運動方針

2014年04月24日

2014年度 主な課題

2014年度 主な課題

以下は2014年4月24日に開かれたフォーラム平和・人権・環境第16回総会において決定された2013年度総括と2014年度運動方針です。

1.   運動の展開にあたって

(1)   2014年の特徴的な情勢について

  1. 真の意味で積極的平和主義を
    「アラブの春」と呼応したシリアの民主化闘争は、国際社会の介入やバッシャール・アサド大統領の強硬姿勢などから、2011年3月以降本格的内戦へ発展しました。2013年7月、国連は「少なくとも死者10万人以上」と発表しています。シリア政府軍の化学兵器使用などに対する国際社会の批判の中、2013年9月、米国は軍事介入を表明しましたが、EU諸国の不同意の中でロシアの仲介により「平和会議」の開催を持って回避されることとなりました。アフガン戦争やイラク戦争など、この間の米国の単独行動主義と覇権主義に対する国際社会の批判の強さを象徴しています。世界秩序への米国の指導力の低下が見て取れます。
    一方、シリア内戦では政府・反政府双方に対する諸外国の支援という名の介入が、軍事的対立の維持と深化を生んだことを忘れてはなりません。国連主導で化学兵器の廃棄が進んでいますが、国際社会が一致して戦闘行為の中断と秩序回復へ向けた話し合いの場を作り上げるべきです。
    親ロ派のヤヌコーヴィッチ大統領の解任とロシアへの逃亡によって親欧米派の政権が誕生したウクライナに対し、2014年3月1日、クリミア半島のロシア系住民の保護を理由に、ロシアは軍事介入を強行しました。クリミアは独立を宣言し、ロシアのプーチン大統領はこれを承認し、ロシアへの編入を受諾しています。米国やEU諸国などは、ロシアの行為は侵略であり国際法違反であるとして、制裁措置の発動を宣言しています。シリア同様、ウクライナにおいても諸外国の介入が混乱を持ち込む結果となっています。
    2011年に独立した南スーダンにおいても、政府・反政府軍の武力衝突が続いています。「国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS)」の協力要請を受けて、日本の自衛隊約330人が国連平和維持活動(PKO)に参加しています。緊迫する情勢の中で、昨年12月21日に韓国軍の要請を受けて、日本政府は弾薬1万発を提供することに同意しました。平和フォーラムは、いかに緊急事態であっても「武器輸出三原則」および「PKO協力法」の枠組みを一気に押し破るもので武器・弾薬の供与は許されないとする声明を発出しました。
    安倍政権は「積極的平和主義」を標榜し、集団的自衛権を容認し軍事的行動も辞さないとする主張を展開していますが、そもそも「積極的平和主義」とは、地域間の政治的融和、経済的協力、文化的調和などを通じて紛争や対立の根本的原因を除いていく努力を指すものです。そのことは、日本国憲法の平和主義とその下に進んできた日本の立場と合致するものです。戦後日本の平和主義の基本であった、武器輸出三原則、非核三原則そして集団的自衛権を行使せず戦闘行為に加わらない外交政策の展開を堅持していくことこそが、積極的平和主義であり世界の信頼を得る手段であると言えます。
    2015年を目標とする国連ミレニアム計画(貧困と飢餓の撲滅、初等教育の達成、ジェンダー平等、乳幼児の死亡率削減、妊産婦の健康改善、HIV/エイズなどの蔓延防止、環境の持続性確保、開発へのグローバルなパートナーシップ推進など)は、達成が大きく遅れています。しかし、国連が提唱してきた「人間の安全保障」は、きびしい生活を強いられている途上国の紛争の火種を消していく唯一の方法です。世界の富の一方的な集中を許さず、適切な再分配を行い、豊かさを共有する道を開くことは世界平和を確立する一番の早道です。平和主義を憲法に掲げる日本こそ、武力によることなく紛争の原因を市民生活の再構築の視点から克服していく努力に、大きな力をふるうことが求められます。日本国憲法前文は、まさにその努力を求めています。
  2. 歴史修正主義ではないのか
    2012年12月の衆議院選挙での敗北、2013年7月21日の参議院選挙での敗北から、民主リベラル勢力は大きく後退をしました。安倍晋三首相は、村山談話の否定発言や侵略戦争に定義はないとする発言など歴史修正主義とも言える発言を繰り返してきました。中国や韓国とは、政治的断絶と言える状況にあり、EU諸国や米国からも批判を受ける状況にありました。オバマ米大統領は、2013年2月の首脳会談では共同声明を行わず、同年9月のG8においても個別会談に応じませんでした。中国・周近平(シー・ジンピン)国家主席や韓国のパク・クネ(朴槿恵)大統領に対する扱いとの違いが際立ちます。
    経済的急成長を遂げる中国は、国民間の経済的格差の拡大や少数民族や反政府活動への弾圧など国内的に多くの課題を抱えています。1972年の日中友好条約の締結以降の若干の時を経て、日本経済の不透明感と中国経済の台頭は、両国におけるナショナリズムの高揚を受けて歴史認識や領土問題での対立を生んできました。このような状況下にあって、石原慎太郎東京都知事(当時)の尖閣諸島買い取り表明に端を発した野田政権の尖閣諸島の国有化に対し、中国はきびしく反発しています。
    尖閣諸島においては、中国海軍の艦船が頻繁に往来し、日本の海上保安庁巡視艇などと接近する緊張した状況が続いています。2013年11月23日、中国政府は日韓両国が設定している「防空識別圏」と重なる東シナ海上の尖閣諸島上空を含む空域に中国の「防空識別圏」を一方的に設けました。尖閣諸島に対する日本の実効支配を弱める狙いがあると思われます。
    このような対立の激化は、東アジアの平和への脅威となりつつあります。世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)での「日中間の緊張が、第一次世界大戦勃発時に似ている」とする安倍首相の発言が問題視された背景には、外交努力をせず対立をあおるだけの首相の姿勢に対する極めて強い批判があるのではないかと考えます。「バルカンはヨーロッパの火薬庫」と言われたように「東シナ海は世界の火薬庫」と言われかねない情勢が続いています。
    安倍首相は2013年12月26日、2006年の小泉首相以来となる靖国神社への公式参拝を行いました。中国・韓国がきびしく反発する中、米国は靖国問題では初めてとも言える「失望」と言う表現を使ってきびしく批判しています。また、国連のバン・グムン(潘基文)事務総長やEUなどからも批判の声があがっています。各国のマスコミは、安倍晋三首相をRevisionist history(歴史修正主義者)と明確に批判しています。中韓両国は、1909年10月26日ハルビン駅頭で朝鮮半島の植民地支配の象徴であった初代韓国統監・伊藤博文を暗殺した安重根の記念館を開設しました。菅官房長官は、安重根を「死刑判決を受けたテロリスト」として「極めて遺憾である」と抗議しました。しかし、中韓両国は、「安重根は歴史上、著名な抗日戦士」であり「記念施設の設立は完全に正当で理にかなっている。日本の抗議は受け入れられない」としています。侵略戦争と植民地支配の過去をもつ日本にとっては理のない対立が続いています。
    このような状況は、安倍首相の発言が作り出したものであり、日韓との同盟を基本とする米国の東アジア政策にとっても問題の大きいものと言えます。中韓両国の歴史認識問題での接近と国際的な安倍政権への批判は、日本の孤立を招きかねないものです。
    中国が貿易の最大の相手国であること、アジア諸国との貿易額が5割を超えることなど、日本がアジア経済圏に属することは明確です。アジアの地域統合と共通の安全保障体制を作り上げる努力こそ、侵略戦争と植民地支配によってアジア諸国に惨禍をもたらした日本に課せられた使命と言えます。戦後補償と村山談話の継承によって侵略戦争と植民地支配の過去を融解し、新しいアジア諸国との友好と信頼の関係を構築することが、将来を見据えた政治のあり方と言えます。
    日本政治史研究で著名なジョン・W・ダワーは、近著において「日本の難題は、新しい『アジア太平洋』共同体をイメージし、敵対的対立ではなく経済的・文化的な協力関係に資源とエネルギーを注ぐことのできる指導者が存在しないことにある。日々生起する危機を乗り切るだけで精一杯と言うことではなく、指導者には、将来に対する聡明な洞察力と勇気が何よりも必要とされているのだ」と述べています。安倍政権を意識したこの言葉は、その本質を突いています。
  3. 「強い日本」とはいったい何か
    「強い日本を取り戻す」とする安倍首相は、「強い日本」が何かを示すことなく中国や韓国との対立を強め、その関係を脅威として国家主義的改革を進めようとしています。2013年12月6日に、市民社会、マスメディア、文化人などの多くの反対を押し切り、数の力を背景に「特定秘密保護法」を成立させました。戦争の真実を隠蔽し、反対の声を抹殺するために多くの人権侵害を作り上げた戦前の社会を彷彿させる法案の成立は、今年の第186回通常国会で議論されている「集団的自衛権」の行使容認をもって、戦争に参加することを具体化する条件整備と言えます。
    東京都知事選挙で、田母神俊雄・元航空幕僚長の60万票という得票は日本社会の右傾化を象徴しています。石破茂自民党幹事長が「田母神候補の得票は、自民党の主張と同じだから」とする発言は、自民党が極めて政治的バランスを欠く状況にあること、そのことが内政・外交全般において多くの問題を引き起こしていることを端的に表すものです。このような政治状況は、ヘイトスピーチなどに見られるような国民の右傾化を引き出し、アジア諸国に対する反発を醸成しています。「強い日本」という空疎な言葉は、歴史に学ぶことなく軍国主義国家であった戦前の日本を希求しているかのように見えています。
    米国政府は、これまで「集団的自衛権」行使容認に触れてきませんでしたが、キャロライン・ケネディ米駐日大使は、インタビューに答えて「米国の兵士や水兵が攻撃を受けた場合、日本の自衛隊が米兵を守れるのであれば、米国にとって日本はより有効な同盟相手となります」として「集団的自衛権」の行使容認を歓迎する発言を行いました。安倍首相は「行使容認には法律が必要」と発言してきましたが、4月に予定される首相の私的諮問機関である「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」の報告を受けて、自民党の公約であった「国家安全保障基本法」を提案せず、閣議において憲法解釈を変更し、自衛隊法などの関連法の改正によって「集団的自衛権」の行使を容認しようとしています。これまで内閣法制局が憲法に反するとし、歴代内閣が追認してきた「集団的自衛権」に関する憲法解釈を、何らの議論なしに容認することは、憲法改正の手続きや国の政治や法制度の基本である立憲主義に反する行為であり、決して許されるものではありません。
    自衛隊を持ちつつも個別的自衛権の範囲での「専守防衛」に徹し、一度も銃の引き金を引くことなく、侵略と植民地支配の歴史から平和国家としての信頼を積み上げ、非核三原則、武器輸出三原則など、日本は平和国家としての理念を作り上げてきました。今まさに、戦後60有余年の営みを破壊する政府方針が現実化しています。平和を求めて長くとり組んできた運動の正念場に立っています。
    3月4日に奥平康弘さん、大江健三郎さんなど多くの方々の呼びかけによって「戦争をさせない1000人委員会」が発足しました。発足のアピールは「憲法九条を空文化し、集団的自衛権の行使を認め、秘密国家をつくろうとする政府への批判と行動をつよめます」として、戦争をさせない運動を提起しています。3月20日には、労働組合、市民など多くの人々が参加し運動のスタートとなる出発集会を開催し、「戦争をさせない全国署名」や各地域に「1000人委員会」を組織することを提起しています。平和フォーラムは、全国をつないで運動の発展と集団的自衛権の行使容認を阻止する闘いに全力を挙げなくてはなりません。
  4. 傲慢な米国
    米国は、第2次大戦以降、朝鮮戦争、ベトナム戦争、湾岸戦争、アフガン戦争、イラク戦争を戦い、またチリ、グレナダ、ソマリア、ハイチなどへの武力介入を行ってきました。圧倒的戦力を背景に、パクスアメリカーナ(アメリカの平和)を推し進めてきました。しかし、南米諸国やイスラム諸国などからの反発を買い、2001年の9.11同時多発テロ以降、アフガン戦争やイラク戦争から米国は得るもの無く撤退を余儀なくされ、財政的にも外交的にも大きなマイナスを負うこととなっています。大量破壊兵器の所有を理由としたイラク戦争では、フセイン体制を打倒したにもかかわらず、激戦地ファルージャは2014年に入り、国際テロ組織アルカイダ系の武装組織に支配されたと言われ、イラク国内の治安回復は進んでいません。
    医療保険制度改革(オバマケア)の見直しなど歳出カットを求める共和党と民主党の対立は、新会計年度までの予算成立が間に合わず、政府機関が一部閉鎖されるなどの事態が発生しました。米国のデフォルト(債務不履行)を懸念する世界の批判の中で、与野党の暫定合意によって回避されましたが、抜本的解決とは言えず先行きは不透明です。
    このような状況で、米国の国際的影響力は低下しています。2009年に誕生した民主党政権は、東アジア重視と米国との対等なパートナーシップを掲げ、沖縄普天間基地の国外・県外移転を主張しましたが、米国の反発から辺野古新基地建設容認へと公約変更を余儀なくされました。台頭する中国との関係からアジアでの影響力の後退と東アジアにおける軍事的プレゼンスの後退を懸念する米国は、沖縄県民の反対を意に介さず事故率の高い新型ヘリ「MV-22オスプレイ」の普天間基地への配備を強行しました。日米合同委員会での飛行制限の合意を全く無視し、オスプレイは沖縄県民の頭の上を飛び回っています。
    2013年8月には宜野座村のキャンプ・ハンセン内でHH-60ペイブ・ホークが、12月16日には神奈川県三浦市の埋め立て地内にMH-60ブラックホークが墜落しました。厚木基地周辺でも米軍機の部品落下による事故が起こっています。オスプレイは、2013年10月16日滋賀県あいば野の自衛隊演習場で合同訓練を行い、また防災を目的とすると称する高知県での訓練など、全国各地での飛行訓練が実施されています。オスプレイの安全性の問題、米国内と日本国内での訓練飛行への対応の違いなど、米国の日本に対する傲慢な姿勢が見て取れます。「日本はいつまで敗戦国なのか」、日米安保体制下での米国政府・米軍の姿勢は、そのような思いを特に沖縄県民に抱かせる結果となっていますが、そのことがナショナリズムをあおる結果となり、安倍政権の国家主義にシンパシーを持つ結果にしてはなりません。
  5. 沖縄の勇気ある選択
    2014年1月19日投開票の沖縄県名護市市長選挙は、4000票あまりの大差で辺野古新基地建設に反対する稲嶺進市長が、辺野古新基地建設容認を表明し自民党が推薦する末松文信前県議を破り再選を果たしました。今回の選挙は、2013年12月に仲井真弘多沖縄県知事が辺野古新基地建設を前提にした公有水面埋め立ての許可を下したことにより、辺野古新基地建設是非をめぐる住民投票の色合いを濃くしました。政府自民党は3000億円の米軍再編交付金を県知事に示し、選挙直前には名護市への経済金融活性化特区の導入や末松候補の応援に地元入りした石破茂自民党幹事長が選挙違反ともとれる「500億円の名護振興基金」の創設を表明するなど、これまで同様「金」の力に頼る選挙を繰り広げました。
    しかし、名護市民は、再編交付金に頼らず自主財源によって住民本位の政策を進めてきた稲嶺市政を選択しました。戦後の自民党政治は、米軍基地や原発など地域住民の安全安心の生活を脅かす施設建設には、莫大な交付金をもって成立させてきました。しかし、原発事故及びその対応や基地負担と傲慢な米国や日本政府の姿勢、何を置いても交付金が地域住民の生活の豊かさに繋がらないことなどから、その手法は限界に達しています。名護市民の勇気ある選択は、そのことの象徴と言えます。
    石破茂自民党幹事長は、稲嶺市長再選の報を聞くやいなや「500億円の振興基金は末松候補のビジョンに基づいたもので、白紙に戻す」と発言しました。自らの思うようにならない市民社会に対してのこのような発言は、自民党政治の本質と言えます。
  6. 教育の反動化と戦後民主主義の危機
    2006年に教育基本法を改「正」した安倍政権は、自らの主張に共鳴する人物のみを持って「教育再生実行会議」を設け、反動的教育政策を矢継ぎ早に発表しています。
    教科書検定基準・学習指導要領の説明を改訂し、竹島や尖閣諸島など領有権をめぐって当該国間に議論のある領土問題を一方的に「日本固有の領土」と断定した記述を教科書に求めています。「国際社会の中で日本の考えを主張できるように」とする考え方には、領土問題を解決しようとする意図はなく、対立をどこまでもあおるものと言えます。グローバル社会に生きる将来の子どもたちが、両国の主張をしっかりと理解し、その中で議論できる力を養うことが大切であり、アジア諸国との関係なしに成立し得ない日本社会を考えると、このあり方は極めて問題です。
    一方で、全国学力調査の結果公表や道徳の教科化など、これまでの歴史の反省に立たない施策も公表されています。戦前の「修身」が果たした役割や、戦後社会を規定する憲法の理念に立つならば、心の問題に政治が介入すべきではありません。また、過去の学力テストが学校間競争に走り学力の低い生徒を排除したり模擬試験が盛んに行われたりその趣旨から大きく逸脱した状況を見るならば、学力調査の結果が学校評価に重なり学校間競争ひいては子どもたちの競争になることは自明です。自治体の長に教育の権限を与える教育委員会制度の改変も、憲法に規定する主権者が持つ教育の権利という考え方からいって、教育の政治的中立を破るものであり許されません。
    安倍政権の教育再編は、個人をないがしろに国家を優先する国家主義再編と言えるものです。自民党の憲法改正案が「個人として尊重される」とする憲法13条を「人として尊重される」とし、権利の条項に「公益と公の秩序」に合致することの制限を加えるとした考えに基づくものであり、「戦争」という究極の人権侵害を準備するものと言わざるを得ません。教育が、国際化社会をとらえ真の意味での国際人を、そして主権者を育成するものでなくてはなりません。そのことへの緊急なとりくみが求められています。
  7. いつまで続く人権不在
    2013年5月17日、国連社会権規約委員会は「日本審査第3回総括所見」を公表しました。日本に対する勧告内容は、人権委員会の未設置、社会扶助予算(生活保護費)の減額、女性・婚外子・同性カップルへの差別、男女の賃金格差、東日本大震災・福島原発事故被害の弱者への対応、高校授業料無償化の朝鮮学校への不適用、従軍慰安婦問題への対応など多岐にわたり、改善の進まない日本社会での人権状況を象徴するものとなっています。
    安倍首相が日本軍の関与を否定する従軍慰安婦問題では、「締約国に対し、搾取がもたらす長きにわたる影響に対処し、『慰安婦』が経済的、社会的及び文化的権利の享受を保障するためのあらゆる必要な措置をとることを勧告する」とされ、次いで、6月2日に出された拷問禁止委員会の勧告では「日本の政治家や地方の高官が事実を否定し、被害者を傷つけている」とされています。橋下徹大阪市長や安倍首相の発言を意識した勧告内容になっています。安倍首相の侵略戦争と植民地支配への否定的発言が、国際的理解を得ないことは明白です。
    このような勧告に対して、日本政府は閣議において必ずしも従う義務はないとして、無視する態度を決めています。これは、朝鮮高校への無償化適用問題や従軍慰安婦問題などへの指摘が、日本政府の政策ときびしく対立することが背景にあります。憲法に定める人権規定を確固としたものにするためにも、とりくみの強化が求められます。
  8. 「生活が第一」民主党政策からの後退と財政危機
    民主党政権は、「コンクリートから人へ」「中央から地方へ」「軍備から福祉へ」として多くの政策を実行しました。しかし安倍政権は、整備新幹線に代表される公共事業の復活や生活保護費の削減と軍事費の増額、診療報酬の増額、高校授業料無償化への所得制限の導入など、真逆の政策を断行しています。円安、株高を求めたインフレ政策は、2014年度の一般会計総額を過去最高の96兆円に押し上げ、国と地方の借金残高は1000兆円を超え、政府利払いだけで年間10兆円を超えることとなっています。借金は、GDPの2倍となり、プライマリーバランスは国家的財政破綻をきたしたギリシャを抜いて世界第一位となっています。インフレ政策は物価の上昇を招き消費税導入は一般家庭を直撃するものとなります。
    安倍政権は、企業が世界で一番活動しやすい日本となるよう、さらなる法人税減額を企図しています。市民生活に直結しないバラマキ政策は、大きく破綻する可能性を秘めており一層危険な領域に足を踏み入れることとなります。
  9. 生きづらい日本の女性
    世界経済フォーラムが毎年発表する2013年の「男女平等(ジェンダー・ギャップ)指数ランキング」では、日本は101から105位に後退しています。日本政府は、指導的地位への女性参画30%を目標に据えていますが、2012年衆議院選挙で衆議院の女性参画率が10.8%から7.9%へ低下しました。自民党の圧勝を受けてのものであり、保守政権への女性参画が低いことを表しています。管理的職業従事者への女性参画率は、米43.0%、仏38.7%、独29.9%となっていますが、日本は11.1%と極めて低水準にあります。  年代別・世帯類型別貧困率を見ると、20歳未満の子どもの貧困率および勤労世代の貧困率ともに母子世帯が圧倒的に高く、女性の生きづらい日本社会が浮かんできます。男性の非正規率(高卒以上)は24.3%ですが女性は66.3%と高率で、平均年収でも男性125.1万円に対して女性は102.5万円にとどまっています。母子世帯の7割以上が年間勤労収入200万円未満にとどまり、子育ての責任と経済的困難リスクを高め、女性の自立を妨げる大きな原因になっています。
    日本社会では、雇用や賃金、社会的差別など複合的要因による生活困難、格差の固定化と連鎖の状況が生まれています。安倍首相は、「再チャレンジ」できることを掲げていますが、実際はそのスタート台にも立てない状況が存在し、自民党政権の社会福祉政策の根幹にある「自助努力」へのアプローチより、セイフティーネットの拡大が望まれる状況となっています。(数字は内閣府及び厚労省資料)
  10. 許されないエネルギー基本計画
    12月13日に経産省の諮問機関「総合資源エネルギー調査会」は、新しい「エネルギー基本計画」をまとめました。原子力発電について、依存度を下げるとしがらも「基盤となる重要なベース電源」と位置づけ、将来的にも一定の発電量を確保していくものとなっています。見通しの立たない高レベル放射性廃棄物の最終処分に関しては、国の責任を強調していますが、最適な場所における地層処分との従来の考え方を踏襲し、具体策は見えません。莫大な費用を投下しながら破綻している核燃料サイクル計画も、継続していくことを明言しています。この報告を受けて政府は、2月25日「エネルギー基本計画」の原案をまとめ、2014年4月11日に閣議決定されました。原発回帰と受け取られかねないとして原発の位置づけを「重要なベースロード電源」としましたが、基本的方向が変更されたものではありません。
    民主党政権が掲げた「2030年代に原発をゼロとする」との、国民的議論に基づいて下した判断を、安倍政権は根底から覆しています。2012年の総選挙前のマニフェストには「原発に依存しない社会をめざす」と記載しながら、総選挙勝利後の2013年のマニフェストには「原発の信頼を取り戻す」と記載しています。虚言を弄しての選挙対策であり、原発推進の姿勢を許してはなりません。
    2014年2月9日投開票の東京都知事選では、「脱原発」をスローガンに小泉純一郎元首相が全面協力する細川護煕元首相が立候補しましたが落選しました。「電力の最大の消費地である東京から脱原発」とする声は、「原発だけが争点ではない」との安倍政権の組織的巻き返しにあって広がらずに終わりました。しかし、原子力政策を推進してきた「政官民」の癒着・もたれ合い構造である「原子力村」は、日本の社会構造のゆがみの象徴でもあり、原発、米軍基地、集団的自衛権行使容認、朝鮮高校無償化不適用、慰安婦問題、生活保護水準の切り捨て、労働者派遣法改「正」などに共通して存在する「命」をないがしろにする政治の象徴とも言えるものです。そのような意味からも「脱原発」は、日本の社会構造そのもの変えていく革命的要素であるといえます。
  11. 安全無視の安易な再稼働
    「エネルギー基本計画」で原発推進を掲げた安倍政権は、既存原発の再稼働に関して「原子力規制委員会の審査によって安全と判断された原発は、立地自治体の同意を持って稼働させる」としています。規制と推進の癒着構造を解消するために組織された「原子力規制委員会」は、例えば、「福島原発事故が津波による全電源喪失が原因なのか、地震によって原発の重要な部分が破壊されたのが原因なのか」と言うような重要な部分を曖昧にしたままであり、福島第一原発事故の知見を十分に反映しているのかも疑問です。福島事故の徹底した検証が重要であり、そのこと抜きの安全審査は認められません。3月13日の定例会議において、原子力規制委員会は川内原発の審査を最優先するとしました。田中委員長は、対象の原子炉の安全性にめどが立ったとしており、再稼働が具体化しています。
    原発事故により防災・避難計画の見直しが検討され、新規に原発周辺30km圏内が緊急時防護措置準備区域(UPZ)として計画の策定が義務づけられました。それぞれ個々の状況や気象条件に応じた避難の手段・避難路の確保、避難場所・生活場所の確保、スピーディーな情報の伝達方法、その他多くの課題に応じた防災・避難計画の立案とその実施は極めて困難です。政府は、防災・避難計画の策定は再稼働の条件にしないとしています。シビアアクシデント対策としての防災・避難計画が、再稼働の条件とならないことは極めて不合理です。米国では、防災計画が立たないことから建設中止となった原発もあります。原発立地地域の自治体は、住民の生活と安全を守る立場から、声をあげていかなくてはなりません。
  12. 透明性の実現と再生可能エネルギーでの経済発展
    安倍政権の方針からは、将来のエネルギーへの方向性、日本の将来社会のビジョンが見えてきません。原発事故の収束に関しては技術的方策やかかる費用も全くめどが立ちません。既存の原発の廃炉や高レベル放射性廃棄物の処分にしても、その技術確立や費用について今後の課題となっています。見通しのない中での原発推進は、将来巨大な負担を国民に負わせることとなるでしょう。東京電力という民間企業の事故に対して、巨額な国税が使われている現実をどうとらえるのか。赤字財政の克服が喫緊の課題となり消費税増税が国民に押しつけられている現在、私たちはしっかりと現実を見極めねばなりません。
    自らの存続と利益のために、東京電力および関連する金融機関が柏崎刈羽原発の再稼働を申請していることは、企業論理のために生命と財産の危険を市民に押しつけるものです。極めて不自然な関連企業への受注、原発推進のための自治体への利益の還流や政治家への献金、電力会社維持を国策として、国税を投入し続けるのであれば、その会計は国民に対して透明でなくてはなりません。これまでのように、都合の悪いことは国民に対して隠蔽し続ける中での国税の投入は決して許されるものではありません。
    重油やLPGなど火力発電による燃料輸入は、貿易赤字や電気料金を押し上げ企業の海外移転を誘発し、日本経済に打撃を与えると喧伝されています。しかし一方で、再生可能エネルギーの開発を持って経済の活性化を行っていくとする主張があります。再生可能エネルギーが地域分散型のエネルギー構造を持っている以上、再生可能エネルギーの開発は地域社会の活性化の大きな原動力になるでしょう。また、原発廃炉技術の開発や廃炉作業も地域社会の産業になり得る要素を持っています。「脱原発」の方向性を政治が責任を持って推進していくことが、新しい産業を興し社会構造を変えていくことにつながっていきます。
  13. 倫理なき原発輸出
    安倍首相は、就任以来原発輸出などのために世界各国を歴訪しました。福島事故を起こしたからこそその反省にたって日本の原発は世界で一番安全な原発であると、その売り込みに精力を注いでいます。しかし、日本の原発が世界一安全であるという確証はどこにもありません。日本の東芝・日立・三菱といった原発メーカーは、フィンランド、東欧諸国、英国、トルコ、リトアニア、ベトナムなど多くの国と受注をめぐる交渉を行っています。日本政府は全面的に支援し、受注に当たっての建設調査費用をベトナムで25億円、トルコでも1億7000万円を支出しています。一部では、復興予算を使ったとも言われています。このような国費の投入は、脱原発をめざすとしてきた日本世論の動向に反するものであり、原発事故の被災者の心情を傷つけるもので許されません。
    2009年、東芝はウェスチングハウスの買収を行いました。日立製作所は2012年に英国の原子力発電事業会社「ホライズン・ニュークリア・パワー」を892億円で買収、同社の計画を引き継ぎ、英国の2カ所で130万キロワット級を計4~6基建設するとしています。同社は、ドイツ電力大手が設立したものの、ドイツ国内の脱原発方針をうけて、売却するとしていたものです。日立は、国内での原発新規計画の見通しがない中で、国外への進出を意図すると考えられます。
    原発輸出は、米国のサンオノフレの原発において損害賠償を提訴された三菱重工のように多くのリスクが伴います。ベトナムでは、安全面の見直しを求める声が高まったとして、ロシアの受注した原発2基の着工延期を発表しました。ズン首相は会合で「原発建設は安全が最優先で、基準を満たさなければ実行しない」と語ったと報道されており、国内の政治情勢に原発政策は大きく変更を迫られます。
    日本の原発メーカーは、事故による責任を問われることはありませんでした。しかし、原子力協定の交渉を行っているインドでは、「汚染者負担の原則」をもって、いったん事故があればメーカー責任を問うことが出来るとされています。また、受注が原発のオペレーションを含むものであれば、事故責任は絶対です。先般衆議院を通過したトルコとの原子力協定では、濃縮再処理の技術移転を可能とすると報道されています。このような状況は、NPT非加盟のインドとの交渉同様に核不拡散の視点からも許されません。
    利益優先の倫理なき原発輸出は、日本の将来に大きな負担を負わせる可能性をはらむものです。日本は過去に太陽光パネル技術で世界の先端を走っていました。日本の技術を再生可能エネルギーの分野に活用し、危険のない新しい産業で経済の発展を担うことが求められています。
  14. 福島をどうするのか
    超党派の議員立法として成立した「福島原発事故子ども被災者支援法」は、各省庁の施策を寄せ集めたもので総合的で実効ある政策にはなっていません。平和フォーラム・原水禁は、地元福島平和フォーラムと連携し3度にわたる省庁交渉を展開し、100万筆以上の要求署名も提出しています。復興庁は、支援法の区域指定に関して明確な回答をすることができず、予算ありきの切り捨て指定であることを暴露しています。健康被害に関わる支援を放射線量を無視して行うなど、被災者によりそう施策とは言えません。
    相当額の予算を配しての「除染作業」も確実な効果を上げるに至らず、年間積算被曝量20mSv以下の地域に対して被曝量の自己管理を基本に帰還を促すなど、極めて問題のある施策となっています。推定14万人とも言われる避難住民と従来から生活する一般住民との感情的対立も一部で発生するなど、被災3年を経過する中で新たな問題も起きています。長期化する避難生活に関して、生活の質の向上、避難前のコミュニティーの復興と地域文化の継承など、抜本的対策が急がれます。
    被災当時18歳未満の子どもたちの甲状腺障害も、検診が進むにつれて増加し、現在33人が甲状腺がん、41人に疑いがあるとされています。福島県は、「原発事故との因果関係があるとは言えない」と表明していますが、甲状腺障害とヨウ素との関係が証明されている以上、継続的検診と徹底した補償が必要であると考えます。また、他県における避難生活を行っている人も含め、老若男女問わず被災者の健康問題への十分な対応が求められます。
  15. さようなら原発1000万人アクション
    福島原発事故から3年が経過し、「さようなら原発1000万人アクション」の運動は、840万人を超す署名と全国に1万5000人を数える賛同者を集めて、大きく広がってきました。2013年11月26日に第二次署名が内閣総理大臣と衆・参議長宛に提出されました。世論調査においても7割が何らかの意味で「脱原発」を求めています。
    東京都知事選挙は、「脱原発」を主張する細川護煕元首相が、小泉元首相の支援を受けて急遽立候補しました。政府与党の支持を受け、当選を果たした舛添要一候補は「脱原発」の争点隠しに全力を尽くしましたが、同じく「脱原発」を掲げる宇都宮健児候補とあわせると、舛添候補の票数と拮抗することとなっています。舛添候補自身、選挙期間中「原発に依存しない方がよい」と発言せざる得ない状況から、市民社会の「脱原発・脱原発依存」の方向性は確実であると言えます。
    3月8日の「原発のない福島を!県民大集会」と、各県をつないだキャランバン、県民集会、そして3月15日の日比谷野外音楽堂での「フクシマを忘れない!さようなら原発大集会」など、原発事故被災から3周年にあたっても「脱原発」の声を私たちは上げ続けています。政府の「エネルギー基本計画」は、原発推進に復帰する内容ですが、市民社会の選択は「脱原発」にあること、そのことは「さようなら原発1000万人アクション」のとりくみの成果であることととらえ、2014年9月23日、代々木公園での「さようなら原発大集会」を成功させて「脱原発」の方向性を政治の中でも確実なものにしていかなくてはなりません。
  16. 核廃絶へ日本の覚悟
    2014年1月26日、米国政府は日本政府に対して茨城県東海村にある兵器級の研究用プルトニウム300kgの返還を要求していると報道されました。米国は、2010年の核セキュリティサミット以来、米国を標的とした「核テロ」の脅威に対して、プルトニウムの厳重な管理と生産縮減を要求してきました。日本は、NPT加盟の非核保有国として唯一原子力施設でのプルトニウムの利用を認められてきました。英・仏に使用済み核燃料の再処理を委託するとともに、自国でのプルトニウム生産・利用を計画し、高速増殖炉もんじゅの研究および青森県六ヶ所村の核燃料再処理工場建設を、国策として行ってきました。しかし、どちらも成果を見ることなく計画は頓挫しています。
    韓国は、米韓原子力協定の再締結交渉に於いて、使用済み核燃料の再処理の実施を要求し、交渉は中断しています。韓国の再処理要求の背景には、北朝鮮の核開発、日本の再処理・所有プルトニウムという政策があります。
    高速増殖炉の実現が不可能となり、原発事故以来、政治的また市民的に「原発に依存しない社会をつくる」とする日本においては、プルトニウムを利用するMOX燃料を使用する原発も停止した状況にあり、今後もその使用量は極めて限定される状況です。核不拡散条約(NPT)においては、日本は余剰プルトニウムを持たないこととされていますが、日本が所有し現在使用できていないプルトニウムは44トン、長崎型原爆にすると5500発分という量になります。「日本は実質的に核保有国」「日本のプルトニウムは周辺諸国の脅威」との声もあり、石原慎太郎・維新の会共同代表の核保有発言や石破茂自民党幹事長の「再処理は抑止力」との発言など、日本の保守勢力層の核保有願望は根強く、アジアの脅威となりつつあります。
    オバマ米大統領は、新戦略核兵器制限条約での削減数以上の核兵器削減を行うと表明し、EUも短距離戦略核の削減を始めています。しかし、米国は一方で、核兵器技術の継続・抑止力保持のために「臨界前核実験」などを継続しています。このことは、オバマ米大統領の表明する「核なき世界」の説得力を損ない、その実現のアプローチに大きく影響を及ぼします。
    2013年10月21日、日本政府はニュージーランドなど125カ国が賛同する「核兵器の非人道性と不使用を訴える共同声明」に署名しました。同声明は、「核兵器のもたらす壊滅的な人道的結果について深く懸念」し、「核兵器がふたたび、いかなる状況下においても、使用されないことに人類の生存がかかっている」と訴えています。2013年4月のNPT会議では、同趣旨の声明への署名を拒否し広島・長崎の被爆者や多くの平和団体から非難されていました。しかし一方で日本は、オーストラリアなど「核の傘」に組み込まれる17カ国が連名で発表した「核兵器は禁止するだけでは廃絶できず」「人道及び安全保障の両方の議論が必要だ」とする同日付の声明にも署名しました。核兵器廃絶を主張しつつ「米国の拡大抑止の信頼性の維持と強化」を主張する日本は、大きな自己矛盾を抱えるものです。
    平和フォーラム・原水禁は、東北アジアの非核地帯構想を支持し、そのとりくみを求めてきました。中国とロシアという核保有国に挟まれたモンゴル人民共和国は「一国での非核地帯宣言」を行っています。日本が、率先してプルトニウム利用政策を放棄し、非核三原則を基本にした「非核地帯宣言」を行い、韓国や核保有国の北朝鮮との「東北アジア非核地帯宣言」実現への交渉を開始すべきです。「世界の火薬庫」ともなりかねない東アジア状勢にあって、東北アジア非核地帯構想は東アジアの平和への有効なアプローチになるに違いありません。北朝鮮が核の抑止に頼らなくても平和が保たれるアジア情勢への、被爆国日本の積極的な役割が求められます。
  17. 被爆者の側にたった実効的援護を
    2013年10月24日、大阪地裁(田中健治裁判長)は、被爆者援護法の定める医療費を国外在住を理由に全額支給されないことを不服とした訴訟で「援護法は、戦争を遂行した国が自らの責任で救済を図る国家補償の性格がある。在外被爆者に適用しないと限定的に解釈する合理性はない」と指摘し、「在外被爆者を支給対象から排除すべきでない」として、韓国在住の被爆者らの申請を却下した大阪府の処分を取り消す判断を下しました。この判決を受け、厚労省は具体的な診療内容の翻訳書類などの提示を条件に、上限超過分も支給するよう制度を変更し、制度の始まった平成16年度分まで遡って支給するとしました。在外被爆者への差別の解消として評価されますが、常に判決を受けた後に対応する国の姿勢は問題です。
    被爆者援護法に基づく原爆症認定制度は、国の認定審査が厳しく、認定されて手当を受給している被爆者はおよそ8500人、被爆者全体の4.2%にとどまっています。認定申請が却下される状況の中で、被爆者による多くの集団訴訟が続き、31の訴訟のうち29の訴訟で国が敗訴しています。このような状況を受けて、2013年12月16日、有識者懇談会の報告を受けて厚労省は認定審査基準の改定を行いました。がんや白血病などはこれまで通りですが、「心筋梗塞や慢性肝炎などの病気に放射線起因性を問わないこととし、爆心地から2km、入市被爆は爆心地から1km以内と認定範囲を狭める」とするものです。しかし、この改訂では司法の判断と実際の認定の隔たりを埋めることにはならず、被爆者の側にたった改定とは言えません。基準の厳正な運用を求める司法判断に対して、基準を実務の状況に合わせようとする姑息な基準改正とも言えるものです。
  18. TPPとは何か、将来を誤るな
    環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉は、日米間での「農産品の関税」をめぐる協議の不調や知的財産権など難航する分野での参加各国の隔たりが大きく、交渉は「大筋合意」もできないままです。TPPは、グローバル企業の利益を優先し、国民生活、中でも日本社会が積み上げてきた社会のあり方、集約的な農業のあり方、共済保険制度、国民皆保険制度、軽自動車優遇制度など、多方面にわたり大きな影響を与えるものです。TPPによって利益を生むであろうグローバル企業や団体は早期交渉妥結を要求していますが、拙速な決着は市民生活を直撃し、特に第一次産業で壊滅的な打撃を受けかねないものです。
    一方で、中国と東南アジア諸国連合(ASEAN)の経済的台頭は、ASEAN+6(日・中・韓・インド・豪州・ニュージーランド)の地域統合を現実的なものとし、すでに東アジア地域包括的経済連携(RCEP)交渉がスタートしています。アジア地域諸国間での経済連携は多くの分野でスピード感を持って進められており、地域統合への方向性は日増しに高まっています。
    この様な状況に対し、自国経済への影響を懸念する米国の反撃がTPPであるとも言えます。今春に予定されるオバマ米大統領の日本・韓国などアジアへの訪問にあわせて、両国はTPP妥結を急ぐものと考えられ状況は厳しいものとなっています。

