5月, 2023 | 平和フォーラム

2023年05月31日

生物多様性の破壊と気候危機;解決には脱軍備が必須 ―G7こそが問題の温床―

湯浅一郎

 2023年5月19日~21日、G7サミットが広島で開催された。岸田首相は広島出身を売りにし「核兵器のない世界」をめざすとし、米英仏の核兵器国3か国と、安全保障を米国の核に依存する核抑止政策を選ぶ4か国が広島に集い、核軍縮に関する広島ビジョンを採択した。「核兵器のない世界という究極の目標に向けたコミットメントを再確認する」としたが、NPT第6条に沿った核軍縮のための具体的なロードマップは何一つ示していない。核兵器保有と核抑止を確認しておいて、「核のない世界」をめざすとは、良く言えたものである。G7サミットは色々な視点から批判されるべきだが、ここでは、生物多様性の破壊の張本人はG7であるとの観点から検討する。

1.20世紀末、人類は「地球環境容量の限界」に直面していた

 20世紀末、人類は、このまま生物多様性を破壊していけば、自らも含めて破滅への道であることを自覚し始める。その兆しは、1972年、ローマクラブが『成長の限界』を発表した頃からあった。同書は、このまま人口増加や環境汚染が続くと、あと100年で地球の成長は限界に達すると警鐘を鳴らしていた。この時、世界は第二次世界大戦後の西洋文明社会の物質的な豊かさを求めて、成長と繁栄の道を謳歌していた。1980年代になると「世界自然資源保全戦略」で初めて公式に「持続可能性」という概念が登場し、「ブルントラント・レポート:我ら共有の未来」の中で「持続可能な開発」の概念が打ち出された。

 そして1992年6月、リオデジャネイロ(ブラジル)で開催された地球サミット(環境と開発に関する国際連合会議)で歴史的転換点を迎える。この会議で持続可能な開発に関する行動の基本原則である「リオ宣言」と行動綱領「アジェンダ21」を採択し、以下の2つの画期的条約が採択された。

①生物多様性条約(以下CBD)署名(93年5月発効)。日本はすぐに署名し、2019年12月現在、194か国とEU及びパレスチナが加盟している。米国は未締結である。
②気候変動枠組み条約(94年発効)。1997年、京都議定書に合意し、2015年には「2050年に産業革命前の地球の表面温度より2度Cより低い水準に保つこと」をめざしてパリ協定が締結される。

 このようにして人類は、20世紀末の危機感から、ようやく対策を始めたわけである。

2.自然と人類の持続可能な共存が喫緊の課題となった背景

 生物多様性の低下を食い止める見込みが立たない理由は、この課題が単にごく最近の短期的な出来事ではなく、少なくとも数百年をかけた人類活動の膨張に伴う「自然と人類の持続可能な共存」ともいうべき根深い事態であることに起因しているからである。それを推進してきたのは英米仏独など欧米であり、G7各国である。

 「自然界と人類との持続可能な共存」とでもいうべき、かつてない問題が喫緊の課題になってきた背景は何か。その解決には現代文明の根本的変革を視野に入れ、相当な時間をかけた努力が不可欠である。G7にその問題意識がどこまであるのかは疑わしい。

 「自然との持続可能な共存」が喫緊の課題となった背景は、産業革命からの約250年間にわたる化石燃料依存文明の拡大にある。産業革命以降の人間活動の規模拡大の歴史は、南極氷床を分析した大気中の二酸化炭素濃度の変遷から推測できる(図1)。この図には3つの変曲点がある。第1は蒸気機関の発明(1769年、ジェームズ・ワット)から石炭使用量の急速な拡大がおきた1770年頃である。第2は日本で言えば明治維新の1870年頃で、石炭への依存度が増していった時期である。そして第3が1960年頃で、石油文明への移行の時期である。その結果、図には3つの傾きを持つ直線がみえている。特に目立つのは1960年代以降の急増である。こうして人間活動の急激な拡大により地球規模で大気中の二酸化炭素濃度が増加し、広域的な大気や海洋の汚染が慢性化し、地球規模の大気海洋系の運動を左右するまでになり、生物の生息地を破壊し、結果として急激な生物多様性の低下をもたらした。

図1過去250年間の大気中二酸化炭素濃度の変動

 シルクロードの命名者で著名な地理学者フェルデイナンド・フォン・リヒトホーフェンが、1868年9月、瀬戸内海を通る船旅での旅行日記で、「広い区域に亙る優美な景色で、これ以上のものは世界の何処にもないであらう。将来この地方は、世界で最も魅力のある場所のひとつとして高い評価をかち得、沢山の人を引き寄せるであらう。《中略》かくも長い間保たれて来たこの状態が今後も長く続かんことを私は祈る。その最大の敵は、文明と以前知らなかった欲望の出現とである」と書いている。この時、リヒトホーフェンは、欧州で進む産業革命に伴う人間活動の膨張という急激な変化の先に暗い未来を想像していたのではないか。それから50~100年の間に核物理学の発展などに伴う核兵器や原発の開発や遺伝子レベルの解明に伴う遺伝子操作技術など、倫理的にも今後人類が問うていかねばならない領域に踏み込む事態が続いている。

3.生物多様性の保全・回復の取り組み

 生物多様性条約(CBD)の1993年発効から丸30年間がたつが、その経過を振り返る。日本は、いち早くこの条約に加盟したが、「生物多様性基本法」が施行されるのは、発効から15年後の2008年6月である。そして2010年10月、CBD第10回締約国会議が名古屋で開催され、日本は議長国として重責を担った。ここで2020年に向けて生物多様性の回復のために21の行動目標を定めた「生物多様性戦略計画2011-2020」(愛知目標)が合意され、日本は2012年には第5次「生物多様性国家戦略」を閣議決定した。

 愛知目標の目標年1年前の2019年5月、「生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットホーム」(以下、IPBES)は、第7回総会(パリ)において世界初となる「生物多様性と生態系サービスに関する地球規模評価報告書」を発表する。これには、「世界中に約800万種と推定される動植物について、約100万種がここ数十年内に絶滅の危機にある。」、「海生哺乳類の33%超が絶滅の危機に直面している」と衝撃的なことが書かれている。

 そして2020年9月15日、生物多様性条約事務局は、「地球規模生物多様性概況第5版(GBO5)概要要約」を発表し、愛知目標で完全に達成された目標は一つも無かったことを明らかにした。その上で、この状況を克服するためには「今までどうり」(business as usual)から脱却し社会変革(transformative change)が必要だとした。

 

 愛知目標の目標年である2020年10月、CBD第15回締約国会議が中国の昆明で開催される予定であったが、コロナ禍により4度延期されることとなった。予定よりの遅れが丸2年がたつ2021年10月から2022年12月にかけて2部に分けて実施された。

 第1部は、2021年10月11~15日、オンラインと対面の併用開催で、「エコロジカル文明:地球のすべての命に共有される未来をつくる」と銘打った昆明宣言を採択した。

