憲法審査会レポート、2025年

2025年05月09日

憲法審査会レポート No.54

2025年5月7日(水)第217回国会(常会)
第3回 参議院憲法審査会

【アーカイブ動画】

https://www.webtv.sangiin.go.jp/webtv/detail.php?sid=8493

【マスコミ報道から】

「災害下の選挙」に備えを 参院憲法審で参考人質疑
https://www.jiji.com/jc/article?k=2025050701080&g=pol

参院自民、投票繰り延べ評価 災害時対応、衆院と違い 憲法審
https://digital.asahi.com/articles/DA3S16209293.html

大規模震災時「投票延期で対応」 有識者説明、参院憲法審
https://nordot.app/1292787638534160635

【傍聴者の感想】

今回のテーマは「災害時等の選挙制度について」ということで、3人の参考人から話を聞き、質疑応答を繰り返す形で行われました。「緊急事態条項」によって選挙実施が不可能になることを想定すると、議員任期の延長が必要になるので、「憲法改正」をしなくてはならない、と考えている政党・党派の中で、特に日本維新の会については、同じ説明を聞いてもあれだけ理解に違いが出るのかと感じざるを得ませんでした。

総務省をはじめとした3人の参考人は、現行制度の中で阪神淡路大震災、東日本大震災や熊本地震、能登半島地震などを経験し、積み重ねられてきたノウハウを国として必要なマニュアル化をすすめ、地域実態によってそれをベースに緊急事態でも選挙が実施することができるよう準備を進める重要性について、繰り返し述べていました。

自民党の佐藤議員も「公職選挙法57条による繰延投票」は柔軟な対応ができる制度だと述べ、あらかじめ想定できる災害等については、起こった時の対応を「事前に決めておく」重要性について話しました。実際に東日本大震災の時の陸前高田市に選挙支援に入った参考人からは、「あくまでも主体はその地域であること・選挙支援ができる人材を日常的に育てていくことが重要」と述べていました。

共産党・山添議員とれいわ・山本議員は、地方自治体の職員が減っている現在、いざという災害が起こった時の人が足りない状況について、根本的な人員不足の問題こそ議論すべきではないかとも述べました。

能登半島地震から1年以上が経過しましたが、地元自治体職員の中では、一日も休んでいないと話す方もいらっしゃるそうです。選挙管理委員会の運営を担う地方自治体の職員は、一度災害が発生すれば、自身が被災者になることもありながら、人命救助や生活確保に奔走する実態が明らかになっています。

その結果、オーバーワークを引き起こす事例は災害が起こるたびに繰り返し報告されている事実であり、「緊急事態」を想定するのであれば、構造的な人員不足を回避するための地方自治体行政のありかたこそ、国会の場で議論されるべきです。地域を支える国の制度をいかに構築するか、そのことをまず考えなくてはなりません。

立憲の小西議員は現行制度(公選法)では「繰延投票」しか制度がないことを確認したうえで、大規模災害等が起こった時の法整備を先に検討することについて述べられました。

沖縄の風・高良議員は「選挙権は基本的人権の問題」という観点を持って考えていくことの重要性について話されました。

参考人が最後まで繰り返し述べていたのは、「いざというときに対応できる人材育成の重要性」です。参考人から述べられた経験に基づく話に対して、「改憲ありき」になっている政党・党派の議員からは、「長期的で広範な」緊急事態が生じることを想定すると、「憲法改正」によって議員任期を延長するしかないと結論付けられます。すでにこれまで経験した大災害や感染症対策から何を学び、何を想定するのかという議論が著しく欠如しています。いわば考えることを放棄し、結論ありきの政治を進めようとする議員のみなさんの実態を知ることができた2時間でした。

私は今の自分の生活や、未来に大きく影響がおよぶ大切な政治を、せめて自身で考え行動し、自身の言葉で語ることができる議員に任せたいと心から感じました。

2025年5月8日(木) 第217回国会(常会)
第6回 衆議院憲法審査会

【アーカイブ動画】

https://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=55758
※「はじめから再生」をクリックしてください

