2023年、平和軍縮時評

2023年12月31日

武器輸出の大幅緩和と7兆円超え防衛予算案を閣議決定

木元茂夫

2023年12月22日、岸田内閣は安全保障政策に係る3つの重要な決定を行った。①防衛装備移転3原則の運用指針を改訂し殺傷武器の輸出に道を開いた。②24年度防衛予算案の決定。歳出ベースで7兆2249億円(23年度6兆6601億円)、契約ベースで9兆3625億円(23年度8兆9525億円)という史上最高額である。23年度に続き長距離ミサイルを大量購入。③マスコミにはあまり報道されなかったが、内閣府に事務局を置く宇宙開発戦略本部が、「宇宙基本計画工程表」を改訂し、長距離ミサイルの誘導に係る衛星の打上げ計画を決定した。

武器輸出の拡大と、長距離ミサイルの開発と購入、その誘導体制の確立について概観していく。

1.殺傷能力ある武器が輸出可能に

「防衛装備移転3原則の運用指針」の改訂は、23年7月以降、岸田首相自らが自民・公明のプロジェクトチームにハッパをかけて、決定を急がせたものである。第1に「国際共同開発・生産のパートナー国に対する防衛装備の海外移転」が明記された(注1)。岸田内閣はこの改訂を踏まえ、ロッキードマーチン社が開発し、三菱重工がライセンス生産している短距離対空ミサイルPAC-3の米国への輸出を決定した。詳細は1月以降に協議するとしているが、日本が米国へ輸出することによって米国の在庫が確保され、米国のウクライナ等への「支援」が可能になる「玉突き輸出」効果が起きる。また、英国、イタリアと2035年完成を目指して共同開発が決定した「次期戦闘機」も、英国とイタリアへの輸出が可能になる。

第2に「我が国との間で安全保障面での協力関係がある国に対する防衛装備の海外移転」として、 ① 部品 ② 救難、輸送、警戒、監視及び掃海に係る協力に関する完成品(当該本来業務の実施又は自己防護に必要な自衛隊法上の武器を含む)」と明記された。このうち、掃海艇には20ミリ機関砲が装備されているが、こうした殺傷武器を搭載した状態での輸出が可能になってしまった。

この決定の二日前、完成品武器輸出としては、最初のケースとなる「警戒監視レーダー」の引き渡し式典がフィリピンで実施された。出席した西脇防衛装備庁審議官は「航空自衛隊及び陸上自衛隊におけるフィリピン空軍レーダー要員への教育」等の人的交流の拡大を指摘し、「日本は引き続き、比軍の発展を支援します。」「インド太平洋地域において多くの安全保障上の課題が存在する中、両国が協力する意義」を強調した(注2)

しかし、「引き続きフィリピン軍の発展を支援」という政策は、いつ誰が決定したのか。国会での慎重な審議を抜きに、岸田内閣はフィリピンとの軍事協力を急速に強化しようとしている。相互アクセス協定(円滑化協定)が交渉に入ることが報道され、従来日米で実施してきた「共同指揮所演習」を、24年度は日米にオーストラリアとフィリピンを加えて行うと明らかにしている。

2.長距離ミサイルの大量調達、イージス・システム搭載艦の建造と「いずも型護衛艦」の改修

「防衛力抜本強化の進捗と予算-令和6年度予算の概要」(注3)から主なものをあげる。まず目につくのは長距離ミサイルの大量購入である。奄美大島、宮古島、石垣島に次々に配備された12式地対艦ミサイル。現在は射程距離約200キロメートルであるが、射程距離1000キロメートル以上となる「能力向上型」の開発費に176億円。地上発射型、艦艇発射型、航空機発射型の3つの開発費である。「能力向上型」の「製造態勢の拡充」に480億円。防衛省に確認したところ、「初期の設備投資費用にあてられるもので初度費と言っている」(23年11月21日回答)。さらに取得費に961億円。「地上装置等」に130億円。

「島嶼防衛用高速滑空弾」の開発費に127億円、その「能力向上型」の開発費に840億円、「極超音速誘導弾」の開発費に725億円。「極超音速」とはマッハ5以上のスピードで飛翔し、迎撃が困難なミサイルのことである。これらの費用は23年度予算にも計上されていて、防衛省は23年4月に三菱重工と3,780億円の契約を結んでいる。24年度予算はその追加である。12式の量産費は23年度が939億円、24年度が961億円、合計1,800億円である。価格は公表されていないが、単純に1発1億円と仮定すると、1800発ものミサイルを購入することになる。

