2023年、平和軍縮時評

2023年06月30日

防衛産業強化法と防衛財源確保法の国会審議と、6月の日米・多国間軍事演習

木元茂夫

 6月21日、通常国会が閉幕した。2022年12月の「安保3文書」の改定に対応し、防衛産業を政府の援助によって支え、また、防衛費増額の財源を確保するために、2つの法律が成立した。国会審議のようすからその問題点を確認していきたい。

防衛産業強化法案

 防衛産業強化法案(正式名称は「防衛省が調達する装備品等の開発及び生産のための基盤の強化に関する法律」)は6月6日に可決された。

 6月1日の参議院外交防衛委員会では、自民党の佐藤正久議員が「次期陸上自衛隊の装輪装甲車の選定の結果、三菱重工がフィンランドのパトリア社と競合して、結果で、防衛省は三菱重工ではなくてフィンランドのパトリア社のものを採用すると決めました。—-どんどん技術力が、これまで二十数年にわたって防衛産業をずっと支えてこなかったツケがやっぱり来ていると。技術者がいないんですよ」(注1)と指摘しているが、あまりに短絡的な議論であろう。いくら、防衛省が資金を投入しても日本企業が世界の企業を相手にした受注競争で勝てるとは限らない。企業の技術開発の蓄積、防衛省の発注のあり方-最も企業から嫌われるのは同一仕様での発注が継続せず、小刻みに仕様変更が行われることである。企業はその度に設備投資を迫られ、投資資金の回収が困難になる―など、さまざまな要因が絡み合っている。防衛省が支援をしても、それが官と民の癒着を招くのであれば、逆に防衛産業の技術力は低下しよう。

 この法律の運用は、「自衛隊の任務遂行に不可欠な装備品」を「指定装備品等」として指定することからはじまる(第4条)。所管は防衛装備庁。土本英樹長官は「令和四年度までに、戦車、護衛艦、潜水艦、固定翼哨戒機、ヘリコプター、戦闘機、レーダー、誘導弾、弾薬等の69品目の、任意の調査であるサプライチェーン調査を実施しておりまして、今後、これら調査実施済みの69品目を参考に、指定装備品等の指定について検討を進める予定でございます」(注2)

 サプライチェーン(供給網)は、護衛艦製造で約8300社、10式戦車で約1300社、F2戦闘機で1100社であるという。三菱重工やジャパンマリンユナイテッドに部品を納入している業者を分野別に整理し、代替企業も目星をつけておくということだ。これまで民間企業がやってきた作業に、政府が介入することを明記している。

 土本長官は「国が取得するのは、製造施設、土地、設備に限られておりまして、当該施設で装備品等を製造する事業主体はあくまで民間企業であります。従業員の確保や管理も民間企業が自身で行う必要があり、民間企業そのものを国有化するわけではありませんし、国がこれらを取得する前提として、当該施設等を使用して装備品等、装備品を製造する事業者が存在していることが必要でございます。また、取得した製造施設等につきまして、国は早期譲渡に努めることとしておりまして、民間の事業者が自ら製造施設等を保有して製造等が行われるよう、様々な取組を通じ防衛事業の魅力化を図ってまいる所存でございます」(注3)と答弁しているが、現実の運用は厳しいものになろう。

 この法律のもう一つの柱が、「防衛装備移転の円滑化」という名の武器輸出拡大のための措置である。「防衛大臣は、防衛省令で定めるところにより、一般社団法人又は一般財団法人であって、全国を通じて一個に限り、指定装備移転支援法人として指定することができる」(第15条)と定め、これに防衛予算から補助金を交付し、「基金」として運用させると定めている。