【マスコミ報道から】

衆院憲法審 解散権制限めぐり 立民 “法律で” 自民“慎重に”
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250508/k10014799901000.html

衆院解散の制限、自民は慎重 立民「法的対応を」―憲法審
https://www.jiji.com/jc/article?k=2025050800889&g=pol

薄まる「対立色」…改憲を話し合う衆院憲法審査会に起きた「変化」 積極的な政党でも「意見」バラバラ
https://www.tokyo-np.co.jp/article/403567

衆院憲法審、7条解散でも隔たり 「緊急時の国会機能維持」議論一巡も合意見通せず
https://www.sankei.com/article/20250508-KWE6MG56WVNNPEAWV4FZBYGRMY/

【傍聴者の感想】

きょうの議題は衆議院の解散権の限界と制限でした。憲法7条では内閣の助言と承認にもとづく「天皇の国事行為」の一つとして解散が規定されており、さらに憲法69条では内閣不信任案が可決された場合に、10日以内に内閣総辞職か衆議院の解散をしなければならないとされています。

衆議院法制局の説明によれば、解散は国民から選挙された議員から任期満了前に他の国家機関が一方的に身分を失わせるという「非民主的」な側面がある一方、①議会と内閣という国家機関間の紛争解決、②新たな争点に対する国民の判断を聴取する国民投票の代用、③議会における多数派の形成や与党内部の造反の抑制を通じた内閣の安定化という「民主的」な機能も持つとされています。

議論は各会派の代表者からの発言ののち、自由討議へと移りました。自民党の議員は内閣の解散権の制限には慎重な立場から発言していました。「解散権は選挙という国民の権利を保障するものであり、民意を的確に議会にさせることができる」という見解を根拠に、「個人的な見解」という留保をつけつつ「解散権の行使にふさわしいかは内閣の判断による」「解散権の行使が内閣の都合によって行われたかどうかは国民が選挙を通じて判断する」との言い分でした。

これに対し、立憲民主党など野党の議員からは解散権が自民党の都合により恣意的に濫用されてきた経過について指摘がありました。日本国憲法の施行後に行われた26回の解散のうち、69条によるものは4回で、残り22回は7条だけにもとづいて行われたものです。7条にもとづいて与党が党利党略で衆院の解散を繰り返している状況は明らかです。これに関して、野党議員からは、与党議員が「解散権は総理の専権事項」といった憲法の条文にない認識をたびたび示していることに厳しい批判が寄せられていました。

自民党の議員が解散権の制限に慎重な意見を述べるのは、これまでの自民党が解散権を党利党略に利用してきた事実を反映しています。これからも「伝家の宝刀」をいつでも抜けるようにしておきたい、という彼らの願望も示しています。しかし、昨年の総選挙を振り返ると、与党の党利党略による解散・総選挙が有権者に与えている不信がますます大きくなっているのも事実です。解散権を通じて民意を騙る自民党が、解散・総選挙で問われた民意によって淘汰されるのは痛快な皮肉です。この夏の都議選、参院選でも自公をさらに少数に追い込むたたかいが必要です。

【国会議員から】谷田川元さん(立憲民主党・衆議院議員/憲法審査会委員)

緊急事態であっても国会の機能を維持するため、議員の任期延長が必要だとの意見が多く出されていますが、国会機能の維持がそれ程重要ならば、それを不全にする、時の内閣による衆議院解散の問題を優先して議論すべきではないでしょうか。

2014年、2017年の安倍総理による解散は、どう見ても今やれば勝てるとの判断の下、解散が強行されたと断じざるを得ません。また、2021年10月の岸田総理による解散、さらに昨年10月の石破総理による解散は自民党総裁選が終わった直後で、ご祝儀相場のうちに少しでも早い方が有利との判断でなされました。

しかし、昨年は与党の思惑通りにはなりませんでした。憲法審査会の委員でもあった石破総理は、憲法7条による恣意的解散を度々批判していました。さらに解散前に予算委員会を開いて、国民に判断材料を与えるべきと言っていたのが、党首討論でお茶を濁す始末。そういった石破総理の言行不一致に国民がお灸をすえたと言えます。

