2014年、ニュースペーパー

2014年02月01日

ニュースペーパー2014年2月号



朝鮮学校への差別をなくそう
 2013年12月15日、「朝鮮学園を支援する会全国交流会」が東京・北区の東京朝鮮中高級学校で開催されました。会場は朝鮮学校に子どもを通わせる保護者や全国各地で支援活動を行っている市民など、約250人の参加者で埋め尽くされました(写真)。安倍政権によって高校授業料無償化の適用から完全に除外されてしまった朝鮮学校。この状況に便乗するかのように各自治体も助成金を打ち切るなど、在日コリアンの民族教育に対する差別はより深刻さを増しています。交流会では、こうした差別をなくすために全国各地で行われている裁判闘争や運動についての報告がなされ、参加者は朝鮮学校に対する差別がいかに不当で許しがたいものであるかを改めて確認しました。また、アメリカの反戦・反差別団体「ANSWER」から参加された事務局長のブライアン・ベッカーさんと弁護士のマラ・バーヘイデン・ヒリアードさんも朝鮮学校への差別を批判し、国際的な運動を呼びかけました。在日コリアンの民族教育を保障することは、民主主義国家であるならば当然のことです。誰もが幸福に生きていける社会を実現させるためにも、これからも朝鮮学校への差別に反対していかなければなりません。

インタビュー・シリーズ:86
より良い公共サービスの実現も、労組の役目
政府関係法人労働組合連合委員長 豊島栄三郎さんに聞く

プロフィール1953年福岡県久留米市生まれ。76年、首都高速道路労働組合書記局、79年に72時間ストライキを経験し労働組合のエネルギーを実体験。83年政労連(当時政労協)に移籍。天下り白書、組織、調査、広報等を担当、91年から書記次長、97年から書記長、2005年から中央執行委員長。

─政労連にはとても広い範囲の組合が加盟していますね。
 政労連(政府関係法人労働組合連合)という名前で看板を出していますが、10年ほど前の特殊法人改革以前は、公団や事業団、公庫などの特殊法人の労働組合が大半を占める産別でした。現在は独立行政法人の組合が30弱、旧道路公団や成田空港など民営化された法人が7つほど、社団法人・財団法人などの労働組合も約30加盟しています。

─それぞれの組合の要求、それに相手側の仕組みも違いますよね。そうすると春闘などの交渉で要求をまとめるのはすごく大変じゃないですか。
 そうですね。ただ、特殊法人の頃は財務省が内示という形で実質的な枠をはめて賃金の規制をしていました。本来、僕らの組合員は公務員ではないので労働三権があり、労使で自主的に決める権利があるんですが、使用者側が主務官庁の言いなりでなかなか自主的な判断をしないので、法人の自立を求めてずっと闘ってきました。
 その後、独立行政法人化して、制度的には財務省の内示はなくなりましたが、昔よりももっと厳しい公務員準拠の規制がやられています。去年、一昨年の特例措置削減も独立行政法人や特殊法人の一部に導入をされて、かなり大きな闘いになりました。社団法人・財団法人もやっぱり公務員準拠のところが多いんです。このように依然として強い主務官庁の規制に対して、「自分たちの労働条件は自分たちで決める」というのが、政労連全体に共通した思いです。

─ホームページには方針として「天下りとの闘い」が書かれていますが、やっぱり天下りが職場に与える影響も相当大きかったということですか。
 それは確かにあります。組合結成の理由が天下りの横暴に対する怒りというところがたくさんあります。ただ、天下りだからというよりも、人によりますね。例えば、最近解雇問題を起こしたのは民間から来た所長でした。政労連傘下ではありませんが、新たに着任した天下り役員に2年間にわたって200万円もカットされたと相談を受けた例もあります。労働者を奴隷のように思っている人が来たり、労働組合が機能停止していたりすると、その法人はすぐブラック化しますね。だから組合が日ごろからきちんとチェックしていかないといけません。ちょっとしたことでも労使でちゃんと話し合うような環境を作るというか。そんな意識を労働組合があるところは持っておいてほしいですね。

─いわゆる官僚の天下りだと、労使関係というものをしっかり考えていない人が多いですよね。
 その通りですね。政労連傘下の組合との交渉がなかなか決定しないと、主務官庁が使用者に対して「早くやれ」と平気で介入してきますが、それを使用者がそのまま組合に言ったりするわけです。労働組合と交渉して合意した上で労働条件を変えるということすら知らない。立派な労働組合がある本省であっても、一般公務員はそんなことを平気で言います。
 本省も本省なら使用者も使用者です。それこそ労働組合のないところはそれで普通にまかり通っていると思うんです。労働組合があるところでも、ちょっと油断するとそのまま通ってしまう。とにかく労使関係のイロハから教えてあげないといけないんです。


政労連定期大会(2013年8月8日)

─いわゆる民主党政権の時代に天下りについてはかなり問題にされて、抑制されてきたような気がするんですけど、実態としていまはどんな感じですか。
 天下りが駄目だから出向にしたわけですが、実態は変わっていない。それどころか逆にもっと公務員意識が強くなりました。公務員人事の一環としてきているわけですから、ますます本省に対する帰属意識が強くなっているみたいです。
 独立行政法人は特にそうだと思います。昔は天下りで来たのだとしても、その法人の理事長・役員としての矜持のようなものがあったものですが。先日も組合員と話したんですが、役員が変わるたびに労使関係がわからない人が来るということを言っていましたね。そういう人たちは、組合には協約締結権があり労働条件は団体交渉で決めないといけない、ということを頭では分かっていても、実感としてはわからないようです。それから、民間出身者が増えましたが、民間だから良いというわけでは全くありません。

