憲法審査会レポート、2025年

2025年06月06日

憲法審査会レポート No.58

改憲会派、9条と現実の乖離を埋める改憲を主張

6月4日の参議院憲法審査会は、改憲の是非を問う国民投票時の偽情報対策で参考人聴取が行われました。新しいデジタル環境社会の中で、偽誤情報の拡散は大型選挙の結果にも影響を及ぼしています。参考人の意見を踏まえて各会派から質疑が行われ、総合的な対策の必要性が討議されました。

翌5日の衆院憲法審査会では、憲法と現実の乖離をテーマに自由討議が行われました。立憲民主党は、滝川事件と呼ばれる思想弾圧事件を例に挙げながら、大学の自治や学問の自由など人権課題の重要性を訴えたことに対し、改憲推進派は世界の安全保障環境の緊張が高まっているとし、9条と現実の乖離を埋める改憲が主張されるなど、各会派の憲法に対する立場の違いが明らかとなりました。

2025年6月4日(水)第217回国会(常会)
第5回 参議院憲法審査会

【アーカイブ動画】

https://www.webtv.sangiin.go.jp/webtv/detail.php?sid=8593

【マスコミ報道から】

参院憲法審査会 SNSの偽情報対策などで参考人質疑
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250604/k10014825781000.html

偽情報対策、国民投票法改正を 参院憲法審で参考人質疑
https://www.jiji.com/jc/article?k=2025060401073&g=pol

【傍聴者の感想】

今回は、「国民投票において、インターネット上の偽情報等への対策をどうすべきか」について、参考人3名を呼ぶ形での開催でした。

フェイクニュースは出ては消えての「いたちごっこ」で、後を絶ちません。参考人3名とも「難しい問題で…」と、口をそろえて答弁していたのが印象的でした。偽情報を発信する側がもちろん悪いのですが、被害者は速やかに情報を公開することで信頼性を獲得することが当面は必要だと述べていました。

日本は偽情報対策が諸外国に比べ遅いということです。それは参考人が指摘したように、イギリスのブレグジット(EU離脱)に関する国民投票やアメリカ大統領選挙においてネット情報が投票行動に影響を与えた2016年の事例が、2024年の東京都知事選、衆院選、兵庫県知事選に表れていることからもうかがえます。

生かすも殺すも、私たち次第です。AIなど技術が発達しうまく活用すれば生活を豊かにしてくれますが、悪意を持って用いることで社会に混乱をもたらします。ファクトチェック団体の資金不足をはじめとする総合的な対策を施すべきではありますが、「表現の自由」との兼ね合いもある一方で、十分に議論をせず拙速な判断をすることもかえって逆効果だと考えます。

直近では6月22日の東京都議選、7月の参議院選挙において何が起こるか、目が離せません。

【傍聴者の感想】

先の大戦の反省から「二度と戦争はしない」と誓った、日本国憲法が施行されてから78年が経ちました。これまで憲法改正の国民投票は一度も実施されていません。こうした中で憲法改正を国民投票にかけた際に、世論がどう動くのかはまったく読めません。

この日の参院憲法審査会では、憲法改正の是非を問う国民投票に関して、三人の参考人(北九州大学法学部・山本健人准教授、日本ファクトチェックセンター・古田大輔編集長、大阪大学社会技術共創研究センター・工藤郁子特任准教授)から意見を聴取して各会派の委員との質疑が行われました。

デジタル技術やAI機能の進歩といった新しいネット環境を介した情報流通において、私たちはかつてないほどの利便性を手に入れた一方で、偽誤情報による弊害も加速度的に悪化しています。北九州大学の山本教授からは、偽情報等の根絶や影響力の無効化はほぼ不可能としながら、①偽情報等の量・接触機会を減らす、②正確な情報やファクトチェック記事の発信により偽情報等に対抗する言論を増やす、③情報受領者(有権者)のメディア・ICTリテラシーを高める、など3つの基本的な対策の方向性が示されました。

私自身、自分のバイアスと相性が良い情報は、正しい情報と思い込みやすいことを自覚します。日本はネット社会における偽誤情報の対策が遅れていることが指摘されます。こうした対策が不十分なまま、国民投票で世論を二分するような改憲発議に踏み込むことは許されません。

この日の参院憲法審査会は、各会派の問題意識と参考人との質疑が繰り返され、これまでの改憲推進派と慎重派の対決色が薄まりました。国の最高法規である憲法の議論は、こうした落ち着いた環境の中で冷静な議論こそ必要だと感じました。

2025年6月5日(木) 第217回国会(常会)
第8回 衆議院憲法審査会

【アーカイブ動画】

https://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=55847
※「はじめから再生」をクリックしてください

