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2016年度 主な課題

2016年4月27日

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2016年度 主な課題

以下は2016年4月27日に開かれたフォーラム平和・人権・環境第18回総会において決定された2015年度総括と2016年度運動方針です。

1.   運動の展開にあたって

(1)   特徴的情勢と重点的とりくみ

  1. 混迷する世界情勢(イスラム国を生む憎悪の連鎖)
       2015年11月14日(日本時間)、多くの市民で賑わうパリ市内のサッカー場やコンサートホールにおいて、過激派組織「イスラム国」(IS)による無差別テロが起き、127人が犠牲となりました。パリにおいては、今年1月にも週刊誌「シャルリー・エブト」の風刺画をめぐって市民や警察官が犠牲となる事件があったばかりでした。自らの主張を、市街地での自爆テロや人質の殺害など罪のない市民に対しての一方的な暴力によって表明しているISなどのイスラム過激組織の犯行は、決して許されるものではありません。
       しかし、一方でこれらのイスラム過激派が、どのような状況下で生まれてきたかを米国やヨーロッパ諸国は十分に検証し、自らの来し方を総括すべきです。大量破壊兵器を所持するとしたイラクやリビアへの武力介入などは、人道的側面があったとしても、明らかに強圧的であり民族の憎悪のを生み出し社会混乱を招いたことは事実です。そのことが、ISなど過激派組織の台頭を許したことは明白であり、その責任は回避できるものではありません。
       2016年に入っても、1月7日にリビア西部リズデンにおいて、1月12日にトルコのイスタンブール旧市街において、13日にはアフガニスタン東部のジャララバードで、14日にはインドネシアの首都ジャカルタで、ISによると思われるテロが発生しています。このように多発するテロ行為は、米国を中心とした有志連合による空爆が思うほどの効果を生むことができず、平和をつくり出す力になっていないことを物語っています。
       シリア及びイラク北西部では、ISやシリア政府軍、ISと敵対するアルカイダ系のヌスラ戦線、クルド人系「人民防衛隊」(YPG)などが入り乱れ、トルコやロシアによる空爆も加わって、きわめて複雑な状況となっています。国連は、今年1月にシリア内戦の平和的解決をめざして和平協議を開催することを表明しましたが、ISとアルカイダ系ヌスラ戦線は協議から外され、アサド政権を支援するロシアがクルド人系組織「民主統一党」(PYD:YPGと近い)の参加を主張して反体制派を支持するトルコと対立する混乱した中で、反政府勢力が集うことはありませんでした。諸勢力の乱立に終止符を打ち平和への第一歩として、今後も国連による粘り強いとりくみが求められています。
       シリアからの難民は2015年の1年間で100万人を超えたとも言われ、昨年15万人の難民を積極的に受け入れてきたスウェーデンにおいては、ステファン・ロベーン首相が「多くの難民を受け入れることができないというのは心苦しいが、今の状況では受け入れ持続は不可能だ」と表明するまでになっています。テロを引き起こした犯人の中には、難民に紛れて入国したものも存在し、また、難民と貧困層が職場を奪い合う状況も生まれつつあり、そのことを利用して勢力の拡大を図る右派政党の台頭も含めて、難民受け入れを制限する方向も生まれています。11月14日のテロ以降のフランス国内では、イスラム社会との対立が激化しています。欧米社会の自由と平等を基本にした人権感覚、社会体制も覆すような困難な状況も招来しています。
       日本政府は、有志連合の一員として「積極的平和主義」を掲げ、シリア難民に対しての経済援助を表明しています。ISは、日本を有志連合の一員としての敵対国と位置づけています。2015年10月3日にバングラデシュで発生した邦人殺害では、ISを名乗る組織から犯行声明が出されており、同年1月の湯川遥菜さんと後藤健二さんの殺害も含め、日本も国際テロの対象国になっていることは明白です。米国との集団的自衛権行使が、これまでの日本の立場を変えていくことは明らかであり、そのために米国との軍事同盟強化のために武力を行使する「普通の国」になり、国際テロの標的となる必要はありません。
       日本は、400万人を超すと言われるシリア難民問題において、きわめて閉鎖的な政策をとってきました。昨年1年間に日本への難民申請数は7586人に及んでいますが、難民認定されたのは27人、うちシリア人は6人にとどまっています。緒方貞子元国連難民高等弁務官は、インタビューに答えて「難民の受け入れは積極的平和主義の一部ですよ。本当に困っている人たちに対してね。それから開発援助も底辺に届くようなものをどれだけやるのか。それが積極的ですよ。難民の受け入れに積極性を見いださなければ、積極的平和主義というものがあるとは思えない」と述べています。
       安倍首相は、昨年9月の国連演説において、シリア・イラク難民に対し970億円の援助を行うと表明しました。しかし、難民の受け入れには消極的です。難民キャンプには、十分な教育も医療も、文化的生活もありません。キャンプ生活が一人ひとりの人間性を尊重したものでないことは明らかです。そのような支援のあり方が、シリア難民の心に届くことはありません。
       
  2. 国連「持続可能な開発目標(SDGs)」採択(貧困の撲滅と平和へのとりくみ)
       2000年に国連加盟国189か国は一致して、2015年の達成を目標に世界の貧困の削減をめざす「ミレニアム宣言」を採択しました。2015年の国連報告では、1日1.25ドル以下で暮らす「極度の貧困」は、1990年の47%から2015年には14%に減少したとされています。しかし、数字によって区切られることにどれだけの意味があるのかは疑問です。ミレニアム計画によっても「極度の貧困」から解放されなかったサハラ以南のアフリカの人々を含めて、現在、8億人が未だに「極度の貧困」にあるとされ、5才未満の子どもの死亡は年間16,000人に及びます。
       また混迷する中東情勢を反映して、紛争によって家を追われた人々は2014年末で6,000万人、毎日42,000人が新たに家を失っていると言われています。紛争国はいずれも高い貧困率にあります。1日1.25ドル以下(極度の貧困)ではないが、貧困な生活を余儀なくされ、教育や清潔な生活、満たされた食から拒絶されている人々が、どれだけ世界に存在するかは想像に難くありません。
       国連は、昨年9月に193の加盟国全てによって、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」を採択しました。2030年を共通の目標として、これまでの「ミレニアム開発目標」(MDGs)に代わって、あらゆる貧困の根絶や健康な生活の確保、国家内・国家間の不公正を減らすことなど17分野169項目からなる「持続可能な開発目標Sustainable Development Goals」(SDGs)が設けられました。混乱が続く世界情勢は、多くの貧困を持続的に生み出しています。国連が掲げる「人間の安全保障」は、平和学の権威ヨハン・ガルトゥング博士が主張する、戦争の無い社会「消極的平和」から貧困・格差、差別などの構造的暴力を排除して真の平和な社会を構成しようとする「積極的平和」への道筋を示すものです。
       日本国憲法の前文において「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」とし、その第9条において「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」とした日本こそが、国連のSDGsのとりくみの先頭に立たなくてはなりません。
       
  3. 米国のリバランス政策と対立する東アジア(東アジアの共通の安全保障へ)
       朝鮮半島の南北軍事境界線に近い非武装地帯(DMZ)の韓国側において、昨年8月4日に地雷が爆発し韓国軍兵士が負傷した問題で、南北朝鮮の軍事的緊張は頂点に達しました。しかし、事態の解決をめざして8月22日から始まった南北高官級会談おいて、地雷爆発事件に対して朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)が遺憾の意を表明し、大韓民国(韓国)が宣伝放送を中断することで合意、緊張緩和へ動き出しました。南北間での対話、六か国協議などの対話の重要性が意識されます。
       今年1月6日、北朝鮮は突然、自ら水爆実験と主張する4度目の核実験を実施しました。また、2月7日には、地球観測衛星『光明星4号』の打ち上げと主張し長距離ミサイルを打ち上げました。世界各国はきびしく非難しています。米国は、核実験直後の1月10日には核爆弾搭載可能なB52戦略爆撃機を韓国に派遣し、ソウル近郊に飛行させるなど挑発的行為を開始しました。菅官房長官は、B52の韓国派遣を歓迎し「地域の平和と安全に役割を果たす米国の強い意志の表れ」と評価しています。日米韓は、1月16日東京都内において外務次官級協議を開催し、「朝鮮への制裁を強化する国連安保理決議の採択をめざし緊密に連携する」としましたが、国連安保理における米中協議が難航し、具体策が見えない状況となっています。
       北朝鮮の核実験や長距離ミサイルの打ち上げなどが、いかに東アジアの緊張を強いているかは議論の余地はありませんが、一方で米韓日軍事演習の強化と対話拒否の米国の姿勢が、東アジアの緊張と朝鮮政府の強硬姿勢をつくりだしていることは明らかです。現在、韓国側からは大型拡声器によるプロパガンダが、北朝鮮側からはパク・クネ(朴槿恵)大統領を非難する風船ビラなどがまかれ、中傷合戦の様相を見せています。2016年3月7日から始まった米韓合同軍事演習は、対北朝鮮を強く意識した演習計画とB2ステルス戦略爆撃機やステルス戦闘機、空母機動部隊の投入など、米韓軍30万人を動員する過去最大の規模となっています。危機感を深める北朝鮮は、日本海へのミサイル発射などを繰り返し、緊張感を高めています。中国の王毅外相は、北朝鮮の核放棄のみを求めるのではなく、朝鮮戦争の休戦協定を平和協定に転換する協議を並行して進めるべきだとの考えを示しています。東アジアの平和にとって、米韓の軍事演習はきわめて問題の多いものとなっていることは明らかです。
       米国は、東アジアの安全保障のために、キューバとの間で行われた国交回復への努力を、米朝間においても行うべきです。日朝間においても、拉致問題など現状に拘泥することなく、国交の正常化を先行し、その上で問題解決への対話を粘り強く続けていくことが、現状を打開し東アジアの平和を実現する最速の道です。
       北朝鮮は、労働党創建70周年を迎えるにあたって、2015年10月1日の国連総会においてリ・スヨン(李洙墉)外務大臣が演説し、米国に対して「朝鮮半島での戦争を回避するための建設的な対話をする意思がある」として「朝鮮戦争の休戦協定を平和協定へ」との考えを公式に伝えていました。しかし、事態は進展せず、米国は黙殺しました。直後の10月16日、米韓首脳会談においてパク・クネ韓国大統領とオバマ米大統領は、「朝鮮に関する米韓共同声明」(共同声明)を発表し、「朝鮮の核問題を最も緊急な課題として、確固たる意志を持って対処することに合意した」と強調し、朝鮮国内での「人権侵害の責任を糾明」すると表明しました。これらの内容は、一方的に朝鮮を糾弾するもので、北朝鮮との交渉再開へのアプローチとなるものではありません。
       北朝鮮の核実験が、東アジアの平和への大きな脅威であることは明白です。しかし、強硬な抗議と脅しともとれる軍事的圧力、市民生活を脅かす制裁措置の強化で朝鮮の姿勢を変えることは困難です。早期の「6か国協議」および米朝、日朝などの2国間協議の再開をめざし、国交正常化を実現すべきです。その中で、北朝鮮との間に横たわる課題の解決をめざすべきです。
       一方で米国は、東アジアにおいて「リバランス政策」を展開し、中国との経済関係を重視しつつ軍事的優位の確保を基本に、日本・韓国・オーストラリアなどの同盟国との関係の再強化と軍事的プレゼンスの最適化をめざしています。それによって、日本や韓国では、同盟強化と軍事費拡大の方向が顕著となっています。韓国への配備が懸念されるTHAAD(高高度ミサイル防衛体系)や、日本の集団的自衛権行使容認と日米ガイドライン改定など、米韓日の軍事的協力の深化は、北朝鮮や中国を仮想敵国として東アジアの平和を極めて不安定な軍事バランスの上に乗せることとなっています。
       中国外務省は、1月2日、南シナ海の南沙(英語名:スプラトリー)諸島の永暑(英語名:ファイアリクロス)礁における飛行場建設が終了し、民間航空機の試験飛行を実施したと発表しました。南沙諸島をめぐっては、領有を主張する中国とベトナムおよびフィリピンとの対立が表面化しています。中国は、永暑礁の他に2つの礁を人口島化し、3本の滑走路を建設中で、南沙諸島の軍事拠点化をすすめています。米国政府は「海洋権益を過度に主張する国に対抗する」として、イージス駆逐艦の近海派遣やB52戦略爆撃機を飛行させたりするなど、南シナ海での中国覇権に対して警戒を強めています。昨年11月には米海軍と日本の海上自衛隊が南シナ海で初の合同訓練を実施しています。
       安倍首相は、「開かれた自由で平和な海を守るため、米国をはじめ国際社会と連携していく」と強調し、米国と連携する姿勢を打ち出していますが、米国は中国との経済関係を重視する姿勢にあって、今後の出方が注目されます。日本にとっては、南シナ海は重要な航路であることは間違いなく、安全保障関連法を強行成立させた中で、安倍政権は、南シナ海での警戒活動にも米軍を支援しながら参加することも視野に入れています。中国と日本の経済関係を考えるならば、自制的な日米関係を米国の権益に過度に荷担することなく、日中の恒常的な協議体制を構築する中で、南シナ海の問題や領有権で対立する尖閣諸島問題の平和的解決にあたるべきです。
       2014年の貿易相手国は、輸出において54.1%がアジア諸国、輸入においても45%がアジア諸国となっています。日本経済はアジア諸国なしで成立し得ない状況となっていることは明らかです。ジョン・ダワーMIT名誉教授は「日本の難題は、新しい『アジア太平洋』共同体をイメージし、敵対的対立ではなく経済的・文化的な協力関係に資源とエネルギーを注ぐことのできる指導者が存在しないことにある」と発言し、平和学の権威ヨハン・ガルトゥング博士は「北東アジアの共同体の創設を提案したい。メンバーは日本と中国、台湾、韓国、北朝鮮、ロシアの極東部。本部は地理的にも中心で、琉球王国時代からに周辺国と交流の歴史を持つ沖縄にしてはどうでしょうか。モデルはEUです」と発言されています。パックス・アメリカーナかパックス・アジアか、日本はどれを選択するのかというジョン・ダワー名誉教授の指摘があります。文化的にも、経済的にも。地政学的にも、日本がアジアの一員であることは明らかです。日本が中心となって、アジアにおける共同体構想を漸進的にすすめつつ、EUにおいて考えられてきた「共通の安全保障」のあり方に学ぶことが大切です。
       
  4. 戦争する国へ(安全保障関連法の廃止をめざせ)
       安倍政権は、これまで歴代内閣や内閣法制局がとってきた「憲法は集団的自衛権行使を容認しない」という憲法解釈を、いとも簡単に閣議決定を以て覆し、改正武力攻撃事態法、改正周辺事態法(重要影響事態法に名称変更)など10本を一括した「平和安全法制整備法」と、自衛隊をいつでも海外に派遣できる恒久法「国際平和支援法」を、昨年5月15日に国会に提出しました。衆院特別委員会での約116時間の審議をもって7月16日に自公政権の多数をもって衆議院を通過させ、参院特別委では約100時間の審議をもって議論を打ち切り、9月19日未明、参議院本会議で賛成多数で強行成立させ、2016年3月29日に施行されました。
       この間の議論では、集団的自衛権行使の根拠として政府が示した「砂川判決」「1972年政府見解」などは、憲法学者や元最高裁長官、元内閣法制局長官などによって否定され続けました。また、行使の具体的事例として示された内容も、納得できるものではありませんでした。地方・中央で開催された公聴会においても、法案に反対や成立を急ぐ政府に対して懸念を示す発言が相次ぎました。市民、学者、学生、労働組合など様々な組織や個人が、反対の声を上げ続けました。
       しかし、安倍政権は、市民社会の声を一顧だにせず、数の力にまかせて法の成立を強行しました。集団的自衛権行使と自衛隊の海外派兵は、国防費の抑制を余儀なくされている米国政府の強い要求と、国連の軍事活動に参加する「普通の国」にならんとする外務省の要求、そして軍事力の復活をもって天皇制国家いわゆる大日本帝国の復活をめざさんとする日本会議の要請が一致したものといえます。
       混乱する世界情勢において、武力を持って平和をつくり出そうとする手法がいかに失敗を重ね破綻していることはこれまでの歴史が証明しています。安倍首相の主張する積極的平和主義は、対立を煽り民族と国家間の憎悪を生み出し、深刻な武力対立を引き起こすものといえます。
       「日本は米国の軍事活動に関与を深める『普通の国』ではなく、憲法を守り、非軍事的な手段で国際問題の解決をめざす国であってほしい」(ジョン・ダワー/MIT名誉教授)など、海外からの多くの発信があります。ジョン・ダワー教授の著書「敗北を抱きしめて」の内容紹介文には「1945年8月、焦土と化した日本に上陸した占領軍兵士がそこに見出したのは、驚くべきことに、敗者の卑屈や憎悪ではなく、平和な世界と改革への希望に満ちた民衆の姿であった。勝者による上からの革命に、敗北を抱きしめながら民衆が力強く呼応したこの奇跡的な『敗北の物語』を米国最高の歴史家が描く」とあります。1945年8月15日の前後で、日本社会がどう変貌していったのか、そのことを忘れてはなりません。戦争法の廃止を求めて、出来うる全てをやりきる覚悟が必要です。
       
  5. 表だって動きはじめた日本会議(改憲を絶対に許さない)
       2015年9月19日の「戦争法」成立以降、安倍首相は外遊に明け暮れ、野党が憲法53条の規定に基づいて要求した臨時国会の開催を拒んできました。補正予算や公務員給与改正などの重要案件は先送りされました。「餅を食べれば忘れる」などとする、高まった戦争法反対の世論を沈静化する狙いであり、許される行為ではありません。政府は、憲法53条には開催期限が記載されていないとしていますが、法の趣旨からも速やかな開催が求められることは明らかであり、憲法違反以外のなにものでもありません。
       戦争法も同様に憲法9条に違反し、条文の改正が前提であることは明らかです。憲法99条で求められている「憲法の尊重・擁護義務」に反するもので、内閣総理大臣の職責からも、憲法規定の遵守は最優先されなくてはなりません。
       ジャーナリストの桜井よしこ元読売テレビキャスターや日本会議議長の三好達元最高裁長官などが共同代表を務める「美しい日本の憲法をつくる国民の会」が主催する「今こそ憲法改正を!1万人大会」(11月10日、日本武道館)において、安倍晋三首相は、自民党総裁としながら「憲法改正に向けて、ともに、着実に歩みを進めてまいりましょう」とメッセージを送りました。また、1月4日の通常国会開催後も、至る所で「夏の参議院選挙で、日本の将来に責任を持つ改憲政党で3分の2を確保し、憲法改正を」と表明しています。また、自ら集団的自衛権行使は憲法上許されると主張し閣議決定まで行ったものを、2月3日の衆院予算委員会において、戦力の不保持を宣言した憲法9条2項について「7割の憲法学者が自衛隊について憲法違反の疑いを持っている状況をなくすべきではないか、という考え方もある」と述べ、改正の必要性に言及しました。国政を預かる者として、このような矛盾した発言を行うことは、許されるものではありません。
       このような情勢を受けて、先の戦争を自存・自衛、アジア解放の戦争と位置づけ、家父長制の儒教的社会を是として天皇制の復活をめざす、海外メディアがこぞって「ナショナリスト組織」(米・ニューヨークタイムス)、「ナショナリスト・シンクタンク」(英・エコノミスト)と呼ぶ、安倍晋三首相や麻生太郎副総理などの国会議員もメンバーとする「日本会議」は、憲法改正に向けて大きく動き出そうとしています。日本会議の加盟団体組織である神社本庁は、初詣で賑わう各神社境内で「憲法改正には国会発議とともに、国民投票で過半数(約3000万票以上)の賛成が必要になる」と主張し、「誇りある日本をめざして」などののぼり旗を立て、改憲の国民投票運動に向けた名簿作りと位置づけた署名運動を展開しています。
       敗戦の中で、侵略と植民地支配の反省に立って生まれた日本国憲法の「平和主義」「民主主義」「基本的人権の保障」という3大原則を、私たちは絶対に護っていかなくてはなりません。第3次安倍改造内閣は、25人の閣僚中日本会議のメンバーが12人、神道政治連盟のメンバーが20人と、きわめて保守・反動的内閣と言えます。日本会議傘下の「日本会議国会議員懇談会」には、衆参両院の議員総数の約35%にあたる約250人が加入しています。また、地方には「日本会議地方議会連盟」があり、同連盟メンバーの議席は47都道府県議会中15県議会で4割を超えています。政治の右傾化は、日本社会の右傾化につながっています。
       欧州社会が、難民の流入から特に社会の貧困層が右翼政党を支持する傾向にあるように、日本社会も、格差の拡大の中で、夢の持てない若者を中心に右傾化が進展し、またそのことが政治の右傾化を深化させています。そのことを憲法改正につなげようとするのが、日本会議の戦略となっています。安倍内閣および日本会議による企てを潰さなくてはなりません。そのために、参議院議員選挙での安倍政権の勝利を許すわけにはいきません。
       
  6. 報道へ増していく圧力(ファッショ政治を許すな)
       安倍政権は、日本会議と連携しつつ、政権を批判するメディアに対して、本来ならば報道の自由と市民社会に対して報道の確保を保障する立場にありながら、放送法第4条の規定を盾に「偏向報道」との圧力をかけています。テレビ朝日「報道ステーション」の古館伊知郎キャスター、NHK「クローズアップ現代」国谷裕子キャスター、TBS「ニュース23」岸井成格キャスターなどが降板するという異常な事態を招いています。
       高市早苗総務大臣は、2016年2月8日の衆院予算委員会で、放送局が政治的な公平性を欠く放送を繰り返したと判断した場合、放送法4条違反を理由に、電波法76条に基づいて電波停止を命じる可能性に言及しています。
       放送法4条は放送の自律を守るための倫理規範とされ、報道の公平性や中立性に関しては、メディアの増加中で対応しつつ報道の自由を守ることを優先するのが世界基準の考え方です。政府が、自らを批判するメディアに対して規制することは絶対に許されません。
       政治は、批判されることを宿命とし、批判に答えることによって自らが社会変革の主体となり得るものです。批判の存在自体が民主主義の根幹であり、自らに対する批判を許さないとする政治姿勢は、ファシズム以外の何ものでもありません。安倍政権のマスコミに対する姿勢は、戦争法や特定秘密保護法、アベノミクスなどの経済政策と貧困格差問題への対応などの諸政策において「後ろめたい」か「批判に答える自信がない」か、あるいは「自覚を持って対応している」かのどれかです。市民一人ひとりの命をないがしろにする安倍政権の諸政策との闘いは、国家主義と民主主義、国家主義と個人主義の闘いとなっています。
       
  7. 辺野古新基地建設とオスプレイ配備(相次ぐ訴訟、民意なき政策の強行)
       翁長雄志沖縄県知事は、昨年10月13日、「普天間飛行場代替施設建設事業に係る公有水面埋立承認手続に関する第三者委員会」が出した「埋め立て申請の承認には法的瑕疵がある」とした報告を受けて、埋め立て申請の取り消しを発表しました。法的根拠を失った政府は、沖縄防衛局長をもって行政不服審査法に基づく審査を、石井啓一国土交通大臣に申請し、国交大臣は承認取り消しの執行停止を命じました。しかし、行政不服審査法第一条には「国民に対して広く行政庁に対する不服申立ての道を開くことによって」と書かれ、法が要請する審査の主体は、国民とする私人であると解されるものです。行政法学者90人以上の賛同をもって出された声明では、明確に「行政処分につき固有の資格において相手方となった場合には、行政主体・行政機関が当該行政処分の審査請求をすることを現行の行政不服審査法は予定しておらず、かつ、来年に施行される新法は当該処分を明示的に適用除外としている。したがって、この審査請求は不適法であり、執行停止の申し立てもまた不適法なものである」としています。国の違法性は明らかです。
       政府は、翁長知事に承認取り消しの撤回を求める代執行訴訟を福岡高裁那覇支部に、また沖縄県は国交大臣の承認取り消しの執行停止処分は違法だとして那覇地裁へ、ともに訴えています。また、2016年2月1日に沖縄県は、国地方係争処理委員会への「国交大臣の不服審査が違法である」とする訴えが却下されたことを不服として、福岡高裁那覇支部に対して訴訟を起こしました。これにより、沖縄県知事の公有水面埋め立て申請の取り消しをめぐり3つの裁判が同時進行することとなります。
       福岡高裁那覇支部(多見谷寿郎裁判長)は、国と県に対して、1.国が代執行訴訟などを取り下げて工事を中止し県と再協議する(暫定的解決案)、2.県が埋立承認取り消しを撤回し、辺野古新基地を30年運用での返還か軍民共用空港とすることを政府が米国と交渉する(根本的解決案)の二つの和解案を提示していると報道されました。沖縄県は暫定的な和解案に応じる姿勢を示していましたが、当初、国側は和解には応じない姿勢を明確にしていました。しかし、2016年3月4日、国は沖縄県に対して和解案に応じる旨を公表しました。和解案に応じる背景には、1.参議員選挙への対応、2.敗訴のリスク、3.米国の懸念など、総合的判断であると考えられますが、新聞報道にあるように国と県が「和解」したとするものではなく、「提訴された3つの裁判をそれぞれが取り下げ、国は辺野古埋め立て工事を中断し、円満解決に向けて協議を進める。一方で、県による「辺野古埋め立て承認取り消し」への国の是正措置について、適法かどうかを国地方係争処理委員会が判断する。是正措置が適法とされるか、または違法だとされても国が従わない場合は、県が高裁へ提訴し、最終的に確定した判決には双方が従う」とするものです。県は、敗訴が確定した場合でも、今後予想される設計概要の変更申請への承認や、埋め立て申請後に生じた事由を根拠に行う承認撤回など、今後も知事権限を行使して辺野古新基地建設阻止の姿勢を貫くとしています。和解案承認後も、国は「辺野古新基地建設が唯一の解決案」との姿勢を崩しておらず、今後もきびしい闘いが予想されます。
       このような異常な状況は「普天間基地閉鎖には辺野古新基地建設のみが選択肢」とする硬直した政府の姿勢がもたらしたものといえます。翁長知事は、国による福岡高裁那覇支部での裁判において陳述し、「法治国家であることを自ら否定するような国土交通大臣の対応は、沖縄県民の民意を踏みにじるためなら手段を選ばない、米軍基地の負担は、沖縄県だけに押しつければよいという、安倍内閣の明確な意思の表れに他なりません」と述べています。沖縄県の歴史から紐解き、現在の沖縄の状況と沖縄の将来に言及する知事の陳述は、沖縄県民の心に寄りそう真実の言葉です。私たちは、この言葉の意味するところに従い、決して辺野古への新基地建設を許してはなりません。
       沖縄県民の反対を押し切って普天間基地に配備された垂直離着陸輸送機MV22オスプレイが、アフガニスタンにおける実戦配備において、クラスA ~Dの事故を90.4時間に1件起こしていることが明らかになりました。同国に配備された海兵隊の全航空機による事故の発生は3746.8時間に1件の割合で、オスプレイの事故割合は約40倍と突出しています。沖縄国際大学に墜落したCH53Dヘリコプターの事故率がオスプレイに次いで高くなっていますが、938.4時間に1件の割合に止まっています。これまで指摘されてきたオスプレイの危険性が証明されています。同時に、アフガニスタンでのオスプレイの運用時間は700時間程度と他の航空機に比べ極端に低く、その必要性には疑問を感じざる得ません。
       日本政府・防衛省は、他国では販売実績のないオスプレイを17機購入することを決め、その配備を佐賀空港としています。また、日本に配備されている米海兵隊オスプレイと自衛隊配備のオスプレイの定期整備拠点を、千葉県の陸上自衛隊木更津駐屯地とすることも決定しています。加えて、日米両政府は、米空軍仕様のオスプレイCV-22の横田基地配備も決定しています。これにより、首都圏上空を墜落の危険性が極めて高いオスプレイが縦横無尽に飛行することが予想されます。現在も横田基地から横須賀基地に飛来するオスプレイは、横浜市および横須賀市の市街地上空を飛行しています。日米安全保障条約および日米地位協定が、市民の日常生活さえ危険にさらしている状況が存在しています。
       中谷元防衛大臣は、記者会見でCV-22の横田基地配備に言及し「米国のリバランスを体現するもので、即応体制整備の一環だ」と歓迎を表明し、首都直下型地震などでの災害救援活動にも期待するとしました。市民の命と安全をないがしろにする安倍政権の姿勢を具現化しています。
       2016年2月7日の北朝鮮の長距離ミサイルの打ち上げにともない、中谷防衛大臣の発出した「破壊措置命令」によって、防衛省はスタンダード・ミサイル(SM3)装備のイージス艦3隻(東シナ海2隻、日本海1隻)を展開し、地対空誘導弾パトリオット・ミサイル(PAC3)を首都圏3カ所(市ケ谷、朝霞、習志野の自衛隊基地内)、沖縄本島2カ所(那覇基地、知念分屯基地)、先島諸島2カ所(宮古島、石垣島)の計7カ所に配備しました。
       北朝鮮が2月2日に国際海事機関(IMO)に通告した飛行経路では、打ち上げられたミサイルは沖縄県・先島諸島の多良間島付近を通過するもので、防衛省の対応は過剰反応としか言えないものです。PAC3の迎撃高度はせいぜい数十kmと言われ、上空500kmを通過するミサイルの迎撃は困難です。日本政府・防衛省は、対中国への軍事的対応の南西防衛・島嶼防衛を打ち出し、与那国島150人、石垣島600人、宮古島700人の沿岸警備部隊や、対空・対艦ミサイル部隊などの配備、ヘリ部隊の配備を計画しています。今回の過剰な自衛隊の展開は、そのような先島諸島への自衛隊配備への地ならし的策動ともとれます。中谷防衛大臣は「地元の理解を頂くことが不可欠だ」と述べていますが、安倍首相は「安全保障に関することは一地域の選挙で決定するものではない」と述べるなど、今後民意を気にすることなく配備強行に向かうことも懸念されます。
       