あらたに、「新地対艦・地対地精密誘導弾」の開発経費が323億円計上された。8月の「政策評価書」(注4)によれば2024年から2029年までの6年をかけて開発する計画で総事業費は約408億円、その大半を24年度予算に計上したことになる。「当該事業を行う必要性」として「島嶼部を含む我が国に侵攻してくる艦艇や上陸部隊等に対して脅威圏外から対処するため、本州等から対処できる射程及び着上陸した侵攻部隊等を効率的に撃破できる高精度の誘導性能並びに高残存性を有する装備品が必要である」としている。これまで12式地対艦ミサイルは熊本と南西諸島に配備されてきたが、「本州等から対処」という言葉が防衛省の資料に登場したのは、はじめてではないだろうか。長距離ミサイルの配備が全国に拡大することが予想される。

「当該年度から実施する必要性」として、「周辺国が近年、防空能力に優れた艦艇を導入」していることをあげている。これは、中国海軍が8隻建造した南昌級ミサイル駆逐艦(11,000トン、射程距離1500キロメートルの長距離巡航ミサイルを搭載)を意識したものであろう。

次に新たに建造する艦艇。イージス・システム搭載艦の建造等に3731億円を計上している。「既計上分を含めて機械的に積算すれば、取得経費は1隻当たり約3920億円」としているが、最新のイージス艦「はぐろ」(2021年就役)の建造費が約1,700億円であるから、その倍以上の建造費である。何故、そんな高額になってしまったのか、その理由を防衛省は明らかにしていない。これまでのイージス艦に採用されているSPY-1Dレーダーとは異なり、ロッキードマーチン社の最新レーダーSPY-7を採用したことがその理由であると推測されるが、防衛省に問い合わせても「SPY-7の維持・整備経費については米国政府等と協議中であるため、具体的にお答えできる段階にはありません」(23年2月13日付防衛省回答)と、内訳を明示しない姿勢をとり続けている。

財務省も「SPY-7搭載のイージス艦は、米国も含めて現時点で例がない」ため「調達上のスケールメリットが働きにくい」、「新たなレーダーと組み合わせるイージス・システムの開発・試験・維持などの相当部分を我が国の事業単独で行う必要」があるため、「ライフサイクルコストの増加が懸念される」(23年10月27日財務省 防衛)と指摘している。米海軍の最近のイージス艦は、レイセオン社のSPY-6を採用しているため、その経験を利用することもできない。

そもそも「イージス・システム搭載艦」は、秋田県と山口県に配備する予定だったイージス・アショアの代替施設として計画されたものであるが、イージス・アショア用に契約したSPY-7を洋上仕様に改装して使用した。中国の南昌級以上の大きさと多種類のミサイルを搭載するイージス艦を建造することになってしまった。

新型補給艦の建造に830億円。燃料や弾薬などを海自の護衛艦に補給する艦艇である。米軍艦艇への燃料補給も頻繁に行っている。補給艦は現在5隻体制(8,100トン型3隻、大型の13,500トン型2隻)であるが、14,500トン型とさらに大型化し、6隻体制になろうとしている。

新型FFMの建造は2隻で1740億円。FFは駆逐艦より小型のフリゲート艦の略称、Mは機雷(Mine)の略で、機雷掃海のための水上無人機と水中無人機を搭載し、機雷敷設能力もある。島嶼防衛戦では相手国が敷設した機雷を除去し、また、占領された島嶼を奪回した後、機雷を敷設して相手国の艦艇の接近を阻むという発想である。従来の「もがみ」型FFMが3,900トンであったのに対し、新型は4,880トンとなり通常の護衛艦なみとなった。12式地対艦ミサイル「能力向上型」も搭載する。5年間で12隻建造する計画であり、海上自衛隊の主力艦艇となる。

「いずも」型護衛艦の改造に423億円。「いずも」は艦首の形状変更等の第2次改修工事を実施し、短距離離陸と垂直着陸が可能なステルス戦闘機F-35Bを13機程度搭載できる小型の空母になる。海自は「インド太平洋方面派遣」訓練という長期の軍事行動を毎年実施している。23年は「いずも」も参加し4月20日から9月17日まで、フィリピンやベトナム、オーストラリアに寄港。22年に中国と安保協定を締結したソロモン諸島や、フランス領のニューカレドニアにも寄港した。数年先、ステルス戦闘機を搭載した「いずも」が南シナ海で軍事行動をすれば、中国との緊張はさらに高まるであろう。

次に航空機。「いずも」と「かが」に搭載予定のF-35Bは7機1,282億円を計上、これは宮崎県の新田原基地に配備することが決定している。鹿児島県の馬毛島に建設中の自衛隊基地には「いずも」の艦橋に似せた「模擬着艦施設」が建造され、離発着の訓練が予定されている。青森県の三沢基地と石川県の小松基地に配備するF-35Aは8機1,120億円が計上された。

電波情報収集機RC-2は1機493億円 を計上、すでに3機が埼玉県の入間基地に配備されており4機目の製造となる。防衛省は「RC-2の情報収集能力及び長時間の運用能力は非常に有用です。また、その情報共有機能をもって、航空自衛隊内だけでなく、他自衛隊との統合運用、米軍との共同ISR(情報・監視・偵察)活動においても活躍が期待されています」(「令和3年度防衛白書」)と表明。

