平和軍縮時評

2018年02月27日

非核三原則の実質化のチャンスを活かせ トランプ大統領への無批判の支持は誤り -衆院外務委員会:岡田元外相の河野外相への質疑から 湯浅 一郎

2018年2月2日、トランプ政権が、核兵器の役割を高めることを意図した核態勢見直し(NPR)を発表したことで、安全保障を核兵器に依存する日本の核政策が問われ、今こそ、北東アジア全域の非核兵器地帯化が求められている。そうした情勢において、改めて非核三原則を厳密に守るために、日本政府の姿勢をただすことも重要な課題である。
17年12月6日、衆議院外務委員会で岡田克也元外相(無所属の会)は、朝鮮半島情勢に即して、核兵器の持ち込み問題、トランプ政権の北朝鮮への対応に関わる問題で河野外務大臣を追及した。非核三原則について、核持ち込みをさせないため米戦略爆撃機の日本への着陸は認めないことを米側に通知し理解を求めるべきであると提起した。また北朝鮮問題では、国際法に違反する先制攻撃の可能性を排除できないトランプ大統領の姿勢を無条件に支持するのでなく、武力衝突の事態を招かない努力こそが日本政府の最大の責任だと迫った。

非核三原則と核能力爆撃機の飛来
民主党政権時、岡田氏が外務大臣として行った密約調査で、「米国政府が核兵器を搭載した艦船の一時寄港は持ち込ませずに該当しないと考えていたことを知りながら、米国政府が何も言わないから持ち込みはないと、国民に対して嘘を言い続けてきた」ことが明らかになった。この時、岡田氏は、国民に嘘を言い続けた政府の姿勢は間違っていたとして、外相として横須賀、佐世保両市の市長や議会を訪問して謝罪した。しかし、調査結果を活かし非核三原則堅持の政策を確立するには至らなかった。今回の質問は、氏自身が達成できなかった部分を補い、嘘を言い続けた政府の過ちを繰り返さないための具体的措置を現政権に求めようとしたものであろう。
岡田氏は歴代政権が嘘をつき続けたことをどう受けとめるか河野外相に何度も問いかけたが、河野氏は「国民全体の利益や国益に照らしてそう判断したのだと思う」として、歴代の自民党政権の政策を擁護することに終始した。過ちを認めないところからは、新政策の提案は生まれないであろう。
その後、河野大臣が安倍政権も「非核三原則を堅持する」と答えたことを受け、岡田氏は、90年代初め、米国が核能力のある戦略爆撃機(B2とB52爆撃機)、及び戦略原潜にしか核兵器は積まない方向に政策転換したことをとりあげた。議事録からやり取りをたどってみよう。

「○岡田委員 途中でアメリカの政策転換があった。つまり、基本的には航空機、戦略爆撃機、今でいうとB2爆撃機かB52爆撃機、それからもう一つは戦略原潜、ここにしか核兵器は積まないというふうにアメリカは政策転換した。そういったものが日本に来なければ持ち込みはないというふうに考えられるわけですね。逆に言うと、戦略原潜やB2やB52戦略爆撃機は日本として受け入れられません、一時的に寄港したり、あるいは日本の領土内の飛行場に着陸するということは認められませんということは、ちゃんとアメリカ側に通知をして理解を求めるべきじゃないですか。
河野国務大臣 我が国の非核三原則の立場というのをアメリカはよく理解しておりますので、現在までのところ、それに反することはなかったというふうに認識しております。」
岡田委員 結局、従来のことと余り変わらない。むしろ、B2やB52、核兵器を搭載することが可能なものは日本に入れないというところで線を引くことが、非核三原則の堅持だというのであれば、具体的に必要なことだと私は思いますが、いかがですか。」

しかも、17年8月22日、航空自衛隊の2機のF15戦闘機が米国の2機のB52爆撃機と編隊航法訓練を実施した。「訓練するということは、やはり実戦でもそういうことがあり得る」はずで、核を積んだB52、それを日本の自衛隊が支援することがあり得ることになる。さらに航空自衛隊の観閲式にB2爆撃機が参加する方向で調整されていたことが安倍首相の答弁から明らかにされている。これらを考慮すれば、非核三原則の堅持を担保するために、核持ち込みをさせない具体的措置として、B2やB52の日本領土内への着陸は認めないことを米側に通知し理解を求めるべきであると、岡田氏は提起したのである。
「B2とB52それから戦略原潜という、もう限られたものになっているわけですから、そこをきちっと対処すれば非核三原則の堅持は可能なんですね。そういう意味では、今までとは状況は違うわけなので、そこは大臣がご努力されればもっと国民にとって明確になるのではないかと思いますが、いかがですか」と岡田氏が念を押したのに対し、河野大臣は「今、岡田委員がおっしゃったことは、よく理解できること」と応じた。しかし、それを実行するという答弁を引き出すまでの追及は行われなかった。

