2017年、平和軍縮時評

2017年12月31日

国連安保理、2017年に4回の北朝鮮制裁決議を採択 決議に沿えば、米国は平和的解決をめざさねばならない 湯浅一郎

 17年9月11日、国連安保理は朝鮮民主主義人民共和国(DPRK、以下、北朝鮮)が同年9月2日に行った6回目の核実験に対する非難・制裁決議(2375)を全会一致で採択した。

北朝鮮への輸出入の制限を強化した安保理決議2375
  決議●1は前文で、DPRKの核・ミサイル関連活動により「国際の平和と安全に対する明確な脅威が引き続き存在している」とした上で、同決議が国連憲章第7章(平和への脅威)第41条(兵力の使用を伴わない措置)に基づくことを明記する。「第41条」は安保理が決定し加盟国に要請できる「兵力の使用を伴わない措置」を規定しており、06年10月14日に採択された北朝鮮の核実験への最初の非難決議1718以来、安保理の対DPRK決議はすべて第41条に基づいてなされている。今回の決議は、決議1718以来9度目で、これまでの決議の継続を前提に、それらに上乗せするものである。
決議は、まず主文第1節で「9月2日の核実験を最も強い言葉で非難」する。第3節から第23節で決議1718を基準にして制裁対象を様々な領域に拡大し、加盟国が履行すべき義務を詳しく規定している。今回、新たに加わった主なものは以下である。
◆加盟国は、液化天然ガスや天然ガスの副産物である軽質原油コンデンセートの全面輸出を禁止(第13節)。
◆加盟国は、石油精製品の輸出量として年間200万バレルに上限を設定(第14節)。
◆北朝鮮への原油供給の年間上限は過去12カ月の総量とし、現状を維持(第15節)。
◆北朝鮮の主要輸出品である繊維製品は契約済みなどを除き輸出禁止(第16節)。
◆海外での北朝鮮の出稼ぎ労働者の受け入れは安保理制裁委員会が認めた場合以外は禁止し、雇用契約が切れた後の更新も禁止(第15節)。直近の8月5日の制裁決議2371では更新は許されていた。
◆公海上で決議違反の物資を運んでいる疑いがある船舶への臨検を加盟国に要請(第7節)。
米国は当初、「可能な限り強力な制裁決議を目指す」と宣言した。今回、初めて原油の全面禁輸を盛り込もうとしたが、ロシアと中国がこれに強く反対したため、米国は、全会一致をめざすことを優先し、全面禁輸は見送り、現状保持に留めた修正案を採択した。それでも、禁輸対象は、石油精製品の輸出制限や、液化天然ガス等の禁輸が加わった。更に北朝鮮輸出総額の第2位を占める繊維製品輸出の禁止が加わったことも大きい。既に安保理決議2270により北朝鮮産の石炭、鉄鉱石、金・チタン鉱石など鉱物資源の輸出禁止●2が実行されている上での繊維製品禁輸の追加措置で輸出総額の9割相当の北朝鮮産品が禁輸対象となったことになる。従来からの決議を含め、一連の決議は、世界中からDPRKやその関係組織に流出入し往来する「ヒト、モノ、カネ」を断つことを狙うものとなっている。

それでもミサイル発射を続ける北朝鮮
本決議に対し北朝鮮は直ちに米国を強く非難する声明を発し、強い抗議の意思を表明した●3。声明は、米国を強く非難し、「今後の北朝鮮による措置は、歴史の中で最大の痛みと苦しみを米国にもたらす」とした。そして直後の9月15日、北朝鮮は、弾道ミサイル「火星12号」を北海道上空に向けて発射し、これは約3700km飛翔し、太平洋に落下した。
更に11月29日未明には、米本土にも到達可能な飛行距離1万3千キロにもなると見込まれる新型ICBM「火星15号」の発射実験を行なった。これは、「最高高度4475キロに達し、水平距離950キロで53分飛行し、日本海中央部のあらかじめ設定された海域に落下した。」●4。
  11月29日に新型とみられるICBM級の弾道ミサイル「火星15号」の発射実験を行ったことを受け、17年12月22日、国連安保理は、更なる制裁措置を強化する10回目となる決議2397号を全会一致で採択した。累次の決議に加え、「石油分野における更なる供給規制や報告義務の新設による手続きの厳格化のみならず,北朝鮮の輸出による外貨収入を事実上枯渇させるための措置や,北朝鮮籍海外労働者の24か月以内の送還,海上輸送に係る一層厳格な措置」等を盛り込み、「北朝鮮に対する制裁措置を前例のないレベルにまで一層高める」ものとなっている●5。詳細について別の機会に譲るが、基本的な構図は従来のものと同じである。また参考に資料1として過去8回目までの安保理決議の日時と内容を添付した。

