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平和軍縮時評4月号 SIPRI報告書「世界の軍事費支出トレンド2013」―日本は脱軍事を追求すべき  塚田晋一郎

2014年4月30日

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世界と日本の軍事費のいま

   4月14日、スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)は、「世界の軍事費支出トレンド2013」を発表した。この報告書(「ファクト・シート」)は、SIPRIが毎年この時期に発表しているもので、このたび発表されたのは、その最新版として2013年における世界各国の軍事支出に関するデータを包括的かつコンパクトにまとめたものである。

   報告書が「キー・ファクト」として示した2013年における最新トレンドは、以下のようなものであった。

   アメリカが7.8%減となった主要因は、イラク戦争の終結およびアフガニスタンからの撤退開始、ならびに2011年に議会を通過した法案による予算自動削減の効果によるものである。
   日本は486億ドル(約5兆円)で、2012年の5位から、8位となった。順位は下がったが、これはサウジアラビア(2012年:7位)やドイツ(同:9位)が支出を増加させ、イギリス(同:6位)の削減幅がわずかだったことによる相対的な結果である。
   対GDP比で見ると、サウジアラビア(9.3%)、UAE(4.7%:2012年のデータのみ)、ロシア(4.1%)、アメリカ(3.8%)、韓国(2.8%)、インド(2.5%)…と続く。日本は「防衛費1%枠」政策により、2013年も1%となっている。

日本政府を「国粋主義的」と表現

   SIPRIの最新ファクト・シート「軍事支出トレンド」は上記のようなものであったが、特筆したい点として、同時に発表されたプレス・リリースには、以下のような記述がある。

「中国の軍事力成長をめぐる日本の憂慮は、日本政府自身の国粋主義的政策(nationalist policies)と相まって、日本の軍事費の長期的漸減傾向に終止符を打った。」

   このプレス・リリースは比較的短い文章であるが、他の国や地域に関する記述において、このような表現、つまり「国粋主義的政策」といった政治的思想に関係する形容詞が用いられている箇所は他には見当たらない。「軍事支出トレンド」をファクトベースでまとめた今回の報告で、このような表現が用いられたことを私たちはどう捉えればよいのだろうか。少なくとも、SIPRIは日本が軍事支出を行う際の政策決定において、純粋な「安全保障論」の文脈以外に、「国粋主義的な日本政府」の思想や価値観が影響しているということをあえて指摘したということは確かである。
   また、今回の発表に関して、「中国・ロシアの軍事支出が著しく増加」との日本国内での報道は多く見受けられたが、国際社会の視点、つまり「日本が海外からどのように見られているのか」を冷静に議論しうるようなものは皆無であった。

軍事費と企業の関係

   私たちの世界の現状では、1年間のうちに軍事費に177兆円もの巨額の支出が行われていることは紹介したとおりである。このうちのごくわずかの部分でも非軍事の支出に振り替えることができれば、現在の私たちが直面している環境や食糧・貧困などの国際的課題や、医療、福祉、教育などの多世代にわたる社会問題の多くが解決できると言われて久しい。
   軍事費には巨額の税金が湯水のように使用されており、軍事関連企業は武器や兵器を製造することで莫大な利益を得ている。つまり軍事費を知り、考えることは、私たち一人ひとりが暮らすこの社会の課題を知り、その解決法を模索していくことと実は直結しているのである。
   SIPRIは1月31日、ファクト・シート「SIPRI兵器製造・軍事サービス企業トップ10 2012」を発表した。先の軍事支出に関するファクト・シートとは別のもので、こちらは世界の軍事関連企業の売上高を包括的に調査し、まとめたものである。
   トップ100の中には、以下の日本企業が含まれている。

   世界の軍事売上高100位の中に、6社もの日本企業がランクインしていることは、残念であるという見方もあるだろう。一方で、日本ほどの経済規模を持ちながら、意外に少ないという見方もあるかもしれない。いずれにせよ、ここで重要なのは、世界の中での相対的な位置を論じることよりも、ここでは軍事費にこれだけの日本企業の資金が投入されているという事実を押さえておくことである。
   また、このSIPRIの資料からわかることは、軍事を扱っている日本企業は、他の諸外国の軍事関連企業と比較するとそれぞれの企業内における軍事部門のシェアが比較的小さいということである。諸外国の「トップ100」の企業の多くは、企業内で軍事をより大きなものとして扱っており、兵器製造が売上の90%を超えている企業も少なくない。このことは、日本が戦後長年にわたり憲法9条および武器輸出三原則を堅持し、その中で企業が意識的に非軍事であることを選択し続けてきた結果であるといえるだろう。
   4月1日、安倍政権は、武器の輸出を事実上禁じてきた武器輸出三原則を、閣議決定という民意の届かない手法によって撤廃した。4月18日、小野寺五典防衛相は記者会見で、迎撃ミサイル「パトリオット」(PAC2)を製造する三菱重工業に対して、米企業から基幹部品の輸出要請があったことを明らかにした。これが進めば、防衛装備移転三原則の初めての案件となる。これまでは三菱重工業が自衛隊向けに製造してきたが、武器輸出三原則撤廃からわずか半月で、日本企業の武器輸出解禁への道がつくられようとしている。
   新たに設けられた防衛装備移転三原則は、日本企業が世界に武器を売りさばく「死の商人」になる道を示したものである。さらにいえば、様々な利権やカネの力学の中でバランスを取りながら、戦後日本社会において、非軍事産業によって経済的繁栄を築いてきた日本企業の矜持を奪い、政府の圧力によって武器製造の拡大・輸出を強要するものとなりうるだろう。

