憲法審査会レポート、2025年
2025年03月14日
憲法審査会レポート No.48
2025年3月13日(木) 第217回国会(常会)
第1回 衆議院憲法審査会
【アーカイブ動画】
https://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=55583
※「はじめから再生」をクリックしてください
【マスコミ報道から】
議員任期延長、自・立に溝 衆院憲法審、今国会初の討議
https://www.jiji.com/jc/article?k=2025031300215&g=pol
“衆院憲法審査会は13日、今国会初の討議を行った。自然災害などの緊急事態で選挙が実施できない場合の国会議員の任期延長を巡り、自民党は「選挙困難事態」として憲法改正で対応する必要があると主張。一方、立憲民主党は選挙権の制限になると慎重な考えを示した。”
緊急時の議員任期延長を討議 今国会初めて、溝は埋まらず
https://nordot.app/1272758071879303356
“立民の山花郁夫氏は「一部地域の選挙が困難であることをもって、より多くの地域の選挙権を制限するのは明らかにバランスを欠いている」と反論。公選法改正などの検討を先行すべきだとし、現時点で立法事実は確認できないと結論付けた。”
衆議院憲法審査会 選挙の実施困難な事態想定し与野党が討議
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250313/k10014748721000.html
“自民党の船田元氏は東日本大震災を例に挙げ「選挙の実施が困難な事態に当たり、衆議院に被災地選出の議員がいない状況が生まれる。憲法を改正して議員任期を延長する制度を創設すべきだ」と主張しました。”
“日本維新の会、国民民主党、公明党も議員任期の延長に前向きな考えを示しました。”
衆院憲法審査会、今国会で初討議 「緊急事態条項」がテーマ
https://news.ntv.co.jp/category/politics/6cb135484306470786007eb166c149cd
“野党議員が衆議院憲法審査会の会長に就いたのは初めてですが、枝野会長は特別なコメントはせず、淡々と進行していました。”
“憲法改正の実現に向けて、自民党や日本維新の会は議論を加速させたい考えですが、会長の枝野氏は憲法改正に積極的ではない立憲民主党に所属するだけに、慎重に進めるものとみられています。”
【傍聴者の感想】
今国会で初めてとなる衆議院憲法審査会が開かれました。先の衆議院選挙で議席を伸ばした立憲民主党の議員が委員会室の席を埋める光景は、これまでの憲法審査会とは違う雰囲気を醸し出していました。
今回のテーマは、緊急時に選挙をすることができなくなって、国会機能を維持できなくなるような立法事実があるのかどうかという点でした。
はじめに、衆議院法制局の方が、論点やこれまでの議論のポイントを説明したうえで、各党会派からの自由討議となりました。
船田元議員(自民)、山花郁夫議員(立民)、浅野哲議員(国民)などは、テーマに沿ってこれまでの論点を補強する発言をしていたのですが、日本維新の会の馬場伸幸議員は、発言冒頭から枝野幸男審査会長の議事運営を執拗に批判したうえに、今の議論を打ち切り、有志の会と維新で出した緊急事態条項を踏まえた改正条文案の議論をすべきだと迫っていました。この条文案は自公と大差ないものじゃないかと少数与党の自民に秋波を送ったかと思うと、今の石破自民党には改憲に向けた意気込みがないとはっぱをかける始末です。
法制度についての議論はさておいて興味深かったのは、柴田勝之議員(立民)が公明党の平林晃議員に対し、参議院憲法審査会での公明党理事の発言内容について問い質したところです。平林議員は、同じ公明党の同僚議員に対して、「あれ」よばわりして異例の発言だとし、「参議院での公明党の発言は党として公式のものではない」と釈明に追われていました。選挙困難事態の立法事実をめぐって「選挙としての一体感」を強調していたわりには、公明党としての一体感はまるでないところを浮き彫りにしていました。
