2018年、WE INSIST!

2018年10月01日

たまには自分のことを!

生まれ故郷の北海道虻田郡洞爺村(合併し、現在は洞爺湖温泉町)は、自然豊かで子どもが遊ぶ場所に不自由はなかった。カルデラの洞爺湖が目前に広がり、背後の斜面は、夏は大豆やアスパラ、ビートの畑、イチゴやトマトのハウスが並んでいた。森の中は、グスベリ、山栗、山ぶどうの取り放題。たまにはイチゴやトマトも失敬した。

冬は、子どもたちには格好のスキー場に変身する。もう10年以上もスキー場に足を運んでいないが、今でもウェーデルンもパラレルで颯爽と滑る自信(?)はある。イタリアのコルチナ・ダンペッツォ五輪でアルペン三冠王に輝いたトニー・ザイラー主演の「白銀は招くよ」(誰か知ってるかな?)を見て、片足のウェーデルンも練習した。

真っ黒に日焼けしながら、家に帰らない息子たちに、函館の都会育ちの母親は不安を感じたに違いない。小学校の教員で母と同郷の片山亜子先生が、いつも我が家に遊びに来ていたが、母と彼女は何とか家に帰らず遊びほうけている息子たちを、家に戻そうとしたのか、本屋のない洞爺村でどうしたのか、毎月、少年少女文学全集が1冊ずつ届くようになった。「小公女・小公子」「家なき子・家なき娘」「トムソーヤの冒険」からシャーロック・ホームズ、怪盗ルパンはあったかどうか。洞爺村にはない、様々な世界が広がっていた。

その後も、日暮れまで家に帰らない弟をよそに、結構な時間、本を読みふけった。中学に入る時には、もう函館に転勤していた片山先生に、旺文社文庫の「吾輩は猫である」と「あすなろ物語」を買ってもらった。本との出会いはそんなことなのだが、高校に入って本当にむさぼるように読んだ。解りもしない本を読んでいきがっていたように思う。今は、ひたすら江戸の人情本、しかも女性作家中心に……。

母親にも片山先生にも、本当に感謝している。今、長じて若者に本を読めと言っている。それも、評論でもなくノンフィクションでもなく、フィクションを、小説を、片っ端から読みふける、そのことが一人ひとりの想像力を膨らませていく、想像する力をつけていく。そして、平和な社会をつくり出す力に繋がっていく。そう思っている。
(藤本泰成)

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