  8. 歴史認識と日本軍「慰安婦」問題(歴史の不可逆的解決はあり得ない)
       安倍首相は、戦後70年の節目に未来を構想する談話を発表するとして「20世紀を振り返り21世紀の世界秩序と日本の役割を構想するための有識者懇談会」(有識者懇談会)を設置し、2015年2月25日に第1回の会合を開催しました。有識者懇談会は8月7日に報告書を提出し、それを基にして8月14日、安倍首相は「戦後70年談話」を発表しました。「我が国は、先の大戦における行いについて、繰り返し、痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明してきました」「こうした歴代内閣の立場は、今後も、揺るぎないものであります」と記述しながら、しかし安倍首相自ら一人称で語ることはありませんでした。
       冒頭では「(日本は)アジアで最初に立憲政治を打ち立て、独立を守り抜きました。日露戦争は、植民地支配のもとにあった多くのアジアやアフリカの人々を勇気づけました」と、あたかも首相を取り巻く右翼勢力におもねるように、不実の歴史認識を披露し、戦時下の性暴力に関わっては「慰安婦」という文言を使わず、その責任を曖昧にしています。有識者懇談会の北岡伸一副座長は、「安倍首相は自らの言葉で語って欲しかった」と感想を述べています。
       しかし、一方で談話の内容は、安倍政権が標榜してきた「戦後レジームからの脱却」つまり不戦と民主主義の日本国憲法の基本理念に依拠するものになりました。議論の最中であった「戦争法(安全保障関連法)」への日本の市民社会の反発、韓国などのアジア諸国の反発や世界からの注目、そして米国の思惑などにより、「日本会議」の重要なメンバーとしての安倍晋三個人の日頃からの主張とは大きく異なるものとなりました。
       「日本会議」の、アジア・太平洋戦争は自存・自衛の戦争、アジア解放の戦争であるとする主張は、戦後の国際連合と戦勝国(米・露・独・仏・中:安全保障理事会常任理事国)による世界秩序およびその基盤となる歴史認識とは全く相容れないものです。「日米同盟」は、そのことを基本に成立しているものであり、安倍首相の「戦後70年談話」がその国際秩序を超えることは、アジア諸国のみならず世界から孤立することを意味し、1931年の満州事変によって国際連盟を離脱し孤立感を強めていった歴史の再現を予感させるものです。
       2015年12月28日、岸田文雄外務大臣と韓国のユン・ビョンセ(尹炳世)外務大臣が会談を行い、日本軍「慰安婦」問題の解決について、「韓国政府が元慰安婦の支援に関する財団を設立し、日本政府予算から10億円を拠出することで合意した」と発表しました。
       発表された合意内容は「軍の関与を肯定」「日本政府の責任に言及」「内閣総理大臣としてのお詫びと反省の表明」を明確にし、これまでの安倍首相自身の主張を否定するものとなっています。しかし一方で、10億円の拠出と財団事業の実行で、「問題の最終的かつ不可逆的に解決」をはかり「今後、国際社会でこの問題を取り上げない」とし、日本軍「慰安婦」という歴史事実を抹殺しようとする意図がうかがえます。元従軍慰安婦の方々からは、安倍首相自身がなぜ謝罪しなかったのか、政府間のみでなぜ問題の解決を図るのかなどの声があがるともに、日韓両政府の慰安婦当事者を抜きにした解決の手法に、韓国内においても批判が強まっています。
       歴史には不可逆的解決などという話はありません。日本軍「慰安婦」が存在した事実を両国民が理解しその問題性を共有する中で、友好と協調の相互関係を構築することが大切です。加えて、被害者自身を抜きにした解決へのとりくみは存在しません。この二つの点からも、今回の方法が正しい解決のあり方であるとは考えられません。
       
  9. 差別と右傾化(ヘイトスピーチに走る若者)
       2010年4月実施の「公立高等学校の授業料無償化・高等学校等就学支援金制度」から朝鮮高校が排除されてきた問題で、2013年2月20日、文科省は政令改定を行い外国人学校に関する規定の「(ハ)イ、ロのほか、文部科学大臣が定めるところにより、高等学校の課程に類する課程を置くものと認められるものとして、文部科学大臣が指定したもの」を削除し、朝鮮高校の排除を決定的なものとしました。下村博文文科相は、政令改正を前にして「朝鮮学校については、拉致問題に進展がないこと、朝鮮総連(在日本朝鮮人総連合会)と密接な関係にあり、教育内容、人事、財政にその影響が及んでいることなどから、現時点では国民の理解が得られない」と述べています。高校授業料無償化の導入は、国連社会権規約に基づくもので、外国人学校も含め全ての高校生に適用されなくてはなりません。日本に生きる高校生の権利を、政治的対立を理由に侵害することは許されません。
       京都朝鮮学校へのヘイトスピーチでは、司法は国際基準に基づいて的確な判断を下し、ヘイトスピーチの実行者に対する損害賠償を認め、スピーチの禁止を命じました。この間、日本政府は国連による多くの勧告を無視し、自ら対策に乗り出すことはしてきませんでした。2016年1月24日、日弁連の招きに応じて来日した国連少数者(マイノリティー)問題特別報告者でハンガリー出身の弁護士であるリタ・イザックさんは、東京・新宿のコリアンタウンなどで在日外国人から、日本国内の少数者に対する差別やヘイトスピーチデモの現状などについて説明を受け、在日コリアンや在日外国人のイスラム教徒、被差別部落出身者などから話を聞き、「差別をなくすための法整備や指導者のとりくみが必要だ」との考えを明らかにし、「政府指導者も『差別は許されない』と明言するリーダーシップを示すべきだ」としました。日本社会の差別状況が、政治的指導者の姿勢に由来することは明らかです。
       朝日新聞に寄稿された作家の中村文則さんは、友人と戦争について議論した際に、「その最後、彼が僕を心底嫌そうに見ながら『お前は人権の臭いがする』と言ったのだった」と述懐し「人権が大事なのは当然と思っていた僕は驚くことになる」と述べています。「国に反対する人間の人権をなぜ国が守らなくてはならないのか」と言う友人の言葉には、それこそ今の若者の右傾化の臭いがします。彼は、正規・非正規の関係にも言及し「正社員達には『特権階級』の意識があったのだろう。叱る時に容赦はなかった。バイトの女の子が『正社員を舐(な)めるなよ』と怒鳴られていた場面に遭遇した時は本当に驚いた」「派遣のバイトもしたが、そこでは社員が『できない』バイトを見つけいじめていた。では正社員達はみな幸福だったのか?」「その頃バイト仲間に一冊の本を渡された。題は伏せるが右派の本で第二次大戦の日本を美化していた。僕が色々言うと、その彼も僕を嫌そうに見た。そして『お前在日?』と言ったのだった」。これらの言葉は、普通の若者の生活の中に散見されるものです。
       彼は、「時代はどんどん格差が広がる傾向にあった」と述べています。非正規労働者の就業人口に占める割合は40%を超え、格差は拡大し、勝ち組、負け組の差は明らかになっています。そして、その格差が固定化されつつあるのが日本の若者の現状ではないでしょうか。欧米社会においても、貧困な若者層からの右傾化が指摘されています。ヘイトスピーチで差別用語を高唱する若者の中にも、目に見えない大きな不安が広がっているのかもしれません。貧困・格差の現状と将来への展望の見えない漠然とした不安からのヘイトスピーチ、日々の生活に追われる不安からのネグレクト、蝕まれる日本社会がそこにあります。
       
  10. 右傾化する教育(教科書・道徳・主権者教育をめぐって)
       2015年に、2016年度以降の中学校の使用教科書を決定する教科書の採択が全国一斉に行われ、歴史修正主義に基づいて侵略戦争と植民地支配の反省に立つ歴史教科書を自虐的と批判し、家父長制を中心とした封建的家族制度と近代の個人主義を否定する「教科書改善の会」の育鵬社版中学校用歴史・公民教科書が、大阪市における新規採択や生徒数の多い横浜市が継続採択したことから、採択率を歴史6.2%、公民5.7%に伸ばしました。「新しい歴史教科書をつくる会」の扶桑社版の採択率の低迷(歴史0.6%、公民0.4%)を批判し分裂した「教科書改善の会」から育鵬社版教科書が出された2011年は、採択率が歴史3.7%、公民4.0%であったことから、今回も採択率を伸ばしたこととなります。
       「教科書改善の会」は目標採択率を10%におき、安倍晋三首相に近い議員で構成する「日本の前途と歴史教育を考える議員の会」が、「より良い教科書を子供たちに届けるために」という、暗に育鵬社版教科書の採択を促すパンフレットを作成・配布するなど、自民党政権と一体となった運動を展開しました。露骨な政治介入とも言える採択運動は問題です。大阪維新の会系の議員や首長が中心となった自治体や日本会議系首長の自治体などを中心に採択されましたが、一方で、神奈川県立の中高一貫校や東京都大田区、尾道市、島根県益田地区、などでは、育鵬社版から他の教科書への変更が実現しています。粘り強い市民組織のとりくみの成果といえます。
       2016年3月18日に公表された2017年度から使用される高校教科書の検定結果では、集団的自衛権行使容認や領土問題、慰安婦問題などで政府の見解に沿った検定意見による修正が多く見られました。教科書検定制度の見直しを受けて、自由な記述の範囲が狭められ、国定教科書の色合いが濃いものとなっています。戦前の反省から生まれた教科書検定制度の趣旨を守らなくてはなりません。
       小学校が2018年度から、中学校は2019年度から導入される予定の特別教科「道徳」に関しては、昨年7月に中学校学習指導要領解説「特別の教科道徳編」を発表しました。この内容に基づいて、各教科書会社は2017年度末の教科書検定を目途に教科書策定の作業に入っています。解説は、道徳科の目標を「よりよく生きるための基盤となる道徳性を養う」として、内容は、節度と節制、思いやりと感謝、遵法精神と公徳心、と言った曖昧な内心に関わる22の項目からなっています。「働くことや社会に奉仕することの充実感を味わうとともに、その意義を理解し、公共のために役に立つことをすること」や「父母、祖父母を敬愛し」や「先生や学校の人々を敬愛し」とか「我が国や郷土の伝統と文化を大切にし、先人の努力を知り、国や郷土を愛する心をもつこと」など、国家主義的、封建的徳目が並びます。このような、きわめて個人的な内心の問題に踏み込んで子どもたちを評価する特別教科「道徳」は、憲法の理念に照らしきわめて問題です。戦争する国をめざす安倍政権の本質が、近代市民社会の本質である個人主義の排斥にあることが明らかになっています。日本国憲法の理念に反する、道徳の教科化を許すことはできません。
       今夏に予定される参議院議員選挙から、投票年齢が18歳に引き下げられることを念頭に、文部科学省は、10月29日に「高等学校における政治的教養と高等学校の生徒による政治的活動等について」を発出しました。通知は、政治的教養は「日本国憲法の下における議会制民主主義など民主主義を尊重し、推進しようとする国民を育成するに欠くことのできないもの」としながら、一方で高校生の学校内での政治活動の禁止や校外での活動にも制限を加えようとしています。文科省が作成した生徒指導関係者用の「高等学校等における政治的教養の教育と高等学校党の生徒による政治的活動等について」とするQ&Aにおいては、放課後や休日に校外で行う政治活動を届け出制にすることも「必要かつ合理的な範囲内で適切に判断」として認めています。学校現場においては「校外の集会参加は届け出制にする」との声もあがっています。そのことが、子どもの人権条約や憲法で規定される意見表明権、表現の自由や内心の自由に抵触することは明らかです。教員に対しても「個人的な主義主張を述べることは避け、公正かつ中立な立場で生徒を指導すること」とし、政治的教養の育成に対してきわめて抑制的な方向を示しています。学校教育が従うべき価値の基本は日本国憲法です。日本国憲法が理念とする平和主義、民主主義、基本的人権の尊重にしか、公教育が立つべきスタンスはありません。
       
  11. 相対的貧困の広がり(政治によってつくられる格差と貧困)
       安倍政権の経済政策「アベノミクス」は、異次元の金融緩和策をもって円安・株高の状況を演出しました。しかし、円安は原材料費の高騰となって中小企業を直撃し、消費税 増税の影響や将来への不安、4年連続した実質賃金の低下などから、消費は伸び悩んでいます。安倍政権は有効求人倍率が改善したとしていますが、その多くが平均年収169.7万円(男性:222.3万円、女性:147.5万円=国税庁2014年民間給与実態調査)の非正規雇用で、就労人口に対する非正規労働者の割合は4割を超えることとなっています。(正規雇用の平均年収は477.7万円)。
       2015年4~6月期の国内総生産は、物価変動を除く実質で前期比0.3%減、10~12月期の速報値もマイナス成長を示しています。安倍政権は、「一億総活躍社会」を標榜し、1.2020年までのGDP600兆円達成、2.出生率1.8%の達成、3.介護離職ゼロの、「新三本の矢」を掲げていますが、経済界からも疑問の声があがっています。
       2015年の防衛費の概算要求額は5兆円を超えて過去最高となっていますが、安倍政権は3年連続で生活保護基準の引き下げを行ってきました。日本の相対的貧困(2人世帯で年収177万円以下)は、率で16.3%、貧困とされる家庭の子どもは約325万人で、OECD参加国の中で下から4番目、子どもの6人に1人が相対的貧困とされています。特に母子家庭の平均年収は181万円で、1人親家庭の貧困率は6割近い数字となっています。
       安倍首相らが発起人となり、子どもの貧困対策として2015年10月に立ち上げた民間基金「子どもの未来応援基金」は、1か月を過ぎても企業などの大口寄付がなく300万円に留まっていると報道されました。貧困対策への政府の姿勢が曖昧であることなどが影響していると考えられます。
       安倍政権は、法人税減など大企業優遇の税制改革を実施するとともに、消費税増税や子ども手当、生活保護費の削減など社会的弱者の切り捨て政策を行ってきました。この間、物価上昇に賃上げが追いつかず実質賃金は減少し、所得の累進制度も緩和され再分配の機能は失われてきました。GDP世界第3位を誇る経済大国は、貧困層への現金給付、教育や保育などの公的サービスの決定的不足と、税制度による再分配機能の喪失などから、相対的貧困の進展に拍車をかけています。
       
  12. 捨てられる福島(原発事故は終わらない)
       福島第一原発事故から5年が経過しました。事故を起こした第一原発4基の周辺は依然として高い放射線量で、高台では毎時0.07mSv/h(600mSv/y)ですが、建屋周辺では350µsv/hもあります。このような中での作業は、わずか50日程度で政府が5年間で100mSvとした被ばく線量限度を超えてしまうものです。
       現在も、核燃料が溶融した原子炉を常に冷却しているため、大量の高濃度汚染水が発生し、貯水タンクは現在1700基(2016年1月)にも増大し、新たな設置に追われています。そのタンクで、水素ガスが発生しタンクから水があふれる事態が発生し、その対応にも追われています。この汚染水は、放射性セシウム1万Bq/ℓ、放射性ストロンチウム3000万Bq/ℓが含まれていると言われ、近づくだけで被ばくするものです。このままでは、汚染水だけでも早晩行き詰まることは確実です。7000人の作業員が事故の収束にあたっていますが、冷却に使用した汚染水対策、地下水の汚染対策、溶融燃料の確認と取り出しの技術確立など、全く先の見通しが立っていません。事故が発生した5年前の「緊急事態宣言」は解除されていません。
       このような中で、国は「自主避難者」への住宅の無償提供、商工業者への営業損害補償(2016年度末)、避難住民への精神的賠償(2018年度末)などを終了させようとしています。同時に、2017年度末までに居住制限区域と避難指示解除準備地域の避難指示を全て解除することを決定しています。しかし、飯舘村などは放射線量が未だに高く、健康不安も解消されません。
       避難指示が解除されている田村市都路地区東部は、住民340人のうち56.8%、川内村東部は2015年8月現在で14.2%の帰還率となっています。2015年9月5日に全村避難指示解除となった楢葉町で、政府は楢葉町を帰還政策のモデルにしようと、仮設商店街や電気、水道などインフラの復旧をいち早く進めたものの、町に戻ったのは421人(2016年1月4日現在)で、町民約7400人のうち5.7%にとどまっています。帰還する者は高齢者が多く、若い世代では、年月の経過の中で避難先で就労し、生活の基盤が完全に避難先に移っていることや、子どもの教育や健康への問題などから、帰還をためらう傾向にあります。国の強硬な帰還政策と補償などの打ち切りは、福島県民を切り捨て、原発事故をなかったことにしようとする「棄民政策」に他なりません。
       全町避難が続く浪江町の住民約15,000人が、2013年5月に起こした「裁判外紛争解決手続き」(ADR)で、原子力損害賠償紛争解決センターが、東京電力に賠償金増額の和解案を受け入れるよう勧告したのに対し、東電は再三にわたって受諾を拒否してきました。センターは、2015年12月に、東電の対応を「理解できない」と批判し、和解案の受諾を強く要請する勧告を行っています。しかし、東電は2016年2月5日、正式に和解案の受諾を拒否しました。和解案拒否は6回目となります。自ら事故を起こしながら、事故の責任を曖昧にして公的和解に応じない東電の姿勢は、許されるものではありません。
       武藤類子さんら福島原発事故の被災者が中心となった福島原発告訴団は、2012年6月に東電元幹部3人を「津波の規模を知りつつ恣意的に対策を取らなかった」として告訴・告発しました。東京地検は2度不起訴としましたが、東京第五検察審査会は、2015年7月31日、勝俣恒久元会長、武藤栄元副社長、武黒一郎元副社長の3人を2度目の「起訴相当」にしました。これにより3人は業務上過失致死傷罪で強制起訴されることになりました。東電幹部の責任は重大です。一方、同じく被災者らで構成する「『生業を返せ、地域を返せ!』福島原発訴訟原告団」は、国と東電に対して慰謝料などの請求を求める裁判を行っています。曖昧にされようとしている、事故の責任を明確にするために、裁判勝利に向けたとりくみが重要です。
       2015年11月30日に開催された福島県県民健康調査の検討委員会で、同年9月30日までに終えた本格検査によって16人が手術後に甲状腺ガンと診断され、先行検査を加えてこれまでに116人が甲状腺ガンと診断されたことが報告されています。福島県は「原発事故の影響とは考えにくい」との立場を取っていますが、専門家の間には、福島県での数値は明らかに多発しており、この状況はスクリーニング検査だけでは説明できないとする意見もあります。
       甲状腺ガンと原発事故の因果関係を云々する前に、原発事故が起こり放射性物質を吸引したことが事実であることを基本に、今、子どもたちの心に存在する健康不安に対して、将来にわたって国が責任を持って対処するとする立場に政府が積極的に立っていくことが大切です。そのことこそが、原子力政策を推進してきた政府の責任と言えます。
       
  13. 原発推進施策への回帰(再稼働を許すな)
       2013年9月の関西電力大飯原発の運転停止から約2年間続いた「原発ゼロ」は、2015年8月11日の九州電力・川内原発1号機(鹿児島県薩摩川内市)の再稼働で終了しました。川内原発は、福島原発事故後の新規制基準による再稼働第1号となりました。九電は、10月15日に川内原発の2号機も再稼働させています。さらに、今年1月29日には、関西電力が高浜原発3号機(福井県高浜町)を再稼働させました。高浜原発3号機は、MOX 燃料を使用するプルサーマルとして新規制基準の最初の稼働となります。
       福島原発事故以降、原発周囲30km圏内を「緊急時防護措置準備区域」(UPZ)として、国は地方自治体に対して避難計画の策定を義務づけました。にもかかわらず、原発の稼働に合意を求めるべき自治体からは外され、一旦事故があれば被害を被ることが予想されるにもかかわらず、原発事業には意見を挟むことができない状況にあります。少なくとも、原発の稼働には、UPZ圏内の自治体の合意が必要です。
       また、再稼働を実施した川内原発や高浜原発のUPZ圏内の自治体において、実効ある避難計画が策定されていることが原発再稼働の基本的条件といえますが、実際は、避難計画の実効性に対して大きな疑問が、あらゆる団体から寄せられている状況があります。泊や伊方等の半島にある原発は、船舶に頼るほかに避難手段のない地域を抱えています。また、避難の交通手段の確保、交通路の確保など困難を抱える課題は山積しています。政府・自治体、および電力会社も、一旦事故があった場合に避難した後の生活への対応に言及することはありません。実際に事故が想定されて避難計画が策定されているならば、避難した後の被災者の生活までも考えなくてはなりません。福島原発事故から5年、今の福島を考えると重要な視点と言えます。
       高浜原発3・4号機は、2015年4月14日に福井地方裁判所(樋口英明裁判長)によっての運転差し止めの仮処分命令が発令されていました。しかし、関西電力の訴えにより、同年12月24日には福井地裁(林潤裁判長)によって仮処分命令が取り消されました。取り消しの決定では、基準値振動を超える地震が起きる割合を「1万年~10万年に1回程度のきわめて低い数値」として、社会通念上無視しうる程度としています。運転差し止めを命じた仮処分命令において、「基準値振動」を「楽観的見通しに過ぎない」としていたものを、いとも簡単に覆す判断となっています。
       故郷を失い、生活を失い、先祖からの連綿とした営みと集落の文化を奪い、二度と再び再生することのない国土をつくり出す。そのことのリスクが、脱原発の世論となっているのです。社会通念がリスクを容認するというならば、日本社会の脱原発の声は何であるのか、そのことを問わなくてはなりません。社会通念が「社会一般で受け容れられている常識または見解、良識」と言うと、広辞苑に記載されたとおりの意味であるならば、社会通念が何を求めているかは明らかです。政府の政策におもねり「社会通念」を語る裁判所には、司法の独立といった矜恃は見られません。
       そのような中で、2016年3月9日、原発の立地自治体ではない滋賀県民が訴えた、高浜原発3・4号機の運転差し止め仮処分申請において、大津地裁(山本善彦裁判長)は、新規制基準においても、「過酷事故対策や緊急時の対応方法に危惧すべき点がある」として、住民の訴えを認めて運転差し止めを命じました。運転中の、また、立地自治体以外での運転差し止めを認めた大津地裁判決は画期的であり、また、これまでの脱原発運動と市民の思いをくみ取ったものとして高く評価されます。これにより、事故で停止中の高浜4号機に続いて、3号機も運転を停止しました。関西電力は不服申立を行うとともに、勝訴の場合は訴えた住民に対して「損害賠償請求」の訴えを起こすと表明しています。このような恐喝とも言える関西電力の住民に対する姿勢を絶対に許してはなりません。
       川内原発の蒸気発生器は三菱重工製を使用していますが、三菱重工の蒸気発生器は、米国カリフォルニア州のサンオノフレ原発3号機において、異常摩耗による配管からの放射性物質を含む水漏れ事故を起こしています。この事故により、周辺住民の反対が激化しサンオノフレ原発は廃炉を余儀なくされました。九州電力は、この蒸気発生器を2014年度に交換するとしていましたが、「新規制基準適合への作業などがあり、ひとまず交換せずに再稼働をめざすことにした。現行の蒸気発生器は非破壊検査をして健全性を確認している」として交換作業を実施しませんでした。一方で、九州電力は、川内原発の再稼働後に、事故が起きた際に対策所を置くとしていた免震重要棟の新設計画を、費用面も含めた総合的な判断として撤回するとしました。免震重要棟は、強い震動にも耐えるもので、自家発電や通信設備、休憩施設や被爆対策も施され、現在ほとんどの原発サイトに設置が進んでいます。福島第一原発事故においては、事故の対応拠点としてきわめて重要な役割を担いました。安全対策上交換する予定を後回しにしたり、再稼働を果たした矢先に安全対策上きわめて重要な施設の設置を反故にする九電の姿勢は、市民社会を愚弄するものです。免震重要棟は新規制基準では義務づけられていません。しかし、規制委員会がこれを認めることとなれば安全性の軽視につながり、福島原発事故以前の「安全神話」の復活を許すものになるに違いありません。
       これまで、全国の原発の半数以上にあたる16原発26基で、再稼働の前提となる審査が申請されています。そのうち加圧水型(PWR)8原発16基のうち再稼働を行った川内原発1・2号機、高浜原発3・4号機、伊方原発3号機が検査を合格しています。事故を起こした福島第一原発と同じ沸騰水型(BWR)では、8原発10基が申請していますが、基準値振動などの問題で審査が遅れています。稼働期間40年を超える高浜原発1・2号機やサイト内に活断層が存在する敦賀原発2号機も審査の申請がなされています。原発の再稼働が進めば進むほど、過酷事故のリスクは高まります。安倍政権の、原発推進のエネルギー政策を変えていかなくてはなりません。
       2016年4月から電力の自由化が始まり、多くの業者が電力事業への参加を表明し、様々なサービスを掲げて顧客の争奪を繰り広げています。しかし、その電力がどのような発電方法にどれだけ由来するのかの表示は義務づけられておらず、消費者に対して原子力への依存度を明確にするものとなっていません。また、発送電分離が実現せず、再生可能エネルギーは接続を拒否されかねない状況です。福島原発事故以降、多くの組織・団体が、そして政党の多くが「脱原発」や「原発に依存しない社会をめざす」としました。そのための再生可能エネルギーであるはずのものが、政府の政策は、再生可能エネルギーを抑制する方向にあります。経済効率と既存の権益を優先したエネルギー政策に豊かな未来が創造できるのか、もう一度福島の現状を見つめ直さなくてはなりません。
       原水禁は、2015年4月末のNPT再検討会議への参加に際して、ニューメキシコ州アルバカーキーを訪ね、ウラン鉱山からでた放射性物質の汚染に苦しむナバホ・ネーションやアコマ・プエブロなど、ネイティブ・アメリカンの人々との交流・意見交換を行いました。彼らが聖なる山と崇めるテーラー・マウンテン周辺に放置される、鉱山跡・精錬所跡を視察しました。「企業は突然やってきて、突然引き上げた。残ったのは放射能汚染と健康被害だけ」と現地の人々は言います。放置されている鉱滓の山を見せられながら、原発のエネルギーが差別と搾取の中にあり、ウラン鉱山という原子力発電の始めから高レベル廃棄物の最終処分場という、その最後まで、放射能との闘いであることを再度認識させられました。
       2015年11月25日、日本を訪れたナバホ・ネーションのギルバート・ペトゥーチさんは、テーラー・マウンテン山麓のロカ・ホンダ鉱山の開発に着手しようとしている住友商事に対して、そのことがきわめて重大な環境汚染や健康被害をもたらすとして開発計画の撤回を申し入れました。
       原水禁運動は、日本の経済発展を支える原発のエネルギーが、そのような少数民族への差別と搾取から成り立っていることに着目し、1970年代から原子力の平和利用に反対してきました。福島原発事故があって、また、原発の再稼働に動きだした今こそ、「核と人類は共存できない」「核絶対否定」の方針を確認しなくてはなりません。
       
  14. 破綻する核燃料サイクル計画(勇気ある撤退を実現せよ)
       福島原発事故を起こした後も、国の原子力政策の基本にあるのは、ウラニウムの9割以上を占める自ら核分裂を起こさないウラン238を、高速増殖炉で中性子をぶつけることでプルトニウムに変えて莫大なエネルギー源を得ようとする「核燃料サイクル計画」にあります。しかし、そのサイクルを支える福井県敦賀市にある高速増殖原型炉「もんじゅ」と、使用済み核燃料からプルトニウムを引き出すことを目的とする青森県六ヶ所村にある再処理工場のどちらの計画も、破綻したと言わざる得ない状況にあります。
       原子力規制委員会は、2015年11月13日、度重なる点検の不備などトラブル続きの「もんじゅ」について、計画の運営主体である日本原子力研究開発機構に「適格性に重大な懸念がある」として、これに代わる新たな実施主体を示すよう事業を監督する馳浩文部科学大臣に勧告しました。勧告を受けた文科省は、有識者会議を2016年1月28日に開催しました。今後、問題点の洗い出しを進めるとしていますが、新たな運営主体を見いだす可能性は小さいとみられています。座長の有馬朗人元文相は、冒頭で「困難な課題だが、高速炉の研究開発は核燃料サイクルの重要なとりくみだ」と述べ、もんじゅの廃炉については「全くゼロとは言わないが、小さな可能性。活用できるものは活用したい」と述べ、全く見込みが見えない事業の継続を示唆しています。
       1995年のナトリウム漏洩事故から15年運転を停止していたもんじゅは、2010年5月の試運転再開時もトラブルが頻発し、試運転終了後の2010年8月末には、重さ3.3トンの炉内中継装置を原子炉容器内に落下させるトラブルを引き起こし、引き上げたものの炉内への影響が明らかにならず、運転停止状態が続いています。「もんじゅ」の維持費用は、一日4500万円とも5500万円とも言われ、1989年から2015年までの運転・維持費は4399億円にのぼっています。建設費も入れ込んだ総額では1兆円を優に超えています。これだけの資金を投入してなお運転再開もままならない状況については、きちんとした市民への説明が必要です。研究事業を監督する文科省は、高速増殖炉計画からの勇気ある撤退を実現しなくてはなりません。
       2015年11月16日、日本原燃は核燃料再処理工場(2016年3月完成予定)とMOX燃料工場(2017年10月完成予定)の完成時期を、再処理工場は2018年度上期、MOX工場を2019年度上期に、それぞれ延期をすることを発表しました。再処理工場の延期は23回目となります。延期に伴う工事費の増加は未定としていますが、再処理工場は、相次ぐ工事延期により、当初見込みで7600億円だった建設費は2兆2000億円に膨らんでいます。
       政府は、2016年2月2日、使用済み核燃料再処理事業の実施主体を日本原燃から新設される「使用済み燃料再処理機構」(再処理機構)に移転し、再処理にかかる費用をこれまでの電力会社の基金から、再処理機構が法的に義務づけられた拠出金を徴収する方法に改める「原子力発電における使用済燃料の再処理等のための積立金の積立て及び管理に関する法律の一部を改正する法律案」(再処理等拠出金法案)を閣議決定しました。自民党議員からは「ガバナンスも強化され、制度の質を高めている」と前向きな評価の声が上がっているとされていますが、度重なる完成予定の延期にともなう費用の高騰をまかない、電力自由化後の安定的事業実施を狙ったものです。
       再処理によるプルトニウムを日本は国内外に48トンも抱えていますが、原発停止が長期化する中、その利用が滞っています。使用済み核燃料を再処理したMOX燃料を使うプルサーマルは、2009年以降、九電・玄海原発3号機(佐賀県)と四電・伊方原発3号機(愛媛県)、東電・福島第1原発3号機(福島県)、関電・高浜原発3号機(福井県)で実施されてきましたが、現在再稼働した高浜原発3号機のみとなっています。
       再処理工場が完工できない中で、九電が使用済み核燃料を「乾式貯蔵」で保管する施設の建設を検討していることが明らかになりました。現在、原発から出る使用済み核燃料は全量再処理を行い、高レベル放射性廃棄物はガラス固化体として国内に予定する最終処分場で、地下深く深層処分することとなっています。最終処分場の選定は国が行うとしていますが、これまでのところ場所の決定に至っていません。朝日新聞の調査によると、19都道府県においてすでに処分場の立地を拒否する態度を固めています。世界各国でも、最終処分場の選定には困難を極めており、原発サイト内での「乾式貯蔵」による保管が現在のところ最良の選択肢となっています。しかし、基本的にはこれ以上の放射性廃棄物処分は困難であり、原発依存からの早期の脱却が不可避となっています。
       
