運動方針

2017年04月24日

2017年度運動方針

 

2017年度運動方針

以下は2017年4月24日に開かれたフォーラム平和・人権・環境第19回総会において決定された2017年度運動方針です。

1.平和フォーラムを取り巻く情勢の特徴
(1)アメリカ大統領選挙で過激な差別・排外主義を展開したトランプ氏が当選
昨年の米国大統領選挙で「米国第一主義」を掲げ、「移民の排斥」などの過激な差別・排外主義的な発言を繰り返した不動産王のドナルド・トランプ氏が当選しました。大統領選挙中、このような主張を掲げたトランプ氏が当選した背景には、「ラストベルト」に代表されるように、米国内の製造業が海外移転したことによって雇用が激減した白人労働者層の貧困の進行に対する不満、不安がありました。
そして、大統領選挙における、グローバリゼーションによる内国産業の空洞化に対する批判に加え、「大衆迎合的」な「米国人よりも賃金の安い南米からの移民が米国人の雇用を奪っている」という移民排斥に繋がる主張を前面にあらわしたことに呼応して、米国内の白人至上主義団体KKKやネオナチなどの極右勢力、さらには「リベラルに譲歩しすぎた社会の巻き返し」を目指す白人ナショナリズム運動の「オルト・ライト(オルタナ右翼)」やオンラインニュース「ブライトバート」などの新しいヘイトグループの運動が勢いを増してきています。
トランプ米大統領は、1月20 日の就任式で改めて「米国第一主義」を宣言し国益優先の姿勢を表明するとともに、歴代米政権が追求した自由貿易から保護主義的な貿易政策への転換を打ち出しました。また、外交面では、「力による平和が我々の外交政策の中心となる」と主張するとともに、「他国が我々の軍事力を上回るのは許せない」として、最先端のミサイル防衛システムの開発など軍備増強を打ち出すとともに各国と連携しての過激派組織「イスラム国(IS)」打倒を最優先課題に挙げています。
さらに、オバマ前大統領が地球温暖化対策の新枠組である「パリ協定」の目標達成のために作成した温室効果ガスの削減計画の廃止をはじめ、20 日には医療保険制度改革(オバマケア)の撤廃、23 日には環太平洋連携協定(TPP)からの「永久離脱」、25 日にはメキシコとの国境に壁をつくることなど不法移民対策強化に向けた措置を指示する大統領令に署名しています。
一方、就任式に合わせ、女性やマイノリティー(少数者)に対する差別的な言動を続けてきたトランプ氏に抗議するデモ行進がワシントンで行われ、人種差別反対や環境保護、LGBT(性的少数者)団体が呼応して参加者は50 万人にも拡大しました。また、女性の権利保護を訴えるデモは、ニューヨーク、シカゴ、ロサンゼルスなど米主要都市のほか、ロンドンやシドニーなど世界各地に波及し、選挙中のトランプ氏の様々な差別的な言動に対する批判が広がっています。
とりわけ、1月27 日に発せられた7か国を対象とした移民・難民入国制限は、その合法性がアメリカ中で問われ、2月3日にはワシントン連邦地裁が大統領令の一時差し止めを全国に命令しました。

(2)ヨーロッパでも台頭するポピュリズム
同じく、ヨーロッパにおいても米国同様極右のポピュリズム政党が台頭しはじめています。
英国ではEU離脱の是非を問うた国民投票で、「離脱」が過半数を超え、残留を支持したキャメロン首相は退陣しました。
フランスにおいては、今春の大統領選挙で、現与党の社会党を抑えて極右で反EU、反移民の国民戦線のマリーヌ・ルペン党首が有力候補にのし上がってきています。
ドイツにおいて昨年末、ベルリンで大型トラックがクリスマス市に突っ込み60 人以上が死傷するという痛ましいテロが起こりました。これには「IS(イスラム国)」が犯行声明を出しましたが、中東からの難民受入れに寛容なメルケル連立政権には大きな痛手となっており、一方で今秋の総選挙では、反移民政党「ドイツのための選択肢」が勢力を伸ばす可能性が指摘されています。
オーストリアでは昨年12 月に大統領選挙が行われました。かろうじて中道・左派候補が勝利しましたが、極右政党の候補が僅差に迫る結果となっています。一方、極右政党が第一党になるか注目された3月のオランダ総選挙では、極右政党が伸び悩む結果となっています。
ヨーロッパ諸国におけるこの様な流れは、シリア内戦や「IS掃討」作戦がシリアやイラク北西部で行われ、戦地から逃れてきた多くの難民がヨーロッパに押し寄せてくる中で、「難民受け入れに寛容なヨーロッパ」に対する反動が大きいといえます。難民への衣食住補助の費用負担が自国の税金から賄われていることへの不満、あるいは治安の不安定化などへの不満が各国の極右・反移民政党によって煽られています。
アメリカの弁護士のキズル・カール氏は、インタビューで「米国や欧州で燃え盛る移民への恐怖、経済格差への恐怖は振り子のように右へ右へと向かっている。中道の時代は終わり、極端な移民排斥を訴え、多文化主義を否定する運動が巻き起こっている。人々を結ぶ橋よりも壁をつくる方が好まれてしまうのはこのためだ」としながらも、「だが、このような極端な思想はいずれ失敗に終わる。なぜなら世界は相互に依存しているからだ。私たちは昔よりも互いに密接につながっている。生活でも貿易でも、あらゆる場で世界とつながっている。このような世界で壁を作ってはいけない。壁ではなく両岸から互いに橋を渡しあわないといけない」と答えています。

(3)激しさを増す中東における内戦
一方、ロシアによるウクライナのクリミア半島併合問題以来、米ロ関係は冷戦後最悪の状態となりましたが、トランプ大統領は、プーチン大統領との電話会談で関係改善することで一致しました。また、シリア内戦においてもトランプ大統領は、ロシアと強調し、シリア政権の転覆よりもIS(イスラム国)掃討を優先させるべきだと主張しています。
現在、シリア内戦は、シリア政府、反政府軍、ISの三つの勢力による内戦が続いていますが、すでに戦火を逃れるために多くの難民がヨーロッパに渡ったことからもわかるように、戦闘地域では多くの尊い人命が犠牲になっています。
ロシアがアサド政権を支援し第2の都市アレッポを制圧したことにより、アサド政権が優位な状況ですが、国連安保理による内戦終結決議も行われており一刻も早い解決が求められています。
また、このシリアに加えイエメンでも内戦が続いていますが、それぞれ敵対する勢力を支援するイランとサウジアラビアの対立も続くなど中東各国の覇権争いも激しさを増してきています。

(4)対話と強調が求められる東アジア
朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)が、5度目となる核実験を昨年9月9日に行いました。国連をはじめ世界各国は、核不拡散体制に明白に違反しているものとして非難しました。さらに2017年に入ってからも2月12日と3月6日にミサイル発射実験を行っており、こうした北朝鮮の姿勢が北東アジアの緊張をより一層強めていることは明らかです。しかしその一方で、日米韓による軍事的挑発が北朝鮮の強硬姿勢をつくりだしていることも確かです。3月1日から始まった米韓合同軍事演習「フォール・イーグル」には過去最大規模の兵力が参加しています。また米韓はキム・ジョンウン委員長をはじめとする北朝鮮高官の暗殺や誘拐も含む作戦計画を策定するなど、北朝鮮に対して脅迫ととれる姿勢を示しています。さらに米海軍は4月9日、シンガポールに寄港していた原子力空母カール・ヴィンソンを朝鮮半島の近海に派遣することをと発表するなど、北朝鮮への圧力を一層強めています。
ところでトランプ大統領は選挙中、これまでの米政府の方針とは違い、北朝鮮との対話の可能性に言及しています。北東アジアの平和と安定にむけて、今こそ六カ国協議を再開するなど積極的な取り組みが求められています。
一方、大韓民国(韓国)では、朴槿恵大統領の友人の崔順実氏による国政介入問題等が発覚しました。ソウルの光化門広場では毎週100 万人規模のデモが行われ、国会では弾劾決議案が可決され、大統領職務が停止されるという異常事態に陥り、12 月に開催予定だった日中韓首脳会議は延期となりました。
その後、2017年3月10日、韓国憲法裁判所は朴大統領を「重大な憲法違反があった」と認定し罷免を決定、60日以内に大統領選挙が行われることになりました。
また、日韓関係においては、釜山の日本領事館前の慰安婦被害を象徴する少女像の設置をめぐり、日本が駐韓大使の一時帰国を含む対抗処置を講じましたが、韓国ではこの日本政府の対応に加え、2015 年の慰安婦問題の日韓合意そのものへの批判も高まってきています。
さらに、中国、フィリピン、ベトナムで領有権が争われている南シナ海の南沙諸島(スプラトリー諸島)は、中国による軍事拠点化が進み、当該国であるフィリピン、ベトナムのみならず米国からも非難の声があがっています。一方、昨年6月に就任したフィリピンのドゥテルテ大統領は、中国に急接近し、習近平国家主席から「争いは棚上げできる」との言質を引き出し中比関係は改善しつつある中で、米国が今後どのように南シナ海問題に関与してくるか注視していく必要があります。
今日、東アジアは、経済的にも人的にも既にお互いが切っても切れない状況にあることは間違いありません。そして、東アジアの安定には、武力による欺瞞的な平和と安定ではなく、国家間の対話と強調による平和と安定が築かれるべきであり、平和憲法を持つ日本だからこそできる積極的な役割を発揮することが求められています。

(5)戦争しない国から戦争できる国へ、強まる憲法改正の動きに警鐘を
1) 3分の2を占める改憲勢力
7月10 日投開票で行われた第24 回参議院議員選挙は、自公政権を中心とした改憲勢力が非改選議席と合わせ3分の2を占める結果となり、9月26 日に開会した臨時国会の中で、安倍首相は改憲について「わが党の党是だ。当然今国会で努力する」「静かな場所で真剣に議論を」と発言し、憲法審査会で具体的な議論を始めることに強い意欲を示しています。
しかし、安倍首相の発言からは「憲法を変えたい」という意思は伝わるものの、主権者である国民の議論すら盛り上がらない中で、日本の法秩序の要である憲法をなぜ今変えなければならないのかについては語られていません。また、改憲案の中身についての質問にも詳しい説明はされず、最近になって、自民党・下村幹事長代行は、改正の優先課題として、「緊急事態条項の創設や参議院選挙区の合区解消」を挙げ、また、新しい人権などの「加憲」や「教育の無償化」が改憲の口実としてあげられていますが、 国会周辺からは「お試し改憲」などと軽はずみな言葉さえ聞こえてきています。
その後、11月16日には参議院で、17日と24日には衆議院で憲法審査会が1年5か月ぶりに再開され、17日の審査会は、「憲法制定経緯と憲法公布70年を振り返って」のテーマで自由討論を行なっています。
また、1月20 日の施政方針演説で、安倍首相は、今年5月に憲法施行70 年を迎えることを指摘するとともに、「私たちの子や孫、未来を生きる世代のため、次なる70 年に向かって、日本をどのような国にしていくのか。その案を国民に提示するため、憲法審査会で具体的な議論を深めよう」と、改憲に向けた本格的な審査会での議論を与野党に求めてきています。
さらに、自民党二階幹事長が、年明けの改憲を自民党の「今年の最大の課題の一つ」との宣言したことに加え、20日の記者会見で、改憲議論の進展を求め、「ただ議論してもしょうがない。成案を得るべく努力したい」と発言していることから、審査会を重ねることによって改憲の動きが加速することのないよう警戒するとともに、改憲阻止の取り組みを強めていかなければなりません。
2) 自民党による憲法改正草案の発表
2012 年に自民党が発表した「憲法改正草案」は、現憲法で「天賦人権」に基づく「侵すことのできない永久の権利」としての基本的人権は否定され、 「公益及び公の秩序」の名のもとに基本的人権が制限されるものとなっています。
また、現憲法で 「人類普遍の原理」 とされた国民主権は軽んじられ、 あくまでも 「国があっての国民」へと変えられ、また、立憲主義の理念もかなぐり捨て、権力を縛るはずの憲法を逆に国民を縛るものへと変えようとしています。
さらに、先の戦争への反省はなく、現憲法の前文を削除し、「戦争放棄」という題がついた9条は「安全保障」という題に置き換えられます。そして、「国防軍」が創設されることにより、集団的自衛権が全面的に認められるほか、国内における治安維持が「国防軍」により展開されることにもなり、陸海空軍の戦力を保持しないとした9条2項を廃止し憲法の平和原則を踏みにじるものとなっています。
そして、「戦争・内乱・大災害など、およそ通常の統治システムでは対処できないほどの非常事態」において、立憲体制を一時停止させる「緊急事態宣言」という制度も設けられています。この制度は政府などの一部機関に大幅な権限を与えたり、人権保障を停止したりする非常措置をとることを可能とする規定です。
こうした自民党の「憲法改正草案」は、これまで日本国憲法を基本に日本がめざしてきた戦争しない国づくりから、基本的人権や国民主権を制限するとともに、戦争放棄をうたった9条そのものを大きく破壊するものであり、その議論にすら応じることはできません。
3) 憲法改正に向けた日本会議の自治体決議運動
1997年に結成された日本会議は、全国各地で育鵬社教科書の採択運動に取り組むとともに、改憲運動を取り組んできています。
中央においては、「美しい日本の憲法をつくる国民の会」を通じて1000万人の改憲賛成署名を集めることを目標に活動するとともに、地方団体に働きかけ次々と請願書や意見書の採択を進めてきています。
都道府県では、2014年2月に石川県議会で意見書が採択されて以降、2016年の12月議会までに一気に33都府県議会にまで広がっており、第2次安倍内閣成立以降一気に推し進められてきたことを物語っています。
この意見書採択の取り組みは、市町村議会でも活発化してきており、日本会議による憲法改正に向けた世論づくりに対し、全国の自治体で取り組みを強めていかなければなりません。
4) 3度廃案になった「共謀罪」が通常国会提出へ
2017年1月20日、安倍晋三首相は、施政方針演説で、東京五輪・パラリンピックに備え「テロなど組織犯罪への対策を強化」するとして、犯罪計画を話し合うだけで処罰対象とする「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ組織犯罪処罰法改正案を「テロ等準備罪」に名称変更し、通常国会提出に意欲を示しています。
そもそも、この法案は「計画を話し合うだけで罪に問える」もので、2003年以降国会に3回提出されましたが、捜査当局の恣意的な運用や内心の自由を侵害し日常的な監視体制を強化するという懸念や、多くの冤罪や犠牲を生んだ治安維持法を想起させるとして日弁連をはじめ多くの識者や国民の反対の前にすべて廃案となりました。
また、政府は、過去廃案になっている共謀罪法案と同様、4年以上の懲役または禁錮に該当する重い犯罪(676)全てに「共謀を罰する」規定を入れることを検討しており、さらに不当な取り締まりや冤罪が引き起こされる危険が高まります。また、共謀罪を立証するためには、盗聴、監視、密告などが不可欠で、2月に入ってからの衆院予算委員会では政府答弁が混乱する中で、組織的犯罪集団の対象が「団体の結成の目的が犯罪を実行することにある団体に一変したと認められる場合」とされるなど、一般の団体や労働組合の活動まで監視が広まっていく可能性が強くなってきています。(共謀罪は閣議決定後書き換える)
2015 年成立の集団的自衛権行使容認を実体化する安保法制の強行採決に始まり、昨年11月のTPPの承認案と関連法案、年金カット法案、カジノ(IR)法案など数の力で押し切る手法も続いており、十分な審議を保証させるとともに、今通常国会での成立に反対する取り組みを強めていかなければなりません。
5) 南スーダンへの新任務を帯びた自衛隊の派遣
安全保障関連法のうち、従来のPK0協力法が「改正」された国際平和協力法は、これまでなかった治安維持業務が新たに加わり、さらに武器使用権限も拡充され、自衛隊が離れた場所で襲撃された他国部隊や文民要員を守る「駆け付け警護」や「宿営地の防衛」も初めて認められることとなりました。そして政府は、2016年11月15日の閣議で、南スーダン国連平和維持活動(PK0)に参加する陸上自衛隊に、この「駆け付け警護」や「宿営地の防衛」などができる新任務を付与する実施計画の変更を決定し、順次派遣された交代部隊から新任務が付与されました。
このように、これまでPK0の「業務」とはされず、はるかに軍事衝突に巻き込まれやすい「住民の保護」という名目の治安活動や、国連が直接関与しない「国際連携平和活動」が新任務として加わることにより、米国などの思惑に沿った多国籍軍の侵略・占領に協力させられる恐れが強まるとともに、武器使用基準の大幅な緩和と合わせて一挙に戦闘での武器使用が拡大することで、自衛隊員はもとより他国の人を殺傷し、殺傷される危険性が、戦後初めて現実のものとなったのです。
南スーダンでは、 キール大統領(国内最大のディン力族)とマシャル前副大統領(2番目に大きいヌェ一ル族)が激しく対立するとともに、軍事衝実が起こり、200万人が住む場所を追われ、12月以降の乾季の訪れとともに戦闘が激化することが予想されるなど、現地の治安情勢は予断を許さない状況となっていました。昨年11 月11日、PKO部隊を派遣している国連の事務総長特別顧問は、南スーダンで「民族間の暴力が激化し、 集団殺害になる危険性(ジェノサイト・民族大虐殺に発展する恐れがある)がある」と警告するとともに、反政府勢力のマシャル氏は「和平合意と統一政権は崩壊した」と発言するなど、まさに南スーダンは内戦状態で、自衛隊員の安全確保が極めて困難な治安情勢であったといえます。
さらに、いったんは廃棄されたと報告された現地の派遣部隊の「日報」のなかでも、2016 年7月に「ジュバで激しい戦闘が起き更なる抗争の悪化に注意が必要」との記載があるなど、とても「改正」されたPKO5原則にもあたらない状況であったことは明らかです。
安倍首相は3月10日、このような南スーダンの現地情勢を考慮するそぶりも見せず、単に「ジュバの施設整備に一定の区切りをつけることができた」と唐突に述べ、5月末に陸上自衛隊の南スーダンからの撤収を決断しました。
「戦闘」を「武力衝突」と強弁することで、法的な要件をいとも簡単に踏みにじることはとても法治主義とはいえません。南スーダンPKO部隊の「日報」を廃棄したとしながら、実は統合幕僚監部の幹部が非公表を指示した事実も明らかになっています。自衛隊のシビリアンコントロールも機能喪失しつつあることも重大な問題です。

