5月, 2021 | 平和フォーラム

2021年05月31日

九州朝鮮学校無償化訴訟における最高裁不当決定に抗議する

2021年5月27日、朝鮮学校を高校授業料無償化の対象に指定しなかったのは違法として、九州朝鮮中高級学校の卒業生68人が国を訴えていた訴訟で、最高裁第1小法廷(深山卓也裁判長)は学校側の上告を棄却した。昨2020年10月30日に、福岡地裁小倉支部に続いて、国の不指定は適法とした福岡高裁の2審判決が確定した。

差別と分断を許さず、日本国内で生活する外国人の権利確立を求め、多民族・多文化共生の社会の創造をめざしてきた平和フォーラムは、総身の怒りをもって抗議する。

第2次安部政権は、成立間もない2013年2月20日、朝鮮学校が授業料無償化適用の根拠となる規定であった「公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律施行規則」第1条第1項2号の「各種学校であって、我が国に居住する外国人を専ら対象とするもののうち、次に掲げるもの」の中の「(ハ)それ以外の高等学校の課程に類する課程を置くものと認められるもの」を削除した。このことによって適正な運営が担保されているとしても朝鮮高校は授業料無償化の適用から排除されることとなった。この事実は、教育の機会均等を目的とした授業料無償化の理念に反する。
全国各地の朝鮮学校は、広く地域社会へ学校開放や授業参観などを実施し、民族教育への理解を求め、地域社会との交流を深めてきた。植民地支配の過去とその後の政治的確執が生んだ予断と偏見による根拠ない疑念を、子どもたちの権利侵害への理由にあげる暴挙は許しがたい。将来にわたって朝鮮学校には無償化を適用しないとする政府の政治的差別に、裁判所が追認を与えるこの決定は、いかなることがあっても許されない。

一方、このような政府の姿勢は、朝鮮幼稚園園児の幼保無償化措置からの排除や朝鮮大学校生の学生支援緊急給付金制度からの排除など、様々な場面で表れている。旧植民地支配の態様を踏襲し、民族教育を排除し、日本人になれ、日本の学校に通えとする、きわめて傲慢な政治姿勢が根底にある。朝鮮半島における植民地支配と在日朝鮮人の歴史を一顧だにすることのない政治・司法を許すことは、敗戦後日本国憲法をもって「われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思う」として、平和に生きることをアジア諸国に誓った日本人として恥ずべき事と考える。

平和フォーラムは、「朝鮮学園を支援する全国ネットワーク」に結集して、朝鮮学園に学ぶ子どもたちの教育権の保障にとりくんできた。全国各地で日本人社会に朝鮮学園と民族教育への理解者が増え続けている。裁判結果に怯むことなく、在日朝鮮人社会と連帯して、差別撤廃に向けてとりくみを強化する。

2021年5月31日
フォーラム平和・人権・環境
(平和フォーラム)
共同代表 藤本泰成

2021年05月31日

核の「終わりが始まった」今こそ、北東アジア非核兵器地帯条約を

湯浅一郎

2019年に始まったコロナ禍の世界的拡大が続くなか、2021年初頭、世界では核軍縮に関し新たに画期的な要素が産まれた。1月22日、核兵器禁止条約(以下、TPNW)(注1)が発効したことで、核兵器の存在そのものを禁止する初の国際法が動き出したのである。これにより、核兵器の「終わりの始まり」が動き始めたのであり、核軍縮への取り組みは新たなステージに入った。そのタイミングで、北東アジアの非核化と平和を構想するとき、今こそ北東アジア非核兵器地帯条約の検討を始めるべきであることがみえてくる。

核兵器禁止条約が発効しても、条約は加盟国にしか適用されない

核兵器の存在そのものを禁止する初の国際法であるTPNWは、その第1条で、核兵器の開発、実験、生産、製造、保有、貯蔵、移譲、使用及び使用の威嚇の禁止を明記している。加えて1条のe)項では、「締約国に対して禁止されている活動を行うことにつき、いずれかのものに対して、いかなる様態によるかを問わず、援助し、奨励し、または勧誘すること」を禁止している。従って、他国に核使用を要請することになる「核兵器依存政策」も禁止されることになる。自国の安全を核兵器に依存する核抑止政策を採る国は、条約に違反しているというわけである。従って現在の日本は、条約に入りたいといっても入る資格はない。日本が条約に参加するためには、まず「核の傘」から抜け出す政策を具体化しなくてはならない。

