、(6)その他、の6つの分野に分かれている。以下、それぞれを見ていきたい[注8]。

(1)普遍化

 普遍化とは、条約の締約国・批准国を増やすとともに、TPNWの基本的な考え方を非締約国に広めることをいう。TPNWの普遍化奨励を規定した条約第12条を受けて、その実施に向けた具体的措置が行動計画に定められている。

 まず、行動1で条約の普遍化は締約国が優先的に取り組むべき事項であることが示された。その具体的な取り組みとして、60日以内に各国が普遍化に向けた連絡担当者を任命し(行動6)、国連総会の関連決議の賛成国を増やすとともに(行動8)、核抑止に固執する国々とも対話するとしている(行動12)。また、条約の普遍化に関する非公式作業部会の設置が決定され、南アフリカとマレーシアが共同議長を務めることとなった[注9]。

(2)核兵器の全面廃絶に向けて

 条約第4条には、核兵器の全面廃絶に向けて取るべき措置が定められており、行動計画にはそれを実現するための具体的措置が掲げられている。行動15は、今後設立される核兵器廃棄の検証を行う国際機関について、次の締約国会議までの間(会期間)も議論を続けることを明記した。また、行動16でそのための連絡担当者を各国は90日以内に任命することが定められた。この問題に関する非公式作業部会の設置も決定され、メキシコとニュージーランドが共同議長を務めることとなった[注10]。

 第1回締約国会議では、核保有国が条約を批准した場合、原則として10年以内の核兵器廃棄を義務付けるとともに、場合によっては最大5年の延長期間を認めることとした。また、自国内に他国の核兵器が配備されている場合、核兵器の撤去期限を90日以内とすることでも合意した[注11]。これに関して行動17は、核兵器の廃棄および撤去の期限延長要請をどのような場合に受け入れるかについて各国に意見を出すよう求めている。

(3)被害者支援および環境修復

 条約に定められた被害者支援(第6条)と環境修復(第7条)に関する規定を受けて、それを実現するための具体的措置が行動計画に掲げられている。行動21は第1回締約国会議の3か月後までに、この問題に関するフォーカル・ポイント(担当)と連携先を各国が設置することを定めている。また、被害者支援の際には、核兵器の使用と実験が、子宮や乳房など放射線の影響を受けやすい組織を多く持つ女性と、政治的発言力の弱い先住民により強い悪影響を与えてきた点を考慮すべきことが明記された(行動25)。

 核実験場があった国など、核兵器の使用または実験の被害を受けてきた締約国は、自国の領域における被害者のニーズや環境汚染などに対する初期評価を第2回締約国会議までに完了させることが義務付けられた(行動30)。さらに、そうした締約国は、被害者支援と環境修復の義務履行のため、予算および期限を定めた国家計画を策定し、その進捗状況を第2回締約国会議で共有することが必要となった(行動31)。

 一方で国際的な協力と援助をできる立場にある締約国は、行動32で外部支援の必要性のある締約国を支援する義務があることが確認された。また、被害者援助と環境修復の分野で非公式作業部会を立ち上げることが決定され、カザフスタンとキリバスが共同議長を務めることとなった[注12]。

(4)科学的・技術的助言の制度化

 行動33により、科学諮問グループを支援する認定専門家を任命することとなった。人数は15人以内で、会議終了後90日以内に候補者を推薦する予定である[注13]。科学諮問グループの設置が正式に決まったことはTPNWを前進させるうえで重要な意義を持つと言われている[注14]。

(5)TPNWと既存の核軍縮・不拡散体制との関係(補完性)

 行動35は、NPT準備会合や再検討会議などで既存の核軍縮・不拡散体制とTPNWの補完性を強調することを奨励し、行動36には、会期間にそのための非公式ファシリテーターを任命し、TPNWとNPTの協力分野を具体化することが明記された。ファシリテーターには、アイルランドとタイが指名された[注15]。また、締約国は、国際原子力機関(IAEA)や包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)などと検証などの協力をするとともに(行動37)、政府のみならず、市民社会、学術界、国会議員、一般市民の意識を高める活動に協力することを定めた(行動38)。