(2)   今年度の重点的とりくみ

  1. 戦争をさせないとりくみ
    「専守防衛」というこれまでの基本政策が揺らいでいます。安倍政権は今通常国会において、憲法解釈を変更し「集団的自衛権」の行使を容認し、実際に戦闘行為を可能にするよう法律の制定を行うと表明しています。憲法9条が規定する日本の平和主義がこれほどの危機を迎えることはありませんでした。平和フォーラムは、全力を挙げて「集団的自衛権」の行使容認を阻止しなくてはなりません。
    私たちは、東大名誉教授の奥平康弘さんやノーベル賞作家の大江健三郎などを発起人とし、日本の良心とも言える多くの学者・文化人の呼びかけに応じて「戦争をさせない1000人委員会」の運動に全力を挙げてとりくみます。
  2. 地域社会・職場からの平和運動の構築を
    「戦争をさせない1000人委員会」の運動を、署名のとりくみや情宣活動を通じて地域社会・職場へ浸透を図ります。平和フォーラムに結集する地方運動組織を中心に「戦争をさせない1000人委員会」の地方バージョンの展開を追求し、全県での組織化をめざします。
  3. 普天間基地撤去、辺野古新基地建設を許さない
    米軍再編交付金3000億円、名護市振興基金500億円など、安倍政権のなりふり構わぬ攻勢に屈することなく辺野古新基地建設にノーを突きつけた名護市民、沖縄県民と連帯して、辺野古新基地建設阻止、高江東村ヘリパット建設阻止、普天間基地の国外移転とオスプレイの配備撤回に全国連帯でとりくみます。
  4. 国家主義・反動教育を許さない
    戦争をすることを補完し、国家主義の方向を強化しようとする安倍政権の教育施策は、将来の子どもたちに大きな悪影響を与えるもので、社会構造そのものを破壊するものです。戦後の民主主義、平和主義のたゆまぬとりくみ空洞化し、「個人の尊重から人の尊重」と一言書き換えることで、憲法から私たちの命を奪おうとしています。その本質が教育再生の方向にあります。安倍政権の教育施策が、憲法問題であることを明確にし、憲法のとりくみの中で教育を語ることが重要であり、平和フォーラムは、市民社会や韓国の平和組織との連携を深め、全国的なとりくみをめざします。
  5. 脱原発を確実な方針へ
    安倍政権は、民主党政権が国民的議論を尽くして決定した「革新的エネルギー戦略」での「2030年代原発ゼロ」の方針を覆し、新しい「エネルギー基本計画」において、原発の存続・推進を掲げています。市民社会は圧倒的に「脱原発」の方向を向いており、その考え方は揺るぎないものとなっています。平和フォーラム・原水禁は、「さようなら原発1000万人アクション」の運動を支え、政府が「脱原発」の方針を確定するよう運動の展開を図ります。
  6. 福島の復興と原発被災者の補償確立を
    被災3年を過ぎて、福島県の復興、被災者の生活の安定はとりくみ半ばとも言えない状況が続いています。「福島原発事故子ども被災者支援法」の立法趣旨に基づいて、福島県平和フォーラムと連携を強化しつつ、粘り強く省庁交渉を重ねていきます。
  7. 日本を核兵器廃絶の先頭へ2015年4月末から予定されるNPT再検討会議にむけて、連合・核禁会議と連携し核兵器廃絶に向けた運動の展開を図ります。朝鮮半島及び日本列島の非核化の実現にとりくみます。
  8. 朝鮮高校への高校就学支援金制度の適用を求めます政府は、人権課題に関して消極的姿勢に終始、国連勧告も全く無視する態度に出ています。特に国連社会権規約委員会は従来の高校授業料無償化制度の朝鮮学校への不適応を「差別」と明確に断罪しています。2014年1月25日の「国連・人権勧告の実現を!1.25集会」を実現させた実行委員会参加団体に働きかけ、高校就学支援金制度の朝鮮高校への適用を求めて運動を強化します。また、各県で朝鮮高校及び朝鮮高校生徒によって起こされている訴訟支援に関しても、朝鮮学園を支える全国ネットワークを中心に支援にとりくみます。
  9. アジアの地域統合を阻むTPPに反対
    日本社会資本と市民生活に大きな打撃を与え、アジアの地域統合を米国の利益の視点から拒もうとする環太平洋経済連携協定(TPP)には、反対の立場で広範な組織と連携してとりくみます。
  10. 立憲フォーラム議員団との連携の強化
    「戦争をさせない1000人委員会」の運動を通じて、民主リベラル勢力の結集体である「立憲フォーラム」の議員団との連携を深化し、院内外でのとり組みを強化します。そのとりくみを通じて、「立憲フォーラム」の強化に全力を挙げます。また、集団的自衛権に関する連合での議論を注視し、連携のとりくみを追求します。