─政労連は方針として「国民のための事業確立」を掲げておりますが、独立行政法人化がどんどん進んだり、または民間委託されていくことについてはどのように考えられていますか。
 「民間に出来ることは民間に」という考え方は、全て悪いとは言いませんけど、公共サービスを何でもかんでも営利化することはどうかと思います。例えば、本来国がやるべき職業訓練を民間の訓練機関に委託してわざわざ営利を生ませるようなことをする必要はないんです。しかも現実には公共職業訓練の就職率が民間訓練機関より10%以上も高くなっている。民間を儲けさせるための委托としか思えないところがあります。
 やっと最近決着がついたんですが、国民生活センターを解体的に見直すという話が3年ほど前から始まったんですが、その法人や労働組合だけでなく消費者団体などもみんなが反発して、結局は少しずつ軌道修正していきました。
 独立行政法人には色々なところがあって、中小企業や農林水産業の支援をする法人や、職業訓練のように労働者・求職者のための法人は、関係者の要望や運動によって、あるいは社会的に求められて生まれてきたものです。それをコスト削減という理由で切るということは、僕ら組合員の雇用問題でもありますが、同時に利用者の皆さんにとってもマイナス、不幸なことになります。だからそこに働く労働者の雇用・権利を守ることと利用者や国民の皆さんへのサービスを充実させることとは、コインの裏表みたいな関係にあると思います。
 ムダをなくすとか言って行政改革、法人の整理合理化が進められましたが、たいてい筋違いか数合わせです。そもそも何がムダかを一番知っているのは、少ない人員で業務をこなしている現場の職員です。無駄な会議であったり無駄な手続きであったり、どの部分を削れば手間が減って生産性が上がるのかということを一番よく知っているのは、現場の労働者です。だから実際に職場の要求として多いのは、賃金と並んで無駄をなくすことなんです。組合が「もっと効率化しろ」ということがあります。サービスをより良くするために無駄をなくせということで、もちろん省庁のいうコスト削減とは中身が違います。

─今回、特定秘密保護法ができました。政労連の職場のみなさんにも非常に大きな影響があるのではないかと思いますが、どのように捉えていますか。
 特定秘密保護法というものを出してくること自体がもうダメです。組合員は仕事の都合上、色んな秘密に接しますし、そもそもどれが秘密なのかどうかもわからない。それに現在でも業務で知りえたことを外に漏らさないということは当たり前なのに、わざわざあのような法律をつくるということに怖さ、悪意を感じています。安倍政権は国のあり方を根本からひっくり返そうとしているのではないかという危機感が強いです。

─平和フォーラムに期待することはなんでしょうか。
 平和フォーラムのような共闘組織が大事だということはずっと思っていましたし、今の政治を見ていると、これからはもっと大事になってくると思います。もちろん先頭に立って引っ張っていただくと同時に、意識をもった組合同士が横につながっていけるような触媒としての機能も果たしていただきたい。このような横の広がりが、結果として労働者同士の連帯・共闘というものにつながっていきます。
 政労連だって、課題によっては他の組合と協力し合ったり、協力をお願いしたり、国会議員の方には国会での審議をお願いしたり、そうやってみんなに助けられてきたわけです。労働者というのはやはり自分が痛みを感じたことがあり、それに対して闘ってきたからこそ仲間の痛みを理解できる。そして仲間が闘っているんだったら、じゃあ応援しようという気持ちになると思います。闘っている仲間を見殺しにするような労働組合になってはいけません。

インタビューを終えて
 いろいろな組織形態の約70の組合を率いる政労連、それぞれに経営者が存在し業務内容も異なり、また、そこに主務官庁の指導が入ってくるという複雑さの中にあります。要求をまとめ運動を展開することの難しさを感じます。天下り人事の対象とされ、労使慣行さえも継続することの困難、トップの交代によって引き起こされる労使紛争、「労使のイロハから教えないと」という言葉に象徴されます。政策の実行を担う職場である限り、「組合員の雇用と労働条件を守ることが国民サービスの充実に繋がる」という言葉の意味を、とらえ直さないとなりません。市場主義では克服できない役割があるのです。会館ですれ違うときの豊島さんのすてきな笑顔に励まされます。きびしい闘いを乗り越えようとするたくましい笑顔です。
(藤本泰成)

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驚くべき金権と恫喝で沖縄を再び犠牲に
-辺野古沖公有水面の埋め立て承認を許すな-

「軍事植民地化の深化」─世界の識者も指摘
 1月8日、「米軍普天間飛行場の辺野古移設を中止し、即時返還を求める共同声明」が、言語学者のN・チョムスキーさんや、歴史学者のJ・ダワーさん、映画監督オリバー・ストーンさんら29人の海外識者によって発せられました。その声明の内容は、辺野古問題の背景と仲井眞弘多知事の政治的変節を突く正確な批判です。声明はこのように書かれています。「2013年末に安倍晋三首相と仲井眞弘多沖縄県知事の間でかわされた、人間と環境を犠牲にして沖縄の軍事植民地状態を深化し拡大させるための取り決めに反対します」。そして、「安倍首相は経済振興をエサに、軍港をともなう大型の海兵隊航空基地を作るために沖縄北東部の辺野古沿岸を埋め立てる承認を仲井眞知事から引き出しました」、「仲井眞知事の埋め立て承認は沖縄県民の民意を反映したものではありません。知事は2010年の知事選直前に、それまでの新基地容認姿勢を変更し、『普天間基地移設は県外に求める』と言って、新基地反対で一貫していた候補を破って当選しました。近年の世論調査では県民の辺野古新基地への反対は7割から9割に上っていました。埋め立て承認は沖縄県民に対する裏切りだったのです」。
 この裏切りは、昨年の12月25日、安倍首相と仲井眞知事との会談で演じられ、同27日の知事埋め立て承認によって確定しました。安倍首相が昨年末、仲井眞知事に伝えた「エサ」は、(1)普天間飛行場の5年以内の運用停止や牧港補給地区の7年以内の全面返還について、防衛省内に作業チームをつくって検討する。(2)オスプレイの訓練の半分を県外に移転する。(3)日米地位協定に関連して、基地内の環境保全に関連する立ち入り調査を行えるよう米側と交渉に入る。(4)振興予算について、毎年3000億円台を確保。14年度の政府予算案では、概算要求を52億円上回る3460億円を計上、というものです。
 仲井眞知事は、この内容を「驚くべき立派な内容」と評価しました。しかし(1)から(3)はいずれも口約束にしか過ぎず、普天間飛行場と牧港補給地区については「日米の作業チーム」ですらなく「防衛省内の作業チーム」で、その上に「検討」がつく恥ずべき内容です。


