4月, 2020 | 平和フォーラム

2020年04月30日

自律型殺人ロボットの開発と規制に向けた動き  森山拓也

 AI(人工知能)の発展により、AIを搭載したロボット兵器の登場が現実味を帯びてきている。市民や科学者の間では、AIに人命を奪う判断を任せて良いのか、その場合の責任は誰が負うのかといった、新しい争点が生まれている。国連では人間が命令しなくてもAI の判断で自律的に動く兵器を「自律型致死兵器システム」(Lethal Autonomous Weapon Systems: LAWS)と呼んでいる。2014年から特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)の枠組みで、規制に向けた議論が行われてきた。

自律型「殺人ロボット」の開発に高まる懸念

国連のグテーレス事務総長は2020年1月22日に行った所信表明演説[1]で、21世紀の進歩を危うくする4つの脅威として、①地政学的緊張、②地球温暖化、③グローバル規模での政治不信、④科学技術発展の負の側面を挙げた。このうち「科学技術発展の負の側面」について、グテーレス事務総長は「AIは人類に大きな進展とともに、大きな脅威をもたらしている。人間の判断を介さずに殺人が行える自律型殺傷兵器は、倫理観と政治的な観点から受け入れられるものではない」と述べ、AIを用いた兵器の開発に対し警鐘を鳴らした。

人間による命令や操作がなくてもAIの判断で動くことのできる完全に自律したLAWSはまだ存在していない。だが米国、ロシア、中国、フランス、イスラエル、韓国などがLAWSの開発に力を入れている。AI 兵器の自律化が実現すれば、火薬、核兵器に次ぐ軍事上の「第3 の革命」になるといわれ、戦争の様相を大きく変える可能性がある。ヒューマン・ライツ・ウォッチは2012 年の報告書で、今後30 年以内に完全自律型の殺人ロボットが開発されると予想している[2]。

LAWS の使用は、AI の判断が正確であることを前提にすれば、戦場で恐怖や興奮、復讐心などに左右されて判断を誤る人間の兵士に比べ、市民への誤爆が減るなど、むしろ人道的であるとの考え方もある。他方、LAWS に対する懸念としては、AI に人命を奪う判断をさせて良いのかという倫理的・道義的な問題が大きな争点となっている。AI が人命を奪う判断をした場合、責任の所在があいまいになる。AI の判断による違法行為に対して誰も責任を取らなくなれば、違反者を罰することで違法行為を防いできた国際人道法が機能しなくなる恐れがある。

また、戦争へのハードルが下がるのではないかという懸念がある。LAWS を使用すれば自軍の兵士が死傷する可能性が下がるため、為政者は戦争開始の判断をしやすくなる。LAWS は機械である以上、故障や誤作動を起こす可能性もある。さらに、AI が人間に反乱を起こす事態を懸念する科学者もいる。

LAWS開発の現状

ロボット兵器と聞くと、SF映画『ターミネーター』のような兵器がまず頭に浮かぶかもしれない。完全に自律した兵器は、ターミネーターのように人間に近い思考能力を持ち、自らの判断で標的を選び、攻撃を加える。だが現在のところ、そのような完全に自律した兵器はまだ存在しない。一方、AIを搭載し、機能の一部を自動化した兵器は既に存在し、戦場で使用されている。以下では栗原聡が著した『AI兵器と未来社会:キラーロボットの正体』(2019年、朝日新書)の中でのロボット兵器の分類を参考に、LAWS開発の現状を整理する。 

・半自動型兵器

まず半自動型兵器とは、人間が攻撃対象を設定し、引き金も人間が引くが、その途中過程の多くが自動化された兵器を指す。巡航ミサイルのトマホークは発射されると目的地まで自動飛行するが、目的地の設定と最後に目標を破壊するかどうかの判断は人間が行うため、半自動型である。このような半自動型兵器はすでに数多く実用化されている。半自動型兵器は人間の操作なしに運用することはできず、LAWSには含まれない。

・自動型兵器

現在、開発の禁止が議論されているLAWSに含まれるのは、次の自動型兵器からになる。自動型兵器は人間ではなくAIがプログラムに従って攻撃目標を見つけ、引き金を引く。ただし、それらの動作はあらかじめ設定されたプログラムの範囲内であり、自動化はされているが自律兵器とは言えない。自動型兵器は軍人が手を下さなくても機械が自動的に引き金を引くが、機械の動作はプログラムに従うため、実質的にはプログラムを書くエンジニアが引き金を引くということになる。

用途を限定した自動型兵器はすでに実用化されている。例えば、イスラエルが開発した無人攻撃機「ハーピー」は自爆型ドローンとも呼ばれ、攻撃対象のエリア情報を入力して発射すれば、遠隔操作なしに対象エリア上空を旋回しながら標的を自動的に見つけ、近づいて自爆する。

・自律型兵器

以上までの兵器は、どのような状況においてどのように行動するかがプログラムとして組み込まれており、行動が自動化されてはいても、兵器が自ら考えるわけではない。したがってプログラムで想定されていない状況には対応できず、誤作動する可能性もある。

これに対し、自律型兵器には、まずメタ目的が与えられる。メタ目的とは、抽象的な目的のことであり、兵器でいえば「戦況を打開せよ」といった目的がそれにあたる。自律型兵器は、与えられたメタ目的を達成するためにどのような行動をするかを自ら考える。変化する状況に応じて目標を達成するための高い汎用性も備える。

自律型兵器はまだ実現していないが、各国が基礎研究に力を入れている。

LAWSの規制に向けた交渉

LAWSの規制をめぐり、国連では地雷などの非人道兵器を規制する特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)の下で、2014年に非公式の専門家会合が設置された。2017年からはCCWの政府専門家会合が開かれ、各国の代表や国際機関、NGO、研究者らがLAWSの規制を議論してきた。

2019年8月にジュネーブで開催された政府専門家会合では、LAWSを規制する11項目の指針を盛り込んだ報告書が全会一致で採択された[3]。LAWS規制の初めての枠組みとなる指針は、LAWSには国際人道法が適用されること、兵器を使用する責任は人間にあること、開発・配備・使用の全ての段階で人間が関与することなどを求めている。一方、AIそのものの開発や平和利用を妨げないことも求めた。指針は同年11月のCCW締約国会議で承認され、2年後に見直しのための会合を開くことも決まった。技術や法律、軍事などの観点から議論を発展させ、国際規制の取りまとめを目指す。

政府専門家会合では中南米やアフリカを中心とする非同盟諸国のグループが、条約化などLAWSに対する法的拘束力のある規制を求めた。LAWS開発国の中国も法規制を支持するが、規制の対象となる「完全自律型」の範囲を人間が制御できない兵器や自ら進化する兵器に限定することを求めるなど、LAWS開発で争う米国に対抗して自国に有利な条件で規制議論を進める狙いとみられる。

米露など中国以外のLAWSを開発中とされる国々は、既存の国際人道法で規制可能であるとし、新たな規制には反対の立場だ。日本はCCWの政府専門家会合に向けた作業文書[4]で、完全自律型の致死性を有する兵器(LAWS)を開発する計画はないという立場を表明した。ただし、有意な人間の関与が確保されたLAWSについては、ヒューマンエラーの減少や、省力化・省人化といった安全保障上の意義があるとした。日本はフランスやドイツなどと法的拘束力のない政治宣言などの形での規制を目指している。

政府専門家会合で合意された指針はLAWS規制に向けた方向性を初めて示した点で意義があるが、法的拘束力がなく、各国の「努力目標」の域にとどまる。CCWでの決定事項は全会一致が原則であるため、思惑の異なる国々が曖昧な形で決着した結果である。ルールを都合よく解釈する国が表れる懸念があり、LAWSの問題を告発してきた国際人権団体などは失望の声をあげている。

LAWSの規制を求める国々やNGOの中には、CCWの枠組みにこだわらず、一部の国だけで新たな禁止条約を目指すべきとの議論もある。その念頭には、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)などNGOの主導で成立した核兵器禁止条約での成功体験がある。

だが、核兵器禁止条約には核保有国やその核の傘に頼る同盟国が参加せず、実効性に疑問符も付いた。LAWS禁止条約にLAWS開発国が参加する可能性は極めて低く、実効性が乏しいという問題がある。LAWS規制をめぐる対立関係は、核兵器禁止条約をめぐる対立関係と似た構図になっている。

科学者や企業もLAWS規制に向け動き

科学者や企業の間でも、LAWSに反対する動きが広がっている。国際人工知能学会は2018年7月、LAWSの開発、生産、取引、使用を行わないとする宣言を発表した。宣言には、米グーグル社傘下のAI開発企業など160社と2400人の個人が署名した。

米IT大手のグーグル社は2017年、米国防総省との間で、グーグルのAIによる映像解析をドローン攻撃の性能向上に用いるプロジェクトに契約した。2018年にこの契約が明らかになると、社内外でAIの軍事転用への懸念が高まり、複数の従業員が抗議のため退職した。さらに4千人以上の従業員が、戦争ビジネスへ参入しないようピチャイ最高経営責任者に求める公開書簡に署名した。こうした動きを受け、ピチャイ氏は2018年6月、グーグル社はAIを兵器開発や監視技術に使わないなどとするAI利用の指針[5]を発表した。

グーグル社は開発しないAIアプリケーションとして、「危害をもたらす可能性のある技術」「人を傷つけることが主目的の兵器や技術」「国際的規範に反した監視のために情報を収集・使用する技術」「国際法や人権を侵害することを目的とした技術」の4項目を挙げた。ただし、兵器使用のためのAI開発は行わないが、サイバーセキュリティ、研修、人事管理など、その他の分野での軍民協力は継続するとした。

オランダのNGO「Pax」は2019年8月、米アマゾン・ドットコム社や米マイクロソフト社といった世界有数のハイテク企業が殺人ロボットの開発に関与し、世界を危険にさらしているとする調査報告書を発表した[6]。報告書は12カ国50社をLAWSに対する姿勢で「最善の事例」「中程度の懸念」「大きな懸念」にランク付けしている。AIを兵器開発に使用しない指針を発表したグーグル社は、日本のソフトバンク社などと共に「最善の事例」に挙げられたが、米国防総省のクラウドコンピューティング契約へ入札したアマゾン社やマイクロソフト社は「大きな懸念」に分類された。

AIやロボットは軍民両用の技術であり、使用者だけでなく、開発者にも倫理が求められる。技術の軍事転用を防ぐため、AIやロボットの開発に取り組む企業は、何に取り組み、何には取り組まないかの倫理指針を定めるべきだ。

完全に自律したLAWSはまだ存在せず、その定義もあいまいな点が残るが、AI技術は急速に発展しており、本格的なLAWSが登場する前に実効性を持った規制の枠組みを作る必要性が増している。核兵器や対人地雷、生物・化学兵器は、それらが実際に使用された後に規制や禁止の国際ルールが作られた。LAWSでも技術が先行し、規制の議論が置き去りになっている。LAWSの使用が悲惨な結果を招く前に、それを防ぐルール作りが求められる。さらに言えば、軍事力によらない安全保障体制の構築をめざし、戦争のない世界を作るという観点からは、そもそもLAWSのような兵器体系の開発そのものを禁止する枠組み作りが求められている。

[1] 国連HP

https://www.un.org/sg/en/content/sg/statement/2020-01-22/secretary-generals-remarks-the-general-assembly-his-priorities-for-2020-bilingual-delivered-scroll-down-for-all-english-version

[2] https://www.hrw.org/report/2012/11/19/losing-humanity/case-against-killer-robots

[3] ピースデポ刊『ピース・アルマナック2020』(2020年6月刊行予定)に11項目の指針の日本語訳。

[4] 外務省HP https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000459707.pdf

[5] https://www.blog.google/technology/ai/ai-principles

[6] https://www.paxforpeace.nl/publications/all-publications/dont-be-evil

 

2020年04月27日

「平和といのちと人権を! #0503憲法集会 」オンライン配信のご案内

「平和といのちと人権を!5.3憲法集会2020」は集会形式での開催を中止し、5月3日(日)13時〜14時ごろ(予定)、下記のURLにおいて、オンライン配信を行います。ぜひご覧ください。

※ハッシュタグ #0503憲法集会 をぜひご活用ください!

→ https://www.youtube.com/watch?v=yG0pcSFR4h0

発言予定:※変更の可能性があります

堀潤さん(ジャーナリスト)

古今亭菊千代さん(噺家・真打)

浅倉むつ子さん(法学者、安全保障関連法案に反対する学者の会)

稲正樹さん(憲法学者)

主催者から

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2020年04月24日

辺野古設計概要変更申請に抗議する声明

辺野古設計概要変更申請に抗議する声明

2020年4月24日

フォーラム平和・人権・環境
共同代表 藤本 泰成
勝島 一博

 防衛省は4月21日、辺野古新基地建設にかかわり大浦湾に広く存在する軟弱地盤の改良を押し進めるために、建設計画の設計概要の変更申請を沖縄県に提出した。申請の時期、経過、そしてその内容をふまえると、政府の行為は暴走以外の何物でもない。
新型コロナウイルス感染症対策で安倍政権は16日、緊急事態宣言の対象を全都道府県に広げた。沖縄県の玉城デニー知事も20日に県の宣言を発表して対応に当たり、政府からの不要不急の外出自粛要請を受け県庁職員の出勤も二分の一に減じていた矢先に申請は出された。コロナ禍で社会、経済が混乱を極める中、国と自治体が一丸となってコロナ感染症対策に当たるべきであるにもかかわらず、この機を推し量るように申請した政府の姿勢は火事場泥棒と非難されても仕方がない。
1800頁にも及ぶ設計概要変更申請書の内容についても、これまでに防衛省が明らかにしてきたところをみると極めて問題が多い。大浦湾の埋め立て区域約120ヘクタールのうち、実に半分の約66ヘクタールに軟弱地盤が広がっている。特に「B27」地点では、海面から90メートルに達する「マヨネーズ並み」の軟弱地盤があると指摘されている。ここには護岸が設置される予定であり、地質の専門家によれば、国土交通省の港湾施設基準を満たさず、護岸崩壊の恐れもあるとされる。こうした声があるにもかかわらず、「B27」地点のボーリング調査の必要性はないと切り捨てている。そして、その他の軟弱地盤対策では、外周護岸を完成させる前に土砂を投入する「先行盛り土」を行うとしている。土砂による汚濁が外洋に広がり、貴重なサンゴや生態系に壊滅的なダメージを与えることは明らかだ。
本来なら、申請を出す前に徹底的な調査が行われてしかるべきだ。そして、第三者機関が調査結果を基に、技術的な課題、自然環境に与える影響などを綿密に議論すべきである。しかしながら、政府が設置した土木の専門家で構成される「技術検討委員会」(清宮理委員長・早稲田大学名誉教授ら8人)は、「B27」地点の調査の必要性を認めず、さらには防衛省の調査資料データの不備について不問に付した。辺野古新基地建設強行の「お墨付き」をあたえる機関としか考えられず、専門家による検討委員会の役割を果たしているとはいえない。
埋め立て用の土砂についても、多くを県外から搬入することとなっていたが、「県内で調達可能」と方針を変更した。これも特定外来生物を規制するための沖縄県の土砂条例からのがれるための方策でしかない。政府は県内の調達先を明らかにはしていない。しかし莫大な量の土砂を県内から採取すれば、当然にして沖縄県の自然環境に甚大なる影響を与える。設計変更による辺野古新基地建設工事、およびあらたな土砂採取にかかわり、環境影響評価が必要なことはいうまでもないだろう。しかし、政府は「同一事業として事業に着手した後であれば、やり直す必要はない」として、自然保護団体などからの再調査を訴える意見に耳を貸さない。
たとえ実定法上の不備で環境影響評価のやり直し規定がないとしても、アセスを実現し、安倍首相自身が常に述べている「ていねいに説明し、理解を求める」ことを実行すべきではないか。そのことが民主主義的手続きとして、県民理解への基本にあるべきだ。その姿勢すら示さない安倍政権は、沖縄県、県民を愚弄しているとしか言いようがない。
政府は設計概要の変更申請を取り下げよ。そして辺野古新基地建設を中止せよ。航空機の墜落、部品落下の他、PFOS(ピーホス)等の毒物をまき散らす普天間飛行場の即時運用停止を実現せよ。
平和フォーラムは、沖縄県民に連帯し、いのち、くらしを守るため、引き続き辺野古新基地建設阻止に向け総力を挙げていく。

2020年04月24日

2020年度運動方針

 

2020年度運動方針

1.情勢と課題
(1)はじめに                              
8年目を迎え、歴代内閣総理大臣の中で通算任期最長を記録した第二次安倍政権は、「戦後レジームからの脱却」を掲げ憲法破壊を進める一方、その政権運営では長期政権による目に余る公権力の私物化と腐敗が表面化してきています。
また、憲法改正について、安倍政権は、参議院における改憲勢力3分の2割れという事態を迎えるなかでも、昨年の通常国会、臨時国会を通じて憲法審査会での改憲議論促進を目論むとともに、野党の分断をも公言し、さらに、自民党改憲推進本部に遊説・組織委員会を新設し改憲にむけた世論喚起を図るなど、7割に上る「国会議論を急ぐべきではない」とする世論を無視し、なりふり構わず改憲へと突き進んでいます。
また、安倍政権は、2013年の特定秘密保護法、2015年の集団的自衛権行使を基本とした戦争法、2017年の共謀罪法など憲法違反の法律を矢継ぎ早に強行採決によって成立させ、さらに、従来、憲法の平和主義に照らして決して認められなかった武器輸出や2015年度以降、政府の「安全保障技術研究推進制度」による武器の研究開発支援をスタートさせてきました。
さらに、8年連続で防衛予算の増加や2018年12月の「防衛計画の大綱」と「中期防衛力整備計画」の閣議決定により、事実上、専守防衛が放棄され、強力な日米の軍事一体化が進められることになり、日本は進んでアメリカの軍事的世界戦略に組み込まれてきています。
まさに、安倍政権のもとで日米安保条約をも超える軍事一体化が進行し、歴代日本政府の「日本の自衛隊が領海外に出て行動することは一切許されない、集団的自衛権行使は憲法的に許されない」とする見解からも自衛隊は憲法違反の組織に変容し、実態的な9条破壊が進んでいます。そして、憲法改正によって自衛隊を明記することにより、フルスぺックの「戦争できる国づくり」が進行しており、絶対に許すことはできません。
また、今年は日米安全保障条約安保60年という節目の年を迎えています。
1960年1月19日、岸信介首相とハーター米国務長官らが現行の日米安保条約に署名し、同時に前安保条約時の行政協定を継承して日米地位協定が締結され、これも60年の月日が経ちました。
安倍首相は「日米安保条約はいつの時代にもまして不滅の柱。アジアとインド太平洋、世界の平和を守り、繁栄を保証する不動の柱だ」と強調し、トランプ大統領も安保環境が厳しさを増す中「同盟をさらに強化し、深化させることが不可欠」と声明を発しています。
安保条約が改訂された当時は、戦争放棄と戦力不保持の憲法9条が前提でした。しかし、安保条約の性格は、今日安倍政権のもとで大きく変容しています。「日米安保条約は片務条約であり、集団的自衛権行使は無いからこの条約は違憲にあたらない」とのかつての自民党政権の見解を葬り、2015年9月の集団的自衛権行使を基本とした戦争法の強行採決により「双務条約」と化し、日米の軍事一体化が急速に進んでいます。インド洋などでの近年の日米両軍の行動を、自衛隊は「訓練」と広報していますが、米軍は「通常の軍事行動」と位置づけています。そして、これらの実相は、市民はもとより国会ですら隠蔽・改ざんされ、知らされることはありません。
しかし、安保条約の本質をもっとも如実に現しているのは日米地位協定です。ドイツやイタリアでは不平等であった部分について改訂された経緯もあり、それと比べても、はるかに不平等な内容となっています。60年を経てますます米軍の行動の「自由」が拡大し、地位協定とこれを根拠に定められていた各基地の運用協定が守られない問題が随所で起こっています。平和フォーラムは、憲法を守り抜く立場から、60年を迎える安保条約と地位協定をきびしく問い直すことが求められています。
一方、憲法の空洞化は、憲法の平和主義にとどまりません。様々な選挙や県民投票で示された民意を無視して進む辺野古新基地建設や、圧倒的な脱原発を求める声を無視して進められる原発推進政策などをみれば、主権が国民にあることすら忘れさせられてしまいます。
また、財務省福田前事務次官のセクハラと財務省の対応は官僚たちの人権感覚の低さをさらけ出しましたが、「人身売買、奴隷労働」といわれる技能実習制度をはじめ、横行するヘイトスピーチ、朝鮮高校に加え幼児教育・保育無償化から朝鮮学校幼級部の無償化からの適応除外、テレビキャスターのコメントや週刊誌による韓国に対する嫌悪感を煽る報道のありかたなどは「専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努める」とする憲法理念とは真逆の事態が進行し、基本的人権の侵害が拡大しているといえます。
さらに、憲法9条について詠んだ俳句を「公民館便り」の掲載から除外したさいたま市や、参議院選挙での安倍首相の街頭演説で上がった抗議の声に対する警察の弾圧、愛知で開催された「表現の不自由展・その後」への行政の介入など、警察や行政によって不当に表現の自由が制限される事態も生まれています。
このように、安倍政権のもと、改憲と合わせて日本国憲法の空洞化が進行し、大きくその理念が歪められてきており、憲法理念の生かすとりくみも求められています。
さて、この間、安保法制の廃止と改憲阻止のたたかいは、戦争をさせない1000人委員会に加え「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会(安倍9条改憲NO!全国市民アクション)」を共闘組織として、従来分裂していた平和運動が合流し、平和フォーラムがその中心的な役割を担い、安倍政権との対決の中心的役割を果たしてきました。具体的なとりくみとしては、毎月の19日行動と街頭宣伝活動を含めた3,000万署名運動を両輪とし、5・3,11・3憲法集会等様々なとりくみを展開してきました。また、全国各地においても「19日行動」を中心に、安保法制の廃止と安倍改憲に反対する様々なとりくみが継続的にとりくまれてきました。
また、総がかり運動を通じ、「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合(市民連合)」「安保法制違憲訴訟の会(違憲訴訟の会)」と連携したとりくみも進めてきました。
この市民連合では野党共闘を推進し、国政選挙を中心に安倍一強体制とのたたかいを展開し、また、違憲訴訟の会では7,704の原告により、22の地域で25の訴訟が行われ、安保法制の廃止と平和憲法を守るたたかいが展開されています。
こうした中、5年目を迎えた総がかり行動実行委員会(全国市民アクション)は、9月4日、参議院における改憲勢力の改選議席の3分の2割れという参議院選挙の結果を受けて、これまでの署名運動をはじめとしたとりくみを総括するとともに、新たな署名運動をはじめとして今後のとりくみが確認されました。
平和フォーラムとしても、総がかり運動を中心とした全国における5年間のとりくみを振り返り、改憲阻止、安倍政権打倒にむけた組織と運動の強化を進めていかなければなりません。