【マスコミ報道から】

衆院憲法審 自民など 憲法に自衛隊の存在明記と主張
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250605/k10014826661000.html

自民、自衛隊の憲法明記を主張 立民は性別変更要件の改正要求
https://www.47news.jp/12679786.html

自衛隊明記の改憲主張 自維国、衆院憲法審で
https://www.jiji.com/jc/article?k=2025060500790&g=pol

【傍聴者の感想】

今回の衆院憲法審査会は「憲法と現実の乖離」について議論されました。

各議員の発言に対して他の会派から質問が出され、それに対する回答が示されるなど、これまでの言いっ放しの討論とは様相が変わってきました。

日本は先の大戦の反省から不戦を誓ったはずです。戦後80年となる節目の年に日本を再び戦争ができる国として憲法改正をしてはならないのは当然です。

時代に合ったという意味で、憲法について考えることは必要なのかもしれません。しかし、憲法改正を行うのであれば、当然、私たち市民のための改正である必要があります。議員自身が「国民のため」と称して自分たちの考えを一方的に主張して良いとはとても思えません。
国際情勢の緊張の高まりによる9条と現実の乖離を指摘して、現実に合わせた憲法改正は本末転倒にしか思えません。二度と戦争はしないと誓ったはずです。憲法の高い理想に少しでも現実を近づける、そうした外交努力こそ今の日本には必要なのではないでしょうか。私はどうしても今回の憲法審査会を傍聴して、そのように感じてしまいました。

私はまだ数えられるほどしか傍聴をしていませんが、憲法審査会という場は、国の礎となる最高法規である憲法について、私たち市民のための議論をお願いしたいと思います。日本を戦争のない、一人ひとりが平和に豊かに暮らしていくようにするのが政治家の役目だと思います。

【国会議員から】山花郁夫さん(立憲民主党・衆議院議員/憲法審査会幹事)

まず、学問の自由・大学の自治に関する問題です。この問題に関しては、京大事件(滝川事件)が有名です。

1933年、文部大臣が京都大学総長に対し、法学部の滝川幸辰教授をやめさせるように、申し入れをしたことに端を発します。

京都大学法学部教授会は、学問的研究の結果として発表された、刑法学上の所説の一部が政府の方針と一致しないという理由で、教授が退職させられるようでは、「学問の真の発達は阻害せられ、大学はその存在の理由を失うに至」るとして、反対意見を提出しましたし、京大総長もまた、文部大臣の要求には応じませんでした。

そこで、文部大臣は滝川教授を休職にしました。「休職」といっても、当時の休職というのは、事実上の免官です。

この時の文部大臣の行為が合法であったかついては、議論があります。明治憲法には学問の自由の規定がなかったわけですし、休職処分について手続的には瑕疵はなかったのかもしれません。しかし、政治権力によって、大学の教授を、その学問的所説のみの理由に基づいて、事実上免官するという行為は、学問の自由に対する侵害であったというほかありません。

京大事件などの教訓から、学問の自由を十分に保障するためには、大学の人事に関して政府が介入しないことが求められます。

最高裁も、「大学における学問の自由を保障するために、伝統的に大学の自治が認められている。この自治は、とくに大学の教授その他の研究者の人事に関して認められ、大学の学長、教授その他の研究者が大学の自主的判断に基づいて選任される」としています(東大ポポロ事件・最大判昭和38.5.22)。

ところで、菅首相(当時)は2020年秋、日本学術会議が新会員候補として推薦した候補者105人のうち安保関連法に批判的といわれた6人を除外して任命する異例の決定をしました。

この問題について、委員の「任命」は内閣総理大臣が行うのだから、任命をしないことも適法である、という見解に対して、いやいや、任命という用語が用いられているが、これは形式的任命であって、拒否はできないのだ、ということが争われています。法律制定の経緯からいって、後者が正しいと私は思うのですが、この議論は、京大事件における休職処分の適法性の問題に似ていて、そこが本質的な問題ではないように思われます。

大学の自治が保障されるべきなのは、「大学」という組織だからなのではなくて、学問の自由が保障される研究者による組織だからだとすると、学術会議という団体にも、人事権などが、政府によって干渉されないことが憲法23条によって保障されていると考えられます。

ここに、「干渉」とは、自治が認められる趣旨からすると、メンバーの解任という積極的な介入だけでなく、任命拒否も消極的な介入と評価されますから、今回の任命拒否は憲法が学問の自由を保障した趣旨に反するというべきでしょう。