沖縄・辺野古の海 フェンスの向こうは米軍基地

「驚くべき立派な裏切り」、口約束と振興予算
 照屋寛徳衆議院議員は、仲井眞知事のこの変節を「驚くべき立派な裏切り」と評しています。「仲井眞知事は、来年度沖縄振興予算が概算要求を超えて3,460億円になった事を有史以来の予算と評しているが、大田昌秀革新県政時代には4,000億円を超えていた。今後8年間3千億円台の予算を確保するという総理回答も単なる口約束だ。予算は単年度主義だ。本来、沖縄振興と基地問題は別である。閣議決定や総理談話でもない総理の口頭による回答を鵜呑みにして浮かれる仲井眞知事は、見事な茶番劇を演じているだけだ」(照屋議員のブログ)と厳しく断じています。その通りではないでしょうか。
 照屋議員は、昨年の3月22日、政府に対し質問主意書を提出し、都道府県知事に与えられている公有水面埋め立て許可の権限を国が代執行する場合の問題を追及しました。県知事が埋め立て申請を不承認した時に、国が県知事の権限を超えて代執行する可能性をけん制していたのです。「野田内閣において、知事が埋め立て不承認した場合、国は代執行しないと決めた姿勢を安倍内閣でも踏襲するか」と国を質し、「代執行等を行うことは検討していない」という政府回答を引き出していました。つまり、仲井眞知事が埋め立てを不承認したとしても、国はおいそれと代執行できない条件づくりも出来ていたのです。

名護市長選勝利、新基地建設反対の民意
 それにもかかわらず、仲井眞知事は「驚くべき裏切り」をしました。沖縄県議会は1月10日、「仲井眞弘多知事の公約違反に抗議し、辞任を求める決議」を賛成多数で可決しました。決議はこう述べています。「政府首脳との会談で本県議会に何らの説明を行わないまま『承認の4条件』と称されるような要請を唐突に行うなど、その手続きは議会軽視であり、許されない。また、『驚くべき立派な内容』『140万県民を代表して感謝する』などと県民を代表して謝意を述べ、米軍基地と振興策を進んで取引するような姿が全国に発信されたことは屈辱的ですらあり、県民に大きな失望と苦痛を与えた」。
 1月19日投開票の名護市長選挙は、県知事の埋め立て承認を批判し、辺野古新基地建設に断固反対する稲嶺進さんが再選勝利しました。この勝利は大きな光明です。

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国家主義を補完する日本史の必修と検定基準改定
民主教育を守り育てる取りくみを
平和フォーラム事務局長 藤本泰成

過去の不幸な歴史を背負って
 「グローバル化に対応し英語教育を強化する一方、日本人としてのアイデンティティーを育てるため、日本の歴史や文化に対する教養を備える人材育成を同時に進めることが必要だ」─下村博文文部科学大臣は、1月7日にそう主張し高校日本史の必修化を検討するとしました。
 学習指導要領は、1994年の社会科が歴史・公民に分割された時点で、世界史を必修としています。世界がグローバル化し日本社会も国際化が進んでいること、小・中学校における歴史教育の内容が日本史に傾倒していることがその理由にあると考えます。しかし、世界史教育が日本史を抜きにして行われているわけではありません。高校「世界史A」について学習指導要領は、「近・現代世界を理解するための前提として,ユーラシアの諸文明の特質に触れるとともに、16世紀以降の世界商業の進展及び資本主義の確立を中心に、世界が一体化に向かう過程を理解させる。その際,世界の動向と日本とのかかわりに着目させる」としています。このことは「世界史B」においても同様です。
 一国の歴史が他国との関わりなしに成立することはありません。日本の歴史、その文化も伝統も、古代から朝鮮半島や中国大陸との密接な関わりの中で育まれてきました。また、鎖国を経験した日本は、米・英など西欧文明と出会い、アジア諸国との深い関わりの中で、侵略と植民地支配という近代国家が不幸にも経験する歴史を背負い、苦い敗戦の経験から平和と民主主義の新生日本をつくりあげました。国際社会で日本人として生きていくためには、その過去の不幸な歴史も背負っていかなくてはなりません。

国際社会の中でどう生きていくか
 「日本人のアイデンティティー」とそのことを乖離させることはできず、その事実を学ぶことが自虐的とは言えませんし、日本人として生きていく誇りを傷付けるものでもありません。「誇り」とは、何かに依拠するものではなく、自らが恥じない生き方の中で作り出すものです。日本人としての「誇り」と言うならば、日本が将来にわたって国際社会の中でどう生きていくかにかかっているのだと考えます。
 学習指導要領にある「世界の歴史の大きな枠組みと展開を諸資料に基づき地理的条件や日本の歴史と関連付けながら理解させ、文化の多様性・複合性と現代世界の特質を広い視野から考察させることによって、歴史的思考力を培い、国際社会に主体的に生きる日本国民としての自覚と資質を養う」という「世界史」の目標は、国際化が進む世界の中で、「日本人としてのアイデンティティー」を確立するためにも極めて重要なのだと思います。

子どもたちへの将来を見据えて
 安倍晋三首相は、2013年4月23日の参議院予算委員会の席上で「侵略の定義は学界的にも国際的にも定まっていない。国と国との関係でどちらから見るかで違う」と述べ、日本の侵略戦争を否定する発言を行いました。
 「侵略の定義」に関しては、1974年12月に国連総会で採択された決議3314によって明確にされています。どのように主張しようが、1875年の江華島事件にはじまり、1931年の柳条湖事件以降本格化する日本軍による侵略戦争を否定することが、国際的に認められることはありません。
 安倍首相の主張は、「歴史修正主義者」「軍国主義者」の汚名を着るものです。
 そのような主張を繰り返す安倍首相が、教科書検定基準において、(1)学説が定まらない事項はバランスをとる記述とする、(2)政府見解や確定した判決がある場合はそのことに従う、(3)改正教育基本法に照らし重大な欠陥があれば不合格とする、としたことは極めて重大な問題です。政府見解から言えば「慰安婦問題を含む戦後補償は解決済み、尖閣諸島や韓国が実効支配する竹島やロシアが支配する北方四島は日本領土」となるのでしょうか。このことは、どう日本が主張しようが当該国との間で議論があることなのです。
 互いの主張と歴史的経過を十分学んだ上で、議論していくことの出来る態度を養わなくては国際社会で通用する人材にはなりません。安倍政権の教育政策は、独善的傾向を強くして諸外国との友好・協調の関係性を押しやるものにしか見えません。日本史の必修化には、安倍政権の国家主義的教育を推進する明確な意図が見えます。
 この間、道徳の教科化、学力状況調査の結果公表、教育委員会制度の改定など、多くの教育施策が矢継ぎ早に打ち出されています。しかし、どれをとっても子どもたちの将来、日本の将来を見据えたものではありません。すべてが、教育の国家統制に向かうものです。戦前の非民主的な教育制度を復活させることは、安倍政権が意図する戦争をする国を補完するものに他ならないのです。私たちは、そのことに視点を据えて民主教育を守り育てるとりくみを強化しなくてはなりません。
(ふじもとやすなり)

