2013年、平和軍縮時評

2013年11月30日

平和軍縮時評11月号 第68回国連総会第1委員会のハイライト:核兵器の不使用声明と3つの決議  金マリア

   2013年11月4日、第68回国連総会第1委員会(軍縮・国際安全保障)が閉会した。13年の第1委員会は、10月7日にニューヨーク国連本部で開会し、16日まで「一般討論」、17日から25日まで「テーマ別討論」が行われ、53の決議が採択された。
   本稿では、まず前半で、最も注目を集めた「核兵器の人道的影響に関する共同声明」を紹介する。後半では、2018年までの核軍縮国連ハイレベル会議の開催を決めた非同盟運動(NAM)の新決議を始めとして、国連公開作業部会(OEWG)の報告と今後に関する決議、そして、日本決議を取り上げ、核軍縮を前進させようとする新たな流れを中心に、第1委員会における議論を紹介する。

核兵器の不使用を求める「核兵器の人道的影響に関する共同声明」

   ニュージーランドが主導した4回目の「核兵器の人道的影響に関する共同声明」は、非核兵器国を中心に賛同国を募った結果、すべての国連加盟国の約3分の2に当たる125か国にまで賛同が拡大した。日本も初めて賛同した。同声明は、12年5月2日、15年NPT再検討会議第1回準備委員会で、オーストリアなど16か国により初めて発表された。その後、同年10月22日、国連総会第1委員会でスイスなど35か国が2回目が、また13年4月24日、15年NPT再検討会議の第2回準備委員会では、南アフリカの主導で3回目が発表された。3月にオスロで開かれた「核兵器の人道的影響に関する国際会議」の成果を踏まえ80か国まで賛同が増えた。
   今回の声明においても、最も重要な点は、「核兵器がいかなる状況下においても使用されないことに人類の生存」がかかっているという一文であった。核兵器の不使用を強く求める声明に、国連加盟国の3分の2が賛同したのである。非核保有国が、核兵器国を包囲する形が形成されつつあると言ってもいい。また声明は、「核兵器のもたらす凄惨な人道的結果はそれが最初に使用された瞬間から明白なものであり、その瞬間から人類はそうした脅威の存在しない世界を切望して」きたと述べた上で、「それがこの声明を発することにもつながって」いると強調した。
   今回の声明には「人道的焦点」(Humanitarian focus)という表現が新しく登場した。これまでは、「核兵器の人道的な側面」と表現していたが、この問題が焦点化されたことを示し、更なる議論の促進を意図したものと見られる。声明は、「核兵器のもたらす人道的結果は長年核軍縮及び核不拡散の議論の中心には据えられてこなかった」ことを力説した後、「人道的な焦点がグローバル・アジェンダにおいて十分に確立されている」とした。「今日において人道的焦点への政治的支持が拡大していること」はまさに125か国((国連オブザーバー国のバチカンを含む))という賛同国の数が証明している。 しかし、今回の声明の一つの残念な大きな変化は、「法」についての言及がなくなったことである。過去3回の声明を見ると、1回目は、法的拘束力を持つ国際条約によって禁止されなければならないとの提案を伴うものであった。2回目は、10年NPT再検討会議最終合意文書の「行動勧告」が、「すべての加盟国がいかなる時も、適用可能な国際法を順守する必要性を再確認する」と述べたことを強調し、全ての国に対し、核兵器の使用の非合法化に努力する責任があると主張していた。3回目では、国際赤十字及び赤新月社運動代表者会議の11年決議6を挙げ、核兵器使用がもたらす人間の苦痛と国際人道法との関係に言及し、10年NPT再検討会議の行動勧告の完全な履行を強調することによって、核兵器使用の非合法化の基調を維持した。しかし、今回これらの記述はない。ニュージーランドら起草国は、より多くの賛同を確保するために、あえて削除したものと見られる。

賛成に転じた日本ともう一つの非人道性声明

   日本は、1回目の声明から一貫して賛同を拒否してきたが、今回は声明に賛同する道を選んだ。日本が賛同を拒否してきた理由は、「いかなる状況下においても使用されない」という文言が、米国の拡大抑止に依存する日本の安全保障政策に整合しないというものであった。それ故に、委員会が開会する直前、日本が今回の声明に賛同する可能性があるという情報が流れた時、この表現が残るか否かに関心が集まった。結果的に、この表現は残され、日本が異議を唱えることはなかった。
   このような変化をもたらした最大の理由は、被爆地を始めとする国内世論の圧力であった。10月22日、岸田文雄外務大臣は、談話を発表し、「我が国の安全保障政策や核軍縮アプローチとも整合的な内容に修正されたことをふまえ」参加することとしたと話した。特に、「核兵器による壊滅的な結末への認識が、核軍縮に向けた全てのアプローチ及び努力の下支えとなるべきであると確信している」との考えを「核兵器使用の悲惨さを最もよく知る我が国」として支持するとしている。これは、いかなる状況下でも核兵器は使用されてはならないことを強調したことになる。ただ、外務大臣談話では触れられていないが、同声明から、先述の国際法に関する記述がなくなったことが、日本が賛同する要因の1つであったと見られる。