(6)憲法の平和主義に逆行し軍需産業の育成に乗り出す安倍政権
1) 5年連続で増加する防衛省予算
12 月22 日閣議決定された防衛省の2017年度予算は、過去最大となった前年度の当初予
算を710億円上回る5兆1251億円で、新型潜水艦(728億円)、F35戦闘機(6機880億円)、オスプレイ(4機391億円) 空中給油機(299 億円)、無人偵察機グローバルホーク組み立て費(168億円)、奄美大島や宮古島への南西警備部隊配置費用(707億円)などとなっています。歯止めない防衛費の増大により、市民の暮らしに直結する社会保障関連予算の削減につながりかねません。
この防衛費の増大要因は、戦争法の新しい任務に対応できる新型兵器の取得を盛り込んだことや、昨年に入って北朝鮮による相次ぐミサイルの発射実験や、中国の海洋進出に対抗するため、奄美大島や宮古島、石垣島などに警備部隊のほか地対艦ミサイル部隊配備計画の費用なども盛り込まれています。
2) 「安全保障技術研究推進制度」の予算が異常に拡大。進む軍学共同体に警戒を
また、2017 年度予算の中では、「安全保障技術研究推進制度」予算が比率としては著しく拡大しています。
この制度は軍事に応用可能な大学や独立行政法人の基礎研究に助成する防衛省の制度で、 大学や研究機関から応募を募り、研究が採用されれば年間最大3000万円の資金を3年間にわたり受けられるというものです。2015年度に3億円の助成総額で新設され、2016年度は6億円、2017 年度では110億円に拡大されています。
明治時代の殖産興業以降の科学技術と軍事を結び付けてきた国策の復活ともいえ、大学・研究機関の交付金を削減して、「軍事助成」に誘導しようとする政府のたくらみに警戒していく必要があります。
一方、こうした軍事研究を後押しする制度に対し、学術会議は、科学者が戦争に協力した反省から、戦後2 度にわたって「戦争目的の軍事研究はしない」とする声明を決議してきました。
しかし、16年4月の総会で、大西隆会長が私見を披露、「自衛隊の目的にかなう基礎的な研究を大学などの研究者が行うことは許されるべき」と発言し、総会を受けて「安全保障と学術に関する検討委員会」が設置され防衛省の助成金制度への参加の是非について議論されてきました。
3月7日に、この検討委員会で新たな声明案がまとめられ、これまでの「軍事・戦争を目的とした研究を禁じる」声明を継承するとはしたものの、防衛省の助成については「問題が多い」と指摘するにとどまり、禁止していない点が危惧されるところです。今後4月の総会で採決されることになります。
新潟大学や京都大学など軍事研究に異を唱える大学が多くあり、2017年1月26日、法政大学も、防衛省の研究費への応募は「当分の間認めない」ことを決定するとともに、「軍事研究や人権抑圧など人類の福祉に反する活動は行わない」とする指針も新たに制定しています。しかし、すでに東京大学は2014年12月、「科学研究ガイドライン」を改訂し軍事研究を解禁してしまっています。防衛省資金に対する学術研究への助成を強く警戒するとともに、軍事と学術研究の結びつきに警鐘を鳴らさなければなりません。
3) 大規模な兵器展示会の開催と「国際協力銀行」による武器輸出支援
武器輸出三原則を撤廃し防衛装備移転三原則で武器輸出の拡大がもくろまれるなか、2015 年7月には防衛省の後押しで、横浜で国内初の大規模な兵器展示会が開催され、日本から海上自衛隊と共に20社が参加し、さらに、2017年6月には幕張メッセで2回目の展示会が予定されています。
また、武器輸出を原則認める政府の政策転換を受けて、日本経団連などは政府系金融機関の「国際協力銀行」の支援など優遇処置を講じるよう政府に求めています。具体的には、武器を輸入する側への低利融資と海外で武器を作る合弁会社や現地法人への出資が検討されており、実現すれば武器輸出の後押しとなることは明らかです。
2015 年10月には武器の研究開発から設計、量産、調達、 武器輸出などを一元的に担う組織として防衛装備庁が新設されています。この組織は、武器輸出など防衛産業政策の推進に向け、広く民間企業に武器輸出への参加をよびかけているほか、武器輸出の支援体制づくりや海外との交渉窓口を担うとともに、日本の武器に対する海外のニーズの掘り起こしや情報収集活動を行っています。
このように、平和主義の憲法理念を捨て去って「死の商人」への道を歩みつつあります。他国
の紛争を日本のビジネスチャンスにしようとする安倍政権の姿勢を許すわけにはいきません。
さらに、日本国内における産・学・官一体となって進められようとする、軍事研究や武器開発や武器輸出の潮流に加え、米軍の資金が大学に流れレーザー技術開発に利用されたり、あるいは米国国防省が日本の民間企業に対して、技術の採用を目標とした手続きをすすめていることも発覚しています。日米の産学官軍事一体化の流れは、私たちが生活する日々の社会環境の内側から軍事に対する許容を生み出す危険性につながります。日々の生活の中で、いかに抵抗線を築いていくか、平和フォーラムのとりくみが問われています。

