2026年、平和軍縮時評
2026年01月30日
国際秩序を崩壊させる大国の軍事行動
鈴木達治郞(NPO法人ピースデポ代表)
2026年1月3日、世界は衝撃的なニュースで新年を迎えることになった。米国がベネズエラに軍事攻撃を加え、ニコラス・マドゥロ大統領を拘束したのである。昨年6月にはイスラエルに続いて、米国はイランの核施設を軍事攻撃して破壊している。今回のベネズエラ軍事攻撃に対し、「国際法違反」と批判しているロシアもウクライナ侵攻という国際法違反を犯して軍事行動を行った。米ロという核保有国である大国が国際秩序を崩壊させようとしている現実を、我々は直視しなければいけない。果たして、国際社会は今後どう対応していけばよいのか。今回のベネズエラ軍事攻撃を機会に検討してみる。
軍事行動を規制する国連法(国連憲章と国際人道法)
そもそも、国連憲章は世界の平和と安全保障を守るための国際条約として、1945年10月24日に発効した国際条約で、全ての加盟国が従う義務を負うものとされている。軍事行動を規制している重要な項目は、第2条第4項である(注1)。
「すべての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない。」
これにより、加盟国は原則として武力による威嚇や武力の行使をしてはいけないことになっているが、実は例外的に軍事行動を認めているのが、次の第51条である。
「この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、個別的又は集団的自衛の固有の権利(注2)を害するものではない。」
今回の米国の行動が、これらの国連憲章に違反するかどうかが問われることになる。今回、ベネズエラが米国に対して、武力攻撃を行ったという事実はなく、自衛権で今回の軍事行動を説明することはできない。これは、昨年6月に行ったイラン核施設への攻撃も同様である。ロシアによるウクライナ侵攻の場合は、領土を奪うなど異なる側面もあるが、武力行使・侵略禁止という点でやはり国連憲章違反といえる。
さらに、自衛権に基づく軍事行動であったとしても、その軍事行動には「国際人道法」による制約がある。1977年に採択された「ジュネーブ諸条約の国際的な武力紛争の犠牲者の保護に関する追加議定書」(第1追加議定書)(注3)において、基本原則として文民を保護する目的で「均衡(比例)性原則」(proportionality)」が定められている。これは先行武力攻撃に対する自衛目的の武力行使であっても、その措置は先行攻撃と自衛攻撃で「均衡がとれている」ことを求めるもので、過度に文民の被害をもたらすことのないよう、攻撃対象を限定することが求められている。また追加議定書56条には「危険な力を内蔵する工作物(ダム、堤防、原子力発電所)の保護(軍事施設であっても攻撃をしてはいけない)」が規程されている。ロシアによるチェルノブイリ、ザポリージャ原発への攻撃は、まさにこの56条違反の疑いがある。イランのウラン濃縮施設はその対象ではないものの、2009年に国際原子力機関(IAEA)の総会決議 (注4)「全ての民生用原子力施設への攻撃を禁止する」に違反する行為であると判断される。
ベネズエラ軍事攻撃に関する米国の見解
これに対して、米国はどのような見解で軍事攻撃を正当化しているのか。イランのウラン濃縮施設攻撃に対しては、「我々は戦争を求めているのではないが、米国市民や同盟国の利益が損なわれると判断したら素早くかつ決定的に行動する」(ヘグセス国防長官)として、「『自衛権』での攻撃だ」との解釈を示している。さらに「正確な攻撃により、イラン軍や市民を攻撃対象とせず、核プログラムを完全に破壊した」(同長官)として、人道法にも違反していないとの説明を行っている(注5)。
ベネズエラ攻撃については、米国内法による「麻薬取り締まり」の延長で、「麻薬の元締めであるマドゥロ大統領を逮捕することが目的であり、軍事行動でも侵略でもない」、との主張である。また、「マドゥロ大統領は正当な大統領選挙で選ばれたのではなく、ベネズエラ国民にとっても、望ましい結果だ」(ルビオ国務長官)との説明である(注6)。