 第2部は、昆明でのコロナ禍を避けるため、2022年12月7日~19日、カナダのモントリオールに場所を移し、対面で開催された。2050年までの長期ビジョン「自然と共生する世界」を掲げ、2030年へ向けた「昆明・モントリオール世界生物多様性枠組み」に合意した。「今までどうりから脱却し」、「社会、経済、政治、技術を横断する社会変革」をめざすとし、4つのゴールと23のターゲット(目標)で構成されている。目標3は、「世界の陸域、海域の30%以上を保護区にする」(30by30)とされた。愛知目標では陸17%、海10%だったので、それより高い目標が掲げられている。目標2は、「劣化した生態系の少なくとも30%を再生する」としている。

 これに関連して、G7は、2021年のコーンウォールサミット(英国)で「2030年「自然協約」を採択している。2030年までに自国の陸域と海域の少なくとも30%を保全すること等を約束し、昆明・モントリオール枠組みとほぼ同じ内容に合意していた。これが本気なのであれば、まずはG7の中心にいる米国が生物多様性条約に加盟せねばならない。問題は250年前の産業革命に端を発する化石燃料文明と世界規模の資本主義経済システムにあることを明確にし、それを克服する道を示すのでなければならない。しかしG7広島サミットはそうした根本的対策を用意しているはずはなかった。

4.閣議決定された第6次「生物多様性国家戦略2023-2030」

 日本政府は、2023年3月31日、昆明・モントリオール枠組みに沿って第6次生物多様性国家戦略を閣議決定し、「陸と海の30%以上を保護区にする」などを盛り込んだ。環境省の原案では「30%」だったが「30%以上」になったのは、環瀬戸内海会議や辺野古土砂全協がパブコメの意見書で「少なくとも30%」を入れるべきだと主張したことが反映されている。

 このためには、海でいえば2016年に環境省が抽出した全国に270か所ある『生物多様性の観点から重要度の高い海域』はすべて保護区にすべきである。「今まで通りから脱却する」のであれば当然の方針である。そうなれば、例えば防衛省の辺野古新基地建設の埋め立て事業は、ジュゴンやウミガメの生息に深く関わり、多様なサンゴが生息し、2019年にはホープ・スペース(希望の海)に認定されたように国際的にも貴重な生物多様性を根こそぎ消滅させる行為であり、本戦略に抵触することは自明であり、中止されるべきである。

 また上関原発予定地である田ノ浦海岸は、「長島・祝島周辺」(海域番号13708)と名付けられた重要度の高い海域である(図2)。この海域は、「護岸のない自然海岸が多く、瀬戸内海のかつての生物多様性を色濃く残す場所である。祝島と長島を隔てる水道はタイの漁場として有名であり、スナメリやカンムリウミスズメが目撃されている。岩礁海岸ではガラモ場が非常によく発達しており、生産性も高い。宇和島ではオオミズナギドリお繁殖地が見つかっている。」とされている。270海域の中でも瀬戸内海の原風景を残し、生物多様性の豊かさという点ではトップクラスの海域である。生物多様性国家戦略に照らして、そのまま保護するのが妥当な選択である。従って「田ノ浦海岸に関する山口県知事の埋立て承認には、生物多様性基本法に照らして法的に瑕疵がある」と言わざるを得ない。

 いずれにせよ2023年から、日本政府には「社会変革」が盛り込まれた「昆明・モントリオール生物多様性枠組み」(=ポスト愛知目標)と第6次生物多様性国家戦略を推進する責務が生じた。G7広島サミットは、札幌での環境大臣会合において、それなりに詳しくこの点に触れている。しかし、おそらく政府は、「国家戦略には法的拘束力がない」ことを理由に、「これまでどうりの施策」を強行する可能性が高い。これは「未来への国家による犯罪行為」が続くことになることを意味する。

6.浪費型文明を見直し、社会変革を進めるしかない

 18世紀の産業革命に端を発し、科学技術の進歩を背景に資本主義的社会経済システムを運用し、化石燃料漬け文明の時代が約250年ほど続いてきた。特に1960年以降において人間活動は地球規模で気候変動を左右するに至り、生物多様性を急激に低下させ続けている。1970年代の石油危機からほぼ半世紀を経て、その弊害が表面化し、同時にコロナ事態に遭遇したことの意味を深刻に受け止めつつ、今は産業革命以降の歩みを省察し、変革へ向け歩みだすときである。しかしG7にその視点はない。

 そうした視点で、人類社会の在りようを見ると、ウクライナへのロシア侵略とNATOによるウクライナへの軍事支援の拡大により、戦争は長期化が避けられない状況である。さらにウクライナ危機を口実として世界規模の軍拡が続いており、日本は、まさにその1つである。22年12月、安保3文書を改定し、「防衛力を背景にした外交」の方針を打ち出し、敵基地攻撃能力の確保、防衛費の倍増をもくろんでいる。

 こうした状況を地球の外から眺めていたら、なんと愚かしい生き物だと思われるに違いない。今、人類は、国同士で殺し合いをしている時ではない。生物多様性や気候危機への対処という喫緊の課題が突きつけられているのである。

 自らの「軍事力による安全保障」が他者の安全を侵害するとき、相互の不信と憎悪を増幅し、結果として核軍拡競争を生みだし、それがさらに不信と憎悪を増幅するというスパイラルに陥る。このような構図を<軍事力による安全保障ジレンマ>と言う。限られた資源とエネルギーを軍事に投入しあうことが生み出すのは、安全と安心ではなく、むしろ止め度のない軍拡と終わりが見えない対立が続く未来だけである。

 米ソ冷戦終結から30数年の歴史は、「共通の安全保障」により見かけ上、冷戦は終わったように見えたが、ロシアのウクライナ侵略により、実際は問題を抱えたままであったことが明らかになった。この点を包括的に振り返ってみることこそ、今、求められている。

  

 軍事で平和は作れないのである。「軍事力が平和を担保する」の常識から、「軍事力によらない安全保障体制の構築」、脱軍備への道を拓くことが必須である。憲法9条はその基礎になる財産である。憲法9条の精神を外交政策として具体的な形で構築していくことこそ重要。北東アジア非核兵器地帯構想を打ち出すなど包括的な平和の枠組み作りの突破口を創りださねばならない。

 気候危機や生物多様性の低下を食い止めていくために、化石燃料依存の文明を変革することが不可欠である。今、求められることは、浪費型文明を見直し、社会変革を進めることである。膨張を前提としたグローバルな資本主義体制の変革が不可欠であり、脱軍備で文明の変革へ向かうことが同時並行して進められねばならない。G7が、そうした姿勢もないままウクライナ侵攻を口実に軍拡を正当化し、核抑止体制を強化するためにヒロシマを利用することは許されることではない。

2023年05月31日

#入管法改悪反対 #強行採決反対 の声をたやさずFAXで議員に届けよう。

入管法改「正」案の参議院法務委員会での採決強行の動きに対し、「STOP長期収容市民ネットワーク」に加入する諸団体が、与党への反対意見のFAX送付の集中キャンペーンを呼びかけています。ぜひご協力ください!

