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平和軍縮時評8月号 NPT無期限延長から20年へ向け核兵器ゼロへの包括的アプローチを―核兵器禁止の法的枠組みと北東アジア非核兵器地帯―  湯浅 一郎

2014年8月30日

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   1945年、広島・長崎の原爆投下から69年目の夏が過ぎ、来年は被爆から70年を迎える。核兵器の廃絶と不拡散のための基礎であり、この問題に関する国際的論議ができる場として重視されてきた核不拡散条約(NPT)の5年に1回の再検討会議が開かれる年でもある。しかし、人類共通の目標である「核兵器ゼロ」への具体的な道筋は見えていない。
   そこで、この機会に、NPTにおける合意の変遷とその履行状況をふりかえり、現在の閉塞をいかに克服するのかを考えたい。

NPTでの合意の変遷とその履行状況

   NPTは1968年に成立し,70年3月5日に発効した核兵器の拡散を食い止めるための条約である。その方法は、1.核兵器を持たない国(非核兵器国)に対しては、核兵器の保有を禁止し、国際原子力機関(IAEA)の査察を受けることを義務づけ、2.核兵器国に対しては、自らが持つ核兵器を撤廃するために「誠実に交渉する」(NPT第6条、資料1)ことを義務付けている。しかし、後者は、紳士協定にとどまっており、核軍縮を進める具体的規定や国際機関は存在しない。また、3.全締約国に核エネルギーの平和利用追求の不可侵の権利を保証する(第4条)。
   人類は、未だ核兵器を禁止する条約を有していないが、核兵器の廃絶と不拡散について貴重な合意を蓄積してきた。その基礎にあるのがNPTである。条約の履行状況を点検する5年に1回開催される「再検討会議」等を通じ、いくつもの合意を産み出してきた。以下、その主な合意と履行状況を資料1に整理した。

*CTBT交渉完了や中東非大量破壊兵器(WMD)地帯化を約した1995年合意
   発効後25年後の1995年の再検討・延長会議では、核兵器国が核軍縮義務を怠っているとして非核兵器国から厳しい批判が相次いだ。激論の末、NPTは無期限延長となるが、条件として「核不拡散と核軍縮のための原則と目標に関する決定」(以下、「原則と目標」)と中東非核・非WMD地帯の設立を明記した「中東に関する決議」(資料1)が採択された。「原則と目標」は、96年までの包括的核実験禁止条約(CTBT)の交渉完了、兵器用核分裂性物質の生産を禁止するカットオフ条約交渉の即時開始と早期妥結を強調している。

*「保有核兵器廃棄への明確な約束」をした2000年合意
   2000年の会議は、NPT第6条履行のための13項目の実際的措置(資料1)を含む行動勧告が全会一致で採択された。とりわけ重要なのが、その第6番目、「すべての締約国が第6条の下で誓約している核軍縮につながるよう、核兵器国は保有核兵器の完全廃棄を達成するという明確な約束を行うこと」である。これにより核兵器国は核兵器に依存しない安全保障政策を作り出さねばならない状態が生まれた。しかし、核保有国は核戦力の近代化を続けており、合意はほとんど履行されないまま今日に至っている。

*合意なしの2005年再検討会議
   2000年合意の履行が期待された2005年再検討会議は、対テロ戦争において先制攻撃を正当化し、2000年合意を無視しようとするブッシュ政権の姿勢により、合意文書はもちろん、何一つ成果を挙げることなく終了した。

*非人道性と核兵器禁止条約に触れた2010年合意
   2010年の会議は、オバマ政権が登場し、オバマ大統領のプラハ演説など「核兵器のない世界」をめざす良好な環境の中で、2000年合意の有効性を再確認するとともに、新たな内容(資料1)を盛り込んだ最終合意が全会一致で採択された。その特筆すべき成果は、第1に核兵器の非人道性を認識し、国際人道法を含む国際法を遵守する必要性が盛り込まれたことである(行動勧告IAv)。第2に「核兵器のない世界を実現、維持する上で必要な枠組みを確立」することが確認され、国連事務総長が5項目提案の中で述べた核兵器禁止条約(NWC)や「別々の条約の枠組みに関する合意」に初めて言及された。NPTの合意文書としては初めて「核兵器禁止条約」という言葉が登場した。第3に、1995年無期限延長の重要な要素である中東決議の履行を図るための中東会議の2012年開催に合意した。