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新たな展開を迎えたTPP交渉 長期化する様相
情報の開示が重要に

断念された年内妥結 交錯する各国の思惑
 昨年12月7~10日にシンガポ-ルで開催された環太平洋経済連携協定(TPP)の閣僚会合において、交渉の「年内妥結」は断念され、「実質的な前進」と1月の閣僚会合開催を共同声明で謳って閉幕しました。
 この背景には、米国が異常とも言えるほど強引な主張を押しつけたことにあります。特にマレーシアやベトナムなど新興国との対立は激しくなりました。焦点となった知的財産権の保護の問題では、特許や著作権の期間延長や、米国の製薬会社の利益のために特許消滅後の後発医薬品(ジェネリック医薬品)の開発・利用を規制するなど、死活問題につながる課題が出されています。また、これらの国の国営企業優遇政策が外国企業の進出の妨げになるとして、アメリカは同等の条件を求めましたが、各国の経済制度を変えさせようとする姿勢は反発を招きました。
 一方、日本は、難航する知的財産権や国有企業の改革で途上国と米国の間を取り持ちながら、最終的に農産物の関税問題で各国の理解を獲得するという交渉戦略を立てていましたが、米国は日本に全品目の関税撤廃を求め続けたため、「聖域は1ミリたりとも譲れない」(交渉責任者の西村康稔内閣府副大臣)として、農産物5品目などで日米の対立が解けなかったと言われています。そのため、日米の共同戦線が作れず、新興国も国有企業と知的財産での抵抗から、年内合意が出来なかったのです。
 米国の強硬姿勢の背景には、議会との関係があります。米国ではTPPのような通商交渉の権限は、本来は議会にあります。まだ米国政府は議会からその権限を付与されていないため、譲歩して「妥結」しても議会の承認が得られない可能性があります。また、今年11月には議会の中間選挙を控えているため、政権基盤の脆弱なオバマ大統領としては、安易な妥協が許されないと言われています。
 今後の交渉の動きについては、当初は1月中と言われた閣僚会合は開催地が決まらないまま延期となり、2月以降の開催が模索されていますが、この先も見通しがつかず、長期化するとの見方も出ています。1月下旬にスイスで開かれる世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で日米閣僚の会談が予定されています。また、4月にはオバマ米大統領のアジア歴訪、5月中旬にAPEC貿易相会議(中国・青島)が開かれます。そうした時期が今後の山場とも言われています。


交渉の説明をするTPP政府対策本部の渋谷和久
内閣審議官(12月8日 シンガポール)

焦点となるアメリカ議会の動向
 1月9日、米国上院・下院に対し超党派の議員が、「大統領貿易促進権限(TPA)法案」を提出しました。これは、政府に貿易交渉の権限を与え、合意した貿易協定について、議会から修正を求められず、承認するかどうかだけを議会に問うことができるものです。これは今後のTPP交渉に対し、議会側から政府を後押しするものです。
 しかし、この法案には各国の農業分野の関税を米国と同等水準まで削減するよう求めることや、交渉中の条文案の議会への開示、議会との協議を重視することを要求しています。さらに、日本の円安による自動車輸出増の状況を念頭に置いたものとみられる「為替操作を禁じる為替条項」も新たに交渉に加えるよう要求しています。
 しかし、与党・民主党の議員を中心に、「TPA法案は議会の軽視だ」という反対の声があがっています。これまでも同様の法案が出されても、実際の通商協定の交渉や手続きにおいて、議会の役割が無視されてきたためで、通商に関して憲法で議会に与えられた専決権を担保するものでも、議会が求めるような協定を実現できるものでもなく、議会の権能を制約するものでしかない、と主張されています。
 過去にTPAが成立したクリントン、ブッシュ政権の時でも法案の成立までに2年以上かかっており、今回も難航する可能性があります。しかし、TPAが不成立のままの妥結も充分考えられ、予断は出来ません。仮に交渉が妥結した後も、3カ月くらいかけて英文による条文の法的な整備とスペイン語への翻訳、その後、日本語への翻訳と国会上程へと進む、と政府は説明をしています。
 TPPは交渉内容を明らかにしないという異常な中で行われています。米国議会では、条文案の開示が議員から求められています。また、日本の政府説明会でも、日本を含む各国での情報公開の動きにも押され、調印前でも何らかの形で国会・国民へ説明をすることも明らかにしています。今後は交渉の経過を含めて徹底した情報開示を追求していく必要があります

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北海道幌延町から見る高レベル放射性廃棄物の地層処分問題
北海道平和運動フォーラム幌延現地監視委員会 特別監視員 本田 正