 2023年5月29日現在、2021年に廃案となった法案とほぼ同じ内容の法務省が作成した政府入管法改定案(以下改悪案)は衆議院を通過し、5月9日に参議院に提出された野党入管法改正案&難民等保護法案とあわせて、参議院法務委員で、火曜と木曜に並行審議されています。
審議前に伏せられていた「立法事実」とされるエビデンスが、審議中に野党の要請によって、ようやく入管から示されるとともに、「立法事実」とされているものの事実確認や根拠がなかったことなどが明らかになってきました。けれども与党は、参考人質疑も終わり、衆議院での審議時間を目処とした時間換算で、根拠のない「十分な審議」として、自民党法務委員が採決動議が提出し、数の論理で、すぐにでも強行採決する可能性があり、そのまま成立してしまう危険性があります。
改悪案は立法事実もなく、審議不可能です。今すぐにでも廃案にすべきで、そのような法案を強行採決で押し通すようなことはあってはいけません。

どうしてFAX?

2021年入管法改悪案が通常国会で見送りされた際、
“1年前の5月、与党は検察庁法改正案の採決を強行しようとし、SNSで反対が広がり、廃案になった経緯がある。これに対し、与党幹部はこう話す。「あの時とは違う。(抗議の)ファクスがたくさん来たが、今回は10枚ぐらいだ」”(2021年5月13日 朝日新聞 より)
と報道されました。
与党は、メールなどよりも、FAXで市民の声をはかるようです。

>>送り先・送り方などキャンペーン詳細はこちらをご覧ください<<

2023年05月26日

憲法審査会レポート No.19

今週は参議院憲法審査会不開催のため、衆議院憲法審査会のみのレポートです。

2023年5月25日(木) 第211回国会(常会)
第12回 衆議院憲法審査会

【アーカイブ動画】

https://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=54633
※「はじめから再生」をクリックしてください

【会議録】

※公開され次第追加します(おおむね2週間後になります)

【マスコミ報道から】

衆院憲法審査会・発言の要旨(2023年5月18日)※ 自民は国民投票手続き規定の整備、立民はCM規制を主張
https://www.tokyo-np.co.jp/article/252398
※記事タイトルには「(2023年5月18日)」と記載されていますが、25日についての記事です。

自民、国民投票規定整備を 立民、ネットCM規制必要
https://nordot.app/1034300025951715815
“与野党は憲法改正の国民投票に関する課題や手続きを巡り討議。自民党は、改憲発議後に国民への広報事務を担当する「国民投票広報協議会」の規定を速やかに整備すべきだと主張した。立憲民主党は、改憲案の賛否を訴えるインターネットCMの規制を国民投票法に盛り込む必要があると改めて提起した。”

自民、「国民投票協」の準備主張 立民はネット規制訴え―衆院憲法審
https://www.jiji.com/jc/article?k=2023052501002&g=pol
“国民投票広報協議会の設置は国民投票法などに規定されている。衆参両院10人ずつの議員で構成され、改憲案に関する放送や新聞での広報に当たるが、委員の選任方法や開催日時決定の手続きなど詳細は定まっていない。”

「国民投票広報協議会」自民が規定整備を提案 衆院憲法審
https://www.sankei.com/article/20230525-W2CTUYDD75LS3M6BSHSN5TZSZ4/
“立民の階猛氏は「国民投票が適正かつ公平に行われるためにネットCM規制を国民投票法に盛り込むことは最優先で行うべき課題だ」と強調した。しかし、立民の提起に関しては「表現の自由を侵害し、憲法違反の恐れがある」(日本維新の会)、「言論空間がゆがめられる危険性がある」(公明)などと懸念の声が相次いだ。”

【傍聴者の感想】

今日の衆議院憲法審査会は数分遅れて開催され、日本国憲法及び憲法改正国民投票法の改正を巡る諸問題でとくに国民投票を中心として討議が行われました。

そのなかで、最後に発言された立憲民主党の本庄知史議員の発言内容に驚かされました。「国民投票法における安全保障」「財政民主主義のあり方」「反撃能力行使の憲法上の課題」について述べられていました。

とくに「財政民主主義のあり方」についてわかりやすくお話しされていて、税金の使い道は国民を代表する国会で決めるという財政民主主義は今や瀕死の状態であると危惧し、集中的に討議すべきであるとのことでした。

傍聴したなかでは与党の発言などにガッカリする場面も多かったですが、最後の最後で傍聴してよかったと思いました。

国会終盤を迎え、憲法審査会でも重要な局面にあると思います。できるだけ多くの皆さんに傍聴に参加していただき、内容を共有することが重要だと感じています。

【憲法学者から】飯島滋明さん(名古屋学院大学教授)

国会議員の任期延長の改憲論と参議院の緊急集会について

ここ数週間、衆議院と参議院の憲法審査会での中心的な論点の一つが「国会議員の任期延長の改憲論」、そして「参議院の緊急集会」です。議論を重ねれば重ねるほど、自民党、公明党、日本維新の会、国民民主党、有志の会の「改憲5会派」の「ボロ」が出てきます。

改憲5会派は、選挙の実施が困難な場合があると主張します。公明党の北側一雄議員は東日本大震災の際、選挙が8か月できなかった事例に繰り返し言及しています。だとしたら、2023年5月10日の参議院憲法審査会で辻元清美議員が批判したように、なぜ自民党と公明党は東日本大震災の復興さなかに内閣不信任案を出したのでしょうか? 矛盾しすぎです。

70日以上、国会が開けないのは問題だと自民党や公明党、日本維新の会や国民民主党は主張します。そうであれば、5月10日参議院憲法審査会で山本太郎議員が批判するように、なぜコロナ感染拡大で国民が大変な状況にある中、自民党と公明党は70日以上も国会を開かなかったのでしょうか?

「国会の空白期間を心配するなら、百日を超えて国会を放棄し、国民を放置してきた、党利党略、保身のために国会の空白期間を常習的につくりだしてきたことへの反省を述べることから始めなければお話になりません」と山本議員が批判するように、70日以上、国会が開催できないのは問題と主張する資格が自民党や公明党にはありません。日本維新の会や国民民主党も改憲よりも先に、なぜ2017年、2020年、2021年と70日以上も自民党と公明党が国会を開催しなかったのか、そのことを国会法102条の6に基づいて調査することを主張すべきです。

参議院の緊急集会は「二院制の例外」だから問題というのであれば、杉尾秀哉議員や打越さく良議員が指摘するように、「議員任期延長」は「国民主権」の例外、「緊急政令」や「緊急財政処分」を可能にする「緊急事態条項」は「権力分立」や「立憲主義」という、近代法の基本原理の例外であることを問題視する必要があります。

さらに打越さく良議員が指摘するように、国会議員の任期延長も「戦争できる国づくり」の一環になる危険性もあります。

【国会議員から】本庄知史さん(立憲民主党・衆議院議員/憲法審査会委員)

