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平和軍縮時評4月号 冷戦思考から抜け出す道を示せ ―オバマ政権2期目、核兵器の大幅削減のために  湯浅一郎

2013年4月30日

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   「核のない世界」へ向けた具体的措置を講ずるとしたオバマ大統領のプラハ演説から、4年が経った。そして米ロが拘束力をもって、戦略核の削減と管理を行う枠組みを作った新START(戦略兵器削減条約)発効から2年が経つ。STARTとは、1991年7月に米ソ間で署名した戦略核兵器の削減に関する条約で、運搬手段や核弾頭の数え方を厳密に定義し、その上限を定め、削減を義務付けたが、2009年12月5日に期限満了をもって失効した。そして2011年2月5日、新たなSTARTが発効した。しかし、この間、核の大幅削減に関する前進は、ほとんどない。オバマ大統領は、新START後のさらなる削減の基礎となる大統領の「核政策指令」をいまだ策定していない。これは、約2年前から検討され、その過程が12年2月にAP通信により一部暴露されたが、その後の進展は報じられておらず、表面的には何も進展していない。

戦略核を1000~1100発に削減
   2013年2月8日、パブリック・インテグリティ・センター(CPI)のジェフリー・スミスは、オバマ政権内で核政策の論議に関与した関係筋からの情報を基に、オバマ政権が、1,000~1,100発の戦略核兵器の配備により、米国の国家安全保障の必要条件を満たすことは可能との文書をまとめたと報告した。この数は、2018年までに1550発以下にするとの新START合意と比べ、450~550発少ない。しかし、12年にAP通信が伝えた戦略核兵器の総数に関する3つの選択肢、すなわち約1,000~1,100発、約700~800発、そして約300~400発の中で最も多いもので、これではNPT加盟の5核兵器国が直ちに核軍縮交渉のテーブルにつく誘因にもならない。米ロについで多いフランスが約300発保有であるから、核軍縮の問題で5か国が一つのテーブルに着くためには、米ロがせめて500発まで減らすことが求められる。それでも、STARTの削減目標と比べれば、その約3分の1に当たる500発の大幅削減である。
   スミスは、同文書を2010年の「核態勢見直し」(NPR)を履行するための指針となる「新しい政策指令」と表現している。NPRとは、米議会が核政策の包括的な再検討のため、政府に作成を求める文書で、国防総省が作成する米核政策の基本文書である。米国は、「核兵器に関する大統領政策司令」なるものを策定し、核攻撃の標的を設定し、警戒態勢の取り方などを定めた、いわば核戦争計画を有している。核兵器が存在する限り、「大統領政策司令」が存在することになる。しかし、オバマ政権になり、「核兵器のない世界」をめざし、核兵器の役割を低くすることに対応した政策司令は、いまだ未完成である。スミスの報告は、それに対応した文書が、ほぼできていることを示唆している。
   ニューヨーク・タイムズによれば、米政府は、この大幅削減計画をいかに実現させていくかに腐心している。ロシアとの間に新たな条約を結ぶことになれば、新STARTより大幅な削減計画を米議会に提出し、共和党保守派を含めて条約の批准承認を得る必要がある。しかし新STARTですら相当な困難があったことを想起すれば、この道は、ほぼ困難である。そこで、オバマ政権は、新たな条約を作るのでなく、新STARTの枠内での削減に向けロシアとの直接合意の道を探っていると見られる。既にその予備的な会合が、2月から相次いで行われてきた。2月2日、ミュンヘンでの安全保障会議を利用して、バイデン米副大統領とロシアのセルゲイ・ラブロフ外相との会談を手始めに、2月中にローズ・ゴットモーラー国務長官補佐官、トーマス・ドニロン大統領補佐官をモスクワに派遣した。初夏のサミットを利用した米ロ首脳会談に向け予備的な交渉を進めていたとみられる。
   スミスらによると、2月12日の一般教書演説を利用して、オバマ大統領は、この問題について何がしかの方向性を示すかもしれないとの観測があった。しかしこの演説では、「我々は、核兵器保有量のさらなる削減を求めてロシアと約束する」と抽象的に、ごくわずか触れただけにとどまっている。