(2)改憲発議・国民投票を許さず、平和憲法を守るとりくみ      
①参議院での改憲勢力3分の2割れも、改憲に執着する安倍政権
7月21日投開票の第25回参議院選挙において、私たちは、安倍首相の最大の政治目標であった「改憲勢力」による改憲発議に必要な3分の2の議席確保を阻止し、新たに参議院で改憲を許さない大きな一歩を築くことができました。しかし、参議院では引き続き与党が過半数を占めた結果、安倍政権の続投を許すこととなり、安倍首相は野党の一部の取り込みに意欲を見せるなか、選挙後のインタビューでも「残された総裁任期の中で改憲に挑む」と決意を述べています。
また、その後の内閣改造、自民党役員人事では、全体として日本会議や神道政治連盟に所属する議員を中心とする極右内閣が継続されるとともに、役員人事と合わせ改憲シフトが鮮明な内閣改造が行われました。
しかし、この内閣改造を受けて9月11・12日に実施された世論調査(共同通信社)では、改憲に反対が47.1%で賛成の38.8%を上回ったほか、新内閣の取り組むべき課題としては「年金・医療・介護」47.0%、「景気や雇用対策」35.0%、「子育て・少子化対策」25.7%と期待が寄せられる一方、「憲法改正」は5.9%に止まり、民意とかけ離れた安倍政権の独りよがりの「憲法改正」といえます。
1月20日、第201通常国会が開会しました。安倍首相は衆参本会議での施政方針演説で、「国の理想を語るものは憲法」「未来に向かってどのような国をめざすのか。その案を示すのは、私たち国会議員の責任ではないか」などと発言し、今なお改憲に固執する姿勢を示しています。
実際には、日程上ほぼ不可能となった「2020年までの改憲」ですが、予想される野党に対する分断工作や、マスコミ・インターネットを使っての改憲煽動など、さまざまなかたちでの改憲攻勢に対し私たちは備えなくてはなりません。
すでに、自民党改憲推進本部では、「憲法改正推進遊説・組織委員会」を新たに立ち上げるとともに、各地方組織には地域での改憲集会などのキャンペーンをすすめ全国的な改憲にむけた世論喚起をめざしています。そして、1月7日には「憲法改正の主役は、あなたです」などとするポスター、28日には「女性向け冊子」を大々的に発表していることに警戒しなければなりません。
さらに、各地における改憲勢力の動きも活発化しています。2018年以降、衆院小選挙区を基本単位として「国民投票連絡会議」が結成されており、自民党議員や日本会議、自衛隊退職者による隊友会などが組織されています。また、「美しい日本の憲法をつくる国民の会」による「美しい日本の憲法をつくる1000万人賛同署名」は請願署名ではなく、電話番号やメールアドレスなどの連絡先を記入させ名簿化することが目的で、「憲法改正が成立する『国民投票の過半数』を実現するための国民ネットワークづくり」(ウェブサイトより)と公然と認めています。
このように、安倍政権のもと、改憲勢力は、国民投票の実施時における多数派獲得を視野に入れてとりくみをすすめてきているということを、私たちは危機感をもって認識しなくてはなりません。このため、平和フォーラムは新たにスタートした「安倍9条改憲NO!改憲発議に反対する全国緊急署名」をはじめとして、総がかり行動実行委員会に結集してとりくみをすすめます。

②改憲発議・国民投票阻止にむけ、総がかり行動実行委員会の強化を
安倍改憲に対し、平和フォーラムは引き続き改憲阻止にむけて「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」「安倍9条改憲NO!全国市民アクション」による全国的大衆行動を推進していく必要があります。
「総がかり行動実行委員会」は、2015年9月19日の戦争法強行採決以来、毎月19日の共同行動と署名活動を柱に、戦争法の廃止と改憲阻止にむけて5・3憲法集会など様々なとりくみをすすめてきました。
今通常国会でも、改憲発議を求める与党によって、昨年の臨時国会にもまして厳しい憲法審査会が予想されますが、これまで以上に野党との連携を強め憲法審査会への対応を進めるとともに、署名活動を交えた街頭宣伝活動や、情勢に合わせた全国的なとりくみを強力に推進していきます。
また、これまで憲法破壊に対抗する市民の大きなうねりをつくりだしてきた5・3憲法集会については、本年も「平和といのちと人権を!5.3憲法集会2020」(東京・有明防災公園)を開催し、今通常国会での改憲発議を拒む最大のとりくみとして開催します。
一方、改憲発議阻止にあたって、賛否を問わず大多数の市民に対し、安倍政権が目論む改憲の危険性について知ってもらうことが必要です。
そのため、宣伝活動の強化を運動上の重要課題として位置づけ、インターネットを宣伝上のツールとしていくとともに、インターネット署名についても、署名しやすい仕組みに改善しています。また、著名人からのメッセージの活用、SNSでの映像配信など、情報発信能力の強化をめざします。
また、これまで「市民アクション」に参加してきた諸団体・個人のネットワークを再点検し、結びなおしていくことも重要です。

③安保法制違憲訴訟の会、立憲フォーラム・立憲ネット、戦争をさせない1000人委員会のとりくみ
法曹・学者・市民の協力のもと、戦争法の違憲性を問う「安保法制違憲訴訟」が、現在全国25か所でとりくまれています。これらの各地の訴訟原告は「安保法制違憲訴訟の会」として、全国の弁護団とのネットワークが形成されています。訴訟の内容は国家賠償法請求訴訟と自衛隊の出動の差し止めを求める行政訴訟です。
訴訟提起から約4年が経過し、昨年11月には東京地裁での国賠請求が棄却され、3月13日には東京地裁での差止訴訟も棄却されました。一方、横浜・高崎では宮﨑礼壹内閣法制局長官の証人尋問が行われるなど、期待のもてる訴訟もあります。
この違憲訴訟を支援するために結成された「安保法制違憲訴訟を支える会」への協力を中心に、平和フォーラムとしてもとりくみを進めています。
また、改憲情勢に抗し発足した超党派の議員連盟「立憲フォーラム」(代表・近藤昭一衆議院議員)と「戦争をさせない1000人委員会」は、19日行動と合わせて連携した「安倍政治を終わらせよう・院内集会」を継続的に開催するとともに、改憲問題や沖縄課題、東アジアの非核化と平和に関する課題などのハンドブックを発行してきましたが、引き続き地方議員を対象とした立憲ネットも含めた連携強化が求められています。

④護憲大会の開催
2020年の護憲大会ついては、滋賀県・大津市において11月7日~9日の3日の日程で開催する準備をすすめています。安倍改憲発議のたたかいの意思統一の場として第57回護憲大会への全国からの結集を図るとともに、大会での提起と議論を地域・職場の運動に持ち帰り活かしていきます。

(3)日米軍事一体化と専守防衛の枠を超えて拡大する日本の防衛政策 
①日米安保条約のあり方の問直しを
1960年の日米安保条約改定から60年となった2020年、60年を祝う政府主催の記念式典で、安倍晋三首相は「日米安保条約は不滅の柱、アジアとインド太平洋、世界の平和を守り、繁栄を保証する不動の柱」と、日米安保を手放しでほめたたえ、「100年先まで日米同盟を堅ろうに守ろう」と豪語しました。
そもそも、日米安保条約は、米国の対日防衛義務の根拠とする第5条(第5条の政府解釈には、異論が多く指摘されている)と日本の米国への基地提供義務および安保条約の適用範囲を「極東」としているところがポイントとなっています。にもかかわらず、安倍首相の発言では、日米同盟の地理的範囲が、「アジア、インド太平洋」に広がっていることが大きな問題です。また、冷戦終結後、混迷し流動する世界秩序の一断面として登場している今日の日米同盟関係、ましてや日本国憲法に反する安保法制(戦争法)を成立させ、「アメリカ・ファースト」と自国第一主義で世界秩序を混乱させるトランプ大統領の米国とのあいだに結ばれている日米同盟を100年先まで守ろうということ自体、極めて危うく、先の見通しのない暴論と言わざるを得ません。
「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意」した日本は、この憲法前文の理念に立ち返り、一方の覇権に肩入れするのではなく、世界平和と国際秩序の安定に寄与することにつとめることが重要です。集団的自衛権の行使容認と戦争法がある今日、日米安全保障条約のあり方を問い直していくことが求められます。

②自衛隊の海外派兵に反対し、安保法制(戦争法)の廃止を
イラン核合意から一方的に米国が離脱したことに端を発し、米国とイランとの間の対立が激化、中東情勢が緊迫しています。米国は、英、豪などと有志連合を組織し中東に軍隊を派遣しました。安倍政権は、防衛省設置法の「調査・研究」を根拠に自衛隊を中東に派遣する閣議決定を2019年12月27日に行い、ペルシャ湾やホルムズ海峡を除いた中東海域での民間船舶の安全確保につなげるとして、海賊対処を名目としてジブチに拠点を置く航空自衛隊の哨戒機に加えて新たな哨戒機2機、また護衛艦「たかなみ」を中東に派遣しました。自衛隊の中東派遣は、直接には有志連合に参加はしないものの、情報は共有するとしています。
そもそも自衛隊と米軍は、2015年4月に日本と米国との間で改めて結ばれた「日米防衛協力のための指針」(日米ガイドライン)で、「平時から緊急事態までのいかなる状況においても、アジア太平洋及びこれを越えた地域において防衛協力する」ことが取り決められています。単なる行政協定に過ぎないものですが、日米安全保障条約で明記されている「極東」の範囲を越えて日米共同の軍事行動をすることを指針としており、これが米国の意思であると注意をむけなければなりません。日本が米国と一体になって「戦争ができる国」へと進むことは許されず、自衛隊員が「普通の国の軍隊」のように他国に派遣され、殺し殺される関係の中に入っていくことを何としても押しとどめなくていけません。
戦争法並びに集団的自衛権の行使は現状では限定的であるところから、すぐさま中東で米軍との軍事行動に参加することはないとしても、米国の求めに応じて自衛隊の海外派兵をより柔軟するために、特別措置法や安保法制の改正などが目論まれ、米国の意思に沿った世論誘導が行われることにも警戒しなければなりません。自衛隊の海外派遣反対のとりくみを進めながら、戦争法の危険性を訴え廃止にむけたとりくみを引き続きおこなっていく必要があります。

③日米軍事一体化で進む自衛隊の増強
これまでの歴代の政権における日本の安全保障政策、防衛の基本的な考え方は、「専守防衛に徹し、他国に脅威を与えるような軍事大国とはならない」というものでした。最新版の『防衛白書(令和元年度版)』においてもかわりはありません。しかし、この考え方を事実上転換させ、集団的自衛権の行使容認し、いずも級護衛艦の空母化、長距離ミサイルなど攻撃型の装備や技術を保持するに至ったのが、安倍政権でした。いまや日本は、世界有数の「軍事」大国となりつつあり、スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)は、2018年の日本の軍事支出を466億ドルとし、世界の9位と発表しています。
安倍政権下の2013年に「秘密保護法」、2014年に「集団的自衛権の行使」容認の閣議決定、2015年4月には日本とアメリカは新しい日米ガイドラインを締結し、そして安保法制(戦争法)を2015年9月に強行採決しました。2017年には「共謀罪」も強行成立させました。そして、専守防衛に反する攻撃型兵器を導入することを明確に示したのが、防衛計画の大綱(以下「30大綱」)、中期防衛力整備計画(以下「中期防」)の閣議決定(2018年12月18日)でした。
戦争法成立以降、自衛隊と米軍等との共同軍事訓練が飛躍的に増大しています。民主党政権時代の2010~2011年は年間10件程度の共同訓練でしたが、2016年には35件と急増しています。そしてその範囲も、専守防衛としている日本の領域のみならず、また安全保障条約の「極東条項」をも越え、南シナ海、インド洋にまで展開しています。
また自衛隊の増強も見逃せません。与那国、石垣島、宮古島、奄美大島そして馬毛島など南西諸島での自衛隊新基地建設とミサイル部隊の配備がすすめられています。また、「H30年度インド太平洋方面派遣訓練」(2018年8月26日~10月30日)では、9月13日に南シナ海で、護衛艦「かが」などが対潜水艦の軍事訓練を自衛隊単独で行いました。さらに水陸機動団(日本版海兵隊)が実戦配備された長崎県など九州全域と沖縄で、自衛隊基地の日米共同使用、水陸機動団と米海兵隊との共同軍事訓練が頻繁に行われるなど、米軍との一体化が進んでいます。水陸機動団とともに運用される陸自配備のオスプレイについては、佐賀空港への配備が目指されていますが、反対が根強く、暫定的に千葉県・木更津基地に配備されることになりました。また、秋田県、山口県に配備が計画されている地上発射型迎撃ミサイルシステム(イージス・アショア)は、アメリカとの情報共有が必須のミサイル防衛システムであり、また迎撃ミサイルを発射する発射装置Mk-41は弾道・巡航ミサイル発射にも転用できるもので、このシステムの導入は隣国に対して直接の脅威を与えるものとなります。
2018年から始まった「インド太平洋方面派遣訓練」は、「自由で開かれたインド太平洋」の実現を目的としており、中国の「一帯一路」を意識したものになっています。自衛隊の増強と自衛隊と米軍等の頻繁な共同軍事訓練は、米国の対中国軍事プレゼンスを補完するものであり、実質的に自衛隊と米軍とが日米統合軍として機能し始めたと考えられるでしょう。
日本の安全保障政策に影響力があると言われている「第4次アーミテージ・ナイレポート」(2018年10月3日発表)では、2030年までの米日同盟の強化を目的として報告され、日米の基地共同使用、日米合同部隊の創設、防衛装備品の共同開発、宇宙・サイバー・AI分野での共同対処などが提起され、報告書の基調は対中国を鮮明に打ち出しています。「第3次アーミテージ・ナイレポート」では、集団的自衛権の行使、武器輸出三原則の撤廃が提起され、ほどなく安倍政権下で実現されました。この経過を見ると、同レポートの提起が、今後の日本の防衛政策に反映されていることは必定と考えられます。
自衛隊の軍事力増強で、防衛費は伸び続け、2020年度の防衛費予算は、5兆3千億円を超えました。安倍政権下で8年連続増大しています。私たちの暮らしに直結する社会保障関連予算を抑制し、軍事費を聖域化することは許されません。

④米軍機等の運用規制など日米地位協定の見直しをめざそう
1960年1月に新日米安全保障条約と日米地位協定が日米間で調印されました。以降60年、同条約と日米地位協定は一度も改定されたことはありません。これ以前の旧安保条約と行政協定は、独立を果たして「主権」を回復した日本の国内で、米軍が占領期と同じように自由に行動できるようにした取り決めでしたが、新安保条約、日米地位協定では、防衛分担金廃止などの改定は行われたものの、米軍の特権は維持されたままとなりました。とりわけ基地の管理権を巡っては、日米地位協定3条では、合同委員会を通して日米両政府の協議が明文化されていますが、『日米地位協定合意議事録』では行政協定と変わらない米軍の占有が保障されています。なお、この合意議事録は、日米地位協定とは別に作成され、国会でも審議されなかったいわば「秘密協定」と言えるものです。
 米軍基地は、日本のどこにでも作ることができ、その基地は米軍が排他的に管理することができます。そして、仮に基地返還となったとしても、原状回復義務はなく、ダイオキシン等で環境を破壊しても、その除去作業などは日本政府が負うことになり私たちの税金で行われることになります。また、米軍機は日本の航空法の適用が大幅に免除されています。また、米軍が事件や事故を起こしても日本の警察や消防などが現場検証にあたることすらできず、公務中の米軍人・軍属が事件を起こしても、日本には第1次裁判権もありません。こうした不平等な・従属的な日米関係は、日本国憲法の発布以降に日米間で作成された安保条約と行政協定、その後の日米地位協定とそれに付随する「秘密協定」に起因するといえます。
 オスプレイをはじめとした米軍機の墜落事故や部品落下事故が、沖縄をはじめ全国で頻繁に発生しています。沖縄の米軍基地周辺また東京・横田基地周辺の井戸からも有機フッ素化合物が検出されるなどの問題が発覚しています。普天間基地に配備されているMV22オスプレイが日米共同訓練等で全国に展開しており、加えて横田基地に配備された空軍特殊部隊用のオスプレイCV22の飛行訓練の拡大が懸念されます。このCV22の訓練区域となる沖縄、東富士演習場(静岡県)、ホテルエリア(群馬県、栃木県、長野県、新潟県、福島県)、三沢射爆撃場(青森県)およびこれら訓練区域につながる飛行ルートでは、今後危険な飛行訓練が行われることは確実です。
 私たちのいのちとくらしを守るためには、「秘密協定」を無効にし、日米地位協定の抜本的な改定を実現させていかなければなりません。

