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平和軍縮時時評2017年6月号 自衛隊の現状から安倍改憲案を伐る 湯浅一郎

2017年6月30日

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 5月3日、安倍首相は、憲法改正推進派の団体が開いた集会に自民党総裁としてビデオメッセージを寄せ、憲法9条をとりあげ、戦争放棄をうたった1項と戦力不保持を定めた2項を堅持した上で、自衛隊の存在を明記する条文を加えるよう主張し、2020年には改定憲法を施行したいと述べた。また、これは国民的な議論に値するともした。9条第2項を削除し、「国防軍」の保持を明記するとした2012年の自民党改憲草案と比べるとやや穏便な案で、公明党や民進党の一部にもあるような考えかたに近いものとなっている。しかし、自民党として決めた改憲草案とは異なる案を首相が勝手に提起した形になっていることは驚きである。

 また言うまでもなく9条第2項「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」は、一切の戦力の保持と交戦権を否認している。その上で、第3項として、世界第7位に相当する軍事費を使っている実力を有する自衛隊という軍事組織を憲法に明記した場合どういうことになるのか? ここでは、自衛隊の任務、権限はいかなるものかが問題となる。普通に考えれば、第2項と安倍案で言う第3項とは明らかに矛盾していると考えられるが、この点を正確にとらえるためには、自衛隊の現状と歴史的変遷を押さえておかねばならない。ここでは、私なりに関わってきた呉における海上自衛隊の基地強化の変遷を振り返ることを通じて考える。

軍隊としての実体を拡げてきた自衛隊
  16年3月施行された「平和安全法制」=戦争関連法は、「切れ目のない」(シームレス)という言葉をいたるところで使い,日米の軍事一体化を進め、自衛隊が地理的限定を受けないで戦争に関与できるための大掛かりな法体系となっている。その背景には13年12月、戦後初めて作られた「国家安全保障戦略」があり、その基本理念が「国際協調主義に基づく積極的平和主義」である。同日、約10年の長期的な防衛力整備に関する基本方針である防衛計画大綱、大綱に基づいて5年間の「防衛予算」を定める「中期防(中期防衛力整備計画)」が策定された。 大綱は「統合機動防衛力」をうたい、3自衛隊を統合的に運用し、機動的、柔軟に対処する力をつけていくとする。主要装備の概要を見ると、陸自定数15万9千人を維持、北朝鮮の弾道ミサイル対応を念頭にミサイル防衛の体制を増強し、海自イージス艦を4隻から6隻、さらに8隻へと倍増する。中期防は、減少していた防衛費を増やし、14年度から5年間の所要経費を約24兆6700億円に設定した。重点は南西諸島での離島防衛で、陸上自衛隊に離島防衛を専門的に行う「水陸機動団」を新設。水陸両用車52両を導入する。機動展開能力や警戒・監視活動強化のため、事実上オスプレイを指す「ティルトローター機」17機を陸上自衛隊が購入する。このように整備した防衛力は、安保法制の背景をなす日米の新々ガイドラインに沿って、日米軍事一体化の基礎をなす。
  しかし、米軍との軍事一体化の流れは、安倍政権で急激に進んだわけではない。この流れは、既に78年11月、旧ガイドラインから始まっている。以来、日米共同演習が普通に行われるようになり、そこから、専守防衛を逸脱する装備、大型化が進行した。

