2022年、平和軍縮時評

2022年05月31日

極東最大級となった米海兵隊岩国航空基地 ー横須賀・佐世保とのトライアングルの要めとなる岩国ー 

湯浅一郎

2022年5月20日、在日米海兵隊第1海兵航空団(沖縄県)は岩国基地(山口県岩国市)にステルス戦闘機F35Bを16機追加配備する計画が完了したと発表し、「恒久的に前方展開する32機のF35Bの部隊が完全に作戦を支援する準備が整った」とした(注1)。F35Bは、F35戦闘機のなかで短距離離陸・垂直着陸(STOVL)ができるようにした機種である。同日、米海軍の強襲揚陸艦「トリポリ」(母港サンデイエゴ)が岩国基地に初寄港した(注2)。同艦は岩国基地に入港した艦船では最大規模で、F35Bを搭載できる飛行甲板を備えている。さらに5月9日には米海兵隊が3年ぶりに公表した航空計画で、2014年から岩国基地に15機配備されているKC130空中給油機を2023年3月までに17機に増強することも明らかになっている(注3)。こうして岩国基地は増強の一途をたどっている。ここでは、その果たしている役割、在日米軍における位置付けにつき考える。

1)海兵隊航空基地としての岩国基地

そもそも岩国基地は米海兵隊の航空基地である。米海兵隊は7つの航空基地を有しているが、そのうち2つが海外に展開している。それが普天間(沖縄県)と岩国である。つまり海兵隊の航空基地は海外では日本だけにしかない。普天間基地は、オスプレイ24機をはじめとしたヘリ部隊が常駐している。これに対し岩国基地には、FA18ホーネット戦闘攻撃機を中心に垂直離着陸戦闘機AV-8BハリアーⅡやグラウラー電子戦機など約60機の戦闘機が配備されていた。

この中でAV-8BハリアーⅡは佐世保の揚陸艦に搭載されて、海上から離発着する運用が行われてきた。16年3月、「フォール・イーグル」に参加した揚陸艦「ボノム・リシャール」(当時、佐世保配備)が釜山港に入港した際の写真がある。そこにはMV22オスプレイとともに、AV8BハリアーⅡが少なくとも3機、見える。オスプレイは普天間配備のMV22で、岩国を経由して来たに違いない。ハリアーは、当時、岩国基地に配備されていたものと推定される。

2016年8月、米軍は、岩国のハリアー8機、及びホーネット20機を岩国から米本国に移駐し、代わりに2017年からF35Bステルス戦闘機16機に交代すると発表した。F35Bは2017年から順次配備され、2017年の米韓合同演習「フォール・イーグル」には岩国に配備されたばかりのF35Bステルス戦闘機が韓国軍の戦闘機とともに北朝鮮への先制攻撃を模した演習を行ったとの報道がある。そして冒頭に述べたように、現在それが32機に増強されている。

18年1月14日、強襲揚陸艦「ワスプ」が佐世保基地に配備されたが、同艦は飛行甲板が強化改修されており、岩国基地のF35Bを艦載機として運用することができ、いわばミニ空母としての機能を有している(注4)。このように岩国配備の垂直離着陸機は、佐世保の強襲揚陸艦に搭載される攻撃機としての位置づけが一貫してある。強襲揚陸艦はヘリ空母と称され、海上のヘリ基地となるが、垂直離着陸戦闘機を搭載することにより、空母と同じ機能を有している。これは、沖縄や岩国の海兵隊の航空機を、佐世保の揚陸部隊が輸送し、空母より小規模とはいえ海上に軍事空港をつくれることを意味する。