⑤軍事研究や武器輸出を許さず、市民による監視の目を強めよう
日本の安全保障政策は、戦争放棄をした日本国憲法をなし崩していく歴史を経て、ついに集団的自衛権の行使、専守防衛からの逸脱にいたっています。そうした中、軍隊に対する制度面での規制をはかる、いわゆるシビリアンコントロールも弱体化されている現状があります。
日本でのシビリアンコントロールについては、憲法で内閣構成員の資格を文民とする規定をもうけているほか、2015年の防衛省設置法改正までは、日本におけるシビリアンコントロールの一形態として制度化されていた「文官統制」、つまり防衛官僚(文官)が制服組より優位な立場に立ち、制服組を統制するシステムがありました。しかしながら、法改正により、制服組である「統合幕僚監部」と陸海空の各「幕僚長」が、防衛官僚と対等、並列の立場となり、また部隊の活動や訓練などの運用を計画していた内局の「運用企画局」が廃止され、「統合幕僚監部」に一元化的に関与するよう組織が大幅に改められてきました。
南スーダンPKOの日報問題に続き、自衛隊のイラク派遣での日報の隠蔽など、自衛隊のシビリアンコントロールが機能していない現実が見せつけられました。
また、文民で構成されているとはいえ、日本版NSC(国家安全保障会議)で日本の安全保障に関わる事項が決定され、協議事項は特定秘密だとして、内容の検証ができない構造になっていることは極めて問題です。
2014年に武器輸出三原則を破棄して、あらたに防衛装備移転三原則を閣議決定した安倍政権の目論見は、武器・技術の輸出の拡大でした。幸いにして、現状さしたる成果はありません。また、2015年度に新設された「安全保障技術研究推進制度」を活用した大学・研究機関への助成では、日本学術会議が2017年3月に「戦争目的の軍事研究はしない」とする3度目の声明発出したこともあり、大学等の研究機関では助成の応募が抑制されています。
しかし一方で、世界各国の「死の商人」武器メーカーが一堂に会する「武器見本市」が、日本で開催されてもいます。それも外務省、経済産業省、防衛省が後援し、公営施設での開催です。
市民社会に軍事が浸透していくことに監視の目を光らせ、平和と民主主義の社会には、戦争と直結し人を殺すことになる武器・技術は相いれないものだという拒否感を持ち続けることが大切です。
 
(4)辺野古新基地建設を許さない沖縄のたたかい
沖縄県と県民多数の民意をないがしろにして辺野古新基地建設を強行する安倍政権が、辺野古側の海域に土砂を投入したのが2018年12月14日。防衛省の当初の計画では6か月で完成するとしていましたが、これまでの土砂投入量は、2019年末現在で埋め立て工事全体の土砂投入量の1%程度と大幅な遅れを見せています。辺野古新基地建設をめぐっては、あらゆる選挙で建設反対が幾度となく示され、2019年2月に行われた県民投票においても、沖縄県民の反対の民意が示されました。沖縄県の玉城デニー県知事は、辺野古問題を話し合うために米国政府も含めた三者協議を申し入れていましたが、安倍首相は何ら回答をしていません。沖縄県や県民の思いを尊重し、最低限でも工事を一時停止し、真摯に話し合うべきです。
2018年8月に沖縄県が、仲井眞元県知事が行った埋立承認を撤回して以降、国は、私人の救済を目的とする行政不服審査法を濫用し、沖縄防衛局という国の機関が「国民・私人になりすまし」て、審査請求と撤回の執行停止を求めました。審査をする国土交通大臣が、国の主張通りの採決を行ったため撤回が取り消され、土砂投入が開始されました。
沖縄県は国土交通大臣の採決を無効として、「関与取消訴訟」(2019年7月17日福岡高裁に県提訴、10月23日県敗訴判決、2020年3月26日最高裁で県敗訴確定 )と「抗告訴訟」(2019年8月8日、那覇地裁に県提訴)の二つの裁判を提訴し国と争っています。非常にわかりづらい裁判ですが、新基地建設問題はもとより、地方自治にもかかわる課題でもあり、裁判の行方を注視していく必要があります。
また、埋め立て海域には軟弱地盤や活断層の存在、サンゴの移植の課題、さらに360件に及ぶといわれる高さ制限を超えた基地周辺建造物の存在などがあり、辺野古の基地建設をすすめることは極めて困難であるといえます。そうしたなか、日本政府は、土木工学の専門家8人で構成する「普天間飛行場代替施設建設事業に係わる技術検討委員会」(以下「技術検討委員会」)を立ち上げ、軟弱地盤対策などの検討を行ってきました。そして2019年12月に開かれた第3回技術検討委員会で、防衛省は工事計画の見直し案をしめし、完成までの工期を当初の8年から12年、工費を3500億円から9300億円へと改めました。また、見直し案では、サンゴの移植に関して何ら触れられていないほか、埋め立て用の土砂については沖縄県内で全量調達するとしています。「普天間の危険性の一日も早い除去」を政府は口にしながら、今後少なくとも12年は普天間を固定化しようとしているのです。また、土砂採取にかかわる環境汚染を県内に広げ、建設にかかわる責任を県に押しつけようとしています。
一方、国が県に申請した設計概要の変更申請を沖縄県は承認しないことから、今後新たな裁判が起こされることになります。県の動きを注視し、県民のたたかいに固く連帯し、これまでに引き続き、辺野古新基地建設反対闘争を、民主主義、立憲主義、地方自治を取り戻す重要課題として位置付け、最大の反基地闘争としてとりくみをすすめていきます。

(5)東北アジアの平和と非核化を求めて               
①日韓両国の友好と朝鮮半島の平和を求めるとりくみ
韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権は、日米韓の軍事協力関係を重視した米国の圧力の中で、2019年11月22日「軍事情報包括保護協定」(GSOMIA)破棄通告の効力を停止すると発表しました。結果として、GSOMIAは同日から1年間の再延長が決定しましたが、韓国政府は、この措置について「いつでも協定を終了できる前提の決定だ」「協定の延長は日本の態度にかかっている」として、協定延長が条件付きでありかつ暫定的であるという趣旨の説明を付け加えています。
 日韓の対立は、これまでの経済的対立を基本に市民段階に及びつつあり、安倍政権に対する拒否感から日本製品の不買運動にもつながっています。韓国関税庁の統計では日本製ビールの輸入額については、2019年は前年比49.2%の減少となり、中国に1位を譲っています。また、日本政府観光局(JNTO)の発表では、2019年の韓国からの訪日客数(推計値)は、前年比25.9%減と大幅に減少しています。
 日韓対立を呼び込んだ徴用工問題に関して、韓国国会の文喜相(ムン・ヒサン)議長は、2019年12月18日、問題解決のための法案を国会に提出しました。日韓両国の企業と個人の寄付で「記憶・和解・未来財団」を設立したうえで、日本企業の寄付金を基本に、訴訟当事者以外の強制動員被害者(約21万8600人)全てを救済の対象として「精神的被害に対する慰謝料」を支給するとする内容です。しかし、寄付金が集まるかどうかは不透明であり、韓国大統領府を含め賛成が得られていません。
一方、徴用工裁判の原告弁護士らは、別途原告や日韓の司法関係者らで協議体を設立することを提案しています。文在寅大統領は、2020年の新年記者会見で、元徴用工訴訟の問題解決にむけ、原告側が創設を提案した日韓両国関係者の協議体に参加する意向を示し、その上で、日本政府に解決策を提示するよう求め協議を呼び掛けました。平和フォーラムは、日本政府が、これを機に過去の過ちと真摯に向き合い、韓国政府の提起を受け止めて、解決にむけて話し合いのテーブルにつくことを基本に、朝鮮半島と日本の真の友好関係構築できるようさらなるとりくみをすすめます。

②日朝国交正常化と朝鮮半島の非核・平和を求めるとりくみ
これまで3度の首脳会談を繰り返してきた米国と朝鮮は、2019年10月のストックホルムでの実務者会談でも何ら進展はありませんでした。朝鮮中央通信は、2019年12月末の朝鮮労働党中央委員会総会において、金正恩(キム・ジョンウン)委員長が、「米国が対話といいながら朝鮮を圧殺しようと二面的態度を取っている」と批判し、「朝鮮は一方的に約束に縛られる根拠はなくなった、そのせいで我々の世界的な非核化と不拡散のとりくみが冷え込んでいる」と述べ、「世界は遠からず、朝鮮が保有する新たな戦略兵器を目撃することになる」と主張したと伝えています。
2017年を最後にICBMの発射実験を停止し、段階的な非核化の提案を基本に制裁解除を求めてきた中にあって、朝鮮政府は、10月のストックホルムでの交渉以降、2019年末を米朝の交渉期限と設定して、射程距離の比較的短い弾道ミサイルなどの実験を繰り返してきました。これに対して、トランプ米大統領は、朝鮮が米国との対決姿勢を増す中、「私たちの関係は良好だ」として「金正恩委員長は非核化の合意にサインした。彼は約束を守る男だ」と述べ、米朝首脳会談での非核化合意を順守し米朝交渉の再開を求めています。しかし、ベトナム・ハノイでの首脳会談に象徴的な、朝鮮側からの提案を一方的にはねつける米国の態度では、交渉の進展ははかれません。米朝協議に臨んだ米国トランプ政権は、その責任を認識し、制裁措置の解除など具体的な方向を示し、今後も継続的・具体的な平和交渉を進めることが求められています。
 文在寅大統領は、年頭の記者会見において「今は朝米間の対話ばかり見るのではなく、南北協力を増進させながら、米朝対話を促進していく必要がある」と述べ、南北協力事業の例として、観光や、東京五輪の共同入場と単一チーム構成、2032年の五輪共同開催などを挙げ、南北関係の改善にとりくむ姿勢を明確に示しています。これに対して、ハリス在韓米大使は、あくまでも米朝関係の進展が先との見解を示し、また、朝鮮側も南北協力事業に関して消極的です。しかし、文在寅大統領は南北融和への意志を明確にしており、南北双方は「板門店宣言」「平壌共同宣言」に示された方向への確実な進展をめざすべきです。
 平和フォーラムは、日韓の市民連帯を基本に、東アジア市民連帯、日朝国交正常化連絡会に結集し、「板門店宣言・平壌共同宣言」と「シンガポール共同声明」を支持し、「包括的妥結、段階的履行」による非核化実現・平和協定締結へむけてとりくみをすすめます。

(6)民主教育を進めるとりくみ                      
2018年度に文部科学省が調査した学校におけるいじめ、不登校の件数は過去最多であり、厚生労働省が調査した児童虐待の相談件数も過去最多でした。子どもをとり巻く課題は複合的に絡み合い、厳しい状況が続いています。増え続ける児童虐待の背景の一つに貧困があることも指摘されています。2019年6月に成立した改正子どもの貧困対策推進法の規定にあるように、子どもの意見を尊重し、子どもの最善の利益を踏まえ、包括的な子どもの貧困対策に早急にとりくむ必要があります。2019年10月に施行された改正子ども・子育て支援法や2020年4月に入学する学生から適用される大学等修学支援法が成立しましたが、就学前教育における「質」の確保や対象が限定されているなどの課題が山積しています。子どもの権利条約や国際人権規約にもとづき、就学前・初等教育から高等教育までの無償化や教育費の私費負担軽減等が求められています。経済格差が教育格差につながらないようにしなければなりません。
「持続可能な開発目標(SDGs)」のSDG4はインクルーシブかつ公平・無償で質の高い教育を万人に保障することを目標としています。すべての人が包摂され教育を受ける権利が保障されることをめざし、SDG1(貧困をなくそう)、SDG16(平和と公正をすべての人に)などとともに、その完全実施にむけてとりくんでいく必要があります。平和・人権・環境・共生の視点を柱とした教育が一層重要であり、平和な社会を築いていくための教育が求められます。

(7)人権確立のためのとりくみ                
①日本で学ぶ在日コリアンへの差別を許さない
 最高裁が上告棄却の判断をし、大阪高裁・東京高裁の朝鮮高校生の無償化措置排除を適法とした不当判決が確定しました。また現在、朝鮮幼稚園を含め各種学校に位置づけられている外国人学校の幼稚園が、幼保無償化の措置から排除されています。朝鮮本国からは、「国交正常化への話し合いより、このような差別を止めることが先だ」との強い批判が寄せられています。安倍政権の東アジア蔑視と朝鮮敵視政策の中で、子どもたちの教育を受ける権利が侵害されていることを許すわけにはいきません。平和フォーラムが参加する「朝鮮学園を支援する全国ネットワーク」を中心に、在日本朝鮮人教職員同盟、在日本朝鮮人人権協会、また韓国の団体「ウリハッキョと子どもたちを守る会」などと連携し、多文化多民族共生を基本に、高校無償化、幼保無償化の朝鮮学校適用を求めてとりくみを強化します。
 
②ヘイトスピーチを許さず多文化多民族社会の人権の確立を求めて
在日外国人などに対するヘイトスピーチは、ここ数年、激しさを増しています。言葉の迫害、脅迫が、とくに在日韓国・朝鮮人の暮らす地域に集中して繰り返されており、一向に止む気配はありません。2016年6月にヘイトスピーチ解消法が制定されて以降、同法は一定の役割を果たしており、デモによるヘイトスピーチは減ってはいます。しかし、インターネット上ではひぼう中傷の言葉がいまだにあふれており、さらには、川崎市の多文化交流施設「市ふれあい館」(川崎区桜本)に対して、在日コリアンの虐殺を宣告する脅迫が、年賀状として送りつけられた事件などをみても、匿名のヘイトスピーチは先鋭化・悪質化している状況であると言わざるを得ません。
2019年12月には川崎市議会において、外国籍の住民を標的にしたヘイトスピーチに刑事罰を科すことを全国で初めて盛り込んだ「川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例」が、可決成立しています。罰則規定をともなうこの法律は、ヘイトスピーチが犯罪であることを規定した点で画期的であり、評価できるものです。また、2020年1月17日には、大阪市のヘイトスピーチ(憎悪表現)抑止条例が表現の自由を保障した憲法に反するとした住民訴訟の判決でも、ヘイトスピーチ抑止条例が「合憲」であるとした大阪地裁の判決が出されるなど、ヘイトスピーチ解消のとりくみは少しずつ前進をしています。引き続き、ヘイトスピーチをはじめとする差別と排外主義に反対し、理念法であるヘイトスピーチ解消法をより実効性の高いものとするとともに、ヘイト行為を終わらせるために、人種差別撤廃にむけた真に実効性のある包括的な法規制の確立を求めます。
ヘイトスピーチに代表されるような日本社会の東アジア市民にむけられた差別が深刻化している背景には、過去の侵略戦争と植民地支配に対する真摯な反省が無かったこと、戦後一貫して差別が放置されてきたことなどが挙げられ、また、日本政府による外国人労働者や在日コリアンなどに対する差別が日本人の人権意識の向上を妨げ、多文化多民族共生の社会の実現を拒んでいます。
平和フォーラムは、人権問題にとりくむ様々な団体と協力しつつ、「国連・人権勧告の実現を!実行委員会」に賛同・参加し、とりくみをすすめていきます。

③外国人の人権確立を
技能実習制度については、「実習」という名の低賃金・長時間労働、セクハラ、パワハラ、残業代の未払いやパスポートの取り上げなどの人権侵害が、国際的批判を受けています。また、本来就学目的であるべき留学生の多くが、出稼ぎ目的であることも指摘されており、多額の借金を背負い入国し、アルバイト代は留学先の日本語学校などに吸い上げられるという「日本の現代版奴隷制度」といわれるような実態があります。こうした現状を踏まえ、当面、現在の技能実習生や留学生の人権保護を求めるとともに、技能実習制度については廃止を求めていきます。
また、改正出入国管理法については、外国人労働者の人権をないがしろにしている「特定技能1号」の在留期間5年、家族帯同の禁止などの条件の撤廃を求めるとともに、出入国在留管理の強化ではなく、「外国人(移民)人権基本法(仮称)」など、外国人の人権が保障される法制度、政策の整備をもとめてとりくみます。
また、増加する外国人労働者の子どもたちは、義務教育の対象外とされていることや保護者に子どもを就学させる義務がないことなどから、2万人を超す不就学児童が問題となっています。また、就学案内を送っていない自治体も4割近く存在しています。外国人労働者の受け入れと合わせて、日本語指導など支援体制の充実を図る中で、子どもたちの教育を受ける権利を保障していくことが重要です。
 また、日本政府が難民を含めて移民を認めず外国人の滞留にきわめてきびしい姿勢で臨んでいることを反映し、入国管理センターにおいても人権侵害が横行しています。外国人労働者を受け入れにあたっては、国際的な理念にてらして、労働者を労働力としてではなく人間として扱う人権確立が求められます。
このため、引き続き平和フォーラムは、「マーチ・イン・マーチ実行委員会」や「移住者と連帯する全国ネットワーク」(移住連)等と連携をはかりながら、「移住者と連帯する全国フォーラム」の開催などにより、外国人労働者の権利確立をはじめ、真の多文化共生社会の実現をめざしてとりくみを進めていきます。

④性差別を撤廃し、女性の社会進出・地位向上をはかれ
「子どもの貧困対策推進法」が施行されて2020年は7年目を迎えます。しかし、子どもの貧困、とくにひとり親の子どもたちの相対的貧困率はいまだ50%に近い数字になっています。就業率が高いのにもかかわらず貧困率も高いのは、女性の勤労所得の低さに原因があり、貧困格差の課題を女性差別の課題と切り離すことはできません。「子ども手当」など、抜本的対策をめざします。
 日本の性的搾取に関する法律は他の先進国に比べ極めて遅れていると指摘されています。2017年6月、110年ぶりに強制性交等罪が改定され、「実父の性暴力」問題では、高裁において逆転の有罪判決がされたものの、問題が解決されたとは言えない状況です。2017年改正刑法は施行後3年の見直しが盛り込まれており、さらなる改正へと後押しするとりくみが求められます。
 女性差別撤廃条約にともない、1999年に「女性差別撤廃条約選択議定書」ができました。国内の司法で解決できなかった課題をCEDAWに通報して救済してもらえる「個人通報制度」や、組織的な侵害があ
る場合に調査・勧告できる「調査制度」があります。日本の司法制度の限界を救済するために必要な制度であり、「選択議定書」の批准が求められています。
また、2019年は、同性愛者の解放運動の起点となった「ストーンウォール事件」から50年目を迎え、6月に開催された「ワールドプライド」(STONEWALL50 WORLD PRIDE NYC)は、歌手のマドンナさんやレディー・ガガさんらが参加するなど、400万人が参加し史上最大規模のものとなりました。日本国内においても、各地においてレインボーパレード、プライドジャパン、レインボーフェスタなど、若い世代を中心に運動の大きな広がりを見せてきています。今まで声をあげづらかった性被害者が立ち上がった#MeToo運動やマナーとしての常識に疑問を投げかけた#KuToo運動などを支援していくとともに、世界でも大きな運動の広がりとなったLGBTの人たちと連帯し、誰もが人権を尊重される社会をめざしていきます。
平和フォーラムは、グローバル・ジェンダー・ギャップ指数2019で日本が過去最低の121位(153国中)となり、日本の女性の生きづらさを象徴したことを注視します。とりわけ順位が低い「経済」「政治」の分野での女性の社会的地位向上を進めるとともに、多様な性のあり方が受け止められる社会にむけて、I女性会議や性差別とたたかう様々な組織と連帯してとりくんでいきます。

⑤死刑制度廃止にむけて
「死刑廃止」が世界の潮流となっています。しかし、2020年1月17日に発表された、内閣府が5年に1度実施している世論調査では「死刑もやむを得ない」と容認する割合は80.8%で、4回連続で8割を超えています。「廃止すべきだ」は9.0%で前回より0.7ポイント減少しています。このような根強い容認の世論を背景にして、8年連続で死刑が執行されています。平和フォーラムは、「死刑をなくそう市民会議」に連帯し、今後しっかりとした議論を重ねながら廃止にむけてとりくみをすすめていきます。