   今、95年のNPT無期限延長から20年を前に、その条件とされたCTBTは発効せず、カットオフ条約の交渉や中東非核・非大量破壊兵器地帯設立への前進はほとんどない。2000年合意の「保有核兵器の完全廃棄への明確な約束」も有効性は再確認されているものの、核保有国はこぞって核兵器の近代化を推進している。世紀を挟んだ20年間、不当にもNPT合意はほとんど履行されていないのである。
   これを打開するためには、個別課題を一つ一つ積み上げると言うことではない、「核兵器のない世界」の価値を前面に押し出した、より包括的なアプロ―チが求められる。

核兵器禁止の法的枠組みを求めるアプローチ

   その第1が、核兵器禁止の法的枠組みを求めるアプローチである。12年NPT第1回準備委員会(ウィーン)において16か国が「核軍縮の人道的側面に関する共同声明」を発出した。同声明は、「もっとも重要なことは、このような兵器が、いかなる状況の下においても二度と使用されないこと」であるとし、いわば「核兵器の不使用」が目指されるべきであるとする。13年10月の第68回国連総会での4回目には国連加盟国の3分の2に当たる125か国が署名した。そして、核抑止依存の政策に矛盾すると不賛同を続けていた戦争被爆国である日本が、国際的世論に抗しきれず初めて賛同した注1
   併せて非人道性の認識の国際的な拡大を意図して、「核兵器の人道的影響に関する国際会議」が、ノルウエーのオスロ(13年3月)、メキシコのナヤリット(14年2月)で開催され、14年12月には第3回目がオーストリアのウィーンで開催される。メキシコ会議の議長要約は、核兵器の人道的影響を前提に、核兵器の非合法化に関連して新たな法的拘束力のある条約を結ぶこと、そのために時限を区切った外交プロセスを開始する時期が来たと大胆な提案を行った。
   このように核兵器の非人道性を根拠として核兵器を禁止する法的枠組みを作ろうとの取組みが強まっている。14年4月のNPT第3回準備委員会は、それを象徴する場となった。例えば、NPT第6条の履行を求め続ける新アジェンダ連合(NAC)注2を代表して演説したアイルランドは、「全加盟国は、この準備委員会を、核兵器のない世界を達成し、維持するための相互に強化しあう包括的で法的拘束力のある枠組みの構築について真剣に作業を開始する機会としなければならない」と呼びかけ、「その枠組みは、明確に定義されたベンチマークと時間設定を含み、強力な検証システムによって裏付けられていなければならない」とした。このような主張は、核兵器廃絶の議論が、NPTを跳躍台としつつも、NPTを超える場の創出を必要とする局面に入っていることを含意している。

地域に非核の傘を作る北東アジア非核兵器地帯

   包括的アプロ―チの第2は、中東や北東アジアなど地域の非核化をめざすアプロ―チである。地帯内国家が核兵器を保有しないことを誓約し、あわせて周辺の核保有国が核による攻撃や威嚇をしないとの消極的安全保証を誓約して条約を作る。非核兵器地帯は、地域に非核の傘を作り、市民を核兵器の脅威から解放し、安全・安心を確保すると言う、まさに「核兵器のない世界」の価値を作り出す包括的なアプローチである。
   北東アジアに関してこの問題を考えるに際しては2000年合意の13項目の実際的措置を思い起こさねばならない。例えば、第9項目に「安全保障政策における核兵器の役割を縮小すること」とある。これは、安全保障を米国の核の傘に依存する日本、韓国も、非核の安全保障政策を作り出さねばならないという課題を突きつけている。これに応えるためには、政府として北東アジア非核兵器地帯をうちだす必要がある。
   そして2013年には北東アジアの非核化につき新たな進展が続いた。まず7月、国連事務総長の軍縮諮問委員会が「事務総長は、北東アジア非核兵器地帯の設立に向けた適切な行動を検討すべきである」との画期的な勧告を行った。9月の国連総会ハイレベル会合において、モンゴルのエルベグドルジ大統領は、北東アジア非核兵器地帯の設立への検討を行う非公式の場を準備する用意があることを表明した。そして、10月の国連総会では、先に述べたように「核兵器の不使用を求める共同声明」に日本政府が初めて賛同した。核兵器が二度と使われてはならないとするこの共同声明は、安全保障を核兵器に依存する現在の日本の政策とは相いれない。これらの動きは、日本政府をして、北東アジア非核兵器地帯へ踏みださせる環境をつくり出しつつある。