  15. 核兵器廃絶へ(被爆国日本が先頭に立て)
       2015年の核不拡散防止条約(NPT)再検討会議は、中東の非核化会議に反対する米国などの姿勢、また、核兵器の非人道性を踏まえ核兵器禁止条約に踏み込む非核保有国と禁止条約は非現実的とする核保有国との対立などによって、合意文書の採択に至らず残念な結果に終わりました。しかし、非核保有国を中心に「核兵器は非人道的兵器であり、その保有も使用も禁止すべきである」とした考え方が広がり、国連総会軍縮委員会では2013年に次いで2014年にも、核兵器の非人道性と不使用を訴える共同声明に、加盟155か国が賛同し国連加盟国(193か国)の8割に達していました。
       非人道性に関する国際会議も、ノルウェー、メキシコ、オーストリアとこれまで3度開催されてきました。ヒロシマ・ナガサキのヒバクシャの訴えが広がっています。合意に至らなかった2015年の再検討会議をもってNPTの限界を報じられていますが、この枠組みが国際的議論の重要な場であることは変わりありません。中東紛争やウクライナ問題、北朝鮮の核実験、インドとの原子力協力協定、チェルノブイリや福島での原発事故に見られたように、NPTの基本的な考え方である「核兵器廃絶」・「核不拡散」と「核の平和利用」が両立することなく複雑に影響しながら核拡散の状況を作り出してきました。NPTの基本的姿勢を問う新たな議論が必要です。
       日本政府は、今年2月に設置される「核軍縮に関する国連公開作業部会」への参加を決定しました。作業部会の設置は非核保有国の強い要請により、昨年10月の国連総会で決定されたものですが、核兵器の禁止への法的枠組みの構築を警戒する米ロが反対表明し、日本も採決は棄権していました。議題は、NPT再検討会議でも困難を極めた「核兵器のない世界のための法的措置の議論」とされています。岸田外務大臣は「核兵器のない世界をめざすために国際社会をリードする」と宣言していますが、日本政府自体が、米国の「核の傘」に頼り「安全保障政策上、核抑止力が必要」との立場に立つ以上、核兵器禁止条約への明確な姿勢を示すことは困難です。米国の核の傘の下を脱して、唯一の戦争被爆国として、強いイニシアチブを発揮することが求められます。
       イランの核開発問題をめぐって2015年7月14日、米欧など6カ国とイランは、問題解決のための「包括的共同行動計画」で最終合意に達しました。 2016年1月17日、関係7か国は、国際原子力機関(IAEA)の確認を踏まえ、イラン核開発問題をめぐる最終合意の履行を宣言し、イランへの経済制裁解除への手続に入りました。イランの核兵器開発を、国際的枠組みの外交交渉の中で阻止し得たことは、核不拡散の視点から歴史的解決であると言えます。イランの国際社会への復帰を歓迎するとともに、イスラエルとの確執やサウジアラビアとの対立など、中東問題を複雑化する課題への対応も求められます。
       2015年12月12日、NPTに加盟せず核兵器を保有しているインドと日本が、原子力協定の締結で原則合意に達したことが明らかになりました。NPT非加盟国との協力協定は初めてのものです。日本の原発輸出のためには、NPTの空洞化をも容認するとすることは、核兵器廃絶への日本政府の姿勢が問われるものであることは間違いがありません。日本政府は、「核実験を行うなら協力は停止する」との了解を取ったとしていますが、公表された共同声明などには明確な記載がなく、技術の提供に後戻りがないことや軍事転用可能な使用済み核燃料の再処理の余地も残しているなど、きわめて問題の多いものとなっています。広島市長や長崎市長が、「遺憾」を表明するなど、平和団体などからも強い批判の声があがっています。
       一方、米国の原子力産業大手のGEと合弁会社を持つ日立製作所は、「海外展開を進める上で、二国間協定はその基盤になる。安定した電力インフラの構築のきっかけとなることを期待している」と歓迎の意を表明しています。しかし、ベトナムとの間で合意された原発の受注は事業が途中で停止しており、今後65基を新設するというインドの計画も多くが稼働時期さえ明確ではありません。また、世界最悪の産業事故とされる、ユニオンカーバイド社(米国)のインド・ボパール化学工場事故以来、インド政府は事故の賠償責任をメーカーに負わせる法制度を持っています。もし福島原発事故がインドで起こったなら、その賠償を日本社会が背負うこととなります。一時の利益のための無責任な政府・企業の判断は許されません。
       2015年10月20日の国連軍縮委員会において演説した中国の傅聡軍縮大使は「日本は核兵器を保有しかねない。日本の原発再稼働と使用済み核燃料再処理工場計画は、事態を悪化させる。日本には核武装論がある」と主張しました。この背景には、核兵器を保有しないNPT加盟国の中で唯一使用済み核燃料の再処理を行い、国内外に48トンもの使用目的が明らかでないプルトニウム(軍事転用可能な原子爆弾原料)を保有する日本の核燃料サイクル計画があります。IAEAの査察の下にあるとは言え、周辺諸国からはその脅威が指摘され、核セキュリティー・サミットなどでも「これ以上分離プルトニウムを増やすべきではない」との判断が示されています。核兵器と戦争の廃絶をめざす科学者らの国際組織「パグウォッシュ会議」も、昨年11月に長崎で世界大会を開催し、再処理を中止するよう各国政府に求める声明をまとめています。どちらも世界各地で紛争やテロが頻発する中、分離プルトニウムが核兵器に転用されることを防がなくてはならないとする考えに基づいています。
       北朝鮮の度重なる核実験の脅威の下にある韓国では、国内原発の使用済み核燃料再処理の要求が強まっています。米中ロの核保有国に挟まれる形で、北朝鮮が核を保有し、韓国と日本が核保有の可能性を高め、互いにその脅威に怯えるという矛盾した状況に陥りつつあります。日本がプルトニウム政策の放棄を明らかにし、核兵器を持たない日本と韓国が、米国と北朝鮮の間に立って、東アジアにおける非核地帯構築への議論を展開すべきです。
       
  16. 根拠ない14兆円(TPP批准を許さない)
       2015年10月5日、延長を重ねて議論を続けてきた「環太平洋経済連携協定」(TPP)は、参加12か国の間で大筋で合意するに至りました。交渉開始から5年半を、日本が交渉参加してから2年2か月の月日を要したのは、TPPの交渉分野が、単に農林水産物や工業製品のみならず、医療やサービス、知的財産、電子商取引や政府調達、またそれらに関わる幅広い貿易ルールなど多岐に及んでいること、また参加12か国の国内事情がそれぞれ複雑に絡んでいることなどが上げられます。
       TPPの交渉過程は明らかにされておらず、TPP調印後4年の長きにわたり、交渉過程を秘密とするとされています。国民生活に直結するTPPの秘密交渉はきわめて問題です。
       日本政府が重要5品目としてあげた、米、麦、牛・豚肉、牛乳・乳製品、甘味資源作物(サトウキビなど砂糖の原料)の5品目は、全面的な完全撤廃とはなりませんでしたが、関税率の大幅削減や輸入枠の拡大を受け入れざる得ない結果となっています。甘利明TPP担当大臣(当時)は、「今後、農林水産業は競争強化を通じて、農家の懸念や不安を払拭していく」と記者会見で強調していますが、農業関係者からは、「輸入枠拡大で価格の下落は避けられない」「農業を成長産業にしていくなどは嘘っぱちだ」との声が聞かれます。甘利元大臣の主張する「競争強化」の具体策は全く見えてきません。関税撤廃で利益を得るとされる自動車産業など輸出産業においても、すでに多くが現地生産に切り替わっており、経済効果は限定的と言わざるを得ません。
       安倍首相は、2016年1月22日、第190回国会における所信表明演説で「TPPの誕生は、我が国のGDPを14兆円押し上げ、80万人もの新しい雇用を生み出します。一方で、『TPPによって農業を続けることができなくなるのではないか』と、多くの農家の皆さんが不安を抱いておられます。美しい田園風景、伝統ある故郷、助け合いの農村文化。日本が誇るこうした国柄をしっかりと守っていく。安倍内閣の決意は、決して揺らぐことはありません」と述べています。GDP14兆円、80万人の雇用創出を主張するも、その根拠や時期には言及せず、単なる希望的憶測ともとれる内容です。また、日本が誇る国柄を守るとする言葉も、いかに実のないものであるかは、高度経済成長政策の中で、美しい田園風景が失われ、「猫の目農政」と言われた将来展望を持たない農業政策によって、日本の農業が疲弊してきた事実から明らかです。
       14兆円という不確実な数字と引き替えに、農林水産業の従事者への再生不可能な打撃と、日本社会の混乱を引き起こすことは絶対に避けなくてはなりません。今国会でのTPP協定の批准に反対します。
       
  17. 立憲フォーラムと立憲ネット(総がかりの闘いを民主リベラル勢力を基軸に)
       「戦争法」が強行採決された中にあって、安倍政権は今夏の参議院議員選挙において改憲勢力の過半数をめざし、自民党の悲願とされてきた「憲法9条改正」へ踏み込もうとしています。「日本会議」も前面に立って改憲運動を開始し、安倍政権は憲法改正や政権そのものに批判的なマスコミへの圧力を強めています。平和フォーラムは、多くの組織に先立って「戦争をさせない1000人委員会」を立ち上げ、2015年の5月3日には「平和といのちと人権を!5.3憲法集会」(横浜市臨港パーク:3万人)を成功させ、「戦争法」反対の運動の先頭に立ってきました。5.3憲法集会では、民主党、社民党、共産党、生活の党の4野党が結集し、「戦争法」反対の大きな枠組みの形成を確認しました。運動は「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動」に結実し、学者や学生組織など広範な市民運動を後押ししてきました。参議院選挙勝利に向け、野党一致して安倍政権に立ち向かうとりくみをすすめる「市民連合」も、その運動の延長に存在しています。
       市民連合は、1.安全保障関連法の廃止、2.立憲主義の回復、3.個人の尊厳を擁護する政治の実現を基本的方針として、格差・貧困の是正、辺野古新基地建設反対、脱原発など具体的課題を提示して、野党統一候補の擁立めざしてとりくみをすすめています。参議院熊本選挙区、新潟選挙区、宮城選挙区など10を越える選挙区で統一へ向けた動きが本格化しています。また、参議院議員選挙の前哨戦と位置づけられる北海道5区の衆議院議員補欠選挙においても、野党は統一した闘い実現しています。戦後民主主義の存続をかけた参議院選挙で、安倍政権の存続を許さない闘いを構築しなくてはなりません。
       平和フォーラムが協力してきた、民主党リベラル派を中心とした超党派の議員組織「立憲フォーラム」は、総がかり行動の議員会館前木曜日行動に呼応し「戦争をさせない1000人委員会」と連携して「院内集会」を連続して開催するとともに、国会包囲行動では、市民の政治活動の正当な権利行使を求めて、過剰警備に対する監視行動も実施してきました。民主党内での「戦争法」反対の党内結集にも力を振るい、「戦争法」反対への民主党も含めた政治的結集軸の形成に大きな役割を担ってきました。改憲阻止に向けて「立憲フォーラム」を軸にした政治結集をはかる必要があります。
       国会議員組織である「立憲フォーラム」の主張ととりくみに呼応して、民主リベラル勢力として広範な地方議員の集まりである「自治体議員立憲ネットワーク」が立ち上がりました。2016年2月1日現在、地方議員514人、サポーター173人が参加しています。地方議員と国会議員のつながりの中で、改憲勢力への対抗軸としての役割が期待されます。
       平和フォーラムは、「戦争をさせない1000人委員会」の運動を基軸に、立憲フォーラム、自治体議員立憲ネットワークとともに協力し、「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」に結集する広範な市民と共に、戦争法廃止・憲法改正阻止へ向けて全力でとりくみます。
       

(2)   今年度の重点的とりくみ

   日銀の「異次元的金融緩和」を基本にしたアベノミクスは、株高と円安やインフレを招き、非正規雇用が中心となりつつある日本の経済的弱者の生活を直撃しました。有効な手立てを欠いた日本銀行は、かつて例のない「マイナス金利」の導入を決断しましたが、株価の急落と円高を招き、アベノミクスの破綻を招いています。
   原発推進、辺野古への米軍基地建設の強行、社会保障の切り捨てと防衛費の増額、大企業優先の税制改革、そして集団的自衛権行使容認と戦争法の成立、憲法改悪と、安倍政権は市民社会の声に耳を傾けることなく、憲法解釈を含めてこれまでの法体系を全く無視し、日本会議の主張を踏まえた、日本の将来を展望することなき政治を展開しています。
   今夏の参議院選挙において、憲法発議に必要な3分の2の議席数を確保し、いよいよ「憲法の条文改悪」へ踏み出そうとしています。その先に見えるのは、一人ひとりの命をないがしろにする「戦争する国」です。日本社会は、現在、戦後最大の憲法の危機、平和と民主主義の危機に直面しています。安倍政権との闘いは、参議院議員選挙を中心に大きな山場を迎えつつあります。
   安倍政権の支持率は50%を超えていますが、支持する多くが「他に適当な人がいないから」と回答し、安倍政権の政策を支持するものとなっていません。政策は「一億総活躍社会」とか「女性が輝く日本」とか耳あたりのよい言葉が並びますが、実体の伴ったものではありません。賃上げと言いながら4年連続実質賃金が低下し、雇用の拡大と言いながら、そのほとんどが非正規雇用であるなど、個別政策の多くは安倍首相の主張と現実が乖離することとなっています。そのことを反映して、個別の政策においては反対の声が大きいものとなっています。安倍政権への支持率は脆弱なものといえます。
   平和フォーラムは、この状況下において、安倍政権との対抗軸を明確にし、これまで平和と人権、脱原発や環境の分野で活躍してきた、団体・市民そして労働団体、民主リベラルの政治勢力などが総がかりの闘いを構築していくならば、安倍政権の政策転換・退陣を勝ち取ることは可能であると主張してきました。私たちは、今それぞれの「本気度」が、運動の中で問われています。そのことを基本に、憲法改悪阻止、戦争法廃止に、総がかりのとりくみを大胆にすすめていくことを提起します。

  1. 戦争をさせない1000人委員会のとりくみを中心に
       「戦争法案」廃案の闘いで構築した市民の共闘の力を大切に、「戦争をさせない1000人委員会」の運動を中心に据えて、憲法の改悪阻止・戦争法廃止に向けて、平和フォーラムの組織の総力を挙げてとりくみます。
       民主リベラル勢力の結集である「立憲フォーラム」議員団を基軸に、安倍政権に対抗する全野党の協力によるとりくみをめざします。
       「明日を決めるのは私たち-平和といのちと人権を!5.3憲法集会」(2016年5月3日、有明防災公園)、「憲法理念の実現をめざす第53回大会」(11月12日~14日、富山市内)の成功に向けてとりくみます。
       
  2. 地域社会・職場からの平和運動の構築を
       「戦争をさせない1000人委員会」の運動を強化し、「戦争法の廃止を求める統一署名」のとりくみや、情宣活動を通じて地域社会・職場への浸透を図ります。平和フォーラムに結集する地方運動組織を中心に「戦争をさせない1000人委員会」の地方バージョンの展開を追求し、組織強化をめざします。
       
  3. 「オール沖縄」の運動に連帯し、普天間基地撤去・辺野古新基地建設阻止へ
       宜野湾市長選挙は残念な結果に終わりましたが、そのことが辺野古新基地建設容認につながるものではありません。安倍政権は、宜野湾市長選挙や6月に予定される沖縄県議会議員選挙など地方選挙の結果について、国政レベルで判断した辺野古新基地建設には影響しないとしてきました。しかし、参議院議員選挙においては全国比例に沖縄県出身者を配置し、沖縄県選挙区候補者とともに普天間基地の撤去には辺野古新基地建設の選択肢しかないとの主張を前面に掲げ、選挙戦を展開することが予想されます。名護市長選挙、那覇市長選挙、そして辺野古新基地建設に反対する翁長知事の当選、加えて新基地建設反対の国会議員4名の全員当選を果たした衆議院総選挙、何度も繰り返し示されてきた「オール沖縄」の意志を、今夏再び圧倒的勝利で示す必要があります。沖縄への基地負担の押しつけ、沖縄差別、民主主義破壊などに対する沖縄の怒りを胸に刻み、「沖縄県平和運動センター」「島ぐるみ会議」「基地の県内移設に反対する県民会議」などと連携して、辺野古新基地建設工事の中止、普天間基地の即時返還を求めて、全国連帯のとりくみをすすめます。
       佐賀空港に自衛隊の購入機が、米空軍横田基地には空軍仕様のCV-22が、加えて自衛隊木更津駐屯地に定期点検拠点がつくられようとしているオスプレイ配備計画には、配備計画の撤回を求めてとりくみます。
       
  4. 脱原発で社会変革の実現
       九州電力川内原発1・2号機、関西電力高浜原発3号機が再稼働しました。四国電力伊方原発の再稼働も迫っています。安倍政権は、福島原発事故の現状を隠蔽し、「原子力村」の復活と原子力政策の推進をもくろんでいます。再稼働反対、脱原発社会をめざす市民と連帯し「さようなら原発1000万人アクション」の運動を中心に、日本の市民社会を糾合する運動の展開をめざします。
       原発から30kmのUPZ圏内自治体の住民との連帯の形成をめざし、原子力資料情報室などと連携したとりくみをすすめます。
       
  5. 福島の原発事故被災者の補償確立を
       安倍政権は、福島原発被災者の補償を打ち切り、住宅周辺のみの除染で、いまだ放射性物質の広がる被災地への住民の帰還を強行に推し進めています。健康不安やインフラの未整備など多くの問題を抱え、若者を中心に、新たな地での新たな生活も広がりつつあり、帰還する者は、老人を中心としたごく一部の者に限られる現状があります。平和フォーラム・原水禁は、「福島プロジェクト」の議論を軸に、被災者の合意形成を基本にして、被災者の求める生活基盤の復興にとりくんでいきます。
        政府の責任ある補償を基本にして、子どもたちを中心とした健康問題へのとりくみをすすめます。
       
  6. 日本を核兵器廃絶の先頭へ
       朝鮮民主主義人民共和国の核実験は、東北アジアの平和の脅威となっています。しかし、日本は米国の核の傘に依存すると共に、原発推進政策の中で使用済み核燃料の再処理を行い、核爆弾6000発分とも考えられるプルトニウム48トンも保有しています。破綻している核燃料サイクル計画も含め、高速増殖炉もんじゅ、六ヶ所再処理工場の問題を明らかにし、プルトニウム利用政策の断念と、そのことを基本にした東アジア非核地帯構想への理解形成への努力をすすめます。
       そのために、原子力資料情報室の協力を得ながら、2016年5月を目途に高速増殖炉もんじゅの計画断念を求める提言の作成のための議論をすすめます。
       連合・KAKKINに対しては、日本の核廃絶運動がどうあるべきかの議論も含め、連携した核廃絶の運動の展開を求めます。
       「高校生平和大使」のとりくみに対する支援を継続して行います。
       
  7. 日韓の運動の連帯強化と朝鮮民主主義人民共和国との国交正常化を
       朝鮮民主主義人民共和国との国交正常化を求め「日朝国交正常化連絡会」との連携を強めるとともに、日韓の運動の連帯を基本に、「東アジア市民連帯」の運動を強化し、東アジアにおける日米韓の軍事的同盟の強化に反対するとりくみをすすめます。
       
  8. 朝鮮高校への高校就学支援金制度の適用を求めます
       国連社会権規約委員会や人種差別撤廃委員会の勧告でも、明確に差別とされる朝鮮高校への高校修学支援金不適用を許さず、「朝鮮学園を支援する全国ネットワーク」をとりくみの中心にすえて、韓国の運動団体などとの連帯も含め、裁判支援を中心にとりくみをすすめます。
       裁判結果に基づいて、その履行を求めるなど大衆運動の展開をはかります。
       
  9. アジアの地域統合と日本社会を破壊するTPPに反対
       日本の社会的資本と市民生活に大きな打撃を与え、アジアの地域統合を米国の利益の視点から拒もうとする環太平洋経済連携協定(TPP)には反対の立場で、広範な組織と連携してとりくみます。
       
  10. 立憲フォーラム、自治体議員立憲ネットワークとの連携の深化
       「戦争をさせない1000人委員会」の運動を基本にして、戦争法廃止や憲法改悪阻止などのとりくみに関して、民主リベラル勢力の結集である「立憲フォーラム」や「自治体議員立憲ネットワーク」との連携を深化し、院内外でのとりくみを強化します。そのとりくみを通じて、「立憲フォーラム」の強化に全力を挙げます。また、労働団体の最大のナショナルセンター「連合」での戦争法廃止や憲法改悪に関する議論を注視し、連携のとりくみを追求します。
       

2.   平和・人権・民主主義の憲法理念の実現をめざすとりくみ

(1)   改憲の動きに抗し、憲法理念を実現するとりくみ

   日本国憲法は、前文で「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないようにすることを決意」し、第9条で「戦争の放棄、戦力の不保持、交戦権の否認」を、第3章「基本的人権」や第10章「最高法規」で「基本的人権の本質、普遍性、永久不可侵性」を定めています。平和フォーラムの基本的立場は、これらに示された憲法理念の擁護と実現をめざすとともに、人権や民主主義の国際的な確立にむけた世界の到達点に立って、さらに発展させることです。その立場から、私たちはこの間、東北アジアの平和に向けたとりくみや、人々の生命の尊厳や生活を最重視する「人間の安全保障」の具体化をめざしてきました。
   しかし、自民党・安倍政権は、2012年12月の政権交代以来、この憲法理念を踏みにじり、ないがしろにしてきました。基本的人権を否定する自民党改憲草案の公表、改憲発議を3分の2から過半数に引き下げる96条改「正」の策動、「知る権利」「報道の自由」を侵害する特定秘密保護法の強行採決、「防衛装備移転三原則」閣議決定(武器輸出の実質的解禁)や、「集団的自衛権」行使容認の閣議決定、そして2015年の「戦争法」(平和安全保障関連法)強行採決と、着々と憲法破壊の攻撃をすすめてきました。
   安倍政権は暴走の度合いをいっそう強めています。沖縄・辺野古への基地建設、歴史認識の改ざん、貧困と格差の拡大、原発再稼働、そして憲法破壊策動へと突き進んでいます。「戦後レジームからの脱却」を掲げつつ、戦争国家への道へと踏み込んでいる以上、私たちはこれに真正面から対決し、安倍政権の退陣と政策転換を実現しなくてはなりません。
   今年7月の参議院選挙では、改憲勢力の「3分の2確保」を何としても阻止する必要があります。安倍首相はすでに「緊急事態条項」追加などを口実にしながら憲法の明文改憲にふたたび言及しています。絶対に許してはなりません。2016年上半期を正念場として、全力で闘いをすすめます。
   平和フォーラムは「戦争をさせない1000人委員会」運動を全力で支えながら、「集団的自衛権」の行使容認の閣議決定阻止(・撤回)、そして「戦争法(案)」廃案(・廃止)のたたかいにとりくんできました。連日の集会・デモを全国各地で開催するとともに、昨年に続きとりくんだ「戦争をさせない全国署名」では合計230万筆以上(追加提出分含む)集めるなど、大きく運動を拡げてきました。とりわけ、「戦争法案廃案!安倍政権退陣!8.30国会10万人・全国100万人大行動」は、人波が国会周辺にとどまらず、霞ヶ関・日比谷一帯に約12万人が結集する歴史的な行動となりました。
   政府・与党は議会運営のルールに悖る強行に強行を重ねるやり方で「戦争法案」審議をすすめ、9月19日の「戦争法」成立、そして今年3月29日の施行に至りました。しかし一方で、私たちの奮闘のなかで、憲法破壊・人権破壊・生活破壊をすすめる安倍政権と対決する多くの人びととの共同が、大きなかたちでつくりだされています。
   そのひとつが「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」です。また、沖縄・辺野古新基地建設に反対するたたかい、あるいは原発再稼働に反対し脱原発を求めるたたかいが大きなうねりとなってあらわれています。この背景には「戦争をさせない1000人委員会」そして平和フォーラムがこうした共同を支えてきた経過があります。
   昨年、安倍政権による憲法破壊策動がすすむなか開催された「平和といのちと人権を!5.3憲法集会~戦争・原発・貧困・差別を許さない~」(2015年5月3日、横浜・臨港パーク)には3万数千人が参加し、以降の戦争法案廃案を求めるたたかいに大きな弾みをつけることになりました。今年についても5月3日の憲法集会を「明日を決めるのは私たち-平和といのちと人権を!5.3憲法集会」(有明防災公園)として、再度大きな共同の枠組みでの集会として開催します。また、「止めよう!辺野古新基地建設2.21国会大包囲」(2016年2月21日、国会周辺)や「原発のない未来へ!3.26全国大集会」(3月26日、代々木公園)などにもとりくんできました。さまざまな課題を横断した市民の連携をつくりだすうえで、私たち平和フォーラムが果たすべき役割がいっそう重要になってきています。
   「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」を中心とした大きな枠組みのもと、「戦争法の廃止を求める統一署名」が昨年11月よりスタートしています。「戦争法である『平和安全保障関連法』のすみやかな廃止」を求めるとともに、「立憲主義の原則を堅持し、憲法9条を守り、いかすこと」を求める内容であり、2016年上半期の軸となるとりくみです。平和フォーラムはこの統一署名に総力を挙げてとりくみます。
   この「戦争法の廃止を求める統一署名」にとりくむ共同を基礎として発足した「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」の推進する野党共闘の実現をめざします。また、法曹・学者・市民によって全国各地での「安保法制違憲訴訟」が、4月中の提訴に向け、準備されています。こうしたあらゆるかたちで政府・与党の横暴と対決するとりくみをすすめます。
   全国での「戦争をさせない1000人委員会」の立ち上げは、各都道府県レベルでの結成を実現することが出来ました。さらに地域における運動拡大、市民運動との連携をつくりだし、安倍政権と対決しうる全国的ネットワーク形成をはかっていきます。
   改憲情勢に抗し発足した超党派の議員連盟「立憲フォーラム」(代表・近藤昭一衆議院議員)は「戦争をさせない1000人委員会」に連携しながら、戦争法案をめぐる攻防においても積極的にとりくみをすすめ、採決阻止のための野党の協力関係を牽引してきました。平和フォーラムもこれらの動きと連動しながら、国会での攻防も含め、大きな動きをつくりだしていきます。
   「国民主権」や基本的人権に対する破壊攻撃と言うべき「特定秘密保護法案」は単に「知る権利」の抑圧に止まらず、戦前の治安維持法下の物言えぬ社会への回帰をもたらしかねないものです。平和フォーラムは多くの労働者・市民と共同し廃止に向けたとりくみをすすめていきます。さらに安倍政権は再度の「共謀罪」新設を画策するなどしていることから、廃案を求める多くの市民の動きを今後のとりくみへと繋げていく必要があります。
   2016年は、7月の参議院選挙をひとつの正念場として、憲法破壊・人権破壊・生活破壊に徹底的に対決し、戦争国家への道へと突撃する安倍政権の暴走を阻止する大きな運動をつくりだすことが求められています。

(2)   「憲法理念の実現をめざす大会(護憲大会)」について

   2015年11月14日から3日間の日程で、「不戦と民主主義-戦後の誓いを忘れない 意法理念の実現をめざす第52回大会」を青森県・青森市で開催しました。この間、戦争法案廃案を求め、多くの市民の共同をつくりだした一方、戦争法成立を許した運動を総括しつつ、よりいっそう強まる安倍政権による憲法破壊攻撃にいかにして対抗し、私たちの未来と命の尊厳を安倍政権から取り戻すのかについて、シンポジウムや各分科会での提起と議論の中で、ともに考え、これからがんばりあう決意を固めました。
   2016年は戦争法廃止・改憲阻止のたたかいにとって正念場です。そのことを踏まえ、今年度の大会を企画・準備します。2016年については、富山県・富山市において11月12日~14日の日程で開催する準備を、地元実行委員会との協力のもとにすすめていきます。

《2016年度運動方針》

  1. 戦争する国家づくりを推し進める安倍政権の動きに対抗する全国的運動として「戦争をさせない1000人委員会」のとりくみをすすめます。人々の「生命」(平和・人権・環境)を重視する「人間の安全保障」の政策実現を広げていくとりくみを各地で行います。「持続可能で平和な社会(脱原発社会)」を求める「さようなら原発1000万人アクション」、沖縄・辺野古新基地建設に反対するとりくみと連携します。
  2. 戦争法廃止・憲法改悪阻止のとりくみを引き続き全力ですすめます。米軍再編、自衛隊増強などを許さないとりくみと連携して、日米軍事同盟・自衛隊縮小、「平和基本法」の確立、日米安保条約を平和友好条約に変えるとりくみをすすめます。
  3. 自民党による改憲攻撃に対抗するとりくみを強め、立憲フォーラムと協力し、院内外での学習会などを行います。中央・東京での開催とともに、ブロックでの開催を奨励し協力します。学習会を開催します。また、機関誌「ニュースペーパー」での掲載企画や冊子発行、論点整理のホームページなどを適宜、情報発信します。
  4. 新しい時代の安全保障のあり方や、アメリカや東アジア諸国との新たな友好関係についての大衆的議論を巻きおこすとりくみを引き続きすすめます。
  5. 今年の5.3憲法集会を「明日を決めるのは私たち―平和といのちと人権を!5.3憲法集会」として開催し、安倍政権とたたかう諸団体・個人の総結集をめざします。あわせて、全国各地での多様なとりくみを推進します。
  6. 「憲法理念の実現をめざす第53回大会」(護憲大会)は、下記日程で富山県・富山市において開催します。
          11月12日(土)午後・開会総会、11月13日(日)午前・分科会、11月14日(月)午前・閉会総会

3.   平和と安全保障に関するとりくみ

 

(1)   戦争法制を廃止し、日米ガイドラインの撤回をめざすとりくみ

   戦争関連法制10法を一括した「平和安全法制整備法」と自衛隊の恒久的な海外派兵を制度化する「国際平和支援法」が2015年9月に成立してしまいました。世論の過半数以上がこれら戦争法制を批判する中で、政府は「なぜ、いま 平和安全法制か?」なる特集を首相官邸のホームページで行っています。このなかで、戦争法制の必要性について、北朝鮮の核・ミサイル開発、南シナ海における中国と東アジア各国との緊張状態、そして尖閣諸島問題などをとりあげ、「我が国を取り巻く安全保障環境の厳しさが増しており、これらに対処するためには「抑止力」を高めることが重要」とし、さらに「グローバル化が急速に進むなか、安全保障上の脅威が世界のどの地域・領域で発生しても、それが我が国の平和と安全に影響を及ぼす」として、「脅威を防ぐために日米間の一層の連携が必要」などと相も変わらず形式的な説明に終始しています。とても戦争法制の「理解を深める」ものとはなっていません。
   そもそもこの戦争法制は、2015年4月に日米間で合意された日米ガイドラインのための国内法整備と言えるものでした。日米ガイドラインには、「日米両国が、各々、米国又は第三国に対する武力攻撃に対処するため、(中略)、日本が武力攻撃を受けるに至っていないとき、日米両国は、当該武力攻撃への対処及び更なる攻撃の抑止において緊密に協力する」と集団的自衛権の行使を見越した日米軍事協力が盛り込まれており、地理的にも、また有事に限らず平時から、情報の共有を含め、日米共同で軍事的に対処できる体制を整えることがめざされていました。国会での承認を踏まえる必要のない行政協定として結ばれる日米ガイドラインの問題はもとより、人びとの生命やくらしに影響を与える重要な安全保障政策の問題について、国内法制の整備の前に、あらかたを日米で合意するという日本政府の姿勢は許されません。国内での議論より米国を重視する対米従属の姿勢を批判し続けていく必要があります。
   戦争法制の具体化は、まず南スーダンへのPKO派遣とされ、「駆けつけ警護」任務から開始されるとしています。これまで平和フォーラムは戦争をさせない1000人委員会とともに、「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」との共同行動や立憲フォーラムの国会議員との連携を深め、院内外で総力を挙げたとりくみの態勢ができています。この力を「戦争法制の廃止を求める統一署名」や、5.3憲法集会などの大衆集会に注ぎ、戦争法制廃止にむけたとりくみを強力に進めていきます。