海外派兵の中心を担ってきた海上自衛隊
  1954年呉地方総監部創設以来、呉基地は「掃海」と「潜水艦」を特色とする基地であった。「潜水艦」は「おやしお型」に加えて2009年より「そうりゅう型」を併せて10隻の潜水艦隊と潜水艦教育訓練隊(練習艦隊)をもつ、日本最大の潜水艦基地である。特に1980年代以降、基地の拡大と艦船の大型化が一段と進んだ。
  79年、洋上給油ができる補給艦「さがみ」が呉に配備される。基準排水量5000トンで、呉基地では当時一番大きい艦船であった。、同艦が随伴すれば、掃海艇などが世界中どこへでも行けることになり、これは、専守防衛を旨とする自衛隊が持ってはならない装備である。案の定、自衛隊は、80年からリムパック環太平洋合同演習への参加を始める。当時、リムパックは、アメリカ、カナダ、ニュージーランド、オーストラリアなどで多国間合同演習をしていた。集団的自衛権の行使そのものである。気が付くと、米軍に次ぐ規模は自衛隊。ニュージーランド海軍はフリゲート艦を全国で4隻だけ。当時、自衛隊は約150隻を保有していた。気づいてみれば、日本はニュージーランドの40倍の規模になっていた。海自は2年おきのリムパック演習に参加し続けている。
  私たちは呉でリムパック演習への海上自衛隊参加に反対する基地への申し入れで、将校に「自衛隊はどういう顔をして米軍と接するのか」、相手は世界最強の軍隊で自衛隊は軍隊ではない、その両者が共通の目標を持った軍事演習をする、おかしいじゃないかしつこく質問していた。1人だけ答えた人がいる。彼は「自衛隊は自衛隊です」と一言答えた。軍隊として米軍に接するという言い方はしなかった。その構造を変えるべきではない。
  87年「さがみ」退役で8100トンの補給艦「とわだ」型の配備が始まり、90年には補給艦「とわだ」型の3隻体制ができあがる。タイミングが良すぎるが、翌年、湾岸戦争が起きる。91年4月に横須賀、呉、佐世保から掃海艦隊4隻をペルシャ湾に派遣する。法律もないのに閣議決定で行う。戦後初の海外派遣。これから、海外派兵が日常化していく。
  92年9月から、PKO法によるカンボジア派兵が行われる。背景には洋上給油ができる補給艦を保有し、米軍との共同演習を10年積み重ねてきた実績があったから即座にできたのである。01年9・11後も同じことが繰り返された。小泉政権は1か月半の10月29日対テロ特措法を成立させ、11月2日施行。補給艦第1陣が佐世保を出たのは11月7日で、法施行から1週間も経ってない。03年、イラク特措法の時も全く同じ。洋上給油ができる艦船を持ってしまった意味は、かなり大きなものがある。空中給油機も小牧基地に配備されるようになった。中期防には新型給油機3機調達計画が含まれている。空中給油機が一緒に行けば、空自も世界中どこへでも行ける。
 その後、戦車揚陸艦としての大型輸送艦「おおすみ」、実質ヘリ空母である大型護衛艦「いせ」、「かが」の配備などが相次ぎ、大型化が進行した。これらはほとんど国民的な議論もないまま、既成事実が蓄積されてきた。
  ヘリ護衛艦「いせ」は「護衛艦」だが、前後の甲板を行き来できる空母型で1万5千トン級のヘリ空母である。日本で一番大きいのが2万トン超の護衛艦「いずも」で、17年4月3日、3月22日に就役したばかりのヘリ空母「かが」が、海上自衛隊呉基地に配備された。「かが」は、23中期防に基づく24DDHとして建造され、全長248メートル、基準排水量は19,500トン、満載排水量26,000トン。費用は1,155億円。「いせ」に比べ基準排水量で5,550トン、全長で51メートルも大型化し、「いずも」とともに海上自衛隊最大の艦船であり、全通甲板のヘリコプター5機のサイトを装備し14機のヘリコプターが搭載可能である。垂直離着陸機オスプレイも使用できる。佐賀空港にオスプレイ配備がされれば、オスプレイを艦載して「離島防衛」などの名目で南西諸島「パトロール」を始めるとみられる。防衛省ではヘリコプター搭載型護衛艦というが、世界的に見ればヘリコプター空母(航空母艦)である。この結果、ヘリ空母は「ひゅうが」DDH-181(舞鶴)、「いせ」DDH-182(佐世保)、「いずも」DDH-183(横須賀)、「かが」DDH-184(呉)の4隻となり、護衛艦隊の4護衛隊群のそれぞれに配備され、海上自衛 隊は艦船の大型化を一層すすめた。
  この間、呉基地では神戸製鋼の跡地の基地利用、Fバース・Sバースの延長、昭和埠頭の基地利用と、拡大の一途をたどり、2015年にはFバースはさらに420メートルに延長された。「護衛艦」のみならず、1987年の補給艦「とわだ」、1998年3月の強襲揚陸艦(輸送艦)「おおすみ」、掃海母艦「ぶんご」の就役を契機として艦の大型化も進み、現在は強襲揚陸艦「おおすみ」「しもきた」「くにさき」の3隻、2011年就役のヘリ空母「いせ」(佐世保に移籍)、そして、この度のヘリ空母「かが」を擁するに至った(写真)。そうした中で、1991年のペルシャ湾への掃海艇派遣、翌年のカンボジアPKO派遣に始まる相次ぐ「海外派兵」が「専守防衛」の枠を超えて続けられ、今もソマリア(ジプチ)派遣は継続している。こうして、呉基地は、「後方支援」型の基地に加えて「海外派兵」に向けた「出撃基地」の機能を併せ持つ「総合基地」に変容してきたのである。

  5月1日、横須賀基地に停泊するヘリ空母「いずも」が出港し、2日には呉基地から護衛艦「さざなみ」が出港し「いずも」に合流しで米艦防護にあたった。これは、安保法制の施行を受けて、自衛隊が専守防衛を踏み越え、集団的自衛権行使を可能とする日米の軍事一体化を象徴する出来事であった。今後、こうした動きは常態化していくと考えられる。日米の軍事一体化を進め、自衛隊が地理的限定を受けないで戦争に関与できるための大掛かりな法体系があり、自衛隊は、その法を前提とし、その法の下で運用されている。地震対策など防災における自衛隊の機能から、自衛隊の存在そのものを否定する市民が少なくなっていることを考慮すると、安倍改憲論は自民党改憲草案よりも市民から受け入れられやすい側面を持っている。しかし、そうであればこそ、本稿でみたような自衛隊の現状と実態、そのありようを無視して、憲法に自衛隊の存在を明記することが、そもそも9条第2項と矛盾することを明らかにしていかねばならない。安倍改憲論をつぶしていくためには、自衛隊の現状と歴史的変遷を明らかにし、問題点を浮き彫りにし、その認識を広く市民の間で共有していくことが重要である。

全通甲板の大型艦船がひしめく海上自衛隊呉基地。左側のFバースにヘリ空母「かが」、 右側のEバースに「いせ」、右手前が強襲揚陸艦「おおすみ」。

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