核廃棄物を受け入れない条例が骨抜きに
 北海道の日本海側の北緯45度に幌延町はあります。2000年度末からこの地で地下研究施設が建設され高レベル核廃棄物の地層処分研究計画が行われています。同町は、1980年代初めに原発及び関連施設による町づくりに乗り出し、84年には旧動燃の高レベル核廃棄物を含む「貯蔵」工学センター計画を誘致しました。しかし、道民の反対により凍結状態となる中、1998年に旧科学技術庁が「深地層の研究計画と処分場計画を明確に区別する」、「知事をはじめとする地元が受け入れない意思を表明されているもとでは処分場にしない」(長官回答)ことを前提に、核廃棄物を受け入れない趣旨の条例を北海道と幌延町がそれぞれ制定し、さらに、道、町と原子力機構(旧動燃、その後の核燃料サイクル機構)で「核廃棄物(放射性物質を含む)は持ち込まないし使用しない」、「処分場にしない」、「研究施設を処分実施主体に貸与・譲渡しない」「研究終了後は地上施設を閉鎖し、地下施設を埋め戻す」などの協定書を締結し、研究期間20年程度・研究のみの計画として知事が受け入れ、2000年度からスタートしました。
 ところが、年々これらの約束事が骨抜きにされる実態が強まっています。2005年には、幌延町はもとより隣接自治体も電源三法の交付対象となり、その使用による住民不安を解消する目的で、核廃棄物持込み禁止の条例を制定する町村長の意向が公になった途端、北海道経産局(経産省)が、直接自治体に出向き圧力をかける行為に及びました。その3年後には、処分事業資金の管理組織である原子力環境整備資金管理センターが、資源エネルギー庁事業により幌延に参入し、地層処分PRを展開しています。
 さらには、原子力機構の地層処分研究開発部門の長が、「幌延を含む研究施設での放射性物質の使用研究」をHPにほのめかし、2010年には元幌延深地層研究センター所長が処分実施主体の原子力発電環境整備機構(NUMО)の理事に就任し、同年レビュー用に取りまとめたNUMО報告書に、「今後幌延での共同研究」の意向を明記し、地元住民の追及により削除する出来事まで起しています。そして10年以降、毎年、NUMОが年数回、幌延深地層研究センターを訪れています。
 一方、2002年から開始した処分候補地選定の文献調査にどこからも応募がない中、国は、「いったん白紙に戻すくらいの見直し」などの日本学術会議の提言に対し、地層処分政策の審議ではなく、これまでの処分地選定手法の見直しに着手。47都道府県を含めた協議会を設置して、その後、文献調査の申し入れに入ることで動き出しました。また、小泉元首相の指摘を「逆手にとった」ように、国主導で処分場にふさわしい候補地を選び、国の責任でお願いする姿勢をあらわにしました。

地層処分の安全性が確立していない
 こうした状況の中、幌延町において、数年前から商工業関係者が処分場誘致の期成会立ち上げの準備に動き出していたことが明らかになり、後押しするかのように、NUMОと資源エネルギー庁が揃って、北海道に条例があっても「文献調査の対象」との見解を示しました。また、原子力機構理事長は「約束を変える場合、事前にあらためて申し入れると思う」と発言。幌延深地層研究センター職員も、幌延の地質環境が処分地として「特に不適というような材料はない」とコメントするなど、きな臭さが増しています。
 さらに、もんじゅやJ-PARCでの不祥事により、組織見直しが検討される中、岐阜県瑞浪超深地層研究所と幌延深地層研究センターの統廃合を含めた地下研究事業の見直しを、来年9月末までに策定すると自ら方針を示しましたが、両施設の条件を比べると、(1)瑞浪では地層処分研究は実施できない、(2)幌延は原子力機構の私有地に研究施設が建設されている、(3)幌延の方が研究期間が残っている等、「幌延」選択は明白です。最近、幌延町長が文科省、経産省、原子力機構に出向き、存続を要請しましたが、明らかに利害が一致する国と幌延町の出来レースです。「地下研究施設があるところが処分地」が世界の常識です。地層処分に理解のある幌延町を、国が簡単に手放すわけがありません。
 しかし近年、地層処分の正体も透けて見えてきました。2000年の高木学校と原子力資料情報室による公開討論会では、人工バリア機能を「将来のことは神様にしかわからない」と旧核燃サイクル機構が答えています。同様にNUMОも、日本学術会議の審議の場で「われわれ自身、10万年後の安全を確実にできると決して思っていない。非常に遠い将来の予測は学者の中でも統一見解はない」、「千年後は証明できないということを前提に、地球史的な知見などを総動員して合理的な説明をし、信じてもらうことを申し上げたい」と答えるなど、やはり地層処分の安全性は未確立です。
 原発の再稼働を目論む国は、現在、埋戻し後も「回収可能」な形での地層処分や5年ごとの処分方法の見直しなどの案を掲げ、永久処分ではないかのような印象から処分地を確保しようとしています。北海道平和運動フォーラムは、幌延を含む地元住民団体とともに、1984年の旧動燃による立地環境調査の強行抗議で始まった11.23幌延デー北海道集会を継続開催するなど、脱原発・地層処分反対の運動を強めています。(ほんだまさし)

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「エネルギー基本計画」の閣議決定が延期
原発を「重要なベース電源」と位置づけ

 1月6日までのパブリックコメントを済ませた後、1月中にも閣議決定をする予定だった、「エネルギー基本計画」が、中長期的なエネルギー政策の方向性を示す重要な決定をあまりに拙速にすぎると与党内や原子力委員会からも批判が相次ぎ、延期となりました。
 民主党政権時に広範な国民的議論を行ない、2030年代までに原発ゼロを目指して決定した「革新的エネルギー戦略」を放棄しようという安倍政権の方針に待ったがかかったかたちです。原発・エネルギー問題を、ちょうど始まった東京都知事選挙の争点にしたくないという与党の意向があるのかもしれません。また、年末年始の期間にもかかわらず1万9千も寄せられたパブコメの影響もあるでしょう。
 締め切り後10日経っても、資源エネルギー庁は「集計中」だとして意見の内容を公表していません。2012年の「革新的エネルギー・環境戦略」のパブコメでは、40日間に8万9千もの意見が集まり、締切り5日後から国家戦略室のウェブサイトに次々掲載されたのとは対照的です。当時、原発ゼロシナリオを選択した人が9割で、8割が即時原発ゼロでしたが、今回もそれほど変わらないものと思われます。