(7) 進む日米軍事同盟と基地機能強化
1) 日米ガイドラインの改定
2015年4月、戦争法制の国会提出に先立って改訂締結された「日米防衛協力のための指針(日米ガイドライン)」は、いつでもどこでもシームレスに米軍と協力して軍事行動をとることが可能にすることをめざし、集団的自衛権の行使を見越した日米軍事協力を協定に盛り込んでいました。さらに、軍事協力に不可欠である組織の調整と情報の共有のため、「同盟調整メカニズム」として各級の協議機関が常設されるに至り、これら協議機関とは別に、緊急事態での「共同計画」を策定する枠組みとして「共同計画策定委員会」が、自衛隊と米軍の制服組が主導して立ち上げられています。旧帝国軍隊の暴走の反省から、これまで自衛隊についてシビリアンコントロールの縛りがありましたが、防衛省の組織改編で「文官統制」の枠組みが崩され、「制服組」主導の運営となっています。市民による監視の目が届かぬところで、この日米の制服組による共同計画の策定に警戒していく必要があります。
一方、日米ガイドラインの内容は、日米安保条約の「極東条項」の制約すらも大きく逸脱し、米軍と一体化した武力行使への道を開いた、平和憲法の実質的な改悪に等しいものです。憲法の改正手続を踏まえることなく、国会での議論すら行わず、日米政府間での行政協定として締結したことは、立憲主義に反すると言えるもので、戦争法とともに撤回させなければなりません。
政府開発援助の分野においても、非軍事分野に限って他国軍支援を容認する「新ODA大綱」にのっとり、日本にかかわるシーレーンの安全確保のため、アジア地域へのインフラや海上の安全保障にかかわる整備をODAで支援することとされています。安倍政権の「国際貢献」とは、軍事を背景とした「国益の伸長」であり看過できません。
2) 辺野古新基地建設、高江ヘリパッド建設反対など沖縄の取り組み
辺野古新基地建設反対をめぐって、国が翁長雄志沖縄県知事を訴えた代執行裁判で「和解」が成立し(2016 年3月4日)、新基地建設は一時中断しました。しかしながら国は、和解条項にあった県との協議を真摯に進めることもせず、ひたすら法的手続きをすすめていきました。翁長県知事に対する「是正の指示」に始まり、「是正の指示」に従わない状態であることは「県の不作為」だとする「不作為の違法確認訴訟」を福岡高裁那覇支部に訴えを起こし、結果としてこの裁判は、最高裁で県の敗訴となってしまいました。翁長県知事は2015年10月13日に行った辺野古埋立ての承認取り消しを、最高裁判決を踏まえて取り消したことにより、新基地建設工事が再開されるに至っています。
この「不作為の違法確認訴訟」で特筆すべきことは、福岡高裁那覇支部(多見谷寿郎裁判長)の判決が、「普天間飛行場の被害を除去するには辺野古を埋め立てるしかない」と国の主張を全面的に認めているばかりか、行政府が判断すべき政策事項を「辺野古しかない」と主張するなど、常軌を逸した判断としか言いようがない点です。さらに国と地方は対等関係にあることを本旨として1998 年に改正した地方自治法の解釈をゆがめる判断もしており、今後の国と地方自治体の関係に禍根を残すことがないよう、地方自治の拡充に向けた闘いが必要です。
翁長県知事は「辺野古に基地は造らせない」、「あらゆる手段で阻止する」と変わらぬ姿勢を示しており、埋立の承認撤回を含め検討しているとされています。沖縄平和運動センターのよびかけるとりくみとともに、今後辺野古の埋立てのための県外からの土砂搬入を阻止していく闘いをすすめていくことが重要です。すでに鹿児島県奄美大島では、地域の平和フォーラムや市民団体が土砂採石の問題にとりくんできたほか、採石地とされる各地域における市民団体のネットワーク組織として「辺野古土砂搬出反対」全国連絡協議会も立ち上がっています。
一方、高江ヘリパッド建設で政府は、「オール沖縄」の全面支援で圧勝した参議院選直後の2016年7月11日に工事を再開しました。全国から500名以上の機動隊と民間警備会社を使って、基地建設に反対して座り込む市民らを強制排除したうえで工事を強行し、自衛隊のヘリを使って建設現場に重機を運び込み、貴重なやんばるの森の2万本にも上る木々を無許可伐採するなど、違法行為が政府の行為において日常的に起きていました。
2016年12月22日には、ヘリパッドの完成とともに、米軍北部訓練場の一部返還式が開催されましたが、一部返還は沖縄の負担軽減では決してありません。危険なオスプレイの訓練が拡大することによって基地機能が強化され、ヘリパッド近隣の高江住民の生活に重大な危機を及ぼしており、断じて許されません。
3) 山城博治沖縄平和運動センター議長らへの政治弾圧を許さないとりくみ
高江でのオスプレイパッド建設反対闘争さなかの2016年10月17日、沖縄防衛施設局が設置した有刺鉄線を1本切断したとして山城議長は逮捕されました。その後、10月20日に防衛局職員への公務執行妨害罪と傷害の容疑で再逮捕され、11月11日にはこの2件で起訴されました。11月29日には、10か月以上も前の2016年1月下旬の出来事をとりあげ、辺野古新基地建設事業に対する威力業務妨害罪で再び逮捕し、12月20日に追起訴されました。2017年3月18日、山城議長は152日ぶりに保釈となりましたが、長期に拘束され続け、家族との面会も拒絶され、差し入れさえ制限を受けてきたことは、政府方針に反し、辺野古新基地建設に反対するものに対するあからさまな政治的弾圧にほかなりません。平和フォーラムや沖縄県内の市民団体はもとより、弁護士団体、環境団体、国際人権団体のアムネスティーインターナショナルなどが速やかな釈放を求める声明等を出してきました。
今後も、新基地建設阻止の闘いと山城裁判の支援のとりくみを継続し、運動の圧殺をねらう政府の弾圧には屈することはないという声をあげ続けることが大切です。
4) 在日米軍基地の機能強化、南西諸島の基地建設
米海兵隊岩国基地へのF35Bステルス戦闘機の配備と横須賀の空母艦載機の移駐、米海軍横須賀基地を拠点とする米艦船については14隻体制となる予定です。横田基地へのCV-22オスプレイの配備は当面延期となりましたが、MV-22オスプレイの基地利用が拡大しています。自衛隊と米軍との共同訓練や訓練移転の強化が目論まれ、日本各地の在日米軍基地の機能強化が図られているほか、自衛隊基地での米軍との共同使用も頻繁に行われています。新ガイドライン体制下で日米共同調整メカニズムにより情報の共有化が図られ、日米共同対処能力の向上、日米軍事の一体化の強化が進められることに警戒しなくてはなりません。
日本の自衛隊と他国の軍隊が、物やサービスを融通し合う「物品役務相互提供協定(ACSA)」についても警戒が必要です。平和安全保障法制(戦争法)の成立により、米軍とのあいだで新たな協定が結ばれ、物品に弾薬を含めることが決められています。今後の国会で承認手続きが行われる見込みです。またACSAは、英国、豪州とも協定締結に向けた調整が続けられており、米国以外への拡大に注視が必要です。
朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)のミサイル開発や中国の海洋進出を念頭に置いて、安倍政権は「周辺海空域の安全確保」「島嶼部に対する攻撃への対応」「弾道ミサイル攻撃への対応」を重点とした南西諸島への部隊の配備や装備の強化しようとしています。
奄美大島における航空自衛隊(空自)の移動式警戒管制レーダーの新規整備、与那国島では陸上自衛隊(陸自)警備部隊を発足させ、さらに宮古島、石垣島などで陸自による地対艦ミサイル部隊の新設が計画されています。沖縄・那覇基地では、福岡・築城基地から航空自衛隊(空自)飛行部隊を編入し、空自第9航空団として新編され、これまでのF15戦闘機の配備数を倍増させる40機体制としました。中国の艦船等を対艦ミサイルで封じ込めるという力の論理で、日本の経済、産業に不可欠とされるシーレーンの安全確保とする日本の安全保障政策は東アジアの軍事的緊張を高めるだけです。
北朝鮮は、在日米軍基地を標的とするミサイル発射実験を行い、中国においては2017年度の国防費が、1兆元(日本円で約16兆5千万円)に上ることが確実視されています。日本と中国の防衛当局間で不測の事態を回避するために設けられる「海空連絡メカニズム」の運用について、両国で合意はされているものの協議は一向に進んでいません。安倍首相は今後もさらに防衛力を拡大していくことを明言しており、歯止めの利かない軍事力の拡大が、東アジアにおいて不測の事態を呼び起こすとも限りません。対話を基調とした外交による安全保障に転換すべきです。
5) 求められる日米地位協定の抜本的見直し
政府は、日米安全保障条約の前提として、米軍機の飛行について、提供区域外であっても飛行訓練することを認めています。法的根拠のない提供区域外での飛行をやめさせなければなりません。
2016年12月13日に起きたオスプレイの名護市東海岸沖墜落事故では、海上保安庁の捜査は事故直後にはできませんでした。日米地位協定の下では、米軍機が事故を起こしても、日本の警察や消防が現場検証にあたることや、原因究明のため事故機部品等の押収もすることができないのが実態です。2016年5月に沖縄で起きた米軍属による女性殺人遺棄事件をうけ、日米両政府は、米軍属の範囲を限定する「補足協定」を締結しました。しかし米軍関係者の犯罪を裁く第一次裁判権が日本にはないことに変わりはありません。米軍の廃棄した汚染物質の除去や原状回復などの義務も米軍にはなく、日本政府は補償など求めることができません。「環境補助協定」が合意されていますが、立ち入り調査等で実効性が確保されているとはいえません。
日米地位協定の非合理、不平等なあり方は、米軍基地周辺住民のいのちとくらしの安全に直結する問題であり看過できません。地位協定の問題を追及し、改定を求める取り組みに力を入れていかなければなりません。
6) オスプレイの全国配備
2012年10月までに普天間基地に配備されたMV-22米軍海兵隊オスプレイ24機に加え、MV-22は今後、岩国に配備されたF35Bステルス戦闘機へ空中給油する機能を持たせる計画もあります。
東京・横田基地へのCV-22米空軍オスプレイ配備は当面延期になったものの、自衛隊が購入するオスプレイを17機、佐賀空港に配備しようとしています。
普天間基地配備されているMV-22はこれまで、岩国地基地経由で、横田基地、厚木基地、キャンプ富士などに飛来し、離着陸訓練などの飛行訓練を繰り返していました。横田基地のCV-22の訓練エリアとされた全国4か所(東富士演習場、ホテル地区、三沢対地射爆撃場、沖縄)のうち、ホテル地区で、MV-22の飛行訓練が行われ、横田基地ではタッチアンドゴー、ローパス訓練が行われる事態となっています。今後、既存の空域、訓練場、全国にある低空飛行ルートで、夜間飛行訓練、低空飛行訓練等を行うものとみられ、オスプレイの飛行および訓練が全国に拡大する危険があります。
欠陥機オスプレイの飛行に関して政府は、安全保障条約の前提として米軍機の飛行は認められるとしています。しかし地位協定で提供された空域等以外での訓練は、法的根拠がなく違法訓練といえます。航空法の適用が大幅に除外されている米軍機が、法的根拠のない飛行訓練をも許されるとする政府の態度は、基地周辺や飛行ルート下の住民のいのちと生活をなおざりにするものです。
2014年6月に発生したオスプレイが「普天間基地で駐機中に落雷」にあったとしていた事故は、実は宮崎県上空を飛行中に落雷にあいプロペラを破損していたことが判明しました。重大事故を隠蔽する米軍当局とこの事故を問題視しない日本政府の姿勢は許せません。

(8) 深刻化する貧困と格差の拡大
貧困と格差の拡大は、日本社会の病理として深刻な問題となっています。
総務省統計局の労働力調査では2002年から15年にかけて女性の非正規雇用の増加が324万人(正規雇用の減少は10万人)、男性の場合も非正規雇用は203万人増加(正規雇用の減少は176万人)しており、正規雇用の非正規雇用への置き換えが進んできましたが、その結果、やむなく非正規雇用を選択せざるを得ない315万人のうち51%が年収200万円未満の世帯となっています(総務省・労働力調査)。
そして、もう一つの深刻な事態が子どもの貧困率の増加です。
子どもの貧困率は全国平均で16%を超え、沖縄県においては40%に迫るものとなっています。また、シングルマザーを基本とする一人親家庭の貧困率は6割に迫っています。
一方、高額な教育費も社会問題化し、貸与を基本とした奨学金制度は卒業後の返済の負担が深刻化し、その結果、大学への進学率は生活保護世帯で33.4%、全世帯平均の73.2%と比較するとその差は大きく、給付型の奨学金を求める取り組みも広がってきています。
安倍首相は2017年1月20日の通常国会開会日の「施政方針演説」で「誰もが希望すれば、高校にも、専修学校、大学にも進学できる環境を整えなければなりません」として、給付型奨学金の導入を決定していますが、1学年2万人、給付額が2~4万円では効果はきわめて限定的です。
増大する教育費に対し、貧困・格差の問題からも、教育を受ける権利からも喫緊の課題として教育の無償化の取り組みが求められてきています。
また、非正規労働者の拡大にともなって実質賃金は低下の一途をたどり、「アベノミクス」による成長戦略は貧困の解消にはつながっていません。今求められるのは、経済成長戦略ではなく、公正な富の再分配と現金給付などによる実効的貧困対策です。

(9) 戦後レジームからの脱却を訴え、日本の近代史の再解釈をもくろむ歴史修正主義
1) 自民党の「戦争及び歴史認識検証委員会」の立ち上げによる歴史の再解釈
安倍首相はことあるごとに「戦後レジームからの脱却」を訴えてきました。そして、2015年に結
党60年をむかえた自民党は安倍首相の下で「戦争及び歴史認識検証委員会」を立ち上げ、東京裁判はもちろん、太平洋戦争、「従軍慰安婦」、南京大虐殺、GHQの占領政策、平和憲法成立過程などを検証しようとしています。しかし、この「戦争及び歴史認識検証委員会」での検証は、軍国主義的な侵略と戦争でつづられた日本の近代史を自分たちの見方で再解釈しようとするものであり、歴史修正主義そのものです。
一方、こうした動きは植民地支配と侵略戦争の被害者である韓国や中国をはじめとしたアジアの国々はもちろん戦後体制の樹立を主導したアメリカも容認できないことであり、ニューヨーク・タイムズは「安倍氏の危険な歴史修正主義」と題する社説を掲載し、英フィナンシャル・タイムスも「歴史修正主義者」と批判するなど、海外メディアは連日安倍首相に対する批判を繰り返してきました。
自民党政権のもとで歴史の再解釈が行われようとしている中で、日本が世界に対して行うべきは歴史の修正ではなく、史実に基づいた歴史認識の表明と、侵略戦争や植民地支配に対する加害者としての責任の賠償であり、その中で各国との信頼関係を作り上げていくことこそ必要です。
2) 国家主義的な育鵬社教科書採択を進める日本会議
日本会議の活動の特徴として憲法改正を求める自治体決議の取り組みに加え、育鵬社の教科書採択の運動があります。
安倍首相は、育鵬社版歴史・公民教科書が「改正教育基本法の趣旨に最もかなっている」と述べていますが、その内容は、歴史学の研究成果よりも偏狭な思想に基づく主張が優先され、日本国家や日本人の「優位」をことさら強調したうえで、歴史を修正し日本の植民地支配や侵略戦争を美化するものとなっています。
この間、「日本会議地方議員連盟」を中心にその採択に向けて各教育委員会に対して圧力が強められており、2012年と2016年度比較では、中学校公民では育鵬社が1.4倍、中学歴史でも1.6倍に冊数を拡大しており、国家主義的な育鵬社教科書の採択率の増加に警戒を強めなければなりません。

(10) 教育勅語の復活など教育の反動化と教科書問題
1) 2018年度以降教科化される「特別の教科・道徳」
3月24日、文部科学省は2018年度から実施される「特別の教科・道徳」の使用教科書および主に高校2・3年用教科書の検定結果を公表しました。小・中学校で初めて正式の教科となる「道徳」は、小学校全学年で8社から24点(66冊)が合格し、2018年度から使用されることとなります。検定における修正意見には、「わが国の郷土と文化を尊重するとした改正教育基本法」や「儒教的家族観」を反映したと思われるものがあります。また、文科省が使用してきた教材を全社が引用するなど「横並び感」が強まり、一定の価値観に基づく規範意識の強制が懸念されます。道徳を教科として評価することに、国家への忠誠を求め内心に踏み込んだ戦前の「修身」の復活との懸念が示されてきましたが、多様性を否定する検定のあり方は、懸念をより深めることになっています。同時に発表された、高校教科書の検定では、集団的自衛権の行使容認と安全保障関連法の記載に対して、行使の前提となる「新3要件」の記載を求め、政府方針の徹底に努め、2014年1月の検定基準の改定による「政府見解」に基づく記載が強く意識されています。
1945年の敗戦から、私たちは一定の価値観や歴史観、規範意識を国が押しつけることの危険性を学んできたはずです。国定教科書が廃され教科書検定制度に変更されたことの意味を考え、そこにもう一度立ち戻って教科書とは何か、教育とは何かを見つめ直すことが求められます。
2) 憲法に違反した教育勅語の復活
3月31日、安倍内閣は質問主意書の答弁書で、教育勅語は「憲法や教育基本法に反しないような形で教材として用いることまでは否定されることではない」との閣議決定を行ないました。教育勅語は、1948年に、日本国憲法や教育基本法に反するとして、衆・参両院で排除・失効に関する決議が行われています。今回の閣議決定は、衆・参両院の決議との整合性がなく、憲法違反の決定であることは明らかです。「朕??カ忠良ノ臣民タル」と呼びかける勅語は、主権在民の日本国憲法の理念とは相容れません。また、「一旦緩急アレハ義勇公ニ奉シ以テ天壤無窮ノ皇運ヲ扶翼スヘシ」と国家への個人の犠牲を呼びかけるとともに、思想の根幹には「長幼の序を基本とした儒教的精神」と「強固な家父長制度」「男尊女卑」があることは間違いありません。日本国憲法は、戦前の社会の反省にたって「平和主義」「民主主義」「基本的人権の尊重」を基本に、主権在民、男女平等、個人主義に立脚しています。教育勅語が憲法に反しない教材になり得る要素は存在せず、今回の閣議決定は、「ポスト・トゥルースの政治」そのものであり、日本政治における「知性の崩壊」と言わざるを得ません。
「教育勅語」を唱和し、軍歌を歌い、「安倍首相ガンバレ」を宣誓する塚本幼稚園の映像は、多くの人の目に奇異に映ります。安倍首相は、当初国会答弁で塚本幼稚園の教育へ賛辞を送っています。稲田朋美防衛大臣は、「道義国家をめざすとする教育勅語の精神は、取り戻すべき」と国会で述べています。そこには、日本会議とともに日本社会の戦前回帰をめざす安部政権の本質が象徴的に表れています。
3) 小・中学校の学習指導要領が改訂される
教育勅語の閣議決定に先立って、2017年3月には、小学校及び中学校の学習指導要領が改定になりました。小学校では一方的・一律の価値観を押しつけることが懸念され、戦前の「修身」の復活にもつながる「特別の教科・道徳」が導入されました。小学校用の道徳の教科書では、検定意見によって「パン屋」が「和菓子屋」に、「公園の遊具」が「和楽器店」に修正されました。2006年の第1次安倍内閣で成立した改正教育基本法に示された、伝統と文化の尊重、我が国と郷土を愛する態度を養うこととする教育目標に沿った検定意見は、あまりにも偏見に満ちた浅薄な考え方であり、昔から諸外国の文化に学び、それを自らのものとして獲得してきた日本文化の本質を、安倍政権はもっと真剣に学ぶべきです。
一方で、中学校の指導要領では「武道」に「銃剣道」が導入されました。銃剣道は旧日本軍の戦闘訓練に取り入れられ、現在自衛隊で訓練として導入されています。競技人口の多くが自衛官でしめられている特異な競技といえます。戦闘を想定する銃剣道の導入は、平和憲法の理念に反する違憲の教育と言わざるを得ません。
安倍政権は「幼稚園教育要領」および「保育所保育指針」へ「行事において国旗に親しむ」との規定を入れました。1999年の国旗国歌法制定に際しては、「強制を伴うことはない」との答弁を繰り返しましたが、しかし、学校現場への国旗掲揚・国歌斉唱は強制的に行われています。歌誌の意味も理解できない幼児に、思想信条の自由にも関わる君が代の斉唱を強要することはきわめて問題です。学問自由や自治が保障される大学に対しても、文科大臣は実質上の実施要請を行っています。ここにも、国家主義的な安倍政権の性格が表れています。
国家や「公」なるものを重要視し、個人の犠牲を強要し美化する姿勢は、憲法の掲げる基本的人権の否定につながります。また、教育現場において、子どもたちが一斉に教育勅語を唱和するような社会としてはなりません。安倍政権の目論む、一方的画一的教育を排除し、憲法が保障する民主教育を、私たち市民のとりくみの中から育てていかなくてはなりません。
4) 歴史教育から始まる東アジアとの信頼と協調、平和的共存
中国教育省は、これまで1937年の盧溝橋事件からとしていた抗日戦争の記述を、2017年の新学期(2月開始)より、1931年の柳条湖事件からの記述へと改めると発表しました。歴史歪曲や政治利用との声もあがっていますが、背景には日中の歴史認識問題があります。2015年12月の唐突とも言える日本軍慰安婦に関する日韓合意に対し、2016年12月に釜山の日本領事館前に「少女像」が設置されることに象徴されるような反発が広がっています。日中、日韓に横たわる歴史認識の課題は、戦後70年以上を経て未だ解決を見ていません。安倍首相は、韓国に対して「国家間の約束を守るべき」と非難していますが、自身のこれまでの発言を省みない姿勢は、中国や韓国の市民社会を納得させるものではありません。育鵬社などの歴史歪曲とも言える教科書を後押ししてきたこと、靖国神社への参拝を繰り返してきたこと、慰安婦への日本軍の関与などを否定してきたことの是非とその責任を明らかにしなくては、戦後のアジアとの和解にはつながることはありません。東アジア諸国との信頼と協調、平和的共存関係の構築には、喫緊の課題と言えます。将来を担う子どもたちが、どのような歴史認識を持ち、そのことを基本にどのような東アジアの未来像を描いていくのか、教育の責任は重大です。
5) 増大する教育費負担
非正規労働者の拡大にともなって、実質賃金は低下の一途をたどり、「アベノミクス」による成長戦略は貧困の解消にはつながっていません。今求められているのは、経済成長戦略ではなく、公正な富の再分配と現金給付などによる実効的貧困対策です。教育費負担の増大は、退学者の増大を生み、貧困と格差の固定化につながっています。貸与による奨学金制度は、大学卒業後の大きな経済負担を伴い、社会問題化しています。教育の無償化は、日本社会の将来に大きな影響を与える喫緊の課題と言えます。
6)  政治が生み出す教育現場での「いじめ」
「しんさいでいっぱい死んだからつらいけどぼくはいきるときめた」横浜市でいじめに遭った福島原発事故避難者の子どもの手記の一文です。全国に散らばった福島原発事故から避難した子どもたちは、放射線の「菌」とか「多額の補償金をもらっている」などの明確な「いじめ」や新しい学校生活になじめないなど、様々な課題を抱えています。
松野博一文部科学大臣は、「いじめは許されないことを道徳教育の中でしっかり学べるようにする必要がある」とする大臣メッセージを発表しました。しかし、道徳教育が「いじめ」の解決の基本的手段とは考えられません。福島原発事故からの自主避難者の住宅提供の打ち切り、これまでの基準の20倍、20mSv/yもの放射線の中への帰還の強要、国のこのような施策は、あたかも帰還しないことがわがままであるかのような、被害と加害が逆転した雰囲気の蔓延を生んでいます。このことが、子どもたちの福島原発事故避難者への「いじめ」に深くつながっていることをしっかりと捉えなくてはなりません。
朝鮮学校へ通う生徒に関わりのない北朝鮮の拉致問題をもって、授業料無償化から外すことへの政治家の様々な発言や、閣議決定で、辺野古・高江の基地建設に反対する沖縄県民への「土人」発言を「差別ではない」と断じる政府の弱い者いじめや差別の姿勢が、子どもたちの「いじめ」につながっていることを、私たちは明確に捉えなくてはなりません。