今回の米国の軍事行動を理解する上で、2025年11月に発表された「米国家安全保障戦略」を読み解くことが必要だ。その中で、「西半球における米国の支配を回復するという『モンロー主義』を再び主張する」と述べており、ドナルド・トランプ大統領の頭文字をとって「ドンロー主義」と呼ばれている。また、「武力こそ最善の抑止力である」と明言しており、軍事力による支配を絶対視している点が注目される。さらに、トランプ大統領は、米ニューヨーク・タイムズ紙のインタビューで、「私を止めることができるのは私自身の道徳心、精神だけだ。(中略)国際法など不要だ」とのべたのである(注7)。国際法を守ることより、武力で自国の利益を追求することが、トランプ大統領の「国家安全保障戦略」であり、このままでは戦後80年継続してきた「法に基づく国際秩序」は崩壊していくと懸念される。
さらに驚くのは、米有力紙のウォール・ストリート・ジャーナル紙は社説で、今回のベネズエラへの軍事行動を支持する意見を以下のように述べている(注8)。
「米国が長い時間をかけ、多大な努力をして構築してきた国際法の集大成を捨て去るのは賢明でないが、それをねじ曲げる行為はもはや無視できない。世界のならず者たちは全てのルールを破っている。そして彼らは違法行為を続ける手段の一つとして、法を順守する民主主義国家にそれを押しつけるようになっている。(中略)世界のならず者国家に対する防御策として機能しているのは、西側諸国の軍事的抑止力だけだ。米国の決意と軍事能力を示すことは、自由世界を防衛し、ロシア、中国、イランを躊躇させる上で、国連の千の決議よりも大きな効果を持つだろう。」(2026/01/06)
これが米国の主流を占める意見だとすれば、なお恐ろしい。
高まる国際批判と懸念
米国がイランの核施設を攻撃したときも、グテーレス国連事務総長は「世界の平和と安全保障に対する直接的な脅威である」(2025年6月21日)(注9)と述べていたが、今回も強い言葉で米国のベネズエラ攻撃を次のように批判した。
「米国のベネズエラ軍事行動により、世界は深刻な時代を迎えている。(中略)国際法を尊重しない1月3日の軍事行動に対し、強い懸念を表する。(中略)国際安全保障と平和は、全ての加盟国が国連憲章を全面的に遵守することにより保たれる。軍事による威嚇の禁止、法の力が支配する世界であるべきだ」(2026/01/05)(注10)
世界の有識者も同様の懸念を表して、米国の行動を批判している。以下、国内外からの意見を簡単にまとめた。
・どのような国際法に照らしても、今回の米国軍事行動を説明することはできない。結論は明白だ。米国は主権国家に対する軍事行動という形で2026年を開始したのだ。これには法的正当性は全くない。(注11)(Jannia Dill, Blavatnik School of Government, University of Oxford, UK, 2026/01/07)
・米国憲法においても、戦争を開始する権限は議会にあり、大統領にはない。さらに、軍の行動を規制する権限も議会にはある。今回の行動には国内法からみても全く正当化できない。(注12)(Katherine Yon Ebright, Brennen Center for Justice, New York University Law, US 2026/01/06)
・あらたな賭けは行き過ぎたり、意図せぬ結果を招いたりするリスクをはらんでいる。(イラン・ブレマー 米国際政治学者(26/01/09, 長崎新聞評論))
・これまで米国は一方で国際法違反をしつつも、他方で世界最大の対外援助や自国市場へのアクセス供与で、世界の安定と繁栄に貢献してきた。今やそれらの「善行」はみられない。『米国の時代』の終わりがさらに早まりかねない。(石井正文 りそな総合研究所理事2026/01/07、長崎新聞評論)
国際社会はどう対応すべきか
超大国が国際法を軽視し、核兵器をはじめとする巨大な軍事力を背景に世界を支配するような時代が目前にせまっている。そのような危機感を代表して、カナダのカーニー首相が1月に開催された「ダボス会議」で行った演説 (注13)を引用して、本論のまとめとしたい。
「本日私は、世界秩序の断絶、美しい物語の終焉(しゅうえん)、そして大国間の地政学が一切の制約を受けない残酷な現実の始まりについて話します。しかし同時に申し上げたいのは、カナダのようなミドルパワー(中堅国家)をはじめとする他の国々が無力ではないということです。これらの国々は人権尊重、持続可能な開発、連帯、主権、領土の一体性といった、私たちの価値観を体現する新たな秩序を構築する能力を持っているのです。(中略)率直に申し上げます。私たちは移行期ではなく、断絶の真っただ中にいます。(中略)ミドルパワーは結束して行動しなければなりません。強い者には強い者の力があります。しかし、私たちにも力はあります―偽りを止め、現実を直視し、国内で力を蓄え、共に行動する力です。」