2)空母艦載機の移駐で海軍も同居

その岩国に厚木基地の空母艦載機部隊の移駐計画が米軍再編の過程で急浮上した。この計画は2005年の中間報告には含まれていなかったものである。その理由は明確に示されていないが、横須賀配備の空母を原子力空母にする計画となり、神奈川県への負担増を配慮して、海面埋め立てで基地がほぼ1.5倍に拡張した岩国が矢面に上がった可能性はある。また現在、馬毛島で自衛隊基地として建設を強行しようとしているが、懸案である空母艦載機の夜間離着陸訓練基地を西日本で確保する方針であることも影響しているかもしれない。岩国市長をはじめとした地元の強い反対運動が起きたが、これに対して政府の意志は固く、計画を覆すことはなかった。そして2018年3月31日、厚木基地の空母艦載機部隊61機の岩国移駐が完了した(注5)。これにより岩国は海軍と海兵隊が共存する基地となった。

現在の岩国基地への配備機数は明確にされていないが、極東最大になっていることは間違いない。元々の海兵隊配備の60機、空中給油機15機に加え、厚木から移駐した空母艦載機61機を含めると合計136機になる。中国新聞などは120機以上と表現しており、そこに空中給油機が入っているのかどうかは分からないが、いずれにしても130機前後の米軍機が岩国基地に配備されているのである。これまで極東最大といわれた沖縄県の嘉手納は全部合わせても100機程度なので、それをはるかにしのぐ規模である。

岩国への空母艦載機部隊の移駐が完了したことで、岩国は単なる海兵隊基地ではなくなった。空母艦載機部隊は海軍であるから、岩国は海軍基地としての性格も持つようになったのである。否、むしろ海軍基地の性格の方が強くなったといってもいい。

原子力空母は動く軍事空港である。空母1隻の艦載機部隊は中規模国の軍事空港を上回る能力がある。これを10隻、米国は有しており、世界中どこの海にも行ける。どこかで戦端を開く必要があれば空母を派遣して艦載機が爆撃をする。イラク戦争が典型だが、1、2カ月の戦闘で政権を覆すぐらいの力を1個の空母打撃群は有している。全長333㍍強、喫水が12.5㍍弱で排水量10万㌧。後方の甲板の下に熱出力で60万㌔㍗の二つの原子炉が横にして設置されている。電気を作る原子炉でないので直接比較はできないが、島根原発1号機を少し小さくしたぐらいの熱出力を持っている。そばには高性能爆弾の弾薬庫があり、戦闘機が約70機強も搭載されていて、乗員が5600人もいる。

空母戦闘団は、戦争を想定した軍事行動において最も重要な役割を果たすことが考えられる。例えば朝鮮戦争を想定した2010年の米韓合同演習「フォール・イーグル」に参加した空母「ジョ―ジ・ワシントン」(以下、GW。当時、横須賀配備)の指令室の写真には、朝鮮半島の西の黄海のかなり奥に入った地点の周辺で、GWが滞留していた軌跡が映っている。これは、この海域において空母艦載機によるピョンヤン爆撃を想定した着艦訓練が行われていたことを意味する。やや古いデータだが、1985年3月、ピースデポが航海日誌の分析から、空母「ミッドウェー」(当時、横須賀配備)がチームスピリット演習に参加した際の航跡からミッドウェーは、1985年3月18日~20日にかけて黄海の最も奥深くに侵入している(注6)。2010年のGW指令室の位置は、ミッドウエ―の侵入地点とほぼ同じ海域である。この事実は、米韓演習では、毎年、艦載機による北朝鮮への空爆を想定した演習がピョンヤンに極めて近い海域で繰り返されてきたことを示唆している。2018年以降、その艦載機部隊の配備地が岩国になっているのである。

3)在日米軍の要めとしての岩国基地

戦争の戦端を開き、戦争の中心を担う艦載機部隊が岩国に来たということは、岩国が戦争の中心を担う基地となっていることを意味する。空母が海外に配備されているのも、海兵隊の航空基地が海外にあるのも日本だけであることを重ねてみると、米軍の世界規模での海外展開の中で岩国基地の位置づけが飛躍的に高まっていることは間違いない。