「軍事に投資しない」という選択

   本稿では主として軍事費や武器輸出の側面を取り上げたが、これだけをみてもわかるように、戦後日本のこれまでの価値規範は、国民的議論を完全に欠いたまま、一部の政治家によって、非常に強引かつ拙速な手法で急旋回させられている。特定秘密保護法や集団的自衛権の解釈改憲等も同じ文脈上にあることは言うまでもない。
   このような政治状況を作り出したのは紛れもなく私たち主権者たる国民である。そのことを今後のために冷静に分析・評価することはもちろん必要だが、いま、こうした状況になったことを嘆いてばかりはいられない。次世代のために、いま私たちになにができるのか。
   そこで、もう一つ別の報告書を紹介したい。
   オランダに本拠を置く国際NGO「パックス」は、昨年10月、「核兵器に投資するな(Don’t Bank on the Bomb)」を発表した。この報告書は、世界30カ国の298の銀行等の金融機関を対象に調査を実施し、「核兵器製造企業への資金の流れ」をまとめたものである。
   同報告書によると、日本においては現在、5つの金融機関が核兵器製造企業に融資をしている。

   私たちが日常的に利用している銀行等の金融機関は、預金者から預かった資金を様々な投融資によって運用して利益を得ている。しかし、その運用先として、核兵器製造企業や、軍需産業に巨額の資金が流れていることは、意外にも知られていないのではないだろうか。
   4月14日、参議院議員会館にて、「軍事費に関するグローバルアクション・デー2014」の東京アクションとして、シンポジウム「武器からひとへ-『安全保障費』を問いなおす」が開催され、筆者は報告者の一人として参加した。このアクション・デーは、冒頭のSIPRI報告書が出されるのに合わせ、2011年以降、毎年実施されており、世界各地で多種多様なイベントが開催されている。
   東京でのシンポジウムに参加した「パックス」のスージー・スナイダー氏は、上記の報告書と「投資引き揚げ(=投資をしない)キャンペーン」の取り組みを紹介した。近年の金融業界における「社会的責任投資(SRI)」への意識の高まりなどもあり、「核兵器に支出している金融機関は使わない」という取り組みを行うことで、金融機関に自主的な行動を促すことも達成可能だということである。
   SRIとは、金融機関が市場に資金を流していくメカニズムを活用し、企業経営に対し、企業の社会的責任(CSR)に配慮した持続可能な経営を求めていく投資を指す。実際に日本でも多くの金融機関がすでにSRIを実施しており、実は前述のとおり核兵器融資企業である三菱東京UFJ銀行と三井住友銀行もSRIを行っている。
   「投資引き揚げキャンペーン」は、兵器製造という「悪いカネ」への資金の流れを、SRIなどの取り組みによって「良いカネ」に転換していく試みである。海外ではすでに成功例が出ている。私たち一人ひとりにできることは限られているが、それでも日々利用する銀行などを日常の中から見直すことはできるのではないだろうか。また、先述した兵器製造を行っている企業の製品を買わないなど、個々人が消費行動を少し変えることでできることも多くある。

取り戻すべきは「平和国家・日本」

   戦後の日本の発展を支え、時に原動力となってきたのは日本企業の「ものづくり」や創意工夫であることは疑う余地がない。かつて私たちの日本は、近隣アジア諸国への侵略を行い、その末路として、日本本土への幾多の空襲、沖縄の地上戦、広島・長崎への原爆投下を経験した。戦後の焼け野原からふたたび国際社会の一員として復帰し、そして世界をリードする経済大国にまで昇りつめた。
   ひたすらに経済発展を志向した時代には、多くの矛盾や犠牲になった価値もあっただろう。しかしそこには、「あの戦争をふたたび繰り返さぬように」とのマインドがあったはずである。
   平和を営み続けることと企業利益を上げることとが時に直面する相克は、憲法9条と日米同盟の矛盾性とも共通する。その時々の時代の中で葛藤し、よりよい社会を築こうと努力してきた人々の営みによって、いま私たちが生きる「戦後日本」の社会がある。日本企業には、世界の「平和産業」の担い手で在り続けることを望み、私たちたち消費者も日々の暮らしの中で、こうした視点を培わなければならない。

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