1 国民投票における安全保障

まず、本日の主題である憲法改正国民投票に関し、安全保障との関係について申し述べます。

一昨日の本会議で、防衛財源確保法案が可決されました。本法案の正式名称は「我が国の防衛力の抜本的な強化等のために必要な財源の確保に関する特別措置法案」です。しかし、それは名ばかりであり、実体は「防衛力の抜本的な強化」にも「必要な財源の確保」にもならない重大な欠陥法案です。にもかかわらず、政府・与党は「防衛費倍増」「GDP比2%」といった数字ありきで、他の政策との優先順位やバランス、財政状況も考慮せず、5年で43兆円もの常軌を逸した予算を注ぎ込もうとしています。

総合的な見地から安全保障上なすべきことは、他にいくらでもあります。その最たるものが、憲法改正国民投票に外国政府や外国資本が介入し、国家・国民の意思決定が支配されることを未然に防ぐための措置です。とりわけ、インターネット、SNS等オンライン広告の規制は極めて重要です。しかし、テレビ・ラジオ・新聞広告と比べても、オンライン広告の規制はほとんど議論がなされていません。

3月の当審査会でも述べましたが、外国勢力によるフェイクニュース、偽情報の流布、巨額の資金を用いた世論操作等も想定されるなか、これらを規制するための国民投票法の改正こそ、今、国会で行うべき安全保障論議です。

2 防衛財源確保法案と財政民主主義

次に、今回の防衛財源確保法案に関連して、財政民主主義について申し述べます。

4月の当審査会でも指摘いたしましたが、憲法が規定する財政民主主義は今、空文化しています。その最たるものが巨額の予備費です。予備費は予算審議の中で具体的な使途が議論されず、事後に形式的な議決がなされるのみで、事実上、政府の自由裁量となっています。
例えば昨年度、2022年度は当初予算と補正予算で合計約12兆円もの予備費が計上され、そのうち4兆円近くが不用額となる見込みです。もはや憲法第87条に規定する「予見し難い予算の不足に充てるため」と言える状況ではありませんが、本年度予算でもまた、5.5兆円もの予備費が計上されています。しかも、その財源は実質的には赤字国債です。

今回の防衛財源確保法案は、この巨額の予備費の不用額が決算剰余金として防衛財源になるという、まるで国家的マネーロンダリングのような仕組みを採用しています。巨額の予備費を計上し、事実上それを別の政策に流用するこの法案は、憲法第83条、第85条に規定する財政民主主義の趣旨に反するものです。また、今後5年間に渡って財源と使途を縛るという点では、憲法第86条、予算単年度主義を有名無実化しかねません。

税金の使い道は国民を代表する国会で決めるという財政民主主義は、今や瀕死の状態です。この認識を当審査会で共有し、財政民主主義のあり方について、集中的に討議すべきです。

3 反撃能力に係る憲法上の論点

最後に、この防衛財源確保法案と表裏一体であるミサイル反撃能力、敵基地攻撃能力について、申し述べます。
本件については、私は3月と4月に二度、取り上げましたが、憲法上の重要な論点を多く含んでいるにもかかわらず、その後も全く議論が深まっていません。

例えば、憲法上保持が許される、「戦力」に当たらない「必要最小限度の実力」としての反撃能力とは、質量ともにどういうものなのか。日米同盟に基づき盾と矛の役割分担があるなかで、「他に適当な手段がない」として憲法上許される反撃能力の行使とはどういう場合なのか。政府は存立危機事態、すなわち「限定的な集団的自衛権」としての反撃能力の行使も可能としていますが、我が国自身が武力攻撃を受けていないなかでの反撃能力の行使が、果たして「限定的な」集団的自衛権の行使と言えるのか。他国の攻撃の「着手」段階での反撃能力行使は先制攻撃に当たらず、国際法に違反しないとも政府は言っていますが、技術的・能力的な可能性はもちろん、そもそも他国の意図や行動を我が国が立証できるのか。

そして、より基本的な問題として、従来想定していた、我が国の領土・領海・領空に対する侵害を物理的に「排除」することを専らとする武力行使と、単なる物理的な「排除」にとどまらず、相手国の領土・領海・領空に対して武力行使することを前提としているミサイル反撃能力は、同じ「必要最小限度の実力」や「専守防衛」といっても、その合憲性の基準や論理構築は自ずと異なるのではないか。

こういった反撃能力の憲法上の論点について、政府は正面から答弁していませんが、私は、相当深い議論が必要であり、それがなければ、国の行く末を誤りかねないと危惧しています。

4 むすび

以上、3点申し述べました。憲法改正国民投票への外国勢力の介入防止、財政民主主義のあり方、そして、反撃能力の憲法上の課題につき、それぞれ本審査会で集中的に討議するよう、会長にお取り計らいをお願いして、私の発言といたします。

(憲法審査会での発言から)

 

2023年05月25日

【声明】ウクライナへの武器輸出の拡大を危惧する 日本政府は武器ではなく人道援助の拡充を

岸田文雄首相は5月21日、ウクライナのゼレンスキー大統領と広島で会談し、自衛隊車両を提供するなどウクライナ支援を拡充すると約束しました。同日、防衛省が公表した「ウクライナへの装備品等の提供について」によれば、1/2tトラック、高機動車、資材運搬車を合計100台規模で提供するとしています。高機動車は不整地走行性能が高く、被弾しても走行できるタイヤ特性を持つ車両です。後方支援だけではなく、戦場から戦場への兵員輸送、重火器、弾薬輸送などの戦闘支援に日本の「防衛装備品」が利用されることになります。これまでもウクライナに対しては、2022年3月以来、防弾チョッキ、ヘルメット、小型ドローンなどが提供されてきましたが、軍用車両が現に紛争をしている当事国に提供されるのは初めてのことです。

そもそも日本政府は、アジア・太平洋戦争後半世紀以上に渡り、武器の輸出を原則禁じていました。1967年4月、当時の佐藤栄作首相が国会で、①共産国、②国連決議により武器等の輸出の禁止がされている国、③国際紛争中の当事国またはそのおそれのある国に武器輸出してはならないと答弁して以降、日本政府の運用基準として「武器輸出三原則」が定着していました。しかし、安倍晋三元首相が2014年4月に、武器の輸出入を原則認める「防衛装備移転三原則」の方針を決定して以降、2015年には武器等の技術開発の助成を目的とした「安全保障技術研究推進制度」がはじまり、国際武器見本市の開催や出展など、武器輸出入を念頭に置いた政府の動きが加速しました。日本学術会議の会員候補6人の任命を菅義偉首相(当時)が拒否したのは、同会議が武器技術の開発に反対し、安全保障技術研究推進制度に抗議の意思を示したことが理由と思われます。

その後、武器等を他国と共同開発し、武器輸出入をさらに拡大していくこと、また規模が縮小していた国内の軍需産業を支援するために、岸田首相が2022年12月、安保三文書でこの防衛装備移転三原則の運用指針の見直しを検討すると明言しています。見直しにむけた協議が続く政府与党内では、殺傷能力のある装備品を輸出できるようにする意向すら示されています。