さて、これまで日本国憲法下27回の衆院選挙が実施されましたが、任期満了選挙は1976年の三木内閣の時だけです。

すべてが任期満了で実施されたとすると19回で済みます。そうすると一度も解散がなければ8回分の経費が節約できたことになり、1回の衆院選の費用は約600億円ですので、4800億円の税金が使われずに済んだことになります。果たしてこれだけの大金を使うだけの大義があったのか?時の政権が権力を維持するために、国民の血税が使われたのが大半ではないでしょうか。

さて、2024年の世界の政府純債務残高対GDP比を見てみると、日本は236.66%で、1位のスーダンに次いでワースト2位です。どうしてこれ程の借金大国になってしまったのか? 私は日本において頻繁に国政選挙が行われていることが大きな要因だと考えます。本来、総選挙で勝利した政党は次の選挙までの4年間で公約に基づく政策を実現していくべきですが、現実には2~3年で解散総選挙。加えて参院選挙まで、政権選択の意味合いを帯びると常に選挙対策優先になり、国民に負担を求める政策は後回しになりがちです。財政再建、少子化対策など長期的に取組むべき政策が実現できない状態にあると思います。

さて、与党の幹部や閣僚が「解散は総理の専権事項」という発言を度々します。私はそれに違和感を覚えます。憲法や法律にそのような表現は一切ありません。専権とうい字を広辞苑で引いてみると「権力をほしいままにすること、思うままに権力ふるうこと」とあります。すなわち専権事項というのは、口出し無用という意味です。

5年前の委員会質疑で、私が当時の高市総務大臣に解散について質問したところ、「正当な理由のない恣意的な解散は望ましくなく、時の内閣がしっかりと政治的な責任を持った上で解散を行なう」と述べられて「総理の専権事項」という表現は一切お使いにならなかった。これは立派な見識だと思います。

そこで自民党と公明党にお伺いします。衆院解散をテーマとして今日こうやって憲法審査会で議論しているのですが「解散は総理の専権事項」という表現を使うべきでないと思いますが如何でしょうか?

お配りした資料を見て下さい。保利茂元衆議院議長や水田三喜男元自民党政調会長が恣意的な解散を批判しています。アンダーラインの部分を一部だけ読み上げます。

・現行憲法下で内閣が勝手に助言と承認をすることによって“七条解散”を行うことには問題がある。それは憲法の精神を歪曲するものだからである。
・“七条解散”は憲法上容認されるべきであるが、ただその発動は内閣の恣意によるものではなく、あくまで国会が混乱し、国政に重大な支障を与えるような場合に、立法府と行政府の関係を正常化するためのものでなければならない。
・特別の理由もないのに、行政府が一方的に解散しようということであれば、それは憲法上の権利の濫用ということになる。衆議院を解散するに当たっては、三権分立、議院内閣制のもとにおいてそうせざるを得ないような十分客観的な理由が必要なはずである。
・国会議員の任期が保障されない限り、議員は常に選挙運動に追われて落ちつかず、国会の公正な審議と採決が常に選挙用のゼスチュアによって妨げられる実情も、決してゆえなしとは思われないのであります。

自民党と公明党にそれぞれこのお二人の考えをどう受け止めるか? 見解を伺います。

私ども立憲民主党は、恣意的解散を抑制するための法案を準備しています。衆院解散決定の手続き等を定めたもので、内閣は衆院解散を決定しようとするときは当該解散の予定日及び理由を10日前までに衆議院に通告し、あわせて議院運営委員会における質疑を義務付けます。これにより、衆院の解散理由が妥当なのか? 総選挙の争点が何なのか? 国民に判断材料を提供することになります。

また、過去2回の衆院選では、解散から選挙期日までが極めて短く、地方選管の準備が整わず、問題が生じました。そこで、あらかじめ中央選管が全都道府県選管の意見を聴取し、それに基づいた中央選管の意見の聴取後に内閣が選挙日程を決めることを義務付ける内容です。この法案をしかるべきタイミングで提出することを考えていますが、是非他の会派の皆さんと共同で提出したいと思いますので、ご検討の程宜しくお願い申し上げます。

(憲法審査会での発言から)

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