とはいえ、現状では、TPNWが発効しても「核兵器のない世界」が自動的にやってくるわけではない。残念ながら条約は、締約国になった国にだけ適用され、条約に加盟せず条約の外にいる国は、条約の拘束を受けないからである。米ロ英仏中などの核保有国はTPNWに強く反対し、条約に加盟する意思はない。TPNWに加盟しない核保有国には、TPNWは適用されず、核保有国が自主的に核兵器を廃棄することも考えられない。言うまでもなく、核兵器の廃絶は、それを保有する国が自分の意志で核兵器をなくしていくという政策をとらない限り廃絶に向けて動くことはない。実際、彼らは今後も核戦力の保持を前提に保有核戦力の近代化を続けている。さらに日本を初め、韓国、オーストラリア、NATO加盟国の多くなどの核兵器依存国も、核抑止政策を止めねばならないということで、TPNWは時期尚早として反対している。

日本政府は、「唯一の戦争被爆国」を自認しながらも「TPNWは、現状の安全保障環境を踏まえずに作られたもので、日本とアプローチが異なるので、署名できないし、従って原則的支持表明もできない」としている。政府が言う「厳しい安全保障環境」とは、朝鮮民主主義人民共和国(DPRK、北朝鮮)の核・ミサイル開発や中国の東シナ海・南シナ海への海洋進出など北東アジアの安全保障環境であるらしい。そうであれば、2018年に生まれた南北、米朝の首脳会談を通じた首脳合意を活かして、「安全保障環境を改善していくための」外交的努力をするべきである。しかるに、この間、政府は、国連決議に基く北朝鮮に対する経済制裁を完全に履行することが重要という姿勢を変えることはなく、北朝鮮を敵視する政策を続けている。これでは、北朝鮮との対話など成立するはずもなく、結果として「厳しい安全保障環境」が良くなるわけはない。

米朝、南北首脳合意の行き着く先は朝鮮半島非核兵器地帯条約

この間の世論調査によれば、日本の約7割の市民は、日本はTPNWに参加すべきだとしている。この世論をどう生かすのかが問われている。この思いを実現するために、市民がなすべきことは、日本政府に対し、核抑止依存政策を変えるよう求めていくことが必須である。日本も参加して北東アジア非核兵器地帯を作ることが、その答えになる。具体的には、朝鮮半島の非核化と平和に関する米朝、南北の首脳外交を活かし、北東アジア非核兵器地帯構想を打ち出すことである。TPNWが発効した今こそ、北東アジア非核兵器地帯条約をという声を上げることを訴えたい。

ここで、北東アジア非核兵器地帯条約は、18年の米朝、南北首脳合意を活かせば、現実的な課題になりうることを見ておきたい。18年4月の南北板門店(パンムンジョム)宣言は、南北両国が朝鮮半島を戦場にしないことに合意し、朝鮮半島の完全な非核化を目指すとしている。その流れの中で、6月のシンガポール米朝共同声明が合意された。この声明では、トランプ大統領が北朝鮮に対する安全の保証を約束し、同時に金委員長は、朝鮮半島の完全な非核化への確固としたゆるぎない決意を再確認している。