最後に、あまりにも粗雑でわかりやすい馬場伸幸議員の同盟者とも言うべき、有志の会の北神圭朗議員の発言についてコメントします。
選挙困難事態の立法事実についての議論で、大規模災害の被災地の声を代表する議員がいないのはまずいから、選挙困難事態の立法事実はあるんだという改憲派の議論の補強で、北神議員は極めて冷静な口調で、「議員は全体の代表者ではありますが、地元の声を反映させるということも一般的にはあるのです」と主張されていました。公務員は全体の奉仕者でしたよね。法制度の立法事実の議論をしているときに、一般的な、なあなあでそうなっている事実を持ち出して補強の議論になるのでしょうか。
【憲法学者から】飯島滋明さん(名古屋学院大学教授)
「国会議員任期延長改憲論」に「国民固有の権利」(憲法15条1項)を奪う正当性があるか
~2025年3月13日衆議院憲法審査会を傍聴して~
戦争をさせない1000人委員会「壊憲・改憲ウォッチ(49)」より転載
https://www.anti-war.info/watch/2503171/
2025年3月13日、衆議院憲法審査会を傍聴しました。
国会議員の任期延長改憲論をめぐり議論されましたが、議論の分析が以下になります。
①改憲5会派(自民党・公明党・日本維新の会・国民民主党・有志の会)からは主権者の権利である「選挙権」を奪う正当な事由が示されなかった
②改憲5会派は主権者の「国民固有の権利」である選挙権を軽視している
③議論が不十分
④改憲5会派が主張する「国会議員の任期延長改憲論」は「内閣と衆議院の居座りを許すゾンビ改憲草案」(れいわ新選組の大石あきこ議員発言)
【1】「国民固有の権利」(憲法15条1項)を奪う正当性があるか
日本国憲法では「国民主権」が基本原理とされており(憲法前文、1条)、国民主権の具体化として憲法15条1項では「選挙権」が「国民固有の権利」とされています。
改憲5会派が主張する「国会議員の任期延長改憲論」は、「選挙困難事態」と認定された際、国会議員の選挙を延期するという改憲論です。
改憲5会派は主権者の権利である「選挙権」を奪う改憲を主張していますが、「選挙権」という「主権者の権利」を奪う正当性があるのでしょうか?
れいわ新選組の大石あきこ議員は「自民の船田幹事と維新の馬場幹事に聞きたいんですけれども、選挙の一体性、選挙という国民固有の権利を奪うほどの正当性があるというのは憲法の何条に支えられているのでしょうか」と質問しました。
大石議員は「根拠条文は何条ですか」と聞いています。
にもかかわらず、日本維新の会の馬場伸幸議員は関係ない答弁を長々と発言し、「何条」という根拠条文を答えませんでした。
当然ながら大石議員は「答えになっていませんでした」と発言しました。
船田元自民党議員は「両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する」という憲法43条1項を挙げました。
43条1項を挙げたことに大石議員は「憲法15条、国民がまず選挙で選んで始まるんだというところに対して、それを上回るような理屈でなかった」と発言しています。
れいわ新選組の大石議員は「私たちの選定と罷免は国民固有の権利であると憲法15条は言っています。任期延長はこの国民の権利を奪うものですから、それに足りる理屈が必要ですけれども、それは存在しません」と主張しています。
東日本大震災で選挙ができない地域があったことを例に挙げ、全国民の選挙権の行使の制限を主張する改憲5会派に対し、立憲民主党の山花郁夫議員も以下の発言をしています。
「一部地域で選挙を行うことが困難であることをもってより多くの地域の選挙権を制限するというのは、比較考量、比例原則の観点からも明らかにバランスを失している」。
日本共産党の赤嶺政賢議員も以下の発言をしています。
「日本国憲法は、主権者が国民に存することを宣言し、国民は正当に選挙された国会における代表者を通じて行動することとしています。その下で、衆議院の任期を4年、参議院を6年と定めて3年ごとの半数改選とすることで、定期的な民意の反映と権力の民主的統制を求めています。そのためにも、いかなる場合であっても選挙権は絶対に保障されなければなりません。ましてや、国民の選挙権行使の機会を奪う場合をあらかじめ定めておくなどということが許されるはずがありません」。