(11) へイトスピーチと侵害される人権の課題
1) ヘイトスピーチ規制法と部落差別解消推進法の成立
日本社会の閉塞感の中で、ヘイトスピーチに見られるような弱者がより弱者に攻撃を加えていくような現象が様々な状況で散見され、ポピュリズムによる政治手法は、対立を煽り一方の主張におもねり威圧を加えていくことで、圧倒的支持を得ることを目的として正当化されています。国際的人権機関からも問題視される差別状況をも、安倍政権は一顧だにすることなく、沖縄県民に向けられた「土人」発言をも容認する姿勢を取っています。
2016年7月26日、相模原市緑区にある障害者福祉施設「津久井やまゆり園」に刃物を持った男が侵入し、19人が死亡、27人が負傷するという事件が起きました。その後、容疑者が優生思想の持ち主で障がい者に対する差別感情をむき出しにしていたことが分かりましたが、この事件の原因を一個人の思想にのみ求めてはなりません。そもそも今の日本社会には差別を助長し弱者を切り捨てようとする思想が蔓延しており、そのもっとも代表的な存在が安倍政権そのものなのです。
しかし、このような安倍政権のもとでも少しずつ運動の前進が見られたことは、積極的に評価する必要があります。2016年5月にはヘイトスピーチ規正法が、同年12月には部落差別解消推進法が成立しました。これらの法律は罰則がない理念法であるなどの限界をはらんでいますが、それでも運動の下支えが法律を生んだという点は評価すべきです。また、ヘイトスピーチ規正法に関しては、一部自治体でヘイトデモが中止されるなど一定の効果が出ていることも事実です。これからはこうした法律をより実効性を持ったものへと育てていくための努力が求められます。そのためにも、様々な団体との連携を強化しながら、運動を広げていかなければなりません。
2) 朝鮮学校問題
第二次安倍政権は成立直後から朝鮮学校に対する敵意をむき出しにし、2013年には省令を改正し「高校無償化」制度から朝鮮学校を完全に排除してしまいました。また2016年3月29日に文科省通知を通じて朝鮮学校への補助金を不支給・中止するよう各自治体に圧力をかけています。このような朝鮮学校への差別に対し国連の各条約機関も是正するよう勧告を出していますが、政府は応じるそぶりも見せていません。社会的弱者に対して差別をむき出しにする安倍政権のもとだからこそ、いまだにヘイトスピーチが横行し、歴史修正主義がはびこっており、こうした政府の弱者への差別が草の根の排外主義を助長しているとも言えます。
今年は朝鮮学校への差別に対する運動が正念場を迎えます。全国5か所で闘われている「高校無償化」裁判は、2月15日に大阪で、3月8日に広島で結審を迎えました。そして東京も4月11日に結審される予定であり、5月頃から夏にかけて判決が出る見込みとなっています。また1月26日、大阪朝鮮学園が大阪府・大阪市による補助金の不支給決定の取り消しを求めた裁判において、大阪地裁は原告の訴えを退ける判決を言い渡しました。この判決が各自治体の補助金支給に影響を与えることに警戒していかなければなりません。
そもそも朝鮮高校の「高校無償化」制度からの排除も、自治体からの補助金カットも、不当な差別行為に外なりません。それは国連の各条約機関から勧告が出されていることからも明らかです。「高校無償化」裁判に勝利し補助金支給を実現させるためにも、「朝鮮学園を支援する全国ネットワーク」を中心に全国や韓国の運動団体と連携しながら取り組みを進めていかなければなりません。

(12) 安倍政権の原発推進政策と核燃料サイクルの破綻
1)世界に拡がる脱原発の流れと逆行する安倍政権
(ア)アジアで拡がる脱原発の流れと逆行する日本
2017年1月11日、台湾は「2025年までに原発の運転を完全に停止する」と宣言しました。台湾は「原発ゼロ」を法律に明記し、併せて電力事業を段階的に自由化し、再生可能エネルギーへの移行を図るとしました。この決断は、日本の福島原発事故に学んだものです。
また、韓国では、2月7日、ソウル行政裁判所が、月城原子力発電所1号機(慶尚北道慶州市)を、設計寿命(30年)を迎えたとして運転許可を取り消す判決を出しました。台湾の動きに続き、アジアでも脱原発の動きが胎動してきました。
一方、日本の安倍政権は、2030年における電源構成に占める原発の割合を20%~22%とする方針を示し、 そのために原発の再稼働とともに原発の新増設やリプレース、原発運転の60年への延長、核燃料サイクルの推進、原発輸出などを積極的に進めています。さらに産業界も原発推進の旗を振り、原子力産業協会(今井敬会長・新日鉄住金名誉会長)は、今年策定予定の第5次エネルギー基本計画の中に、ベースロード電源としての原発の必要性だけでなく、「新増設の必要性についてもしっかり明記していただきたい」と求めています。
(イ)破綻する原子力政策
一方で「脱原発」を求める世論は半数を超えている現実があります。また、昨年12月には、高速増殖炉「もんじゅ」の廃炉が決定され、核燃料サイクル開発の破綻がますます鮮明となりました。安倍政権の成長戦略の重要な要の一つとして上げられていた原発輸出も、ベトナムなどへの輸出が頓挫しました。
また、安倍政権と一体となって原子力政策を支えてきた原子力業界では、米・ウエスティングハウス社や原発建設会社S&W社の買収にかかわり7000億円もの負債の発覚後は、会社自体の存亡の危機に立たされています。三菱重工も米国のサンオノフレ原発が蒸気発生器のトラブルで廃炉となり、電力会社から約9300億円の損害賠償を求められ、仲裁機関の判断次第では経営を揺るがすことにもなりかねないとも言われています。日立も英国で老朽化した火力発電に代わり、2020年代前半に原発の建設を目指すとしていましたが、英国のEU離脱で、原発建設のコストが高騰し、建設できるかどうか不明な状況であり、日本の大手重電メーカーは原発によって経営そのものに大きな打撃を受ける事態となっています。そして、このまま安倍政権の進める原子力政策に追従していくことは、日本経済にも深刻な打撃を与えるものになりかねません。
このように、原子力政策は矛盾をますます深めているにもかかわらず、安倍政権は、民意や原子力政策の現実を無視し続け、原子力推進に前のめりとなっています。
2)民意を無視して進められる老朽化原発をはじめ原発の再稼働
原発再稼働問題では、多くの反対の声を押し切って、川内原発(鹿児島県)や伊方原発(愛媛県)の再稼働を強行しました。しかし、各種の世論調査では再稼働反対の意見が常に多数を占めており、ここでも「世論を無視」する安倍政権や電力会社の姿勢は強く糾弾されなければなりません。
そのことを如実に示す結果が、昨年7月10日の鹿児島県知事選挙と、10月17日新潟県知事選挙で原発再稼働に慎重・反対を示す知事の誕生につながり、原発立地県でも民意は「再稼働反対」であることが明らかになりました。
今年1月18日には、原子力規制委員会は九州電力の玄海原子力発電所3、4号機(佐賀県)に対して、規制基準に合格したことを示す「審査書」を正式決定しましたが、これにより再稼働に向けた動きが一段と加速することが予想されます。
一方、周辺の伊万里市などが反対を示し、地元の合意が不十分であることや住民避難の問題など多くの課題を指摘しています。九州電力が、川内原発の再稼働同様、それらをあいまいにしたまま強引に原発の再稼働を進めていくことが予想され、民意を無視した危険な再稼働に反対していけなければなりません。
また、3月28日、大阪高裁は、昨年3月の高浜原発3・4号機の運転差し止めを命じた大津地裁の仮処分を取り消す決定を行ないました。この決定は、専門家の意見に追従した「新規制基準は合理的」と認定したもので、新規制基準に適合してもそれだけでは「安全性の主張・立証は不十分」とし、基準の妥当性などの立証を関西電力に求め、稼働中の原発を止めた全国初の司法判断は1年で覆ることになりました。これを受け関西電力は、3号機の再稼働を5月頃としており、それに対して現地と協力し反対運動を強化していかなければなりません。
また、昨年、高浜原発1・2号機、美浜原発3号機と運転開始から40年を経過する原発に
対して原子力規制委員会は、さらに20年の運転延長を認めました。今後も各電力会社の老朽原発の運転延長への呼び水となる動きです。本来、運転延長は「例外中の例外」のはずでしたが、これでは「例外」ではなくなり、危険な老朽原発を増やすことになりかねません。
そもそも放射線が飛びかう原子炉圧力容器は、中性子によって材質が劣化します。さらに数万点にも及ぶ機器類も長期間の使用によって劣化していきます。それらを常に点検し、保守管理していくことは、年数が古くなればなるほど煩雑になり難しくなっていきます。さらに老朽化した原発を長期にわたって運転したデータは少なく、劣化がどのように進んでいくかの知見も限られ、未知の部分も多いと指摘されています。まさに模索しながら運転を進める状況となります。劣化と安全性については机上の計算も多く、なた、恣意的な要素も強く、仮定の上での安全ともいえます。
さらに中越沖地震、東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)、熊本地震などと近年、立て続けに大地震が起きています。現在、日本の地層は活動期とも言われ、予測できないところで度々地震が発生しています。地震による原発震災は、特に老朽原発ではより危険性が高まるだけであり、運転延長よりも一刻も早く廃炉にすることが重要です。
3) 「核のごみ」の最終処分問題
安倍政権は、原発から出る高レベル放射性廃棄物(いわゆる「核のごみ」)の地層処分地の選定を昨年中に発表すると閣議決定しましが、いまだその発表はなされていません。
また、政府は、処分地を「科学的有望地」として、その場所(範囲)をマップで公表するとしています。
この科学的有望地は、「適正が高い」「適正あり」「適正が低い」の3段階で示すとされています。そしてこの適性の判断は、活断層の有無や火山のリスク、地下に鉱物資源などがあり、掘り起こされてしまう可能性がある場所など複数の条件でみており、1つでも該当すれば「適正が低い」と判断。逆に該当しなければ「適正がある」地域となります。そのうち廃棄物の輸送に便利な港湾から20 キロの地域は「適正が高い」地域としています。科学的有望地には原発がない地域も多く含まれることが予想されます。国民的議論もなく、安全や住民合意もないまま核のゴミ問題が各地で浮上することに対し取り組みを進めなければなりません。
現在の原発推進政策では、今後も「核のごみを」増やし続け、核燃料サイクルを推進し続ければ、高レベル放射性廃棄物はさらに増え続けることになります。いずれ廃棄物問題そのものでも原子力政策は行き詰まることは明らかです。
今年6月3日~4日には、最終処分場問題をテーマとした「どうする!原発のゴミ全国交流会」を岡山での開催を予定しており、これを起点に引き続き運動を強化していくことが必要です。
4) 破綻した核燃料サイクル
核燃料サイクルの中核を占める高速増殖炉原型炉「もんじゅ」は、昨年12月20日には、関係閣僚会議で「廃炉」が決定されました。
しかし、政府は「もんじゅ」の廃炉後も「高速炉開発」は継続させ、フランスとの共同開発を進めるなど核燃料サイクルを存続させようと画策しています。「高速炉開発」では、実験炉―原型炉―実証炉―商用炉となるこれまでの開発の流れを無視して、いきなり実証炉へ進もうとしていますが、その鍵をにぎるのが、フランスとの国際協力で進めようとしているフランスの実証炉「ASTRID(アストリッド)」計画です。しかし、仏政府が建設の是非を数年後に決めるという段階でしかなく、費用や研究内容もいまだ不確定な部分が多く、実際に開発が進むかについても不明です。これまで原子力を推進してきた側からも「地震国日本に相応しい炉型は、仏国の肉薄大型タンクではない」「如何ほどの協力費の負担を強いられるかわからない」などとの批判もあがっています。
さらに、実証炉の次の商用炉に進むことが本当に可能なのか疑問です。電力自由化の中で電力会社にとっては原発そのものが重荷となり、廃炉も含めて巨額な費用がかかる高速炉を選択する可能性はほとんどないと思われます。
一方、「もんじゅ」の廃炉は、核燃料サイクル政策全体に波及していくことは明らかで、青森県六ヶ所村の核燃料サイクル施設の存在意義も問われています。
「開発ありき」で進められる議論よりも、「もんじゅ」廃炉を受けて、核燃料サイクルそのものを根本的に見直す議論をすることが必要です。
六ヶ所再処理工場は2018年3月の完工を予定し、MOX加工工場は2019年3月の完工となっていますが、規制庁の審査の進捗状況や原発の再稼働、プルサーマル計画の状況によって大きな影響を受けます。
現在日本は約48トンものプルトニウムを抱えており、さらに六ヶ所再処理工場で新たに使い道のないプルトニウムを作り出す計画は、それ自体の危険性のみならず核拡散の面からも国際的に大きな問題となっています。
5) スタートした電力自由化と託送料による廃炉・賠償費用の消費者への転嫁
電力システムの改革のなかで、2016年4月から一般消費者も電力を選べるようになりました。再生可能エネルギーへの転換を消費者の側からも進めることができるようになることの意味は大きく、すでにある様々なとりくみとも連携して脱原発・再生可能エネルギーへの転換を推し進めることが大切です。自治体や協同組合、生協、NPOなどの太陽光、風力など自然エネルギーによる発電所や、それらを連携する試みとしてのデータベース化や、一般にも分かり易く表示するソーラーマップなど、多くが具体化しています。
発電量に占める自然エネルギーの割合は、2015年度に約14.5%に達しました。その内、大規模水力が7.1%で、2016年5月だけでは平均で20.2%を占めるなどさらに加速しています。新電力の中には、再生可能エネルギーを中心に取り組み、エネルギー政策の改革を掲げるところも出ています。一方、ガスなどの大手の新電力は、石炭火力の新設など気候変動対策に逆行するものも含めて計画を進めています。
使う側から電気を選ぼうと、新電力に切り替えた消費者も少なくありませんが、実際にはスマートメーターへの付け替えが進まず、また、地域によっては再生可能エネルギーの選択肢がなく、本格的にはまだこれからと言えます。
さらに、託送料という形で、原発の廃炉費用を新電力にも負担させようという案が経産省から出されました。この案は、たとえ消費者が自然エネルギーの電力を選んでも、原発のコストや廃炉や賠償費用などの負担が料金に転嫁されるという、消費者の選択権を無視する重大な変更が経産省で進められています。総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会のもと「電力システム改革貫徹のための政策小委員会」で決定し、年末年始にパブコメにかけるというスピードで方向性が決められました。原水禁ではこのパブコメに対応し取り組みましたが、案の一部内容を既に閣議決定するなど、不当な手続きで進められています。
合わせて託送料の中に、福島第一原発の廃炉・賠償費用、他の原発廃炉費用の現在試算されている不足分の8.3兆円を広く一般消費者から徴収し負担を転嫁しようとしています。政府の想定では、家族3人の標準家庭で月額数十円から200円程度の負担増だと言われています。
福島原発事故の賠償費用については、すでに原子力損害賠償・廃炉等支援機構(原賠機構)という仕組みを作って、本来責任のある東電を救済するために国費を注入し続けており、当初5兆円の上限は今や9兆円に拡大しています。また、原発をもつ電力会社は、「一般負担金」として原賠機構に納付している費用を電気料金の中に既に入れており、廃炉費用に付いても会計制度の見直しを昨年行い、電気料金の原価に入れる道筋をつけています。
経産省や電事連は「原発の発電コストは安い」と、エネルギー基本計画に盛り込んで国策として推進しながら、一方で原発を持つ電力会社がその費用を負担できなくなると、新電力の消費者にまで負担させるこの方式を許すことはできません。
東電に地域独占的送電網を持たせたまま、救済のために国費を注入するのではなく、事故処理や廃炉の費用を消費者へ負担転嫁する前に、脱原発の政策を決定し、東京電力を法的に整理するとともに送電網など資産を売却するべきです。
そして、エネルギー政策の方向性を定める明確な政策誘導を行い、既存の送電網でも柔軟に運営して再生可能エネルギーをかなりの比率まで高めたドイツの前例に学ぶべきです。
今日、電力自由化の中で数多くの新電力小売り会社が生まれました。消費者が電源構成をみて再生可能エネルギーによる電力を選択できるように、情報提供を始めた「パワーシフト・キャンペーン」にも協力して、自然エネルギーの電力を消費者の側から後押しする取り組みを進めます。
6) 重要性を増す「さようなら原発1000万人アクション」の取り組み
今、「脱原発」「エネルギー政策の転換」を求める大衆的運動の展開が強く求められています。老朽原発をはじめとした原発再稼動に反対する取り組み、核燃サイクルからの脱皮と自然エネルギーへの政策転換、福島の原発被災者の「避難の権利」の確立と切り捨て・棄民化に抗する取り組み、「核のゴミ」問題への対応など、山積する課題を大衆運動として展開する上で、私たちが進める「さようなら原発」の運動は重要な運動となっています。
原水禁・平和フォーラムは、さようなら原発1000万人アクション実行委員会に引き続き結集し、市民とともにその運動の中核を担っていかなければなりません。