日本政府は、非核の安全保障に舵を切れ

   上記の新たな状況を活かし、核兵器を禁止する法的枠組みと北東アジア非核兵器地帯という2つの包括的アプローチを前進させるために、日本政府は、「核兵器の不使用を求める共同声明」に賛同した意義を熟慮すべきである。この声明への賛同は、核兵器の使用を前提とした拡大核抑止論に基づいた「核の傘」依存の安全保障政策を変更し、非核の安全保障、即ち北東アジア非核兵器地帯をうちだすべきことを促している。このように政策転換することができれば、日本はそれによって同時に核兵器を禁止する法的枠組みへの主張を強め、その動きを促進し、グローバルな核廃絶に寄与することができる。
   北東アジア非核兵器地帯については、日本では民主党核軍縮促進議員連盟やピースデポが「3+3」構想なるモデル条約案を発表し、非核宣言自治体をはじめ市民社会からの支持の声と取り組みが続いている。14年4月には、長崎、広島両市長が、国連軍縮諮問委員会の勧告を踏まえ、国連本部において北東アジア非核兵器地帯を支持する日本の543自治体の首長署名を潘基文国連事務総長に手渡した。このような取り組みを、より広範な市民社会、例えば宗派を超えた宗教界や超党派の国会議員に広げ、国連や日本政府に提出していくことも焦眉の課題である。市民社会からの支持の下、日本政府の果たせる役割は大きい。

  1. 岸田外務大臣談話(2013年10月22日)は以下。www.mofa.go.jp/mofaj/press/page4_000254.html
  2. ブラジル、エジプト、アイルランド、メキシコ、ニュージーランド、南アフリカの6か国からなる核軍縮推進派の国家連合。98年に発足時の「核兵器のない世界へ:新アジェンダの必要性」という共同宣言を発したことから、この名で呼ばれる。

【資料1】過去の主要なNPT合意(抜粋訳)

●核不拡散条約(NPT)第4条1、第6条   1968年7月1日採択、1970年3月5日発効

第6条
各締約国は、核軍備競争の早期の停止及び核軍備の縮小に関する効果的な措置につき、並びに厳重かつ効果的な国際管理の下における全面的かつ完全な軍備縮小に関する条約について、誠実に交渉を行うことを約束する。

●1995年NPT再検討会議「中東決議」 1995年5月11日採択

5.中東におけるすべての加盟国に対し、とりわけ中東に効果的に検証可能な大量破壊兵器、すなわち核・化学・生物兵器、ならびにそれらの運搬システムが存在しない地帯を設立するために前進を図るべく、適切な場において実際的措置を講じるよう、また、この目的の達成を妨げるようないかなる措置をとることも控えるよう求める。

●2000年NPT再検討会議最終文書・(13+2)項目  2000年5月19日

第6条関連
第15節
6. すべての締約国が第6条の下で誓約している核軍縮につながるよう、核兵器国は保有核兵器の完全廃棄を達成するという明確な約束をおこなうこと。
9. 国際的安定を促進するような方法で、また、すべてにとって安全保障が減じないとの原則に則って、すべての核兵器国が核軍縮へつがなる諸措置をとること:

-核兵器国による、保有核兵器の一方的な削減のさらなる努力。
-核兵器能力について、また、第6条にもとづく合意事項の履行について、核軍縮のさらなる前進を支えるための自発的な信頼醸成措置として、核兵器国が透明性を増大させること。
-核兵器が使用される危険を最小限に押さえるとともに、核兵器の完全廃棄の過程を促進するために、安全保障政策おける核兵器の役割を縮小すること。
-すべての核兵器国を、適切な早い時期において、核兵器の完全廃棄につながる過程に組みこむこと。

●2010年NPT再検討会議最終文書「行動勧告」 2010年5月28日採択日

Ⅰ.核軍縮
A.原則と目的

v.会議は、核兵器のいかなる使用も壊滅的な人道的結果をもたらすことに深い懸念を表明し、すべての加盟国がいかなる時も、国際人道法を含め、適用可能な国際法を遵守する必要性を再確認する。

B.核兵器の軍縮/p>

ⅲ.会議は、具体的な軍縮努力の実行をすべての核兵器国に求める。また会議は、核兵器のない世界を実現、維持する上で必要な枠組みを確立すべく、すべての加盟国が特別な努力を払うことの必要性を強調する。会議は、国連事務総長による核軍縮のための5項目提案、とりわけ同提案が強固な検証システムに裏打ちされた、核兵器禁止条約についての交渉、あるいは相互に補強しあう別々の条約の枠組みに関する合意、の検討を提案したことに留意する。

(出典:ピースデポ刊『イアブック核軍縮・平和2013』から抜粋)

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