国連公開作業部会(OEWG)決議「多国間核軍縮交渉を前進させる」

   コスタリカを含む18か国が提出した決議「多国間核軍縮交渉を前進させる」(A/C1/68/L.34)は、昨年の決議(A/RES/67/56)のフォローアップ決議に当たる。本決議は、賛成151、反対4、棄権21で採択された。米英ロ仏は反対、中国は棄権した。
   昨年の決議で設置が決まったOEWGは、今年5月から8月の間にジュネーブで開かれ、核軍縮に関する率直かつ多様な議論が行われる場となった。核兵器の非人道性や多国間交渉の前進などが今回の第1委員会の議論で広く取り上げられた背景には、OEWGによる機運の醸成があった。しかし、米英仏の3か国は、前回とほぼ同じ観点から共同で反対理由を説明した。それは、ジュネーブ軍縮会議(CD)、国連軍縮委員会(UNDC)、そして国連総会第1委員会という討論の場が既に十分存在する、さらに核不拡散条約(NPT)ならびに2010年NPT行動計画との整合性に問題があるというものである。
   決議は、OEWGの成果を評価し、国連に報告書を提出したと述べている。しかし、次回のOEWG開催に関しては、「必要な場合は、OEWGを通じたものを含め、多国間核軍縮交渉を前進させるためのさらなるオプションを追求する」(主文9節)と述べるにとどめている。そして「国連事務総長にOEWGの報告書をCDとUNDCでの検討に回付するよう要請」(5節)し、「全ての加盟国、国際機関及び市民社会に向け、OEWGの報告書とその提案を念頭に入れる」(6節)よう求め、国連軍縮機関や国際社会がOEWGの諸提案を活用し交渉の前進を図るよう呼びかけている。市民社会OEWGタスクフォースのアラン・ウェア氏によると、今後特別な進展がない場合、同決議の共同提案国が15年にOEWGの作業を再開するよう提案すると予想される。

非同盟運動(NAM)決議「核軍縮に関する2013年国連総会ハイレベル会合のフォローアップ」

   NAMが提出した決議「核軍縮に関する2013年国連総会ハイレベル会合のフォローアップ」(A/C1/68/L.6/Rev.1)は、賛成129、反対28、棄権19で採択された。決議は冒頭で、「9月26日の国連総会ハイレベル会合(HLM)の開催を歓迎」し、「核兵器の完全廃棄という目標の前進に向けたその貢献を認識」すると述べた。さらに、「核軍縮と核兵器の完全廃棄こそが、核兵器の使用あるいは使用の威嚇を行わないための唯一の絶対的保証であることに確信を持」つとした。続いて、主文においては、HLMを継承する措置として主に次の3つを盛り込んだ。

  1. 「核兵器に関する包括的条約への広範な支持が示されたことに賛同の意」を表し、CDにおける早期交渉を求める(3節から5節)。
  2. 「18年までに、国連ハイレベル国際会議を開催し、核軍縮の進捗について検討する」(6節)。
  3. 「9月26日を「核兵器完全廃棄のための国際デー」」とし(7節)、国連を含む各界に向けて「あらゆる手段の教育活動や世論喚起活動を通じて、国際デーを記念し推進するよう求める」(9節)。

   同決議は、今回もっとも論争となった決議の一つである。日本と韓国は棄権し、5核兵器国では、賛成は中国のみで、他の4か国は反対した。米英仏は、共同の投票説明で4つの反対理由を挙げた。まず、「HLMは、核軍縮と核不拡散をバランスよく扱っていない」とした上で、「ステップ・バイ・ステップ・アプローチの重要性」を強調した。そして、決議案には「NPTに関する言及が一回しかないこと」、「10年のNPT行動計画に言及していないこと」に不満を示した。また、「同行動計画が言及していない手段に関する交渉を求めている」とし、核兵器禁止条約の交渉に向けた働き掛けを批判した。さらに「18年に核軍縮を議論する会議を計画することは、15年NPT再検討会議に悪影響を与える」とした。
   オランダなど21か国も共同で反対理由を説明した。ほとんどが核兵器依存国やNATO加盟国であるこの21か国は、「18年の会議の目的について懸念する」とし、「核兵器禁止条約を交渉する潜在的な手段として解釈される余地がある」と述べた。他方、アイルランドなど6か国とスイスがそれぞれ賛成理由を述べた。6か国は、「HLMを通して、圧倒的多数の国家が、核軍縮の緊急性とそれに対する新たな勢いの必要性を呼びかけた」と高く評価した。また、「NPT、特に、核軍縮に向けた効果的な措置の追求を求める第6条に整合する」とした上、「2010年のNPT行動計画にも整合する」と核保有3か国の批判に反論した。

日本決議「核兵器全面廃棄へ向けた団結した行動」

   日本が94年から主導している決議「核兵器全面廃棄へ向けた団結した行動」(A/C1/68/L.43)は、米国を含む歴代最多の102の共同提案国により提出され、賛成164、反対1、棄権14で採択された。反対は北朝鮮、棄権はロシアと中国などを含む。今年の決議では、13年2月の北朝鮮による核実験を強く非難した上で、主文15節で、北朝鮮に対し、これ以上の核実験を行わず、6か国協議の9.19共同声明における努力及び関連する安保理決議への義務を完全に遵守するよう求めた。昨年までは、前文において北朝鮮に言及しているが、主文に関連要求を含めたのは初めてである。これに対し、01年以来賛成を続けてきたロシアは棄権に転じ、理由を次のように述べた。主文15節は「安保理決議2094の条項の形式と精神から外れている」とし、「9.19共同声明の義務は全ての関連国に課されるにもかかわらず、北朝鮮だけを取り上げている」と指摘したのである。

   第68回国連総会第1委員会のキーワードを2つ上げるとすれば、初めて実施されたOEWGとHLMの成果に支えられた「核軍縮交渉の前進に向けた新たな挑戦」、そして、ようやく「根付きつつある核兵器の非人道性」だったと言える。しかし、核兵器廃絶に非協力的な核保有国の姿勢は依然として変わらず、具体的に核軍縮を推進する新たな議論の枠組みが形成される見通しがついたわけでもない。「核兵器の不使用声明」に初めて賛同した日本が、非人道性を始め、核兵器に依存しない安全保障政策の選択を通じて核廃絶に主導的役割を果たしていくことが一層求められている。

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