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小笠原純恵反差別国際運動日本委員会IMADR-JC事務局「世界から問われる日本の人権状況」

2008年12月28日

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世界から問われる日本の人権状況

小笠原純恵(反差別国際運動日本委員会IMADR-JC事務局)

世界人権宣言60年の年に行われた国際的な人権審査

 2008年は、世界人権宣言60周年という節目の年であると同時に、日本にとっては自国の人権状況を国際的基準から審査される複数の機会を得た年となりました。
 2008年5月、国連において人権問題を扱う一義的な機関である国連人権理事会(47カ国の理事国によって構成)が設置し2008年4月に運用を開始したばかりの「普遍的定期審査」(UPR:Universal Periodic Review)制度のもとで、日本が審査されました。また、同10月には、世界人権宣言を受けてつくられた多くの国際人権条約の基盤となる重要な国際人権規約の一つ、「市民的および政治的権利に関する国際規約(自由権規約/ICCPR)」のもとで、日本政府の提出した第5回報告書が、規約の履行を司る委員会により、前回審査から10年ぶりとなる審査を受けました。

国連人権理事会の普遍的定期審査(UPR)

国連人権理事会の普遍的定期審査(UPR)
 UPRは、すべての国連加盟国(192カ国)のあらゆる分野における人権状況を、人権理事会の理事国間で、4年間を一周期として定期的に審査するというものです。国連加盟国すべての人権状況が国連総会の直下機関によって審査されるという意味で、歴史的・画期的な制度といえます。
 日本の審査は、スイス・ジュネーブの国連欧州本部で開催されたUPR作業部会の第2会期において、2008年5月9日に行なわれました。UPR作業部会の日本審査では、42カ国もの政府が発言し、厳しい質問や勧告を提示しています。これをうけ、5月14日に報告書草案が採択され、同月30日に正式な報告書として確定されました。
(文書番号:A/HRC/8/44。IMADR日本語ウェブサイトに勧告部分の翻訳掲載〔www.imadr.org/japan/un/hrc〕)
 同報告書では、日本政府に対して、各国政府が提示した26項目にも及ぶ勧告が記載されています。以下、その勧告の概略を記します。
(これらは、人権理事会からの勧告ではなく、それぞれの政府による独自の勧告として扱われますが、ここでは個別の国名は省略)
・国内人権機関:パリ原則に沿った国内人権機関の設置など
・人権条約の下での個人通報の承認:女性差別撤廃条約、自由権規約、人種差別撤廃条約、拷問等禁止条約
・条約、その他の議定書の批准:障害者権利条約、移住労働者権利条約、強制失踪防止条約、子どもの奪取に関するハーグ条約、自由権規約第2選択議定書(死刑の禁止)
・差別の禁止と平等原則:あらゆる形態の差別/人種主義、差別および外国人嫌悪を定義し、禁止する法律の創設、刑法への、差別を定義する規定の導入、国内法を、平等・非差別の原則に適応するように修正すること、性的指向および性自認に基づく差別を撤廃するための措置を講じること ・女性に対する差別の撤廃:差別的な法規定の全廃、女性の婚姻可能年齢を男性と合わせて18歳とすることを始め、継続して女性差別に対する措置の実施を促進すること
・国連人権機関との協力:国連人権理事会の特別手続きに対する継続招待を出すこと、日本軍「慰安婦」問題について、国連人権メカニズム(女性に対する暴力に関する特別報告者、女性差別撤廃委員会および拷問禁止委員会)の勧告に誠実に対応すること
・マイノリティと先住民族の権利保護:マイノリティ女性が直面する問題にとりくむこと、在日コリアンに対するあらゆる差別を撤廃するための措置を講じること、先住民族の権利に関する国連宣言の実施にむけて、日本の先住民族と政府間の対話を始めるために努めること、アイヌ民族の土地権、その他の権利を再吟味し、先住民族の権利に関する国連宣言と合致させること
・子どもの権利保護:子どもに対するあらゆる形態の体罰を明確に禁止し、肯定的かつ非暴力的なしつけを促進すること、居住場所から不当に連れ去られ、もしくは帰ることが阻止されている子どもの早期帰還を確保するメカニズムを開発すること
・女性に対する暴力および人身売買:女性・子どもに重点をおきつつ人身売買に関する努力を継続すること、政府担当官の人権教育や被害者のカウンセリング・センターへの支援を含めて、女性および子どもに対する暴力の減少に向けた対策の実施を継続すること
・移住者および難民の権利保障:難民認定手続を、拷問等禁止条約、その他の人権条約に合致させ、必要に応じて移住者に法的支援を提供すること、国際的視察団の入管収容施設訪問への受け入れ、難民申請を検討する独立機関の設置、移住者に対する入管局ウェブサイトの匿名通報用ページの撤廃
・死刑および刑事司法制度(詳細省略):死刑の廃止又は執行一時停止措置の実施・検討、死刑囚の権利保護に関する国際的な基準の尊重、死刑の対象限定、仮釈放なしの終身刑を導入し死刑廃止を考慮すること、刑法および尋問方法の、拷問等禁止条約との整合性の再検討、代用監獄制度の再検討、警察拘留の外部監視の整備、拘置に関する手続における権利保障を強化するメカニズムの実施など
・その他:過去の人権侵害の解決に努めない傾向・その再発の兆候である、日本における史実の歪曲に対する施策を実施すること、軍事性奴隷問題、および、その他、コリアを含む外国で過去に犯した人権侵害にとりくむための具体的な措置、インターネットにおける人権侵害の文脈での人権保護に関する知識・経験を他国と共有すること、開発の権利の実現に向けて、継続して援助金を提供すること、UPRのフォローアップにおける市民社会の全面的な参加を確保しフォローアップ過程にジェンダーの視点を導入すること

