集会等の報告

2016年11月26日

第48回食とみどり、水を守る全国集会 分科会報告

第1分科会「入門講座」
参加者=101人

「北海道の歴史」
講師=阿部ユポさん(公益社団法人北海道アイヌ協会 副理事長)
公益社団法人北海道アイヌ協会は、北海道に居住しているアイヌ民族を主な構成員として組織し、「先住民族アイヌの尊厳を確立するため、人種・民族に基づくあらゆる障壁を克服し、その社会的地位の向上と文化の保存・伝承及び発展に寄与すること」を目的とする。1946年設立。アイヌとはカムイ(神々)に対する「人間」という意味で民族呼称でもある(同協会HPより)。
阿部さんのお話を伺うと、アイヌは、古くは中国の元との間に戦争があり、日本からは長い間、侵略・征服され続けており、また時にはロシアの干渉を受けてきた民族であることがわかります。特に日本は明治初期においてアイヌ併合を行い、アイヌの姓名や言語、宗教、生業及び文化を禁止しました。
日本の戦後教育においてアイヌ教育は盛り込まれず、阿部さんも「一司」という名を親からいただいたように、「アイヌということを話さず立派な人間になれ」と教育されてきたと言われます。こうすることでアイヌの歴史に空白が生まれてしまい、アイデンティティが喪失してしまう恐れがあります。
しかし、世界各地の先住民族は、歴史を含めてその存在を保護される流れが出てきています。アイヌにおいても倭人との不幸な歴史を乗り越え、今後を築いていく必要があるとの見識が深まりました。

「再生可能エネルギーの取り組み」
講師=鈴木亨さん(北海道グリーンファンド理事長)
鈴木さんが再生エネルギーに取り組むきっかけとなったのは、1986年のチェルノブイリ原発事故であり、生活クラブ生協・北海道での脱原発運動が出発点です。1999年に、電気代の5%を元手に基金を造り市民共同発電所を市民の手で作るという「グリーン電気料金制度」を開始しました。5%を負担して発電所をという発想ではなく、5%の省エネと自然エネルギーの普及に個人で取り組むことができる制度だということです。こうして市民自ら参加し当事者になることで、エネルギー問題への意識啓発が図られていきます。
ドイツにおける自然エネルギーは、その40%以上が個人や農家によって所有されています。また、2000年から施行された「再生可能エネルギー法」の成果として、発電量の約30%が自然エネルギーによるものとのことです。日本の自然エネルギーは発電量の14.5%を占めており、そのうち約半分はダムによる水力発電です。今以上のダムの増加は見込みづらく、14.5%を増加させるためには風力等の自然エネルギーが期待されています。
グリーン電気料金制度や市民出資等を通じて、日本においても21基の市民風車が電力を発電しています(2016年11月現在)。21基の下では、子どもの未来へのプレゼントといった思想や、生徒会が直接、市民出資へ参加し環境教育に活用したり、売電収入の一部を元に地域振興の活性化につながるといったメリットがあるということです。

 

第2分科会「「食の安心・安全・安定をめぐって」
参加者=108名

報告者=大熊久美子さん(北海道食の自給ネットワーク事務局長)
報告者=滝本和彦さん(北海道赤井川村有機農業者)
報告者=住岡章子さん(岡山県津山市立戸島学校食育センター)

大熊さんは、「北海道食の自給ネットワークは第1次産業の活性化と食料自給力を高めることを目的に1999年に設立。2000年の大豆トラスト運動に続き、2002年から2011年まで小麦トラスト運動に取り組み、多くの産地の情報を消費者に届けた。その中で、消費者がスーパーの買い物で見る所が『値段から産地へ』と変わり、生産者も、消費者が初めて畑に来てくれたということで、双方で意識が変わった。また、小学3年から6年を対象にした食育講座で、必ず生産現場に行くことにしている。その中で、子どもは『卵が温かい』ことを知り、生きているものの命を頂いていることを学び、嫌いな野菜を食べるようになった」と述べました。