(13) 急がれる福島の復旧・復興
1) 困難な廃炉作業と巨額な廃炉費用
東日本大震災によって、チェルノブイリ原発事故と並ぶ史上最悪の原子力災害を引き起こした東電・福島第一原発事故に対して、3月17日の前橋地裁判決(避難者集団訴訟において)で、「2002年には津波予見は可能で08年には実際に予見していた」「東電が津波対策を取っていれば原発事故は発生しなかった」「国も津波到来を予見できる状況だったのに、事故を未然に防ぐための命令を東電に出さなかった」と東電と国の責任を厳しく指摘しました。国、東電の責任は明らかで、今後の賠償や復旧・復興、責任者への処罰など様々な問題に大きく影響を与える判決です。この判決を十分活かしながら各種裁判支援や賠償問題、事故原因の追及などを行っていくことが必要です。
一方、廃炉に向けた作業は、非常に高い放射線量に阻まれ、様々な復旧・復興に向けた作業は難航しています。汚染水対策も、「凍土遮水壁」を稼働させましたが、汚染水の流入の大幅低減にはつながりませんでした。さらに廃炉に向けて最も困難と言われている溶融燃料(デブリ)の取り出しは、ロードマップでは、今年の夏頃までに「1~3号機それぞれの取り出し方針を決定」、18年度前半「最初に取り出す号機と具体的なプランの策定」、21年度12月までに「最初の号機で取り出し開始」、41年~51年ごろ「廃炉完了」としていますが、その実態には大きな困難が予想されています。
また、廃炉に関わる費用も、2013年12月の見積もり11兆円のほぼ2倍となる、21.5兆円との試算が、昨年12月に発表されました。試算の度に原発事故の処理費用が倍増していますが、あくまで現時点での「試算」であり、条件が変わればさらに巨額の費用負担が避けられないことは明らかです。
2) 避難生活と政府支援の打ち切り
被災地福島では、8万人近い被災者が、事故から6年を過ぎた今でも苦しい避難生活を余儀なくされています。子どもたちの甲状腺癌の問題、労働者の被曝の問題、中間貯蔵施設の問題、帰還と補償打ち切りの問題など山積する課題の中で被災者が苦しんでいます。
そのような中で、帰還困難区域を除いた、居住制限区域・避難指示解除準備区域などでは、住民の帰還を目指して除染作業が進められ、それに合わせて今年3月には、これまでの住宅支援などの補償が打ち切られようとしています。しかし、避難生活者には、いまだ高い放射線が残る故郷に帰還するのか、補償が打ち切られても避難し続けるのかの厳しい選択を迫るもので、安倍政権が進めるこれらの政策は、福島原発事故の早期幕引きであり、被災者に対しては「棄民」政策とも言えるもので、被災者に寄り添う姿勢などみじんも感じられません。
3) 県民の健康不安に対応した医療や行政の確立を
こどもの健康面においては、福島県による「県民健康調査」が行われ、これまでに145人が、がんと診断(12月27日)されました。県の「県民健康調査」検討委員会(座長・星北斗福島県医師会副会長)でも原発事故の影響を否定できないとする見方があります。現状では、多く見つかっているがんが原発事故に起因するかどうかの結論は出ていませんが、チェルノブイリ原発事故では、事故後5年以降になってがんなどの多発が見られた例もあり、これまで県が進めてきた「県民健康調査」の継続はもとより、今後も被災者の健康管理には特に注意を払わなければなりません。
また、放射能との関係については、県民が抱える「不安」に配慮しながら、慎重に議論されるべきですが、一方で予防原則を考慮した対応が求められています。多くの子どもたちが「がん」と診断され、心を痛めていることをしっかり受け止めなければなりません。今後、長期にわたる公的なケアと医療面、経済面でのサポートが必要です。県民の健康不安、特に子どもの健康にしっかりと向き合い、行政や医療の制度の確立とその充実が求められています。
4) 求められる被曝労働に対する安全な労働環境の整備
さらに、被曝労働や除染作業に対しても、被曝の低減を求めるとともに、安全な労働環境の
整備を追求していくことが必要です。特に緊急時における労働者の被曝線量限度の引き上げ(100mSvを250mSvへ)など労働者の被曝環境の悪化を前提に収束作業や原発再稼働を進めることは問題で、被曝の低減を求めるとともに、安全な労働環境の整備を追求していくことも必要です。現在、緊急時の避難対応などに当たる自治体職員やバスなどの民間の運転手などの被曝線量の引き上げが検討されています。緊急時の放射線下での対応は、被曝の強要につながりかねず、当該の労働組合などの組織とも協議し対応していくことが重要です。
「命」に寄り添う私たちの運動の真価が問われています。

(14) 被爆国日本が核兵器廃絶の先頭に
1) 核拡散への日本政府の矛盾した対応
4回にわたって開催した核セキュリティー・サミットなどを通じて、オバマ大統領の進めた核セキュリティー体制に対しては、日本政府は、東海の施設にあった330kgのプルトニウムを米国に送ることで「世界の分離済みプルトニウムの存在量を最小限にする」という目標に貢献したと公言しましたが、その後も使い道の無い48トンのプルトニウムを保有しています。さらに、認可法人「使用済燃料再処理機構」を再処理事業主体として新設しました。これで電力会社は再処理から撤退不可能となり、六ヶ所再処理工場が稼働すれば、日本の保有するプルトニウムは一気に核弾頭数千発分のレベルに到達する事態をきたしています。
12月21日、高速増殖原型炉もんじゅを廃炉とすることが原子力関係閣僚会議で決定されましたが、再処理・プルサーマルの方針も変えず、フランスの高速原型炉計画に協力しながらさらに実証炉も進めるという計画です。もんじゅの廃炉が決まった今、燃料が増殖できるという夢の核燃料サイクルが実現しないことが明らかになった訳ですから、経済的にも無意味なMOX利用に固執することなく、核燃料サイクルからの撤退を決めるべきです。
また、NPT体制強化を言いながら、NPTの外で核開発を続けるインドとの原子力協定に昨年11 月11
日に署名したことは、核拡散を止めるという被爆国日本の政策を大きく変えるもので許されません。加えて、その際に公約した核実験時の協力停止という担保さえも不明確であり、原水禁は翌日には抗議の声明を出しました。
この協定の批准には国会の議決が必要で、今年の通常国会で予算関連の審議後、4月以降に承認案が提出されると予想されます。原発輸出のために重要な核政策の変更をさせないように働きかけていかなければなりません。
また、核兵器禁止条約の交渉の場やNPT再検討プロセスの際に、日本政府が公言する、「核保有国と非保有国の橋渡しをする」という方針は、政府自体が核の役割低減・核先制不使用を認めることや、核拡散への圧力になるプルトニウム増産を中止するなど、具体的な政策をとることによってのみ説得力のあるものになります。安倍首相は、広島の慰霊碑の前、オバマ大統領の隣で述べた「核無き世界を必ず実現する」との言葉に責任をもって、具体的な政策変更をしなければなりません。
平和フォーラム・原水禁は、 米国以外の核保有国に対しても、連合、KAKKINと共に在日大使館への申し入れを続けています。今後も継続して核保有国へ働きかけていくことが重要です。
2) 先制核不使用に反対した日本政府への対応
オバマ大統領は2009年4月のプラハ演説で核兵器のない世界を目指すことを世界に向けて宣言しました。しかし、2017年初頭の世界の核兵器の量は、合計1万4900発程(うち米ロが90%以上)で、うち約1万発が軍事用で3900発が配備状態、約1800発が決定から数分で発射できる「警戒態勢」にあります。
世界の2016年の核兵器の量は、核兵器のピーク時といわれる1986年の合計約7万発と比べると減少しているものの余りにも多い数であり、今日では中距離核戦力全廃条約に違反するとオバマ政権が中止を働きかけていた、地上発射型の巡航ミサイルを新たに実戦配備するなどのロシアの強硬姿勢もあって米ロの協議も進まず核軍縮の流れが停滞しています。
こうした中、米国のNGOは、共和党が包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准にも反対する議会情勢の中で、議会の承認を必要としない政策として、「核兵器の先制不使用宣言」や「警戒態勢の解除」をオバマ政権の任期内に採用するようにと要求し事態の打開を目指してきました。
そして、このNGOの取り組みに呼応し、オバマ政権もこれらの政策の具体化に向けて検討を進めましたが、最終的にオバマ政権は日本政府の先制不使用反対の立場などを考慮して採用を見送ることになりました。
3) 日本政府、核兵器禁止条約の交渉会議への不参加を決定
これまでメキシコやオーストリアなどの国々は、世界の反核運動の協力を得ながら、核兵器禁止条約の交渉開始を目指し取り組みを進めてきました。
その結果、2016 年11月23日の国連総会における投票で、今年3月27~31日、6月15日~7月7日に国連での条約交渉実施を定めた決議(核兵器の禁止対象や検証方法、4週間を超えた交渉の継続方法は未定)が圧倒的多数で採択されることになりました。
しかし、この採決にあたって、日本政府は米国とともに反対票を投じるとともに、2月16日の国連で開かれた条約制定交渉会議の準備会合にも日本は参加せず、結局3月27日の高見沢大使による意見陳述のみとし交渉不参加を決定しました。
日本政府は、不参加の理由を「核保有国と非核保有国の対立を深め逆効果」だからとしていますが、核保有国と非核保有国の橋渡しの役割を負うとした従来の方針を否定する対応であり、また、戦後の被爆国としての核軍縮外交を放棄する無謀な行為ともいえます。核兵器国と非核保有国の橋渡しをするためには、政府は、従来の核兵器の先制使用を容認する政策を転換するとともに、積極的に核兵器禁止の論議に参加していかなければなりません。