2.   平和・人権・民主主義の憲法理念の実現をめざすとりくみ

(1)   改憲の動きに抗し、憲法理念を実現するとりくみ

日本国憲法は、前文で「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないようにすることを決意」し、第9条で「戦争の放棄、戦力の不保持、交戦権の否認」を、第3章「基本的人権」や第10章「最高法規」で「基本的人権の本質、普遍性、永久不可侵性」を定めています。平和フォーラムの基本的立場は、これらに示された憲法理念の擁護と実現をめざすとともに、人権や民主主義の国際的な確立にむけた世界の到達点に立って、さらに発展させることです。そしてこの間、東北アジアの平和に向けたとりくみや、人々の生命の尊厳や生活を最重視する「人間の安全保障」の具体化をめざしてきました。
しかし、自民党・安倍政権は、2012年12月の成立以来、この憲法理念を踏みにじり、ないがしろにしてきました。この間、基本的人権を否定する自民党改憲草案の公表、改憲発議を3分の2から過半数に引き下げる96条改「正」の策動、「知る権利」「報道の自由」を侵害する特定秘密保護法の強行採決、国家安全保障会議(NSC)設置への動きがありました。
とりわけ、集団的自衛権の行使容認を巡る攻防が焦点化しつつあります。現在のところ、首相の私的諮問機関「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)が5月に提出するとされる答申を受けた上で、国会審議にすら付すことなく「集団的自衛権行使」容認を閣議決定することが予想されます。
4月1日、「武器輸出三原則」に代わるものとして「防衛装備移転三原則」を閣議決定しました。輸出禁止対象を大幅に緩和した上、恣意的な運用を許すものであり、「平和主義」の原則から大きく逸脱する内容です。
また尖閣諸島を巡る領土問題や靖国神社参拝などで中国をはじめ東アジアの人びととの関係を悪化させ、偏狭なナショナリズムを煽る動きを強めました。
こうした情勢下、平和フォーラムの憲法理念の実現をめざすとりくみは、とりもなおさず憲法破壊を推し進めようとする安倍政権との全面的対決の場でもありました。
自民党が2013年4月に発表した憲法改正草案は人権の制約原理を「公共の福祉」から「公益及び公の秩序」に変更するなど、基本的人権の概念を全否定するものでした。平和フォーラムとしても、もとより改憲のもくろみを隠さない安倍首相の下の政権であることから、こうした動向に対抗するとりくみとして、識者を招いて改憲論の問題性を指摘する連続学習集会を行いました(4月3日・5月22日・6月25日、いずれも連合会館)。また、5月3日の「施行66周年憲法記念日集会」については、「自民党などの改憲案を斬る!」と題し、改憲の動きに対応する内容となりました(日本教育会館、600人)。
この改憲草案については、その内容のあまりのお粗末さに大衆的支持は集まらず、その様子を見て取るや改憲発議を3分の2から過半数に引き下げる憲法96条改「正」の動きを急速にすすめました。これに対しては、4月25日に発足した超党派の議員連盟「立憲フォーラム」(代表・近藤昭一衆議院議員)を軸に、平和フォーラムもこれらの動きと協力・連動しながら、院内集会や学習会などを行いました。また、ますます強まる改憲への動きを見据え、10月を「平和フォーラム憲法月間」と位置付け、各ブロックでの憲法集会(中国、北陸、東海、関東各県など)を開催、そして「憲法理念を実現する第50回大会」(11月3~5日・沖縄)と、連続的にとりくみをすすめました。この96条改「正」の策動は、立憲主義を破壊するものとして多くの批判が集まり、こちらも不調に終わっています。
しかし、7月に行われた参議院選挙でも自民党が勝利を収め、勢いづくなかで、安倍政権は憲法の原則である「国民主権」や基本的人権に対する実質的破壊攻撃と言うべき「特定秘密保護法案」を強引に推し進めてきました。これは単に「知る権利」抑圧に止まらず、戦前の治安維持法下の物言えぬ社会への回帰をもたらしかねないものです。平和フォーラムは多くの労働者・市民と共同し「秘密保護法案と立憲主義否定の国づくりに反対する10.29集会」、「STOP!『秘密保護法』11.21大集会」、「12.6『秘密保護法』廃案へ!大集会」を開催、また「11.21『労働者も秘密保護法に反対』行動」(全港湾、全日建、新聞労連主催)、北海道平和運動フォーラム派遣団を先頭に参議院前座り込み行動(11月25日~27日、12月4~6日)などを集中的にとりくみました。特定秘密保護法反対の運動は短期間で大きく膨らみ、反対世論が圧倒的だったものの、残念ながら12月6日、成立に至りました。さらに安倍政権は再度の「共謀罪」新設を画策するなどしており、廃案を求める多くの市民の動きを今後のとりくみへと繋げていく必要があります。
解釈改憲による集団的自衛権行使合憲化・NSC設置の国家安全保障基本法案の攻防は、2014年の通常国会が焦点となります。戦争国家への道へと突きすすむ安倍政権の暴走を阻止する、大きな運動をつくりだすことが求められています。私たちはその役割を担い、全力で果たす決意です。

(2)   「憲法理念の実現をめざす大会(護憲大会)」について

平和フォーラムの改憲問題・憲法審査会の動きへの対応は、上半期、改憲論の問題点について整理・学習するために、識者を招いての憲法学習集会にとりくんできました。ますます強まる改憲への動きを見据え、10月を「平和フォーラム憲法月間」と位置付け、各ブロックでの憲法集会(中国、北陸、東海、関東各県など)などのとりくみをすすめました。
こうした積み重ねをもとに、沖縄での第50回護憲大会を開催しました。シンポジウムや分科会では地元沖縄の学者・ジャーナリストを中心として構成し、侵略、戦争や基地による抑圧にさらされ続けるなかで、憲法理念の実現を希求してきた沖縄の想いを、全国の参加者と共有し、現政権下で熾烈化する憲法破壊攻撃に対抗していくことを確認しあいました。
本年については、岐阜県・岐阜市において11月1日から3日までの日程で開催する準備を、地元実行委員会との協力の下、すすめていきます。

《2014年度運動方針》

  1. 「集団的自衛権行使合憲化」「国家安全保障基本法」など戦争のできる国家づくりを推し進める安倍政権の動きに対抗する全国的運動として「戦争をさせない1000人委員会」のとりくみをすすめます。人々の「生命」(平和・人権・環境)を重視する「人間の安全保障」の政策実現を広げていく「武力で平和はつくれない!9条キャンペーン」、「9の日行動」など各地で行います。「持続可能で平和な社会(脱原発社会)」を求める「さようなら原発1000万人アクション」のとりくみと連携します。
  2. 憲法前文・9条改悪の動きに対抗する憲法理念を実現し、立憲主義を確立するため、米軍再編、自衛隊増強などを許さないとりくみと連携して、「集団的自衛権行使」に向けた憲法解釈変更を許さないとりくみを引き続きすすめます。また、日米軍事同盟・自衛隊縮小、「平和基本法」の確立、日米安保条約を平和友好条約に変えるとりくみをすすめます。
  3. 自民党による改憲攻撃や衆参憲法審査会の動向に対抗するとりくみを強め、立憲フォーラムと協力し、院内外での学習会などを行います。中央・東京での開催とともに、ブロックでの開催を奨励し協力します。学習会を開催します。また、機関誌「ニュースペーパー」での連載企画や冊子発行、論点整理のホームページなどを適宜、情報発信します。
  4. 新しい時代の安全保障のあり方や、アメリカや東アジア諸国との新たな友好関係についての大衆的議論を巻きおこすとりくみを引き続きすすめます。
  5. 5月3日の「施行67周年憲法記念日集会」(東京・日本教育会館大ホール)をはじめ、憲法記念日を中心に5月を憲法月間として、多様なとりくみを全国各地ですすめます。自治体などに対して、憲法月間にその理念を活かした行事などの実施を求めます。
  6. 「憲法理念の実現をめざす第51回大会」(護憲大会)は、下記日程で岐阜県・岐阜市において開催します。
    11月1日(土)午後      開会総会
    11月2日(日)午前      分科会
    11月3日(月)午前      閉会総会

3.   平和と安全保障に関するとりくみ

(1)   集団的自衛権行使にひた走る安倍政権

  1. 戦争の危機をあおり、緊張を利用して進められる自衛隊の拡張
    安倍政権は、「戦後レジームの脱却」をかかげ、政権発足から憲法を頂点とする平和体制の精算を進め、自衛隊と日米同盟の抜本的な変質を追求しています。
    それは、東アジアにおいて、軍事的緊張をたかめ、国民に戦争の覚悟をにおわせることで、憲法改悪と集団的自衛権、そしてさらなる沖縄の基地強化を認めさせようとする、右翼排外主義的な動きであり、戦後の歴史の中で、これほど憲法と民主主義が危機に直面したことはありません。
    「領土問題」について強腰外交の姿勢をみせつけ、緊張に緊張で応え、自衛隊と日米同盟を攻撃型の態勢に仕上げていく作業が2013年全般を通じて繰り広げられました。
    集団的自衛権容認を軸として、特定秘密保護法、国家安全保障会議(NSC)と国家安全保障戦略(NSS)などがそれです。
    2013年12月17日、安倍内閣はNSSと新たな防衛計画の大綱(防衛大綱)、中期防衛力整備計画(中期防)を閣議決定しました。
    国家安全保障戦略は、「10年程度の期間」の日本の外交・安全保障の基本方針とされるもので、「国家安全保障の最終的な担保となるのは防衛力」と述べ、日本国憲法が掲げてきた「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、安全と生存を保持」という精神を正面から否定するものです。
    この国家安全保障戦略は、自由貿易体制の維持としてTPP等経済連携の推進、エネルギーの安定供給、「愛国心」の涵養まで言及し、自民党タカ派の路線をそのまま投影した内容です。
    従来、安全保障政策の最重要方針であった防衛大綱は、国家安全保障戦略の期間中格下げされましたが、これまで防衛予算の削減傾向から一変し、敵基地攻撃能力保有、陸上自衛隊の海兵隊機能の増強、巡航ミサイルや弾道ミサイルの導入、ステルス戦闘機の増強、ミサイル誘導のための偵察衛星、早期警戒衛星、長距離爆撃機、攻撃型空母などの保有などを盛り込み、2018年までにオスプレイ17機の自衛隊配備と、さながら戦時予算と言えるものです。
    また今回の防衛大綱で注目しなければならないのは、従来日米同盟を出発点に防衛政策が記述されていたものが、自衛隊の「自主防衛」体制を基軸に記述されている点です。憲法改悪と防衛軍への自民党の展望を先取りして書かれているものと考えられ、「敵地攻撃」の自衛隊の自由(柔軟な判断)等をねらったものとして警戒する必要があります。
    これらの動きと併行して、本年4月1日、武器輸出三原則に代わる「防衛装備移転三原則」を閣議決定しました。これまでの武器輸出の原則禁止を放棄して、武器と武器製造技術の自由売買に踏み出したことを意味します。閣議決定は、国家安全保障戦略(NSS)に明記されていた内容を踏襲したもので、経済産業省の武器輸出管理は大幅に緩和され、「死の商人」市場に日本も参加することになります。「防衛装備移転三原則」の第一原則には、「日本の安全保障に資する」と述べられており、対中国包囲を念頭にした武器輸出であり、これが安倍政権の言う「積極的平和主義」の実態です。
    一方、防衛大綱は、従来の「動的防衛力」、また「強靱な機動的防衛力」に代わり、陸海空3自衛隊を一体的に運用する「統合機動防衛力」構想を打ち出しています。東シナ海での軍事行動を優先し、島嶼防衛を重点とした防衛計画です。海上保安部隊の衝突から第一次現地部隊の衝突、第二次後方部隊の本格的戦闘を想定した、「戦争計画」が標榜され、ふたたび沖縄を戦場とした、沖縄を自衛隊の踏み台にした計画です。普天間基地の代替えと言いながら、安倍政権自身が志向する辺野古沖新基地もこうした背景で進められていることは疑いありません。
    また、近年、自衛隊基地と自衛隊員が、駐屯地から地域に出て、交流活動、広報活動を積極的な行う姿 が注目されています。自衛隊の「政治活動」、国民統合としての宣伝活動として警戒しなければなりません。
  2. 集団的自衛権の行使容認につき進む安倍政権
    安倍政権は、集団的自衛権の行使容認を憲法解釈の変更によって成し遂げようとしています。
    これまでも、自民党政権によって数々の憲法の解釈改憲が繰りひろげられてきましたが、集団的自衛権容認以上の暴挙はなく、平和フォーラムは組織総力を投入して、集団的自衛権の行使容認阻止のとりくみを強化します。
    集団的自衛権の解釈を変更することは、内閣の閣議決定によるものであれ、内閣法制局の解釈の変更によるものであれ、行政権の乱用であり許されるものではありません。「海外の武力行使で自衛隊が米軍と共同行動をとることはない」という政府解釈の変更を許してはなりません。
    集団的自衛権など重大な憲法の解釈を閣議決定によって行うことは、「法の支配」を蹂躙し、法の上に内閣があるとする暴挙であり、三権分立を根本から侵すものに他なりません。
    安倍首相は「安全保障をめぐる環境は変わった」と言い、「積極的平和主義の立場をとる」と述べ、自から生み出した緊張による安全保障環境の変化を最大の宣伝文句にして、力づくで憲法解釈を変えようとしています。首相の諮問機関・「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇・座長=柳井俊二元駐米大使)は、集団的自衛権に関わる報告書を5月に提起するとしており、集団的自衛権行使を憲法解釈の変更を通じて行うことを示唆しています。この解釈変更を国会審議前に、閣議決定によって強行することも考えられます。
    他方、憲法解釈の変更と併行して、国家安全保障基本法も構想されてきました。国家安全保障基本法は、①集団的自衛権行使、②個別的自衛権に陸、海、空「戦力」を定義、③国民の責務、④秘密保全義務、⑤海外派遣出動と武器使用の再定義、⑥武器輸出緩和-などが盛り込まれることが予想されており、憲法9条は、この法制定によって死文化します。
    しかし、昨秋からの特定秘密保護法に対する反対運動の高揚をみて、安倍政権は、国家安全保障基本法の上程によるものではなく、自衛隊法や周辺事態法の改定によって、集団的自衛権の法的裏付けを構成するもう一つの手法を検討しているとも言われています。
    平和フォーラムは、集団的自衛権行使、国家安全保障基本法案の阻止に向け、より大きな反対運動の陣形づくりに着手します。さようなら原発1000万人アクションでつちかった運動を糧として、集団的自衛権行使容認阻止のための壮大な運動を進めます。
    国家安全保障基本法が成立を許せば、憲法条文の改憲をせずとも、実質的な改憲であり、憲法9条の骨格条文は葬られることと同じ意味をもちます。

(2)   特定秘密保護法に反対するとりくみ

昨年提案された特定秘密の保護に関する法律案(法案特定秘密保護法案)は、集団的自衛権行使を体現する国家安全保障基本法の一部を構成するものです。「知る権利」を制限し、治安・監視の社会づくり、平和主義を否定する憲法解釈改憲の序曲でした。
平和フォーラム主催の「秘密保護法案と立憲主義否定の国づくりに反対する10.29集会」(2013年10月29日、日比谷野音)、また、11月21日、実行委員会主催の「STOP!秘密保護法11.21大集会」(日比谷野音)、同主催「秘密保護法廃案へ12.6大集会」が開催されました。また臨時国会終盤の山場に、連続的な国会前座り込み行動を実施しました。同時に、全国各地の地方組織が、特定秘密保護法案の廃案をめざして各種集会、各種行動を展開してきました。
しかし、法案は、11月26日に衆院で強行採決、また、12月6日参院で強行採決、成立しました。この法律の審議過程は、特定秘密保護法案の問題性を物語るように非民主的な審議であり、治安法制の登場を象徴するものと言えます。市民運動、労働組合の反対運動の盛り上がりの中、政府は、法案の修正ではなく、法施行する1年までの設置を「約束」するとして、「情報保全監察室」、「保全監視委員会」「独立公文書管理監」を打ち出しました。しかし、これらの機関は、法のすべての執行を監視、チェックする第三者機関とは言えず、この法律の問題点を隠す役割しか果たしていません。
一方、衆院審議の段階で、みんなの党、日本維新の会との間で法案の修正が行われました。修正案は秘密指定の妥当性を担保するため首相の「指揮監督権」を明記、また、秘密の指定期間を当初案の「原則」30年から最長60年に修正したものです。半永久的な指定継続の可能性のあった当初案から、60年後の原則公開に改めたと言いますが、事実上秘密措置の期間は倍増し、公開には例外項目を設ける曖昧な記述で政府が拡大解釈する余地を残し、修正案は、問題をより拡大させていると言えます。
他方、特定秘密保護法につづき、この法律を補完するものとして共謀罪(※実行行為がなくても計画、謀議に加われば処罰対象となる。政府・与党は、組織犯罪処罰法改正案として来年の通常国会に提出する方向で検討に入った)を準備しています。
平和フォーラムは、ひきつづき特定秘密保護法の撤回に向け、とりくみを強化します。この法律は、国家安全保障基本法の治安統制の一端を担うものであり、集団的自衛権反対のとりくみの嚆矢(こうし)として、ひきつづき問題性の指摘や宣伝活動等を行います。
また、特定秘密保護法は、憲法21条に違反し、国連自由権規約19条で保障された表現の自由を侵害する違憲立法です。自由権規約19条違反する同法を追及すべく、立憲フォーラムや市民運動と協力してとりくみを行います。さらに、政府による秘密の指定において知る権利や人権など配慮すべき点を示した国際的なガイドライン=「ツワネ原則」を、日本政府はなんら考慮していません。人権と生存に関係するいかなる情報も政府機関が独占、秘匿してはならないという国際基準であり、この基準から大きく後退するものです。

(3)   辺野古新基地建設をめぐる動向と沖縄のとりくみ

2012年3月27日、沖縄県仲井眞知事は、国に対して、辺野古新基地建設に関する環境影響評価(アセスメント)に対する意見の中で、辺野古での基地建設は「生活や自然環境の保全は不可能」で、埋め立ては「免許することができない」と応えていました。
これに呼応して、2013年1月28日、全沖縄の首長が上京し、オスプレイの配備反対、普天間基地の閉鎖返還を求めて安倍首相に「建白書」を提出しました。
「建白書」はこれ以上の基地負担、基地被害の増加は「差別」であると書かれていました。これら沖縄全体の反発にもかかわらず、2013年3月22日、沖縄防衛局は沖縄県に対し、辺野古移設に必要な公有水面埋め立て申請を提出、それ以降、県知事に対し公有水面埋め立て承認をせまり、沖縄県民を分断する工作を安倍政権ははかってきました。
2013年12月25日、仲井眞沖縄県知事と安倍首相、菅官房長官は東京で会見し法外な「振興策」とともに名護市辺野古沖公有水面の埋め立て承認を求めました。同月27日、仲井眞知事は、辺野古沖公有水面埋め立ての承認を発表しました。
国による名護市長選挙前の法外な「振興策」は、「驚くべき」金権選挙と言えるものでしたが、2014年1月19日投票の名護市長選挙は、基地建設反対を掲げる現職・稲嶺進さんが4,155票の大差で勝利しました。
政府と自民党は、手段を選ばぬ選挙戦を演じ、石破自民党茂幹事長は、基地推進派の名護市長応援で500億円の「名護振興基金」を作るとまで明言しましたが、市民の意志を抑えることはできませんでした。
どのような振興策や交付金をもってしても、法外な金をもってしても、名護市民の辺野古新基地建設に反対する意思を挫(くじ)くことはできませんでした。名護市民には「振興」を語り、「本土」メディアには「南西諸島防衛の拠点」たる新基地建設の必要性を語ってきましたが、沖縄県民と名護市民は、ふたたび沖縄を戦争の捨て石にする政策に明確なNOを下したのです。
しかし、予想された通り、安倍政権は名護市長選挙の結果を踏みにじり、新基地建設を強引に進める姿勢です。菅官房長官は「淡々と進めたい」、小野寺防衛相は「名護市という地方の選挙だ。沖縄県の了承に基づき、工事を進めたい」と述べています。市民自治と民意を踏みにじって強行しようとするこれほど暴力的な基地建設はありません。国の権限を使って、市民と市の意思を踏みつけにする工事が始まろうとしています。平和フォーラムは、1月29日に「沖縄を再び戦場にするな 辺野古の海の埋め立てを許さない辺野古新基地建設反対1・29集会」、4月21日に「オバマ大統領に異議申立て・辺野古新基地建設NO!市民集会」などを開催し、国による強権的な新基地建設の姿勢に異議を唱えてきました。
稲嶺市長を支持し、市長と名護市の権限を盾とした、新基地建設阻止の今後のとりくみを断固支持し、平和フォーラムとして最大の反基地闘争としてとりくみを進めます。
一方、尖閣諸島の緊張を駆り立てながら、自衛隊の拡張が、南西諸島と九州方面で急速に進められています。2013年11月、第回憲法擁護の実現沖縄大会の最中、沖縄県南大東島でかつてない規模の自衛隊演習が実施されました。南西諸島と九州地方で進められている自衛隊基地の拡張は、領土紛争を平和的手段で解決するものではなく、臨戦態勢で臨もうとする政策であり、緊張を高めるものでしかありません。
東村高江でのヘリパット建設阻止、普天間基地の即時閉鎖、返還を求めてさらにとりくみを強化することが求められています。

(4)   オスプレイの配備、米軍の基地機能強化に反対するとりくみ

2012年10月の海兵隊機MV-22、12機の普天間基地配備に続き、2013年7月、第二陣のMV-22オスプレイ12機を岩国基地に陸揚げしました。
米軍は追加配備の12機を8月3日から随時普天間に移送する計画でしたが、そのさなかの8月5日、米空軍ヘリコプターHH-60がキャンプ・ハンセン内に墜落し、乗組員の1人が死亡する事故が発生し、オスプレイの普天間基地配備は一時中断しました。しかしHH-60墜落事故原因の究明もされないまま、同月12日、オスプレイの移送は再開し、普天間基地への計24機配備が完了しています。
沖縄県内の全自治体が強くその配備を反対していたにもかかわらず、世界一危険な普天間基地に、欠陥機オスプレイを米軍は配備し、日本政府はこれを容認しました。沖縄は「基地負担の軽減」とは名ばかりの基地機能のさらなる強化が、危険性の増大をともなって推し進められています。
また、「安全性が確認され」た以降もオスプレイは相次いで事故を起こしています。
2013年4月13~14日「オスプレイ配備と米軍基地問題を考える全国集会」(津田ホール、日本青年館)以降、平和フォーラムは3回の対政府交渉を行い、日米安保条約と地位協定、米軍基地の「外」の訓練の是非について追及してきました。
2013年7月12日、外務省、防衛省、国土省、環境省と交渉。
12月5日、外務省、防衛省、国土交通省と交渉。
12月25日、2014年2~3月予定の群馬県相馬原、新潟県関山のオスプレイ参加訓練問題で防衛省と交渉。
また、2014年3月25日、CV-22オスプレイの横田基地配備問題で防衛省と交渉しました。
これら一連の交渉の中で明らかになった点は以下に整理できます。