 寺岡光博・財務省主計局次長は、「防衛装備移転推進のための基金の御質問でございますが、経費につきましては、防衛省からは、過去のフィリピンへの警戒管制レーダーの移転等に係る開発、製造の実績や、現時点で諸外国から引き合いを受けている案件に係る品目や件数、安全保障の観点から必要と想定される仕様調整の見込みの費用、そういったものをお聞きし、我々としましては、事業の実効性、効率性、実現可能性等の議論を行い、令和五年度予算では、この基金への拠出として四百億円を計上し、防衛力整備計画においては、五年間の経費として〇・二兆円程度を見込んでございます」と答弁している(注4)。武器輸出のための仕様調整などの業務とその費用を支援法人が肩代わりすることが定められている。どのように使われたのかの監査が重要であるが、「指定装備移転支援法人は、毎事業年度、基金に係る業務に関する報告書を作成し、当該事業年度の終了後六月以内に防衛大臣に提出しなければならない」(第18条8項)としており、3月に年度が終了し、それから6ケ月以内とすると、9月までに提出すればよいことになる。そうすると基金の使途の確認が、次年度の防衛予算を審議する通常国会ではできないということになる。さらに、貸付制度も定められている。「株式会社日本政策金融公庫は、装備品製造等事業者による指定装備品等の製造等又は装備移転が円滑に行われるよう、必要な資金の貸付けについて配慮をするものとする」(第26条)とあるが、同社の2023~2025年度の業務運営計画には、防衛関連経費の貸し付けについては何も書かれていない(同社HP)。

 6日の外交防衛委員会では、立憲民主党の小西洋之議員が、川島貴樹防衛省整備計画局長に反撃能力の行使について問いただした。「シミュレーション担当の川嶋局長に聞きますが、極めて現実的なシミュレーションはミサイルの言わば撃ち合いですね、ミサイルの熱戦、要するに撃ち合いです。そうした事態、局面というものも極めて現実的なシミュレーションには含まれているのかどうか、それを答えてください」。川島局長は「反撃能力を行使するといった場合も含めてシミュレーションは構成されております」と驚くべき答弁。小西議員はさらに「その反撃能力は、烈度として、相手とミサイルを撃ち合うようなものは含まれているのかどうか、答えてください」と質した。しかし、川島局長は「反撃能力もシミュレーションの対象といたしておりますけれども、じゃ、どのような数、どのような形でというものはすぐれて作戦に属すると申しますか、それを公にすることにははばかりがあるというところでございますので、お答えは差し控えさせていただきたい」と答弁を拒否した(注5)。

 政府も防衛省も今国会では、長距離攻撃兵器の運用について、その具体例は、いっさい答弁しないという姿勢を貫いてきた。ミサイルの打ち合いは、当然のこととして住民の生死にかかわる事態が想定される。それなのに答弁拒否というのは、ミサイル戦の戦場になることが想定される沖縄-琉球弧の住民を愚弄するものではないのか。

 採決にあたっては、「沖縄の風」の伊波洋一議員が、「本法案による国内軍需産業の振興は、日本社会の変質を招くのみならず、日本列島に多くの標的をつくり、日本を戦場にする台湾有事において、中国のミサイルを分散させることで米中ミサイルギャップを埋めるという、米国の軍事戦略にストレートに応えるものにほかなりません」(注6)と反対の意見を述べた。

防衛財源確保法

 もう一つの防衛財源確保法案について、岸田内閣は東日本大震災からの復興予算にあてる「復興特別所得税」の税率を1%引き下げた上で、課税期間を延長して防衛費に回す方針を示していた。しかし、野党の要求で開催した 6月12日福島県で開催した公聴会では地元の人々から反対の声が相次いだ。翌13日の財政金融委員会では、「浪江町長の吉田栄光公述人からは、福島県の復興は着実に前進しているが、課題も多く、今後も中長期的な支援が必要であること、政府の令和五年度税制改正の大綱には復興財源の総額を確実に確保する旨の記述があり、しっかり取り組んでほしいと考えていること、復興特別所得税の税率引下げ及び課税期間の延長については、町民が不安感を抱かぬよう、政府が正確な情報発信や説明に努めてほしいと考えていることなどについて意見が述べられました」と報告されている(注7)。 鈴木俊一財務大臣は「防衛力の強化、これは国民に広く裨益するものであることを踏まえれば、それに係る費用も広く負担すべきであるため、所得全体に係る所得税の付加税によって対応することとしたこと、これは適切であると考えてございます。こうした税制措置の内容、政府としても閣議決定をしておりまして、これを変更することは考えておりませんが、更なる詳細については今後改めて与党税制調査会において議論が行われる」と答弁せざるをえなかった(注8)。法案は 6月15日に採決されか決されたが、立憲民主党、国民民主党、日本共産党、日本維新の会、参政党が反対し、法案は成立したものの、増税の時期と方法は先送りとなり、防衛費確保のめどは立っていない。