(15)ヒバクシャの援護・連帯に向けてのとりくみ
1)被爆者の課題解決にむけて
ヒ口シマ・ナガサキの被爆者の高齢化(平均年齢80.9歳/2016年3月31日現在)は進み、その子どもである被爆二世も高齢の域に入りつつあります。 被爆者の残された課題を解決する時間も限られ、援護対策として国家責任を認めさせ、援護対策の充実を実現することが急務となっています。
被爆者の援護施策の充実を求める課題として、原爆症認定裁判や在外被爆者、被爆体験者、そして、 被爆二世・三世の課題などあり、残された課題の解決に向け当事者と連携・強化をはかっていくことが重要です。
日本被団協が「ヒロシマ・ナガサキの被害者が訴える核兵器廃絶国際署名」のとりくみを行っています。被爆者が求める核兵器を禁止し廃絶する条約をすべての国に求める署名です。被爆者の切なる願いの実現に協力することが、残された課題の実現に向け全国での取り組みを進めます。
原爆症認定問題では、昨年6月29日の東京地裁での判決では、これまでの認定基準を柔軟に解釈し、訴えを起こした全員を原爆症と認めました。これは要件を緩和したとする新基準でも原爆症認定の申請を却下した国の処分を不服として提訴したもので、「距離や時間に関する数値は目安にすぎず、一切の例外をゆるさない基準とはいえない」として、これまでの国による機械的審査の問題点を指摘しました。そのほかにも同様の訴訟は全国7地裁で起こされており、東京地裁の判決は、一昨年10月に17人全員を原爆症と認めた判決に続き2件目となりました。71年たってもいまだ原爆の被害に苦しむ人びとがいることは、原爆の残虐性を示すとともに、それに対する国の援護施策の不十分性を示しています。速やかな改善を求めていかなければなりません。
被爆体験者の問題では、昨年2月22日、「被爆体験者」161人(うち9人死亡)が、長崎県と長崎市に被爆者健康手帳の交付申請却下処分取り消しなどを求めた訴訟(第二陣)で、長崎地裁は、原告のうち爆心地の東約7?11キロで原爆に遭った10 人の請求を認め、県、市に手帳交付を命じる判決を言い渡しました。敗訴した原告151人は控訴し、引き続き国に手帳交付を求めています。被爆者の権利拡充が一部前進しましたが、判決は被爆の実態からまだまだ過小評価であり、引き続き裁判を支援するとともに被爆者の根本的救済を求めていくことが重要です。この裁判に連動して、全国被爆体験者協議会が「被爆体験訴訟の公正判決を求める署名」を展開しています。原水禁としても署名への協力を進めます。
被爆二世についても、援護施策が進まぬ状況の中で、全国被爆二世団体連絡協議会が中心となって、今年2月に裁判に訴えることになりました。被爆二世の置かれている現状を司法の場で訴え、国民的関心を高めようとするものです。原水禁としても被爆二世の権利の確立に向けて、当事者との連携を強化し、訴訟支援等を行っていきます。
このような残された被爆者の課題からも明らかなように国の被爆者援護に対する消極的姿勢は、 国が「原爆の被害を過小に見せたいがため」にあり、 原爆被害を根本から補償しようという立場にないことにあります。 ヒロシマ・ナガサキの被爆者に対して十分な補償をさせることは、フクシマの被災者に対する補償の充実にも繋がるものとして積極的に取り組む必要があります。
2) 被曝労働者との連帯を
福島原発事故によって、 住民の被曝とともに、収束作業や除染作業にあたる労働者の被曝問題はますます深刻な状況にあり ます。「安心・安全」に働くための労働者の権利の確立は、事故の収束作業などの基本となるとともに、福島原発に限らず、多くの原発・原子力施設に共通するものです。 現在、労働者の緊急時被曝限度を100mSvから250mSvへの引き上げ、生涯被曝線量1000mSvを容認しようとしています。労働者に大量の被曝をさせる動きに反対していくことが重要です。
この間、 原水禁・平和フォーラムとして被曝労働者の裁判を支援してきました。また、福島原発事故以降も厚生労働省や文部科学省、 復興庁などへ被曝低減や安心・安全に働ける労働環境の整備などを求め、現地福島の方々をはじめ市民団体や住民団体 (8団体) とともに交渉を重ねてきました。緊急時に公務員や運輸関係者など、避難誘導などに携わる人たちの被曝線量の引き上げも検討されていることから、関係する組合などとも協議を踏まえ要求をまとめていくことも重要です。
3) 世界の核被害者との連帯について
核被害は核の軍事利用・商業利用を問わず存在し、世界に拡大し続けています。核被害者との連携強化は、 ヒロシマ・ナガサキだけではなくフクシマの被害の実相を明らかにするうえでも重要です。今年の原水禁世界大会でも核被害者との交流を進め、連帯の輪を広げます。世界各地の核被害者との連帯の強化をはかり、核と人類は共存できないことを世界に訴えていくことが必要です。

(16)環境・食の安全・食料・農業問題などをめぐる課題
1) TPPなど貿易自由化に対するとりくみ
昨年の臨時国会で、環太平洋経済連携協定(TPP)の批准と関連法案(一括11法案)は、与党などの賛成多数で可決・成立しました。これは農産物などの市場開放ばかりでなく、各国の独自の規制や基準を撤廃して均一化を図り、究極の自由化を求めるものです。特に、食品添加物・ポストハーベスト農薬規制の緩和や、遺伝子組み換え食品の表示などの食の安全施策、医療制度や薬価基準、さらに、郵便事業や簡保、JA共済などを含む金融・保険、公共事業、労働など、広範な分野の政策に対し、多国籍企業が参入・関与ができる協定が作られていました。
また、投資企業が相手国を訴えて政策の変更を迫ることが出来るISDs条項(投資家対国家間の紛争解決条項)の導入によって、国の主権を損なうことが指摘されてきました。その一方で、TPPは「日米同盟」を強化し、中国に対する囲い込みであり、戦争法案とともに、対中関係の緊張を増すブロック経済化が懸念されました。しかも、交渉内容や経過は4年間も公開されないことになっています。
しかし、TPPの発効に不可欠となる米国では、トランプ大統領が就任直後にTPPから永久に離脱する大統領令に署名をしました。このため、現状ではTPP協定は発効できずに漂流する可能性が高くなっています。今後、トランプ大統領は自国の経済利益の最大化を追求し、日米2国間の通商交渉を求めて、日本に対して一層の市場開放や規制緩和を迫ってくることが予想されます。しかも、日本がTPPを批准したことにより、協定内容をベースにして、さらなる要求を突きつけてくることが想定されます。
また、日本と欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)の交渉は大詰めを迎え、東南アジア諸国連合(ASEAN)10ヵ国と日中韓印豪NZの6カ国による広域的な東アジア地域包括的経済連携(RCEP)交渉や、日本・中国・韓国の自由貿易協定(FTA)の交渉、さらに日米、EU,カナダ、韓国など23ヵ国による「新サービス貿易協定」(TiSA)の交渉も進められており、様々な貿易交渉が錯綜しています。
今後、TPPの発効は困難とみられているものの、関連する動き等を見据えて「TPPを発効させない!全国共同行動」の共同事務局のひとつとして、関係団体と連携を取って運動を進めることが必要です。また、情報が極めて限られている日欧経済連携(EPA)を初めとした様々な通商交渉に対し、学習・集会の開催や政府交渉なども進め、今後のアジアを中心とした各国との連携のあり方も検討していく必要があります。
2)食の安全のとりくみ
TPPや様々な国との自由化交渉は食の安全にも関わります。すでに、日米間の協議では、アメリカからの要求に沿って食品添加物の追加指定や残留農薬基準の緩和などが行われています。今後も遺伝子組み換え農産物の輸入拡大などが迫られる恐れがあります。
その中で、これまでの消費者団体の運動により、加工食品の原料原産地表示の拡大にむけた「食品表示法」の改正が実現することになりました。しかし、事業者寄りの内容も多いため、消費者団体では改善を求めるとともに、遺伝子組み換え食品の表示義務や食品添加物の表示改善を求めていくことが必要です。また今後、日米二国間通商交渉により、遺伝子組み換え食品の拡大や、輸入検査体制の緩和などが予想されることから、関係消費者団体等とともに、引き続き追及していく必要があります。
2015年4月から始まった機能性表示食品制度は、依然として、安全性や効果を示すデータの信ぴょう性、公開情報が不十分なことが指摘をされています。このため、トクホも含め、機能表示制度に関する総合的・一元的見直しが求められています。放射線照射食品については、禁止措置の継続を求めて、今後も政府、業界への働きかけを進めていく必要があります。
3) 水・森林・化学物質・地球温暖化問題などのとりくみ
水問題については、今後も、化学物質の排出・移動量届出制度(PRTR制度)を活用した合成洗剤の規制など化学物質の総合的な管理・規制にむけた法制度や、有害物質に対する国際的な共通絵表示制度(GHS)の合成洗剤への適用などを求めて運動を展開していく必要があります。
また、水の公共性と安全確保のため、今後も水循環基本法の理念の具体化や、ライフラインである水道・下水道事業の公共・公営原則を守り発展させることが、引き続き重要な課題となっています。健全な水循環の構築に向けた「水循環基本法」に基づく水行政の推進の一方、グローバリゼーションの進展の中で、水の商品化、水道事業民営化の動きを注視する必要があります。
地球規模での森林の減少と劣化が進み、砂漠化や温暖化を加速させています。日本は世界有数の森林国でありながら、大量の木材輸入により、国内の木材自給率は低迷してきました。最近は、国産材の使用拡大施策などが図られ木材自給率も回復しています。しかし、今後の様々な通商交渉の中で木材製品の関税削減により、木材自給率等への影響を注視する必要があります。今後も、温暖化防止の森林吸収源対策を含めた、森林・林業政策の推進に向けて、「森林・林業基本計画」の推進、林業労働力確保、地域材の利用対策、山村における定住の促進などを求めていくことが必要です。
地球温暖化問題では、原発とともに、石炭火力発電所を推進する日本のエネルギー政策の抜本的な見直しなど、目標達成のための実効性をともなう仕組みづくりが求められています。また、身近な地域資源を活用したバイオ燃料や風車、太陽光発電など地域分散型の再生可能エネルギーの事業を興していくことが大切です。そのため法・制度、生産システムの確立を求めていくことが必要です。
熊本・新潟の両水俣病被害者の多くは、いまなお国や加害企業等を相手に提訴したり、行政に認定申請しているように、水俣病は終わっていません。その要因として、いまだに水俣病被害の全貌が明らかでないことがあげられています。今後、熊本の不知火海沿岸や新潟の阿賀野川流域等での被害の全容調査などが早急に必要です。
4) 食料・農業政策のとりくみ
安倍内閣は、農林水産業を「成長戦略」の柱の一つにあげ、規制改革推進会議の提言をもとに「農業改革」を進めています。昨年から「農協法改正」や「農業委員会法」、「農地法」改正が施行され、さらに企業の農業参入や規模拡大を進めるとともに、条件不利地域や小規模農業の切り捨てにつながる施策も進められています。また、食料自給率(カロリーベース)も6年連続して39%と、依然として低迷が続いています。今後の貿易交渉によってはさらなる低下が予想され、食料・農林業・農村政策の確立が求められています。
今年の通常国会に、生産資材価格引き下げや農産物の流通の業界再編を促す「農業競争力強化法案」や、農家が一定の基準収入を下回った場合に補填する「収入保険制度」を創設するための関連法案、加工原料乳の生産者補給金に関わる指定団体制度の変更をめざす法案も提出されます。こうした改革が、農業の活性化や農家所得の向上とどう結びつくのか不明であり、逆に地域農業の維持が困難になると批判が高まっています。特にJA農協に対する攻撃の背景には、TPP協定でも問題になっている、経済界やアメリカからの協同組合の解体や、信用・共催事業の獲得の狙いがあることが指摘されています。
今後も農民・消費者団体と協力し、食料自給率引き上げや所得補償制度の拡充、食品の安全性向上など、食料・農林業・農村政策に向けた法・制度確立と着実な実施を求めていく必要があります。また、各地域でも食の安全や農林水産業の振興に向けた自治体の条例作りや計画の着実な実施が必要です。