あまりにも無責任な内容 与党からも批判
 今なお継続する東京電力福島第一原発事故では、これまでの政府、規制当局、事業者、学者、マスコミを含めた無責任態勢が原因の人災であったことは、国会事故調も指摘したところです。その反省も事故後3年を前に忘れたのか、旧態依然の無責任態勢に回帰しようというのが今回の「エネルギー基本計画」です。
 経済産業省・資源エネルギー調査会の基本政策分科会で行われた審議の中では、原発を「エネルギー需要の安定性を支える基盤となる重要なベース電源」と位置づけた素案が提示されたのが、第12回会合(12月6日)、12月13日に若干の修正が加えられ、わずか2回の審議で原子力の位置づけが変えられました。省内の一審議会が、討論型世論調査などを含めた国民的議論を行った結果である「革新的エネルギー・環境戦略」をまったく無視するという、民主的手続きを欠いたものです。その内容も、革新的エネルギー戦略策定のプロセスの中で行った、コスト等検証委員会の議論(エネルギーコストの比較を行い、バックエンドコストなど未確定な部分を指摘して、原子力エネルギーが高くつくことを明らかにした)が無かったかのような、ごまかしの数字を使っています。
 原子力委員会でさえ、電力システム改革など電力各社の経営環境の変化で「従来の原発の運営体制は、重要な電源として維持・活用していく観点から最適といえない」と、経済産業省の不透明で拙速な審議を批判する意見書を1月9日に発表しました。近藤駿介委員長も「原子力ありきで決めていく問題ではない」と、これまで原子力基本法に基づき原子力政策を決めてきた委員会からの懸念を表明しています。
 自民党エネルギー政策議員連盟も、「使用済燃料に関しては、放射性廃棄物の処理方法や核燃料サイクル技術の確立が鍵になるが、これまで巨額な投資をしてきたにも関わらずその解決の目処がたっていない」、「こうした議論が未熟なまま原子力政策がなぜ推進されてきたのか、特に電力業界や原子力を推進してきた官庁との過度な相互依存関係がなかったかなど、さらなる検証を行う必要がある」として、「エネルギー基本計画への提言」を行うと発表しています。

問題を先送りする核燃料サイクル
 使用済核燃料の問題は、「核燃料サイクル」という実現しないごまかしによって先送りにされ、すでに大量に溜めてしまっています。各原発サイトのプールなどに約14,300トン、六ヶ所再処理工場のプールに約3000トンと膨大です。「中長期的なエネルギー安全保障に資する」という不可解な文言で、すでに無用の長物が明らかなもんじゅの延命と六ヶ所再処理工場の稼働方針の維持は、さらに将来へ問題を先送りし、拡大させるだけです。



「十分な理解を得て進める」とされる核燃料サイクル施設
(経済産業省・資源エネルギー調査会の基本政策分科会資料より)

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濃縮・再処理を「認める」日・トルコ協定
問題は協定の文言か、日本の再処理政策か

 1月24日からの通常国会で審議予定の二つの原子力協力協定のうち、トルコとのものが核兵器の製造に繋がるウラン濃縮及び使用済み燃料再処理を認める内容だとして問題になっています。核兵器5000発分以上に当たる44トンのプルトニウムを蓄積し、さらに年間約8トンのプルトニウム分離能力を持つ六ヶ所再処理工場の運転を始めようとする日本が、相手国に再処理の権利の放棄を求める「論理」についても議論すべきです。

原子力輸出に必要な協定──問題の文言は?
 原子力協力協定は、原子力関連の輸出入の前提になるものです。トルコの場合は、三菱重工の参加する国際コンソーシアムが黒海沿岸のシノップ市に発電用原子炉4基を建設するとの基本的合意がトルコ政府との間で成立しています。昨年5月に署名された日・トルコ協定の問題部分は次の2つです。(1)濃縮及び再処理の技術並びにプルトニウムは「これらを移転することを可能にするような改正が行われた場合に限り、この協定の下で移転することができる」(2)この協定の下で移転された核物質及び副産物は、「両締約国政府が書面により合意する場合に限り、トルコ共和国の管轄内において、濃縮し、又は再処理することができる」。昨年10月に自民党の外交部会でこれらの規定が問題になった際には、岸田外務大臣が国会で「日本が合意することはない」と発言することを条件に了承されました。そして11月8日の衆議院外務委員会で外相による同趣旨の発言がありました。
 2012年に発効した二つの原子力参入国との間の協定の関連部分を見てみましょう。ヨルダン(1)「この協定の下では移転されない」(2)「ヨルダン・ハシェミット大国の管轄内において濃縮され、又は、再処理されない」ベトナム(1)「この協定の下では移転されない」(2)「両締約国政府が別段の合意をしない限り、ベトナム社会主義共和国の管轄内において、濃縮され、又は再処理されない」。日・トルコ協定と同じく昨年10月25日に国会に提出された日・アラブ首長国連合(UAE)協定はヨルダンのものと同じです。国内の濃縮・再処理に関するベトナムとトルコの差は響きの問題です。移転に関しても、改正された場合に限りできるというのは、[改正されない限り]この協定の下ではできないというのと実質的には同じなのかもしれません。ヨルダン及びUAEとの協定は国内濃縮・再処理に関して厳しい感じがします。

米・UAE協定──ゴールド・スタンダード?
 一番厳しいのが米・UAE協定です。同協定は、UAEは領土内において濃縮・再処理をしないと定めています。これは、米国が提供する技術・物質を使う場合に限られるのではなく、一切しないとの声明です。ただし、中東において最恵国待遇をUAEに与える規定があり、中東の他の国が有利な条件を得れば、UAEもそれを保証されます。米国は、現在、サウジアラビア及びヨルダンとの協定を結ぼうとしており、その行方が注目されます。
 米・UAE協定は、ブッシュ(息子)政権時代にまとめられたもので、同政権はこれをゴールド・スタンダードと呼びました。オバマ大統領も2009年5月に協定を議会に送った際、これは「この地域の国々との協定のモデルになる可能性を持っている」述べています。しかし、核拡散防止を重視する人々の間でも、米国だけでこのような厳しい規定を要求すると、新規参入国はロシアやフランスなどに協力を求めるから結果的に核拡散防止に役立たないとの主張があります。オバマ政権は3年間にわたる内部議論の末、昨年12月に「原則に基づくが、実際的かつ現実的なアプローチ」を取ると発表しました。この決定に反対する上下両院の議員等が不拡散面における議会の監督権限を強化する法案を作成しています。UAEの場合は例外的で、米国が他の総ての国とこのような協定を結べると考えるのは「非現実的」だとの国務省高官の発言を米国の軍縮問題専門誌『アームズ・コントロール・トゥデー』が紹介しています。UAEの約束は、米議会が拒絶しない協定を早く結びたかったUAE側の「政治的計算」の結果だという見方です。UAEは、ペルシャ湾を隔ててイランと向き合う国です。