朝鮮半島の戦争危機
岡田氏は、北朝鮮情勢について、政府あるいは安倍総理が、「全ての選択肢がテーブルの上にあるというトランプ大統領の立場」を一貫して支持している姿勢を追及した。「トランプ大統領が先制攻撃の可能性を排除していない」中でそれでいいのかと質した。

河野大臣は、トランプ大統領の立場を支持すると同時に、「国際法違反の武力行使を支持することはしないというのが我が国の立場」だと答えた。しかし、過去の米国の実績をみると、国際法に違反するかもしれない先制攻撃も必要なときにはやるのが米国政府である。そこで、岡田氏が、トランプ大統領の主張を支持することと国際法を守ることは両立しないと次のように指摘した。

「○岡田委員;国際法に場合によっては違反するかもしれない先制攻撃というのも、必要なときにはやりますというのが米国政府の基本的な立場じゃないですか。そのことも含めて全ての選択肢とトランプ大統領が言っているときに、それを高く支持するということは、国際法はきちんと守りましょうと言っていることと私は両立しないと思いますよ。」

これに対し、河野大臣は、「そもそも、米国が国際法違反の武力行使を行うことを我が国は想定をしていない」と答えた。
しかし、河野外務大臣は、イラク戦争の際、米国が誤った情報をもって国際法違反の先制攻撃を行ったことをどう考えているのだろうか?この時、日本政府は、小泉政権であったが、米国の判断をうのみにしていち早く米英の戦争を支持した。終戦後に行われた米国自身による詳細な調査によっても、イラクに当時進行中の大量破壊兵器計画はなかったことが明らかになっている●1。米国、英国、オランダなどでは独立調査委員会が多くの時間をかけて開戦に至る過程の過ちの詳細な検証が行われている。例えば、イギリスでは、2009 年、イラク戦争に関する独立の調査委員会を設置し、膨大な関連文書を精査し、イラク帰還兵や戦死した兵士の遺族など意見を聞く機会が設けられ、様々な角度から把握する作業が行われた。政策に直接関わった閣僚・政府要人や軍人の公開公聴会も開かれている。しかるに日本では解明の努力がほとんどなされないまま今日に至っている。この責任は自公政権も民主党政権も負うべきであるが、岡田氏には少なくとも米国をチェックする日本の主体性が必要であるとの姿勢が表れている。河野外相は残念ながらその姿勢も見せなかった。
そこで、岡田氏は、韓国大統領は、安倍首相とは全く違った考え方を取っていることを引きあいに出しながら、次のように追求した。
「○岡田委員 想定をしていないと言いながら、現実にはそういうことは起こり得る。(中略) 韓国の大統領は全く違ったことを言っています。(中略)先制的な攻撃がなされたときに、それに対して反撃がなされるとすれば、それは韓国や日本であるわけですから、アメリカの議会調査局の報告書でも、ソウルだけでも、通常兵器の攻撃でも多くの人命が失われるということが言われているわけです。日本にだって、さまざまな攻撃があるでしょう。そういうことを考えたら、やはり国民の命と平和な暮らしを守るという、日本国政府として最も重要なこと、したがって、武力行使という事態に、あるいは武力衝突という事態にならないようにするということが最大の日本国政府の責任じゃないですか。」
岡田氏は、安倍首相は、国際法違反の武力行使をしかねない米国を無条件に評価していると述べ、それに引きかえ韓国大統領の主張の力点はそれとは異なっていると指摘した。確かに文大統領は、例えば17年9月の国連総会演説で「我が政府と国際社会は北朝鮮問題を平和的な方法で解決するために可能な限り尽力しています。北朝鮮の核問題の平和的、外交的、そして政治的な解決という原則を明記した国連安保理の北朝鮮制裁決議もその一環です」●2と述べ、あくまでも平和的解決を基調に訴えている。岡田氏は、米議会調査局報告書を例に挙げ、仮に武力衝突になれば通常兵器の攻撃であってもソウルで多くの人命が失われ、日本にもさまざまな攻撃があるはずだとした。それを考えたら、国民の命と平和な暮らしを守るために武力衝突という事態にならないようにすることこそが日本政府の最大の責任ではないかと質した。
河野大臣は、これにまともに答えず、「この危機は、北朝鮮の挑発によって起きている危機」であると話をそらした。圧力一辺倒の日本政府としては、武力衝突にならないよう努力するとは明言できなかったのであろう。


●1  「核兵器・核実験モニター」第203号(2004年2月1日)。
●2 「核兵器・核実験モニター」第531-2号(2017年11月15日)。

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