2. 具体的なとりくみ課題

(1) 正念場を迎えた憲法を守る闘い
1) 戦争国家づくりを推し進める安倍政権の動きに対抗する全国的運動として「戦争をさせない1000人委員会」のとりくみをすすめます。人々の「生命」(平和・人権・環境)を重視する「人間の安全保障」の政策実現を広げていく「武力で平和はつくれない!9条キャンペーン」、「9の日行動」など各地で行います。「持続可能で平和な社会(脱原発社会)」を求める「さようなら原発1000万人アクション」のとりくみと連携します。
2) 戦争法の廃止、PKO部隊の派遣反対、辺野古新基地及び高江ヘリパッド建設反対などについて、署名活動や集会、街頭宣伝活動などを継続してきた「戦争させない!9条壊すな・総がかり実行委員会」に引き続き結集してその中心を担うとともに、共謀罪成立阻止や貧困・格差解消の向けた取り組みなどを進めていきます。
3) 戦争法の廃止・憲法改悪の阻止のとりくみを引き続き全力でとりくみます。米軍再編、自衛隊増強などを許さないとりくみと連携して、日米軍事同盟・自衛隊縮小、「平和基本法」の確立、日米安保条約を平和友好条約に変えるとりくみをすすめます。
4) 自民党による改憲攻撃に対抗するとりくみを強め、立憲フォーラムと協力し、院内外での学習会などを行います。中央・東京での開催とともに、ブロックでの開催を奨励し協力します。学習会を開催します。また、機関誌「ニュースペーパー」での連載企画や冊子発行、論点整理のホームページなどを適宜、情報発信します。
5) 武力によらない新しい時代の安全保障のあり方や、アメリカや東アジア諸国との新たな友好関係について「人間の安全保障」などの議論を継続していきます。
6) 今年の5.3憲法集会を「施行70年 いいね!日本国憲法―平和といのちと人権を!5.3憲法集会」として開催し、安倍政権とたたかう諸団体・個人の総結集をめざします。あわせて、全国各地での多様なとりくみを推進します。
7) 「憲法理念の実現をめざす第54回大会」(護憲大会)は、下記日程で東京都内にて開催します。
10月28日(土) 午後 開会総会
10月29日(日)   分科会・ひろば
10月30日(月) 午前 閉会総会

(2) 共謀罪に反対する取り組み
安倍政権は、「共謀罪」新設を「テロ等組織犯罪準備罪」として、今通常国会での提出を目論んでいます。市民を日常的に監視することを狙うものであり、戦争国家へ向けた法整備にほかなりません。「オリンピック開催」を理由に挙げていますが、憲法で規定された基本的人権の抑圧を正当化するなど、許されない内容です。市民との共同の力で、法案提出阻止はもちろん、強行採決の手法を許さず、十分な審議の中でその問題性を明らかにし、成立に反対する大きな闘いの構築をめざします。

(3) 在日米軍基地縮小・撤去、オスプレイの配備反対など安全保障にかかわる取り組み
1) 普天間基地に配備されたオスプレイの配備を撤回させ、横田基地へのCV-22の配備を阻止するとりくみを行うほか、オスプレイをはじめとした米軍機の低空飛行・夜間飛行訓練など危険な運用に反対するとりくみをすすめます。そのために、「オスプレイと低空飛行に反対する東日本連絡会」や「全国基地問題ネットワーク」と協力し、防衛省・外務省および地方自治体への要請行動にとりくみ、オスプレイ等米軍機の配備・訓練に反対する各地の行動に協力していきます。
2) 在日米軍の基地機能強化に反対し、米軍基地のある14都道府県運動組織のとりくみに協力していくほか、自衛隊基地の米軍利用など、日米の軍事一体化と基地の共同使用に反対するとりくみをすすめていきます。また、日米地位協定の抜本的な改定を求めるとりくみを、全国基地問題ネットワークおよび反基地運動にとりくむ市民団体、および立憲フォーラムや沖縄等米軍基地問題議員懇談会に結集する国会議員との連携を追求していきます。
3) 辺野古新基地建設を許さず、沖縄の過剰な基地負担をやめさせるために、沖縄平和運動センターのとりくみを支援していくとともに、その一環として「平和フォーラム沖縄事務所」を開設します。また、辺野古新基地建設反対の世論を拡大していくために、総がかり行動と連動したとりくみを強化するほか、「辺野古土砂搬出反対」全国連絡協議会との連携を追及し、県外から辺野古への土砂搬入を阻止するとりくみをすすめていきます。
4)「第40回5・15沖縄平和行進」のとりくみに協力します。
5月11日(木)15:00 ~  全国結団式
5月12日(金) 9:00~  平和行進1日目
5月13日(土) 9:00 ~  平和行進2日目
5月14日(日) 8:30 ~  平和行進3日目
10:30 ~11:30 平和とくらしを守る県民大会(名護市)
5) 南西諸島等での自衛隊の強化、専守防衛から逸脱する装備、技術取得に反対し、防衛予算の拡大に反対するとりくみを行います。また、武器及び技術の輸出に反対し、政府援助をやめさせるとりくみを追及します。戦争法の施行で自衛官の任務が拡大し、「戦死」の危険が現実の問題になっているなかで、抑圧された軍隊の中で起こりうるいじめ等の人権侵害問題についても関わり、「防衛大人権侵害裁判を支援する会」のとりくみに協力していきます。
6) 憲法9条を改正し平和主義の原則を捨て去ろうとする憲法改悪を許さず、戦争法制の廃止を求める闘いに協力していきます。また、各地の基地爆音訴訟団、アジア太平洋の反基地団体との交流をめざします。
7) 山城博治沖縄平和運動センター議長の裁判闘争を支援するとともに、沖縄平和運動センターのよびかける行動に応えていきます。

(4) 民主教育の推進
1) 大阪市における教科書採択の不正に対して、第三者委員会の議論を注視しつつ、育鵬社版教科書などの採択阻止にとりくんできた市民と連携して、採択取り消しなどの方向性をもって、真相の追究を行ないます。また、文科省の責任を追及するともに、教科書無償化措置法においての対応を求めていきます。
2) 育鵬社や教育再生機構が大阪府岸和田市の企業と結託した、教科書展示会での不正アンケート問題では、大阪の運動団体と連携し、大阪市議会での追及にとりくむとともに、公正取引委員会への資料提供などを通じて不当採択の問題として排除勧告などを引き出すようとりくみをすすめます。
3) 政権の意図に偏った恣意的な教科書検定の実態を明確にし、バランスのとれた教科書の記述内容を求めてとりくみをすすめます。
4) 憲法改悪反対のとりくみと連動し、「修身」などの復活を許さず、復古的家族主義、国家主義的教育を許さないとりくみを展開します。
5) 人に優しい社会へのとりくみを、様々な方向から強化し、貧困格差を許さない方向からも、教育の無償化へのとりくみを強化します。

(5) 多文化多民族共生社会に向けた人権確立の取り組み
1) 朝鮮学校に対する差別に反対し、「高校無償化」裁判や各自治体からの補助金支給の実現に取り組む運動を支援していきます。「朝鮮学園を支援する全国ネットワーク」を中心に全国や韓国の支援運動との連携をすすめていきます。
2) 実効性ある人権救済法の制定と国際人権諸条約・選択議定書の批准に向け、「国内人権機関と選択議定書の実現を求める共同行動」や日弁連のとりくみに参加・協力します。「国連・人権勧告の実現を!」実行委員会に参加・協力し、日本政府に国連の人権勧告を遵守するよう求めるキャンペーンをとりくみます。
3) 狭山事件の再審の実現要求など、えん罪をなくすとりくみに参加・協力します。
4) 冤罪発生の危険性を高め捜査機関の権限拡大を図る刑事司法改革関連法案の内容に反対するとともに、実効性ある「取り調べの可視化」の実現を求めて運動を進めていきます。
5) 「共謀罪」などの人権抑圧につながる法制度に反対するとともに、「特定秘密保護法」の廃止を求めます。
6) 障害者権利条約の完全実施を求める当事者団体のとりくみに協力します。
7) 重大な人権侵害をもたらす恐れが指摘されている医療観察法の廃止を求めるとりくみに協力します。
8) 差別なき定住外国人参政権法案の制定に向けて、参政権ネットや民団と協力して、全国各地でとりくみをすすめます。またヘイトスピーチに反対し、アジアへの蔑視・差別感に対する教育活動に取り組んでいきます。
9) 女性の経済的自立と意思決定の場における発言力を高めることが、日本のジェンダー平等を実現するために不可欠です。「選択的夫婦別姓」は最高裁で不当な判決が出され、これからは国会の場で政治的決着をつけなければなりません。関係団体とともにとりくみを強化します。また、「クオータ制」実現に向けて4野党が提出した「女性の政治参画推進法案」の成立を全力で支援します。さらに、「同一価値労働同一賃金」の実現は女性の人権を国際的水準に引き上げる運動の要としてとりくみます。
10) 一般市民の戦争犠牲者の救済を求めるとりくみとして、東京大空襲訴訟・空襲被害者立法の支援をおこないます。また、重慶爆撃の被害者による訴訟のとりくみに協力します。
11) 「菅首相談話」にも明記された遺骨問題や文化財返還問題については、関連団体と連携したとりくみをすすめます。「強制連行・企業責任追及裁判全国ネットワーク」などがすすめる「朝鮮人強制労働被害者補償立法の実現を求める要請署名」に協力します。
12) 外国人労働者の権利保障のため、そして実習生制度の見直しを求めて、各運動体と連携していきます。

(6)東アジアの連帯と非核・平和を進める取り組み
1) 韓国の平和運動団体と連携し、米韓軍事演習など軍事的恫喝や制裁措置の強化などに反対する運動を進め、日米韓の政府への要請にとりくみます。
韓国の平和運動団体から提案のあった国際平和機構「KIPF(korea international peace forum)」には、「戦後70年 新しい東アジアへの一歩へ! 市民連帯」の枠で参加し、国際的な連携の強化に努めます。
2) あらゆる核に反対し平和を求める立場から、北朝鮮政府による核放棄を求めるとともに、米国が朝鮮戦争の休戦協定を平和協定へと転換する協議を直ちに開催するよう求めていきます。
3) 引き続く東北アジアの緊張状態や「制裁」による在日コリアンの人権侵害の動きに対して、日朝国交正常化全国連絡会による対話と友好のとりくみをすすめ、政府・外務省などに対する働きかけをおこないます。

(7) 被爆72周年原水爆禁止世界大会及び被災64周年ビキニデー集会
1) 被爆72周年原水爆禁止世界大会は、下記の日時で開催します。
7月29日      福島大会(シンポジウム・予定)
8月4日~6日    広島大会
8月7日~9日    長崎大会
2) 被災64周年3.1ビキニデー集会を2018年3月に静岡で開催します。

(8)原発再稼働を許さず、脱原発に向けた取り組み
1) 原発の再稼働阻止にむけて、現地と協力しながら、課題を全国化していきます。合わせて自治体や政府への交渉を進めます。
2) 老朽原発の危険性を訴え、廃炉に向けた運動を進めます。
3) 「さようなら原発1000万人アクション実行委員会」の運動に協力し、事務局を担い、「1000万署名」の達成、各種集会等の成功をめざしてとりくみの強化を進めます。
4) 核燃料サイクル政策の破綻を明らかにし、六ヶ所再処理工場の建設中止を求め、「高速炉開発」に反対します。また、「4,9反核燃の日」全国集会を開催します。現地のとりくみを支援するとともに、国・事業者などへも要請や提言を行います。
5) フルMOX燃料の大間原発や上関原発などへの新規原発の建設中止を求めていきます。
6) 中越沖地震10周年集会、JCO 臨界事故18周年集会に協力します。
7) 高レベル放射性廃棄物の地層処分のための「科学的有望地」の動きに対して、その問題点を明らかにし、各地での取り組み支援とネットワークの強化を図ります。さらに6月に「どうする!原発のゴミ全国流会」を岡山で開催し、これを起点に運動を強化していきます。
8) インドや中東などへの原発輸出に反対し、政府などへ要請します。
9) 原子力空母の危険性を訴え、寄港地での防災対策について政府や自治体と交渉を行います。
10) 電力自由化に対する取り組み
(ア)電力システム改革へ後ろ向きの勢力に注視し、政策決定の過程を明らかにさせる取り組みを行います。
(イ)eシフト(脱原発・新しいエネルギー政策を実現する会)などによるキャンペーン、パワーシフトにも協力し、消費者の側から購入電力を選ぶことを推進し、再生可能エネルギーへの転換を進めます。
(ウ)各地の自然エネルギー利用のとりくみに協力します。とくに「再生可能エネルギー促進条例」(仮称)づくりなど、地域から再生可能エネルギーのとりくみをつくり上げることに協力します。
(エ)廃炉費用、福島原発事故処理費用の原則事業者負担を求め、託送量に上乗せすることに反対します。

(9) 核兵器廃絶、核軍縮の取り組み
1) 核兵器廃絶にとりくむ国内外のNGO・市民団体との国際的な連携強化をはかり、核兵器廃絶に向けたとりくみを進めます。
2) 原水禁・連合・KAKKIN3団体での核兵器廃絶に向けた運動の強化をはかります。
3) 東北アジア非核地帯化構想の実現のために、日本政府や日本のNGOへの働きかけを強化し、具体的な行動にとりくみます。さらにアメリカや中国、韓国などのNGOとの協議を深めます。
4) 安保法制下では自衛隊による核兵器の輸送も法文上可能だとする安倍政権の姿勢を糺し、非核三原則の法制化へ向けた議論と行動にとりくみます。
5) 非核自治体決議を促進します。自治体の非核政策の充実を求めます。さらに非核宣言自治体協議会や平和市長会議への加盟・参加の拡大を促進させます。
6) 政府・政党への核軍縮に向けた働きかけを強化します。そのためにも核軍縮・不拡散議員連盟(PNND)や国会議員と連携したとりくみをすすめます。
7) 日本政府に対し、核兵器の非人道性声明に署名しながら、核政策としての拡大抑止政策を変更しようとしない姿勢をただすとともに、国連の「核兵器禁止条約」の議論のなかで、被爆国として核兵器廃絶に向けた積極的な役割を果たすよう追求します。
8) 日本のプルトニウム増産への国際的警戒感が高まる中、再処理問題は核拡散・核兵器課題として、とりくみを行います。
9) 8月に国連ジュネーブ本部を訪問する生平和大使の運動をサポートし、運動の強化をはかります。
10)「ヒロシマ・ナガサキの被爆者が訴える核兵器廃絶国際署名」に協力します。

(10) フクシマの課題を前進させる取り組み
1) 福島原発事故に関する様々な課題について、現地と協力しながら運動を進めます。被災者問題や被曝問題について、政府や行政への要請や交渉を進めます。
2) フクシマ連帯キャラバンを、労働組合の若い組合員を中心に取り組みます。
3) 福島原発事故にかかわる各種裁判を支援します。