  • 「米軍が、その施設、区域以「外」で訓練を含む行動が可能とする根拠は、どの条文にも無い。日米安保条約そのものの解釈で当然」(外務省)
  • 「沖縄県が2012年、2ヶ月間の間に318件の飛行合意違反があったと問題は、一部は、非常やむなく基準を守れなかったもので違反ではない、一部は、防衛省として事実を確認できなかった」(防衛省)
  • 「環境レビューで示された米軍の飛行訓練ルートについて、外務省から国土交通省は知らされたが、その運用上の情報はなんら承知していない。民間航空会社には、このようなルートがあると情報は流しているが、これらのルートについて国内航空法上の位置づけはない。また、6つのルート以外に提供されているトレーニングエリアについても国内航空法上の位置づけはない」 (国土交通省)
  • 「日米地位協定の実施に伴う航空特例法で、航空法の第6章全体が、適用除外になっていることで、米軍機の航行の安全性が確保されるのかという懸念について、国土交通省は、米軍機の航行について承知していないので答えられない。ただし、VFR=有視界飛行の米軍機自身の能力で、安全性は担保されているのではないか」 (国土交通省)
  • 「オスプレイの安全性について、全国知事会をはじめとする懸念や不安については十分承知している。事故は人為的ミスという結論。だが機長と副機長の意思の疎通、連携がうまくいってなかったのではないかという点など、機体の影響には問題ないという結論の下に、人為的ミスをいかに防ぐかということを、日米双方の協議の中で詰めて合意している。訓練等の当該自治体には知り得た情報は伝えたい。しかし個々の米軍機訓練について米軍が事前に通告しなければならないとの義務はない。」(防衛省)

この交渉の中で、空の安全を司る国土交通省が、米軍機の訓練ルートと飛行訓練について、何ら掌握せず、管制権限を持たないことが判明しています。
1952年、朝鮮戦争の最中に、「日米地位協定の実施に伴う航空特例法」ができ、国内航空法の重要な部分が、米軍機の国内航行で適用除外となっています。その上に、安保条約等何ら条文に無い、日本国内を米軍(機)が自由に訓練出来るという二重の治外法権が重なっています。
今後、辺野古問題の推移の中で、沖縄県以外のオスプレイを含む訓練が本格化します。低空飛行訓練ルートの自治体、米軍に提供されているトレーニングエリアの自治体、航空自衛隊基地および陸上自衛隊駐屯地での訓練により影響を受ける自治体に対し、これらの政府交渉の要点を伝え、「空の安全」が如何に危いのかを訴えていくことが必要です。低空飛行訓練をめぐる安保、地位協定、航空法の課題について、米軍機飛行問題追及作業委員会を開催してきました。引き続き、同委員会を開催し対策を進めます。
一方、米軍機の墜落事故、部品落下事故が相次いでいます、2013年5月28日、在沖縄米空軍嘉手納基地所属のF15戦闘機が訓練中に墜落、また、2014年1月16日、原子力空母ジョージ・ワシントンの艦載機でもあるMH-60Sヘリが神奈川県三浦市三崎の埋め立て地に墜落しました。三浦市の事故において、なぜ空母搭載ヘリが墜落地点を航行していたのか不明であり、米軍も回答を拒否しています。米軍機が「自由に」日本国内を航行していることの証左です。
本年1月15日、在日米海軍は、横須賀基地を母港とする原子力空母ジョージ・ワシントンを2015年後半に原子力空母ロナルド・レーガンに交代させると発表しました。原子力空母の母港化がさらに固定化され、出力40万kWの「浮かぶ原子炉」の危険性があらためて問われます。原子力空母の「安全性」と防災対策を追及して、原水禁と神奈川平和運動センターは、2013年5月に内閣府交渉を行いました。

 

(5)   宣伝活動

学習・宣伝用の資材として、以下を作成しました。

  • 資料 集団的自衛権の行使と国家安全保障基本法に関して(9月27日にEメールで配布)
  • 資料 安倍政権の進める集団的自衛権の行使容認に関して(10月21日にEメールで配布)
  • 冊子「オスプレイの低空飛行訓練を止めさせるために」の発行(4月)
  • ブックレット「憲法・集団的自衛権・自衛隊を考える」の発行(12月)
  • ウェブページ「オスプレイの配備と低空飛行訓練」の開設(省庁交渉の報告等を随時掲載)

 

《2014年度運動方針》

  1. 憲法の解釈改憲と自衛隊運用に関わる憲法空洞化の動きに反対します。
    国家安全保障基本法の上程阻止、また周辺事態法、自衛隊法の改悪による集団的自衛権に反対します。
    これらのとりくみを進めるため、「戦争させない1000人委員会」のとりくみを全国規模で進めます。
  2. 国家安全保障戦略、新防衛大綱、中期防の軍事拡大路線、軍事増強と「専守防衛から敵地攻撃」への転換に反対します。また、武器輸出原則の緩和と武器製造技術等の輸出に反対します。
  3. 辺野古新基地建設に関し、公有水面埋め立て工事の阻止のとりくみに総力を挙げ、新基地建設を阻止します。
    また、東村高江でのヘリパット建設阻止、普天間基地の即時閉鎖、返還を求めてとりくみます。これらのとりくみを強化するため沖縄5・15平和行進に参加します。
  4. 特定秘密保護法の破棄、撤回にむけてとりくみます。集団的自衛権の内政措置の一つであるこの法制度を撤回させ、その運用を阻止するとりくみを行います。
  5. MV-22オスプレイの配備撤回、全国展開しようとしている飛行訓練の阻止にとりくみます。
    MV-22オスプレイの運用に関わる日米合意違反を追及します。
    8オスプレイをはじめとする低空飛行訓練によって変容しようとする安保・地位協定の問題を追及し、「安保条約によってどこでも訓練が可能」とする政府見解を質します。
    また、米軍機の飛行訓練が大幅な「国内航空法の適用除外」である点、また、民間機航空管制とは別系統の米軍機航空管制の問題など、「空の治外法権」について追及します。
  6. 飛行ルートにおける地域の運動を進めます。また、オスプレイの参加する共同演習の実施に反対します。低空飛行訓練ルート下の自治体が対政府要請、意見書採択等を行うよう、各ブロック、各都道府県組織と連携して対策を進めます。ルート下の自治体に対して、外務省回答、国土交通省回答、ならびに地位協定、航空法などの課題について情報提供します。
    また、各ルート別のネットワークづくりを、都道府県平和組織、自治労、全国基地爆音訴訟原告団連絡会議などと連携してとりくみます。
    MV-22オスプレイの配備撤回、米空軍機CV-22オスプレイ12機の追加配備、嘉手納基地展開阻止をとりくみます。また、米海軍岩国基地、米空軍横田基地などへのオスプレイ配備計画に反対します。同時に、オスプレイ配備基地の新たな計画に反対します。
  7. アメリカと日本の政府は、厚木基地に駐留する空母艦載機部隊の岩国基地への移転を進めようとしています。さらに日本政府は、岩国基地移転後に空母艦載機部隊が行うFCLP(陸上空母着艦訓練)の施設を馬毛島に建設しようとしています。また現在は沖縄にいる第1海兵航空団の司令部を、岩国基地に移転しようとする動きも出てきました。平和フォーラムは、これらの地域の連携を強化し、岩国基地の強化反対、馬毛島FCLP施設建設阻止、厚木からの空母艦載機部隊の撤退、横須賀基地からの原子力空母の撤退を求めます。また、佐世保への新型強襲揚陸艦ボノム・リシャールの配備阻止にとりくみます。
  8. 上記を含む米軍再編の白紙撤回にとりくみます。
    これらのとりくみを沖縄等米軍基地問題議員懇談会、立憲フォーラム等と連携して国会対策を進めます。
  9. 在沖縄海兵隊の155ミリりゅう弾砲の訓練移転や、戦闘機の訓練移転、また米軍艦船による民間港湾使用に反対します。実施に際しては、地域運動組織を中心に、中止や撤回を求めるとりくみを進めます。
  10. 自衛隊の市中パレードや市街地での訓練など、自衛隊による市民生活への浸透に反対します。そのために各地の運動組織が行うとりくみに協力します。また、各地の爆音訴訟に協力するとともに、米軍犯罪の被害者によって進められている、被害者補償の制度化に協力します。日米地位協定の抜本改正を求めとりくみます。「たちかぜ」訴訟のとりくみに協力します。
  11. 全国基地問題ネットワークや、沖縄基地問題にとりくむ市民団体、またアジア太平洋地域の反基地運動団体との連携と協力を進めます。
  12. 平和フォーラムとしての「東アジア共同体構想」をまとめます。そのために学習会や集会を実施します。外交・安全保障政策の転換を求めます。また「東アジア共同体構想」が国会内外で多数派となるように、民主党・社民党・無所属の国会議員との連携を進めます。

4.   東アジアの非核・平和の確立と日朝国交正常化に向けたとりくみ

 

冷戦構造がなお続く東アジアとの関係、なかでも中国との友好な関係構築は喫緊の課題です。米国一辺倒の安全保障から、東アジアひいては環太平洋全体での安全保障体制の構築に、平和憲法を持つ日本がリーダーシップを発揮する必要があります。しかし、この間、「領土問題」という形で、それぞれの国のナショナリズムが煽られるなか対立を強められ、防空識別圈をめぐる動きなど、いまや軍事衝突が起きるのではないかという危惧が広がっています。
この問題の根底には、日本の戦争責任と歴史認識が問われていることは明らかです。日本は侵略戦争や植民地支配への反省に立った国家的歴史観の構築、戦後補償、靖国問題の解決、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)との国交正常化などの課題にとりくまねばなりません。
戦後補償については、韓国では憲法裁判所や最高裁判所など、司法の場で、韓国政府の戦後補償実現の努力や被害賠償の個人請求権は消滅していないとの判決が相次いでいます。そのもとに外交問題としても、親日派といわれるパク・クネ(朴槿恵)大統領も対日要求を続けています。また、最近になり中国で強制連行・強制労働訴訟が相次ぎ、中国と韓国の元労働者の連携も進んでいます。被害者たちは高齢で、償うための時間は多く残されておらず、早急に解決しなければなりません。なかでも、日本軍「慰安婦」問題は世界各国から日本政府に対して謝罪を求める声が高まっており、早急に解決しなければなりません。
安倍首相は、日本政府が戦争被害を受けたアジア諸国民との和解に向けてこの間積みあげられてきた河野談話や村山談話、菅談話を否定する動きを強め、教科書の「近隣諸国条項」の見直しをも画策してきました。そして、特定秘密保護法の強行成立につづいて、昨年末には国神社参拝を強行するなど、日本国内・近隣アジア諸国はもとより、欧米諸国からも安倍首相の姿勢に対する批判や警戒が強まっています。
平和フォーラムは、8月15日前後には「戦争犠牲者追悼、平和を誓う集会」(8月15日・千鳥ヶ淵国立戦没者墓苑、200人)、「平和の灯をヤスクニの闇へ キャンドル行動」(8月10日・韓国YMCA)に協力しました。
平和フォーラムは、東アジアの人びとの関係を悪化させる首相の姿勢を許さず、引き続き「戦時性的強制被害者問題の解決の促進に関する法律案」の制定をはじめ、歴史認識と戦後処理の課題解決に向けたとりくみを強めます。
東北アジアの平和構築にあたって、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)との国交正常化と核開発問題の解決は最重要課題です。しかし、昨年も2月の核実験強行など事態がありましたが、4月以後、米国の方針修正後、局面は遅々としながらも対話へと変化してきました。6カ国協議をはじめ北朝鮮との協議を再開し、平和的・友好的関係の構築に努力すべきです。民間レベルの対話と交流も欠かせませんが、北朝鮮国内では、昨年12月に張成沢・国防委員会副委員長が解任・処刑という金正恩政権誕生後の混乱を示す事件が起き、国際的に衝撃を与えました。
この事態から、対話を閉ざしたり、対立のために利用する動きを許してはなりません。どのような事態が起きているかをきちんと見極め、日朝関係を改善させていくことが必要です。事態をもっとも利用しようとしているのは、日本の安倍政権です。この間、制裁の動きを強めるばかりで何らの成果を上げてきませんでしたが、3月に入り拉致被害者・横田めぐみさんのご両親と孫娘(キム・ウンギョン)さんの面談、遺骨問題なども赤十字会談が実現し、3月30日には外務省局長級会談を再開するなど、急速に対話の動きをすすめています。
対話の動きはもとより歓迎しますが、安倍内閣の対応は、歴史認識や在日朝鮮人の人権侵害をはじめ国際的に指摘される自らの非を回避しながら、米中韓とは「北の核」、欧米韓とは国連での「北の非人道性」を際立たせる一方、拉致被害者対策や半島南北対立などを利用したものです。事態を本質的解決にまで至らせるのは平和を求める大きな運動がなくてなりません。
政府は、日本による植民地支配の清算について誠実な謝罪と反省を表明し、在朝被爆者をはじめとする戦争被害者への措置を具体化するとともに、日本人遺骨収集など諸懸案を具体的に前進させて、日朝間の信頼関係を構築していくときです。制裁措置の解除は、安倍内閣の政治利用のためではなく、在日朝鮮人の生活と権利を守る姿勢を示すものである必要があります。
日朝国交正常化連絡会は、6月20日に総会(連合会館、100人)を開催し、朝鮮戦争休戦60周年の機会を活かすとともに、日朝平壌宣言11周年のとりくみを全国で行うことを確認しました。そして、平和フォーラムは、7月に朝鮮戦争休戦協定60周年記念行事行動として訪韓団を派遣した他、朝鮮戦争停戦協定締結60周年国際シンポジウム(8月1日・学士会館)に協力するとりくみなどを行いました。また、9月17日には「日朝平壌宣言11周年集会」(連合会館、120人)を行いました。在日朝鮮人に対する人権侵害を許さないとりくみとして、一連の朝鮮学校差別に対するとりくみとも連携して行いました。(詳細は別項)
「日朝間の不幸な過去を清算し、懸案事項を解決し、実りある政治、経済、文化的関係を樹立することが、双方の基本利益に合致するとともに、地域の平和と安定に大いに寄与する」と確認した2002年の日朝平壌宣言の原点に立ち戻ることが必要です。平和フォーラムと日朝国交正常化連絡会は、日朝交渉早期再開、東北アジアの非核化、植民地支配に対する日本の反省と謝罪、戦争犠牲者への補償、政府やメディアへの働きかけ、朝鮮学校支援・在日朝鮮人の人権尊重などをはじめ引き続き地道なとりくみを継続していきます。

 

《2014年度運動方針》

  1. 中国・韓国・朝鮮など東アジア近隣諸国との平和と友好に向けて、対話と協調のとりくみをつづけます。
  2. 東アジア諸国との平和と友好の基本となる、日本人の侵略と戦争の歴史認識に関わるとりくみを行います。これまでの河野談話、村山首相談話に加えて、韓国併合100年に際しての「菅首相談話」などを活かし、安倍政権による否定や歪曲を・変更を許さないとりくみを行います。
  3. 二度と戦争による犠牲者を出さない非戦の誓いを新たにするとりくみをおこない、首相や閣僚などの靖国参拝や靖国神社国家護持に反対するとともに、政府に国立の非宗教的戦争被害者(関係諸国すべてを含む)追悼施設の建設を要求し、靖国問題の決着を求めます。
  4. 2002年日朝平壌宣言の趣旨に沿い、日朝国交正常化に向けた交渉再開・対話を求める日朝国交正常化連絡会を中軸としたとりくみをすすめます。そのため、連絡会への全国各地の運動組織の参加を求め、連携を強めるとともに、国交正常化に向けた世論を喚起するため、継続的に全国各地での講演会・学習会・全国行動をおこないます。東京では月1回程度の連絡会の定期的学習会や集会・行動をひきつづき行うほか、必要に応じて随時集会をおこないます。
  5. 日朝国交正常化に向けて政府・外務省、国会議員、各政党に対する働きかけをおこないます。
  6. 日朝国交促進国民協会、原水禁など在朝被爆者支援連絡会をはじめ、在日の人権確立や、北朝鮮の人道支援のとりくみ、韓国の平和・人道支援運動、朝鮮学校支援の市民運動との連携・交流・協力をすすめます。日本人遺骨問題での解決に向けたとりくみに協力します。在日朝鮮人の生活と権利を脅かす制裁解除のとりくみ、高校無償化からの朝鮮学校排除などの差別を許さないとりくみを行います。

5.   民主教育をすすめるとりくみ

   安倍晋三首相は、2006年の第一次安倍内閣において、愛国心教育を強調した国家主義的方向へ教育基本法を改「正」しました。安倍首相は、2012年12月の衆議院総選挙で政権の座に返り咲くと、自らと主張を同じくする者を集めて「教育再生実行会議」を立ち上げ、マニフェストに示した、世界トップレベルの学力、規範意識、歴史や文化を尊重する態度を育むとする「教育再生」を開始しました。
「個人」を否定し「国家」の立場から教育改革を進めようとする姿勢は、「新しい歴史教科書をつくる会」などが主張する、東京裁判の否定、植民地支配や侵略戦争の美化、「従軍慰安婦」などの歴史事実の否定、靖国神社参拝の肯定などと立場を同じくするもので、安倍首相本人による歴史修正主義とも言える「侵略戦争の否定」「村山談話の否定」「靖国神社参拝」などの言質・行為は、中国・韓国など東アジア諸国とのきびしい軋轢を生む結果となっています。これまで靖国神社参拝には言及してこなかった米国やEU、国連事務総長などからも批判を浴びることとなっています。
文部科学省は、「教育再生会議」の議論を基に、①道徳教育の教科化、②教科書検定制度の「改正」および学習指導要領の解説の改訂、③日本史の必修化、④全国学力・学習状況調査の結果公表、⑤教育委員会制度の「改正」など、矢継ぎ早に教育施策を発表しています。それらは、自民党が公表した憲法改正案の内容、①個人の権利を縮減し公益と公の秩序を強調、②国防軍を創設し戦争の実行を想定、③国旗・国歌への尊重義務や家族の互助義務など個人への国家の介入、④国民の憲法の尊重義務による立憲主義の否定などの方向を補完する国家主義的・反動的教育改革と言えるもので、教育への政治介入の方向をより鮮明にするものといえます。
文科省は、これまで教科外に位置づけられ評価の必要のない「道徳の時間」を、教科に位置づけ記述式による評価を行うとしています。国家が、教育を通じて個人の心の問題に介入すべきではありません。社会の荒廃が人心の荒廃を招く、国家・政治の役割は、社会を差別のない、不安のない、平等なものにしていく努力を継続することです。社会的充足感は、心の満足をつくりだし、豊かな人間の結びつきを形成します。道徳が教科であり評価の対象とされるならば、子どもたちは大人が期待する回答を探し出します。そこに豊かな情操が育つ過程はありません。子どもたちは、生活の中で泣き、笑い、感動を重ねて成長していきます。その過程の中で、社会的素質を育んでいきます。戦前の「修身」は「教育勅語」と相まって、「一旦緩急あれば義勇公に奉仕」とする国家への忠誠を養うこととなりました。その愚を繰り返してはなりません。
2013年11月15日、文科省は教科書検定基準を改定し、①学説が定まらない事項はバランスをとる記述とする、②政府見解や確定した判決がある場合はそのことに従う、③改正教育基本法に照らし重大な欠陥があれば不合格とする、としました。村山談話の改定には諸外国の反発が強いため、検定基準の改定によって安倍首相などが主張する歴史認識に近づけようとするものです。これまでの学習指導要領の解説書では「日本と韓国の間には、竹島に対する主張に差があるという点も取り扱い、日本の領土・領域に対する理解を深めさせることが必要だ」としていたものを、文科省は「竹島は日本領土」と記載することとしました。今回の検定基準の改定の方向を象徴しています。
慰安婦問題を含む戦後補償は解決済み、尖閣諸島や韓国が実効支配する竹島や、ロシアが支配する北方四島は日本領土と記載し、そこにある国家間の論争を無視した一方的な教育内容は問題です。改「正」教育基本法でさえ、その目的に「他国を尊重し、世界の平和と発展に寄与する態度を養う」と規定しています。日本の主張だけを一方的に教えられて他国を尊重する態度を養うことは出来ません。そのことは、グローバル社会の進展の中で生き抜いていく日本の子どもたちの将来に、大きな課題を残すこととなるでしょう。平和フォーラムは、「学習指導要領解説の改訂など安倍政権の教育改革に対する見解」(2014年1月31日)で問題点をただしました。
私たちは、「全国学力・学習状況調査」に関して、学力向上施策の参考にするのであれば、悉皆(しっかい)調査は必要がなく一部の調査で足りるものと主張してきました。悉皆調査は、数値の公表の要求やそれに伴う意味のない学校間格差を助長すると懸念を表明してきました。文科省は、一部自治体や教育委員会などの要求に屈し、各学校の結果の公表を認めるよう施策の転換を図ることを公表しています。このことは、各学校や地域社会の実情を考慮することなく、数字だけが一人歩きし、過去に例があるように学力の低い学校はそのことを不名誉として一層の試験対策に明け暮れ、成績不振生徒の排除や学力調査への模擬試験の実施など、制度の趣旨と反する救いがたい教育の荒廃を生むに違いありません。制度の趣旨を取り違えた学力調査結果の公表を許してはなりません。
これら一連の施策に加え、自治体の首長によって教育を推進しようとする教育委員会制度の改変は、教育の一貫性を無視し、時の権力にその方向をゆだね、教育を政治の道具とするものです。橋下徹市長が主導権を握って教育改革を行ってきた大阪市においては、市長の肝いりで制度化された公募校長制度が、相次ぐ不祥事と応募者の減で強い批判にさらされています。また、徳島県石井町の河野俊明町長は、全国学力・学習状況調査について町立の全小中学校の県内での順位を議会で公表し、自身のフェイスブックに書き込みました。このように、教育委員会および教育委員の合議の中で決定してきた教育施策が、自治体の首長の思惑で左右されることは大きな問題です。
教育は主権者の権利であり政治的中立性が求められます。教育は、憲法の理念に沿って主権者の意思の下で行われなければなりません。教育基本法は、第14条において「法律に定める学校は、特定の政党を支持し、又はこれに反対するための政治教育その他政治的活動をしてはならない」と規定されています。教育委員会を地方自治体から切り離し独自の執行権を付与してきたことは、政治的中立の重要性を表したものです。
文科省は、沖縄県竹富町の教科書採択問題に関して、教科書無償化措置法に基づき八重山地区教科書採択協議会が採択した育鵬社版公民教科書を使用するよう是正要求を行いました。監督官庁である沖縄県教育委員会は、庁内の意見調整がつかないことを理由に竹富町に対する是正要求を見送っています。この問題は、①八重山地区教科書採択協議会における教科書採択の過程が不明瞭であること、②竹富町教育委員会が沖縄の歴史を考えると育鵬社版公民教科書はふさわしくないと判断したこと、③教科書採択の権限が各教育委員会にあるとする地方教育行政法と採択地区ごとに同一教科書を要求する教科書無償化措置法との乖離などに原因があります。文科省は是正要求を行うことなく、地方教育行政法と無償化措置法の乖離を改善し、地域社会や教育現場の意思による教科書採択を実現しなくてはなりません。
12月3日、大阪市教育委員会は市内8地区に分かれた教科書採択地区を一本化する方針を決定しました。横浜市が採択地区を一本化し育鵬社版歴史教科書を採択したと同様の動きと考えられます。文科省は、1997年の初等中等教育局長通知において「公立学校においても学校単位で自らの教育課程に合わせて教科書を採択する意義をより重視すべきであり、将来的には学校単位の採択の実現に向けて検討していく必要がある。このような観点に立って、当面、現在の共同採択制度においても、教科書の採択の調査研究に当たる教員の数が増えるのは望ましく、各地域の実情に応じつつ、現在三郡市程度が平均となっている採択地区の小規模化や採択方法の工夫改善を図るべきである」としています。大阪市や横浜市の方針は、文科省通知の趣旨に反するものであり、その意図も含め決して許されるものではありません。
東京都教育委員会(都教委)は、「平成26年度使用都立高等学校(都立中等教育学校の後期課程および都立特別支援学校の高等部を含む。)用教科書についての見解」をまとめ、6月27日都立高校長宛に発出しました。これは、実教出版株式会社版の文部科学省検定済み教科書「日本史A」および「日本史B」の「日の丸・君が代」をめぐる記述が、都教委の方針に反するので各校長の責任と権限において選択しないよう要請するものです。卒業式・入学式において国旗掲揚・国歌斉唱をすべての生徒・教職員に強制する都教委は、そのことに批判的な文言を許さないとするきわめて独断的な姿勢を明確にしました。平和フォーラムは、①意見の違いを認めず「日の丸・君が代」を強制することの問題、②各学校の主体的な教科書採択を阻害することの問題などを指摘するとともに、発出文書の撤回を求め、都教委要請を行いました(2013年7月16日)。昨年度は横浜市で、今年度は神奈川県においても同様の事件が起こっています。このような、行政の都合によって検定教科書さえ否定する教育への政治介入を許すことがあってはなりません。
松江市教育委員会が、中沢啓治さんの著作「はだしのゲン」を「残虐な表現」を理由に閲覧制限を課すよう各学校に指示していたことが発覚し社会問題化しました。平和フォーラムおよび平和フォーラムしまねは、すぐに閲覧制限を撤回するよう文書で要請を行いました。(2013年8月21日付け「松江市教育委員会による「はだしのゲン」閲覧制限措置に対する見解」)。また、多くの市民・マスコミの反発などから、松江市教育委員会は検討した結果、指示を撤回するとしました。
この問題の背景にも、閲覧禁止を求める松江市議会への個人の陳情と松江市教育委員会への圧力があります。東京都などにおいても、新しい歴史教科書をつくる会系の組織からの議会請願・陳情などの動きがあります。平和憲法の下、地方行政組織が憲法に反する要請に屈するか、またはそのことを理由にして自ら平和教育などへの攻撃を加えることは許されません。
2013年9月22日、大阪国労会館において、韓国の運動団体である「アジアの平和と歴史教育連帯」も参加し、2回目となる市民レベルでの教科書問題意見交換会が開催され、平和フォーラムも参加しました。西日本地域の運動団体を中心に情報の共有のために意見交換を行いました。地方議会への誓願など「つくる会系」の動きもにらみながら、次期教科書採択での運動展開を議論しています。
この会を中心に、教科書検定問題で文科省交渉を行いました(2014年1月21日)。平和フォーラムは、2013年12月13日にも、米国からブライアン・ベッカーさん(アンサー事務総長)とマラ・バーヘイデン・ヒリアードさん(米国際人権弁護士)を招き、教科書検定問題での文科省交渉を行い、前述の考え方を基本に教科書検定の適正化を求めました。今後も、粘り強く交渉を重ねるとともに、「つくる会系歴史教科書」の採択を阻止し、反動的教育改革を許さないために、市民レベルでの教育議論の方向をめざします。