⑥新型コロナウィルスの感染拡大にともなう課題ととりくみ
  3月6日、さいたま市は、市が備蓄するマスクを、新型コロナウィルス感染症対策の一環として、市内の保育所、幼稚園、学童クラブに配布することを決定しました。しかし、さいたま市の指導監督施設に当たらないことを理由に、「転売の可能性」を匂わす発言を交えながら、朝鮮幼稚園をその対象から外しました。感染予防・拡大の防止に奔走している中にあって、一部の子どもたちを、これら差別的感情に基づく、理由にならない理由をもって排除することは決して許されない、極めて悪質な行為です。平和フォーラムは3月13日「さいたま市の新型コロナウィルス感染症対策における朝鮮幼稚園排除に抗議する」声明を発出し、さいたま市に対して、即時に朝鮮幼稚園に対する謝罪と、マスクの配布を差別なく行うことを求めています。
 世界各地で新型コロナウィルスの流行に伴い、移民やマイノリテイに対する差別や排外主義的な言動が出ています。ヨーロッパではアジア系の人が暴行を受けることもあり、日本では中国人が入店を断られる事件などが起きています。新型コロナウィルス流行と結びついた差別やヘイトスピーチを許さないとりくみが必要です。
 また、改正新型インフルエンザ等特措法において、安倍政権に国民の私権制限につながる、強大な権限を与えたことに対しては、大きな懸念を抱かざるを得ません。本来、政府が行うべきは、検査体制や医療体制の充実、また、経済が縮小する中での社会的弱者に対する対策です。平和フォーラムは、新型コロナウィルス対策に名を借りた人権侵害が起きないよう、政府の施策に対する監視のとりくみを進めていきます。

⑦全日建関西生コン裁判支援を、権力の弾圧を許さない
4府県の警察による全日建関生支部に対する不当弾圧は止むことがありません。裁判維持も困難に思える不当な逮捕・起訴は、そのことに意味があるのではなく組合を潰し亡きものにするという徹底した意図が見えます。戦前・戦後を通じて多くの血を流しながら、憲法に位置づけてきた労働者の団結の権利を、今に生きる私たちは絶対に守らなくてはなりません。また、武健一委員長などの組合指導者は500日を超えて不当に勾留されています。検事や警察官による組合員への脱退強要などの不当労働行為、組合事務所への立ち入りや仲間との面談や電話を禁止する不当な保釈条件など、耳を疑う不法な人権侵害があたりまえのように繰り返されています。戦後の労働組合運動が経識したことのない事態であり、このような重大な人権侵害、労働者の基本権を奪う事態を容認するわけにはいきません。
一方、山城博治沖縄平和運動センター議長は辺野古新基地建設反対運動の現場で不当に逮捕され、微罪にもかかわらず5か月間も勾留されました。日本の司法制度においては、「人質司法」と批判される被疑者に対する違法とも言える長期拘留が問題になっています。日産自動車元最高経営責任者(CEO)のカルロス・ゴーン被告は、108日間の勾留の後保釈され、2019年12月31日現在レバノンに滞在しています。記者会見に臨んだゴーン被告は、99%を超える高い有罪率や長期にわたる身柄拘束、取り調べに弁護士が同席できないことなどを挙げ、日本の司法制度は「人道の原則に反する」と批判しています。法務省はホームページで「日本の刑事司法は,『人質司法』ではないですか」との問いに答える形で、「日本の刑事司法制度は、身柄拘束によって自白を強要するものとはなっておらず、『人質司法』との批判は当たりません。日本では、被疑者・被告人の身柄拘束について、法律上、厳格な要件及び手続が定められており、人権保障に十分に配慮したものとなっています」と答えていますが、武委員長や山城議長に対する不当な扱いを見る限り、このような問いの存在こそが、日本の司法制度のゆがみを象徴しているものと考えられます。
平和フォーラムは、山城裁判支援をたたかい抜き、問題は残りましたがたたかいの場に戻す事ができました。関生支部に対する弾圧に対しても、基本的人権への侵害との視点からとりくみを強化していかなくてはなりません。引き続き、各都道府県における「支援する会」の結成や報告会・決起集会の開催を進めるとともに、当該組合や弁護団を中心としたオルグ団による全国キャラバン行動に協力していきます。また、「支援する会ニュース」の毎月発行や、支援する会の個人会員・団体会員の拡大を進める中で、不当弾圧を許さないたたかいを進めていきます。

(8)核兵器廃絶に背をむける被爆国日本
①核兵器禁止条約の進展と核兵器廃絶にむけたとりくみ
2017年7月に国連で採択された核兵器禁止条約は、2019年内の発効が期待されましたが、3月31日現在、批准36カ国、署名81カ国であり、発効要件には達していません。
2020年はNPT(核不拡散条約)再検討会議が行われる予定であったため、核兵器廃絶にむけたキャンペーンが世界各地で行われてはいますが、核保有国の対応に変化はなく、むしろ、2019年8月のINF条約失効後、核戦争への懸念が高まってきています。
1月23日、「ブレティン・オブ・ジ・アトミック・サイエンス」(原子力科学者会報)が、「終末時計」は地球滅亡の危機まで昨年よりも20秒早まり100秒に差し迫っていると発表しました。INF(中距離核戦力全廃条約)条約の失効、イランや北朝鮮の核問題が解決していないことなどが理由として挙げられ、過去最短の表示は、安全保障環境がかつてない危機に直面していることを物語っています。
原水禁が事務局として参加する核廃絶NGO連絡会は、国会議員に対し核問題の意識を高めるための学習会の実施や外務省への交渉などを通じて、日本が核兵器禁止条約へ署名・批准するように取り組んでいきます。日本政府こそが、唯一の戦争被爆国として核兵器廃絶へむけて、早期に核兵器禁止条約に署名・批准するべきであり、核保有国の禁止条約への参加に尽力しなければならないはずです。
2021年までの実施へと延期されたNPT再検討会議に合わせ、原水禁、連合、KAKKINの3団体で核兵器廃絶を求める署名活動を軸に、核兵器廃絶にむけた他団体との交流をすすめることが運動の拡大のために必要です。また、NPT再検討会議を通じて、海外で活動するNGO団体などと連携し、世界の核兵器問題を共有していくことも重要です。

②核軍縮に逆行する世界とイラン合意のゆくえ
2019年8月2日のINF条約の失効にともない、世界の核兵器の9割を保有する米ロ間の条約は、2021年に期限を迎える新戦略兵器削減条約(新START)のみとなりました。条約の期限延長を求め、新たな削減交渉に踏み込もうとするロシアに対して、アメリカはこれまでの2国間条約ではなく、中国など核保有国を含めることを求め、その主張は平行線のままです。核兵器削減交渉の先行きは不透明です。
米国は、中露の中距離ミサイルに対抗して、小型化した核弾頭と中距離ミサイルの潜水艦への配備を発表しました。また、日米安保条約を楯に軍事的協力の強化を求め、日本への中距離ミサイル配備要求を匂わせています。国是とされる「非核三原則」に関わる大きな課題として、日本への中距離核ミサイル配備が現実化する状況があります。「非核三原則」の法制化も含めて、とりくみの強化が求められます。
2018年にアメリカが一方的に離脱したイラン核合意をめぐっては、2020年1月にイランが無制限のウラン濃縮に取りかかると宣言しました。しかし、イランは交渉の余地を残し、経済制裁が解除され、欧州からの経済支援が取り付けられれば、再び合意を遵守するとしています。中東全体に不安定要因をばらまくそもそもの原因が、アメリカの一方的な離脱であったことを忘れてはなりません。
原水禁は、「核と人類は共存できない」ことを基本に、NPT再検討会議の成功と核廃絶の明確な道筋の構築にむけて、核軍拡への道に決して後戻りさせないようとりくみの強化をめざします。

③核兵器の原料としてプルトニウムを考える
日本が保有する47トンにも上る分離済みプルトニウムは、一向に削減の目処は立たず、核兵器の原料でもあることから国際社会の懸念となっています。これ以上の増産はさらに問題を広げます。
日本は、国際社会の懸念を低減させるために、余剰プルトニウムを持たないことを国際公約としてきました。しかし、これまで多額の予算をつぎ込んできた核燃料サイクル計画はすでに破綻しており、日仏共同研究対象の高速実証炉(アストリッド)計画についても、2019年8月、開発計画の停止が決定しました。日本政府は、核燃料サイクルを根本から見直す必要があり、原子力政策とは、すなわち、核兵器転用の懸念のある問題だと認識すべきです。

④2019年もノーベル平和賞候補になった高校生平和大使
若者の平和活動として注目されている高校生平和大使は、2020年には第23代を選出します。また、2018年度よりノーベル平和賞候補へノミネートされ、より一層注目されています。
平和大使のみならず、核兵器の廃絶と平和な世界の実現をめざす「高校生1万人署名活動」を行う高校生は、被爆の実相の継承という課題もあります。。
原水禁は「高校生平和大使を支援する全国連絡会」を通し、平和運動の担い手として大いに期待がよせられる高校生平和大使、高校生1万人署名活動を支援していきます。
 
(9)安倍政権の原発推進政策と核燃料サイクルの破綻        
①行き詰る原子力政策―安倍政権の原発推進施策との対決
福島原発事故から9年目を迎えました。この間原発をめぐる環境は大きく変わり、原発の新増設は遅々として進まず、むしろ事故後21基もの原発が廃炉となるなど、時代は確実に原発「廃炉の時代」へと変わりつつあります。また、原子力政策の中心である核燃料サイクル計画も、もんじゅの廃炉による高速増殖炉開発のとん挫、六ヶ所再処理工場の存在意義の喪失、不透明な放射性廃棄物の処分などの政策全体が破綻をきたしています。さらに福島原発事故の廃炉作業は、この先長期に渡る中で安全・確実に進めていけるのかも懸念されます。
そして、多数の国民世論が脱原発を求めています。世界的にも原発からの撤退が国際的傾向となっており、安倍政権が進めているアベノミクスの経済政策の柱であった原発輸出もベトナムやトルコなどで次々と頓挫していることはその象徴です。
にもかかわらず、安倍政権はいまだ原発推進政策に前のめりで、原発再稼働、核燃料サイクルの推進など打ち出しています。2020年度の当初予算案では、原発の開発・延命のための予算をつけています。2019年度から始まった小型原子炉など新型原子炉の開発などに2.5億円増の9億円を計上し、高速炉開発の拡充を目的とした技術開発委託費には40億円を計上するなど、原子力を取り巻く現実を無視した姿勢を示しています。
一方で「復興五輪」を掲げ、オリンピック開催にむけ、福島原発事故の被害があたかもないかのように国内外にアピールし、被害者・被災者を切り捨てようとしています。安倍政権が進める原発推進政策の根本的転換が急務となっています。福島原発事故10周年を迎える2021年にむけ、引き続き安倍政権の原子力推進政策を断念させるとりくみが必要です。

②原発の再稼働を許さない 
福島の原発事故以降、これまで9基の原発を強引に再稼働しましたが、全電力に占める割合は3%にとどまり、2019年は1基も再稼働させませんでした。引き続き再稼働させない運動が求められます。
原発マネー還流問題で関西電力の原発再稼働、再・再稼働(高浜原発3号機)の見通しは不透明になっています。しかし高浜原発1号機、美浜原発3号機は原子力規制委員会の新規制基準に「適合」とされているだけに、今後の動向を注視する必要があります。
さらに、被災原発である女川原発2号機が2月27日に「適合」とされており、今後の動きを注視する必要があります。原発の再稼働阻止にむけて、地元住民や自治体とともに地元同意や避難計画などの問題をテコとして運動を展開することが必要です。
四国電力の伊方原発3号機に対して広島高裁(森一岳裁判長)は2020年1月17日、運転禁止を求めた仮処分の即時抗告審において、四国電力の地震と火山の評価の「過誤や欠落」を批判し運転を認めないとする決定を下しました。この決定は、各地で起こる差止め訴訟に大きな力を与えるものでした。
日本原電の東海第二原発は、首都圏に近く、30キロ圏内には94万もの人口をかかえた老朽原発です。周辺自治体の反対も強く、再稼働に対する「県民投票条例」の制定にむけた動きもでています。条例制定の動きは昨年女川原発について宮城でも盛り上がりました。今後、各地の原発立地地域でも同様のとりくみが起こることが予想され、それらの運動を支えていくことも重要です。
同じく、日本原電の敦賀原発2号機では、原子炉建屋直下の活断層のデータを数十か所も書き換えたことが明らかになりました。悪質なデータ改ざんは許せません。敦賀原発2号機の再稼働をさせないとりくみも強化していくことが必要です。
また、テロ対策施設(大型航空機の衝突を受けた際などに原子炉を遠隔で冷却する緊急時制御室などを備える施設)の建設が遅れている問題で、2019年4月24日、原子力規制委員会は再稼働にむけた審査後5年以内とされた設置期限の延長を原則認めないことを決め、九州電力川内原発(鹿児島県)はテロ対策施設の建設について、2020年3月17日を期限とする川内1号機や5月21日を期限とする2号機が、期限に間に合わず停止となることが予想されます。また関西電力の高浜原発3号機が8月3日までに、同5号機が10月8日までに停止となる予定です。各地の原発立地地域のとりくみと協力し、再稼働を許さないとりくみを強化していくことが必要です。

③行き詰る核燃料サイクル
六ヶ所再処理工場は1997年に完成予定でしたが、これまでトラブルや設計見直しなどが相次いだため24回も完工を延期し、現時点での目標は2021年上期に完成させるとしています。現在は、原子力規制委員会が、日本原燃の地震や事故対策が新基準に適合していることを示す審査書案をまとめている段階となっています。今後さらに、工事計画についての原子力規制委員会の認可、運転に際しての地元同意、避難計画の策定などが求められていきます。
原発の再稼働が計画通り進まない中で、作り出されたプルトニウムの使い道がないことになれば、余剰プルトニウムを持たないことを国際公約としている日本は、これ以上プルトニウムの保有量を増やすわけにはいきません。また、今後大半の原発が廃炉を迎え、さらにプルトニウムの行き先が失われていき、再処理する意味すら失われることが明らかです。
2020年1月、四国電力の伊方原発3号機、関西電力高浜原発3号機で、プルサーマル発電で使い終わったMOX燃料を取り出しました。国や大手電力は、原子炉で燃やした後のウラン燃料を化学的に処理(再処理)し、取り出したプルトニウムでMOX燃料を作り再び原発の燃料に使う核燃料サイクル政策をこれまで一貫して進めています。また、使用済みMOX燃料も再利用する構想ですが、現在建設中の六ヶ所再処理工場では、使用済みMOX燃料の再処理には対応できません。このため、新たな施設建設が必要となりますがそのための具体的計画はありません。
さらに、再利用の目途がたたないMOX燃料は、原発内でのプールで冷却されていますが、伊方原発では、広島高裁で地震や火山リスクの調査が不十分だと指摘された同じ敷地にあることも忘れてはいけません。
 この使用済みMOX燃料は発熱量が高く、通常のウラン燃料と同じレベルにまで冷却するためには百年もかかるともいわれ、長期に渡って熱と高い放射線を出し続けるため、プールで冷やしながら保管するしかありません。
現在までプルサーマルの導入は4基の原発にとどまっていますが、政府のエネルギー基本計画では、原発の再稼働すら進まない中で、16〜18基の原発でプルサーマルの導入をめざすとしています。
MOX燃料は、1体10億円(20年前の約5倍)を超えます。ウラン燃料と比べてもはるかに割高なMOX燃料をわざわざ使うことの経済的合理性すらありません。
このように、破たんした核燃料サイクル政策を転換しなければならないことは明らかです。使用済みMOX燃料はもとより通常の使用済み核燃料も含め再処理をすることは、処理できない危険な核物質を大量に生み出していくもので、未来の世代に大きな負の遺産となるものといえます。
高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場の課題では、この間、北海道平和運動フォーラムなどが、幌延深地層研究センターに関して、研究開始から20年程度で閉鎖するとする三者協定について文部科学省、日本原子力研究開発機構、NUMOに対してその厳守を求めてきました。原水禁としても現地の運動団体と協力して研究主体の日本原子力研究開発機構との交渉を求めてとりくみを強化することが必要です。

④エネルギー政策の転換を求めるとりくみ 
(ア)地球温暖化対策のための脱炭素化の推進
2020年1月より「パリ協定」を実施するにあたり、2019年12月に開かれた国連気候変動枠組み条約第25回締約国会議(COP25)において、地球温暖化対策の強化を求める文書が採択されました。削減目標を引き上げる直接的な表現は見送られ、二酸化炭素の排出量を国家間で売買するための「排出権」ルールについては、2020年に行われる次回会合へと持ち越されました。日本は、「パリ協定」の実施にむけ、2019年に「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」を閣議決定していますが、石炭火力発電を温存し、具体的な温室効果ガスの削減については曖昧な内容としています。環境問題に関する政策決定は縦割り行政であり、環境省だけでなく、経済産業省、外務省も決定権限を有する部分があるため、政府が主導し、抜本的な対策を打ち出していくことが不可欠です。
また、再生可能エネルギーは急速に拡大し、世界の総発電量の4分の1を超えていますが、日本の発電量は16%程度しかなく、環境負荷の大きい石炭火力発電が中心となっています。
現在、ESG(環境・社会・企業統治)を重視する企業は、再生可能エネルギーへの転換を急速にすすめています。再生可能エネルギーを利用した企業のあり方が、競争力として見られおり、脱炭素化が大きな鍵となっています。国連も提唱する責任投資原則(PRI)は、投資家や金融市場が及ぼす影響力を認識させるものです。問題のある化石燃料ではなく、再生可能エネルギーに投資すべきであり、責任投資原則に則った投資が行われるように働きかけなくてはなりません。
技術革新に頼るのみならず、エネルギー政策を転換することは、日本にとって地球温暖化による自然災害対策を行っていくことと並行すべきものであり、一刻の猶予もありません。

(イ)必要性が高まる発送電分離と送電網の有効活用
電源の分散や送電網の強化は全国共通の課題です。明確な発送電分離を確立するとともに、中央集中型の発送電形態を改めることが求められています。
2020年4月、発電と送配電部門を切り離す「発送電分離」が電力システム改革の総仕上げとして実施されますが、公正な競争環境で新電力の参加が促進されるような新制度でなければなりません。

(ウ)「原発ゼロ基本法案」制定により再生可能エネルギーの推進を
2018年3月に衆議院に提出され、いまだ審議されていない「原発ゼロ基本法案」を一刻も早く法律として制定する必要があります。「脱原発」を進めるというだけではなく、再生可能エネルギーへとシフトすることで、地域の特色を生かした地産地消のエネルギー事業など、地域経済の活性化においても有効なものとなります。
原水禁は2005年、2011年に原発ゼロ社会にむけたエネルギー政策の提言をまとめてきました。とくに、福島原発事故以降の原子力政策の行き詰まりの中で、改めて原水禁としてのエネルギー政策が求められており、福島原発事故10周年の2021年にむけてエネルギー政策をまとめるように検討を進めていきます。
 
(エ)重要性を増すさようなら原発1000万人アクションのとりくみ
福島原発事故以来、さようなら原発1000万人アクションは、全国での「脱原発」運動に携わる市民をつなぐ運動体として発展し、原水禁・平和フォーラムはこの中核を担い運動を推進してきました。
引き続き、安倍政権の原子力推進政策に抗し、脱原発運動の強化を図らなければなりません。2021年福島原発事故10周年を見据えながら、運動の高揚をはかっていくことが重要です。
今年度は9月と2月に全国集会の開催を予定し、また野党共同で提出された「原発ゼロ基本法案」の国会での早期審議入りを求める行動や関電原発マネー還流問題などの運動にも協力していきます。

(10)ヒバクシャの援護と連帯のとりくみ                 
①急がれる被爆者課題の解決
ヒロシマ・ナガサキの被爆者(「被爆者健康手帳」所持者)は、2019年3月末の統計で平均年齢82.65才、2017年度末より9,055人減って全国で14万5,844人となり、1981年末のピーク時の37万2,264人の39.2%となっています。被爆者が年々高齢化し、人数が減って行く中で、残された被爆者援護課題の前進にむけた運動を強め解決を急がねばなりません。
原爆被爆者に対する原爆症認定は、粘り強い被爆者のとりくみや原水禁運動を通じ、裁判闘争を中心にとりくまれ前進がはかられ、その結果、2008年に採択された新しい原爆症認定に関する方針がだされました。しかし、その後も認定却下処分が相次ぎ、裁判所の判決により取り消され続けてきました。現在も名古屋、広島、福岡の各高裁などで争われていますが、行政の頑なな姿勢によって被爆者の人権がいまも侵され続けていることは問題です。
また、行政の頑なな姿勢は、これまでの在外被爆者、被爆体験者、被爆二世・三世に対しても同じです。原爆の被害を過少に評価し続け、被爆者の立場に立とうとしない姿勢が核兵器の容認につながっていきます。被爆74年を超えて、今もなお被爆者のたたかいは続いています。私たちは被爆者のたたかいを支援し、政府の姿勢を正していかなければなりません。