「電子作戦機」の開発に141億円が計上された。2024年から32年までの予定で総事業費約824億円となっている(注5)。「政策評価書」には「P-1哨戒機を活用」、「海上自衛隊の要求」などの記述がある。
防衛省はすでに「スタンド・オフ電子戦機」の開発と試作機の製造を2020年から25年までの予定で進めてきた。「スタンド・オフ・レンジから妨害対象に応じた効果的な電波妨害を実施し、相手の組織的な戦力発揮の阻止」(注6)が明記されている。「既存のC-2輸送機を活用」するとして、輸送機の製造元の川崎重工と契約している。その試作機が完成しないうちに、今度は「電子作戦機」という新たな機体の開発を開始するという。P-1哨戒機も川崎重工の製造である。この2つの機体が完成した時、自衛隊の電子戦能力は大幅に強化される。

3.長距離ミサイルの誘導-準天頂衛星

これまで、射程100から200キロメートルのミサイルしか保有してこなかった日本においては、長距離ミサイルの誘導技術は未確立である。防衛省に質問書を提出したところ、「準天頂衛星などの測位衛星信号の利用については、現在検討中」(23年11月21日付)という回答であった。米国のGPSにあたる測位衛星「みちびき」の打上げスケジュールを決定しているのは内閣府の宇宙開発戦略本部である。23年6月に決定された「宇宙安全保障構想」には、「我が国の周辺国等による弾道ミサイルや極超音速滑空兵器等の開発・装備化に対応するため」「必要な能力の獲得について検討する」とある。

この構想を踏まえて、12月22日に「宇宙基本計画工程表」が改訂された(注7)。「宇宙安全保障のための宇宙システム利用の抜本的拡大」として、いくつもの工程表がならぶ。

●ミサイル防衛用宇宙システムによる必要な技術の確立
我が国の周辺国・地域による弾道ミサイルや極超音速滑空兵器(HGV)等の開発・装備化に対応するため、広域において継続的に脅威を探知・追尾し、各種装備品の間の迅速な情報伝達を行う能力や、衛星で捉えたミサイル追尾情報を、直接、迎撃アセットに伝達する能力の重要性を踏まえ、必要な技術実証を行う。
●7機体制構築に向け、H3ロケットの開発状況をふまえて、2024年度から2025年度にかけて順次準天頂衛星を打ち上げ、着実に開発・整備を進める。その際、JAXAとの連携を強化した研究開発体制により、効率的に機能・性能向上を図る。持続測位が可能となる7機体制の確立および機能・性能向上に対応した地上設備の開発・整備等に取り組み、より精度・信頼性が高く安定的なサービスを提供する。
●準天頂衛星6号機及び7号機への米国のセンサの搭載を進めるとともに、引き続き運用に向けた米国との調整を進める。
●準天頂衛星システムについて、7期体制から11機体制に向け、コスト縮減などを図りつつ、検討・開発に着手する。

4.まとめ

殺傷武器の輸出を容認し、長距離ミサイルを大量に購入し、巨大なイージス艦を建造し、ステルス戦闘機を搭載する空母を保有しようとしている日本。まさに、軍事大国への道をひた走っている。防衛予算の急膨張は、十分な検討もないままに支出が決定される武器・装備を生み出した。財務省ですら危惧の念をもつイージス・システム搭載艦はその典型であろう。防衛予算の使い方を具体的に批判し、対話と外交に力を入れる道に歩みをもどすこと、それがいま問われている。

注1 防衛装備移転三原則の運用指針 23年12月22日一部改訂
https://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/pdf/r51222_bouei3.pdf
注2 防衛省・自衛隊:比空軍主催警戒管制レーダー1基目引渡し式典への出席について
https://www.mod.go.jp/j/press/news/2023/12/22h.pdf
注3 「防衛力抜本強化の進捗と予算-令和6年度予算の概要」
https://www.mod.go.jp/j/budget/yosan_gaiyo/2024/yosan_20231222.pdf
注4 令和5年度政策評価書・新地対艦地対地誘導弾
https://www.mod.go.jp/j/policy/hyouka/seisaku/2023/pdf/jizen_13_honbun.pdf
注5 令和5年度政策評価書・電子作戦機
https://www.mod.go.jp/j//////policy/hyouka/seisaku/2023/pdf/jizen_10_honbun.pdf
注6 令和2年度政策評価書・スタンド・オフ電子戦機
https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11591426/www.mod.go.jp/j/approach/hyouka/seisaku/31/pdf/jizen_02_honbun.pdf
注7 宇宙基本計画工程表(令和5年度改訂)
https://www8.cao.go.jp/space/plan/plan2/kaitei_fy05/kaitei_fy0512.pdf

TOPに戻る