《2014年度運動方針》

  1. 「教育再生実行会議」の議論を注視しつつ、同会議の議論に対峙する教育議論の場づくりに平和フォーラムとして市民との連帯の中でとりくみます。憲法集会などの場において「歴史認識」の問題にとりくみます。
  2. アジア諸国の市民と連帯して、共通の歴史観からの新しい友好関係の構築にとりくみます。
  3. 道徳の教科化、教科書検定基準の改定、全国学力調査の公表、教育委員会制度改革など、一連の「教育再生」と称する施策に対しては反対の立場でとりくみます。
  4. 「つくる会系」や「在特会」などの陳情や圧力、日本会議系の地方議会議員の動向を踏まえつつ、次回小・中学校用教科書採択に対し、地域社会の連帯の中からとりくみます。
  5. 日教組と連携し、教科書検定制度のさらなる弾力化・透明化へ向けた制度改革にとりくみます。政府・文科省等への要請にとりくみます。
  6. 採択地区の小規模化、地域や学校現場の声を反映した学校単位での教科書採択を求めてとりくみます。特に採択地区の一本化がすすむ政令指定都市への働きかけを強化します。
  7. 育鵬社・自由社を採択した地区においての抗議行動にとりくみます。地区における市民と連帯したとりくみを模索します。プレゼンテーション用CDや問題点を指摘した学習用PDFなどを利用し、地域での学習会の開催を追求します。
  8. 各地域の採択実態の検証に継続してとりくみつつ、地域の運動との連携をめざします。
  9. 東京都、神奈川県、横浜市、大阪市、埼玉県などの高校教科書採択問題にたいして、学校採択尊重の視点からとりくみます。
  10. 沖縄県竹富町の教科書採択問題に対しては、現状を承認する方向で是正措置の撤回を求めるとともに、採択地区の細分化、学校採択を見据えてとりくみます。

6.   多文化・多民族共生社会に向けた人権確立のとりくみ

   2013年5月、国連・社会権規約委員会と拷問禁止委員会の2つの審査があり、日本政府に対し、朝鮮学校支援・無償化排除、日本軍「慰安婦」、性差別、被差別部落、アイヌ、沖縄、ヘイトスピーチ、福島原発事故などの人権課題について、70項目もの勧告が出されました。しかし日本政府は「法的拘束力を持つものではなく」「従うことを義務付けているものではないと理解している」との答弁を閣議決定しています(6月18日)。責任・義務を回避しようとする安倍政権を許さず、勧告内容の実現を求めていく必要があります。
自民党の憲法改正草案が基本的人権を全否定するものであることに端的に示されているように、安倍政権はそもそも反人権的な性質を帯びています。「特定秘密保護法」強行採決の過程や「共謀罪」新設の策動にあたっては、「テロの脅威」「安全保障」などを呼号することで人権抑圧を正当化しています。また、災害や疫病対策などの「非常事態」を名目としながら、人権を規制する動きが強められていくことに十分注意しなければなりません。

(1)   国際的水準の人権確立に向けたとりくみ

国際人権諸条約の未批准・留保の多さに端的に現れているように、日本はこれまで国際的な人権水準から大きく遅れをとってきました。過去をみても人権確立を求める動きへの敵対が目立った自民党政権への回帰によって、人権状況のバックラッシュ(ゆり戻し)がすすまないようにしなければなりません。
差別、排外主義など人権課題がますます深刻なものとして立ち現れている現状に対して、これまでもそれぞれの課題にとりくんできた各人権団体や諸個人が5月の社会権規約委員会・拷問禁止委員会からの勧告を契機として、人権勧告で指摘された日本の人権課題の解決を求める共同キャンペーンをすすめています。の学習会などを積み上げ、12月14日、「国連・人権勧告の実現を! ―すべての人に尊厳と人権を―」集会を、約250人の参加で開催し、また1月25日、東京・代々木公園で600人以上を集め、集会・デモを行いました。
世界に開かれた多文化・多民族共生社会の実現のために、国際水準に見合う人権確立に向けたとりくみを今一度強化し、運動をすすめていきます。

(2)   法制度に関して

取調べの可視化については、法制審議会の「新時代の刑事司法制度特別部会」での議論が続いています。現在、可視化の対象を裁判員裁判の対象事件に限定し、対象事件であっても可視化しなくてもよい「例外」を設ける案と、録画する部分を取調官の裁量に委ねる案について検討しています。また、現在検察庁・警察庁が行っている一部録画は、取調官に都合のよい部分だけを録画するものであり、自白強要を防ぐものにはなり得ません。人権保障のためには、冤罪の温床となってきた警察・検察の取調べの過程公開と証拠の全面開示を実現しなくてはなりません。狭山事件など、捜査機関によるでっち上げによる冤罪事件を許さず、必ずや早期の再審実現をかちとらなくてはなりません。
民主党政権においては、人権確立を求める当事者や人権団体、日弁連などによる人権救済機関設置要求の高まりを受け、法務省の外局として「人権委員会」を設置する法案が閣議決定されたものの、審議されないまま廃案となりました。しかし、インターネット上のみならず街頭においても差別言動(ヘイトスピーチ)を含む差別扇動が続発する今、差別禁止・人権救済の制度整備の必要性はいっそう高まっています。平和フォーラムも参加・協力する「国内人権機関と選択議定書の実現を求める共同行動」(人権共同行動)は法案の問題点を指摘しながら、被差別当事者によりそった内容を実現していくためにとりくみをすすめています。
障害者権利条約が昨年12月、ようやく国会での承認を得て批准されました。社会的障壁を除去するための合理的な配慮をしないことも差別と規定するものです。これまで行われてきた障害者制度改革の内容には問題点も指摘されており、当事者団体とともに条約内容の完全実施を求めていく必要があります。
安倍政権は、「世帯収入910万を基準額として所得制限を、2014年をめどに導入する」として無償化制度の改悪を行いました。この間、平和フォーラムとしても「現行の高校授業料無償化制度を継続し、新たな財源で給付型奨学金を求める署名」にとりくんできました。国際人権A規約第13条2(b)の「中等教育・高等教育の漸進的無償化条項」を法制化したものであり、憲法に規定された「法の下の平等」や教育基本法の「教育の機会均等」を具現化する無償化制度本来の趣旨を取り戻さなくてはなりません。

(3)   女性の権利確立

第3次男女共同参画基本計画は、第2次計画で安倍政権によって後退した部分を修正し、国連の女性差別撤廃委員会の勧告をほぼ受け入れた内容で、2010年12月17日に決定しました。なかでも「選択的夫婦別姓の実現」や、「男女同一価値労働、同一賃金の法制化」、政策決定の場への女性の参画手段として「クオータ制の導入」などが明記され、その実効性をあげることが、運動課題になっています。すでに今年に入って、民法の夫婦同姓規定は、個人の尊厳を定めた憲法13条や、男女平等規定の24条に違反し、これら差別法規の改廃義務を定めた女性差別撤廃条約に反しているとして、5人の男女が国を相手どった「国賠訴訟」の控訴審判決(3月)は、選択的夫婦別姓を求める声が高まっていることは認めつつも、姓の変更を強制されない権利が憲法で保障されているとは言えないとしました。原告は上告を予定しています。I女性会議は原告を支え、全国的な「別姓訴訟」の支援にとりくんでいます。
民法の婚外子の相続差別規定については、最高裁大法廷の違憲判決(9月)を受け、改正されました(12月)。しかし、これに対しては自民党議員などからの猛烈なバッシングが見られました。男女別姓をはじめ、婚姻・家族制度などの社会構造に根ざした差別の問題を問うていく必要があります。平和フォーラムとしても、女性の人権を国際的な水準に引き上げる運動をともにすすめます。

(4)   在日外国人の人権

在日外国人の人権問題の解決が喫緊の課題となっています。とくに朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)との様々な外交的問題を口実とした在日朝鮮人に対する抑圧の高まりは看過できません。また、国内における排外主義的な雰囲気が醸成されるなかで、「在日特権を許さない市民の会(在特会)」などによる集会妨害、インターネットを利用した差別扇動などの動きに対する注意が必要です。在特会などによる京都朝鮮第一初級学校襲撃事件に対する京都地裁判決(10月7日)では、在特会らの行為は人種差別撤廃条約が禁止する「人種差別」にあたり、このような差別を撤廃する義務を負っていると明示しました。日本が人種差別撤廃条約に加入して以来放置され続けてきた「人種差別撤廃のための法整備」が強く求められていると言えます。
日本の、アジアに対する根強い差別の根幹には、過去の植民地支配の歴史についての未清算と無知が存在しています。歴史性を踏まえた理解と問題解決をめざすとりくみをすすめます。
この間、在日外国人を取り巻く人権状況は一向に改善されていません。外国人参政権については、継続して保守勢力によるネガティブキャンペーンが繰り広げられています。とくに外国籍住民が投票可能な地方自治体の住民投票条例をその攻撃の矛先が向けられています。2009年に改「正」された入管法が2012年7月に施行されましたが、管理と監視の強化による外国籍住民の人権状況の動向にはとくに注意しなくてはなりません。今後も入管法の問題性を批判的に検証し、その見直しを求めていかなくてはなりません。日本人市民と外国籍住民による共同のとりくみを大きく拡げていくことが求められています。
外国人労働者の権利確立を求める「マーチ・イン・マーチ」をはじめ、多文化・多民族共生社会を目指すこうした実践をいっそうすすめることが重要です。

(5)   朝鮮学校無償化問題

朝鮮学校無償化問題については、「高校授業料無償化」制度が2010年4月に施行されて以降、この3年間、さまざまなとりくみが行われてきたものの、北朝鮮との外交問題が膠着状態にあることを理由に「国民の理解が得られない」などとして朝鮮学校に対する差別的取扱いを正当化する自民党政権へと移行したことで、残念ながら局面が固定化されつつあります。そうしたなかで、まず、各地の朝鮮学校・生徒による訴訟提起(大阪-昨年1月、愛知-昨年1月、広島-昨年8月、福岡-昨年12月、東京-今年2月)がすすめられています。
国際社会へのアプローチが模索されています。オモニ会連絡会を中心に国連・社会権規約委員会などの人権機関への働きかけが行われました。5月に出された国連・社会権規約委員会の日本に対する総括所見では、朝鮮学校について指摘がされました。また、アメリカの反戦反差別運動団体「ANSWER」(Act Now Stop the War & End Racism)や、韓国の市民運動団体「民族学校支援市民の会」などとの交流が始まっています。
こうしたなか、朝鮮学校生徒への『高校無償化』適用を求める署名」のとりくみが、全国のみならず国際的に連動したキャンペーンとして開始されています。
平和フォーラムとしても、「朝鮮学校はずしにNO!すべての子どもたちに学ぶ権利を!全国集会&パレード」(2013年3月31日・日比谷野外音楽堂)、「高校無償化制度」の即時適用と補助金復活を求める院内集会(5月31日・衆院第二議員会館)などにとりくんできました。朝鮮学園を支援する会全国交流会(12月15日)を開催し、学校関係者、全国の支援者など約250人が参加、今後の学校支援、裁判闘争支援に向けた情報共有、意見交換を行いました。各地域の運動を取り結び、全国的な連携をつくりだすために、今後もこうしたとりくみを継続的に行っていきます。

《2014年度運動方針》

  1. 実効性ある人権救済法の制定と国際人権諸条約・選択議定書の批准に向けたとりくみ
    1. 国際人権諸条約の批准促進を求めます。とりわけ、個人通報制度にかかわる条約の選択議定書の早期実現を求めます。実効的な人権救済機関設置の実現に向けて、当事者を中心としたとりくみに参加・協力します。日本政府に国連の人権勧告を遵守するよう求めるキャンペーンをすすめます。
    2. 国連の「国内人権機関の地位に関する原則」(パリ原則)にそった独立性と実効性ある人権救済機関を制度化する法律の制定、「差別禁止法」の制定に向けてとりくみます。「国内人権機関と選択議定書の実現を求める共同行動(人権共同行動)」や日弁連と協力して政府に対して実現を求めてとりくみます。
    3. 全国の自治体でより充実した「人権教育・啓発推進に関する基本計画」を策定・実行を求めるとともに、「人権のまちづくり」や「人権の核心は生存権」との認識のもとに生活に密着した「社会的セーフティネット」などのとりくみを広げていきます。また、地域・職場でさまざまな差別問題など人権学習・教宣活動をおこないます。
  2. 司法制度・地方主権などに関するとりくみ
    1. 裁判員制度は多くの問題点があるので、抜本的に見直させるとりくみをおこないます。
    2. 最高裁判所裁判官国民審査にかかわって、日常的な判決チェックをおこなうとともに、権利の行使として「×」を増大させるとりくみをすすめます。また、期日前投票などの改善を中央選管に求めます。
    3. えん罪をなくすとりくみに参加・協力するとともに、日弁連や「取調べの全面可視化を求める市民団体連絡会」などのとりくみに協力して「取調べ可視化法」の実現をめざします。狭山差別裁判の再審実現に向けたとりくみに協力します。
    4. 障害者権利条約の完全実施を求める当事者団体のとりくみに協力します。
    5. 重大な人権侵害をもたらす恐れが指摘されている医療観察法の廃止を求めるとりくみに協力します。
    6. 「共謀罪」などの人権抑圧につながる法制度に反対するとともに、「特定秘密保護法」の廃案を求めます。
    7. 警察公安による微罪逮捕や自衛隊による取調べ事件や情報収集増大の動きを警戒し、不当弾圧、人権侵害を許さないとりくみをおこないます。
    8. 地方分権を促進し、地方自治体の自主財源の確保とともに、条例制定権の拡大、拘束力のある住民投票の導入などのとりくみをおこないます。
    9. 反住基ネット連絡会のとりくみに協力します。
    10. 言論や表現の自由を暴力やテロで封じる動きを許さないとりくみを随時、おこないます。
  3. 男女共同参画社会の実現に向けたとりくみ
    1. 「男女共同参画第3次基本計画」に明記された「選択的夫婦別姓の実現」「男女同一価値労働、同一賃金の法制化」「クオータ制の導入」などを実効化するため、I女性会議などがとりくむ「別姓訴訟」支援をはじめ、女性の人権を国際的な水準に引き上げる運動をともにすすめます。
    2. 女性差別撤廃条約選択議定書の批准を求めるI女性会議など「日本女性差別撤廃条約NGOネットワーク」(JNNC)のとりくみをともにすすめます。
    3. 女性の重要性・ジェンダーの視点を強調した人権確立の国際社会の流れを活かしたとりくみをすすめます。
    4. 平和フォーラム自身の組織構成、諸会議をはじめ、かかわる運動全般で女性が参加できる条件・環境づくりをおこないます。
  4. 地方参政権など在日定住外国人の権利確立のとりくみ
    1. 韓国の「在韓外国人処遇基本法」(2007年)などに学び、在日外国人の権利確立の制度実現に向けたとりくみをすすめます。
    2. 差別なき定住外国人参政権法案の制定に向けて、参政権ネット、在日本大韓民国民団と協力して、全国各地でとりくみをすすめます。
    3. 子どもの権利に立った外国人学校の整備など多民族・多文化共生社会の実現に向けたとりくみをおこないます。「朝鮮学園を支援する全国ネットワーク」をはじめ、全国各地でのさまざまな動きに注視・連携しつつ、朝鮮学校支援のとりくみをすすめます。高校無償化の朝鮮学校への適用をめざしてとりくみます。
    4. 2009年改定の入管法施行を検証し、これを見直させるため、外国人人権法連絡会や日弁連のとりくみに参加・協力します。
    5. 無権利状態におかれた外国人労働者などの救済に向けて外国人研修生権利ネットワークなどのとりくみや、生活と権利を守るための外国人労働者総行動「マーチ・イン・マーチ」のとりくみなどに協力します。
  5. 「過去の清算」と戦後補償の実現と「在日朝鮮人歴史・人権月間」のとりくみ
    1. アジア・太平洋の人びとの和解と共生をめざして、日本と日本人が戦争に対する反省・謝罪、補償に向けた姿勢を示し、二度と戦争による犠牲者を出さない非戦の誓いを新たにするとりくみをすすめます。不十分なものとはいえ、2010年8月10日の「菅首相談話」を活かし、別項の日朝国交正常化を含めた一連のとりくみをすすめます。
    2. ひきつづき首相・閣僚などの靖国参拝や靖国神社国家護持に反対するとともに、政府に国立の非宗教的戦争被害者(関係諸国すべてを含む)追悼施設の建設を要求し、靖国問題の決着を求めていきます。このもとに8月15日に千鳥ヶ淵戦没者墓苑をはじめ各地で戦争犠牲者追悼・平和を誓う集会をおこないます。衆参両院議長、首相・閣僚の千鳥ヶ淵墓苑での追悼・献花との連携をはかります。
    3. 「過去の歴史を直視するため、内閣に日本の侵略行為や植民地支配の歴史的事実を調査する機関を設置し、政府機関が保有する記録を全面開示する」「戦後処理に関する全情報を開示し、戦後処理の在り方を再検討し、残された戦後諸課題に立ち向かう」ことを政府に求めるとりくみをすすめ、戦後補償をとりくむ市民団体や、歴史の事実を明らかにする立法(国立国会図書館法改正、恒久平和調査局設置)を求める市民グループとの共同のとりくみをおこないます。
    4. 「菅首相談話」にも明記された遺骨問題や文化財返還問題で、「韓国・朝鮮の遺族とともに全国連絡会」や「韓国・朝鮮文化財を考える連絡会議」と連携したとりくみをすすめます。「強制連行・企業責任追及裁判全国ネットワーク」などがすすめる「朝鮮人強制労働被害者補償立法の実現を求める要請署名」に協力します。
    5. 在日朝鮮人の歴史的背景への理解をすすめ、その人権確立をめざすとりくみに協力します。
    6. 司法解決の道は狭められてきたものの、国際法や道義的責任に基づき企業・国に謝罪と補償を求め立法解決への道を開こうとする戦後補償のとりくみに支援・協力します。
    7. 米下院「慰安婦問題」決議をはじめ国際的に広がる日本の首相の公式謝罪表明要求を、首相が真摯に受け止め実行することを求めるとりくみをすすめます。
    8. 差別なき戦後補償を求めて東京大空襲訴訟・空襲被害者立法の支援のとりくみをおこないます。また、東京大空襲朝鮮人犠牲者追悼集会などに協力します。
    9. 1967年から戦前の「紀元節」を「建国記念の日」とした問題点を忘れず、2月11日に歴史認識にかかわる集会をおこないます。