②差別のない在外被爆者の援護を
戦後、祖国へ帰還した在外被爆者への援護は、日本の戦争責任・戦後責任と重なり、戦後74年を過ぎても重要な課題です。これまで在外被爆者の援護の水準は、国内に居住する被爆者の水準と比べて大きな格差がありました。原水禁は、在外被爆者自身の裁判闘争を支援し、「被爆者はどこにいても被爆者」であるとして、差別のない援護の実現にむけてとりくんできました。また。在外被爆者の権利を制限していた厚生労働省公衆衛生局長の402号通達(被爆者手帳を交付されていても、外国に出国や居住した場合は、健康管理手当の受給権が失効する)は、その違法性が最高裁でも認められました。2015年9月8日には最高裁で「在外被爆者にも医療給付がなされるべき」との判決が下され、制度上の不平等は大幅に改善しました。しかし、長い年月の経過の中で、国外移住によって被爆を証明する証人が見つけられない、国交がないことで在朝被爆者には実質的に適用されていないなど、被爆者健康手帳の交付にさえ多くの課題が残されています。
在朝被爆者は、2007年段階で384人が確認され、原水禁は、幾度となく訪問・協議を重ね、被爆者支援の道を探ってきましたが、緊迫する日朝関係の中で困難な状況が続いています。この間、米朝首脳会談の実現、南北間での対話により、日朝国交正常化にむけた進展も期待されます。2018年度も、原水禁は訪朝団を派遣し、在朝被爆者の実態把握と今後のとりくみの協議、帰国しての厚労省交渉を行っています。戦争責任・戦後責任の問題とともに、高齢化する在朝被爆者の課題前進にむけたとりくみも急がれます。

③「被爆体験者」に援護法の適用を
被爆者認定の地域である爆心地より12km圏内で被爆したにもかかわらず、長崎市域外(長崎市は東西約7km)であったことを理由に「被爆体験者」と呼ばれ、被爆者援護法の枠外に置かれている被爆者は、自ら課題の解決を司法の場に求め、裁判闘争を続けていましたが、第一次訴訟、第二次訴訟と敗訴してきました。
とくに第二次訴訟の長崎地裁で、「自然放射線による年間積算線量の平均2.4mSvの10倍を超える25mSv」前後の被曝での「健康被害の報告、研究に照らすと、原爆の放射線により健康被害を生ずる可能性」があったとし、米軍による空間線量率測定値に基づいて推定した放射性降下物による外部被曝線量が25mSv(原爆投下後1年間)を超えた原告10人のみについて「被爆者健康手帳」を交付すべきとしましたが、その後の高裁判決で覆されました。その中で裁判所は100mSv以下の健康影響を全面否定しました。低線量被曝の健康影響を軽視した判決で許すことはできません。福島原発事故の被曝問題にもつながるもので、引き続き「被爆体験者」を支援し、被爆地域の拡大と被爆者認定、被害の実態に見合った援護を勝ち取っていく必要があります。

④被爆二世・三世の人権確立を求める運動を支援しよう
被爆者援護法の枠外に置かれている被爆二世・三世は、父母や祖父母の原爆被爆による放射線の遺伝的影響を否定できないなか、健康不安や健康被害、社会的偏見や差別などの人権侵害の状態に置かれてきました。被爆二世の全国組織である「全国被爆二世団体連絡協議会(全国被爆二世協)」は、このような被爆二世問題の解決のために、①国家補償と被爆二世への適用(「5号被爆者」として被爆者援護法に位置づける)を明記した「被爆者援護法」の改正を国(厚生労働省)や国会に対して要求してきました。
 全国被爆二世協は、国内での課題解決の進展が全く見られない中にあって、国連人権理事会の場で被爆二世の人権保障を日本政府に求める運動をスタートさせるとともに、国家賠償を求め、2017年2月17日に広島地裁、2月20日には長崎地裁に「原爆被爆二世の援護を求める集団訴訟」を起こしました。このとりくみを通じ被爆二世協は問題の所在を社会的に明らかにし、被爆二世を援護の対象とする国による立法的措置の契機とすることをめざしています。
父母や祖父母の被爆体験を家族として身近に受け継ぎ、自ら核被害者としての権利を求め、核廃絶を訴えている被爆二世協の運動は、今後の原水禁運動の継承・発展にとっても重要です。

⑤被曝労働者との連帯を
福島原発事故の収束作業や除染作業にあたる労働者の被曝問題が大きな課題となっています。高線量の中での作業や劣悪な労働環境がもたらす被曝は、労働者の健康に多くの有害な影響を与えるもので、福島原発事故の収束作業にかかわらず、原発労働者が「安心・安全」に働くための労働者の権利の確立は、全ての原子力施設での労働の基本に据えなければなりません。
原発労働は、従来から工事の下請け企業による雇用が中心で、雇用や労働環境の問題はなおざりにされてきました。被曝問題だけでなく、危険手当てのピン撥ね、パワハラ等、労働者の基本的な権利が侵害される事例が日常的に起きています。また、外国人労働者や外国人技能実習生による被曝労働の問題も浮上しています。東京電力は、2019年4月から始まった新たな在留資格「特定技能」の外国人労働者を、福島第一原発の廃炉作業などで受け入れる方針を明らかにしました。きわめて専門的で危険な現場で、しかもコミュニケーション力や持続的な被曝健康管理の問題などに言及することのないままの、安易な外国人雇用は問題です。外国人を始め労働者の安全や権利が確保されず、使い捨ての労働力としか見ない企業の姿勢は決して許されません。
原発労働者をはじめ全ての被曝労働者に健康管理手帳を交付し、個人被ばく線量を記録し、定期的に健康診断を実施し継続して労働者の健康を管理することが大切です。法の遵守を含め、とりくみが必要となっています。

⑥世界の核被害者との連帯を
原水禁運動は、国内の核被害者の支援・連帯はもとより、世界の核被害者との連帯を重要な課題として受け止めとりくんできました。核の「軍事利用」や「商業利用」では、とりわけ核のレイシズムともいわれる差別と人種的偏見による人権抑圧の下で、先住民に核被害が押しつけられ続けてきました。原子力利用は、ウラン採掘の最初から放射性廃棄物処分の最後まで、放射能汚染と被曝をもたらします。原水禁は、米・仏などの核実験による被害者、ウラン採掘現場での被害者、チェルノブイリの原発事故での被害者など、これまで多くの核被害者との連帯を深めてきました。
原水禁は、今後とも、差別と抑圧の厳しい現実の中でたたかっている世界中のヒバクシャ=核被害者と連帯し、ヒバクシャの人権と補償を確立し、核時代を終わらせるために運動の強化が求められています。

⑦高校生平和大使のとりくみなど被爆体験の継承を 
被爆体験の継承の課題では、高齢化する被爆者に直接話が聴ける時間は限られてきており、被爆体験の継承は焦眉の課題となっています。とくに継承活動を進める高校生1万人署名活動・高校生平和大使の運動に参加する高校生のなかに被爆の実相を継承するとりくみが広がっています。引き続き原水禁・平和フォーラムが中心となって「高校生平和大使」の運動を支援していきます。

(11)山積する福島課題へのとりくみ
①困難な廃炉作業と巨額な廃炉費用
東日本大震災・福島原発事故から9年が過ぎましたが、依然として事故の収束作業は難航し、廃炉にむけて最も難関といわれる溶融燃料(デブリ)の取り出し作業は極端に高い放射線に阻まれ、現在までデブリの全容を把握するには至っておらず、取り出しの技術の確立の目処も立っていません。2019年に政府・東京電力は、5回目の改訂となる廃炉行程(ロードマップ)を明らかにし、その中で事故から30~40年後に廃炉を終えるとの目標は変えず、今後の手順を示しましました。使用済み燃料の取り出しはすでに遅れ、最難関のデブリの取り出しなど具体像を書き込めませんでした。しかし、工程表通りにいかないことは、これまでの8年間のとりくみをみれば明らかで、さらに長期化することも予想されます。また、廃炉費用も21.5兆円と見積もられていますが、工事の長期化、人材確保、廃炉にむけた研究開発など様々なコストが膨らむ可能性があり、廃炉費用も巨額に上ることが予想されています。
また汚染水の問題も今後の大きな課題となっています。政府の小委員会はすでに論議が尽くされたとして判断を政府に丸投げしていますが、一方的な政府の決定で汚染水の海洋放出などが安易に決められる恐れがあります。環境破壊をさらに拡大しかねない汚染水問題について、現地や生産者などとの連携が重要となっています。

②避難生活と政府支援の打ち切り
被災地福島では、県内に11,084人、県外に31,608人、不明13人の合計42,705人(2019年10月5日復興庁調査)の方々が、今なお長期の避難生活を余儀なくされています。さらに自主避難者などこの数字に含まれない被災者も多数おり、福島県・復興庁の調査では十分に避難の実態が反映されていないのが現状です。
復興庁が発表した、2019年3月末現在の震災関連死と認定された人の数は、福島県内で2,272人、約9割が66才以上の高齢者で占められています。福島原発事故の影響によるふるさとの喪失や、生業を奪われたこと、長期にわたる避難生活や将来への不安などが原因にあげられます。
一方、帰還困難区域を除いた居住制限区域・避難指示解除準備区域では、除染作業によって年間被曝量20mSvを基準にそれを下回る地域から避難指示が解除されています。しかし、20mSv/年という数字は、国際放射能防護委員会(ICRP)が緊急時の基準として示しているもので、これまでの国内基準(1mSv/年)の20倍もあり許される基準ではありません。
また、避難指示解除に合わせて、帰還を強要するかのように住宅支援などの補償が打ち切られており、避難者は補償が打ち切られても避難し続けるのかの厳しい選択を迫られています。
このように、政府には被害者に寄り添う姿勢が全くないばかりか、原発事故の早期幕引きと被害の矮小化をはかる被害者を切り捨ての「棄民」政策と言わざるを得ません。
 
③国や東電の加害者としての責任を明確化するとりくみ
福島原発事故の刑事責任を求めて被害者らが訴えた「福島原発刑事訴訟」は、2019年9月19日に東電経営陣を無罪とする判決が下りましたが、現在、控訴し高裁で新たな裁判がはじまります。引き続き裁判支援をし、企業の経営責任を厳しく追及していくことが必要です。
また、全国で起こされている国賠訴訟に加え、各地で東電に対し求めた裁判外紛争解決手続き(ADR)を、事故責任の当事者である東電が拒否する事案が裁判となって争われています。
国や東電の原発事故被害者への不誠実な態度は、「事故の原因は予想を超えた津波による自然災害にある」として、事故の責任から逃げていることが原因です。国や東電の加害者としての責任について、裁判闘争などを通じて明らかにしていかなければなりません。
 
④子どもや住民の「いのち」を守れ
福島県は「県民健康調査」において、福島原発事故当時、概ね18歳以下であった子どもたちに甲状腺(超音波)検査を実施してきました。2019年 3月末現在、2018年末より 6人増えて218人が甲状腺がんまたはがんの疑い、174人が手術を受け(うち1人は、術後良性腫瘍と診断)ています。福島県立医科大学で手術を受けた集計外の11人(2018年7月の速報。県民健康調査・二次調査後の経過観察中に診断された症例は、「県民健康調査」で報告される集計には含まれていない。)を含めると、少なくとも甲状腺がんないしがんの疑いが229人、確定者が185人となっています。原発事故によって放射性ヨウ素が放出され、福島県をはじめ広範囲の住民が放射性プルーム(放射性雲)の正確な情報も知らされずに甲状腺被曝し、甲状腺がんを始めとする健康リスクに曝されました。そもそも事故がなければ約30万人もの福島県の子どもたちがこのような甲状腺検査を受ける必要もありませんでした。国は事故を起こし人々を被曝させた責任を認め、少なくとも「県民健康調査」で甲状腺がん・疑いと診断された全ての人々を「事故による健康被害者」として認め、生涯にわたる医療支援、精神的ケア、生活・経済支援等を行うべきです。
一方、原子力規制委員会は「線量に大きな変動がなく安定しているため、継続的な測定の必要性は低いと判断した」として、福島県内にあるモニタリングポストの削減が進んでいます。さらにトリチウムなどを含む汚染水の海洋放出を行おうとしており、被災者の不安が拡大しています。被災者に寄り添う姿勢が求められています。

(12)日米貿易協定など通商交渉に対するとりくみ
2019年12月4日に日米貿易協定が国会で承認され、2020年1月1日に発効しました。2018年12月の環太平洋経済連携協定(TPP11)や2019年2月のEUとの経済連携協定に続き、巨大な自由貿易圏(メガFTA)の誕生は、とくに農林畜産物の関税の大幅引き下げや撤廃、輸入割当の拡大などにより日本の農林畜産業に甚大な打撃を与えることは明白です。また、過去最低となった食料自給率(37%)のさらなる低下、安全な食の確保にも大きな影響を与えることは必至です。
今後、日米間では次の交渉課題を決めて、再交渉が行われることになっています。そこでは、農畜産物などの物品だけでなく、食の安全や医療・医薬品、投資、政府調達、労働、為替条項など、TPP協定を超える広範囲な課題が予想され、今後もその動きを注目する必要があります。
一方、2013年に始まった東南アジア諸国連合(ASEAN)に日本・中国・韓国など16ヶ国が参加する「東アジア地域包括的経済連携(RCEP)」の交渉は、インドが不参加のままに今年中の合意が行われる見通しになってきました。世界の人口の約半分、貿易額の3割を占める巨大な地域での通商協定となることから、その動向も注視する必要があります。
しかし、こうした通商交渉の内容はほとんど明らかにされていません。とくに日米協定は、2020年11月のトランプ米大統領の再選を後押しするために拙速に結ばれたものであり、国会での野党の追及にも関わらず、交渉経過や内容が明らかにされず、市民や国会をないがしろにする安倍政権の姿勢がここでも露呈しました。こうしたことから、今後、徹底した情報公開や市民との意見交換を求めていく必要があります。また、世界的にも行き過ぎたグローバリズムによる格差の拡大、新自由主義経済に対する市民の反対の声も広がっていることから、グローバリズムの問題も検討していく必要があります。
平和フォーラムは「TPPプラスを許さない!全国共同行動」など、関係団体と連携を取って学習・集会の開催や政府交渉、パンフの作成などを進めます。

(13)食をめぐるとりくみ
通商交渉の動きは食に関しても大きな影響を与えるものです。とくに日米間では、以前から食の安全規制に影響が出ていました。2019年5月に日本政府は、牛海綿状脳症(BSE)対策として、これまで制限をしていたアメリカからの牛肉の輸入制限を撤廃しました。また、アメリカからの要望が強かった遺伝子組み換え(GM)食品の表示制度も秋に改定され、流通拡大が図られようとしています。
さらに、新しい遺伝子操作であるゲノム編集技術を用いた食品が、任意の届け出だけで表示不要のまま昨年10月から流通が可能になりました。アメリカではすでにゲノム編集された大豆が流通していることから、日本への輸入も予想されます。消費者団体ではゲノム編集食品の規制と表示を求める活動を行っています。
一方、2015年以降、農薬の残留基準値が徐々に緩和され、輸入農産物の検査体制にも影響を与えています。また、日本は単位面積当たりの農薬の使用量が世界的にも多く、発がん性や環境への影響も指摘されています。消費者団体などからは有機農産物の拡大や学校給食への導入を求める運動も起きています。
消費者庁は現在、「食品添加物」についての表示改訂の検討を行っています。平和フォーラムも参加する「食の安全・監視市民委員会」では、規制の緩和につながることのないように、問題点をまとめたパンフの作成などを行っています。こうした運動を注視しながら必要なとりくみを進めていきます。

(14)水・森林・化学物質・地球温暖化問題などのとりくみ
地球規模での温暖化や気候変動、異常気象による災害の多発、プラスチックごみによる海洋汚染など、環境問題は一層深刻になっています。
地球温暖化問題では、原発とともに、石炭火力発電所を推進する日本のエネルギー政策は、世界的に批判を受けています。その抜本的な見直しと、二酸化炭素削減などの目標達成のための実行性をともなう仕組みづくりが早急に求められています。また、住民や農民などが身近な地域資源を活用したバイオ燃料や太陽光発電など地域分散型の再生可能エネルギーの事業を拡大するための法・制度の確立を求めていくことが必要です。
水問題については、合成洗剤などの化学物質の排出・移動量届出制度(PRTR制度)を活用した規制・削減や、化学的香料による健康被害の「香害」問題への早急な対策など、化学物質の総合的な管理・規制にむけた法制度や、有害物質に対する国際的な共通絵表示制度(GHS)の合成洗剤への適用などを求めて運動を展開していく必要があります。また、沖縄等の米軍基地を発生源とする有機フッ素化合物による水汚染問題もとりくみを進めていく必要があります。
水の公共性と安全確保のため、今後も水循環基本法の理念の具体化や、「水道法改正」による水道事業民営化の動きを注視し、水道・下水道事業の公共・公営原則を守り発展させることが、引き続き重要な課題となっています。
世界的な森林の減少と劣化が進み、砂漠化や温暖化を加速させています。日本は世界有数の森林国でありながら、大量の木材輸入により、国内の木材自給率は低迷してきましたが、最近は、国産材の使用拡大施策などが図られています。また、昨年から始まった「森林環境譲与税」を活用した森林整備、担い手育成なども重要になっています。一方、様々な通商協定による木材製品の貿易への影響を注視する必要があります。今後も、温暖化防止の森林吸収源対策を含めた、森林・林業政策の推進にむけて、「森林・林業基本計画」の推進、林業労働力確保、地域材の利用対策、山村における定住の促進などを求めていくことが必要です。

(15)食料・農業政策のとりくみ
日本農業は長期にわたって、農業就業人口の減少や高齢化、農業所得の大幅減少、耕作放棄地の増加が続き、急速に農業生産の基盤が崩壊しつつあります。
安倍首相は「世界で一番企業が活躍しやすい国にする」として、企業のための規制緩和や国家戦略特区の設定などを押し進めています。とくに農業分野では「農業の成長産業化」のかけ声のもと、「規制改革推進会議」等が主導する急進的な「官邸農政」が進められてきました。これらは、地域社会や国土保全に貢献している農業の多面的機能を軽視し、農村地域を支えてきた多様な担い手の切り捨てにつながります。また、過去最低となった食料自給率は、今後の貿易自由化によってさらなる低下が予想されます。
こうした中で、今後の中期的目標を示す「食料・農業・農村基本計画」の改定が3月末に行われます。また、昨年から始まった国連の「家族農業の10年」は、食料保障、生物多様性、環境持続可能性の実現のために、農業の果たす役割を確認し、促進するとしています。さらに国連の「持続可能な開発目標」(SDGs)でも、持続可能な農業推進がすべての国の目標とされました。
農民・消費者団体と協力し、食料自給率向上や所得補償制度の拡充、食品の安全性向上などの法制度確立と着実な実施を求めていく必要があります。また、各地域でも、食の安全や農林水産業の振興にむけた自治体の条例作りや計画の着実な実施も重要です。

2.具体的なとりくみ                              
(1)改憲発議・国民投票への動きを許さず、憲法理念を実現するとりくみ
①戦争国家づくりを推し進める安倍政権に対し、「総がかり行動実行委員会」「安倍9条改憲NO!全国市民アクション」主催の共同行動にとりくむとともに、「戦争をさせない1000人委員会」独自の諸集会・行動、宣伝活動を展開します。

②戦争法の廃止・憲法改悪の阻止のとりくみを引き続き全力でとりくみます。このため、「安倍9条改憲NO!全国市民アクション」の署名運動にとりくみます。

③自民党による改憲に対抗するとりくみを強め、立憲フォーラムと協力し、院内外での学習会などを行いま
す。中央・東京での開催とともに、ブロックでの開催を求め協力します。また、機関誌「ニュースペーパー」
での連載企画や冊子発行、論点整理のホームページなどを適宜、情報発信します。