なお、イギリスと異なってドイツ型の大学とは「官立大学」を基本としているため、資金提供者である国、つまり政治から介入を受けやすいことから「学問の自由」を独立した条文として規定していることに鑑みると、政府が財政民主主義や憲法15条の公務員の選定罷免権などを理由に挙げていることは適切でないと考えられます。もし財政民主主義などのほうが優越する価値であるとすると、京大事件や天皇機関説事件も正当化されかねない理屈であることは指摘しなければならないと思います。

次に、性同一性障害者の性別の特例に関する法律3条1項4号が憲法13条に違反するという最高裁大法廷決定が令和5年10月25日に出されましたが、今日現在、いまだ改正がなされていません。

第三者所有物没収事件については違憲判決から半年後に「刑事事件における第三者の所有物の没収手続に関する応急措置法」が制定され、薬事法適正配置規制は違憲判決の後1か月足らずで議員提案で適正配置条項を削除する法律が制定され、森林法分割規定は違憲判決の後1か月程度で森林法186条を削除する改正法を成立させ、平成14年9月11日に出された郵便法違憲判決は同年11月27日に改正法が成立し、在外日本人選挙権制限や国籍法違憲判決の後も半年程度で法改正がなされています。

違憲判決が出されてから1年以上放置されているというのはきわめて異例であり、早急に法改正をすることが必要であると考えます。

また、同性婚を法的に保障しないことが憲法違反であるという高裁判決が続いており、最高裁の判断も時間の問題ではないかと推測されます。同性婚に対する法的整備は喫緊の課題であると考えます。

なお、本日の「憲法と現実の乖離」というテーマで取り上げるべき課題について党内で意見を求めたところ、刑事手続上の人権については憲法に詳細な規定があるにもかかわらず人質司法になっているではないかという問題、憲法25条と生活保護の問題、労働基本権と労働組合の組織率の低下の問題、ひとしく教育を受ける権利と経済格差の問題、唯一の立法機関性と政省令委任の問題や地方自治など、枚挙にいとまがないほどの課題の提起がありました。憲法審査会は、日本国憲法および日本国憲法に密接に関連する基本法制について広範かつ総合的に調査を行うことも重要な権限であります。今後、こうした課題を憲法審査会のテーマとして取り上げていただくことを各会派にお願いして発言とさせていただきます。

(憲法審査会での発言から)

【国会議員から】武正公一さん(立憲民主党・衆議院議員/憲法審査会幹事)

国会は国権の最高機関とされながら、それが現実と乖離している点が憲法第7章財政です。

昨年の補正予算案は1000億円の災害対策費修正、今年度予算は衆議院に回付され高額療養費の修正がされました。それぞれ立憲民主党は予算修正を求めましたが、その修正には政府の対応に時間を要することで、速やかな修正審議ができない事態が起きました。国会の議決がすみやかにおこなえるよう見直しが必要です。

この10年を振り返れば、予備費が過大に計上され、その使途の範囲を広げてきました。憲法83条「国の財政処理の権限は、国会議決に基づく」一方、予備費は事後承認です。憲法87条の「予見しがたい予算の不足に充てる」予備費の目的は、補正予算では軽微な事態や災害などの緊急事態に機動的に対応できないためでしたが。コロナ禍を契機として拡大した予備費を平時の状態に戻す必要があります。

さらに補正予算についても、国際機関への拠出金を当初予算に盛り込まず、補正予算ありきで予算計上され、前年度補正予算と新年度予算をセットで「15か月予算」といわれることは、単年度予算審議の憲法86条に反するものであります。そもそも、憲法には予備費の規定はあっても、補正予算の規定はありません。財政法29条には「経費の不足」「緊要となった経費」との補正予算の規定がありますが、常態化しているのではないでしょうか。

政府は1977年の統一見解において、「項」を新設する修正もありうる旨の立場を明らかにしましたが、「国会の予算修正は、内閣の予算提出権を損なわない範囲で可能」という限界説を維持しています。しかし、予算法律説をとれば、条理上の制約は別として、修正権に制限は存しないことになる。と芦部信義著「憲法」で述べています。

予算修正権に限界はないとすると、国会の予算審議権の充実のため米国議会を見習って国会予算局のような「予算審議に供する組織」を設けることが必要ではないでしょうか。

そして、国会の調査、立法機能の強化が必要であることは、30年ぶりの与党過半数割れに伴い、議員立法数の増加により、衆議院法制局の仕事量が増加しているため衆議院調査局や国会図書館調査及び立法考査局とともに、定員の増員や予算の充実が必要です。

なお、財政規律については、債務比率が250%を超える中、「国会に長期財政予測機関を設けること」も提言されています。こうした機関の創設とともに、憲法における予算、財政についてはより議論を深める必要があると考えます。

(憲法審査会での発言から)

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