(2)   拡大する防衛費、拡張する自衛隊

   2016年度の防衛費予算は、過去最大となる5兆541億円に達し、安倍政権下において4年連続で増大となっています。政府が進める軍備増強路線が、戦争法制の成立と相まって、歴代自民党政府の安全保障政策であった専守防衛からも大きく逸脱しつつあることに批判を強めていかなくてはなりません。
   来年度予算では、奄美大島における航空自衛隊(空自)の移動式警戒管制レーダーの新規整備、与那国島では陸上自衛隊(陸自)警備部隊の発足、さらに宮古島、石垣島などで計画されている陸自によるミサイル部隊の新設をはじめ、福岡・築城基地から航空自衛隊(空自)飛行部隊を沖縄・那覇基地に編入して空自第9航空団を新編し、この新編成に伴いF15戦闘機の配備数を倍増させる40機体制とするなど、南西諸島での自衛隊の強化を柱に「統合機動防衛力」の構築を推進するとしています。これは中国の海洋覇権の強化に対抗し、アジア太平洋戦略を重視したアメリカのリバランス政策に呼応するための措置と言えます。さらに陸自が佐賀空港に配備しようとしているオスプレイやステルス戦闘機であるF35Aの6機取得、空中給油機の取得などは、敵地潜入を可能とする装備の充実であり問題です。
   日本におけるシビリアンコントロールの一形態として制度化されていた「文官統制」が、防衛省設置法の改正に伴い改められたことは大きな問題です。防衛官僚(文官)が制服組より優位な立場に立ち、軍事を統制するこれまでのシステムから、制服組である「統合幕僚監部」と陸海空の各幕僚長が、防衛官僚と対等、並立の立場となりました。また自衛隊部隊の活動や訓練などの運用を計画していた内局の「運用企画局」が廃止され、「統合幕僚監部」が一元的に関与するよう組織を大幅に改められました。陸上自衛隊の組織も、全国5つの方面隊が「陸上総隊」に一元化されるなど組織統合が図られています。
   武器の輸出を抑制する原則であった武器輸出三原則を改め、輸出入を認めることを基本とした防衛装備移転三原則の閣議決定以降、新たに発足した「防衛装備庁」が窓口となって、武器や技術の輸出や購入、他国との共同開発が積極的に進められ、防衛産業の奨励、保護をしようとしています。
   また、防衛省が研究費を助成する制度である「安全保障技術推進制度」は、学術・研究機関と軍事研究との結びつきを促しかねず、注視していく必要があります。
   安倍政権は、2016年度の予算で防衛予算を増大させながら、生活扶助関係や雇用労災関連の予算を切り捨てています。安倍政権の安全保障政策をこのまま続ければ、市民の暮らしに直結する社会保障費のさらなる削減につながりかねません。一人ひとりの市民の命と生活を大切にし、日本の安全保障政策を憲法の理念に沿った平和的な外交を基調とした政策に転換させていくとりくみを進めていかなくてはなりません。

(3)   辺野古新基地建設、高江ヘリパッド建設等沖縄に関するとりくみ

   翁長雄志沖縄県知事の行った、昨年3月の辺野古新基地建設に関わる海上作業の停止指示、また12月の公有水面埋め立て承認取り消し処分に対して、このいずれにも沖縄防衛局は、新基地建設工事を強行し続けるために、個人の救済制度である行政不服審査法を悪用し、国の機関であるにもかかわらず、一般私人を装い、指示および処分の取り消しを求めて審査請求すると同時に、執行停止の申し立てを起こしました。その一方で国は、公有水面埋め立て承認取り消しを行った翁長県知事の行政処分を取り消す代執行に向け、福岡高裁那覇支部に提訴(2015年11月17日)しました。このような国の対応に対しては、行政法の研究者からも批判の声明が出されており、法治主義を否定するものとして厳しく糾弾されてきました。
   沖縄県は、翁長県知事の承認取り消しを無効化するため国土交通大臣が行った執行停止決定は違法だとして、執行停止決定の取り消しを求める抗告訴訟を那覇地裁に提起(2015年12月25日)したほか、国地方係争処理委員会が県の不服申し立てを却下したことから、国に対して執行停止の取り消しを求める提訴(2016年2月1日)が出され、合計3つの裁判が県と国の双方で闘われる局面となっていました。
   国が県を訴えていた代執行裁判で、福岡高裁那覇支部(多見谷寿郎裁判長)が2つの和解案を示していたところ、3月4日になって突如、国、県双方の「和解」が成立しました。
   この「和解」に至った背景には、福岡高裁が1月29日に示した和解勧告文から、「敗訴」する恐れを読み取った国が、6月の沖縄県議選、夏の参議院選等への影響も考慮もしつつ、和解に応じていったん工事を中断したとしても、法的な手続きを着実に行うことで、今後再び工事を進めていくことができると判断したものと思われます。この和解勧告文には、「国と地方自治体が対等であるとする地方自治法の精神に反する」、工事変更承認を巡る県のさまざまな提訴が予想される中で、「勝ち続ける保証はない」と、国の行政不服審査法の悪用などに対して裁判所が釘を刺したものといえます。また、「本来ならば、沖縄を含めてオールジャパンで最善の解決策を合意して、米国に協力を求めるべき」と述べ、沖縄と協議を尽くすことなく負担のみ強いる姿勢を崩さない国に対する批判とも受け取れる裁判所の姿勢が示されたことは注目すべきです。
   国と県の和解条項の内容は、国と県双方が提起した裁判を取り下げ、埋め立て工事を中止することとしたほか、国は県に対して地方自治法第245条7項の「是正の指示」をし、県に不服があれば国地方係争処理委員会に審査申出を行う、同委員会の判断に応じ、県は「是正の指示」の取り消し訴訟を提起する、と地方自治法の手続きに沿って「迅速な審理判断」が行われるよう国と県双方が全面協力することになっています。そして「是正の指示」の取消訴訟判決の確定までの間に、国と県双方が「普天間飛行場の返還および本件埋め立て事業に関する円満な解決に向けた協議を行う」こととされ、判決確定後は、国と県は判決に従い、判決内容の趣旨に従って互いに協力して誠実に対応することを相互に確約することとなっています。工事を一時中断させるまでに国を追い込んだ沖縄県と民意の勝利ともいえますが、安倍首相は「辺野古が唯一の解決策であることは変わらない」という頑なな姿勢を崩しておらず、今後も厳しい闘いが予想されます。
   国は辺野古への新基地建設の必要性について、「普天間基地の危険の排除」を理由としています。仲井眞弘多前沖縄県知事が承認した際の条件とした「普天間基地の5年以内の運用停止」について、中谷元防衛大臣は当初「飛行機が飛ばない状況」と定義していましたが、その後、再三その定義を覆しています。そもそも米国政府は、「5年以内の運用停止」について明確に否定しています。普天間基地問題の原点は、アジア・太平洋戦争のなかで、沖縄に上陸・占領した米軍が、住民を強制収容所に隔離していた最中に、その私有地を略取し普天間飛行場建設をしたことが発端です。このことは戦時下での私有地没収を禁ずる国際協定であるハーグ陸戦協定明確に違反する行為です。普天間基地を閉鎖するために、その代替基地として辺野古に新基地建設を建設するのではなく、普天間基地は無条件に閉鎖させなくてはなりません。
   2016年1月の宜野湾市長選挙では、辺野古新基地建設に反対する候補が、辺野古への移設について態度を明らかにせず、争点ぼかしをした現職候補に敗れることもありましたが、地元新聞が行った出口調査では、過半数以上が辺野古への新基地建設に反対しており、沖縄全県の世論調査でも7割以上が反対の意思を明確にしています。自公政権は「一地方の選挙が国政に影響することはない」と言及していたにもかかわらず、現職候補が当選するや、「オール沖縄は実態とかけ離れている」「沖縄の世論は辺野古移設反対一色ばかりではない」と喧伝するなど、世論の分断を図ろうとする政権の姿が露骨に表れています。
   辺野古新基地建設を阻止する闘いは、法治主義、地方自治、そして民主主義を取り戻す闘いでもあります。和解によって半年から1年は工事が中断されるとされています。この機をとらえ、あらためて普天間基地の成り立ちを踏まえ、米海兵隊の任務の実態と政府が言う「米海兵隊の抑止力」の無意味さを世論に訴え、昨年12月に結成された「オール沖縄会議」に呼応した「本土」でのとりくみをすすめていきます。
   東村高江のヘリパッド建設では、完成したN4地区のヘリパッドで、米軍に先行提供されオスプレイの離発着訓練が繰り広げています。しかしながらN1地区の建設に対しては、高江住民の粘り強い反対のとりくみが続けられており、作業は進んでいません。
   この間、平和フォーラムは、沖縄平和運動センターの呼びかけに応え、キャンプシュワブ前で行われた県内議員団の座り込み行動(4月6~8日)、「第38回沖縄平和行進」(5月15日~17日)、オール沖縄で辺野古新基地建設に反対する県民大会(5月17日、那覇市・セルラースタジアム 35000人)に参加してきました。
   また、市民団体との共催で「辺野古新基地建設反対渋谷サウンドデモ」(4月26日、渋谷)、「5・24国会包囲行動」(5月24日、国会周辺)、「止めよう!辺野古新基地建設!翁長県知事の承認取り消し・撤回を考える集会」(6月5日、全水道会館)、「止めよう!辺野古新基地建設 沖縄県民の民意を無視するな!辺野古新基地建設の問題点を探る─土砂の採取、埋め立てによる環境への影響を考える―」(8月31日、豊島公会堂)、「講演と辺野古報告の集い 辺野古新基地建設―国の代執行訴訟を許さない」(12月11日、豊島区民センター)などのとりくみを進めてきました。
   また戦争法制反対の国会闘争をけん引してきた「戦争させない・9条を壊すな!総がかり行動実行委員会」と連携して、「止めよう!辺野古埋立て9・12国会包囲(9月12日、国会周辺、25000人)、「辺野古〝埋め立て承認取り消し〟に政府は従え!取り消し無効―埋め立て着手を許さない10・29緊急集会」(10月29日、連合会館)、「11・29辺野古に基地は造らせない大集会」(11月29日、日比谷野外音楽堂、4500人)、「止めよう!辺野古埋立て 2・21首都圏アクション 国会大包囲」(2月21日、国会周辺、28000人)などの集会にとりくんできました。2月21日のとりくみにあたっては、「全国同時アクション」として、北海道、東北、北信越、東海、近畿、四国、中国の各ブロックで「辺野古新基地建設反対」の集会等が開催されました。また、超党派の国会議員が結集する沖縄等米軍基地議員懇談会のとりくみ、「辺野古基金」賛同団体の拡大などに協力し、九州ブロックが中心となってとりくまれた「土砂砕石、沖縄への搬入に反対する署名」(14万筆以上集約)の衆参両議院および防衛省への提出、要請行動(9月2日)を行ってきました。
   辺野古新基地建設の本体着工を阻止していくべく、さらに、沖縄での闘いと「本土」での闘いを結び、最大限の反基地闘争としてのとりくみをすすめていきます。

(4)   オスプレイの配備、米軍の基地機能強化に反対するとりくみ

   沖縄に配備された米海兵隊のMV-22オスプレイ24機は、沖縄県内での飛行、離着陸訓練をはじめ、岩国基地を中継基地として、米空軍横田基地(東京)、同厚木基地(神奈川)米海兵隊キャンプ富士、陸自北富士演習場での飛行訓練等で展開されるなど、その運用が拡大してきています。加えて2017年から、横田基地に空軍仕様のオスプレイCV-22が、順次10機配備することが米当局より発表されています。これにともない横田基地には、米空軍特殊作戦部隊400名が新編され、敵地潜入のための兵員輸送を目的とした低空飛行訓練・夜間飛行訓練を、全国4か所(東富士演習場、ホテル地区、三沢対地射爆撃場、沖縄の訓練場)を中心として日本の上空で行うものとみられ、警戒が必要です。
   オスプレイは開発段階から事故が多発し、MV-22およびCV-22の事故率は、運用飛行時間が経過するごとに増大しています。相次ぐ事故で、基地周辺自治体および住民から懸念の声が多数出ているにもかかわらず、事故原因の究明がないまま沖縄をはじめとする国内での飛行訓練等が行われています。防衛省も、事故原因を米軍が調査中だとしながらも、「オスプレイの機体構造による事故とする証拠はない」などと、人為的なミスをにおわす米当局の表明をそのまま繰り返す主体性のない対応に終始しています。
   千葉県木更津の陸上自衛隊駐屯地でMV-22オスプレイの定期整備拠点化も進められています。佐賀空港での自衛隊配備のオスプレイの拠点化を含め、危険なオスプレイが飛行することで、人びとの命と生活が脅かされます。訓練空域下の自治体の懸念も広がっており、自治体を巻き込んだ配備と飛行訓練の撤回を求めた闘いを強化していかなくてはなりません。
   米海兵隊岩国基地へのF35Bステルス戦闘機の配備、普天間基地から岩国基地に移転配備されたKC-130空中給油機の訓練を鹿屋基地に移す計画など、訓練移転の強化が目論まれています。また米海軍横須賀基地を拠点とする艦船は2015年10月にイージス艦「ベンフォールド」が配備され13隻体制になっていますが、さらに2017年までに追加のイージス艦1隻が配備される予定です。日本各地の在日米軍基地の機能強化が図られていることと、自衛隊と米軍との共同使用、共同訓練も頻繁に行われており、新ガイドライン体制下で同盟調整メカニズムにより情報の共有化が図られ、日米共同対処能力の向上、日米軍事の一体化の強化が進められることに警戒しなくてはなりません。
   米海軍横須賀基地などに配備されている原子力艦船について、原子力艦で事故が起きた際の国のマニュアルが見直されつつあり、「避難判断基準」が毎時100µSvから5µSvに引き上げるなど、原子力発電所の事故のマニュアルと同様の判断基準をしていく方向にあります。十分な避難対策を確立させることも大切ですが、そもそも原子力艦船の母港化を撤回させていくことこそ追求しなくてはなりません。
   政府は、日米安全保障条約、日米地位協定の前提として、米軍機の飛行について、提供区域外であっても飛行訓練することを認めています。また事故があっても、日本の警察や消防が現場検証にあたることや、原因究明のため事故機部品等の押収もすることができないのが実態です。また米軍基地の返還跡地から、米軍が廃棄したダイオキシン等の遺棄物が出てきても、政府は米軍に原状回復や補償など求めることができません。昨年、この地位協定を補足する「環境補助協定」が合意されましたが、立ち入り調査等で実行性が確保されているとはいえません。また米兵の度重なる女性に対する暴行事件など、米兵の犯罪行為を裁くことについても、日本には第一次裁判権がありません。このような日米地位協定の非合理、不平等なあり方は、米軍基地周辺住民のいのちとくらしの安全に直結する問題であり看過できません。平和フォーラムは地位協定の問題を追及し、改定を求める闘いをすすめていきます。
   米軍基地を抱える14都道県でつくる渉外知事会や市町村議会議長会においても、日米地位協定を改定する要望書を政府に提出しています。これは市民の安全と財産を守るため当然のことであり、自治体への要請行動なども含めたとりくみを強化し、自治体の基地対策の後押しをすることが重要です。
   平和フォーラムは、オスプレイと低空飛行に反対する東日本連絡会が行った防衛省・外務省への要請行動(2015年7月28日、2016年1月27日)に参加し、また「オスプレイの配備・飛行に関する自治体要請」に使用する要請文、自治体配布用資料の提供を実施してきました。また、神奈川県横須賀の「原子力空母の是非を問う10,000人市民アンケート」に協力するとともに、原子力空母ロナルド・レーガンの入港に抗議する全国集会のとりくみ(10月2日、横須賀・ヴェルニー公園、2800人)、オスプレイの横田基地配備に反対する10・25東京集会(10月25日、多摩川中央公園、2300人)などに協力してきました。今後もとりくみの強化が求められています。

《2016年度運動方針》

  1. 戦争法案の廃案をめざし、戦争をさせない1000人委員会と連携し「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」のとりくみに積極的に参加していきます。
  2. 専守防衛から逸脱する装備、技術取得に反対し、防衛予算の増額に歯止めをかけるとりくみをすすめていきます。またオスプレイの自衛隊導入など、自衛隊の増強と運用を大きく変質させる動きに反対する運動にとりくみます。
  3. 防衛装備移転三原則に基づく武器輸出や技術移転に反対し、武器輸出を促進するための政府援助等をやめさせるとりくみをすすめていきます。
  4. 自衛隊の市中パレードや市街地での訓練など、自衛隊の市民社会への浸透に反対します。そのために各地の運動組織が行うとりくみに協力します。
  5. 沖縄平和運動センターのとりくみを支援していきます。また沖縄・一坪反戦地主会関東ブロックなどの辺野古新基地建設に反対する市民団体とも連携し、沖縄との連帯集会や学習会を首都圏においてもとりくみます。
  6. MV-22オスプレイの運用に関わる日米合意違反および航空法上の運用上の問題点や、日米地位協定の問題点について、沖縄等米軍基地問題議員懇談会と連携して、オスプレイと飛行訓練に反対する東日本連絡会などの市民団体と共同し、政府との交渉を継続していきます。さらに日米合同委員会の議事録の公開、日米地位協定の改定を米国と協議することを求めていくとりくみを追及します。
  7. 米空軍CV-22オスプレイの横田基地配備とそれに伴う米軍特殊作戦部隊の新編、木更津自衛隊駐屯地のオスプレイ定期整備工場計画、自衛隊に導入が計画されているオスプレイの佐賀空港配備問題など、全国に広がるオスプレイの低空飛行・夜間飛行訓練への反対運動を強化し、飛行および訓練ルート下の自治体が対政府要請、意見書採択等を行えるよう、各ブロック、各都道府県組織と連携して対策をすすめます。
  8. 米軍基地の機能強化に反対する運動をすすめ、各地の爆音訴訟に協力し、全国基地問題ネットワークや、沖縄基地問題にとりくむ市民団体、またアジア太平洋地域の反基地運動団体との連携と協力をすすめるとともに、立憲フォーラム、沖縄等米軍基地問題議員懇談会の国会議員との連携を強化していきます。これら活動で得られた情報の共有をはかり、在日米軍等の問題点を学習会などを通じてわかりやすく指摘していきます。

4.   東アジアの連帯と非核・平和に向けたとりくみ

   安倍晋三首相は、戦後70年にあたって「未来志向の新たな首相談話」を発表するとして、「20世紀を振り返り21世紀の世界秩序と日本の役割を構想するための有識者懇談会(21世紀構想懇談会)」を設置し、座長に西室泰三・日本郵政社長を、座長代理に北岡伸一・国際大学学長を任命し、2015年2月25日、第一回目の会合を開催しました。
   戦後70年を前にした2015年4月29日、米国議会での安倍首相演説では、太平洋戦争の米国の犠牲に追悼の意を表明したものの、アジア・太平洋戦争の加害責任には触れず、「積極的平和主義」の下で、米国との軍事同盟を強化するとの方針を明らかにしています。5月14日には、集団的自衛権行使を基本にした「戦争法案」を閣議決定し、日米ガイドラインの改定で示された米国との軍事同盟の深化を基本として関係の強化をめざしています。ポツダム宣言やサンフランシスコ講和条約に示された、第2次世界大戦後の米国を中心とした国際秩序の基本認識は、安倍首相がこれまで示してきた「東京裁判」を否定しアジア・太平洋戦争を自存自衛の戦争とする歴史観とは相容れないものです。自民党内、また閣内には、サンフランシスコ条約で受け入れた「東京裁判」が下した日本の侵略戦争に対する判決内容を否定する「日本会議国会議員懇談会」に所属する議員が多数を占めています。安倍首相自身も会員であり、その立場をこれまでも主張してきました。日米同盟強化と東京裁判を否定する歴史観は矛盾を来しています。第3次安倍内閣の閣僚など24人のうち21人が、改造内閣においても25人中16人が「日本会議」に所属し、内閣全体が「日本会議」の意を受けた組織ともとれる構成となっています。彼らが「日本会議」の主張を肯定しているならば、日本政府・安倍政権が、アジア・太平洋戦争は自存自衛の戦争であり「アジア解放の戦争」ととらえ、平和の罪として東条英機や岸信介を有罪とした極東国際軍事裁判の判決と戦後社会を規定した日本国憲法を否定し、戦前の日本社会、天皇制社会を日本の国柄として尊重する考え方に立っていると言わざるを得ません。
   8月14日発表された安倍首相の「戦後70年談話」は、反省の意を表しながらも、安倍首相自身がどのように捉えているかと自身の歴史認識には触れませんでした。日露戦争を「植民地支配のもとにあった、多くのアジアやアフリカの人々を勇気づけました」と、日露戦争が朝鮮半島への植民地支配に行き着く道のりの上にあることなど歴史事実には触れず、自らの主張に都合の良い恣意的解釈を披露しています。また、首相自身が否定する日本軍「慰安婦」問題や戦時下の性暴力に関わっては、「慰安婦」とは表現せずにその責任を曖昧にしています。
   しかし、一方で「戦争法(安全保障関連法)」やアジア諸国との軋轢への日本の市民社会の反発、韓国などのアジア諸国の反発や世界からの注目、そして米国の思惑や国際連合の成り立ちなどにより、安倍首相の日頃からの主張とは大きく異なり、「私たちは、自らの行き詰まりを力によって打開しようとした過去を、この胸に刻み続けます。だからこそ、我が国は、いかなる紛争も、法の支配を尊重し、力の行使ではなく、平和的・外交的に解決すべきである。この原則を、これからも堅く守り、世界の国々にも働きかけてまいります。唯一の戦争被爆国として、核兵器の不拡散と究極の廃絶を目指し、国際社会でその責任を果たしてまいります」として、これまでの「日本会議」のメンバーとしての安倍晋三個人の主張を覆す内容となっています。
   安全保障関連法案の審議の際にも、特別委員会の質問に答えて「我々はポツダム宣言を受諾し、その後の東京裁判の諸判決を受け入れた。それに尽きる」とし、サンフランシスコ講和条約に言及し、「(日本は)極東国際軍事裁判所の判決を受諾しており、それに異議を唱える立場にはそもそもない」と答弁しています。「日本会議」の主張が、いかに米国などの戦勝国と国際連合を中心とした世界秩序に反するか、日本社会はしっかりと認識すべきであり、1945年8月15日が、世界の歴史でどのように考えられているかを再度深く認識し直すことが必要です。
   平和フォーラムは、この談話の内容から、国民の反対を押し切って強行に成立させた「戦争法」による「積極的平和主義」の思考に、安倍首相はどのような経路を経て至るのか、憲法9条による平和主義を生きてきた戦後の市民社会には、決して理解できません。この談話から明確に言えることは、日本が、侵略と植民地支配の責任を明確にし、加害責任への個別補償、慰安婦問題の当事者の納得できる解決を行うこと。そして、侵略戦争を遂行した日本が、その反省の下に作りあげた、アジア諸国への約束ともいえる憲法前文及び9条の平和主義を守り続けることです。「私たちの子や孫、そしてその先の世代の子どもたちに、謝罪を続ける宿命を背負わせてはなりません」と安倍首相自身が主張するならば、なすべきことは明らかだといえます。
   2015年12月28日、ソウルで開催された岸田文雄、尹炳世(ユン・ビョンセ)日韓両外務大臣の会合において、「韓国政府が元慰安婦の支援に関する財団を設立し、日本政府の予算から10億円を拠出すること」を基本に、日本軍「慰安婦」の問題の解決を図ることで合意したと発表されました。合意内容は「慰安婦問題は当時の軍の関与を元に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり、かかる観点から日本政府は責任を痛感しています。安倍内閣総理大臣は日本の内閣総理大臣として、慰安婦としてあまたの苦痛を経験され、心身にわたり癒やし難い傷を負われた全ての方々に対し、心からお詫びと反省の気持ちをお伝えします」とし、これまでの首相自身の考え方を180度変更するものとなっています。
   一方で、財団事業を実行することで「問題の最終的かつ不可逆的な解決と、今後、国際社会でこの問題を取り上げないこととする」とし、日韓両国に横たわる「慰安婦」という歴史事実は今後一切両国間の外交課題としないこと、取り上げないことが表明されています。日本政府の強い要求によって韓国政府は、「在韓日本大使館前に設置された慰安婦を象徴する少女像の撤去への努力」を表明、日本政府は「拠出金は、事業のためのもので賠償ではない」とするなど、元慰安婦の方々の思いを踏みにじるような両国政府の姿勢が見えます。このことは、元慰安婦の方々や支援団体を抜きにして両国政府間での話し合いのみによって合意された内容であり、その合意過程にも問題があります。毎週水曜日に元慰安婦の方々と抗議行動を続けてきた支援団体「韓国挺身隊問題対策協議会」(挺対協)は、合意後の12月30日の水曜日に、合意に抗議する大規模な抗議行動を少女像の前で行っています。
   「慰安婦」問題の不可逆的解決とは、歴史事実からそのことを消してしまおうとする意図を感じさせます。日本軍「慰安婦」が存在した事実を消すことはできません。両国民が歴史的事実を共有化し、その理解の下で友好と協調の相互関係を構築することが求められています。加えて、被害者自身を抜きにした両政府の一方的姿勢も問題です。合意した内容ではなく、合意した事実を出発点として、元慰安婦の方々と支援を続けてきた団体を含めた話し合いの中で、慰安婦にされた皆さんが納得できる解決をめざしていかなくてはなりません。
   自民党の桜田義孝元文部科学副大臣は「よく従軍慰安婦の問題が出るが、日本で売春防止法ができたのは昭和30年代だ。それまでは売春婦と言うけれど職業としての娼婦だ。ビジネスだ。これを犠牲者のような宣伝工作に惑わされ過ぎている。仕事をしていた。職業としての売春婦と言うことを遠慮することはない。遠慮しているから間違ったことが日本でも韓国でも引いて(引用して)しまうのではないか」と発言し問題となりました。この発言は、売春防止法制定の歴史的意味や売春が女性の尊厳に関わる問題であり社会の貧困や格差・差別の問題であること、また日本軍「慰安婦」については旧日本軍や日本政府が関与した問題であることなど全く理解しない女性蔑視の発言です。
   2012年11月4日に、ニュージャージー州で発行されているローカル紙「スター・レジャー紙」に、ジャーナリストの櫻井よしこ、作曲家のすぎやまこういちらで作る「歴史事実委員会」による「Yes, We remember the facts.」と題した慰安婦問題の意見広告が掲載されました。意見の中心は「あらゆる歴史的文書を紐解いても、日本帝国陸軍によって女性が自らの意思に反して強制売春させられたという記録を見つけることはできません」とするものです。この意見広告の主体である「歴史事実委員会」には、当時の自民党安倍晋三総裁も名前を連ねています。安倍首相の基本的な認識は、桜田元文科副大臣と変わることはありません。
   今回の日韓合意には、東アジア戦略には日米韓の軍事的同盟が重要との米国の思惑が強く影響していることは事実です。真の解決のために、東アジア諸国との信頼関係の構築のためには、基本的な歴史認識と人権意識の確立が重要であると言わざるを得ません。たびたび繰り返されるこのような問題発言は、日本政治の劣化と捉えられても仕方なく、安倍晋三首相が、世界のマスコミから「Historical revisionist」(歴史修正主義者)と呼ばれる不名誉な事態にもつながっています。
   今夏、地雷爆破による韓国兵士の負傷問題で緊張した朝鮮半島における南北関係は、高官級協議を経て一時沈静化したかに見えました。朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)は、2015年10月1日に李洙?(リ・スヨン)外務大臣が国連総会において演説し、米国に対して「朝鮮半島での戦争を回避するための建設的な対話をする意思がある」として「朝鮮戦争の休戦協定を平和協定へ」との考えを公式に伝えるとともに、「平和的な衛星打ち上げに異議を唱える不当な行為には、可能なあらゆる自衛手段で強力に対応し、尊厳を守る決意だ」「我々の核実験は米国の核の脅威と敵視政策に対する自衛の手段だ」との強硬な姿勢も示していました。米国は、北朝鮮外相の演説を無視するとともに、オバマ米大統領とパク・クネ(朴槿恵)韓国大統領との米韓首脳会談において、「朝鮮に対する韓米共同声明」を発出し、一方的に北朝鮮の外交姿勢と内政を非難する声明を発していました。
   2016年1月6日、北朝鮮は突然、自ら水爆実験と主張する四度目の核実験を実施するとともに2月7日には、地球観測衛星「光明星-4号」の打ち上げと主張するミサイル発射実験を行いました。世界各国はきびしく非難し、核実験直後には、核爆弾搭載可能なB52戦略爆撃機を韓国に派遣しソウル近郊に飛行させるなど、米国はきわめて厳しい対応を示しています。菅官房長官は、B52の韓国派遣を歓迎し「地域の平和と安全に役割を果たす米国の強い意志の表れ」と評価しました。日米韓は、1月16日、東京都内において外務次官級協議を開催し、「朝鮮への制裁を強化する国連安保理決議の採択をめざし緊密に連携する」としています。
   北朝鮮が反発を強める中、米韓政府は明らかに朝鮮有事を意識し北朝鮮を対象とした米韓軍事演習を3月7日から、最大の規模で実施しました。北朝鮮は、ミサイルを日本海に発射し威嚇的発言を繰り返しています。中国の王毅外相は米朝間の平和協定策定へ言及し、朝鮮半島の緊張緩和がきわめて重要との認識を示しています。
   北朝鮮の核実験やミサイル発射実験などが、いかに東アジアの緊張を強いているかは議論の余地はありませんが、一方で米韓日軍事演習の強化と対話拒否の米国の姿勢が、東アジアの緊張と北朝鮮政府の強硬姿勢をつくりだしていると言えます。
   米国は、東アジアの安全保障のためにとキューバ間で行われた国交回復への努力を、米朝間においてもとりくむべきです。日朝間においても、拉致問題など現状に拘泥することなく、国交の正常化を先行し、その上で問題解決への対話を粘り強く続けていくことが、現状を打開するための最速の道です。
   平和フォーラムは、2014年に「戦後70年、新しい東アジアへの一歩へ!市民連帯」(東アジア市民連帯)を組織し、歴史認識をめぐる課題での学習会を積み重ねてきました。5回目となる連続学習会「解放と分断から70年─朝鮮半島と東アジアの平和」(6月23日、国会議員会館)では、チェ・ヨンヘさん(朝鮮大学政治経済学部学部長)を招いて講演を受けるとともに、戦後70年に向けて東アジアでの平和を求める「国際共同アピール」を採択し、安倍首相宛へ届けました。また、人権確立のためにとりくんできた多くの市民団体と協力して「戦後70年、東アジアフォーラム─過去・現在・未来─」(8月14日、日本教育会館、400人)を開催し、ドイツから「記憶・責任・未来」財団理事会アドバイザーのウタ・ゲルラントさんを招聘し、日本とドイツの戦後を比較することによって、日本の新しい歩みを模索しました。分科会では、日本軍「慰安婦」、教科書、「戦争法案(安全保障関連法案)」、そして沖縄の問題を議論しました。侵略戦争と植民地支配で多大な被害を与えたアジア諸国への戦後の約束である平和憲法を守り、その加害責任を贖罪することが日本の信頼と友好の関係構築への基本になることが、議論の中から明らかにされました。また、「東アジア市民連帯」を中心に「戦後70年、国際シンポジウム」(8月22日、学士会館、300人)を開催しました。ラムゼイ・クラーク元米司法長官のビデオメッセージや、「過去の清算と歴史認識」「東アジアの平和と安全保障」の2つのシンポジウムは、韓国、中国、ロシア、米国からのゲストの発言を中心に、安倍首相談話をめぐる課題、朝鮮半島をめぐる情勢に話が及び、対話での課題克服、また課題を解決するためにも朝鮮との国交回復を優先すべきであること、そして何より米朝の休戦状態の解消が重要であることを確認しました。どちらの集会においても、これまでの平和フォーラムの基本的認識の正しさが確認できました。
   日朝国交正常化連絡会は、全国総会を開催するとともに「東北アジアに非核・平和の確立を!日朝国交正常化を求める集会」(7月6日、連合会館)を開催し、李鐘元:早稲田大学教授、和田春樹:東京大学名誉教授・連絡会顧問、石坂浩一:立教大学准教授・連絡会代表による、日朝国交回復に向けたディスカッションを開催しました。また、学習会(11月11日、連合会館)を開催し、「KOREAこどもキャンペーンのとりくみと大学生交流」に関する報告を、KOREA子どもキャンペーンの筒井由紀子さんから、そして労働党の創建70年を迎えた朝鮮の現状に関する石坂代表からの報告を受けました。国交正常化への地道なとりくみが求められています。
   今年も「戦争犠牲者追悼、平和を誓う集会」(8月15日、千鳥ヶ淵戦没者墓苑)を開催しました。また、「平和の灯火を!ヤスクニの闇へ、キャンドル行動」(8月8日、韓国YMCA)へも協力しました。「戦争をする国」へ向かいつつある安倍首相は、そのためにも靖国神社への公式参拝は重要との認識を持ち続けています。戦前の天皇制・ファシズム国家への回帰をもくろむ「日本会議」「安倍政権」のもくろみを打破するためにも、靖国神社の本質が何処にあるのかを明らかにしていかなくてはなりません。
   日本の将来は、侵略戦争と植民地支配の加害の責任を明確に謝罪し、戦後補償の確実な実行とともに、新しい東アジア諸国との関係構築を図っていく姿勢にあります。1年間にわたる「東アジア市民連帯」のつながりを基本に、今後も東アジアの市民との連携を強化し、歴史認識の共有化や東アジアの平和へのとりくみを強化していきます。