自由権規約(ICCPR)日本報告書審査

 自由権規約委員会による日本報告書審査は、2008年10月15日から16日にかけてスイス・ジュネーブの国連欧州本部で行なわれました。審査における日本政府の態度は、ほとんどの場合において、従来の立場を繰り返し、または国内の法制度などを説明するにとどまるものでした。
(委員会による事前質問に対し日本政府が用意した文書回答は、文書記号CCPR/C/JPN/Q/5/Add.1:外務省ウェブサイト参照
〔http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kiyaku/index.html〕)
 協議のなかで、委員会からは、多くの指摘事項に関して10年前の前回審査と同じ回答が繰り返されていること、また、自由権規約の条文の国内実施を協議すべき場において、条文にほとんど言及もせず自国の国内法の説明に終始していることに対して、全般的な不満が示されました。
 この審査を経て委員会が提示した「最終見解」は、34段落からなり、そのうち「懸念事項および勧告」は29段落を占めています。以下、その主な内容を概略します。(本文〔英語・日本語〕は、外務省ウェブサイトに掲載
〔http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kiyaku/index.html〕)
勧告の履行
・第4回政府報告書の審査を経た勧告の多くが履行されていないことから、自由権規約委員会の過去の審査による勧告も、今回のものと同じく有効とすること(第6段落)
規約の国内実施、国内法制度
・規約の適用と解釈を、法曹関係者への教育に組み込み、規約に関する情報をすべてのレベルの司法機関に普及させること(第7段落)
・第1選択議定書の批准を検討すること(第8段落)
・パリ原則に基づき政府から独立した国内人権機関の設置(第9段落)
・「公共の福祉」を定義し、そのもとで規約が保証する権利に、規約が定める範囲を超えた制限を加えないことを明記する法の制定(第10段落)
女性の権利保護、差別撤廃
・女性に作用する差別的な条項に関し、民法を改正すること(第11段落)
・公職における女性の衡平な参画のための努力の強化(第12段落)
・女性の労働条件に関して、雇用機会の均等、労働時間、保育所の数、格差の是正、パートタイム労働者の待遇、セクシャル・ハラスメント、賃金格差、などに関する諸措置をとること(第13段落)
・強姦罪の刑法における定義、親告罪の規定、被害者の抵抗要件等に関して見直しを行なうこと、裁判官・検察官・警察官・刑務官に対する教育などを行なうこと(第14段落)
・ドメスティック・バイオレンス加害者への量刑見直し、保護命令違反者の勾留・訴追、被害者への支援の強化などを行なうこと(第15段落)
死刑制度、代用監獄制度など
・世論調査の結果にかかわらず、死刑廃止を前向きに検討すること、死刑廃止が望ましいことを国民に知らせること。当面の死刑の対象の限定、高齢者・精神障害者への執行に関する人道的アプローチ、執行の事前告知、恩赦・減刑・執行延期を可能にすることなど(第16段落)
