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多国間合意への暴挙。冷静に公平な目で中東情勢を把握する
山口大輔

トランプ大統領イラン核合意離脱を表明
多国間合意への暴挙。冷静に公平な目で中東情勢を把握する
山口大輔

2018年7月31日

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 4月28日、ジュネーブで行われていたNPT(核不拡散条約)準備会議に出席するために出張していた筆者は、ジュネーブ市内で行われた国際核兵器廃絶ネットワークアボリション2000の年総会に参加していた。その場でフィンランドのNGOの仲間から、米英仏がJCPOA(共同包括的行動計画。いわゆるイラン核合意)から脱退しようとしているという警告が発せられた。ドイツにもそのおそれがある。中ロは支持している。この直前にトランプ米大統領はワシントンD.C.で24日にマクロン仏大統領と、27日にメルケル独首相と会談し、マクロン氏は新しい核合意の可能性を示唆していた●1。私たち市民社会はこの核合意を維持するための働きかけをしなければならないという提案があった。具体的には各国のこれらの国の大使館前でデモを行う、大使館に手紙を送るなどが提案された。
 そうした動きはあったものの、予想通り18年5月8日、トランプ米大統領はJCPOAからの離脱を表明した。16年1月のJCPOA履行日以来、IAEA(国際原子力機関)がイランはJCPOAを遵守していると報告を続けてきた●2にもかかわらずである。同日、ロウハニ・イラン大統領は米国抜きでも合意に留まると表明した。●3同じく同日、英独仏首脳も共同声明を発表し、合意に留まると発表した。●4 5月23日、イランの最高指導者ハメネイ師は合意に留まる条件として英仏独に対イラン貿易の決済と、イラン産原油の輸出の保証を求めた●5。
 この合意は15年7月にE3/EU+3(英仏独/EU+米ロ中)とイランの間で結ばれたものである●6。JCPOAは、イランの核兵器取得放棄と、平和目的に限る核計画の継続を、検証を伴って確認するものである。イランは(1)ウラン濃縮に使われる遠心分離機を今後10年間かけて段階的に削減し、(2)15年間にわたって、濃縮度3.67%を超えるウランは製造せず、(3)ウラン濃縮活動は今後15年間、限られた施設のみで行い、(4)重水炉は兵器級プルトニウムを生産できないよう設計変更すること等に同意した。これらの合意された措置の検証を伴う履行が確認され次第、国連安保理決議の諸条項とEU、米国の制裁措置は解除される。トランプ氏は16年の大統領選挙戦中からJCPOAを「過去最悪の取引」と呼び、破棄することを選挙民に約束していた。トランプ大統領はイランの弾道ミサイル能力やシリア政府軍、レバノンのヒズボラ、イエメンのフーシ派が関わる地域紛争へのイランの関与を抑制できないことからJCPOAを批判し続けてきたが、これらが含まれていないからこそイランが合意し、ロシアも含めた国連安保理決議2231号として議決されたのである。5月8日の声明では離脱の理由として、ⅰ(一定期間後に段階的に核開発の制限を解除する)サンセット条項、ⅱイラン軍事施設査察の無制限の権利がない、ⅲイラン弾道ミサイル開発の無制限、ⅳイランが関わる軍事行動への無制限、をあげた。これらと取引できる材料となると提案自体が困難となり、そもそも取引を成立させる気がないようにすら見える。5月8日にグテーレス国連事務総長も声明を発表し「この合意とその成果を維持することを損なわずに、JCPOAと直接関係のない事項は処置されるべきである」とこの点について米国を批判した●7。しかし結局5月21日、ポンペオ米国務長官は上記のⅰ~ⅳを含む以下の12項目要求をイランに対して出し、もし実行されれば(5月8日から180日以内に再び課されることになる)制裁を解除するとした●8。

  1.  過去の軍事プログラムについてのIAEAへの説明責任を果たし、そうした活動を永久に検証可能な形で放棄すること。
  2.  濃縮を中止し、プルトニウム再処理を追求しないこと。重水炉の閉鎖も含む。
  3. 全土にわたる全ての施設のIAEAによる無制限の査察を受け入れること。
  4. 弾道ミサイルの拡散を中止し、核搭載能力のあるミサイルの発射や開発を停止すること。
  5. 無実の罪で拘束されている米国だけでなくそのパートナー国、同盟国の市民を解放すること。
  6. レバノンのヒズボラ、ハマス、パレスチナのイスラム聖戦を含む中東のテロリスト組織への援助を中止すること。
  7. イラク政府の主権を尊重し、シーア民兵の武装解除、復員を許可すること。
  8. フーシ派民兵への軍事援助を中止し、イエメンでの平和的政治解決に向けて努力すること。
  9. シリア全土からイランが指揮する部隊を撤退させること。
  10. アフガニスタンやその地域でタリバン他のテロリストを支援するのをやめ、アルカイダの上級リーダーを隠匿することをやめること。
  11. イラン革命防衛隊コッズ部隊による世界中のテロリストや民兵パートナーへの支援を中止すること。
  12. 多くは米国の同盟国である周辺国への威嚇をやめること、これは明確にイスラエルを破壊するという威嚇、サウジアラビアやアラブ首長国連邦にミサイルを撃つこと、国際的な海運への威嚇や破壊的なサイバー攻撃を含む。