六ヶ所再処理工場計画の中止により行動で貢献を
 米国の立場は、再処理は必要ないし、ウラン燃料は現在濃縮能力を持った国々により国際市場で提供できるから各国が自前の濃縮能力を持つ必要がないというものです。そして「分離済みプルトニウムのような我々がテロリストの手に渡らぬようにしようと試みているまさにその物質を大量に増やし続けることは、絶対にしてはならない」とオバマ大統領が2012年3月核セキュリティー・サミットのために韓国を訪れた際に述べています。
 再処理政策を続ける日本の行動は、米国の交渉上の立場を弱めるものです。韓国は韓米協定改定交渉で日本と同じ権利を要求して米国を困らせています。日本は「非核兵器国の中で唯一、商業規模で濃縮・再処理までの核燃料サイクル施設を保有する国として認められている」との日本政府の主張も問題です。再処理は必要だが日本以外は信用できないとの主張では共感は得られません。実際は「核不拡散条約(NPT)」体制が他の非核兵器国に濃縮・再処理を禁じているわけではありません。日本に再処理を「許して」いるのは米国です。日米協定は米国起源の使用済み燃料の再処理について「事前同意」を与えていますが、同じ同意をヨーロッパ諸国にも与えています。これらの非核保有国はプルトニウム増殖炉計画の失敗のために再処理放棄を決め、日本のみが再処理に固執しているのです。日本が再処理計画を放棄すれば、協定文言の調整以上に核拡散防止の力となるでしょう。(田窪雅文:ウェブサイト核情報主宰)

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「核問題とウランを考える」(2)
ウラン採掘による被害は無視されてきた

遅れたラドンガスへの対策
 これまでの原水禁世界大会に、多くのウラン鉱山被害を訴える先住民の代表が参加していますが、私たちはどこまでその人たちの思いを汲んで、原発問題で電力会社と交渉してきたでしょう。いまも続く被害を考えると忸怩たるものがあります。
 ウラン鉱山の被害は早くから知られていました。1500年代にはチェコとドイツの国境にあるエルツ山脈の鉱山で働く労働者の多くに「肺の病気」が多発し、半数以上が死亡したといいます。この病気が肺がんであると分かったのは1800年代末であり、ラドンガスが原因だと判明したのは1920年代に入ってからでした。ラドン(222Rn)はウラニウム崩壊系列のラジウム崩壊で発生する気体です。
 しかしラドンによる肺ガン発症までの潜伏期間が長いこともあって、労働者への対策はもちろん、周辺住民への配慮・対策も長期間放置されてきました。しかしスゥェーデン政府はかなり早くから、浴室でシャワーを浴びる時は窓を開けるようにと、国民に告げています。ただWHOが室内のラドンガスは危険だとしたのは、2005年になってからです。
 ウラン鉱では、ウランの崩壊によってゆっくりとですが、大量のラドンガスが発生するので、露天掘りでも、地下鉱山でも、被害は同じくらい存在するといえます。アメリカの「フォーコーナー」でウランを採掘していたユナイテッド・ニュークリア社は、採掘地に隣接してウラン鉱滓置き場があり、それは地下水と混じり、ダムのようになっていました。しかしこのウラン鉱滓ダムが79年に決壊し、放射能を含んだ36万リットルの汚泥がコロラド川の支流に流れ込み、汚染はネバダ、アリゾナ両州の下流まで広がりました。流出した鉱滓は1100㌧、十分な汚染対策を取らないまま、同社は85年に閉山しています。


2010 年の広島大会分科会で報告するメニュエル・ピノさん

責任放棄の鉱山会社
 2010年の原水禁世界大会に参加したプエブロ族アコマのメニュエル・ピノさんは、自分が暮らすプエブロ・ラグーナの地域内にあったジャックパイル鉱山について語っています。
 ジャックパイル鉱山は、ニューメキシコ州内の露天掘り鉱山のなかでも最大のウラン鉱山で、当初アナコンダ社がラグーナ・ネーション(部族政府)から土地を借りて1952年から採掘をはじめました。アナコンダ社は操業を終了した際、鉱山を埋め戻すと約束していたのですが、途中で採掘をアルコ社が引き継ぎ、ウラン価格の低下を受け、アルコ社は82年に採掘を中止してしまったのです。しかし埋め戻しの約束は守られず、連邦政府、ラグーナ・ネーションなどを含めて埋め戻しの合意が成立したのは89年でした。内容はラグーナ・ネーションで埋め戻すというもので、アルコ社は4500万ドルを支出し、ラグーナ・ネーションは建設会社を設立し、埋め戻しを行いました。
 しかし200メートル近くも掘り下げられた鉱山跡地には砕かれたウラン鉱石が散乱しており、さらに地下水も流れています。ウランの影響を封じ込めることはもともと不可能だったのです。アルコ社はすべての問題をナバホに押しつけたのです。

米国でようやく核被害者への補償
 ピノさんは、埋め戻した土の一部が川に流れ込んでおり、埋め戻し地でのガイガーカウンターの数値は、政府の安全基準値をはるかに超えている、さらに他の露天掘り鉱山は全く埋め立ても行われず放置されている、と話しています。
 これら鉱滓を完全に閉じ込めるのは不可能といえます。かりに閉じ込められたとしても、莫大な費用が必要で、ウランの単価を限りなく高いものにします。結局、鉱山会社はウラン採掘の跡地(精錬所と鉱滓を含め)を放置することになります。原子力発電はウラン鉱で働く労働者や、周辺住民の犠牲の上で行われていることを、私たちは認識しなければなりません。鉱山会社に対して先住民側は何度も裁判に訴え、補償を求めてきましたが、ほとんど負け続けてきました。光が差したのは、1990年に米国連邦議会が、「放射線ヒバク補償法」(2000年に追加改正)を成立させ、鉱山労働者、さらに核実験風下住民などの核被害者への補償の道が開かれてからです。しかし救済されたのはわずか300人に過ぎませんでした。
(原水禁国民会議専門委員和田長久)