2005年9月14日、最高裁判所は「在外日本人選挙権剥奪違法確認等請求事件」で以下の判示をしています。
「国民の選挙権又はその行使を制限することは原則として許されず、国民の選挙権又はその行使を制限するためには、そのような制限をすることがやむを得ないと認められる事由がなければならないというべきである」。
立憲民主党、れいわ新選組、日本共産党が主張するように、選挙権は「主権者」の権利として極めて重要な権利です。
最高裁判所も、正当な事由もないのに選挙権の行使を制限することは許されないと判示しています。
しかし改憲5会派の議論からは、主権者の権利として重要な「選挙権」を制限するのが必要との説得的な主張がされませんでした。
「平等」という主張がまったく理由がないとまでは言えませんが、山花議員が主張するように、「比例原則」等を根拠としても、全国民の選挙権を一斉に奪う改憲論は正当ではありません。
改憲5会派は主権者の権利である「選挙権」を軽く見ています。
【2】議論が不十分
公明党ですが、衆議院の憲法審査会では議員任期延長改憲が必要と主張するのに対し、参議院では「衆議院の任期延長には民主的正統性の問題がある」旨(2023年6月7日参議院憲法審査会での公明党西田幹事)発言しています。
公明党が衆議院と参議院で異なる主張をしていることに対し、立憲民主党の柴田勝之議員は公明党にその整合性を質問しました。
この点に関しても公明党の回答は不十分でした。
『地平2024年12月号』73頁などで私は主張しましたが、2024年8月7日、自民党は国会議員の任期延長論議の前提となる「参議院の緊急集会」等について見解を変えました。
船田元氏は「選挙困難事態における選挙期日、議員任期延長の特例と前議員の職務権限行使については、自民、公明、維新、国民、有志の5会派において、ほぼ合意を得るに至っています」などと発言しました。
しかし議論は「不十分」「生煮え」であることが3月13日の審議でも明らかでした。
【3】ルールを守らない維新の問題点
2024年12月19日付の「壊憲・改憲ウォッチ47」で私は日本維新の会の「規範意識の欠如」も問題としました。
2025年3月13日の憲法審査会でも枝野幸男会長から「発言時間が終了しました。お約束はお守りください」と注意されても長々と発言を続けました。
馬場氏が発言を終えた後、枝野会長は再度、「お約束をお守りください」と馬場伸幸氏を注意しました。
当然の注意です。
最近でも2024年の兵庫県知事選挙に際し、非公開とされた百条委員会の音声を外部に提供するなど、日本維新の会の政治家には規範意識の欠如を感じることが多いですが、ルールを守らない馬場氏の対応にも「規範意識の欠如」を感じます。
内容的にも問題ですが、「規範意識の欠如」を感じる日本維新の会の政治家たちが憲法改正を主張するのを聞くと、彼ら・彼女たちが主張する改憲は危険との思いをますます強くします。
【4】「内閣と衆議院の居座りを許すゾンビ改憲草案」
上川陽子前外務大臣は「東日本大震災のような大規模災害が発生した場合、選挙運動ができると考えるのでしょうか。こうした場合、御自身が被災地でどのような選挙行動を行なうつもりなのか」などと立憲民主党に質問していました。
改憲が行われるのであれば、それはあくまで主権者である私たちのためであり、政治家のためであってはなりません。
選挙運動ができないことを改憲の理由に挙げた上川陽子発言を聞くと、自民党政治家は自分たちのために「議員任期延長改憲」を主張しているとの思いを強くします。
国会の機能維持のために国会議員の任期延長が必要だと改憲5会派は主張していますが、たとえば最近でも2024年11月の沖縄県北部豪雨災害、2025年2月の岩手県大船渡の山林火災に国会は本格的な対応をしてきたのでしょうか?
「緊急事態でも国会機能の維持が重要」などと発言していますが、改憲5会派は真剣に自然災害に対応しているのでしょうか?