カーニー首相の言うとおり、大国に依存するだけではなく、ミドルパワーが国際法・秩序に基づき、連携していくことが、現在の危機を乗り越える唯一の道かもしれない。
(注1)国連憲章。
https://www.unic.or.jp/info/un/charter/text_japanese/
(注2) これを「自衛権」と呼ぶ。国際司法裁判所(ICJ)では「自衛権」を「国家に対する重大な『武力攻撃』が発生した際に、他に手段がない場合に限り(必要性)、受けた攻撃に見合う範囲内で(均衡性)、一時的に認められる固有の権利」であると定義づけられている。
(注3)Protocol Additional to the Geneva Conventions of 12 August 1949 and relating to the Protection of Victims of International Armed conflicts (Protocol 1), 8 June 1977.
https://ihl-databases.icrc.org/en/ihl-treaties/api-1977
(注4) IAEA General Conference, “Prohibition of Armed Attack or Threat of Attack against Nuclear Installations during Operation or under Construction” September 2009. https://www.iaea.org/sites/default/files/gc/gc53dec-13_en/pdf
(注5)米国防省のプレスリリース(オペレーション・ミッドナイト・ハンマー)
https://www.war.gov/News/Transcripts/Transcript/Article/4222543/secretary-of-defense-pete-hegseth-and-chairman-of-the-joint-chiefs-of-staff-gen/
(注6)ABC News, “Rubio: Maduro ouster is ‘not about securing oil fields’”, ABC New’s George Stephanopoulous interviews Secretary of State Marco Rubio on “This Week”. January 4, 2026. https://abcnews.go.com/ThisWeek/video/1-1-secretary-state-marco-rubio-128886956
(注7)ニューヨーク・タイムズ紙によるトランプ大統領インタビュー(2026/01/08)
https://www.nytimes.com/live/2026/01/08/us/trump-nyt-interview
(注8)The Wall Street Journal(日本語版)、社説「ベネズエラ問題における『国際法』という幻想」、2026年1月6日。
https://jp.wsj.com/articles/the-international-law-illusion-in-venezuela-c962b7d3
(注9)https://www.un.org/sg/en/content/sg/statements/2025-06-21/statement-the-secretary-general-iran
(注10)https://www.un.org/sg/en/content/sg/2026-01-05
(注11)
https://www.ox.ac.uk/news/2026-01-07-expert-comment-illegality-us-attack-against-venezuela-beyond-debate-how-world-reacts
(注12)https://www.brennancenter.org/our-work/analysis-opinion/no-legal-basis-invading-venezuela
(注13)朝日新聞、「カナダのカーニー首相、ダボス会議演説が話題。前文を日本語と英語で」、2026年1月22日。
https://digital.asahi.com/articles/ASV1Q2BVZV1QUHBI016M.html