問題は、21年1月に誕生したバイデン政権が、この合意を基礎として政策を形成するか否かである。最近になって、その点に関し明るい兆しが見えてきた。4月30日、サキ米大統領報道官が、記者会見において、バイデン政権による対北朝鮮政策見直しが完了し、シンガポール合意で使われた「朝鮮半島の完全な非核化」の表現を踏襲し、「米国や同盟国の安全を高められるような「調整された現実的なアプローチ」を追求すると発言した(注2)。そして5月21日、米韓首脳会談での共同声明(3注)には、「我々はまた、2018年の板門店宣言やシンガポール共同声明など、これまでの南北および米朝間の約束に基づく外交と対話が、朝鮮半島の完全な非核化と恒久的平和の確立に不可欠であるという共通の信念を再確認する」と書かれている。とりわけシンガポール米朝共同声明に基づく外交が、朝鮮半島の完全な非核化に不可欠であるとしたことは重要である。バイデン大統領が、2020年の大統領選において「トランプ氏は悪党を親友だと話している」と攻撃していたことを考えると、シンガポール合意が継承されることが確認されているのであり、大きな軌道修正である。

この点を踏まえると、2つの首脳合意を履行していったとき、どこに行き着くのかを見極めておくことは有意義である。朝鮮半島の完全な非核化を目指すということは、朝鮮半島非核兵器地帯条約を作ることに帰着する。DPRKの核放棄に対して、米国が消極的な安全保証を約束する。韓国が米国の「核の傘」から抜けだし、これに対して中国、ロシアが消極的安全保証を約束する。こうして、南北、及び米中露の5か国によって、朝鮮半島非核兵器地帯条約を作るという構想が浮かび上がる。日本が関わらなくても、世界で6つ目の非核兵器地帯ができることになる。そのプロセスには、朝鮮戦争の終結も含まれることになるはずである。

ここで非核兵器地帯条約とはいかなるものかを見ておこう。非核兵器地帯とは、一定の地理的範囲内で核兵器が排除された状態を作り出すことを目的とした国際法の制度である。非核兵器地帯が成立するためには以下の3つの条件が必要である。

1. 地帯内国家の核兵器の開発、製造、配備を禁止する。
2. 周辺の核兵器を持つ国が、地帯内国家に対して、「核兵器による攻撃や威嚇をしない」ことを誓約する。これを消極的安全保証という。
3. 条約の順守を検証する機構として、非核兵器地帯条約機構といった名称の機関を設置する。

北東アジアについては、これまでに、どこかの国が正式に非核兵器地帯構想を提起したことはないが、NGOが様々な構想を出してきている。その一つがピースデポの「3+3」構想である。朝鮮半島の南北2つの国と日本を合わせた3か国で非核兵器地帯を形成する。米国、中国、そしてロシアの「3か国」が非核兵器地帯の3か国に対して消極的安全保証を誓約する。その結果、「3か国」プラス「3か国」の6か国で非核兵器地帯を作ろうという提案である。これは、いわゆる6か国協議の枠組みと同じである。

これには、5年とか10年とか相当な年限が必要かもしれないが、その間に、日本は、北朝鮮に対して国連安保理決議だけでなく、日本独自の制裁を含めて経済制裁を継続し、いわば敵視政策を続けている。この姿勢を続けている限り、日本は、上記の動きに置き去りにされるであろう。今こそ、2つの首脳合意を正当に評価して、日本もそこに加わって、核抑止の壁から抜け出していくという選択をすべきである。

米ソ冷戦の終結を実現した「共通の安全保障」に学ぶ

この問題を考えるにあたり、朝鮮半島が分断され、朝鮮戦争は停戦状態のままであることを認識しておくことが必要である。北東アジアには米ソ冷戦構造が続いているのである。1980年代後半、米ソ首脳会談による合意形成により、欧州における冷戦構造は終結し、5年ほどかけて欧州安全保障協力機構(以下、OSCE)というメカニズムが作られた。しかし、北東アジアでは、残念ながら冷戦状態が継続し、いまだに朝鮮戦争は終わっていない。停戦協定があるだけで、いつ戦争が再発するかもしれないという微妙な構図が残存している。

18年の南北と米朝の首脳協議で動き出したプロセスを履行していけば、冷戦構造をなくしていくことはできるはずである。米国は、中国を警戒し、敵をつくり新たな冷戦構造を産み出すのではなく、北東アジア全体の平和体制を作るプロセスの中で、朝鮮半島の冷戦構造をなくしていくことを優先すべきである。