《2016年度運動方針》

  1. 「戦後70年 新しい東アジアへの一歩へ!市民連帯」のとりくみを継続し、東アジア諸国との信頼の醸成・関係の正常化を目途にとりくみをすすめます。また、日韓の青年層を中心に運動の交流をすすめます。
  2. 韓国国内における平和運動団体である「戦争反対平和実現国民行動」とともに、東アジアの平和へのとりくみの国際連帯強化を図ります。
  3. 米朝関係の改善を基本に、朝鮮半島の南北の自主的統一に向けて、東アジアにおける諸課題の解決に向けてとりくむ多くの団体との連帯を強化していきます。
  4. 2002年の日朝平壌宣言の趣旨に沿い、日朝国交正常化に向けた交渉再開・対話を求める日朝国交正常化連絡会を中軸としたとりくみをすすめ、政府・外務省、国会議員、各政党に対する働きかけをおこないます。そのため、連絡会への全国各地の運動組織の参加を求め、連携を強めるとともに、国交正常化に向けた世論を喚起するため、継続的に全国各地での講演会・学習会・全国行動をおこないます。東京で行っている定期的な学習会を継続するとともに、原水禁などのすすめる在朝被爆者支援などのとりくみに協力します。
  5. アジア蔑視の歴史観を打破し、史実と科学的評価に基づく東アジア諸国と共有できる「歴史認識」の下、侵略戦争と植民地支配の反省と加害の責任に対する戦後補償の充実を基本に、東アジア諸国との対話と協調を基本にした信頼関係の構築にとりくみます。
  6. 二度と戦争による犠牲者を出さない非戦の誓いを新たにするとりくみをおこない、首相や閣僚などの靖国参拝や靖国神社国家護持に反対するとともに、政府に国立の非宗教的戦争被害者(関係諸国すべてを含む)追悼施設の建設を要求し、靖国問題の決着を求めます。

5.   民主教育をすすめるとりくみ

   2015年は中学校用教科書の採択年度となっており、文部科学省は4月7日に教科書検定結果を公表しました。検定制度の見直しを受けて、すべての出版社で尖閣諸島や竹島の領土問題を取り上げるなど、日本政府の政治姿勢を反映したものとなっています。このような検定への文科省の姿勢は、2016年3月に発表された高等学校用教科書の検定結果においても顕著な傾向を見せています。他国の主張を教えずに日本政府の主張のみに限定した教科書内容は、将来の日本の発展に禍根を残すに違いありません。
   「新しい教科書をつくる会」の自由社版の歴史教科書は、歴史事実を都合よく歪曲し、個人を犠牲の上に国家が存在するとする国家主義的教育に立ったものであり、日本国憲法を基本にした民主国家および民主教育の現場に持ち込めるものではありません。検定に合格させることは、一定の政治思想や一方的な歴史認識に立つものであり、検定制度の恣意的運用とも言えるものです。
   「つくる会」から分裂した「教科書改善の会(日本教育再生機構)」の育鵬社版歴史・公民教科書は、編集意図を巧妙に隠蔽した中で、前回も横浜市などにおいて採択数を大幅に伸ばしましたが、記述内容は自由社版と同様に個人主義を否定し、アジア・太平洋戦争を肯定し加害の責任を矮小化する、国家権力の側に立ったものです。
   一方で、つくる会系教科書に反対する有志によって作られた学び舎版の歴史教科書には、近隣諸国条項において記載が求められているものの、他のすべての教科書において記載がなかった日本軍「慰安婦」にも言及しています。検定の過程でも削除されることなく極めてリベラルな内容となっています。このことは、つくる会系以外の出版社が行っている記述の自己規制を排除して、近隣諸国条項に則った記載を求めるとともに、そのような教科書の選択を求めるとりくみの重要性を指摘しています。
   平和フォーラムは、「許すな歴史歪曲!教科書採択問題全国集会」(6月1日、連合会館)を開催し、つくる会系教科書採択阻止のとりくみをスタートさせました。教科書展示における意見反映や教育委員会の組織的傍聴にとりくむとともに、育鵬社版教科書の問題点を明らかにしたパンフレットやリーフレットの作成、市民団体と協力して学習会用のパワーポイントの作成・配布を行い、情宣にもとりくみました。また、教育再生首長会議や日本会議地方議員連盟などに所属する自治体の長や地方議会議員の動向を監視しつつ、地方・中央の連携した即時のとりくみを追求してきました。さらに、「『国連教育方針』適用を求める国際共同アピール署名運動」に組織的にとりくみ、記者会見(7月30日)を開催すると同時に、諸外国を中心とした賛同署名を安倍首相宛に届けました。
   「戦後70年、東アジアフォーラム」の集会(8月14日、日本教育会館)では、分科会において「記憶の継承と教科書」を開催し、ドイツの歴史教育のあり方と日本の教科書問題を俯瞰するとりくみも行ってきました。
   安倍晋三首相に近い議員で構成する「日本の前途と歴史教育を考える議員の会」は、「より良い教科書を子供たちに届けるために」というパンフレットを作成し、地方議員を中心に配布していたことが明らかになっています。教科書における「国旗・国歌」「領土」「自衛隊」「拉致問題」「南京事件」「慰安婦」などの記述を比較しながら、巧妙に育鵬社の教科書を推奨するものです。地方議会・議員から各教育委員会および採択地区協議会などへの育鵬社版教科書採択への圧力を強めることを目的にするもので、露骨な教育への政治的介入と言えるものです。府立高校での大量採択を決めた大阪府では、日本会議の会員が経営する会社において、社員に教科書展示会での育鵬社版教科書採択への意見表明を命じた問題が表面化しました。展示会での意見はそのまま数として採択委員会へあがっており、馳浩文科大臣が苦言を呈せざる得ない状況となっています。社員の中には「意に反しての意見表明を強要された」として精神的慰謝料を求める訴訟も起こす人も出ています。
   2016年度以降の教科書採択の結果は、教科書改善の会の育鵬社版中学校用歴史・公民教科書は、大阪市が新規採用を行ったことや、冊数の多い横浜市が継続したことから、これまで歴史が3.7%、公民が4.0%であった採択率を、歴史約6.2%、公民約5.7%に伸ばしました。
   前回、育鵬社版の採択率の増加を支えた横浜市では、連携都市となっている韓国仁川市から、国連などの勧告に基づく公正な採択を要求する13万4700筆もの署名が横浜市教育委員会に提出されました。しかし、採択においては、教育委員が3対3に割れたものの、教育長の最終的な裁断によって歴史・公民とも育鵬社に決定しました。採択地区を一本化した大阪市においても、歴史・公民とも育鵬社に決定しました。維新の会の影響の強い大阪府下では、他に河内長野市(公民)、四條畷市(歴史・公民)、東大阪市(公民)などで採択されています。一方で、神奈川県立の中高一貫校や東京都大田区、今治市、尾道市、益田市などにおいて育鵬社版から他の教科書への採択変更が実現しています。
   平和フォーラムは、連帯して活動する全国の市民団体および韓国のNGO「アジアの平和と歴史教育連帯」を迎えて、今回の教科書採択に対するとりくみの総括に向けて意見交換(10月10~11日、大阪市)を行いました。東京都大田区では、前回の採択から4年間にわたって20回もの教科書問題や歴史認識での学習会を重ね、教科書展示会での意見が、2011年には136件で6割弱が育鵬社支持だったものを、2015年には1382件の意見を上げてそのうち9割以上が不支持との結果を得たとの報告が行われました。このことは、教育委員会の教科書採択に関する会議の冒頭においても報告されています。北九州市では、全中学校の社会科へ育鵬社版教科書を批判するパンフレットを配布した結果、学校からの調査報告書の育鵬社支持が大幅に後退したとの報告があります。名古屋市内においても2015年は2011年の5倍、1664通の意見・感想があり86%が反対だったと報告されています。各地域での地道な市民団体のとりくみが、10%を目途としていた育鵬社版の教科書採択率を押し込んだものと考えます。
   2018年度から「特別の教科」となり国の検定を受けた教科書が導入される予定の「道徳」について、文部科学省の審議会は検定の基準や体制の検討を始め、2015年7月には「小学校学習指導要領解説 特別の教科 道徳編」および「中学校学習指導要領解説 特別の教科 道徳編」が示されています。2000年の教育改革国民会議の「学校は道徳を教えることをためらわない」とする報告以降、2007年の「経済財政改革の基本方針~「美しい国」へのシナリオ~」で「徳育の教科化」が示され、教育再生会議や教育再生実行会議の議論を経て今回の指導要領の発表につながっています。自民党政権の保守的教育改革と安倍政権の「愛国心」教育の導入の方向の中で策定されてきたことは、今回の指導要領の解説の中で示された内容・項目の指導の観点を見れば明らかです。
   以下は、4分野22項目から成る小学校高学年の内容です。

  • 働くことや社会に奉仕することの充実感を味わうとともに、その意義を理解し、公共のために役に立つことをすること。
  • 父母、祖父母を敬愛し、家族の幸せを求めて、進んで役に立つことをすること。
  • 先生や学校の人々を敬愛し、みんなで協力し合ってよりよい学級や学校をつくるとともに、様々な集団の中での自分の役割を自覚して集団生活の充実に努めること。
  • 我が国や郷土の伝統と文化を大切にし、先人の努力を知り、国や郷土を愛する心をもつこと。

   中学校における道徳教育の目標では「道徳教育は、教育基本法及び学校教育法に定められた教育の根本精神に基づき、人間としての生き方を考え、主体的な判断の下に行動し、自立した人間として他者と共によりよく生きるための基盤となる道徳性を養うことを目標とする」とあります。道徳科も学校の教育活動であり、道徳科を要とした道徳教育がめざすものは、特に教育基本法に示された「人格の完成を目指し、平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質を備えた心身ともに健康な国民の育成」(第1条)であるとしていますが、基本的な部分である「平和で民主的な国家及び社会の形成者」との部分に触れる指導の内容は見当たりません。父母や祖父母、先生や学校の人々を敬愛しと言う文言からは、それぞれの子どもたちの個人的な状況や心情をうかがうことはできず、きわめて固定的な観点で語られるものです。
   道徳以外の他の教科書が、科学的研究成果を基にした学術的基準で構成されるものであるのに対し、道徳には学術的規準がなく、内心の問題として様々なとらえ方が存在するものです。戦後の教育は、自由と民主主義、平和主義の中で、主体的に考え行動する個性を尊重したあり方を中心に据えてきました。また、それこそが近代市民社会の主権者教育のあり方そのものでした。憲法が保障する内心の自由は、表現の自由や政治活動の自由など、民主主義を規定する基本的な権利であり、何人も踏み込むことを許されるものではありません。安倍政権の様々な発言や態度には、異論を排除する傲慢な政治姿勢と恣意的な道徳の強制という発想がにじんでいます。戦前の「修身」がどのようなことに利用されてきたのかを考えれば、問題の所在は明らかです。戦後の民主教育の根本と道徳の教科化は決して相容れないものです。
   次期参議院議員選挙から投票年齢が18歳に引き下げられることを念頭に、2015年7月、自民党文部科学部会は「選挙権年齢の引き下げに伴う学校教育の混乱を防ぐための提言」を下村文科大臣に提出しました。教育公務員特例法を改正し、教員の政治的中立の強化と政治的行為の制限違反に罰則を科すこと、高校生の政治的活動は学校内外において抑制的に指導すること、地方公務員法を改正し教職員組合に収支報告を義務づけることなどを内容とするもので、憲法の人権規定に照らしてきわめて問題のあるものです。現場教職員や教職員組合への圧力と、高校生ひいては若者の政治的活動に一定の歯止めをかけることを念頭に置いたものです。
   政治的関心の醸成は主権者教育の基本であり、政治への関心の高まりが必要であることは言うまでもありません。今以上に主権者教育の充実が図られなくてはなりません。自民党の提言は、教員を法律で脅し、自分たちに都合の良い政治的に無関心な子どもたちをつくるものとしか考えられません。自らは、教科書採択などに政治的介入を行い、一方で教育現場への徹底した「政治的中立」を求める自民党の姿勢は、あまりにも「自己中心的」です。
   文部科学省は、10月29日に、1969年に発出した「高等学校における政治的教養と政治活動について」を廃止して、新たに「高等学校における政治的教養と高等学校の生徒による政治的活動等について」を発出しました。通知は「教育基本法第14条第1項には『良識ある公民として必要な政治的教養は、教育上尊重されなければならない』とある。このことは、国家・社会の形成者として必要な資質を養うことを目標とする学校教育においては、当然要請されていることであり、日本国憲法の下における議会制民主主義など民主主義を尊重し、推進しようとする国民を育成するに当たって欠くことのできないものであること」とし、政治的教養の教育の必要性は認めながら、一方で「教育基本法第14条第2項において、『特定政党を支持し、又はこれに反対するための政治教育その他政治的活動』は禁止されていることに留意することが必要であること」「 教員は個人的な主義主張を述べることは避け、公正かつ中立な立場で生徒を指導すること」として、教職員の側の教育内容に関しては「政治的中立」を振りかざして大きな制限を加え、高校生の学校内での活動についても「学校の構内での選挙運動や政治的活動については、高等学校等は、これを制限又は禁止することが必要であること」として強く規制し、校外での活動に関しても、「違法若しくは暴力的な政治的活動等になるおそれが高いもの」「学業や生活などに支障があると認められる場合」「学校教育の円滑な実施に支障があると認められる場合」など、きわめて曖昧な文言によって規制することを要請しています。
   教職員の意見表明を規制することは、教育の内容や方法をきわめて限定的にするものです。政治的中立とは、いかなる立場のイデオロギーも拒まないということであり、学校が価値とすべきは、日本国憲法であり、それが理念とする平和主義、民主主義、基本的人権の尊重にしかありません。
   主権者への教育が憲法の理念や法律の範囲内で行われなくてはならないことは自明であり、子どもの権利条約に示された意見表明権の確保など、法が認める権利を侵害してはなりません。そのことへの国民的コンセンサスを求めることが重要となっています。教員も含めて、多くの他者の意見を尊重しながら、自らが主体的に自由に判断できる力を育むことこそが、国家・社会の形成に重要な要素です。
   平和フォーラムは、「憲法と『建国の日』を考える2.11集会─『個人より国家』を私たちは許さない!」(2016年2月11日、日本教育会館)を開催し、日本の戦争責任資料センターの上杉聰さんを招いて「日本会議と地域社会─日本国憲法と教育の危機」と題して「日本会議」と教科書問題を学習しました。同時に、授業料無償化から排除されている朝鮮高校の現状を在日朝鮮人人権協会のキム・ウギ(金優綺)さんから報告していただきました。日本社会の右傾化の状況に対するとりくみが求められています。
   平和フォーラムは、現役編集者やイラストレータ-、高校教員などの方々に編集を依頼し、中・高校生に向けてやさしく政治問題を学ぶパンフレットとして、P-comi(Peace Communication)(2015年7月に第1号「平和を極める?」、2016年2月には第2号「原発って、どーよ?」)を発行し、好評を博しています。今後も、継続的な刊行をめざすとともに、パンフレットを補完するWEBページも開き、より若い世代の手に渡るよう工夫を重ねていきます。
   非正規雇用の増大と地方経済の疲弊は、特に若者の生活を直撃しています。将来展望を開くことのできない日本社会は、若者の保守化・右傾化というような状況を作り出しています。高市早苗総務大臣は、2016年2月8日の衆院予算委員会で、選挙権年齢の18才への引き下げにともなって、大学構内での期日前投票所の設置を各自治体の選挙管理委員会に働きかける考えを示し、「若者の投票環境を向上させる非常に有意義なとりくみだ」と述べています。このような姿勢は、若者の投票率の向上が、自党へ有利に働くとの意識を代弁しています。
   現在の日本は、憲法遵守を義務づけられている安倍首相自らが、至る所で憲法改正を、しかも、その内実を示すことなく主張する社会になっています。安倍首相は、憲法53条で決められた臨時国会すら開催しませんでした。沖縄県民が、主権者として何度も辺野古への米軍新基地建設に「否」との声を上げ続けていますが、安倍首相は「一地方の選挙は国の政策には関係ない」と、沖縄県民の思いを切って捨てました。新基地建設賛成の知事、国会議員、市長などが選挙によって負け続ける事態になっても、一顧だにしません。そこに民主主義は成立していません。
   18才への参政権引き下げをめぐって、立憲主義とは、民主主義とは何か、近代の個人主義に立脚した社会のあり方が何を意味しているのか、若者とのこのような課題での議論をつくり出していくことが重要なとりくみとなっています。

 

《2016年度運動方針》

  1. 育鵬社版歴史・公民教科書を採択した地区を中心に、教科書問題に関する市民集会の開催にとりくみ、教科書の問題に関する市民合意の形成に努力します。そのため、平和フォーラム作成のパンフレットや市民団体作成のパワーポイントなどを活用します。
  2. 韓国のNGO「アジアの平和と歴史教育連帯」と協力し、日韓を基本に東アジア諸国間で理解できる、史実と科学的評価を基本にした「歴史認識」の共有化をめざします。
  3. 中高校生向けの歴史や人権問題の冊子として「P-comi」の継続的発行をめざします。若い世代への浸透を図り、P-comiのWEB化も追求します。
  4. 教科「道徳」の問題性を明らかにし、多面的・多元的な視点での理解を求めてとりくみます。
  5. 主権者教育に関し、高校生の活動に対し憲法および子どもの権利条約の認める権利を尊重し、主権者としての自律に向けた教育のあり方を追求する立場からとりくみます。教職員の発言をいたずらに制約することなく、そのことが高校生の主体的判断を促すものとして尊重されるようとりくみます。

6.   多文化・多民族共生社会に向けた人権確立のとりくみ

   戦争のできる国づくりを進めようとしている安倍政権の狙いはそれだけではありません。大企業の利益のために、人々に犠牲を強いる新自由主義的政策を推し進めることも政権の特徴です。日本はただでさえ福祉がぜい弱な国家ですが、近年は格差がさらに拡大し人々の生活は苦しくなる一方です。それを最も端的に表わしているのは子どもの貧困です。2012年の厚生労働省の調査によると、子どもの貧困率は16.3%と過去最悪の水準になりました。特にひとり親の子どもたちの貧困率は高く、中でも非正規雇用が多く賃金も低位に置かれているシングルマザーの貧困は社会問題化しています。昨年政府は子どもの貧困対策の目玉として「子供(ママ)の未来応援基金」を設立しましたが、約2億円の予算に対し、寄付金は今年2月の時点で約2000万円しか集まっていません。このような安倍政権によるごまかしの「福祉」政策では貧困問題は絶対に解決しません。
   こうした状況おいて、社会的マイノリティの人権は一層深刻な状態にあります。具体的には、朝鮮学校への「高校無償化」制度適用除外、外国人技能実習生制度、ヘイトスピーチ、そして性差別に関する問題などです。国連機関はこうした人権問題を是正するよう日本政府に対し勧告を行ってきました。しかし安倍政権は「(勧告は)法的拘束力をもつものではなく」「従うことを義務付けているものではない」という内容を閣議決定するなど全く解決する意志を持っていません。
   安倍政権の下で人権課題が是正されることはありえません。それどころかマイノリティはさらなる差別に晒され、言論の自由を縛る治安法の成立さえ危ぶまれています。日本社会に存在する人権課題を解決するためには、個別の課題についてとりくむことはもちろん、運動の横断的なつながりを強化・拡大していくことも必要です。多様な運動が連携し合い、差別・人権侵害を放置している社会・政府と闘っていくことが求められています。

(1)   国際的水準の人権確立に向けたとりくみ

   日本政府に対しては国連の人権機関から多くの勧告が出されています。2013年には社会権規約委員会・拷問禁止委員会から、2014年には自由権規約委員会・人種差別撤廃委員会から、そして2016年には女性差別撤廃委員会から人権課題に関する勧告が出されました。それにも関らず日本政府は真摯に向き合おうとせず、国際条約に加入しながらも勧告は無視するという条約違反ともとれるような開き直りの態度を取っているのです。
   また、日本がいまだに批准していない条約・条項が多いことがそもそも問題です。例えばヘイトスピーチを国内法で規制することを定めた人種差別撤廃条約4条a・b項を日本はいまだに批准していません。しかもその理由に関しては「深刻な状態にあるとは認識していない」などと答弁するなど、勧告に対してあまりに不誠実な態度をとっています。
   このような日本政府の姿勢を批判し、国連・人権勧告の実現を要求しながら「差別・人権侵害は許さない」という国内世論の喚起に努めなければなりません。昨年は平和フォーラムも参加する「国連・人権勧告の実現を!」実行委員会が月に一回のペースで学習会を開催し、さらに「12.5 国連・人権勧告の実現を!集会」(2015年12月5日、代々木公園)とデモを開催しました。今年も様々な個別課題に取り組む運動団体が連携し「国連・人権勧告の実現を!」を合言葉に運動を展開していきます。

(2)   朝鮮学校授業料無償化問題

   戦後ずっと続いてきた朝鮮学校への差別ですが、近年はより深刻さを増しています。
   安倍政権は2013年2月20日に「高校授業料無償化」制度の適用について定めた規定を変え、朝鮮学校のみを対象から完全に除外してしまいました。またこのような政府の姿勢に追随するかのように、各自治体も朝鮮学校に対する補助金の打ち切りを行っています。さらに今年3月29日、文部科学省は新たに「朝鮮学校に係る補助金交付に関する留意点について」を通知しました。この通知は暗に朝鮮学校への補助金支給中止を求めるものとみられており、学校関係者や各運動団体から批判の声が上がっています。朝鮮学校を標的とした一連の措置は民族差別であると同時に子どもの教育を受ける権利を否定するものであり、絶対に許すことはできません。
   このような朝鮮学校差別に対抗するため、当事者と支援者による運動が全国各地で行われています。現在全国5つの朝鮮高校(大阪、愛知、広島、福岡、東京)が「高校無償化」の適用を求めて国を相手に、200名に上る卒業生・学生が原告となり、各地の市民運動と一緒に裁判闘争に取り組んでいます。また大阪では補助金を不支給とした行政処分の取り消しと交付の義務付けを求める裁判も進行中です。
   いま求められていることは、各地の運動の連携・交流を強化し、全国に波及させていくことです。2012年に結成された「朝鮮学園を支援する全国ネットワーク」は全国の支援運動を横につなげる役割を果たしてきました。「朝鮮学園を支援する全国ネットワーク 2015年総会」(2015年12月20日、日本教育会館)が開催され、各地で朝鮮学校支援に取り組む市民・団体が情報交換と交流を行いました。さらに「朝鮮学校高校無償化全国一斉行動」を全国各地で行い、運動の全国的展開を実践しました(2016年2月13日、大阪での全国集会、19日、東京で文科省要請行動、20日、東京集会他、全国各地で集会や情宣活動)。
   韓国の市民運動との連携も進んでいます。2014年6月に結成された「『ウリハッキョ』と子どもたちを守る市民の会」は毎週金曜日に日本大使館前での抗議行動を行っており、日本の支援運動との連携も密に進めております。

(3)   在日外国人の人権

   在日コリアンなどのマイノリティに対する差別や憎悪を煽り、時には直接的暴力を振るうヘイトスピーチは近年大きな注目を集めてきました。国連からの2度に渡る勧告や「京都朝鮮学校襲撃事件」裁判の勝利判決(2014年)が出されてからは、ヘイトスピーチに対する批判の声が一層高まりました。こうした流れを受け2015年の通常国会には「人種差別撤廃施策推進法案」が提出され(継続審議)、大阪市ではヘイトスピーチの抑止を目指す全国初の条例案が成立しました。
   しかし「人種差別撤廃施策推進法案」は罰則のない理念法であり、その実効性には疑問が残ります。また自公両党が提出する予定の関連法案には罰則がないのに加え、野党案には盛り込まれていた「人種差別的言動の禁止」といった文言も入っていません。さらにアイヌや被差別部落などを標的としたヘイトスピーチは対象としていないなど、より実効性の薄い内容になっています。実効性ある法規制を実現させるためのとりくみが必要です。
   そもそも在日コリアンなどアジアに対する根強い差別の根底には、過去の植民地支配に対する謝罪と賠償がなされていないこと、またそのような歴史を多くの人々が知らないという問題があります。歴史性を踏まえた理解と問題解決をめざすとりくみを進めていきます。
   外国人労働者の人権問題も今後さらに重要性を増していくと思われます。政府が国内での労働力不足を口実に外国人労働者の受け入れを拡大させるという方針をとっているためです。しかし「外国人技能実習制度」は技能実習という名目で外国人実習生に奴隷的な労働を強いるという構造的な問題をはらんでおり、実際に裁判に訴えるケースもあります。実習生の受け入れ団体や実習先が行った不正行為は年々増加しており、実習先から失踪し行方不明になる人も増えています。2015年に失踪した技能実習生は5803人を数え、過去最多を記録しました。東京オリンピックを控え外国人実習生のさらなる増加が予想されるいま、このような人権侵害を放置してはなりません。
   外国人労働者がしっかりと権利を保障されたうえで働くことができる共生・共存のための法制度を構築していくことが求められます。
   2015年12月18日、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は戦争などによる難民や国内避難民など「強制的に避難させられた人々」の年間総数が6千万人を大幅に超え、過去最高を記録する見込みだと発表しました。日本に難民申請を行う外国人の数も5年連続で過去最多を更新しており、2015年も7586人が申請し過去最多を更新しました。
   しかし日本は難民審査があまりに厳格で、昨年も認定を受けたのはわずか27人でした。人道上認められた残留許可も79人にとどまっています。昨年安倍首相は国連の演説において、難民問題に関連して約970億円の資金を拠出して援助することを表明する一方、受け入れに関しては国内問題の解決の方が先としました。また法務省も認定の対象を拡大するとしつつも、審査の厳格化も同時に進めるという矛盾した方針をとっています。
   財政支援だけでは難民は難民キャンプでの生活を長期間にわたって強いられることになり、医療や教育を受ける当然の権利からも疎外されることになってしまいます。難民の人権問題に真摯に応えるのであれば、資金援助よりもまずは受け入れることが先ではないでしょうか。難民の人権を守るために、政府に対しては受け入れの拡大を求めていく必要があります。