④新しい時代の安全保障のあり方や、アメリカや東アジア諸国との新たな友好関係についての大衆的議論
を巻きおこすとりくみを引き続きすすめます。

⑤2015年以来の実行委員会によるとりくみを継続し「平和といのちと人権を!5.3憲法集会」(東京・有明防
災公園)を開催し、安倍政権とたたかう諸団体・個人の総結集をめざします。あわせて、全国各地での多様
なとりくみを推進します。

⑥「憲法理念の実現をめざす第57回大会」(護憲大会)は、下記日程で滋賀県・大津市にて開催します。
11月7日(土)午後 開会総会
11月8日(日)午前 分科会
11月9日(月)午前 閉会総会

⑦戦争犠牲者追悼・平和を誓う8・15集会を千鳥ヶ淵国立戦没者墓苑で開催します。
  8月15日(土)11時58分~

(2)日米軍事一体化と専守防衛の枠を超えて拡大する日本の防衛政策
①全国基地問題ネットワークの組織強化をすすめ、自衛隊基地や米軍基地の新設、基地機能の強化およ
び日米共同訓練等に反対する各都道府県組織のとりくみを支援していきます。

②日米地位協定の抜本的な改定をもとめる諸団体との連携を追及し、学習会の開催、政府要請などを進
めていきます。

③全国基地問題ネットワーク、オスプレイと低空飛行に反対する東日本連絡会と連携して、外務省・防衛省
等、および関係自治体への要請行動をとりくみます。また、関係自治体にむけたパンフレット、情宣用のリ
ーフレット等を発行します。

④専守防衛から逸脱する装備・技術研究に反対し、防衛予算の拡大に反対するとりくみを行います。また、
憲法9条理念の実現にむけ、自衛隊のあり方を考えるとりくみを追及します。

⑤人権問題にかかわる自衛官の隊内いじめや自殺などに関心をよせ、「防衛大人権侵害裁判に支援する
会」等のとりくみに協力していきます。

⑥防衛装備移転三原則に基づく武器・技術の輸出に反対し、政府援助をやめさせるとりくみを追及しま
す。

(3)辺野古新基地建設を許さない沖縄のたたかい
①普天間基地の即時運用停止、辺野古新基地阻止のために、沖縄平和運動センターのよびかけに応じ
支援し、協力していきます。

②沖縄のたたかいの拡大強化を図るため、戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会に結集し
て新基地建設反対のとりくみを行うほか、「止めよう!辺野古埋立て」国会包囲実行委員会、「辺野古土砂
搬出反対」全国連絡協議会などの市民団体との共闘を追及します。また沖縄等米軍基地問題議員懇談会
に結集する国会議員と連携し、対政府交渉や院内集会等を行っていきます。

③平和フォーラム沖縄事務所は、東京平和運動センター等の協力を得ながら、2020年度も当面継続し、
沖縄からの情報発信に努めます。また、辺野古新基地建設のたたかいが長期にわたることから、より持続
的なたたかいが行えるよう体制の見直しを進めます。

(4)東北アジアの平和と非核化を求めて
①東アジアの平和体制・非核化実現のため、板門店宣言・平壌共同宣と米朝共同声明での合意事項を支持し、一方で米韓軍事演習など軍事的恫喝や制裁措置の強化などに反対する運動を進め、日米韓の政府への要請にとりくみます。
国際平和機構「コリア国際平和フォーラム(KOREA INTERNATIONAL PEACE FORUM、略称KIPF)」に「東アジア市民連帯」の枠で参加し、国際的な連携の強化に努めます。

②東北アジアの緊張状態や「制裁」による在日コリアンの人権侵害の動きに対して、「東アジア市民連帯」「日朝国交正常化連絡会」および「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」など広範な組織と連携しながら、対話と友好のとりくみをすすめ、政府・外務省などに対する働きかけをおこないます。

③日朝国交正常化連絡会のとりくみを強化し、日朝平壌宣言に基づく日朝国交正常化実現を求めます。

④植民地支配責任・戦後責任問題の解決のために、日韓連帯を基本に、「強制動員問題解決と過去清算のための共同行動」とともにとりくみます。

(5)民主教育を進めるとりくみ
①育鵬社や教育再生機構が大阪府岸和田市の企業と結託した、教科書展示会での不正アンケート問題では、大阪の運動団体と連携し、大阪市議会での追及に取り組むとともに、公正取引委員会への資料提供などを通じて不当採択の問題として排除勧告などを引き出すようとりくみをすすめます。

②政権の意図に偏った恣意的な教科書検定の実態を明確にし、全国の市民団体および韓国のNGO「アジアの平和と歴史教育連帯」とともに、バランスのとれた教科書の記述内容を求めてとりくみをすすめます。リーフレット「開かれた教科書採択を」を作成し、6月上旬に、都道府県運動組織に配布します。また、教科書展示会での意見反映を行います。

③憲法改悪反対のとりくみと連動し、「修身」などの復活を許さず、復古的家族主義、国家主義的教育を許さないとりくみを展開します。

④人に優しい社会へのとりくみを様々な方向から強化し、貧困格差を許さない方向からも、教育の無償化へのとりくみを強化します。

⑤歴史教育課題・道徳教育課題に対応するため、問題・課題を共有し授業実践の還流を目的としたホームページを市民等の協力のもと、人権を大切にする道徳教育研究会として「道徳教科書/もうひとつの指導案―ここが問題・こうしてみたら?」(https://www.doutoku.info)を作っていきます。

(6)人権確立のためのとりくみ
①「朝鮮学園を支援する全国ネットワーク」など、全国各地や海外のさまざまな動きに対応し、連携した朝鮮学校支援のとりくみをすすめます。

②実効性ある人権救済法の制定と国際人権諸条約・選択議定書の批准にむけ、「国内人権機関と選択議定書の実現を求める共同行動」や日弁連のとりくみに参加・協力します。「国連・人権勧告の実現を!」実行委員会に参加・協力し、日本政府に国連の人権勧告を遵守するよう求めるキャンペーンをとりくみます。

③狭山差別裁判第3次再審の実現など、冤罪をなくすとりくみに参加・協力します。冤罪発生の危険性を高め捜査機関の権限拡大を図る刑事司法改革関連法の内容に反対するとともに、「人質司法」と批判される司法制度改革、実効性ある「取り調べの可視化」の実現を求めて運動を進めていきます。

④「死刑をなくそう市民会議」のとりくみに参加し、死刑制度廃止にむけて組織的議論を進めます。

⑤障害者権利条約の完全実施を求める当事者団体のとりくみに協力します。

⑥重大な人権侵害をもたらす恐れが指摘されている医療観察法の廃止を求めるとりくみに協力します。

⑦差別なき定住外国人参政権法案の制定にむけて、参政権ネットや民団と協力して、全国各地でとりくみをすすめます。

⑧女性の経済的自立と意思決定の場における発言力を高めることが、日本のジェンダー平等を実現するために不可欠です。「選択的夫婦別姓」は最高裁で不当な判決が出され、これからは国会の場で政治的決着をつけなければなりません。関係団体とともにとりくみを強化します。さらに、「同一価値労働同一賃金」の実現は女性の人権を国際的水準に引き上げる運動の要としてとりくみます。そしてI女性会議とともに国連女性差別撤廃条約選択議定書の批准を求める運動にとりくみます。
⑨性差別に反対する様々な組織との連帯を基本に、多様な性のあり方を容認する社会の実現にとりくみます。

⑩一般市民の戦争犠牲者の救済を求めるとりくみとして、東京大空襲訴訟・空襲被害者立法の支援をおこないます。重慶爆撃の被害者による訴訟のとりくみに協力します。

⑪「菅首相談話」にも明記された遺骨問題や文化財返還問題については、関連団体と連携したとりくみをすすめます。

⑫「共謀罪」「特定秘密保護法」の廃止を求めます。

⑬改正出入国管理法・技能実習生制度の見直しと本格的な移民受け入れ政策の検討のために各運動体と連携していきます。

⑭労働組合に対する戦後最大の刑事弾圧である「関西生コン事件」に対し、「支援する会」に参加し、人権侵害の視点から積極的にとりくみます。

⑮新潟平和運動センター、熊本平和運動センターの要請の応え、ノーモア・ミナマタ第2次国賠訴訟、ノーモア・ミナマタ第二次新潟訴訟の「公正な判決を求める要請書名」全国運動に協力していきます。

(7)核兵器廃絶のとりくみ
①核兵器廃絶にとりくむ国内外のNGO・市民団体との国際的な連携強化をはかり、日本国内の核兵器廃絶にむけた機運を高めるため、核兵器廃絶にむけたとりくみを進めます。

②米露がINF条約に復帰し、新たな核兵器削減交渉の開始するよう求めてとりくみます。また、米国からの中距離核ミサイル配備要求に反対し、「非核三原則」の法制化を含めた強化にとりくみます。

③原水禁・連合・KAKKIN3団体での核兵器廃絶にむけた運動の強化をはかります。2020年NPT再検討会議をはじめ、核保有国大使館への要請行動などに協力してとりくみます。

④東北アジア非核地帯化構想の実現のために、日本政府やNGOへの働きかけを強化し、具体的な行動にとりくみます。さらにアメリカや中国、韓国などのNGOとの協議を深めます。

⑤非核自治体決議を促進します。自治体の非核政策の充実を求めます。さらに非核宣自治体協議会や平和首長会議への加盟・参加の拡大を促進させます。

⑥政府・政党への核軍縮にむけた働きかけを強化します。そのためにも核軍縮・不拡散議員連盟(PNND)や国会議員と連携したとりくみをすすめます。

⑦日本政府に対し、核兵器の非人道性声明に署名しながら、核政策としての拡大抑止政策を変更しようとしない姿勢をただします。「核兵器禁止条約」への署名・批准を求め、被爆国として核兵器廃絶にむけた積極的な役割を果たすよう追求します。

⑧日本のプルトニウム増産への国際的警戒感が高まる中、再処理問題は核拡散・核兵器課題として、プルトニウム削減へのとりくみをすすめます。

⑨「高校生平和大使を支援する全国連絡会」を通して、高校生平和大使、高校生1万人署名活動のサポートなど、運動の強化をはかります。また、SNSなどを使い若者へむけた情報発信を強めます。

⑩核軍縮具体策としての核役割低減、先制不使用、警戒態勢解除、核物質最小化等の内容を広く情報発信します。

(8)被爆75周年原水爆禁止世界大会及び被災67周年ビキニデー集会       
①被爆75周年原水爆禁止世界大会は、下記の日時で開催します。
7月下旬ごろ   福島大会
8月4日~6日  広島大会
8月7日~9日  長崎大会

②被災67周年3.1ビキニデー集会を2021年3月に静岡で開催します。

(9)原発再稼働を許さず、脱原発にむけたとりくみ
①原発の再稼働阻止にむけて、現地と協力しながら、課題を全国化していきます。あわせて自治体や政府に対する交渉を進めます。

②老朽原発の危険性を訴え、廃炉にむけた運動を進めます。

③「さようなら原発1000万人アクション実行委員会」の運動に協力し、事務局を担い「1000万署名」の達成、各種集会等の成功をめざしてとりくみを強化します。

④核燃料サイクル政策の破綻を明らかにし、六ヶ所再処理工場の建設中止を求めるとともに、「高速炉開発」に反対します。また、「4.9反核燃の日」全国集会を開催します。現地のとりくみを支援するとともに、国・事業者などへも要請や提言を行います。さらに2021年の「反核燃の日」にむけ全国署名を提起します。

⑤フルMOX燃料の大間原発や上関原発などの新規原発の建設中止を求めていきます。中越沖地震の集会、JCO 臨界事故の集会など各地の集会に協力します。高レベル放射性廃棄物の地層処分のための「科学的有望地」の動きに対して、その問題点を明らかにし、各地でのとりくみ支援とネットワークの強化を図ります。原子力空母の危険性を訴え、寄港地での防災対策について政府や自治体と交渉を行います。

⑥「関電の原発マネー不正還流」問題については、今後の関西電力や検察、経済産業省の動きを注視し、「関電の原発マネー不正還流を告発する会」のとりくみなどに協力していきます。

(10)フクシマの課題を前進させるとりくみ                                      
①福島原発事故に関する様々な課題について、現地と協力しながら運動を進めます。被災者問題や被曝問題について、政府や行政への要請や交渉を進めます。

②フクシマ連帯キャラバンを、労働組合の若い組合員を中心にとりくみます。

③福島原発事故にかかわる各種裁判を支援します。

(11)エネルギー政策の転換を求めるとりくみ
①原発輸出を許さないとりくみを市民団体とともにすすめます。

②電力システム改革へ後ろ向きの姿勢を改めさせ、政策決定の過程を明らかにさせるとりくみを行います。また、容量市場の問題点を広めます。

③eシフト(脱原発・新しいエネルギー政策を実現する会)などによるキャンペーン、パワーシフトにも参加し、リーフレットなどを活用し、再生可能エネルギーへの転換を進めます。

④大手電力から、消費者の側から購入電力を選ぶことを推進し、再生可能エネルギー中心の新電力への切り替えをすすめる案内チラシなどを作成し、切り替え拡大を進めます。

⑤eシフトの作成したファクトチェックホームページを使い、政府のエネルギー基本計画の問題点を広めます。

⑥各地の自然エネルギー利用のとりくみに協力します。また、各地の再生可能エネルギーを知るためのフィールドワークを企画します。地域から再生可能エネルギーのとりくみをつくり上げることに協力します。

⑦2021年の福島原発事故10周年にむけて、また次期エネルギー基本計画の策定にむけて、エネルギー政策の提言をまとめることを検討します。

⑧再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT制度)の対象期間終了後の代替案について、市民団体とともに考え、関係機関へ働きかけます。

(12)ヒバクシャの援護・連帯にむけたとりくみ
①原爆症認定制度の改善を求めます。被爆者の実態に則した制度と審査体制の構築にむけて、運動をすすめます。

②在外被爆者の裁判闘争の支援や交流、制度・政策の改善・強化にとりくみます。

③在朝被爆者支援連絡会などと協力し、在朝被爆者問題の解決にむけてとりくみます。

④健康不安の解消のために現在実施されている健康診断に、ガン検診の追加など二世対策の充実をはかり、被爆二世を援護法の対象とするよう法制化にむけたとりくみを強化します。さらに健康診断などを被爆三世へ拡大するよう求めていきます。また、被爆者二世裁判を支援します。

⑤被爆認定地域の拡大と被爆者行政の充実・拡大をめざして、現在すすめられている被爆体験者裁判を支援し、国への働きかけを強化します。

⑥被曝線量の規制強化を求めます。被曝労働者の被曝線量の引き上げに反対し、労働者への援護連帯を強化します。

⑦被爆の実相を継承するとりくみをすすめます。「メッセージ from ヒロシマ」や「高校生1万人署名」、高校生平和大使などの若者による運動のとりくみに協力します。世界のあらゆる核開発で生み出される核被害者との連携・連帯を強化します。

(13)環境・食・食料・農林業問題のとりくみ
①様々な通商交渉に対し、その情報開示を求め、問題点を明らかにするとりくみを幅広い団体と連携を図りつつ、とりくみを進めます。そのため、集会や学習会などを開催していきます。

②輸入食品の安全性対策の徹底とともに、日米二国間交渉等にともなう食品規制緩和の動きに反対して、消費者団体などと必要な運動を進めます。

③「食品表示制度」に対し、消費者のためになる表示のあり方を求めていきます。

④「きれいな水といのちを守る全国連絡会」の事務局団体として活動を推進します。特に、10月10~11日に開かれる「きれいな水といのちを守る全国集会」(於・岐阜県垂井町)に協力します。また、「水循環基本法」の具体化にむけたとりくみを求めます。

⑤関係団体と協力して、「森林・林業基本計画」で定めた森林整備の確実な推進、地産地消による国産材の利用拡大、木質バイオマスの推進などにとりくみます。

⑥温暖化防止の国内対策の推進を求め、企業などへの排出削減の義務づけや森林の整備など、削減効果のある具体的な政策を求めます。

⑦農林業政策に対し、食料自給率向上対策、直接所得補償制度の確立、地産地消の推進、環境保全対策、自然エネルギーを含む地域産業支援策などの政策実現を求めます。

⑧各地域で食品安全条例や食育(食農教育)推進条例づくり、学校給食に地場の農産物や米を使う運動、子どもや市民を中心としたアフリカ支援米作付け運動や森林・林業の視察・体験、農林産品フェスティバルなどを通じ、食料問題や農林水産業の多面的機能を訴える機会をつくっていきます。

3.平和フォーラムの運動と組織の強化にむけて              
(1)運動の継承を可能とする組織の強化を
平和フォーラムの運動は、総評労働運動の歴史的な運動方針を継承し、共闘の基礎を担う産別中央組織と中央団体、そして、全都道府県に組織されている地方組織の活動によって支えられてきました。平和と民主主義、人権と反差別、脱原発とエネルギー政策など、その運動の中心を担いながら、安倍政権の政策と全面的に対峙するための、センター的機能を果たしています。
とくにこの間、戦争法の廃止を求める運動の過程で、広範な運動展開と社会の多数派形成をめざして、「さようなら原発1000人アクション」と「戦争をさせない1000人委員会」、さらには、「安倍9条改憲NO!全国市民アクション」、「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」、「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」の運動にとりくみ、運動の幅を広げてきました。また、全国で訴訟を展開する「違憲訴訟の会」との連携や、超党派の国会議員でつくられた「立憲フォーラム」や地方議員を対象にした「立憲ネット」との連携をすすめ、戦争法の廃止や憲法改悪の阻止などの安倍政権に対抗する運動に取り組んできました。これらの運動は、従来の枠組みを超えた新しい運動の展開を可能とし、大きな役割を果たしてきたといえます。
しかし、この間のとりくみの中でも、地域事情を背景として、中央・地方間のとりくみの温度差があることが明らかになっています。全国を見ると「総がかり行動実行委員会」のとりくみが中心となっている地域から、従来の平和フォーラムの運動の枠内で活動している地域まで様々であり、今後のとりくみについてどのように展望していくのか、岐路に立たされています。
さらに、全国共通した課題として、次代を担う人材の育成が大きな課題として浮上しています。「防衛力の増強が戦争の危機を招来している問題」、「侵略戦争の過去の謝罪と総括がいかに不十分か」、「憲法の先見性、普遍性」など、とくに若い世代に丁寧に伝えるなかで、運動の継承を可能とするために、意識的に若い世代の活動家づくりを進めていくことが必要です。
年内にも予想される解散総選挙、そして、安倍政権が進める憲法改悪の阻止にむけたとりくみのためにも、より具体的で効果的な運動の再構築と、それを支える平和フォーラム組織の強化が必要です。 このため、以下の課題について、組織検討委員会や同作業委員会での討議をはじめとして、組織強化の具体化について中央・地方の機関会議などで討論を進めていきます。

(2)より広範な運動展開と社会の多数派をめざす活動
平和フォーラムは東アジアの平和友好、立憲主義の回復と憲法理念の実現、脱原発、人権、貧困・格差の解消、食と環境などの運動の到達点を踏まえ政策実現のとりくみを進めています。そのため、今後も、新しい政策実現への展望を切り開きつつある運動体との連携を進める中で、政府との対抗関係を構築する必要があります。
まず、とりわけ、ナショナルセンターとしての連合にその役割を果たすことを期待し連携を強化するとともに、広範な運動の構築をめざします。組織労働者への不断の働きかけなくして、社会の多数派形成はなく、連合との共同行動や連携の重要性がますます高まっています。連合には、平和と憲法、立憲主義、核兵器廃絶と被爆者援護、人権と環境など、平和フォーラムがとりくむ課題を提起しながら、とりくみを進めます。
そのうえで、中央では、政府との対抗関係を構築するために、この間とりくみを進めてきた、「戦争をさせない1000人委員会」、「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」、「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」について、引き続き、強化拡大を進めます。また、立憲フォーラムや立憲ネットをはじめ、立憲民主党、社民党などと連携し、よりきめ細かな政府・各省・自治体等への対策を強化しなければなりません。また、こうしたとりくみ全体を促進するため、研究者・研究団体、NPO・NGO、青年や女性団体などとの連携も強化します。
一方、平和フォーラムの地方組織においては、地域事情や様々な歴史が存在します。より広範な運動展開をめざすなかでも、自らの基礎を固めるとりくみも重要です。このため、地方組織においては、それぞれの現在のとりくみを基礎として、地域事情に合った運動の展開をはかるとともに、ブロックごとのとりくみを重視し、より広範な運動展開を展望します。

