イラク情勢Watch vol.11 05年9月21日
         発行:フォーラム平和・人権・環境  編集:志葉 玲

       毎週更新(予定)


Topics
1)週間イラク報道Pick up
2)タルアファル攻撃続報
3)英軍が刑務所を襲撃、拘束の特殊部隊員2人を奪還―イラク南部バスラ―
4)「民主化」プロセス崩壊の引き金か?危ぶまれるイラク新憲法国民投票



1)週間イラク報道Pick up

【05年9月20日】<イラク>自爆テロで米外交官ら4人死亡(毎日)

【05年9月20日】イラク兵器調達費、10億ドルが不正流用…暫定政権下(読売)

【05年9月20日】米大統領の支持率上がらず 最低水準の40%(共同)

【05年9月18日】イラク憲法最終草案が完成…国民投票での承認は不透明(読売)

【05年9月18日】集団的自衛権を限定容認 前原氏、憲法9条改正で(共同)

【05年9月17日】サマワで英国兵1人負傷=パトロール中に襲撃(時事)

【05年9月14日】サマワからの撤退打診を否定=任務は1年を強調−豪国防相(時事)



2)タルアファル攻撃続報

 米軍とイラク国家防衛隊による攻撃が続く、イラク北部の街タルアファル。IRIN(国連統一地域情報ネットワーク)は街から脱出できた避難民の状況を伝えている。

 19日にイラク赤新月がIRINに伝えたところによると、人口約20万人の内、5000家族、2万〜2万5000人がタルアファルの家を捨て、周辺で避難民化しており、緊急の支援を必要としているという。ペットボトル5万本の飲料水、4万缶の燃料、10万人分の食料など、25万ドルもの費用が必要とされている。

 こうした事態を受け、日本のイラク支援関係者によるネットワーク「イラク・ホープ・ネットワーク」もタルアファル避難民への飲料水支援を開始、イラク人スタッフの手によって2000家族にペットボトルを配布した。

 タルアファル市内には、なお2万5000人ほどの住民が取り残されているが、市内では激しい戦闘が続いている上、米軍やイラク国家防衛隊が援助物資の持込みを「反乱分子を支援することになる」と拒否しているため、事実上作戦が終了するまでは、市内に取り残された住民に支援を行うことは困難だといえる。米軍は、「反乱分子を根絶するまで、作戦を続ける」としており、いつ作戦が終了するかは不明だ。



3)英軍が刑務所を襲撃、拘束の特殊部隊員2人を奪還―イラク南部バスラ―

 BBC、アルジャジーラ、AP通信などの報道によると、19日、イラク南部バスラの刑務所にイギリス軍戦車やヘリコプターを襲撃、同刑務所に囚われていたイギリス軍特殊部隊員2人を奪還した。この際、イラク市民2人が死亡、英軍兵士3人が負傷し、騒ぎに乗じて囚人約150人が脱走したという。
 
 拘束されていた特殊部隊員二人は、民間人を装っての隠密活動中に現地の警察官に呼び止められた際、銃撃戦となり、警察官2人を殺傷したため、刑務所へ収監されていた。

 事件を知った英軍は、二人が拘束されていたバスラ市中央刑務所に6台の戦車(10台以上との情報もあり)と軍用ヘリが攻撃を行い、外壁を破壊。武装した特殊部隊が刑務所に突入し、拘束されていた隊員を奪還したが、騒ぎを聞きつけた周辺住民が集まり、火炎瓶を戦車に投げつけるなどの騒ぎとなった。この際、2台の戦車が炎上して、中にいた戦車兵らも服に火が移り火傷を負い、英軍側も発砲するなどした模様だ。

 この事件に関して、英国防省は「特殊部隊員二人は交渉によって解放されたのであり、刑務所の外壁を破壊したの故意ではない」と釈明したが、バスラ州のモハメッド・ワイリ知事は、「野蛮で無責任な行為だ」と英軍を激しく非難。事件前日の18日には、英軍への攻撃に関与したとして、サドル師派の民兵組織「マハディ軍」の幹部が逮捕され、既に英軍側と現地との緊張は高まっていたが、今回の事件を契機に、現地での反発が広がることは必至だ。

 英軍は、サマワでの「治安維持」活動にもあたっているが、バスラで英軍と現地の衝突が続くことがあれば、サマワ情勢にも悪影響を与える恐れもある。



4)「民主化」プロセス崩壊の引き金か?危ぶまれるイラク新憲法国民投票
 
 来月15日に国民投票が予定されているイラクの新憲法だが、その内容をめぐって未だに各勢力間の意見の衝突が続いており、国民に配布する草案をスンニ派や一部の少数民族は拒絶している。IRIN(国連統一地域情報ネットワーク)が伝えるところによれば、スンニ派等が問題にしているのは、

1. 連邦制 
2.女性の権利の扱い 
3.イラクのイスラム国家化への懸念
4.旧バース党員の処遇
                       などである。

 連邦制をめぐっては、サダム時代に弾圧されたクルド人が原油利益を優先的に自らの自治区のために使われることを主張。南部に油田地帯を抱えるシーア派もこれに同調した。一方、油田の無い地域に多く住むスンニ派やその他の少数民族は、「イラクの分裂を招く」と反発を強めてきた。 

 女性の権利やイスラム国家化に関しては、主にシーア派がイスラム法を憲法の根幹とするべきと主張したが、イスラム法による家族法での女性の地位低下は容認できない、と女性団体や国外の人権団体は猛烈に反対している。またサダム時代は世俗化政策が取られていたためや、キリスト教や土着の宗教の信者もいるために、生活の全てをイスラムの
戒律に縛られることを嫌うイラク人も多い。

 サダム時代の政権党だったバース党の旧党員の処遇をめぐっては、サダムに弾圧された過去から、クルド人やシーア派の政党は、旧バース党員の公職復帰に反対。それに対し、スンニ派からは、彼ら自身もサダム独裁の犠牲者であったと主張。また、有能な官僚だったバース党員の復帰は、混乱が続くイラク行政を立て直すために有効という見方もある。

 憲法草案の国民投票の実施をめぐっては、テロ攻撃などの治安の悪化が予想され、掃討作戦などの治安強化策がとられており、イラク北西部タルアファルの攻撃も、「国民投票に向けて治安を回復させる」ためとされている。だが、昨年11月のファルージャ総攻撃も「国民議会選挙を実施する」ことが大義名分とされていたが、無差別に市民を虐殺したことが、スンニ派を激怒させ、同派の多くの政党が選挙をボイコットした。これにより、国民議会の中ででスンニ派の意見が反映されづらくなり、結局、宗派・民族間の不信感を高める結果となってしまった。移行政権が憲法草案の国民投票を急ぐ背景には、国内で厭戦気運の高まり、「イラク民主化」の大義名分を必要とする米ブッシュ政権の思惑があるが、合意ではなく力で「民主化」プロセスを強引にすすめていこうとすれば、「民主化」プロセス自体が破綻する恐れもある。



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