札幌の西、小樽の南に位置する赤井川村の滝本さんは、「アスパラ、ニンニク等を栽培している。特にホワイトアスパラは『カルデラの貴婦人』、グリーンアスパラは『カルデラの貴公子』等のブランド名で販売。紀伊国屋スーパーをはじめ、現在20数社と取引がある。東西7キロ、南北7キロのカルデラの中にある村は、昼夜の温度差が大きく美味しい農産物ができると言われている。村の人口1158人、農家119戸のうち有機JAS取得農家は15戸である。離農者数に新規就農者が追いつけず、また新規就農者はすぐ金になる小面積のハウス経営に向かい、余った農地をどう管理かが課題だ。将来は現在の有機農家が農業の中心になることは確実であるが、農家だけでは後継者をつくれない。消費者の支援が必要だ」と語りました。

岡山県津山市立戸島学校食育センターの住岡章子さんは、「2011年から5年間、西粟倉小学校で『ふるさと元気給食』に取り組んだ。給食食材の生産者の苦労や喜びを子どもたちに伝え、生産者と子どもたちが一緒に給食を食べる『ふるさと元気感謝給食』等を実施した。この中で、子どもたちの食材に対する好き嫌いが減少し、5年生の子どもたちが生産者を表彰したり、6年生は『ふるさと元気ごはん』や『ふるさと元気食堂』を考案する変化があった」と報告しました。
質疑応答では、遺伝子組み換えと認知症やアレルギー問題、年金暮らしと新規就農問題、センター方式給食と食育問題、グローバル化対策等について議論が行われました。

 

第3分科会「食料・農業・農村をめぐって」
参加者=123人

コーディネーター=岡田知弘さん(京都大学大学院経済学研究科・教授)
パネラー=東山 寛さん(北海道大学准教授)
佐々木隆博さん(衆議院議員)
石川純雄さん(北海道農民連盟委員長)

石川純雄さんは、この間のTPPの動向を踏まえて、生産者の立場からTPPの危険性を訴えました。コメについても加工用のコメが農家の大きな収入源になっていることを挙げ、日本の農家に与える影響は甚大であることを述べました。また、食品の安全性についても、一例として、BSEの検査のことを挙げ、アメリカの外圧で、すでに7月時点で全頭検査はなくなっている現状について述べ、あわせて、今後、TPPが進めば、遺伝子組み換え食品が市場に出回る危険性があることについて指摘しました。今後、食料主権の問題を真剣に考えるべきであり、その際には消費者も見てくれにこだわらず「地場産を食べる」ことが必要であると述べました。

佐々木隆博さんからは、国会でTPPの審議に関わってきた立場から、TPPの問題はアベノミクスの失敗と大きな関係があることについて指摘がありました。いわゆる「三本の矢」のうち、金融政策、財政出動については実体経済がともなっていない極めて危ういものであり、「民間投資を喚起する成長戦略」が切り札であること、そしてその中身は労働・医療・農業の規制緩和であり、これがまさにTPPの中身と同じであることが示されました。アベノミクスは所得再分配政策の失敗であり、進めれば進めるほど個々人の格差、地域の格差が増大することをデータで示した上で、日本は貿易依存度がそれほど高い国ではないので、改めて国内での再分配政策を作り直すべきであると述べました。

東山寛さんからは、研究者の立場から、この間のTPPをめぐる経過について仔細に報告がありました。その上で、国会審議の問題点について2013年の国会決議で掲げた「除外」や「再協議」に相当する区分が協定にないことや、TPPを進めれば国境措置と国内農業保護のバランスが崩れることは明らかで、関税による財源のない中で、現行の政策を維持することは不可能なはずであり、その検討が全くなされていない危険性について指摘がありました。その上で、トランプ政権が仮にTPPを批准しなかったとしても、日本がTPPを批准してしまえば、二国間の協議になった時にそこが土台として交渉になることから、TPPを批准してはならないことを強く訴えました。
その後、岡田知弘さんを司会に、TPPの今後とこれからの課題について討議が行われた。今後、TPPを土台としてアメリカとの二国間での協議に移行していく可能性が高いこと、その際には、前提として、食料自給の課題など、この国のあるべき姿について国民的な議論をしていくことが必要であることなどが語られました。

 

第4分科会「森林・水を中心とした環境問題をめぐって」
参加者=104人

 講師=内田聖子さん(アジア太平洋資料センター共同代表)
報告者=段坂繁美さん(元北海道森林・林業・林産業活性化促進議員連盟連絡会事務局  長)
報告者=奥野和人さん(水循環基本法フォローアップ委員・自治労公営企業局長)