敵基地攻撃能力の保有と軍事費の大幅拡大の上に進められる武器輸出の緩和は、断じて許されません。ウクライナ支援を口実にしての「幅広い防衛装備品の移転」つまるところ攻撃的な兵器の輸出は、平和憲法をないがしろにし、国際紛争を助長させるものでしかありません。

平和フォーラムは、日本が「死の商人」となることを許しません。岸田政権が進める武器輸出の緩和を阻み、ウクライナへの人道支援の拡充を政府に強く求めるとりくみを力強くすすめていきます。

2023年5月25日
フォーラム平和・人権・環境
共同代表 藤本泰成
勝島一博

2023年05月25日

ニュースペーパーNews Paper 2023.5

5月号もくじ

ニュースペーパーNews Paper2023.5

表紙 福島県富岡町 夜ノ森の桜トンネル
*漁業事業者の今 私たちの声を聞いて
   漁師 小野春雄さんに聞く
*政府のGXは役に立たない
*「こんなはずじゃなかった」馬毛島基地建設
*入管法改定案再び廃案に!
*袴田事件に思う

2023年05月19日

憲法審査会レポート No.18

2023年5月17日(水)第211回国会(常会)
第5回 参議院憲法審査会

【アーカイブ動画】

https://www.webtv.sangiin.go.jp/webtv/detail.php?sid=7454

【会議録】

※公開され次第追加します(おおむね2週間後になります)

【マスコミ報道から】

「合区解消」は改憲の理由になるのか? 自民は検討加速を訴え、立民は法改正で対応可能と主張 参院憲法審【詳報あり】
https://www.tokyo-np.co.jp/article/250594
“参院憲法審査会が17日に開かれ、参院選で隣接県を一つの選挙区にする「合区」をテーマに討議した。自民党は改憲による合区解消を求めつつ、2025年の参院選に間に合わせるため、当面は法改正で実現すべきだとの見解を示した。立憲民主党は法改正で対応できるとの認識を繰り返した。”

自民 “法改正による「合区」解消も選択肢の1つ”
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230517/k10014070301000.html
“この中で、自民党は、「合区」を解消して、都道府県単位の選挙区を維持すべきだと主張したうえで、最終的には憲法改正が必要だとしながらも、法改正による「合区」解消も選択肢の1つだという考えを示しました。”

自民、合区解消に法改正も=25年選挙目指し―参院憲法審査会
https://sp.m.jiji.com/article/show/2945861
“自民の中西祐介氏は25年の参院選までに合区を解消するため、「参院改革協議会の下で超党派での法律改正による合区の解消を目指す」との見解を示した。投票価値の平等など憲法についての議論を憲法審で深めていくことも提案した。”

参院選の隣接県「合区」解消へ改憲、自民は前向き 立民は慎重姿勢を堅持
https://www.sankei.com/article/20230517-GW36QIPPSRKAHBTHAKUXGN5MTM/
“自民党は憲法改正による合区解消に前向きな意向を示したが、立憲民主党は慎重姿勢を堅持するなど各党の見解の違いが際立った。”

【傍聴者の感想】

参議院憲法審査会が17日に開かれ、参院選で隣接県をひとつの選挙区にする「合区」をテーマに討議が展開されました。

自民党が「合区によって投票率の低下と民主主義の衰退を招いているから、憲法を変えて合区問題を解消しよう」と主張する中で、片山さつき議員の「党が掲げる改憲による実現のほか、法改正による合区解消についても議論を進めるのはあり得る」という発言は注目すべきと思いました。

立憲民主党の杉尾秀哉議員は「国会法と公選法の改正で都道府県単位の議員選出は可能になる」と主張しました。

また、れいわ新選組の山本太郎議員は「合区が必要だと旗を振ってきたものが、合区の解消に憲法改正を主張するのはおかしい」と発言しました。

なんでも改憲にこじつけて建設的な議論ができない与党に対抗するためにも、世論喚起が必要だと感じました。

【国会議員から】杉尾秀哉さん(立憲民主党・参議院議員/憲法審査会筆頭幹事)

今年4月、思いがけなく参議院憲法審査会の筆頭幹事を拝命し、はや1か月半が過ぎました。
この間、参院憲法審査会では、憲法54条で規定されている「参議院緊急集会」を主なテーマに自由討論を重ねて来ましたが、もう一つの参議院らしい課題。それが、「合区解消問題」です。

一票の格差を是正するため、2016年に憲政史上初めて導入された2つの合区(「鳥取・島根」「徳島・高知」)は、投票率の低下や、無投票率の上昇、それに「地方の声が届きにくくなる」など、民主主義の根幹にもかかわる深刻な問題を生じさせています。

そこで、合区対象4県の知事と副知事を先月26日参考人招致し、意見聴取をした上で、今月18日の憲法審査会で意見交換を行いました。

そもそも自民党は、合区解消策としての「憲法改正」を改憲 項目の一つに挙げていますが、これに対して私は、何より当該4県の知事・副知事が、現実的な方策による一刻も早い合区解消を望んでいること。また、憲法改正による合区解消は、「投票価値の平等」を定めた憲法14条や、国会議員を「全国民の代表」と定めた憲法43条との関係から、別の憲法上の問題を生じさせかねないことなどを挙げ、「究極の解決策とはならない」と指摘。その上で、「参議院が独自の役割や機能を果たすためには、各都道府県単位で選出された議員が必要不可欠であり、合区の廃止は憲法改正によらずとも、国会法及び公選法の改正や、地方独自の問題を扱う新たな委員会設置などの国会改革で対応できる」と主張しました。

こうした議論の中で、これまで憲法改正による合区解消を主張してきた自民党の委員も、「憲法改正は時間を要する」として、改憲より法改正による合区解消実現を優先する考えを相次いで表明し、事実上の軌道修正を行いました。

審査会終了後、私は記者団に「一定の共通認識ができた」と歓迎の意向を表明しましたが、これで改憲による合区解消は「喫緊の課題」ではないことが明確になり、自民党の改憲4項目の一つが後景に退いたのは明らかでしょう。

このように、立法事実を厳密に検証する共に、精緻な憲法・法律論を展開すれば、拙速な改憲論に歯止めを掛けることが出来る事を今回改めて痛感しました。

2023年5月18日(木) 第211回国会(常会)
第11回 衆議院憲法審査会

【アーカイブ動画】

https://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=54618
※「はじめから再生」をクリックしてください

【会議録】

https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/025021120230518011.htm

【マスコミ報道から】

※NHKは報道記事がありませんでした

衆院憲法審査会で参院緊急集会巡り参考人質疑 長谷部恭男氏は「本末転倒の議論の疑いもあり得る」と指摘
https://www.tokyo-np.co.jp/article/250838
“衆院憲法審査会は18日、憲法が衆院解散時に国会の権能を代行する制度と定める参院の緊急集会を巡り、憲法学者の大石真・京都大名誉教授と長谷部恭男・早稲田大大学院教授を招いて参考人質疑を行った。”