過去8回の安保理決議

いずれにせよ2017年には、6月,8月,9月,12月と何と4回にわたる決議が採択されたことになる。
しかし経済的には、それなりに厳しい制裁決議が次々と出されるにも拘わらず、北朝鮮が核・ミサイル開発を抑制する姿勢は一向に見られない。中ロの提案するダブル・フリーズも無視され、緊張を解く糸口は見いだせないままである。

「平和的に事態を解決する約束をする」主文第29節
こうした中で、トランプ大統領は、17年9月の国連総会での演説で、「米国と米国の同盟国を守らなければならないときは、北朝鮮を完全に破壊する選択肢しかない」と発言したように、全ての選択肢がテーブルにあると息巻き、武力行使による対応もありうるとの立場を公言している。そして安倍首相は、このトランプ大統領の姿勢を全面的に支持するとしている。しかし、本決議の主文第29節は、以下のように書いている。
「29.  朝鮮半島と北東アジア全体で平和と安定を維持することの重要性を繰り返し表明する、平和的、外交的そして政治的な事態の解決への関与を表明する、そして委員会メンバー並びに他の国々の対話による平和的、包括的な解決に向けた努力を歓迎する;そして朝鮮半島とそれを越えた地域の緊張を減らすための取り組みの重要性を強調する。」
つまり「朝鮮半島と北東アジア全体で平和と安定を維持することの重要性を繰り返し表明し、平和的、外交的そして政治的に事態を解決することを約束する」としており、武力行使はしないことを誓約しているのである。これに照らせば、トランプ大統領や安倍首相の発言や姿勢は、明らかに主文29節に違反していると言わざるを得ない。その意味で、本決議は、米国が軍事的な行動に踏み出すことを抑制する機能を果たしている。
更に主文28節には、以下のような記述がある。
「28.  6か国協議への支持を再確認し、その再開を求め、2005年9月19日に中国、DPRK、日本、韓国、ロシア連邦、及び米国によって発出された共同声明に記された、6か国協議の目的が平和的な方法による朝鮮半島の検証可能な非核化でること、米国とDPRKが相互の主権を尊重し、平和的に共存すると約束したこと、そして6か国協議が経済協力の促進を約束したこと、及び他の関連する誓約を含む、諸誓約への支持を繰り返し表明する。」
即ち、「6か国協議への支持を再確認し、その再開を求め、」「6か国協議の目的は平和的方法による朝鮮半島の検証可能な非核化である」としており、「平和的、外交的な事態の解決」の手段として6か国協議があることを示唆している。本決議も含め、これまでの全ての制裁決議が主文においてこのように記述しているのである。
この際、国際社会は、制裁をより強化してきた10年強にわたる経過を全体として振り返り、第28節を呪文の如くくり返すのでなく、本気で具体化させていく方向、即ち6か国協議の再開に向け舵を切るべきである。
以上、見たように国連安保理決議は、北朝鮮に対し厳しく経済的な制裁措置をとってはいるが、一方では主文において6か国協議の意義を支持し、かつ問題への対応策として「平和的、外交的な事態の解決」を約束している点を忘れてはならない。これは、トランプ政権が一方的に武力攻撃による解決へと向かうことを食い止める役割を果たしている面があることに留意せねばならない。


●1   「核兵器・核実験モニター」第534号(2017年12月15日)に抜粋訳。
●2  「核兵器・核実験モニター」第492号(2016年3月15日)。
●3 「朝鮮中央通信(KCNA)」2017年9月11日。英語版サイトから日付で検索。
www.kcna.co.jp/index-e.htm
●4  「朝鮮中央通信(KCNA)」2017年11月30日。
●5 「国連安全保障理事会決議の採択について(外務大臣談話)2017年12月23日。

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