(4)   法制度に関して

   冤罪をなくすためのとりくみに関しては「狭山事件の再審を求める市民集会」(5月21日と10月30日、日比谷野外音楽堂)に参加し、一日も早い再審の実現を訴えました。
   刑事司法改革関連法案は昨年8月に衆議院を通過しましたが、参議院での十分な審議時間が確保できなくなったことから、通常国会で成立しませんでした。この改正案が成立した場合、取り調べの可視化はその範囲を著しく限定されたものになり、さらには録音・録画するかどうかの判断も捜査側の裁量によって決められることになります。これではかえって冤罪が増える恐れがあります。また「司法取引制度」の導入には、自分の刑を軽くするために事件とは無関係な第三者を「首謀者」として名指ししてしまうなどの問題点があり、これも冤罪をより増加させる危険性があります。そして通信傍受の範囲が大幅に拡大されれば、捜査機関の権限はさらに強いものとなってしまいます。
   この法案は、取り調べの可視化を義務付けることで捜査機関の権力を制限し、冤罪事件が二度と起こらないようにしようとしてきたわたしたちの運動とは真っ向から対立するものであり、到底看過することは出来ません。わたしたちは取り調べの全面可視化を求める各運動団体との連携をより深め、引き続き法案に対する反対の声を強めていかなければなりません。
   また2015年11月にパリで発生した同時多発テロを受け、政府・自民党内からは再び共謀罪の新設を求める声が上がり始めています。具体的な犯罪について2人以上が話し合うだけで処罰することができるという共謀罪は、犯罪行為があって初めて処罰できるという刑法の大原則に違反するだけでなく、思想・表現の自由を著しく抑圧するものです。テロへの不安に便乗したこのような権力の暴走を決して許すことなく、わたしたちは一層権力への監視を強めていかなければなりません。
   障害者差別解消法の施行(2016年4月)に向けて、各省庁によるガイドライン作りや条例案作りが進んでいます。しかし、障がい者雇用を行っている企業であっても「障害者差別解消法」への対応策を実施または検討している企業は2割に満たないという調査結果もあります。また、政府が全国の市区町村などに設置を進めている「障害者差別解消支援地域協議会」の準備もほとんど進んでおらず、このままでは協議会がほとんどないまま4月を迎えることになってしまいます。障がい者差別をなくすための法律が実体を伴うものとなるよう、今後も当事者団体とともに運動を進めていかなければなりません。
   民主党政権において閣議決定までされた人権救済機関の設置でしたが、国会では審議されないまま廃案となりました。しかしマイノリティに対する差別の激化や削減され続ける社会保障を考慮したとき、差別禁止・人権救済の制度整備の必要性はいっそう高まっています。引き続き被差別当事者によりそった内容を実現していくためにとりくみをすすめていきます。
   また安倍政権は、すべての子どもたちに学ぶ権利を保障するために制定された「高校授業料無償化」制度に所得制限を導入するという制度改悪を行いました。このように学ぶ権利を「施し」へとすり替えた政府の姿勢を批判しながら、憲法に規定された「法の下の平等」や教育基本法の「教育の機会均等」を具現化する無償化制度本来の趣旨を取り戻さなくてはなりません。

(5)   女性の権利確立

   2016年3月7日、国連の女性差別撤廃委員会は日本政府に対して勧告を含む「最終見解」を公表しました。「最終見解」は、昨年12月に最高裁が「合憲」とした「夫婦同姓」について「実際には女性に夫の姓を強制している」と指摘し改正を求めました。また最高裁の「違憲」判断を受けて再婚禁止期間を6か月から100日に短縮する民法改正案が閣議決定されましたが、これに対しても「最終見解」は「女性に対してだけ特定の期間の再婚を禁じている」として禁止期間そのものをなくすことを求めました。その他にも、職場での差別を禁じ防止するための法的措置を整えることや、指導的地位に占める女性の割合を30%に増やすことなどについても勧告がなされました。
   このように日本にはいまだに多くの女性差別が解決されないまま残されており、女性差別撤廃委員会も今回「過去の勧告が十分に実行されていない」と指摘したほどです。安倍政権は昨年「女性活躍推進法」を成立させましたが、そこに女性差別を根本から解消しようという意思を伺うことは出来ません。
   安倍政権の空虚な宣伝に惑わされることなく、引き続き性差別を認めるような法規定に反対し、真の男女平等社会実現のために運動を展開させていかなければなりません。そのためにも第3次男女共同参画基本計画に盛り込まれた「選択的夫婦別姓の実現」や「男女同一価値労働、同一賃金の法制化」、そして「クォータ制の導入」などの実効性を上げていくことが求められています。

《2016年度運動方針》

  1. 実効性ある人権救済法の制定と国際人権諸条約・選択議定書の批准に向けたとりくみ
    1. 国際人権諸条約の批准促進を求めます。とりわけ、個人通報制度にかかわる条約の選択議定書の早期実現を求めます。実効的な人権救済機関設置の実現に向けて、当事者を中心としたとりくみに参加・協力します。日本政府に国連の人権勧告を遵守するよう求めるキャンペーンを進めます。
    2. 国連の「国内人権機関の地位に関する原則」(パリ原則)にそった独立性と実効性ある人権救済機関を制度化する法律の制定、「差別禁止法」の制定に向けて各運動団体と協力して政府に対し実現を求めていきます。
    3. 全国の自治体でより充実した「人権教育・啓発推進に関する基本計画」を策定・実行を求めるとともに、「人権のまちづくり」や「人権の核心は生存権」との認識のもとに生活に密着した「社会的セーフティネット」などのとりくみを広げていきます。また、地域・職場でさまざまな差別問題など人権学習・教宣活動をおこないます。

       
  2. 地方参政権など在日定住外国人の権利確立のとりくみ
    1. 韓国の「在韓外国人処遇基本法」(2007年)などに学び、在日外国人の権利確立の制度実現に向けたとりくみを進めます。
    2. 差別なき定住外国人参政権法案の制定に向けて、全国各地でとりくみを進めます。
    3. 子どもの権利に立った外国人学校の整備など多民族・多文化共生社会の実現に向けたとりくみをおこないます。「朝鮮学園を支援する全国ネットワーク」をはじめ、全国各地でのさまざまな動きに注視・連携しつつ、朝鮮学校支援のとりくみを進めます。高校授業料無償化の朝鮮学校への適用をめざしてとりくみます。
    4. 2012年より本格運用が開始された改定入管法の問題点を検証し、これを見直させるため外国人人権法連絡会や日弁連のとりくみに参加・協力します。
    5. 無権利状態におかれた外国人労働者などの救済に向けて外国人研修生権利ネットワークなどのとりくみや、生活と権利を守るための外国人労働者総行動「マーチ・イン・マーチ」のとりくみなどに協力します。

       
  3. 司法制度・地方主権などに関するとりくみ
    1. 裁判員制度は多くの問題点があるので、抜本的に見直させるとりくみをおこないます。
    2. 最高裁判所裁判官国民審査にかかわって、日常的な判決チェックをおこなうとともに、権利の行使として「×」を増大させるとりくみを進めます。また、期日前投票などの改善を中央選管に求めます。
    3. えん罪をなくすとりくみに参加・協力するとともに、実効性のある「取調べ可視化法」の実現をめざします。
    4. 障害者権利条約の完全実施を求める当事者団体のとりくみに協力します。
    5. 重大な人権侵害をもたらす恐れが指摘されている医療観察法の廃止を求めるとりくみに協力します。
    6. 「共謀罪」などの人権抑圧につながる法制度に反対するとともに、「特定秘密保護法」の廃止を求めます。
    7. 警察公安による微罪逮捕や自衛隊による取調べ事件や情報収集増大の動きを警戒し、不当弾圧、人権侵害を許さないとりくみをおこないます。
    8. 地方分権を促進し、地方自治体の自主財源の確保とともに、条例制定権の拡大、拘束力のある住民投票の導入などのとりくみをおこないます。
    9. 言論や表現の自由を暴力やテロで封じる動きを許さないとりくみを随時おこないます。

       
  4. 男女共同参画社会の実現に向けたとりくみ
    1. 「男女共同参画第3次基本計画」に明記された「選択的夫婦別姓の実現」「男女同一価値労働、同一賃金の法制化」「クォータ制の導入」などを実効化するため、女性の人権を国際的な水準に引き上げる運動にとりくみます。
    2. 女性差別撤廃条約選択議定書の批准を求めるI女性会議など「日本女性差別撤廃条約NGOネットワーク」(JNNC)のとりくみを進めます。
    3. 女性の重要性・ジェンダーの視点を強調した人権確立の国際社会の流れを活かしたとりくみを進めます。
    4. 平和フォーラム自身の組織構成、諸会議をはじめ、かかわる運動全般で女性が参加できる条件・環境づくりをおこないます。

       
  5. 「過去の清算」と戦後補償の実現に関するとりくみ
    1. アジア・太平洋の人びとの和解と共生をめざして、日本と日本人が戦争に対する反省・謝罪、補償に向けた姿勢を示し、二度と戦争による犠牲者を出さない非戦の誓いを新たにするとりくみを進めます。
    2. ひきつづき首相・閣僚などの靖国参拝や靖国神社国家護持に反対するとともに、政府に国立の非宗教的戦争被害者(関係諸国すべてを含む)追悼施設の建設を要求し、靖国問題の決着を求めていきます。このもとに8月15日に千鳥ヶ淵戦没者墓苑をはじめ各地で戦争犠牲者追悼・平和を誓う集会をおこないます。衆参両院議長、首相・閣僚の千鳥ヶ淵墓苑での追悼・献花との連携をはかります。
    3. 政府による植民地支配・侵略戦争の美化や歴史歪曲を許さず、さらに戦後補償に関する立法化の実現に向けて取り組みを行います。
    4. 2010年の「菅首相談話」にも明記された遺骨問題や文化財返還問題に関するとりくみを進めます。「強制連行・企業責任追及裁判全国ネットワーク」などがすすめる「朝鮮人強制労働被害者補償立法の実現を求める要請署名」に協力します。
    5. 在日朝鮮人の歴史的背景への理解をすすめ、その人権確立をめざすとりくみに協力します。
    6. 司法解決の道は狭められてきたものの、国際法や道義的責任に基づき企業・国に謝罪と補償を求め立法解決への道を開こうとする戦後補償のとりくみに支援・協力します。
    7. 米下院「慰安婦問題」決議をはじめ国際的に広がる日本の首相の公式謝罪表明要求を、首相が真摯に受け止め実行することを求めるとりくみを進めます。
    8. 差別なき戦後補償を求めて東京大空襲訴訟・空襲被害者立法の支援のとりくみをおこないます。また、東京大空襲朝鮮人犠牲者追悼集会などに協力します。
    9. 1967年から戦前の「紀元節」を「建国記念の日」とした問題点を忘れず、2月11日に歴史認識にかかわる集会をおこないます。

       

7.   核兵器廃絶に向けたとりくみ

(1)   核廃絶に向けて

  1. 世界の核状況
       オバマ米大統領がプラハで行った「核兵器のない世界」演説から7年たちます。イランとの核合意の成立など、核軍縮に関する重要な進展があったものの、1月6日に行われた朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の4回目の核実験に象徴されるように、世界の核状況の危機状態は続いています。冷戦期以来と言われるロシア・米国間の緊張と、トルコによるロシア軍機撃墜など中東のテロ組織も絡んだ戦闘が状況をより一層難しいものにしています。終末時計で有名な「ブレティン・オブ・アトミックサイエンティスト」も、1月26日、その針が世界の終わりまであと3分のまま動かさないことを発表、核兵器物質の拡散問題などが緊急であることを強調しました。
       2016年4月に広島で開かれたG7外相会合は、「核兵器の無い世界」の実現をアピールする広島宣言を発表し、ジョン・ケリー米国務長官をはじめG7の外相達は4月11日に広島原爆慰霊碑に献花しました。昨年、メキシコやアイルランドによる国連決議「多国間核軍縮交渉を前進させる」によって、国連総会の下部機関として設けられた「公開作業部会」は、核兵器の非人道性に関するアプローチによって、核兵器国と非核兵器国の間の亀裂が鮮明になっている事態を改善する試みとなっています。しかし、G7広島宣言では、この非人道性の論議から核兵器の法的禁止へとつながる文脈には寄らずに、言葉の上のみで「非人間的な苦難」と言う表現を使うに留まりました。
       一方で、安倍首相は2015年12月12日、日印原子力協定に基本合意しました。インドは核拡散防止条約(NPT)の枠組みに入らず、核兵器を開発、保有する国です。隣国のパキスタンも競うように核兵器を持つに至りました。核兵器の削減、さらには廃絶をめざす世界の市民にとっては、唯一の枠組み条約であるNPTにも入らないインド、パキスタンの核兵器は、カシミール地方で軍事衝突を繰り返して来た歴史的経緯もあり、最大の懸念であると言えます。
       2008年の「原子力供給国グループ(NSG)」の総会では、それまで国際原子力機関(IAEA)がその原子力関連活動のすべてを保障措置の対象として査察をしていない国に原子力関連輸出をしないというガイドラインを変えて、インドを例外扱いすることを認めました。この例外措置には、インドが一部の原子力施設をIAEAの査察対象にすることを認めたことが理由とされていますが、どの施設を対象にするかインド政府が決めることが出来、IAEAの「保障措置」自体、核兵器転用が無いことを保障しない、インドの核開発を制約できないものとなっています。
       大型の原子炉圧力容器に関しては、日本製鋼所が世界の原発向け大型鍛鋼品のシェアを持っていることから、日本製の原子力関連機材が輸入できない現状もインドの原発建設の進まない一因と言われています。
       米印原子力協力協定では、米国起源の使用済み核燃料の再処理を認めるものとなっています。インドが「民生用」とする原子力施設でもプルトニウム生産が可能となるわけで、いずれ日本が核燃料サイクルを口実にプルトニウムを備蓄してしまったように、インドも大量の核兵器物質をためることになるかもしれません。核兵器保有国をふくめ世界中でプルトニウムや濃縮ウランなどの核兵器物質の余剰が問題になる中、インドやパキスタンは核兵器物質の増産をすすめています。また、弾道ミサイルの長距離化や、戦略原子力潜水艦の配備など、対パキスタンのみならず、対中国をもにらんだ核軍拡でインドはさらなる核兵器競争へと進もうとしています。
       この状況での日印原子力協力は、世界的に大きな意味を持つものです。日本はこれまでインドとの交渉で包括的核実験禁止条約(CTBT)への署名・批准を求めていく姿勢を続けてきました。インドからは自主的核実験モラトリアムの継続の表明を得ています。政権政党が変わっても歴代の政権で最低限維持して来た核不拡散への表向きの姿勢と言えます。ところが、今回の合意では、CTBT早期締結や、使用済み核燃料の再処理で抽出されるプルトニウムが軍事転用されないよう担保するかも不明です。日本政府が、これまでの核不拡散への姿勢を変えNPT体制の形骸化を進めることになります。
       カザフスタン、ベトナム、トルコ、ヨルダン、アラブ首長国連邦などと進めて来た原子力協力協定が、インドに関しては、原発の輸出という問題のみならず、核拡散の問題で、これまで被爆国として維持して来た外交姿勢を一変させる重大な問題となります。日本が提案し国連で採択された新核軍縮決議でも、インドを含むNPT非加盟国に対して、非核兵器国としての早期の無条件NPT加盟を要求しています。日印原子力協力協定の締結で、戦後日本で変わること無く支持されて来た非核への姿勢でもある、これらの基本外交を変えることは、到底許されるものではありません。
       
  2. 日本のプルトニウム問題
       PNTL社所有で英国籍の運搬船パシフィック・イグリットが東海村に警備体制も十分に無いまま置かれていた331kgのプルトニウムを米国に輸送中です。2014年3月にハーグで開かれた核セキュリティー・サミットの際、日米共同声明での約束では、危険な核兵器物質を、厳重な保管と処分のために米国に送ることになっていました。3月31日からワシントンDCで開かれた核セキュリティー・サミットで輸送を報告しました。
       運搬船は船舶自動識別装置(AIS)を切り、所在不明となっています。本来、条約でAISを搭載することが義務づけられているのですが、イギリスから東海へ来る際にもパナマ領海に入るまでAIS情報を隠すなどの行動が、デイリーメイル紙の記事で「幽霊船」と言われるまでになっていました。核弾頭80発分のプルトニウムを運ぶのがこの幽霊船です。
       この隠密行動は、プルトニウムがそのまま核兵器の材料であり、このテロの時代にいかに危険なものかを表しています。一方、すでに48トンものプルトニウムを保有しながら、さらに年間8トンも六ヶ所再処理工場で増産しようとする日本の政策の矛盾が、核サミットでも国際的に注目されています。4月5日には、再処理事業を認可法人のもとに移し、積立金制度から拠出金にかえて、電力会社が再処理から撤退できなくする「再処理等拠出金法案」が閣議決定されました。第2再処理工場なども含め、40兆円以上という莫大な資金でプルトニウムを作ることになります。膨大な核兵器物質を管理できなくなれば、巨費をかけたプルトニウムを今回同様、米国で処分してもらうという想定さえ、実際の政策のあまりの非現実ぶりと比べれば実際的です。核セキュリティー・サミットで331kgを処分のために米国に輸送しても、48トンの余剰プルトニウムについては何の措置もないのに「核兵器物質の最小化」を宣言しました。
       日本政府は国際プルトニウム指針に基づき国際原子力機関(IAEA)にプルトニウム保有量を報告しています。これが、政府が「核物質を国際的に査察を受け適正に管理している」のでプルトニウム保有も問題ないとする根拠ですが、核兵器物質として査察の対象になる未照射のプルトニウム量を640kgも過小に申告していました。九州電力玄海3号機に装荷し使わないまま2013年3月に取り出したMOX燃料の分です。MOX燃料は、化学的に簡単にプルトニウムが抽出できる、核兵器に転用しやすいもので、核査察の対象ですが、日本政府は玄海原発に保有するプルトニウムを「使用済み」としてごまかしました。核拡散防止体制に対する重大な違反行為です。国際的にプルトニウムを扱う資格のないことを自ら明らかにする行為です。日本政府は、プルトニウム利用計画のごまかしを直ちに国際社会に明らかにし、核燃料サイクル計画を放棄するべきです。
       日本のプルトニウムの国際的な核拡散問題としては、韓国への影響がまず挙げられます。韓国は日本と同じ再処理の「権利」を主張、米韓原子力協力協定の交渉でも折り合いがつかず、2年間の協定延期の状態にあります。その他の国もこれに倣えば、核兵器製造能力を持った国が増えていきます。最近も台湾が使用済み燃料の再処理を計画していることが報道されました。
       東北アジアの非核化へも影響を及ぼしています。91年の「朝鮮半島の非核化に関する共同宣言」に戻ることが、北朝鮮の非核化への第一歩と考えられますが、そこにうたわれた「南と北は核再処理施設とウラン濃縮施設を保有しない」ことに対して、日本と同じ再処理権利を認めよという韓国の主張が、南北非核化を困難にしてしまいます。
       平和フォーラム・原水禁は連合、KAKKINとともに核廃絶の署名や、核保有国の大使館への働きかけ(2015年8月17~27日、露・米・中・英・仏・イスラエルの各国大使館申し入れ)を行ってきました。引き続き、これらの取り組みを進めるとともに、市民団体も広くかかわるネットワーク「核兵器廃絶日本NGO連絡会」と連携してとりくみを進めていきます。
       

(2)   被爆71周年原水爆禁止世界大会および被災63周年ビキニデー集会のとりくみ

   2015年の被爆70周年原水爆禁止世界大会は、8月1日に福島大会、8月4日~9日にかけて広島大会・長崎大会と開催しました。大会は、2015年のNPT再検討会議を受け、核兵器廃絶への課題を明らかにし、運動の方向性と行動の意義を確認しました。脱原発の課題では、福島原発事故から4年半が過ぎたいまでも10万人を超える被災者が苦しい避難生活を余儀なくされている中で、安倍政権が被災者への援護施策を後退させようとしていること、さらに原発推進政策を推し進め、川内原発や高浜原発の再稼働を強行しようとしていることを特に問題としました。
   また、安倍政権による、戦争法や沖縄・辺野古への米軍基地建設の強行など、世論を無視し、平和を蹂躙する動きに対しても焦点を当てた訴えや発言を引き出していきました。
   2015年は、「あらゆる国のあらゆる核実験に反対」として、体制を問わず核兵器に反対の立場を鮮明にして原水爆禁止日本国民会議を結成して50年(1965年2月結成)を迎えました。「核と人類は共存できない」「核絶対否定」など原水禁の理念や歴史を振り返り、今後の運動を展望するシンポジウムを広島大会の中でおこないました(8月6日・広島)。あわせて森滝市郎初代議長の原水禁の理念をまとめた「核と人類は共存できない」(7月刊、七つ森書館)も刊行しました。
   大会参加者は、福島大会850人、広島大会3400人(開会総会)、長崎大会1800人(開会総会)、国際会議75人、メッセージfromヒロシマ350人となりました。海外ゲストはアメリカ、ドイツ、韓国、台湾など8か国21人が参加。各分科会の参加者は、7~8割が初参加で、原水禁大会が労働組合や各地区の平和学習の第一歩の役割をはたしていることがうかがえました。今年の被爆71周年の大会に向けて、さらに参加体制や参加賛同団体・個人の拡大・強化に向けた工夫が課題です。
   「メッセージfromヒロシマ」(広島大会)、「ピースブリッジin長崎」(長崎大会)など若い世代の真摯なとりくみに大会参加者からも大きな共感が寄せられました。引き続き若い世代のとりくみを支援・強化していくことが必要です。
   また、被災62周年ビキニデー集会と故久保山愛吉さんの墓前祭(3月1日、静岡市・焼津市)を行います。昨年4月のNPT再検討会議が不調に終わり、朝鮮民主主義人民共和国の4回目の核実験の強行など、核兵器をめぐる状況には厳しいものがありますが、あらためて世界の核軍縮の課題を確認し、ビキニ被災について学びます。
   こうした成果と反省を踏まえ、今年度の被爆71周年原水爆禁止世界大会や被災63周年ビキニデー集会の内実を豊かにしていくことが必要です。

(3)   高校生平和大使のとりくみ

   1998年にはじまった高校生平和大使も18年目をむかえ、2015年度は、21名の高校生が平和大使として8月15日~21日にかけてジュネーブの国連欧州本部などを訪問しました。昨年も政府(外務省)から「ユース非核特使」(政府が新設した制度)に任命され、日本の若者の代表として、核兵器廃絶と平和の実現を世界に訴えました。
   これまで国連に訪問した高校生は120名を超え、2015年8月まで集めた署名も164,176筆となり、これまでの累計1,337,598筆となりすでに100万筆を大きく超えました。高校生平和大使の活動は、長崎の高校生の運動から始まり、いまや全国各地に広がり、16都道府県から22名が選出(2015年度)され、その中には今年度も東日本大震災の被災地の岩手や福島からも選ばれ、国際社会に被災地の現状を訴えました。
   この間、高校生の活動を支援する全国組織「高校生平和大使を支援する全国連絡会」をもとに、財政面などでサポートしていきました。引き続きこの支援組織を強化していくことが必要です。若い声と力をさらに広げるための活動とそれを支える人々の結集が、戦後・被爆71年の今年はさらに重要になっています。

《2016年度運動方針》

  1. 核兵器廃絶にとりくむ国内外のNGO・市民団体との国際的な連携強化をはかり、核兵器廃絶に向けたとりくみを進めます。
  2. 政府・政党への核軍縮に向けた働きかけを強化します。そのためにも核軍縮・不拡散議員連盟(PNND)など、国会議員と連携したとりくみをすすめます。
  3. 東北アジア非核地帯化構想の実現のために、働きかけを強化し、具体的な行動にとりくみます。
  4. 日本のプルトニウムへの国際的関心を活用し、再処理問題は、核拡散・核兵器の課題としてとりくみを行います。
  5. 現実的な核軍縮の実現をめざし、日本から同盟国として米国に警戒態勢解除を要請するよう政府に働きかけます。
  6. 核兵器の非人道性声明に署名しながら拡大抑止政策を変えない日本の核政策の矛盾を追及し、先制不使用などの具体的な政策変更を求めていきます。
  7. 非核三原則の法制化へ向けた議論と行動にとりくみます。
  8. 非核自治体決議を促進します。自治体の非核政策の充実を求めます。さらに非核宣言自治体協議会や平和市長会議への加盟・参加の拡大を促進させます。
  9. 被爆71周年原水爆禁止世界大会は、下記の日時で開催します。
          7月下旬            福島大会(予定)
          8月4日~6日      広島大会
          8月7日~9日      長崎大会
  10. 被災63周年3.1ビキニデー集会を2017年3月に静岡で開催します。
  11. 高校生平和大使の活動を支援し、「高校生平和大使を支援する全国連絡会」の活動を強化していきます。

8.   原子力政策の根本的転換と脱原子力に向けたとりくみ

(1)   さようなら原発1000万人アクション

   2011年3月11日に発生した東日本大地震は、東日本一帯に甚大な被害をもたらし、その中で福島第一原発が原子力史上最悪の大事故を引き起こす結果となりました。「安全神話」のもと、原発が国策として強引に進められ、その下で「命」が軽んじられてきたことがあらためて浮き彫りになりました。5年が経ったいまでも事故の収束は見通せず、汚染水や除染、労働者被曝、健康被害など多くの問題が深刻化しています。事故は、あらためて「核と人類は共存できない」ことを教えています。
   3・11以降、作家の大江健三郎さんら9名の著名人の呼びかけの下、「さようなら原発1000万人アクション実行委員会」が結成され、脱原発の大衆的運動を進めてきました。原水禁はそのとりくみの中心を積極的に担ってきました。
   運動は、1000万人署名と大衆集会を中心に進められてきました。1000万人署名はトータルで8,558,168筆(2016年3月10日現在)となり目標の1000万筆まであと約145万筆と迫っています。今年度中には目標を達成し、原発推進の安倍政権に脱原発を突きつけられるよう、引き続き署名活動の強化が求められています。
   さようなら原発1000万人アクションが開催した集会は、「さようなら原発Live&Talk」(5月31日、上野水上音楽堂)、「さようなら原発全国集会in京都」(9月6日、京都市・梅小路公園)、「さようなら原発 さようなら戦争全国集会」(9月22日、代々木公園、25000人)を行ってきました。また、2016年に入り、「原発のない未来へ!3・26全国大集会」(3月26日、代々木公園、参加者35000人)、「講演会 さようなら原発─世界から 福島原発事故から5年 チュルノブイリ原発事故から30年」(3月27日、星陵会館)を開催しました。フクシマの風化に抗し、チェルノブイリとフクシマを結び、核被害を二度と起こさないことが訴えられました。また、安倍政権が進める原発や憲法、沖縄に対する暴走について、民意をことごとく無視する政権に対し強い批判の声があがりました。
   再稼働の動きに対しては、川内原発、高浜原発の再稼働の日に、国会前での抗議行動を取り組んできました(8月11日、10月15日、1月29日)。また、現地で開かれる再稼働反対の集会(10月12日鹿児島、11月1日愛媛、12月5日福井)にも代表を派遣するなど、現地と連帯したとりくみを展開してきました。
   また、福島原発事故から5年目を迎えた福島では、「2016年原発のない福島を!県民大集会」(3月12日、郡山市)が開催され、全国から6000人が結集しました。事故から5年経った今でも10万人近い人々が避難生活を余儀なくされ、事故の収束の目途も立たない状況が報告されました。さようなら原発1000万人アクションとしてもこの行動に協力し、全国へ参加を呼びかけました。またフクシマに連帯して、県民集会から首都圏へ向けて「フクシマ連帯キャラバン」(3月12日~26日)をとりくみ、沿線各地で福島の実情を訴え、各地の市民や市民団体・労働組合との交流を深め、自治体や関係機関への要請・申し入れなどを行いました。
   今後、再稼働では、高浜原発4号機や伊方原発、玄海原発などの再稼働が焦点となります。各地の運動連携が重要なポイントとなっています。さようなら原発1000万人アクションとして集会や緊急行動、申し入れなどを行い、現地での集会やとりくみへの連帯の強化によって世論の喚起をはかることが重要です。

(2)   フクシマ課題の前進を

   福島第一原発事故をめぐる事態はいまだ厳しく、10万人を超す被災者が5年目の春を迎えようとしています。子どもたちの甲状腺の問題、労働者の被曝の増大、汚染水の漏えい、中間貯蔵施設の問題、帰還と補償切り捨ての問題など、山積する課題の中で、いまだ事故の収束の見通しすら立っていません。
   被災者は、放射性物質汚染地域から長期にわたる避難を強いられ続けています。生活や就労、そして健康など心身にわたる苦労がすでに5年も続いています。そのような中で、一部除染しただけで、いまだ放射線量が高い故郷へ帰還させ、それに合わせ補償の打ち切りがなされようとしています。安倍政権が進めようとする補償の打ち切りは、福島原発事故の早期幕引きであり、被災者に対しては、「棄民」政策とも言えるものです。ここには、被災者に寄り添う姿勢に欠けるものがあります。被災者の不安解消や補償、医療の充実などを早急にはからなければなりません。「命」に寄り添う私たちの運動の真価がいま問われています。
   また、政府が立ち上げた原子力損害賠償紛争解決センター(原発ADR)は、原発事故の被害者に払う慰謝料などの損害賠償について、不十分だと考える人の申し立てを受ける国の機関ですが、これまでに計約1万2千件の申し立てがあり、そのうち約7割が和解したとされていますが、最近、東京電力はその和解案すら拒否する事例も目立ち、事故責任者としての責務さえ果たしていません。東電や政府の事故責任の追及も「フクシマ原発告訴団」などの運動とともに追求していくことが重要です。
   広範囲に渡って広がった放射能汚染の問題は、福島県のみならず県境を越えて広がっています。除染問題、健康問題、がれき処理問題、そして住民差別の問題も浮上してきています。被災住民に寄り添う丁寧な対応が求められています。
   原水禁は原発震災当初から「妊産婦並びに乳幼児・児童・生徒などの避難の実施要請」や「こども被災者支援法」の具体化を求める全国署名を展開し、これまでに100万筆以上を集め、2014年2月17日に内閣府、復興庁、衆参両院議長に提出するなど被災者の切実な要求に沿って行動してきました。さらに、復興庁への申し入れなども行ってきました。また、全国労働安全センターやヒバク反対キャンペーンなどの市民団体とともに、数度に渡って被曝労働や甲状腺検査の問題について政府と交渉を行ってきました。
   こどもの健康面においては、2011年から2015年9月30日まで、福島県による「県民健康調査」が行われ、子どもの甲状腺検査が進められ、昨年11月30日にその結果が発表されました。一巡目で約30万人、2巡目に約17万人が受診し、1巡目では113人全員の手術が終わり、112人が悪性がんと診断されました。2014年4月に始まった2巡目の検査では、悪性(16人)または悪性の疑い(35人)と診断された子どもは51人となりました。この人達は、事故から3年半までの間に行われた1巡目検査では、ほとんどが「問題なし」と判断されていました。約30万人が受けた1巡目検査と合わせ、現時点で悪性がんと確定したのは116人、疑いがあるとされた人は計50人となっています。
   このことを発表した「県民健康調査」の検討委員会は、今回の結果は福島原発事故との因果関係を否定していますが、他の対照群との比較調査もないまま、一方的に「ない」とすることは問題で、被曝線量に応じたリスクは存在し、県民の「不安」に応えたものになっていません。
   放射能との関係については、慎重に議論されるべきですが、科学的な議論を真摯に行い、市民に情報を提供することは当然ですが、一方で予防原則を考慮した対応が求められています。多くの子どもたちが「ガン」と診断され、心を痛めていることをしっかり受け止めなければなりません。今後、長期にわたる公的なケアと医療面、経済面でのサポートが必要です。県民の健康不安、特に子どもの健康にしっかりと向き合い、行政や医療の制度の確立とその充実が求められています。ヒロシマ・ナガサキの被爆者援護法のような国の責任で法的位置づけを持った制度の設置も求められています。さらに今後も長く続く事故の収束作業などの被曝労働や除染作業に対しても、被曝の低減を求めるとともに、安全な労働環境の整備を追求していくことが必要です。