衆院憲法審査会・発言の要旨(2023年5月18日)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/250851

憲法学者、任期延長を批判 緊急集会巡り意見聴取
https://nordot.app/1031770568072758081
“長谷部恭男早稲田大大学院教授は憲法への新設を主張する緊急事態条項の国会議員任期延長を巡る自民党などの議論を批判した。大石真京大名誉教授は、緊急集会の開催について最大70日間だと指摘し、期間が限定されるとの認識を示した。”

緊急集会、任期満了時も可能 衆院憲法審で参考人が見解
https://www.jiji.com/jc/article?k=2023051800802&g=pol
“大石真京大名誉教授は「限定された期間における衆院の不在という意味で類似性を持つ」と唱え、衆院解散時だけではなく任期満了時も緊急集会は可能だとした。長谷部恭男早大院法務研究科教授も「任期満了による総選挙の場合も、憲法の規定を類推して考えることが適切だ」と述べた。”

参議院の緊急集会 参考人2人「任期満了でも可」 衆議院憲法審査会
https://mainichi.jp/articles/20230518/k00/00m/010/297000c
“両氏とも、緊急集会の開催を衆院解散時に限定している憲法54条の規定を議員任期満了による衆院不在時にも適用できるとした点で一致。同条を厳格に適用し、任期満了時にも緊急集会の開催を可能とするよう憲法改正すべきだとする自民、公明、日本維新の会、国民民主の4党の主張とは異なった。”

【傍聴者の感想】

衆議院憲法審査会が18日に開催されました。憲法が衆院解散時に国会の権能を代行する制度と定める参院の緊急集会を巡り、憲法学者の大石真京都大学名誉教授と長谷部恭男早稲田大学大学院教授の参考人質疑が行われました。

大石教授は「70日の縛りは合理的」と、改憲勢力の意見を支持しましたが、これに対して長谷部教授は、平常時と非常時の明確な区分が必要であるということ、70日の制限は信任を失った従前の政権がそのまま居座り続けることを阻止するためのものであることを、繰り返し指摘しました。さらに衆院議員の任期を延長して、総選挙を経ることなく立法などすべての権能を与えることは「本末転倒の議論ではないかとの疑いもある」と強調しました。

今回の傍聴で、投票をどうするかということより、自分たちの任期の延長を執着しているように感じました。改憲勢力は「変えろ変えろ」と主張していますが、なぜ変えなくてはいけないのかという疑念とともに、現行の憲法は無駄なところがなくてほんとうにすばらしいと、改めて思いました。

【国会議員から】階猛さん(立憲民主党・衆議院議員/憲法審査会幹事)

19日から主要7か国首脳会議(G7サミット)が広島で開催されています。前回、日本でサミットが開かれたのは7年前のことでした。その際、今は亡き安倍首相は専門家も首を傾げるような統計を持ち出して、「世界経済はリーマン・ショックの前に似ている」と自説を述べ、その数日後に10%への消費増税につき、再度先送りを決めました。

2014年11月に1回目の増税先送りを発表した際、安倍首相は、「再び延期することはない、(景気次第で先送りできる)景気判断条項を削除して確実に実施する」と断言しましたが、その後の国会では「リーマン・ショックのような事態が起きれば先送りできる」旨答弁していました。安倍首相本人は「新しい判断だ」と開き直っていましたが、内外からサミットの場を利用したと見られています。その年の7月には参院選が予定されていたため、政権の延命を図るための増税先送りだったと言わざるを得ません。

一方、今回の広島サミットの陰で、サミットどころか、憲法までも「政権延命装置」にしてしまいかねない動きがあります。

衆議院の憲法審査会では、現在、自民・公明の与党と、維新・国民民主など野党の一部会派が、大災害や有事などの緊急事態で、国会議員の任期を延長して選挙を先送りできるようにする「憲法改正」を盛んに主張しています。「選挙直前に緊急事態が起きた場合でも、国会を開催し、国政に民意を反映できるようにするため」としますが、安倍首相のように無理やり「緊急事態」が起きたことにすれば、「政権延命装置」として悪用もできるのです。

そもそも今の憲法でも、解散で衆議院議員が不在の間に緊急事態が起きた場合に備え、参議院の「緊急集会」の定めがあります。「憲法改正」をせずとも十分に対応できそうです。しかし、「憲法改正」を主張する党派は、「緊急集会は、憲法が定める、解散によって衆議院議員が不在となってから総選挙を経て次の国会が開かれるまでの期間、すなわち最長でも70日しか活動できないので、緊急集会だけでは緊急事態に対応できない」とします。

この問題について、18日の憲法審査会では、憲法学者を招いて質疑を行いました。立憲民主党を代表し、私が「解散による衆議院議員不在の期間が国難で長引くときは、緊急集会の活動期間も当然延長されると考えていいのではないか」と、早稲田大大学院の長谷部教授に質問。すると、「70日の日数の限定は、解散後いつまでも総選挙や国会を行わず、民意を反映しない政権が居座ることを防ぐためにある。これを理由に緊急集会の活動期間を限定し、衆議院議員の任期を延長して従来の政権の居座りを認めることは、本来の目的に反する」と明快な答えが返ってきました。憲法は、政権の延命のためではなく、国民の命を守るためにあることを忘れてはなりません。

「許されない『政権延命装置』-選挙先送りのための憲法改正」
https://shina.jp/a/activity/15905/

2023年05月12日

憲法審査会レポート No.17

連休中は衆参ともに憲法審査会の開催がありませんでしたので、今週はどちらも2週間ぶりの開催となりました。

【参考記事】

国会の憲法議論の現在地は? 緊急事態条項で自民は「論点煮詰まった」 立民は「創設不可避か検討を」
https://www.tokyo-np.co.jp/article/247632
“国会では衆参両院の憲法審査会を中心に憲法論議が続き、改憲に前向きな勢力は、緊急事態条項として国会議員の任期延長を可能にする規定の創設を主張している。”
“…改憲勢力は両院とも国会発議に必要な3分の2を超えており、大型連休明けの後半国会で圧力を強める可能性もある。”

2023年5月10日(水)第211回国会(常会)
第4回 参議院憲法審査会

【アーカイブ動画】

https://www.webtv.sangiin.go.jp/webtv/detail.php?sid=7433

【会議録】

https://kokkai.ndl.go.jp/#/detail?minId=121114183X00420230510

【マスコミ報道から】

緊急事態での対応 憲法に規定するか 参院憲法審査会で各党は…
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230510/k10014063181000.html
“10日の憲法審査会では、緊急事態に、
▽憲法に規定されている参議院の緊急集会で国会の機能が維持できるかのほか、
▽国会議員の任期を延長できるようにすることや、
▽政府が国会の議決なしに、法律と同等の効力を持つ「緊急政令」を定められるようにすることの是非をめぐって、議論が交わされました。”

憲法「参院の緊急集会」を巡り与野党が討議 参院憲法審の発言詳報(5月10日)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/249128