(6)その他

 その他は4つのサブカテゴリーに分かれる。第1に「条約の実施における利害関係者間の包括性と協力の原則」では、締約国は、国連、赤十字、ICAN、学者、被害者社会、その他の市民団体と緊密に協力しなければならないことが定められた(行動40)。

 第2に「条約実施支援の追加的側面」として会期間活動の調整は調整委員会と非公式作業部会が行うこととなった(行動43)。第2回締約国会議までの間の調整委員会の議長は、第1回および第2回締約国会議の議長が、すなわち、オーストリアとメキシコが共同で務めることとなった[注16]。

 第3に「透明性と情報交換」では、条約第2条に定められている核兵器保有に関する初期宣言を遅滞なく行うことが明記された(行動46)。

 第4に「TPNWのジェンダー規定の実施」は、第2回締約国会合にジェンダー規定の実施を支援するために進捗状況を報告する担当(ジェンダー・フォーカル・ポイント)を設置することが定められ(行動48)、担当にチリが任命された[注17]。締約国会議では、核兵器とジェンダーの関係が繰り返し議論され、これまで抜け落ちていた女性の視点が少しずつ取り入れられたとのことだ[注18]。

5. 日本は核廃絶に向けてさらなる努力を

 ここまで第1回締約国会議で採択されたウィーン宣言と行動計画を詳細に見てきた。行動計画は具体的な規定が多く、核廃絶に向けて今できることを一歩一歩進めていこうという姿勢が感じられる。また、TPNWとNPTが補完関係にあることが幾度となく強調されている点が目を引いた。行動計画には両者の協働を進めるための具体的な行動が記されている。

 第1回締約国会議には、米国の核の傘に依存するドイツ、オランダ、ノルウェー、オーストラリアのほか、スイス、スウェーデンもオブザーバー参加した。また、2021年8月5日に広島で与野党8党の代表が参加して開かれた討論会「核兵器禁止条約締約国会議とNPT再検討会議に向けて」では、参加した全政党が日本のオブザーバー参加に賛成だった[注19]。それにも関わらず、日本がオブザーバー参加すらしなかったのは残念でならない。

 日本の市民団体が締約国会議に参加しているにも関わらず、日本政府がオブザーバー参加すらしないのは、唯一の戦争被爆国の政府としてあるべき姿ではない。ドイツ、オランダ、ノルウェー、オーストラリアにできることが、なぜ日本にできないのであろうか。第2回締約国会議は、2023年11月27日から12月1日までニューヨークの国連本部にて開かれる(議長国:メキシコ)。核兵器国と非核兵器国の橋渡し役を自称するのであれば、日本は核廃絶に向けた、さらなる一歩として第2回締約国会議からでもオブザーバー参加すべきである。

 日本政府は「核なき世界」の実現という目標はTPNWを推進する国々と共有しているという。そうであれば、目標実現に至るまでの次のステップとして、自らの安全を米国の核兵器に依存する核抑止政策からいかにして脱却するかを構想すべきである。その構想の1つとして長年提起されている「北東アジア非核兵器地帯」[注20]の設立を日本が公式の政策目標とすることは「核なき世界」に向けた重要なステップとなる。同地帯が設立されれば、日本と韓国は米国の核の傘に依存する必要がなくなり、北朝鮮は米国の核の脅威から解放される。それは日本、韓国、北朝鮮のTPNW加入への道を開くはずである。

