大浦湾 | 平和フォーラム

2021年04月01日

宝の海を壊さないで 辺野古・大浦湾のたぐいまれな自然環境

インタビュー・シリーズ:164
日本自然保護協会 安部真理子さんに聞く

安部真理子さん

あべ まりこさんプロフィール

日本自然保護協会 保護・研究部 保護部門 主任

環境NGOに勤務後、オーストラリアの大学院で海洋生物学を専攻した。サンゴが研究テーマ。JICA研修コーディネーターなどを経て現職。沖縄をはじめ日本の沿岸域問題を担当している。写真は名護市東江にて


─沖縄の琉球弧の、琉球列島の自然の特長を、解説していただけますか。

日本列島は北には流氷があり、南にはサンゴ礁とひじょうに豊かな生物多様性を持つ場所です。なかでも沖縄には豊かなサンゴ礁が広がっています。沖縄本島の場合、西海岸は、大きな道路も通って結構開発が進んでいますが、東海岸はまだ手付かずの自然の残っている場所が多いのです。奄美、沖縄のサンゴ礁全体を見た場合、辺野古大浦湾ほどの深さを持つところは数えるほどで、規模が大きいのはここだけだと、地理学者は言っています。サンゴ礁の多くは浅瀬ですが、この場所のサンゴ礁は深さがあり、それがほかにはない生物多様性の豊かさを支えています。深いということは人力で掘らなくてもいいこと意味するので、そのため軍事基地建設に適しているとして、古くから目を付けられてきました。

─新基地建設ということで、埋め立てに大量の土砂を使うということですが、問題はないのでしょうか。

去年の4月に出された設計変更申請書を見ても、県外からの搬入をあきらめていません。その上で沖縄県内からも、宮古島、南大東島、石垣島を新たな土砂調達予定地としています。外来種対策とコロナ対策は似ていて、どんなに気を付けても、搬入時に入ってきてしまうのです。コロナよりは少し大きくても、アリなどが入っていると、駆除に苦労します。だから人や物を異なる生態系を有するところからなるべく動かさないというのが、一番の外来種対策です。しかし県内の土砂なら良いかというと、例えば沖縄本島と八重山は全く違う自然環境を持っています。県境は人間の都合で作られています。異なる島は異なる進化をとげており、島が違えば生態系はかなり違っています。ヤンバルクイナは沖縄島にしか生息せず、イリオモテヤマネコは西表島にだけ生息している、というほど島による自然は異なるのです。つまり異なる自然を持つ場所からの物資の異動は、外来種問題を起こすことになります。

大量の土砂を取ることは、その場所の自然を大幅に改変することにつながります。これまでも建材として石灰岩や土砂は使われてはきましたが、分量が少ないので、大きな影響にはなりませんでしたが、今回の計画はとても多いので、特に島という脆弱な自然環境には大きな影響が及ぶこととなると思います。また今回の計画では沖縄島内からも採取が予定されています。同じ島からの採取ならば外来種問題は起こらないという認識かと思いますが、沖縄島の北部のみが世界自然遺産の対象となったことからもわかるように、北部と南部は自然環境が異なります。さらに沖縄島の南部では沖縄戦の犠牲者の遺骨が混じっているということなど、別の問題もあると思います。

マングースという大きな動物でさえ、駆除しきれないのです。奄美ではやっと駆除できましたが、何十年もかかった大変な駆除でしたし、沖縄本島では未だ達成できていません。哺乳類でさえ苦労するのです。虫とか植物の種を完全に駆除することは困難であると考えます。

─海洋汚染はどうなのでしょうか。

水質が悪くなることはあると思います。2018年の埋め立て承認撤回の折に臨時制限区域に入れるときが2か月ほどあったので、辺野古シュワブ前の海草藻場に潜ってみたところ、まず第一に護岸が海草の上におかれているので護岸建設により海草が死んでいることがわかりました。事業者は直接改変する場所にしか影響は及ばないと言いますが、護岸付近にある海草も砂をかぶっていました。つまり工事の影響は周辺海域にすでに及んでいるということになります。行政の設けている水質汚濁の基準は甘いのでそれに従って工事を進めていくと、多くの生き物が死んでしまうことになってしまいます。

─ジュゴンはどうなっていますか

沖縄島の周辺に少なくとも3頭のジュゴンが来ていました(個体A、B、C)。しかし西海岸にいた個体Bが、工事の直接のせいではないのですが、死んでしまいました。あとの2頭は東海岸に棲んでいたのですが、最近確認されていません。 もともと奄美大島以南には広く分布していたのです。しかし急速に個体数が減って、奄美大島や八重山でも長く見られなくなっていました。しかしながらここ数年に八重山、宮古島あたりから目撃情報があがってくるようになり、環境省も調査を行っています。そのようななか、最近になって辺野古の工事現場付近でジュゴンらしき鳴き声が数か月で合計200回以上記録されているということがわかりました。ただそれが本当にジュゴンの声なのかは不明です。防衛省はデータを公開しない意向です。早く公開して、日本の専門家がわからないなら、世界の専門家に聞いていただいて、ジュゴンであるなら保護しないといけないと思います。