その意味では、80年代後半の冷戦終結のプロセスに学ぶことが重要である。欧州で冷戦をなくしていったときの基本概念は「共通の安全保障」(Common Security)である。これは、1982年にパルメ委員会(スエーデンのパルメ首相が主催した国連の「軍縮と安全保障問題に関する独立委員会」)が提唱した概念である。この原則は、「すべての国は安全への正当な権利を有する」という認識を共有するというものである。

ソ連のゴルバチョフ書記長がこの概念を採りいれて、80年代後半の5年ほどの間に、米ソ冷戦を終わらせていったのである。米ソ冷戦の終結からOSCEという地域的な安全保障協力機構を作るまでのプロセスの中に、北東アジアの平和ビジョンを構想するうえで、学ばねばならないことが沢山、含まれているはずである。

軍事力による安全保障の思考に基づき、相互に軍拡を進めれば、結果として際限のない軍拡競争を繰り返すという悪循環にはまり込んでいくことになる。これを「軍事力による安全保障ジレンマ」と言う。相互の不信が、核軍拡競争を生み出し、さらに不信と憎悪を増幅するという悪循環である。その先にある未来は、止め度のない軍拡と終わりが見えない対立だけである。これに対し「共通の安全保障」の考え方に基づいた外交政策を採っていけば、朝鮮戦争の休戦協定を平和条約に変更し、多国間の協調による北東アジア非核兵器地帯の形成につなげていくことができる。その先には、対話と協調により包括的な北東アジアの平和の仕組みづくりが見えてくるはずである。文在寅大統領は、就任直後の2017年7月、「朝鮮半島平和ビジョン」をあえてベルリンで演説し表明したのであるが、ここには、北東アジアに残る冷戦構造をなくしていこうとする意図が見えている。

今こそ、北東アジア非核兵器地帯を

上記の問題意識に立ち、ピースデポは、核兵器禁止条約の発効直後の2月2日、日本政府に対し、核兵器禁止条約が発効した今こそ、「核の傘」政策からの脱却に向け、「北東アジア非核兵器地帯」構想を真剣に検討するべきであるという要請書を提出した。これは、様々な市民団体にも呼びかけ、21団体の連名で申し入れた。同じ内容を各政党にも面談して、国会での議論を求めていく作業を始めている。この中で、特に強調したのは、核兵器禁止条約が発効した状況の中で、北東アジアにおける安全保障環境を悪化させるような行動を日本がとるべきではないということである。例えば、敵基地攻撃能力の保有など、自分から安全保障環境を悪くさせるような行動をとっていけば、環境は悪くなるばかりである。

韓国では、2020年7月27日、朝鮮戦争停戦協定の締結の日に「朝鮮半島平和宣言」という運動が始まった。2023年までに世界で1億人の朝鮮戦争を終わらせようとの署名を集めようと呼びかけている。日本の市民もこれに呼応し、連携しながら戦争のない、核兵器の無い朝鮮半島を作ろうとのキャンペーンを盛り上げていかねばならない。

2021年初頭、核兵器禁止条約が発効し、核兵器の存在そのものを禁止する国際法が動き出し、核軍縮の動きは新たなステージに入った。それを活かすために、被爆体験を有する日本が、核抑止政策から解放されることは極めて重要である。そのために、18年の2つの首脳合意を基礎に、朝鮮半島の非核化を、その先に北東アジア非核兵器地帯条約構想を打ち出すことが、状況を変える大きな契機になることは明確である。北東アジア非核兵器地帯は、朝鮮半島の2国と日本が「非核の傘」に依存することを表明するものであり、同時にその3国が核兵器禁止条約に参加する資格を作ることにもなる。そうなれば北東アジア地域の非核化が、グローバルな非核化に大きく貢献する道を開くことが見えてくるはずである。北東アジア全体の平和体制の構築という観点からすれば、米国と中国の対立関係を前提に中国包囲網を作ることは、返って緊張を高め、安全保障環境を悪化することしか生み出さない。

 


注:

  1. ピースデポ刊『ピース・アルマナック2020』pp.43-49に条約の全訳。

  2. ホワイトハウスHP,サキ報道官の記者会見(2021年4月30日)。
    https://www.whitehouse.gov/briefing-room/press-briefings/2021/04/30/press-gaggle-by-press-secretary-jen-psaki-aboard-air-force-one-en-route-philadelphia-pa/

  3. ホワイトハウスHP(2021年5月21日)。
    https://www.whitehouse.gov/briefing-room/statements-releases/2021/05/21/u-s-rok-leaders-joint-statement/

2021年05月25日

ニュースペーパー News Paper 2021.5

5月号もくじ

表紙 汚染水を海に捨てるな!緊急行動

日本をまともな国にするために-横田・基地被害をなくす会 福本道夫さんに聞く

復帰49年目の沖縄平和行進

中距離ミサイルの配備をやめさせよう

94万人を安全に避難させることができるのか?

放射能汚染水の「海洋放出」をやめろ

福島原発事故から10年、未来への絶対条件を欠く政治

2021年05月20日

「重要土地調査規制法案」の廃案を求める5.27集会のご案内

平和フォーラムが参加する「戦争をさせない1000人委員会」は5月27日、「重要土地調査規制法案」の廃案を求める集会を開催しますので、下記の通りご案内いたします。

※操作の不手際で事前にご案内したURLで配信できず、大変ご迷惑をおかけしました。
こちらからアーカイブをご覧ください→ https://www.youtube.com/watch?v=7Ju4e7pHstc

「重要土地調査規制法案」の廃案を求める5.27集会

日時:5月27日(木)14時~15時30分
内容:飯島滋明さん(名古屋学院大学教授)「『重要土地調査規制法案』の危険性」
/各地・各団体からの報告
/野党各党からの発言
主催:戦争をさせない1000人委員会

2021年05月17日

入管法改悪案の衆議院での採決に反対する見解

菅政権は4月20日から衆議院法務委員会で審議されている「出入国管理及び難民認定法」の改悪について、明日以降の法務委員会で採決を強行しようとしている。

政府案には、3回以上の難民申請をした者を対象に強制送還を行う措置が盛り込まれている。これまでも、日本における難民認定率が1パーセント以下と極めて低い問題が指摘されていた。このため、出身国における政治的な迫害や経済的な困窮から逃れてきた人々が、難民認定を何度も繰り返さざるを得ない状況に追い込まれている。今回の政府案は、難民申請中でも強制送還を可能としており、このことは日本政府が加入している難民条約に違反するばかりか、難民申請者の生命に関わる問題を引き起こすものであり、看過できない。

政府案には有効な在留資格を持たない外国人を対象とした「在留特別許可」に関する規定が盛り込まれているが、適用対象が非常に限定されており、加えて退去強制令書の発付後は在留特別許可の申請権が認められないとされている。改悪案は、「帰ることができない事情」を抱える外国人を「送還忌避者」として送還することを容易にするものであり、対象とされた人々に重大な不利益や人権侵害をもたらすものである。

また、政府案には、退去命令に従わない者を刑事罰の対象とする「退去強制拒否罪」が設けられている。安価な労働力、雇用の調整弁として外国人を都合よく利用している日本社会の側の責任が問われないまま、外国人に刑事罰をちらつかせることは、多文化共生社会、基本的人権が尊重される社会の実現に向けた努力と逆行している。

今年3月のスリランカ人のウィシュマさんの死亡についても、名古屋入管は監視カメラの映像開示を拒むなど、真相究明に非協力的な姿勢を崩していない。昨年8月から収容が続いていたウィシュマさんの診療記録が病院と入管で食い違うなど長期収容に伴う問題も発生している。収容、仮放免、さらに政府案で示されている「監理措置」のいずれも入管当局の独断で決定されることとなっており、その対応をただすことが困難である。ウィシュマさんをはじめ入管で多発する収容者の死亡の真相究明と、基本的人権を尊重する日本国憲法の理念に沿った入管行政の見直しが優先されなければならない。このため、平和フォーラムは入管法改悪案の衆議院での採決に強く反対するものである。