自民、緊急政令の創設主張 参院憲法審、立民は否定的
https://www.jiji.com/jc/article?k=2023051000987&g=pol
“自民党は、緊急時に内閣が国会審議を経ずに法律と同程度の効力を持つ「緊急政令」を発出できることを憲法に明記するよう主張。立憲民主党は、憲法に規定される緊急集会で緊急時の対応は可能として否定的な見解を示した。”

進むか参院憲法審 衆院に比べ停滞気味 参院の緊急集会討議
https://www.sankei.com/article/20230510-7P5OQCXOVFI7NCCFAWMIMBKMIM/
“緊急事態条項新設と参院の緊急集会の在り方は同時に協議すべき課題とされている。しかし、週に1回の開催が定着している衆院憲法審に比べると、参院側の議論は停滞気味だ。今後の定例日にあたる17日と24日の開催も立民の意向や国会日程などを理由に決まっておらず、衆院に追いつくのは簡単ではなさそうだ。”

【傍聴者の感想】

きょうは「緊急集会」をめぐっての意見交換ということで、各会派の委員がそれぞれ発言していきました。

自民党の委員は緊急集会のみならず任期延長や緊急事態条項を規定する改憲を主張していましたが、公明党の委員はとくに任期延長には否定的で、民主的正当性を担保するために選挙実施をできるかぎり追求すべきとしていました。

いっぽう維新の会・国民民主党は権力を統制するために(!)むしろ緊急事態条項を規定すべきと主張していました。これは維新・国民・有志の会(衆院会派)共同で発表した改憲条文案に沿ったもののようです。

立憲民主党・共産党・れいわ新選組の委員は否定的な見解を表明。複数の委員が憲法制定時、戦前を反省し国会中心主義をつうじた主権在民実現のため緊急事態条項を盛り込まず、あえて緊急集会を規定したことを指摘していました。

とくに辻元委員は災害にせよ疫病にせよ、緊急事態にはいまある法律で対応可能で、平時にしっかり法整備すべきだと訴えていました。また、自民党は緊急時の権力の空白の危険性を盛んに訴えるものの、東日本大震災直後の2011年6月には内閣不信任案を出していた事実に言及しましたが、たしかに矛盾していると感じました。

ほんらいきょうは参考人質疑が予定されていたのに整わず、意見交換に切り替えて開催したとのことでした。どの世論調査でも改憲の優先度は低く、むりやり毎週開催する必要はないと思います。

【国会議員から】辻元清美さん(立憲民主党・参議院議員/憲法審査会委員)

5月10日に開かれた参議院憲法審査会では参議院の緊急集会について討論が行われ、私は以下について発言しました。

緊急事態の際には内閣は次の各号に挙げる事項について必要な措置をとるため政令を制定することができるとあらかじめ書かれており、更に政令対応が必要な事項があるのならば、平時のときにこそ既にあるこの枠組みに追加していくことが現実的であり、憲法改正の必要はないと考えます。

既に、物資の供給制限、物価統制まで入っています。金融債務のモラトリアム、支払猶予も入っています。更に必要な事項があれば、緊急時が発生してからばたばたと対応を考えるのではなく、あらかじめ平時から必要な対応を検討し、必要事項があれば追加し、法律改正しておくことこそが立法府の責務だと考えます。

山谷災害担当大臣時代にとりまとめられた政府審議会でも、参議院の緊急集会すら開けない事態で緊急政令に加えるべき事項は?というとゼロでした。山谷元大臣、改憲が必要ならなぜこのとき追加しなかったのでしょうか。私は改憲による緊急政令の対象分野や立法事実の提出を自民・維新に求めてきたが、未だにご提示頂けません。

東日本大震災のとき、緊急事態の政令が必要だと改憲を主張した人たちがいたが、現場の自治体の長が反対の声をあげました。福島でも宮城でも岩手でも災害対応は異なるのであり、むしろ知事権限の強化を求める声が大きかったのです。

緊急時には選挙ができないので衆院を任期延長し、その場合の内閣不信任案の議決や解散を禁止――という改憲を主張しながら、東日本大震災から3ヶ月という危機の最中に内閣不信任案を提出したのは自民党です。言ってることとやってることが違う。これでは衆院議員の任期延長も改憲の口実にすぎないのではないか、と指摘してこの日の発言を終えました。引き続きこの問題の矛盾を問うていきます。

2023年5月11日(木) 第211回国会(常会)
第10回 衆議院憲法審査会

【アーカイブ動画】

https://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=54602
※「はじめから再生」をクリックしてください

【会議録】

https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/025021120230511010.htm

【マスコミ報道から】

自民、緊急集会最大70日間 立民「有識者から見解を」
https://nordot.app/1029235938046705833
“与野党は11日午前の衆院憲法審査会で、国会議員の任期延長を含む緊急事態条項の新設を巡り、憲法で定める「参院の緊急集会」の位置付けを議論した。自民党は集会の開催期間は最大70日間程度だとし、緊急事態時の議員任期の延長規定が必要と主張。立憲民主党は任期延長の議論の前に、有識者の見解を十分に聞くべきだと訴えた。”

衆院憲法審査会・発言の要旨(2023年5月11日)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/249373

衆院憲法審査会 参院の緊急集会めぐり議論
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230511/k10014063971000.html
“衆議院解散後の参議院の緊急集会をめぐって11日、衆議院憲法審査会で議論が行われ大規模災害など緊急事態が長期化する場合には、緊急集会だけで国会の機能を維持するのは困難だとの指摘が相次ぎました。”

憲法審 立民と公明、「参院の緊急集会」衆参で濃淡
https://www.sankei.com/article/20230511-6VDZCCKAUFIKZCPIDEFLDPMA54/
“立民と公明の共通項として指摘されているのは、参院側の方が衆院側よりも改憲に慎重なメンバーが目立つということだ。特に公明は参院議員である山口那津男代表の影響が大きいとされ、「参院憲法審の議論が進まない原因の一つではないか」(自民関係者)との見方もある。”

【傍聴者の感想】

きょうの衆議院憲法審査会は定刻に開会しました。衆議院解散後に緊急の問題が発生した際、参議院が国会の機能を代行する「参議院の緊急集会」について議論がされました。配布資料は、衆議院憲法審査会事務局の作成の「参議院の緊急集会」に関する資料(A4判51ページ)と自民党新藤議員が作成したA4判1枚。

審査会は、新藤議員の資料に記載があった「有事における『二院制国会の機能維持』のため、議員任期延長など、憲法に新たな規定を設け、万全の措置を講ずるべき」に沿った議論に終始しました。公明党に加え、日本維新の会と国民民主党、有志の会も議員任期延長を訴えていました。

国民民主党、日本維新の会、有志の会の任期延長のための「改憲」を急ぐ姿勢は、危険だと言わざるを得ません。とりわけ維新議員からの立憲民主党に対しての、党内の意志疎通を図った上で審査会に臨んでほしい、衆参合同の憲法審査会の開催をすべき、自民党に対しての岸田自民党総裁中の改憲発議のためにも議論を急ぐべき、との発言は「党利党略」からのものとしか思えませんでした。巨大与党にすり寄り、存在感のみを主張する「名ばかり野党」に負けない姿勢を立憲野党として示してほしいと思います。