個体Bの死亡後に、IUCN(国際自然保護連合)という世界最大の自然保護団体が、南西諸島のジュゴンが置かれた状況を再度検討しました。日本の南西海域のジュゴンは、危機的な状況にあることがわかったのです。レッドリストは危機的状況にある生き物のリストですが、沖縄のジュゴンについては大変な状況にあるからと1ランク上げられてしまいました。

沖縄に生息するジュゴンは、北限のジュゴンです。もともとはフィリピンから沖縄に来たかもしれませんが、それでも長い間別々にいると、別の遺伝子型を持つグループということになるので、大事にしていかなければいけないのです。

─サンゴを移植して、保護・培養される可能性についてはいかがお考えですか?

サンゴは漁業調整規則の対象なので、県知事の許可が必要です。サンゴの移植には問題があり、サンゴの移植技術が確立されていません。サンゴ礁学会が2008年に出したガイドラインでも、大規模な公共事業工事の保全措置としてはふさわしくない、つまり開発の免罪符として使われることへの注意が書かれています。それから工事と並行して移植を行うことは、あってはならないのです。新しい環境になじむということは、ストレスがかかり、余計なエネルギーもいることです。ただでさえ工事を行って環境が悪くなっている中、移植すれば成功率をわざわざ下げているようなものです。環境影響評価図書には、環境保全措置としてサンゴは移植して保護しますということが書いてあります。その後に環境監視等委員会の先生方が検討して、たとえば水深20メートルより浅い場所に限定するとか、ある程度まとまった規模のサンゴしか移植対象としないとか、塊状ハマサンゴは長さ1メートル以上のものしか救わないなど、科学的根拠がないルールを作ってしまいました。20メートルより下に結構サンゴは生きているのに、それが移植対象外になるということではこの海域の生物多様性を保全したことにはなりません。 あまり注目されていませんが、底生生物のカニとか海藻とか貝類などの底生生物に関する環境保全措置は移動です。つまり、生物を捕まえて他の所に置くことを環境保全措置と呼んでいるのです。移動後の追跡調査もきちんと行われていません。防衛省は生態系保全を考慮していません。

─辺野古周辺に生きている小さな生物一杯いると思いますが、辺野古でしか、大浦湾でしか、ここでしか見られないというのが、結構あるのですか。

5334種の生物が確認されていて、その中で262種類が絶滅危惧種として知られています。環境アセスが終わった後に、新種、日本初記録種、貴重種などが確認されています。甲殻類や貝類は新発見が多く、どの分野の先生方も、もっと調査をする時間があれば必ず新しい科学的に重要な発見があったと言っています。このように可能性を秘めた場所なのです。水中30メートルに住んでいるコモチハナガササンゴの群集などは、他の海でもいるのですがこれだけの規模を有する例は珍しいと、論文が出されています。 政府の環境監視等委員会の議事録を読むと、匿名でしか言えない発言が多いです。たとえばサンゴの移植などについても、「移植してしまえばよい」というとても専門家の意見とは言えない発言が多くあります。たとえばこれから産卵を控えたサンゴでも、工事を急ぐために産卵期でも移植させてしまうなど、わざわざ移植成功率を下げるような発言をしています。

海中の騒音ですが、海の中では音は陸上と違った伝わり方をするのです。有名なところでは、クジラが水中でコミュニケーションを取るということがあります。辺野古で大きな音を出す工事を続けていると、クジラやジュゴンやイルカに影響が及ぶ可能性があります。

移植や移動は一見生物を保全しているように見えますが、生態系を構成しているパーツを動かしても元のようにはなりません。どんな自然でも、偶然が偶然に折り重なった長い期間があって、いまの生物多様性の豊かさがあります。たまたま流れ着いたサンゴや海草が広がり、そこを足場に特定の生物が棲みこみ、元とは異なる場所にしていく。このようなことの繰り返しの結果、現在の辺野古・大浦湾の生物や地形の多様性があります。このプロセスをもう一度人為的に再現することはできません。偶然の積み重ねというのは、一回しかできないことなので、一度壊したら元には戻らないのです。

私たちも生物多様性の一員です。そのバランスを保っているというのは本当に大切で、今ある自然を守っていくことが必要です。

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