(3)   行き詰る原子力政策との対決

  1. 安倍政権のエネルギー基本計画に対決する
       安倍政権は、民主党を中心とした前政権が国民的意見を求めて決めた「2030年代原発稼働ゼロ」をめざす政策をいとも簡単に放棄し、2014年4月11日に「エネルギー基本計画」を閣議決定しました。基本計画では、原発の再稼働や再処理、もんじゅ開発を含めた核燃料サイクルの推進、原発輸出など原発推進政策に回帰した内容となっています。現在も世論調査で脱原発を求める国民は多数を占めており、原発推進政策への前のめりの姿勢は、非常に危険であり許すことはできません。
       安倍政権の原発推進の流れに対決していかなければなりません。今年は、福島原発事故の対応とともに各地の再稼働が引き続き大きな焦点となります。再稼働や核燃料サイクルの推進に多くの資金や資源を投入するのではなく、福島原発事故の収束や廃炉問題など山積する課題への対応に全力をあげるべきです。脱原発を進める運動にとって、安倍政権の原発推進政策と対決するまさに正念場ともいえる年です。
       
  2. 原発の再稼働阻止と老朽化原発とのたたかい
       九州電力・川内原発1、2号機(8月11日、10月15日)に続き、関西電力・高浜原発3号機の再稼働(1月29日)が強行されました。しかし、3月9日に大津地裁は、高浜原発3、4号機の運転差し止めを認める決定を下しました。福井地裁に続くもので、今回は稼働中の原発を止めるという画期的な判決でした。「発電の効率性は甚大な災禍と引き換えにすべき事情はない」「高浜3、4号機については過酷事故対策について危惧すべき点があり、津波対策や避難計画にも疑問が残るなど、住民の人格権が侵害される恐れが高い」「原発の安全性は資料を多く持つ電力会社側が主張すべきだが、関電は安全性が確保されていることについて説明を尽くしていない」などと厳しく指摘しました。安全性の説明は関電側に求められ、避難計画の実効性にも疑問が出され国の責任が問われるものでした。安倍首相は「世界で最も厳しいレベルの新規制基準に適合すると判断した原発のみ再稼働を進める」「エネルギー供給の安定性確保には原子力は欠かすことができない」と述べただけで、裁判で指摘された国の関与の問題(避難計画の策定やその実効性など)については、まったく触れることもなく、司法の決定に真摯に向き合う姿勢はありませんでした。
       この間、原子力規制委員会が川内原発、高浜原発、伊方原発などの審査書を相次いで出す中で、田中俊一委員長は「これで安全を保証したものでない」と繰り返し発言していますが、原子力規制委員会が再稼働にお墨付きを与えていることには変わりありません。地震や火山、活断層の問題、避難(防災)計画の問題など、様々な問題を残したまま推進側は強引に再稼働を進めようとしています。
       今後の再稼働の動きについては、伊方原発3号機が7月に再稼働させる計画を打ち出しています。高浜原発3、4号機の差し止めに関する異議審査も進められ、その決定も秋以降と言われています。一方で沸騰水型(BWR)のモデルケースとして柏崎刈羽原発6、7号機が優先的に審査が進められていましたが、耐震設計をめぐる東電の資料準備不足などで、審査終了が今秋以降と言われています。
       高浜原発1、2号機は40年を超す老朽原発となっています。2013年7月施行の改正原子炉等規制法で、原発の運転期間が40年とされ、さらに20年延長するために原子力規制委員会の認可があらためて必要とされました。そのために運転期限(40年)の1年前までに規制委員会に申請することが必要となり、施行から3年は猶予期間とされましたが、16年7月が期限とされ、関西電力は、現在申請に向けて動いています。
       老朽原発の運転延長に対し、安全性や経済性の面からも問題を指摘していくことが重要です。すでに日本原電・敦賀1号、関西電力・美浜原発1・2号、中国電力・島根原発1号、九州電力・玄海原発1号の5基は40年を超え廃炉となることが明らかになり地元との協議に入るとしています。また、最近では四国電力が伊方原発1号機の廃炉を決めるとの報道がありました。老朽原発をめぐる環境の厳しさは、原子力政策の終焉を示しています。
       今後、再稼働の動きに対して当該の自治体はもとより30キロ圏内の自治体判断が焦点となり、自治体での防災計画・避難計画の策定と30キロ圏内の自治体合意・住民合意が鍵となります。自治体や地域住民へ「再稼働反対」の働きかけの強化が求められています。
       再稼働反対の運動では、川内原発再稼働反対で、鹿児島市内で全国集会や現地ゲート前集会などが開かれ、再稼働阻止を訴えました。東京においても「川内・高浜原発を再稼働させない!東京集会&デモ」(1月24日、豊島公会堂)が開催されました。原子力規制委員会が使用前検査に入る2015年3月30日には、国会前での抗議集会(さようなら原発1000万人アクション呼びかけ)をはじめ、8月11日、10月15日の稼働日に首都圏からの連帯を示す行動を行いました。高浜原発の再稼働の日(1月29日)にも、国会前での抗議行動を取り組んできました。また、現地で開かれる再稼働反対の大衆集会にも「さようなら原発1000万人アクション」の代表を派遣するなど、連帯したとりくみを展開してきました。また、大津地裁の高浜原発3・4号機運転差し止め決定判決に対して支持する「見解」(3月10日)を発表しました。
       原発が集中立地する福井の運動の陣形の強化めざして、福井県平和センターの呼びかけで、福井に隣接する京都・滋賀・岐阜の原水禁・平和フォーラムを軸にした「脱原発若狭湾共闘会議」の活動に協力してきました。今後も各地への連携・連帯・支援の動きを広げていくことが重要です。
       
  3. 中越沖地震から9周年とJCO臨界事故から16周年
       福島原発事故に先立つ4年前の2007年に起こった新潟県中越沖地震による柏崎刈羽原発事故の教訓は福島原発には生かされず、原子力の「安全神話」が先行し、フクシマの惨事がおこりました。地震と原発の問題は、先の高浜原発差し止め判決でも大きな焦点となりました。また、川内原発の再稼働審査でも火山との関連も含め問題になっています。原発推進側は、活断層と地震を過小評価しており、老朽化する原発が増える中、耐震性にも大きな問題があります。
       福島原発事故での地震と耐震性の原因究明もなされないまま、次々と原発の再稼働がされようとする流れの中で、柏崎刈羽原発事故についても徹底した検証とそこからの教訓をつかみ取ることも重要です。この間、「中越地震8周年柏崎刈羽原発集会」(7月12日、柏崎市)に協力してきました。
       原発の安全神話を考える上で、1999年9月30日に起きたJCO 臨界事故も忘れてはなりません。事故を起こしてもなお「安全神話」を信じ続けたことが、福島原発事故につながっています。JCO 臨界事故の教訓をしっかり学ばなかったことは、今の福島原発事故の教訓を十分学ばないうちに原発の再稼働を進めることと同様に、新たな大事故が懸念されます。JCO 臨界事故15周年集会(9月26日、茨城・東海村)を開催し、そのことをあらためて確認しました。
       今後も福島原発事故に先立つ2つの大きな事故から今も学ぶべきことを強く訴えていきます。なお、耐震問題では、昨年3月25日、敦賀原発2号炉については、原子力規制委員会の有識者評価で、敷地内断層が「活断層」と報告され、東通原発1号機についても活断層として可能性を認めましたが、その「活動性」で評価が分かれる結果となりました。今後の原子力規制委員会の判断が焦点となりますが、活断層の上に原発を置くこと自体が問題です。中越沖や東日本の震災の教訓を生かし、原発の安全性の問題を考えるうえでも活断層問題を追及していくことが重要です。
       
  4. 破綻する核燃料サイクルに対するとりくみ
       六ヶ所再処理工場では、新規制基準の導入により現在適合性などの審査が進められていますが、その判断が下されるめどはいまだ明らかではありません。施設近傍の活断層の問題、耐震問題などで問題とされています。完工予定はさらに延期され、18年3月と発表されました。23回目の延期です。MOX加工工場も合わせて5回延期され、2019年に完工予定とされました。
       また、核燃料サイクルの破たんを象徴する高速増殖原型炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)に対して、ついに原子力規制委員会が運営者を代えるよう文部科学省に勧告しました。運営主体である日本原子力研究開発機構に、もんじゅを運営する資格はないというレッドカードを突き付けました。来年4月までにまとめ5月には運営主体を明らかにすることを求めていますが、現時点ではその候補は見つかっていません。今後も新たな運営主体がみつかると思えません。高速増殖炉は、使用済み核燃料を再利用し、発電すればするほど燃料が増えていく"夢の原子炉"といわれていましたが、技術的欠陥と不正が常につきまとっていました。この間、動燃から核燃料サイクル開発機構、そして日本原子力研究開発機構へと運営者は代わりましたが、その体質は変わらないまま、今日まできてしまいました。現在、もんじゅは、運転を止めてもナトリウムが固まらないよう電熱で温める必要がりあり、そのために大量の電気を使い、一日5500万円とも言われる巨費を浪費しています。20年もまともに動かず、廃炉費用として3000億円(2012年に試算)もの巨額の資金を浪費するもんじゅは、速やかに廃炉にするしかありません。
       さらにプルサーマル計画や高速増殖炉開発のとん挫などにより核燃料サイクル政策そのものが、すでに破たんしている状況にあって、プルトニウム利用の見通しがまったく立たない状況にあります。そのような中で処理施設建設・稼働に執着することは、核不拡散の観点からも問題となっています。使い道のないプルトニウムを大量に作り出すことは、日本の潜在的核開発能力のポテンシャルを高め、核セキュリティ上も問題です。現在約48トンものプルトニウムを抱え、海外からも問題視されています。さらに、分離したウランの使い道もいまだ明確な方針がでていません。まさに明確な計画なきまま進められようとしています。
       原水禁は、青森での「反核燃の日」行動(2015年5月30日、青森市ほか/2016年4月9日・青森市ほか)や、福井での「もんじゅを廃炉へ!全国集会」(12月5日、福井市)を行い、核燃料サイクル路線の破綻を明らかにしてきました。 「反核燃の日全国集会」の前段に、大間原発(大間町)、東通原発(東通村)、リサイクル燃料備蓄センター(むつ市)、日本原燃(六ヶ所村)など事業者や立地自治体への申し入れ・要請行動(2015年5月29日/2016年4月8日)も行ってきました。また、東京においては「再処理止めたい!首都圏市民のつどい」(原水禁が連絡先)とともに、2004年12月以来、毎月第4水曜日に国会議員へのニュース配布と経済産業省申し入れ行動、定例デモに市民とともに協力してきました。
       もんじゅの運営主体の見直しを進めている国の動きに対して、原水禁として原子力資料情報室に委託研究として「もんじゅに関する市民検討員会」を組織(2016年2月3日)して、市民の側からもんじゅの在り方の提言を今年4月までにまとめ上げることにしています。運営主体をめぐる国の議論は、夏まで持ち越される動きもあります。提言を広く公表し、議論を起こしていくことが必要です。「新もんじゅ訴訟」の支援とともに、もんじゅを廃炉へ向けた取り組みを強化していくことが重要です。
       プルサーマル問題では、関西電力の高浜原発の再稼働で、MOX燃料が4体装荷されて事故後初めてのプルサーマルとなりました。しかし、この稼働でプルサーマル計画(当初予定では2015年以降15基~18基の原発で実施)が順調に進むことにはならず、各地の原発の再稼働さえ先行きは不透明です。現状では、プルサーマル計画を推進しても、余剰プルトニウムを減らすことにはならず、かえって管理・処分の難しい使用済み燃料と化すだけです。高浜原発が差止められ、またも計画はゼロに戻りました。ますますその先行きは不透明になっています。一方でプルトニウムの「大量」消費に期待がかかるフルMOX燃料の大間原発は、対岸の函館市が建設中止を求め訴訟を起こすなど、その先行きも不透明です。その大間原発に対しては、「やめるべ、大間原発!さようなら原発青森・北海道合同集会」(2015年9月12日・大間町)の開催に協力してきました。
       高レベル放射性廃棄物の問題はいまだ解決の目途も立っていません。処分方法、処分地、国民的合意など、どれ一つ解決されていません。現在、北海道・幌延と岐阜・東濃で研究が進められていますが、そのまま近傍が処分地になる危険性も指摘されています。危険な放射性廃棄物のゴミ捨て場を安易につくらせないことが重要です。幌延は深地層研究所問題が起きて今年で30年となります。現地での粘り強い闘いと連帯し、運動をさらに強化し課題の全国化を図ることが重要です。「北海道への核持ち込みは許さない!幌延デー北海道集会」(11月23日、幌延町)開催に協力し、各地からの結集を行ってきました。核燃料サイクルの闘いを現地だけの問題にさせないことが重要です。
       安倍政権は、先のエネルギー基本計画の中で、核燃料サイクルの推進を唱っており、破綻した再処理路線の現実を広く明らかにしていく必要があります。プルトニウム利用においては余剰プルトニウムを持たないことを国際公約と掲げていますが、原発が停止する中にあってはこれ以上の使い道がないことは明らかです。国際的にもこのことを強くアピールしていくことが求められています。原水禁世界大会でも核燃料サイクルと核拡散の問題を明らかにしていきます。
       
  5. 原発輸出に反対するとりくみ
       トルコとアラブ首長国連邦(UAE)に原発関連の資材や技術の輸出を可能にする原子力協定承認案が、2014年4月4日の衆議院で賛成多数で可決され、発効しました。原発輸出を成長戦略の目玉として掲げる安倍政権は、今後も各国との原子力協定を積極的に推進し、原子力産業の延命をはかろうとしています。特にトルコとの協定では、UAEとの協定には書かれていない再処理の問題が指摘されています。日本が書面で同意すれば、輸出した核物質について、核兵器への転用にもつながる再処理を認める規定があり、国際社会からは核拡散の面からも問題となっています。さらにトルコは地震大国であり「イスラム国」(IS)の問題もあり輸出そのものが大きな危険を伴っています。
       中東では、トルコ、UAE、ヨルダンといった国々への輸出が、安倍首相の中東外交を踏まえ、進められようとしていますが、ISのテロ問題など新たな問題が出ており、日本の道義性とともに原発がテロの対象になることの危険性も問われています。
       そのような中で、ベルギー・ブリュッセルの連続爆破テロの実行犯が原子力発電所をターゲットにしていたことが明らかになりました。仏エネルギー大手エンジーは、3月22日、ベルギー北部のアントワープにあるドエル原子力発電所で職員に退去命令が出たことを報じました。地元紙は自爆したバクラウィ兄弟が核プログラム責任者の自宅近くに隠しカメラを設置し、10時間記録していたと報じました。さらにベルギー当局の要請を受け、同社が運営するベルギー南部にあるティアンジュ原発の大半の作業員を避難させたことを明らかにしました。原子力発電所(施設)がテロの標的にされる時代に入ったことは、国際法も通じないISのような非国家組織が暗躍する時代を原子力は想定していなかったことでもあります。そのような時代状況にある原子力の危険性も十分考えなければなりません。
       さらにインドへの原子力協定を結ぶことも安倍政権の重要な原子力政策の一つとなっています。しかし、NPTに未加盟で核兵器保有国のインドへの原子力輸出は、核拡散の面からも問題です。原水禁は「日印原子力協定締結合意に抗議する声明」(12月14日)を出し、抗議してきました。今後も原発輸出に対しては、原発の危険性とともに核拡散の面からも追及していきます。
       
  6. 原子力空母の危険性を訴えるとりくみ
       東京湾に浮かぶ60万KW級の原発を積載する原子力空母は、日本の規制基準さえも及ばない原子炉といえます。米軍の管理下という軍事のベールに包まれた中にあり、私たちの生活を脅かしています。原子力空母の母港化反対とともに、原子炉災害の観点からも政府や米国政府を追及していくことが引き続き重要となっています。
       現在、政府は防災計画を見直し、一般の原子炉並みとしていますが。その範囲も5キロ圏と10キロ圏の狭い範囲に限定しています。福島原発事故の教訓からすれば、60万KW級の原子炉の災害に十分対応しているとはいえません。住民の安全を守るためにより厳しい基準と事故に対応する際の日本の関与の幅を具体的に広げていく(例えば安全協定を結ぶことなど)ことを明らかにしていくことが重要です。横須賀、佐世保、ホワイトビーチ(沖縄)などの寄港先の運動とも連携して問題を提起していくことが必要です。  原子力空母の問題では、「米原子力空母ロナルド・レーガン配備抗議全国集会」(2015年10月2日、横須賀市)が取り組まれ、協力してきました。原子力空母の交代という局面を迎え、母港化継続を許さないとりくみを引き続き訴えていくことが重要です。
       

 

(4)   エネルギー政策の転換を

   「エネルギー基本計画」は、民主党政権時に広範な国民的議論を行ない、2030年代までに原発ゼロをめざして方針決定した「革新的エネルギー戦略」を放棄したものです。国会事故調も指摘したように、原発事故は、これまでの政府、規制当局、事業者、学者、マスコミを含めた無責任体制が原因の人災でした。その反省もなく、旧態依然の無責任体制に回帰しつつあります。
   一方で、原発事故後の電力逼迫を背景に電力システム改革が進められて来ています。2016年4月からは一般の家庭でも電気を選べる、電力の「小売り自由化」が始まります。電力取引や小売り売買のルールなどの制度が形になって来ました。8兆円規模の市場が新電力に開放されることになります。
   しかし、太陽光などからの接続申込量が、晴天時の昼間に消費電力を上回る可能性があるという理由で、九州電力など5社が再生可能エネルギー電力の接続を拒否し、原発からの電力を優先する体制が作られています。実際には、再生可能エネルギー電力の申込量より設備容量は少なく、さらに稼働率は30%前後であり、消費量を上回る可能性は非常に低いものです。他電力との融通なども考慮されていません。
   消費者が再生可能エネルギーによる電力を選択して買えるようになるためには、電力の「成分表示」のような発電源の情報開示や、電力小売り事業者の負担になる変動電源の需給調整、高圧に比べて高い託送料金など、多くのハードルが設けられています。消費者の側からも、どのような電気を選ぶか、その選択によってエネルギーの未来を作り出すチャンスを活用しなければいけません。
   データを公表せず、原発による電力を優先させて、再生可能エネルギーを抑制させることは、電力の地域独占を続けている送電網独占の現状を利用した悪質なものです。エネルギー政策の方向性を定める明確な政策誘導を行い、既存の送電網でも活用次第で、再生可能エネルギーをかなりの比率まで高めることを実証したドイツの前例に学ぶべきです。
   現在行われているエネルギーミックスの議論を含め、電力小売自由化制度設計や送電系統の広域運用などの電力システム改革の動きに対して働きかけを続ける必要があります。今後も進められる議論の中で、送配電部門の中立性の一層の確保など、電力システムの改革が後退しないように監視を続けます。
   また、再生可能エネルギー推進によってこそ地域の経済が新しく豊かになります。地域エネルギー民主主義をめざし、再生可能エネルギー促進条例などのとりくみに協力し、その普及拡大をめざします。

《2016年度運動方針》

  1. 原発の再稼働阻止にむけて、現地と協力しながら、課題を全国化していきます。合わせて自治体や政府への交渉を進めます。国会周辺での抗議集会や全国への緊急行動を呼びかけます。
  2. 福島原発事故に関する様々な課題について、現地と協力しながら運動を進めます。フクシマ・プロジェクトを通じて、被災地への連携強化と課題を明らかいしていきます。被曝問題について、政府への要請や交渉を進めます。
  3. 「さようなら原発1000万人アクション実行委員会」の運動に協力し、事務局を担い、「1000万署名」の達成、各種集会等の成功をめざしてとりくみの強化を進めます。
  4. 六ヶ所再処理工場やもんじゅなど核燃料サイクル政策の推進に反対し、現地のとりくみを支援するとともに、国・事業者などへも要請や提言を行います。
  5. フルMOX燃料の大間原発や上関原発などの新規原発の建設中止を求めていきます。
  6. 中越沖地震8周年集会、JCO 臨界事故16周年集会に協力します。
  7. インドや中東などへの原発輸出に反対し、政府などへ要請します。
  8. 原子力空母の危険性を訴え、防災対策について政府や自治体と交渉を行います。
  9. 電力システム改革へ後ろ向きの勢力に注視し、政策決定の過程を明らかにさせるとりくみを行います。
  10. eシフト(脱原発・新しいエネルギー政策を実現する会)と連携し、電力システム改革に働きかける「パワーシフト」キャンペーンに協力して電力の小売り自由化へむけたとりくみを進めます。
  11. 各地の自然エネルギー利用のとりくみに協力します。とくに「再生可能エネルギー促進条例」(仮称)など、地域から再生可能エネルギーのとりくみをつくり上げることに協力します。

9.   ヒバクシャの権利確立のとりくみ

(1)   被爆者の課題解決にむけて

   ヒロシマ・ナガサキの被原爆投下から71年。被爆者の高齢化はいっそう進み、その子どもである被爆二世も高齢の域に入りつつあります。被爆者の残された課題を解決する時間も限られ、援護対策の充実と国家の責任を求めることが急務となっています。
   被爆者の援護施策の充実を求める課題のひとつとして、原爆症認定問題が長年裁判闘争を中心にとりくまれてきました。その結果、被爆者団体と政府は解決にむけた合意がなされ、「基金」の創設や日本原水爆被害者団体協議会(被団協)などとの「定期協議」などが確認され、原爆症認定の課題は前進しましたが、一方で、改定した「新しい審査委の方針」に従って展開されている審査制度の中で、多くの審査滞留や認定却下が生み出されているなど、改善を要する課題もいまだ山積しています。
   原爆症認定裁判でも、昨年10月29日に東京地裁で「ノーモア・ヒバクシャ訴訟」として、最多の原告17人全員が勝訴し、原爆症の認定が認められましたが、厚生労働省は、そのうち6人を控訴し、なお裁判を争うとしています。また、今年4月11日には、長崎で被爆した熊本の被爆者3人について、福岡高裁で原爆症と認める判決がだされました。3人は、2013年に策定した認定の新基準でも原爆症と認められていませんでした。新基準を改めようとしない国の姿勢を裁判所が断罪したともいえます。被爆者に対して、被害の実態を頑なに認めようとしない政府の姿勢が戦後70年を過ぎていまだ変わらないことは大きな問題です。今回の判決でも、原爆の被害を過少に評価しようとする行政の姿勢がまたも断罪されました。このような行政の対応はフクシマの被曝問題にもつながるものです。引き続き原爆症認定など(被爆体験者、二世三世問題も含め)原爆被害の救済の運動に協力をしていくことが重要です。
   在外被爆者の課題は、日本の戦争責任・戦後責任の問題と重なります。高齢化の進む在外被爆者の課題解決も重要です。在外被爆者の援護は国内の被爆者との間にいまだ内容に差別があります。「被爆者はどこにいても被爆者」であり、差別のない援護の実現に向けてさらに運動を強化していかなければなりません。これまで政府は、被爆者健康手帳の交付、健康管理手当の支給、海外での原爆症認定申請など、在外被爆者に関連する施策については「裁判で負けた分だけを手直しする」ことに終始し、差別的な制度の抜本的見直しを行ってきませんでした。このような問題点を被爆70周年原水禁世界大会の分科会で強く訴えてきました。
   国内の被爆者と同じく医療費が全額支給されることは、在外被爆者の切なる願いです。これまで、医療費支給額に年額約18万円の上限(2014年からは30万円)が設けられていた在外被爆者は、原爆後障害などの病苦と貧困の中で医療費の借り入れなどでまかなってきた現状があるにもかかわらず、日本政府はこれまで放置してきました。原水禁は「在外被爆者の医療費を認めない長崎地裁判決に強く抗議する声明」(2015年4月2日)を発し、抗議してきました。今後も在外被爆者への被爆者の平等な取り扱いに向けて、被爆者への連帯と運動を強化していくことが重要です。
   また、同じく在外被爆者である在朝被爆者に対しては、国交がないことを理由にこれまで被爆者援護が実施されていません。これまで確認されていた384人(2007年)の被爆者はさらに高齢のため減少しています。高齢化する在朝被爆者への援護が急がれています。一方で、朝鮮民主主義人民共和国による核実験などの強行により、国際状況、国内状況には厳しいものがありますが、日本の戦争責任・戦後補償が問われる問題でもあり、とりくみをいっそう強化する必要があります。
   被爆体験者の問題では、2月22日、「被爆体験者」161人(うち9人死亡)が、長崎県と長崎市に被爆者健康手帳の交付申請却下処分取り消しなどを求めた訴訟で、長崎地裁は、原告のうち、爆心地の東約7?11キロで原爆に遭った10人の請求を認め、県、市に手帳交付を命じる判決を言い渡しました。松葉佐裁判長は「原爆による年間積算線量が、自然放射線の世界平均(2.4ミリシーベルト)の10倍を超える25ミリシーベルト以上である場合には、健康被害を生じる可能性がある」と指摘し、10人についてはこの基準に該当すると判断しました。
   被爆者を救護したケースなどを除き、国が指定した地域の外で原爆に遭った住民への手帳交付を命じた判決は初めてでした。判決は、東京電力福島第1原発事故後に年間20ミリシーベルトを超える恐れがある地域を計画的避難区域に指定したことや、同事故について世界保健機関(WHO)が作成した健康リスク評価に関する報告書などを基に「25ミリシーベルト以上」の基準を示しました。その上で、本田孝也医師の意見書などから、原告のうち旧戸石村(現長崎市)と旧矢上村(同)の一部で原爆に遭った10人については、この基準を超えると判断しました。一方、他地域の原告は、原爆による年間積算線量が25ミリシーベルトを下回るとして請求を退ける結果となりました。
   敗訴した原告151人は控訴し、引き続き国に手帳交付を求めています。被爆者の権利が一部前進しましたが、判決は被爆の実態からまだまだ過小評価であり、被爆者の根本的救済を求めていくことが重要であり、引き続き裁判を支援することが必要です。
   これまで原水禁は、裁判闘争の支援とともに全国被爆体験者協議会と連携して、署名のとりくみ、厚生労働省交渉や国会議員への働きかけなどを積み重ねてきました。この課題も、原水禁世界大会の分科会でもとりあげてきました。広島・長崎の「黒い雨」地域の課題も近年明らかになってきました。そうした事実に即した被爆地拡大、被害の実態に見合った援護の強化を訴える必要があります。
   被爆者援護法の枠外に置かれている被爆二世・三世は、原爆被爆による「健康不安」の状態に置かれています。この健康不安解消のために、全国被爆二世団体協議会とともに「二世健康診断」のこれまでの単年度措置から恒常的な処置への移行を求めて、法制度に組み入れることを厚生労働省に要求してきました(2015年12月4日)。さらに健康診断内容に「ガン検診」などを加えることも要求してきました。また、「全国被爆二世総会」(2016年2月13日~14日、広島市)にも参加・協力してきました。引き続き、被爆二世・三世を「第五の被爆者」として被爆者援護法の適用を求め、ガン検診追加など被爆者援護法の「付帯決議」に基づく被爆二世・三世対策を求めていくことが重要です。今後も粘り強く全国被爆二世団体連絡会との連携を強化し政府に要求していくことが必要です。
   ヒロシマ・ナガサキの被爆の残された課題にみるように、国による被爆者援護に対する消極的姿勢は、国が「原爆の被害を過小に見せたいがため」にあり、原爆被害を根本から補償しようという立場にないことにあります。ヒロシマ・ナガサキの被爆者に対して十分な補償をさせることは、福島の被災者に対しても補償をさせることと一体として捉え、一つひとつ解決していけなければなりません。
   また、日本被団協が、今年、結成60年の節目の年に当たることから、核兵器禁止条約の実現に向け国内外で大規模な署名活動(被爆者が訴える核兵器廃絶国際署名)を行ない、国連への提出をめざすことになりました。被爆者の核兵器廃絶への願いに寄り添うことは重要であり、署名運動に協力します。

(2)   被曝労働者との連帯を

   福島原発事故によって、住民の被曝とともに、収束作業や除染作業にあたる労働者の被曝問題はますます深刻な状況にあります。高線量の中での作業や劣悪な労働環境がもたらす被曝は、労働者の健康に多くの影響を与えるものです。安心・安全に働くための労働者の権利の確立は、事故の収束作業などの基本となるものであり、福島原発に限らず、多くの原発・原子力施設に共通するものでもあります。
   現在政府は、労働者の緊急時被曝限度を100mSvから250 mSvへ引き上げ、生涯1000 mSvを容認し、2016年4月から施行しようとしています。さらに、緊急時の避難対応する公務員や交通関係者などの被曝線量の引き上げも検討されています。労働者にさらに大量の被曝をさせる動きに反対し、「安全なくして労働なし」の原則を訴えていくことが重要です。
   この間、原水禁・平和フォーラムとして被曝労働者の裁判を支援してきました。福島原発事故以降も厚生労働省や文部科学省、復興庁などへ、被曝低減や安心・安全に働ける労働環境の整備など現地福島の方々をはじめ市民団体や住民団体とともに求め、交渉を重ねてきました。また、「さようなら原発講演会」(12月5日、日本教育会館)でも、被曝労働現場の実態について、元作業員からの訴えがありました。
   今後も、福島原発事故に関連する被曝問題を取り上げ、被曝労働者の権利の拡大や被爆住民の健康管理や補償の課題について当事者と協力していくことが求められています。支援する団体とともに今後もとりくみの強化をはかります。

(3)   世界の核被害者との連帯

   2015年のNPT再検討会議に合わせて、二ユーメキシコ州のウラン採掘に伴う核被害者との交流を深めてきました(4月22~29日・アメリカ)。世界に拡がる核被害は核の軍事利用・平和利用を問わず存在し続けています。核被害者との連携強化は、 ヒロシマ・ナガサキだけではなくフクシマの被害の実相を明らかにするうえでも重要です。原水禁世界大会をはじめさまざまな機会をとらえ連帯の輪を広げることが重要です。
   世界の核被害者との連帯では、「核のない未来を!-世界核被害者フォーラム」(11月21~23日、広島市)において、核被害のない社会の実現にむけたフォーラムの成功に協力しました。また、NPT再検討会議の際に訪問した先住民とともに、ロカホンダ(ニューメキシコ州)のウラン採掘事業に住友商事がかかわろうとする動きに対して、これに反対して、住友商事本社への申し入れと交流会の開催(11月25日・東京)などをおこなってきました。
   さらに、さようなら原発1000万人アクションの動きの中でも、ベラルーシや台湾からゲストを招き、チェルノブイリ原発事故の現状や台湾の脱原発の動きの報告(3月26日~27日・代々木公園・星陵会館)を受けるなど、世界に拡がる核被害の実態を明らかにし、連帯する取り組みをすすめています。引き続き原水禁世界大会などを通じて、世界の核被害者との連携強化をはかることが重要です。