核削減への選択肢と核の役割低下との関係
   米科学者連盟のハンス・M・クリステンセンは、削減目標を1000発とした場合の選択枝として最も可能性が高いのは、大陸間弾道弾(ICBM)を100発減らし、潜水艦発射大陸間弾道弾(SLBM)の1基あたり弾頭数を3にすることであるとしている。
   オバマ大統領は、プラハ演説で「我が国の国家安全保障戦略における核兵器の役割を低下させる」ことで「冷戦思考に終止符を打つ」と述べた。クリステンセンは、今回の政策指令案が、これを視野に入れているか否かは明らかでないとしている。軍が核戦争計画を立案するにあたり、冷戦思考を終わらせるためには、核攻撃の目標設定の思想を変更する必要がある。情報筋によれば、政権内の議論では約500発を目標とする削減についても検討されたようである。国務省やバイデン副大統領のスタッフらは、とりあえず500発までの削減を前提に、より少ない核兵器と新たな攻撃目標政策を考えるべきだと主張した。しかしマーティン・E・デンプシー統合参謀本部議長が、重要な政策変更は従来の軍事戦略の激変につながり、同盟国間にも不確実性を作るとして抵抗し、拒絶したと伝えられている。これは、冷戦思考に終止符を打つために避けて通れない論議であるが、今後に残された課題であろう。当面注目されるのは、新STARTの枠内での削減に向けたロシアとの協議の推移である。

米国、ミサイル防衛を太平洋にシフト
   そうした中、3月15日、チャック・ヘーゲル米国防長官は、イランおよび北朝鮮の長距離弾道ミサイル能力の最近の状況を反映して、ミサイル防衛(MD)計画を一部変更すると発表した。その要点は以下の4項目である。

  1. 米西海岸のフォート・グリーリー(アラスカ)に14基の地上配備迎撃ミサイル(GBI)を追加配備する。これにより米国のGBIは30基から44基へと増加する。
  2. 日本に2つ目の移動式XバンドレーダーTPY-2を配備し、米国または日本に向けて北朝鮮から発射されたミサイルに対する早期警戒及び追尾能力を向上させる。
  3. 第3の新たなGBI基地に関する環境影響調査を実施する(米東海岸が候補地)。
  4. 欧州段階的適応性アプローチ(以下、EPAA)の第4段階であるスタンダードミサイル3(SM3)ブロックⅡB計画を見直す。この配備は、議会の予算カットにより少なくとも2022年まで先送りされている。この計画に当てられる資金を1.のGBI追加配備に回す。