法律で対応できないかどうかも十分に議論もしないのに憲法改正を主張するのでは、山花議員が主張したように、憲法改正の「立法事実」があると言えません。
2025年3月13日衆議院憲法審査会での改憲5会派の主張を前提としても、国会議員の任期延長改憲論は、選挙をしないで国会議員の地位に居座る改憲であり、「内閣と衆議院の居座りを許すゾンビ改憲草案」(2025年3月13日衆議院憲法審査会でのれいわ新選組大石あきこ議員の指摘)です。
【国会議員から】山花郁夫さん(立憲民主党・衆議院議員/憲法審査会幹事)
憲法15条に選挙権についての規定がありますが、この選挙権は有権者団の構成員としての公務であるとともに、そのような公務に参与することを通じて国政に関する自己の意思を表明することができるという個人の主観的権利でもあるといういわゆる二元説が通説的見解です。そして、芦部教授も、「……選挙権がアメリカの判例・学説流にいえば、表現の自由と密接に関連し平等権保護条項等によって保障される『優越的権利』だということである」とされています(芦部信喜「参議院定数訴訟と立法府の裁量」『人権と憲法訴訟』243ページ(有斐閣・1994年))。この論文は、投票価値の平等に関するものではありますが、司法審査が行われる場合には「厳格な合理性」( strict rationality )基準によるべきとされています。
ところで、憲法45条で衆議院議員については解散がなければ任期は4年、46条で参議院については任期は6年で3年ごとの半数改選が規定されています。15条と45条・46条をあわせて読めば、衆議院については最長で4年以内に、参議院についは3年ごとに代表者を選出することが選挙権の主観的権利の内容となっているということができます。
選挙困難事態において議員任期を延長するということは、ルールを変更するというだけでなく、選挙権を行使しうる時期について制限を加えることになります。その意味で、議員任期延長問題というのは、ルールと原理が交錯する問題ということができるでしょう。
さて、選挙困難事態の具体例として東日本大震災、阪神淡路大震災などが議論されていました。この2つのケースで特例法を制定して実施したのは、形式的には地方の首長、議員の任期は憲法上のものではなく法律上のものであることから、特例法によったものですが、より重要な点は、首長は当該地方公共団体の有権者から直接公選されるものであること、地方議会議員については一般に大選挙区制度がとられていることなどから、選挙そのものが定数全部にわたってなしえないという事情です。
これに対し、これら2つの震災は災害としては甚大なものであったことは間違いありませんが、衆議院議員が1人も選出できないというような事態ではないことが地方選挙の例とは大きく異なるということができます。
東日本大震災に関しては、仮にこのタイミングで総選挙があったとしても、8割強の議員の選出はできると試算されておりますところ、このようなケースで任期延長を行うということは、8割強の有権者の選挙権を行使しうる機会を制限する、延期することを意味しています。
選挙の一体性を損なうというご意見も出ていますが、民主制のプロセスそのものである選挙権の意義・法的性質からすると、全部について選挙権行使の機会を停止する・制限するよりも、繰延投票等の方法により選挙の時期をずらすということのほうが「より制限的でない他の選びうる手段」だと考えられます。
もっとも、この議論は法律の違憲審査の局面でありません。立法論・憲法改正論としては比較衡量論や比例原則に従って考えることが適切かもしれません。それにしても、一部地域で選挙を行うことが困難であることをもってより多くの地域の選挙権を制限するというのは比較衡量・比例原則の観点からも明らかにバランスを失しているといわざるをえないと思われます。
このことから、大規模災害のケースを立法事実として想定することが難しいと考えられます。
これに対して、感染症の全国的な蔓延が深刻な事態となった場合を想定すると、投票所で密になる、不要不急の外出を控えるなどの状況は一部地域だけでなく、日本全国において選挙が困難になる可能性はゼロではないかもしれません。
しかしこれも、現行の公職選挙法を前提に議論されている、つまり下位の規範である法律の規定を根拠に上位の規範である憲法の説明をしてしまっているように思われます。すなわち、投票日を定めて、入場券を郵送し、その場所に足を運び、自書で候補者の氏名を記入するというやり方を前提に選挙が実施できないという結論を出してしまっているのではないかということです。
憲法が上位の規範であり、その規範が求めていることが現行法で難しいということであれば、順序としては、公職選挙法の改正などにより憲法の求める価値を実現するのか立法府の役割であると考えます。
避難所、避難場所でも投票ができるようにする方法を模索することや、インターネット投票などの方法で大規模災害などの時でも公正な選挙が確保できるような仕組みを追求することなどを検討することが論理的に先行すべきことと考えられます。そのような手を尽くしたうえで、いかんともしがたい事態があるのだ、ということが確認されてはじめて、そのことが立法事実となるはずです。その意味で、現時点で私どもとしては立法事実が確認できない、と申し上げて意見表明といたします。
(憲法審査会での発言から)