内田聖子さんから「水は誰のものか~世界の水民営化とTPP・TSA(自由貿易協定)~」と題し、世界的な水をめぐる状況、水道民営化の流れと民営化がもたらしたもの、貿易協定のリスクについて報告がされました。世界的な民営化の失敗事例により、水は公共のものという訴えが広がっていること、また水ビジネスが拡大する一方で、途上国では安全な水にたどりつけないという2極化があるなかで、地域の水をどうするかという観点と世界の水の状況をあわせて考えることが訴えられました。また日本政府は、貿易協定や水道法改正などで外資系を含め民営化をより促進させる意向を示しているが、安易な民営化は大きなリスクが伴うことについても注意喚起がされました。
また、貿易協定と水道事業に関して、とりわけ投資家の利益を優先するISDS条項は国民の生活を守ることと対立し、敗訴の場合、多額な賠償金を国民の税金で支払うことなどの問題点について説明がされ、自治体が条例などでハードルをつくる等、民営化の動きに反対していくことが重要であると訴えられました。

段坂繁美さんは、地方議員と森林づくりについて、条例とのかかわりを中心に報告。24年間道議会議員を務め、北海道森林・林業・林産業活性化議員連盟協議会を通して、業界団体や労働組合とともに「森づくり条例」など森林や水を守っていくための条例制定に取り組み、森や水を守る活動に取り組む議員の仲間を増やし、選出国会議員を動かして、政府を動かすことが重要と訴えました。

奥野和人さんからは、水循環基本法の概要とフォローアップ委員会の活動、基本法制定以降の主要な経過について報告されました。水循環基本法の基本理念である、水は国民公共の財産であり公共性の高いものであり、健全な水資源が保全され安全で清廉な水環境が必要であることが強調され、そのための運動が必要であることを訴え、課題として超党派の議員を増やすこと、基本法の認知を高めることが必要であると述べました。
質疑応答では、貿易協定が水道事業に影響を及ぼすことを市民にアピールする方法などが質問され、映画などを通じて民営化の失敗や公営水道事業の重要性を訴えることが効果的であることや、日本の自治体も積極的に貿易協定の議論に参加し、情報を得るべきだなどと論議が行われました。

 

第5分科会 フィールドワーク「北海道開拓の村」を訪ねる
参加者=37人

 フィールドワークは、北海道実行委員会が運営を担当し、北海道地方森林労連のメンバーの案内で行われました。当初は「野幌自然休養林」も訪れる予定でしたが、例年より早い積雪で林内を歩行するのが困難であるため、「北海道開拓の村」の視察だけに変更になりました。
見学の前に、北海道の森林保全について森林労連の担当者から説明が行われました。1978年には5局89署あった北海道内の営林署は、今年(2016年)わずかに1局21署3支署であり、署員数も17,717名から915名に減り、非正規雇用に多くを頼っており、巡回ポイントを1ヵ月1度訪問するのが精一杯という厳しい状況であるということでした。
「北海道開拓の村」は、明治(一部江戸期のものもある)から昭和初期の建造物が移築復元・再現されている野外博物館で、当時の雰囲気を体験してもらえる施設として1983年4月に開村しました。<市街地群>、<漁村群>、<農村群>、<山村群>から構成されています。
まず、参加者全員で森林労連の担当者の案内で、林業関係の施設がある<山村群>で「森林鉄道機関庫」、伐木・造材や集・運材に従事した人たちが生活した「旧平造材部飯場」、「炭焼小屋」などを見学しました。設備の大きさから、北海道での林業の盛時の様子が伺われる展示でした。
その後4グループに分かれ、私の参加したグループは「北海道開拓の村」のボランティアの方から、小樽でのニシン漁の繁盛を思い起こさせる「旧青山家漁家住宅」がある「漁村群」を見学し説明を受けました。その後、<市街地群>の建物の一部を見ましたが時間が足りず、一部分を駆け足で見て回ったに留まり、<農村群>などは見ることができませんでした。
明治初期の教育施設の展示に、旧札幌農学校の寄宿舎である「恵迪寮」や、「旧北海中学校」がありましたが、ボランティアの方から明治期の札幌農学校では授業が英語で行われ、語学力不足の学生のためにできたのが「旧北海中学校」の前身の語学学校だったという話を伺いました。建物からその歴史が浮かび上がるようでした。
午前中だけの短い時間でしたが、北海道の歴史の一端に触れることができたと感じられるフィールドワークでした。

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