今、岸田政権が真っ先に取り組まなければならない課題は、「改憲議論」でなく、国民生活に直接影響が出ている物価高対策などであることは明白です。市民をまきこんだ世論喚起をすすめ、改憲の流れを止めましょう。

【国会議員から】新垣邦男さん(社会民主党・衆議院議員/憲法審査会委員)

今年の憲法記念日も、地元沖縄で「平和憲法を守ろう」と大きな声で訴えてまいりました。本日も護憲の立場から発言します。

4月以降、憲法9条の2を新設する、いわゆる自民党の「条文イメージ(たたき台素案)」を文字通りたたき台にした議論が交わされております。

これについては、公明党や日本維新の会が指摘するように「必要な自衛の措置をとることを『妨げず』」との文言では、9条1項2項の例外規定と読める余地が残される、との意見に賛同します。

というのも、自民党案では「必要な自衛の措置」の内容が限定されておらず、「自衛の範囲」が不明確なため、9条1項2項を空文化させる可能性が排除されません。

自民党は「必要な自衛の措置とは、必要最小限度、専守防衛のことである」と主張しますが、「個別的自衛権」や「限定的な集団的自衛権」といった表現でない以上、フルスペックの制約なき集団的自衛権を認め、自衛隊が保有する装備も無制限に拡大する危険性は残ります。多くの憲法学者や弁護士会の声明も、同様の懸念を示しています。

また、自民党の新藤委員は、前回4月28日の審査会で、「必要最小限度や専守防衛の解釈を明文で規定したとしても、脅威の内容や程度によって相対的に判断しなければならず、その時点での解釈に委ねるのが適当との意見が多数派である」との論点整理をされました。

昨今の国政を見ておりますと、私は、時の政権の解釈に判断を委ねることほど危険なものはない、と大変に心配しております。

憲法解釈の変更で集団的自衛権の行使を容認し、「殺傷能力」のある武器輸出解禁の是非に焦点を当て、防衛装備移転三原則の運用指針見直し協議を始めた政党が、現に政権を掌握する中、憲法審査会の場で自民党委員がこぞって「憲法9条1項2項は堅持する」と繰り返し発言されたところで、にわかに信じることはできません。

同時に、「自民党の改憲案では、自衛隊ができることは変わらない」と主張されるのであれば、そもそも自民党の9条改憲案は必要ないのではないか、と思うのです。

自民党は「国防規定や自衛隊の明記によって現憲法の欠落部分を補い、憲法を頂点とする我が国の法体系を完成させる」と繰り返し主張しますが、前回審査会で、共産党の赤嶺委員が述べていたとおり、「憲法の上に日米安保があり、国会の上に日米地位協定がある」以上、憲法法体系を侵食する安保法体系を是正しない限り、少なくとも日米地位協定の全面改正なくして、我が国の法体系の完成と主権の確立はあり得ない、と強く指摘しておきたいと思います。

ここのところ「台湾有事は日本有事」「台湾有事は沖縄有事」であるといった発言が、自民党国会議員から公然となされております。

「敵基地攻撃能力の保有が抑止力になる」との説明を、岸田総理や外務・防衛両大臣は繰り返しますが、安保3文書の改定によって、中国、ロシア、北朝鮮は日本政府を批判し、対抗措置を取ると明言しています。むしろ、安保3文書が、東アジアを不安定にさせる原因になっている事実を、政権与党の国会議員の皆さんには直視していただきたいと思います。

戦争になれば、軍隊のある場所が標的になるというのが沖縄戦の教訓です。現に、太平洋戦争の際には、米軍の軍事拠点になるとの理由で、日本軍はオーストラリアのダーウィンを60回以上にわたって空襲しました。

住民らの避難手順を示す国民保護計画の実現性にすら疑問符が付く中、陸上自衛隊のミサイル部隊を沖縄の先島地域に配置して標的化させ、その標的を守るために迎撃用ミサイルを配備するのでは本末転倒です。

日本は憲法に基づく平和主義のもと、日本の武器によって「国際紛争を助長しない」との方針を継承してきました。殺傷能力のある武器輸出を認めれば、平和国家としての理念と築き上げてきた国際社会からの信頼が、大きく揺らぐことを自覚すべきです。

沖縄に暮らしておりますと、憲法9条を含む改憲論議そのものが、東アジアをはじめとする諸外国に9条破棄を想起させ、疑念を抱かせるのではいないか、と思う場面が多々あります。

国家安全保障戦略においても「わが国の安全保障の第一の柱は外交力である」ことを掲げている以上、周辺諸国を無用に刺激し、平和外交の支障となり得る要素を極力排除することに、政治は力を尽くすべきです。そのことを最後に強く申し上げ、発言を終わります。

(憲法審査会での発言から)

2023年05月10日

6.5シンポジウム「辺野古の海から考える、地方自治って何だ? 司法の役割って何だ?」のご紹介

辺野古新基地建設をめぐって、政府は何度も示されてきた沖縄の民意を踏みにじって工事を強行しているほか、沖縄県が起こしている訴訟でも争う態度を示し続けています。それを受けて国地方係争処理委員会や裁判所は、沖縄県の主張をことごとく棄却する判決を下してきました。

この問題について日本弁護士連合会が6月5日、シンポジウム「辺野古の海から考える、地方自治って何だ? 司法の役割って何だ?」を開催しますので、ご紹介します。

→チラシデータはこちら( pdf )

シンポジウム「辺野古の海から考える、地方自治って何だ? 司法の役割って何だ?」

日時:6月5日(月)17時30分~20時
場所:弁護士会館2階講堂クレオBC(東京都千代田区霞が関1丁目1番3号)
※定員120名です。
※オンライン参加の方は、下記ページに掲載される参加用URLからご視聴ください。
https://www.nichibenren.or.jp/event/year/2023/230605.html
参加費:無料
内容:講演1)木村草太さん(東京都立大学教授)「辺野古をめぐる憲法・地方自治と司法の関係」
/講演2)白藤博行さん(専修大学名誉教授)「辺野古の海、地方自治と民主主義は埋め立てさせない」
/講演3)猿田佐世さん(弁護士、第二東京弁護士会)「辺野古問題を日米関係の中で問い直す」
/パネル・ディスカッション「辺野古問題のこれから-その選択肢を探る」
パネリスト:木村草太さん(東京都立大学教授)
/白藤博行さん(専修大学名誉教授)
/猿田佐世さん(弁護士、第二東京弁護士会)
/岡田正則さん(早稲田大学教授)
/加藤裕さん(弁護士、沖縄弁護士会)
コーディネーター:関守麻紀子さん(弁護士、神奈川県弁護士会)
主催:日本弁護士連合会
問い合わせ:日本弁護士連合会人権部人権第二課(TEL:03-3580-9510)

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