2021年5月17日

フォーラム平和・人権・環境

事務局長 竹内広人

 

2021年05月14日

今夏の五輪開催の断念と新型コロナウイルス対策の強化を求める声明

2021年5月14日
フォーラム平和・人権・環境
共同代表 藤本泰成
勝島一博

新型コロナウイルス感染症の勢いが止まらない。緊急事態宣言下において、5月11日には全国で6240人、12日には7057人の新規感染者が報告されている。1日の全国の死者も100人を超えることとなった。医療機関は逼迫し、治療を受けられず死亡した者が全国で3月は29人、4月は47人が報告されている。現在、東京都、大阪府など6都府県に緊急事態宣言が、8県に蔓延防止等重点措置が適用され、対象地域の拡大も検討されている(5月13日現在)。

昨年4月7日、政府は最初の緊急事態宣言を発出し、5月25日には全面解除したが、その間、全国の新規感染者が1000人を超えたことはなかった。7000人を超える現状を見れば、より一層深刻な事態に突入していることは明らかだ。このような事態は、PCR検査の拡充を行わず無症状の感染者を放置してきたこと、水際対策の不備から変異株の国内侵入を許してしまったこと、ワクチン接種の準備が遅れたこと、何よりも世界の感染状況を軽視し、最初の緊急事態宣言直後「Go To トラベル」キャンペーンや「Go To イート」キャンペーンなど経済政策を優先したことに原因がある。

市民は感染拡大防止のために様々な自粛を強いられてきたが、政府の対策の不備から大きな効果を上げるに至らなかった。休業要請や営業時間短縮措置などこれまでの政府の対策は一貫性がなく、市民の理解を得るには説得力に欠ける。一度きり一律の給付金は、困窮者を真に救済することにはつながらず、営業補償もその給付が滞っている。医療従事者を優先するとしたワクチン接種も、医療従事者の接種が3割にも満たないまま、高齢者の接種が始まっている。英国や米国では、2回目のワクチン接種完了者が3割を超えているが、日本は1回目の接種でさえ対象者の2%となっている。対策の遅れは火を見るより明らかだ。

このように市民社会が命の危険にさらされている中にあって、政府は7月23日の開会式が予定されている東京オリンピック、そしてパラリンピック(以下総称して五輪)の開催を強行しようとしている。菅首相は、五輪開催中止を求める野党の質問に対して「感染対策を講じて、安心して参加できるようにするとともに、国民の命と健康を守っていく」と繰り返し答弁し、その具体策を示すことなく五輪開催を強行しようとしている。しかし、3月20日に発表された公益財団法人「新聞通信調査会」の海外5カ国での世論調査では、「中止すべきだ」「延期すべきだ」との回答の合計が全ての国で70%を超えている。英ガーディアン、米ワシントン・ポスト、ニューヨーク・タイムズなど主要な海外メディアも、開催に否定的な意見を掲載している。世界の感染状況からいっても、五輪が開催できる状況にはないだろう。国内で始められた五輪開催中止を求めるネット署名への賛同は、わずかな期間で35万人以上に達している。五輪への医療従事者派遣の要請に、当事者から大きな反発が起き、選手へのワクチン優先接種も否定的な意見があがっている。ホストタウンを引き受ける自治体にも不安は広がり、受け入れ中止を表明する自治体も現れている。

世界中が命の危険にさらされている中にあって、五輪開催にどのような意味があるのか。政府、JOCそして組織委員会は、その意味を示し得ていない。オリンピズムの根本原則には「オリンピズムは肉体と意志と精神のすべての資質を高め、バランスよく結合させる生き方の哲学である」と記載されている。それならば、「いのち」を優先することが求められるのではないか。現下の状況でオリンピックを開催すべきではない。世界の、そして日本の市民社会は、決して開催を喜びはしない。

「いのちに寄り添う政治と社会」を求めて活動してきた平和フォーラムは、今夏の五輪開催を断念し、新型コロナウイルス対策を強化し市民の命を最優先することを、日本政府に対し強く求める。