   EPAAとは、2009年9月、オバマ政権が、ブッシュ時代の欧州における地上配備迎撃ミサイル(GBI)を中心としたMD計画を中止する代わりに打ち出した構想である。イランのICBM開発の脅威評価を変更することで、短・中距離ミサイルの脅威に対して、艦船や地上配備のSM3などにより、段階的に対応する4段階の計画である。国防長官の発表後、記者の質問に応えたジェームズ・ミラー国防次官は、EPAAの第4段階のSM3ブロックⅡBは中止すると明確に答えたが、ブロックⅡBそのものの開発計画を断念したか否かは明らかでない。
   項目2.のXバンド・レーダーの日本への追加配備計画は、国防長官発表の前から既に動いていた。2月22日の日米首脳会談で、両首脳は「北朝鮮の核・ミサイル活動も踏まえ、弾道ミサイル防衛協力を進め、米軍のTPY-2レーダーを我が国に追加配備する方針で一致した」。そして2月26日、小野寺五典防衛相は記者会見で、航空自衛隊経ケ岬分屯基地(京都府京丹後市)を配備先として選定したことを明らかにした。
   ヘーゲル長官は、変更の理由として、とりわけ北朝鮮の3回目の核実験、昨年4月の移動式大陸間弾道ミサイル(ICBM)らしきものの展示、テポドン2による衛星発射で明らかになった長距離弾道ミサイル技術の開発を掲げた。しかし、実用可能な再突入体の開発には、再突入の際の高熱と構造的負荷に耐える材料が必要であり、北朝鮮の人工衛星発射能力が、ICBM能力になるには、まだ相当な時間が必要である。米国は、北朝鮮の弾道ミサイル技術を過大評価し、北朝鮮対応に重点をシフトさせることでミサイル防衛を強化しようとしている。西太平洋で起こっていることは、2004年10月にブッシュ大統領が行ったMD初期配備の局面とよく似通っている。当時、米国は北朝鮮の弾道ミサイル技術を大袈裟に強調し、北朝鮮対応を唯一の口実として未完成の地上、海上配備MDの初期配備を強行した。今回は、北朝鮮の脅威を最大限に利用しつつ西太平洋に重点をシフトした日米韓豪の軍事協力体制の構築を図っていることを見逃してはならない。
   いずれにしても、ヘーゲル長官発表の本質は、国防費削減を余儀なくされる中で、欧州MD計画の一部を中止し、その予算を西海岸の地上配備迎撃体の追加配備に使うなど一定の変更である。米国内世論のイラン、北朝鮮への関心に応えるとともに、西太平洋におけるMD協力の強化、MD産業への配慮、更なる核削減に関係したロシアへの配慮などの諸要素を加味した政策変化であると推測される。

ロシアはEPAAに基本的変更はないと反発
   今回中止が発表されたSM3ブロックⅡBは、EPAAの第4段階として配備される陸上配備の迎撃ミサイルである。ブロックⅡAまでは準中距離・中距離ミサイルに対応していたのに対して、これは初めてICBM迎撃能力を持つものである。ロシアはEPAAに強く反対しているが、その理由は、ロシアのICBMを迎撃する能力への警戒であると考えられた。2期目のオバマ政権は、新STARTより大幅な核兵器削減を目指し、ロシアと水面下の折衝を続けているが、ICBM迎撃能力を持つEPAA第4段階の中止によって核兵器削減への好環境が生まれることを期待していたと思われる。しかし、EPAA の第1段階から第3段階のポーランドへのミサイル配備は2018年まで予定通り推進される。第4段階が復活する可能性は否定できない。これまで、ロシアは、EPAAがロシアの戦略核戦力の有効性を損なわせるものではないとの「法的拘束力のある保証」を求め続けてきた。セルゲイ・リャブコフ外務次官は、今回も「法的拘束力のある合意」への署名を求めると発言し、現在までのところロシアの反発に変化はみられない。
   2期目に入ったオバマ政権は、「核兵器のない世界をめざす」としたプラハ演説を現実化させるためにも、核兵器の役割を低減させ、ロシアとの交渉を通じて核兵器の大幅な削減を進めようと模索していることは事実である。そのような中で、北朝鮮の脅威を最大限に利用しながら、米国はミサイル防衛態勢を太平洋にシフトさせ、欧州MD計画の一部を中止する措置をとった。これにより、欧州MD計画に難色を呈し続けているロシアとの核軍縮交渉を前進させようとする意図は見える。しかし、今回の変更は、MD計画全体の推進を前提としたもので、現時点では米ロ間の核軍縮に好影響をもたらす要素に乏しい。

   3月、オスロで、かつて対人地雷などの禁止条約締結の立役者となったノルウェーが主催して核兵器の"非人道性"を検証する初めての国際会議が開かれたが、核兵器の大幅な削減のためには、核兵器の非人道性に関する国際的な世論を形成し、それを梃子に国家グループレベルでの核兵器廃絶を求める行動を引き出し、核兵器国に対し核兵器の大幅削減を求めていくような回路を作っていくことが求められている。

*オバマ演説、新START,核態勢見直し(NPR)などの資料は、『核軍縮・平和2012』参照。

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