(3)次代を担う人材の育成
運動を担う主体を強化し、運動の継承を図るためには、次代を担う人材の育成が必要であることは明らかです。平和フォーラムとしても、共闘の基礎を担う産別中央組織と中央団体とともに、次代を担う人材の育成にむけて、10年後を展望して、対応を協議していく必要があります。
個々の集会、運動などの機会が、新しい運動の担い手の結集の機会でなければなりません。そのために、運動の情報発信をより広く行い、とりくみの意義と目的が迫力のあるものとするよう努めます。当面は、沖縄平和行進やフクシマ連帯キャラバンなどの具体的な課題を通じて、若い世代が参加し交流できるよう工夫することが求められます。
また、運動の協力者(サポーター)を組織活動の周りにひきつけ、行動をともにする中から後進の育成を展望するとりくみとして2020年も「平和フォーラムピーススクール」を開催します。次代を担う人材を育成する観点から、参加者選定を進めていきます。
(4)結集軸としての組織活動
①機関運営について
平和フォーラムの目標を具現化するために、常任幹事会、運営委員会・原水禁常任執行委員会を開催し、具体的な運動の課題と目標の共有化につとめます。また、各地方組織の課題、平和フォーラムの活動の共通目標の確認のため、各都道府県・中央団体責任者会議、全国活動者会議を開催し、討議を進めます。とりわけ、今後、各地方ブロック会議とも積極的に連携し、より広範な運動展開をめざします。また、組織体制や運動づくりを進める際に、男女共同参画の視点は必須です。常にジェンダーバランスに配慮した運営を心がけます。

②情報の発信と集中、共有化について
インターネットやその他の通信手段で平和フォーラム・原水禁のとりくみに参加する市民が増えており、インターネット等による平和フォーラム・原水禁の精力的な発信力が求められています。このため、4月から、ホームページ、メールマガジン、機関誌「ニュースペーパー」については、リニューアルを実施しています。今後は、それぞれの機能を有効に活用し、一方的な情報発信にならないような工夫、情報の整理と蓄積などを行います。また、引き続き、パンフレットやブックレット、記録集の発行などをすすめます。

③集会の開催、声明などの発信
中央、地方の大衆的な集会の開催、署名活動、社会状況や政治的動向に対する見解や声明などの発信などは、平和フォーラムの運動目標を具現化し、社会的な役割を拡大するために重要なとりくみです。しかし、日程や場所の設定や、署名活動の定期のタイミングなど、より効果的なとりくみを行うためには、運動の重点化、年中行事型運動の見直し、運動スタイルの見直しなどが必要です。参加しやすい環境づくりを念頭に置いて、見直しにとりくみます。

④政策提言の発信
環境政策、エネルギー政策と原子力規制、基地と原発依存からの脱却、ヒバクシャの課題など、政府等に対する政策要求・提言活動を強めます。そのため、学者やNGO専門家の協力を得るよう努めます。

⑤財政基盤の確立・強化
 運動の前進と継続のため、財政基盤の確立と効率的な執行に努めます。

(5)具体的なとりくみ
①事務局体制の強化
全国組織の事務局として、情報の収集発信機能を強めるとともに、地域の運動と中央の課題を結びつけ、持続的な運動を組み立てる視点で運営します。
(ア)課題別担当、中央団体・労働団体、ブロック別担当を配置し、コミュニケーション機能を強めます。

(イ)要請・紹介文書・各種資料・宣伝物などについて、構成組織の実態を踏まえた作成・連絡・配布など丁寧な運営に努めます。

(ウ)情報提供体制の充実に努めます。

②組織の運営
(ア)平和フォーラムでは、常任幹事会、運営委員会を定期的に開催すると同時に中央・地方組織責任者会議、全国活動者会議など必要に応じて開催し、とりくみの意思統一を深めます。また運動目的に合わせて課題別委員会を設置します。

(イ)原水禁では、常任執行委員会を定期的に開催すると同時に、必要に応じて専門部、専門委員会を設置し、課題別のとりくみを推進します。また各種集会では、可能な限り運動交流部会を開催し、意志統一と交流を深めます。引き続き、平和フォーラム運営委員会と原水禁常任執行委員会を合同で開催します。

(ウ)各ブロック協議会を確立し、各都道府県組織を強化するとともに、地域社会への影響力の拡大をめざします。

(エ)常任幹事会のもとに組織検討委員会を設置し、長期的視野にたった運動と組織のあり方を協議し提
言をまとめます。また、その課題検討のために、組織検討委員会・作業委員会で議論を深めます。

(オ)沖縄のたたかいの強化と全国への情報発信などのため「平和フォーラム沖縄事務所」を当面継続します。

③組織の拡大と連携
(ア)平和フォーラムの運動を進める上で労働組合の参加は不可欠であり、ナショナルセンターの連合中央、地方連合との連携を強化します。

(イ)引き続き労働団体、市民団体、平和団体等に平和フォーラムへの加盟を呼びかけます。

(ウ)運動の拡大をめざして、「戦争をさせない1000人委員会」、「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」、「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」、「さようなら原発1000万人アクション」などを軸として、平和団体、市民団体、人権団体との連携を強化します。研究者、文化人との連携も強化します。

(エ)制度・政策活動の充実にむけて、他団体、政党・議員との連携を強化し、政府・各省・地方自治体・関係企業などとの交渉力を強めます。また政策課題に対応した立憲フォーラムをはじめとする議員団会議、議員懇談会との連携を強化します。

(オ)国際的平和団体、反核団体、市民団体、労働団体などと連帯し、国連や関係政府に働きかけると同時に運動の国際連帯を強化します。とりわけ東アジアを重点とした関係強化を図ります。
以上

2020年04月01日

ニュースペーパー2020年4月

軍事ローン残高、予算額を超える!



後年度負担額、当初防衛予算額は単位兆円・左軸、FMSは単位億円・右軸

当初防衛予算額、後年度負担額、FMSの推移
 財政赤字増大が続く中、防衛予算が巨大に膨れあがっています。さらに「後年度負担額」という防衛装備品のローン残高は予算額を超える規模に、対外有償援助(FMS)額も数千億円にのぼります。
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インタビュー・シリーズ:155
日韓、そしてアジアの未来に向けて 人と人とのつながりを広げていこう
アジアの平和と歴史教育連帯 国際協力委員長 カン・ヘジョンさんに聞く

姜恵楨さんプロフィール
韓国ソウル在住。韓国の大学卒業後、日本での留学を経験。会議通訳・翻訳を仕事としながら、日韓共通の市民的課題に関心を持って活動中。「アジアの平和と歴史教育連帯」国際協力委員長。「正義記憶連帯」運営委員など。

─カン・ヘジョンさんは、通訳、翻訳の仕事をしながら「アジアの平和と歴史教育連帯」などのNGOの活動もされています。訪日されたのはいつ頃なのですか。
 韓国の大学を卒業してから、1988年に京都にある大学院に留学したのが最初です。その後、東京で大学の非常勤講師を務めたりして、あしかけ13年日本で生活していました。
 当初は二、三年の留学のつもりだったのですが、教室の外側の日本社会にも目が向き、被差別部落に隣接し在日コリアンが多く居住する東九条という地域での活動に携わることになりました。この活動から多様な人間関係が広がり、学校生活では経験できないような議論を重ねたことが、下からの日本社会への理解を深めるきっかけになったように思います。また、1991年から韓国の海外旅行自由化を受け、日韓連帯の市民運動で交流の場面が増えてきます。そのお手伝いは、結果的には通訳のトレーニングにつながったのかもしれません。
 私が日本にいた時代は、日本社会が本当に激動のなかにありました。昭和天皇が死去し、東西冷戦が終結して、社会主義圏が崩れ、日本経済もバブルになってそれが崩壊しました。1991年にはキム・ハクスンさんが日本軍「慰安婦」であったとカミングアウトしています。その後戦後補償の運動が提起されて、歴史認識について日韓の市民レベルの対話が生まれ、村山談話へとつながっていきます。すると今度は、それに対する反動で、歴史修正主義者が出てくる。そうした時期を日本で過ごしてきました。

─「アジアの平和と歴史教育連帯」はどのような経緯で結成されたのですか?
 「新しい歴史教科書をつくる会」が1997年に結成されて、歴史認識の問題を提起し始めますよね。そして2001年には『新しい歴史教科書』の市販本が出版されます。この時韓国社会では、日本での歴史修正主義の動きに対して、労働者や研究者、教員や文化人を含め全社会的に、反対、抵抗、批判が拡がりました。この抗議の広がりを、長期的にとりくむ常設的な機構として組織したのが始まりです。
 当時の日本社会では、歴史修正や教育の反動化に対応しようとする動きが強かったですよね。市民運動や教育関係者たちも、韓国の市民と共に考えようという機運があったと思います。日本各地の市民運動と韓国の市民運動が連携し、教科書採択の時期には韓国から人を招いて集会をしたり、教育委員会への申し入れや記者会見などを、一緒にやってきました。
 また抗議や批判だけじゃなくて、北東アジア市民として共通の歴史認識をつくることを目指して、日中韓が歴史対話を重ねながら、三国共通の歴史教材を編さんしたり、中高生の青少年歴史体験キャンプを毎年開催したりしています。

─歴史認識を共通理解のもとでつくることは、将来に向けたお互いの発展にとって好ましいことですね。1995年の村山談話の頃には、ゆがんだ歴史認識を質していこうという動きが一定はあったけれども、その後右の動きが大きく広がっていきます。
 1999年の年末まで日本にいたんですよ。日本滞在の最後の年だったので、当時の日本社会の雰囲気をよく覚えています。90年代後半から急激に右旋回していく勢いがすごかったことを覚えています。
 いまも、日韓市民による共同行動の場面が全くないわけではありませんが、日本の植民地支配の歴史について韓国の人びとがどのように考えているのかを、現在の日本社会に問うことは難しくなってきたと感じます。逆に反発をくらうような雰囲気にすらなっていますね。
 さらに状況を悪化させたのが、2015年の日韓「慰安婦」合意でしょう。合意から今日までの間に、韓国ではろうそく革命で政権が変わっていますが、この韓国の変化に日本では非常に不満が多いですよね。安倍政権だけでなく、比較的リベラルな人々の中にもあるのではないかと感じます。
 しかし韓国社会では合意の直後から、全社会的に猛反発がありました。被害当事者の意思を問わないまま、両国外相の会見文だけで問題の最終的・不可逆的解決と見なすとした合意は、問題解決にほど遠い両国政府の野合だという批判でした。そのため2017年の韓国大統領選挙では、自由韓国党(現在の未来統合党)を除いて、候補者5人のうち保守も含めた4人の候補が、合意の撤回または再交渉を求めるべきだと公約をかかげるほどでした。
 日本のメディアは、反日政権が誕生して、政府間の合意を破ったというとらえ方ですけれども、合意直後からの広範な抗議を、政策的に実現したというのが正確な捉え方です。

─中国の徴用工問題では、賠償、謝罪、記憶の継承が行われている。しかしながら韓国の慰安婦・徴用工の問題ではなぜ、メディアも含め日本社会の反発が根強いとお考えでしょうか。
 日本にとって、中国は戦争をした国で、朝鮮は植民地にした国ですね。ここが大きく違う。日本は侵略戦争は反省したかもしれないけれども、植民地はどうでしょうか。極東国際軍事裁判(東京裁判)で戦犯が裁かれていますが、植民地支配が悪いことだったと国際社会から裁かれたことはないのです。
 サンフランシスコ講和会議は、かつて戦争を起こした日本を国際舞台に復帰させるものとなりました。ですがその議論から、植民地であった朝鮮や台湾は排除されました。結果として、日本の植民地責任には触れられないまま、朝鮮戦争の起こっているさなかに、サンフランシスコ条約の調印・発効となったわけですね。
 そのような状況下で、日韓国交正常化交渉が始まりました。アメリカは東西冷戦下、北東アジアにおける西側の態勢を固める必要があり、日韓の歩み寄りを迫りました。その圧力からも植民地問題に対する日韓の認識の隔たりは玉虫色にされたまま、1965年に国交正常化がまとまってしまいます。
 ですからサンフランシスコ条約体制を前提とした65年体制というのは、北東アジアの中にアメリカがあって、その下に日本、その下に植民地だった朝鮮を置くという縦の「協力」関係で行きましょうということだったと思います。
 そんな中で2019年、韓国の大法院判決は、不法な植民地支配という従来からの認識を前提に、不法な労働被害への慰謝料の支払いを命じました。中国の被害と実態は似ていても、植民地責任が不問にされた日本、とりわけ安倍政権にとっては許せない判決なのでしょう。
 1995年の村山談話、2010年には菅直人首相談話で、植民地支配への「反省とお詫び」が表明されましたが、その認識が日本社会で広く内面化されているかも疑問に思います。

─朝鮮と中国への対応の違いは、植民地支配があったかどうかというところにある。そのことの反省なくして、お互いの将来はないと思います。しかしそうした状況がわからない人たちが多くいることも事実です。わからないがゆえに、反韓国、嫌韓国の感情が強くなる。
 植民地支配の責任に向き合わないということは、自分が上、相手が下、という意識をずっと引きずることにつながったと思います。脱亜入欧以来のアジア蔑視と重なって、相手を見下す視線は継承、再生産されている。実際、戦後の韓国経済は日本の経済に従属していたし、国力も弱かった。軍事独裁政権が続いて、政治的にも未熟な時期が長く続いていましたから、それが成り立っていましたよね。
 でも、韓国では80年代後半から民主化が進んで、政治意識も高まり、紆余曲折を経ながらも社会変革が深まってきています。90年代には、韓国内の歴史問題への取り組みが、厳しくなされているんですね。現代史の中で起こった民衆虐殺や、労働者や農民への抑圧など、国家権力が民衆を不当に弾圧した事件が多くありました。それらについて、特別法や政府の委員会をつくって、真相調査や責任の究明、被害者の名誉回復や補償など、過去の清算を行ってきたのです。歴史問題の解決が民主化に欠かせないという認識の深まりが、日本に対しても歴史認識の問いかけとして提起されているということなのです。その点がおそらく理解されていないのでしょう。そのため、韓国からの歴史認識の問題提起が、反日だ、民族主義的な攻撃だとうつるのでしょう。

─韓国社会は、非常に厳しい民主化の闘いをしながら、経済的にも成長してくる。しかし日本は民主化の闘いの経験がないんですよ。ですから、民主化の闘いの中で、提起される問題を日本は理解できない。もう一つは、経済的にどんどん追いつかれ、追い越されそうになっている。これに対する不安、気に入らないというのがベースにある。これは理屈があるわけじゃない。だからよけいに厄介ですね。
 2019年7月以降の日本による経済制裁は、日韓双方にとってマイナスでした。日本の経済に絞ってもリスキーであると、多くの人が指摘していました。今、数字を見てみると、日本のほうが打撃を受けているじゃないですか。
 韓国のトップスリー企業に影響するような経済制裁を加えたわけですよね。それまで日本企業は優秀で信頼できるビジネスパートナーでしたが、経済論理より政治論理を優先させた安倍政権の対応によって、韓国企業にとって、日本との取引がリスクにもなり得ると認識されはじめたのではないかと思います。

─安倍政権は経済政策でも成果を上げられず、外交政策も失敗の連続です。相当追い詰められているにもかかわらず、支持率は高い。日本社会にはびこっている空気は、今を変えたくないというもののように思えます。日韓の対立がなかなか改善しないなか、最後に一言お願いします。
 韓国と日本は一番近い国ですし、長い歴史では協力したり仲良く過ごした例も多くありました。今も視野を広げてアジアや世界の中で見れば、人も社会も一番共通点が多いのではないでしょうか。日韓市民が共有できる価値感もありますよね。平和や民主主義だったり、人権、公正や配慮でもいいです。歴史認識の課題で努力はしつつ、ほかでもつながれるところはつながって、関係を深めていく。当面は交流と協力の経験や成果を市民同士で作っていくしかないのかなと思っています。
 例えば平和フォーラムだったら、脱原発や反戦平和、米軍基地、朝鮮学校差別、教科書問題など実践の現場をたくさん持っておられます。それらのなかで、韓国との共通項がありますよね。そうした取り組みでの交流を続けていくことが大切じゃないでしょうか。
 社会運動に限らず、日常生活の中での交流や接点が多くなればと願っています。人や情報の出会いがなければ、親密感はなかなか生まれない。日韓に限らず中国、北朝鮮、台湾を含めて、文化的な交流が広がってほしいです。

インタビューを終えて
 日本人より日本を知る韓国人。カン・ヘジョンさんは、そういう人です。日韓を行き来しながら、歴史認識の課題に立ち向かってきました。「日本への歴史認識の問題提起は、韓国内の歴史問題への内省から出たもの」「これが日本人には、反日に映る」との指摘は、隣国韓国を日本人が理解していない証拠。カンさんは訴えます、「市民同士で、交流と協力の成果を積み上げよう」と。平和フォーラムは、それに応えなくてはなりません。
(藤本泰成)

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森林・林業・木材産業に係る現状と課題について
全日本森林林業木材関連産業労働組合連合会 書記次長 佐藤 賢太郎

 森林は、水源かん養、国土の保全、土砂災害等の未然防止、地球温暖化防止、レクリエーションや教育の場としての利用等、多面的な機能の発揮が求められており、これに応えるためには適切な森林整備と保全を行うこと等が重要となっています。また、戦後造林された人工林を中心に本格的な利用期を迎えており、国内の豊富な森林資源を循環利用することも重要となっています。

地球温暖化対策と森林
 地球温暖化については、国際的にも重要な環境問題であり、1980年代以降、様々な国際的な対策が行われています。その対策として、現在は1997年に採択された「京都議定書」の第2約束期間として、1990年度比で平均3.5%の温室効果ガスの吸収を森林が確保することとなっています。具体的には、年平均52万ヘクタールの間伐などの森林整備による吸収源対策を着実に実施する必要があります。
 しかし、2014年度以降、森林吸収源対策に必要な森林整備量が、確保されておらず、その解消策についても明らかになっていません。また、2020年以降についても、「パリ協定」を踏まえた新たな枠組みの下で、十分に貢献できるよう、森林吸収源対策を着実に実施する必要があります。

市町村の体制強化に向けた支援が重要
 森林・林業・木材関連の政策では、林業の成長産業化と森林資源の適切な管理の両立に向け、林業イノベーションの推進、新たな木材需要の創出、森林整備等を通じた森林の多面的機能の維持・向上を図るとしています。しかし、こうした政策を進めるうえで、森林所有者や境界が分からない森林の増加、担い手の不足等が大きな課題となっています。
 こうした中、2018年に成立した「森林経営管理法」は、森林の適切な経営管理について森林所有者の責務を明確化するとともに、経営管理が適切に行われていない森林を、林業経営者や市町村に委ねる「森林経営管理制度」が措置されました。
 このことにより、市町村が主体となった森林整備と管理が進められることになり、市町村の役割強化が求められています。しかしその内実は、市町村で林務を担当する職員が0~1人程度の市町村が約2/3を占めており、市町村への林務担当職員の配置や国の技術的支援の拡充、林業労働者の育成・確保を図ることが急務となっています。

森林環境税・森林環境譲与税の創設
 そして、森林経営管理法を踏まえ、温室効果ガス排出削減目標の達成や災害防止等を図るための森林整備等に必要な地方財源を安定的に確保するために、森林環境税・森林環境譲与税が創設されました。
 森林環境税は、国税として1人年額1,000円を市町村が賦課徴収するかたちで、2024年度からのスタートとなっています。また、森林環境譲与税については、2019年度から譲与が開始されています。その譲与基準は、私有林人工林面積、林業就業者数、人口による客観的な基準で按分して譲与されています。
 一方、現行の森林環境譲与税の譲与基準では、総体的に人口の多い市町村の譲与額が大きくなる傾向となっていることから、税の趣旨に基づき、これまでの森林施策では対応出来なかった奥地等の森林整備が着実に進展するよう、譲与基準の見直しを図ることが必要となっています。