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各地からのメッセージ
地域に運動の裾野を拡げることを最優先に
秋田県平和センター 事務局長 佐藤信哉

 秋田県平和センターの歴史はさほど古くはありません。2006年夏の結成で満年齢ではまだ7歳です。結成に至る大きな事由として2点あげられます。
 1点目は、それまで県内には中央平和フォーラムと提携する団体として、県平和労組会議、原水禁秋田、憲法を守る会、そして社民党県連がありました。県内の独自運動については特に支障はありませんでしたが、護憲大会や原水禁大会などの全国課題となると、それぞれの団体がそれぞれに指示を出して混線することから、運動体の一本化が求められていたことがあります。
 2点目は、当時強まりつつあった、憲法改悪の動きに対する危機感です。護憲の県民世論を盛り上げる意見広告運動や憲法学校の開催といったとりくみを安定してすすめるため、統一した運動センターの必要性が叫ばれていたことにあります。
 こうした背景をもって誕生しましたので、主な活動を年1回(基本は5月3日)の意見広告運動と年3回の憲法学校の開催としていましたが、2011年の原発事故以後は、これに脱原発と被災者支援が加わりました。
 運動遂行の主力は、旧総評運動の精神を継承する「県平和運動推進労組会議(平和労組会議、約12,000人)」、そして社民党県連合です。とくに重視しているのは、連合結成前までは機能していた地域共闘・地域連帯の再構築です。そのため、1000万人署名をはじめとする中央平和フォーラムの諸提起を実践する際は、地域の中に運動の裾野を拡げることを最優先してとりくみます。
 このレポートを綴っている1月15日、細川護煕元首相が脱原発を訴えて都知事選への出馬を表明しました。マスコミは大いに騒ぎ立てていますが、何しろ小泉純一郎という怪人物との連携プレーですので、脱原発をどこまで真剣に考えているかは知る由もありません。ただ、それにしても「脱原発」が都知事選の争点となるにいたったことは事実ですし、こうした情勢をつくり出した原動力は平和フォーラムの全国運動の積み重ねだったことは間違いありません。こうした情勢づくりに、秋田県平和センターも万分の一なりとも貢献できたものと信じ、雪深い僻遠の地にあって護憲・反戦平和・脱原発の運動をさらに継続いたします。

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小津安二郎と毒ガス、そして秘密隠蔽

 昨年12月12日は小津安二郎が110年前に生まれた日で、50年前に亡くなった日である。60歳の誕生日が命日という稀な生涯を送ったこの映画監督の世界的な評価は高まる一方で、イギリス映画協会が一昨年8月に行った「映画監督が選ぶ世界の映画No.1」に輝いた。というか『東京物語』が100年以上の歴史を持つ歴代映画のトップとなったのだから凄い。第2位は『市民ケーン』と『2001年宇宙の旅』。12月12日の「天声人語」は小津がテーマで、「その墓は鎌倉の円覚寺にあって、『無』の一文字が刻まれている。」――と締め括っていた。12日夜はNHK-BSで「小津没後50年”OZU世界No.1の秘密”が放送された。

 私が繰り返し手に取る本に佐藤忠男『日本映画300』(朝日文庫)がある。そのうちで黒澤明がトップの20作品、ついで小津が16作品載っている。最初に選ばれた小津作品は『淑女と髭』で1931年、最後が遺作の『秋刀魚の味』で1962年、31年も良質の作品を世に送り続けていたことになる。
 しかし、監督生活には中断がある。軍隊にとられていた時期だ。1937年(昭和12年)日中戦争が始まった直後の同年9月、陸軍歩兵伍長として応召。中支那派遣軍直轄部隊野戦瓦斯第二中隊に所属した。除隊は2年後、1939年7月だった。問題は彼が所属していた瓦斯中隊が以下の戦闘に参加していたことだ。
 「1939、南昌戦役において日本軍は修水河の強行渡河作戦を行い、毒ガス弾を3000余発発射し、放った毒ガス筒は1万5000余、8キロメートルにわたり中国の二個軍は戦わずして壊滅した」(『日本軍の細菌戦・毒ガス戦―日本の中国侵略と戦争犯罪―』)

 日本が中国での戦闘で毒ガスを使った事実は戦時中は一切秘密にされていた。日本政府も合意している国際的な協定(1925年ジュネーブ議定書)に違反しているからだ。戦後になっても細菌兵器や毒ガスについてはアメリカによって免責とされ、訴追されなかった。戦史からも毒ガス使用を抹消する工作も行われた。結局それらが明らかにされたのはアメリカで保存されていた旧日本軍の資料からであった。
 特定秘密保護法案が強行成立された後に迎える小津の命日だからこそ、小津と毒ガス、そして隠蔽に触れなければならないはずだ。この事実に照らせば、彼の墓碑銘の「無」ということの意味も違ってくるのではあるまいか。(福田誠之郎)

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2月11 日に憲法と「建国記念の日」を考える集会を開催

 2月11日の「建国記念の日」は、何らの歴史的根拠もなく、戦前の「紀元節」をもとに、1967年に政府・自民党が各界の反対を押し切って開始した日です。今年で48回目となります。平和フォーラムは、例年、この日に日本と日本人の平和と人権に関わる歴史認識を問う集会・行動を行っています。安倍晋三政権が誕生して以後、日本国内・近隣アジア諸国はもとより、欧米諸国からも安倍首相の姿勢に対する批判や警戒が強まるばかりです。
 今年の集会では戦争と昭和の歴史について認識を深め、憲法理念の実現に向けた大きな運動を築く提起を行う場とします。

◯日時:2月11日(火)13:30~16:00
◯会場:東京・文京区「全水道会館」4階大会議室(JR中央線「水道橋」、地下鉄三田線「水道橋」下車)
 講演「戦争をくり返さないために」浮田久子さん(平和の白いリボン実行委員会)
 講演「戦争と歴史認識」保阪正康さん(「昭和史を語り継ぐ会」主宰・ノンフィクション作家)
◯主催:平和フォーラム(電03-5289-8222)参加費:500円(資料代を含む)

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