2021年05月06日

衆議院憲法審査会における国民投票法改正案の採決に対する平和フォーラム見解

フォーラム平和・人権・環境
事務局長 竹内 広人

本日、衆議院憲法審査会において、立憲民主党が提案した修正案を与党側が了承し、何ら議論もなく、国民投票法改正案が採決された。多くの欠陥を残しながら、この法案が採決されたことに対し、強く抗議する。

この法案が提出された2018年6月以降、立憲野党は8国会にわたって、改憲発議が可能な衆議院の3分の2をこえる自公政権のもとで、法案審議を継続させてきた。この努力については一定評価できる。しかし、菅自公政権だけではなく、一部野党、そして一部マスコミもあわせた「採決をせよ」の大合唱の中で、このような結果となったことは極めて遺憾である。

菅自公政権が、採決を急いだのは、5月3日の憲法記念日で、菅首相自身が述べたとおり「憲法改正の議論を進める最初の一歩」とするためであり、まさに、この法案は「改憲手続法」とでもいうべき法案である。

しかし、この法案は、CM・インターネット規制など、多くの問題を残している。また、自宅療養者の投票権の問題も、今回の法案、すなわち、公選法並びの7項目の改正では解決しない。これだけ、新型コロナウイルスが拡大し、自宅療養を強いられている方々が多くいる現状で、あまりにも無責任である。

また、「最低投票率」あるいは「最低得票率」の問題、政党への外資規制の問題も未解決のままだ。さらには、この法改正の目的とされている、「投票環境の向上」についても、「期日前投票の弾力的運用」や「繰延投票の告示期間の短縮」はかえって「投票環境」を悪くしかねないものである。

立憲民主党の修正案は、CM・インターネット規制の問題や、政党への外資規制の問題、また、運動資金の透明化など、この法案のもつ明らかな欠陥について、「施行から3年を目途」に、必要な改正を行うことを要求したものであった。与党側は、この要求をすべて了承する形で、本法案の成立を図った。しかし、与党側も「CM規制など、問題であることは理解できる」としており、それであれば、「附則」ではなく、法案そのものを修正すべきである。

緊急事態宣言が発令されている今、このような、「不要不急」の法案を、審議する必要があったのか。優先すべきは、新型コロナウイルス対策であり、新型コロナウイルスによって、生活に困窮している皆さん、努力されている医療現場の皆さんなどに、国として、どのように対応していくのかを、優先して議論すべきだ。

しかし、菅自公政権は、コロナ禍が始まってから、もう一年もたつというのに、PCR検査は民間任せ、ワクチン確保も後手を踏み、最も必要な病床の確保や、マンパワーの確保も、その場しのぎの対応しかできていない。憲法第25条に規定されている「生存権」の保障すらできない、今の菅自公政権には、そもそも憲法改正の議論をする資格すらない。

今後、5月11日の衆議院本会議で、この法案は採決の予定であり、そこから先、参議院での議論が始まる。まずは、6月16日の会期末まで、この欠陥法案を廃案に追い込んでいく努力を継続していく。また、与野党合意の上で「3年後の見直し」を法案本文に記載したのであれば、3年後を待つことなく、参議院においても引き続き、この法案の欠陥について、議論すべきである。ましてや、菅自公政権の掲げる、改憲4項目、すなわち、「自衛隊明記」「緊急事態条項の導入」「教育の充実」「合区解消」などの自民党の改憲4項目の議論にはいることなど論外である。

この自民党の「自衛隊明記」「緊急事態条項の導入」のような、まさに日本国憲法の「平和主義」「民主主義」「基本的人権の尊重」という基本原理を蹂躙する内容の憲法改悪を、我々は決して許すわけにはいかない。この改憲発議を阻止するためにも、改憲勢力が3分の2以上を占める衆議院の状況を、来る総選挙で、逆転していかねばならない。平和フォーラムは、引き続き、改憲発議の阻止と、立憲野党の勝利に向けて、取り組みを強化していく。

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