7.   核兵器廃絶に向けたとりくみ

(1)   核廃絶に向けて

  1. 核セキュリティサミットで議題となった日本のプルトニウム問題
    日本は、長崎型原爆5千5百発分にもなる、プルトニウム44トンをすでに保有しています。3月24日からオランダ、ハーグで開かれた第3回核セキュリティサミットでは、いよいよ日本のプルトニウム問題が議題となりました。ウクライナ情勢など不確定要素もありましたが、発表された日米共同声明では、主に東海村の高速炉臨界実験装置のプルトニウム約300キロが米国に返還されることについて盛り込まれました。原発の使用済み燃料から取り出したプルトニウムが使い道もなく貯められ、さらに年間8トンものプルトニウムの生産を青森県六ヶ所村で開始しようとしている異常な状態にも、国際社会のスポットライトが当てられたのです。
    53ヵ国の首脳級が参加する核セキュリティサミットでは、核兵器の製造につながる高濃縮ウランやプルトニウムの保有量の最小化を図るよう各国に奨励するコミュニケを採択しました。
    この最小化の原則に則して、日本政府も自ら再処理のモラトリアムを宣言するなどのイニシアティブを取ることが、国際社会に対する、明確な選択ではないでしょうか。安倍首相が「利用目的のないプルトニウムは持たない」とサミットの席上で断言したところで、増殖炉の当面の代替のはずだった経済性のないMOX使用のめどさえ立たない中、再処理を始めればプルトニウム在庫の倍増を目前にした状態では、名目だけの「利用目的」が虚しく聞こえます。
    米国に返還するプルトニウムと、その他の44トンとの違いは、日本の原子力発電所内の核反応で出来たプルトニウムなので、米国が返還要求しないという だけです。性質に違いはありません。核テロなどの危険性も同じです。東海村の300キロのプルトニウムをテロ対策として米国に返還して処分してもらうなら、ヨーロッパにある日本保有の34トンのプルトニウムも「処分」してもらうのが妥当です。 原水禁が呼びかけ、国際平和ビューロー(IPB)、ピースアクションなど11ヵ国、23団体が応じた、六ヶ所再処理工場の運転をしないよう日本政府に要請する国際キャンペーンは、国際社会の日本のプルトニウム余剰・核拡散に対する関心の高さを示しました。こうした動きなどを活用して、余剰プルトニウムを持たない国際公約を政府にただし、再処理をやめさせる交渉を行います。
    さらに日本は、原発の輸出に絡んで各国と原子力協定を結びつつあります。4月4日に衆議院を通過した トルコとの原子力協定は核燃料サイクルに関して、「トルコは、日本が許せば再処理をできる」という表現になっており、ベトナムとの協定の「日本が許さない限り再処理をできない」から一歩踏み込んでいます。直接核拡散につながる、ウラン濃縮や核燃料再処理の輸出を可能にする重大な問題です。国際原子力機関(IAEA)の査察能力の限界が指摘されてきており、日本の再処理によるプルトニウム余剰問題のみならず、日本の原発輸出が核拡散上の国際問題を引き起こすことも十分考えられます。NPTの枠外のインドへの原子力協力とあわせ、重大な問題を孕んでいます。
  2. 核兵器の非人道性を強調するキャンペーン、2015NPT再検討会議への動き
    昨年3月のオスロで開かれた核兵器の人道的影響に関する国際会議につづく今年2月のメキシコでの国際会議、また、国連での核兵器の非人道性に関する共同声明など、従来の核軍縮のとりくみとは少し違う角度の核廃絶をめざす国際的な動きが、赤十字・赤新月社などを先頭に流れを生まれています。また、核拡散の観点からもプルトニウム問題がとりあげられることが予想される、3月にオランダ・ハーグで行われた核セキュリティサミットなど、2015年のNPT再検討会議へ向けた核に関するさまざまな国際情勢が現れてきつつあります。さらに今年4月に広島でNPDI(軍縮・不拡散イニシアティブ)外相会合が開催され、国内外でNGOなどの核の非人道性に関するキャンペーンへの関心が高まります。
    日本政府は、国連第1委員会にニュージーランドが提案した核兵器の非人道性に関する声明に124ヵ国とともに署名しました。これまで、同様の声明が3回出されてきましたが、日本は米国の核の傘に依存する政策と相容れないとして署名を拒否してきました。今回は、声明文に核軍縮に向けた「すべてのアプローチ」という文言が入り、先制使用も含む核抑止依存のアプローチも認めているという、日本政府の解釈で署名した、としています。このような詭弁を使う不誠実な態度は国際社会で認められるものではありません。
    菅義偉官房長官は10月22日の記者会見で、「核軍縮に向けた全てのアプローチを明記することで、拡大抑止政策を含む安全保障政策、日本の今までの考え方と同じ考え方がその中に入っている。この政策の中で、段階的に核軍縮を進める日本のアプローチと、[声明]とが整合的であることが確認できた」と説明しています。
    このような、声明の精神をも踏みにじる政府の詭弁を明らかにし、核の非人道性に対する本来的意義に沿うような形に政策を転換させるとりくみを進めます。
    また、実質的な核軍縮課題として、極東地域に戦術核は必要ないという民主党の岡田克也外相(当時)の米国へのメッセージが後退しないように、原発・再処理が安全保障上有効などと党幹部が発言する自民党の動きの監視をつづけます。
    広島で開催されるNPDI外相会議にあわせ、対抗イベントを行う市民団体とも協力し、来日する外交官やメディアに対して働きかけます。また、進まないNPT再検討プロセスに対して、日本政府の核政策の消極性を指摘、核軍縮への具体策を探ります。

(2)   高校生平和大使のとりくみ

1998年にはじまった高校生平和大使の国連訪問(ジュネーブ)も16年目をむかえ、2013年度は、過去最大の20名の高校生が平和大使として8月18日~24日にかけて国連を訪問しました。今年度はさらに政府(外務省)から「ユース非核特使」(政府が新設した制度)の第1号に委嘱され、日本の若者の代表として、核兵器廃絶と平和の実現を世界に訴えました。
これまで、国連に訪問した高校生は108名になり、今年度集めた署名が195,704筆とこれも過去最大の筆数となり、これまでの累計1,041,679筆となっています。さらに高校生平和大使の活動は全国に広がり、12都道府県から20名が選出(2013年度)され、その中には東日本大震災の被災地の岩手や福島からも平和大使が選出され、国際社会に被災地の現状を訴えるとともに、風化をさせないための粘り強い働きかけを行いました。
高校生平和大使の運動は、「微力だけれど無力ではない」として、「高校生1万人署名活動」のとりくみを中心に「核兵器廃絶と世界の恒久平和に寄与する」その活動は、欧州の国連本部訪問の他にも、発展途上国に対する教育支援を目的とした「高校生1万本えんぴつ運動」、「高校生アジアこども基金」などを含めて一層の広がりを見せています。長崎の運動から始まった平和大使の運動は全国各地に広がり、その運動の一端をこれまで各地の原水禁・平和フォーラム、教職員組合などで財政面を含め支えてきました。運動が全国化する中で、全国をつなぐ意志一致が必要な状況となり、年間を通じて話し合いの場の設定が求められています。また、外務省など政府機関との関係性の強化も重要な要素となってきています。現在、長崎にある事務所をサポートするために東京での支援事務室の設置も依頼されています。原水禁・平和フォーラムとして、これまでサポートを進めてきましたが、上記の情勢および活動趣旨に鑑み、財政的、事務的に一層の支援強化を果たしていくために「高校生平和大使支援中央組織(仮称)」を立ち上げます。
名称:   高校生平和大使支援中央組織(仮称)       場所:   東京都千代田区神田駿河台3-2-11   連合会館1F 原水爆禁止日本国民会議内に設置       目的:   高校生平和大使の活動支援に特化する。

(3)   原水爆禁止世界大会/ビキニ・デーについて

被爆68周年原水爆禁止世界大会の参加者数は、福島大会・1200名、国際会議・100名、広島大会開会総会・3500名、長崎大会開会総会・2000名、メッセージfrom ヒロシマ2013・350名となりました。海外ゲストは4ヵ国17名が参加しました。ゲストの中には著名な映画監督のオリバー・ストーンさん(アメリカ)も参加され多くの注目を集めました。
これまで連合・核禁会議の3団体で開催していました平和集会は、残念ながら3団体の合意が得られず、大会の開会式(総会)部分の単独開催となりました。現地の対応や各県での努力で、平日の大会にもかかわらず多くの方々の参加で大会を成功させることができました。一方で3団体の共闘関係が今後の課題となっています。
大会の市民的な広がりも今後の課題です。現状では労働組合や各地の原水禁組織の参加が中心であり、脱原発運動の盛り上がりの中にあって、幅広い市民参加の点では課題が残されています。今後も開かれた大会づくりを通じて、もっと市民が参加しやすいものとしていくことが求められています。
また、大会で確認された課題を具体的な運動に結び付けていくことも、日常の原水禁運動とあわせて強化していかなければなりません。大会参加だけで終わりにしない努力が求められています。
被災60周年を迎えた今年のビキニ・デーは、地元静岡の地で、フォトジャーナリストの島田興生さんによる講演・学習会(2月28日・120名)と、屋外でのビキニ・デー集会・デモ(3月1日・350名)、久保山愛吉さんの墓前祭(3月1日・50名)をおこないました。そのほか、フクシマ連帯キャラバン行動(3月5日~15日)では、ビキニ被災60周年と並行して、焼津市への要請(3月11日)や神奈川・三浦市長要請(3月13日)、第五福竜丸展示館(3月15日・東京・夢の島・350名)からのデモ行進など、ビキニ関連の地域での行動も積み重ねました。
原水爆禁止運動の出発点の一つであるビキニ事件が、風化されつつあるなかで、あらためて被爆の実相が現代の課題とどう結びつくのかを明らかにしていくことが今後も引き続き必要です。

《2014年度運動方針》

  1. 核兵器廃絶にとりくむ国内外のNGO・市民団体との国際的な連携強化をはかり、2015年のNPT再検討会議にむけて、核兵器廃絶に向けたとりくみを進めます。
  2. 原水禁・連合・核禁会議3団体での核兵器廃絶に向けた運動の強化をはかります。
  3. 東北アジア非核地帯化構想の実現のために、日本政府や日本のNGOへの働きかけを強化し、具体的な行動にとりくみます。さらにアメリカや中国、韓国などのNGOとの協議を深めます。
  4. 非核三原則の法制化へ向けた議論と行動にとりくみます。
  5. 非核自治体決議を促進します。自治体の非核政策の充実を求めます。さらに非核宣言自治体協議会や平和市長会議への加盟・参加の拡大を促進させます。
  6. 政府・政党への核軍縮に向けた働きかけを強化します。そのためにも核軍縮・不拡散議員連盟(PNND)や国会議員と連携したとりくみをすすめます。
  7. 2014年4月に広島で開かれるNPDI外相会合へ向けたNGOの動きに連携します。
  8. 核兵器の非人道性声明に署名しながら拡大抑止政策を変えない日本の核政策の矛盾を追求します
  9. 日本のプルトニウム増産を止める国際的関心を活用し、再処理問題は、核拡散・核兵器課題としてもとりくみを行います。
  10. 高校生平和大使の運動をサポートし、運動の強化を図ります。
  11. 被爆69周年原水爆禁止世界大会と国際会議を福島、広島、長崎で開催します。
    7月27日            福島大会(福島市内)
    8月4日~6日      広島大会(8月5日/国際会議)
    8月7日~9日      長崎大会
  12. 2015年3月に被災61周年ビキニ・デー集会を、被爆70周年原水禁世界大会に連動する集会として開催します。

8.   原子力政策の根本的転換と脱原子力に向けたとりくみ

(1)   さようなら原発1000万人アクション

2011年3月11日に発生した東日本大地震は、東日本一帯に甚大な被害をもたらし、その中で福島第一原発が原子力史上最悪の大事故を引き起こす結果となりました。「安全神話」のもと原発が国策として強引に進められ、その下で「命」が軽んじられてきたことがあらためて浮き彫りになりました。3年経ったいまでも事故の収束も見えず、放射性汚染水や除染、労働者被曝、健康被害など多くの問題が深刻化しています。あらためて「核と人類は共存できない」ことを教えています。私たちは事態の早期収束を願うとともに、このような惨禍を生み出した原発からの脱却に向けた政策転換を強く求め活動を強化してきました。
3.11以降、私たちは、「命」に寄り添うことを基本に、「つながろうフクシマ!」を掲げ、さまざまな運動を展開してきました。そして「さようなら原発1000万人アクション」のとりくみをその中心で支え、6月2日「つながろうフクシマ!さようなら原発集会」(芝公園・7500人)、9月14日「再稼働反対9・14さようなら原発大集会」(亀戸中央公園・9000人)の集会を行い、11月26日までに837万筆の署名を内閣府や衆参議長宛てに提出をし、日比谷野外音楽堂での報告集会(1300人)を開催してきました。署名は1000万筆を目指してさらに運動を進めることが確認されています。2014年に入り、3年目の福島原発事故をむかえ、3月8日の「原発のない福島を!県民大集会」(福島市、郡山市、いわき市・5300人)に協力・連帯し、3月15日には「フクシマを忘れない!さようなら原発集会 3.15脱原発集会」(東京・日比谷野外音楽堂・5500人)を開催しました。さらに3月8日から15日にかけて、福島から関東各県+静岡をつなぐ「フクシマ連帯キャラバン行動」として、各地での連帯集会や要請行動、情宣活動などを行ってきました。
今後も脱原発の世論喚起と運動の前進に向けて大江健三郎さんや鎌田慧さんをはじめとする「さようなら原発」一千万署名市民の会の呼びかけ人とともに運動を進め、実際の実務の中心を積極的に担い、市民や各種団体とのネッワークの強化をはかることが求められています。その上に立って、今年は、安倍政権の進める原発推進政策に対抗する大きな運動をつくるべく、9月23日に東京・代々木公園で「さようなら原発全国大集会」を行います。その成功に向けて、原水禁・平和フォーラムとして全力で取り組むことが求められています。

(2)   さようなら原発1000万人アクションの経過

原水禁は長いあいだ脱原発運動を進めてきましたが、それでも福島第一原発事故を起こさせてしまった痛恨の想いから、3.11以降、さようなら原発1000万人アクションと脱原発政策を求める運動を精力的に展開してきました。
福島原発事故を契機に、作家の大江健三郎さんや鎌田慧さんら9人の著名人の呼びかけによって「さようなら原発1000万人アクション実行委員会」が立ち上がりました。その立ち上がりから事務局の中心を市民団体とともに原水禁が担ってきました。これまでの脱(反)原発運動を各地で取り組み、住民運動・市民運動と密接にむすびついてきた経験が、3.11後の脱原発運動の盛り上がりを牽引してきた原動力となりました。「さようなら原発」の運動は、各地にも広がり、脱原発を求める国民世論の形成に大きな役割を果たし、3年目を迎えた今年3月には、全国170ヶ所以上の場所で福島に連帯する様々な行動がとりくまれるなど、依然、草の根の運動の広がりが続いています。そのことは、朝日新聞の調査(2014年3月)でも77%の人々が脱原発に賛成している現実にも結びついています。
さようなら原発1000万人アクションは、そのような国民的な意識の変化をとらえ、この間1000万人署名に取り組み、人々の脱原発への願いを掘り起し、これまで脱原発運動史上最高の840万筆以上を集める成果をあげています。各地で様々な団体・市民が動きだし、それぞれの想いを訴える行動になってきています。この動きは、海外にも伝わり50ヵ国を超える国々からも署名が届くようになりました。また、大規模な大衆集会として、2011年9月には6万人(東京・明治公園)、2012年には17万人(東京・代々木公園)と、脱原発運動史上最高の結集で、広く世論に訴える集会を実現してきました。日本の民主主義が、脱原発運動において、かつて見られなかった経験をしたことは歴史的な事実です。
しかし、安倍政権は、前政権が国民的な声を反映して打ち出した「2030年代原発稼働ゼロ」政策を根本から覆し、原発推進回帰の「エネルギー基本計画」を打ち出し、再稼働への動きを強めようとしています。それに対抗する運動の真価が問われています。
さようなら原発1000万人アクション実行委員会は、再稼働阻止と脱原発社会に向けた運動を展開します。その中で、福島現地の想いを運動に結び付け、呼びかけ人や各地の市民、団体などとさらに連携の強化が求められています。

(3)   フクシマ課題の前進を

福島第一原発事故をめぐる事態はいまだ厳しく、労働者の被曝の増大、汚染水の漏えいなどの課題が山積する中で、事故の収束の見通しすら立っていない状況にあります。その中で放射性物質汚染地域から長期にわたる現地住民の避難が続いています。その数は15万人を超えるとも言われ、生活や就労、そして健康など心身にわたる苦労が3年経ったいまでも続いています。さらに、福島県のみならず広範囲に渡って広がった放射能汚染の問題のほかにも、除染問題、健康問題、がれき処理問題などのさまざまな問題が多くの地域に存在しています。
原水禁は原発震災当初から「妊産婦並びに乳幼児・児童・生徒などの避難の実施について(要請)」(2011年3月16日)を打ち出し、放射能の影響を受けやすい立場の側にたって政府をはじめ関係各所への要請を行ってきました。民主党政権下の2012年6月に国会で全会一致により「原発事故子ども・被災者支援法」が成立しましたが、その後の具体的進展がないまま、安倍政権になって昨年8月に「被災者生活支援施策基本方針(案)」が出されました。それに対して、「基本方針(案)」の撤回と被災者の立場に立った「こども被災者支援法」の具体化を求める全国署名を展開し、これまでに100万筆以上を集めました。今年2月17日に内閣府、復興庁、衆参両院議長に提出し、合わせて「被災者の立場に立った『原発事故子ども・被災者支援法』の基本方針を早急に定めること」、「東京電力への損害賠償の権利が失われないよう、特別立法措置を行うこと」などを求めました。また9月30日、11月20日と、この問題で福島や宮城、茨城、栃木の仲間とともに、復興庁や環境省などに被災者支援法の抜本的な見直しや除染対策など関連する要請と交渉を行ってきました。今後も被災者の切実な要求に沿って、「支援法」の内容の充実を求めていかなければなりません。
また被災者の健康問題については、ヒロシマ・ナガサキの被爆者援護の経験を踏まえながら、被災者の健康と健康不安に対応していくことが重要です。特に健康不安を軽減するための対策のひとつとして、ヒロシマ・ナガサキの被爆者援護法のような法的位置づけを持った制度が求められています。さらに今後も続く収束へ向けた被曝労働や除染作業に対しても、被曝の低減とともに、安全な労働環境の整備を追求していくことが必要となっています。
除染問題では、その効果と放射能の拡散について考える必要があります。現在人々が暮らす地域の放射能の汚染レベルをどこまで下げることができるのか、その結果放射能の拡散はどのようになるのかなど、効果とリスクを常に検討することが重要です。また、従事する労働者への健康の配慮も欠くことができません。
日本全国で、放射能が含まれるがれきの受け入れが問題となっています。ここには、放射能が拡散すること、そして地域住民が受けるリスクの問題があります。遅々として進まない現地での処理の問題の根源は、国が責任を十分果たしていないことにあります。さらに測定体制の充実と情報の公開は、それらの各課題の前提として常に求めていかなければなりません。
その上で、現地をはじめ全国各地と協力し、一つひとつ丁寧にとりくまなければなりません。原水禁は現地と協力しながら「フクシマ」の抱える問題を全国の課題とすることが求められています。これまで、「フクシマ・プロジェクト」などを立ち上げています。フクシマが抱える課題を整理し、とりくみの強化をはかることが必要です。その上で政策提言や運動を提起し、福島原発事故のもたらした実相を明らかにしていくことが求められています。

