平和軍縮時評

2018年11月30日

疲弊する世界最大の米海軍海外基地・横須賀 ―イージス艦等の一連の事故は構造的疲労から― 湯浅一郎

2017年、横須賀配備のイージス艦、2018年には空母「ロナルド・レーガン」艦載機のヘリや戦闘機などが相次いで事故を起こしている。これらは、偶然、頻発したというよりも、海外配備に伴う作戦任務増、修理期間の延長、人員削減による人手不足、訓練不足などの累積が産み出した構造的疲労に伴う現象である可能性が高い。ここには、海外配備の長期化が米海軍にとっても大きな負担となり、容易に対処できずに苦悩している姿が見えている。こうした状況を踏まえ、米海軍の海外基地で世界最大の横須賀基地のありようを、主としてGAO(米政府説明責任局)報告を基に分析する。

(1)続発する米「イージス艦」や空母艦載機の事故
1) 2017年、横須賀を母港とする米イージス艦で相次いでおきた事故は以下である。

  • 1月31日、ミサイル巡洋艦「アンティータム」が横須賀基地沖で座礁。
  • 6月8日、ミサイル巡洋艦「シャイロー」で乗組員行方不明事故。
  • 6月17日深夜、ミサイル駆逐艦「フィッツジュラルド」が伊豆半島下田沖でコンテナ船と衝突し、乗組員7人が死亡、3人が負傷。
  • 8月1日、ミサイル駆逐艦「ステザム」で乗組員行方不明事故。
  • 8月21日、ミサイル巡洋艦「ジョン・S・マケイン」がシンガポール沖でタンカーと衝突。船体側面に大きな穴が開き、乗組員10名が行方不明(後に2人が遺体で発見される)、5人が負傷した。
  • 11月18日、イージス駆逐艦「ベンフォールド」が相模湾沖でえい航訓練に参加した際、タグボートと接触。両船とも負傷者はいなかった。
    母港11隻のイージス艦のうち実に6隻で事故が起きる異常事態である。中でも死亡者が出て、船体の被害も甚大な「フィッツジェラルド」と「ジョン・S・マケイン」の事故が連続的に発生したことを受けて、米海軍は、全艦船の24時間の運用を停止した。その上で60日以内に、艦船の運用、訓練、装備などについて包括的に見直すよう指示した。

2)航空機の事故

  •  18年11月19日, 厚木拠点のヘリMH60がフイリッピン海で空母から離陸直後に飛行甲板に墜落。
  • 18年11月12日、空母艦載機のF18が那覇沖で墜落。10.29-11.8日米共同統合演習「キ―ン・ソード」に参加した直後のことである。

こうした一連の事故は、単なる偶然とは考えにくい。要因は何かが問われている。

(2)米海軍が海外に配備している艦船
事故の要因を探る前に、米海軍が海外に配備している艦船の全体像を見ておこう。表1に近年の米海軍が海外に配備している艦船の推移を示す。2006年には日本の17隻を主力に世界で20隻が配備されていた。それが2018年には40隻へと倍増している。日本に次いで多いのはバーレーンのマナマで、掃海艦4隻とぺルシャ湾の警備に当たる小型の警備艇10隻、合計14隻が配備されている。後者は日本で言えば海上保安庁の巡視艇のようなものである。横須賀の空母打撃団や佐世保の強襲揚陸艦部隊と比べれば、桁違いの小ささである。日本以外で戦闘艦が配備されているのはロタ(スペイン)だけで、欧州ミサイル防衛の一環として弾道ミサイル防衛能力を有するイージス艦4隻が配備されていて、最近ではシリア攻撃でミサイルを発射している。いずれにせよ、配備地は増えているが、依然として主な戦闘艦が在日米軍に集中していることに変わりはない。原子力空母が世界で唯一海外配備される横須賀の規模と重要性は群を抜いており、横須賀は、米海軍の海外基地の中で世界最大である。

横須賀 佐世保 ガエタ マナマ ロタ 合計
2006年 11 6 1 2 0 20
2007 11 6 1 4 0 22
2008 11 6 1 4 0 22
2009 11 6 1 4 0 22
2010 11 8 1 4 0 24
2011 11 8 1 4 0 24
2012 11 8 1 4 0 24
2013 11 8 1 4 0 24
2014 11 8 1 14 2 36
2015 13 8 1 14 4 40
2016 13 8 1 14 4 40
2017 13 8 1 14 4 40
2018 14* 8 1 14 4 41隻

表1 海外配備の米艦船の推移(GAO(米政府説明責任局)報告書より)

  • ガエタ(イタリア)指揮艦LCC 1隻。
  • マナマ(バーレーン)掃海艦(MCM)4隻,沿岸警備艇(PC)10隻。
  • ロタ(スペイン)イージス駆逐艦 4隻(弾道ミサイル防衛能力(BMD)有)。
  • * GAO報告書では、14隻としているが、17年のフィッツジェラルド事故で、同艦は横須賀から撤退したため、実際は13隻。