林業労働者の現状
 林業における新規就業者は、林野庁の「緑の雇用」事業等により、年間3,000人を超える雇用が生まれていますが、2015年の国勢調査においてはこれまで維持していた5万人を割り込み、約45,000人まで減少しています。こうした中、林業労働者の処遇や労働環境については、年平均所得が全産業の平均と比べて約100万円程度も低く、約7割の事業体が日給制の雇用となっています。また、急傾斜地などの危険な作業環境の中でチェーンソーなどの刃物を使うことや重量物である木材を扱うことなどから、労働災害の発生率(死傷年千人率)が、全産業の10倍以上という非常に高い水準となっています。
 こうした中で、林業を他産業並みの処遇に改善するには、労働安全対策の更なる推進はもとより、「森林・林業基本計画」の着実な推進、森林整備等の森林吸収源対策を着実に実施するための必要予算の確保、山村振興対策、木材価格の安定など、国の施策として対策を図ることが必要です。
 そして、政府が提案する「林業の成長産業化」を図るためには、すべての林業労働者の処遇改善に係る対策を、より一層講じる必要があります。すなわち「人(労働者)への投資」が、今後何より重要だと思っています。
(さとう けんたろう)

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入管収容施設での人権侵害にSTOP!
山岸素子(NPO法人移住者と連帯する 全国ネットワーク理事・事務局長)

入管施設での死亡事件とハンスト
 2019年6月に、大村入国管理センターで、40代のナイジェリア人男性がハンガーストライキにより「餓死」するという事件が起きた。その背景には、入管収容施設における非正規滞在の外国人の長期収容が過去に例をみないほど深刻化している現状がある。法務省の統計によると、2019年6月末時点で全国の収容施設に収容されている人は1253名で、そのうちの半数以上が6ヶ月以上の長期収容者で、さらに2年3年の収容を強いられている人も少なくない。前年の2018年には長期収容に絶望したインド人男性が自死した事件が起きたが、2019年に入ってからは、長期収容に抗議する大規模なハンガーストライキが全国に広がり、ついに被収容者が「餓死」する事件が起きるに至った。筆者が支援しているイラン人Sさんの例を紹介したい。彼は、祖国での迫害を訴えて現在3回目の難民申請中だが、2016年に収容されてから10数回の仮放免許可申請が不許可とされ、3年余りの長期収容を強いられていた。収容施設から出るにはハンストで心身を衰弱させること以外に方法がないと決死のハンストを行い、自力では歩行が困難なほどに衰弱した結果ようやく仮放免許可をえた。しかしその後2週間で再収容され、以後、3回の仮放免と再収容を繰り返し、現在も収容中である。拒食を繰り返した結果、現在は、生きるために食べなければと思って努力しても、固形物は喉をとおらない状態になっている。ハンストで衰弱した人にたいして、仮放免をいったんは認めても、2週間で再収容するというきわめて非人道的な入管の対応はこの間ずっと繰り返されている。このような状況のなかで、絶望し、自傷行為や自殺未遂をする人が、後を絶たない。
 このような長期収容がもたらす人権侵害については、国連の人権諸条約の委員会等からも繰りかえし改善勧告が出ている。それにもかかわらず、非人道的な「長期収容」がなぜ終わらないのか?

「長期収容」の背景に、東京オリンピック・パラリンピック対策
 入管施設における長期収容と人権侵害の背景にある原因の一つに、2020東京オリンピック・パラリンピック大会に向けた非正規滞在者の「縮減」政策がある。法務省入管局長は2016年4月に「安全・安心な社会の実現のための取組について(通知)」を発出し、東京オリンピック・パラリンピック大会の年までに「2000万人以上の外国人を歓迎する安全・安心な社会の実現を図るため」、「近年増加傾向にある不法残留者及び偽装滞在者のほか、退去強制令書が発付されても送還を忌避する外国人など、我が国社会に不安を与える外国人を大幅に縮減することは(中略)当局にとって喫緊の課題」であるとし、「我が国社会に不安を与える外国人の効率的・効果的な排除に、具体的かつ積極的に取り組んでいく」よう通知した。
 さらにこれを具体化するものとして、法務入管局長が2019年2月28日に発出した「被退去強制令書発付者に対する仮放免措置に係る適切な運用と動静監視強化の更なる徹底について」(指示)では、「仮放免を許可することが適当と認められない者は、送還の見込みが立たない者であっても収容に耐え難い傷病者でない限り、原則、送還が可能となるまで収容を継続し送還に努める」という当事者や支援者、弁護士らを驚愕させる方針が示された。
 日本の入管収容施設における長期収容の要因の一つには、そもそも入管法上の強制令書による収容に収容期間の上限が定められていない、という根本的な問題が存在する。さらに前述の運用による締めつけが加わり、2018年から長期収容者の数は急増し、2019年には、それに耐えられないと悲鳴を上げた被収容者のハンストや死亡事件が起きたのである。

STOP! 長期収容~人権尊重の政策への転換を!
 そもそも、現在、入管収容施設に長期収容されながらも帰国に同意していない非正規滞在の外国人の多くは、すでに長年日本に暮らし、日本生まれの子どもがいるなど日本に家族がいる人、迫害を逃れて難民申請中である人など、祖国には帰れない事情をそれぞれに抱えている。
 法務省入管庁は、2019年10月、法務大臣の私的懇談会の下に「収容・送還に関する専門部会」を設置し、長期収容の改善策を検討し、5月に結果をとりまとめる予定とのことである。しかしそこでの議論が、送還の促進など、非正規滞在者の排除を強化する方向で進められていることに強い危機感を抱かざるをえない。
 移住者と連帯する全国ネットワークをはじめとする6団体は、長期収容問題を解決するための共同提言を発表し、(1)長期収容解決のための収容制度の法改正、(2)難民の適正な保護のための法制度改正、(3)非正規滞在者の正規化の実施という3つの柱となる政策を提言している。関連団体が連携して「STOP!長期収容」市民ネットワークを結成し、政府や議会への働きかけで連携しているほか、オンライン署名などのアクションも実施している。非正規滞在者の排除を許さない取り組みにさらに多くの人が参加することを呼びかけたい。
(やまぎ しもとこ)

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日米安全保障条約の今、混迷する東アジアにあって
フォーラム平和・人権・環境 共同代表 藤本 泰成

60年目の安保、政府は賞賛の声
 1960年の日米安全保障条約(以下日米安保条約)の改定から60年が経過した2020年1月19日、日本政府は、アイゼンハワー元米大統領の孫メアリー・ジーン・アイゼンハワーさん、ひ孫のメリル・アイゼンハワー・アトウォーターさんを招き、「安全保障条約60周年記念レセプション」を開催しました。安倍首相は、挨拶に立って「……いまや、日米安保条約は、いつの時代にも増して不滅の柱。アジアと、インド・太平洋、世界の平和を守り、繁栄を保証する不動の柱です」「……日米同盟は、その始まりから、希望の同盟でした。私たちが歩むべき道は、ただ一筋。希望の同盟の、その希望の光を、もっと輝かせることです」と、惜しみない賞賛の言葉を贈りました。
 日米安全保障協議委員会(「2+2」:茂木外務大臣、河野防衛大臣、ポンペオ国務長官、エスパー国防長官)は、「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約の署名60周年に際する共同発表(2020年1月17日)」の中で、「日米同盟は、地域における安全保障協力等を通じて自由で開かれたインド太平洋という両国が共有するビジョンを実現しつつ、日米両国の平和と安全を確保するに際して不可欠な役割を果たしてきており、今後もその役割を果たし続ける。日米同盟は、いまだかつてないほど強固で、幅広く、そして不可欠なものとなっている」と述べています。
 安倍首相にしろ、茂木・河野両大臣にしろ、日米同盟は不可欠なものであり、未来への希望の光だとして、どこからも日米同盟やその根本を定める日米安保条約の問題性に関しての発言は聞こえてきませんでした。大手メディアは、「安保条約60年」に際して、特集を組んで様々な視点から検証しているものの、市民社会で大きな論議が巻き起こったわけでもありません。伝え聞く「60年安保闘争」が嘘のようです。同郷の先輩唐牛健太郎全学連委員長、亡くなった樺美智子さん、様々なドラマを生み、様々な人材を輩出した全学連、当時20代の若者は80代に、60年を経て今、日米安保条約への批判を聞かないのはなぜでしょうか。安倍政権への、憲法改悪への危機感の中で、日米安保条約は耳目の外に置かれているのか、そうではなく、日米安保条約は日常に埋没しているのか。どちらにせよ安倍政権の思うつぼなのかもしれません。日米安保条約とそれに基づく日米同盟は、今まさに、日本の将来に深刻な影を落としていると言えます。

安保の役割、日米は一体の覇権国家か
 日米安保条約は、第2次大戦後の米ソ冷戦と中華人民共和国の成立を受けて、朝鮮戦争の最中の1951年に、サンフランシスコ講和条約と同時に締結されました。敗戦国日本の国際社会復帰と米軍の日本駐留の継続の決定でした。極東の安全保障という名の下に、旧ソ連と中国や朝鮮半島をめぐって台頭する共産主義勢力への橋頭堡としての日本に、在日米軍が駐留する意味は、自由主義社会の中心としての米国にとって重要な選択であり、戦後世界の米国のイニシアチブに大きく貢献したに違いありません。しかし、東アジアの安全保障にどのように貢献してきたのかと問えば、ことはそんなに簡単ではないと思います。米ソの軍事対立が日本の安全をどこまで脅かしたのか、旧ソ連による日本侵攻がどこまで現実的であったのかは疑問です。この間、日本とロシア(旧ソ連)や韓国・中国などとの外交交渉に、米国の意志が強く反映してきました。日ソ共同宣言や北方領土問題、日韓基本条約など米国の圧力によって強要されたり、潰されたり、脅かされたりしたものも少なくありません。また、沖縄返還交渉では、沖縄における核戦力の維持や、韓国・台湾・ベトナムなどの地域に対する在沖米軍の出撃の自由を条件としたとも言われています。「MilitaryLogistic(s兵站)」という言葉が、戦闘地帯から後方の、軍の諸活動・機関・諸施設を総称したものであるとすれば、日本はまさに朝鮮戦争やベトナム戦争では「兵站」の役割を担い、日米安保条約を基本に集団的安全保障の義務を果たしてきたと言えます。戦後75年、私たちは憲法9条に基づく「平和国家」とよく口にしますが、自衛隊が戦闘に参加せず、銃口を他に向けることがなかったことは評価できるとしても、国家のありようとしての日本が、決して「平和国家」と呼べるものではなかったのです。「共産主義と闘い、自由と民主主義を守る」とする米国の欺瞞に付き合う、「覇権国家」と呼んでも差し支えないのかもしれません。そのことが、日米安保条約の本質なのです。

変貌する東アジア情勢と安保
 改定から60年を迎える日米安保条約を取り巻く東アジア情勢は、大きな変貌を遂げています。ソ連の崩壊とロシア・プーチン政権の出現、中国経済の台頭と習近平政権の出現、そして朝鮮民主主義人民共和国の若き指導者金正恩、その東アジアと対峙するのが、自国第一主義を唱える米トランプ政権であれば、東アジア情勢が不確実性を増していることは当然ではないでしょうか。冒頭の安倍首相挨拶や2+2の共同発表を聞く限り、日本政府には成立から60年を経過した日米安保条約体制・日米同盟は、いまだ「希望の同盟」であり日米の平和と安全のためには「不可欠」なものと認識されているのです。安倍政権は、集団的自衛権行使を容認し安全保障関連法を成立させ、米軍と自衛隊の一体となった軍事行動を可能にしました。そのことが、東アジアにおける覇権維持への米国の要求のもとに、中国や朝鮮の脅威に対抗するとする日米安保体制・日米同盟を、安全保障のジレンマに落とし込んでいるのではないでしょうか。日本は必要性を考慮することなく、米国の要求の下、防衛装備の拡充を無分別に進めています。いまや、安保条約体制・日米同盟が、日本の大きな経済的・社会的負担になっています。同時に、中国やロシア、朝鮮との外交にも影響を与えています。
 マサチューセッツ工科大学のジョン・ダワー名誉教授とオーストラリア国立大学のガヴァン・マコーマック名誉教授は、2014年1月に出版した共著「転換期の日本へ-『パックス・アメリカーナ』か『パックス・アジア』か」(NHK出版新書)の中で、「日本の難題は、新しい『アジア太平洋』共同体をイメージし、敵対的対立ではなく経済的・文化的な協力関係に資源とエネルギーを注ぐことのできる指導者が存在しないことにある」と述べ、米国への「従属」を続けるのか、それともアジア中心の新たな安全保障体制を構築するのかの選択を求めています。黄昏ゆく「パックス・アメリカーナ」を目の前にして、日米安保条約と日米同盟は、本当に「希望の同盟」であり続けるのでしょうか。

バイ・アメリカン、増大する防衛費
 トランプ米大統領の「バイ・アメリカン(米国製品を買おう)」と言う要求に応じ、対外有償援助(ForeignMilitarySales,FMS)による高額防衛装備品の米国からの購入が続いています。2011年度に432億円だったFMSは、2019年度には7,013億円に膨れあがりました。その多くが、防衛省や現場の要求ではなく官邸主導(安全保障会議および安全保障局)によって決定されています。防衛装備品のローン残高(後年度負担)は、過去最高の5兆4,942億円と防衛予算を超える額となっています(内FMS関連は1兆6,069億円)。ご存じの通り、財政赤字は増え続け国・地方合わせた長期債務残高は約1,122兆円(2019年度末:財務省推計値)、債務残高の対GDP比は198%の見込みで、財務省は「債務残高の対GDP比は、他のG7諸国のみならず、世界的に見ても最も高い水準となっています」と述べています。政府は、2025年度までにプライマリーバランス(基礎的財政収支)を黒字化したいとしていますが、全く目処が立っていません。そのような財政状況の中にあって、前述の「バイ・アメリカン」の要求もあり、2020年度の防衛予算案は、文教科学振興費(5兆5,055億円)に匹敵する5兆3,133億円で前年度比1.1%増で6年連続で過去最高を記録しています。加えて2019年度防衛費補正予算額は4,287億円となっています。極めてきびしい財政状況の中にあっても、安倍政権の下では防衛予算は聖域化しています。
 また一方で、1978年に円高や米国の財政赤字などに配慮するとして日本が始めた「思いやり予算」(在日米軍駐留経費負担)は、日米両政府の合意によって2016~2020年度までに9,465億円の支出をします。2021年3月の期限切れに対して、「トランプ政権は4倍増を要求している」と米国紙が報じています。トランプ政権は、韓国政府に対しても法外な要求を行い交渉は難航しています。エスパー米防衛長官は、「あらゆる同盟国による負担の増額は、米国にとって最優先課題」と述べ、トランプ大統領も「同盟国は米国が供与する安全保障に正当な対価を支払っていない」と主張してきました。今後も、法的根拠のない在日米軍駐留経費負担は増大していくことが予想されます。


青森県三沢基地に配備されたステルス戦闘機F35A
航空自衛隊ホームページから

戦争法以降の変化-日米統合軍へ
 日米同盟における在日米軍と自衛隊は、新しい段階に突入していると言えます。防衛省は、次期主力戦闘機に米ロッキード・マーティン社製のF-35ステルス戦闘機を選定し、将来の147機体制を閣議決定しています。F-35は、「多機能先進データリンク」という機能によって「エンゲージ・オン・リモート」(遠隔交戦)の能力を有します。海上自衛隊に配備された7隻目のイージス自衛艦「まや」に搭載された「共同交戦能力」(CEC)との統合によって、F-35やこれも自衛隊が導入予定の早期警戒機E2D、無人偵察機グローバルホークなどが前方で探知した巡航ミサイルなどの情報を日米が瞬時に共有することで、共同対処による迎撃を可能にしています。そこには、日米が一体となった防衛体制が構築されています。2019年9月、中国の軍事戦略「接近阻止・領域拒否」(A2AD)に対抗し敵ミサイルの攻撃から米陸軍や自衛隊を防護する想定で、相模原補給敞(神奈川県相模原市)に置かれた「米陸軍第38防空砲兵旅団司令部」が中心となって、米海兵隊岩国基地で日米合同演習が行われました。第38砲兵防空旅団は、車力と経ヶ岬のXバンドレーダー基地、沖縄嘉手納基地そして韓国星州(ソンジュ)と米グアムに配備されている終末高高度ミサイル部隊を指揮下に、ミサイル防衛にあたる組織です。山口県と秋田県に配備を予定している「イージス・アショア」も、将来的にはこのような組織網に組み入れられることが考えられます。宇宙領域やサイバー領域を含めて、情報収集や共有、利用といった分野が軍事的に極めて重要となっている現在、日米安保条約は、米軍と自衛隊の一体的運用、すなわち自衛隊が情報量において圧倒的に有利な米軍の指揮下に組み入れられ一体となった軍事行動を行うことを予定するものとなっています。軍事力の近代化は、自衛隊は「武力攻撃に抵抗するそれぞれの能力を、憲法上の規定に従うことを条件として、維持し発展させる」(安全保障条約第3条)により専守防衛に務め、駐留米軍は「極東における国際の平和および安全の維持に寄与する」(安保条約第6条)とした、これまでの日米安保条約が規定してきた日米両軍事力の意味や役割を大きく変えるものとなっています。

指摘される日米同盟の見直し
 ジャパン・ハンドラーとしても著名なリチャード・アーミテージ元米国務副長官は、読売新聞紙上で、「世界の不確実な要素の最たるものがほかならぬ米国である」として、世界の信頼を失いつつあるとトランプ政権を非難し、「日本政府も政治・経済分野での米政府からの要求が一層強まることを覚悟すべきだろう」としています。日本にとっての現実は、安倍首相と後継者が日米同盟に変わる選択肢を検討しなくてはならないかもしれないというアーミテージ元長官の指摘は傾聴に値するものです。トランプ政権の不確実性は、「日本を守ってくれるのか」という疑義を抱かせるに不足はありません。日米安保条約の存在理由さえ問われることとなっています。防衛大学校長も務めた五十旗頭真アジア調査会会長は、毎日新聞紙上に「米中対立の世紀と日本」と題する論考を寄せています。五十旗頭会長は、「日本の役割-それは米国側について中国をおとしめることではない。……70年を経てほころびの目立つ戦後秩序の再編に向けて、中心的存在たるべき米中両国を誘導することである」と述べています。土山實男青山学院大学名誉教授も、朝日新聞紙上で「秩序揺らげば危うい同盟」と題して「日米同盟は日本外交の基軸ですが、日本は全てをこの同盟に依存すべきではありません」とし、大きな構想を持って外交問題にあたるべきと指摘しています。
 安倍首相は、2019年5月、来日したトランプ米大統領とともに、海上自衛隊横須賀基地に停泊中のヘリコプター搭載護衛艦「かが」(F-35B戦闘機搭載の空母に改修予定)の甲板に立ち、「日米同盟は、これまでになく強固になった。この艦上に、われわれが並んで立っていることがその証しだ」と述べました。トランプ米大統領は、安倍首相の挨拶に応えて、日本の軍事力強化が米国の安全の強化に貢献しているとしました。日本政府の、「安保条約体制・日米同盟の深化」という方向性を象徴するものとなっていますが、果たしてそのことで日本の将来は明るいのでしょうか。多様化する世界にあって、日本が果たす役割は「同盟の深化」ではないはずです。日米統合軍の行方は、日本の外交政策の硬直化を招き、新しい世界秩序への対応を極めて限定的なものとしています。
 日米安全保障条約60年にあたって、私たちは日本の将来にむけた外交のあり方を、真剣に議論しなくてはなりません。「日米同盟」が決して「希望の同盟」にならないことは、状況の全てが明らかにしています。アジアにおける安全保障を、アジアの国としての立場に立って日本は考えるべき時代に来ています。対立を深める米国と中国の狭間に立って、一方に与することなく、日本が取るべき態度を議論しなくてはなりません。それは、決して「同盟の深化」ではないはずです。

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