(4)   破綻した原子力政策

現在、日本の原発は全て停止した状態です。一方で、安倍政権は、前政権の民主党が国民的意見を求めて決めた「2030年代原発稼働ゼロ」を目指す政策をいとも簡単に放棄し、昨年12月に明らかにした「エネルギー基本計画(案)」においては、原発の再稼働や再処理やもんじゅ開発を含めた核燃料サイクルの推進など、福島原発事故がなかったかのように原発推進政策に回帰しようとしています。そのエネルギー基本計画は、自民党内の一部や連立政権を組む公明党からも核燃料サイクルなどについて異論も出ましたが、4月11日に強引に閣議決定しました。安倍政権の右翼的な政策とともに原発推進政策への前のめりな姿勢は危険であり、許すことはできません。
安倍政権の原発推進の流れに対決していかなければなりません。今年は、福島原発事故の対応とともに原発の再稼働が大きな焦点となります。再稼働や核燃料サイクルの推進に多くの資金を投入するのではなく福島原発事故の収束や山積する問題への対応へ全力をあげるべきときです。脱原発を進める運動にとって、まさに正念場ともいえる年となります。
再稼働については、現在原子力規制委員会が九州電力・川内原発(鹿児島)を優先的に進めています。その報告書もこの4月以降に出され、パブリックコメントなどを経て、自治体合意、夏の再稼働に向けて動こうとしています。しかし、川内原発をはじめ各地の原発の再稼働については、断層問題、防災問題など様々な点で問題点が指摘されています。さらに、福島原発事故の原因究明も為されていない中で、新規制基準自体も「安全」を担保するものではないことも問題です。それらの問題点を明らかにすることと同時に、政府や事業者、自治体などが問題解決にとりくむよう要請を重ねていくことが求められています。4月2日には、原水禁は原発原子力施設立地県全国連絡会とともに、原子力規制委員会や経済産業省との交渉を行い、4月4日には、防災問題で30キロ圏内(UPZ)の全自治体へ「さようなら原発1千万人署名市民の会」として要請文を送りました。今後、川内原発の再稼働をはじめ各地の原発の再稼働に対して、問題を全国化し、現地の運動と連携した再稼働阻止の運動を強化していかなければなりません。
同時に再稼働の動きに対して、現地での闘いも重要さを増しています。再稼働阻止に向けたとりくみの強化とともに、各地の課題を全国化させることも重要です。
原水禁としてこれまで各地の集会に連携してきました。4月の「4.9反核燃の日行動」(青森市・六ヶ所村・約1000人)や「JCO臨界事故14周年集会」(9月29日・水戸市、500人)や「もんじゅを廃炉へ全国集会」(12月7日・敦賀市、1200人)、「反核燃の日全国集会」(4月5日・青森市・1200人)を全国的なとりくみとしてすすめてきました。
原水禁として脱原発に向けた要請や声明も適宜発信してきました。「福島こども被災者支援法の基本方針案撤回を求める要請(9月30日)、「もんじゅおよび関連の研究開発の中止と予算の見直しを求める要請」(9月27日)、「エネルギー基本計画(案)」に対する抗議声明(12月14日)などを行ってきました。さらに「福島こども被災者支援法撤回を求める署名(1,002,856筆・4月7日現在)も全国的に集め、政府に提出し交渉をおこなってきました。
大飯原発の再稼働では、声明(6月17日、7月5日)を発出し、「大飯原発再稼働に反対する現地集会」(6月3日・福井、500人)にも協力してきました。さらに、各地の原発・原子力施設立地県との連携を強化するために、これまで原水禁大会や「もんじゅ」集会などの全国的な集まりにあわせて立地県会議を開催してきました。昨年は8月22日~23日(京都)、12月6日(福井)そして今年2月4日に「原発・原子力施設立地県連絡会」のとりくみに協力し、各地の活動について共有化と今後の運動の持ち方を確認していきました。さらに各地の原水禁がかかわり行われた「さようなら原発集会」や「再稼働反対集会」などにも代表を派遣したり、周辺県・ブロックの参加の要請を行ってきました。さらにさようなら原発1000万人アクションとしてもの呼びかけ人を派遣するなどの協力を行ってきました。また、2月3日には「高レベル放射性廃棄物の幌延への押し付けに反対する東京集会」(於日比谷図書館)にも協力し、関係機関への要請行動もおこない、4月11日・12日には、「福島を忘れない!止めよう柏崎刈羽原発再稼働!」集会と東京電力交渉にも協力してきました。
また、六ヶ所再処理工場では、昨年12月の新規制基準の導入により現在適合性などの審査が行われています。日本原燃はこれまで完成時期を20回も延期し、完成を今年10月の完工、来年3月には本格稼働を発表していますが、施設近傍の活断層の問題などで予定通りにいくとは限らない状況にあります。さらにプルサーマル計画や高速増殖炉開発のとん挫などにより核燃料サイクル政策そのものが、すでに破たんしている状況にあって、プルトニウム利用の見通しがまったく立たない状況にあります。そのような中で再処理施設建設・稼働に執着することは、核不拡散の観点からも問題となっています。使い道のないプルトニウムを大量に作り出すことは、日本の潜在的核開発能力のポテンシャルを高め、核セキュリティ上も問題です。現在約44トンものプルトニウム(国内10トン、国外34トン)を抱え、海外からも問題視されています。
原水禁としてもこの間、青森での「反核燃の日」行動や福井での「もんじゅを廃炉へ!全国集会」(12月7日)を行い、核燃料サイクル路線の破綻を明らかにしてきました。さらにMOX燃料の高浜原発への搬入にたいしても6月27日に現地抗議集会に結集し、プルサーマル計画の破綻を明らかにしました。4月5日の「反核燃の日全国集会」の前に、大間原発(大間町)、東通原発(東通村)、リサイクル燃料備蓄センター(むつ市)、日本原燃(六ヶ所村)など事業者や立地自治体への申し入れ・要請行動(4月4日)も行ってきました。また、東京においては「再処理止めたい!首都圏市民のつどい」とともに、2004年12月以来、毎月の国会議員へのニュース配布と経済産業省申し入れ行動、定例デモに市民とともに協力してきました。また、2月には「破綻する核燃料サイクル─終焉に向かう原子力政策」を発行し問題点を明らかにしてきました。私たちの指摘の正しさは現実が証明していますが、いまだその路線は変更されず、引き続き破綻した再処理路線の現実を広く明らかにしていく必要があります。プルトニウム利用においては余剰プルトニウムを持たないことを国際公約と掲げていますが、原発が停止する中にあってはこれ以上の使い道がないことは明らかです。国際的にもこのことを強くアピールしていくことが求められています。
2013年7月の原子力規制庁が新規制基準を発表した際にも、また安倍政権のエネルギー基本計画案が発表された際にも、それぞれにパブリックコメントの集中を呼びかけました。国民の関心を集め、政策の問題点を明らかいにしていくことが今後も重要となっています。
トルコとアラブ首長国連邦(UAE)に原発関連の資材や技術の輸出を可能にする原子力協定承認案が4月4日の衆議院で賛成多数で可決され、5月上旬までには承認され、この夏には発効される見通しとなりました。原発輸出を成長戦略の目玉として掲げる安倍政権は、今後も各国との原子力協定を積極的に推進し、原子力産業の延命をはかろうとしています。特に今回のトルコとの協定では、UAEとの協定には書かれていない再処理の問題が指摘されています。日本が書面で同意すれば、輸出した核物質について、核兵器への転用にもつながる再処理を認める規定があり、国際社会からは核拡散の面からも問題となっています。さらに地震大国トルコへの輸出は、福島原発事故の原因究明もされない中での原発輸出となります。また、日本でさえ放射性廃棄物の処理・処分もできない中での原発輸出は、日本の道義性が問われる問題です。原水禁として4月7日には声明を出し、立場を明らかにしました。今後も原発輸出に対しては、原発の危険性とともに核拡散の面からも追及していくことが必要です。
原子力空母の問題も、現地の神奈川平和運動センターとともに内閣府に4月と6月に申し入れ行動をおこないました。東京湾に浮かぶ60万キロワット級の原発は、日本の規制基準さえも及ばない唯一日本で稼働している原子炉といえます。米軍の管理下という軍事のベールの中にあり、私たちの生活を脅かしています。原子力空母の母港化反対とともに、原子炉災害の観点からも政府や米国政府を追及していくことが引き続き重要となっています。横須賀、佐世保、ホワイトビーチ(沖縄)などの寄港先の運動とも連携していくことが必要です。

(5)   エネルギー政策の転換を

閣議決定されようとしている「エネルギー基本計画」は、民主党政権時に広範な国民的議論を行ない、2030年代までに原発ゼロを目指して方針決定した「革新的エネルギー戦略」を放棄しようというものです。
国会事故調も指摘したように、原発事故は、これまでの政府、規制当局、事業者、学者、マスコミを含めた無責任体制が原因の人災でした。その反省もなく事故後3年を前に、旧態依然の無責任体制に回帰しようとしています。経済産業省・資源エネルギー調査会の基本政策分科会で行われた審議の中では、原発を「エネルギー需要の安定性を支える基盤となる重要なベース電源」と位置づけた素案が提示されたのが、第12回会合(12月6日)、12月13日に若干の修正が加えられ、わずか2回の審議で原子力の位置づけが変えられました。省内の1審議会が、討論型世論調査などを含めた国民的議論を行った結果である「革新的エネルギー・環境戦略」をまったく無視するという、民主的手続きを欠いたものでした。その内容も、革新的エネルギー戦略策定のプロセスの中で行った、コスト等検証委員会の議論─エネルギーコストの比較を行い、バックエンドコストなど未確定な部分を指摘し、原子力エネルギーが高くつくことを明らかにした事実─を無かったかのような、ごまかしの数字を使っているのです。
再生可能エネルギー推進によってこそ地域の経済が新しく豊かになります。地域エネルギー民主主義を目指し、再生可能エネルギー促進条例などのとりくみに協力し、その普及拡大をめざします。
一方で、電力の高コスト体質を支えてきた総括原価方式などを含む、電力システムの改革では、改正電気事業法が11月13日成立しました。小売全面自由化や発送電分離など、2015年度までに3段階に分けて実施する方向です。電力小売りへの新規参入も相次いで、固定価格買取制度とともに、新エネルギーなど新しい経済への手がかりとなります。電力システムの改革が後退しないように監視を続けます。

《2014年度運動方針》

  1. 「さようなら原発1000万人署名」や「9.15集会」などの「さようなら原発1000万人アクション」のさまざまな行動を積極的に支えます。さらにアクション実行委員会の事務局を担います。
  2. 福島原発事故に関する様々な課題について、フクシマ・プロジェクトを中心に課題を整理し、現地と協力しながら運動を進めます。
  3. プルトニウム利用路線の破綻を明らかにし、再処理工場の建設に反対し、高速増殖炉「もんじゅ」の運転再開に反対します。
  4. 原発再稼働の動きに反対し、各地でのとりくみを全国化して運動を展開します。
  5. 大間原発や上関原発、島根原発3号機などの新増設に反対します。
  6. 新安全基準作成に対して、厳格な安全基準を求めていきます。さらに原発震災について問題を広め、原子力防災の問題点を明らかにします。
  7. インド、ベトナム、ヨルダン、トルコなどへの原発輸出に反対します。
  8. これまでのエネルギー政策プロジェクトの成果を活かし、国会での議論を進展させます。そのために、関係閣僚への要請、院内集会・学習会などを行います。
  9. 脱原発法全国ネットワークと連携し、国会などでのエネルギー政策論争を後押しします。そのためにも国会議員や政府への働きかけを強化します。
  10. 各地の自然エネルギー利用のとりくみに協力します。とくに「再生可能エネルギー促進条例」(仮称)づくりなど、地域から再生可能エネルギーのとりくみをつくり上げることに協力します。
  11. 電力システム改革へ後ろ向きの勢力に注視し、政策決定の過程を明らかにさせるとりくみを行います。
  12. 原発ゼロで新しい経済成長をすすめる「原発ゼロノミクス」とも連携し、再生可能エネルギー推進を逆行させないとりくみを行います。

9.   ヒバクシャの権利確立のとりくみ

(1)   被爆者の課題解決にむけて

ヒロシマ・ナガサキの被爆者の高齢化はいっそう進み、その子どもである被爆二世も高齢の域に入りつつあります。被爆者の残された課題を解決する時間も限られ、援護対策の充実と国家の責任を求めることが急務となっています。
被爆者の援護施策の充実を求める課題として、これまで原爆症認定問題が裁判闘争を中心にとりくまれてきました。その結果、被爆者団体と政府は解決にむけた合意がなされ、「基金」の創設や日本原水爆被害者団体協議会(被団協)などとの「定期協議」などが確認され原爆症認定の課題は前進しましたが、一方で、改定した「新しい審査委の方針」に従って展開されている審査制度の中で、多くの審査滞留や認定却下が生み出されているなど、改善を要する課題も山積しています。引き続き被団協が進める運動に協力を深めていくことが求められています。
在外被爆者の課題は、日本の戦争責任・戦後責任の問題と重なります。高齢化の進む在外被爆者の課題解決も重要です。在外被爆者の援護は国内の被爆者との援護との間に内容に差があります。国籍条項のない被爆者援護法の趣旨からも「被爆者はどこにいても被爆者」であり、差別のない援護の実現に向けてさらに運動を強化していかなければなりません。これまで政府は、被爆者健康手帳の交付、健康管理手当の支給、海外での原爆症認定申請など在外被爆者に関連する施策については、「裁判で負けた分だけを手直しする」ことに終始し、差別的な制度の抜本的見直しを行ってきませんでした。
この間、在韓被爆者の李相必さん、金和謙さん、李京子さんの3名が、被爆者が海外に住んでいることを理由に、被爆者援護法に基づく医療費の支給の申請を却下した長崎県の処分は違法として、その取り消しを求めた訴訟は、3月25日に長崎地裁で訴えが却下されました。一方で、昨年10月の大阪地裁の判決では「援護法の医療費支給の規定は在外被爆者にも適用される」との判断が示されました。これは、被爆者援護法の国家的補償の性格を重視し、この間相次ぐ訴訟によって在外被爆者と国内被爆者の差別的待遇の是正を行ってきた司法の流れに沿ったものです。長崎地裁判決は、この流れに逆行する極めて差別的判決です。
国内の被爆者と同じく医療費が全額支給されることは、在外被爆者の切なる願いです。これまで、医療費支給額に年額約18万円の上限(2014年からは30万円)が設けられていた在外被爆者は、原爆後障害などの病苦と貧困の中で医療費を借り入れなどでまかなってきた現状があるにもかかわらず、日本政府はこれまで放置してきました。原水禁として4月2日に声明を発し、強く抗議しました。今後も在外被爆者への被爆者の平等な取り扱いに向けて、被爆者への連帯と運動を強化していくことが重要です。
また、同じく在外被爆者である在朝被爆者に対しては、これまで一切被爆者援護を実施していません。国交がないことを理由にしていますが、あたかも被爆者が亡くなるのを待っているかのようです。一昨年4月に原水禁が訪朝し確認したところ、これまで確認されていた384人の被爆者はさらに減少しており、現在人数の確認作業に入っているとのことで、高齢化する在朝被爆者への援護が急がれています。しかし、安倍政権の登場によって在朝被爆者の援護・連帯の行方をより厳しいものにしていますが、日本の戦争責任・戦後補償が問われる問題でもあり、とりくみをいっそう強化する必要があります。原水禁として一昨年秋にも代表を訪朝させ、被爆者の現状を調査し関係機関との意見交換を進めてきました。政治状況も踏まえ、日本政府への働きかけをはかる必要があります。
被爆体験者裁判は、一昨年6月の一審での敗訴を受け、現在控訴をして争っています。引き続き裁判支援を行いながら、政府・政党への働きかけをさらに強化していかなければなりません。特に裁判で強く主張された内部被曝を過小に評価することは、今後の福島原発事故の被曝被害の過小評価にもつながるものです。昨年、第二次被爆体験者の提訴も行われ、この問題を第一次と合わせて追及しています。このことの問題性を広く訴えることが重要となっています。これまで原水禁としては、裁判闘争の支援とともに全国被爆体験者協議会と連携して、署名のとりくみ、厚生労働省交渉や国会議員への働きかけを積み重ねてきました。また原水禁大会などでの分科会・ひろばでこの課題をとりあげてきました。引き続き裁判支援とともに課題解決に向けたとりくみを強化していかなければなりません。広島・長崎の「黒い雨」地域の課題も近年明らかになってきましたので、そうした事実に即した被爆地拡大、被害の実態に見合った援護の強化を訴える必要があります。
これらヒロシマ・ナガサキの被爆者課題に対して、これまで原水禁・連合・核禁会議の3団体で2011年2月8日に厚生労働副大臣との意見交換を持つなどのとりくみを行ってきました。さらに3団体のとりくみの強化が重要です。
また、被爆者援護法の枠外に置かれている被爆二世・三世は、原爆被爆による「健康不安」の状態に置かれています。この健康不安解消のために、全国被爆二世団体協議会とともに「二世健康診断」のこれまでの単年度措置から恒常的な処置への移行を求めて、法制度に組み入れることを要求してきました。さらに健康診断内容に「がん検診」などを加えることも要求してきました。昨年11月30日の被爆二世シンポジウム(広島市・100人)や1月17日の厚生労働省交渉、2月1日~2日の「被爆二世全国総会、交流会」にも参加・協力してきました。
しかし国による被爆者援護に対する消極的姿勢は、国が「原爆の被害を過小に見せたいがため」にあり、原爆被害を根本から補償しようという立場にないことにあります。ヒロシマ・ナガサキの被爆者に対して十分な補償をさせることは、福島の被災者に対しても補償をさせることにつながるものと捉え、一つひとつ解決していけなければなりません。

(2)   被曝労働者との連帯を

福島原発事故によって住民の被曝とともに収束作業や除染作業にあたる労働者の被曝問題はますます深刻な状況にあります。高線量の中での作業や劣悪な労働環境がもたらす被曝は、労働者の健康に多くの影響を与えるものです。安心・安全に働くための労働者の権利の確立は、事故の収束作業などの基本となるものです。福島原発に限らず、多くの原発・原子力施設に共通するものでもあります。
この間、原水禁・平和フォーラムとして被曝労働者の裁判を支援してきました。福島原発事故以降も厚生労働省や文部科学省、復興庁などへ被曝低減や安心・安全に働ける労働環境の整備など現地福島の方々をはじめ市民団体や住民団体(8団体)とともに求めてきました。昨年も6月20日、9月29日、10月27日、そして2014年2月14日に交渉を重ねてきました。
今後も、福島原発事故に関連する被曝問題を取り上げ、被曝労働者の権利の拡大や被爆住民の健康管理や補償の課題について当事者と協力していくことが求められています。支援する団体とともに今後もとりくみの強化をはかります。

(3)   世界の核被害者との連帯

ヒロシマ・ナガサキの原爆被害にとどまらず、あらゆる核開発の過程で生み出される核被害者への連帯や援護のとりくみは原水禁運動の重要な柱です。多くのヒバクシャをいまだ生み出している原発事故、軍事機密のなかで行なわれた核実験によるヒバクシャの実態などを明らかにしていくことが必要です。
海外の核被害者(団体)との連携では、昨年はアメリカからウラン採掘に反対する先住民の方をゲストとして原水禁世界大会に招き、すべての核開発の出発点であるウラン採掘の実態を紹介してきました。福島原発事故による被害が拡がる中で、世界の核被害の現実から学ぶべきものはたくさんありました。
「核と人類は共存できない」ことは明確です。核被害者の連帯は、そのことをあらためて告発することでもあります。核の「軍事利用」、「商業利用」を問わず核被害者との連携を強化することは、原水禁としての最も重要な課題です。

《2014年度運動方針》

  1. 現地と連帯して福島原発事故による核被害に対する責任や賠償そして被害の軽減化を求めます。とくに健康面での国家による補償を求めます。
  2. 被曝線量の規制強化を求めます。
  3. 原爆症認定制度の改善を求めます。被爆者の実態に則した制度と審査体制の構築に向けて、運動をすすめます。
  4. 在外被爆者の裁判闘争の支援や交流、制度・政策の改善・強化にとりくみます。
  5. 在朝被爆者支援連絡会などと協力し、在朝被爆者問題の解決に向けてとりくみます。
  6. 健康不安の解消として現在実施されている健康診断にガン検診の追加など二世対策の充実をはかり、被爆二世を援護法の対象とするよう法制化に向けたとりくみを強化します。さらに健康診断などを被爆三世へ拡大するよう求めていきます。
  7. 被爆認定地域の拡大と被爆者行政の充実の拡大をめざして、現在すすめられている裁判を支援します。国への働きかけを強化します。
  8. 被団協が進める援護法の改正要求に協力し、被爆者の権利の拡大に向けたとりくみをはかります。
  9. 被爆の実相の継承するとりくみをすすめます。「メッセージ from ヒロシマ」や「高校生1万人署名」、平和大使などの若者による運動のとりくみに協力します。
  10. 原水禁・連合・核禁会議の3団体での被爆者の権利拡大に向けた運動の強化をはかります。
  11. 世界に広がる核被害者への連帯を、国際交流や原水禁世界大会などを通して強化します。
  12. 被曝労働者への援護・連帯を強化します。

10.   環境問題のとりくみ

(1)   TPPなど貿易自由化に対するとりくみ

世界の食料は高値水準で推移しており、気候変動などによる不安定さが続いています。国連世界食糧農業機関(FAO)などの推計では、2011~13年の間に慢性的な食料不足に苦しむ人々は世界で約8億4200万人(およそ8人に1人)もいるとされ、依然として深刻な状況が続いています。地球規模での食料問題を解決するためには、自由貿易の拡大ではなく、各国が生産資源を最大限活用して自給率を高めながら、共生・共存できる「新たな貿易ルール」が必要です。
こうした問題があるにも関わらず、世界貿易機関(WTO)や二国間・多国間自由貿易協定(FTA)、経済連携協定(EPA)により、貿易自由化をめざす交渉が進められてきました。しかし、WTO ドーハ・ラウンド交渉は10年以上にわたって進められてきましたが、インド・中国など新興国と、アメリカとの対立から、近年はほとんど進展が見られず、事実上、失敗に終わろうとしています。
そのため、各国ではEPA・FTAの推進が図られようとしています。特に、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉の参加をめぐって、安倍内閣は、2013年3月に交渉参加を表明し、7月から正式参加をしました。交渉はアメリカの主導のもとで進められ、2013年末までの妥結をめざすとされてきましたが、12月の閣僚会合で年内妥結を断念しました。さらに、2月にシンガポールで開かれた閣僚会合でも、農産物等の関税やサービスなどの市場開放の論議が進まず、「大筋合意」は再び見送られました。その最大の原因は、企業や業界団体の圧力を受けた米国が、各国に対して強行的な姿勢を続けたためです。農産物の関税撤廃をめぐっての日米協議がまとまらないことや、知的財産権分野や国有企業の優遇措置見直し等で、新興国と米国との対立も激しくなっています。各国の主権を侵害して多国籍大企業に都合のいいルールを押しつけようとするTPPは、その本性をむき出しにしており、交渉が妥結できないのは当然の結果と言えます。
TPPは国内の農業・食料に打撃を与えるだけでなく、食の安全や医療、公共サービス、投資や金融、特許や著作権等の知的所有権など、広範な影響が予想され、各国の経済・社会システムを根本から変え、国家の主権をも侵害するものです。特に、導入が検討されているISD条項(投資家が国を訴える訴訟権)は、これまでも各国の安全や環境を守るために作られた法律や制度を変更させてきました。さらに、中国など東アジア諸国との関係への影響、世界のブロック経済化なども懸念されています。しかし、この間、TPP交渉に関する情報は、守秘義務により明らかにされず、国民的議論がほとんど行われてきませんでした。
こうしたことから平和フォーラムは交渉に反対してとりくみを進めてきました。農民・消費者・市民団体とともに、アメリカ、ニュージーランド、韓国、メキシコから研究者や活動者を招いて「TPPを止める!国際シンポジウム」(2013年5月30日・連合会館)を開催したのをはじめ、5月下旬から6月初めに全国10ヶ所で海外ゲストを迎えての集会・シンポジウムが行われ、総計3000名が参加しました。また、定期的な連続講座(2013年5月21日、6月15、7月8日、9月19日、10月10日、11月21日、12月11日・連合会館)の開催も進めてきました。
さらに、食とみどり、水を守る全国集会(2013年11月29日~30日・仙台市)の特別決議として「TPPの妥結・参加に強く反対する決議」を行いました。また、消費者・市民団体等とともに「これでいいのか?!TPP 12.8大行動」(12月8日・日比谷野外音楽堂)や、「もうやめよう!TPP交渉 3.30大行動」(2014年3月30日・日比谷野外音楽堂)を開催しました。さらに、TPP交渉の情報公開を求める参加各国の国会議員による共同署名運動にとりくみ、日本を含めて9ヶ国の有力国会議員から署名を集め、記者会見(2月14日・衆議院議員会館)を行いました。
今後も、消費者・市民団体、農民団体など国内外の関係組織や議員等と連携を強め、TPP協議における徹底した情報公開を求めることや、市民参加の意見交換会を行うなどを求めて、TPPの問題点を明らかにしながら、東アジア諸国をはじめとして、各国の農業や産業が共存できる公平な貿易ルールを求め、活動を進めていく必要があります。