 米国はなぜ合意から離脱するのだろうか。
 さまざまな理由があるだろうが、ここでは一点注意喚起をしたい。それはイランのミサイル脅威に関する問題である。米国は欧州段階的適応アプローチ(EPAA)●9によって欧州でのミサイル防衛に取り組んでいるが、2020年までに達成するとしていたその第4段階では「中東から米国への中距離ミサイル、ならびに将来における潜在的な大陸間弾道ミサイル(ICBM)の脅威に対抗する能力を、SM-3 Block IIB迎撃ミサイルの配備を通して強化する」としている。しかし、JCPOAによって中東からの脅威への切迫性がなくなった。そこで離脱宣言によって、JCPOAの欠陥と中東からの脅威をあおりたて、EPAAを再度強化しようという思惑はないだろうか。今年1月に発表された国家防衛戦略(NDS)では欧州ミサイル防衛の強化に関する記述はない●10。近日中にも発表されるとされるBMDR(弾道ミサイル防衛見直し)の内容を注視したい。
 6月12日の米朝首脳会談後の朝鮮半島の非核化問題が世界の関心の的であり続けている。イラン核問題についての多国間交渉の貴重な成果であるJCPOAを一方的に破棄したトランプ政権の行動は、北朝鮮問題に影響するとみられている。JCPOAを結んだ当時のオバマ前米大統領は5月8日に声明を発表し、我々が北朝鮮との外交が成功裏に終わるよう応援しているときに、JCPOAから立ち去るのは我々が北朝鮮との間で追及しているまさにその成果を得られる取引を危険にさらしている、と述べた。●11。交渉に明確な進展が見られないのはイラン核合意からの離脱が影響しているからかもしれない。
 7月22日、ロウハニ大統領はホルムズ海峡の封鎖を示唆した●12。同日、これに対してトランプ大統領は米国を脅せば、史上まれに見るような結果に苦しむことになるとツイッターに投稿した●13。しかし、7月30日、トランプ大統領はロウハニ大統領と前提条件なしで会談する用意があることを記者団に表明した●14。この経過は、最後のBBCの記事でも言及があるように、トランプ大統領と金正恩DPRK国務委員長との間で昨年は威嚇を交換しながら今年6月12日に米朝首脳会談を実施したことを思い起こさせる。交渉相手を極限まで追いつめておいて、そこから交渉を始めるというのがトランプ式交渉術なのかもしれない。しかし、国家の安全保障に関わる交渉は不動産王たるトランプ氏が得意としてきた商取引の交渉とは異なっている。それを理解しないままだと、常に誤解や誤算による戦争、最悪の場合は核戦争発生の危険性が付きまとう。ポンペオ氏の12項目の要求はなるほど米国の国益にかなうことだろう。しかし、米国は自由に核兵器や弾道ミサイルを保有・開発しており、中東の紛争にも介入している。我々市民は核兵器も、紛争解決手段としての戦争も是としない価値観から中東のおかれている状況を理解し、同じ思いの輪を世界中に広げてゆく必要がある。


●1 BBC 18年4月25日 bbc.com/japanese/43889356
●2 18年5月9日iaea.org/newscenter/statements/statement-by-iaea-director-general-yukiya-amano-9-may-2018
●3 presstv.com/Detail/2018/05/08/561071/iran-us-rouhani-trump-jcpoa
●4 gov.uk/government/news/joint-statement-from-prime-minister-may-chancellor-merkel-and-president-macron-following-president-trumps-statement-on-iran
●5 ロイター 18年5月24日jp.reuters.com/article/iran-23-idJPKCN1IP096
●6 「核兵器・核実験モニター」476-7号(15年8月1日)に関連記事。peacedepot.org/wp-content/uploads/2017/04/nmtr476-7.pdf
●7 un.org/sg/en/content/sg/statement/2018-05-08/statement-secretary-general-joint-comprehensive-plan-action-jcpoa
●8  state.gov/secretary/remarks/2018/05/282301.htm
●9 「核兵器・核実験モニター」501号(16年8月1日)に関連記事。peacedepot.org/nmtr/501cover/
●10 「核兵器・核実験モニター」538-9号(18年3月1日)に関連記事。peacedepot.org/nmtr/538-9cover/
●11 CNBC 18年5月8日cnbc.com/2018/05/08/a-serious-mistake-read-obamas-statement-on-trumps-decision-to-pull-out-of-iran-deal.html
●12 朝日新聞 18年7月22日 asahi.com/articles/ASL7Q55CDL7QUHBI01Z.html
●13 BBC 18年7月23日 bbc.com/japanese/44920792
●14 BBC 18年7月31日 bbc.com/japanese/45015123
 

 

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