注1 第1回締約国会議で、宣言の内容は普遍的で特定の場所に結びつけるべきではないとの立場から「ウィーンで開催された核兵器禁止条約第1回締約国会合の宣言」(“Declaration of the 1st Meeting of States Parties of the Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons, held in Vienna”)に変更するよう求める意見があり、最終的にクメント議長はこの提案を受け入れ、宣言はタイトルを変更して採択された。ところが、その後も、インターネット上で入手できる宣言(PDF文書)のタイトルは変更されていない。
注2 『中日新聞』2021年8月1日
https://www.chunichi.co.jp/article/302162
注3 核兵器禁止条約(TPNW)、ピース・アルマナック刊行委員会編著『ピース・アルマナック2022』(緑風出版、2022年)、85-86頁。
注4 日本政府は、TPNWに加入せず、締約国会議に参加しない理由として、(1)「同条約は、その交渉に当たりいずれの核兵器国等の参加も得られず、また、現実の国際社会における安全保障の観点を踏まえて作成されたものとはいえないことから、核兵器国のみならず、核の脅威にさらされている非核兵器国からも支持を得られていない」こと、(2)「現実の国際社会においては、いまだ核戦力を含む大規模な軍事力が存在しており、そのような厳しい安全保障環境の下で我が国として安全保障に万全を期するためには、核を含む米国の抑止力に依存することが必要である」ことの二点をあげている。
出典:衆議院議員今井雅人君提出核兵器禁止条約への日本の参加に関する質問に対する答弁書(2021年1月29日)
https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/b204001.htm
注5 国連軍縮局HP
https://treaties.unoda.org/t/tpnw
注6 ウィーン・レポート⑥:第1回締約国会議 最終日 (最終文書速報版暫定日本語仮訳【更新版】公開)、核兵器廃絶日本NGO連絡会
https://nuclearabolitionjpn.wordpress.com/2022/06/24/tpnw-1msp-wien-report-20220624/#more-4245
注7 ウィーン宣言
https://documents.unoda.org/wp-content/uploads/2022/06/TPNW.MSP_.2022.CRP_.8-Draft-Declaration.pdf (英語)
https://nuclearabolitionjpn.files.wordpress.com/2022/07/draft-declaration-in-vienna_provisional-japanese-translation_20jul2022rev4.pdf (日本語仮訳)
注8 ウィーン行動計画
https://documents.unoda.org/wp-content/uploads/2022/06/TPNW.MSP_.2022.CRP_.7-Draft-Action-Plan-new.pdf (英語)
https://nuclearabolitionjpn.files.wordpress.com/2022/07/draft-vienna-action-plan_provisional-japanese-translation_22jul2022rev4.pdf (日本語仮訳)
注9 Decisions to be taken by the first Meeting of States Parties to the Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons (TPNW/MSP/2022/CRP.6)
https://documents.unoda.org/wp-content/uploads/2022/06/TPNW.MSP_.2022.CRP_.6-Decisions-new.pdf
注10 注9と同じ。
注11 ウィーン・レポート⑤:第1回締約国会議 第2日目、核兵器廃絶日本NGO連絡会
https://nuclearabolitionjpn.wordpress.com/2022/06/24/tpnw-1msp-wien-report-20220623/
注12 注9と同じ。
注13 注9と同じ。
注14 核兵器禁止条約第1回締約国会議を終えて―長崎大学核兵器廃絶研究センター(RECNA)見解(2022年6月24日)
https://www.recna.nagasaki-u.ac.jp/recna/eyes/no24-jp
注15 注6と同じ。
注16 注9と同じ。
注17 注9と同じ。
注18 徳田悠希「私たちが見た締約国会議―多様な声から作られる政策を」『脱軍備・平和レポート』第16号(2022年8月号)
http://www.peacedepot.org/wp-content/uploads/2022/07/DP-Report-No.16.pdf
注19 討論会「核兵器禁止条約締約国会議とNPT再検討会議に向けて」レポート、核兵器廃絶日本NGO連絡会(2021年8月5日)
https://nuclearabolitionjpn.wordpress.com/2021/08/08/20210805roundtable-report/#more-3205
注20 「北東アジア非核兵器地帯」構想とは、日本、韓国、北朝鮮、米国、中国、ロシアの6か国の間で結ばれる非核兵器地帯条約構想で、日本と南北朝鮮が非核兵器地帯を構成し、米中露が日本と南北朝鮮に対する核兵器の使用と使用の威嚇をしない義務を負うというものである。

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