・死刑事件における再審査の義務化、再審請求や恩赦の出願による執行停止の確保、死刑確定者に、再審に関する弁護士との秘密の面会を確保すること(第17段落)
・代用監獄制度の廃止。弁護士、自分の事件に関する警察記録、医療措置へのアクセスの確保、起訴前保釈制度導入など(第18段落)
・取り調べの時間制限、可視化、弁護人の立会い確保、自白偏重の改善など(第19段落)
・刑事施設・留置施設の視察委員会、刑事施設の被収容者の不服審査に関する調査検討会の権限・実効性確保のため諸措置、受刑者ならびに被留置者から受けた不服申し立てに関する内容を次回審査において報告すること(第20段落)
・死刑確定者の処遇改善(第21段落)
マイノリティの権利保護、差別撤廃など
・日本軍「慰安婦」問題に関して、法的責任の受け入れ、謝罪、被害者の尊厳回復、生存中の加害者への訴追、被害者に権利の問題として十分な賠償を行なうための措置、この問題に関する教育、被害者の尊厳を損なったり事実を否定したりする動きへの対策などを行なうこと(第22段落)
・人身売買被害者を見つけ出すための努力を強化し、データを収集し、加害者に対する量刑見直し、被害者支援の充実などを行なうこと(第23段落)
・外国人研修生に関し、労働基準に関する国内法上の保護を適用し、搾取する雇用者にペナルティーを課し、また、能力向上に焦点をあてる制度改定を検討すること(第24段落)
・難民申請者に関し、拷問などの危険がある国への送還禁止を視野に入れて出入国および難民認定法の改正を検討すること、弁護士、通訳、手続期間中の社会保障または雇用へのアクセスなどを確保すること、独立した不服申立審査機構を設置すること、申請が受理されなかった申請者が、その決定に対し裁判を提起できる前に強制送還されないよう確保すること(第25段落)
・法律から、表現の自由および政治に参与する権利に関するあらゆる不法理な制限を撤廃すること(第26段落)
・性的指向を法律上の差別禁止の対象に入れること、同性カップルに異性カップルと同じ権利を認めること(第27段落)
・婚外子に対する差別的法制度を撤廃すること(第28段落)
・差別禁止の根拠に性的指向を含めること、婚姻していない同居している異性のカップルに付与される恩恵を同性のカップルにも付与するよう確保すること(第29段落)
・外国籍住民が国民年金から差別的に排除されないよう経過的措置を講じること(第30段落)
・朝鮮学校に対し、補助金の増額、寄付金に関して他の私立学校への寄付と同様の財政上の優遇措置を適用することによって、適切な財政的支援を確保すること。また朝鮮学校卒業生に大学受験資格を認めること(第31段落)
・アイヌ民族、琉球・沖縄の人びとについて、文化遺産と生活様式を保護・促進する特別措置を講じ、土地権を認め、子どもたちが自らの文化・言語・歴史に関する教育を受けられるよう確保すること(第32段落)
・日本政府による報告書および委員会による最終見解の公表・普及、次回報告書をNGOに入手可能とすること(第33段落)
・死刑制度、代用監獄制度に関する勧告(17、18、19、21段落)に関して、緊急を要する事項に適用される手続きにより、1年以内にフォローアップ情報を委員会に提供すること(第34段落)