(2)   東日本大震災からの復旧・復興と福島原発事故による放射能汚染問題のとりくみ

2011年3月11日に発生した東日本大震災は、宮城、岩手、福島県など東北太平洋岸を中心とした産業と人々の暮らしに甚大な被害を与えました。2万人を超える死者(震災関連死を含む)・行方不明者を出し、被災地ではいまだに多くの人々が仮設住宅に暮らしながら、懸命に復旧・復興に向けた努力を続けています。しかし、震災によって発生した東京電力福島第一原発事故は、2年半を越えた今なお収束の展望も見いだせず、さらに大量の汚染水が海洋に流れ出るなど、計り知れない放射能被害を生みだす、史上最悪の状況が続いています。
大震災による津波被害は宮城、岩手、福島など144市町村に及び、今なお公共インフラや農林水産業に甚大なつめ跡を残しています。復興庁によれば、河川や水道、道路、鉄道などは大半が復旧しているものの、被害の大きかった海岸や港湾設備などはまだ工事に着手したばかりです。また、農業では、総計で2万1480ヘクタールの農地が被害を受けましたが、もとの状態にまで回復するにはまだ時間がかかります。
震災被害に対して、政府や自治体から復興ビジョンが出されていますが、その中では、災害を契機として大規模化、合理化を一挙に推し進めようとする動きもあります。宮城県では、全国で初めて民間会社にも漁業権を与える「水産業復興特区」が始まっています。県の漁協は導入に反対しており、混乱は収まっていません。また、農業でも「農外資本など民間活力の導入による抜本的農業改革」が、経済界などから提起されています。
さらに深刻なのは、福島第一原発の事故による放射能汚染問題です。広範囲に拡散した放射性物質は、大気や水、土壌、河川、海洋など環境に対しても多大な影響を与えました。現在も汚染水は増え続け、貯蔵タンクからの汚染水漏れが発覚し、海洋などへの深刻な放射能汚染が指摘されています。
放射能汚染は食の安全にも多くの影響を与えています。放射性物資が付着した食べ物や水、空気などを体内に取り込んで、放射能を浴び続ける体内被曝は、微量でもDNAを傷つけ、ガンなどを誘発します。2012年4月から食品などに対する新たな規制値が適用されました(1キログラム当たりの放射性セシウムが一般食品100ベクレルなど)。この新たな規制値の基準を超えているものの半分以上は魚介類で、さらにキノコやシイタケ、野生動物の肉(熊、鹿、猪など)などからも高い値が検出されています。福島県内では米の全袋検査などが行われるなど、対策が強化されてきているものの、消費者の不安は払拭されていません。
こうした状況に対し、「第45回食とみどり、水を守る全国集会」(2013年11月29日~30日・仙台市)」を、大震災の中心的な被災地である宮城県仙台市で開催し、今後の復旧・復興のあり方や原発・放射能問題等について全体シンポジウムや分科会で討議を行い、さらに被災地へのフィールドワークなどで理解を深めてきました。
また、農民団体や消費者団体などとともに、これらの対策について、関係省への申し入れも行ってきました。さらに、被災地に支援米を送る運動も一部の県で取り組まれました(青森、岩手、新潟、京都など)。平和フォーラムが協力して、福島県平和フォーラム内に開設している食品や土壌の放射線量の測定のとりくみも行ってきました。
今後も、震災からの復旧・復興にあたっては、被災地域の農民、住民の意向を第一にするよう求め、一方的な規模拡大・集約化を進める動きを注視していく必要があります。また、放射能汚染の環境に対する影響について、詳細な調査を行うとともに、農産物・水産物などの汚染状況の把握や検査態勢、予防的視点をもった対処を求めて、政府関係機関に対する申し入れなどを行っていく必要があります。

(3)   水・森林・化学物質・地球温暖化問題などのとりくみ

家庭から出される有害化学物質の最大のものが合成洗剤です。「合成洗剤追放全国連絡会」は、合成洗剤を追放し、人と環境にやさしい石けん使用の推進に向け、化学物質の移動・排出届け制度(PRTR)の推進、「化学物質政策基本法」の制定などを求めてきました。また、福島原発事故による放射能汚染問題に関連して、環境基本法の改正に伴い、大気汚染防止法や水質汚濁防止法など関連個別法でも、放射性物質による環境汚染適用除外規定が削除される改正の動きに対してもとりくみを進めてきました。
平和フォーラムは「合成洗剤追放全国連絡会」の事務局団体として、関係省などへの申し入れやニュースの発行などに協力してきました。また各地で水源地域の保全活動や水質検査活動などが進められてきました。2014年は「第33回合成洗剤追放全国集会」の開催に協力するとともに、同連絡会の結成40周年になることから、その記念事業も含め、とりくみを強めて行く必要があります。
一方、「化学物質政策基本法」については、民主党内での論議が進まないまま、政権の交替によって、その制定が困難になっています。今後も、合成洗剤の規制など化学物質の総合的な管理・規制にむけた法制度や、有害物質に対する国際的な共通絵表示(GHS)制度の合成洗剤への適用などを求めて運動を展開していく必要があります。
また、健全な水循環を構築するための「水循環基本法」が3月27日に成立しました。地下水を含め、水の公共性が謳われており、現在、複数省庁で管轄されている水行政が総合的に運営されることが期待されます。今後も、基本法の理念を具体化するため、各個別法に利用者や関係する労働者の意見が反映できるよう、とりくみをすすめる必要があります。そのため、全水道会館内に設置された「水情報センター」などとの連携が必要です。
森林は環境や農山漁村を守るうえで重要な役割を果たしています。先の大震災では、津波などに対する森林の防災面での多面的機能が改めて見直されました。その公益的機能に対する学習活動として、各地域で森林視察や林業体験などがとりくまれてきました。また、「食とみどり、水を守る全国集会」でも森林の多面的機能や震災対策との関連などを学びました。
今後、温暖化防止の森林吸収源対策等の確実な実行、木材産業の活性化と、自然エネルギー資源としての木質バイオマス利活用の推進なども含めて「森林・林業基本計画」の具体的な実施、林業労働力確保、地域材の利用対策などを実現する必要があります。
また、山村が担ってきた国土の保全、水源のかん養、自然環境の保全が、主要産業である農林業の低迷、就業機会の減少、過疎化・高齢化に伴い、森林の管理機能の低下により森林の有する多面的機能の発揮が危ぶまれていることから、「山村振興法」の内容の充実を図り地域資源を活用した地域林業の確立を図る必要があります。
地球温暖化問題は、日本政府は、気候変動枠組み条約第19回締約国会議(COP19)にあわせ、2009年に示した中期目標「1990年比25%削減」を見直し、「2020年に05年度比3.8%減(吸収源を含む)」という新目標を打ち出しました。これは、京都議定書第1約束期間の削減努力を帳消しにし、90年比で3.1%増加を意味します。
気候変動枠組条約締約国会議では、全ての国が参加する新しい枠組みを2015年末に合意する予定で、2020年以降の削減目標を2015年3月までに国連に提出する必要があります。今年9月には各国首脳が一堂に会した気候サミットが開催されます。日本は、2020年の削減目標を明確にして、脱原発と気候変動対策とを両立させる形で再生可能エネルギー・省エネに重点をおく政策実現に向けて早急に議論を進めるべきです。しかし、原発推進に回帰するような「エネルギー基本計画」見直しを行う傍らで、気候変動政策は大きく後退し、審議会での議論も止まった状態であり、「地球温暖化対策計画」も未制定のままです。
一方、自然エネルギーを推進する法制度については、「再生可能エネルギー促進法」に伴う、再生エネルギーの全量買い取り制度により、太陽光を中心に拡大しています。身近な地域資源を活用したバイオ燃料や風車、太陽光発電など地域分散型のエネルギーの利用を一層推進するため、市民・農民団体などとともにとりくみをすすめていく必要があります。
人体や環境に影響を与える恐れがあるフッ素問題では、フッ素問題全国集会(2013年11月24日・吉川市)に協力しましたが、今後も、学校などでの集団フッ素洗口・塗布に反対する運動などを強めていく必要があります。

(4)   第一次産業の転換や農林業政策のとりくみ

日本農業は長期にわたって、農業就業人口の減少や高齢化、農業所得の大幅減、耕作放棄地が増加してきました。2009年の政権交代によって、民主党政権では「食料・農業・農村基本計画」が見直され、多様な担い手がつくる日本農業の姿が展望され、直接支払制度の強化など、自民党農政とは別の道が模索されてきました。
しかし、2012年の再度の政権交代とTPP交渉を背景にして、再び農政の改革が進められようとしています。安倍内閣は、農林水産業を「成長戦略」の柱の一つにあげ、競争力強化をめざすとして、農業の担い手への農地集積をはじめ、生産・加工・販売を一体的に担う6次産業化、輸出倍増などを柱に、「今後10年間で農業・農村の所得を倍増させる」との目標を掲げました。しかし、こうした目標の中にはTPPへの参加は条件に入っていません。農業所得が、世界貿易機関(WTO)体制になってからの20年間で半減したことからも、TPPに参加したら所得倍増などが達成できないことは明らかです。また、経済界は、規制緩和、農業参入を名目に、現在は株式会社に認められていない「企業の農地所有の自由化」を求めています。そのため、「農地中間管理機構」などのあらたな組織を作ろうとしています。しかし、企業の農地所有は投機目的になる恐れも強いことから、その動きを注視する必要があります。
さらに、政府・自民党は米政策や経営所得安定対策の見直しを急速に進め、米の直接支払交付金の縮減、5年後の減反制度(国による生産数量目標の配分)の廃止などが提起されています。こうした農政の転換が拙速に検討されていることに生産現場や自治体から反対の声があがっています。今後、民主党政権時に作られた「食料・農業・農村基本計画」の見直しも進められます。食料自給率引き上げや「直接所得補償制度(経営所得安定制度)」の拡充、農業・農村の6次産業化、食品の安全性の向上などの、これまでの政策の重点課題を中心に、地域の実情を合わせた「多様な担い手の役割発揮」「地域の特色ある産地づくり」を進めていくことが大切です。展望のある食料・農業・農村政策に向けた法・制度の確立と着実な実施を求めていく必要があります。
これらの課題については、食とみどり、水を守る全国集会(2013年11月29日~30日・仙台市)でも論議・学習が行われました。また、農民団体とともに、農林水産省に対し、地域の実情に合わせた「多様な担い手の役割発揮」「地域の特色ある産地づくり」を進める事を求めて申し入れなどを行ってきました。今後も農民・消費者団体と協力し、食料・木材自給率引き上げや所得補償制度の拡充、食品の安全性向上など、展望のある食料・農林業・農村政策に向けた法・制度確立と着実な実施を求めていく必要があります。
また、各地域でも、子どもや市民を中心としたアジア・アフリカ支援米作付け運動(40都道県からカンボジアとアフリカ・マリへ約36トン送付)や森林・林業の視察会などを通じ、食料問題や農林水産業の多面的機能を訴える機会をつくってきましたが、こうした活動をさらに拡大し、食の安全や農林水産業の振興に向けた条例作りや計画の着実な実施が必要です。

(5)食とみどり、水を守る全国集会の開催

「食の安全」「食料・農業政策」「森林・水を中心とした環境問題」を中心とした食とみどり、水・環境に関わる課題について、情勢と運動課題の確認、各地の活動交流のために、仙台市で「第45回食とみどり、水を守る全国集会」を開きました(2013年11月29日~30日、850人参加)。また、集会後に、講演・報告やシンポジウムを収録した記録集も発行しました(2014年2月)。
第46回全国集会は11月28日~29日に東京で開催するよう準備します。そのため、関係団体や地域組織に呼びかけて実行委員会をつくります。

《2014年度運動方針》

  1. TPP交渉に反対し、幅広い団体と連携を図りながらとりくみを進めます。そのため、集会や学習会などを開催し問題点を指摘していきます。また、政府に交渉内容の情報開示や市民参加の意見交換会開催などを求めていきます。
  2. 福島原発事故にともなう、環境や農産物などへの放射能汚染に対して、検査体制の拡充、放射性物質の除去対策などの万全な措置を求めてとりくみを進めます。特に食品に対する検査対策の徹底などを求めます。
  3. 大震災による農漁業の復旧・復興に向けた万全な対策を求めて、関係団体とともに政府要請などのとりくみを進めます。
  4. 「きれいな水といのちを守る合成洗剤追放全国連絡会」の事務局団体として活動を推進します。とくに、「第33回合成洗剤追放全国集会」(2014年10月4日~5日、福岡市)の開催や、同連絡会結成40周年記念事業に協力します。
  5. 「水循環基本法」をもとに、さらに水の公共性を高めるとりくみをすすめます。また、水中や環境中の化学物質に対する規制運動を強めていきます。
  6. 関係団体と協力して、「森林・林業基本計画」で定めた森林整備の確実な推進、地産地消による国産材の利用拡大、木質バイオマスの推進などにとりくみます。
  7. 温暖化防止の国内対策の推進を求め、企業などへの排出削減の義務づけや森林の整備など、削減効果のある具体的な政策を求めます。
  8. 自然(再生可能)エネルギー普及や省エネルギーのための法・制度の充実を求めていきます。また、温暖化防止を名目とする原発推進に強く反対します。
  9. 農業政策に対し、食料自給率向上対策、直接所得補償制度の確立、環境保全対策、自然エネルギーを含む地域産業支援策などの政策実現を求めてとりくみます。
  10. 各地域における食料自給率や地産地消のとりくみ目標の設定を要求していきます。さらに、食の安全や有機農業の推進、農林水産業の振興に向けた条例つくりをはじめ、学校給食に地場の農産物を使用する運動、地域資源を活かしたバイオマス運動や間伐材の利用などのとりくみを広げていきます。
  11. 子どもや市民を中心としたアジア・アフリカ支援米作付け運動や森林・林業の視察・体験、農林産品フェスティバルなどを通じ、食料問題や農林水産業の多面的機能を訴える機会をつくっていきます。とくに、支援米運動では小学校の総合学習やイベントなどとの結合、地域連合との共同行動などをとりくみます。
  12. 「第46回食とみどり、水を守る全国集会」(2014年11月28日~29日、東京・日本教育会館)の開催に向けてとりくみます。

11.   食の安全のとりくみ

(1)   食の安全行政に対するとりくみ

ホテルなどの外食産業で相次いだ食品の産地や原料の偽装表示問題や冷凍食品への農薬混入事件、さらに学校給食での集団食中毒の発生など、食の安全と信頼をゆるがす様々な問題が発生しています。
さらに、マスメディアなどで「健康食品」の効能効果を謳った違法広告や安全が疑われる商品も多数存在しています。これらの問題は、不当に利益を得ようとする業者だけの問題ではなく、外食に表示義務がないことや、食品の製造所がわかりにくい「製造所固有記号制度」などの制度の不備、罰則規定や監視体制の不十分性、管轄する省庁が多岐に渡る縦割り行政の弊害、そして、効率化優先の生産体制や大量の輸入食料に頼る食料政策など構造的な要因が重なっているものといえます。
こうした中で消費者庁は、現行の「食品衛生法」「JAS法」「健康増進法」を統合して、昨年の通常国会で新たな「食品表示法」を成立させ、今後2年以内に施行されます。食品表示法制定に対し、平和フォーラムも参加し、消費者団体や生活協同組合などでつくる「食品表示を考える市民ネットワーク」は、①法の目的に「消費者の知る権利、選択する権利の確保」の明記、②全ての加工食品の原料原産地表示の義務化、③全ての遺伝子組み換え(GM)食品・飼料表示の義務化。④食品添加物の一括名、簡略名の廃止および原材料と添加物を分けての表示、⑤検討の場には消費者代表などの参加などを求めて、集会等の開催や消費者庁への要請、各党対策などを行ってきました。
その結果、食品表示が消費者の権利であること、酒が表示法の対象となったこと、消費者の申出制度や適格消費者団体による差し止め訴訟などが盛り込まれました。また、衆院・参院の付帯決議に消費者・市民団体からの提案が反映されたことなど、これまでの運動による前進面も見られました。しかし、氾濫する不当広告に対する規制がないことや、現在バラバラに設定されている表示基準の統一作業が2年後になるなど、問題点も指摘されています。今後、加工食品の原料原産地や遺伝子組み換え食品、食品添加物の表示など、具体的な検討の場に意見反映を図るとりくみを進めていく必要があります。
こうした中で、安倍内閣は経済成長戦略の規制改革の一つとして、いわゆる「健康食品」の機能性表示の解禁を閣議決定しました。これを受け、本年度から新たな制度作りが行われようとしています。本当に効果があるかどうかの判断を国が関与しないで企業任せにする機能性表示は、アメリカでは健康への影響が出ている例もあります。そのため、消費者・市民団体は、機能性表示に反対して、違法な健康食品の表示を規制し信頼できる表示を審査する仕組みを求めています。平和フォーラムが参加する「食の安全・監視市民委員会」は、学習会などを開催して、議員や食品安全委員会、厚生労働省等への働きかけを進めてきました。また、全国消費者大会(2014年3月14~15日・プラザエフ)でも「健康食品」の機能性表示問題を取り上げ、食に対する規制緩和に反対することを確認しました。引き続き、これらのとりくみにも協力していきます。
また、食品事故や表示偽装、誇大広告などの問題が相次ぐ中、平和フォーラムも参加する「食の安全・監視市民委員会」では、市民の中から様々な情報や通報などを収集して、問題点を整理して政府や企業に申し入れるための「食の安全・市民ホットライン」を運営してきました。今後も、とりくみの周知を図り、多くの情報を収集して申し入れなどを進める必要があります。
さらに、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉の問題とも絡み、アメリカは食品添加物・ポストハーベスト農薬規制の緩和などを求めてくることが予想されます。輸入農産物・食品に対する安全管理の徹底とともに、消費者の立場に立った食の安全確保も強く求めていく必要があります。

(2)   「放射線照射食品」などに対するとりくみ

食品に放射線を照射して殺菌や殺虫、発芽防止などを行う照射食品問題は、政府の原子力推進行政と一体となって、原子力の商業利用拡大のために原子力委員会が強引に進めようとしてきました。これに反対して、平和フォーラムなどは「照射食品反対連絡会」をつくり、政府や各党への働きかけを進めてきました。その結果、厚生労働省は食品への適用を認めない方針を維持してきました。
平和フォーラムも参加する「照射食品反対連絡会」は食品安全委員会や厚生労働省との交渉や、照射を求めてきたスパイス製造業者に対するアンケート調査を行ってきました。さらに、現在許可されている北海道・士幌町農協から出荷される「照射ジャガイモ」の流通を監視し、販売店での販売中止を求めてきました。引き続き、関係団体や食品関連業界などに対する働きかけを強めていく必要があります。
牛海綿状脳症(BSE)対策については、国産牛は昨年7月1日から48ヵ月齢以下のBSE検査が不要とされ、特定危険部位(SRM)の除去の対象範囲も大幅に緩和されました。外国産牛肉では昨年2月から、米国やカナダ産などで、30ヵ月齢以下のものまで拡大して輸入が行われることになりました。しかし、米国のBSE対策は飼料や検査態勢など、安心・安全を担保できるものではなく、この措置にはTPPなど、日米の貿易拡大の条件を作る政治的意図が指摘されています。アメリカは輸入規制の撤廃を強く求めています。平和フォーラムが参加する「食の安全・監視市民委員会」では、食品安全委員会や厚生労働省に対する申し入れなどを行ってきました。今後も引き続き、アメリカ産牛肉輸入の監視強化などを求めていく必要があります。また、外食などでの原料原産地表示の義務化などを求めていくことも必要です。
遺伝子組み換え(GM)食品の表示問題では、現在、表示義務がない食用油や醤油への表示など、改善を求める運動が消費者団体を中心に展開されています。しかし、今後はTPPとも関連して、アメリカからのGM食品の輸入拡大や、日本で行われている表示の撤廃などを求められることも予想されます。消費者や生産者の不安が起きているなか、ヨーロッパ並みの表示の実現を求めていく必要があります。

(3)   食農教育の推進のとりくみ

自給率の低下とともに、食のグローバル化が進み、輸入農産物を多用した外食や加工食品が急増してきました。その結果、世界有数の長寿国を形成してきた日本人の食生活が急速に変化し、それによると見られる生活習慣病やガン、アレルギーが急増するなどの弊害が様々に指摘されるなか、学校や地域での子どもたちを中心とした「食農教育」が推進されてきました。
これらの問題について「食とみどり、水を守る全国集会」などで討議するとともに、各地域での支援米作付け運動などを通じた地域・子どもたちへの働きかけなどが進められてきました。今後も、食の背景にある農業まで含めた教育とともに、「食育推進基本計画」に基づき、学校給食に地場農産物や米を使う運動の拡大、栄養職員の教諭化の拡大などが必要です。
また、子どもだけでなく、地域全体での地産地消運動など、食べ方を変えていく具体的な実践が求められています。そのためには、自治体での食の安全条例制定や有機農業の推進などの施策を求める運動もますます重要となっています。

《2014年度運動方針》

  1. 食品偽装や輸入食品の安全性などに対する対策の徹底、表示の改善を求めていきます。とくに表示制度の一元化、原料・原産地表示の徹底・拡大など、新たな「食品表示法」の施行に対して、消費者のための実施を求めて要請などをおこなっていきます。
  2. TPP交渉にともなう、添加物・ポストハーベスト農薬規制の緩和、アメリカ産牛肉の輸入制限の撤廃、遺伝子組み換え食品の輸入促進などの動きに反対して、消費者団体などと反対運動を進めます。
  3. いわゆる「健康食品」の機能性表示を解禁しないように求めて、消費者団体などと集会・学習会を開きます。また、悪質な「健康食品」の違法広告に対する規制を求めていきます。
  4. 食品製造所の所在地が省略される「製造所固有記号制度」の廃止を求めてとりくみます。
  5. 照射食品を認めない運動をすすめます。そのため、政府への要請とともに、食品関連業界や消費者へのアピール活動などをすすめます。
  6. 遺伝子組み換え食品については、ヨーロッパ並みの表示制度への改善を要求していきます。
  7. 各地域で食品安全条例や食育(食農教育)推進のための条例づくりなどの具体的施策を求める運動をすすめます。また、学校給食の自校調理方式、栄養教諭制度の推進を求め、学校給食に地場の農産物や米を使う運動や、地域内の安全な生産物を消費する地産地消運動などをすすめます。

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