 6月30日、防衛装備移転三原則の運用指針の見直しについての自民党と公明党の実務者協議が行われた。「国際法に違反する侵略や武力の行使、威嚇を受けている国への支援」を追加すること、英国、イタリアと共同開発する次期戦闘機の輸出、F15戦闘機の中古エンジンのインドネシアへの輸出が検討されたと報道されている(「朝日新聞」7月1日)

日米・多国間軍事演習と中国・ロシアの軍事行動

 国会でこうした審議が進んでいる時、日本周辺ではどのようなことが起きていたか。6月4日、米海軍のイージス艦と、カナダ海軍のフリゲート艦が台湾海峡を通過した。中国海軍は米イージス艦の前方140メートルを横切るという威嚇行為を行った(ロイター通信 6月5日)。翌日5日には中国最大のイージス艦等が対馬海峡を通過。6日には中国のイージス艦が宮古海峡を通過し、中国とロシアの爆撃機各2機が日本海から東シナ海へと飛行した。

 6月7日から10日までの4日間、「沖縄東方から東シナ海」に至る海空域で、日米仏共同訓練が実施された。米海軍は原子力空母ニミッツとレーガンの2隻とその随伴するイージス艦7隻を集結させた。海自はヘリ空母「いずも」と護衛艦1隻を参加させた。さらに米空軍はB52戦略爆撃機を、空自もF15戦闘機を参加させた。フランスもフリゲート艦が参加(海上幕僚監部6月12日発表)。F15戦闘機はB52の護衛飛行をやったということであろう。

 2隻の空母が搭載する戦闘攻撃機は100機を超え、航空機用爆弾の搭載量は5000トンを超える。イージス艦の搭載するミサイルはトマホーク巡航ミサイルを含め約750発という膨大な量になる。2つの空母打撃群にB52までが加わった「訓練」は、大規模軍事演習と言うべきであろう。

 さらに6月14日から19日まで、南シナ海で「日米加」と「日米仏」の共同訓練が並行して行われた。「日米加」にはヘリ空母「いずも」と台湾海峡を通過したカナダのフリゲート艦が、「日米仏」には空母レーガンが参加している(海上幕僚監部6月20日発表)。14日から17日まで中国海軍の訓練艦がマニラに異例の寄港をした(AFPBB NEWS、新華社通信)。20日には米国沿岸警備隊の巡視船が台湾海峡を通過した(第7艦隊司令部広報6月21日)、同日、海自の「いずも」と護衛艦「さみだれ」はベトナムのカムラン湾に入港し、25日原子力空母レーガンはベトナム中部のダナン港に入港した。

 ロシアは12日、14日、15日、16日、17日と情報収集艦や駆逐艦に津軽、宗谷海峡を通過させた。27日にはロシアのフリゲート艦2隻が、台湾と与那国島の間の海域を通過した(統合幕僚監部各日発表)。私の知る限りロシアの艦艇が与那国島近海にやってきたのは、はじめての事態である。28日には中国の情報収集艦が鹿児島県の大隅海峡を通過。6月の一連の動きを見ると、残念ながら中ロ海軍の連携は、これまでになく強化されたと思わざるをえない。

 岸田内閣が進めて来た防衛費の大幅な増額。そして、5月に広島で開催されたG7サミットなどの場で、NATO諸国との軍事協力の強化が約束された。6月に集中的に実施された日米-NATO加盟国との軍事演習は、中国とロシアの東アジアにおける対抗的な軍事行動を引き出してしまった。

 いま、問われているのは、巨大な軍事力を見せつけることがすべてを解決するかのような米国のアジア戦略と一線を画し、独自の平和外交を強力に推進することではないだろうか。

注1,2,3,4 「参議院外交防衛委員会」議事録 23年6月1日
https://kokkai.ndl.go.jp/#/detail?minId=121113950X01820230601&current=6
注5,6   「参議院外交防衛委員会」議事録 23年6月6日
https://kokkai.ndl.go.jp/#/detail?minId=121113950X01920230606&current=4
注7,8 「参議院財政金融委員会」議事録 23年6月13日
https://kokkai.ndl.go.jp/#/detail?minId=121114370X01520230613&current=1

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