(3)事故原因は構造的
―主にGAO(米政府説明責任局)報告から見るー
一連の艦船の事故に関しては、海軍自身が、17年10月23日付けで司令部捜査報告書の要約版、更に事故の根本的原因と改善策について10月26日付「水上艦事故の包括的見直し」を発表している。ここでは、GAO(政府説明責任局。日本では会計検査院)の17年9月7日、海軍の即応体制という報告を初め、一連の報告書を基に分析してみる。
1) そもそも海外配備の艦船では、本国配備と比べ、前進配備のため作戦配備(Deployment)を最優先する運用サイクルが採用され、訓練(training)、休息が軽視されている。本国母港艦船では、定期保守点検(Maintenance)、訓練、作戦配備、即応準備(Sustainment)が明確に区別された36か月の運用サイクルとしている(17年9月報告、図3)。これと比べ、日本母港艦船は24か月周期で、16か月の作戦配備と8か月間の定期修理しかない。この間に訓練、資格認証、休息などが、どのように盛り込まれるのか全くわからない。これらが、作戦行動の合間に行われることで、以下に示すようなもろもろの障害が出ている可能性が高い。作戦や保守点検が延びれば、訓練や休息はおのずと軽視されていくことになる。
2) 各方面からの作戦任務の著しい増加による作戦配備期間の長期化。
空母護衛、ミサイル防衛、プレゼンス、その他の任務増大によって作戦配備期間が増えていく。GAOは、空母打撃群の作戦配備期間は08~11年に平均6.4か月であったが、15年に3つの空母打撃群で9か月に増加したとする。15年に第7艦隊の11隻の巡洋艦と駆逐艦の平均航海日数は116 日であった。16年には162日と作戦配備期間が著しく増加している。
3) 隻数増加、老朽化、修理能力不足による修理期間延長とキャンセル、整備不良。
GAOは、全海軍で水上戦闘艦につき11~16会計年度までに、延べ169 隻の修理につき107隻(63%)が修理期間延長で、合計6,603日の作戦運航日の喪失となったとする。これは毎年3隻の水上戦闘艦が運航不能になったのと同等である。また16年5月現在、海軍造船所の全従業員の32%が5年未満の経験しか持たない。整備不良による事故が09年から14年で約2倍に増加し、特に海外配備艦船の増加割合が大きいと報告している。16会計年度では18件の定期修理作業のうち10件、17会計年度では16件の定期修理作業のうち6件が期間変更、キャンセルされた。
4)  艦船の人員削減と一時的配置転換による人手不足、長時間・過重労働の常態化
GAOは、14年の海軍の標準的勤務時間調査で、兵員は1週間あたり81時間の勤務時間を超え108時間の勤務をしていた。この勤務時間には90時間の生産的作業が含まれ、1週間あたりの標準70時間の20時間超過であると指摘している。
16年以降日本母港艦船では人員充足率92%・人員供給率95%を下回り始め、17年には人員充足率89%・人員供給率92%に低下している。それを補完するための艦船間の一時的配置転換は、個別の艦船機器への不適応と、訓練機会の減少、入港艦船の人手不足、兵員や家族へのストレスをもたらしている。作戦配備決定はしばしば蓄積された疲労とその次の作戦配備が乗組員にさらに与える疲労も含め、考慮されていなかった。
5) 上記のための訓練時間の不足、航海海域の資格認証の失効、未取得の常態化
上記のように任務増大と、修理期間延長によって訓練の時間が減少して、日本母港艦船全体で戦闘海域の航海資格認証率が低下している。GAOは、17年6月時点で日本母港巡洋艦・駆逐艦の乗組員につき戦闘行為の資格認証の37%が失効しており、その3分の2が5か月を超え、15年の5倍以上に増加していると指摘する。
14年では資格認証を有しているものが93%であったものが、16年には62%に減少しており、艦船兵員のほぼ100 %が1つ以上の資格認証切れの状態である。
6) 資格認証の失効、未取得の常態化をカバーするための緩和計画の濫用
資格認証切れの場合、リスクアセスメント緩和計画が施行されて作戦配備されるが、できなかった訓練、人員不足、スケジュールの穴埋めをするものとして使われている。