報告に対する日本政府の反応

 上記の概略のとおり、UPRと自由権規約委員会による審査において、同じ問題が指摘されている場合が少なくありません。審査の主体、対象分野、形式などが異なっても、国際的人権基準から見て明らかに問題のある点であることを示すといえます。
 6月12日、国連人権理事会・第8会期の全体会議において、作業部会が採択した日本審査報告書は、それぞれの勧告を4年後の次回審査で「フォローアップすることを受け入れ」るかどうかの立場表明となる日本政府のコメントを含む形で、国連人権理事会によって正式に採択されました。
(日本政府の回答は最終的なUPR報告書の一部となる:A/HRC/8/44/Add.2。
IMADR日本語ウェブサイトに仮訳掲載〔www.imadr.org/japan/un/hrc〕)
 ここで日本政府が受け入れた勧告は、26項目中17項目にとどまり(うち3項目は「検討する」とし、一項目は「関心を留意」するとしている)、9つの勧告については受け入れない姿勢を表明しています。
 受け入れた勧告には、「パリ原則に沿った人権機関を設置すること」、「女性を差別するすべての法規定を廃止し女性に対する差別に関する対策を継続すること」、「マイノリティに属する女性が直面する問題にとりくむこと」、「性的指向および性自認に基づく差別を撤廃するための措置をとること」、「女性および子どもに対する暴力を減らすための施策を継続すること」、「人身売買とたたかう努力を継続すること」、「UPRフォローアップ過程において市民社会を参画させること」などがあります。また、自由権規約第2選択議定書(死刑廃止条約)以外の国際条約の締結を「検討する」とし、国際人権諸条約(自由権規約、人種差別撤廃条約、女性差別撤廃条約、拷問等禁止条約)のもとでの個人通報制度の受諾を検討することを示唆したことは注目されます。また、アイヌ民族などの先住民族の権利保障に関する勧告に対しては、アイヌ民族を先住民族として認める6月6日の国会決議採択ならびに官房長官談話を紹介して、「関心を留意する」としています。
 一方、国内法の差別規定の撤廃や差別禁止法の制定を求めた勧告や、日本軍「慰安婦」問題の解決へのとりくみに関する勧告、入国管理局による「不法」滞在外国人の匿名通報用ページの撤廃を求めた勧告、代用監獄制度の見直し、死刑廃止などについては、従来の立場を頑なに繰り返し、これを退けています。死刑の廃止におよんでは、「日本は、死刑執行停止措置の承認も死刑廃止も検討する立場にはない」と真っ向から勧告に反対する姿勢を示したばかりか、報告書が採択された翌日の6月13日、法務省は3名の死刑確定囚の死刑を執行しています。自由権規約委員会の最終見解が発表される直前の10月28日にも2名の死刑を執行しており、死刑の撤廃に向かう国際的潮流には完全に逆行する姿勢をとっています。  自由権規約委員会からの勧告に対しては、文書によるコメントなどは公表されていませんが、審査後に開催された、国会議員やNGOとの意見交換会において、各省庁の代表者が見解を表明しています。しかし日本政府は、そこでも従来の国内法制度の説明を繰り返し、刑事司法制度や死刑制度に関する勧告については「検討する予定はない」とするなど、委員会の勧告を誠実に履行する姿勢を見せていません。
 UPRの次回審査、また自由権規約委員会に要請されている項目に関する1年後のフォローアップ、次回の報告書作成などにより、これらの勧告の履行は再び問われることになります。他の国際人権条約についても、相次いで報告書が提出されており、関連の委員会による今後の審査が予想されます。2008年には、子どもの権利条約第3回報告書、同選択議定書第1回報告書、女性差別撤廃条約第6回報告書、人種差別撤廃条約第3・4・5・6回報告書が相次いで提出されています。
 今回とりあげた2つの審査プロセスにおいて、多くの日本のNGOによる文書提出やジュネーブでの直接のロビイングを通じた情報提供は、実際の人権状況をもとに的確な審査がなされるため重要な役割を果たしています。今後は、これらの問題の存在を国内で周知し、その改善を働きかけること、勧告の履行を訴えることを通じて、人権状況の改善をめざす必要があります。

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