(11)ヒバクシャの援護・連帯に向けた取り組み
1) 原爆症認定制度の改善を求めます。被爆者の実態に則した制度と審査体制の構築に向けて、運動をすすめます。
2) 在外被爆者の裁判闘争の支援や交流、制度・政策の改善・強化にとりくみます。
3) 在朝被爆者支援連絡会などと協力し、在朝被爆者問題の解決に向けてとりくみます。
4) 健康不安の解消として現在実施されている健康診断に、ガン検診の追加など二世対策の充実をはかり、被爆二世を援護法の対象とするよう法制化に向けたとりくみを強化します。さらに健康診断などを被爆三世へ拡大するよう求めていきます。
5) 被爆認定地域の拡大と被爆者行政の充実の拡大をめざして、現在すすめられている被爆体験者裁判を支援し、国への働きかけを強化します。
6) 被団協が進める国際署名に協力します。
7) 被曝線量の規制強化を求めます。被曝労働者の被曝線量の引き上げに反対し、労働者への援護・連帯を強化します。
8) 被爆の実相を継承するとりくみをすすめます。「メッセージ from ヒロシマ」や「高校生1万人署名」、高校生平和大使などの若者による運動のとりくみに協力します。
9) 原水禁・連合・KAKKIN(核禁会議)の3団体での被爆者の権利拡大に向けた運動の強化をはかります。
10) 世界のあらゆる核開発で生み出される核被害者との連携・連帯を強化します。

(12) TPP協定発効反対、食とみどり、水・環境を守る取り組み
1) TPP協定の発効に反対するとともに、日米二国間の通商交渉をはじめ、様々な通商交渉に対し、その情報開示を求め、問題点を明らかにするとりくみを幅広い団体と連携を図りながら進めます。そのため、集会や学習会などを開催していきます。
2) 輸入食品の安全性対策の徹底とともに、日米二国間交渉等にともなう食品規制緩和の動きに反対して、消費者団体などと運動を進めます。
3) 「食品表示制度」に対し、消費者のためになる表示のあり方を求めていきます。「機能性食品表示制度」に関する総合的・一元的見直しを求めます。
4) 遺伝子組み換え食品の表示制度の改善や照射食品を認めない運動をすすめます。
5) 「きれいな水といのちを守る全国連絡会」の事務局団体として、活動を推進します。また、「水循環基本法」の具体化に向けたとりくみを求めます。
6) 関係団体と協力して、「森林・林業基本計画」で定めた森林整備の確実な推進、地産地消による国産材の利用拡大、木質バイオマスの推進などにとりくみます。
7) 温暖化防止の国内対策の推進を求め、企業などへの排出削減の義務づけや森林の整備など、削減効果のある具体的な政策を求めます。
8) 自然(再生可能)エネルギー普及のための法・制度の充実を求めていきます。また、温暖化防止を名目とする原発推進に強く反対します。
9) 終わらない水俣病の解決を求めて、被害の全容解明を求める熊本と新潟の被害者団体のとりくに協力します。
10) 農林業政策に対し、食料自給率向上対策、直接所得補償制度の確立、地産地消の推進、環境保全対策、自然エネルギーを含む地域産業支援策などの政策実現を求めます。
11) 各地域で食品安全条例や食育(食農教育)推進条例づくり、学校給食に地場の農産物や米を使う運動、子どもや市民を中心とした支援米作付け運動や森林・林業の視察・体験、農林産品フェスティバルなどを通じ、食料問題や農林水産業の多面的機能を訴える機会をつくっていきます。
12) 「第49回食とみどり、水を守る全国集会」の開催(11月17日~18日、熊本市)に向けてとりくみます。

3.平和フォーラムの運動と組織の強化にむけて
(1) 巨大な安倍政権と闘う組織の強化を
昨年7月10日投開票で行われた第24回参議院議員選挙は、自公政権を中心とした改憲勢力が非改選議席と合わせ3分の2を占める結果となり、11 月から再開された憲法審査会での議論と合わせて憲法改正に向けた動きが加速してきました。
1月20 日に開会された通常国会の施政方針演説では、安倍首相は、「憲法審査会で具体的な議論を深めよう」と、改憲に向けた本格的な審査会での議論を与野党に求めてきています。
憲法施行70年を迎え、巨大な安倍政権のもとでいよいよ憲法改正に向けて正念場の闘いを迎えることになりました。
また、福島第1原発の事故以降、停止していた原発も、「原発はいらない」という世論に背を向け老朽原発も含めた再稼働へと進み始め、憲法違反の新たな任務を付与されたPKO部隊が南スーダンに派遣されることになりました。
一方、沖縄では、東村・高江のヘリパット建設や、一旦は、県と国との間で和解を迎えた辺野古新基地建設は、全国の機動隊を導入した暴力と山城沖縄平和運動センター議長の不当逮捕・勾留にみられるような国家的な弾圧により、沖縄の民意は踏みにじられ工事が強行されてきています。そして、昨年9月16日の福岡高裁那覇支部の判決から12月20日の「知事の埋め立て承認取り消しは違法」とした最高裁判決に至っては、司法の独立すら守られず国の主張に追従したものとなっています。
私たち平和フォーラムは、このような、かつてない多くの困難な課題に直面しながら、平和と民主主義、人権と反差別、原発とエネルギー政策などで市民や労働組合の立ち上がりに依拠しながらその運動の中心を担い安倍政権の政策と全面的に対決してきました。
もちろん、この安倍政権との闘いは、第一に、総評労働運動の歴史的な運動方針を継承し、共闘の基礎基盤を担う産別中央組織と中央団体によって。第二に、全都道府県に組織されている地方組織の活動によって支えられてきたものです。
しかし、今なお取り組み課題は重要な局面が継続しているばかりか運動領域も拡大し困難さを増してきており、これらに対応できる総体としての平和フォーラムの組織強化が今内外から求められています。
そして、こうした組織強化は、平和フォーラムの事務局機能と組織力量の強化の課題にとどまることなく、平和フォーラムに結集する中央組織、地方組織の総体の意志統一を基礎としたものでなければなりません。
そのため、組織検討委員会や同作業委員会での討議をはじめとして、組織強化の具体化について中央・地方の機関会議などで討論を進めていきます。

(2)より広範な運動展開と社会の多数派を目指す活動
安倍政権の暴走に対し新たな運動も立ち上がっています。集団的自衛権容認の閣議決定に続き戦争法案の強行採決、辺野古新基地建設強行、原発再稼働、オスプレイ配備、昨年11月のTPPの承認案と関連法案、年金カット法案、IR法案などの強行採決、歴史修正主義など、国会内の多数の力と民意をまったく顧みない政治手法に怒りの声をあげる新たな人々の広がりが生まれてきています。また、従来保守層と言われていた人々のなかからも、「戦争」への危機感から抗議の声があがっています。このように、安倍政権自身が生み出しているこのような政権反対派の人々と連帯、連携することも重要な課題です。
「さようなら原発1000人アクション」と「戦争をさせない1000人委員会」の運動は、従来の枠組みを超えた新しい運動を展開してきました。なかでも結成から3年を経過した「戦争をさせない1000人委員会」は、ほぼ全都道府県で「1000人委員会」が結成され、市町村でも「1000人委員会」地域組織も立ちあがってきています。しかし、この間の取り組みの中でも正確な実態については把握しきれておらず、平和フォーラムの中央、地方組織の将来の組織強化を展望するうえからも「1000人委員会」の拡大と合わせて組織的な整備も行っていかなければなりません。
一方、戦争法の成立に続き安倍政権下で憲法改「正」を許してはなりません。今日の圧倒的な安倍政権に対峙し、戦争法の廃止や憲法改「正」を阻止するためには「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」や「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」、さらには、全国で訴訟を展開する「違憲訴訟の会」との連携は重要です。
また、立憲主義の確立を求め、超党派の国会議員でつくられた「立憲フォーラム」や地方議員を対象にした「立憲ネット」との連携した取り組みも広げていかなければなりません。
さらに、組織労働者への不断の働きかけなくして、社会の多数派形成はなく、連合との共同行動や連携の重要性がますます高まっています。平和と憲法、立憲主義、核兵器廃絶と被爆者援護、人権と環境など、平和フォーラムがとりくむ課題を提起しながら、共有課題を尊重して連合とより積極的な連携をはかることが中央・地方で求められています。

(3)運動を担う主体の強化について
平和をめぐる意見の相違が先鋭化している中、労働組合において平和と人権の意義、役割をより丁寧に宣伝する活動が重要となっています。「防衛力の増強が戦争の危機を招来している問題」、「侵略戦争の過去の謝罪と総括がいかに不十分か」、「憲法の先見性、普遍性」など、とくに若い世代に丁寧に伝えることが重要です。次代をになう人材の育成が組織強化の使命です。これらの課題を目的意識においた対策が柔軟に講じられる必要があります。沖縄平和行進やフクシマ連帯キャラバンなどの具体的な課題を通じて若い世代が参加し交流できるよう工夫することが求められます。
また、運動の協力者(サポーター)を組織活動の周りにひきつけ、行動を共にする中から後進の育成を展望するとりくみを検討します。個々の集会、運動などの機会が、新しい運動の担い手の結集の機会でなければなりません。そのために、運動の情報発信をより広く行い、とりくみの意義と目的が迫力のあるものとするよう努めます。

(4)政策の実現をめざして
平和フォーラムは東アジアの平和友好、立憲主義の回復と憲法理念の実現、脱原発、人権、貧困・格差の解消、食と環境などの運動の到達点を踏まえ政策実現のとりくみを進めなければなりません。そのため、新しい政策実現への展望を切り開きつつある運動体との連携を進める中で政策化をはかり、政府との対抗関係を構築します。
とりわけ、ナショナルセンターとしての連合にその役割を果たすことを期待し連携を強化するとともに、広範な運動の構築をめざしていきます。
また、立憲フォーラムや立憲ネットをはじめ、民進党、社民党と連携し、よりきめ細かな政府・各省・自治体等への対策を強化します。また、自治体選挙や解散がささやかれる本年の衆議院選挙は決定的に重要となっており、立憲フォーラムをはじめとする国会議員、立憲ネットワークなどの地方議員、連合の奮闘に期待すると同時に平和フォーラムも従来のとりくみ経過や「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」の設立などを踏まえ、最大限のとりくみを進めます。
こうしたとりくみ全体を促進するため、研究者・研究団体、NPO・NGO、青年や女性などとの連携も強化します。

(5)結集軸としての組織活動
1) 機関運営について
平和フォーラムの目標を具現化するために、常任幹事会、運営委員会・原水禁常任執行委員会を開催し、具体的な運動の課題と目標の共有化につとめてきました。また、各地方組織の課題、共通目標の確認のため各都道府県・中央団体責任者会議、全国活動者会議を開催するとともに、各地方ブロック会議とも積極的に連携しました。
2) 情報の発信と集中、共有化について
全国組織の平和フォーラムにとって、ホームページ、メールマガジン、機関誌「ニュースペーパー」、パンフレットやブックレット、記録集の発行などは情報の発信と共有化のための重要な役割を果たしています。それぞれの機能を有効に活用し、一方的な情報発信にならないような工夫、情報の整理と蓄積などが今後の課題です。また、若い世代を対象にした「ピーコミ(p‐comi)の定期発行を進めます。
また、「さようなら原発1000万人アクション」「戦争をさせない1000人委員会」の運動の中で、インターネットやその他の通信手段で平和フォーラム・原水禁のとりくみに参加する市民が増えており、インターネット等による平和フォーラム・原水禁の精力的な発信力が求められています。
3) 集会の開催、声明などの発信
中央、地方の大衆的な集会の開催、署名活動、社会状況や政治的動向に対する見解や声明などの発信などは、平和フォーラムの運動目標を具現化し、社会的な役割を拡大するために重要なとりくみです。日程や場所など参加しやすい環境づくりとともに運動の拡大をめざし、前例踏襲型にならない工夫が必要です。
4) 政策提言の発信
環境政策、エネルギー政策と原子力規制、基地と原発依存からの脱却、ヒバクシャの課題など、政府等に対する政策要求・提言活動を強めます。

(6)具体的なとりくみ
1) 事務局体制の強化
全国組織の事務局として、情報の収集発信機能を強めるとともに、地域の運動と中央の課題を結びつけ、持続的な運動を組み立てる視点で運営します。
(ア)課題別担当、中央団体・労働団体、ブロック別担当を配置し、コミュニケーション機能を強めます。
(イ)要請・紹介文書・各種資料・宣伝物などについて、構成組織の実態を踏まえた作成・連絡・配布など丁寧な運営に努めます。
(ウ)情報提供体制の充実に努めます。
・提供する情報量の充実をめざします。
・ホームページについて、引き続き画面の改革、掲載情報量の豊富化をめざします。
・リーフ、パンフレットなどの充実をめざします。
・機関誌「ニュースペーパー」、メールマガジンは内容の充実をはかります。とくに「ニュースペーパー」については配布先の拡大、配布部数の拡大をはかります。
2) 組織の運営
(ア)平和フォーラムでは、常任幹事会、運営委員会を定期的に開催すると同時に中央・地方組織責任者会議、全国活動者会議など必要に応じて開催し、とりくみの意思統一を深めます。また運動目的に合わせて課題別委員会を設置します。
(イ)原水禁では、常任執行委員会を定期的に開催すると同時に、必要に応じて専門部、専門委員会を設置し、課題別のとりくみを推進します。また各種集会では、可能な限り運動交流部会を開催し、意志統一と交流を深めます。引き続き、平和フォーラム運営委員会と原水禁常任執行委員会を合同で開催します。
(ウ)運動の重点化、年中行事型運動の見直し、運動スタイルの見直しなど運動全体の改革を行います。
(エ)各ブロック協議会を確立し、各都道府県組織を強化するとともに、地域社会への影響力の拡大をめざします。
(オ)組織体制や運動づくりを男女共同参画の視点で行います。
(カ)常任幹事会のもとに組織検討委員会を設置し、長期的視野にたった運動と組織のあり方を協議し提言をまとめます。また、その課題検討のために、組織検討委員会・作業委員会で議論を深めます。
(キ)運動の前進と継続のため、財政基盤の確立と効率的な執行に努めます。
(ク)山場を迎えた沖縄の闘いの強化と全国への情報発信などのため「平和フォーラム名護事務所」を開設します。
3) 組織の拡大と連携
(ア)平和フォーラムの運動を進める上で労働組合の参加は不可欠であり、ナショナルセンターの連合中央、地方連合との連携を強化します。
(イ)引き続き労働団体、市民団体、平和団体に加盟を呼びかけます。国会議員会員の拡大も含めてとりくみを強化します。
(ウ)運動の拡大をめざして、平和団体、市民団体、人権団体との連携を強化します。研究者、文化人との連携も強化します。
(エ)国際的平和団体、反核団体、市民団体、労働団体などと連帯し、国連や関係政府に働きかけると同時に運動の国際連帯を強化します。とりわけ東アジアを重点とした関係強化を図ります。
(オ)制度・政策活動の充実に向けて、他団体、政党・議員との連携を強化し、政府・各省・地方自体・関係企業などとの交渉力を強めます。また政策課題に対応した立憲フォーラムをはじめとする議員団会議、議員懇談会との連携を強化します。

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