《2016年度運動方針》

  1. 現地と連帯して福島原発事故による核被害に対する責任や賠償そして被害の軽減化を求めます。とくに健康面での国家による補償を求めます。
  2. 被曝線量の規制強化を求めます。
  3. 原爆症認定制度の改善を求めます。被爆者の実態に則した制度と審査体制の構築に向けて、運動をすすめます。
  4. 在外被爆者の裁判闘争の支援や交流、制度・政策の改善・強化にとりくみます。
  5. 在朝被爆者支援連絡会などと協力し、在朝被爆者問題の解決に向けてとりくみます。
  6. 健康不安の解消として現在実施されている健康診断に、ガン検診の追加など二世対策の充実をはかり、被爆二世を援護法の対象とするよう法制化に向けたとりくみを強化します。さらに健康診断などを被爆三世へ拡大するよう求めていきます。
  7. 被爆認定地域の拡大と被爆者行政の充実の拡大をめざして、現在すすめられている裁判を支援します。国への働きかけを強化します。
  8. 被団協が進める援護法の改正要求に協力し、被爆者の権利の拡大に向けたとりくみをはかります。
  9. 被爆の実相を継承するとりくみをすすめます。「メッセージ from ヒロシマ」や「高校生1万人署名」、高校生平和大使などの若者による運動のとりくみに協力します。
  10. 原水禁・連合・KAKKIN(核禁会議)の3団体での被爆者の権利拡大に向けた運動の強化をはかります。
  11. 被曝労働者の被曝線量の引き上げに反対し、労働者への援護・連帯を強化します。
  12. 世界のあらゆる核開発で生み出される核被害者との連携・連帯を強化します。

10.   環境問題のとりくみ

(1)   TPPなど貿易自由化に対するとりくみ

   世界の食料状況は、中長期的には穀物需給ひっ迫と価格の高騰が続くと予想されています。国連世界食糧農業機関(FAO)などが2015年5月に発表した報告では、食料不足に苦しむ人々は世界で約7億9500万人(およそ9人に1人)もいるとされ、依然として深刻な状況が続いています。
   1996年の世界食料サミットでは、2015年までに飢餓人口を5億人以下に削減する目標が立てられましたが、達成できませんでした。こうした中で、今後日本が貿易自由化によって食料輸入を拡大すれば、国際的な食料価格の高騰を招き、飢餓人口が増加する恐れがあります。地球規模での食料問題を解決するためには、各国が生産資源を最大限活用して自給率を高めながら、共生・共存できる「新たな貿易ルール」が必要です。
   こうした状況にありながら、国際的には世界貿易機関(WTO)や二国間・多国間自由貿易協定(FTA)、経済連携協定(EPA)などにより、貿易自由化をめざす交渉が進められてきました。しかし、WTOドーハ・ラウンド交渉は15年近くにわたって進められてきましたが、近年はほとんど進展が見られず、事実上、失敗に終わろうとしています。そのため、各国ではFTAやEPAの推進を図ろうとしています。
   特に、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉については、安倍内閣は2013年3月に交渉参加を表明し、同年7月から正式参加をしました。交渉はアメリカの主導のもとで、12ヵ国が参加をしてきましたが、昨年10月5日に「大筋合意」を発表し、2016年2月4日に各国政府が協定文に署名をおこないました。今後は各国の議会等での承認(批准)が行われて、はじめて発効となります。
   しかし、各国での承認には困難が予想されています。特にアメリカは、今年11月の次期大統領選挙に向けて選挙戦が活発化するなかで、議会審議は困難視されています。また、大統領選挙の有力候補の多くがTPP反対を言明しています。TPPは大企業を利するだけで雇用を奪われるという労働組合の主張や、逆にさらなる市場開放や規制緩和を他国に押しつけようとする業界の圧力が高まっているためです。大統領選と同時に議会選挙も行われるため、議員の反対も多くなると見られています。TPPは規定により、アメリカか日本が2年以内に批准出来なければ発効できません。その他の国でも反対運動が起こっており、発効するかどうかも不透明なままです。
   そうした中で、日本は早々に「合意」内容を確定的に公表し、今通常国会では協定の批准案に加え、来年度の予算にTPP対策費を計上し、関連法案を提出、4月から特別委員会で本格的な審議が行われています。
   TPPは農産物などの市場開放ばかりでなく、各国の独自の規制や基準を撤廃して均一化を図り、究極の自由化を求めるものです。それは、今回の交渉でも最後まで難航した医薬品のデータ保護期間の延長に見るように、「人の命よりも巨大企業の利益を増やすためのルールを押し付ける」ものです。
   特に、投資企業が相手国を訴えて政策の変更を迫ることが出来るISDs条項(投資家対国家間の紛争解決条項)の導入は大きな問題です。この制度を利用して、環境や安全などの国内規制が外国企業に訴えられ、緩和・撤廃させられる危険性があるなど、国の主権を損なうことが指摘されています。これまでもメキシコやカナダ政府などが訴えられ、莫大な賠償と政策変更を余儀なくされています。
   さらに、米国企業が日本の医療制度や薬価基準に対して参入・関与を求めてくることや、食品添加物・ポストハーベスト農薬規制の緩和や、遺伝子組み換え食品の表示に対する圧力によって政策変更が迫られることが懸念されています。さらに、郵便事業や簡保、JA共済などを含む金融・保険、公共事業、労働など、広範な分野に大きな影響が予想されています。しかし、これら多くの問題に関し、保秘義務があるとして、交渉の詳細な内容は明らかにされていません。さらに、交渉経過も4年間も公開されないことになっています。こうした秘密主義は民主主義をも蔑ろにするものです。
   一方、TPP合意は「日米同盟」の強化につながるものです。安倍首相はTPPを「アジア・太平洋地域に自由、民主主義、基本的人権といった基本的価値を共有する国々との開かれた経済システム」と標榜しています。これは明らかに中国に対する囲い込みであり、戦争法案とともに、対中関係の緊張を増すブロック経済化が懸念されています。
   こうしたことから平和フォーラムは交渉に反対してとりくみを進めてきました。関係団体とともに、交渉のヤマ場では「TPP合意は許さない緊急国会行動」(2015年4月24日、5月20日、7月22日、9月29日・国会前)などの他、交渉合意後も、「TPP交渉の情報公開と合意からの撤退を求める緊急集会」(2015年11月13日・国会内)、「検証TPP全国フォーラム」(2015年12月9日・国会内)の開催に協力してきました。また、TPPを考えるフォーラム(2015年5月19日・日比谷図書文化館)の他、定期的な連続講座(2015年9月30日、10月30日、11月30日、12月15日・連合会館)の開催も進めてきました。さらに、関係省庁への申し入れや、日本も含めて共同文書でTPPの交渉内容公開などを求める国際署名(各国の有力議員対象)などの国際キャンペーンも取り組まれてきました。
   2月4日の協定文署名式を直前には、TPP阻止の国際的なつながりを深めようと、「つながれアジア!葬れTPP!国際シンポジウム」(2016年1月30日・田町交通ビル)も開かれ、ニュージーランド、マレーシア、韓国の活動家がTPPの問題点を指摘し、連携強化を確認しました。さらに、国会での審議直前には「TPPを批准させない!3.30国会行動」(3月30日・国会議員会館前、憲政記念館)が、多くの団体・個人による実行委員会主催で行われました。
   また、「第47回食とみどり、水を守る全国集会」(2015年11月27日~28日、金沢市)でもTPPに関する討議が行われ、集会の特別決議をあげました。さらに、TPP交渉が生存権などを侵害するものだとして提訴されている「TPP交渉差止・違憲訴訟」の運動にも協力してきました。協定文の内容についても、日本をはじめ、各国の市民組織などで分析が進められ、国会議員などに情報提供を行ってきました。各地でも集会の開催や、独自にTPPの影響試算が行われています。
   今後もこうした国内外の団体と連携をとりながら、徹底した情報公開を求め、国会決議を無視して批准を行うことに反対していきます。そのため、国会での徹底審議を求めるとともに、集会や行動、政府・議員対策、学習会活動などを進めていきます。
   一方、TPPとは別に、東南アジア諸国連合(ASEAN)10ヵ国と日中韓印豪NZの6カ国による広域的な東アジア地域包括的経済連携(RCEP)交渉や、日本・中国・韓国の自由貿易協定(FTA)に向けた交渉、さらに日米、EU,カナダ、韓国など23ヵ国による「新サービス貿易協定」(TISA)の交渉も進められており、今後のアジアを中心とした各国との連携のあり方も検討していく必要があります。

(2)   水・森林・化学物質・地球温暖化問題・放射能汚染などのとりくみ

   世界的な水不足、有害な化学物質や合成洗剤などによる河川や湖沼の汚染など、水の質と量が大きな問題となっています。一方、グローバリゼーションの進展の中で、水の商品化、水道事業民営化の動きには根強いものがあります。
   そうしたなか、健全な水循環を構築するための「水循環基本法」が2014年3月に成立しました。水の公共性が謳われ、複数省庁で管轄されてきた水行政が総合的に運営されることが期待され、2015年7月には「水循環基本計画」が閣議決定されました。しかし、以前から必要性が指摘されていた「地下水保全法」は、各省からの抵抗を理由に、法案化されませんでした。また、利用者や関係する労働者の意見反映をめざしていたフォローアップ委員会も解散させられました。
   こうした安倍政権の欺瞞性を追及し、基本法の理念を具体化する取り組みが必要です。いのちの源である水の公共性を守り、ライフラインである水道・下水道事業の公共・公営原則を守り発展させることが、引き続き重要な課題となっています。
   2015年3月に発生した、京都市伏見区で化学工場からの合成シャンプーの原液が下水処理場に流れ、宇治川に流出した事件のように、水質汚濁防止や化学物質に対する規制強化も重要です。汚染の発生責任の明確化、農林業での過剰な農薬や化学肥料の使用削減、合成洗剤を含む排水処理の徹底などが求められています。
   平和フォーラムは「合成洗剤追放全国連絡会」の事務局団体として、同連絡会総会(2015年10月10日・全水道会館)をはじめ、運営やニュースの発行などに協力してきました。また各地で水源地域の保全活動や水質検査活動などが進められてきました。
   今後も、化学物質の排出・移動量届出制度(PRTR制度)を活用した合成洗剤の規制など化学物質の総合的な管理・規制にむけた法制度や、有害物質に対する国際的な共通絵表示制度(GHS)の合成洗剤への適用などを求めて運動を展開していく必要があります。また、「第34回合成洗剤追放全国集会」(10月8~9日、金沢市)の開催に協力します。
   環境および農山漁村を守るうえで、森林は重要な役割を果たしています。また、東日本大震災では津波被害を軽減するなどの森林の防災面での機能も改めて見直されました。しかし、地球規模での森林の減少と劣化が進み、砂漠化や温暖化を加速させています。
   日本は世界有数の森林国であり、森林資源は、戦後植林した人工林を中心に本格的な利用が可能な段階に入っています。しかし、大量の木材輸入により、国内の木材自給率は低迷してきました。最近は、国産材の使用拡大施策などが図られ木材自給率が30%台に回復してきました。しかし、TPP交渉の中で合板や製材についても関税が撤廃されることから、長期的に木材自給率等への影響を注視する必要があります。
   平和フォーラムは「食とみどり、水を守る全国集会」などで森林の多面的な機能や、農山村の地域おこし、林業の活性化について学びました。また、各地域でも森林視察や林業体験などが取り組まれてきました。
   今後も、森林・林業政策の推進に向けて、温暖化防止の森林吸収源対策等の確実な実行、木材産業の活性化と、未利用資源を活用した木質バイオマス等、再生可能エネルギー政策なども含めた「森林・林業基本計画」の推進、林業労働力確保、地域材の利用対策などを求めていきます。
   また、山村が担ってきた国土の保全、水源のかん養、自然環境の保全が、主要産業である農林業の低迷、就業機会の減少、過疎化・高齢化に伴い、森林の管理機能の低下により森林の有する多面的機能の発揮が危ぶまれています。里山を含めて、地域資源を活用した林業・林産業の確立、地域雇用の確保を図り、山村における定住の促進を求める必要があります。
   地球温暖化問題では、日本政府は、気候変動枠組み条約締約国会議(COP)に対し、2009年に示した中期目標「1990年比25%削減」を見直し、「2030年までに13年度比26%減」という新目標を打ち出しました。これは、90年比で18%削減にすぎず、「2050年80%削減」という政府の長期目標にも沿わない、極めて不十分な目標です。
   2015年11~12月にパリで第21回締約国会議(COP21)が開催され、2020年以降の温暖化対策に関する新しい国際的枠組みを合意されました。しかし、各国の国別削減目標では、国連の気候変動に関する政府間パネルが提唱する「工業化前に比べ2度以内の気温上昇に抑える」という目標の達成は困難になっています。日本は、長期的な削減目標を明確にして、脱原発と気候変動対策とを両立させる形で再生可能エネルギー・省エネに重点をおく政策実現に向けて早急に議論を進めるべきです。しかし、原発推進に回帰するような「エネルギー基本計画」見直しを行う傍らで、気候変動政策は大きく後退しています。
   こうした安倍政権の姿勢を追及し、COP21に向けて実効性のある温暖化対策を求めて、市民団体を中心にアースパレード(2015年11月28日・日比谷野外音楽堂、29日・京都)が行われ、平和フォーラムも協力しました。
   一方、エネルギー政策をめぐっては、福島原発事故によって、原発推進政策の誤りは明白になりました。しかし、安倍政権は原発の再稼動、諸外国への原発輸出を進めています。しかし、原発はその危険性はもちろん、経済的にもコストが膨大なものになることからも、各国において「脱原発」の動きが広がっています。日本でも再生可能エネルギー促進法に伴い、発電された電力の買取制度が行われ、太陽光を中心に拡大しています。しかし、電力会社は「電力の需給バランスが崩れる」として、一部で再生可能エネルギーの買い入れを拒否しています。また、市民が電力を選べる電力システムの改革の中でも再生可能エネルギー潰しが進められようとしています。
   身近な地域資源を活用したバイオ燃料や風車、太陽光発電など地域分散型のエネルギーの利用を一層推進するため、企業だけでなく、住民、市民、農民が主体となって再生可能エネルギーの事業を興していくことが大切です。そのため法・制度、生産システムの確立を求めていくことが必要です。
   さらに深刻なのは、福島第一原発の事故による放射能汚染問題です。広範囲に拡散した放射性物質は、大気や水、土壌、河川、海洋など環境に対しても多大な影響を与えました。現在も汚染水は増え続け、貯蔵タンクからの汚染水漏れが発覚し、海洋などへの深刻な放射能汚染が指摘されています。
   福島県内では米の全袋検査などが行われるなど、対策が強化されてきていますが、他県産物も含めて、消費者の不安は払拭されていません。福島県平和フォーラム内に開設した放射能測定室において食品や土壌の放射線量測定のとりくみも行われ、平和フォーラムもとりくみを支えてきました。今後も農産物、水産物等の汚染状況の徹底的な把握のために検査態勢と情報の迅速な公開、そして乳幼児や妊婦、子どもへの特段の配慮が必要です。
   また、田畑や森林については、きめ細かな測定や除染が必要です。この作業には膨大なコストと時間を要することになりますが、地域住民の意向を尊重しながら実行していかなければなりません。水についても、飲料水への放射性物質の汚染への監視体制とともに、汚泥や焼却灰などから高濃度の放射性物質が検出されていることから、その処理も含めての対策が求められています。また、大気汚染も深刻であり、広範囲に及ぶ放射性物質の影響調査は不十分なままです。それらの対策も今後の大きな課題です。

(3)   第一次産業の転換や農林業政策のとりくみ

   日本農業は長期にわたって、農業就業人口の減少や高齢化、農業所得の大幅減、耕作放棄地が増加してきました。こうした中で、今回のTPP交渉の合意内容は、日本農業に大きな打撃をもたらすものです。農林業に対する影響について、政府は昨年12月14日に試算を発表しましたが、価格低下により、農林水産物全体で1300億~2100億円の生産額の減少はあるものの、国内対策によって、全農産物で生産量の減少はまったくなく、自給率も維持されると強弁しています。しかし、2013年に日本がTPPに参加する際に行った政府試算では農林水産物全体で約3兆円の減産になると試算しており、今回はその20分の1にまで減らしたことは、「TPPの影響は少ない」と見せかける政治的な数字だと指摘されています。TPP 問題に詳しい東京大学大学院の鈴木宣弘教授の試算では、生産減少額は農産物で1兆2614億円、林水産物を入れると1兆5594億円にものぼるとされています。生産量も、豚肉やミカンなどが半減するなど、大きな打撃があると予想されています。そのうえ、コメや畜産物など一部の農産物で残されている関税も、7年後にはアメリカやオーストラリアなどと再協議を行うことも明記されており、そこで関税の全面撤廃が迫られることは確実です。さらに、農林水産業に関連する産業も含めると一層大きな影響を受けることは確実です。
   こうした検証も不十分なまま、政府は「TPP関連政策大綱」を打ち出し、2015年度補正予算や来年度予算に対策費を盛り込みました。しかし、その内容を見れば、農業の基盤整備などの公共事業費が多くを占め、前途が見えなくなった現場の不安に全く応えていません。日本農業の持続的発展策がない中での、参議院選挙対策ではないかと指摘されています。国会決議で謳う「再生産可能な農業」の実現と、国民の基本的な食料の確保のための方策が求められています。
   安倍内閣は、農林水産業を「成長戦略」の柱の一つにあげ、規制改革会議などの検討を踏まえた「農林水産業・地域の活力創造プラン」(2014年6月改訂)をもとにした政策を進めています。そこでは、農業の担い手への農地集積をはじめ、生産・加工・販売を一体的に担う6次産業化、輸出倍増などを柱に、「今後10年間で農業・農村の所得を倍増させる」との目標を掲げました。しかし、同プランは財界の意向を受けて、農地の権利移動や農業生産法人の要件緩和を進め、「企業の農地所有の全面自由化」につながるものです。
   さらに、農協、農業生産法人、農業委員会に関する改革も強行されました。2015年8月に通常国会で「農協法改正案」や、農業委員の公選制廃止を含む「農業委員会法改正案」、農業生産法人の要件を緩和する「農地法改正案」が可決・成立しました(2016年4月1日施行)。しかし、こうした改革が、農業の活性化や農家所得の向上とどう結びつくのか不明であり、逆に地域農業の維持が困難になると批判が高まっています。こうした改革の背景には経済界やアメリカからの協同組合全体の解体要求や、信用・共済事業の獲得の狙いがあると指摘されています。一連の農政転換は、農業の「競争力強化」よりも、TPP体制も踏まえて、企業による農業・食料の支配を強めるものと言えます。
   一方、昨年度の食料自給率(カロリーベース)は39%と5年連続の横ばいとなり、生産額ベースでは64%と過去最低水準となるなど、依然として低迷が続いています。2025年度に45%の自給率目標が打ち出されていますが、TPPなど貿易自由化によって、さらなる低下が予想されています。これは食料の安定・安全にも大きな影響を与えるものであり、安倍政権の食料・農業政策を厳しくただしていくことが求められています。
   これに対し、農民団体とともに、TPP交渉に反対し、食料・農業政策の確立を求めて、農林水産省等に対する申し入れなどを行ってきました。今後も農民・消費者団体と協力し、食料自給率引き上げや所得補償制度の拡充、食品の安全性向上など、展望のある食料・農林業・農村政策に向けた法・制度確立と着実な実施を求めていく必要があります。
   また、各地域でも、子どもや市民を中心としたアジア・アフリカ支援米作付け運動(42都道府県で実施。カンボジアとアフリカ・マリへ約33トン送付)や森林・林業の視察会などを通じ、食料問題や農林水産業の多面的機能を訴える機会をつくってきました。こうした活動をさらに拡大し、食の安全や農林水産業の振興に向けた自治体の条例作りや計画の着実な実施が必要です。

(4)   食とみどり、水を守る全国集会の開催

   「食の安全」、「食料・農業政策」、「森林・水を中心とした環境問題」を中心とした食とみどり、水・環境に関わる課題について、情勢と運動課題の確認、各地の活動交流のために、石川県金沢市「地場産業振興センター」で「第47回食とみどり、水を守る全国集会」を開きました(2015年11月27日~28日、711人参加)。また、集会の講演・報告やシンポジウムを収録した記録集も発行しました(2016年2月発行)。
   第48回全国集会は2016年11月に北海道札幌市で開催するよう準備します。そのため、関係団体や地域組織に呼びかけて実行委員会をつくります。

《2016年度運動方針》

  1. 国会でのTPP協定批准に反対し、幅広い団体と連携を図りながらとりくみを進めます。そのため、集会や学習会などを開催し問題点を指摘していきます。また、政府に交渉内容の情報開示などを求めていきます。
  2. 「きれいな水といのちを守る合成洗剤追放全国連絡会」の事務局団体として、活動を推進します。特に、「第34回合成洗剤追放全国集会」(2016年10月8~9日・金沢市)の開催に協力します。
  3. 「水循環基本法」の具体化に向けたとりくみを求めます。また、水中や環境中の化学物質に対する規制運動を強めていきます。
  4. 関係団体と協力して、「森林・林業基本計画」で定めた森林整備の確実な推進、地産地消による国産材の利用拡大、木質バイオマスの推進などにとりくみます。
  5. 温暖化防止の国内対策の推進を求め、企業などへの排出削減の義務づけや森林の整備など、削減効果のある具体的な政策を求めます。
  6. 自然(再生可能)エネルギー普及のための法・制度の充実を求めていきます。また、温暖化防止を名目とする原発推進に強く反対します。
  7. 福島原発事故にともなう、環境や農産物などへの放射能汚染に対して、検査体制の拡充、放射性物質の除去対策などの万全な措置を求めてとりくみを進めます。また、大震災によって被害を受けた農林漁業の復旧・復興に向けた対策を求めます。
  8. 農林業政策に対し、食料自給率向上対策、直接所得補償制度の確立、地産地消の推進、環境保全対策、自然エネルギーを含む地域産業支援策などの政策実現を求めます。
  9. 子どもや市民を中心としたアジア・アフリカ支援米作付け運動や森林・林業の視察・体験、農林産品フェスティバルなどを通じ、食料問題や農林水産業の多面的機能を訴える機会をつくっていきます。とくに、支援米運動では小学校の総合学習やイベントなどとの結合、地域連合との共同行動などをとりくみます。
  10. 「第48回食とみどり、水を守る全国集会」の開催(11月、札幌市)に向けてとりくみます。

11.食の安全のとりくみ

(1)   食の安全行政に対するとりくみ

   カレーチェーン店などからの廃棄食品が不正に流通するなど、食の安全と信頼をめぐっては、最近も様々な問題が提起されています。これまでも、偽装表示や残留農薬、原料・原産地表示や添加物など、様々な問題が提起されてきました。さらに、マスメディアなどで「健康食品」の効能効果を謳った違法広告や安全が疑われる商品も多数存在しています。これらの問題は、不当に利益を得ようとする業者だけの問題ではなく、表示制度の不備や罰則規定、監視体制の不十分性、管轄する省庁が多岐に渡る縦割り行政の弊害、そして、効率化優先の生産体制や大量の輸入食料に頼る食料政策など構造的な要因が重なっているものといえます。
   こうした中で、TPP交渉の協定において、食の安全に関わる、衛生植物・検疫措置の適用に関する協定(SPS協定)や、貿易の技術的障害に関する協定(TBT協定)の問題点が指摘されています。SPS協定では「必要以上に貿易制限的でない方法でリスク管理を行う」点が強調され、日本の食品などに対する厳しい規制基準がこの協定の運用によって甘い国際基準や輸出国の基準にとって代わられることが危惧されています。TBT協定においても、各国の食品表示規格の策定に関して他国の事業者が関与できる道を開くなど、多国籍企業に有利な基準に緩和されることが懸念されています。これらは、日米二国間協議や日本政府の自主規制によってすでに実施されているものも多く、さらなる規制緩和につながるものです。
   平和フォーラムが参加する「食の安全・監視市民委員会」では、TPP交渉の大筋合意に抗議する声明や公開質問状を出して、政府をただしてきました。また、全国消費者大会(2016年3月11~12日・プラザエフ)でも、TPPと食の安全問題を取り上げて討論をしました。今後も、TPPが食の安全や安定に与える影響を分析し、問題点を訴えて運動を進める必要があります。
   一方、消費者庁は、これまでの「食品衛生法」「JAS法」「健康増進法」を統合して、2013年に成立した新たな「食品表示法」のもとで、2015年6月に表示基準統一の食品表示法施工令(政令)と表示基準(内閣府令)を施行しました。しかし、事業者側からの圧力により、加工食品及び添加物の表示は5年後、生鮮食品の表示は1年半後に実施されるなど、異例な長期間の経過措置期間が設けられました。こうした業者優遇措置は、安倍政権の消費者軽視の姿勢を示すものです。
   平和フォーラムは消費者団体や生活協同組合などでつくる「食品表示を考える市民ネットワーク」に参加し、1.加工食品と生鮮食品の区分、2.製造所固有記号の廃止、3.添加物の表示の改善、4.原材料名表示等のルール、5.栄養成分表示の改善などを要求して、申し入れや交渉を行ってきました。また、「食の安全・監視市民委員会」は、定期的な連続講座(2015年10月17日、11月28日、12月19日、2016年1月16日・連合会館)を開催してきました。今後は、食品表示法の新たな課題として、1.加工食品の原料原産地表示の拡大、2.遺伝子組み換え食品の表示義務、3.食品添加物表示についても早急に検討するように求めていくことが必要です。
   安倍政権の規制緩和政策の一つとして、2015年4月から新たに「機能性表示食品制度」がスタートしました。これは「体脂肪を減らす」などの効能効果の証拠があれば、消費者庁に届けるだけで表示できるというものです。従来の特定保健用食品 (トクホ)のように、食品メーカーが莫大な研究費を使って臨床試験をする必要はなく、第三者による既存の研究データを活用できるため、開発費が安く済むというメリットがあります。しかし、安全性や効果を示すデータの信ぴょう性が明らかでないことや、公開情報が不十分であることなどの問題点があります。
   平和フォーラムは消費者団体とともに、機能性表示食品制度の運用停止・廃止を求める要請や、院内集会(7月15日・参院議員会館)などで消費者庁と交渉を行ってきました。今後も、機能性表示をめぐる動きを注視し、特定保健用食品(トクホ)や栄養機能食品などの制度も含め、総合的・一元的見直し検討を求めてとりくみを進めていく必要があります。
   一方、食品事故や表示偽装、誇大広告などの問題が相次ぐ中、「食の安全・監視市民委員会」では、市民からの様々な情報や通報などを収集して、問題点を整理して政府や企業に申し入れるための「食の安全・市民ホットライン」を運営してきました。今後も、多くの情報を収集して申し入れなどを進める必要があります。

(2)   食のグローバル化の問題

   食のグローバル化にともない、日本は多くの食料・食品を外国に委ねています。特に今後は、TPP問題とも絡み、アメリカは食品添加物・ポストハーベスト農薬規制の緩和などを求めてくることが予想されます。しかし、こうした輸入食品に対する検査体制は極めて不十分なままです。諸外国との食の安全に関する連携とともに、輸入農産物・食品に対する安全管理の徹底など、消費者の立場に立った食の安全確保を強く求めていく必要があります。
   食品に放射線を照射して殺菌や殺虫、発芽防止などを行う照射食品については、厚生労働省は、ジャガイモの芽止め以外には当面認めない方針で推移してきました。しかし、中国などでは、殺菌などのために放射線照射も数多く実施され、日本で違法な輸入が摘発されていることから、今後も放射線照射食品の輸入監視を求めていくとともに、食品関連業界などに照射食品の問題を働きかける必要があります。
   遺伝子組み換え(GM)食品の表示問題では、現在、表示義務がない食用油や醤油への表示など、改善を求める運動が消費者団体を中心に展開されています。しかし、今後はTPPとも関連して、アメリカからのGM食品の輸入拡大や、日本で行われている表示制度の撤廃などを求められることも予想されます。こうした中で消費者の知る権利を保証する表示の実現を求めていく必要があります。

(3)   自給率の向上と「食育」の重要性

   食の安全を脅かしているのは、国内の低い食料自給にも要因があります。日本は世界最大の食料純輸入国であり、食料自給率(カロリーベース)は4年連続で39%のまま推移し、先進国では最低となっています。政府は新たな「食料・農業・農村基本計画」で、2020年度までの自給率目標を、これまでの50%から45%に引き下げました。しかし、今後、TPPなどで市場開放が進めば、自給率がさらに落ち込むことも予想されています。
   自給率の低下とともに、食のグローバル化が進み、輸入農産物を多用した外食や加工食品が急増しています。その結果、世界有数の長寿国を形成してきた日本人の食生活が急速に変化し、それによる生活習慣病やガン、アレルギーが急増しています。
   こうしたことから、自給率の向上の取り組みとともに、学校や地域での子どもたちへの「食育」が注目されています。これらの問題について「食とみどり、水を守る全国集会」などで討議するとともに、各地域での支援米作付け運動等を通じた地域・子どもたちへの働きかけが進められてきました。今後も、食の背景にある農業まで含めた教育とともに、「食育推進基本計画」に基づき、学校給食に地場農産物や米を使う運動の拡大、栄養教諭の増員などが必要です。また、子どもだけでなく、地域全体での地産地消運動など、食べ方を変えていく具体的な実践が求められています。そのためには、自治体での食の安全条例制定や有機農業の推進などの施策を求める運動もますます重要となっています。

《2016年度運動方針》

  1. 「食品表示制度」に対し、消費者のためになる表示のあり方を求めていきます。とくに原料・原産地表示の徹底・拡大、遺伝子組み換え食品の表示義務、食品添加物表示などの改善を求めていきます。
  2. 「機能性食品表示制度」については、データの公開や表示のチェックができるように求め、制度の運用停止・廃止を求めます。また、それ以外のいわゆる「健康食品」については規制を求めていきます。
  3. 食品偽装や輸入食品の安全性などに対する対策の徹底を求めるとともに、TPP交渉や日米二国間協議にともなう、添加物・ポストハーベスト農薬規制の緩和、アメリカ産牛肉の輸入制限の撤廃、遺伝子組み換え食品の輸入促進などの動きに反対して、消費者団体などと反対運動を進めます。
  4. 食品製造所の所在地が省略される「製造所固有記号制度」の廃止を求めてとりくみます。
  5. 照射食品を認めない運動をすすめます。そのため、政府への要請とともに、食品関連業界や消費者へのアピール活動などをすすめます。
  6. 遺伝子組み換え食品のヨーロッパ並みの表示制度への改善を要求していきます。
  7. 各地域で食品安全条例や食育(食農教育)推進のための条例づくりなどの具体的施策を求める運動をすすめます。また、学校給食の自校調理方式、栄養教諭制度の推進を求め、学校給食に地場の農産物や米を使う運動や、地域内の安全な生産物を消費する地産地消運動などをすすめます。

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