朝鮮戦争が終結していない状況下で、起こりうる朝鮮半島危機において、米韓合同の作戦行動を担う米軍には、在日米軍が含まれる。というよりも作戦の中心を担うはずである。横須賀の空母打撃群、沖縄の海兵隊を輸送する佐世保の揚陸部隊、岩国の海兵隊・海軍等々の在日米軍が米韓共同作戦の中心を担うはずである。更にここ数年、日米政府は、台湾有事を意図的に取り上げ、東アジアの軍事緊張を高め、それに対応するための日米の軍事連携や、南西諸島から薩南諸島への自衛隊配備などを進めている。

このように見てくると朝鮮半島での有事や対中国との軍事行動を想定した作戦において、岩国基地配備の航空機は、その中心的な役割を担うことが見えてくる。空母艦載機は、空母「ロナルド・レーガン」打撃群の中心として空爆を行う。海兵隊のF35B垂直離着陸機は、沖縄のオスプレイ等のヘリ部隊とともに、佐世保の強襲揚陸艦「アメリカ」を利用して、やはり空爆を担う。岩国に海軍と海兵隊の両方の航空機部隊がいることで、岩国基地は、横須賀、佐世保の海軍部隊の双方と密接な関係を保持し、横須賀、佐世保の海軍部隊の双方の海上軍事基地をプラットホームとして空爆を担う部隊となるのである。また普天間や横田のオスプレイ部隊も岩国を給油基地として経由しながら、朝鮮半島や東シナ海へと向かう。このような多彩な機能を有した基地は他にはない。これは、逆に言えば、武力衝突が起これば、岩国は、北朝鮮や中国の準中距離弾道ミサイルの標的になるということでもある。岩国は、米軍の戦争を支えることと、その戦争に伴う標的になるという二重の構造の中に、いやおうなく置かれているのである。

2021年末現在、米軍は172,642人の兵員を海外に配備している。その中で在日米軍は56,842人で世界で最も多く、世界全体の約3分の1を占めている(注7)。基地総数も120で最も多く、特に大型基地は21と群を抜いている。横須賀、岩国、佐世保は、その21の中の典型的な大型基地である。横須賀基地には、空母「ロナルド・レーガン」打撃群を中心に13隻の戦闘艦が、佐世保基地には強襲揚陸艦「アメリカ」を初め、ドック型揚陸艦や掃海艦など9隻が配備されている。海外基地で戦闘艦を5隻以上母港としているのは、横須賀と佐世保だけである。また海兵隊の航空基地は7か所あるが、そのうち海外にあるのは日本だけで、そのうちの2つが岩国と普天間基地である。これらの事実は、在日米軍の重要性を象徴する際立った特徴である。

そして岩国基地には、横須賀の空母艦載機61機が、そして佐世保の強襲揚陸艦に搭載できる垂直離着陸機F35Bが32機配備されている。これら岩国配備の戦闘機は、海上で軍事空港となる横須賀の原子力空母、佐世保配備の強襲揚陸艦をプラットホームとしていつでも戦闘を起こせる体制を維持している。岩国は、横須賀、佐世保とのトライアングルの要となっており、世界規模で見ても戦略的に極めて重要な基地であることを改めて認識しておくべきである。米軍の世界規模での海外展開の中で岩国基地の位置づけが飛躍的に高まっていることは間違いない。

注;
1.「中国新聞」2022年5月20日。
2.米海兵隊岩国航空基地HP。2022年5月22日。
https://www.dvidshub.net/image/7223836/uss-tripoli-docks-mcas-iwakuni
3.「中国新聞」2022年5月10日。
4.2019年12月6日以降、強襲揚陸艦「アメリカ」に交代している。
5.山口県HP。米軍再編関係・在日米軍再編の概要。
https://www.pref.yamaguchi.lg.jp/soshiki/16/12760.html
6.ピースデポ刊; イアブック『核軍縮・平和2019』(2020)。データシート14。
7.ピースデポ刊; 『ピースアルマナック2022』(2022)。184ページ。

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