(4)GAOの勧告に対処しない米海軍
GAOは、2015年以降でみても、米海軍の即応性に関して4度にわたり報告書を出し、14の改善勧告をくり返すとともに、艦船の海外母港化による様々な危険性の評価作業を海軍に求め、増え続ける艦船海外母港体制に警鐘を鳴らしている。以下に、それぞれの勧告の概略を示す。
1)2015年5月29日、「海軍戦力の構造:海外配備艦船の長期的なリスクを軽減するための持続可能な計画と包括的アセスメント」(GAO-15-329)
勧告1:長期的な即応戦力を維持し、内部統制のための連邦基準に合致したリスクを特定し緩和するためには、戦闘司令官の前衛的存在に対する海軍のニーズとのバランスを取るために、国防長官は海軍長官に、その最適化された艦隊即応計画を完全に実施し、海外配備の全艦船の持続可能な運用計画を履行すること。米海軍は、2015年8月、海外配備の各艦船が、地点ごとに6つの運用スケジュールで、海外にあるすべての船舶に対して最適化された艦隊即応計画のスケジュールを承認して実施したと報告した。しかし、米国太平洋艦隊の関係者は、日本国内に駐留する巡洋艦および駆逐艦の改訂された運用スケジュールはまだ検討されており、未実施であるとした。
勧告2:上記と同趣旨の目的のために、艦隊に対する長期的な経費及びリスクに関する包括的な評価を開発すること。2017年8月現在、海軍は、この評価を完了していない。
2)2016年9月7日、「軍事的即応性:国防総省の即応性再構築の努力は包括的な計画なしで危険にさらされる」(GAO-16-841)5 0
3)2017年5月18日、「海軍戦力の構造:艦船乗員の適切な規模と構成を確保するために必要な行動」(GAO-17-413)
勧告1:海軍の人的要員が現在および将来のニーズを満たすことを確実にするために、国防総省は、海軍長官に対し包括的な標準勤務時間の再評価と必要な調整を行う指示すること。
勧告2:国防総省は、海軍長官は対し、すべての艦船の船内作業負荷を調査し、それを実行するのに必要な人的体制を確認するよう指示すること。
勧告3: 国防総省は海軍長官に対し、定期的に、または条件が変化したときに、人的要件を評価するために、海軍が開発した基準を策定し、ガイダンスをアップデートするよう指示すること。
勧告4: 国防総省は、計画されたより大きな艦隊規模に対応した人員および経費を評価するよう指示せねばならない。

4)2017年9月12日、「海軍造船所:作戦に影響を与える悪条件を改善するために必要な行動」(GAO-17-548)
勧告1:海軍長官は、以下の点を確立すべき造船設備投資の包括的な計画を策定せねばならない。

  •  造船所の条件と能力のための望ましい目標。
  • 計画を実施するための全コストの見積もり。すべての関連要件、外部リスク要因、および関連する計画コストに対応する。
  • 投資の有効性の評価を含む、目標達成のための進捗状況を評価する指標。

勧告2: 海軍長官は、計画の実施を監視し、計量を見直し、目標に向かって進展を評価し、目標が達成されることを確実にするため必要に応じて調整を行うために、関係するすべてのステークホルダーを含む定期的な管理レビューを行うべきである。
勧告3:海軍長官は、包括的な計画の目標を達成するために造船所が進めている進捗状況と、コストなどの進展を妨げる挑戦について、重要な意思決定者と議会に定期的に報告しなければならない。
以上、見た合計14のGAO勧告に対し、国防総省(DOD)はこれらすべてに同意したが、これまでに実施したのは1つしかない。

(5)おわりに -大義の喪失と意欲の低下―
11月6日の「星条旗新聞」は、空母「レーガン」の2人の乗員が合成麻薬(LSD)を所持したとして、摘発、起訴され、軍法会議にかけられると報じた。さらに、これは、15人にのぼり、そのうち14人は「原子炉担当部門」に所属するとの報道もなされた(11月7日、星条旗新聞)。日々、核分裂生成物を生み出す担当部署にいる複数の乗員に合成麻薬所持の疑いがあるという衝撃的で象徴的な出来事である。一人の人生の重要な時期を、海外で軍隊の一員として、危険物質を大量に生みだす原子炉を操作することに費やすあり方に、不安、不満を持っていることは想像に難くない。彼らは、海外配備されている現状について、そのことに大義を見いだせていないのではないかとの疑問が浮かんでくる。
以上のとおり横須賀母港艦船は危機的状況にあり、上記の構造的問題が改善されない限り事故の危険はなくならない。米海軍は、GAO勧告に対し対応することに同意はしているが、一向に具体化する気配がない。怠慢なのか、それともより困難性を抱えているのであろうか。構造的な疲労に要因があるとすると、簡単な対応策が見出せないのではないか。日本政府や自治体は米国政府、米軍に対しGAO勧告への対応策としての包括的改善計画の情報開示を求めるべきである。またイージス艦に限らず原子力空母や原潜も、同様の問題を抱え乗組員の訓練が不十分で原子炉運転の資格認証がなかったり、修理不完全なまま航海していることはないのかも懸念される。日本政府や自治体は、原子力空母と原潜の資格認証や、整備状況についても米国に対し情報開示を求めるべきである。
一方で、2018年に入り、平昌オリンピックを直接のきっかけに、朝鮮半島、ひいては北東アジアの平和と非核化に関して画期的な変化が起きている。1年前には想像できなかったことが相次ぎ、最後に残った冷戦構造を終わらせるプロセスが始まっている。仮に朝鮮戦争を終わらせ、平和条約の締結へと進めば、北東アジアの安全保障環境は激変し、軍事的対立構図の必要性は様変わりするはずである。在韓米軍、在日米軍、そして自衛隊の有り用を含めて軍縮の方向で見直しを進めていける環境が整うことになる。その時は、当然、横須賀基地のありようも問われることになる。これについては、別の機会に論じたい。

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